説明

パターン評価方法及びその装置

【課題】 ノイズがあるパターン画像から算出されるパターンの寸法やエッジの凹凸(エッジラフネス)を算出する際に、より真の値に近い値を得る。
【解決手段】画像内のエッジ近傍を表す帯状領域のうち、幅が狭い部分・広い部分でのエッジ位置の画像処理パラメータ依存性、あるいは、エッジ点がラインの外側にある部分・内側にある部分でのエッジ点位置の画像処理パラメータ依存性を算出し、計測値が真の値に十分近くなる画像処理条件を算出するか、あるいは、真の値を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走査型顕微鏡を用いた非破壊観測及び画像処理によるパターンの寸法あるいはエッジの凹凸(ラフネス)形状計測、寸法ゆらぎの計測による微細パターンの検査方法、そのための検査装置、及び検査装置の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体その他の産業では、パターン加工寸法の微細化に伴って、パターン形状を正確に把握する必要が生じてきた。寸法のほかに、エッジラフネスと呼ばれる、ランダムに発生するパターンエッジの細かい凹凸の評価が必要になっている。特に半導体プロセスではゲートや配線パターン上のエッジラフネス即ちラインエッジラフネス、あるいはライン左右のエッジラフネスから生じるライン幅の局所的なゆらぎ即ちライン幅ラフネスがデバイス性能に大きな影響を与えることが分ってきた。またホールあるいはドットパターンの寸法のずれやエッジの凹凸にも高精度計測が要求されるようになりつつある。
【0003】
寸法は、ユーザーが指定したサンプル上の2点(あるいは2つの直線)間の距離である。また、エッジのラフネスの程度は通常、エッジ点の、理想的な近似形状(ラインエッジの場合はエッジ点の集合から算出した近似直線)からのずれの分布の標準偏差σないしはその3倍(3σ)を用いて表現される。以下、特に断りのない限り、ラフネスの評価指標として一般的な前述の3σを単に「ラフネス」と呼ぶことにする。しかしここに示された議論は標準偏差の整数倍だけでなく、理想的な近似形状からのずれの最大値と最小値の差や、ずれの絶対値の平均(偏差平均)に対しても適用できる。
【0004】
上記の高精度寸法計測ないしは高精度ラフネス計測実現のための重要な課題はノイズの影響の除去である。走査型顕微鏡を用いてパターンを観察した結果得られる信号強度の二次元分布データないしはそれを画像として可視化したもの(以下、両者をまとめて観察画像と記すこととする)は常にランダムノイズを含んでおり、寸法およびラフネスの計測結果に影響する。
【0005】
ランダムノイズの影響は二種類ある。寸法計測への影響は、主として寸法計測値のばらつきである。また、ライン幅計測の場合には、二次粒子のライン幅方向のプロファイルにラインの外側のノイズが現れやすいため、真値よりも大きな値が観測されることがある。また非特許文献1によれば、ランダムノイズが多い場合、ラフネスの計測値にも計測値の増大が起こり、ひどい時には計測が不可能になったりする。
【0006】
上記のノイズの影響を無視できる程度に小さくするには、当初、以下の三つの手法が考えられていた。第一は、信号の積算(即ち、長時間観察して十分S/N比の高い信号強度を得ること)、第二は、観察画像のパターンエッジに平行な方向への平均化処理(以下、平均化処理と記す)、第三は、観察画像のエッジに垂直な方向への平均化処理である(以下、平滑化処理と記す)。パターンがラインでない場合は、第二の手法はエッジに沿った方向(もしくはパターンエッジ各点での接線方向)への平均化、第三の手法はエッジに垂直な方向(もしくはパターンエッジ各点での法線方向)への平均化と考える。
【0007】
しかし、これら三つの方法にはノイズを低減するメリットと引き換えに、以下のようなデメリットがある。
【0008】
第一の方法のデメリットは、検査時間の増大(スループットの低下)と観察スポットへの電子線の長時間照射によるカーボンなどの付着及び対象パターンの変形(主として収縮)である。
【0009】
第二ないし第三の方法のデメリットは、平均化による情報の損失である。平均化とは、即ち、画像をぼかすことと等価であるから、平均化・平滑化により、元々の二次元分布データに含まれていた情報の一部が失われる。例えば、パターンがラインパターンであり、パターンエッジに平行な方向に平均化を実行した場合を考えると、パターン長手方向のラフネスの短周期成分が失われる。寸法計測の場合、パターン長手方向に比較的長い範囲での寸法の平均値が分かれば良いため、平均化によるラフネスの短周期成分消失は大きな問題にはならない。しかしラフネス計測の場合には、得られる値が真の値より小さくなり、値の信頼性が失われる。これにより、二つのパターンのラフネスを比較する際に差が検出しにくくなり正確な大小判定ができなくなる。
【0010】
第三の方法のデメリットは信号プロファイル(エッジに垂直な方向の二次電子強度分布)のブロードニングによる寸法やラフネスの値の変化である(詳細は後述する)。これにより、寸法、ラフネス計測のいずれに関しても、第二の方法のデメリットと同じく、二つのパターン間での正確な大小判定ができなくなる。
【0011】
従来は、ノイズの影響を取り除くために、以上三つの方法全てを併用していた。しかし近年、荷電粒子線の照射耐性の弱い試料を寸法・ラフネス計測の対象物として使用する場合が非常に多くなってきており、第一の方法のデメリットである対象パターンの変形が問題になっている。そのためできるだけ少ない信号積算回数で観察画像を取得することが要求されている。その結果、上記第二・第三の画像処理による方法がより重要となり、これらの副作用が問題になってきた。
【0012】
現在、寸法計測では、パターンエッジ変動の高周波成分が失われても構わないので、第二の方法を適用し、エッジに沿った長い領域を平均化することで、ノイズの影響を低減している。一方、ラフネス計測の場合、例えば、非特許文献1には、画像を2回取得し、データ処理する方法が開示されている。また、特許文献1には、ノイズの性質と観察対象となるエッジラフネスの性質を仮定することでラフネスの計測値に含まれるノイズ成分を推定し、第一・第二の方法を適用せずに、ノイズが無い状態でのラフネス計測値を推定する新規な評価方法が開示されている。これらの手段を用いることで、第一の方法の欠点、観察試料へのダメージ及び第二の方法の欠点、高周波成分の損失を回避することができた。
【0013】
【非特許文献1】プロシーディングス・オブ・エス・ピー・アイ・イー、第5752巻、第480頁から第498頁
【特許文献1】日本国特許出願特開2006−215020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
非特許文献1または特許文献1に開示されたいずれの手法も、ノイズ量がある程度以下であれば有効である。しかしながら、ノイズがある一定の値以上になると、寸法・ラフネス計測いずれの場合も上記の方法では対応しきれない。平滑化しないと、ノイズが多すぎて値が求められないのである。ここで問題となるのは、パターンエッジの垂直方向または法線方向への平均化(即ち平滑化)に起因する信号プロファイルへの変形・歪みは、パターンエッジの平行方向または接線方向への平均化に起因する信号プロファイルへの影響よりもずっと大きいという点である。以下、図1を用いて両者のプロファイルへの影響の相違について説明する。
【0015】
図1(A)には、寸法およびラフネスの計測対象となるラインパターンの模式図を示した。x方向に所定の幅を持った凸型の構造物がy方向に伸びて形成されている。この凸型構造物が計測対象であるラインパターンである。このラインパターンに対して上面(z軸方向)から電子線を走査して二次電子もしくは反射電子画像を検出したとすると、検出信号のx方向強度分布(x方向へのラインプロファイル)は、概ね図1(B)に示すようになる。図1(A)に示したラインパターンをA-A'で切った断面が、図1(C)に示すパターン断面である。簡単のため、図1(C)には、ラインの左エッジ近傍(A-A'断面のうちAに近い箇所)のみを示した。図1(D)には、図1(C)に対応する信号プロファイルを模式的に示す。
【0016】
二次電子による信号プロファイルの場合、凸型構造物のエッジ近傍は二次電子が多く発生するため、得られる信号強度が大きくなる。従って、例えば図1(C)に上面から電子線を走査して得られる信号プロファイルは、図1(D)に示すようなエッジ近傍付近にピークを持った曲線となる。また、取得されるラインプロファイルはラインパターン側壁の凹凸に起因する変動成分を有しており、図1(D)100に示すように、短周期の変動成分を有している、y方向のある範囲で信号プロファイルの平均を取った場合、凹凸に起因する変動成分は、例えば図1(D)の打点部101で示されるような範囲内に分布する。
【0017】
図1(D)の打点部101とプロファイル100とを比較すれば分かるように、y方向の平均化により、プロファイルはx方向へも平均化される。しかしながら、その範囲はラインパターンのy方向の凹凸の最大値よりは小さく、プロファイルの形状に大きく影響するほどのものではない。しかしながら、プロファイルをx方向に平均化する場合、殊に、ランダムノイズの影響を十分低減できる程度に平滑化を行う場合、y方向の凹凸の最大値よりも遙かに大きな範囲でx方向の平均化を行うことになるため、信号プロファイルの形状そのものが崩れてしまう。
【0018】
従来も、平滑化のデメリットを考慮して、なるべく平滑化の程度を小さくして適用しようと努力していたが、寸法ないしラフネスの計測値に対して、平滑化によるデータのぼけがどの程度影響しているか定量的に推定する手法が存在せず、真の値(平滑化をしなかった場合でかつノイズがなかった場合に得られるであろう値)を推定する手法も存在しなかった。このため、平滑化されたデータを用いて計算されるラフネス計測値が妥当な値かどうか判断することもできなかった。このため、例えば従来は、ある2つのパターンの観察画像の外観上は寸法あるいはラフネスの大きさに明らかに差があるのに、ラフネス計測値には差がない、というような状況が発生していた(例えば、過度に平滑化を行った場合に、このような状況が発生する)。また、寸法計測値・ラフネス計測値が、画像から受ける印象と矛盾しない場合であっても、真の値が分からないため単なる指標としてしか使えないという問題があった。
【0019】
よって、本発明は、妥当な寸法計測値またはラフネス計測値を得るために最低限必要な平滑化の範囲を求めることが(言い換えれば、平滑化パラメータを最適化することが)可能な計算手法を提供することにより、平滑化による寸法あるいはラフネスの変化を抑制することを目的とする。また、本発明は、通常取得する観察画像(=平滑化を行わずしてはエッジの位置を算出することができない程度のノイズを含んだ画像)から真の寸法あるいは真のラフネスを計算可能な計測手法を実現することを別の目的とする。更に、これらの計測手法を搭載した計測システムないし計測方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、平滑化パラメータの最適化ないし、真値計測という上記の課題について、寸法計測、ラフネス計測それぞれに対して解決法を提示するもので、五つの計算手法及びそれらが実装された装置により実現される。
五つの方法とは、
(1)真の寸法に十分近い計測値を与える平滑化条件を得る方法(第一の方法)、
(2)真の寸法を推定する方法(第二の方法)、
(3)真のラフネスに十分近い計測値を与える平滑化条件を得る二種類の方法(第三、第四の方法)
(4)真のラフネス値を推測する方法(第五の方法)、である。
以下、平滑化の定義、ラフネス計測でノイズの影響を除去する原理、の二つについて説明した後、これら五つの方法の詳細を記述する。なお、簡略化のため、ラフネスとしてラインパターンのエッジラフネス即ちラインエッジラフネスの場合について説明するが、本発明をライン幅ラフネスやホールラフネスに拡張することも可能である。
計測対象パターンの二次元信号強度分布をI(x,y)とする。yは画像上での縦方向の位置を表す変数であり、x、yとも単位は画素、数値は整数である。ラインパターンはそのエッジがy方向に平行になるように置かれているとする。信号プロファイルとはyを一定とし、I(x,y)をxの関数とみなしたときの、関数形状である。平滑化とは、このI(x,y)に対して次の式で表される変換を行い、I'(x,y)を得ることである。
【0021】
【数1】


【0022】
図2(A)には、平滑化パラメータと信号プロファイル形状の関係を示す概念図を示した。図2(A)に示されるプロファイルは、上から順に、Sm=1、3、5、7で平滑化を行った信号プロファイルI’(x,y)である。今、Sm=1のプロファイルにおいて、x軸上のある点x=xiに着目して、x=xiにおけるピクセルを白丸で示す。なお、図2(A)では、ピクセルを強調するために、白丸の大きさを実際のピクセルサイズよりも大きく示している。Sm=3のプロファイルは、原信号プロファイル(平滑化を行なっていないプロファイル)を構成する各点について、当該位置の点とその両隣の2点を含む3点の平均化を行うことにより得られる。この平均化の過程において、平均化に使用されるピクセルは3点であるため、平滑化パラメータは3となる。プロファイルの算出方法とSmの意味は、Sm=5、7の信号プロファイルについてもSm=3の場合と同様である。平滑化パラメータが平均化に用いるピクセルの位置の範囲であることを直感的に理解するため、図2(A)では、x=xiを中心としたピクセルの広がりに相当する棒でSmを示した。
【0023】
図2(B)には、平滑化および正規化を行った信号プロファイルを、Sm=1、9、13について示した。図2(B)に示した横方向の実線は、エッジ点を決めるためのしきい値であり、各プロファイルとしきい値との交点のx座標が、エッジ点位置に該当する。平滑化により、Smが大きくなると共にピークの幅が広がっていくことがわかる。また、エッジ点の位置(x座標)がSmの増加によってグラフ左側、即ちラインの外側に移動する様子が分かる。
【0024】
平滑化パラメータとしては、種々の分布関数を使用することができる。例えば、平滑化パラメータSm=1の場合には、以下のδ関数を用いる。
【0025】
【数2】

【0026】
また、関数WSm(x)の他の例としては、図3(A)に示される矩形の窓関数
【0027】
【数3】

【0028】
や、図3(B)に示されるガウス型関数
【0029】
【数4】

【0030】
などを用いることができる。
【0031】
ノイズの低減以外に平滑化が信号プロファイルに及ぼす影響でもっとも大きいものは、信号プロファイルの構造(信号プロファイル上のピークや谷)がぼけることである。例えば、図2(A)に示されるように、プロファイルはエッジ近傍でピークを持つが、平滑化によりこのピークがぼけて、ピークの幅が広くなる(以下、ピークのブロードニングと呼ぶ)。エッジの定義(信号プロファイル上でエッジ点位置をどのように定義するか)や信号プロファイルの形にも依存するが、多くの場合このピークのブロードニングによりエッジ点位置はラインパターンの外側にシフトする。
【0032】
信号プロファイルの構造がぼけるため、平滑化を行うとパターン寸法も変化する。ライン幅計測の多くの場合は、信号プロファイルが広がっていくので、寸法値は増加する。
【0033】
次に平滑化によるラフネスの変化を考える。上にのべたブロードニングによるエッジ点位置のシフトの大小は、元の信号プロファイルのピーク幅や形状で決まるが、ピーク幅が狭いほど大きいという傾向がある。従って、ある二つの信号プロファイル(I(x,y)で表現される信号プロファイルをy=y1、y2で切った信号プロファイルI(x, y1)、I(x, y2))上のエッジ点位置の関係は、平滑化により以下のように変化する。
【0034】
まず、両者の信号プロファイル形状が同じであった場合は、シフト量も同じなのでエッジ点のx方向の距離は変わらない。従って、ラフネスの値は平滑化前後で変わらない。次に、ピーク幅の狭い信号プロファイル(ここではy=y2の信号プロファイルの方が幅の狭いものとする)の位置のほうがラインの外側にある場合、エッジ点の位置関係は、平滑化前は図4(A)に示すようになっているのに対して、平滑化により図4(B)のようになる。エッジ点位置の差Δは平滑化によって大きくなる。即ち、ラフネス値は平滑化で増大する。最後に、前述の場合と逆に、ピーク幅の広い信号プロファイルの方がラインの外側にある場合は、ラフネス値は平滑化で減少する。
【0035】
実際のパターン画像では、これら三つの場合がラインに沿って混在している。従って、ライン上のある範囲での凹凸の平均値であるラフネス値が、平滑化によってどのように変化するかを予測することは難しかった。
【0036】
画像ノイズのラフネス値への影響は、観測値の増加(バイアス)として現れる。従って、ラフネスの真値を求めるためには、バイアスを定量的に評価して、ラフネス計測値から除去する必要がある。非特許文献1には、あるパターンの画像を福数枚取得し、それらの画像からパターン上の同じ位置に相当するエッジ点位置を抽出することによってバイアス量を算出するという直接的な方法が開示されている。また、特許文献1には、ラフネスの高周波スペクトルに一定の仮定を設けることにより、1枚の画像からバイアス量を推定する手法が開示されている。これらの手法は、平均化や平滑化などの信号プロファイルの本質的な変形を伴わずにこれを取り除き、ノイズの影響のないラフネス値を得るための手段として有用であるため、本発明の5つの計算手法と組み合わせて用いられる場合もある。
【0037】
しかし、いずれの方法でも「ノイズにより、観測されるエッジ点が真のエッジ位置の周辺に確率的に分布する」ことを前提にしており、ノイズが非常に多い状況下では平滑化を行う必要が生じる。例えば、S/N比の極端に低い画像の場合には、平滑化を行わないとエッジ点の位置そのものが判断できない。また、ノイズがそれほど多くない画像であっても、ノイズ起因バイアスの除去処理を行う場合には、ある程度の平滑化を行う必要がある。ノイズにより、輝度の高い画素がまれにスペース領域に出現することがある。まったく平滑化を行わないとこの1画素分の信号(プロファイル上ではスパイク状になる)がエッジに対応するピークと誤認されるからである。但し、ノイズ処理を行わずにラフネス値を求める場合に比べて平滑化の程度は小さくてよい。従って、ラフネス計測においては、平滑化の影響を定量的に評価することが必須となる。
【0038】
次に、本発明のうち寸法計測を対象とした計算手法、即ち第一及び第二の方法について説明する。多くの場合、寸法測定の際には信号を十分に平均化することが許される(平均化に加えて平滑化を行う目的は、計測ばらつきの低減や検査時間の短縮である)。また、エッジ点位置は、通常プロファイルピークの外側(パターンがない領域)に定義されるため、パターン寸法は平滑化により単調に増加する。
【0039】
そこで、第一の方法においては、平均化を実行した二次元強度分布データに対して、Smを変えて平滑化を行い、各々のSmの二次元強度分布データに対してエッジ点位置ないし寸法値を算出して、エッジ点位置のSm依存性X(Sm)ないしは寸法のSm依存性D(Sm)を求める。X(Sm)ないしD(Sm)が分かっていれば、寸法計測に対する平滑化の影響が評価できる。従って、計測開始前に一度この作業を行っておき、Sm依存性データX(Sm)またはD(Sm)を参考にして寸法検査に用いるSmを決定すれば、正確さが保証された寸法計測ができる。また、XないしDのSm依存性からSmを判断するのでなく、許容する寸法誤差がD(Sm)-D(1)以下になるようなSmの最大値あるいはX(Sm)-X(1)の2倍以下になるようなSmの最大値を求め、平滑化パラメータをその値に設定してもよい。
【0040】
第二の方法においては、経験的ないしは電子線軌跡のシミュレーションなどにより予めD(Sm)を求めておき、フィッティングまたは外挿によりSm=1の場合の寸法を推定する。
【0041】
次に、本発明のうちラフネス計測を対象とした計算手法に関する本発明の原理を説明する。まず、平滑化のエッジへの影響、次に本発明第三、第四、第五の方法の原理について、ノイズがないという仮定のもとで述べる。その後、ノイズがある実際の画像を取り扱う場合の注意事項、追加作業を述べる。
【0042】
エッジ点位置のシフトの大小は前述したように、信号プロファイルのピーク幅と形に依存するが、多くの場合、ピーク幅が狭いとエッジ点位置シフトのSm依存性が大きい。従って以降本書類においては便宜上、エッジ点位置シフトのSm依存性が大きい信号プロファイルをピーク幅が狭い信号プロファイル、Sm依存性が小さい信号プロファイルをピーク幅が広い信号プロファイル、と表現することにする。
【0043】
上に述べたように、平滑化によってエッジ点位置の差Δが減少する場合と増大する場合とがある。減少する例を図5に記す。図5(A)は規格化された信号強度の等高線図であり、画面水平方向が画像のx方向である。また図5(B)はこのパターンの断面図である。なお、この等高線図は回転補正がなされているとする。図5の例は、元々ピーク幅の広い信号プロファイル上のエッジ点位置が元々幅の狭い信号プロファイル上のエッジ点位置よりもラインの外側にある場合である。図中L1で示した位置の信号プロファイルは区間内で最も広く、L2で示した位置の信号プロファイルは最も狭い。この画像データからしきい値50%で抽出したエッジを図6に示す。平滑化を施すと、L1の位置のエッジ点はあまり動かないのに対してL2の位置のエッジ点は大きく外側に動く。このためエッジの凹凸は小さくなる。即ちラフネス値は平滑化により減少する。平滑化によってラフネスが増加する例の等高線図を図7(A)に、それに対応する断面図を図7(B)に示す。図8には抽出されたエッジを示す。
【0044】
実際には1本のラインエッジ上には上記二つの場合が混在するが、いずれのタイプに属すかは、おおよそ分類できる。ラフネスが減少するタイプをA、ラフネスが増加するタイプをBで表す。又、以下ではノイズの影響を除去したラフネス値(3σ)をRで表すことにする。
【0045】
エッジ点位置(x座標)のうち、最も大きい(画面右、即ちライン側にある)ものをx_max、最も小さいものをx_minと記す。ここで、x_max、x_minを与える信号プロファイルのy座標は平滑化で変わらず、また、それぞれ最もピーク幅が広い信号プロファイルないしは最もピーク幅が狭い信号プロファイルであると仮定する。最もピーク幅の広い信号プロファイル及び最もピーク幅の狭い信号プロファイル上のエッジ点位置の平滑化依存性をそれぞれB(Sm)及びN(Sm)とおくと、タイプAではx_maxは図5のL2上、x_minはL1上にあるので、
【0046】
【数5】

【0047】
となり、一方、タイプBでは上記のB(Sm)とN(Sm)が逆になる。N(Sm)、B(Sm)の値はL1, L2上におけるI(x,y)の形状、平滑化の重み関数WSm(x)の形状及びエッジ点の定義に依存するが、一般に、N(Sm)<B(Sm)となる。ここで、Smの変化に対して
【0048】
【数6】

【0049】
が成り立つと仮定する。比例定数をαとおく。簡単のため式 右辺をΔ(Sm)と表記すると、
【0050】
【数7】

【0051】
【数8】

【0052】
となるから、〔数7〕を〔数8〕で割って、
Aでは
【0053】
【数9】

【0054】
同様にBでは
【0055】
【数10】

【0056】
となる(但し、Smが大きすぎてx_max<x_minとなる場合を除く)。B(Sm)-N(Sm)は0か正の値をとるので、タイプAでは平滑化によってラフネスが減少し、Bでは逆になる様子がこれらの式で矛盾なく表されていることが分かる。A、Bにおけるラフネスや関数B(Sm)、N(Sm)をRi(Sm),Bi(Sm), Si(Sm)(但しi=AまたはB)のように表すと、
【0057】
【数11】

【0058】
となる。
上記のことを踏まえ、本発明の第三の方法の原理を述べる。ラフネス計測領域の信号プロファイルはAかBのいずれかなので、式〔数11〕からラフネスのSm依存性は
【0059】
【数12】

【0060】
を満たす。ここで分布に関する標準偏差σと最大値・最小値の関係(図10)を考慮すれば、
【0061】
【数13】

【0062】
であるから、
【0063】
【数14】

【0064】
となる。よって、検査領域内でピーク幅が最も狭い信号プロファイルと最も広い信号プロファイルを選択する。画素の演算処理によりプロファイルの検索・抽出を自動化しても良い。得られた信号プロファイルに平滑化を行ってN(Sm)、B(Sm)の値を算出し、B(Sm)-N(Sm)のSmに対する依存性データを表示させ、当該依存性データをもとに検査に用いるSmの値を決定する。あるいは、検査領域内でエッジ点の座標を出し、ラインの最も外側のエッジ点位置及びラインの最も内側のエッジ点位置のSm増大による変化量X_out(Sm)及びX_in(Sm)の差の絶対値、即ち、|X_out(Sm)-X_in(Sm)|を求め、上記B(Sm)-N(Sm)の代わりに用いてもよい。なお、エッジがラインの左側の場合、X_out(Sm)は(数5)のx_min(Sm)-x_min(1)に、X_in(Sm)はx_max(Sm)-x_max(1)になる。
より定量的にするのであれば、以下のようにすればよい。まず|R(Sm)-R(1)|の許容値(ΔRacと記す)をユーザが設定しておく。一方、検査領域内で最もピーク幅が狭い信号プロファイルと広い信号プロファイルを検索、それぞれの信号プロファイルに平滑化を行ってN(Sm)、B(Sm)の値を算出する。次に、
【0065】
【数15】

【0066】
を解き、これを満たす最大のSmを求める。この値が、信号プロファイルのブロードニングを十分小さくし、かつ(ノイズが存在するときには)最もノイズを低減できるSmである。
しかし図10ではΔを大きく見積もりすぎている。実際には、
【0067】
【数16】

【0068】
と近似できるので、式15のかわりに
【0069】
【数17】

【0070】
を使ってもよい。もっと簡単に、B(Sm)-N(Sm)を単にSmに対してプロットし、B(Sm)-N(Sm)のSm依存性データ上で、B(Sm)-N(Sm)の変化がない領域を検索して、B(Sm)-N(Sm)がその領域内に収まるようにSmを設定してもよい。B(Sm)-N(Sm)の代わりに|X_out(Sm)-X_in(Sm)|を用いることができる。
【0071】
第四の方法では、B(Sm)-N(Sm)や|X_out(Sm)-X_in(Sm)|ではなく、二次元強度分布データからR(Sm)−R(1)を直接算出し、R(Sm)−R(1)を用いてSmを決定したり、或いはRの許容誤差からSmを選択する。
【0072】
次に、第五の方法の原理を述べる。まず、式11から、検査領域全体のラフネスR(Sm)は
【0073】
【数18】

【0074】
と近似できる。ただしpは正・負両方の値をとりうる。
そこで、第五の方法では、以下の要領で計算を実行する。検査領域内でピーク幅が最も狭い信号プロファイルと最も広い信号プロファイルを取得したのち、それぞれの信号プロファイルに対してSmの値を変えて平滑化を行い、N(Sm)、B(Sm)の値を算出する。この手順は、第三の方法で説明した手法と同様である。次に、計測対象領域から得られる信号プロファイルに対して、Smを変えて平滑化を行い、各々のSmに対応する信号プロファイルからラフネスを算出し、R(Sm)の値を求める。このとき、Smの値は2つ以上でなくてはならない(例えばSm=3、5、9など)。こうして得られたデータ(Sm, R(Sm))の集合を、次に、
【0075】
【数19】

【0076】
によりフィッティングする。上記式19のx及びyは、画像ファイル内の点の位置座標ではなく、データ(Sm, R(Sm)をxy座標上の点とみなした場合のx,y各座標である。即ち、xはSmの値を示す変数、yはラフネスの値を意味する変数である。式19は式18を変形した式であり、p、rはフィッティングパラメータである。pは実数、rは正の実数である。フィッティングを行って得られた最適関数でrを真のラフネスとみなせばよい。またB(x)-N(x)の代わりに|X_out(x)-X_in(x)|を用いることができる。
以上説明した第三、第四、第五の各方法では、ノイズがない場合を仮定した。しかし第三、第五の方法でN(Sm)やB(Sm)、ないしはX_out(Sm)やX_in(Sm)を求めるときや、第四、第五の方法でラフネスを算出するときには、値がノイズに影響されるため、注意が必要である。以下、これらの場合に注意すべきことを記す。
【0077】
B(Sm)、N(Sm)を計算する場合、最もピーク幅の広い信号プロファイルと狭い信号プロファイルを得なくてはならない。これには、観察画像の目視による方法と自動抽出する方法の二つがある。前者の場合、通常、観察画像では二次電子強度を画素のグレイスケールに変換してある。そのため、ラインパターンエッジ即ち二次電子強度の大きい部分は白く見える。ユーザはラインパターンの画像を見て、パターンのエッジ近傍に相当する白い帯状領域のうち、その帯の幅が最も狭くなる部分と広くなる部分を指定すればよい。
【0078】
X_out(Sm)やX_in(Sm)を計算する場合も、目視あるいは自動で行うことができる。エッジ点がラインから最も外側にある部分、内側にある部分を選択すればよい。
【0079】
なお、N(Sm)、B(Sm)あるいはX_out(Sm)やX_in(Sm)を計算する場合、Sm=1でも結果が得られる程度にノイズが低減されていなければならない。しかし、元々Sm=1で正しいエッジ位置が得られない画像であるからこそ、本発明を用いるのである。この矛盾は、y方向の平均化パラメータ(縦方向に平均化する画素数)を大きくすることで解決できる。信号プロファイルはその指定領域内で平均化することでノイズの影響を小さくすることができる。すでに記述したように、ラフネスを求める際にはこのパラメータを大きくすると高周波数ラフネスが失われてしまうため、できなかった。
【0080】
N(Sm)、B(Sm)あるいはX_out(Sm)やX_in(Sm)を算出する際にも、このパラメータを大きくすると、形状の若干異なるプロファイルが足しあわされるため、プロファイル幅が広くなる。しかしこの影響はこれら4つの関数のSm依存性を見えなくするほど大きくはない。即ち、ラフネスを求めるときよりも、平均化のデメリットが小さいのである。また、これら4つの関数を計算する領域を指定する際に、比較的y方向に変化の少ない部分を選ぶこともできる。ただし、平均化の領域を広く取りすぎると正しい結果が得られないため注意する必要がある。
【0081】
元々の画像S/Nが極端に悪く(ノイズが大き過ぎて)、平均化パラメータを極端に大きくしないとSm=1でのエッジ位置が決定できない場合には、信号積算回数などの観察条件を変えて(即ち、ラフネス値を求める画像とは異なる、ノイズが小さい条件で)、N(Sm)及びB(Sm)、ないしX_out(Sm)及びX_in(Sm)を算出するための画像を撮影し、N(Sm)、B(Sm)あるいはX_out(Sm)やX_in(Sm)等の関数をあらかじめ求めておくという方法をとればよい。
【0082】
以上の計算手法により、Sm=1の二次元強度分布データに対しても関数値を計算することができる。なお、N(Sm)を算出する領域とB(Sm)を算出する領域、あるいはX_out(Sm)を算出する領域とX_in(Sm)を算出する領域の平均化パラメータは等しくなければいけない。
【0083】
また、第四、第五の方法において、ラフネスを算出する際には、ノイズ起因バイアスを含まないラフネスR(Sm)を求める必要がある。画像データを取得する際に信号積算回数を十分大きくしておくか、あるいは、非特許文献1、特許文献1に示されたバイアス成分の除去処理をすればよい。
【0084】
第一の方法、即ち、寸法計測においてさまざまなSmの値に対してエッジ点位置や寸法値を算出しておくという計算手法は、多くの試料の計測の前に一度だけ行えばよいので、第二の方法に比べて計測のスループットを落とさないで済むという利点がある。一方で、第二の方法、即ちD(Sm)の実測データをある関数でフィッティングし、Sm=1の場合の寸法を推測するという方法は、個々の計測には若干時間がかかるものの、前もって計測しておく必要がなく、また、Smの選定を行う必要がないという利点がある。
【0085】
三つのラフネス計測方法(第三、四、五の方法)を比較すると、第三の方法は、第四、第五の方法に比べて、計算時間が短いという利点がある。画像のノイズが十分小さい場合、例えばSmが5以下の場合でもラフネスが求められる場合には、第四の方法のほうが精度がよい。第五の方法は、Smを設定しなくてよいという簡便さがある。
【0086】
なお、以上の説明は、全てラインパターンを例にして説明してきたが、上で説明してきた計算手法は、ラインパターン以外のパターン、例えばコンタクトホールのホールパターンなどにも適用可能である。図10(A)に、コンタクトホールをSEM観測して得られる典型的なホールパターンの模式図を、図10(B)にホールパターンのホワイトバンドをθ方向に展開した図を示す。図10(A)において、1001がパターンエッジのホワイトバンド、1002がホールの穴底、1003がホールの外側の上面を示す。簡略化のため、図10(A)では、コンタクトホールのエッジラインを真円で描いているが、実際のコンタクトホールのパターンエッジには若干の凹凸が現れ、従って、ホワイトバンド1001を構成する外側と内側のエッジラインにラフネスが現れる。
【0087】
ラインパターンの解析では、ラインに沿った方向をy軸方向、垂直な方向をx軸方向とするのが一般的であるが、ホールパターンの解析の場合には、図10(A)に示すようにホールの中心を原点と定め、二次元強度分布を構成する各画素の位置を曲座標で表し、ラインに場合のxをθ(基準線に対する角度)に、yをr(原点からの距離)に置き換えて、第一から第五の各方法を適用すればよい。画素位置を極座標変換すると、ラフネスを持ったホールのエッジは、例えば図10(B)のように表される。図10(B)が得られれば、第一から第五の各方法の適用は容易である。
【発明の効果】
【0088】
本発明により、寸法計測またはラフネス計測を実施する際の平滑化パラメータが、簡便かつ従来よりも正確に設定できるようになるため、より正しい計測が可能となった。
【0089】
また本発明により、信号品質の悪い(信号S/Nの低い、または、信号積算回数の少ない)画像からでも寸法値またはラフネス値が算出可能となるため、画像処理による計測値の変化のない計測が実現できた。これにより、より真の値に近い計測値が算出可能となった。
【0090】
更にまた、画質向上のための信号積算処理回数が従来よりも大幅に低減できるため、試料へのビーム照射量が低減され、試料ダメージが低減された。また、画像の取得回数を減らせるため、計測または検査の所用総時間が短縮されスループットが向上した。
【実施例1】
【0091】
本実施例では、「課題を解決するための手段」の章で説明した寸法計測に関する発明のうち、Smが1及び他の値の場合のエッジ点位置や寸法値を算出して、寸法値に影響の少ないSm値を選択するという方法を、測長機能を有する電子顕微鏡即ちCD-SEMによるラインパターン計測結果に適用した例を記す。
【0092】
本実施例の説明には、図11、図12、図13、図14及び図15を用いる。図11はパターン観察像から得られる代表的な信号プロファイルである。図12は用いられた検査装置の構成を表す模式図、図13は本実施例で解析したパターンのCD-SEM画像、即ち二次電子信号の二次元分布データの模式図、図14は本実施例のうち、エッジ点位置(x座標)の平滑化パラメータ(Sm)依存性を求める部分の手順を表すフロー図である。図15は本実施例中で得られるエッジ点位置(画像内のx座標)の平滑化パラメータ(Sm)依存性を表すグラフである。
【0093】
実施に先立って、平滑化パラメータSmの値に上限を設けておく必要があり、この上限値をSm_maxとする。Sm_maxを決めるには、隣り合う信号プロファイルのピークの距離を目安とする。それには、観察するパターンサンプルに関して前もってSEM観察を行っておき、代表的な信号プロファイルを得ておく必要がある。パターンサンプルの信号プロファイルの例を図11に示す。このプロファイルは、平滑化はされていないが、十分に平均化されたものである。このパターンは孤立パターンであるため、左エッジに対応する信号プロファイルピークに最も近いプロファイルピークは、右エッジに対応するプロファイルピークとなる。左エッジの信号プロファイルピークの頂上と右エッジを表す信号プロファイルピークの裾部分との距離を測ったところ、約22ピクセルであった。そこで、左エッジの信号プロファイルのピーク位置が右エッジからの信号の影響をうけないようにするため、Sm_maxを21とした(22以下で最大の奇数を選択した)。なお、左エッジの信号プロファイルのピーク位置が右エッジからの信号の影響を受けないような範囲であれば、Sm_maxは、他の選び方をしてもよい。
【0094】
次に、図12に示す装置を用いて、計測対象試料の二次元強度分布データを取得した。図12に示した装置は、二次元強度分布データ取得手段としての走査電子顕微鏡本体1201、その制御系1211およびデータ処理用コンピュータ1212からなる測長システムである。走査電子顕微鏡本体1201は、電子銃1202、コンデンサレンズ1204、走査偏向器1205、対物レンズ1206、計測対象試料を載置するステージ1208、電子線照射により発生する二次電子ないし反射電子を検出する検出器1210などにより構成される。走査電子顕微鏡本体1201の各構成部品は制御系1211により制御され、検出器1210の出力信号は、コンピュータ1212により信号処理される。1213はデータ記憶装置であって、制御系1211やコンピュータ1212で実行される処理のために必要なソフトウェアや各種データが格納されている。また、図示されていないが、コンピュータ1212には、画像表示画面および情報入力手段(マウスなのポンティングデバイスやキーボードなど)が接続されており、コンピュータ1212上での情報処理に必要なパラメータや数値が設定可能となっている。
【0095】
計測対象試料としては、シリコンウエハ上に幅約50nmのレジストのラインパターンが形成された試料を用いた。この試料1207をステージ1208上に載置し、電子線を照射しつつ発生した二次電子を検知して、所定領域の二次電子信号データを取得した。観察領域の大きさは、縦横とも675nmであった。この領域を縦横とも512分割し、各領域(ピクセル)における二次電子の強度を得た。この縦横675nmの領域の二次電子強度分布を表す画像がコンピュータ1212のモニタに表示された。
【0096】
図13に表示画像の模式図を示す。図13では中心部にラインパターンがある。1301はレジスト両側のウェハ表面があらわになっている領域、帯状の1302(ホワイトバンド)はラインパターンの左側のエッジの近傍に相当する領域である。ホワイトバンド1302の右側の帯状領域は、ラインの右エッジに対応するホワイトバンドである。
【0097】
図14には、図13に示す画像を構成する二次元強度分布データに対して実行される情報処理の工程を示した。以下、図14に従って本実施例の計算手法について説明する。尚、以下に記す各種の演算処理は、コンピュータ1212により実行されるものである。
【0098】
まず、Sm_maxの値が設定される。Sm_maxの値は、図12の装置オペレータが入力しても良いし、ラインパターンの信号プロファイル解析により装置が自動的に計算するようにしても良い。Sm_maxの設定工程を1401とする。
【0099】
次に、図13に示す表示画像の帯状領域1302上で、帯状領域の幅が最も狭い箇所のエッジ点を探すための検査領域を設定した。1303は設定された検査領域を示す。つまり、ホワイトバンド幅が最も狭いエッジ点の探索は1303内で実行される。帯状領域の幅の狭い場所に検査領域を設定した理由は、幅の狭いプロファイルほど平滑化の影響が大きいためである。この工程は1402に相当する。
【0100】
次に、工程1403に進み、図13に示す二次電子強度分布に含まれる信号プロファイルのうち、y座標がこの検査領域1303の範囲に入るものを平均化した。
【0101】
工程1404では平滑化パラメータSmの値が初期化される。即ち、Sm=1とした。
【0102】
工程1405では工程1402で得られた平均化後の信号プロファイルに対して設定された平滑化パラメータによる平滑化が実行された。
【0103】
次に、工程1406に進み、工程1405で平滑化に用いたSmの値が上限値Sm_maxに達しているかどうかを判定した。達していない場合は工程1407に進み、Smの値を2増やし、さらに工程1405に進んだ。工程1406でSmの値がSm_maxと等しければ工程1408に進んだ。
【0104】
工程1408では、得られた平滑化後の信号プロファイルからエッジ点位置を算出、そのSm依存性を出力し、その後、終了した。
【0105】
尚、エッジ点位置の算出ステップを工程1405の平滑化ステップで実行してもよい。図14のフローの場合、工程1408に至るまでシグナルプロファイル形状をメモリに保持する必要があるが、工程1405でエッジ点位置を算出すれば、エッジ点の位置のみをメモリに保持しておけばよいため評価装置のメモリが節約できる。
【0106】
図15に、エッジ点位置のSm依存性をグラフ化した図を示す。Smの最適値は図15を用いて決定する。グラフには値が安定している状態(Smの値が5から9の領域)がある。Sm=1の場合はエッジ点がラインの外側に大きくずれており、また、この傾向はSm=3の場合にも見られる。これはスペース領域(1301)のノイズの影響であると考えた。前述の安定領域ではノイズの影響が比較的押さえられている。Smが11以上になるとエッジ点は再びラインの外側にずれ始めるが、これは平滑化によって元々の信号プロファイル形状が大きく崩れてきたためである。よって図15のプロットの傾向から、Smの値を安定領域の中心である7と決定される。
【0107】
上記のケースではSm=7で十分再現性のよい計測ができたが、装置が設置されている環境が悪く、ノイズをもっと減らすためできるだけSmを大きくしたい場合もある。この場合には、以下のようにSmを設定する。まず、寸法計測の許容誤差を設定する。この場合は、0.4nmであった。Smを大きくした場合、エッジ点は外側に移動するためライン寸法は増加する。増加量を0.4nm以下とすると左側エッジで0.2nmの増加まで許容できる。そこで、安定な領域のエッジ点位置と比較して、エッジ点位置のずれが0.2nm以下になるという条件で最大のSmを探すと、図15から判るように、Sm=13となった。そこで、寸法の誤差を許してノイズの影響を最も小さくしたい場合には、Smは最大で13とすることが可能であると決定される。
【0108】
また、これらのSmの選択を自動的に行うことも可能である。上記のように図15のグラフ形状からSm=7という解を得たが、これを自動で行うには、エッジ点位置のSm依存性が平坦になる部分を探し、その中心のSm値を出力するようなプログラムを実行させる。Smの最大値を出すには、寸法の許容誤差を入力し、エッジ点位置のずれがその半分以下となる条件下で最大のSm値を出力するようなプログラムを実行させればよい。
【0109】
上記いずれの方法でも、過剰なノイズ低減による計測精度の劣化を引き起こすことなく、寸法計測を行うことが可能となった。更に、半導体装置の製造プロセス制御時にモニタするパラメータとして、従来よりも寸法計測の精度が高い寸法値を使用できるようになったため、半導体製造の製造歩留まりが向上した。
【0110】
なお、以上の説明は、微細パターン形状評価装置の代表例として、測長機能を有する走査型電子顕微鏡(CD-SEM)の構成例を用いて説明したが、CD-SEM以外の顕微鏡による計測結果に適用可能である。また、ラインアンドスペースパターンのみならず、コンタクトホールのホールパターンや、更にはOPCパターンなど、より複雑な形状のパターンに対しても適用できることも言うまでもない。
【実施例2】
【0111】
本実施例では、「課題を解決するための手段」の章で説明した寸法計測に関する発明のうち、寸法値のSm依存性を関数でフィッティングすることにより、Sm=1のときの値即ち平滑化を行わなかった場合に得られたであろう寸法値を推定するという方法を、測長機能を有する電子顕微鏡即ちCD-SEMによるラインパターン計測結果に適用した例を記す。
【0112】
本実施例の説明には、図12、図13、及び図16を用いる。図12は用いられた検査装置の構成を表す模式図、図13は本実施例で解析したパターンのCD-SEM画像、即ち二次電子信号の二次元分布データと、その画像上に定められた処理領域の模式図、図16はライン幅の平滑化パラメータ依存性である。
【0113】
本実施例の計測対象試料は実施例1で用いた試料と同一である。従って、図13に示した二次電子強度分布データの取得手順も実施例1と同様である。検査装置の構成は図12の通りであるが、詳細については説明を省略する。また、検討するSmの値の上限値、Sm_maxも実施例1の方法で21に設定した。
【0114】
以下、図14に示すフローを用いて本実施例の計算手法について説明を進める。尚、以下に記す各種の演算処理は、コンピュータ1212により実行されるものである。
【0115】
まず、モニタ上で、検査領域1304を設定した。次に、実施例1と同じように、図13に示す二次電子強度分布(画像データ)の上の信号プロファイルのうち、y座標がこの検査領域1304のy座標の範囲に入るものを平均化した。
【0116】
次に、やはり実施例1と同じように、前述の平均化された信号プロファイルについて、Smを1から21までに設定し、平滑化を行った後に、得られた11個のプロファイル(Sm=1, 3, 5, ・・・21に対応)について、左右のエッジに対応するプロファイルピークから左右のエッジ点位置を検出し、その差即ちライン幅を求めた。この、ライン幅のSm依存性を図14に、■で示す。
【0117】
本実施例では、フィッティング関数として以下の関数を用いた。
【0118】
【数20】

【0119】
ここでyはライン幅、xはSmの値である。また式中のa1、a2、a3はフィッティングパラメータである。
【0120】
次に、フィッティングを行ってデータ(図16中の■)に最も合う曲線を求めた。このとき、Sm=1及びSm=3の場合の寸法値は他の値と比べて異常に大きく、明らかにノイズの影響によるエッジ点の抽出の失敗であると判断されたため、フィッティングの対象からはずした。即ち、Smが5以上の結果をフィッティングした。得られたフィッティング曲線を図16に実線で示す。このとき、a1の値は52.6となった。従って、平滑化による信号プロファイルのブロードニングがなければ、パターン寸法は52.6nmになることが判った。
【0121】
この方法により、従来法よりも真の寸法により近い寸法計測を行うことができるようになり、歩留まりが向上した。
【0122】
以上の説明は、微細パターン形状評価装置の代表例として、測長機能を有する走査型電子顕微鏡(CD-SEM)の構成例を用いて説明したが、CD-SEM以外の顕微鏡による計測結果に適用可能である。また、ラインアンドスペースパターンのみならず、コンタクトホールのホールパターンや、更にはOPCパターンなど、より複雑な形状のパターンに対しても適用できることも言うまでもない。
【実施例3】
【0123】
本実施例では、「課題を解決するための手段」段落で説明したラフネス計測に関する発明のうち、パターンエッジに相当する画像上で帯状に現れる領域が最も広い部分と狭い部分とを選び、各々についてエッジ位置のSmに対する依存性B(Sm)、N(Sm)を算出しそれらの差分を算出、その結果をもとにSmの値を選択するという方法を、測長機能を有する電子顕微鏡即ちCD-SEMによるラインパターン計測結果に適用した例を記す。
【0124】
本実施例の説明には、図12、図17、図18、図19を用いる。図12は用いられた検査装置の構成を表す模式図、図17は本実施例で解析したパターンのCD-SEM画像、即ち二次電子信号の二次元分布データと、その画像上に定められた処理領域の模式図、図18は本実施例のうち、二次電子強度分布データ取得後の画像処理の手順を表すフロー図である。また図19は本実施例で得られた関数B(Sm)とN(Sm)の差分である。
【0125】
本実施例で計算対象としたデータは、実施例1で用いた二次電子強度分布のデータと同様である。従って図17に示す画像データの取得手順は実施例1と同様であり、図17を構成する信号プロファイルも図13と同じである。検査装置の構成は図12の通りであるが、詳細については実施例1で既に説明しているので、説明は省略する。Smの値の上限値、Sm_maxも実施例1の方法で21と設定した。また、本実施例では、図17に示すラインパターンの左エッジのラフネスを評価した。
以下、図18に示すフローを用いて本実施例の計算手法について説明を進める。尚、以下に記す各種の演算処理は、コンピュータ1212により実行されるものである。
【0126】
まず、解析画像として図17の二次電子強度分布をモニタ上に表示させた。
【0127】
次に、工程1801で上の観察画像の目視によってオペレーターが、エッジ近傍を表す帯状領域のうち幅が最も狭い部分と広い部分とを検査領域に指定した。このとき指定された検査領域はそれぞれ1703と1705であった。
【0128】
次に、図17に示す二次電子強度分布の信号プロファイルのうち、y座標が検査領域1703のy座標の範囲に入るものを平均化した(工程1802)。これが幅の狭い帯状領域のプロファイルである。また、y座標が検査領域1705のy座標の範囲に入る信号プロファイルも平均化した(工程1803)。これが幅の広い帯状領域のプロファイルである。なお、これら二つの工程1802、1803はその順序が逆になっても構わない。
【0129】
次に、工程1804に移り、上記の二つの平均化後のプロファイルについて、やはり実施例1と同じように、Smを1から21までに設定し、平滑化を行った。また引き続いてSmの異なる11個のプロファイル(Sm=1, 3, 5, ・・・21に対応)について、エッジ点位置を検出した。エッジ点検出は幅の狭い帯状領域のプロファイル、幅の広い帯状領域のプロファイル、いずれについても行った。尚この工程は実施例2で記述した図14の工程1403から1408までを前述の二つの領域のデータにそれぞれ施したことに等しい。幅の狭い帯状領域の信号プロファイルから得られたエッジ点位置のSm依存性をN(Sm)、幅の広い帯状領域の信号プロファイルから得られたエッジ点位置のSm依存性をB(Sm)とした。
【0130】
次に工程1805にて、B(Sm)-N(Sm)を計算した。計算されたB(Sm)-N(Sm)のSm依存性を図19に示す。B(Sm)-N(Sm)のSm依存性から、平滑化パラメータSmが7以下であればエッジ点間の距離は変わらないことがわかり、ラフネスを算出する際のSmの妥当値は7と判定された。この方法により、従来法よりも真の寸法により近いラフネス計測を行うことができるようになった。
【0131】
尚、本実施例では幅の狭い帯状領域、幅の広い帯状領域をオペレーターが選択したが、画像を検索して自動的にこれらの領域を抽出するという方法を用いてもよい。
【0132】
以上の説明は、微細パターン形状評価装置の代表例として、測長機能を有する走査型電子顕微鏡(CD-SEM)の構成例を用いて説明したが、CD-SEM以外の顕微鏡による計測結果に適用可能である。また、ラインアンドスペースパターンのみならず、コンタクトホールのホールパターンや、更にはOPCパターンなど、より複雑な形状のパターンに対しても適用できることも言うまでもない。
【実施例4】
【0133】
本実施例では、「課題を解決するための手段」段落で説明したラフネス計測に関する発明のうち、ラフネスのSmに対する依存性R(Sm)からSmの値を選択するという方法を、測長機能を有する電子顕微鏡即ちCD-SEMによるラインパターン計測結果に適用した例を記す。
【0134】
本実施例の説明には、図12、図17、図20を用いる。図12は用いられた検査装置の構成を表す模式図、図17は本実施例で解析したパターンのCD-SEM画像、即ち二次電子信号の二次元分布データと、その画像上に定められた処理領域の模式図、図20は本実施例で得られたラフネスのSm依存性である。
【0135】
本実施例では、実施例1で用いた二次電子強度分布のデータを用いた。従って図17を得るまでの手順は実施例1と同様であり、図17のうち二次電子強度分布は前述の実施例で記述した図13と同じである。検査装置の構成は図12の通りである。図17の二次電子信号の二次元分布データは図12の1210の出力信号により得られるものである。また、検討するSmの値の上限値、Sm_maxも実施例1の方法で21に設定した。また、本実施例では、左エッジのラフネスを評価した。尚、以下に記す各種の演算処理は、コンピュータ1212により実行されるものである。
【0136】
まず、解析画像として図17の二次電子強度分布をモニタ上に表示させた。
【0137】
次に、ラフネスを算出したい領域をモニタ上で指定した。この領域は図17の1704であった。この領域の信号について、Smを1から21までに設定し、平滑化を行った。次に、平滑化後のこの領域の信号強度のデータに対して、ノイズの影響を取り除いたエッジラフネス(エッジ点のx方向分布の標準偏差の3倍)を計算した。なお、ノイズの影響を取り除いたエッジラフネスを出す手法としては、ラフネスの平均化パラメータ(ラインパターン長手方向へのぼかし量)依存性からバイアス量を求めて、ラフネスの計測値から除去する手法を用いた。算出されたラフネスはSmの値の関数となる。これをR(Sm)と記し、結果を表示したグラフが図20である。Smが1、3の場合はノイズの影響が大きすぎたため、ラフネスが算出できなかった。
【0138】
図20に示すR(Sm)のSm依存性から、Smが9以上の領域では、Smが5または7の場合に比べてR(Sm)が低下していることが分かる。これは、平滑化パラメータが9以上になると平滑化の影響でラフネスの値が真の値(画像処理の影響を除いた場合のラフネス)よりも小さくなるためである。、R(Sm)の変動幅が所定範囲内に収まるようなSmの範囲内で最大になるという基準に基づいてR(Sm)のSm依存性を解析することにより、平滑化パラメータの最適値は7と決定された。以降、Smとして7を使用しててラフネス計算を行った。これにより、より正確なラフネス計測が行えるようになり歩留まりが向上した。
【0139】
尚、本実施例で用いた画像は、その後のラフネス検査を行うために取得する画像と同じ観察条件で取得したものであった。しかし、このように平滑化パラメータを決定する解析でのみ、信号積算回数が大きくてノイズの影響が殆どない画像を用い、非特許文献1あるいは特許文献1に示したノイズの影響を除去する手法を使わずにR(Sm)を出す、という手法でも同じ効果が得られる。
【実施例5】
【0140】
本実施例では、「課題を解決するための手段」段落で説明したラフネス計測に関する発明のうち、ラフネスのSmに対する依存性R(Sm)を算出し、データ(Sm,R(Sm))の集合をy=p{B(x)-N(x)}+rでフィッティングすることにより、Sm=1のときの値即ち平滑化を行わなかった場合に得られたであろうラフネス値を推定するという方法を、測長機能を有する電子顕微鏡即ちCD-SEMによるラインパターン計測結果に適用した例を記す。
【0141】
本実施例では、観察装置を用いてサンプルを観察しながら画像処理を行い計測するという工程、即ちインラインプロセスではなく、観察装置を用いて取得したサンプルの画像を記録装置に保存しておき、後に演算処理装置のメモリ部にその画像をロードし、処理を行った例、即ちオフラインプロセスの例を記す。しかし本実施例で示した処理はインラインプロセスでも用いることができる。
【0142】
本実施例の説明には、図17、図19、図20、図21、図22を用いる。図17は本実施例で解析したパターンのCD-SEM画像、即ち二次電子信号の二次元分布データと、その画像上に定められた処理領域の模式図、図19は本実施例で用いた関数B(Sm)とN(Sm)の差分である。図20は本実施例で解析したラフネスのSm依存性、図21は図20に示したデータを図19に示したB(Sm)-N(Sm)を含む関数を用いてフィッティングした結果である。また図22は本実施例の手順を示すフロー図である。本実施例で用いた画像は実施例1から4で用いたものと同じである。
【0143】
以下、図22に示すフロー図を用いて本実施例の計算手法の詳細を説明する。尚、以下に説明する各種の演算処理は、コンピュータ1212により実行されるものである。
【0144】
まず、工程2201でフィッティング関数取得用の画像データを選択し、選択した画像データをデータ記憶装置1213から読み出した。選択された画像のデータはモニタ上に表示された。工程2202で、その画像上で幅の広い帯状領域、狭い帯状領域を指定した。画像および領域選択については、実施例3で既に説明しているため説明を省略する。幅の広い帯状領域、狭い帯状領域はそれぞれ領域1703、1705であった。
【0145】
次に、工程2203に進み、領域1703、領域1705の二次電子信号データから実施例3に示した手順でB(Sm)-N(Sm)が計算され、メモリ部に保存された。計算されたB(Sm)-N(Sm)をSmに対してプロットしたグラフを図19に示す。
【0146】
次に、工程2204に進み、ラフネス算出の対象画像の選択ステップが実行された。ここでは同じ画像が選択された。さらに工程2205にて、ラフネスを算出する領域を画像上で設定した。この領域は実施例3と同じで、領域1704であった。工程2206で、この領域のデータを実施例4と同じ手順で処理し、ノイズの影響を除いたラフネスR(Sm)を1から21までのSmの値に対して算出した。算出されたラフネスのSm依存性グラフを図20に示す。図20において、Sm=1、3の場合にはノイズの影響を除去しきれず、ラフネスが計算できなかった。
【0147】
次に工程2207に進み、工程2206で得られたデータをy=R(x)とみなして式19でフィッティングした。フィッティングには最小二乗法を用いた。引き続いて工程2208で、最もよく実験データに合うフィッティングパラメータを出力(モニタ上に表示)した。これらの値は、p=0.50、r=7.48nmであった。フィッティングによる計算結果から、平滑化を行わなかった場合に得られる真のラフネスは7.48nmであるとわかった。図21には、フィッティングに用いたデータを○印で、最小二乗法によるフィッティングカーブを実線で、それぞれ示す。
【0148】
次に工程2209の判定ステップに進み、同じB(Sm)-N(Sm)を使って真のラフネス算出を行うか否かの判定を実行した。「いいえ」の場合は終了し、「はい」の場合は、フローが工程2204に戻り、ラフネス算出を行う対象画像の選択ステップが実行される。
【0149】
本実施例で説明した方法を用いることで、画像処理の影響を除いた真のラフネスが、簡単に、算出できるようになり、歩留まりが向上した。また、以上の説明は、微細パターン形状評価装置の代表例として、測長機能を有する走査型電子顕微鏡(CD-SEM)の構成例を用いて説明したが、CD-SEM以外の顕微鏡による計測結果に適用可能である。更にまた、ラインアンドスペースパターンのみならず、コンタクトホールのホールパターンや、更にはOPCパターンなど、より複雑な形状のパターンに対しても適用できることも言うまでもない。
【実施例6】
【0150】
本実施例では、「課題を解決するための手段」段落で説明したラフネス計測に関する発明のうち、ラフネスのSmに対する依存性R(Sm)を算出し、データ(Sm,R(Sm))の集合をy=p{X_out(x)-X_in(x)}+rでフィッティングすることにより、Sm=1のときの値即ち平滑化を行わなかった場合に得られたであろうラフネス値を推定するという方法を、測長機能を有する電子顕微鏡即ちCD-SEMによるラインパターン計測結果に適用した例を記す。
【0151】
本実施例で用いた観察装置、記録装置、演算処理装置は全て実施例5と同じものである。また、処理した画像も実施例5と同じである。
【0152】
本実施例の説明には、図17、図23を用いる。図17は本実施例で解析したパターンのCD-SEM画像、即ち二次電子信号の二次元分布データと、その画像上に定められた処理領域の模式図、図23は本実施例の手順を示すフロー図である。
【0153】
本実施例で用いた画像は実施例1から5で用いたものと同じである。
【0154】
まず、工程2301でフィッティング関数取得用の画像データを選択した。選択された画像のデータはモニタ上に表示された。図17の二次電子信号の二次元分布データが表示された画像である。次に工程2302で、その画像上でエッジがライン中央から最も外側にある領域、最も内側にある領域を指定した。
【0155】
次に、工程2303に進み、前述の指定された領域から、最も外側のエッジ点のSm依存性X_out(Sm)、最も内側のエッジ点のSm依存性X_in(Sm)を算出し、その差の絶対値|X_out(Sm)-X_in(Sm)|が計算され、メモリ部に保存された。
【0156】
次に、工程2304に進み、ラフネス算出の対象画像の選択ステップが実行された。ここでは同じ画像を選択。さらに工程2305にて画像上でラフネスを算出する領域を設定した。この領域は実施例3と同じで、領域1704であった。工程2306で、この領域のデータを実施例4に記載したとおりの手順で処理し、ノイズの影響を除いたラフネスR(Sm)を1から21までのSmの値に対して算出した。なお、Sm=1、3の場合にはノイズの影響を除去しきれず、データが得られなかった。
【0157】
次に、工程2307に進み、工程2306で得られたデータをy=R(x)とみなして式y=p|X_out(x)-X_in(x)|+rでフィッティングした。フィッティングでは最小二乗法を用いた。引き続いて工程2308で、最もよく実験データに合うフィッティングパラメータを出力(モニタ上に表示)した。これらの値は、p=-0.48、r=7.51nmであった。このことから、平滑化を行わなかった場合に得られる真のラフネスは7.51nmであるとわかった。
【0158】
次に工程2309の判定ステップに進み、同じ|X_out(Sm)-X_in(Sm)|を使って真のラフネス算出を行うか否かの判定を実行した。「いいえ」の場合は終了し、「はい」の場合は、フローが工程2304に戻り、ラフネス算出を行う対象画像の選択ステップが実行される。
【0159】
本実施例で説明した方法を用いることで、画像処理の影響を除いた真のラフネスが、簡単に、算出できるようになり、歩留まりが向上した。以上の説明は、微細パターン形状評価装置の代表例として、測長機能を有する走査型電子顕微鏡(CD-SEM)の構成例を用いて説明したが、CD-SEM以外の顕微鏡による計測結果に適用可能である。更にまた、ラインアンドスペースパターンのみならず、コンタクトホールのホールパターンや、更にはOPCパターンなど、より複雑な形状のパターンに対しても適用できることも言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明のパターン形状評価方法及び装置は、半導体製造時の検査工程においてパターン画像から算出されるパターンの寸法やエッジの凹凸(エッジラフネス)を算出する際に、より真の値に近い値を少ないダメージで得るためのものである。これにより、製造される半導体デバイスの性能に直結する形状指標が、短時間で、精確に求められるようになり、歩留まりが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】被計測パターンと取得される信号プロファイルの関係を示す模式図。
【図2】平滑化パラメータSmによる信号プロファイルの変化。
【図3】窓関数の例。
【図4】平滑化によるエッジ点位置のずれを示す模式図。
【図5】タイプAの場合のパターンエッジ近傍の信号強度の等高線図および被計測パターンの断面図。
【図6】図5に示した等高線図より抽出されたパターンエッジ。
【図7】タイプBの場合のパターンエッジ近傍の信号強度の等高線図および被計測パターンの断面図。
【図8】図7に示した等高線図より抽出されたパターンエッジ。
【図9】エッジ点位置(x座標)の分布におけるσとΔの関係。
【図10】コンタクトホールのCD-SEM画像を示す模式図。
【図11】代表的な信号プロファイル。
【図12】実施例1、2、3、4で用いられた測長システムの構成。
【図13】実施例1、2の測長システムによる取得画像の模式図。
【図14】エッジ点位置の平滑化パラメータ依存性を求めるフロー図。
【図15】実施例1で得られたエッジ点位置の平滑化パラメータ依存性を表すグラフ。
【図16】実施例2で得られたライン幅の平滑化パラメータ依存性を表すグラフ。
【図17】実施例3、4、5、6の測長システムによる取得画像の模式図。
【図18】実施例3における画像処理の手順を表すフロー図。
【図19】実施例3、5で得られたB(Sm)とN(Sm)との差分を表すグラフ。
【図20】実施例4、5で得られたラフネスの平滑化パラメータ依存性を表すグラフ。
【図21】実施例5で得られたラフネスの平滑化パラメータ依存性データと、当該データに対するフィッティングカーブ。
【図22】実施例5のフロー図。
【図23】実施例6のフロー図。
【符号の説明】
【0162】
1001 ホールエッジのホワイトバンド
1002 コンタクトホールの孔底
1003 コンタクトホール周辺の上面部
1201 走査型電子線顕微鏡の筐体
1202 電子銃
1203 電子線
1204 収束レンズ
1205 偏向器
1206 対物レンズ
1207 観察ウエハ
1208 ステージ
1209 二次電子
1210 検出器
1211 制御系
1212 情報処理装置
1213 データ記憶装置
1301 取得画像内のパターンがない(スペース)領域
1302 計測対象パターンのホワイトバンド
1303 取得画像内でホワイトバンド幅が最も狭いと判断された部分
1304 ライン幅計測を行う検査領域
1401 平滑化パラメータSmの上限値Sm_maxを入力する工程
1402 検査領域を設定する工程
1403 信号プロファイルを平均化する工程
1404 平滑化パラメータSmを1に設定する工程
1405 指定された平滑化パラメータSmを用いて信号プロファイルを平滑化する工程
1406 平滑化パラメータSmが上限値に達していないか調べる工程
1407 平滑化パラメータSmの値を2増やす工程
1408 エッジ点位置の平滑化パラメータ依存性を算出し出力する工程
1701 取得画像内のパターンがない(スペース)領域
1702 計測対象パターンのホワイトバンド
1703 取得画像内でホワイトバンド幅が最も狭いと判断された部分
1704 ラフネス計測を行う検査領域
1705 取得画像内でホワイトバンド幅が最も広いと判断された部分
1801 B(Sm)、N(Sm)を算出するため、帯状領域のうち幅の広い部分と狭い部分とを検査領域として設定する工程
1802 幅の狭い帯状領域の信号プロファイルを平均化する工程
1803 幅の広い帯状領域の信号プロファイルを平均化する工程
1804 各平滑化パラメータに対するエッジ点位置の算出工程
1805 B(Sm)-N(Sm)を算出・出力する工程
2201 B(Sm)-N(Sm)を求めるための画像データを選択する工程
2202 帯状領域のうち幅の広い部分と狭い部分とを検査領域として設定する工程
2203 B(Sm)-N(Sm)を算出・データ保存する工程
2204 ラフネスを算出する画像データを選択する工程
2205 ラフネス計測を行う検査領域を設定する工程
2206 1から設定された上限値までの平滑化パラメータに対してラフネスを算出する工程
2207 ラフネスデータをB(Sm)-N(Sm)のデータを用いてフィッティングする工程
2208 フィッティング結果を出力する工程
2209 同じB(Sm)-N(Sm)データを用いてラフネス解析を行うかどうかを問う工程
2301 |X_out(Sm)-X_in(Sm)|を求めるための画像データを選択する工程
2302 エッジ点がラインの最も外側にある領域と最も内側にある領域とを検査領域として設定する工程
2303 |X_out(Sm)-X_in(Sm)|を算出・データ保存する工程
2304 ラフネスを算出する画像データを選択する工程
2305 ラフネス計測を行う検査領域を設定する工程
2306 各平滑化パラメータに対するラフネスの算出工程
2307 ラフネスデータを|X_out(Sm)-X_in(Sm)|のデータを用いてフィッティングする工程
2308 フィッティング結果を出力する工程
2309 同じ|X_out(Sm)-X_in(Sm)|データを用いてラフネス解析を行うかどうかを問う工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターンが形成された試料を顕微鏡により観測し得られる信号の二次元強度分布を求めて、当該パターンのエッジの位置を算出する機能を備えた測長システムにおいて、
当該二次元強度分布中のパターンのエッジないしは、パターンがラインパターンである場合にラインの左右のエッジを含む任意の部分に対して、エッジないしはラインに垂直な方向に平均化する画素数、即ち平滑化パラメータSmを指定して信号強度を平均化するという画像処理を行ってからエッジの位置ないしはライン幅を算出するという操作を、異なるSmの値に対して行って、エッジ位置ないしはライン幅のSmに対する依存性を算出することを特徴とする測長システム。
【請求項2】
請求項1に記載の測長システムにおいて、エッジ位置ないしはライン幅の平滑化パラメータSmに対する依存性を関数でフィッティングすることにより、エッジないしはラインに垂直な方向に平均化を行わなかった場合のエッジ位置ないしはライン幅の値を推定する機能を備えていることを特徴とする、測長システム。
【請求項3】
請求項1に記載の測長システムにおいて、エッジ位置ないしはライン幅の平滑化パラメータSmに対する依存性を算出するという操作に加えて、信号の二次元強度分布においてパターンのエッジに相当する帯状の領域が検査領域内で最も幅の広い部分と帯状領域の幅が狭い部分とを選び、それぞれの部分についてエッジ位置のSmに対する依存性B(Sm)及びN(Sm)を算出し、それらの差を算出することを特徴とする測長システム。
【請求項4】
請求項3に記載の測長システムにおいて、検査領域内で帯状の領域の幅が最も広い部分と狭い部分とを自動的に選び出すことを特徴とする測長システム
【請求項5】
請求項1に記載の測長システムにおいて、エッジ位置ないしはライン幅の平滑化パラメータSmに対する依存性を算出するという操作に加えて、エッジ点の集合の中で、最もラインの外側にある顕著な点と最もラインの内側にある顕著な点において、エッジ点の位置のSm増大による変化量、即ちX_out(Sm)及びX_in(Sm)を算出し、それらの差を算出することを特徴とする測長システム。
【請求項6】
請求項3に記載の測長システムにおいて、最もラインの外側にある顕著な点と最もラインの内側にある顕著な点とを自動的に選び出すことを特徴とする測長システム
【請求項7】
パターンが形成された試料を顕微鏡により観測し得られる信号の二次元強度分布を求めて、当該パターンのエッジの位置を算出する機能を備えた測長システムであって、
エッジラフネスすなわち、エッジの位置の理想的な形状からのずれの量の分布の標準偏差σあるいは標準偏差σのn倍(nは整数)を算出する機能かまたは、パターンがラインパターンである場合にライン幅ラフネス即ち局所ライン幅の分布の標準偏差σあるいは標準偏差σのn倍を算出する機能を有し、
当該二次元強度分布中のパターンのエッジないしは両方のエッジを含む任意の部分に対して、エッジないしはラインに垂直な方向に平均化画素数Smを指定して信号強度を平均化するという画像処理を行ってからエッジラフネスないしはライン幅ラフネスを算出するという操作を、異なるSmの値に対して行って、エッジラフネスないしはライン幅ラフネスのSmに対する依存性R(Sm)を算出することを特徴とする測長システム。
【請求項8】
請求項3及び請求項4及び請求項5及び請求項6に記載の測長システムであって、
データ(Sm, R(Sm))の集合を、p及びrをフィッティングパラメータとする関数y=p(B(x)-N(x))+rないしはy=p|X_out(x)- X_in(x)|+rでフィッティングすることにより、エッジないしはラインに垂直な方向に平均化を行わなかった場合のエッジラフネスないしはライン幅ラフネスを算出する機能を備えていることを特徴とする測長システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2009−47494(P2009−47494A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212532(P2007−212532)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】