説明

パラボナアンテナ用一次放射器,ローノイズ・ブロックダウン・コンバータおよびパラボナアンテナ装置

【課題】1050MHzの帯域幅までVSWRを良好に抑制することができる構造のパラボラアンテナ用一次放射器を提供する。
【解決手段】先端開口部に向けて円錐状に広がった円筒状のホーンアンテナ本体11と、
該ホーンアンテナ本体の先端開口部に設けられたホーンキャップ12と、該ホーンキャップ12の内壁面に設けられ、端部開口部に向かい、かつ、ホーンアンテナ本体11の中心軸と同心状で、かつ、互いに同心に配置され、外側のものより内側のものの高さが高く定められた、誘電体からなる複数の円筒形状の突起部15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラボナアンテナ用一次放射器、ローノイズ・ブロックダウン・コンバータ(以下、「LNB」(Low Noise Block down-converter)と記す)、および、これらを用いた、衛星放送用のパラボナアンテナ装置に関し、特にVSWRを改善するための一次放射器の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なパラボラアンテナの概略図面を図9に、従来のパラボラアンテナ用一次放射器の断面図を図10に示す。パラボラアンテナによる衛星放送の受信は、図9に示すように、アンテナ部1で反射された約12GHz帯の信号Sが、一次放射器10の開口部に集約されるようになっている。そして一次放射器10を通過した信号はLNB2により12GHz帯から1GHz帯に周波数変換され、この周波数変換された信号がケーブル3を通って屋内受信機(BSまたはCS)チューナ、若しくは内蔵のTV(またはVTR)4に入力されるようになっている。
【0003】
ここで、一次放射器10のホーンアンテナ本体111は、図10に示すように、円筒状に形成されており、円錐状に広がった先端開口部111aにホーンキャップP12が圧入によりはめ込まれている。このホーンキャップは、外部から一次放射器のホーンアンテナ本体111内部へ雨等の水分が入り込まないようにするためのものである。そのため、ホーンアンテナ本体111の端部開口部とホーンキャップ112との間には、止水用のOリング113を介装することにより、防水機能を保っている。
【0004】
このホーンキャップP12は、プラスチック等の樹脂で形成されているため、空気に対して比較的高い誘電率を有している。そのため、ホーンキャップ112の形状が、一次放射器を含めた入力定在波比(VSWR:Voltage Standing Wave Ratio)に大きく影響することになる。
【0005】
例えば、日本国内でBS衛星放送(伝送周波数11.7〜12.0GHz:帯域幅300MHz)を受信する際、このホーンキャップ112によってVSWRが影響を受ける。そのため、このホーンキャップの内壁面には、VSWRを抑えるための円筒形状の突起部114が形成されている。この突起部は、ホーンアンテナ本体111の中心軸L1と同心軸上に配置されている。このように突起部の内部を空洞とすることで、入力VSWRを抑えている。
【0006】
また特許文献1に記載のものは、ホーンアンテナ本体の端部開口部にホーンキャップが設けられ、このホーンキャップの内壁面に、端部開口部に向かい、かつホーンアンテナ本体の中心軸と同心軸上に配置された、誘電体からなる円筒形状の突起部が形成されている。そして、この突起部の先端には、内側に低くなる環状段差が設けられている。
【特許文献1】特開2003−324309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
日本国内では放送衛星(BS)と同じ東経110°の位置にCSデジタル放送用の衛星(伝送周波数12.2〜12.75GHz:帯域幅1050MHz)が打ち上げられサービスを開始している。そのため、1個のパラボラアンテナでBSおよびデジタルCSの両方を受信するためには、入力周波数11.7GHz〜12.75GHz(帯域幅1050MHz)に対して入力VSWRの小さい良好な一次放射器が必要となっている。
【0008】
しかしながら、上記の従来のパラボラアンテナ用一次放射器10では、帯域幅が500〜800MHz程度の周波数に対してはVSWRを良好に抑えることができるが、1050MHzの帯域幅までVSWRを良好に抑えこむことが難しいといった課題があった。そしてVSWRを抑えこむ良好な特性が得られない場合には、アンテナトータルの交差偏波特性を23dB以上得ることが難しいといった問題もあった。
【0009】
本発明はかかる問題点を解決すべく創案されたもので、その目的は1050MHzの帯域幅までVSWRを良好に抑えこむことができる構造のパラボラアンテナ用一次放射器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のパラボラアンテナ用一次放射器は、一つの局面においては、先端開口部に向けて円錐状に広がった円筒状のホーンアンテナ本体と、該ホーンアンテナ本体の先端開口部に設けられたホーンキャップと、該ホーンキャップの内壁面に設けられ、端部開口部に向かい、かつ、ホーンアンテナ本体の中心軸と同心軸状で、かつ、互いに同心に配置され、外側のものより内側のもの高さが高く定められた、誘電体からなる複数の円筒形状の突起部とを備える。
【0011】
このような構成を有することにより、本発明によれば、外側の高い段差突起が高い周波数のVSWRを抑えることができ、300MHz〜1050MHzの広い帯域幅にわたって入力VSWRを効果的に抑えることが可能となる。また後段につながるブロックの交差偏波特性を劣化させることなく、良好な交差偏波特性(23dB以上)を実現することができる。
【0012】
本発明のパラボラアンテナ用一次放射器は、他の局面においては、先端開口部に向けて円錐状に広がった円筒状のホーンアンテナ本体と、該ホーンアンテナ本体の先端開口部に設けられたホーンキャップと、該ホーンキャップの内壁面に設けられ、端部開口部に向かい、かつ、ホーンアンテナ本体の中心軸と同心軸状で、かつ、互いに同心に配置され、外側のものより内側のもの高さが高く定められた、誘電体からなる複数の円筒形状の突起部と、円筒の開口先端部の外側に低くなる環状の段差が設けられている。
【0013】
このような構成によれば、外側の高い突起部が低い周波数のVSWRを抑え、内側の低い突起部が高い周波数のVSWRを抑えることができ、300MHz〜1050MHzの広い帯域幅にわたって、入力VSWRを効果的に抑えることが可能となる。
【0014】
また本発明の実施形態においては、以下の種々の構造態様を有するものを含む。
突起部の開口先端部には外側に低くなる環状段差が設けられた構造。
【0015】
突起部の外側のものが内側のものの高さの半分に定められている構造。
突起部の外側のもの、または内側ものの端部開口部にテ―パが設けられている構造。
【0016】
ホーンキャップの天板が外側に凸の湾曲形状とされている構造。
ホーンキャップの天板が外側に凹の湾曲形状とされている構造。
【0017】
本発明には、上記パラボラアンテナ用一次放射器を備えたローノイズ・ブロックダウン・コンバータおよびローノイズ・ブロックダウン・コンバータを備えたパラボラアンテナ装置も含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のパラボラアンテナ用一次放射器によれば、外側の突起部に対して内側の突起部の高さが高く形成されていることにより、内側の高い突起が低い周波数のVSWRを抑え、外側の低い突起が高い周波数のVSWRを抑えることができ、300MHz〜1050MHzの広い帯域幅にわたって、入力VSWRを効果的に抑えることができる。また、後段につながるブロックの交差偏波特性を劣化させることなく、良好な交差偏波特性(23dB以上)を実現することができる。
【0019】
また、突起部の開口先端部近傍の外周に、外側に低くなる環状の段差部が形成されていることにより、周波数のVSWRを抑えることができ、300MHz〜1050MHzの広い帯域幅にわたって、入力VSWRを効果的に抑えることができる。また、後段につながるブロックの交差偏波特性を劣化させることなく、良好な交差偏波特性(23dB以上)を実現することができる。
【0020】
さらに、本発明によれば、ホーンキャップの直径を従来のコルゲートフィードホーンの直径よりも小さくすることができるため、一次放射器の小型化を図ることが可能となる。また、本発明によれば、一次放射器による放射角を大きくすることができる点においても、有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態1を、図1に基づいて説明する。図1において、実施の形態1のパラボラアンテナ用一次放射器10は、次のように構成される。ホーンアンテナ本体11は円筒状に形成されており、円錐状に広がった先端開口部11aにホーンキャップ12が圧入によりはめ込まれている。ホーンアンテナ本体11の端部開口部とホーンキャップ12との間には、止水用のOリング13が介装されている。
【0022】
ホーンキャップ12の内壁面に、端部開口部に向かい、かつ、ホーンアンテナ本体11の中心軸と同心軸上に配置された誘電体からなる円筒形状の2個の突起部16,17が設けられている。そして、外側の突起部17に対して内側の突起部16の高さが高く形成されている。
【0023】
このような構成により、外側の低い突起部17が高い周波数のVSWRを抑え、内側の高い突起部16が低い周波数のVSWRを抑えることができ、300MHz〜1050MHzの広い帯域幅にわたって、入力VSWRを効果的に抑えることが可能となる。また、後段につながるブロックの交差偏波特性を劣化させることなく、良好な交差偏波特性(23dB以上)を実現することができる。2個の円筒形状の突起部16,17の高さの関係を、外側の突起部17が内側の突起部16の半分(2分の1)となるように定めることにより、さらに効果的にVSWRを抑えることができる。
【0024】
なお、上記実施の形態1においては、円筒形状の2個の突起部を同心状に設けた場合を示したが、3個以上の円筒状の突起部を同心状に設け、外側の突起部よりも内側の突起部の高さを高くすることによっても、同様の効果を得ることができる。
【0025】
次に、本発明の実施の形態2について、図2に基づいて説明する。実施の形態2のホーンキャップ12の内壁面に、端部開口部に向かい、かつ、ホーンアンテナ本体11の中心軸と同心軸上に配置された、誘電体からなる円筒形状の突起部15が設けられている。そして、突起部15の開口先端部近傍の外側に、環状の段差部15aが形成されている。
【0026】
この外側の段差部15aにより、高い周波数のVSWRが抑制され、300MHz〜1050MHzの広い帯域幅にわたって,入力VSWRを効果的に抑えることが可能となる。また後段につながるブロックの交差偏波特性を劣化させることなく、良好な交差偏波特性(23dB以上)を実現することができる。本実施の形態のような段差を有する円筒状の突起部を、実施の形態1に示したように複数個同心状に設けることによっても、VSWRを効果的に抑制することができる。
【0027】
本発明の実施の形態3の一次放射器の断面構造を、図3に示している。実施の形態3においては、複数の円筒形状の突起部16,17が設けられ、内側の円筒形状突起部16の端部開口部にテ―パ部16aが形成されている。これでVSWRを抑える。
【0028】
なお、実施の形態3においては、内側の突起部16の開口先端部のみにテーパを形成した例を示したが、図6の右側の断面図に示すように、内側と外側の両方の突起部の端部開口部にテーパを形成してもよい。図6の右側に示す構造によれば、同図の左側に示した従来のコルゲートフィードホーン200場合のフィードホーン212の直径60mmに対して、ホーンキャップ12の直径を45mmまで小さくすることでき、小型化を図ることが可能となる。
【0029】
本発明の実施の形態4の一次放射器の断面構造を、図4に示している。実施の形態4においては、ホーンキャップ12の天板12が外側に凸の湾曲形状にすることにより、VSWRを抑制している。また、本発明の実施の形態5の一次放射器の断面構造を、図5に示している。実施の形態5においては、ホーンキャップ12の天板12aが外側に凹の湾曲形状とされ、VSWRを抑える。
【0030】
図10に示された従来のコニカルフィードホーンでの放射パターンを図7に、図4に示された本発明の実施の形態4のコニカルフィードパターンでの放射パターンを図8にそれぞれ示している。図7および図8のそれぞれにおいて(a)は信号の周波数が10.7GHzの場合、(b)は信号の周波数が11.7GHzの場合、(c)は信号の周波数が12.75GHzの場合の放射パターンをそれぞれ示している。これらの放射パターンの図において、横軸は放射角度、縦軸は相対レベル(dB)を表している。なお、図7および8の各図中に「E面」として示したパターンは、フィードホーン内部(円形導波管の内部)に生じる電界に平行な放射パターンを示し、「H面」として示したパターンは、その電界に垂直な放射パターンを示している。
【0031】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態1に係るパラボラアンテナ用一次放射器の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係るパラボラアンテナ用一次放射器の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態3に係るパラボラアンテナ用一次放射器の断面図である。
【図4】本発明の実施の形態4に係るパラボラアンテナ用一次放射器の断面図である。
【図5】本発明の実施の形態5に係るパラボラアンテナ用一次放射器の断面図である。
【図6】コルゲートフィードホーンとコニカルフィードホーンの径の違いを示す図である。
【図7】従来のコニカルフィードホーンでの放射パターンを示す図であり、(a)は信号の周波数が10.7GHzの場合、(b)は信号の周波数が11.7GHzの場合、(c)は信号の周波数が12.75GHzの場合をそれぞれ示している。
【図8】本発明の突起部を有するコニカルフィードホーンでの放射パターンを示す図であり、(a)は信号の周波数が10.7GHzの場合、(b)は信号の周波数が11.7GHzの場合、(c)は信号の周波数が12.75GHzの場合をそれぞれ示している。
【図9】一般的なパラボラアンテナの概略側面図である。
【図10】従来のパラボラアンテナ用一次放射器の断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 アンテナ、2 LNB、3 ケーブル、4 チューナ、10 一次放射器、11 ホーンアンテナ本体、12 ホーンキャップ(防水カバー)、12a 凸面ホーンキャップ(防水カバー)、12b 凹面ホーンキャップ(防水カバー)、13 Oリング、15 突起部、15a 段差突起部、16 突起部、16a テーパ、L1 ホーンアンテナ本体の中心軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端開口部に向けて円錐状に広がった円筒状のホーンアンテナ本体と、
該ホーンアンテナ本体の先端開口部に設けられたホーンキャップと、
該ホーンキャップの内壁面に設けられ、前記端部開口部に向かい、かつ、前記ホーンアンテナ本体の中心軸と同心状に、かつ、互いに同心に配置され、外側のものより内側のもの高さが高く定められた、誘電体からなる複数の円筒形状の突起部と、
を備えるパラボラアンテナ用一次放射器。
【請求項2】
先端開口部に向けて円錐状に広がった円筒状のホーンアンテナ本体と、
該ホーンアンテナ本体の先端開口部に設けられたホーンキャップと、
該ホーンキャップの内壁面に設けられ、前記端部開口部に向かい、かつ、前記ホーンアンテナ本体の中心軸と同心状に配されるとともに、開口先端近傍の外周に外側に低くなる環状の段差が設けられた、誘電体からなる円筒形状の突起部と、
を備えるパラボラアンテナ用一次放射器。
【請求項3】
前記突起部の開口先端部近傍の外周には、外側に低くなる環状の段差が設けられた、請求項1に記載のパラボラアンテナ用一次放射器。
【請求項4】
前記突起部のうちの外側のものの高さが内側のものの高さの半分に定められている、請求項1または3に記載のパラボラアンテナ用一次放射器。
【請求項5】
前記突起部の少なくともいずれかの端部開口部にテ―パが設けられた、請求項1に記載のパラボラアンテナ用一次放射器。
【請求項6】
前記ホーンキャップの天板が外側に凸の湾曲形状とされている、請求項1〜5のいずれかに記載のパラボラアンテナ用一次放射器。
【請求項7】
前記ホーンキャップの天板が外側に凹の湾曲形状とされている、請求項1〜5のいずれかに記載のパラボラアンテナ用一次放射器。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のパラボラアンテナ用一次放射器を備えた、ローノイズ・ブロックダウン・コンバータ。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のパラボラアンテナ用一次放射器の複数組を備えて衛星受信用とした、ローノイズ・ブロックダウン・コンバータ。
【請求項10】
請求項8または9に記載のローノイズ・ブロックダウン・コンバータを備えたパラボラアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−60397(P2009−60397A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226204(P2007−226204)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】