説明

パンタグラフ検出装置及びその方法

【課題】通過列車の屋根上のパンタグラフを検出する計算を、精度を保ったまま高速に行えるようにする。
【解決手段】列車1が通過する線路2の上方に、パンタグラフ検出センサ40及び監視カメラ30を設置し、パンタグラフ検出センサ40がパンタグラフ1aを検出した際に監視カメラ30によりパンタグラフ1aの撮影を行い、監視カメラ30で撮影された入力画像を画像処理することでパンタグラフ1aが映っている画像のみを保管するパンタグラフ検出方法において、画像処理装置50が入力画像に対して方向符号照合を行うので、日照変化等による明るさ変動に頑健で、画像中のパンタグラフ有無判断をより安定的に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンタグラフ検出装置及びその方法に関する。詳しくは、線路上方に設置された監視カメラにより撮影した画像から通過列車のパンタグラフを検出する装置及びその方法において、特に暗い画像でも精度良く検出できるようにするものである。
【背景技術】
【0002】
通過列車の屋根上状態を撮影する装置としては、線路上方にカメラと照明を設置し、録画装置を屋内に設置し、車輌接近警報装置と連動して録画を実施する装置が一般的に用いられている(非特許文献1)。
この装置は、列車が接近した際に車輌接近警報装置が発生する列車接近信号を基に、照明点灯と録画開始を行い、列車接近信号が発生している期間の画像を録画することで、その間に通過する列車の屋根上を撮影するものである。
【0003】
撮影の開始と終了の基準となる列車接近信号を発生する車輌接近警報装置には幾つかの提案が行われている。
特許文献1は、振動センサをレールに直接磁石を利用して取り付け、鉄道車輌が接近する際の振動を検出して列車接近信号を発生した。
【0004】
特許文献2は、電車電流検出センサをレールにマグネットを介して取り付け、センサの出力を演算処理装置に内蔵されたアンプに接続し、演算処理部で処理された結果により警報機を鳴らした。
特許文献3は、送信手段と受信手段とを備え、送信手段で探査信号をレールに送信し、近付いた軌道車両に反射された反射信号を受信手段で受信することで、列車の接近を検出した。
【0005】
一方、通過列車の屋根上状態を撮影する装置として次の提案を行った(特許文献4)。
即ち、画像処理により監視カメラの画像中に進入した列車を検知し、画像中に列車が存在している期間の画像を録画することで、通過列車の屋根上状態の画像を効率よく撮影し保管した。
【0006】
また、画像処理を応用した物体形状検査により監視カメラの画像中に進入した列車を検知し、画像中に列車が存在している期間の画像を録画することで、通過列車の屋根上状態の画像を効率よく撮影し保管した。
更に、侵入者検知装置の技術を適用した進入検知処理により列車を検知し、画像中に列車が存在している期間の画像を録画することで、通過列車の屋根上状態の画像を効率よく撮影し保管した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-39304「鉄道車両が走行時発生する振動データ収集装置と同装置が出力するデータを利用する車両接近警報装置及び車両故障診断装置」
【特許文献2】特開2002-337687「車両接近警報装置」
【特許文献3】特開平9-132141「軌道車両接近警報装置」
【特許文献4】特開2010-12084「画像処理による通過列車撮影装置」
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】F.ULLAH,S.KANEKO and S. IGARASHI,″Orientation Code Matching for Robust Object Search″,IEICE Trans. lnf.&Syst.,vol.E84-D,No.&pp.999-1006,2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1,2,3の車輌接近警報装置は、接近する列車を早期に検出するものである。このため、車輌接近警報装置の発生する列車接近信号を基に、録画の開始と終了を行う通過列車撮影装置では、実際にカメラの視野内を列車が通過している時間以外の撮影時間が多く存在する。
この場合、列車の撮影されていない不必要な画像データのために、録画装置の多くの画像保管領域が使用されると共に、屋根上装置として重要な監視対象であるパンタグラフが映っている画像を検索するために、時間と労力を要する。
【0010】
特許文献4は、画像処理により列車の進入を検知し、通過列車屋根上の画像を撮影する装置である。これらの装置は、画像中に列車が存在している期間の画像を録画するため、特許文献1,2,3の車輌接近警報装置を基にした通過列車撮影装置に比べて、録画装置の多くの画像保管領域を大幅に節約できる。
しかしながら、屋根上装置として重要な監視対象であるパンタグラフが映っている画像を検索するためには、特許文献1,2,3と同様に時間と労力を要する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の請求項1に係るパンタグラフ検出装置は、列車が通過する線路上方に監視カメラを設置し、該監視カメラにより下方を撮影し、撮影した入力画像を画像処理することにより前記入力画像中にパンタグラフが映っている画像のみを保管するパンタグラフ検出装置において、前記入力画像に対して方向符号照合を行い、予め設定した方向符号探索閾値よりも適合度が高いときには前記入力画像中にパンタグラフが映っていると判断する画像処理装置を備えたことを特徴とする。
上記課題を解決する本発明の請求項2に係るパンタグラフ検出装置は、請求項1記載のパンタグラフ検出装置において、前記画像処理装置は、前記入力画像の明るさにより前記方向符号探索閾値を変動させることを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する本発明の請求項3に係るパンタグラフ検出装置は、請求項1又は2記載のパンタグラフ検出装置において、前記画像処理装置は、前記入力画像中において前記方向符号照合によりパンタグラフ検出を行う探索範囲として、前記パンタグラフの形状特徴を用いてエッジヒストグラムを作成し、前記エッジヒストグラムが予め設定した閾値以上の範囲に設定したことを特徴とする。
上記課題を解決する本発明の請求項4に係るパンタグラフ検出装置は、請求項3記載のパンタグラフ検出装置において、前記画像処理装置は、前記エッジヒストグラムの作成の前処理として、前記入力画像に対して画質補正を行うことを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する本発明の請求項5に係るパンタグラフ検出装置は、請求項4記載のパンタグラフ検出装置において、前記画像処理装置は、前記画質補正として、濃度分布の線形濃度変換によるコントラスト強調を行うことを特徴とする。
上記課題を解決する本発明の請求項6に係るパンタグラフ検出装置は、請求項5記載のパンタグラフ検出装置において、前記画像処理装置は、前記コントラスト強調を行う際、前記パンタグラフを含む画像中央の一定領域内の濃度値ヒストグラムを用いることを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する本発明の請求項7に係るパンタグラフ検出装置は、請求項1記載のパンタグラフ検出装置において、前記線路上方にパンタグラフ検出センサをも設置し、該パンタグラフ検出センサが前記列車上のパンタグラフを検出した際に前記監視カメラにより前記パンタグラフを撮影することを特徴とする。
上記課題を解決する本発明の請求項8に係るパンタグラフ検出方法は、列車が通過する線路上方に監視カメラを設置し、該監視カメラにより下方を撮影し、撮影した入力画像を画像処理することにより前記入力画像中にパンタグラフが映っている画像のみを保管するパンタグラフ検出方法において、前記画像処理は、前記入力画像に対して方向符号照合を行い、予め設定した方向符号探索閾値よりも適合度が高いときには前記入力画像中にパンタグラフが映っていると判断することを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する本発明の請求項9に係るパンタグラフ検出方法は、請求項8記載のパンタグラフ検出方法において、前記方向符号照合は、前記入力画像の明るさにより前記方向符号探索閾値を変動させることを特徴とする。
上記課題を解決する本発明の請求項10に係るパンタグラフ検出方法は、請求項8又は9記載のパンタグラフ検出方法において、前記入力画像中において前記方向符号照合によりパンタグラフ検出を行う探索範囲は、前記パンタグラフの形状特徴を用いてエッジヒストグラムを作成し、前記エッジヒストグラムが予め設定した閾値以上の範囲に設定したことを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決する本発明の請求項11に係るパンタグラフ検出方法は、請求項10記載のパンタグラフ検出方法において、前記エッジヒストグラムの作成の前処理として、前記入力画像に対して画質補正を行うことを特徴とする。
上記課題を解決する本発明の請求項12に係るパンタグラフ検出方法は、請求項11記載のパンタグラフ検出方法において、前記画質補正として、濃度分布の線形濃度変換によるコントラスト強調を行うことを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決する本発明の請求項13に係るパンタグラフ検出方法は、請求項12記載のパンタグラフ検出方法において、前記コントラスト強調を行う際、前記パンタグラフを含む画像中央の一定領域内の濃度値ヒストグラムを用いることを特徴とする。
上記課題を解決する本発明の請求項14に係るパンタグラフ検出方法は、請求項8記載のパンタグラフ検出方法において、前記線路上方にパンタグラフ検出センサをも設置し、該パンタグラフ検出センサが前記列車上のパンタグラフを検出した際に前記監視カメラにより前記パンタグラフを撮影することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1、8に係る発明によれば、屋根上装置として重要な監視対象であるパンタグラフが映っている画像のみを保管するために方向符号照合を行っているため、日照変化等による明るさ変動に頑健で、画像中のパンタグラフ有無判断をより安定的に行うことができる。
【0019】
請求項2、9に係る発明によれば、方向符号照合において、入力画像の明るさにより方向符号探索閾値を変動させているため、暗い画像においてもパンタグラフを精度良く検出できる。
【0020】
請求項3、10に係る発明によれば、パンタグラフの形状特徴を用いてエッジヒストグラムを作成しているため、パンタグラフ検出を行う探索範囲をパンタグラフが存在する可能性のある範囲に限定することができ、誤検出が少なく、高速なパンタグラフ検出が行える。
【0021】
請求項4、11に係る発明によれば、記エッジヒストグラムの作成の前処理として、入力画像に対して画質補正(メディアンフィルタによるノイズ除去、濃度分布の線形濃度変換によるコントラスト強調等)を行うので、暗い画像においても誤検出の少ないパンタグラフ検出が行える。
【0022】
請求項5、12に係る発明によれば、画質補正として、濃度分布の線形濃度変換によるコントラスト強調を行うので、濃淡差が少ない暗い画像に対しても明瞭なエッジを抽出することができる。
【0023】
請求項6、13に係る発明によれば、濃度分布の線形濃度変換によるコントラスト強調を行う際、パンタグラフを含む画像中央の一定領域内の濃度値ヒストグラムを用いることで、画像端の背景部分に影響されずにコントラスト強調を行うことができる。
【0024】
請求項7、14に係る発明によれば、パンタグラフ検出センサがパンタグラフを検出した際に監視カメラによりパンタグラフを撮影するため、パンタグラフが映っている画像が大半であり、全ての画像を処理し終えるまでの時間が早い。従って、記憶装置の画像保管領域を効率よく使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例1に係る装置構成を示す概略図である。
【図2】明るい入力画像及び同画像におけるパンタグラフ検出照合の推移を示すグラフである。
【図3】暗い入力画像及び同画像におけるパンタグラフ検出照合の推移を示すグラフである。
【図4】線形濃度変換を示すグラフである。
【図5】線形濃度変換における変換前濃度範囲の決定を示すグラフである。
【図6】メディアンフィルタの説明図である。
【図7】入力画像及び横エッジ画像の説明図である。
【図8】横エッジ画像及びエッジヒストグラムの説明図である。
【図9】明るい画像及び横エッジ画像とエッジヒストグラムの説明図である。
【図10】暗い画像の横エッジ画像とエッジヒストグラムの説明図である。
【図11】パンタグラフ処理検出の流れを示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施例2に係る装置構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の前提となる基本的な考え方は、以下の通りである。
【0027】
先ず、パンタグラフ検出センサがパンタグラフを検出した際に監視カメラによりパンタグラフの撮影を行い、その画像を録画する。
ただし、パンタグラフ検出センサがパンタグラフ以外の車輌屋根上構造物や何らかの飛翔物に過敏反応し、パンタグラフが存在しない画像を誤って撮影する場合もある。
【0028】
そこで、録画した画像に対してパンタグラフが存在するか否かを画像処理により判断し、パンタグラフが映っている画像のみを保管する。
パンタグラフが存在するか否かの判断は、非特許文献1の方向符号照合(OCM:Orientation Code Matching)により画像中からパンタグラフを検出することで、明るさ変化や隠れに頑健な照合を行うことができる。
【0029】
方向符号照合とは、画像各部分の濃淡の強さ方向を符号化し、基準画像と入力画像との符号同士を照合することで、画像データ同士の適合度合いを検査する方法である。
そのため、パンタグラフが映っている画像のみを保管するごとができるため、特許文献4よりも記憶装置の画像保管領域を効率よく使用することができ、パンタグラフが映っている画像を検索する時間と労力を省くことができる。
【0030】
しかし、夜間に撮影する場合など撮影される画像が全体的に暗い場合は、濃淡差が少なくノイズが多くなるため、画像の濃淡の強さ方向を符号化する際に正確な方向符号が得られないピクセルが増える。
そのため、明るさ変動に頑健な方向符号照合を行っても、パンタグラフ基準画像との適合度が減少してしまい、パンタグラフを検出することができないという問題がある。
【0031】
また、濃淡の強さ方向がパンタグラフと良く似た車輌屋根上構造物が映っている場合、方向符号照合によりパンタグラフが映っていると誤検出するケースが多く見られるという問題がある。
以下に、このような問題を解決する実施例について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0032】
(パンタグラフ検出センサを用いる方法)
【0033】
本実施例では、図1に示すように、列車1が通過する線路2の上方に距離センサ等で構成されるパンタグラフ検出センサ40、監視カメラ30、照明装置20を設置し、照明装置20により下方を照明しつつ、パンタグラフ検出センサ40が列車1上のパンタグラフ1aを検出した際に監視カメラ30により下方を撮影し、パンタグラフ1aの画像を録画する。入力画像は、記憶装置(図示省略)の画像保管領域に保管される。
【0034】
ただし、パンタグラフ検出センサ40がパンタグラフ1a以外の車輌屋根上構造物や何らかの飛翔物に過敏反応し、パンタグラフ1aが存在しない画像を撮影する場合もある。
そこで、録画した画像に対してパンタグラフ1aが存在するか否かを画像処理装置50により判断し、パンタグラフ1aが映っている画像のみを保管する。
画像処理装置50は、方向符号照合により入力画像中からパンタグラフ1aを検出する。
【0035】
方向符号照合は、画像各部分の濃淡の強さ方向を符号化し、基準画像と入力画像との符号同士を照合することで、画像データ同士の適合度合いを検査する方法で、明るさ変化や隠れに頑健な照合方法である。
即ち、パンタグラフ基準画像を画像部分の濃淡強さで符号化した方向符号画像(「基準符号画像」と呼ぶ)を作成し、さらにパンタグラフ基準画像におけるパンタグラフ部分の位置やパンタグラフ部分の範囲から成るパンタグラフ照合データを作成しておく。
【0036】
次に、入力画像の方向符号画像(「入力符号画像」と呼ぶ)を作成し、予め設定しておいた探索範囲(「パンタグラフ探索範囲」と呼ぶ)Aにおいて、方向符号照合によりパンタグラフ基準画像におけるパンタグラフ部分との画像データ同士の比較を行い、パンタグラフ検出位置とそのパンタグラフ検出位置での方向符号照合値(「パンタグラフ検出照合値」と呼ぶ)を求める。つまり、パンタグラフ探索範囲Aとは、入力画像中において方向符号照合によりパンタグラフ検出を行う範囲のことである。
【0037】
パンタグラフ検出照合値は大きいほど、パンタグラフ基準画像との適合度合いが高いことを表している。
最後に、パンタグラフ検出照合値と予め設定した閾値Thocm(「方向符号探索閾値」と呼ぶ)を比較し、適合度が高い場合は、検査した画像中にパンタグラフ1aが存在したと判断する。
【0038】
本実施例では、暗い画像の場合、基本的な考え方では、パンタグラフ基準画像との適合度が減少しパンタグラフ1aを検出できないという問題に対して、適合度の判定に用いる方向符号探索閾値Thocmを入力画像の明るさによって変動させることにより解決する。
このようにしたのは、明るい画像の適合度の推移と比べて、暗い画像の適合度は全体的に減少するためである。
【0039】
図2(a)、図3(a)には、監視カメラ30で撮影された明るい入力画像、暗い入力画像をそれぞれ示し、図2(b)、図3(b)には、それぞれ明るい入力画像、暗い入力画像において、パンタグラフ探索範囲A内を探索したときのY座標にパンタグラフ検出照合値を投影したグラフを示す。
図2(a)(b)、図3(b)(b)に示す通り、パンタグラフ1aが存在するY座標では、パンタグラフ検出照合値が大きくなり急唆な山となっており、暗い画像では適合度が減少し全体的に山が小さくなる。なお、Y座標は、列車1の進行方向に沿った座標、つまり、縦座標である。
【0040】
式(1)に方向符号探索閾値Thocmを求める式を示す。
ここで、modeocmはパンタグラフ探索範囲における適合度のモード値(=最も出現頻度が高い値)である。
パンタグラフ1aが存在しない部分では、パンタグラフ探索範囲A内でパンタグラフ検出照合値が小さく出現頻度が高いため、モード値modeocmはパンタグラフ1aが存在しない通常部分の適合度を表すと考えることができる。
【0041】
ocmは方向符号探索閾値の調整量を決める重み定数であり、aveは入力画像の平均輝度値である。
即ち、図2(a)(b)に示すように、画像が明るいほど(=aveが大きいほど)方向符号探索閾値Thocmは通常値から大きく離れた値に設定され、逆に、図3(a)(b)に示すように、画像が暗いほど(=aveが小さいほど)方向符号探索閾値Thocmは通常値から近い値に設定される。
【0042】
このように、方向符号探索閾値Thocmを画像の明るさにより変動させることで、画像の明るさに関係なくパンタグラフ部分のパンタグラフ検出照合値が方向符号探索閾値Thocmより大きくなり、暗い画像でもパンタグラフ1aの検出を行えるようになる。
Thocm=modeocm+avexWocm …(1)
【0043】
また、本実施例では、方向符号照合の際のパンタグラフ探索範囲Aをパンタグラフ1aが存在すると思われるエリアのみに以下の様に自動的に限定することで、基本的な考え方では、車輌屋根上構造物1bなどパンタグラフ以外の物体の誤検出するケースが見られると言う問題を防ぐようにする。
即ち、パンタグラフ部分は横長の物体が集中しており(=横線が多い)、境界がはっきりとしている(=エッジ強度が大きい)という形状的な特徴がある。
【0044】
このようなパンタグラフ1aの形状特徴を用いることで、パンタグラフ探索範囲Aを自動設定することができると考えられるが、暗い画像では(1)濃淡差が少なく、(2)ノイズが多いため明瞭なエッジを抽出できず、パンタグラフ1aの形状特徴が捉えられないという課題がある。
そこで、入力画像に対して以下の前処理(画質補正)を施すことにより明瞭なエッジを抽出できるようにする。
【0045】
まず、濃度分布の線形濃度変換によるコントラスト強調を行うことにより、(1)を解決する。
線形濃度変換とは、変換前の濃度値と変換後の濃度値の関係が線形になるように濃度値を変換する操作であり、図4に示すように変換前は濃度値ヒストグラムがa〜bの濃度範囲に分布していたものが、変換後は0〜255の濃度範囲に伸張される。
【0046】
そのため、暗い画像を線形濃度変換した場合、隣接する画素の濃度差がより大きくなりエッジ強度が大きくなる。
なお、変換前の濃度範囲a〜bは入力画像に対して最小濃度値と最大濃度値を求めることにより決定する。
【0047】
このとき、暗い画像における照明装置20などの非常に少数な濃度値の影響により濃度範囲a〜bが見た目よりも広範囲に設定され、コントラストの改善度合いが弱くなってしまうことを防ぐため、図5に示すように濃度値ヒストグラムにおける画素数が総画素数の一定割合を満たしていない濃度値は無視する。
また、画像端の背景部分の濃度値が濃度値ヒストグラムに影響しないようにするため、パンタグラフ1aが映る画像中央の一定領域に範囲を限定して濃度値ヒストグラムを作成するようにしている。
【0048】
次に、メディアンフィルタによるノイズ除去を行うことにより、(2)を解決する。
メディアンフィルタとは、図6に示すように注目画素の周囲nxnの局所領域における濃度値を順番にソートした場合、中央値を注目画素に置き換える処理である。
これによりエッジをぼかさずにノイズを除去することができる。
【0049】
パンタグラフ探索範囲Aの自動設定には、前処理を施した画像のエッジ画像において、図7に示すような濃淡の勾配方向が90度または270度付近である横線画素のみを抽出した画像(「横エッジ画像」と呼ぶ)を用いる。
まず、図8(a)に示すように、横幅=画像幅、縦幅=パンタグラフ1aの高さ程度の領域(「横エッジカウント領域」と呼ぶ)Bを横エッジ画像に対して縦方向に走査していく。
【0050】
パンタグラフ部分では、エッジ強度の大きい横エッジ画素が横エッジカウント領域B内に多数存在している。
一方、車輌屋根上構造物部分は、横長でない・横長の物体が一箇所に集中しない・似た色が多いといういずれかの特徴である場合が多く、横エッジカウント領域B内に横エッジ画素がそれほど存在していないか、エッジ強度が小さい。
【0051】
そこで、評価には図8(b)に示すような横エッジカウント領域Bの中心のY座標ごとに領域内の横エッジ強度の平均値を投影したエッジヒストグラムを用いる。
パンタグラフ1aが存在する領域では、横エッジ画素数が多く、横エッジ強度も強いため、エッジ強度平均値が大きくなる。
【0052】
そこで、エッジヒストグラムのエッジ強度平均値が予め設定しておいた閾値Thhist以上のY座標の場合はパンタグラフ1aが存在するとみなし、パンタグラフ探索範囲Aに設定する。
このとき、図9に示す明るい画像に比べて、図10に示す暗い画像の方がエッジ強度平均値は全体的に小さくなる。
【0053】
そのため、適合度の場合と同様、閾値Thhistは式(2)によって入力画像の明るさにより変動させることで求める。
ここで、modehistはエッジヒストグラムにおけるエッジ強度平均値のモード値、Whistは閾値Thhistの調整量を決める重み定数、aveは入力画像の平均輝度値である。
式(1)の場合と同様、画像が暗いほど閾値Thhistは通常値から近い値に設定される。
【0054】
以上のように、方向符号照合の際のパンタグラフ探索範囲Aをパンタグラフ1aが存在すると思われるエリアのみに自動的に設定することにより、誤検出の可能性がある車輌屋根上構造物のほとんどの領域は方向符号照合を行うパンタグラフ探索範囲Aから外れる。
従って、誤検出が減り、精度が向上すると同時に、方向符号照合時の照合回数を減らせるので照合処理の高速化を行うことができる。
Thhist=modehist+ave×Whist …(2)
【0055】
以上の画像処理について、画像処理装置50は、図11に示すフローチャートに従い、以下のように行う。
(1)パンタグラフ探索範囲Aを次の(ア)〜(力)の処理で求める
(ア)入力画像に対して線形濃度変換を行い、コントラスト強調を行い(ステップS1)、
(イ) (ア)で作成した画像に対してメディアンフィルタをかけてノイズ除去を行い(ステップS2)、
(ウ) (イ)で作成した画像に対してエッジ検出を行う(ステップS3)。
【0056】
(エ) (ウ)で作成した画像に対して濃淡の勾配方向が90度または270度付近である横線画素のみを残し、横エッジ画像を作成する(ステップS4)。
(オ) (エ)で作成した画像に対して横エッジカウント領域Bを縦方向に走査し、領域内の横エッジ強度の平均値を求める。求めた平均値を横エッジカウント領域B中心のY座標ごとに投影し、エッジヒストグラムを作成する(ステップS5)。
(カ) (オ)で作成したエッジヒストグラムと入力画像の明るさにより算出される閾値を用いて、パンタグラフ探索範囲Aを求める(ステップS6)。
【0057】
(2)入力画像の方向符号画像を求め、入力符号画像を作成する(ステップS7)。
(3) (1),(2)で求めたパンタグラフ探索範囲A、入力符号画像および用意しておいた基準符号画像を用いて方向符号照合を行う(ステップS8)
(4) (3)により求まるパンタグラフ検出照合値と入力画像明るさにより算出される閾値を比較し、適合度の判定、即ち、パンタグラフ1aの有無を判定する(ステップS9)。
【実施例2】
【0058】
(パンタグラフ検出センサを用いない方法)
本実施例の構成を図12に示す。
本実施例は、入力画像の取得方法が実施例1とは異なる。
【0059】
実施例1では、列車1が通過する線路2の上方にパンタグラフ検出センサ40を設置し、センサ40が反応した場合に入力画像を取得していたが、本実施例はパンタグラフ検出センサ40を用いずに、特許文献4と同様に、監視カメラ30によって下方を撮影した画像を入力画像とする。
即ち、本実施例では、図12に示すように、列車1が通過する線路2の上方に、監視カメラ30、照明装置20を設置し、監視カメラ30により下方を撮影し、その画像を録画する。
【0060】
監視カメラ30により撮影された入力画像に対しては、実施例1と同様に、方向符号照合により画像中からパンタグラフ1aを検出する。その具体的な内容は、図11に示す通りである。
本実施例では、パンタグラフ検出センサ40を省くことができるため、実施例1よりも低コストで、簡単な装置構成にできる。
【0061】
本実施例では、監視カメラ30で常に下方を撮影するため、パンタグラフ1aが映っていない列車1の画像も多く撮影される。
しかし、撮影した画像全てに対して実施例1で述べたパンタグラフ検出方法を用いることによりパンタグラフ検出を行うことができるので、パンタグラフ1aが映っている画像のみを最終的に保管することができる。
【0062】
また、パンタグラフ1aの検出を行うタイミングは以下の2パターンが考えられるが、いずれの場合でもパンタグラフ1aが映っている画像のみを最終的に保管することができるので、パングラフが映っている画像を手動で探す労力を省くことができる。
【0063】
・ 撮影直後の画像に対してパンタグラフ検出を行う。パンタグラフ1aが映っている画像の場合は、録画装置の画像保管領域に保管する。
・ 撮影した画像を一通り録画装置の画像保管領域に保管しておいてからパンタグラフ検出を行う。パンタグラフ1aが映っていない画像の場合は、その画像を画像保管領域から削除する。
【0064】
ただし、実施例1と比べて本実施例の方が検出対象となる画像が多くなる(実施例1ではパンタグラフ1aが映っている列車1の画像が大半だが、本実施例は通過する列車1の画像全てを処理する)ので、全ての画像を処理し終えるまでの時間は実施例1よりも増える。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、線路上方に設置された監視カメラにより撮影した画像から通過列車のパンタグラフを検出する技術として産業上広く利用可能なものである。
【符号の説明】
【0066】
1 列車
1a パンタグラフ
2 線路
20 照明装置
30 監視カメラ
40 パンタグラフ検出センサ
50 画像処理装置
A パンタグラフ探索範囲
B 横エッジカウント領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車が通過する線路上方に監視カメラを設置し、該監視カメラにより下方を撮影し、撮影した入力画像を画像処理することにより前記入力画像中にパンタグラフが映っている画像のみを保管するパンタグラフ検出装置において、前記入力画像に対して方向符号照合を行い、予め設定した方向符号探索閾値よりも適合度が高いときには前記入力画像中にパンタグラフが映っていると判断する画像処理装置を備えたことを特徴とするパンタグラフ検出装置。
【請求項2】
請求項1記載のパンタグラフ検出装置において、前記画像処理装置は、前記入力画像の明るさにより前記方向符号探索閾値を変動させることを特徴とするパンタグラフ検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のパンタグラフ検出装置において、前記画像処理装置は、前記入力画像中において前記方向符号照合によりパンタグラフ検出を行う探索範囲として、前記パンタグラフの形状特徴を用いてエッジヒストグラムを作成し、前記エッジヒストグラムが予め設定した閾値以上の範囲に設定したことを特徴とするパンタグラフ検出装置。
【請求項4】
請求項3記載のパンタグラフ検出装置において、前記画像処理装置は、前記エッジヒストグラムの作成の前処理として、前記入力画像に対して画質補正を行うことを特徴とするパンタグラフ検出装置。
【請求項5】
請求項4記載のパンタグラフ検出装置において、前記画像処理装置は、前記画質補正として、濃度分布の線形濃度変換によるコントラスト強調を行うことを特徴とするパンタグラフ検出装置。
【請求項6】
請求項5記載のパンタグラフ検出装置において、前記画像処理装置は、前記コントラスト強調を行う際、前記パンタグラフを含む画像中央の一定領域内の濃度値ヒストグラムを用いることを特徴とするパンタグラフ検出装置。
【請求項7】
請求項1記載のパンタグラフ検出装置において、前記線路上方にパンタグラフ検出センサをも設置し、該パンタグラフ検出センサが前記列車上のパンタグラフを検出した際に前記監視カメラにより前記パンタグラフを撮影することを特徴とするパンタグラフ検出装置。
【請求項8】
列車が通過する線路上方に監視カメラを設置し、該監視カメラにより下方を撮影し、撮影した入力画像を画像処理することにより前記入力画像中にパンタグラフが映っている画像のみを保管するパンタグラフ検出方法において、前記画像処理は、前記入力画像に対して方向符号照合を行い、予め設定した方向符号探索閾値よりも適合度が高いときには前記入力画像中にパンタグラフが映っていると判断することを特徴とするパンタグラフ検出方法。
【請求項9】
請求項8記載のパンタグラフ検出方法において、前記方向符号照合は、前記入力画像の明るさにより前記方向符号探索閾値を変動させることを特徴とするパンタグラフ検出方法。
【請求項10】
請求項8又は9記載のパンタグラフ検出方法において、前記入力画像中において前記方向符号照合によりパンタグラフ検出を行う探索範囲は、前記パンタグラフの形状特徴を用いてエッジヒストグラムを作成し、前記エッジヒストグラムが予め設定した閾値以上の範囲に設定したことを特徴とするパンタグラフ検出方法。
【請求項11】
請求項10記載のパンタグラフ検出方法において、前記エッジヒストグラムの作成の前処理として、前記入力画像に対して画質補正を行うことを特徴とするパンタグラフ検出方法。
【請求項12】
請求項11記載のパンタグラフ検出方法において、前記画質補正として、濃度分布の線形濃度変換によるコントラスト強調を行うことを特徴とするパンタグラフ検出方法。
【請求項13】
請求項12記載のパンタグラフ検出方法において、前記コントラスト強調を行う際、前記パンタグラフを含む画像中央の一定領域内の濃度値ヒストグラムを用いることを特徴とするパンタグラフ検出方法。
【請求項14】
請求項8記載のパンタグラフ検出方法において、前記線路上方にパンタグラフ検出センサをも設置し、該パンタグラフ検出センサが前記列車上のパンタグラフを検出した際に前記監視カメラにより前記パンタグラフを撮影することを特徴とするパンタグラフ検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−15697(P2012−15697A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148757(P2010−148757)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】