説明

パルスレーザ溶発によるナノ粒子溶液の製造

パルスレーザ溶発に基づいて太陽光吸収化合物材料のナノ粒子をつくる方法が開示されている。この方法は、太陽光吸収化合物材料のターゲット材料を、10フェムト秒〜500ピコ秒のパルス幅のパルスレーザビームで照射して、ターゲットを溶発し、ターゲットのナノ粒子をつくる。ナノ粒子を集めて、ナノ粒子溶液を基板に塗布して、薄膜太陽電池をつくる。この方法は、出発ターゲットの組成と構造的な結晶相とを保持する。この方法は、薄膜太陽電池を非常に廉価に製造する方法になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2010年2月10日に出願した米国仮出願第61/302,995号明細書の利益を請求するものである。
【0002】
本発明は、薄膜太陽電池の製造、特に、薄膜太陽電池の製造に用いるナノ粒子溶液を製造するために、液体中で原料となる材料をパルスレーザで溶発(アブレーション)することに関している。
【背景技術】
【0003】
単一の結晶太陽電池と比べると、薄膜太陽電池は非常に少量の原料となる材料を費やすだけなので、製造のコストも僅かである。最近の薄膜太陽電池の製造では、最も重要な意味をもつ層である光吸収層は、熱蒸着や化学的気相堆積(CVD)やスパッタリングのような真空方式を用いて主として製造している。太陽光吸収材料の化合物として、CdTeのようなII−VI族元素、又はIII−V族元素、又は黄銅鉱CuInSeやCuIn1−xGaSeのようなIB−III−VI元素からなる化合物の場合、膜組成の正確な制御が必要である。構成元素間の原子比を制御することが、適正な構造相と、要望される膜の導電率と正孔伝導と優れた正孔移動度とを保証する鍵になる。例えば、x〜0.2−0.3をもつCuIn1−xGaSeを具備するCIGS膜の場合、構成元素間の原子比Cu:(In+Ga):Seは、許容変動が数パーセントの時に、25%:25%:50%の近くにすべきである。この組成比からの逸脱は、導電率や自然欠陥の状態やバンド・ギャップや構造相に問題が生じることになり、太陽電池の変換効率を事実上低下させることになる。
【0004】
熱蒸着を用いて必要なエンド・ポイントを達成するには、各々個々の元素ソースの蒸発率と蒸気ビームの均一な重なりを慎重にモニターして制御することが必要になる。このよう製造プロセスは、製造ラインに紛らわしいパラメータ・コントロールを伴うので、この方法の製造コストが高くなる主な要因になる。そのうえ、均一な膜の堆積と前駆相関離隔の難しさに伴う問題もある。
【0005】
前述の問題を避けるために、非真空で溶液ベースの印刷方法が開発されている。これらの方法では、原料となる要素材料は、最初に小さいサブミクロンの粒子にされて、溶媒に分散される。適切な結合剤と混合後に、溶液は、濃いペーストになり、薄膜の印刷に適したものになる。特許文献1は、サブミクロンの大きさの金属酸化物とセレン微少粉末とを製造する機械製粉方式に基づいた方法を開示している。構成元素の前駆粉末は、CuO、In、CuSeを意味するが、計算した重量比で混合され、溶液に分散されて、スプレー印刷用のペーストをつくる。この方法がもつ一つの難点は、パッキング密度を定める、平均粒子サイズとサイズ分布状態とに関連している。機械製粉方式は、サブミクロンの粒子を数百nmに微細化できるが、生成した膜に数十nmの無充填の孔が已然として残っている。従って、ピンホールのない層を保証するために、更に製造コストを高める材料を使用する必要がある。
【0006】
特許文献2は、化合物CIGS膜を印刷するためにナノ・インクと呼ばれるナノメータ・サイズの粒子の溶液をつくる方法を開示している。この方法では、Cuのような原料となる要素材料の一つを、最初に数十〜数百nmの直径のナノ粒子にして溶液に分散している。Cu粒子は、次に電気化学方法を用いて、InとGaの層で覆われる。このプロセスは、長時間を費やすので非常にコスト高になる。そのうえ、適正な化学量論的組成に必要なInとGa層の厚みは、Cuコア・サイズに依存するので、サイズ分布の状態が広い時に制御が難しくなる。
【0007】
CdSeのような単純な2元化合物材料のナノ粒子の場合に、溶液ベースの合成方法が数多く成功しているといわれる。しかし、CIGSのような複合材料の場合、組成の正確な制御は未だに開発途上にある。例えば、前駆剤として金属酸化物を用いると、高温の水素還元が金属酸化物の低減のために必要になるので、時間とエネルギの両方で非常にコスト高になる。これは、大半の金属酸化物が、熱力学的に非常に安定し、例えばInとGaの生成エンタルピーが共に−900kJ/モル以下であるのに対し、水の生成エンタルピーは−286kJ/モルであるからである。不完全な還元は、不純物相だけでなく不適切な組成を伴う結果になる。
【0008】
最近、パルスレーザ溶発が、様々な液体中に元素金属のナノ粒子をつくるために提示されてきた。このプロセスは、ターゲット材料のレーザ誘起蒸発に基づいている。代表的なパルスレーザは、エキシマレーザとNd:YAGレーザを含んでいるので、数ナノ秒(ns)のパルス幅と数百ミリジュール(mJ)のパルスエネルギとをもつレーザパルスを提供できる。これらの短いレーザパルスの光をターゲット表面に集光する時に、〜GWという特に高いピーク電力のために、面積電力密度(W/cm)として又はより好ましくはパルス幅が既知の時に面積エネルギ密度(J/cm)として定義されるフルエンスが、殆どの材料の溶発閾値を容易に超えるので、照射中の材料が瞬時に蒸発する。溶発(アブレーション)を水のような液体で行うと、レーザ誘起の蒸気が、液体が閉じ込まれている状態で瞬時に凝集して、ナノメータ・サイズの粒子が形成される。この方法は、水と他の液体中に貴金属のナノ粒子を成功裏につくるために用いられてきた。
【0009】
化合物材料の場合、この最近の方法の発明者らは、500ピコ秒以下のパルス幅のレーザを意味するパルスレーザにより、ターゲット材料の組成を溶発中に確保できるので、生成したナノ粒子は、ターゲットと同じ化学量論組成をもつことを、最近発表した。そのうえ、生成したナノ粒子は、ターゲット材料と同じ結晶構造も維持する。これらの結果は、適切なフルエンス領域のもとで行われたパルスレーザ溶発の直接的な帰結として可能になると考えられる。ターゲット材料の崩壊の時間的尺度が組成変動と構造変化の時間的尺度より短い時に、初期の組成と結晶構造が、バルク・ターゲットからナノ粒子生成にいたる推移中に確保される。
【0010】
従来の方法より迅速で高度に再生可能で廉価な薄膜太陽電池を製造するプロセスを開発することが特に望まれる。幅広い様々な原料となる材料に適応できて、原料となる材料の制限を受けない、方法をつくることも望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第.6,268,014号明細書
【特許文献2】米国特許第.7,306,823号明細書
【発明の概要】
【0012】
本発明は、液体中に太陽光吸収化合物材料のナノ粒子をつくるためにターゲット材料をパルスレーザで溶発することに基づいた、単一ステップの方法である。ナノ粒子は、薄膜太陽電池の製造のために使用できる。この方法を用いると、生成したナノ粒子が、原料となる材料の化合物組成と結晶構造とを維持する。本発明は、太陽光吸収化合物材料のナノ粒子を製造する方法であって、太陽光吸収化合物材料のターゲットを提供するステップと、ターゲットを10フェムト秒〜10ナノ秒、より好ましくは10フェムト秒〜200ピコ秒のパルス幅のパルスレーザビームで照射して、ターゲットを溶発することにより、ターゲットのナノ粒子を生成するステップと、ナノ粒子がターゲットの化学量論的組成と結晶構造とを維持する、前述のナノ粒子を集めるステップとを含んでいる。
【0013】
様々な実施例において、ターゲット材料が、太陽光吸収化合物材料半導体から製造されている。例えば本発明を用いるCIGSナノ粒子の製造について説明されている。4元化合物として、CIGSは、薄膜太陽電池における太陽光の吸収のために、いま最も用いられている複合材料である。本発明は、適正な化学組成をもつCIGSナノ粒子を製造する。そのうえ、本発明は、CIGSの適正な黄銅鉱の結晶構造をもつCIGS薄膜を製造する。適切な結合材料を溶液に添加すると、より濃いペーストを製造できて、プロセスの速度を早めて、後の熱処理で膜の品質を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るレーザ溶発システムの略図である。
【図2】本発明に係るナノ粒子溶液から薄膜を形成するステップを概略的に示す図である。
【図3】本発明に係る製造方法により製造したCIGS膜の断面の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】本発明に係る製造方法により製造したCIGS膜のエネルギ分散X線(EDX)スペクトルを示す図である。
【図5】本発明に係る製造方法により製造したCIGS膜の構造相のX線回析パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明に係る、液体中に複合化合物のナノ粒子をつくるレーザ準拠システムを概略的に示す。ある実施例においては、レーザビーム1は、図示を省略したパルスレーザ発振器から受光し、レンズ2で集光される。レーザビーム1の光源は、次に述べるような任意のパルス持続期間と繰返周波数と電力レベルとを有するという想定のもとで、シード・レーザ又は従来技術で周知の任意の他のレーザ発振器でよい。集光されたレーザビーム1は、レンズ2から、レーザビーム1の動きを制御するガイド機構3に進む。ガイド機構3は、例えば圧電ミラー、音響光学的偏向器、回転ポリゴン、振動ミラー、プリズムを含めて、従来技術で周知のものでよい。ガイド機構3には、レーザビーム1に関して制御された迅速な動きを可能にする振動ミラー3を用いるのが好ましい。ガイド機構3はレーザビーム1をターゲット4に向ける。ターゲット4は、次に述べるように、要望された太陽光吸収化合物材料からつくられる。例えば、ある実施例においては、それは要望された化学量論組成を有するCIGSのディスクである。それは、任意の他の適切な太陽光吸収化合物材料でよい。ターゲット4は、液体5の表面の下方に、数mmから好都合に1cm未満の距離で浸されている。レーザビーム1がターゲットターゲットと液体との界面で溶発できるように、ターゲット4の一部が液体5と接触している限り、ターゲット4が液体5に完璧に浸漬することは要求されない。容器7の最上部に除去自在のガラス窓6を有する容器7は、ターゲット4に適した位置を提供する。Oリング・タイプのシール8は、液体5が容器7から漏出することを防ぐために、ガラス窓6と容器7の最上部との間に設けられている。容器7は、導入パイプ12と排出パイプ14とを備えており、液体5がターゲット4上を通過できるので、再循環が可能になる。容器7は、容器7の並進運動と液体5の動きとを可能にする、可動ステージ9上にオプションで設置できる。液体5の流れを用いて、ターゲット4の生成したナノ粒子10を容器7から移行し、どこにでも集められるようにする。ターゲット4上の液体5の流れは、レーザの集光部分の容積も冷却する。液体5の流速と容量は、ターゲット4とガラス窓6との間のギャップを十分に満たすべきである。更に、それは、レーザ溶発中に生じた任意の気泡が、ガラス窓6に滞ることを十分に妨げるものでなければならない。液体5は、レーザビーム1の波長に対して十分に透明で、ターゲット材料4に対して好都合に貧溶媒となる、任意の液体でよい。ある実施例においては、液体5は、0.05MΩ.cmより大きい抵抗率、好ましくは1MΩ.cmより大きい抵抗率を有する、脱イオン水である。他の実施例では、それはエタノール又は別のアルコールのような揮発性液体である、又は、それは液体窒素又はこれらの混合物である。液体5として揮発性液体を用いることは、集められたナノ粒子10を集めて集結する時に、又はそれらを基板に添加して薄膜太陽電池を形成する時に有益である。他の機能的な化学薬剤も溶発中に液体5に添加できる。例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)のような界面活性剤を、液体5における粒子凝集を妨げるために添加できる。代表的なSDSモル濃度は、10−3〜10−1モル/L(M)である。界面活性剤は、レーザパルス幅が200ピコ秒〜100ナノ秒の範囲である時に、凝集せずに、分散した粒子の溶液をつくるうえで特に有用になる。
【0016】
少なくとも一つの実施例で、レーザ波長は、最小限の吸収度で水中を通過する1000nmである。レーザパルス繰返周波数は、好ましくは100kHz以上である。パルスエネルギは、好ましくは1μJ以上である。イムラ・アメリカ・インコーポレイテッドは、本発明の出願人であるが、幾つかのファイバを基礎としてチャープ・パルス増幅システムを開示しており、それは、10フェムト秒〜200ピコ秒の超短パルス幅と、1〜100μJの範囲の単独パルスエネルギと、10ワット(W)以上の高い平均電力とを提供する。本発明に係る製造方法において、用いるレーザビームのパルス幅は、10フェムト秒〜100ナノ秒、より好ましくは10フェムト秒〜200ピコ秒である。パルスエネルギは100nJ〜1mJが好ましく、より好ましくは1μJ〜10μJである。パルス繰返周波数は、1Hz〜100MHz、好ましくは100MHz未満、より好ましくは100kHz〜1MHzである。様々な実施例では、本発明に係る製造方法において、溶発で用いるレーザは、一般的に発振器とパルス・ストレッチャーと前置増幅器とを含んでいる30〜100MHzの高繰返周波数をもつシード・レーザと、シード・レーザからのパルスを選択する光学的ゲートと、選択されたパルスを増幅する最終電力増幅器とを、順に配列して備えている。これらのレーザ・システムは本発明の応用に特に適している。これらのシステムの波長は一般的に1030nmである。本発明は、そのレーザビームの波長に限定されない。むしろ、第2の高調波発生を用いて、可視性のUV領域で波長をつくることができる。全体的に、近赤外線(NIR)、可視光線、又はUVの領域の波長は、すべて本発明で使用できる。
【0017】
ある実施例においては、ガイド機構3は、ターゲット4の表面にレーザビーム1の高速ラスタリング又は他の動きを行うように構成された振動ミラー3が用いられる。ミラー3の振動周波数は、好ましくは10Hz以上であり、好ましくは0.1mrad以上、より好ましくは1.0mrad以上の角度振幅を有しているので、ターゲット4の表面のラスタリング速度は、0.01m/秒以上であり、最も好ましくは0.1m/秒以上である。このようなミラー3は、圧電駆動ミラー、検流計ミラー、又はレーザビーム1を動かす他の適切な装置でよい。
【0018】
ターゲット4は、2元、3元、4元化合物材料を含んでいる適切な太陽光吸収化合物材料である。適切な2元化合物材料は、CdTeやCdSeのように周期律表のIIB族とVIA族から選択できる。適切な3元化合物材料は、CuInSeやCuInSのように、周期律表のIB族、IIIA族、VIA族から選択できる。適切な4元化合物材料は、CuInGaSeやCuInGaSのように、IB族、IIIA族、VIA族とから選択できる。他の適切な4元化合物材料は、CuZnSnSやCuZnSnSeのように、IB族、IIB族、IVA族、VIA族とから選択できる。
【0019】
ある実施例においては、容器7を経由する液体5の流れは、循環システムで行われ、流速は、好ましくは1.0mL/秒以上、より好ましくは10.0mL/秒以上である。液体5の流れは、生成したナノ粒子10を液体5に均一に分布させて、それらを容器7から除去するために必要である。十分な容量の液体5を維持して、ターゲット4上方の液体5の厚みに任意の変動を生じないようにすることが必要である。液体5の厚みが変動すると、レーザビーム1の光学的通路の特性も変わるので、生成したナノ粒子10の粒径分布も非常に広いものになる。流れている液体5上方の光学窓6は、ターゲット4上方における液体5の厚みを一定に維持するように機能する。循環システムを使用できない時に、横方向の振動を、例えば、レーザビーム1に対して垂直に、図1に示すように、可動ステージ9に対して与えると、液体5が、溶発スポットを局部的に横断して流れることになる。可動ステージ9は、数Hzの振動周波数と数mmの振幅とを有するのが好ましい。撹拌器は液体5を循環させるために使用可能であり、撹拌器の循環運動は容器7の液体5にも循環運動を行わせるので、ナノ粒子10は液体5の内部に均一に分布することができる。液体5を循環させる、これらの二つの方法のなかの何れかを用いると、ガラス窓6は不要になる。しかし、何れかを使用すると、ターゲット4上方の液体5の厚みが不均一になるので、ナノ粒子10が幅広いサイズで分布することになる。
【0020】
ある事例で、ターゲットは多結晶のCIGSの薄いディスクである。ターゲットの構成元素Cu:In:Ga:Se間の公称の原子比は、ターゲットの製造会社、コンジュドー・ケミカル・ラボラトリ社(Konjudo Chemical Laboratory Co. Ltd)によれば、25%:20%:5%:50%である。4元の化合物材料CIGSは、1.0〜1.2eVのバンド・ギャップを有する。1000nmの波長を有するレーザビームを用いると、対応する光子エネルギは、CIGS材料のバンド・ギャップを上回る、1.2eVになる。レーザビームは、従って、このターゲット材料で強く吸収される。光学的な吸収深度は小さく〜1μmである。この結果、低い溶発閾値となり、約0.1J/cmと予測される。本発明に係る方法を行う際に、一般的なレーザ焦点サイズは、20〜40μmの直径であり、より好ましくは約30μmの直径である。30μmの直径の焦点サイズを用いると、CIGSの溶発に要求される最小限度のパルスエネルギは、約0.7μJになる。
【0021】
本発明を実施する際に、ターゲット材料は容器に置かれ、溶発されたナノ粒子は、それらを生成した時の液体から集められる。ナノ粒子は、好都合に2〜200nmのサイズを有する。必要に応じて、ナノ粒子は、従来技術で周知の濾過又は遠心分離方式で集結することができる。これは、基板に対するナノ粒子の後の塗布のために、必要に応じて、液体を変えるためにも実施できる。図2は、本方法でつくったナノ粒子から薄膜太陽電池を製造する二つの後に続くステップを示す。ナノ粒子懸濁液20は、基板22に拡散している。乾燥後、ナノ粒子懸濁液20の沈殿物が、緊密に包まれた薄膜24を形成する。これらの二つのステップは、太陽電池を形成する、大半の溶液ベースの方法において共通している。適切な結合剤を用いて厚いペーストを形成し、プロセスを高速化することも、従来技術で周知の技術である。形成した膜24をセレン蒸気で熱処理して、膜の構造的な品質を高めることも周知の技術である。このようなステップが本発明で実施できる。様々な基板22として、半導体やガラスや金属被膜ガラスや金属板や金属薄膜を含めて使用することができる。一般的な金属基板として、モリブデン、銅、チタン、鋼があるが、それらに限定されるわけでない。
【0022】
図3は、本発明に係る製造方法により作成したCIGS膜の断面の電子顕微鏡写真を示す。前述のCIGSディスクは、次のように溶発した。ターゲット・ディスクを、水面の下方の3mmの脱イオン水に入れた。パルスレーザを、500kHzの繰返周波数、10μJのパルスエネルギ、700フェムト秒のパルス幅、1000nmの波長に設定した。170mmのレンズをターゲット・ディスクにセットして、レーザビームを集光した。ビームは、溶発中に2m/秒以上の直線速度でラスターした。総溶発時間は約30分だった。ナノ粒子溶液を、次にシリコン基板に滴下した。溶液の滴下物を、雰囲気の室温で乾燥して、薄膜を得た。ブレード塗布、スピン・コーティング、スクリーン印刷、インク・ジェット印刷のような他の方法も、本発明で使用できる。
【0023】
図4は、図3で既に述べたように、本方法により作成したCIGS薄膜のエネルギ分散X線スペクトルを示す。特性X線の放出が、Cu、In、Ga、Seの四つの構成元素のすべてで確認されている。放出強度の定量化により、Cu:In:Ga:Seの膜の原子比として、21.3%:19.3%:4.7%:54.6%を得た。これは、前述の初期ターゲットの公称値に非常に近い。このことから、本方法は、それらから生成した薄膜とナノ粒子とにおけるターゲット材料の組成を維持していることが確認される。
【0024】
図5は、図3で既に述べたように、本発明の方法により作成したCIGS薄膜のX線回析パターンを示す。主な回析ピークである112と204と116から、膜はCIGSの要望された黄銅鉱の結晶相を有していることが確認される。従って、本発明によれば、ターゲット材料から、ターゲット材料と同じ結晶構造を有する薄膜とナノ粒子を生成できることが分かる。発明者は、要望された適正な黄銅鉱の結晶相が、室温でCIGS膜の乾燥後に得られること分かった。これは、低い処理温度を使用できるという、本発明に係る方法の別の長所も立証している。セレン雰囲気で更に熱処理すると、生成した膜の構造的な品質が更に改善できることに疑問がないが、室温での多結晶CIGSの優れた製造方式が後の熱処理・ステップのエネルギ・コストを大きく低減することになる。
【0025】
特定の理論に拘束された説明を望むものではないが、発明者は、本発明に係るパルスレーザの溶発中に特定のレーザ誘導の相転移が、化学量論的組成と結晶構造に関して要望された保持状態を導くことを理論化している。非常に短いレーザパルスのために、熱と圧力は、共に照射されたボリュームで迅速に蓄積する。過渡的な温度は5000℃の高さに到達できて、過渡的な圧力はGPa領域に到達できる。これらの極限状態の到達時間は一般的に2〜30ピコ秒の単位なので、特に低いキャリア密度の誘電体の場合、熱と容量の緩和は無視できる。このような極限状態のもとで、材料が、爆発的に急激に除去され、その時間的な尺度はナノ秒の単位になる。この時間的な尺度は、一般的にマイクロ秒又はそれ以上である、組成変化及び結晶構造変化に要求される時間より、遙かに短い。従って、溶発作業が終了し、組成と結晶構造の変動前にナノ粒子を生成できる。
【0026】
前述した発明の説明は、関連する法的な基準に準じて述べてきたので、その記載事項は、限定的に理解すべきではなく、例示的なものである。開示した実施例に対する当業者には自明な変形や修正は、当然に、本発明の技術的範囲に属する。従って、本発明が主張する法的保護の範囲は、次に示す特許請求の範囲の記載を精査理解することで決定できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 液体と接触する太陽光吸収化合物材料のバルクのターゲットを用意するステップと、
(b) 前記ターゲットをパルスレーザビームで照射して、前記ターゲットを溶発することにより、前記ターゲットのナノ粒子を生成するステップと、
(c) 前記ターゲットの化学量論的組成と結晶構造とを維持している前記ナノ粒子を集めるステップ、
を含むことを特徴とする、化合物ターゲットから太陽光吸収化合物材料のナノ粒子を製造する方法。
【請求項2】
ステップ(a)が、前記ターゲットとして、周期律表のIIB族とVIA族から選択された元素からなる2元化合物材料を用意することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)が、前記ターゲットとして、周期律表のIB族、IIIA族及びVIA族から選択された元素からなる3元化合物材料を用意することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)が、前記ターゲットとして、周期律表のIB族、IIB族、IIIA族、IVA族及びVIA族とから選択された元素からなる4元化合物材料を用意することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)が、CdTe、CdSe、CuInSe、CuInS、CuInGaSe、CuInGaS、CuZnSnS、又はCuZnSnSeのなかの一つを、前記ターゲットとして用意することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a)が、銅、インジウム、ガリウム、亜鉛、又はスズの2元、3元又は4元合金を、前記ターゲットとして用意することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(b)が、約10フェムト秒〜10ナノ秒の範囲のパルス幅の前記パルスレーザビームで前記ターゲットを照射することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(b)が、約10フェムト秒〜200ピコ秒の範囲のパルス幅の前記パルスレーザビームで、前記ターゲットを照射することを含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(b)が、約100nJ〜10mJの範囲のパルスエネルギの前記パルスレーザビームで、前記ターゲットを照射することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(b)が、約1μJ〜10μJのパルスエネルギの前記パルスレーザビームで、前記ターゲットを照射することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(b)が、約100MHz未満のパルス繰返周波数の前記パルスレーザビームで、前記ターゲットを照射することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(b)が、約100kHz〜1MHzの範囲のパルス繰返周波数の前記パルスレーザビームで、前記ターゲットを照射することを含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(b)が、UV、可視光線、又は近赤外線の領域の波長の前記パルスレーザビームで、前記ターゲットを照射することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(b)が、振動ミラーを用いて、前記ターゲット上の前記パルスレーザビームを移動することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記振動ミラーが10Hz以上の周波数と0.1mrad以上の角度振幅とを有し、前記パルスレーザビームの焦点が、前記ターゲットの表面上を0.01m/秒以上の速度で移動することを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(b)が、約20〜40μmの範囲の焦点径を有する前記パルスレーザビームを用意することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(b)が、約2nm〜200nmの粒径分布を有する前記ナノ粒子をつくることを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
ステップ(a)が前記液体中に浸された前記ターゲットを用意することを含み、ステップ(b)が前記パルスレーザビームで前記液体中の前記ターゲットを照射することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(a)が、前記液体として、脱イオン水、有機溶媒、又は液体窒素を用意することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項20】
ステップ(a)で、前記液体が界面活性剤を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項21】
ステップ(a)が、1.0mL/秒以上の流速で前記ターゲットに対して前記液体を循環させることを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項22】
(d) 集められた前記ナノ粒子を基板に塗布して、太陽光吸収薄膜を前記基板上に形成するステップを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項23】
ステップ(d)が、溶液に集められた前記ナノ粒子を前記基板に、滴下塗布、スピン・コーティング、ブレード塗布、スクリーン印刷、又はインク・ジェット印刷により塗布することを更に含むことを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ステップ(d)が、集められた前記ナノ粒子を、半導体、ガラス、ポリマー膜、金属、金属被膜ガラス、又は金属薄膜を含む前記基板に塗布することを含み、モリブデン、銅、チタン、又はこれらの混合物のなかの一つを、金属として用いることを更に含むことを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項25】
請求項22に記載の方法で製造した太陽光吸収層を含むことを特徴とする太陽光電池ラマン分光増強装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−519505(P2013−519505A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552904(P2012−552904)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際出願番号】PCT/US2011/023527
【国際公開番号】WO2011/100152
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(593185670)イムラ アメリカ インコーポレイテッド (65)
【Fターム(参考)】