説明

パラジウム含有担持触媒の再生方法、およびα,β−不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸の製造に使用したパラジウム含有担持触媒を効果的に再生できる方法を提供する。
【解決手段】(a1)パラジウム含有担持触媒を、無機酸と有機酸またはアルコールとの混合溶媒中で攪拌する工程と、(b)前記パラジウム含有担持触媒を50〜100℃の温度で乾燥する工程と、(c)前記パラジウム含有担持触媒を還元する工程とをこの順に有する方法により、パラジウム含有担持触媒を再生する。工程(a1)の代わりに、(a2)前記パラジウム含有担持触媒を、無機酸中で攪拌した後、有機酸またはアルコール中で攪拌する工程を行ってもよく、(a3)前記パラジウム含有担持触媒を、有機酸またはアルコール中で攪拌した後、無機酸中で攪拌する工程を行ってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸の製造に使用したパラジウム含有担持触媒の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒として、例えば、特許文献1に記載されたパラジウム含有担持触媒が知られている。
【0003】
一般的に、触媒は、繰り返しの使用または長期間の使用によりその性能が徐々に低下し、劣化する傾向がある。劣化するとは、具体的には、触媒成分の昇華・飛散、相転移、相分離、固相反応が進行する化学的変化、シンタリングおよび比表面積、細孔構造等の変化が起こる物理的変化、毒物の活性点への吸着、反応による触媒被毒、コークの蓄積、無機固形物による被覆のガス拡散阻害、摩耗、破損による機械的破壊などのことを指す。上記パラジウム含有担持触媒においてもこのような劣化により、生成物であるα,β−不飽和カルボン酸の生産性が低下し、経済的見地から触媒の継続的使用が困難なものとなる。また、性能が低下した触媒の新品に取り替えることは経済的に不利であり、再生を行うことが好ましい。
【0004】
劣化したパラジウム含有担持触媒に対する再生方法として、例えば、特許文献2では、使用後のパラジウムおよび銅含有担持触媒を、銅を溶解させた硝酸中に浸漬し、乾燥した後、メタノールや水素ガス等の還元作用を有するガス気流中で加熱する方法が提案されている。また、特許文献3では、使用後のパラジウム含有担持触媒を鉱酸で処理し、分子状酸素の存在下で焼成した後、還元する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/118134号パンフレット
【特許文献2】特公平2−20293号公報
【特許文献3】国際公開第2008/081792号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2および3に記載された触媒の再生方法では、触媒の性能が十分回復しないという問題があり、より効果的に触媒を再生できる方法が望まれていた。
【0007】
本発明の目的は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸の製造に使用したパラジウム含有担持触媒を効果的に再生できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相中で酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するために使用したパラジウム含有担持触媒の再生方法であって、
(a1)前記パラジウム含有担持触媒を、無機酸と有機酸またはアルコールとの混合溶媒中で攪拌する工程と、
(b)前記パラジウム含有担持触媒を50〜100℃の温度で乾燥する工程と、
(c)前記パラジウム含有担持触媒を還元する工程と
をこの順に有するパラジウム含有担持触媒の再生方法である。
【0009】
本発明では、工程(a1)の代わりに、(a2)前記パラジウム含有担持触媒を、無機酸中で攪拌した後、有機酸またはアルコール中で攪拌する工程を行ってもよく、(a3)前記パラジウム含有担持触媒を、有機酸またはアルコール中で攪拌した後、無機酸中で攪拌する工程を行ってもよい。
【0010】
また、本発明は、前記の方法で再生された触媒を用いて、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相中で酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸の製造に使用したパラジウム含有担持触媒効果的に再生できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相中で酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するために使用したパラジウム含有担持触媒の再生方法である。具体的には、(a1)前記パラジウム含有担持触媒を、無機酸と有機酸またはアルコールとの混合溶媒中で攪拌する工程と、(b)前記パラジウム含有担持触媒を50〜100℃の温度で乾燥する工程と、(c)前記パラジウム含有担持触媒を還元する工程とをこの順に有するパラジウム含有担持触媒の再生方法である。工程(a1)の代わりに、(a2)前記パラジウム含有担持触媒を、無機酸中で攪拌した後、有機酸またはアルコール中で攪拌する工程を行ってもよく、(a3)前記パラジウム含有担持触媒を、有機酸またはアルコール中で攪拌した後、無機酸中で攪拌する工程を行ってもよい。
【0013】
パラジウム含有担持触媒は、貴金属であるパラジウムを必須成分として含有しているが、パラジウム以外の第二金属成分として貴金属または貴金属以外の金属成分を含んでもよい。このような第二金属成分としての貴金属としては、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金、銀、オスミウム等が挙げられる。なかでも、白金、ロジウム、ルテニウム、銀を用いることが好ましい。また、第二金属成分としての貴金属以外の金属成分としては、例えば、アンチモン、テルル、タリウム、鉛、ビスマス等が挙げられる。なかでも、アンチモン、テルル、鉛、モリブデン、ビスマスを用いることが好ましい。これらの第二金属成分は、1種を用いることも、2種以上を併用することもできる。高い触媒活性を発現させる観点から、パラジウム含有担持触媒に含まれる金属成分のうち、50質量%以上がパラジウムであることが好ましい。
【0014】
パラジウム含有担持触媒は、パラジウムを含有する金属成分が担体に担持されている。担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、マグネシア、カルシア、チタニアおよびジルコニア等を挙げることができるが、なかでも、シリカ、チタニア、ジルコニアを用いることが好ましい。担体は、1種を用いることもでき、異なる物性を有する同一または異種の複数の担体を併用することもできる。担体の好ましい比表面積は、担体の種類等により異なるので一概に言えないが、シリカの場合、50〜1500m2/gが好ましく、100〜1000m2/gがより好ましい。
【0015】
担体に対するパラジウムの担持率は、担持前の担体質量に対して0.1〜40質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましく、1〜20質量%がさらに好ましい。
【0016】
パラジウム含有担持触媒(α,β−不飽和カルボン酸の製造に使用する前の新品触媒)の調製は、公知の方法、例えば特許文献3に記載の方法で行うことができる。すなわち、担体にパラジウム化合物を担持させ、焼成した上で、還元する方法で行うことができる。
【0017】
担体にパラジウム化合物を担持させる方法としては、パラジウム化合物の溶解液に担体を浸漬させた後に溶媒を蒸発する方法、担体の細孔容積分のパラジウム化合物の溶解液を担体に吸収させた後に溶媒を蒸発させる方法、加熱した担体にパラジウム化合物の溶解液を噴霧する方法などが挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。パラジウム化合物としては、パラジウムの、塩化物、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、テトラアンミン錯体およびアセチルアセトナト錯体等を使用することができる。パラジウム化合物を溶解させる溶媒としては、水、無機酸、アルコール、ケトン、有機酸、有機酸エステル、炭化水素等を使用することができる。
【0018】
担体に担持されたパラジウム化合物の焼成および還元は、例えば特許文献3に記載の条件で行うことができる。なお、担体に担持されたパラジウム化合物を焼成することで、パラジウム化合物の少なくとも一部が分解して酸化パラジウムになった触媒前駆体となる。また、その触媒前駆体を還元することで、パラジウム化合物または酸化パラジウムが還元されて金属パラジウムになる。
【0019】
第二金属成分を含有するパラジウム含有担持触媒を製造する場合は、対応する第二金属成分の塩や酸化物等の金属化合物を担体に担持させればよい。この担持方法としては特に限定されないが、対応する第二金属成分の塩や酸化物等の金属化合物をパラジウム化合物の溶解液に共存させることで同時に担持させることもでき、また、パラジウム化合物を担持させる前に担持させることもでき、パラジウム化合物を担持させた後に担持させることもできる。さらに、第二金属成分の塩や酸化物等の金属化合物を、パラジウム化合物を担持させた状態で焼成した後に担持させることもでき、焼成に引き続いて還元した後に担持させることもできる。
【0020】
以上のようにして、パラジウム含有担持触媒を得ることができる。
【0021】
次に、α,β−不飽和カルボン酸を製造する方法を述べる。α,β−不飽和カルボン酸の製造は、公知の方法、例えば特許文献1に記載の方法で行うことができる。
【0022】
α,β−不飽和カルボン酸の製造方法としては、原料であるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で酸化して、α,β−不飽和カルボン酸とする反応を、パラジウム含有担持触媒の存在下で行う。後述する本発明の再生方法を実施する前は、新品のパラジウム含有触媒の存在下で行うことが好ましいが、使用して性能が低下した触媒や本発明とは別の方法で再生した触媒の存在下で行ってもよい。本発明の再生方法を実施した後は、再生されたパラジウム含有担持触媒の存在下で行うこともできる。その際には、例えば、新品のパラジウム含有担持触媒、使用して性能が低下した触媒、本発明とは別の方法で再生した触媒等も存在させることができる。
【0023】
原料としてのオレフィンは、例えば、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン、β−フェニルプロピレン等が挙げられる。また、原料としてのα,β−不飽和アルデヒドとしては、例えば、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド(β−メチルアクロレイン)、シンナムアルデヒド(β−フェニルアクロレイン)等が挙げられる。原料としてのオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドには、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等が少々含まれていてもよい。
【0024】
製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、原料がオレフィンの場合、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和カルボン酸であり、原料がα,β−不飽和アルデヒドの場合、α,β−不飽和アルデヒドのアルデヒド基がカルボキシル基となったα,β−不飽和カルボン酸である。具体的には、原料がプロピレンまたはアクロレインの場合はアクリル酸が製造され、原料がイソブチレンまたはメタクロレインの場合はメタクリル酸が製造される。
【0025】
液相酸化反応に用いる分子状酸素源には、空気が経済的であり好ましいが、純酸素または純酸素と空気の混合ガスを用いることもでき、必要であれば、空気または純酸素を窒素、二酸化炭素、水蒸気等で希釈した混合ガスを用いることもできる。この空気等のガスは、オートクレーブ等の反応容器内に加圧状態で供給される。
【0026】
液相酸化反応に用いる溶媒は特に限定されないが、例えば、水、アルコール、ケトン、有機酸、有機酸エステル、炭化水素が使用できる。アルコールとしては、ターシャリーブタノール、シクロヘキサノールが挙げられる。ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが挙げられる。有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−吉草酸、イソ吉草酸が挙げられる。有機酸エステルとしては、酢酸エチル、プロピオン酸メチルが挙げられる。炭化水素としては、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエンが挙げられる。なかでも、炭素数2〜6の有機酸、炭素数3〜6のケトン、ターシャリーブタノールが好ましい。溶媒は1種でもよく、2種以上の混合溶媒でもよい。また、アルコール、ケトン、有機酸および有機酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を使用する場合は、水との混合溶媒とすることが好ましい。その際の水の量は特に限定されないが、混合溶媒の質量に対して、2〜70質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。混合溶媒は均一であることが望ましいが、不均一な状態で用いても差し支えない。
【0027】
液相酸化反応は連続式、バッチ式のいずれの形式で行ってもよいが、生産性を考慮すると工業的には連続式が好ましい。
【0028】
液相酸化反応の原料であるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの使用量は、溶媒100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、0.5〜10質量部がより好ましい。
【0029】
分子状酸素の使用量は、原料であるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒド1質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましく、0.3〜25質量部がより好ましく、0.5〜20質量部がさらに好ましい。
【0030】
触媒は、通常、液相酸化反応を行う反応液に懸濁させた状態で使用するが、固定床の状態で使用してもよい。触媒の使用量は、反応器内に存在する溶液100質量部に対して、反応器内に存在する触媒として0.1〜30質量部が好ましく、0.5〜20質量部がより好ましく、1〜15質量部がさらに好ましい。
【0031】
液相酸化反応を行う温度および圧力は、用いる溶媒および反応原料によって適宜選択される。反応温度は30〜200℃が好ましく、50〜150℃がより好ましい。反応圧力は0〜10MPa(ゲージ圧;以下圧力は全てゲージ圧表記である)が好ましく、1〜7MPaがより好ましい。
【0032】
本発明では、液相酸化反応に使用して性能が低下した触媒(以下、使用後触媒という)を再生する。使用後触媒は、反応液と分離した後、再生に先立って洗浄溶媒で触媒に付着している物質を除去することが好ましい。洗浄溶媒の例としては、水、アルコール、ケトン、有機酸、有機酸エステル、炭化水素等が好ましい。また、使用後触媒は乾燥してもよい。乾燥は、常圧下または減圧下で20〜200℃で行うことが好ましい。雰囲気としては、不活性ガスを用いることもでき、空気などの不活性ガス以外のガスを用いることもできる。
【0033】
まず、使用後触媒を、無機酸と有機酸またはアルコールとの混合溶媒中で攪拌する(工程(a1))。すなわち、使用後触媒を無機酸と有機酸またはアルコールとの混合溶媒に浸し、その状態で攪拌する。攪拌中は、必要に応じて加熱を行う。
【0034】
無機酸としては、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、燐酸、過塩素酸または過ヨウ化水素酸を用いることが好ましい。無機酸は、1種を用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。無機酸は、水溶液の状態で使用することもできる。有機酸としては、蟻酸、酢酸、シュウ酸またはクエン酸を用いることが好ましい。アルコールとしては、ブタノールまたはエチレングリコールを用いることが好ましい。有機酸またはアルコールは、1種を用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。有機酸またはアルコールは、水溶液の状態で使用することもできる。
【0035】
混合溶媒中の無機酸の割合は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上90質量%以下がより好ましい。混用溶媒の使用量は、触媒が十分に浸る程度であればよく、用いる担体により最適量は異なるが、担体の細孔容積の2〜5倍の容量が好ましい。
【0036】
攪拌装置は特に限定されず、スターラー、攪拌翼等が挙げられる。攪拌の時間は、0.1〜10時間が好ましく、0.5〜5時間がより好ましい。攪拌中に加熱を行う場合の温度は、5〜100℃が好ましい。
【0037】
なお、工程(a1)の代わりに、パラジウム含有担持触媒を、無機酸中で攪拌した後、有機酸またはアルコール中で攪拌してもよい(工程(a2))。また、工程(a1)の代わりに、パラジウム含有担持触媒を、有機酸またはアルコール中で攪拌した後、無機酸中で攪拌してもよい(工程(a3))。
【0038】
次いで、使用後触媒を乾燥する。乾燥装置は特に限定されず、乾燥機、エバポレーター等が挙げられる。乾燥する温度は、50〜100℃の範囲から選択されるが、60〜80℃が好ましい。乾燥時間は、0.5〜10時間が好ましく、1〜5時間がより好ましい。
【0039】
次いで、乾燥された使用後触媒を、分子状酸素の存在下で焼成してもよい(工程(d))。焼成装置は特に限定されず、静置式、回転式等が挙げられる。焼成する温度は、150〜700℃の範囲から選択されるが、180〜450℃が好ましく、200〜400℃がより好ましい。焼成時間は、0.5〜60時間が好ましく、1〜20時間がより好ましい。焼成に用いる分子状酸素源は、経済的な観点から空気が好ましいが、純酸素、純酸素と空気の混合ガス、空気または純酸素を窒素、二酸化炭素、水蒸気等で希釈した混合ガス等の分子状酸素含有ガスを用いることもできる。
【0040】
そして、乾燥または焼成された使用後触媒を還元する(工程(c))。還元する際に用いる還元剤は、還元性物質であれば特に限定されないが、例えば、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタリルアルコール、1,2−エタンジオール、アクロレイン、メタクロレイン等が挙げられる。なお、装置構成上の制約が多い水素を用いないことが好ましい。これらの中でも、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、蟻酸、蟻酸の塩、プロピレン、アリルアルコール、1,2−エタンジオールが好ましく、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、蟻酸、蟻酸の塩、1,2−エタンジオールがさらに好ましい。これらを2種以上併用することもできる。
【0041】
気体の還元剤を用いる場合、乾燥または焼成された使用後触媒に還元剤を流通させることで行うことができる。この時の還元剤の使用量は特に限定されないが、使用後触媒中のパラジウム1モルに対して1モル以上100モル以下とすることが好ましい。
【0042】
液体の還元剤を用いる場合、乾燥または焼成された使用後触媒が分散したスラリー中に還元剤を添加することで行うことができる。この時の還元剤の使用量は特に限定されないが、使用後触媒中のパラジウム1モルに対して1モル以上100モル以下とすることが好ましい。
【0043】
還元温度および還元時間は、用いる還元剤等に適宜選択することができる。還元温度は、−5〜150℃が好ましく、15〜80℃がより好ましい。還元時間は、0.1〜4時間が好ましく、0.25〜3時間がより好ましく、0.5〜2時間がさらに好ましい。
【0044】
使用後触媒は、新品触媒に比べて金属粒子径が増大している場合がある。しかしながら、上記の方法により使用後触媒を再生することで、増大した金属粒子径を減少させて使用前の触媒(新品触媒)の金属粒子径に近付けることができ、金属粒子の担体上での分散性を向上させることができる。なお、触媒中の金属粒子の平均粒子径は、1.0〜8.0nmが好ましく、2.0〜7.0nmがより好ましい。
【0045】
また、パラジウムの他に第二金属成分を含有する触媒の場合、パラジウムに対する第二金属成分の表層組成比が変化している場合がある。しかしながら、上記の方法により使用後触媒を再生することで、使用前の触媒(新品触媒)のパラジウムに対する第二金属成分の表層組成比に近付けることができる。なお、パラジウムに対する第二金属成分の金属の表層組成比(M(第二金属成分)/Pd、モル比)は、用いる第二金属成分により異なるので一概には言えないが、0.02〜0.30が好ましく、0.04〜0.25がより好ましい。
【0046】
この理由は次のように考えられる。まず、無機酸中での攪拌を行うことで触媒中の金属粒子は一旦無機酸へと溶解することで金属粒子径の増大が解消し、触媒の乾燥または焼成によって触媒中の金属粒子が再分散され、触媒の還元によって触媒中の金属粒子の結晶構造の再構築が行われるので、触媒中の金属粒子径が減少すると考えられる。また、第二金属成分を含有する触媒の場合、触媒の乾燥または焼成の際に合金相が形成されて、第二金属成分が触媒内部へと原子移動すること等が推察されるが、詳細は不明である。
【0047】
再生によって得られたパラジウム含有金属担持触媒の金属粒子の分散性は高い方が好ましい。金属粒子の粒子分散性の指標である相対偏差は、95%以下が好ましく、90%以下がより好ましい。この相対偏差は、次のようにして算出できる。試料である触媒の超薄切片を作製し、これを透過型電子顕微鏡で検鏡し、画像を5視野以上撮影する。撮影した画像は、画像解析ソフトを用いて解析し、金属粒子の勢力範囲の平均値と標準偏差を求める。相対偏差は、このようにして得られた標準偏差を平均値で除したものである。
【0048】
以上のような再生方法によって、使用後触媒を新品同等または新品より高いα,β−不飽和カルボン酸の生産性を有するパラジウム含有担持触媒へと再生させることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。下記の実施例および比較例中の「部」は質量部である。
【0050】
(触媒の表層組成比の測定)
触媒中の金属成分の表層組成比は、X線光電子分光法(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)で測定を行った。具体的な測定方法を以下に示す。
【0051】
まず、粉末試料をメノウ乳鉢で粉砕した。これを導電性カーボンテープに塗布した試料を、X線光電子分光装置(VG製、ESCA LAB220iXL(商品名))のX線が照射される場所に設置した。この試料にAlKα線をモノクロ線源で照射し、試料から放出される光電子を集光してXPSスペクトルを得た。そして、触媒の表層に存在する第二金属成分(テルル金属)とパラジウム金属のXPSスペクトルのピークエリア比を見積もった。具体的には、解析ソフト(Eclips(商品名))を用いて、各元素に対するピークエリア比から原子数%を算出した。このとき、触媒中に含まれる元素の原子数%の合計は100とした。算出した原子数%から、第二金属成分(テルル金属)とパラジウム金属の原子数%の比をとってモル比(Te/Pd)とした。
【0052】
(触媒中の金属粒子の平均粒子径の測定)
触媒中の金属の平均粒子径の測定には、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electro Microscope)を用いて撮影した画像から金属粒子径を見積もり、それらの平均粒子径を算出した。具体的な測定方法を以下に示す。
【0053】
まず、試料となる触媒をSuppr Resin法にてポリプロピレン製カプセルに包埋して、ミクロトーム(Leica製、ULTRACUT−S(商品名))にて超薄切片を作製した。これを透過型電子顕微鏡(HITACHI製、H−7600(商品名))で検鏡し、5視野の画像を撮影した。撮影した画像は、画像解析ソフト(Image Pro Plus(商品名))を用いて解析し、各試料について100個以上の金属粒子の粒子径を測定した。その粒子径の平均値を、触媒中の金属粒子の平均粒子径とした。
【0054】
(触媒中の金属粒子の分散性の指標としての相対偏差の測定)
「触媒中の金属粒子の平均粒子径の測定」と同様の方法で、5視野の画像を撮影した。撮影した画像は、画像解析ソフト(Image Pro Plus(商品名))を用いて解析し、金属粒子の勢力範囲の平均値と標準偏差を求めた。相対偏差は、標準偏差を平均値で除すことで算出した。
【0055】
(α,β−不飽和カルボン酸の製造における原料および生成物の分析)
α,β−不飽和カルボン酸の製造における原料および生成物の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。なお、生成したα,β−不飽和カルボン酸の選択率および生産性は、以下のように定義される。
α,β−不飽和カルボン酸の選択率(%)=(A/B)×100
α,β−不飽和カルボン酸の生産性(g/(g×h))=C/(D×E)
ここで、Aは生成したα,β−不飽和カルボン酸のモル数、Bは反応したオレフィンのモル数、Cは生成したα,β−不飽和カルボン酸の質量(g)、Dは使用した触媒の中に含まれる貴金属の質量(g)、Eは反応時間(h)である。
【0056】
[参考例]
(新品触媒の調製)
新品触媒の調製は、特許文献1に記載の方法に準拠して行った。まず、硝酸パラジウム(II)硝酸溶液(Pd含有率23.14質量%)215.8部(Pd50部)に、少量の純水に溶解させたテルル酸0.36部(Te/Pd仕込みモル比は0.05)および純水500部を加えた混合溶液を調製した。シリカ担体(メディアン径60μm、比表面積450m2/g、細孔容積0.68cc/g)250部に上記混合溶液を浸漬させた後、エバポレーターを用いて、減圧下で40℃3時間かけて水を蒸発させた。その後、空気中200℃で3時間の加熱を行い、触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体に37質量%ホルムアルデヒド水溶液500部を加え、70℃に加熱して2時間攪拌保持した。その後、吸引ろ過および純水での洗浄をして、新品のパラジウム含有担持触媒を得た。
【0057】
(新品触媒の反応評価)
新品触媒の反応評価は、特許文献1に記載の方法に準拠して行った。まず、オートクレーブに上記の方法で得た新品のパラジウム含有担持触媒0.6部と、反応溶媒としての75質量%t−ブタノール水溶液100部を入れ、オートクレーブを密閉した。次いで、イソブチレンを8.4部導入し、攪拌(回転数1000rpm)を開始し、110℃まで昇温した。昇温完了後、オートクレーブに窒素を内圧2.4MPaまで導入した後、圧縮空気を内圧4.8MPaまで導入した。反応中に内圧が0.1MPa低下した時点(内圧4.7MPaになった時点)で、酸素を0.1MPa導入する操作を繰り返した。導入直後の圧力は4.8MPaである。イソブチレン導入後30分経過した時点で、反応を終了した。
【0058】
反応終了後、氷浴でオートクレーブ内を氷冷した。オートクレーブのガス出口にガス捕集袋を取り付け、ガス出口を開栓して出てくるガスを回収しながら反応器内の圧力を開放した。オートクレーブから触媒入りの反応液を取り出し、メンブランフィルターで触媒を分離して、反応液を回収した。回収した反応液と捕集したガスをガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0059】
(新品触媒の物性評価)
新品触媒の物性評価を行った。触媒の表層におけるTe/Pdは0.07であり、触媒中の金属粒子の平均粒子径は4.5nmであり、触媒中の金属粒子の相対偏差は90.0%であった。
【0060】
(使用後触媒の反応評価)
上記反応により劣化した使用後触媒を用いたこと以外は、新品触媒の反応評価と同様の方法で行った。
【0061】
(使用後触媒の物性評価)
上記反応により劣化した使用後触媒の物性測定を行った。触媒の表層におけるTe/Pdは0.08であり、触媒中の金属粒子の平均粒子径は6.1nmであり、触媒中の金属粒子の相対偏差は96.8%であった。
【0062】
[実施例1]
(触媒再生)
まず、参考例の反応により劣化した使用後触媒を乾燥した。その後、200ml丸底フラスコに、使用後触媒18g、61質量%硝酸水溶液30gおよび99質量%酢酸水溶液21gの混合溶液を添加し、翼の直径が5cmのテフロン(登録商標)製攪拌翼付きの湯浴を用いて60℃に加熱しながら回転数130rpmで30分間攪拌保持した。その後、エバポレーターを用いて、減圧下で60℃3時間かけて水を蒸発させた。その後、空気中で350℃3時間の焼成を行い、触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体に37質量%ホルムアルデヒド水溶液300gを加え、70℃に加熱して2時間攪拌保持する還元を行った。その後、吸引ろ過および純水での洗浄をして、再生を行ったパラジウム含有担持触媒を得た。
【0063】
(再生を行った触媒の反応評価)
上記再生を行った触媒を用いたこと以外は、新品触媒の反応評価と同様の方法で行った。
【0064】
(再生を行った触媒の物性評価)
再生を行った触媒の物性評価を行った。触媒の表層におけるTe/Pdは0.06であり、触媒中の金属粒子の平均粒子径は2.8nmであり、触媒中の金属粒子の相対偏差は84.6%であった。
【0065】
[実施例2]
(触媒再生)
99質量%酢酸水溶液の代わりにn−ブタノールを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0066】
(再生を行った触媒の反応評価)
上記再生を行った触媒を用いたこと以外は、新品触媒の反応評価と同様の方法で行った。
【0067】
(再生を行った触媒の物性評価)
再生を行った触媒の物性評価を行った。触媒の表層におけるTe/Pdは0.06であり、触媒中の金属粒子の平均粒子径は2.9nmであり、触媒中の金属粒子の相対偏差は85.5%であった。
【0068】
[実施例3]
(触媒再生)
61質量%硝酸水溶液の代わりに王水を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0069】
(再生を行った触媒の反応評価)
上記再生を行った触媒を用いること以外は、新品触媒の反応評価と同様の方法で行った。
【0070】
(再生を行った触媒の物性評価)
再生を行った触媒の物性評価を行った。触媒の表層におけるTe/Pdは0.07であり、触媒中の金属粒子の平均粒子径は3.1nmであり、触媒中の金属粒子の相対偏差は85.9%であった。
【0071】
[実施例4]
(触媒再生)
61質量%硝酸水溶液の代わりに王水を用い、99質量%酢酸水溶液の代わりにエチレングリコールを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0072】
(再生を行った触媒の反応評価)
上記再生を行った触媒を用いたこと以外は、新品触媒の反応評価と同様の方法で行った。
【0073】
(再生を行った触媒の物性評価)
再生を行った触媒の物性評価を行った。触媒の表層におけるTe/Pdは0.07であり、触媒中の金属粒子の平均粒子径は3.5nmであり、触媒中の金属粒子の相対偏差は88.9%であった。
【0074】
[比較例1]
(触媒再生)
混合溶液の攪拌を行わずに保持したこと以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0075】
(再生を行った触媒の反応評価)
上記再生を行った触媒を用いたこと以外は、新品触媒の反応評価と同様の方法で行った。
【0076】
(再生を行った触媒の物性評価)
再生を行った触媒の物性評価を行った。触媒の表層におけるTe/Pdは0.08であり、触媒中の金属粒子の平均粒子径は5.4nmであり、触媒中の金属粒子の相対偏差は96.3%であった。
【0077】
[比較例2]
(触媒再生)
99質量%酢酸水溶液を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0078】
(再生を行った触媒の反応評価)
上記再生を行った触媒を用いたこと以外は、新品触媒の反応評価と同様の方法で行った。
【0079】
(再生を行った触媒の物性評価)
再生を行った触媒の物性評価を行った。触媒の表層におけるTe/Pdは0.08であり、触媒中の金属粒子の平均粒子径は4.5nmであり、触媒中の金属粒子の相対偏差は92.2%であった。
【0080】
[比較例3]
(触媒再生)
61質量%硝酸水溶液を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0081】
(再生を行った触媒の反応評価)
上記再生を行った触媒を用いたこと以外は、新品触媒の反応評価と同様の方法で行った。
【0082】
(再生を行った触媒の物性評価)
再生を行った触媒の物性評価を行った。触媒の表層におけるTe/Pdは0.08であり、触媒中の金属粒子の平均粒子径は4.9nmであり、触媒中の金属粒子の相対偏差は96.1%であった。
【0083】
参考例(新品および使用後)、実施例および比較例における、メタクリル酸選択率およびメタクリル酸生産性の結果、ならびに触媒の表層Te/Pd(モル比)、触媒中の金属粒子の平均粒子径および相対偏差の結果を以下の表1にまとめた。
【0084】
【表1】

【0085】
以上のように、本発明によれば、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸の製造に使用したパラジウム含有担持触媒を、新品同等または新品より高いα,β−不飽和カルボン酸の生産性を有するパラジウム含有担持触媒へと再生することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相中で酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するために使用したパラジウム含有担持触媒の再生方法であって、
(a1)前記パラジウム含有担持触媒を、無機酸と有機酸またはアルコールとの混合溶媒中で攪拌する工程と、
(b)前記パラジウム含有担持触媒を50〜100℃の温度で乾燥する工程と、
(c)前記パラジウム含有担持触媒を還元する工程と
をこの順に有するパラジウム含有担持触媒の再生方法。
【請求項2】
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相中で酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するために使用したパラジウム含有担持触媒の再生方法であって、
(a2)前記パラジウム含有担持触媒を、無機酸中で攪拌した後、有機酸またはアルコール中で攪拌する工程と、
(b)前記パラジウム含有担持触媒を50〜100℃の温度で乾燥する工程と、
(c)前記パラジウム含有担持触媒を還元する工程と
をこの順に有するパラジウム含有担持触媒の再生方法。
【請求項3】
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相中で酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造するために使用したパラジウム含有担持触媒の再生方法であって、
(a3)前記パラジウム含有担持触媒を、有機酸またはアルコール中で攪拌した後、無機酸中で攪拌する工程と、
(b)前記パラジウム含有担持触媒を50〜100℃の温度で乾燥する工程と、
(c)前記パラジウム含有担持触媒を還元する工程と
をこの順に有するパラジウム含有担持触媒の再生方法。
【請求項4】
前記工程(b)と前記工程(c)との間に、
(d)前記パラジウム含有担持触媒を、分子状酸素の存在下、150〜700℃の温度で焼成する工程
をさらに有する請求項1〜3のいずれかに記載のパラジウム含有担持触媒の再生方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法で再生された触媒を用いて、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相中で酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2011−240244(P2011−240244A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114255(P2010−114255)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】