説明

パネル装置

【課題】鉛成分の使用を廃止して環境負荷性を低減させると共に、樹脂被覆部3におけるボイドを低減させることができ、更に、ボディ等の相手材に対する保護性を向上させることができるパネル装置1を提供する。
【解決手段】パネル装置1は、パネル2と、パネル2の少なくとも一部を被覆する樹脂被覆部3とを具備する。樹脂被覆部3は鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されており、D硬度が33〜50に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパネルとパネルの周縁を被覆するポリウレタン樹脂で形成された樹脂被覆部とを有するパネル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の屋根に装備されるルーフパネルに用いられるパネル装置を例にとって従来技術について説明する。このパネル装置は、車両の屋根の一部を兼ねる板状のガラスで形成されたパネルと、パネルの周縁の全周を被覆する枠状の樹脂被覆部とを備えている。従来、この樹脂被覆部は、鉛触媒を用いたポリウレタン樹脂で形成されている。鉛触媒を用いたポリウレタン樹脂によれば、成形性が極めて良好であり、空孔欠陥であるボイドが樹脂被覆部の表面に発生しにくい利点が得られている。
【0003】
また特許文献1には、成形時におけるボイドを低減させるために、成形途中において反応の進行につれて金型の圧力を変化させたり、金型の温度を変化させたりする成形方法が開示されている。
【特許文献1】特公平7−25094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように鉛を触媒として用いた従来技術に係るポリウレタン樹脂によれば、空孔欠陥であるボイドが樹脂被覆部の表面に発生しにくく、樹脂被覆部の不良率を大幅に低減させ得る利点が得られている。しかし鉛は環境に影響を与える環境負荷物質であり、配合しないようになりつつある。このように鉛を触媒として用いないポリウレタン樹脂は、成形性が必ずしも良好でないため、鉛を触媒として用いない鉛フリーのポリウレタン樹脂で樹脂被覆部を成形すれば、樹脂被覆部におけるボイドの数が増加する傾向があり、樹脂被覆部の外観性が低下する傾向がある。
【0005】
また特許文献1に係る方法を用いて樹脂被覆部を成形すると、成形工程、成形構造、成型機が複雑化し、コスト高となりやすく、更に、鉛系触媒を用いないときには、ボイドの低減に必ずしも有利ではない。
【0006】
また、鉛系触媒を用いた従来の樹脂被覆部を構成するポリウレタン樹脂は、D硬度が58程度に設定されているため、相手側のボディ等に擦り跡を発生させるおそれがある。殊に、近年、ボディとパネル装置との間の隙間が更に小さくなる方向に車両開発が進められているため、パネル装置の使用時にパネル装置の樹脂被覆部がボディに接触する度合いが高まり、相手側のボディ等に擦り跡を発生させるおそれがある。
【0007】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、鉛成分の使用を廃止して環境負荷性を低減させると共に、樹脂被覆部におけるボイドを低減させることができ、更に、ボディ等の相手材に対する保護性を向上させることができるパネル装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ポリウレタン樹脂で形成された樹脂被覆部を有するパネル装置について鋭意開発を進めている。そして、ボイド数の低減に有利な鉛を触媒として使用しない鉛フリーのポリウレタン樹脂の場合には、成形の際にボイドが発生し易くなるものの、ポリウレタン樹脂のD硬度を33〜50と低めに設定して、ポリウレタン樹脂を基材とする樹脂被覆部を形成すれば、上記した課題を達成できることを知見し、試験で確認し、本発明を完成させた。
【0009】
ポリウレタン樹脂のD硬度を33〜50と低めに設定すれば、樹脂被覆部におけるボイドの低減に有利である理由は、必ずしも明確できないものの、D硬度を33〜50と従来技術よりも低めに設定すれば、樹脂被覆部の硬度が適切化し、ボディ等の相手材に対する保護性を向上させることができ、そればかりか、このような硬度範囲を実現する液状の成形材料の粘性は低下し、当該液状の成形材料は良好な流動性及び成形性をもつため、樹脂被覆部を成形する際におけるガス抜け性を高めることができ、樹脂被覆部にボイドが生成されにくくなるものと推察される。
【0010】
即ち、様相1に係る本発明に係るパネル装置は、パネルと、パネルの少なくとも一部を被覆する樹脂被覆部とを具備するパネル装置において、樹脂被覆部は鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されており、D硬度が33〜50に設定されていることを特徴とするものである。
【0011】
様相1に係る本発明に係るパネル装置によれば、鉛成分の使用を廃止し、樹脂被覆部は鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されているため、環境負荷性が低減されてい。また、樹脂被覆部はD硬度が33〜50に設定されているポリウレタン樹脂で形成されているため、ポリウレタン樹脂を成形固化させる液状の成形材料の粘性を低下させて良好な流動性を得ることができ、樹脂被覆部を成形する際におけるガス抜け性を高めることができ、成形時におけるボイドが低減される。更に、樹脂被覆部の硬度が適切化するため、ボディ等の相手材に樹脂被覆部が接触する場合であっても、擦り跡を低減でき、ボディ等の相手材に対する保護性が向上する。
【0012】
様相2に係る本発明に係るパネル装置は、第1パネルと、第1パネルの少なくとも一部を被覆する第1樹脂被覆部と、第1パネルに並設された第2パネルと、第2パネルの少なくとも一部を被覆する第2樹脂被覆部とを具備するパネル装置において、第1樹脂被覆部及び第2樹脂被覆部のうちの一方または双方は、鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されており、D硬度が33〜50に設定されていることを特徴とするものである。
【0013】
様相2に係る本発明に係るパネル装置によれば、鉛系触媒の使用を廃止し、樹脂被覆部は鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されているため、環境負荷性が低減されている。また、樹脂被覆部はD硬度が33〜50に設定されているポリウレタン樹脂で形成されているため、ポリウレタン樹脂を成形固化させる液状の成形材料の粘性を低下させて良好な流動性を得ることができ、樹脂被覆部を成形する際におけるガス抜け性を高めることができ、成形時におけるボイドが低減される。更に、ボディ等の相手材に接触する場合であっても、擦り跡を低減でき、ボディ等の相手材に対する保護性が向上する。更に第1樹脂被覆部と第2樹脂被覆部とが接触する場合であっても、擦り跡を低減でき、相手材に対する保護性が向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鉛触媒の使用を廃止して環境負荷性を低減させると共に、樹脂被覆部におけるボイドを低減させることができ、更に、ボディ等の相手材に対する保護性を向上させることができるパネル装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
様相1に係るパネル装置は、パネルと、パネルの少なくとも一部を被覆する樹脂被覆部とを備えている。パネルは薄い板状、厚い板状またはボード状の部材をいう。パネルの材質としてガラス、木材、金属、樹脂等を例示できる。ガラスとしては無機ガラスでも良いし、有機ガラスでも良い。樹脂被覆部は鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されており、積極的な発泡処理は特に施されていない。
【0016】
このポリウレタン樹脂のD硬度は33〜50に設定されており、比較的軟らかめとされている。D硬度が上記した領域未満であると、軟らか過ぎ、パネルに取り付ける樹脂被覆部としての強度が低下する。D硬度が上記した領域を越えると、硬すぎ、相手材を損傷させるおそれが高くなると共に、ボイドの数が増加する傾向がある。パネル装置の用途、相手材の材質、パネルの材質等を考慮し、ポリウレタン樹脂のD硬度としては35〜48の範囲、38〜46の範囲、40〜45の範囲、42〜46の範囲等を例示できる。なお、上記した事情を考慮し、ポリウレタン樹脂のD硬度の上限としては50,49,48,47,46のいずれかを例示でき、この上限と組み合わせ得る下限としては34,35,36,37のいずれかを例示できる。
【0017】
樹脂被覆部は、これの断面においてパネルの表面及び裏面に対して傾斜すると共に相手材の傾斜面に対面する第1傾斜面を有する形態を例示することができる。樹脂被覆部としてはパネルの周縁部を被覆する形態を例示することができる。樹脂被覆部については、平均厚みとしては1〜10ミリメートルを例示できる。
【0018】
様相2に係るパネル装置は、第1パネルと、第1パネルの少なくとも一部を被覆する第1樹脂被覆部と、第2パネルと、第2パネルの少なくとも一部を被覆する第2樹脂被覆部とを備えている。第1パネル、第2パネルの材質としてガラスを例示できる。ガラスとしては無機ガラスでも良いし、有機ガラスでも良い。第1樹脂被覆部及び第2樹脂被覆部のうちの一方または双方は、鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されており、D硬度が33〜50に設定されている。
【0019】
樹脂被覆部の成形にあたり次の製法を例示できる。即ち、ポリオールとイソシアネート等を所定の割合で配合した流動性を有する液状の成形材料を用い、そして成形型のキャビティ内にパネルを配置した状態で、その液状の成形材料を射出成形機により成形型のキャビティ内に注入し、反応射出成形(RIM成形)により固化させて樹脂被覆部とパネルとを一体的に接合させ得る。
【0020】
ポリオールは、炭化水素の複数個のHをヒドロキシル基(−OH)で置換したアルコール類である。ポリオールはヒドロキシル基の活性水素をもつため、イソシアネートと容易に重縮合し、ポリウレタン樹脂に弾性を付与する。ポリオールとしては、分子量が相対的に大きい第1ポリオールと、第1ポリオールよりも分子量が相対的に小さい第2ポリオールとを併用することができる。ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、芳香族ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、アクリルポリオールを例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
イソシアネートは−NCO基をもつ化合物である。イソシアネートとしては芳香族イソシアネート、脂肪族イソシアネートを例示できる。イソシアネートはイソホロンジイソシアネート(IPDI系)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
パネル装置は次のように製造することができる。即ち、ポリオールとイソシアネートとを主要成分とする流動性を有すると共に鉛系触媒を含有しない鉛フリーの成形材料を用意する工程と、成形型のキャビティ内にパネルを配置した状態で、液状の成形材料を成形型のキャビティ内に注入し、反応射出成形(RIM成形)により固化させて樹脂被覆部をパネルの少なくとも一部に被覆させることにより、各請求項に係るパネル装置を製造する工程とを含むことができる。この場合、ポリオールとしては、分子量が相対的に多い(分子量:例えば5000〜7000)第1ポリオールと、第1ポリオールよりも分子量が相対的に少ない(分子量:例えば60〜1500)第2ポリオールとを併用することができる。ポリオールを100重量部としたとき、第1ポリオールを例えば70〜95重量部とすることができ、第2ポリオールを例えば30〜5重量部とすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
ポリウレタン樹脂を成形する際に、触媒として鉛を使用しない鉛フリーの場合には、鉛の代わり、スズ系触媒、アミン系触媒等を用いることができ、更に、次の(i)(ii)(iii)のうちの少なくとも一つの形態を採用することができる。これらはポリオールとイソシアネートを反応させる触媒として機能することができる。
(i)有機酸ビスマス塩と脂肪酸カルシウム塩との混合物を用いる形態
(ii)有機酸ビスマス塩、脂肪酸アルカリ金属塩または脂肪酸アルカリ土類金属塩、塩基性化合物の混合物を用いる形態
(iii)有機酸ビスマス塩、脂肪酸バリウム塩または脂肪酸ストロンチウム塩、脂肪酸マグネシウム塩の少なくとも一つを用いる形態
様相2に係るパネル装置によれば、第1樹脂被覆部及び第2樹脂被覆部の一方または双方は、パネルの少なくとも一部を被覆するものである。第1樹脂被覆部及び第2樹脂被覆部の一方または双方としては、パネルの周縁部を被覆する形態を例示することができる。第1樹脂被覆部は第1パネルの周縁部を被覆すると共に、第2樹脂被覆部は第2パネルの周縁部を被覆する形態を例示することができる。そして、第1樹脂被覆部はこれの断面において第1パネルの表面及び裏面に対して傾斜する第1傾斜面を有しており、且つ、第2樹脂被覆部はこれの断面において第1パネルの表面及び裏面に対して第1傾斜面と共通する傾斜方向に傾斜する第2傾斜面を有している形態を例示することができる。
【0024】
ポリウレタン樹脂においてウレタン基濃度は硬度と比較的相関性がある。ポリウレタン樹脂のウレタン基濃度としては11〜16wt%に設定されている形態を例示することができる。ウレタン基濃度がこれ未満であると、ウレタン結合が少なくなり、ポリウレタン樹脂が軟らかくなる。ウレタン基濃度がこれを越えると、ウレタン結合が多くなり、ポリウレタン樹脂が硬くなる。ウレタン基濃度U(wt%)は次のように求めることができる。
ウレタン基濃度(wt%)=(b×NCO%×59)/(42×(a+b))
NCO%:イソシアネート分子内のNCO基の質量%であり、実施例では30.5%
a:ポリオールの質量
b:イソシアネートの質量
42:NCO基の原子団量(原子量基準)
59:NHCOO基の原子団量(原子量基準)
また、ポリウレタン樹脂はスズ成分を含有する形態を例示することができる。スズ成分はポリウレタン樹脂の成形時の触媒として機能できる。樹脂被覆部(第1樹脂被覆部及び第2樹脂被覆部を含む)において、外観性を確保するためには、ボイドの数は少ない方が好ましい。但し、前述したように、ボイド数の低減に有利な鉛を触媒として使用しない鉛フリーのポリウレタン樹脂の場合には、ボイドが発生し易くなる。ポリウレタン樹脂のD硬度を33〜50と低めに設定することにすれば、成形型のキャビティに注入して固化させる液状の成形材料の粘性を低下させて適正化させるのに有利であるので、成形時のガス抜けが良好となり、ボイドを低減させるのに有利となる。0.1ミリメートル以上の空孔をボイドとするとき、ボイドの数としては、樹脂被覆部(第1樹脂被覆部及び第2樹脂被覆部を含む)において、10cm2あたり3個以下、殊に1個以下である形態を例示することができる。パネルはルーフパネルを構成する形態を例示することができる。ルーフパネルとしては自動車等の車両、家屋等の建築物に使用される。
【実施例1】
【0025】
以下、本発明の実施例1について図1及び図2を参照して説明する。パネル装置1は、表面2u及び裏面2dをもつ板状のパネル2と、パネル2の周縁の全周またはほぼ全周を被覆する枠状の樹脂被覆部3とを備えている。パネル2の材質はガラスとされている。ガラスとしては無機ガラスでも良いし、有機ガラスでも良い。パネル2は透明でも、半透明でも、非透明でも良い。
【0026】
樹脂被覆部3は鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されている。鉛フリーのポリウレタン樹脂とは、成形時において鉛系触媒を使用していないポリウレタン樹脂をいう。鉛系触媒に代えて、成形時におけるスズ系触媒を用いているため、ポリウレタン樹脂はスズ成分を含有する。樹脂被覆部3を構成する鉛フリーのポリウレタン樹脂のD硬度は、33〜50、殊に36〜47に設定されており、比較的軟らかめとされている。D硬度は、プラスチックのデュロメータ硬さ測定方法(JIS K 7215)による硬度測定で測定した硬度である。
【0027】
ポリウレタン樹脂においてウレタン基濃度と硬度とは相関性が高い。上記したポリウレタン樹脂の硬度となるように、ポリウレタン樹脂におけるウレタン基濃度としては11〜16wt%、殊に14〜16wt%に設定されている。樹脂被覆部3において、空孔であるボイドの数としては外観性を考慮すると、0または2個以下であることが好ましく、実際の樹脂被覆部3について10cm2あたり3個以下、殊に1個以下に設定されている。
【0028】
樹脂被覆部3は、第1表面として機能できる上面3uと、第2表面として機能できる下面3dと、第3表面として機能できる側面3sとを有する。上面3uはパネル2の表面2uよりも上方に突出している。下面3dはパネル2の裏面2dよりも下方に突出している。
【0029】
樹脂被覆部3の成形にあたり、ポリオールと、NCO基をもつイソシアネートと、触媒、着色剤(トナー)を所定の割合で配合した流動性を有する液状の成形材料を用いる。そして、図2に示すように、分割型4a及び4bを有する成形型4のキャビティ40内にパネル2を配置した状態で、液状の成形材料を射出成形機により成形型4のゲート42からキャビティ40内に注入し、反応射出成形(RIM成形)により固化させて枠状の樹脂被覆部3をパネル2の周縁に成形している。特に発泡処理は行われていない。成形条件としては、液状の成形材料の温度が約37〜43℃、吐出圧力が12〜19MPa、成形型4の温度が約80〜120℃とされている。ポリオールは水酸基の活性水素をもつため、イソシアネートと容易に重縮合し、ポリウレタン樹脂を形成する。ポリオールとしては、分子量が相対的に多い(分子量:5000〜7000、殊に6000)第1ポリオールと、分子量が相対的に少ない(分子量:62〜1500、)第2ポリオールとが用いられている。第2ポリオールとして分子量250のもの、分子量62のものを用いることができる。
【0030】
触媒は、ウレタン形成の主反応である樹脂化反応(イソシアネートとアルコールとの反応によるウレタン結合の生成)において重要な役割を果たす。なお、成形後におけるポリウレタン樹脂のD硬度が上記した硬度に設定されるように、配合比が設定されている。
【0031】
本実施例によれば、成形時における触媒として鉛成分の使用を廃止し、樹脂被覆部3は鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されているため、環境負荷性が低減している。また、樹脂被覆部3を構成するポリウレタン樹脂は、D硬度が33〜50に設定されているため、ポリウレタン樹脂を成形固化させる液状の成形材料の粘性を低下させて良好な流動性を得ることができ、樹脂被覆部を成形する際におけるガス抜け性を高めることができ、成形時におけるボイドが低減される。更に、樹脂被覆部3を構成するポリウレタン樹脂の硬度の適切化を図り得るため、使用の際に、パネル装置1の樹脂被覆部3がボディ等の相手材に接触、衝突する場合であっても、擦り跡を低減でき、ボディ等の相手材に対する保護性が向上する。
【実施例2】
【0032】
図3は実施例2を示す。本実施例は実施例1と基本的には同様な構成、作用効果を有する。本実施例は自動車等の車両のルーフパネルに適用したものである。パネル装置1Bは、表面21u及び裏面21dをもつ板状の第1パネル21と、第1パネル21の周縁の全周またはほぼ全周を被覆する第1樹脂被覆部31と、表面22u及び裏面22dをもつ板状の第2パネル22と、第2パネル22の周縁の全周またはほぼ全周を被覆する第2樹脂被覆部32とを備えている。
【0033】
第1パネル21及び第2パネル22は互いに並設されている。第1パネル21及び第2パネル22の材質はガラスとされている。ガラスとしては無機ガラスでも良いし、有機ガラスでも良い。第1樹脂被覆部31及び第2樹脂被覆部32の双方は、実施例1と同様に、鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されている。このポリウレタン樹脂はD硬度が33〜50、殊に36〜47に設定されている。上記したポリウレタン樹脂の硬度となるように、ポリウレタン樹脂におけるウレタン基濃度としては11〜16wt%に設定されている。
【0034】
図3に示すように、第1樹脂被覆部31は、これの断面において、第1表面として機能する上面311と、第2表面として機能する下面312と、第3表面として機能する第1傾斜面313とを有している。第1傾斜面313は、第1パネル21の表面21u及び裏面21dに対して傾斜している。第2樹脂被覆部32は、これの断面において、第1表面として機能する上面321と、第2表面として機能する下面322と、第3表面として機能する第2傾斜面323とを有している。第2傾斜面323は、第2パネル22の表面22u及び裏面22dに対して傾斜している。なお、第2傾斜面323の傾斜方向は、第1傾斜面313と共通する方向に傾斜している。
【0035】
第1樹脂被覆部31及び第2樹脂被覆部32は、成形時における触媒として機能する鉛成分を含有していない鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されている。このように鉛系触媒に代えて、成形時におけるスズ系触媒を用いているため、第1樹脂被覆部31及び第2樹脂被覆部32を構成するポリウレタン樹脂は、スズ成分を含有する。
【0036】
第1樹脂被覆部31及び第2樹脂被覆部32について、空孔であるボイドの数としては外観性の確保を考慮すると、0であることが好ましいが、10cm2あたり3個以下、殊に1個以下に設定されている。
【0037】
第1樹脂被覆部31の成形にあたり、ポリオールと、NCO基をもつイソシアネートと、触媒、着色剤(トナー)を所定の割合で配合した流動性を有する液状の成形材料を用いる。そしても成形型のキャビティ内に第1パネル21を配置した状態で、その液状の成形材料を射出成形機により成形型のキャビティ内に注入し、反応射出成形(RIM成形)により固化させて枠状の第1樹脂被覆部31をパネル21の周縁に成形している。特に発泡処理は行われていない。第2樹脂被覆部32についても同様に成形している。第1樹脂被覆部31及び第2樹脂被覆部32の双方については、成形条件としては、液状の成形材料の温度が約37〜43℃、吐出圧力が12〜19MPa、成形型4の温度が約80〜120℃とされている。
【0038】
上記したポリオールとしては、分子量が相対的に多い(分子量:5000〜7000)第1ポリオールと、分子量が相対的に少ない(分子量:62〜1500)第2ポリオールとが用いられている。成形後におけるポリウレタン樹脂のD硬度が33〜50に設定されるように、配合比が設定されている。
【0039】
本実施例によれば、成形時における触媒として鉛成分の使用を廃止し、樹脂被覆部3は鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されているため、環境負荷性が低減している。また、第1樹脂被覆部31を構成するポリウレタン樹脂はD硬度が33〜50に設定されており、同様に、第2樹脂被覆部32を構成するポリウレタン樹脂はD硬度が33〜50に設定されている。このため、ポリウレタン樹脂を成形固化させる液状の成形材料の粘性を低下させて良好な流動性を得ることができ、第1樹脂被覆部31及び第2樹脂被覆部32を成形する際におけるガス抜け性を高めることができ、成形時におけるボイドが低減される。
【0040】
更に、樹脂被覆部3を構成するポリウレタン樹脂の硬度の適切化を図り得るため、パネル装置1の第1樹脂被覆部31、第2樹脂被覆部32がボディ等の相手材に接触する場合であっても、擦り跡を低減でき、相手材に対する保護性が向上する。
【0041】
図3は、第1パネル21及び第2パネル22が閉鎖されている状態を示す。このように閉鎖されている状態では、図3に示すように、第1樹脂被覆部31の第1傾斜面313と第2樹脂被覆部32の第2傾斜面323とは、両者の間に微小な隙間35を形成するように互いに対面している。第1傾斜面313及び第2傾斜面323の断面において、図3に示すように、第1傾斜面313の先端313eは、第2傾斜面323の先端323eよりも第2樹脂被覆部32側に位置している。このため、第1パネル21及び第2パネル22に対する垂直方向から、つまり、矢印A方向から、第1傾斜面313及び第2傾斜面323を視認者が肉眼で視認するとき、第1傾斜面313及び第2傾斜面323が第1パネル21及び第2パネル22の面(矢印B1方向)において重合する。このため隙間35が第1傾斜面313と第2傾斜面323との間に形成されているものの、視認者は隙間35を事実上認識することができない。
【0042】
図3に示すようにボディ5の部位には、ゴム及び軟質樹脂等の少なくとも一方を主要成分とする弾性変形容易なシール材料で形成されたシール部材50が上向きに取り付けられている。第1パネル21及び第2パネル22が閉鎖されている状態では、第1パネル21の第1樹脂被覆部31と第2パネル22の第2樹脂被覆部32との境界において、第1樹脂被覆部31の下面31dと第2樹脂被覆部32の下面32dにシール部材50が圧接し、第1樹脂被覆部31と第2樹脂被覆部32との境界をシールしている。なお第1パネル21及び第2パネル22が開放されるときには、隙間35の隙間幅が増加する方向に第1パネル21及び第2パネル22の一方または双方が移動する。
【0043】
ところで、第1樹脂被覆部31と第2樹脂被覆部32との間に微小な隙間35を形成するように設定されているものの、実際の使用の際には、予想外の事情等により、第1パネル21及び第2パネル22が閉鎖されている状態において、第1樹脂被覆部31と第2パネル22の第2樹脂被覆部32とが接近して接触するおそれがある。この場合、第1傾斜面313と第2傾斜面323とが互いに押圧し合うおそれがある。この場合、第1樹脂被覆部31及び第2樹脂被覆部32を構成するポリウレタン樹脂はD硬度が33〜50に設定されており、従来よりも軟らかくされているため、擦り跡等の低減に有利である。
【0044】
また第1傾斜面313と第2傾斜面323とが互いに押圧し合うとき、第1傾斜面313及び第2傾斜面323の係合作用により、第1パネル21がこれの面垂直方向(矢印C1方向)に相対変位したり、あるいは、第2パネル22がこれの面垂直方向(矢印C2方向)に相対変位したりするおそれがある。この場合、第1パネル21の第1表面21uの延長線と第2パネル22の第1表面22uの延長線とのずれ量が増加し、好ましくない。この点について本実施例によれば、上記したように第1樹脂被覆部31及び第2樹脂被覆部32を構成するポリウレタン樹脂はD硬度が33〜50に設定され、従来よりもかなり軟らかくされているため、第1樹脂被覆部31及び第2樹脂被覆部32の弾性変形量が確保され、前記した面垂直方向(矢印C1,C2方向)への第1パネル21及び第2パネル22の相対変位量を抑制することができ、第1パネル21及び第2パネル22の位置決め精度の向上に有利となる。
【0045】
また、第1樹脂被覆部31及び第2樹脂被覆部32におけるボイドの発生は抑えられているものの、予想外の事情等により、万一、ボイドが発生しているおそれもある。この点本実施例によれば、ポリウレタン樹脂はD硬度が33〜50に設定され、従来よりも軟らかくされている。このため、第1樹脂被覆部31及び第2樹脂被覆部32に外力が働いたとき、例えば、第1樹脂被覆部31と第2パネル22の第2樹脂被覆部32とが互いに押圧し合う場合には、ボイドが潰れる方向に、第1樹脂被覆部31及び/または第2樹脂被覆部32の弾性変形を期待することができる。よってボイドに雨水や塵等が溜まる環境においてパネル装置が使用される場合であっても、ボイドに雨水や塵等が溜まるおそれを低減させる効果を期待することができる。
【実施例3】
【0046】
図4は実施例3を示す。本実施例は自動車等の車両のルーフパネルに適用したものである。パネル装置1Cは、板状の第1パネル21と、第1パネル21の周縁を被覆する第1樹脂被覆部31と、板状の第2パネル22と、第2パネル22の周縁を被覆する第2樹脂被覆部32と、板状の第3パネル2と、第3パネル2の周縁を被覆する第3樹脂被覆部33とを備えている。
【0047】
第1樹脂被覆部31は断面において第1傾斜面313を有する。第2樹脂被覆部32は第2傾斜面323を有する。第3樹脂被覆部33は第3傾斜面333を有する。
【0048】
第1樹脂被覆部31、第2樹脂被覆部32、第3樹脂被覆部3は、成形時における触媒として機能する鉛成分を含有していない鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されている。ポリウレタン樹脂のD硬度が33〜50、殊に36〜47に設定されるように、配合比が設定されている。本実施例においても実施例2と基本的には同様な構成、作用効果が得られる。
【0049】
(試験例)
表1に示す配合に基づいて液状の成形材料を型のキャビティ40内に注入して反応射出成形を行ない、試験例No.1〜No.6に係る試験片を作製した。各試験片は鉛を含まない鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されており、特に発泡処理は行われていない。上記した各実施例に係るポリウレタン樹脂は試験例No.1〜No.6に従って形成することができる。
【0050】
試験片としては、形状が平板状であり、サイズが5センチメートル×10センチメートル×3ミリメートルである。そして試験片について外観検査、物性値を測定した。
【0051】
表1では、第1ポリオール、第2ポリオール、酸化防止剤、着色剤の総量が100重量部とされている。そして上記した総量に対して触媒、イソシアネートが重量部として配合されている。表1に示すNo.1〜No.6は実施例に相当する。比較例についても同様に試験した。
【0052】
配合原料として、分子量が相対的に大きい(分子量:6000)第1ポリオールと、分子量が第1ポリオールよりも相対的に小さい(分子量:A1=250、A2=62)第2ポリオール(官能基数2〜3)とを用いた。第2ポリオールとして、表1に示すA1、A2、A3のうち2種を適宜選択した。
【0053】
ここで、第1ポリオールは3官能基、分子量6000、末端1級OH,2級OH混合である。第2ポリオールについては、A1は分子量250(3官能基、末端2級OH)である。A2は分子量200(3官能基、末端1級OH,2級OH混合)である。A3はエチレングリコールである。イソシアネートはIPDI系(イソホロンジイソシアネート)であり、商品名はサンフォーム NC−709(三洋化学(株))である。
【0054】
触媒としては、鉛系触媒を使用せずに、スズ系触媒(商品名ネオスタン,U−100 日東化成(株))及びアミン系触媒(商品名DBU,株式会社サンアプロ)を併用した。試験例No.6では、スズ系触媒の量を半分以下に低減している。尚、触媒が低減されると、ポリウレタン樹脂の耐候性の向上に有利である。
【0055】
表1から理解できるように、分子量が多い第1ポリオールの配合量が試験例No.1では78.6重量部であり、比較例では67.2重量部であった。このように実施例に相当する試験例No.1では、分子量が多い第1ポリオールの配合量が比較例よりも増加している。また、分子量が少ない第2ポリオールの配合量がNo.1では17.5重量部(10.0重量部+7.5重量部)であり、比較例では28.9重量部(21.7重量部+7.2重量部)であった。このように実施例に相当する試験例No.1では、分子量が少ない第2ポリオールの配合量が比較例よりもかなり減少している。また、表1から理解できるように、イソシアネートの配合量が試験例No.1では55.2重量部であり、比較例では72.5重量部であった。このように実施例に相当する試験例No.1では、イソシアネートの配合量が比較例よりも減少している。
【0056】
実施例に相当するNo.1〜No.6については、ウレタン基濃度は14.9〜16.6wt%に設定されていた。比較例についてはウレタン基濃度が17.7wt%であった。外観検査については、試験片の総面積が500cm2となるようにつまり10個の試験片について、0.1ミリメートル以上の空孔をボイドと判定し、ボイドの合計数を求めた。
【0057】
実施例に相当するNo.1〜No.6については、ボイドの数は0であり、ポリウレタン樹脂のD硬度が45〜56に設定されていた。比較例については、ボイドの数は多数であり、D硬度が83であり、かなり硬かった。引裂強さについてはJIS K6301に基づいて求めた。なお、D硬度及び引裂強さはサンプル数を3つとし、平均値として求めた。
【0058】
【表1】

【0059】
その他、本発明は上記し且つ図面に示した実施例のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できるものである。実施例2では、第1樹脂被覆部31は第1傾斜面313を有し、第2樹脂被覆部32は第2傾斜面323とを有しているが、傾斜面を有する形態に限られるものではない。上記した記載から次の技術的思想も把握できる。
(付記項1)パネルの少なくとも一部を被覆する樹脂被覆部において、樹脂被覆部は鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されており、D硬度が33〜50に設定されていることを特徴とする樹脂被覆部。この場合、鉛成分の使用を廃止して環境負荷性を低減させると共に、樹脂被覆部におけるボイドを低減させることができ、更に、ボディ等の相手材に対する保護性を向上させることができる。
(付記項2)ポリオールとイソシアネートとを主要成分とする流動性を有すると共に鉛系触媒を含有しない鉛フリーの成形材料を用意する工程と、成形型のキャビティ内にパネルを配置した状態で、液状の成形材料を成形型のキャビティ内に注入し、反応射出成形(RIM成形)により固化させて樹脂被覆部をパネルの少なくとも一部に被覆させることにより、各請求項に係るパネル装置を製造する工程とを含むことを特徴とするパネル装置の製造方法。この場合、鉛成分の使用を廃止して環境負荷性を低減させると共に、樹脂被覆部におけるボイドを低減させることができ、更に、ボディ等の相手材に対する保護性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明はルーフパネル等に使用されるパネル装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1に係り、パネルと樹脂被覆部とを有するパネル装置の断面図である。
【図2】実施例1に係り、パネル装置の樹脂被覆部を成形する状態を示す断面図である。
【図3】実施例2に係り、パネルと樹脂被覆部とを有するパネル装置の断面図である。
【図4】実施例3に係り、パネル装置の断面図である。
【符号の説明】
【0062】
図中、1はパネル装置、2はパネル、21は第1パネル、22は第2パネル、3は樹脂被覆部、31は第1樹脂被覆部、32は第2樹脂被覆部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネルと、前記パネルの少なくとも一部を被覆する樹脂被覆部とを具備するパネル装置において、
前記樹脂被覆部は鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されており、D硬度が33〜50に設定されていることを特徴とするパネル装置。
【請求項2】
第1パネルと、前記第1パネルの少なくとも一部を被覆する第1樹脂被覆部と、前記第1パネルに並設された第2パネルと、前記第2パネルの少なくとも一部を被覆する第2樹脂被覆部とを具備するパネル装置において、
前記第1樹脂被覆部及び前記第2樹脂被覆部のうちの一方または双方は、鉛フリーのポリウレタン樹脂で形成されており、D硬度が33〜50に設定されていることを特徴とするパネル装置。
【請求項3】
請求項2において、前記第1樹脂被覆部は前記第1パネルの周縁部を被覆すると共に、前記第2樹脂被覆部は前記第2パネルの周縁部を被覆しており、
前記第1樹脂被覆部はこれの断面において前記第1パネルの表面及び裏面に対して傾斜する第1傾斜面を有しており、且つ、
前記第2樹脂被覆部はこれの断面において前記第1パネルの表面及び裏面に対して前記第1傾斜面と共通する傾斜方向に傾斜する第2傾斜面を有していることを特徴とするパネル装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のうちのいずれか一項において、前記ポリウレタン樹脂のウレタン基濃度は11〜16wt%に設定されていることを特徴とするパネル装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項において、前記ポリウレタン樹脂はスズ成分を含有することを特徴とするパネル装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のうちのいずれか一項において、0.1ミリメートル以上の空孔をボイドとするとき、ボイドの数は前記樹脂被覆部において、10cm2あたり3個以下であることを特徴とするパネル装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のうちのいずれか一項において、前記パネルは車両または建築物のルーフパネルを構成することを特徴とするパネル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−205439(P2006−205439A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18212(P2005−18212)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】