説明

パワートレインの支持装置

【課題】パワートレインの支持装置において、マウント装置のみでバッテリを安定して支持するとともに、バッテリの振動低減することにある。
【解決手段】マウント装置(12)は、外筒(13)の車両幅方向外側部と内側部とに夫々その軸線が鉛直方向へ延びるとともに上端部にバッテリトレイ(29)が連結される外側ボス部(31A、31B)と内側ボス部(32A、32B)とを有し、外側ボス部(31A、31B)をブラケット(18)の水平壁部(16)とサイドメンバ(3)の上壁部(19)とを連結する上壁部側締結部(33A・33B)の近傍に配置し、内側ボス部(32A、32B)の下端部を外筒(13)の下側を通る下側連結部(34A・34B)によってブラケット(18)の縦壁部(17)と連結している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パワートレインの支持装置に係り、特にマウント装置のみでバッテリを支持するパワートレインの支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、エンジンと変速機とを一体にしたパワートレインを横置きに搭載したものがある。この場合、このパワートレインは、マウント装置によって車体にマウント支持されている。
また、車両にあっては、マウント装置の上方にバッテリトレイを配置し、このバッテリトレイ上にバッテリを設けたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−67478号公報
【特許文献2】特開2008−114735号公報
【0004】
特許文献1に係る車両のバッテリトレー支持構造は、マウント装置の上方にバッテリトレイを介してバッテリを配置し、そして、バッテリを安定してマウント装置の上方に配置するために、バッテリトレイをアッパクロスメンバとストラットタワーとに連結させたものである。
特許文献2に係る自動車のバッテリ支持装置は、マウントラバーの上方をアッパブラケットで覆って、アッパブラケットの上方にバッテリを配置したものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来、エンジンルームに横置きのパワートレインをレイアウトした場合に、エンジンマウントを慣性主軸上に配置すると(ペンデュラム式エンジンマウントでは、慣性主軸上に配置するのが、性能上最適な位置である)、車体の構成上、バッテリの取付用ステーとエンジンマウントとが干渉してしまう不具合がある。
また、上記の特許文献1では、パワートレインからマウント装置に入力される振動やバッテリの振動がストラットタワーに伝達されて、如いては、ストラットタワーからダッシュパネルに伝達されて、振動が車室内へと伝わり易くなるおそれがあった。
更に、上記の特許文献2では、3つのブラケットとバッテリトレイとを支持する支持ブラケットとの締結部同士の間隔が狭くなるとともに、バッテリを支持する部分のブラケットの剛性を十分に確保できないため、バッテリの安定性が低下し、バッテリが振動し易くなるというおそれがあった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、マウント装置のみでバッテリを支持して、バッテリを安定して支持するとともに、バッテリの振動を低減するパワートレインの支持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、エンジンルームの車両幅方向の側部に車両前後方向に延びるサイドメンバを配置し、外筒の内周に防振ゴムを介して内筒を支持したマウント装置を前記外筒の軸心が車両前後方向に向く状態で前記サイドメンバの上方に配置し、前記外筒を水平壁部と縦壁部とを備えるブラケットによって前記サイドメンバの上壁部と縦壁部とにボルトで連結し、一端がパワートレインに連結されるとともに他端が二股に分岐するパワートレイン側ブラケットを設け、このパワートレイン側ブラケットの他端を前記内筒の軸方向の両端部に連結し、前記外筒の上方に配置したバッテリトレイにはバッテリを設けたパワートレインの支持装置において、前記マウント装置は、前記外筒の車両幅方向の外側部と内側部とに夫々軸線が鉛直方向へ延びるとともに上端部に前記バッテリトレイが連結される外側ボス部と内側ボス部とを有し、前記外側ボス部を前記ブラケットの水平壁部と前記サイドメンバの上壁部とを連結する上壁部側締結部の近傍に配置し、前記内側ボス部の下端部を前記外筒の下側を通る下側連結部によって前記ブラケットの縦壁部と連結したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明のパワートレインの支持装置は、マウント装置のみでバッテリを支持して、バッテリを安定して支持するとともに、バッテリの振動を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は車両前部の平面図である。(実施例)
【図2】図2はパワートレインの支持装置の正面図である。(実施例)
【図3】図3は図1のパワートレインの支持装置の拡大平面図である。(実施例)
【図4】図4はマウント装置をエンジンルームの内部から視た図である。(実施例)
【図5】図5はマウント装置の斜視図である。(実施例)
【図6】図6は図5のマウント装置の拡大斜視図である。(実施例)
【図7】図7はパワートレインの支持装置の分解斜視図である。(実施例)
【図8】図8はバッテリの揺れ状態を示す図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明は、マウント装置のみでバッテリを支持して、バッテリを安定して支持するとともに、バッテリの振動を低減する目的を、マウント装置の外側ボス部をブラケットの水平壁部とサイドメンバの上壁部とを連結する上壁部側締結部の近傍に配置し、内側ボス部の下端部を外筒の下側を通る下側連結部によってブラケットの縦壁部と連結して実現するものである。
【実施例】
【0011】
図1〜図8は、この発明の実施例を示すものである。
図1において、1は車両、2は車体、3L・3Rはこの車体2を構成する左サイドメンバ・右サイドメンバ、4L・4Rは左フェンダエプロン・右フェンダエプロン、5L・5Rは左ストラットタワー・右ストラットタワー、6はダッシュパネル、7はエンジンルームである。
左サイドメンバ3L・右サイドメンバ3Rは、エンジンルーム7の車両幅方向Yの両側部に車両前後方向Xに延びて配置される。
エンジンルーム7には、横置きのパワートレイン8が搭載される。このパワートレイン8は、エンジン9と、このエンジン9に連結した変速機10とから構成されている。
【0012】
図2〜図7に示すように、サイドメンバとしての左サイドメンバ3Lの上方には、パワートレインの支持装置11が設けられる。このパワートレインの支持装置11は、マウント装置12を備えている。
このマウント装置12は、軸心方向が車両前後方向Xに向く外筒13の内周に防振ゴム14を介して内筒15を支持し、外筒13の軸心C(内筒15の軸心と一致)(図1参照)が車両前後方向Xに向く状態で左サイドメンバ3Lの上方に配置される。
マウント装置12においては、外筒13を水平壁部16と縦壁部17とを備えるブラケット18によって左サイドメンバ3Lの上壁部19と縦壁部20とに連結する。
ブラケット18の水平壁部16は、図2、図3に示すように、上方からの上方メンバ側固定ボルト21・21で左サイドメンバ3Lの上壁部19に連結される。ブラケット18の縦壁部17は、右方向からの横方メンバ側固定ボルト22・22で左サイドメンバ3Lの縦壁部20に連結される。
また、マウント装置12には、図2、図7に示すように、一端がパワートレイン8の変速機10に連結されるとともに他端が二股に分岐したパワートレイン側ブラケット23が設けられる。
このパワートレイン側ブラケット23は、変速機側固定ボルト24・24・24・24で変速機10の上部に固定される下側パワートレイン側ブラケット25と、この下側パワートレイン側ブラケット25に上部に連結ボルト26・26・26で連結された上側パワートレイン側ブラケット27とからなる。この上側パワートレイン側ブラケット27は、他端に、二股に分岐した前方側分岐ブラケット部27A・後方側分岐ブラケット部27Bを備える。この前方側分岐ブラケット部27A・後方側分岐ブラケット部27Bの先端には、内筒15内に挿通した支持ボルト28が取り付けられる。
この前方側分岐ブラケット部27A・後方側分岐ブラケット部27Bは、内筒15の軸方向両端部としての内筒軸方向前端部15Aと内筒軸方向後端部15Bとに連結される。
また、外筒13の上方には、バッテリトレイ23が配置されている。このバッテリトレイ23には、バッテリ30が設けられる。
【0013】
マウント装置12において、図3に示すように、外筒13の車両幅方向Yの外側部と内側部とには、夫々その軸線が鉛直方向へ延びるとともに上端部にバッテリトレイ29が連結される外側ボス部としての前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31B及び内側ボス部としての前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bとを備えている。
前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31Bは、ブラケット18の水平壁部16と左サイドメンバ3Lの上壁部19とを連結する上壁部側締結部としての前方上壁部側締結部33A・後方上壁部側締結部33Bの近傍に配置される。
前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bの下端部は、図2に示すように、外筒13の下側を通る下側連結部としての前方下側連結部34A・後方下側連結部34Bによってブラケット18の縦壁部17と連結している。
このような構造により、前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31Bと前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bとを、外筒13を挟んで車両幅方向Yの外側部と内側部とに配置したため、前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31Bと前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bとの間の間隔を拡大できる。そして、前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31Bを前方上壁部側締結部33A・後方上壁部側締結部33Bの近傍に配置するとともに、前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bを前方下側連結部34A・後方下側連結部34Bによってブラケット18の縦壁部17又は縦壁部側締結部35に連結したため、左サイドメンバ3Lに対する前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31Bと前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bとの結合剛性を高めることができる。これにより、前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31Bと前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bとでバッテリ30を安定して支持できる。
また、前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31Bを前方上壁部側締結部33A・後方上壁部側締結部33Bの近傍に配置し、そして、前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bを前方下側連結部34A・後方下側連結部34Bによってブラケット18の縦壁部17と連結したため、バッテリ30の振動を前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31Bと前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bとを介して前方上壁部側締結部33A・後方上壁部側締結部33Bとブラケット18の縦壁部17(又は縦壁部側締結部35)へと分散して伝達することができる。これにより、バッテリ30の振動を剛性の高い前方上壁部側締結部33A・後方上壁部側締結部33Bとブラケット18の縦壁部17(又は縦壁部側締結部35)とで受け止めることができ、バッテリ30の振動を低減できる。
更に、バッテリ30は、マスダンパの役割を果たし、車体2への振動伝播を低減させる機能を有する。
【0014】
前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bは、図3に示すように、車両前後方向Xで内筒15の前端部と後端部との間で且つマウント装置12とパワートレイン側ブラケット23とに囲まれた空間部36内に配置される。
このような構造により、前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bをパワートレイン側ブラケット23の前方側及び後方側に延ばす必要がなくなるため、前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bを外筒13に沿うように配置できる。そのため、鉛直方向において、前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bの外周を外筒13に連結でき、前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bの結合剛性を高めることができる。また、空間部36内に前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bが配置されるため、空間部36の車両幅方向Yの長さが拡大するのを抑制できる。これにより、パワートレイン側ブラケット23の車両幅方向Yの長さが拡大するのを抑制でき、パワートレイン8からマウント装置12に伝達される振動の増加を抑制できる。
【0015】
図3に示すように、前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31Bと前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bとは、バッテリトレイ29の下面に沿って車両幅方向Yに延びる第1連絡部としての前方側第1連絡部37A・後方側第1連絡部37Bによって連結される。
前方側第1連絡部37Aは、前方側取付ボルト38A・38Aで前方外側ボス部31A及び前方内側ボス部32Aに取り付けられる。後方側第1連絡部37Bは、後方側取付ボルト38B・38Bで後方外側ボス部31B及び後方内側ボス部32Bに取り付けられる。
このように、前方側第1連絡部37A・後方側第1連絡部37Bによって、前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31Bと前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bとの動きを一体化できるとともに、前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31Bと前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bとの剛性をさらに高めることができる。また、前方側第1連絡部37A・後方側第1連絡部37Bがバッテリトレイ29の下面に沿って前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31Bと前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bとの間を懸架するため、バッテリトレイ29又はバッテリ30の下面とマウント装置12とが接触する接触面積を増加できる。これにより、バッテリ30を安定した状態でマウント装置12の上方に配置できる。
【0016】
上述のように、外側ボス部は、外筒13を車両前後方向Xで挟むように2つの前方外側ボス部31Aと後方外側ボス部31Bとからなり、図3、図5に示すように、この2つの前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31Bをバッテリトレイ29の下面に沿って車両前後方向Xに延びる第2連絡部39によって連結する。
これにより、パワートレイン8の振動がマウンド装置12の内筒15に入力された場合、円筒15に対して前方内側ボス部32A・後方内側ボス部32Bよりも前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31Bにバッテリ30の振動が入力され易くなる(図8参照)。
このように、第2連絡部39によって2つの前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31B同士を一体化することで、前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31Bの剛性を高めることができ、バッテリ30及びマウント装置12の揺れをさらに抑えることができる。
また、第2連絡部39によって2つの前方外側ボス部31A・後方外側ボス部31B同士を一体化できるともに、バッテリトレイ29又はバッテリ30の下面とマウント装置12とが接触する接触面積をさらに増加できるため、バッテリ12をさらに安定した状態でマウント装置12の上方に配置できる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
この発明に係るパワートレインの支持装置を、各種の車両に適用可能である。
【符号の説明】
【0018】
1 車両
2 車体
3L 左サイドメンバ
3R 右サイドメンバ
7 エンジンルーム
8 パワートレイン
9 エンジン
10 変速機
11 パワートレインの支持装置
12 マウント装置
13 外筒
14 防振ゴム
15 内筒
15A 内筒軸方向前端部
15B 内筒軸方向後端部
16 ブラケットの水平壁部
17 ブラケットの縦壁部
18 ブラケット
19 左サイドメンバの上壁部
20 左サイドメンバの縦壁部
21 上方メンバ側固定ボルト
22 横方メンバ側固定ボルト
23 パワートレイン側ブラケット
25 下方パワートレイン側ブラケット
27 上方パワートレイン側ブラケット
27A 前方側分岐ブラケット部
27B 後方側分岐ブラケット部
28 支持ボルト
29 バッテリトレイ
30 バッテリ
31A 前方外側ボス部
31B 後方外側ボス部
32A 前方内側ボス部
32B 後方内側ボス部
33A 前方上壁部側締結部
33B 後方上壁部側締結部
34A 前方下側連結部
34B 後方下側連結部
35 縦壁部側締結部
36 空間部
37A 前方側第1連結部
37B 後方側第1連絡部
39 第2連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームの車両幅方向の側部に車両前後方向に延びるサイドメンバを配置し、外筒の内周に防振ゴムを介して内筒を支持したマウント装置を前記外筒の軸心が車両前後方向に向く状態で前記サイドメンバの上方に配置し、前記外筒を水平壁部と縦壁部とを備えるブラケットによって前記サイドメンバの上壁部と縦壁部とにボルトで連結し、一端がパワートレインに連結されるとともに他端が二股に分岐するパワートレイン側ブラケットを設け、このパワートレイン側ブラケットの他端を前記内筒の軸方向の両端部に連結し、前記外筒の上方に配置したバッテリトレイにはバッテリを設けたパワートレインの支持装置において、前記マウント装置は、前記外筒の車両幅方向の外側部と内側部とに夫々軸線が鉛直方向へ延びるとともに上端部に前記バッテリトレイが連結される外側ボス部と内側ボス部とを有し、前記外側ボス部を前記ブラケットの水平壁部と前記サイドメンバの上壁部とを連結する上壁部側締結部の近傍に配置し、前記内側ボス部の下端部を前記外筒の下側を通る下側連結部によって前記ブラケットの縦壁部と連結したことを特徴とするパワートレインの支持装置。
【請求項2】
前記内側ボス部を、車両前後方向で前記内筒の前端部と後端部との間で且つ前記マウント装置と前記パワートレイン側ブラケットとに囲まれた空間部内に配置したことを特徴とする請求項1に記載のパワートレインの支持装置。
【請求項3】
前記内側ボス部と前記外側ボス部とを、前記バッテリトレイの下面に沿って車両幅方向に延びる第1連絡部によって連結したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワートレインの支持装置。
【請求項4】
前記外側ボス部は、前記外筒を車両前後方向で挟むように2つの外側ボス部から成り、この2つの外側ボス部を前記バッテリトレイの下面に沿って車両前後方向に延びる第2連絡部によって連結したことを特徴とする請求項3に記載のパワートレインの支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−192831(P2012−192831A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58159(P2011−58159)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】