パルス・ウォータージェットを用いて溶射被覆のためにシリンダ・ボア表面を前処理するための方法及び装置
パルス・ウォータージェットを用いてシリンダ・ボアの表面を前処理するための装置及び方法が、信号発生器を用いて周波数fを有する信号を発生させる段階、出口穴直径d及び長さLを有するノズルの出口穴を介してパルス・ウォータージェットを生成するように信号を印加する段階を含む。このパルス・ウォータージェットは、所定の表面粗さ範囲内に合わせて表面を前処理する。表面粗さは、スタンドオフ距離(SD)、ノズルのトラバース速度VTR、水圧P、水流量Q、穴の長さ対直径(L/d)比率、並びに信号の周波数f及び振幅Aを含む、作動パラメータを選択することによって決定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、本発明に関して出願する最初の出願である。
【0002】
本発明は、概してパルス・ウォータージェットに関し、特にパルス・ウォータージェットを用いた表面前処理に関し、さらに詳細にはパルス・ウォータージェットを用いたエンジン・シリンダ・ボアの表面前処理に関する。
【背景技術】
【0003】
シリンダ・ボアの溶射被覆は、被覆がボア表面に付着するためにボアの表面が汚染物質及び酸化物を有していてはならず、さらに所望の表面粗さ範囲を有していなければならないことから、被覆を可能にするようにボア表面を前処理することを必要とする。一般的には、2つの表面前処理方法、すなわちグリット・ブラスト及び高圧ウォータージェットが利用される。他の方法には、研磨リーマ、ドリルの錐先、及びダブテール・エッジを用いた機械的粗面化が含まれる。
【0004】
グリット・ブラストは、表面を侵食(又は摩滅)するのに十分な速度で基材に向けられる、アルミニウム酸化物粒子又はチルド鋳鉄粒子などの硬質研磨材を使用する。この表面前処理方法は、基材表面中に幾分かのグリット媒体が捕獲されて被覆系中に汚染物質をもたらす恐れがあり、さらに塗布後の被覆の研削又はホーニング仕上げに悪影響を及ぼす恐れがある。さらに、グリット・ブラストでは、グリット粒子が高速で基材から跳ね返り、シール及び機械設備に貫入する恐れがある。グリット・ブラストは、溶射被覆のための表面の前処理のために、長年にわたり本業界において利用されており、依然として最も一般的な方法である。
【0005】
連続流ウォータージェットとしても知られている高圧ウォータージェット(HPWJ: high pressure water jet)は、約344.738MPa(約50,000psi)の圧力を用いてノズルから射出した水流を利用して表面を侵食する。この方法は、非常に多量のエネルギーを消費し、さらに非常に高圧での実施に伴う安全上の課題を有する。HPWJは、過去20年間にわたって発展してきた。
【0006】
切削及び洗浄のための連続流高圧ウォータージェットシステムの例が、例えば、米国特許第4,787,178号(Morgan等)、米国特許第4,966,059号(Landeck)、米国特許第6,533,640号(Nopwaskey等)、米国特許第5,584,016号(Varghese等)、米国特許第5,778,713号(Butler等)、米国特許第6,021,699号(Caspar)、米国特許第6,126,524号(Shepherd)、及び米国特許第6,220,529号(Xu)などにおいて公知となっている。他の例は、欧州特許出願第0810038号(Munoz)、欧州特許出願第0983827号(Zumstein)米国特許出願公開第2002/0109017号(Rogers等)、米国特許出願公開第2002/0124868号(Rice等)、及び米国特許出願公開第2002/0173220号(Lewin等)において見ることができる。
【0007】
上述したものが例であるような連続流ウォータージェット技術は、連続流ウォータージェットシステムを高価且つ扱いにくいものにしてしまういくつかの欠点を有する。当業者には理解されるであろうが、連続流ウォータージェット装置は、用いられる極度に高い水圧に耐えるように頑丈に設計されなければならない。その結果、ノズル、送水管、及び取付具が、かさばり、高重量となり、高価なものとなる。超高圧ウォータージェットを送給するためには、高価な超高圧ウォータ・ポンプが必要となり、さらにこれにより、かかるポンプの資本コスト及びかかるポンプを作動させるのに伴うエネルギー・コスト、さらにはメンテナンス・コストに関するすべてにおいて、コストが上昇する。
【0008】
連続流ウォータージェットのこれら短所に対応して、不連続の離散小塊すなわち「スラグ」の状態で高周波変調された水を送給するための超音波パルス・ノズルが開発された。この超音波ノズルは、米国特許第5,134,347号(Vijay)において詳細に説明及び図示されており、これは、超音波発生器による超音波振動を、ウォータージェットがノズルを通過する際にこのウォータージェットに数千パルス/秒を与え得る超高周波機械振動へと変換することを開示している。これらのウォータージェットパルスは、切削又は洗浄すべき表面に対して水撃圧を与える。標的表面に対して水撃圧をそれぞれが与えるこの水の小スラグの高速衝撃により、ウォータージェットの侵食能力が高まる。この超音波パルス・ノズルは、先行技術の連続流ウォータージェットよりも効率的に切削又は洗浄を行うことが可能である。
【0009】
理論的には、標的表面に衝突する侵食圧はよどみ点圧力であり、水密度をρ、水が標的表面に衝突する際の水の衝撃速度をvとしたとき1−ρv2である。対照的に、水撃現象により生じる圧力は、ρcvとなり、ここでcは約1524m/sである水中の音速を表す。
【0010】
ウォータージェットをパルス化することにより達成される衝撃圧の理論的規模は、2c/vである。空気抵抗を無視し、衝撃速度を約465m/s(すなわち1500フィート/秒)の流体排出速度の近似値であると仮定しても、衝撃圧の規模は、約6〜7となる。空気抵抗を考慮に入れ、衝撃速度が約300m/sであると仮定した場合には、理論的規模は10倍になる。
【0011】
実際には、摩擦損失及び他の非効率条件により、米国特許第5,154,347号に記載されるパルス超音波ノズルは、所与の源圧に対する約6〜8倍の衝撃圧を標的表面に与える。したがって同一の侵食能力を実現するためには、パルス・ノズルは、わずか1/6〜1/8倍の低力の圧力源で作動することが必要となる。パルス・ノズルは、はるかに小型で廉価なポンプと共に使用し得るため、連続流ウォータージェットノズルよりも経済的である。さらに、ノズル、送水管、及び取付具内のウォータージェット圧力が、超音波ノズルでははるかに低くなるために、超音波ノズルは、より軽量で、扱いがより容易で、より費用対効果の高いものに設計することが可能となる。
【0012】
米国特許第5,154,347号に記載される超音波ノズル及び「ULTROSONIC WATERJET APPARATUS」と題された国際公開第2005/042177号に示されるその改良版(これらは共に参照により本明細書に組み込まれる)は、ウォータージェット技術に大きな躍進をもたらすものであるが、これらの初期技術は、表面前処理向けには設計されなかった。したがって、先行技術を改良した、表面を前処理するための方法及び装置が望まれる。さらに、これらの方法のいずれかにより生成される表面プロファイルと同様の表面プロファイルを生成することが可能な高圧ウォータージェット、又は基材中に捕獲され得る乾燥研磨材の使用を伴わないシリンダ・ボアを前処理する方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,787,178号
【特許文献2】米国特許第4,966,059号
【特許文献3】米国特許第6,533,640号
【特許文献4】米国特許第5,584,016号
【特許文献5】米国特許第5,778,713号
【特許文献6】米国特許第6,021,699号
【特許文献7】米国特許第6,126,524号
【特許文献8】米国特許第6,220,529号
【特許文献9】欧州特許出願第0810038号
【特許文献10】欧州特許出願第0983827号
【特許文献11】米国特許出願公開第2002/0109017号
【特許文献12】米国特許出願公開第2002/0124868号
【特許文献13】米国特許出願公開第2002/0173220号
【特許文献14】米国特許第5,134,347号
【特許文献15】米国特許第5,154,347号
【特許文献16】国際公開第2005/042177号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の1つの目的は、エンジン・シリンダ・ボアの表面前処理のためのパルス・ウォータージェット(PWJ:pulsed waterjet)装置を提示することである。より具体的には、PWJは、溶射被覆を受け入れるためにエンジン・シリンダ・ボアの表面を前処理することが可能である。パルス・ウォータージェットは、表面前処理性能に関して、連続定常(超高圧)ウォータージェット技術を大幅に上回る改善を示す。パルス・ウォータージェットは、変換器を駆動する信号の周波数(f)及び振幅(A)、水の流量(Q)及び圧力(P)などの重要な作動パラメータ、並びに出口穴の直径d、比率L/d(Lは出口穴の円筒状部分の長さを表す)、及びパラメータ「a」(「a」は微小チップから穴出口までの距離を表す)などのいくつかの重要なノズルのジオメトリを調節することにより、正確且つ非常に均一な表面粗さ特性をもたらすように特定的に調整することが可能である。さらに、表面粗さ特性は、スタンドオフ距離(SD)及び並進移動速度(VTR)などの作動パラメータを調節することにより、制御可能に変更することもできる。PWJは、任意の所要の材料に応じて作動パラメータを選択することにより、この材料上に極めて予測可能な表面仕上げをもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0015】
例えばPWJの1つの用途は、例えばアルミニウム・エンジン・ブロックなどのエンジン・ブロック用のシリンダ・ボアの内方円筒状表面の表面前処理にある。PWJを利用することにより、これらのシリンダ・ボアの表面前処理が、効率的に達成され得るようになり、これらのシリンダ・ボアの表面が、溶射技術を利用して施される被覆の後の接合を最適化するために、非常に厳格な粗さ要件に合わせて前処理され得る。重要な作動パラメータのセット、すなわちf、A、P、Q、VTR、SD、L/d、d、「a」を調節することによって、パルス・ウォータージェットの侵食特性を、侵食すべき特定の材料に合わせて、及び第2としては所望の質量除去速度を実現するように、変更することが可能である。換言すれば、重要な作動パラメータ(f、A、P、Q、VTR、SD、L/d、d、「a」)を調節することにより、非常に均一且つ予測可能な表面粗さが、ピッチング、えぐれ(ガウジング)、又は他の表面欠陥を低減させた状態で達成され得る。さらに、これらの作動パラメータの調節により、ピッチング、えぐれ、又は他の表面欠陥を殆ど無くすことが可能となる。
【0016】
本発明の一つの観点によれば、パルス・ウォータージェットは、高周波パルス・ジェット液体の形成により生成することが可能である。これらの高周波ジェット液体は、内部機械的流量変調器、ヘルムホルツ発振器、自己共振ノズル、及び/又は超音波ノズル用いて生成することが可能である。さらに、パルス・ウォータージェットは、例えば音響変換器の作用により液体に対する音響波を発生させることによってなど、音響波を用いて形成することが可能である。
【0017】
本発明の一つの観点によれば、パルス・ウォータージェットを用いて表面を前処理する新規の方法は、高周波強制パルス・ウォータージェットであり、これは、高周波信号発生器を用いて周波数fを有する高周波信号を発生させるステップと、微小チップを有する変換器にこの高周波信号を印加することにより、変換器の微小チップを振動させ、それにより出口穴直径d及び出口穴長さLを有するノズルの出口穴を介して強制パルス・ウォータージェットを生成するステップと、前処理すべき表面上にこの強制パルス・ウォータージェットを衝突させて、所定の表面粗さ範囲内に合わせてこの表面を前処理するステップであって、この所定の表面粗さ範囲が、スタンドオフ距離(SD)、ノズルのトラバース速度VTR、水圧P、水流量Q、穴の長さ対直径(L/d)比率、微小チップ−出口穴平面間距離(a)、並びに高周波信号の周波数f及び振幅Aを含む作動パラメータを選択することによって決定されるステップとを含む。
【0018】
本発明の別の観点によれば、表面前処理のための新規の強制パルス・ウォータージェット装置は、水圧P及び水流量Qを有する加圧ウォータージェットを生成する高圧ウォータ・ポンプと、周波数f及び振幅Aの高周波信号を発生させるための高周波信号発生器と、加圧ウォータージェットをパルス化する振動へとこの高周波信号を変換するための変換器を有する超音波ノズルとを有し、この超音波ノズルは、加圧ウォータージェットを超音波により変調するための微小チップを有し、この微小チップは、特定のL/d比率を有するように設計されたノズルの出口穴の出口平面から距離(a)だけ離間され、ここでLは、出口穴の長さを表し、dは、出口穴の直径を表し、またL/d比率、周波数f、振幅A、水圧P、水流量Q、及びノズルのトラバース速度VTRが予め定められることにより、ノズルからスタンドオフ距離SDだけ離間された所与の材料の表面を前処理するように特定的に企図されたパルスを有する強制パルス・ウォータージェットが生成されて、材料の表面上に実質的に均一且つ予測可能な表面粗さをもたらす。
【0019】
別の観点においては、パルス・ジェットは、水以外の液体から構成することが可能である。例えばパルス・ジェットは、グリコール、水及びグリコールの混合物、洗浄溶剤、希酸、アルコール、油、及び他の適切な流体であることが可能である。
【0020】
添付の図面と組み合わせることにより、以下の詳細な説明から本技術の他の特徴及び利点が明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例による、表面前処理において使用するための強制パルス・ウォータージェット装置を示す図である。
【図2】強制パルス・ウォータージェット装置のノズルにおける微小チップ及び出口穴のジオメトリを示す図である。
【図3】エンジン・ブロックの内方円筒状ボアの表面前処理において使用するための90度エルボ管を有するノズルの概略図である。
【図4】エンジン・ブロックの内方円筒状ボアの表面前処理において使用するための2つの傾斜穴を有するノズルの概略図である。
【図5】エンジン・ブロックの内方円筒状ボアの表面前処理において使用するための2つの前方向傾斜穴及び2つの後方向傾斜穴を有するノズルの概略図である。
【図6】エンジン・ブロックの内方円筒状ボアの表面前処理において使用するための2つの90度穴を有するノズルの概略図である。
【図7】一実施例による、シリンダ・ボアの内方表面の前処理において使用するための4穴超音波ノズルの断面図である。
【図8】別の実施例による、シリンダ・ボアの内方表面の前処理において使用するための4穴超音波ノズルの断面図である。
【図9】磁歪円筒状芯部を有する超音波ノズルの断面図である。
【図10】磁歪管状芯部を有する超音波ノズルの断面図である。
【図11】高圧ウォータージェットにより生成された表面プロファイルの顕微鏡写真である。
【図12】強制パルス・ウォータージェットにより生成された表面プロファイルの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付の図面全体にわたって、同様の構成は同様の参照数字によって特定されている点に留意されたい。
【0023】
本発明は、パルス・ウォータージェットを用いたシリンダ・ボアの表面前処理の新規の方法の両方に関する。特定の一実例が、強制パルス・ウォータージェット(FPWJ:forced pulsed waterjet)と、所定の表面粗さパラメータにシリンダ・ボア材料を表面前処理するための新規のFPWJ装置とを用いて説明される。
【0024】
(強制パルス・ウォータージェットの基礎的理論)
この新規な技術の十分な認識のため、材料標的へのウォータージェット衝撃が超音波変調によってなぜ強められるかを理解するためにFPWJの基礎的理論の簡単な概説が以下に示される。一定の連続ウォータージェット(CWJ:continuous waterjet)が切削又は洗浄すべき任意の表面に正常に衝突する時点を参照基準と見なすと、衝撃時点での最大圧力は、よどみ点圧力psと呼ばれ、
【数1】
で示される。ここで、V0=ジェット速度であり、ρ=水密度である。V0は、ノズル入口における静圧(ポンプ圧力)−(摩擦損失)であるPに比例する。しかし、水の液滴又はスラグが同一の表面に衝突すると、初期衝撃圧がはるかに高くなる。これは、
【数2】
により示される水撃圧である。ここで、C0=水中の音速=1524m/s(5,000ft/s)である。
【0025】
水撃圧の作用時間は、
【数3】
であり、ここでd=ノズル直径である。
【0026】
上記の等式より、表面における圧力の増幅は、
【数4】
となることが明らかになる。
【0027】
例:
【表1】
【0028】
他の例によれば、ポンプが69MPaで作動するように設定される場合には、標的における水撃圧は、566MPa(82,000psi)となる。材料の挙動は、衝撃圧及び衝撃時間により左右され、この衝撃圧及び衝撃時間は、周波数及びノズル直径により決定されるため、材料侵食すなわち表面前処理性能の著しい向上は、強制パルス・ウォータージェットにより達成される。
【0029】
次に、例として添付の図面を参照として、本発明の主要な両観点(装置及び方法)の好ましい実施例を説明する。
【0030】
(装置)
図1は、本発明の一実施例による、全体を参照数字10によって示した強制パルス・ウォータージェット(FPWJ)装置を図示する。本明細書においては、このFPWJ装置は、超音波ウォータージェット装置とも呼ぶ。この新規の強制パルス・ウォータージェット装置は、金属又は非金属である表面を前処理するために特別に設計される。
【0031】
図1に示すように、強制パルス・ウォータージェット(FPWJ)装置10は、水入口22に連結された、水圧P及び水流量Qの加圧ウォータージェットを生成するための高圧ウォータ・ポンプ20を有する。このFPWJ装置10は、高周波信号発生器24をさらに有する。この高周波信号発生器24は、例えば国際公開第2005/042177号に開示される後付モジュール(RFM:retrofit module)などであることが可能である。この信号発生器24は、周波数f及び振幅Aの高周波信号を発生させるために使用することが可能である。これらの周波数及び振幅は、信号発生器上において調節することが可能である。FPWJ装置10は、加圧ウォータージェットをパルス化する振動へとこの高周波信号を変換するための変換器60を有する超音波ノズル40をさらに有する。この変換器60は、例えば圧電変換器又は磁歪変換器などであることが可能である。ノズル40は、加圧ウォータージェットを超音波により変調するための、直径Dの微小チップ70を有する。これは、強制パルス・ウォータージェット装置のノズルにおける微小チップ及び出口穴のジオメトリを示した図2においてさらに詳細に示される。微小チップ70は、ノズルの出口穴80から、すなわち出口穴80の出口平面から距離「a」だけ離間される。この距離「a」は、ウォータージェットの性能特性の制御において非常に重要となる。さらに、ノズルのジオメトリも非常に重要となる。特に、比率L/dが非常に重要なパラメータであり、ここでLは出口穴の円筒状部分の長さであり、dは出口穴の直径である。もう1つの重要な比率がD/dであり、ここでDはチップの直径であり、dは出口穴の直径である。ウォータージェットの挙動及び特性に影響を及ぼす他の作動パラメータは、高周波信号の周波数f及び振幅A、水圧P及び水流量Q、並びにノズルのトラバース速度VTRである。これらの制御パラメータをすべて考慮することにより、材料の表面上に実質的に均一且つ予測可能な表面粗さをもたらすように、ノズルからスタンドオフ距離SDだけ離間された所与の材料の表面を前処理するように特定的に企図されたパルスを有する、適切な強制パルス・ウォータージェットを生成することが可能となる。
【0032】
一実施例において、ウォータージェット装置は、好ましくは、2:1〜0.5:1の間のL/d比率を有する。多大な実験的データに基づき、L/d比率は、FPWJの性能の決定において、とりわけ表面を予測可能且つ均一に前処理するFPWJの能力において、非常に重要なものであると考えられる。
【0033】
別の実施例においては、ウォータージェット装置は、好ましくは、25.4cm(10.0’’)未満のスタンドオフ距離(SD)で作動される。例えば、ウォータージェット装置は、1.27cm〜12.7cm(0.5’’〜5.0’’)の間で作動され得る。これらのスタンドオフ距離により、パルスが穴の下流で離散スラグとして形成され得るようになり、その後、空気抵抗の影響により変形される。
【0034】
別の実施例においては、ウォータージェット装置は、好ましくは、0.0508cm〜0.254cm(0.020’’〜0.100’’)の間の出口穴直径を有する。この直径dは、P及びQによって決定される。
【0035】
さらに別の実施例においては、ウォータージェット装置は、好ましくは、6.89476MPa〜137.895MPa(1000psi〜20,000si)の間の、より好ましくは34.4738MPa〜68.9476MPa(5000psi〜10,000psi)の間の水圧Pにて作動される。
【0036】
別の実施例においては、比率D/d(Dが微小チップ70の直径を表し、dが出口穴80の直径を表す)は、好ましくは1〜1.5の間である。
【0037】
最適な性能のために、出口穴80は、好ましくは、ノズルを出る際にパルスを最大限に保護するために、図1に示すような鐘形口形状又は円錐状に収束する形状85を有する。しかし、出口穴は、例えば、図2に示す円筒状出口穴などの一定の断面プロファイルを有するなど、直線状であることも可能である。
【0038】
この新規の超音波ウォータージェット装置10は、例えばアルミニウム、鋼、ステンレス鋼、鉄、銅、真鍮、チタン、合金等の金属、又は例えば木材、プラスチック、セラミック、若しくは複合材料などの非金属である表面を前処理するために使用することが可能である。適切なノズルを設計することにより、及び相応して作動パラメータを制御することにより、事実上は、あらゆる種類の表面粗さ又は表面仕上げをもたらすことが可能となる。この新規の技術は、例えばパネル、プレート等の平坦な、又は例えばパイプ、チューブ等の曲線状の表面に対して、さらには強制パルス・ウォータージェット表面前処理に適した特殊形状パーツに対して利用することが可能である。例えば、直ぐ次に示すように、この新規の技術は、シリンダ・ボアの内方表面を前処理するために適合させることが可能である。これを行うためには、以下に説明するように、回転超音波ノズルが使用される。
【0039】
(シリンダ・ボアを前処理するための回転ノズル)
図3〜図6は、ボア又はさらには例えばパイプ、チューブ等の他の円筒状若しくは管状構造体の内部を前処理するために使用し得る、回転超音波ノズルの種々の例を概略的な形態で示す。
【0040】
図3は、90度エルボ管42を有するノズルを概略的に示す。図4は、例えば2つの前方向傾斜穴を有するノズルなどの2穴ノズル44を概略的に示す。図5は、2つの前方向傾斜穴及び2つの後方向傾斜穴を有する4穴ノズル46を概略的に示す。例えば、前方向傾斜出口穴は、微小チップの移動軸線に対して実質的に45度の角度をなすことが可能であり、後方向傾斜出口穴は、微小チップの移動軸線から実質的に135度の角度をなすことが可能である。当然ながら、他の角度を用いることが可能である。図6は、2つの90度(直角方向に配向された)穴48を有するノズルを概略的に示す。
【0041】
当然ながら、図3〜図6に示したこれらの4つの例は、シリンダ・ボアの内部表面を前処理するのに適したノズルを設計する4つの異なる様式を示すために提示されるに過ぎない点を理解されたい。したがって、例えば小型内燃機関のシリンダ・ボアなどの小型のシリンダ・ボアの内方表面にアクセスするために、他のノズル設計の考案が可能である。
【0042】
これらの例のそれぞれにおいて、穴(又は複数の穴)が、円錐状、円筒状、又は鐘形状(「鐘形口形状」)であることが可能である。
【0043】
図5において紹介する回転4穴ノズルに関するいくつかのより詳細なノズル設計を、図7及び図8において例として提示する。
【0044】
図7は、2つの前方向傾斜出口穴130、132及び2つの後方向傾斜出口穴134、136を備える4穴回転超音波ノズル100の断面図である。図7に示すように、これらの出口穴は、各直径d1、d2、d3、d4を有する。一実施例において、これらの直径は全て、例えばd1=d2=d3=d4のように同一であることが可能である。別の実施例においては、これらの直径はすべて異なることが可能である。さらに別の実施例においては、2つの前方向傾斜穴130、132が同一(d1=d4)であり、2つの後方向傾斜穴134、136が同一(d2=d3)である。同様に、これらの出口穴は、垂線に対して共通の角度シータ(θ及びθ)の角度をなすことが可能であり、又はこれらの穴は、θ1、θ2、θ3、θ4のそれぞれについて異なる角度を有することが可能である。さらに代替としては、前方向穴130、132の角度を同一にしつつ、後方向穴134、136の角度を同等にすることが可能である。
【0045】
図7の回転超音波ノズルにおいては、ノズル100の内部前方端部110が、4つの穴のそれぞれを介して強制パルス・ウォータージェットを生成するのに必要な流体力学をもたらすために丸められている(又は鐘形口形状のように形状設定される)。同様に、出口穴の各対の近傍の進入ゾーン120が、これらの穴の中への最適な流入のために丸められるか又は鐘形口形状にやはりなされる。この4穴構成においては、前方向傾斜ウォータージェット(穴130、132から放出される)の侵食能力は、後方向傾斜ウォータージェット(穴134、136から放出される)の侵食能力よりも高いことが予想される。さらに、侵食能力は、ノズルが前方向又は後方向のいずれの方向に並進移動するかどうかに左右される。したがって、「イン−アンド−アウト」サイクルでは、シリンダ・ボアの内方表面は、前方向送り時においては前方向傾斜ジェット及び後方向傾斜ジェットを被ることとなる。後方向送り時には、ノズルが逆の方向に移動しつつあるため、前回に134及び136から放出された後方向傾斜ジェットが、前方向傾斜ジェットとなり、前回に130及び132から放出された前方向傾斜ジェットが、後方向傾斜ジェットとなる。図7に示すこのノズルは、2:1〜0.5:1の範囲内の、好ましくは約1:1の最適なL/d比率を有する出口穴を有するように設計される。この穴の直径(d)に対する穴の長さ(L)の比率は、正確な出力及びスタンドオフ距離での有用な強制パルス・ウォータージェットの形成において非常に重要であり、さらにこれらの正確な出力及びスタンドオフ距離は、所望の表面仕上げ又は表面粗さを実現するために極めて重要である。もう1つの重要なパラメータは、最適な強制パルス・ウォータージェットを生成するために調節することの可能なチップ−穴間の長さ「a」である。任意には、ノズルは、性能を最適化する比率D/d(ここでDは微小チップの直径である)を選択することによって設計される。本出願人は、正確且つ予測可能な表面前仕上げを実施するための強制パルス・ウォータージェットの能力に対するこれらの種々のパラメータ及びその比率の重要性を初めて認識した者であると自負している。これらの種々の作動パラメータの効果、及びそれらの相関性は、本出願人が収集した非常に多大な実験的データに基づいており、この新規の技術の理解を容易にするために、次にそれらの収集データの一部を示す。
【0046】
図8は、シリンダ・ボアの、又は代替的には別の管状構造体の内方表面を前処理するために使用し得る、回転4穴超音波ノズルの別の例の断面図である。この変形例は、参照数字200により示す。図8に示すように、このノズル200は、2つの前方向傾斜穴212及び222(それぞれ直径d1及びd4からなる)並びに2つの後方向傾斜穴232及び242(それぞれ直径d2及びd3からなる)を有する。これらの4つの穴はそれぞれ、図8に示すような各湾曲導管の端部に形成される。具体的には、穴212は導管210の端部に配設され、穴222は導管220の端部に配設され、穴232は導管230の端部に配設され、穴242は導管240の端部に配設される。
【0047】
このノズル200は、この図に示すように初めに切り分けられている2つの高圧チューブを高圧溶接することによって作製することが可能である。これら2つの切り分けられたチューブを接合することにより、鋭角分岐部250が形成される。任意には、このノズルは、各湾曲導管内に固定されることにより各湾曲導管の出口に所望のジオメトリを与える穴インサートを備えることが可能である。この所望のジオメトリは、2:1〜0.5:1の範囲内のL/d比率を実現するようにL及びdの値を選択することによって実現される。好ましくは約1:1のL/d比率が最適であると考えられている。任意には、ノズルは、適切な値の「a」(又は複数穴の場合には複数の値「a」)を有するように設計される。この「a」値は、微小チップから各出口穴までの距離である。この「a」値は、パルスがノズルから適切な距離で展開され、したがってスタンドオフ距離に重要な効果が得られるようにする際に極めて重要となる。任意には、比率D/dが、パルス・ウォータージェットを最適に生成するように設定されてもよい。この値Dは、微小チップの直径である。したがって、比率D/dは、出口穴の直径に対する微小チップの直径の比である。このD/dは、好ましくは約1〜1.5の範囲内である。
【0048】
(実施例:アルミニウム・シリンダ・ボアの前処理)
アルミニウム・エンジン・ブロックのシリンダのボアを前処理するために、超音波ウォータージェット装置は、アルミニウム内燃機関ブロックのシリンダの表面がその後の表面の溶射被覆にとって良好な結合強度を呈するように、所定の表面粗さRz及びRaに合わせて前処理されるように、特別なパラメータで設計される。ここで、Raは、表面粗さパラメータの二乗平均平方根であり、Rzは、平均ピーク間粗さパラメータである。0.102〜0.236cm(0.04〜0.093インチ)の出口穴直径、27.579〜103.421MPa(4.0〜15kpsi)の水圧、0.635〜11.4cm(0.25〜4.5インチ)のスタンドオフ距離、及び2.54〜127cm/分(1.0〜50インチ/分)のトラバース速度を用いることで、優れた試験結果が達成された。
【0049】
ウォータージェットによるアルミニウム・シリンダ・ボアの前処理にとって最適なRa値及びRz値は、グリット・ブラストにより得られるそれらの値とは異なる。その理由は、実際の表面プロファイルの特性に起因する。グリット・ブラストは、シリンダ・ボアに施される溶射被覆の付着を補助する浅いアンダーカットすなわち「フック」を形成する。これとは対照的に、ウォータージェットすなわちジェット流体は、被覆が中に付着する小さなレセプタクルにほぼ似たポケットを形成する。
【0050】
代替的には、アルミニウム内燃機関ブロックのシリンダ・ボアを、その後の表面の溶射被覆にとって良好な結合強度を呈することがやはり予想される所定の表面粗さRa及びRzに合わせて前処理することが可能である。120の低いRa値が許容され得ると考えられることを指摘しておく。これらの試験は、AlSiアルミニウム・エンジン・ブロックのシリンダ・ボアに関して実施したが、必要に応じて変更を加えることで他のアルミニウム・エンジン・ブロックのボアにも適用し得ると考えられる。これらの結果の補外により、他のアルミニウム合金又はさらには鉄から作製されたエンジン・ブロックのボアなどの多のタイプの材料からなるボアの前処理が可能となる。
【0051】
超音波ノズルは、圧電変換器を使用することが可能であるが、磁歪ノズルを使用することもまた可能である。図9は、磁歪円筒状芯部を有する超音波ノズルの一実例の断面図である。図10は、磁歪管状芯部を有する超音波ノズルの別の実例の断面図である。図9及び図10に示すノズルは、国際公開第2005/042177号(Vijay)においてさらに十分に説明されている。
【0052】
(方法)
さらに本技術は、高周波強制パルス・ウォータージェットを用いて表面を前処理する新規の方法に関する。本方法は、高周波信号発生器を用いて周波数f(例えば10〜20kHz)を有する高周波信号を発生させるステップと、微小チップ(又は「プローブ」)を有する変換器(例えば圧電変換器又は歪時変換器)にこの高周波信号を印加して、変換器の微小チップを振動させることにより、出口穴直径dを有するノズルの出口穴を介して強制パルス・ウォータージェットを生成するステップとを含む。強制パルス・ウォータージェットは、前処理すべき表面(すなわち標的材料)上に衝突されることにより、(標的材料の)表面を所定の表面粗さ範囲内(例えばRa値及びRz値)に合わせて前処理する。この所定の表面粗さ範囲は、スタンドオフ距離(SD)、ノズルのトラバース速度VTR、水圧P、水流量Q、長さ対直径(L/d)比率(ここでLは出口穴の円筒状部分の長さを表す)、微小チップから出口穴の出口平面までの距離を表すパラメータ「a」、並びに高周波信号の周波数f及び振幅Aを含む作動パラメータを選択することによって決定される。
【0053】
好ましくは、L/d比率は、2:1〜0.5:1の間の範囲である。例えば優れた結果が2:1のL/d比率により、又は0.5:1のL/d比率により実現されている。しかし、最良の結果は1:1のL/d比率により実現されている。
【0054】
スタンドオフ距離(SD)は、好ましくは25.4cm(10.0’’)未満であり、より好ましくは1.27cm〜12.7cm(0.5’’〜5.0’’)の間の範囲である。スタンドオフ距離は、スラグが十分に形成される場合に最適となる。過度に短いスタンドオフ距離は、パルスが形成されるのに十分な時間がないため好ましくない。同様に、過度に長いスタンドオフ距離は、スラグにそれ相応の空気力学的力が作用することによりパルスが消失し始めるため好ましくない。したがって、最適なSDは、所望の表面前処理結果の達成に寄与する。
【0055】
好ましくは、出口穴直径dは0.0508cm〜0.254cm(0.020’’〜0.100’’)の間の範囲であり、より好ましくは0.102〜0.165cm(0.040’’〜0.065’’)の間の範囲である。例えば、出口穴直径d=0.102cm(0.040’’)、又はd=0.127cm(0.050’’)、又はd=0.137cm(0.054’’)、又は0.165cm(0.065’’)により、優れた結果が達成されている。単一の穴を使用することが可能である。代替的には、2穴ノズル又は複数穴ノズルを使用することが可能である。さらに(任意には)、これらのノズルは、回転するように作製することが可能である。
【0056】
水圧は、好ましくは6.89476MPa〜137.895MPa(1000psi〜20,000psi)の間の範囲であり、より好ましくは34.4738MPa〜68.9476MPa(5000psi〜10,000psi)の間の範囲である。理解されるように、さらに低い又はさらに高い圧力を用いることが可能であるが、好ましくは、137.895MPa(20kpsi)を超過しない。なぜならば、UHP(超高圧ジェット、ultra−high pressure jets)に伴う問題が生じ始めるからである。
【0057】
任意には、ノズルは、特定の比率D/dを有するように構成することが可能である。ここで、Dは微小チップの直径を表し、dは、(上記のように)出口穴の直径を表す。約1の比率D/dにより優れた成果が得られるが、非常に良好な成果は、比率D/dが約1〜1.5の範囲内であれば依然として達成されることが判明している。
【0058】
新規の超音波ウォータージェット装置を説明する前節において上述したように、この新規の方法は、特定の表面仕上げ又は表面粗さを実現するために、任意の形状又はサイズの金属表面又は非金属表面に対して用いることが可能である。作動パラメータを選択することにより、均一且つ予測可能な表面仕上げが実現され得る。換言すれば、この表面仕上げは、種々の作動条件により、及びノズルのジオメトリにより、「予め定められる」ものであり、すなわち再現可能、制御可能、及び予測可能である。
【0059】
(アルミニウム・エンジン・ブロックのシリンダ・ボアの前処理)
この新規の技術の1つの特定の実装形態においては、この革新的な方法は、アルミニウム合金内燃エンジン用のシリンダ・ボアの内部表面を前処理するために利用することが可能である。このシリンダ・ボアは、摩耗、摩擦、及び排気物質に関して往復運動ピストンエンジンの性能を向上させるために用いられる溶射被覆を後に施すのを容易にする、非常に厳格な表面粗さ特性に合わせて前処理することが可能である。
【0060】
この方法は、単穴ノズル、2穴ノズル、又は複数の穴(例えば4つの穴)を有するノズルを用いて実施することが可能である。好ましくは、この方法は、図7に示すノズル又は図8に示すノズルのいずれかを用いて実施することが可能である。これらのノズル設計に基づく変形形態を用いることも当然ながら可能である。強制パルス・ウォータージェットは、1つ又は複数の湾曲穴又は湾曲導管(すなわち「エルボ管」)を介して搬送されてもよく、それにより、強制パルス・ウォータージェットは、実質的に直角方向に出ることによって、シリンダ・ボアの内方表面を前処理する。これらの穴は、様々な結果を達成するために、様々な角度をなすこともまた可能である。この方法は、最適なジェット性能のために鐘形口形状を有する出口穴を有するノズルを用いることによって、最適に実施することが可能であるが、この方法は、円錐状穴又は通常の円筒状穴を用いても実施することが可能である。
【0061】
シリンダ・ボアの内方表面を表面前処理する方法は、有利には、2つの前方向傾斜出口穴及び2つの後方向傾斜出口穴を備えるノズルを用いて実施することが可能である。好ましい一実施例においては、前方向傾斜出口穴は、微小チップの移動軸線に対してほぼ45度の角度をなし、後方向傾斜出口穴は、微小チップの移動軸線からほぼ135度の角度をなす。この構成においては、4つのジェットがシリンダ・ボア上に同時に衝突する。エンジン・ブロックが、好ましくは治具又は他の把持デバイス内において固定状態に維持されるため、ノズルは、トラバース速度VTRでシリンダ・ボアの軸線に整列した軸線に沿ってボアの内外へと並進移動されつつ、例えば1000〜2000RPMなどの一定の回転速度で回転される。このトラバース速度は、好ましくは所望の時間枠内において1つの表面前処理サイクルを完了するように設定される。例えば、表面前処理が1分で完了すべきであり、ボアの長さが12.7cm(5インチ)である場合には、ノズルが割り当て時間内に1サイクル(2つの送り、すなわち内方向及び外方向)を完了し得るように、VTRは25.4cm/分(10インチ/分)であるべきである。
【0062】
被覆を施すための表面の適合化の代替的な措置は、絶対値Ra及びRzのみではなく、さらにそれらの比率Rz/Raを考慮することである。したがって、この方法は、所定の表面粗さ比率に合わせてアルミニウム内燃機関ブロック(例えばAlSiCuアルミニウム合金エンジン・ブロック)のシリンダ・ボアを前処理するために用いることが可能となる。
【0063】
(オプションの研磨材の混入)
この新規の方法の一変形例においては、研磨材をウォータージェット中に混入させることにより、より高い侵食能力を実現することが可能である。研磨材は、ゼオライト又はガーネットなどの地質由来のもの、又はアルミナ及び同様のセラミックスなどの人造由来のものが可能である。代替的には、溶射粒子を前処理のために使用することが可能である。この場合、溶射粒子は、前処理の最中に材料中に部分的に埋め込まれる。その後、被覆の際に、同じ溶射粒子が、前処理された表面上に被覆される。
【0064】
この研磨材は、微小チップ(プローブ)の侵食を防ぐために、微小チップの下流においてパルス・ウォータージェット中にこの研磨材を注入することによって混入させることが可能である。微小チップの下流にて混合チャンバを用いることにより、研磨剤が、ウォータージェットパルスを妨げる又は損なうことなくウォータージェット中に完全に及び均一に混合されるようにすることが可能である。換言すれば、水の離散スラグは、研磨材混合/混入の実施後にも完全な状態のままでなければならない。
【0065】
(オプションのデュアル・モード作動)
有利には、強制パルス・ウォータージェットマシンは、2つのモードにて任意に作動することが可能である。すなわち、超音波出力がオフになされると、マシンは、連続定常ウォータージェットによる従来的なウォータ・ブラスタとして機能する。これは、通常のブラスト作業にとって、又は軟質被覆の除去にとって有用となり得る。硬質被覆に直面した場合には、超音波発生器を作動させることによりこれらの被覆を除去することが可能となる。したがって、デュアル・モード作動により、ユーザは所望に応じてパルス・ウォータージェットと連続ウォータージェットとの間で切替えを行うことが可能となる。
【0066】
図11及び図12は、同一のシリンダ・ボアの表面に対してHPWJ及びFPWJをそれぞれ用いて前処理された表面プロファイルを比較として示す。HPWJは、284.754MPa(41,300psi)の印加圧力を用いることにより、図11に図示される表面を生成した。対照的に、FPWJで68.9476MPa(10,000psi)の印加圧力を用いたものが、図12に図示される。測定Ra値及びRz値は、ほぼ同一であった。また、図面に示すように、表面の外観は、どちらがHPWJでありどちらがFPWJであるかの判断が困難なほど類似している。
【0067】
上述の本発明の実施例は、もっぱら例示として意図されるに過ぎない。本明細書の対象となる当業者には理解されるであろうが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本明細書において提示される実施例に対して、多数の明白な変更を行うことが可能である。したがって、本出願人が要求する独占権の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるように意図される。
【技術分野】
【0001】
本出願は、本発明に関して出願する最初の出願である。
【0002】
本発明は、概してパルス・ウォータージェットに関し、特にパルス・ウォータージェットを用いた表面前処理に関し、さらに詳細にはパルス・ウォータージェットを用いたエンジン・シリンダ・ボアの表面前処理に関する。
【背景技術】
【0003】
シリンダ・ボアの溶射被覆は、被覆がボア表面に付着するためにボアの表面が汚染物質及び酸化物を有していてはならず、さらに所望の表面粗さ範囲を有していなければならないことから、被覆を可能にするようにボア表面を前処理することを必要とする。一般的には、2つの表面前処理方法、すなわちグリット・ブラスト及び高圧ウォータージェットが利用される。他の方法には、研磨リーマ、ドリルの錐先、及びダブテール・エッジを用いた機械的粗面化が含まれる。
【0004】
グリット・ブラストは、表面を侵食(又は摩滅)するのに十分な速度で基材に向けられる、アルミニウム酸化物粒子又はチルド鋳鉄粒子などの硬質研磨材を使用する。この表面前処理方法は、基材表面中に幾分かのグリット媒体が捕獲されて被覆系中に汚染物質をもたらす恐れがあり、さらに塗布後の被覆の研削又はホーニング仕上げに悪影響を及ぼす恐れがある。さらに、グリット・ブラストでは、グリット粒子が高速で基材から跳ね返り、シール及び機械設備に貫入する恐れがある。グリット・ブラストは、溶射被覆のための表面の前処理のために、長年にわたり本業界において利用されており、依然として最も一般的な方法である。
【0005】
連続流ウォータージェットとしても知られている高圧ウォータージェット(HPWJ: high pressure water jet)は、約344.738MPa(約50,000psi)の圧力を用いてノズルから射出した水流を利用して表面を侵食する。この方法は、非常に多量のエネルギーを消費し、さらに非常に高圧での実施に伴う安全上の課題を有する。HPWJは、過去20年間にわたって発展してきた。
【0006】
切削及び洗浄のための連続流高圧ウォータージェットシステムの例が、例えば、米国特許第4,787,178号(Morgan等)、米国特許第4,966,059号(Landeck)、米国特許第6,533,640号(Nopwaskey等)、米国特許第5,584,016号(Varghese等)、米国特許第5,778,713号(Butler等)、米国特許第6,021,699号(Caspar)、米国特許第6,126,524号(Shepherd)、及び米国特許第6,220,529号(Xu)などにおいて公知となっている。他の例は、欧州特許出願第0810038号(Munoz)、欧州特許出願第0983827号(Zumstein)米国特許出願公開第2002/0109017号(Rogers等)、米国特許出願公開第2002/0124868号(Rice等)、及び米国特許出願公開第2002/0173220号(Lewin等)において見ることができる。
【0007】
上述したものが例であるような連続流ウォータージェット技術は、連続流ウォータージェットシステムを高価且つ扱いにくいものにしてしまういくつかの欠点を有する。当業者には理解されるであろうが、連続流ウォータージェット装置は、用いられる極度に高い水圧に耐えるように頑丈に設計されなければならない。その結果、ノズル、送水管、及び取付具が、かさばり、高重量となり、高価なものとなる。超高圧ウォータージェットを送給するためには、高価な超高圧ウォータ・ポンプが必要となり、さらにこれにより、かかるポンプの資本コスト及びかかるポンプを作動させるのに伴うエネルギー・コスト、さらにはメンテナンス・コストに関するすべてにおいて、コストが上昇する。
【0008】
連続流ウォータージェットのこれら短所に対応して、不連続の離散小塊すなわち「スラグ」の状態で高周波変調された水を送給するための超音波パルス・ノズルが開発された。この超音波ノズルは、米国特許第5,134,347号(Vijay)において詳細に説明及び図示されており、これは、超音波発生器による超音波振動を、ウォータージェットがノズルを通過する際にこのウォータージェットに数千パルス/秒を与え得る超高周波機械振動へと変換することを開示している。これらのウォータージェットパルスは、切削又は洗浄すべき表面に対して水撃圧を与える。標的表面に対して水撃圧をそれぞれが与えるこの水の小スラグの高速衝撃により、ウォータージェットの侵食能力が高まる。この超音波パルス・ノズルは、先行技術の連続流ウォータージェットよりも効率的に切削又は洗浄を行うことが可能である。
【0009】
理論的には、標的表面に衝突する侵食圧はよどみ点圧力であり、水密度をρ、水が標的表面に衝突する際の水の衝撃速度をvとしたとき1−ρv2である。対照的に、水撃現象により生じる圧力は、ρcvとなり、ここでcは約1524m/sである水中の音速を表す。
【0010】
ウォータージェットをパルス化することにより達成される衝撃圧の理論的規模は、2c/vである。空気抵抗を無視し、衝撃速度を約465m/s(すなわち1500フィート/秒)の流体排出速度の近似値であると仮定しても、衝撃圧の規模は、約6〜7となる。空気抵抗を考慮に入れ、衝撃速度が約300m/sであると仮定した場合には、理論的規模は10倍になる。
【0011】
実際には、摩擦損失及び他の非効率条件により、米国特許第5,154,347号に記載されるパルス超音波ノズルは、所与の源圧に対する約6〜8倍の衝撃圧を標的表面に与える。したがって同一の侵食能力を実現するためには、パルス・ノズルは、わずか1/6〜1/8倍の低力の圧力源で作動することが必要となる。パルス・ノズルは、はるかに小型で廉価なポンプと共に使用し得るため、連続流ウォータージェットノズルよりも経済的である。さらに、ノズル、送水管、及び取付具内のウォータージェット圧力が、超音波ノズルでははるかに低くなるために、超音波ノズルは、より軽量で、扱いがより容易で、より費用対効果の高いものに設計することが可能となる。
【0012】
米国特許第5,154,347号に記載される超音波ノズル及び「ULTROSONIC WATERJET APPARATUS」と題された国際公開第2005/042177号に示されるその改良版(これらは共に参照により本明細書に組み込まれる)は、ウォータージェット技術に大きな躍進をもたらすものであるが、これらの初期技術は、表面前処理向けには設計されなかった。したがって、先行技術を改良した、表面を前処理するための方法及び装置が望まれる。さらに、これらの方法のいずれかにより生成される表面プロファイルと同様の表面プロファイルを生成することが可能な高圧ウォータージェット、又は基材中に捕獲され得る乾燥研磨材の使用を伴わないシリンダ・ボアを前処理する方法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,787,178号
【特許文献2】米国特許第4,966,059号
【特許文献3】米国特許第6,533,640号
【特許文献4】米国特許第5,584,016号
【特許文献5】米国特許第5,778,713号
【特許文献6】米国特許第6,021,699号
【特許文献7】米国特許第6,126,524号
【特許文献8】米国特許第6,220,529号
【特許文献9】欧州特許出願第0810038号
【特許文献10】欧州特許出願第0983827号
【特許文献11】米国特許出願公開第2002/0109017号
【特許文献12】米国特許出願公開第2002/0124868号
【特許文献13】米国特許出願公開第2002/0173220号
【特許文献14】米国特許第5,134,347号
【特許文献15】米国特許第5,154,347号
【特許文献16】国際公開第2005/042177号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の1つの目的は、エンジン・シリンダ・ボアの表面前処理のためのパルス・ウォータージェット(PWJ:pulsed waterjet)装置を提示することである。より具体的には、PWJは、溶射被覆を受け入れるためにエンジン・シリンダ・ボアの表面を前処理することが可能である。パルス・ウォータージェットは、表面前処理性能に関して、連続定常(超高圧)ウォータージェット技術を大幅に上回る改善を示す。パルス・ウォータージェットは、変換器を駆動する信号の周波数(f)及び振幅(A)、水の流量(Q)及び圧力(P)などの重要な作動パラメータ、並びに出口穴の直径d、比率L/d(Lは出口穴の円筒状部分の長さを表す)、及びパラメータ「a」(「a」は微小チップから穴出口までの距離を表す)などのいくつかの重要なノズルのジオメトリを調節することにより、正確且つ非常に均一な表面粗さ特性をもたらすように特定的に調整することが可能である。さらに、表面粗さ特性は、スタンドオフ距離(SD)及び並進移動速度(VTR)などの作動パラメータを調節することにより、制御可能に変更することもできる。PWJは、任意の所要の材料に応じて作動パラメータを選択することにより、この材料上に極めて予測可能な表面仕上げをもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0015】
例えばPWJの1つの用途は、例えばアルミニウム・エンジン・ブロックなどのエンジン・ブロック用のシリンダ・ボアの内方円筒状表面の表面前処理にある。PWJを利用することにより、これらのシリンダ・ボアの表面前処理が、効率的に達成され得るようになり、これらのシリンダ・ボアの表面が、溶射技術を利用して施される被覆の後の接合を最適化するために、非常に厳格な粗さ要件に合わせて前処理され得る。重要な作動パラメータのセット、すなわちf、A、P、Q、VTR、SD、L/d、d、「a」を調節することによって、パルス・ウォータージェットの侵食特性を、侵食すべき特定の材料に合わせて、及び第2としては所望の質量除去速度を実現するように、変更することが可能である。換言すれば、重要な作動パラメータ(f、A、P、Q、VTR、SD、L/d、d、「a」)を調節することにより、非常に均一且つ予測可能な表面粗さが、ピッチング、えぐれ(ガウジング)、又は他の表面欠陥を低減させた状態で達成され得る。さらに、これらの作動パラメータの調節により、ピッチング、えぐれ、又は他の表面欠陥を殆ど無くすことが可能となる。
【0016】
本発明の一つの観点によれば、パルス・ウォータージェットは、高周波パルス・ジェット液体の形成により生成することが可能である。これらの高周波ジェット液体は、内部機械的流量変調器、ヘルムホルツ発振器、自己共振ノズル、及び/又は超音波ノズル用いて生成することが可能である。さらに、パルス・ウォータージェットは、例えば音響変換器の作用により液体に対する音響波を発生させることによってなど、音響波を用いて形成することが可能である。
【0017】
本発明の一つの観点によれば、パルス・ウォータージェットを用いて表面を前処理する新規の方法は、高周波強制パルス・ウォータージェットであり、これは、高周波信号発生器を用いて周波数fを有する高周波信号を発生させるステップと、微小チップを有する変換器にこの高周波信号を印加することにより、変換器の微小チップを振動させ、それにより出口穴直径d及び出口穴長さLを有するノズルの出口穴を介して強制パルス・ウォータージェットを生成するステップと、前処理すべき表面上にこの強制パルス・ウォータージェットを衝突させて、所定の表面粗さ範囲内に合わせてこの表面を前処理するステップであって、この所定の表面粗さ範囲が、スタンドオフ距離(SD)、ノズルのトラバース速度VTR、水圧P、水流量Q、穴の長さ対直径(L/d)比率、微小チップ−出口穴平面間距離(a)、並びに高周波信号の周波数f及び振幅Aを含む作動パラメータを選択することによって決定されるステップとを含む。
【0018】
本発明の別の観点によれば、表面前処理のための新規の強制パルス・ウォータージェット装置は、水圧P及び水流量Qを有する加圧ウォータージェットを生成する高圧ウォータ・ポンプと、周波数f及び振幅Aの高周波信号を発生させるための高周波信号発生器と、加圧ウォータージェットをパルス化する振動へとこの高周波信号を変換するための変換器を有する超音波ノズルとを有し、この超音波ノズルは、加圧ウォータージェットを超音波により変調するための微小チップを有し、この微小チップは、特定のL/d比率を有するように設計されたノズルの出口穴の出口平面から距離(a)だけ離間され、ここでLは、出口穴の長さを表し、dは、出口穴の直径を表し、またL/d比率、周波数f、振幅A、水圧P、水流量Q、及びノズルのトラバース速度VTRが予め定められることにより、ノズルからスタンドオフ距離SDだけ離間された所与の材料の表面を前処理するように特定的に企図されたパルスを有する強制パルス・ウォータージェットが生成されて、材料の表面上に実質的に均一且つ予測可能な表面粗さをもたらす。
【0019】
別の観点においては、パルス・ジェットは、水以外の液体から構成することが可能である。例えばパルス・ジェットは、グリコール、水及びグリコールの混合物、洗浄溶剤、希酸、アルコール、油、及び他の適切な流体であることが可能である。
【0020】
添付の図面と組み合わせることにより、以下の詳細な説明から本技術の他の特徴及び利点が明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例による、表面前処理において使用するための強制パルス・ウォータージェット装置を示す図である。
【図2】強制パルス・ウォータージェット装置のノズルにおける微小チップ及び出口穴のジオメトリを示す図である。
【図3】エンジン・ブロックの内方円筒状ボアの表面前処理において使用するための90度エルボ管を有するノズルの概略図である。
【図4】エンジン・ブロックの内方円筒状ボアの表面前処理において使用するための2つの傾斜穴を有するノズルの概略図である。
【図5】エンジン・ブロックの内方円筒状ボアの表面前処理において使用するための2つの前方向傾斜穴及び2つの後方向傾斜穴を有するノズルの概略図である。
【図6】エンジン・ブロックの内方円筒状ボアの表面前処理において使用するための2つの90度穴を有するノズルの概略図である。
【図7】一実施例による、シリンダ・ボアの内方表面の前処理において使用するための4穴超音波ノズルの断面図である。
【図8】別の実施例による、シリンダ・ボアの内方表面の前処理において使用するための4穴超音波ノズルの断面図である。
【図9】磁歪円筒状芯部を有する超音波ノズルの断面図である。
【図10】磁歪管状芯部を有する超音波ノズルの断面図である。
【図11】高圧ウォータージェットにより生成された表面プロファイルの顕微鏡写真である。
【図12】強制パルス・ウォータージェットにより生成された表面プロファイルの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付の図面全体にわたって、同様の構成は同様の参照数字によって特定されている点に留意されたい。
【0023】
本発明は、パルス・ウォータージェットを用いたシリンダ・ボアの表面前処理の新規の方法の両方に関する。特定の一実例が、強制パルス・ウォータージェット(FPWJ:forced pulsed waterjet)と、所定の表面粗さパラメータにシリンダ・ボア材料を表面前処理するための新規のFPWJ装置とを用いて説明される。
【0024】
(強制パルス・ウォータージェットの基礎的理論)
この新規な技術の十分な認識のため、材料標的へのウォータージェット衝撃が超音波変調によってなぜ強められるかを理解するためにFPWJの基礎的理論の簡単な概説が以下に示される。一定の連続ウォータージェット(CWJ:continuous waterjet)が切削又は洗浄すべき任意の表面に正常に衝突する時点を参照基準と見なすと、衝撃時点での最大圧力は、よどみ点圧力psと呼ばれ、
【数1】
で示される。ここで、V0=ジェット速度であり、ρ=水密度である。V0は、ノズル入口における静圧(ポンプ圧力)−(摩擦損失)であるPに比例する。しかし、水の液滴又はスラグが同一の表面に衝突すると、初期衝撃圧がはるかに高くなる。これは、
【数2】
により示される水撃圧である。ここで、C0=水中の音速=1524m/s(5,000ft/s)である。
【0025】
水撃圧の作用時間は、
【数3】
であり、ここでd=ノズル直径である。
【0026】
上記の等式より、表面における圧力の増幅は、
【数4】
となることが明らかになる。
【0027】
例:
【表1】
【0028】
他の例によれば、ポンプが69MPaで作動するように設定される場合には、標的における水撃圧は、566MPa(82,000psi)となる。材料の挙動は、衝撃圧及び衝撃時間により左右され、この衝撃圧及び衝撃時間は、周波数及びノズル直径により決定されるため、材料侵食すなわち表面前処理性能の著しい向上は、強制パルス・ウォータージェットにより達成される。
【0029】
次に、例として添付の図面を参照として、本発明の主要な両観点(装置及び方法)の好ましい実施例を説明する。
【0030】
(装置)
図1は、本発明の一実施例による、全体を参照数字10によって示した強制パルス・ウォータージェット(FPWJ)装置を図示する。本明細書においては、このFPWJ装置は、超音波ウォータージェット装置とも呼ぶ。この新規の強制パルス・ウォータージェット装置は、金属又は非金属である表面を前処理するために特別に設計される。
【0031】
図1に示すように、強制パルス・ウォータージェット(FPWJ)装置10は、水入口22に連結された、水圧P及び水流量Qの加圧ウォータージェットを生成するための高圧ウォータ・ポンプ20を有する。このFPWJ装置10は、高周波信号発生器24をさらに有する。この高周波信号発生器24は、例えば国際公開第2005/042177号に開示される後付モジュール(RFM:retrofit module)などであることが可能である。この信号発生器24は、周波数f及び振幅Aの高周波信号を発生させるために使用することが可能である。これらの周波数及び振幅は、信号発生器上において調節することが可能である。FPWJ装置10は、加圧ウォータージェットをパルス化する振動へとこの高周波信号を変換するための変換器60を有する超音波ノズル40をさらに有する。この変換器60は、例えば圧電変換器又は磁歪変換器などであることが可能である。ノズル40は、加圧ウォータージェットを超音波により変調するための、直径Dの微小チップ70を有する。これは、強制パルス・ウォータージェット装置のノズルにおける微小チップ及び出口穴のジオメトリを示した図2においてさらに詳細に示される。微小チップ70は、ノズルの出口穴80から、すなわち出口穴80の出口平面から距離「a」だけ離間される。この距離「a」は、ウォータージェットの性能特性の制御において非常に重要となる。さらに、ノズルのジオメトリも非常に重要となる。特に、比率L/dが非常に重要なパラメータであり、ここでLは出口穴の円筒状部分の長さであり、dは出口穴の直径である。もう1つの重要な比率がD/dであり、ここでDはチップの直径であり、dは出口穴の直径である。ウォータージェットの挙動及び特性に影響を及ぼす他の作動パラメータは、高周波信号の周波数f及び振幅A、水圧P及び水流量Q、並びにノズルのトラバース速度VTRである。これらの制御パラメータをすべて考慮することにより、材料の表面上に実質的に均一且つ予測可能な表面粗さをもたらすように、ノズルからスタンドオフ距離SDだけ離間された所与の材料の表面を前処理するように特定的に企図されたパルスを有する、適切な強制パルス・ウォータージェットを生成することが可能となる。
【0032】
一実施例において、ウォータージェット装置は、好ましくは、2:1〜0.5:1の間のL/d比率を有する。多大な実験的データに基づき、L/d比率は、FPWJの性能の決定において、とりわけ表面を予測可能且つ均一に前処理するFPWJの能力において、非常に重要なものであると考えられる。
【0033】
別の実施例においては、ウォータージェット装置は、好ましくは、25.4cm(10.0’’)未満のスタンドオフ距離(SD)で作動される。例えば、ウォータージェット装置は、1.27cm〜12.7cm(0.5’’〜5.0’’)の間で作動され得る。これらのスタンドオフ距離により、パルスが穴の下流で離散スラグとして形成され得るようになり、その後、空気抵抗の影響により変形される。
【0034】
別の実施例においては、ウォータージェット装置は、好ましくは、0.0508cm〜0.254cm(0.020’’〜0.100’’)の間の出口穴直径を有する。この直径dは、P及びQによって決定される。
【0035】
さらに別の実施例においては、ウォータージェット装置は、好ましくは、6.89476MPa〜137.895MPa(1000psi〜20,000si)の間の、より好ましくは34.4738MPa〜68.9476MPa(5000psi〜10,000psi)の間の水圧Pにて作動される。
【0036】
別の実施例においては、比率D/d(Dが微小チップ70の直径を表し、dが出口穴80の直径を表す)は、好ましくは1〜1.5の間である。
【0037】
最適な性能のために、出口穴80は、好ましくは、ノズルを出る際にパルスを最大限に保護するために、図1に示すような鐘形口形状又は円錐状に収束する形状85を有する。しかし、出口穴は、例えば、図2に示す円筒状出口穴などの一定の断面プロファイルを有するなど、直線状であることも可能である。
【0038】
この新規の超音波ウォータージェット装置10は、例えばアルミニウム、鋼、ステンレス鋼、鉄、銅、真鍮、チタン、合金等の金属、又は例えば木材、プラスチック、セラミック、若しくは複合材料などの非金属である表面を前処理するために使用することが可能である。適切なノズルを設計することにより、及び相応して作動パラメータを制御することにより、事実上は、あらゆる種類の表面粗さ又は表面仕上げをもたらすことが可能となる。この新規の技術は、例えばパネル、プレート等の平坦な、又は例えばパイプ、チューブ等の曲線状の表面に対して、さらには強制パルス・ウォータージェット表面前処理に適した特殊形状パーツに対して利用することが可能である。例えば、直ぐ次に示すように、この新規の技術は、シリンダ・ボアの内方表面を前処理するために適合させることが可能である。これを行うためには、以下に説明するように、回転超音波ノズルが使用される。
【0039】
(シリンダ・ボアを前処理するための回転ノズル)
図3〜図6は、ボア又はさらには例えばパイプ、チューブ等の他の円筒状若しくは管状構造体の内部を前処理するために使用し得る、回転超音波ノズルの種々の例を概略的な形態で示す。
【0040】
図3は、90度エルボ管42を有するノズルを概略的に示す。図4は、例えば2つの前方向傾斜穴を有するノズルなどの2穴ノズル44を概略的に示す。図5は、2つの前方向傾斜穴及び2つの後方向傾斜穴を有する4穴ノズル46を概略的に示す。例えば、前方向傾斜出口穴は、微小チップの移動軸線に対して実質的に45度の角度をなすことが可能であり、後方向傾斜出口穴は、微小チップの移動軸線から実質的に135度の角度をなすことが可能である。当然ながら、他の角度を用いることが可能である。図6は、2つの90度(直角方向に配向された)穴48を有するノズルを概略的に示す。
【0041】
当然ながら、図3〜図6に示したこれらの4つの例は、シリンダ・ボアの内部表面を前処理するのに適したノズルを設計する4つの異なる様式を示すために提示されるに過ぎない点を理解されたい。したがって、例えば小型内燃機関のシリンダ・ボアなどの小型のシリンダ・ボアの内方表面にアクセスするために、他のノズル設計の考案が可能である。
【0042】
これらの例のそれぞれにおいて、穴(又は複数の穴)が、円錐状、円筒状、又は鐘形状(「鐘形口形状」)であることが可能である。
【0043】
図5において紹介する回転4穴ノズルに関するいくつかのより詳細なノズル設計を、図7及び図8において例として提示する。
【0044】
図7は、2つの前方向傾斜出口穴130、132及び2つの後方向傾斜出口穴134、136を備える4穴回転超音波ノズル100の断面図である。図7に示すように、これらの出口穴は、各直径d1、d2、d3、d4を有する。一実施例において、これらの直径は全て、例えばd1=d2=d3=d4のように同一であることが可能である。別の実施例においては、これらの直径はすべて異なることが可能である。さらに別の実施例においては、2つの前方向傾斜穴130、132が同一(d1=d4)であり、2つの後方向傾斜穴134、136が同一(d2=d3)である。同様に、これらの出口穴は、垂線に対して共通の角度シータ(θ及びθ)の角度をなすことが可能であり、又はこれらの穴は、θ1、θ2、θ3、θ4のそれぞれについて異なる角度を有することが可能である。さらに代替としては、前方向穴130、132の角度を同一にしつつ、後方向穴134、136の角度を同等にすることが可能である。
【0045】
図7の回転超音波ノズルにおいては、ノズル100の内部前方端部110が、4つの穴のそれぞれを介して強制パルス・ウォータージェットを生成するのに必要な流体力学をもたらすために丸められている(又は鐘形口形状のように形状設定される)。同様に、出口穴の各対の近傍の進入ゾーン120が、これらの穴の中への最適な流入のために丸められるか又は鐘形口形状にやはりなされる。この4穴構成においては、前方向傾斜ウォータージェット(穴130、132から放出される)の侵食能力は、後方向傾斜ウォータージェット(穴134、136から放出される)の侵食能力よりも高いことが予想される。さらに、侵食能力は、ノズルが前方向又は後方向のいずれの方向に並進移動するかどうかに左右される。したがって、「イン−アンド−アウト」サイクルでは、シリンダ・ボアの内方表面は、前方向送り時においては前方向傾斜ジェット及び後方向傾斜ジェットを被ることとなる。後方向送り時には、ノズルが逆の方向に移動しつつあるため、前回に134及び136から放出された後方向傾斜ジェットが、前方向傾斜ジェットとなり、前回に130及び132から放出された前方向傾斜ジェットが、後方向傾斜ジェットとなる。図7に示すこのノズルは、2:1〜0.5:1の範囲内の、好ましくは約1:1の最適なL/d比率を有する出口穴を有するように設計される。この穴の直径(d)に対する穴の長さ(L)の比率は、正確な出力及びスタンドオフ距離での有用な強制パルス・ウォータージェットの形成において非常に重要であり、さらにこれらの正確な出力及びスタンドオフ距離は、所望の表面仕上げ又は表面粗さを実現するために極めて重要である。もう1つの重要なパラメータは、最適な強制パルス・ウォータージェットを生成するために調節することの可能なチップ−穴間の長さ「a」である。任意には、ノズルは、性能を最適化する比率D/d(ここでDは微小チップの直径である)を選択することによって設計される。本出願人は、正確且つ予測可能な表面前仕上げを実施するための強制パルス・ウォータージェットの能力に対するこれらの種々のパラメータ及びその比率の重要性を初めて認識した者であると自負している。これらの種々の作動パラメータの効果、及びそれらの相関性は、本出願人が収集した非常に多大な実験的データに基づいており、この新規の技術の理解を容易にするために、次にそれらの収集データの一部を示す。
【0046】
図8は、シリンダ・ボアの、又は代替的には別の管状構造体の内方表面を前処理するために使用し得る、回転4穴超音波ノズルの別の例の断面図である。この変形例は、参照数字200により示す。図8に示すように、このノズル200は、2つの前方向傾斜穴212及び222(それぞれ直径d1及びd4からなる)並びに2つの後方向傾斜穴232及び242(それぞれ直径d2及びd3からなる)を有する。これらの4つの穴はそれぞれ、図8に示すような各湾曲導管の端部に形成される。具体的には、穴212は導管210の端部に配設され、穴222は導管220の端部に配設され、穴232は導管230の端部に配設され、穴242は導管240の端部に配設される。
【0047】
このノズル200は、この図に示すように初めに切り分けられている2つの高圧チューブを高圧溶接することによって作製することが可能である。これら2つの切り分けられたチューブを接合することにより、鋭角分岐部250が形成される。任意には、このノズルは、各湾曲導管内に固定されることにより各湾曲導管の出口に所望のジオメトリを与える穴インサートを備えることが可能である。この所望のジオメトリは、2:1〜0.5:1の範囲内のL/d比率を実現するようにL及びdの値を選択することによって実現される。好ましくは約1:1のL/d比率が最適であると考えられている。任意には、ノズルは、適切な値の「a」(又は複数穴の場合には複数の値「a」)を有するように設計される。この「a」値は、微小チップから各出口穴までの距離である。この「a」値は、パルスがノズルから適切な距離で展開され、したがってスタンドオフ距離に重要な効果が得られるようにする際に極めて重要となる。任意には、比率D/dが、パルス・ウォータージェットを最適に生成するように設定されてもよい。この値Dは、微小チップの直径である。したがって、比率D/dは、出口穴の直径に対する微小チップの直径の比である。このD/dは、好ましくは約1〜1.5の範囲内である。
【0048】
(実施例:アルミニウム・シリンダ・ボアの前処理)
アルミニウム・エンジン・ブロックのシリンダのボアを前処理するために、超音波ウォータージェット装置は、アルミニウム内燃機関ブロックのシリンダの表面がその後の表面の溶射被覆にとって良好な結合強度を呈するように、所定の表面粗さRz及びRaに合わせて前処理されるように、特別なパラメータで設計される。ここで、Raは、表面粗さパラメータの二乗平均平方根であり、Rzは、平均ピーク間粗さパラメータである。0.102〜0.236cm(0.04〜0.093インチ)の出口穴直径、27.579〜103.421MPa(4.0〜15kpsi)の水圧、0.635〜11.4cm(0.25〜4.5インチ)のスタンドオフ距離、及び2.54〜127cm/分(1.0〜50インチ/分)のトラバース速度を用いることで、優れた試験結果が達成された。
【0049】
ウォータージェットによるアルミニウム・シリンダ・ボアの前処理にとって最適なRa値及びRz値は、グリット・ブラストにより得られるそれらの値とは異なる。その理由は、実際の表面プロファイルの特性に起因する。グリット・ブラストは、シリンダ・ボアに施される溶射被覆の付着を補助する浅いアンダーカットすなわち「フック」を形成する。これとは対照的に、ウォータージェットすなわちジェット流体は、被覆が中に付着する小さなレセプタクルにほぼ似たポケットを形成する。
【0050】
代替的には、アルミニウム内燃機関ブロックのシリンダ・ボアを、その後の表面の溶射被覆にとって良好な結合強度を呈することがやはり予想される所定の表面粗さRa及びRzに合わせて前処理することが可能である。120の低いRa値が許容され得ると考えられることを指摘しておく。これらの試験は、AlSiアルミニウム・エンジン・ブロックのシリンダ・ボアに関して実施したが、必要に応じて変更を加えることで他のアルミニウム・エンジン・ブロックのボアにも適用し得ると考えられる。これらの結果の補外により、他のアルミニウム合金又はさらには鉄から作製されたエンジン・ブロックのボアなどの多のタイプの材料からなるボアの前処理が可能となる。
【0051】
超音波ノズルは、圧電変換器を使用することが可能であるが、磁歪ノズルを使用することもまた可能である。図9は、磁歪円筒状芯部を有する超音波ノズルの一実例の断面図である。図10は、磁歪管状芯部を有する超音波ノズルの別の実例の断面図である。図9及び図10に示すノズルは、国際公開第2005/042177号(Vijay)においてさらに十分に説明されている。
【0052】
(方法)
さらに本技術は、高周波強制パルス・ウォータージェットを用いて表面を前処理する新規の方法に関する。本方法は、高周波信号発生器を用いて周波数f(例えば10〜20kHz)を有する高周波信号を発生させるステップと、微小チップ(又は「プローブ」)を有する変換器(例えば圧電変換器又は歪時変換器)にこの高周波信号を印加して、変換器の微小チップを振動させることにより、出口穴直径dを有するノズルの出口穴を介して強制パルス・ウォータージェットを生成するステップとを含む。強制パルス・ウォータージェットは、前処理すべき表面(すなわち標的材料)上に衝突されることにより、(標的材料の)表面を所定の表面粗さ範囲内(例えばRa値及びRz値)に合わせて前処理する。この所定の表面粗さ範囲は、スタンドオフ距離(SD)、ノズルのトラバース速度VTR、水圧P、水流量Q、長さ対直径(L/d)比率(ここでLは出口穴の円筒状部分の長さを表す)、微小チップから出口穴の出口平面までの距離を表すパラメータ「a」、並びに高周波信号の周波数f及び振幅Aを含む作動パラメータを選択することによって決定される。
【0053】
好ましくは、L/d比率は、2:1〜0.5:1の間の範囲である。例えば優れた結果が2:1のL/d比率により、又は0.5:1のL/d比率により実現されている。しかし、最良の結果は1:1のL/d比率により実現されている。
【0054】
スタンドオフ距離(SD)は、好ましくは25.4cm(10.0’’)未満であり、より好ましくは1.27cm〜12.7cm(0.5’’〜5.0’’)の間の範囲である。スタンドオフ距離は、スラグが十分に形成される場合に最適となる。過度に短いスタンドオフ距離は、パルスが形成されるのに十分な時間がないため好ましくない。同様に、過度に長いスタンドオフ距離は、スラグにそれ相応の空気力学的力が作用することによりパルスが消失し始めるため好ましくない。したがって、最適なSDは、所望の表面前処理結果の達成に寄与する。
【0055】
好ましくは、出口穴直径dは0.0508cm〜0.254cm(0.020’’〜0.100’’)の間の範囲であり、より好ましくは0.102〜0.165cm(0.040’’〜0.065’’)の間の範囲である。例えば、出口穴直径d=0.102cm(0.040’’)、又はd=0.127cm(0.050’’)、又はd=0.137cm(0.054’’)、又は0.165cm(0.065’’)により、優れた結果が達成されている。単一の穴を使用することが可能である。代替的には、2穴ノズル又は複数穴ノズルを使用することが可能である。さらに(任意には)、これらのノズルは、回転するように作製することが可能である。
【0056】
水圧は、好ましくは6.89476MPa〜137.895MPa(1000psi〜20,000psi)の間の範囲であり、より好ましくは34.4738MPa〜68.9476MPa(5000psi〜10,000psi)の間の範囲である。理解されるように、さらに低い又はさらに高い圧力を用いることが可能であるが、好ましくは、137.895MPa(20kpsi)を超過しない。なぜならば、UHP(超高圧ジェット、ultra−high pressure jets)に伴う問題が生じ始めるからである。
【0057】
任意には、ノズルは、特定の比率D/dを有するように構成することが可能である。ここで、Dは微小チップの直径を表し、dは、(上記のように)出口穴の直径を表す。約1の比率D/dにより優れた成果が得られるが、非常に良好な成果は、比率D/dが約1〜1.5の範囲内であれば依然として達成されることが判明している。
【0058】
新規の超音波ウォータージェット装置を説明する前節において上述したように、この新規の方法は、特定の表面仕上げ又は表面粗さを実現するために、任意の形状又はサイズの金属表面又は非金属表面に対して用いることが可能である。作動パラメータを選択することにより、均一且つ予測可能な表面仕上げが実現され得る。換言すれば、この表面仕上げは、種々の作動条件により、及びノズルのジオメトリにより、「予め定められる」ものであり、すなわち再現可能、制御可能、及び予測可能である。
【0059】
(アルミニウム・エンジン・ブロックのシリンダ・ボアの前処理)
この新規の技術の1つの特定の実装形態においては、この革新的な方法は、アルミニウム合金内燃エンジン用のシリンダ・ボアの内部表面を前処理するために利用することが可能である。このシリンダ・ボアは、摩耗、摩擦、及び排気物質に関して往復運動ピストンエンジンの性能を向上させるために用いられる溶射被覆を後に施すのを容易にする、非常に厳格な表面粗さ特性に合わせて前処理することが可能である。
【0060】
この方法は、単穴ノズル、2穴ノズル、又は複数の穴(例えば4つの穴)を有するノズルを用いて実施することが可能である。好ましくは、この方法は、図7に示すノズル又は図8に示すノズルのいずれかを用いて実施することが可能である。これらのノズル設計に基づく変形形態を用いることも当然ながら可能である。強制パルス・ウォータージェットは、1つ又は複数の湾曲穴又は湾曲導管(すなわち「エルボ管」)を介して搬送されてもよく、それにより、強制パルス・ウォータージェットは、実質的に直角方向に出ることによって、シリンダ・ボアの内方表面を前処理する。これらの穴は、様々な結果を達成するために、様々な角度をなすこともまた可能である。この方法は、最適なジェット性能のために鐘形口形状を有する出口穴を有するノズルを用いることによって、最適に実施することが可能であるが、この方法は、円錐状穴又は通常の円筒状穴を用いても実施することが可能である。
【0061】
シリンダ・ボアの内方表面を表面前処理する方法は、有利には、2つの前方向傾斜出口穴及び2つの後方向傾斜出口穴を備えるノズルを用いて実施することが可能である。好ましい一実施例においては、前方向傾斜出口穴は、微小チップの移動軸線に対してほぼ45度の角度をなし、後方向傾斜出口穴は、微小チップの移動軸線からほぼ135度の角度をなす。この構成においては、4つのジェットがシリンダ・ボア上に同時に衝突する。エンジン・ブロックが、好ましくは治具又は他の把持デバイス内において固定状態に維持されるため、ノズルは、トラバース速度VTRでシリンダ・ボアの軸線に整列した軸線に沿ってボアの内外へと並進移動されつつ、例えば1000〜2000RPMなどの一定の回転速度で回転される。このトラバース速度は、好ましくは所望の時間枠内において1つの表面前処理サイクルを完了するように設定される。例えば、表面前処理が1分で完了すべきであり、ボアの長さが12.7cm(5インチ)である場合には、ノズルが割り当て時間内に1サイクル(2つの送り、すなわち内方向及び外方向)を完了し得るように、VTRは25.4cm/分(10インチ/分)であるべきである。
【0062】
被覆を施すための表面の適合化の代替的な措置は、絶対値Ra及びRzのみではなく、さらにそれらの比率Rz/Raを考慮することである。したがって、この方法は、所定の表面粗さ比率に合わせてアルミニウム内燃機関ブロック(例えばAlSiCuアルミニウム合金エンジン・ブロック)のシリンダ・ボアを前処理するために用いることが可能となる。
【0063】
(オプションの研磨材の混入)
この新規の方法の一変形例においては、研磨材をウォータージェット中に混入させることにより、より高い侵食能力を実現することが可能である。研磨材は、ゼオライト又はガーネットなどの地質由来のもの、又はアルミナ及び同様のセラミックスなどの人造由来のものが可能である。代替的には、溶射粒子を前処理のために使用することが可能である。この場合、溶射粒子は、前処理の最中に材料中に部分的に埋め込まれる。その後、被覆の際に、同じ溶射粒子が、前処理された表面上に被覆される。
【0064】
この研磨材は、微小チップ(プローブ)の侵食を防ぐために、微小チップの下流においてパルス・ウォータージェット中にこの研磨材を注入することによって混入させることが可能である。微小チップの下流にて混合チャンバを用いることにより、研磨剤が、ウォータージェットパルスを妨げる又は損なうことなくウォータージェット中に完全に及び均一に混合されるようにすることが可能である。換言すれば、水の離散スラグは、研磨材混合/混入の実施後にも完全な状態のままでなければならない。
【0065】
(オプションのデュアル・モード作動)
有利には、強制パルス・ウォータージェットマシンは、2つのモードにて任意に作動することが可能である。すなわち、超音波出力がオフになされると、マシンは、連続定常ウォータージェットによる従来的なウォータ・ブラスタとして機能する。これは、通常のブラスト作業にとって、又は軟質被覆の除去にとって有用となり得る。硬質被覆に直面した場合には、超音波発生器を作動させることによりこれらの被覆を除去することが可能となる。したがって、デュアル・モード作動により、ユーザは所望に応じてパルス・ウォータージェットと連続ウォータージェットとの間で切替えを行うことが可能となる。
【0066】
図11及び図12は、同一のシリンダ・ボアの表面に対してHPWJ及びFPWJをそれぞれ用いて前処理された表面プロファイルを比較として示す。HPWJは、284.754MPa(41,300psi)の印加圧力を用いることにより、図11に図示される表面を生成した。対照的に、FPWJで68.9476MPa(10,000psi)の印加圧力を用いたものが、図12に図示される。測定Ra値及びRz値は、ほぼ同一であった。また、図面に示すように、表面の外観は、どちらがHPWJでありどちらがFPWJであるかの判断が困難なほど類似している。
【0067】
上述の本発明の実施例は、もっぱら例示として意図されるに過ぎない。本明細書の対象となる当業者には理解されるであろうが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本明細書において提示される実施例に対して、多数の明白な変更を行うことが可能である。したがって、本出願人が要求する独占権の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるように意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス・ウォータージェットを用いてシリンダ・ボアの表面を前処理する方法であって、
信号発生器を用いて周波数fを有する信号を発生させるステップと、
ノズルの出口穴を通してパルス・ウォータージェットを生成するように前記信号を適用するステップであって、前記ノズルが、直径dである出口穴を有し、且つ長さLである前記出口穴の円筒状部分を有しているステップと、
前処理する前記シリンダ・ボアの前記表面上に前記パルス・ウォータージェットを衝突させて、所定の表面粗さ範囲内に前記表面を前処理するステップであって、前記所定の表面粗さ範囲は、スタンドオフ距離(SD)、前記ノズルのトラバース速度VTR、水圧P、水流量Q、穴の長さ対直径(L/d)比率、前記周波数f、及び前記信号の振幅Aを含む作動パラメータを選択することによって決定されるステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記信号は、内部機械的流量変調器、ヘルムホルツ発振器、自己共振ノズル、超音波ノズル、及び音響変換器のうちの少なくとも1つを用いて生成される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記L/d比率が、2:1〜0.5:1の間の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記スタンドオフ距離(SD)が、25.4cm(10.0’’)未満である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記水圧が、6.89476MPa〜137.895MPa(1000psi〜20,000psi)の間の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
1000〜2000RPMの回転速度で前記ノズルを回転させるステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ウォータージェット内に研磨材を混入させるステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記強制パルス・ウォータージェットが液体である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記液体が、水、グリコール、グリコールを加えた水、洗浄溶剤、希酸、アルコール、及び油のうちの少なくとも1つを含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
水圧P及び水流量Qの加圧ウォータージェットを生成するウォータ・ポンプと、
前記加圧ウォータージェットに対して周波数f及び振幅Aの信号を発生させてパルス・ウォータージェットを生成する信号発生器と、
前記パルス・ウォータージェットを受けるノズルであって、前記ノズルは、特定のL/d比率を有するように設計された出口穴を有し、このときLは前記出口穴の長さを、dは前記出口穴の直径を表しており、また前記L/d比率、前記周波数f、前記振幅A、前記水圧P、前記水流量Q、及び前記ノズルのトラバース速度VTRは、前記ノズルからスタンドオフ距離(SD)だけ離間された所与のシリンダ・ボア材料の表面を前処理するように企図されたパルスのパルス・ウォータージェットを生成するように予め定められるノズルと
を有するパルス・ウォータージェット装置。
【請求項11】
前記信号は、内部機械的流量変調器、ヘルムホルツ発振器、自己共振ノズル、超音波ノズル、及び音響変換器のうちの少なくとも1つを用いて生成される請求項10に記載のウォータージェット装置。
【請求項12】
前記L/d比率が、2:1〜0.5:1の間の範囲である請求項10に記載のウォータージェット装置。
【請求項13】
前記スタンドオフ距離(SD)が、25.4cm(10.0’’)未満である請求項10に記載のウォータージェット装置。
【請求項14】
前記水圧が、6.89476MPa〜137.895MPa(1000psi〜20,000psi)の間の範囲である請求項10に記載のウォータージェット装置。
【請求項15】
前記ノズルが、1000〜2000RPMの回転速度で回転可能である請求項10に記載のウォータージェット装置。
【請求項16】
前記パルス・ウォータージェットが研磨材をさらに含む請求項10に記載のウォータージェット装置。
【請求項17】
前記強制パルス・ウォータージェットが液体である請求項10に記載のウォータージェット装置。
【請求項18】
前記液体が、水、グリコール、グリコールを加えた水、洗浄溶剤、希酸、アルコール、及び油のうちの少なくとも1つを含む請求項17に記載のウォータージェット装置。
【請求項1】
パルス・ウォータージェットを用いてシリンダ・ボアの表面を前処理する方法であって、
信号発生器を用いて周波数fを有する信号を発生させるステップと、
ノズルの出口穴を通してパルス・ウォータージェットを生成するように前記信号を適用するステップであって、前記ノズルが、直径dである出口穴を有し、且つ長さLである前記出口穴の円筒状部分を有しているステップと、
前処理する前記シリンダ・ボアの前記表面上に前記パルス・ウォータージェットを衝突させて、所定の表面粗さ範囲内に前記表面を前処理するステップであって、前記所定の表面粗さ範囲は、スタンドオフ距離(SD)、前記ノズルのトラバース速度VTR、水圧P、水流量Q、穴の長さ対直径(L/d)比率、前記周波数f、及び前記信号の振幅Aを含む作動パラメータを選択することによって決定されるステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記信号は、内部機械的流量変調器、ヘルムホルツ発振器、自己共振ノズル、超音波ノズル、及び音響変換器のうちの少なくとも1つを用いて生成される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記L/d比率が、2:1〜0.5:1の間の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記スタンドオフ距離(SD)が、25.4cm(10.0’’)未満である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記水圧が、6.89476MPa〜137.895MPa(1000psi〜20,000psi)の間の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
1000〜2000RPMの回転速度で前記ノズルを回転させるステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ウォータージェット内に研磨材を混入させるステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記強制パルス・ウォータージェットが液体である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記液体が、水、グリコール、グリコールを加えた水、洗浄溶剤、希酸、アルコール、及び油のうちの少なくとも1つを含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
水圧P及び水流量Qの加圧ウォータージェットを生成するウォータ・ポンプと、
前記加圧ウォータージェットに対して周波数f及び振幅Aの信号を発生させてパルス・ウォータージェットを生成する信号発生器と、
前記パルス・ウォータージェットを受けるノズルであって、前記ノズルは、特定のL/d比率を有するように設計された出口穴を有し、このときLは前記出口穴の長さを、dは前記出口穴の直径を表しており、また前記L/d比率、前記周波数f、前記振幅A、前記水圧P、前記水流量Q、及び前記ノズルのトラバース速度VTRは、前記ノズルからスタンドオフ距離(SD)だけ離間された所与のシリンダ・ボア材料の表面を前処理するように企図されたパルスのパルス・ウォータージェットを生成するように予め定められるノズルと
を有するパルス・ウォータージェット装置。
【請求項11】
前記信号は、内部機械的流量変調器、ヘルムホルツ発振器、自己共振ノズル、超音波ノズル、及び音響変換器のうちの少なくとも1つを用いて生成される請求項10に記載のウォータージェット装置。
【請求項12】
前記L/d比率が、2:1〜0.5:1の間の範囲である請求項10に記載のウォータージェット装置。
【請求項13】
前記スタンドオフ距離(SD)が、25.4cm(10.0’’)未満である請求項10に記載のウォータージェット装置。
【請求項14】
前記水圧が、6.89476MPa〜137.895MPa(1000psi〜20,000psi)の間の範囲である請求項10に記載のウォータージェット装置。
【請求項15】
前記ノズルが、1000〜2000RPMの回転速度で回転可能である請求項10に記載のウォータージェット装置。
【請求項16】
前記パルス・ウォータージェットが研磨材をさらに含む請求項10に記載のウォータージェット装置。
【請求項17】
前記強制パルス・ウォータージェットが液体である請求項10に記載のウォータージェット装置。
【請求項18】
前記液体が、水、グリコール、グリコールを加えた水、洗浄溶剤、希酸、アルコール、及び油のうちの少なくとも1つを含む請求項17に記載のウォータージェット装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2013−509306(P2013−509306A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532510(P2012−532510)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062014
【国際公開番号】WO2011/042244
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(596152899)サルザー・メトコ・(ユー・エス)・インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】SULZER METCO (US) INC.
【住所又は居所原語表記】1101 Prospect Avenue,Westbury,New York,U.S.A.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062014
【国際公開番号】WO2011/042244
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(596152899)サルザー・メトコ・(ユー・エス)・インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】SULZER METCO (US) INC.
【住所又は居所原語表記】1101 Prospect Avenue,Westbury,New York,U.S.A.
【Fターム(参考)】
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