説明

パラレルハイブリッド車両

【課題】この発明は、クラッチ等の機械的な回転数調整装置を用いる場合と比べて、大幅な容量増や重量増を回避し、モータインバータでのゼロトルク制御が無くても、モータによる駆動ロスやエネルギーロスを回避することを目的とする。
【解決手段】この発明は、エンジンを駆動源として車両の前輪、あるいは後輪のどちらか一方の車輪を駆動し、モータを駆動源として前記エンジンが駆動しない他方の車輪を駆動するパラレルハイブリッド車両において、モータ減速ギアを介して前記モータの駆動力を車輪に伝達するとともに、前記モータ減速ギアは、スリーブとクラッチギアとを結合、あるいは解放状態とする切換機構を備え、前記モータの駆動力をモータ減速ギアを介して車輪に伝達するように前記スリーブとクラッチギアとを結合状態に制御する制御手段を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はパラレルハイブリッド車両に係り、特に、エンジンとモータとの各駆動源がそれぞれ別の車輪を駆動するパラレルハイブリッド車両において、走行抵抗低減のため駆動していない車輪を切り離す機構を備えたパラレルハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンおよびモータを駆動源とするパラレルハイブリッド車両には、エンジンを駆動源として前輪あるいは後輪のどちらか一方の車輪、例えば後輪を駆動し、モータを駆動源としてエンジンで駆動しない他方の車輪、例えば前輪を駆動するパラレルハイブリッド車両がある。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−18708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1のパラレルハイブリッド車両は、エンジンとモータとの各駆動源がそれぞれ別の車輪を駆動しているが、エンジンの後輪駆動による走行時でも前輪を介してモータのロータが回転し、その分走行負荷が増加することになる。
この場合、モータをモータインバータによりゼロトルク(0Torque)制御することで前輪によるモータ負荷の大部分をキャンセルできるが、各車速域でのゼロトルク出力の保証がない場合には前輪の完全な空走状態を作り出すことができない問題がある。モータのゼロトルク制御にて完全にゼロトルクとできる場合以外には、高電圧バッテリの充放電収支がずれてくる問題がある。また、モータ負荷をキャンセルするために、本格的なクラッチによる切り離し機構を追加すると、スペースや重量が大幅に増加する問題がある。
【0005】
この発明は、クラッチ等の機械的な回転数調整装置を用いる場合と比べて、大幅な容量増や重量増を回避し、モータインバータでのゼロトルク制御が無くても、モータによる駆動ロスやエネルギーロスを回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、エンジンを駆動源として車両の前輪、あるいは後輪のどちらか一方の車輪を駆動し、モータを駆動源として前記エンジンが駆動しない他方の車輪を駆動するパラレルハイブリッド車両において、モータ減速ギアを介して前記モータの駆動力を車輪に伝達するとともに、前記モータ減速ギアは、スリーブとクラッチギアとを結合、あるいは解放状態とする切換機構を備え、前記モータの駆動力をモータ減速ギアを介して車輪に伝達するように前記スリーブとクラッチギアとを結合状態に制御する制御手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明のパラレルハイブリッド車両は、モータ減速ギアを接続・切り離し可能としたので、クラッチ等の機械的な回転数調整装置を用いる場合と比べて、大幅な容量増や重量増を回避することができる。
この発明のパラレルハイブリッド車両は、モータインバータでのゼロトルク制御が無くても、駆動ロスやエネルギーロスを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】パラレルハイブリッド車両のシステム構成図である。(実施例)
【図2】切り離した状態のモータ減速ギアの斜視図である。(実施例)
【図3】接続した状態のモータ減速ギアの斜視図である。(実施例)
【図4】モータ減速ギアの接続のフローチャートである。(実施例)
【図5】モータ減速ギアの切り離しのフローチャートである。(実施例)
【図6】モータ減速ギアの接続・切り離しのタイムチャートである。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0010】
図1において、1はパラレルハイブリッド車両、2は前輪、3は後輪である。パラレルハイブリッド車両1は、駆動源としてエンジン4とモータ5とを搭載している。パラレルハイブリッド車両1は、エンジン4によりトランスミッション6、前輪駆動軸7を介して前輪2を駆動し、モータ5によりモータ減速ギア8、後輪駆動軸9を介して後輪3を駆動する。エンジン4およびモータ5は、制御手段10により制御される。
制御手段10は、エンジン回転数センサ11からエンジン回転数を入力し、前輪駆動軸回転数センサ12から前輪回転数を入力し、モータ回転数センサ13からモータ回転数を入力し、後輪駆動軸回転数センサ14から後輪回転数を入力する。制御手段10は、各センサ11〜14から入力する信号に基づいて、スロットルバルブ等の出力調整機構15によりエンジン4のエンジン回転数を変更し、モータインバータ16によりモータ5のモータ回転数を変更し、シフト機構17によりトランスミッション6のシフト切替を行う。
【0011】
前記モータ減速ギア8は、結合・解放が可能なスリーブ18とクラッチギア19とを備え、これらスリーブ18とクラッチギア19とを結合、あるいは解放状態とする切換機構20を備えている。切換機構20は、制御手段10により制御される。制御手段10には、スリーブ18とクラッチギア19とが結合している時にON(1)し、スリーブ18とクラッチギア19とが解放している時にOFF(0)する嵌合スイッチ21を接続している。制御手段10は、切換機構20によりスリーブ18とクラッチギア19とを結合、あるいは解放状態とする際に、嵌合スイッチ21から入力するON・OFFの信号でスリーブ18とクラッチギア19とが結合しているか解放しているか判断する。
前記制御手段10は、図3に示すように、切換機構20によりスリーブ18とクラッチギア19とを結合状態とすることでモータ減速ギア8を接続し、モータ減速ギア8を介してモータ5の駆動力を後輪3に伝達する。また、制御手段10は、図2に示すように、切換機構20によりスリーブ18とクラッチギア19とを解放状態とすることでモータ減速ギア8を切り離し、モータ減速ギア8を介してモータ5の駆動力が後輪3に伝達されることを遮断する。
前記制御手段10は、モータ回転数が車輪回転数と一致するようにモータインバータ16によりモータ5を制御してスリーブ18とクラッチギア19とを結合し、モータトルクがゼロ(0)になるようにモータ5を制御して切換機構20によりスリーブ18とクラッチギア19とを解放する。
【0012】
次に作用を説明する。
パラレルハイブリッド車両1は、制御手段10によって、エンジン4のみでの走行とモータ5によるアシスト走行とを走行中に切り替え可能としている。
制御手段10は、エンジン効率が良い領域を使用し、ブレーキ頻度が少ない高速道巡航走行時には、エンジン4により前輪2を駆動する一方で、モータ減速ギア8を切り離してモータ5と後輪3との接続を切り離す。また、制御手段10は、モータ5の低速トルク特性を活用し、回生エネルギー回収できる発進時、減速時、悪路走行時には、エンジン4により前輪2を駆動するとともに、モータ減速ギア8を接続してモータ5により後輪3を駆動する。さらに、制御手段10は、退避場所への移動を必要とするエンジン4の異常発生時には、トランスミッション6のシフト切替によりエンジン4と前輪2の接続を切り離し、モータ減速ギア8を接続してモータ5により後輪3を駆動する。
【0013】
制御手段10は、図4に示すように、モータ減速ギア8を接続する場合に、接続の処理を開始すると(101)、モータ5の目標モータ回転数が後輪3の車輪回転数と等しくなるようにモータ回転数を上昇・下降させる処理をし(102)、モータ回転数が車輪回転数+α以下、かつモータ回転数が車輪回転数−α以上の範囲にあるかを判断する(103)。
この判断(103)がNOの場合は、前記処理(102)に戻る。この判断(103)がYESの場合は、スリーブ18とクラッチギア19とを結合させる処理を実行し(104)、設定時間X後に嵌合スイッチ21がOFF(0)であるか(スリーブ18とクラッチギア19とが解放状態)を判断する(105)。
この判断(105)がNO(スリーブ18とクラッチギア19とが結合状態)の場合は、モータ減速ギア8の接続完了として処理を終了する(106)。この判断(105)がYES(スリーブ18とクラッチギア19とが解放状態)の場合は、スリーブ18とクラッチギア19とを結合させる処理を所定回数A繰り返したかを判断する(107)。
この判断(107)がNOの場合は、前記処理(102)に戻る。この場合、スリーブ18とクラッチギア19とを解放した後、モータ回転数が車輪回転数±αの範囲になるように調整し、スリーブ18とクラッチギア19とを結合させる処理を再度実行する(図6(1)参照)。一方、この判断(107)がYESの場合は、モータ減速ギア8の接続失敗として処理を中止する(108)。
【0014】
また、制御手段10は、図5に示すように、モータ減速ギア8を切り離す場合に、切り離しの処理を開始すると(201)、モータ5のモータトルクをゼロ(0)とする処理をし(202)、スリーブ18とクラッチギア19とを解放させる処理を実行し(203)、設定時間X後に嵌合スイッチ21がON(1)であるか(スリーブ18とクラッチギア19とが結合状態)を判断する(204)。
この判断(204)がNO(スリーブ18とクラッチギア19とが解放状態)の場合は、モータ減速ギア8の切り離し完了として処理を終了する(204)。この判断(204)がYES(スリーブ18とクラッチギア19とが結合状態)の場合は、スリーブ18とクラッチギア19とを解放させる処理を所定回数A繰り返したかを判断する(206)。
この判断(206)がNOの場合は、前記処理(202)に戻る。この場合、スリーブ18とクラッチギア19とを結合した後、モータトルクが目標トルク±βの範囲になるように調整し、スリーブ18とクラッチギア19とを解放させる処理を再度実行する(図6(2)参照)。一方、この判断(206)がYESの場合は、モータ減速ギア8の切り離し失敗として処理を中止する(207)。
【0015】
このように、パラレルハイブリッド車両1は、モータ減速ギア8を介してモータ5の駆動力を後輪3に伝達するとともに、モータ減速ギア8は、スリーブ18とクラッチギア19とを結合、あるいは解放状態とする切換機構20を備え、モータ5の駆動力をモータ減速ギア8を介して後輪3に伝達するようにスリーブ18とクラッチギア19とを結合状態に制御する制御手段を10備えている。
これにより、このパラレルハイブリッド車両1は、モータ減速ギア8を接続・切り離し可能としたので、クラッチ等の機械的な回転数調整装置を用いる場合と比べて、大幅な容量増や重量増を回避することができる。また、このパラレルハイブリッド車両1は、モータインバータ16でのモータ5のゼロトルク制御が無くても、駆動ロスやエネルギーロスを回避することができる。
また、制御手段10は、モータ回転数が後輪3の車輪回転数と一致するようにモータ5を制御してスリーブ18とクラッチギア19とを結合し、モータトルクがゼロになるようにモータ5を制御してスリーブ18とクラッチギア19とを解放している。
これにより、このパラレルハイブリッド車両1は、車両の停止中や走行中に関わらず、どの速度でもモータ減速ギア8の接続・切り離しが可能となる。また、このパラレルハイブリッド車両1は、エンジン効率が良い高速道巡航走行と悪路や加速時の前後輪駆動走行とを運転者が意識することなく、切り替え可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
この発明は、パラレルハイブリッド車両のモータ駆動系について大幅な容量増や重量増を回避し、モータによる駆動ロスやエネルギーロスを回避するものであり、パラレルハイブリッド車両以外のハイブリッド車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0017】
1 パラレルハイブリッド車両
2 前輪
3 後輪
4 エンジン
5 モータ
6 トランスミッション
7 前輪駆動軸
8 モータ減速ギア
9 後輪駆動軸
10 制御手段
11 エンジン回転数センサ
12 前輪駆動軸回転数センサ
13 モータ回転数センサ
14 後輪駆動軸回転数センサ
15 出力調整機構
16 モータインバータ
17 シフト機構
18 スリーブ
19 クラッチギア
20 切換機構
21 嵌合スイッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを駆動源として車両の前輪、あるいは後輪のどちらか一方の車輪を駆動し、
モータを駆動源として前記エンジンが駆動しない他方の車輪を駆動するパラレルハイブリッド車両において、
モータ減速ギアを介して前記モータの駆動力を車輪に伝達するとともに、前記モータ減速ギアは、スリーブとクラッチギアとを結合、あるいは解放状態とする切換機構を備え、
前記モータの駆動力をモータ減速ギアを介して車輪に伝達するように前記スリーブとクラッチギアとを結合状態に制御する制御手段を備えていることを特徴とするパラレルハイブリッド車両。
【請求項2】
前記制御手段は、モータ回転数が車輪回転数と一致するように前記モータを制御して前記スリーブとクラッチギアとを結合し、
モータトルクがゼロになるように前記モータを制御して前記スリーブとクラッチギアとを解放することを特徴とする請求項1に記載のパラレルハイブリッド車両。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−255763(P2011−255763A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131152(P2010−131152)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】