説明

パターンデータからの繰り返しパターン抽出方法

【課題】 描画回数の削減効果の大きいCP描画データを作成する方法の提供。
【解決手段】 回路パターン中に多数存在する各パターンを多数の矩形に分割し、分割した多数の矩形のうち互いに隣接する任意の矩形を組み合わせて得られる各パターンの一部を構成する部分パターンのうち、形状及び大きさが同一の部分パターンだけでなく類似する部分パターンをも含めてそれらを代表する1つの代表パターンを決定する。前記代表パターンに基づきCP描画データを生成する。この代表パターンによって類似する部分パターンの全てを同じパターンに共通化することで、同一部分パターンと類似部分パターンとを含めた中から汎用性が高く適用個所が多い繰り返しパターンを抽出できるようになる。したがって、微細かつ多様な形状及び大きさのパターンを回路パターン中に多数含んでなる描画データであっても、描画回数の削減効果の大きいCP描画データを作成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路を製造する際に用いるCP(Character Projection:部分一括露光)描画データを作成する方法及び装置並びにプログラムに関する。特に、微細な形状差や寸法差を有する多様な形状及び大きさの全体パターンを多数含んでなる半導体集積回路設計用の描画データであったとしても、描画時のショット数を削減し描画時間の短縮を可能とする汎用性の高い繰り返しパターンを抽出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路作成時間を短縮(スループットを向上)するための方策として、例えば電子銃を複数使用して均等割した複数領域において同時に描画と移動とを繰り返すマルチビーム・マルチカラム等による描画処理の並列化技術や、回路パターン中によく現れる繰り返しパターンを利用した部分一括露光技術(CP描画技術)などがある。このCP描画技術を用いた従来知られた装置や技術等の一例を挙げると、例えば下記に示す特許文献1や特許文献2に記載の装置さらには非特許文献1や非特許文献2に記載の技術などがある。
【0003】
一般的に、半導体集積回路の回路パターンは多数の矩形に分割されて(フラクチャリング)、個々の矩形は別々に1回のショットに応じて描画されるようになっている(VSB描画)。ただし、多数の矩形に分割された回路パターンの中には、複数の同じ矩形の組み合わせからなり全体の外形形状及び大きさが同一であるパターンが複数個所に存在する。
【0004】
そこで、上記した特許文献1や特許文献2に示す装置では、同一形状及び大きさのパターン毎に繰り返しパターンを抽出し、前記繰り返しパターンを1つの図形(例えば「E」型や「H」型さらには「I」型や「L」型といったキャラクタ図形など、この明細書では便宜上これを全体パターンと呼ぶ)と看做したマスクを予め準備する。そして、これに基づき本来ならば個々の矩形を個別に描画するために複数回のショットが必要な前記複数の矩形の組み合わせからなる全体パターンであったとしても(例えば、全体パターンが「E」型の場合には4個の矩形の組み合わせからなり4回のショットが必要とされる)、その全体パターンを1回のショットでまとめて描画することができ、これにより効率的に描画回数(ショット数)を削減し描画にかかる時間を短縮するようにしている。また、回路パターン中に同一形状及び大きさの全体パターンが数多く存在すればするほど、描画回数をより削減することができるようにもなっている。
【0005】
ところで、近年では半導体集積回路の微細化に伴ってパターン寸法が露光時の解像限界を大きく超えるにつれて光近接効果(OPE:Optical Proximity Effect)が顕在化し、そのために半導体ウェハ上に回路パターンを忠実に転写することが難しくなっている。そこで、パターン寸法が露光時の解像限界を超えるような場合には、設計データに基づく元の回路パターンの寸法や形状等を補正して前記OPEを打ち消し得る補正パターンを生成する光近接効果補正(OPC)及び超解像技術(RET)の処理が必要とされる。
【0006】
ただし、上記処理を施すと回路パターンひいては前記全体パターンが複雑化(多様化)されてしまうことから描画に必要な時間が増加し、半導体集積回路を作成する際にかかるコストが高くなるので非常に都合が悪い。そこで、上記した非特許文献1や非特許文献2に示す技術では、全体パターンの中からさらに当該パターンの一部を構成する同じ矩形の組み合わせからなり形状及び大きさが同一である部分パターンを特定し、この特定した部分パターンに従って複数の矩形の組み合わせを1回で描画するようにしている(すなわち、部分パターンを繰り返しパターンとして抽出し、描画する)。このようにして、光近接効果補正(OPC)及び超解像技術(RET)の処理後の描画データであっても、上記したCP描画技術を適用して、描画回数を効率的に削減して描画にかかる時間を短縮することで、半導体集積回路を作成する際にかかるコストを下げることは既に考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−256113号公報
【特許文献2】特開2001−35770号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Masaki Yamabe,"Optimization of MDP,mask writing,and maskinspection for mask manufacturing const reduction ",Proc. SPIE 7028,70280V(2008)
【非特許文献2】Masahiro Shoji,Tadao Inoue,and Masaki Yamabe,"Verification of extraction repeating pattern efficiency from many actual device data",Proc.SPIE 7275,7275Q(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述したような従来知られた装置や技術では、回路設計時点で複雑化されたあるいは光近接効果補正(OPC:Optical Proximity Correction)及び超解像技術(RET:Resolution Enhancement Techniques)等の処理によって複雑化された、微細な形状差や寸法差を有する多様な形状及び大きさの全体パターンを多数含んでなる描画データから例え上記したようにして部分パターンを抽出したとしても、あくまでも同じ矩形の組み合わせであって同一の形状及び大きさのものしか抽出しないことから、結局は多様な部分パターンが多数抽出されるにすぎず、CP描画に利用できる繰り返しパターンとしては部分パターンの適用個所が少なすぎて描画回数の削減効果が小さい、という問題があった。このような問題は、メモリ回路パターンに比べて全体パターンが不規則に配置されてなり、そのために隣接パターンを考慮する上記OPC及びRET処理によって1つの全体パターンから複数の異なる派生パターンへとパターンが多様化しうるロジック回路パターンにおいて特に顕著である。
【0010】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、微細かつ多様な形状及び大きさの全体パターンを回路パターン中に多数含んでなる描画データから、汎用性ある繰り返しパターンを効率的に抽出し、これに基づき描画時のショット数を削減し描画時間の短縮を可能としたCP描画データを作成するようにしたCP描画データ作成方法及び装置、並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るCP描画データ作成方法は、半導体集積回路設計用の描画データから回路パターン中に含まれる繰り返しパターンを抽出し、該抽出した繰り返しパターンを繰り返しショットすることで前記回路パターンの一部を基板上に効率的に描画するCP描画データを作成するCP描画データ作成方法であって、前記回路パターン中に多数存在する各パターンを多数の矩形に分割するステップと、前記分割した多数の矩形のうち互いに隣接する任意の矩形を組み合わせて得られる前記各パターンの一部を構成する部分パターンのうち、その形状及び大きさが同一である1乃至複数の部分パターンを1つの部分パターン群として抽出するステップと、前記抽出した複数の部分パターン群を相互に比較して、形状及び寸法の差異が一定範囲内にある類似する部分パターン群の集合ごとに当該部分パターン群の集合に含まれる部分パターンを代表する1つの代表パターンを生成するステップと、前記代表パターンに基づきCP描画データを生成するステップとを備える。
【0012】
本発明によれば、回路パターン中に多数存在する各パターンを多数の矩形に分割し、該分割した多数の矩形のうち互いに隣接する任意の矩形を組み合わせて得られる前記各パターンの一部を構成する部分パターンのうち、その形状及び大きさが同一の部分パターンだけでなく類似する部分パターンをも含めてそれらを代表する1つの代表パターンを決定する。そして、前記決定した代表パターンに基づきCP描画データを生成する。こうした場合、元の描画データにおける回路パターン中の形状及び寸法の差異が一定範囲内にある類似する部分パターン群(それぞれは異なる種類の1乃至複数の同一部分パターンを含む)に含まれる互いに類似する部分パターンの全てを同じパターンに共通化することのできる前記代表パターンに基づいてCP描画データを生成することから、元の描画データにおいて形状及び大きさが同一の同一部分パターンだけでなく、形状及び大きさが類似の類似部分パターンをも含めた中から繰り返しパターンを抽出することができる。このようにして抽出される繰り返しパターンは汎用性が高いものであり、従来に比べて繰り返しパターンの適用個所を多くするものである。したがって、元の回路パターンの設計時点で複雑化されたあるいはその後に光近接効果補正(OPC)及び超解像技術(RET)等の処理によって複雑化された、微細かつ多様な形状及び大きさのパターン(全体パターン)を回路パターン中に多数含んでなる描画データであっても、従来では抽出し難かった汎用性の高い繰り返しパターンを各パターンの一部を構成する部分パターンにより抽出でき、これを用いた描画回数の削減効果の大きいCP描画データを作成することができるようになる。
【0013】
本発明は方法の発明として構成し実施することができるのみならず、装置の発明として構成し実施することができる。また、本発明は、コンピュータまたはDSP等のプロセッサのプログラムの形態で実施することができるし、そのようなプログラムを記憶した記憶媒体の形態で実施することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、同一部分パターンだけでなく類似部分パターンも含めて繰り返しパターンを抽出することで、該抽出した繰り返しパターンによって同一部分パターンに加えて類似部分パターンをも描画できることから、微細かつ多様な形状及び大きさのパターン(全体パターン)を回路パターン中に多数含んでなる描画データであっても、従来では抽出し難かった適用個所から多くの汎用性の高い繰り返しパターンを抽出でき、これにより描画回数の削減効果の大きいCP描画データを作成することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】CP描画データ作成処理を示すフローチャートである。
【図2】形状及び寸法の差異を許容する変形範囲(多様性緩和値)の一例を示す概念図である。
【図3】部分パターン繰り返しデータ抽出処理の一実施例を示すフローチャートである。
【図4】代表パターン決定処理の一実施例を示すフローチャートである。
【図5】グループ内比較処理の一実施例を示すフローチャートである。
【図6】元の描画データによって定義される回路パターン中に含まれる多様性緩和前の全体パターンの一例を示す概念図である。
【図7】部分パターンの一例を示す概念図であり、図7(a)は第1のC型図形、図7(b)は第2のC型図形、図7(c)は第1のE型図形、図7(d)は第2のE型図形、図7(e)は第3のE型図形におけるそれぞれの部分パターンを示す。
【図8】抽出される部分パターン群の一例を示す概念図である。
【図9】代表パターン決定処理を具体的に説明するための概念図である。
【図10】類似する部分パターン群に含まれる各部分パターンが代表パターンに置き換えられ共通化された多様性緩和後の全体パターンを示す概念図である。
【図11】マスク描画機の全体構成の一実施例を示す概念図である。
【図12】転写性シミュレーションの結果に基づき多様性緩和値を決定する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に従って詳細に説明する。
【0017】
図1は、CP描画データ作成処理を示すフローチャートである。当該処理は、CPU、ROM、RAM等を含んでなるコンピュータによって実行される。なお、この図1では、回路パターンを定義した半導体集積回路設計用の描画データ(元の描画データ)や最終的に作成されるCP描画データ、さらには前記元の描画データからCP描画データを作成する際に適宜に生成される中間データをそれぞれ記憶するハードディスクやメモリなどの記憶装置(又は特定の記憶装置における所定領域)についても便宜的に記号を付して図中に示した。
【0018】
ステップS1は、後述する部分パターン繰り返しデータを抽出する際に参照される「形状及び寸法の差異を許容する変形範囲」(多様性緩和値)を決定する。ここで、前記形状及び寸法の差異を許容する変形範囲(多様性緩和値)の決定方法について説明する。図2は、形状及び寸法の差異を許容する変形範囲(多様性緩和値)の一例を示す概念図である。
【0019】
多様性緩和値を決定する1つの方法としては設計ルールを根拠に決定する方法があり、図2ではITRSのリソグラフィ要求で規定された設計ルール(ITRSノード)ごとに、ゲート部CDコントロール値を基準としてマスク描画時におけるMEEF(Mask Error Enhancement Factor)値も考慮に入れた数1に示す計算式に従って得られる多様性緩和値を一例として示している。
(数1)
多様性緩和値={(ゲート部CDコントロール値×倍率)/MEEF値}×0.5×0.5
【0020】
より具体的には、ITRS2007年ロードマップのリソグラフィ要求で規定された設計ルール(65nm,45nm,32nm)ごとのゲート部CDコントロール値(2.6nm,1.9nm,1.3nm)を元に、マスク描画を前提にしてMEEF値(2.2)も考慮した上で、後述するパターンの多様性緩和を行う際に類似部分パターンの判断基準とする寸法差異の最大値(つまり後述のパターン類似判断のための許容誤差寸法)を算出する。すなわち、上記数1における「{(ゲート部CDコントロール値×倍率)/MEEF値}」によって算出される値は、描画時の寸法誤差も含めた当該データの設計時と描画結果との最大許容誤差値を表す。ただし、ここでは前記「{(ゲート部CDコントロール値×倍率)/MEEF値}」によって算出される値に対して描画データ上での許容誤差値としてその半分(0.5)を乗算し、また後述する代表パターンを基準にして拡大・縮小両方向での緩和を行うために更にその半分(0.5)を乗算することによって、多様性緩和値を求めるようにしている。なお、上記した数1に記載の「倍率」は、マスク描画の場合「4」である。
【0021】
図1の説明に戻って、ステップS2は、予め作成済みの元の描画データ1(より具体的には回路パターンデータ)を取得する。ここで取得される描画データ1は、コンピュータなどを用いてユーザによって予め生成される設計データ(例えばCADデータ)、あるいはこうした設計データに対して光近接効果補正(OPC)及び超解像技術(RET)の処理を行った後のデータであって、複雑化された微細かつ多様な形状及び大きさの全体パターン(図6参照)を多数含んでなる回路パターンを定義したものである。
【0022】
ステップS3は、前記取得した元の描画データ1に対しフラクチャリングを行い、その結果をフラクチャ済み描画データ2として出力し記憶する。このフラクチャリング処理では、全体パターンが多角形であり単独の矩形で表せない形状である場合、段差の発生する個所などを基準にして多数の様々な矩形に分割される(図7参照)。
【0023】
ステップS4は、予め決められた所定のパターン重要度に従って全領域にわたる前記フラクチャ済み描画データ2を多様性緩和対象領域と多様性緩和対象外領域とに分離し(図6参照)、それぞれを多様性緩和対象データ3又は多様性緩和対象外データ4として出力し記憶する。前記パターン重要度は、回路内のパターン全体あるいはその一部分について重要な部分とそうでない部分を規定するものである。重要な部分については設計どおりの形状・寸法・位置で描画されることが期待される(寸法精度が高い)が、重要でない部分については重要な部分に比べると描画の結果として形状・寸法・位置に少々の差異が生じても許容される場合がある。こうしたパターン重要度の決定方法としては、回路設計時に決定する、描画データの配置・規則性などに従って決定する、ユーザの範囲指定に従って決定する、などが考えられる。なお、パターン重要度によって多様性緩和対象領域と多様性緩和対象外領域とに分離する当該処理は行わなくてもよい。
【0024】
ステップS5は、「部分パターン繰り返しデータ抽出処理」を実行する。詳しくは後述するが、当該処理では前記分離された多様性緩和対象データ3のみを取得して、該取得した多様性緩和対象データ3に基づきフラクチャリングによって分割された各全体パターンを構成する多数の矩形のうち、同じ矩形の組み合わせからなり形状及び大きさが同一である部分パターン(後述の類似部分パターンと区別するために同一部分パターンと呼ぶ)が存在するか否かを検索し、同一部分パターンが存在する場合にはそれらを1つの部分パターン群として抽出して、これを部分パターン定義付データ5として出力し記憶する。前記部分パターン定義付データ5には検索された同一部分パターンに関し、少なくともその形状や大きさあるいは矩形の組み合わせ等に関するそれらに共通の定義情報(つまりは異なる種類の部分パターン群に関する情報)が含まれていればよく、同一部分パターンそれぞれで異なる配置位置を示す配置情報を含んでいてもよいし含んでいなくてもよい(つまり配置情報の包含状況は問わない)。このようにして、各全体パターンからそれらの一部を形成する同じ形状及び大きさの同一部分パターンをそれぞれ検索することに伴い、それぞれが同じ形状及び大きさからなる同一部分パラメータを1乃至複数含んでなる複数種類の異なる部分パラメータ群が抽出される(図8参照)。このとき、記憶可能な部分パラメータ群の種類の数は最大1000万個程度とするとよい。
【0025】
ステップS6は、「代表パターン決定処理」を実行する。詳しくは後述するが、当該処理では部分パターン定義付データ5を取得して前記定義情報に基づき異なる種類の部分パターン群同士を順次に比較し、形状及び寸法の差異が一定範囲内にある類似の部分パターン群を特定すると共に、さらに特定した類似の部分パターン群ごとに当該部分パターン群に含まれる部分パターンのいずれかを代表パターンに決定して、これを代表パターン定義データ6として出力し記憶する(図8及び図9参照)。この代表パターン定義データ6には、少なくとも代表パターンに決定された部分パターンの定義情報が含まれていればよい。
【0026】
ステップS7は、多様性緩和対象データ3及び代表パターン定義データ6を取得して、前記決定した代表パターンに基づき多様性緩和対象データ3の置換を行う。すなわち、代表パターン定義データ6の中から順次に代表パターンを読み出し、多様性緩和対象データ3の中から前記読み出した代表パターンと比較して形状及び寸法の差異が一定範囲内にある同一部分パターン及び類似部分パターンを特定し、該特定した同一部分パターン及び類似部分パターンの全てを前記比較した代表パターンにて置換する(図10参照)。このようにして、元の描画データ1における回路パターンに含まれる形状及び寸法の差異が一定範囲内にある同一部分パターン及び類似部分パターンを順次に前記各代表パターンによって置き換えることによって、同一及び類似部分パターンの全てが同じパターンに共通化された前記代表パターンに置換済みの回路パターンからなる描画データ(置換済み回路パターンデータ)が作成される。前記代表パターンに置換済みの描画データ(置換済み回路パターンデータ)は、代表パターン置換済みデータ7として出力し記憶する。ステップS8は、代表パターン置換済みデータ7と多様性緩和対象外データ4とを取得しこれらを合成することによって、多様性緩和対象領域だけでなく多様性緩和対象外領域をも含む全領域をカバーする合成済みデータ8を作成して、これを出力し記憶する。
【0027】
ステップS9は、前記合成済みデータ8に従い合成後の全領域において矩形重なりや隙間(スリット)を除去する変換処理を実行し、その結果を多様性緩和済みデータ9として出力し記憶する。すなわち、上記したようにして同一部分パターン及び類似部分パターンを代表パターンにて置換した場合には、置換された同一部分パターン及び類似部分パターンの外形周囲との境界付近において、他の矩形や部分パターン(同一部分パターンや類似部分パターン以外も含む)との間に、置換前には存在していなかった各領域の重なりや隙間(スリット)などが生じ得る。そこで、こうした領域の重なりを除去したり隙間を埋めたりするための処理を実行する。当該処理はどのような手法のものを用いてもよいが、ここでは一般的な手法について説明する。
【0028】
まず、矩形や各部分パターンそれぞれの領域全体を僅かに拡大する。このときの領域の拡大幅は、重なり又はスリットの幅(つまりは多様性緩和値)を目安として用いる。領域を拡大することでスリットは埋められる。そして、前記領域の拡大処理ではフラクチャリング後の各矩形単位ではなく、各矩形が繋がった全体パターンを1つの処理単位と看做し、この全体パターンの外枠だけを見て重なりあっている領域部分については無視するため、これによって重なりが解消される。なお、スリットが埋められることに応じて新たに生じ得る領域の重なりも当然に解消される。
【0029】
次に、前記拡大処理した矩形や各部分パターンそれぞれの領域全体を元の大きさに縮小する(戻す)。ここで、縮小幅は拡大処理時に用いられた拡大幅と同じである。この縮小処理時においても拡大処理時と同様に、全体パターンを1つの処理単位と看做すため、スリットが埋められた大きな1つのパターンとして縮小されることになる。このようにして、元と同寸法で重なりやスリットのない全体パターンが得られる。したがって、領域の重なりや隙間が生じているか否かに関わらず上記した変換処理を実行することによって全体パターンを得る。
【0030】
ステップS10は、多様性緩和済みデータ9を取得して、これに基づき全領域において部分パターン繰り返しデータ抽出処理を再度実行することによって、CP描画データを生成する。すなわち、上記した置換処理(ステップS7)の実行に伴って同一部分パターン及び類似部分パターンの全てが代表パターンで置換され共通化されることによって、元の描画データ1によっては同じ矩形の組み合わせからなり形状及び大きさが同一の部分パターンの繰り返し個所として抽出され得なかった、形状及び大きさが異なっていた個所も同一の部分パターンの繰り返し個所として新たに再抽出されることになる。そこで、このようにして再抽出した部分パターンを繰り返しパターンとして利用することで、描画時のショット数の削減を図ることができるようにしている。このときに抽出する部分パターンの種類は、1000個程度とするとよい。このようにして、描画時のショット数を削減し描画時間の短縮を可能とするCP描画データを作成する。
【0031】
上記した「部分パターン繰り返しデータ抽出処理」(図1のステップS5)について、図3を用いて説明する。図3は、「部分パターン繰り返しデータ抽出処理」の一実施例を示すフローチャートである。
【0032】
ステップS21は、多様性緩和対象データ3を取得して図形(矩形)リスト11を生成する。前記図形(矩形)リスト11には、各全体パターンを分割した大きさが異なる多数の矩形が登録される。ステップS22は、前記図形リスト11から予め決められた所定の部分パターンサイズに収まらない大きさの矩形を抜き出して、該矩形を部分パターンサイズに収まる最大サイズの複数の矩形に切り分ける。
【0033】
すなわち、上述したようにフラクチャリングにおいては全体パターンが多角形であり単独の矩形で表せない形状である場合、段差の発生する個所などを基準にして矩形の切り分けを行うことから、そうした場合には所定の部分パターンサイズに収まらない大きさの矩形に切り分けてしまうことがある。そこで、そのような大きく切り分けられた矩形を部分パターンサイズに収まる最大サイズの矩形に再分割する。再分割後の部分パターンサイズに収まる最大サイズの矩形は部分パターン候補リスト12として出力する一方で、再分割によって切り分けられた矩形のうち残りの矩形(前記最大サイズよりも小さい矩形)は図形リスト11に戻す。
【0034】
ステップS23は、図形リスト11から互いに隣接している矩形を取り出していき、部分パターンサイズに収まる分(できる限り大きく)の複数の矩形をひとまとめにして部分パターン候補リスト12に出力する。ステップS24は、図形リスト11から部分パターンサイズに収まる範囲で分散している孤立矩形(他の矩形に隣接しない矩形)を取り出し、これらをひとまとめにしたものを部分パターン候補リスト12に出力する。ステップS25は、部分パターン候補リスト12に出力された各CP候補図形をチェックして同じ図形をひとつにまとめ、これらを部分パターン群として部分パターンリスト13に出力する。この際には、CP描画効率のよいもの(これは各部分パターンの登場回数と部分パターン内の矩形数とから算出可能)から順に、所定数分だけ部分パターン群を決定するようにしてよい。そして、残りの部分パターン候補図形は個々の矩形に戻して図形リスト11に差し戻す。
【0035】
ステップS26は、部分パターンリスト13の部分パターン群と図形リスト11に残された矩形を部分パターン定義付データ5として出力(生成)する。このようにして、同じ矩形の組み合わせからなり形状及び大きさが同一である同一部分パターンについては1つの部分パターン群としてひとまとめにされて出力され、それ以外の部分パターンについては単独で1つの部分パターン群として個々に出力される。なお、部分パターン定義付データ5は、部分パターン群の定義情報として少なくともそれに含まれる1乃至複数の部分パターンに共通の定義情報を記憶していればよい。
【0036】
次に、上記した「代表パターン決定処理」(図1のステップS6)について、図4を用いて説明する。図4は、「代表パターン決定処理」の一実施例を示すフローチャートである。
【0037】
ステップS31は、上記「部分パターン繰り返しデータ抽出処理」の実行に伴い出力(生成)された部分パターン定義付データ5を取得し、部分パターン定義情報に従ってそれぞれの部分パターン群を縦長か横長かあるいはその他かなどに、所定の分類基準に従っておおまかに分類してグループ分けし、その結果をグループ分けリスト14に出力する。ステップS32は、グループ分けリスト14を取得して前記分類した各グループに含まれるそれぞれの部分パターン群同士の比較を行い、グループ毎に1乃至複数の代表パターンを決定すると共に類似部分パターンを特定する「グループ内比較処理」を実行し、その結果を別のグループリスト15に出力する。当該処理については後述する(後述する図5参照)。ステップS33は、前記決定した代表パターンと前記特定した類似部分パターンとに関して、それぞれの代表パターンの定義情報とそれで置き換わる部分パターンの定義情報とをセットにして代表パターン定義データ6として出力する。
【0038】
上記「グループ内比較処理」(図4のステップS32)について、図5を用いて説明する。図5は、「グループ内比較処理」の一実施例を示すフローチャートである。
【0039】
ステップS41は、グループ分けリスト14に含まれる部分パターン群のうち最初に出力されたリストの先頭にある部分パターン群を抜き出して当該部分パターン群に含まれる部分パターンのいずれかを代表パターンに決定する。この際に、代表パターンに決定された部分パターン群はチェック済みデータとする。なお、代表パターンの決定方法はリスト順に部分パターン群を抜き出していくことに限らない。例えば、形状の複雑度あるいは面積の大小等に従って選択的に部分パターン群を抜き出して代表パターンに決定するなど任意の決定方法であってよい。ステップS42は、グループ分けリスト14内にまだチェック済みでない部分パターン群があるか否かを判定する。グループ分けリスト14内にまだチェック済みでない部分パターン群があると判定した場合には(ステップS42のあり)、グループ分けリスト14からチェック済みでない部分パターン群を抜き出しこれを比較パターンに決定する(ステップS43)。
【0040】
ステップS44は、代表パターンと比較パターンとを重ねあわせて互いのパターンが類似するか否かを判定する。この類似判定時には、代表パターンと比較パターンとの差分が多様性緩和値に基づく許容誤差寸法内である場合には互いのパターンが類似すると判定し、許容誤差寸法外である場合には互いのパターンが類似しないと判定する(詳しくは後述する図9参照)。代表パターンと比較パターンが類似すると判定した場合には(ステップS44の類似)、比較パターン群に含まれる部分パターンを代表パターンに類似する類似部分パターンに特定しグループリスト15に出力する(ステップS45)。そして、ステップS42の処理に戻る。このときに類似部分パターンとされた部分パターンを含んでなる部分パターン群は、前記グループ分けリスト14から消去する。一方、代表パターンと比較パターンが類似しないと判定した場合には(ステップS44の非類似)、比較パターンとされた部分パターン群をチェック済みデータとしてからステップS42の処理に戻る。
【0041】
上記ステップS42の処理において、グループ分けリスト14内にチェック済みでない部分パターン群がないと判定した場合には(ステップS42のなし)、代表パターン以外であってチェック済みデータにされている部分パターン群のチェック結果を未チェックにもどす(ステップS46)。ステップS47は、グループ分けリスト14内にまだチェック済みでない部分パターン群があるか否かを判定する。グループ分けリスト14内にチェック済みでない部分パターン群があると判定した場合には(ステップS47のあり)、ステップS41の処理に戻って上記ステップS41〜S47までの処理を繰り返す。一方、グループ分けリスト14内にチェック済みでない部分パターン群がないと判定した場合には(ステップS47のなし)、当該処理を終了する。
【0042】
次に、本発明に係るCP描画データ作成方法に従うパターンの多様性緩和手順について、マスク描画の場合を例に説明する。図6は、元の描画データによって定義される回路パターン中に含まれる多様性緩和前の全体パターンの一例を示す概念図である。元の描画データ1によって定義されている回路パターンは、光近接効果補正(OPC)及び超解像技術(RET)の処理によって複雑化された微細な形状差や寸法差を有する多様な形状及び大きさの全体パターン(多様性緩和前のパターン)を多数含んでなり、ここではそれぞれ2個ずつ計4個ある全体形状がC型である2種類の全体パターンA及びB(便宜的に第1又は第2のC型図形と呼ぶ)と、2個,2個,1個の計5個ある全体形状がE型である3種類の全体パターンC〜E(便宜的に第1〜第3のE型図形と呼ぶ)とが含まれているものを例示している。
【0043】
ここに示される2種類のC型図形A,Bを比較すると、第1のC型図形Aと第2のC型図形Bは大きさがほぼ同じ程度であるが細部の形状が異なっており、第1のC型図形Aの方が第2のC型図形Bよりも微細で複雑な凹凸形状を有している。すなわち、第1のC型図形Aは第2のC型図形Bと比較して、例えばOPC処理により発生した微細な形状差及び寸法差を有するパターンであるといえる。
【0044】
次に、3種類のE型図形C〜Eをそれぞれ比較すると、第1のE型図形Cと第2のE型図形Dは大きさがほぼ同じ程度であるが形状が異なっており、第1のE型図形Cの方が第2のE型図形Dよりも微細で複雑な凹凸形状を有している。すなわち、第1のE型図形Cと第2のE型図形Dは、微細な形状差及び寸法差を有するパターン同士であるといえる。一方、第1のE型図形Cと第3のE型図形Eは形状が同じであるが大きさが異なっており、また第2のE型図形Dと第3のE型図形Eは大きさも形状も異なっている。このような描画データ1である場合、従来の装置ではC型図形A,B及びE型図形C〜Eのすべてが形状及び大きさの異なる全体パターンであると捉えられ、これらのいずれかの組み合わせから共通の繰り返しパターンを抽出することができず、それぞれの全体パターンA〜Eを個別にかつ分割後の矩形毎に描画するしかないことから、描画に時間がかかることとなる。
【0045】
なお、図6において太線枠で示す領域Yは、回路パターンを形成する全領域Xのうち多様性緩和対象外領域を示す。この例では、当該領域Yに配置されている第1及び第2のC型図形A,Bと第1及び第2のE型図形C,Dがそれぞれ1個ずつ合計4個の図形が含まれている。したがって、図6に示すようなパターン配置の描画データに基づきフラクチャリングを行った場合には、前記領域Yに含まれる4個の各図形のフラクチャ済み描画データ2が多様性緩和対象外データ4として、それら以外の5個の各図形のフラクチャ済み描画データ2が多様性緩和対象データ3としてそれぞれ出力され記憶されることになる(ステップS4参照)。
【0046】
図7は部分パターンの一例を示す概念図であり、図7(a)は第1のC型図形A、図7(b)は第2のC型図形B、図7(c)は第1のE型図形C、図7(d)は第2のE型図形D、図7(e)は第3のE型図形Eにおけるそれぞれの部分パターンを示す。
【0047】
個々の全体パターンA〜Eは、描画機のビームサイズにあわせた多数のサイズの同じ又は異なる矩形に分割して描画される。例えば図7(a)に示す第1のC型図形Aにおいては、範囲A1の5個(×2)、範囲A2の5個、範囲A3の5個、範囲A4の3個の計23個の矩形に分割される。同様にして、第2のC型図形Bは計11個、第1のE型図形Cは計37個、第2のE型図形Dは計22個、第3のE型図形Eは37個の矩形に分割される。通常、このように分割された全体パターンは矩形ごとに個別に描画するため、描画を終えるまでに時間がかかる。例えば、第1のC型図形Aを描画する場合には23個の矩形を個別にショットするため、ショット数に応じた時間がかかることになる。
【0048】
ところで、多数の矩形に分割された全体パターンは、複数の矩形を任意に組み合わせて構成される部分パターンを複数組み合わせたものとして捉えることができ、そうした場合に同じ矩形の組み合わせからなり形状及び大きさが同一である部分パターン(同一部分パターン)が複数個所に存在することがある。上述した「部分パターン繰り返しデータ抽出処理」(図3参照)を行うことによって、そうした同一部分パターンを検索して1つの部分パターン群として抽出することは既に説明したとおりである。
【0049】
具体的には、例えば図7(a)に示す第1の図形C型Aは4種の部分パターンA1〜A4を組み合わせてなり、A1は2つの、その他は1つの出現箇所を持つ部分パターン群として抽出される。図7(b)に示す第2のC型図形Bにおいては、部分パターンB1,B2が2つの、B3が1つの出現箇所を持つ部分パターン群として抽出される。図7(c)に示す第1のE型図形Cにおいては、部分パターンC1が3つの,C4,C5が2つの、C2、C3、C6が1つの出現箇所を持つ部分パターン群として抽出される。図7(d)に示す第2のE型図形Dにおいては、部分パターンD1が4つの,D2,D5が2つの、D3、D4が1つの出現箇所を持つ部分パターン群として抽出される。図7(e)に示す第3のE型図形Eにおいては、部分パターンE1が3つの,E4,E5が2つの、E2、E3、E6が1つの出現箇所を持つ部分パターン群として抽出される。
【0050】
また、上記した同一部分パターンは個別の全体パターン内のみに存在することに限らず、他の全体パターン内にも存在しうる。例えば図7(a)に示した第1のC型図形Aと図7(c)に示した第1のE型図形Eとを全体形状で比べると大きく異なるものであるが、フラクチャリングにより多数の矩形に分割された結果に従えば同じ矩形の組み合わせからなり形状及び大きさが同一である部分パターンが存在することが理解できる(具体的には部分パターンA1とC1,A2とC2,A3とC3,A4とC4がそれぞれ同一部分パターンである)。そうした場合には、異なる全体データの一部を形成する部分パターン群であっても同じ種類の部分パターン群としてまとめられる。
【0051】
上述した「部分パターン繰り返しデータ抽出処理」(図3参照)ではこのようにパターン全体での比較ではなく、パターンの一部範囲である部分パターンを各全体パターン毎に抽出してこれを比較し、部分パターンとしての形状および大きさが同一であるもの同士をひとまとめにした部分パターン群を抽出する。ここで、図7に示すようにして矩形分割された各全体パターンから抽出される部分パターン群を図8に示す。図8は、抽出される部分パターン群の一例を示す概念図である。図中において図形で表した部分パターン群の下方に記載されている番号は、図7に示した各部分パターン群に含まれる同一部分パターンに対応する。
【0052】
図8に示すように、図6に示すような全体パターンを有する描画データからは、16種類の異なる部分パターン群が得られる。すなわち、A1とC1、A2とC2、A3とC3、A4とB3とC4、B1とD1、B2とD2、C5とD5、C6、D3、D4、E1、E2、E3、E4、E5、E6のそれぞれが異なる種類の部分パターン群として抽出される。例えば、部分パターンA1とC1は同じ形状及び大きさであることから、これらは同じ種類の部分パターン群として抽出される。他方、これらの部分パターンA1(C1)と部分パターンE1は同じような形状であるにもかかわらずその大きさが異なることから、これらは別個の種類の部分パターン群として抽出される。また、この部分パターンE1に関しては、同じ形状及び大きさの他の部分パターンが存在しないことから、部分パターンE1は単独で1つの部分パターン群として抽出される。このようにして、分割した多数の矩形のうち互いに隣接する任意の矩形を組み合わせて得られる全体パターンの一部を構成する部分パターンのうち、その形状及び大きさが同一でありかつ矩形の組み合わせも同じである1乃至複数の部分パターンを1つの同じ種類の部分パターン群としてまとめて抽出する。
【0053】
図9は、上述した「代表パターン決定処理」(図3参照)を具体的に説明するための概念図である。まず上記のようにして抽出した複数の部分パターン群を、縦長か横長かあるいはその他かなどに所定の分類基準に従っておおまかに分類してグループ分けする。図8の例では、縦長であるものと横長であるものの2つのグループに分類している(図中では、縦長のグループに分類されたものを点線で示す枠内に示している)。そして各グループ内で部分パターン群の比較を行うが、まず横長グループでの比較について説明する。
【0054】
図9(a)は例えば代表パターンに図形C5によって示される種類の部分パターン群(以下同じ)が決定された場合であり、この図形C5と同じグループに分類された他の図形(部分パターン群)とが順次に比較されてそれぞれの部分パターン群に含まれる部分パターンが類似するか否かを判定する。ここでは、図形A1と図形E1とを比較対象として比較した場合のみを示して説明する。図形C5と図形A1(又は図形E1)とは互いに所定の基準位置(例えば軸芯や側面あるいは中心位置等)に従って重ね合わされ、このときの重なり具合に伴い発生しうる水平方向及び垂直方向の差分が共に許容誤差寸法(多様性緩和値)内にあるか否かによって、図形A1(又は図形E1)が図形C5に類似する部分パターンであるか否かを判断する。水平方向及び垂直方向の差分が共に許容誤差寸法以内であれば、類似する部分パターンに特定される。この例では、図形A1と図形E1それぞれの図形C5との重なり具合を見てみると、図形A1は水平方向及び垂直方向の両方向において差分が許容誤差寸法内にあることから、図形A1は類似する部分パターンに特定される。一方、図形E1は水平方向及び垂直方向の両方向において差分が許容誤差寸法を超えていることから、図形E1は類似する部分パターンに特定されない。
【0055】
図9(b)は、上記した図形C5との比較において類似する部分パターン群に特定されなかった図形の中から、次に例えば図形B2が代表パターンに決定された場合である。この例では、図形A2と図形E2それぞれの図形B2との重なり具合を見てみると、図形A2は水平方向及び垂直方向の両方向において差分が許容誤差寸法内にあることから、図形A2は類似する部分パターンに特定される。一方、図形E2は垂直方向において差分が許容誤差寸法を超えていることから、図形E2は類似する部分パターンに特定されない。このようにして、横長グループに分類された部分パターン群の中から代表パターン及び類似する部分パターンを特定する。
【0056】
図9(c)は、上記した横長グループとは異なる縦長グループの比較を示すものであり、この例では代表パターンに図形A4が決定された場合である。図形D3と図形E4それぞれの図形A4との重なり具合を見てみると、図形D3は水平方向及び垂直方向の両方向において差分が許容誤差寸法内にあることから、図形D3は類似する部分パターンに特定される。同様に図形D4も類似する部分パターンに特定される。一方、図形E4は水平方向及び垂直方向の両方向において差分が許容誤差寸法を超えていることから、図形E4は類似する部分パターンに特定されない。
【0057】
このようにして、各グループ内で部分パターン群の比較が行われることによって、図8に示した例においては代表パターン(図中において斜線で示す)として図形C5及びその類似部分パターンとして図形A1,C1、代表パターンとして図形B2及びその類似部分パターンとして図形A2,C2,A3,C3、代表パターンとして図形B1及びその類似部分パターンとして図形E5、代表パターンとして図形A4及びその類似部分パターンとして図形D3,D4、代表パターンとして類似部分パターンを有しない図形C6、E1,E2,E3,E4、E6がそれぞれ特定される。
【0058】
上記のようにして特定された代表パターン及び類似部分パターンに従って、図6に示したような全体パターンを含む描画データから、類似部分パターンが代表パターンに置き換えられる(さらには代表パターンに置換した際に生じたパターンの重なりやパターン間の隙間が除去される)ことによって類似部分パターンを共通化した多様性緩和済みデータが作成される(ステップS7〜S9参照)。図10は、類似する部分パターン群に含まれる各部分パターンが代表パターンに置き換えられ共通化された多様性緩和後の全体パターンを示す概念図である。
【0059】
図10と図6とを比較すると理解できるように、図6左上のC型図形AはC型図形A’に置換される。すなわち、部分パターンA2及びA3が代表パターンB2に置換されることにより部分パターンB2と共通化され、部分パターンA4と部分パターンB3が同一であることで、C型図形Aの全体形状はC型図形Bの全体形状に近い図形A’になる。
また、図6左下のE型図形Cと図6右上のE型図形Dは部分パターンC1が部分パターンC5に、部分パターンC2およびC3が部分パターンB2(D2)に、部分パターンD4が部分パターンA4にそれぞれ置き換えられて共通されることで、図10ではそれぞれE型図形C’およびD´へと変形される。すなわち、どちらかの全体パターンを単に他方の全体パターンに置き換えるのではなく、それぞれが全体形状の異なる図形(全体パターン)であったとしてもそれらの一部を形成する部分パターンにおいては類似する個所があり得、そうした類似部分パターンを代表パターンで置換して共通化することによって繰り返しパターンの出現箇所が増加する。なお、前記共通化に従い結果として全体パターンが同一形状になる場合も発生し得る。
【0060】
このようにして、ここに示す例では矩形の組み合わせを簡素化した同一形状及び大きさの部分パターンの数が増えることから、効率的に描画回数を削減することができる。具体的には、図10に示す多様性緩和対象領域に存在するパターンについては、予め各部分パターンを形成したCPマスクを用いて描画を行うことにより描画回数を大きく削減することができる。たとえば、多様性緩和済みデータから抽出した繰り返しパターンに部分パターンC5(D5)が含まれていた場合、部分パターンC5(D5)を含む図形C’および図形D’にのみならず、部分パターンC5(D5)に類似する部分パターンA1を含んでいた図形A’に対しても部分パターンC5(D5)で描画可能なパターンが含まれる。このように多様性緩和済みデータから抽出した繰り返しパターンを用いて作成したCPマスクは、多様性緩和(つまりは代表パターンによる部分パターンの共通化)を行わない場合に比べて描画可能なパターンが増えることになる。なお、CPマスク上に部分パターンが定義されていない部分についてはCPマスクを用いずに個別に描画対象に描画することになる。
【0061】
ここで、上記CP描画データ作成処理の実行に伴い作成されるCP描画データに従って作成されたCPマスクを用い、マスク乾板上に回路パターンを描画するマスク描画機の一例を図11に示す。図11は、マスク描画機の全体構成の一実施例を示す概念図である。
【0062】
電子銃101から照射された電子線は、矩形アパーチャ102及び可変整形器103(又はマスク選択変更器)によって矩形窓Mの寸法調整又はマスク描画用CPマスク104(以下、単にCPマスク)の描画パターンの選択が行われる。マスク選択時には、CPマスク104を介してマスク乾板105上に部分パターンを形成する。上述したCP描画データ作成処理(図1参照)によって作成されたCP描画データに従って図形N(再抽出された繰り返しパターン、図8のA1又はC1、E1などに相当)が予め形成されたCPマスク104を用いることで、元の描画データが光近接効果補正(OPC)や超解像技術(RET)等の処理によって複雑化された微細かつ多様なパターンを含んでなる描画データであったとしても、従来に比較して少ない描画回数でのパターン描画が可能になる。
【0063】
なお、描画機は上記したマスク描画機に限らず、マスクを介さない直描型の描画機であってもよい。直描型の描画機の場合には、上述したCP描画データ作成処理(図1参照)によって作成されたCP描画データに従って、代表パターンによって置換された後に再抽出された繰り返しパターン(図8のA1又はC1、E1などに相当)により基板上に同一及び類似する部分パターンを繰り返し直接描画する。そうすると、CP描画によって少ないショットで描画できるパターンが増えることから、従来に比べて描画回数を削減できることになる。
【0064】
なお、上述した実施例においてはデータの設計ルールを根拠に多様性緩和値を決定する方法を示したがこれに限らず、コンピュータ上で転写性シミュレーションを実行して、ユーザがディスプレイ等に表示される前記シミュレーション結果を確認しながら、多様性緩和値を任意に決定する方法であってもよい。このような転写性シミュレーションの結果に従いユーザが多様性緩和値を任意に決定する方法について、図12を用いて説明する。図12は、転写性シミュレーションの結果に基づき多様性緩和値を決定する処理を示すフローチャートである。
【0065】
ステップS61は、初期パラメータの設定を行う。この初期パラメータは設計ルール(図2参照)に従って決定される多様性緩和値であってもよいし、あるいは過去の実績値をベースにユーザが任意に指定したものであってもよい。また、全領域に対して一律の多様性緩和値を設定するだけでなく、多様性緩和対象に指定された領域ごとに異なる多様性緩和値を設定できるようにしてあってもよい。ステップS62は、図1に示したCP描画データ作成処理を実行する。当該処理については説明済みであることからここでの説明を省略する。
【0066】
ステップS63は、前記処理の実行に伴い生成されたCP描画用データ10に基づき転写性シミュレーションを実行する。ステップS64は、ユーザによるシミュレーション結果のチェックが「OK」であるか否かを判定する。シミュレーション結果のチェックが「OK」でないと判定した場合には(ステップS64のNO)、例えばユーザに対してパラメータ(多様性緩和値)を入力するように促すと共に、ユーザによるパラメータ入力に応じてパラメータを再設定し(ステップS65)、上記ステップS62の処理に戻ってステップS62〜S64の処理を繰り返し実行する。シミュレーション結果のチェックが「OK」であると判定した場合には(ステップS64のYES)、設定されているパラメータを多様性緩和値に設定する(ステップS66)。
【符号の説明】
【0067】
1…描画データ
2…フラクチャ済み描画データ
3…多様性緩和対象データ
4…多様性緩和対象外データ
5…部分パターン定義付データ
6…代表パターン定義データ
7…代表パターン置換済みデータ
8…合成済みデータ
9…多様性緩和済みデータ
10…CP描画データ
11…図形リスト
12…部分パターン候補リスト
13…部分パターンリスト
14…グループ分けリスト
15…グループリスト
101…電子銃
102…矩形アパーチャ
103…可変整形器
104…マスク描画用CPマスク
105…マスク乾板
M…矩形窓
N…全体パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体集積回路設計用の描画データから回路パターン中に含まれる繰り返しパターンを抽出し、該抽出した繰り返しパターンを繰り返しショットすることで前記回路パターンの一部を基板上に効率的に描画するCP描画データを作成するCP描画データ作成方法であって、
前記回路パターン中に多数存在する各パターンを多数の矩形に分割するステップと、
前記分割した多数の矩形のうち互いに隣接する任意の矩形を組み合わせて得られる前記各パターンの一部を構成する部分パターンのうち、その形状及び大きさが同一である1乃至複数の部分パターンを1つの部分パターン群として抽出するステップと、
前記抽出した複数の部分パターン群を相互に比較して、形状及び寸法の差異が一定範囲内にある類似する部分パターン群の集合ごとに当該部分パターン群の集合に含まれる部分パターンを代表する1つの代表パターンを生成するステップと、
前記代表パターンに基づきCP描画データを生成するステップと
を備えるCP描画データ作成方法。
【請求項2】
前記代表パターンに基づきCP描画データを生成するステップは、
元の前記回路パターンにおける前記集合内の部分パターンを前記代表パターンに置き換えてなる置換済み回路パターンデータを作成するステップと、
前記置換済み回路パターンデータにおいて、前記代表パターンに置換した際に生じた少なくともパターン間の隙間を除去した多様性緩和済み回路パターンデータを作成するステップと、
前記多様性緩和済み回路パターンデータから、多数の矩形のうち互いに隣接する任意の矩形を組み合わせて得られる部分パターンのうち、その形状及び大きさが同一である1乃至複数の部分パターンを1つの部分パターン群として抽出したCP描画データを作成するステップと
を備えることを特徴とする請求項1に記載のCP描画データ作成方法。
【請求項3】
前記回路パターン中に多数存在する各パターンは、光近接効果補正によって複雑化された微細な形状差や寸法差を有する多様な形状及び大きさのパターンであって、前記パターンをマスク上に描画する際に前記作成したCP描画データを利用することを特徴とする請求項1又は2に記載のCP描画データ作成方法。
【請求項4】
前記回路パターン中に多数存在する各パターンは、回路設計時点で形状が複雑化されたパターンであって、前記パターンを直接基板上に描画する際に前記作成したCP描画データを利用することを特徴とする請求項1又は2に記載のCP描画データ作成方法。
【請求項5】
元の描画データ作成における回路パターンの設計時あるいは元の描画データ作成後の前記回路パターン中に多数存在する各パターンに対して設定したパターン重要度に基づいて、前記回路パターン中に多数存在する各パターンのそれぞれを代表パターンで置換する対象のパターンと代表パターンで置換しない対象外のパターンとに分類するステップをさらに備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のCP描画データ作成方法。
【請求項6】
前記形状及び寸法の差異は、所定の半導体設計ルールに基づいて決定されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のCP描画データ作成方法。
【請求項7】
前記形状及び寸法の差異は、転写性シミュレーションの実行結果に応じたユーザ操作に応じて入力されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のCP描画データ作成方法。
【請求項8】
半導体集積回路設計用の描画データから回路パターン中に含まれる繰り返しパターンを抽出し、該抽出した繰り返しパターンを繰り返しショットすることで前記回路パターンの一部を基板上に効率的に描画するCP描画データを作成するCP描画データ作成装置であって、
前記回路パターン中に多数存在する各パターンを多数の矩形に分割する分割手段と、
前記分割した多数の矩形のうち互いに隣接する任意の矩形を組み合わせて得られる前記各パターンの一部を構成する部分パターンのうち、その形状及び大きさが同一である1乃至複数の部分パターンを1つの部分パターン群として抽出する抽出手段と、
前記抽出した複数の部分パターン群を相互に比較して、形状及び寸法の差異が一定範囲内にある類似する部分パターン群の集合ごとに当該部分パターン群の集合に含まれる部分パターンを代表する1つの代表パターンを生成するパターン生成手段と、
前記代表パターンに基づきCP描画データを生成する描画データ生成手段と
を備えるCP描画データ作成装置。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載のCP描画データ作成方法を実現するコンピュータで実行可能なプログラム。
【請求項10】
前記請求項8に記載の装置によってあるいは前記請求項9に記載のプログラムに従って作成されたCP描画データに基づき前記代表パターンが形成されたCPマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−197445(P2011−197445A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64686(P2010−64686)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「マスク設計・描画・検査総合最適化技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(594150176)日本コントロールシステム株式会社 (4)
【Fターム(参考)】