パネル構造体、パネル構造体の製造方法、およびパネル構造体の製造装置
【課題】接着パネルの接着強度を向上させる。
【解決手段】
樹脂製のアウタパネル2の一部と樹脂製のインナパネル3の一部とが接着される接着部4を有するパネル構造体1において、アウタパネル2とインナパネル3に作用する外力により接着部4に加わるせん断応力を低減させるパネルの接着構造5を有する。
【解決手段】
樹脂製のアウタパネル2の一部と樹脂製のインナパネル3の一部とが接着される接着部4を有するパネル構造体1において、アウタパネル2とインナパネル3に作用する外力により接着部4に加わるせん断応力を低減させるパネルの接着構造5を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線膨張係数が異なる樹脂パネルが接着されたパネル構造体、パネル構造体の製造方法、およびこのパネル構造体の製造に適した製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アウタパネルとインナパネルのように2枚の樹脂製パネルを接着させた複合パネルが知られている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
このような複合パネルにおいて、アウタパネル材の線膨張係数がインナパネル材の線膨張係数よりも大きい場合、接着後に受ける熱、温度、湿度の影響により線膨張係数が大きいほうのアウタパネルがインナパネルよりも大きく膨張する。インナパネルは固定されているため、アウタパネルの膨張時にはアウタパネルとインナパネルにせん断方向の力(一般面に対して接線方向の力)が生じる。
【0004】
アウタパネルとインナパネルの接着面がこれらの一般面に対して平行である場合、アウタパネルとインナパネルとの接着部にもせん断方向の応力が加わるため、この応力がせん断方向の接着強度を超えると、接着はがれが発生してしまうという問題があった。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、接着されたパネルに作用する外力により接着部に加わるせん断応力を低減させ、完成品の接着強度を向上させることを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明によれば、樹脂製の第1パネルの一部と樹脂製の第2パネルの一部とを接着させる接着部を有するパネル構造体において、第1パネルと第2パネルに作用する外力により接着部に加わるせん断応力を低減させるパネルの接着構造を有するパネル構造体が提供される。
【0007】
本発明では、接着されるパネルに特徴的な接着構造を形成し、パネルの接着部に生じるせん断方向の応力を低減させることにより、接着強度を向上させたパネルの完成品を提供することができる。
【発明の実施の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のパネル構造体1の一例の分解斜視図である。図1には車両のフードパネルとして用いられるパネル構造体1を示した。パネル構造体1はこれに限定されず、車両のドア、フェンダ、バックドア、トランクドアまたはこれらの部品として用いられる。パネル構造体1は樹脂製であり、PC/ABS(ポリカーボネート/アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂)、PC/PBT(ポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレート)、PC/PET(ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)その他の樹脂を用いることができる。これらにガラス繊維等の強化繊維材料を加えてもよい。パネル構造体1は樹脂製の第1パネルとなるアウタパネル2と、樹脂製の第2パネルとなるインナパネル3とを有している。本例においてアウタパネル2の線膨張係数はインナパネル3の線膨張係数よりも大きい。高温環境下において、アウタパネル2はインナパネル1よりも大きく膨張する。本例ではインナパネル3は車体側に固定されているので、アウタパネル2が膨張すると、アウタパネル2の一般面とインナパネル3の一般面との方向に沿うせん断方向に外力が作用する。この外力によりアウタパネル2とインナパネル3との接着部4には応力が加わる。
【0009】
接着部4は、アウタパネル2とインナパネル3とが接着剤によって接着されている部分である。特に限定されないが、本実施形態で用いる接着剤はウレタン系接着剤およびエポキシ系接着剤である。
【0010】
アウタパネル2とインナパネル3は、これらの接着部4に加わる応力のうち、接着部4におけるせん断応力を低減させるパネルの接着構造5を有する。特に限定されないが、接着構造5は、アウタパネル2とインナパネル3に作用する外力により接着部4に加わる応力の少なくとも一部を接着部4における引張り応力に転換させるものであることが好ましい。これにより、接着部4に加わるせん断応力を低減させることができる。
【0011】
特に限定されないが、接着構造5は、アウタパネル2の一般面に対して略垂直方向に延在する第1フランジ部51と、インナパネル3の一般面に対して略垂直方向に延在する第2フランジ部52とを有する。図2に第1フランジ部51を有するアウタパネル2の一例を示した。本例の第1フランジ部51はアウタパネル2の外周の端部近傍に設けることが好ましい。第2フランジ部52を有するインナパネル3も同様の態様である。アウタパネル2またはインナパネル3の全周にわたりフランジ部51,52を設けると、折れ曲がり部分(コーナー部分)で部品剛性が高くなり、弾性変形を起こしやすくなるため、第1フランジ部51または第2フランジ部52の折れ曲がり部分(コーナー部分)にはスリット53を設けることが好ましい。本例ではアウタパネル2のコーナー部54に幅jが5mmのスリット53aと同じく幅hが5mmのスリット53bを設けた。
【0012】
図3(A)(B)に基づいて、本実施形態のパネル構造体1の接着構造5の作用を説明する。図3(A)は、図1に示したパネル構造体1のIIIA−IIIA断面である。図3(A)に示すように、本例の接着構造5は、アウタパネル2とインナパネル3との端部をこれらの一般面に対して略垂直に折り曲げた構造となっている。接着構造5の折り曲げ領域はアウタパネル2等の一般面の領域よりも狭い。この折り曲げた部分に接着部4が形成され、アウタパネル(第1パネル)2とインナパネル(第2パネル)3とが接着部4において接着されている。本例において、アウタパネル2の線膨張係数はインナパネル3の線膨張係数よりも大きく、インナパネル3は固定されているため、アウタパネル2が膨張すると、アウタパネル2の一般面とインナパネル3の一般面との方向に沿うせん断方向xに外力が作用する。この外力により接着部4には、パネル構造体1に外力が作用する方向と同じx方向に沿う応力Fxが加わる。図3(B)に接着構造5の拡大図を示した。図3(B)に示すようにアウタパネル2とインナパネル3に作用する外力によって接着部4に加わる応力Fxは、接着面への作用を基準とすると、接着部4に加わる応力は接着面と垂線方向(引っ張り方向)の引っ張り応力である。つまり、接着部4の接着面と接線方向(ずり方向)となるせん断応力Fbは小さい力に低減させられている。
【0013】
このように、接着構造5はアウタパネル2とインナパネル3とに作用する外力により接着部4に加わるせん断応力を低減させる。別の観点によれば、接着構造5は、アウタパネル2とインナパネル3とに作用する外力により接着部4に加わる応力を引っ張り応力に転換させる。
【0014】
接着剤により接着された接着部4に加わる応力には接着面に作用する力の方向によって、接着面に対して垂線方向の引っ張り応力と、接着面に対して接線方向のせん断応力とがある。他方、接着部4には接着面に対して垂線方向(引っ張り方向)の接着力と、接着面に対して接線方向(せん断方向、またはずり方向)の接着力とが作用し、接着部4に加わる応力に抗って接着状態を維持する。
【0015】
図3(B)に示したパネル構造体1を例にすると、接着部4において、外力により生じた応力Fxが接着面に対して垂直方向の引っ張り方向の接着力Faよりも大きい場合(Fx>Fa)、接着部4は破壊されて接着はがれが生じる。
【0016】
一般に、2つの材料が接着剤により接着された接着部4において、接着面に対して垂線方向に作用する引っ張り方向の接着力は、接着面に対して接線方向に作用するせん断方向(ずり方向)の接着力よりも強い(図3においてFa方向の接着力>Fb方向の接着力)。つまり、一般に接着部は、接着面に対して接線方向に作用するせん断応力(ずり応力)に対する耐久性よりも、接着面に対して垂線方向に作用する引っ張り応力に対する耐久性の方が強い。
【0017】
本例では、接着構造5は接着部4に加わるせん断応力を低減させることにより、接着力が比較的弱いせん断応力の影響を低減させ、せん断応力により接着部4が破壊されることを防止することができる。また、接着構造5は接着部4に加わる応力を引っ張り応力に転換させることにより、接着力が比較的強い引っ張り方向の接着力により接着状態を維持するため、接着部4に加わる応力により接着部4が破壊されることを防止することができる。つまり、本実施形態の接着構造5によれば、アウタパネル2、インナパネル3に作用する外力によって接着部4に生じる応力を、比較的接着強度が強い(Fa>Fb)方向(接着面に対して垂直方向Fa)の接着力で支えることができるため、パネル構造体1の強度を向上させることができる。
さらに、本実施形態のパネル構造体1の接着構造5の作用を、接着構造5を有さないパネル構造体10との比較において説明する。図4(A)(B)は、図3(A)に対応するパネル構造体10の断面である。本例のパネル構造体10は、アウタパネル20とインナパネル40との端部はパネルの一般面に対して略平行な構造となっている。アウタパネル20とインナパネル30とが接着部40において接着されている。アウタパネル20の線膨張係数はインナパネル30の線膨張係数よりも大きく、インナパネル3は固定されているため、アウタパネル20が膨張すると、アウタパネル20の一般面とインナパネル30の一般面との方向に沿うせん断方向xに外力が作用する。この外力により接着部40にはx方向に沿う応力Fxが加わる。図4(B)に接着部40の拡大図を示した。図4(B)に示すようにアウタパネル2とインナパネル3に作用する外力によって接着部4に加わる応力Fxのほとんどは、接着面への作用を基準とすると、接着部4の接着面と接線方向(せん断方向)のせん断応力であり、接着部40の接着面と垂直方向(引っ張り方向)となる引っ張り応力Faは小さい。接着部4において、外力により生じたアウタパネル2等のせん断方向に作用する応力Fxが接着面に対してせん断方向の接着力Fbよりも大きいと(Fx>Fb)、接着部4は破壊され接着はがれが生じる。
【0018】
図4(B)に示した接着構造5を備えないパネル構造体1では、接着部4において、外力により生じた応力Fxが接着面に対して接線方向の接着力Fbよりも大きい場合(Fx>Fb)、接着部4は破壊されて接着はがれが生じる。
【0019】
一般に、接着面に対して接線方向に作用するせん断方向(ずり方向)の接着力は、接着面に対して垂線方向に作用する引っ張り方向の接着力よりも弱いから(図4においてFa方向の接着力>Fb方向の接着力)、接着構造5を備えないパネル構造体1は外力により接着部4に生じた応力をせん断方向の接着力Fbで支えなければならない。
【0020】
つまり、図3(B)に示した本実施形態においては、外力による破壊条件がFx>Faであったが、接着構造5を備えない例においては、外力による破壊条件がFx>Fbとなる。一般にFa>Fbであるから、本実施形態のほうが応力Fxに対してより高い耐久性を示すことがわかる。
【0021】
特に限定されないが、本実施形態のインナパネル(第2パネル)3の一般面と第2フランジ部52との連続部に、この第2フランジ部52がインナパネル3に対して相対的に回動可能となるように支持するヒンジを設けることが好ましい。
【0022】
図5(A)にヒンジ31を備えたインナパネル3を有するパネル構造体1の断面図を示し、図5(B)にヒンジ31の拡大図を示した。本例のヒンジ31はppヒンジである。
【0023】
特に限定されないが、ヒンジ角度H(H1,H2)は、アウタパネル2の造形ラインの最外ポイントPの接線Pxに対して、60度〜120度であることが好ましい。ヒンジ31の中心点H0は、アウタパネル2の造形ラインの最外ポイントPを通る接線Pに対する垂線上に位置するように設計することが好ましい。また、ヒンジ31の厚さは、使用材料によって伸び性が異なるため、使用材料に応じて適宜決定することが好ましい。その際、アウタパネル2に作用する外力によって、ヒンジ31が割れない厚みにする必要がある。特に限定されないが、ヒンジ31の厚さD1は、5mm以下であることが好ましい。さらに、ヒンジ31のヒンジ幅D2は5mm以上であることが好ましい。
【0024】
インナパネル3にヒンジ31を設けることにより、アウタパネル2が膨張変形した際の変形量を、ヒンジ31を回転中心としたインナパネル3の回転により吸収することができる。これにより、パネル構造体1の面ひずみの発生を防止することができるとともに、アウタパネル2の膨張により接着部4に加わるせん断応力(応力)を低減させることができる。この場合、パネルを回転させることでアウタパネル2の寸法管理ポイントを規格内に収めることができる。また、従来、アウタパネル2及びインナパネル3の寸法変化量を抑制するためにパネルに埋め込まれていた鉄製等の補強材を使用しなくても、寸法変化量を抑制することができる。これにより、固定されたインナパネル3に接着されたアウタパネル4が熱膨張等により変形しても、アウタパネル2の変形を緩衝させることができ、パネル構造体1の面形状を保持することができる。
【0025】
第1フランジ部51の形成態様は特に限定されないが、アウタパネル2に造形規制があり、図3に示すような第1フランジ部51を形成できない場合は、図6に示すようアウタパネル2に対して略垂直に交わる第1フランジ部51Aを形成することが好ましい。図6に示すように、第1フランジ部51Aは接着剤4によりインナパネル3の第2フランジ部52と接着される。アウタパネル2に第1フランジ部51Aを設ける場合、フランジ部の剛性は高く弾性変形を起こしにくいため、アウタパネル2が膨張する際の弾性変形の回転中心Lをアウタパネル2のキャラクタラインの垂線l上に設定するとともに、インナパネル3の回転中心Mもキャラクタラインの垂線l上に設定することが好ましい。このように、アウタパネル2に第1フリンジ部51Aを設け、接着面に方向をアウタパネル2の伸縮方向xに対して略垂直にできるため、アウタパネル2の造形規制に従いつつ、接着強度を向上させることができる。図6に示した例では、Fx<Faにおいて接着はがれの発生を防止することができる。
【0026】
また、インナパネル3に、図3に示すようなフランジ部52を形成できない場合は、図7に示すような別体のブラケット52Aを設けることが好ましい。本例の第2フランジ部52となるブラケット52Aはアウタパネル2の伸縮に合わせてこのブラケット52Aがスライドする構造である。具体的に、本例ではブラケット52Aをインナパネル3に止め具52aにより機械締結する。いずれかの止め点をアウタパネル2の伸縮方向xに対して長穴に設定し、アウタパネル2が伸縮した場合はブラケット52Aがインナパネル3に対してスライドさせるようにすることが好ましい。
【0027】
特に限定されないが、本実施形態のインナパネル3の第2フランジ部52は、塗布される接着剤が自重により垂下することを防ぐ接着剤保持構造54を設けることが好ましい。接着剤保持構造54の例を図8から図11に示した。
【0028】
図8に示す第1の例では、インナパネル3の第2フランジ部52にビード形状(押縁形状)の接着剤保持構造54Aを設けた。図8に示すように、接着剤保持構造54Aは、接着剤4が自重で垂下することを防ぐ。図9に示す第2の例では、インナパネル3の第2フランジ部52にフランジ形状(端縁形状)の接着剤保持構造54Bを設けた。図9に示すように、接着剤保持構造54Bは、接着剤4が自重で垂下することを防ぐ。図10に示す第3の例では、インナパネル3の第2フランジ部52にローレット形状(表面にテーパ形状が施されている形状)の接着剤保持構造54Dを設けた。図10に示すように、接着剤保持構造54Cは、接着剤4が自重で垂下することを防ぐ。図11に示す第4の例では、インナパネル3とは別体の接着治具6を準備し、接着治具6に接着剤の垂れを防止するブラケットを有する接着剤保持構造54Dを設けた。図11に示すように、接着剤保持構造54Dは、接着剤4が自重で垂下することを防ぐ。
【0029】
以上のとおり、本実施形態によれば、接着部4に加わるせん断応力(接着面に対して接線方向の応力)を低減させることにより、パネル構造体1の強度を向上させることができる。また、接着部4に加わる応力を接着部4における引張り応力(接着面に対して垂線方向の応力)に転換させることにより、同様にパネル構造体1の強度を向上させることができる。
【0030】
特に、一般面に対して略垂直方向に延在する第1フランジ部51及び第2フランジ部52を設けることにより、アウタパネル2とインナパネル3とをこれらの一般面に対する接線方向で接着せず、垂線方向で接着することにより、アウタパネル2の膨張等によってアウタパネル2及びインナパネル3に作用する外力により接着部4に加わる応力を、接着面に垂直な引っ張り方向の接着強度で保持することができ、完成品としての強度を向上させることができる。これにより、材料選択の自由度が向上する。
【0031】
次に、本実施形態のパネル構造体1の製造に用いられる製造装置100を図12〜図14に基づいて説明する。
【0032】
図12は本実施形態のパネル構造体の製造装置100の正面概略図であり、図13は本実施形態のパネル構造体の製造装置100の平面概略図である。本実施形態のパネル構造体の製造装置100は、一般面に対して略垂直方向に延在する第1フランジ部51を有する樹脂製の第1パネル(アウタパネル)2を、3次元的に位置調節が可能なように支持する第1支持手段8と、一般面に対して略垂直方向に延在する第2フランジ部52を有する樹脂製の第2パネル(インナパネル)3を、第1パネル(アウタパネル)2に対向するように支持する第2支持手段7と、第1支持手段8と第2支持手段7とを支持する基台9とを備えている。
【0033】
本例の第1支持手段8はアウタパネル2を任意の位置で支持し、位置が調節可能である。第1支持手段8は、アウタパネル2の第1フランジ部51を支持するアウタパネルガイド83と、アウタパネル2を任意の高さに移動させる第1シリンダ81と、アウタパネル2を任意の平面上の位置に移動させフランジ拡開機構として機能する第2シリンダ82とを有している。第2シリンダ(フランジ拡開機構)82は、アウタパネル2の端部に形成された第1フランジ部51を支持するアウタパネルガイド83を左右方向(第1フランジ部51の延在方向に対して略垂直方向、かつアウタパネル2の一般面の方向に対して略水平方向)に移動させる。つまり、第2シリンダ82は、第1フランジ部51を当該パネルの外側方向に拡げる。第1フランジ部51が拡げられることにより、アウタパネル2は弾性変形する。
【0034】
第2支持手段7は、インナパネル3が所定の位置でアウタパネル2に対向するように支持する。第2支持手段7は、インナパネル3の高さ方向を規定する支持台71と、インナパネル3の位置を規定する位置決めピン72と、インナパネル3の方向を規定するインナパネルガイド73とを有している。
【0035】
図14に基づいて、本実施形態のパネル構造体1の製造方法を説明する。
まず、一般面に対して略垂直方向に延在する第1フランジ部51を有する樹脂製のアウタパネル(第1パネル)2を準備する。本例におけるアウタパネル(第1パネル)は図1〜図11に示したアウタパネル2である。相前後して、一般面に対して略垂直方向に延在する第2フランジ部52を有する樹脂製のインナパネル(第2パネル)3を準備する。本例におけるインナパネルは図1〜図11に示したインナパネル3である。
【0036】
図14(A)に示すように、インナパネル2の第2フランジ部52の接着面に接着剤を塗布し、第2支持手段7にセットする。インナパネルガイド73はインナパネル3の方向を規定し、支持台71はインナパネル3の高さ方向を規定し、位置決めピン72はインナパネル3に貫通されてインナパネル3の位置を規定し、インナパネル3を所定の位置で支持する。
【0037】
次に、アウタパネル2をインナパネル3に対向させた状態で第1支持手段8にセットする。アウタパネル2の位置は、アウタパネルガイド83の位置によって調節する。アウタパネルガイド83は、アウタパネル2の第1フランジ部51を支持する。第1シリンダ81は、第1フランジ51を支持するアウタパネルガイド83を高さ方向に移動させることができる。第2シリンダ82は、第1フランジ51を支持するアウタパネルガイド83を左右方向(第1フランジ部51の延在方向に対して略垂直方向、かつアウタパネル2の一般面の方向に対して略水平方向)に移動させることができる。
【0038】
アウタパネルガイド83はアウタパネル2を上限位置の高さで支持する。また、アウタパネルガイド83はアウタパネル2を左右方向の外側限界と内側限界の間の任意の位置で支持する。
【0039】
次に、図14(B)に示すように、第2シリンダ82を駆動し、アウタパネルガイド83をパネルの外側方向(J方向)に移動させる。これにより、アウタパネル2(第1パネル)の第1フランジ部51を当該パネルの外側方向(矢印K方向)に拡げられ、アウタパネル2を弾性変形させられる。このときのアウタパネルガイド83のガイドの出限位置はインナパネル3の第2フランジ部52に塗布された接着剤の外延よりも外側(パネルの外側)に設定する。
【0040】
図14(C)に示すように、アウタパネル2を弾性変形させた状態で、第1シリンダ81と第2シリンダ82を駆動し、アウタパネルガイド83を下げる。アウタパネル2の第1フランジ部51とインナパネル3の第2フランジ部52とが対向する位置まで、アウタパネルガイド83を下げ、アウタパネル2とインナパネル3とを所定の位置で重ねる。
【0041】
アウタパネル2とインナパネル3とを所定の位置にセットしたら、第1シリンダ81と第2シリンダ82を駆動し、図16(D)に示すようにアウタパネルガイド83をパネルの中心方向(矢印H)へ向けて移動させる。つまり、第1フランジ部51を拡げるのを止めて、アウタパネル2の弾性変形を解除する。アウタパネル2はその弾性により元の形状に戻り(矢印K´方向に移動)、対向位置にセットされていた第1フランジ部51と第2フランジ部52とは面接触する。第2フランジ部52の接着面には接着剤が塗布されているため、第1フランジ部51の接着面と第2フランジ部52の接着面との間には接着層が形成されている。この状態で接着剤の硬化処理が施され、第1フランジ部51と第2フランジ部52とを接着させる。
【0042】
接着剤が硬化したら、完成したパネル構造体1を取り出す。
【0043】
重ねようとするパネルの一般面に対して接着面が略垂直方向に形成されている場合において、一方のパネルの接着面に接着剤を塗布してから他のパネルをスライドさせて両者を接着させようとすると、スライドする他のパネルが塗布した接着剤を押し出してしまう。接着剤が接着部4からはみ出ると、接着強度を低下させ、パネル外観を低下させる。本方法では第1フランジ51を外側に拡げてアウタパネル(第1パネル)2を変形させてから、第1フランジ部51と第2フランジ部52とが対向するように、アウタパネル2とインナパネル3とを所定の位置で重ねるため、予め第2フランジ部52に塗布された接着剤のはみ出し等を防止することができる。
【0044】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。たとえば、アウタパネルとインナパネルとの線膨張係数に差があり、高温環境下で一般面に方向に外力が加わるようなすべての部材に適用可能である。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】パネル構造体1の例を示す図である。
【図2】アウタパネル2に形成された第1フランジ部51の一例を示す図である。
【図3】(A)はパネル構造体1の接着構造5の一例を説明するための断面図、(B)は図3(A)の拡大図である。
【図4】(A)は本実施形態の接着構造5を備えないパネル構造体1を説明するための断面図、(B)は図4(A)の拡大図である。
【図5】(A)はパネル構造体1の接着構造5の他の例を説明するための断面図、(B)は図5(A)の拡大図である。
【図6】(A)は接着構造5の第2の例を説明するための断面図、(B)は図6(A)の拡大図である。第1実施形態のドアガラスの回収方法の一例を示す工程図である。
【図7】(A)は接着構造5の第3の例を説明するための断面図、(B)は図7(A)の拡大図である。第1実施形態のドアガラスの回収方法の一例を示す工程図である。
【図8】接着剤保持構造の第1の例を説明するための図である。
【図9】接着剤保持構造の第2の例を説明するための図である。
【図10】接着剤保持構造の第3の例を説明するための図である。
【図11】接着剤保持構造の第4の例を説明するための図である。
【図12】パネル構造体の製造装置100の正面概要図である。
【図13】パネル構造体の製造装置100の平面概要図である。
【図14】(A)〜(D)はパネル構造体の製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0046】
1…パネル構造体
2…アウタパネル
3…インナパネル
4…接着部
5…接着構造
100…パネル構造体の製造装置
7…第1支持手段
8・・・第2支持手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、線膨張係数が異なる樹脂パネルが接着されたパネル構造体、パネル構造体の製造方法、およびこのパネル構造体の製造に適した製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アウタパネルとインナパネルのように2枚の樹脂製パネルを接着させた複合パネルが知られている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
このような複合パネルにおいて、アウタパネル材の線膨張係数がインナパネル材の線膨張係数よりも大きい場合、接着後に受ける熱、温度、湿度の影響により線膨張係数が大きいほうのアウタパネルがインナパネルよりも大きく膨張する。インナパネルは固定されているため、アウタパネルの膨張時にはアウタパネルとインナパネルにせん断方向の力(一般面に対して接線方向の力)が生じる。
【0004】
アウタパネルとインナパネルの接着面がこれらの一般面に対して平行である場合、アウタパネルとインナパネルとの接着部にもせん断方向の応力が加わるため、この応力がせん断方向の接着強度を超えると、接着はがれが発生してしまうという問題があった。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、接着されたパネルに作用する外力により接着部に加わるせん断応力を低減させ、完成品の接着強度を向上させることを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明によれば、樹脂製の第1パネルの一部と樹脂製の第2パネルの一部とを接着させる接着部を有するパネル構造体において、第1パネルと第2パネルに作用する外力により接着部に加わるせん断応力を低減させるパネルの接着構造を有するパネル構造体が提供される。
【0007】
本発明では、接着されるパネルに特徴的な接着構造を形成し、パネルの接着部に生じるせん断方向の応力を低減させることにより、接着強度を向上させたパネルの完成品を提供することができる。
【発明の実施の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のパネル構造体1の一例の分解斜視図である。図1には車両のフードパネルとして用いられるパネル構造体1を示した。パネル構造体1はこれに限定されず、車両のドア、フェンダ、バックドア、トランクドアまたはこれらの部品として用いられる。パネル構造体1は樹脂製であり、PC/ABS(ポリカーボネート/アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂)、PC/PBT(ポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレート)、PC/PET(ポリカーボネート/ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)その他の樹脂を用いることができる。これらにガラス繊維等の強化繊維材料を加えてもよい。パネル構造体1は樹脂製の第1パネルとなるアウタパネル2と、樹脂製の第2パネルとなるインナパネル3とを有している。本例においてアウタパネル2の線膨張係数はインナパネル3の線膨張係数よりも大きい。高温環境下において、アウタパネル2はインナパネル1よりも大きく膨張する。本例ではインナパネル3は車体側に固定されているので、アウタパネル2が膨張すると、アウタパネル2の一般面とインナパネル3の一般面との方向に沿うせん断方向に外力が作用する。この外力によりアウタパネル2とインナパネル3との接着部4には応力が加わる。
【0009】
接着部4は、アウタパネル2とインナパネル3とが接着剤によって接着されている部分である。特に限定されないが、本実施形態で用いる接着剤はウレタン系接着剤およびエポキシ系接着剤である。
【0010】
アウタパネル2とインナパネル3は、これらの接着部4に加わる応力のうち、接着部4におけるせん断応力を低減させるパネルの接着構造5を有する。特に限定されないが、接着構造5は、アウタパネル2とインナパネル3に作用する外力により接着部4に加わる応力の少なくとも一部を接着部4における引張り応力に転換させるものであることが好ましい。これにより、接着部4に加わるせん断応力を低減させることができる。
【0011】
特に限定されないが、接着構造5は、アウタパネル2の一般面に対して略垂直方向に延在する第1フランジ部51と、インナパネル3の一般面に対して略垂直方向に延在する第2フランジ部52とを有する。図2に第1フランジ部51を有するアウタパネル2の一例を示した。本例の第1フランジ部51はアウタパネル2の外周の端部近傍に設けることが好ましい。第2フランジ部52を有するインナパネル3も同様の態様である。アウタパネル2またはインナパネル3の全周にわたりフランジ部51,52を設けると、折れ曲がり部分(コーナー部分)で部品剛性が高くなり、弾性変形を起こしやすくなるため、第1フランジ部51または第2フランジ部52の折れ曲がり部分(コーナー部分)にはスリット53を設けることが好ましい。本例ではアウタパネル2のコーナー部54に幅jが5mmのスリット53aと同じく幅hが5mmのスリット53bを設けた。
【0012】
図3(A)(B)に基づいて、本実施形態のパネル構造体1の接着構造5の作用を説明する。図3(A)は、図1に示したパネル構造体1のIIIA−IIIA断面である。図3(A)に示すように、本例の接着構造5は、アウタパネル2とインナパネル3との端部をこれらの一般面に対して略垂直に折り曲げた構造となっている。接着構造5の折り曲げ領域はアウタパネル2等の一般面の領域よりも狭い。この折り曲げた部分に接着部4が形成され、アウタパネル(第1パネル)2とインナパネル(第2パネル)3とが接着部4において接着されている。本例において、アウタパネル2の線膨張係数はインナパネル3の線膨張係数よりも大きく、インナパネル3は固定されているため、アウタパネル2が膨張すると、アウタパネル2の一般面とインナパネル3の一般面との方向に沿うせん断方向xに外力が作用する。この外力により接着部4には、パネル構造体1に外力が作用する方向と同じx方向に沿う応力Fxが加わる。図3(B)に接着構造5の拡大図を示した。図3(B)に示すようにアウタパネル2とインナパネル3に作用する外力によって接着部4に加わる応力Fxは、接着面への作用を基準とすると、接着部4に加わる応力は接着面と垂線方向(引っ張り方向)の引っ張り応力である。つまり、接着部4の接着面と接線方向(ずり方向)となるせん断応力Fbは小さい力に低減させられている。
【0013】
このように、接着構造5はアウタパネル2とインナパネル3とに作用する外力により接着部4に加わるせん断応力を低減させる。別の観点によれば、接着構造5は、アウタパネル2とインナパネル3とに作用する外力により接着部4に加わる応力を引っ張り応力に転換させる。
【0014】
接着剤により接着された接着部4に加わる応力には接着面に作用する力の方向によって、接着面に対して垂線方向の引っ張り応力と、接着面に対して接線方向のせん断応力とがある。他方、接着部4には接着面に対して垂線方向(引っ張り方向)の接着力と、接着面に対して接線方向(せん断方向、またはずり方向)の接着力とが作用し、接着部4に加わる応力に抗って接着状態を維持する。
【0015】
図3(B)に示したパネル構造体1を例にすると、接着部4において、外力により生じた応力Fxが接着面に対して垂直方向の引っ張り方向の接着力Faよりも大きい場合(Fx>Fa)、接着部4は破壊されて接着はがれが生じる。
【0016】
一般に、2つの材料が接着剤により接着された接着部4において、接着面に対して垂線方向に作用する引っ張り方向の接着力は、接着面に対して接線方向に作用するせん断方向(ずり方向)の接着力よりも強い(図3においてFa方向の接着力>Fb方向の接着力)。つまり、一般に接着部は、接着面に対して接線方向に作用するせん断応力(ずり応力)に対する耐久性よりも、接着面に対して垂線方向に作用する引っ張り応力に対する耐久性の方が強い。
【0017】
本例では、接着構造5は接着部4に加わるせん断応力を低減させることにより、接着力が比較的弱いせん断応力の影響を低減させ、せん断応力により接着部4が破壊されることを防止することができる。また、接着構造5は接着部4に加わる応力を引っ張り応力に転換させることにより、接着力が比較的強い引っ張り方向の接着力により接着状態を維持するため、接着部4に加わる応力により接着部4が破壊されることを防止することができる。つまり、本実施形態の接着構造5によれば、アウタパネル2、インナパネル3に作用する外力によって接着部4に生じる応力を、比較的接着強度が強い(Fa>Fb)方向(接着面に対して垂直方向Fa)の接着力で支えることができるため、パネル構造体1の強度を向上させることができる。
さらに、本実施形態のパネル構造体1の接着構造5の作用を、接着構造5を有さないパネル構造体10との比較において説明する。図4(A)(B)は、図3(A)に対応するパネル構造体10の断面である。本例のパネル構造体10は、アウタパネル20とインナパネル40との端部はパネルの一般面に対して略平行な構造となっている。アウタパネル20とインナパネル30とが接着部40において接着されている。アウタパネル20の線膨張係数はインナパネル30の線膨張係数よりも大きく、インナパネル3は固定されているため、アウタパネル20が膨張すると、アウタパネル20の一般面とインナパネル30の一般面との方向に沿うせん断方向xに外力が作用する。この外力により接着部40にはx方向に沿う応力Fxが加わる。図4(B)に接着部40の拡大図を示した。図4(B)に示すようにアウタパネル2とインナパネル3に作用する外力によって接着部4に加わる応力Fxのほとんどは、接着面への作用を基準とすると、接着部4の接着面と接線方向(せん断方向)のせん断応力であり、接着部40の接着面と垂直方向(引っ張り方向)となる引っ張り応力Faは小さい。接着部4において、外力により生じたアウタパネル2等のせん断方向に作用する応力Fxが接着面に対してせん断方向の接着力Fbよりも大きいと(Fx>Fb)、接着部4は破壊され接着はがれが生じる。
【0018】
図4(B)に示した接着構造5を備えないパネル構造体1では、接着部4において、外力により生じた応力Fxが接着面に対して接線方向の接着力Fbよりも大きい場合(Fx>Fb)、接着部4は破壊されて接着はがれが生じる。
【0019】
一般に、接着面に対して接線方向に作用するせん断方向(ずり方向)の接着力は、接着面に対して垂線方向に作用する引っ張り方向の接着力よりも弱いから(図4においてFa方向の接着力>Fb方向の接着力)、接着構造5を備えないパネル構造体1は外力により接着部4に生じた応力をせん断方向の接着力Fbで支えなければならない。
【0020】
つまり、図3(B)に示した本実施形態においては、外力による破壊条件がFx>Faであったが、接着構造5を備えない例においては、外力による破壊条件がFx>Fbとなる。一般にFa>Fbであるから、本実施形態のほうが応力Fxに対してより高い耐久性を示すことがわかる。
【0021】
特に限定されないが、本実施形態のインナパネル(第2パネル)3の一般面と第2フランジ部52との連続部に、この第2フランジ部52がインナパネル3に対して相対的に回動可能となるように支持するヒンジを設けることが好ましい。
【0022】
図5(A)にヒンジ31を備えたインナパネル3を有するパネル構造体1の断面図を示し、図5(B)にヒンジ31の拡大図を示した。本例のヒンジ31はppヒンジである。
【0023】
特に限定されないが、ヒンジ角度H(H1,H2)は、アウタパネル2の造形ラインの最外ポイントPの接線Pxに対して、60度〜120度であることが好ましい。ヒンジ31の中心点H0は、アウタパネル2の造形ラインの最外ポイントPを通る接線Pに対する垂線上に位置するように設計することが好ましい。また、ヒンジ31の厚さは、使用材料によって伸び性が異なるため、使用材料に応じて適宜決定することが好ましい。その際、アウタパネル2に作用する外力によって、ヒンジ31が割れない厚みにする必要がある。特に限定されないが、ヒンジ31の厚さD1は、5mm以下であることが好ましい。さらに、ヒンジ31のヒンジ幅D2は5mm以上であることが好ましい。
【0024】
インナパネル3にヒンジ31を設けることにより、アウタパネル2が膨張変形した際の変形量を、ヒンジ31を回転中心としたインナパネル3の回転により吸収することができる。これにより、パネル構造体1の面ひずみの発生を防止することができるとともに、アウタパネル2の膨張により接着部4に加わるせん断応力(応力)を低減させることができる。この場合、パネルを回転させることでアウタパネル2の寸法管理ポイントを規格内に収めることができる。また、従来、アウタパネル2及びインナパネル3の寸法変化量を抑制するためにパネルに埋め込まれていた鉄製等の補強材を使用しなくても、寸法変化量を抑制することができる。これにより、固定されたインナパネル3に接着されたアウタパネル4が熱膨張等により変形しても、アウタパネル2の変形を緩衝させることができ、パネル構造体1の面形状を保持することができる。
【0025】
第1フランジ部51の形成態様は特に限定されないが、アウタパネル2に造形規制があり、図3に示すような第1フランジ部51を形成できない場合は、図6に示すようアウタパネル2に対して略垂直に交わる第1フランジ部51Aを形成することが好ましい。図6に示すように、第1フランジ部51Aは接着剤4によりインナパネル3の第2フランジ部52と接着される。アウタパネル2に第1フランジ部51Aを設ける場合、フランジ部の剛性は高く弾性変形を起こしにくいため、アウタパネル2が膨張する際の弾性変形の回転中心Lをアウタパネル2のキャラクタラインの垂線l上に設定するとともに、インナパネル3の回転中心Mもキャラクタラインの垂線l上に設定することが好ましい。このように、アウタパネル2に第1フリンジ部51Aを設け、接着面に方向をアウタパネル2の伸縮方向xに対して略垂直にできるため、アウタパネル2の造形規制に従いつつ、接着強度を向上させることができる。図6に示した例では、Fx<Faにおいて接着はがれの発生を防止することができる。
【0026】
また、インナパネル3に、図3に示すようなフランジ部52を形成できない場合は、図7に示すような別体のブラケット52Aを設けることが好ましい。本例の第2フランジ部52となるブラケット52Aはアウタパネル2の伸縮に合わせてこのブラケット52Aがスライドする構造である。具体的に、本例ではブラケット52Aをインナパネル3に止め具52aにより機械締結する。いずれかの止め点をアウタパネル2の伸縮方向xに対して長穴に設定し、アウタパネル2が伸縮した場合はブラケット52Aがインナパネル3に対してスライドさせるようにすることが好ましい。
【0027】
特に限定されないが、本実施形態のインナパネル3の第2フランジ部52は、塗布される接着剤が自重により垂下することを防ぐ接着剤保持構造54を設けることが好ましい。接着剤保持構造54の例を図8から図11に示した。
【0028】
図8に示す第1の例では、インナパネル3の第2フランジ部52にビード形状(押縁形状)の接着剤保持構造54Aを設けた。図8に示すように、接着剤保持構造54Aは、接着剤4が自重で垂下することを防ぐ。図9に示す第2の例では、インナパネル3の第2フランジ部52にフランジ形状(端縁形状)の接着剤保持構造54Bを設けた。図9に示すように、接着剤保持構造54Bは、接着剤4が自重で垂下することを防ぐ。図10に示す第3の例では、インナパネル3の第2フランジ部52にローレット形状(表面にテーパ形状が施されている形状)の接着剤保持構造54Dを設けた。図10に示すように、接着剤保持構造54Cは、接着剤4が自重で垂下することを防ぐ。図11に示す第4の例では、インナパネル3とは別体の接着治具6を準備し、接着治具6に接着剤の垂れを防止するブラケットを有する接着剤保持構造54Dを設けた。図11に示すように、接着剤保持構造54Dは、接着剤4が自重で垂下することを防ぐ。
【0029】
以上のとおり、本実施形態によれば、接着部4に加わるせん断応力(接着面に対して接線方向の応力)を低減させることにより、パネル構造体1の強度を向上させることができる。また、接着部4に加わる応力を接着部4における引張り応力(接着面に対して垂線方向の応力)に転換させることにより、同様にパネル構造体1の強度を向上させることができる。
【0030】
特に、一般面に対して略垂直方向に延在する第1フランジ部51及び第2フランジ部52を設けることにより、アウタパネル2とインナパネル3とをこれらの一般面に対する接線方向で接着せず、垂線方向で接着することにより、アウタパネル2の膨張等によってアウタパネル2及びインナパネル3に作用する外力により接着部4に加わる応力を、接着面に垂直な引っ張り方向の接着強度で保持することができ、完成品としての強度を向上させることができる。これにより、材料選択の自由度が向上する。
【0031】
次に、本実施形態のパネル構造体1の製造に用いられる製造装置100を図12〜図14に基づいて説明する。
【0032】
図12は本実施形態のパネル構造体の製造装置100の正面概略図であり、図13は本実施形態のパネル構造体の製造装置100の平面概略図である。本実施形態のパネル構造体の製造装置100は、一般面に対して略垂直方向に延在する第1フランジ部51を有する樹脂製の第1パネル(アウタパネル)2を、3次元的に位置調節が可能なように支持する第1支持手段8と、一般面に対して略垂直方向に延在する第2フランジ部52を有する樹脂製の第2パネル(インナパネル)3を、第1パネル(アウタパネル)2に対向するように支持する第2支持手段7と、第1支持手段8と第2支持手段7とを支持する基台9とを備えている。
【0033】
本例の第1支持手段8はアウタパネル2を任意の位置で支持し、位置が調節可能である。第1支持手段8は、アウタパネル2の第1フランジ部51を支持するアウタパネルガイド83と、アウタパネル2を任意の高さに移動させる第1シリンダ81と、アウタパネル2を任意の平面上の位置に移動させフランジ拡開機構として機能する第2シリンダ82とを有している。第2シリンダ(フランジ拡開機構)82は、アウタパネル2の端部に形成された第1フランジ部51を支持するアウタパネルガイド83を左右方向(第1フランジ部51の延在方向に対して略垂直方向、かつアウタパネル2の一般面の方向に対して略水平方向)に移動させる。つまり、第2シリンダ82は、第1フランジ部51を当該パネルの外側方向に拡げる。第1フランジ部51が拡げられることにより、アウタパネル2は弾性変形する。
【0034】
第2支持手段7は、インナパネル3が所定の位置でアウタパネル2に対向するように支持する。第2支持手段7は、インナパネル3の高さ方向を規定する支持台71と、インナパネル3の位置を規定する位置決めピン72と、インナパネル3の方向を規定するインナパネルガイド73とを有している。
【0035】
図14に基づいて、本実施形態のパネル構造体1の製造方法を説明する。
まず、一般面に対して略垂直方向に延在する第1フランジ部51を有する樹脂製のアウタパネル(第1パネル)2を準備する。本例におけるアウタパネル(第1パネル)は図1〜図11に示したアウタパネル2である。相前後して、一般面に対して略垂直方向に延在する第2フランジ部52を有する樹脂製のインナパネル(第2パネル)3を準備する。本例におけるインナパネルは図1〜図11に示したインナパネル3である。
【0036】
図14(A)に示すように、インナパネル2の第2フランジ部52の接着面に接着剤を塗布し、第2支持手段7にセットする。インナパネルガイド73はインナパネル3の方向を規定し、支持台71はインナパネル3の高さ方向を規定し、位置決めピン72はインナパネル3に貫通されてインナパネル3の位置を規定し、インナパネル3を所定の位置で支持する。
【0037】
次に、アウタパネル2をインナパネル3に対向させた状態で第1支持手段8にセットする。アウタパネル2の位置は、アウタパネルガイド83の位置によって調節する。アウタパネルガイド83は、アウタパネル2の第1フランジ部51を支持する。第1シリンダ81は、第1フランジ51を支持するアウタパネルガイド83を高さ方向に移動させることができる。第2シリンダ82は、第1フランジ51を支持するアウタパネルガイド83を左右方向(第1フランジ部51の延在方向に対して略垂直方向、かつアウタパネル2の一般面の方向に対して略水平方向)に移動させることができる。
【0038】
アウタパネルガイド83はアウタパネル2を上限位置の高さで支持する。また、アウタパネルガイド83はアウタパネル2を左右方向の外側限界と内側限界の間の任意の位置で支持する。
【0039】
次に、図14(B)に示すように、第2シリンダ82を駆動し、アウタパネルガイド83をパネルの外側方向(J方向)に移動させる。これにより、アウタパネル2(第1パネル)の第1フランジ部51を当該パネルの外側方向(矢印K方向)に拡げられ、アウタパネル2を弾性変形させられる。このときのアウタパネルガイド83のガイドの出限位置はインナパネル3の第2フランジ部52に塗布された接着剤の外延よりも外側(パネルの外側)に設定する。
【0040】
図14(C)に示すように、アウタパネル2を弾性変形させた状態で、第1シリンダ81と第2シリンダ82を駆動し、アウタパネルガイド83を下げる。アウタパネル2の第1フランジ部51とインナパネル3の第2フランジ部52とが対向する位置まで、アウタパネルガイド83を下げ、アウタパネル2とインナパネル3とを所定の位置で重ねる。
【0041】
アウタパネル2とインナパネル3とを所定の位置にセットしたら、第1シリンダ81と第2シリンダ82を駆動し、図16(D)に示すようにアウタパネルガイド83をパネルの中心方向(矢印H)へ向けて移動させる。つまり、第1フランジ部51を拡げるのを止めて、アウタパネル2の弾性変形を解除する。アウタパネル2はその弾性により元の形状に戻り(矢印K´方向に移動)、対向位置にセットされていた第1フランジ部51と第2フランジ部52とは面接触する。第2フランジ部52の接着面には接着剤が塗布されているため、第1フランジ部51の接着面と第2フランジ部52の接着面との間には接着層が形成されている。この状態で接着剤の硬化処理が施され、第1フランジ部51と第2フランジ部52とを接着させる。
【0042】
接着剤が硬化したら、完成したパネル構造体1を取り出す。
【0043】
重ねようとするパネルの一般面に対して接着面が略垂直方向に形成されている場合において、一方のパネルの接着面に接着剤を塗布してから他のパネルをスライドさせて両者を接着させようとすると、スライドする他のパネルが塗布した接着剤を押し出してしまう。接着剤が接着部4からはみ出ると、接着強度を低下させ、パネル外観を低下させる。本方法では第1フランジ51を外側に拡げてアウタパネル(第1パネル)2を変形させてから、第1フランジ部51と第2フランジ部52とが対向するように、アウタパネル2とインナパネル3とを所定の位置で重ねるため、予め第2フランジ部52に塗布された接着剤のはみ出し等を防止することができる。
【0044】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。たとえば、アウタパネルとインナパネルとの線膨張係数に差があり、高温環境下で一般面に方向に外力が加わるようなすべての部材に適用可能である。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】パネル構造体1の例を示す図である。
【図2】アウタパネル2に形成された第1フランジ部51の一例を示す図である。
【図3】(A)はパネル構造体1の接着構造5の一例を説明するための断面図、(B)は図3(A)の拡大図である。
【図4】(A)は本実施形態の接着構造5を備えないパネル構造体1を説明するための断面図、(B)は図4(A)の拡大図である。
【図5】(A)はパネル構造体1の接着構造5の他の例を説明するための断面図、(B)は図5(A)の拡大図である。
【図6】(A)は接着構造5の第2の例を説明するための断面図、(B)は図6(A)の拡大図である。第1実施形態のドアガラスの回収方法の一例を示す工程図である。
【図7】(A)は接着構造5の第3の例を説明するための断面図、(B)は図7(A)の拡大図である。第1実施形態のドアガラスの回収方法の一例を示す工程図である。
【図8】接着剤保持構造の第1の例を説明するための図である。
【図9】接着剤保持構造の第2の例を説明するための図である。
【図10】接着剤保持構造の第3の例を説明するための図である。
【図11】接着剤保持構造の第4の例を説明するための図である。
【図12】パネル構造体の製造装置100の正面概要図である。
【図13】パネル構造体の製造装置100の平面概要図である。
【図14】(A)〜(D)はパネル構造体の製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0046】
1…パネル構造体
2…アウタパネル
3…インナパネル
4…接着部
5…接着構造
100…パネル構造体の製造装置
7…第1支持手段
8・・・第2支持手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の第1パネルの一部と樹脂製の第2パネルの一部とを接着させる接着部を有するパネル構造体において、
前記第1パネルと前記第2パネルに作用する外力により前記接着部に加わるせん断応力を低減させるパネルの接着構造を有するパネル構造体。
【請求項2】
前記接着構造は、前記第1パネルと前記第2パネルに作用する外力により前記接着部に加わる応力の少なくとも一部を前記接着部における引張り応力に転換させることを特徴とする請求項1に記載の車両用パネル構造体。
【請求項3】
前記接着構造は、前記第1パネルの一般面に対して略垂直方向に延在する第1フランジ部と、前記第2パネルの一般面に対して略垂直方向に延在する第2フランジ部とを有することを特徴とする請求項1または2に記載のパネル構造体。
【請求項4】
前記第2パネルの一般面と前記第2フランジ部との連続部に、当該第2フランジ部が前記第2パネルの一般面に対して相対的に回動可能となるように支持するヒンジをさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載のパネル構造体。
【請求項5】
一般面に対して略垂直方向に延在する第1フランジ部を有する樹脂製の第1パネルを準備するとともに、一般面に対して略垂直方向に延在するとともに前記第1フランジ部と接着させる第2フランジ部を有する樹脂製の第2パネルを準備し、
前記第2フランジ部の接着面に接着剤を塗布し、
第1フランジ部を当該パネルの外側方向に拡げて前記第1パネルを弾性変形させ、
前記第1パネルを弾性変形させた状態で、前記第1フランジ部と前記第2フランジ部とが対向するように、前記第1パネルと前記第2パネルとを重ね、
前記第1パネルの変形を解除し、
前記第1フランジ部と前記第2フランジ部とを接着させるパネル構造体の製造方法。
【請求項6】
一般面に対して略垂直方向に延在する第1フランジ部を有する樹脂製の第1パネルを、位置調節が可能なように支持する第1支持手段と、
一般面に対して略垂直方向に延在する第2フランジ部を有する樹脂製の第2パネルを、前記第1パネルに対向するように支持する第2支持手段とを備え、
前記第1支持手段は、前記第1フランジ部を当該パネルの外側方向に拡げて、前記第1パネルを弾性変形させるフランジ拡開機構を備えたことを特徴とするパネル構造体製造装置。
【請求項1】
樹脂製の第1パネルの一部と樹脂製の第2パネルの一部とを接着させる接着部を有するパネル構造体において、
前記第1パネルと前記第2パネルに作用する外力により前記接着部に加わるせん断応力を低減させるパネルの接着構造を有するパネル構造体。
【請求項2】
前記接着構造は、前記第1パネルと前記第2パネルに作用する外力により前記接着部に加わる応力の少なくとも一部を前記接着部における引張り応力に転換させることを特徴とする請求項1に記載の車両用パネル構造体。
【請求項3】
前記接着構造は、前記第1パネルの一般面に対して略垂直方向に延在する第1フランジ部と、前記第2パネルの一般面に対して略垂直方向に延在する第2フランジ部とを有することを特徴とする請求項1または2に記載のパネル構造体。
【請求項4】
前記第2パネルの一般面と前記第2フランジ部との連続部に、当該第2フランジ部が前記第2パネルの一般面に対して相対的に回動可能となるように支持するヒンジをさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載のパネル構造体。
【請求項5】
一般面に対して略垂直方向に延在する第1フランジ部を有する樹脂製の第1パネルを準備するとともに、一般面に対して略垂直方向に延在するとともに前記第1フランジ部と接着させる第2フランジ部を有する樹脂製の第2パネルを準備し、
前記第2フランジ部の接着面に接着剤を塗布し、
第1フランジ部を当該パネルの外側方向に拡げて前記第1パネルを弾性変形させ、
前記第1パネルを弾性変形させた状態で、前記第1フランジ部と前記第2フランジ部とが対向するように、前記第1パネルと前記第2パネルとを重ね、
前記第1パネルの変形を解除し、
前記第1フランジ部と前記第2フランジ部とを接着させるパネル構造体の製造方法。
【請求項6】
一般面に対して略垂直方向に延在する第1フランジ部を有する樹脂製の第1パネルを、位置調節が可能なように支持する第1支持手段と、
一般面に対して略垂直方向に延在する第2フランジ部を有する樹脂製の第2パネルを、前記第1パネルに対向するように支持する第2支持手段とを備え、
前記第1支持手段は、前記第1フランジ部を当該パネルの外側方向に拡げて、前記第1パネルを弾性変形させるフランジ拡開機構を備えたことを特徴とするパネル構造体製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−341760(P2006−341760A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−169896(P2005−169896)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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