説明

パン類及びアルカリ麺類製造用米粉ブレンド粉とそれを用いた米粉食品及びその製造方法

【課題】画期的に製パン性、製麺性良好なアルカリ処理米粉ブレンド粉とそれを用いて品質良好なパン類、アルカリ麺類を提供する。
【解決手段】タンパク質含量13.5質量%〜18質量%の範囲である小麦粉に画期的に製パン性、製麺性良好なアルカリ処理米粉を適当量ブレンドし、従来の米粉ブレンド粉に比べ製パン性、製麺性の非常に優れた米粉ブレンド粉を調製し、本米粉ブレンド粉を用いて従来品に比べ格段に高品質の米粉含有パン類、アルカリ麺類を製造できる。本法によって得られるパン類、アルカリ麺類は従来品に比べ総合的品質が良好で、特に食感(モチモチ感)、食味に優れた特性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質含量13.5%以上の小麦粉とアルカリ処理米粉を適当量混合した、製パン性に優れたパン類製造用米粉ブレンド粉、製麺性に優れたアルカリ麺類製造用米粉ブレンド粉に関する。更に本発明は、前記ブレンド粉を用いて製造された品質良好なパン類及びアルカリ麺類とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、米は米飯として、粒食の用途が大部分であり、粉食用途としては団子、米菓、打物等の和菓子に限られ、小麦粉の様な広範囲の加工利用は行われてこなかった。しかしながら、最近、米を多量の損傷澱粉を出すことなく微粉砕する技術が開発され、米粉の広範囲の加工利用技術が開発されつつある。
【0003】
しかしながら、これまでの検討は主に米粉の製粉方法の改善と得られた米粉をパンや麺に利用するための製パン法、製麺法の改良について行われてきた。米粉の製粉方法については、例えば、特許文献1〜4に記載があり、製パン法、製麺法の改良については、特許文献5〜11に記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−287652号公報
【特許文献2】特開平5−68468号公報
【特許文献3】特開平11−32706号公報
【特許文献4】特開2000−175636号公報
【特許文献5】特開平5−15298号公報
【特許文献6】特開平6−7071号公報
【特許文献7】特開平7−184576号公報
【特許文献8】特開平11−346690号公報
【特許文献9】特開2001−169740号公報
【特許文献10】特開2001−327242号公報
【特許文献11】特開2002−95404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの技術によって米粉の製パン性、製麺性(主にアルカリ麺)等はかなり向上した。しかし、大部分の例が製パン性、製麺性向上のために粉末グルテン、増粘多糖類等を添加しているにも関わらず、その製パン性、製麺性(主にアルカリ麺)は未だに小麦粉のそれに比べ遙かに劣る状況である。さらに、粉末グルテン、増粘多糖類等を使用すると、独特のグルテン臭等のため得られた食品の風味が劣化し、また、増粘多糖類によりパン、麺の食感が著しく劣るなどの問題が生じるという欠点が新たに生じる。このような状況から、米粉ブレンド粉を用いて十分な品質のパン、アルカリ麺が製造できていないのが現状である。
【0006】
このような状況から、グルテン、増粘多糖類等の添加物フリーの米粉ブレンド粉を用いたパン、アルカリ麺製造において、小麦粉並又はそれ以上の製パン性、製麺性が強く望まれていると共に、米粉ブレンド粉を用いた小麦粉製品並み又はそれ以上の品質で、且つ、米粉の良好な特徴が発揮された特徴的パン類、アルカリ麺類の製造技術の開発が強く求められている。
【0007】
本発明の目的は、米粉と小麦粉とのブレンド粉であって、グルテンおよび増粘多糖類を用いることなく、小麦粉並又はそれ以上の製パン性を有する、米粉ブレンド粉を提供することにある。さらに本発明の目的は、米粉と小麦粉とのブレンド粉であって、グルテンおよび増粘多糖類を用いることなく、小麦粉並又はそれ以上の製麺性を有する、米粉ブレンド粉を提供することにある。加えて本発明は、これらのブレンド粉を用いて、米粉の良好な特徴が発揮された特徴的パン類およびアルカリ麺類を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決するための米粉の種類と調製方法、米粉にブレンドする小麦粉の種類、特にタンパク質含量、米粉と小麦粉のブレンド割合等について鋭意研究した結果、本発明を完成した。
【0009】
本発明は以下のとおりである。
[1]
タンパク質含量が13.5質量%〜18質量%の範囲である小麦粉を95質量部〜60質量部およびアルカリ処理米粉を5質量部〜40質量部含有するパン類製造用ブレンド粉であって、但し、小麦粉およびアルカリ処理米粉の合計を100質量部とし、前記アルカリ処理米粉は、平均粒径が3.0μm以上20.0μm以下、損傷澱粉量が0.5質量 %以上5.0質量%以下、タンパク質含量が0.01質量%以上1.0質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.0質量%以上2.0質量%以下の米粉である、前記ブレンド粉。
[2]
タンパク質含量が13.5質量%〜18質量%の範囲である小麦粉を97質量部〜75質量部およびアルカリ処理米粉を3質量部〜25質量部を含有するアルカリ麺類製造用ブレンド粉であって、但し、小麦粉およびアルカリ処理米粉の合計を100質量部とし、前記アルカリ処理米粉は、平均粒径が3.0μm以上20.0μm以下、損傷澱粉量が0.5質量 %以上5.0質量%以下、タンパク質含量が0.01質量%以上1.0質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.0質量%以上2.0質量%以下の米粉である、前記ブレンド粉。
[3]
粉末グルテンおよび増粘多糖類を含有しない、[1]または[2]に記載のブレンド粉。
[4]
前記小麦粉の少なくとも一部が超強力粉である、[1]〜[3]のいずれかに記載のブレンド粉。
[5]
前記米粉が以下の工程(1)〜(3)を含む方法で製造される米粉である、[1]〜[4]のいずれかに記載のブレンド粉。
(1)生米粒をアルカリ性水溶液とともに粉砕処理するか、または生米粒を粉砕した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理し、処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する工程、
(2) 分離した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理し、処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する工程、但し、この工程は、1回または2回以上行う、
(3)得られた米粉を、任意に水洗及び/又は中和した後に、脱水及び/又は乾燥して米粉を得る工程
[6]
[1]、[4]または[5]に記載のブレンド粉を用い、かつ粉末グルテンおよび増粘多糖類を用いることなくパン類を製造する、パン類の製造方法。
[7]
[2]、[4]または[5]に記載のブレンド粉を用い、かつ粉末グルテンおよび増粘多糖類を用いることなく麺類を製造する、アルカリ麺類の製造方法。
[8]
[1]、[4]または[5]に記載のブレンド粉を用い、かつ粉末グルテンおよび増粘多糖類を用いることなく製造されたパン類。
[9]
[1]、[4]または[5]に記載のブレンド粉を用い、かつ粉末グルテンおよび増粘多糖類を用いることなく製造されたアルカリ麺類。
【0010】
即ち、本発明は、適当なアルカリ処理により非常に粒径が小さく、損傷澱粉量、タンパク質含量が非常に少なく、非澱粉性糖類も少なく、且つ、ブレンドした場合の製パン性、製麺性の画期的良好な米粉に、製パン性、製麺性の良好な高タンパク質含量の適当量の小麦粉をブレンドすることによって、グルテン、増粘多糖類等の添加物を添加せずとも、従来に比べ、製パン性、製麺性の良好な米粉ブレンド粉を開発した。さらにこの米粉ブレンド粉を用いることによって小麦粉製品並み又はそれ以上の品質で、且つ、米粉の良好な特徴が発揮された特徴的パン類、アルカリ麺類を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のパン、アルカリ麺類用米粉ブレンド粉とそれを用いた米粉食品によれば、グルテン無添加の本発明の米粉ブレンド粉を用い米粉ブレンド粉の製パン性、製麺性を飛躍的に改善することができる。この効果は主に製パン性、製麺性が飛躍的に改善されたアルカリ処理米粉と高タンパク質含量小麦粉の効果である。これにより、市販強力粉、準強力粉からのそれぞれパン類、アルカリ麺類と同等かそれ以上の高品質の各種パン類、麺類を米粉ブレンド粉を用いて製造することが可能になる。その結果、従来、外麦(外国産小麦)強力粉、準強力粉を主に用いて製造されていたパン類、アルカリ麺類を国内産、地域産の米粉、小麦粉を用いて製造することが可能になり、従来粒食に限られていた米の消費の拡大と国内産、地域産小麦の需要拡大に多大の寄与が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ブレンド粉]
本発明の第1の態様は、タンパク質含量が13.5質量%〜18質量%の範囲である小麦粉を95質量部〜60質量部およびアルカリ処理米粉を5質量部〜40質量部含有するパン類製造用ブレンド粉である。
本発明の第2の態様は、タンパク質含量が13.5質量%〜18質量%の範囲である小麦粉を97質量部〜75質量部およびアルカリ処理米粉を3質量部〜25質量部を含有するアルカリ麺類製造用ブレンド粉である。
いずれの態様においても、小麦粉およびアルカリ処理米粉の合計を100質量部とし、前記アルカリ処理米粉は、平均粒径が3.0μm以上20.0μm以下、損傷澱粉量が0.5質量 %以上5.0質量%以下、タンパク質含量が0.01質量%以上1.0質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.0質量%以上2.0質量%以下の米粉である。
【0013】
<小麦粉>
本発明のブレンド粉で用いる小麦粉は、タンパク質含量が13.5質量%〜18質量%の範囲である小麦粉である。グルテン、増粘多糖類等の添加物無添加の製パン性または製麺性良好な米粉ブレンド粉とするために、タンパク質含量が13.5質量%以上の小麦粉を用いる。タンパク質含量は14.0質量%以上であることが好ましい。
【0014】
一方、小麦粉のタンパク質含量の上限が18質量%とした理由は以下の通りである。(i)高タンパク質含量のパン用小麦を追肥等で生産しようとしても、原麦(小麦の粒の状態)で17質量%位のタンパク質含量が限界である。原麦を製粉して特にタンパク含量の高い小麦粉を調製しようとしても小麦粉のタンパク質含量の限界は18質量%位になる。(ii)一般的にタンパク質含量が18質量%を超える高タンパク質含量の小麦粉は製パン特性等の品質は良好であっても、灰分含量等が上昇し、著しく小麦粉の粉色が劣る傾向がある。
【0015】
タンパク質含量が13.5質量%〜18質量%の範囲である小麦粉は、パン用小麦粉として市販されているものを使用できる。パン用小麦粉は、例えば、準強力小麦粉および強力小麦粉と呼ばれる小麦粉である。さらに本発明では、小麦粉は、パン用小麦粉に加えて、超強力小麦粉(超強力粉)を含むものであることもできる。超強力小麦粉(超強力粉)については、後述する。また、小麦粉は、パン用小麦粉に加えて、中力小麦粉、薄力小麦粉を含有することもでき、その場合、ブレンド粉が本発明の特性を示す限り、小麦粉としてパン用小麦粉に併用することができる。
【0016】
小麦粉のタンパク質含量は、水分含量13.5質量%ベースで伊藤らの方法(Ito et al., Food Sci. Technol. Res., 13, 121-128(2007))によって近赤外分光法によって測定された値と定義する。また、本発明の米粉ブレンドの製パン性、製麺性をより高めるためには、準強力小麦粉以上の一定以上のタンパク質の強度を持つ小麦粉、即ち準強力粉、強力粉、または超強力粉を使用する方がより好ましく、特に、タンパク質が強靱で得られた生地が非常に弾力性に富む特性を示し、後述した超強力小麦の定義に合致する超強力粉を10質量%以上30質量%以下含有する小麦粉を使用することがより好ましい。超強力粉の適当量のブレンドにより、米粉ブレンド粉の生地の軟化が抑制され通常のパン用小麦粉の生地に近い米粉ブレンド粉生地を調製することが可能になる。尚、小麦粉が複数種類の小麦粉の混合物である場合、各小麦粉のタンパク質含量の平均値が上記13.5〜18質量%の範囲にあればよい。
【0017】
本発明の米粉ブレンド粉に使用される小麦粉は、その小麦粉の吸水が65質量%以上であることが、ボリュームのある良好なパン、食感良好なアルカリ麺を本ブレンド粉で製造するという観点から好ましい。同様の観点で、その小麦粉の吸水が67質量%以上であることがより好ましい。小麦粉の吸水は、AACC法(Approved Methods of the AACC, Method 54-21 The Association, St. Paul, MN(1991))によりファリノグラフにおいて500BUを示す吸水と定義する。タンパク質強度が前記のように一定以上の小麦粉を用いる場合、上記のように一定以上の吸水を示す小麦粉であれば、より良好なパン及びアルカリ麺が製造できる。
【0018】
本発明のパン類製造用ブレンド粉(第1の態様)においては、上記小麦粉を95質量部〜60質量部およびアルカリ処理米粉を5質量部〜40質量部含有する。但し、小麦粉およびアルカリ処理米粉の合計を100質量部とする。アルカリ処理米粉が5質量部未満では、米粉添加の特徴が十分に発揮されず、良好な米風味、米粉添加に伴うモチモチとした良好な食感が十分発揮されず、小麦粉100%のパンと比較して優位性を十分に発揮できない。アルカリ処理米粉が40質量部を超えると相対的ブレンド粉のタンパク質含量が低下するため、ブレンド粉の全般的製パン性が低下して、パンの比容積の低下、パン内相の劣化、過剰なモチモチ食感等の弊害が生じる。上記範囲の含有量のアルカリ処理米粉を添加した米粉ブレンド粉を用いることによって、良好な食感、食味のパン類を調製することができる。この観点から、本発明のパン類製造用ブレンド粉(第1の態様)においては、アルカリ処理米粉を10質量部〜30質量部含有することが好ましい。
【0019】
本発明の麺類製造用ブレンド粉(第2の態様)においては、上記小麦粉を97質量部〜75質量部およびアルカリ処理米粉を3質量部〜25質量部を含有する。但し、小麦粉およびアルカリ処理米粉の合計を100質量部とする。アルカリ処理米粉が3質量部未満では、米粉添加の特徴が十分に発揮されず、ほのかな米風味、米粉添加に伴うつるっとした食感が十分発揮されず、小麦粉100%のアルカリ麺と比較して優位性を十分に発揮できない。アルカリ処理米粉が25質量部を超えると相対的ブレンド粉のタンパク質含量が低下するため、ブレンド粉の全般的製麺性が低下して、麺の繋がりが悪くなり、麺の表面状態、物性が劣化し過剰に麺が軟化するという弊害が生じる。上記範囲の含有量のアルカリ処理米粉を添加した米粉ブレンド粉を用いることによって、良好な食感、食味のアルカリ麺類を調製することができる。この観点から、本発明の麺類製造用ブレンド粉(第2の態様)においては、アルカリ処理米粉を5質量部〜20質量部含有することがさらに好ましい。
【0020】
なお、本発明において、小麦粉、米粉の質量はすべて13.5%水分ベースの質量であり、米粉ブレンド粉の小麦粉、米粉の質量部もすべて13.5%水分ベースの質量に基づく。
【0021】
前記超強力粉とは、American Association of Cereal Chemists 法(AACC法)のミキソグラフ試験法(Approved Methods of the AACC, Method 54-40A, The Association, St.Paul, MN(1991))により測定されるミキシングピークタイムの3回の測定の平均値が、日清製粉製市販強力粉(商品名:カメリヤ)の同様の測定値の3回の平均値の1.2倍以上好ましくは1.4倍以上を示す小麦粉で、且つ、高分子グルテニンサブユニット5+10とGluB3g、GluB3bのいずれかの遺伝子由来の低分子グルテニンサブユニットを持ち、且つ、高分子グルテニンサブユニット20を持たない小麦粉のことである。上記のサブユニットの検出は、中村ら(中村ら,育種学雑誌,40,485−494(1990))、高田ら(Takata et al., Breeding Science, 50, 303-308(2000)),池田ら(Ikeda et al., Theor.Appl.Genet., 112,327-334(2006))の一次元、2次元電気泳動法によって簡単に検出することができる。この超強力粉の調製に好適な超強力小麦品種・系統としては、「ゆめちから」、「北海259号」、「北海262号」、「北海260号」、「Bluesky」、「Wildcat」等を上げることができるが、品種・系統に特に限定はない。
【0022】
<アルカリ処理米粉>
本発明のブレンド粉で用いるアルカリ処理米粉とは、平均粒径が3.0μm以上20.0μm以下、損傷澱粉量が0.5質量 %以上5.0質量%以下、タンパク質含量が0.01質量%以上1.0質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.0質量%以上2.0質量%以下である米粉である。
【0023】
本発明で用いる米粉は、好ましくは、平均粒径が4.0μm以上10.0μm以下、損傷澱粉量が0.8質量%以上3.0質量%以下、タンパク質含量が0.1質量%以上0.5質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.2質量%以上1.9質量%以下である。本発明で用いる米粉は、さらに好ましくは、平均粒径が5.0μm以上7.0μm以下、損傷澱粉量が1.0質量%以上2.5質量%以下、タンパク質含量が0.15質量%以上0.2質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.3質量%以上1.8質量%以下である
【0024】
本発明における米粉は、平均粒径が3.0μm以上20.0μm以下であることで、前記小麦粉と本米粉とを含むブレンド粉を用いて製造したパン類または麺類が、市販の小麦粉のみで製造したパン類または麺類と同等又はそれ以上の品質で、かつ米粉がもたらす良好な食感等の特徴が付与されるという利点がある。平均粒径が3.0μm未満になると、パン類または麺類の製造過程で本米粉に水分を加えて生地を形成する際にまとまりにくく、製造されたパン類の内相はつぶれ、製造された麺類の切断面が不規則な構造となるため、品質が非常に低下するという問題がある。平均粒径が20.0μmを超えると、製造されたパン類は十分に膨らまず、内相はつぶれて食感は粗くなり、風味も劣り、製造された麺類の切断面は粗となり食感も粗くなるため、各種パン類または麺類の品質が非常に低下するという問題がある。
【0025】
本発明における米粉は、損傷澱粉量が0.5質量%以上5.0質量%以下であることで、前記小麦粉と本米粉とを含むブレンド粉を用いて製造したパン類または麺類と同等又はそれ以上の品質で、かつ米粉がもたらす良好な食感等の特徴が付与されるという利点がある。損傷澱粉量を0.5質量%未満にするためには、製造工程が複雑となってコストがかかるという問題がある。損傷澱粉量が5.0質量%を超えると製造されたパン類は十分に膨らまず、内相はつぶれて食感と風味が劣り、製造された麺類の食味は劣るため、各種パン類または麺類の品質が非常に低下するという問題がある。
【0026】
本発明における米粉は、タンパク質含量が0.01質量%以上1.0質量%以下であることで、前記小麦粉と本米粉とを含むブレンド粉を用いて製造したパン類または麺類が、市販の小麦粉のみで製造したパン類または麺類と同等又はそれ以上の品質で、かつ米粉がもたらす良好な食感等の特徴が付与されるという利点がある。タンパク質含量を0.01質量%未満にするためには、製造工程が複雑となってコストがかかるという問題がある。タンパク質含量は1.0質量%を超えると製造されたパン類は十分に膨らまず、内相はつぶれて食感と風味は劣り、製造された麺類の食味は劣るため、各種パン類または麺類の品質が非常に低下するという問題がある。
【0027】
本発明における米粉は、非澱粉性糖類が1.0質量%以上2.0質量%以下であることで、前記小麦粉と本米粉とを含むブレンド粉を用いて製造したパン類または麺類が、市販の小麦粉のみで製造したパン類または麺類と同等又はそれ以上の品質で、かつ米粉がもたらす良好な食感等の特徴が付与されるという利点がある。非澱粉性糖類が1.0質量%未満にするためには、製造工程が複雑となってコストがかかるという問題がある。非澱粉性糖類が2.0質量%を超えると製造されたパン類は十分に膨らまず、内相はつぶれて食感と風味が劣り、製造された麺類の食味は劣るため、各種パン類または麺類の品質が非常に低下するという問題がある。
【0028】
なお、アルカリ処理米粉の平均粒径は、Sympatec社(ドイツ)のHELOS Particle Size Analysisを用いて水分含量12.0%から14.0%の範囲の試料を用いて測定される平均粒径の値と定義される。また、損傷澱粉量は、乾物試料ベースでメガザイム社(アイルランド)のstarch damage assay kitを用いて測定される損傷澱粉量(質量%)と定義される。本米粉のタンパク質含量は、乾物試料ベースで標準ケルダール法で求めた値(%)と定義する。また、本米粉の非澱粉性糖類の含量は、乾燥試料ベースの値(%)であり、測定値は全乾物試料質量を100%とし、それから酵素法により求めた乾物試料ベースでの澱粉含量(質量%)と上記のタンパク質含量(%)を差し引いて求めた値(%)と定義する。
【0029】
乾物試料ベースでの試料中の澱粉含量の値(%)は以下のように測定する。試料0.1〜0.2gに50%エタノール水溶液を添加混合し上清を除去することによって低分子の糖を除去する。次に、十分量の水を添加したサンプルをほぼ100℃で3分間加熱し、完全に澱粉を糊化させる。このサンプルを冷却後グルコアミラーゼ剤(日本バイオコン株式会社製)を十分量添加し、37℃、2時間インキュベートし、澱粉を完全に分解する。この分解サンプルを適当な濾紙で濾過し濾液中のグルコース量をグルコース測定キットを用いて測定する。得られたグルコース量から以下の式によって乾物試料当たりの澱粉含量(%)を計算によって求める。
乾物試料当たりの澱粉含量(%)=グルコース量(g)×0.9/乾物試料質量(g)×100
【0030】
本発明のブレンド粉で用いるアルカリ処理米粉は、以下の工程(1)〜(3)を含む方法によって製造することができる。
(1)生米粒をアルカリ性水溶液とともに粉砕処理するか、または生米粒を粉砕した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理し、処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する工程、
(2)分離した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理し、処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する工程、但し、この工程は、1回または2回以上行う、
(3)得られた米粉を、任意に水洗及び/又は中和した後に、脱水及び/又は乾燥して米粉を得る工程
【0031】
工程(1)
工程(1)では、生米粒をアルカリ性水溶液とともに粉砕処理するか、または生米粒を粉砕した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理する。米原料の種類は特に限定は無く、例えば、粳種、糯種、長粒種、中粒種、短粒種など種々のものが使用できる。また、米粒は、通常精米が使用され、例えば、70〜90質量%の精米歩合のものを使用することができる。70〜90質量%の精米歩合のものを使用することで、アルカリ処理の効果が首尾良く発揮され、望ましい特性の米粉を効率的に調製することができるという利点がある。
【0032】
アルカリ性水溶液としては、例えば、NaOH水溶液が用いられるがそれに限定されるものではない。食品製造に使用可能なアルカリ性の物質溶液でNaOH水溶液と同様の塩基度、効果を発揮するアルカリ物質の水溶液であればいずれも使用することができる。アルカリ物質としては、Na、K、Caなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩等いずれも用いることができる。米粒をアルカリ性水溶液に浸漬して米粉を調製する場合は、浸漬処理した米粒を水挽き方式の粉砕機(グラインダー方式粉砕機、石臼製粉機、胴搗粉砕機等)を用いて粉砕する。生米粒を粉砕した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理する場合には、事前に、生米粒を乾式または湿式粉砕し、得られた米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理する。
【0033】
アルカリ性水溶液としては、例えば、0.2質量%(0.05規定)から5質量%(1.25規定)、好ましくは0.2(0.05規定)から3質量%(0.75規定)のNaOH溶液相当の塩基度のアルカリ水溶液を用いる。上記濃度範囲のアルカリ性水溶液を用いることで、米粉の澱粉が糊化することなく、タンパク質、損傷澱粉、非澱粉性糖類が容易に除去されるというという利点がある。このアルカリ性水溶液中に、米粒または米粉を、1℃から40℃の温度範囲、好ましくは3℃から10℃の範囲で8から24時間好ましくは10から15時間浸漬することで行うことができる。この範囲の温度及び時間とすることで、本発明の所望の米粉を得ることができる。米粒または米粉のアルカリ処理用のアルカリ性水溶液の量は、米粒または米粉に対して6から10倍量、好ましくは7から9倍量である。この範囲の量とすることで、本発明の所望の米粉を得ることができる。但し、アルカリ処理効果が十分に発揮できる割合であれば、温度、時間及び量には、特に制限はない。
【0034】
浸漬処理後、遠心分離、デカンテーション等の操作でアルカリ性水溶液の上清を除去する。
【0035】
工程(2)
工程(2)では、工程(1)で分離した米粉を、再度、0.2質量%(0.05規定)から5質量%(1.25規定)、好ましくは0.2質量%(0.05規定)から3質量%(0.75規定)のアルカリ性水溶液に浸漬処理し、処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する。アルカリ性水溶液への浸漬処理は、工程(1)と同様の条件で実施してもよいし、工程(1)と異なる条件で実施してもよい。但し、このアルカリ性水溶液のアルカリ度や浸漬温度、時間及び量は、工程(1)の説明を参照することができる。浸漬処理後の分離は、遠心分離、デカンテーション等の操作によって上清のアルカリ水溶液を除去することが行う。工程(2)では、このアルカリ性水溶液への浸漬および分離を1回または2回以上行う。2回以上行う場合、繰り返しの回数は、米粉のアルカリ処理の度合い等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、10回までの範囲で実施できる。但し、上限は10回に限定される意図ではない。必要により10回を超える回数のアルカリ性水溶液への浸漬および分離を実施することもできる。繰返し操作におけるアルカリ性水溶液への浸漬条件や分離条件は、各回同一でも異なってもよい。
【0036】
工程(3)
工程(3)では、工程(2)で分離した米粉を、脱水及び/又は乾燥して米粉を得る。脱水及び/又は乾燥前には、任意で、水洗及び/又は中和をすることもできる。中和処理に使用する酸は食品用に利用できる酸であれば特に限定はなく、例えば、塩酸、硫酸、亜硫酸などの無機酸や酢酸、乳酸、クエン酸などの有機酸やこれらの塩の単独もしくは2種以上組み合わせて用いることができる。中和処理後の水洗は、通常大過剰の水を加えた後、中和処理した米粉混合液を良く混合し、遠心分離、デカンテーション等の操作によって、上清の分離と脱水を行う。中和処理後の水洗は、一回でも目的を達成できるが、好ましくは中和処理によって生成する塩類、可溶性タンパク質、非澱粉性糖類等を極力除去するため3回程度行うことが好ましい。
【0037】
上清の分離と脱水後の乾燥は、通常行われる乾燥法(通風乾燥、棚式乾燥、チューブドライヤー乾燥、ドラムドライヤー乾燥等)のいずれの方法も採用可能であるが、米粉の澱粉の糊化が起こらない50℃以下の温度で乾燥することが好ましい。
【0038】
上記のアルカリ溶液処理により、本発明が目的とするブレンド粉用の米粉の調製は可能であるが、より高品質の本発明の米粉を調製するためには、アルカリ、中和処理の前後でタンパク質分解酵素または細胞壁溶解酵素を含有した溶液中での処理が有効ある。この操作により、得られる米粉のタンパク質、非澱粉性糖類の含量を効率的に低下でき、得られる米粉の品質をより向上させることができる。これらの酵素処理は、原料米粒又はその粉砕した米粉に対して、アルカリ、中和処理の前後でタンパク質分解酵素又は細胞壁溶解酵素を含有した水溶液による浸漬処理を単独又は複数組み合わせて施すことが望ましい。本処理により米粒又は米粉中のタンパク質、非澱粉性糖類が首尾良く分解され、アルカリ浸漬、洗浄工程でより効率的にタンパク質、非澱粉性糖類が除去される。
【0039】
上記タンパク質分解酵素としては、例えば、各種酸性、中性又はアルカリ性プロテアーゼなどのタンパク質を分解する作用のある酵素すべてが包含されるが、タンパク質の除去効率向上にはエンド型プロテアーゼがより効果的である。これらの酵素は、混合して使用しても良く、また、目的の活性を持っていれば純粋酵素である必要は無く、粗酵素でも使用できる。タンパク質分解酵素水溶液による浸漬条件は、米粒又は米粉の平均粒径や粒度分布、アルカリ、中和処理の前後のどちらで酵素処理を行うかによってその条件は最適化する必要があるが、基本的には約0.005〜0.5%の酵素液に20〜50℃の範囲好ましくは25〜40℃の範囲で0.5〜24時間の範囲で、更に好ましくは3〜10時間の範囲で浸漬すれば良く、個々の条件を勘案し適宜最適条件を設定する。
【0040】
上記細胞壁溶解酵としては、例えば、ペクチナーゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、マセレーティング酵素などの植物細胞壁を溶解する作用のある酵素を用いる。これらの酵素は、混合して使用しても良く、また、目的の活性を持っていれば純粋酵素である必要は無く、粗酵素でも使用できる。細胞壁溶解酵素水溶液による浸漬条件は、米粒又は米粉の平均粒径や粒度分布、アルカリ、中和処理の前後のどちらで酵素処理を行うかによってその条件は最適化する必要があるが、基本的には約0.005〜0.5%の酵素液に20〜50℃の範囲好ましくは25〜40℃の範囲で0.5〜24時間の範囲で、更に好ましくは3〜10時間の範囲で浸漬すれば良く、個々の条件を勘案し適宜最適条件を設定する。
【0041】
タンパク質分解酵素または細胞壁溶解酵素を含有した溶液中での処理、水洗及び/又は中和の後、150メッシュのベントシーブなどにより篩別を行い、粗粒や細胞壁成分の除去を行い、その後乾燥という操作で米粉を調製することが好ましい。
【0042】
上記のアルカリ溶液処理により、本発明が目的とする米粉の調製は可能であるが、より高品質のアルカリ処理米粉を調製するためには、乾燥処理後の米粉をさらに乾式または湿式粉砕することが有効である。この処理により、得られる米粉の平均粒径を本発明の範囲内で効率的に低下でき、得られる米粉の洋菓子製造適性をより向上させることができる。
【0043】
上記の方法によって、平均粒径が3.0μm以上20.0μm以下、損傷澱粉量が0.5質量%5.0質量%以下以上、タンパク質含量が0.01質量%以上1.0質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.0質量%以上2.0質量%以下である米粉が得られる。好ましくは、条件を上記で説明した範囲で調整することで、平均粒径が4.0μm以上10.0μm以下、損傷澱粉量が0.8質量%以上3.0質量%以下、タンパク質含量が0.1質量%以上0.5質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.2質量%以上1.9質量%以下である米粉が得られる。更に好ましくは、条件を上記で説明した範囲で調整することで、平均粒径が5.0μm以上7.0μm以下、損傷澱粉量が1.0質量%以上2.5質量%以下、タンパク質含量が0.15質量%以上0.2質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.3質量%以上1.8質量%以下である米粉が得られる。
【0044】
平均粒径は、主に、工程(1)における粉砕と工程(3)において任意に実施される篩別の条件によって制御できる。損傷澱粉量は、主に、工程(1)及び(2)における浸漬時間、及び処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する回数によって制御できる。タンパク質含量は、主に、工程(1)及び(2)における浸漬時間、及び処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する回数によって制御できる。非澱粉性糖類量は、主に、工程(1)及び(2)における処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する回数によって制御できる。
【0045】
上記アルカリ処理米粉は、小麦粉に本米粉をブレンドしたブレンド粉の製パン性、製麺性が従来の米粉を小麦粉とブレンドしたブレンド粉に比べ格段に優れている。この効果により、従来不可能であったグルテン、増粘多糖類等の添加物を添加することなく本米粉と高品質の高タンパク質パン用小麦粉を適当にブレンドすることによって、米粉を利用した高品質で、且つ、米粉の良好な特徴を発揮したグルテン、増粘多糖類等の添加物フリーの各種パン類、麺類の製造が可能になる。
【0046】
本発明の米粉ブレンド粉の特徴は、主に従来の米粉に比べ格段に製パン性、製麺性に優れたアルカリ処理米粉とタンパク質含量が高く製パン性、製麺性に優れた小麦粉とを組み合わせて使用していることにある。この効果により、従来に比べグルテン、増粘多糖類等の添加物を添加することなしに格段に高品質なパン類、アルカリ麺類を製造することが可能になる。さらに、高タンパク質含量の小麦粉については、最近国内で開発された超強力粉を適当量それにブレンドすることによって、より製パン性、製麺性に優れた米粉ブレンド粉を調製することが可能である。また、本発明の米粉ブレンド粉は、グルテン無添加であるため粉末グルテン特有のグルテン臭が製品に無く、風味面でも従来の米粉製品に比べ格段に良好な製品の製造が可能である。
【0047】
本発明は、上記本発明のブレンド粉を用い、かつ粉末グルテンおよび増粘多糖類を用いることなくパン類を製造する、パン類の製造方法を包含する。さらに本発明は、本発明のブレンド粉を用い、かつ粉末グルテンおよび増粘多糖類を用いることなく製造されたパン類を包含する。
【0048】
本発明のパン類は、本発明の米粉ブレンド粉に、その他の穀粉、かん粉、馬鈴薯澱粉、加工澱粉、油脂、糖類(但し、糖類とは多糖類以外の糖を意味する。)、粉乳、膨張剤、食塩、調味料、香料、乳化剤、イースト、イーストフード、酸化剤、還元剤、及び各種酵素類等の原料の全部または一部に、水、その他の物を加えて混合して生地を製造し、製造された生地を蒸す、焼く、揚げる、茹でる等の加熱調理をすることによって製造できる。パン類には、例えば、デニッシュペーストリー、菓子パン、食パン、フランスパン、ハードロール、バターロール等が包含される。
【0049】
本発明は、本発明のブレンド粉を用い、かつ粉末グルテンおよび増粘多糖類を用いることなくアルカリ麺類を製造する、麺類の製造方法を包含する。さらに本発明は、本発明のブレンド粉を用い、かつ粉末グルテンおよび増粘多糖類を用いることなく製造されたアルカリ麺類を包含する。アルカリ麺類とは、アルカリ性のかん水を添加して製造される麺類のことであり、具体的には、中華麺類、即席麺類、冷麺等を上げることができる。ここでアルカリ麺類とは、生麺、半生麺、乾麺いずれの形態でも良く、特に限定はない。
【0050】
アルカリ麺は、通常も高いタンパク質含量の小麦粉を使用して製造され、かつ、アルカリ処理米粉をブレンドした粉を用いて麺類を製造すると、アルカリ麺の場合には良好な麺が製造できることがわかった。そのような観点から、本発明では麺類をアルカリ麺に限定する。
【0051】
本発明のアルカリ麺類としては、本発明の米粉ブレンド粉に、その他の穀粉、かん粉、馬鈴薯澱粉、加工澱粉、油脂、糖類(但し、糖類とは多糖類以外の糖を意味する。)粉乳、膨張剤、食塩、調味料、香料、乳化剤、イースト、イーストフード、酸化剤、還元剤、及び各種酵素類等の原料の全部または一部に、水、その他の物を加えて混合して生地を製造し、製造された生地を蒸す、焼く、揚げる、煮る等の加熱調理をすることによって製造できる。アルカリ麺類には、例えば、中華麺、即席麺、冷麺等が包含される。
【0052】
〔実施例〕
次に表1〜3に示す試験例(参考例、比較例を含む)に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
第1表に示す配合で、本発明の各種米粉ブレンド粉について、以下に示す製パン条件のノータイム法で山型食パンを製造し、製パン性等の評価を行なった。ノータイム法とは、パンの原材料をすべて始めにミキサーに投入し最適ミキシング後、直ぐに分割、丸め、ベンチタイム(生地一定時間放置し休ませる操作)操作を行い、一次発酵を行わず直ぐに成型操作を行い、最終発酵を取って焼成する製パン方法のことである。この方法においては、用いる穀物粉の特性の違いが、パンの比容積を初めとする製パン適性の評価の善し悪しに反映されやすい特性を持っているので採用した。
【0054】
なお、本発明のすべての実施例、参考例、比較例において、配合は水分含量13.5%ベースの米粉ブレンド粉100に対する質量部で示した。すべての実施例の官能評価は、(独)農研機構・北海道農業研究センターの職員3人のパネラーによって、第1〜4表に示された項目について4段階評価(◎:非常に良好、○:良好、△:やや劣る、×:劣る)で行った。また、実施例1ではボリューム評価を数値化するため菜種置換法によって測定された比容積により評価を行った。比容積は焼成後常温で1時間冷却した後のパンを用いて測定し、パン1gあたりの容積(ml)を示した値である。比容積の値が大きいパンは概して内相と外観の評価も優れるため、製パン適性の評価項目として比容積は最も重要である。
【0055】
以下に本発明の米粉ブレンド粉に使用した米粉の調製方法を示す。
アルカリ処理米粉A:
精米した粳米の米粒200gに4℃に冷却した0.5質量%(0.125規定)のNaOH溶液1000mlを添加し、20℃前後で、12時間放置する。次に、水挽き方式の粉砕機で米粒を粉砕する。得られた米粉懸濁液を遠心分離し、上清のアルカリ溶液を除去する。遠心分離後の米粉沈殿物に0.5質量%(0.125規定)のNaOH溶液1000mlを添加し良く混合し20℃前後で、12時間放置し、遠心分離後上清のアルカリ溶液を除去する。次に、蒸留水1000mlを米粉沈殿物に添加し塩酸でpH7前後になるように中和処理する。この米粉懸濁液を同様に遠心分離し上清を除去する。この水洗操作を更に2回繰り返す(2回目以降は中和処理無し)。最後の水洗を終了した米粉沈殿は150メッシュの篩で篩別し、粗粒や細胞壁成分の除去を行なう。最後に得られた米粉沈殿物を40℃で通風乾燥後、乾燥粉末を乳鉢でマイルドに粉砕しアルカリ処理米粉Aを得た。アルカリ処理米粉Aの物性は以下のとおり。平均粒径15.3μm、損傷澱粉量1.1%、タンパク質含量0.60%、非澱粉性糖類1.5%。
【0056】
アルカリ処理米粉B:
粳米の市販気流製粉米粉200gに4℃に冷却した0.2質量%(0.05規定)のNaOH溶液を1600ml添加し、12時間、4℃の低温庫で放置する。次に、上清のアルカリ溶液をデカンテーションにより除去する。この操作を同様に更に2回繰り返す。次に、4℃に冷却した蒸留水を1600ml加え良く混合し、塩酸でpH7前後に中和処理を行う。その後同様に12時間、4℃の低温庫で放置し上清をデカンテーションにより除去する。蒸留水添加以降(中和処理は無し)の操作を同様に更に2回繰り返し、最後の米粉沈殿は、150メッシュの篩で篩別し、粗粒や細胞壁成分の除去を行なう。最後に得られた米粉沈殿物をアルカリ処理米粉Aと同条件で乾燥、粉砕しアルカリ処理米粉Bを得た。アルカリ処理米粉Bの物性は以下のとおり。平均粒径15.3μm、損傷澱粉量2.0%、タンパク質含量0.20%、非澱粉性糖類1.8%。
【0057】
以下に製パン工程、製パン条件を示す。
・ミキシング:全原料をミキサーに入れ、ミキシングピーク時間後10秒程度後までミキシングする
・分割、丸目:生地量100gずつ手分割、丸目
・べンチ :30℃、20分
・成型 :モルダー、シーターにて成型
・ホイロ :温度38℃、湿度85%、70分
・焼成 :200℃、25分
【0058】
表1の結果から、本発明の米粉ブレンド粉(試験例1〜10)の製パン性は、市販強力粉と本発明の米粉とのブレンド粉(参考例1)や従来の米粉ブレンド粉(比較例1、2)に比べ全般に非常に良好な製パン性を示し、特に、食感(モチモチ感)が良好な評価であり、明らかに大きな比容積を示した。市販強力粉100%の比較例3と比較しても米粉ブレンド粉の製パン性は、同等かそれ以上であり、本発明の効果が非常に大きいことが判る。特に、試験例7、9では、米粉を20%含有するブレンド粉であるにもかかわらず、高タンパク質含有パン用小麦粉の利用や超強力粉20%添加の効果が発揮され、総合的に最も良好な製パン性を示した。
【0059】
以上の結果から、本発明の効果は明らかであり、本発明の米粉ブレンド粉を用いることによって、従来の米粉パンに比べ飛躍的にグルテン、増粘多糖類等の添加物無添加で高品質の米粉パンが得られ、その品質は市販強力粉のパン並みかそれ以上であることがわかる。
【0060】
【表1】

【0061】
1)アルカリ処理米粉A:平均粒径15.3μm、損傷澱粉量1.1%、タンパク質含量0.60%、非澱粉性多糖類1.5%。
2)アルカリ処理米粉B:平均粒径15.3μm、損傷澱粉量2.0%、タンパク質含量0.20%、非澱粉性糖類1.8%。
3)市販米粉:酵素処理気流製粉米粉、平均粒径51.7μm、損傷澱粉量3.8%、タンパク質含量7.4%、非澱粉性糖類2.5%。
4)市販上新粉:平均粒径81.8μm、損傷澱粉量11.8%、タンパク質含量6.9%、非澱粉性糖類2.5%。
5)道産高タンパク質硬質パン用小麦粉A(タンパク質含量14.5%、製パン吸水70)
6)道産高タンパク質含有パン用小麦粉B(タンパク質含量15.1%、製パン吸水72)
7)道産高タンパク質含有パン用小麦粉C(タンパク質含量17.8%、製パン吸水76)
8)超強力粉:高タンパク質含量の「ゆめちから」小麦粉(タンパク質含量14.3%、製パン吸水71)
【0062】
9)製パン評価、製パン時生地状態、パンの外観、内相、食感、風味の評価基準は以下の通りである。
◎:非常に良好、 ○:良好、 △:やや劣る、 ×:劣る
なお、各評価項目の評価の主な基準は以下の通りである。
製パン時生地状態:生地の分割、丸め、成型時の生地物性が良好であり、作業中に生地がだれたり、べとついたりせずスムーズに製パン作業のできる生地を良好な生地状態と評価する。
外観:(i)パンが均一に良く膨らんでいるか、(ii)パンの表面色が均一で良好であるか、(iii)パンの外観、形状がきれいかどうか、を主な評価基準として評価する。
内相・色相:パンの内相(キメ(パンの穴の部分)、マク(パンの穴の周りの膜の部分))が均一で膜が薄いかどうかと色相が良好であるかどうかで評価する。
食感:パンを食した時の米粉パン独特のモチモチ感があるかどうかで評価する。
風味:パンとして良好な食味、香りがあるかどうかで評価する。
【0063】
[実施例2]
第2表に示すバターロール配合で種々の本発明の米粉ブレンド粉を用いて、以下に示す製パン条件のノータイム法でバターロールを製造し、製パン性等の評価を行なった。なお、ノータイム法の製法については、配合がバターロール配合になった以外実施例1と基本的に同様である。
【0064】
以下に製パン工程を示す。
・ミキシング:全原料をミキサーに入れ、ミキシングピーク時間後10秒程度後までミキシングする
・分割、丸目:生地量40gずつ手分割、丸目
・ベンチ :30℃、20分
・成型 :手でロール型に成型
・ホイロ発酵:38℃、湿度85%で生地が一定の大きさになるまで発酵
・焼成 :200℃、13分
【0065】
表2の結果から、本発明の米粉ブレンド粉(試験例11〜20)の製パン性は、バターロール製パン試験においても市販準強力粉と本発明の米粉とのブレンド粉(参考例2)や従来の米粉ブレンド粉(比較例4、5)に比べ全般に非常に良好な製パン性を示し、特に、本発明の米粉ブレンド粉においては米粉独特の風味が良好な評価であり、明らかに大きなパンとなった。市販準強力粉100%の比較例6と比較しても本発明の米粉ブレンド粉の製パン性は、同等かそれ以上であり、本発明の効果が非常に大きいことが判る。特に、試験例19では、米粉を30%含有するブレンド粉であるにもかかわらず、超強力粉20%添加の効果が発揮され、総合的に最も良好な製パン性を示した。
【0066】
以上の結果から、本発明の効果は明らかであり、本発明の米粉ブレンド粉を用いることによって、バターロールのようなリッチな配合の製パンにおいても、従来の米粉パンに比べ飛躍的に高品質の米粉パンが得られ、その品質は市販準強力粉のパン並みかそれ以上であることがわかる。
【0067】
【表2】

【0068】
1)アルカリ処理米粉A:平均粒径15.3μm、損傷澱粉量1.1%、タンパク質含量0.60%、非澱粉性多糖類1.5%。
2)アルカリ処理米粉B:平均粒径15.3μm、損傷澱粉量2.0%、タンパク質含量0.20%、非澱粉性糖類1.8%。
3)市販米粉:酵素処理気流製粉米粉、平均粒径51.7μm、損傷澱粉量3.8%、タンパク質含量7.4%、非澱粉性糖類2.5%。
4)市販上新粉:平均粒径81.8μm、損傷澱粉量11.8%、タンパク質含量6.9%、非澱粉性糖類2.5%。
5)道産高タンパク質硬質パン用小麦粉A(タンパク質含量14.5%、製パン吸水70)
【0069】
6)道産高タンパク質含有パン用小麦粉B(タンパク質含量15.1%、製パン吸水72)
7)道産高タンパク質含有パン用小麦粉C(タンパク質含量17.8%、製パン吸水76)
8)超強力粉:高タンパク質含量の「ゆめちから」小麦粉(タンパク質含量14.3%、製パン吸水71)
【0070】
9)製パン評価、製パン時生地状態、パンの外観、内相、食感、風味の評価基準は以下の通りである。
◎:非常に良好、 ○:良好、 △:やや劣る、 ×:劣る
なお、各評価項目の評価の主な基準は以下の通りである。
製パン時生地状態:生地の分割、丸め、成型時の生地物性が良好であり、作業中に生地がだれたり、べとついたりせずスムーズに製パン作業のできる生地を良好な生地状態と評価する。
外観:(i)パンが均一に良く膨らんでいるか、(ii)パンの表面色が均一で良好であるか、(iii)パンの外観、形状がきれいかどうか:を主な評価基準として評価する。
内相・色相:パンの内相(キメ(パンの穴の部分)、マク(パンの穴の周りの膜の部分))が均一で膜が薄いかどうかと色相が良好であるかどうかで評価する。
食感:パンを食した時の米粉パン独特のモチモチ感があるかどうかで評価する。
風味:パンとして良好な食味、香りがあるかどうかで評価する。
パンの大きさ:パンがふっくら良好膨らんでいるかで評価する。
【0071】
[実施例3]
第3表に示す配合で、種々の本発明の米粉添加生地について、以下に示す方法で中華麺を製造し、生麺、ゆで麺の官能評価を行った。
【0072】
以下に中華麺の製造工程を示す。
・ミキシング:縦型ミキサー、低速1分、中低速7分
・ロール操作:荒延1回、ロール間隙 3.0mm
複合2回、ロール間隙 3.0mm
圧延1回目、ロール間隙 2.2mm
圧延2回目、ロール間隙 1.8mm
圧延3回目、ロール間隙 最終麺厚が1.4mmになるように調節
・切り出し :切刃20番、麺の長さ25cm前後
・ゆで :沸騰水中で約3分
なお、麺の評価は、生麺の場合切り出し直後、ゆで麺の場合ゆで直後にそれぞれ行った。
【0073】
表3の結果から、本発明の米粉ブレンド粉(試験例21〜27)の中華麺製麺適性は、市販準強力粉と本発明の米粉とのブレンド粉(参考例3)や従来の米粉ブレンド粉(比較例7、8)に比べ全般に良好な結果を示し、適当量の本発明の米粉をブレンドすることによって、生麺の色相、ホシの程度が良好で、茹で麺の食味、食感(滑らかさ、モチモチ感)が良好な麺が得られた。市販準強力粉100%の比較例9と比較しても本発明の米粉ブレンド粉の製麺性は、同等かそれ以上であり、本発明の効果が非常に大きいことが判る。特に、試験例27では、米粉を10%含有するブレンド粉であるにもかかわらず、超強力粉30%添加の効果が発揮され、総合的に最も良好な製麺性を示した。
【0074】
以上の結果から、本発明の効果は明らかであり、本発明の米粉ブレンド粉を用いることによって、アルカリ麺の代表である中華麺においても、従来の米粉ブレンド粉を用いた場合に比べ飛躍的に高品質の中華麺が得られ、その品質は市販準強力粉の中華麺並みかそれ以上であることがわかる。
【0075】
【表3】

【0076】
1)アルカリ処理米粉A:平均粒径15.3μm、損傷澱粉量1.1%、タンパク質含量0.60%、非澱粉性多糖類1.5%。
2)アルカリ処理米粉B:平均粒径15.3μm、損傷澱粉量2.0%、タンパク質含量0.20%、非澱粉性糖類1.8%。
3)市販米粉:酵素処理気流製粉米粉、平均粒径51.7μm、損傷澱粉量3.8%、タンパク質含量7.4%、非澱粉性糖類2.5%。
4)市販上新粉:平均粒径81.8μm、損傷澱粉量11.8%、タンパク質含量6.9%、非澱粉性糖類2.5%。
5)パン用小麦粉A:道産高タンパク質硬質パン用小麦粉(タンパク質含量14.5%、製パン吸水70)
6)超強力粉:高タンパク質含量の「ゆめちから」小麦粉(タンパク質含量14.3%、製パン吸水71)
【0077】
7)製麺評価、色相、ホシの程度、食感、食味の評価基準は以下の通りである。
◎:非常に良好、 ○:良好、 △:やや劣る、 ×:劣る
なお、各評価項目の評価の主な基準は以下の通りである。
色相:鮮やかな黄色を示す生麺を良好、黒ずんでくすんだ生麺を劣ると評価する。
ホシの程度:細かい黒っぽいぶつぶつの少ない良好な生麺を良好と評価し、その逆を劣ると評価する。
食感:茹で麺に適度の弾力、硬さ、滑らかさ、モチモチ感のある茹で麺を良好と評価し、その逆を劣ると評価する。
食味:ほのかな米粉の風味、良好な中華麺の風味を示す茹で麺を良好と評価し、その逆を劣ると評価する。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、食品分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質含量が13.5質量%〜18質量%の範囲である小麦粉を95質量部〜60質量部およびアルカリ処理米粉を5質量部〜40質量部含有するパン類製造用ブレンド粉であって、但し、小麦粉およびアルカリ処理米粉の合計を100質量部とし、前記アルカリ処理米粉は、平均粒径が3.0μm以上20.0μm以下、損傷澱粉量が0.5質量 %以上5.0質量%以下、タンパク質含量が0.01質量%以上1.0質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.0質量%以上2.0質量%以下の米粉である、前記ブレンド粉。
【請求項2】
タンパク質含量が13.5質量%〜18質量%の範囲である小麦粉を97質量部〜75質量部およびアルカリ処理米粉を3質量部〜25質量部を含有するアルカリ麺類製造用ブレンド粉であって、但し、小麦粉およびアルカリ処理米粉の合計を100質量部とし、前記アルカリ処理米粉は、平均粒径が3.0μm以上20.0μm以下、損傷澱粉量が0.5質量 %以上5.0質量%以下、タンパク質含量が0.01質量%以上1.0質量%以下で、且つ、非澱粉性糖類が1.0質量%以上2.0質量%以下の米粉である、前記ブレンド粉。
【請求項3】
粉末グルテンおよび増粘多糖類を含有しない、請求項1または2に記載のブレンド粉。
【請求項4】
前記小麦粉の少なくとも一部が超強力粉である、請求項1〜3のいずれかに記載のブレンド粉。
【請求項5】
前記米粉が以下の工程(1)〜(3)を含む方法で製造される米粉である、請求項1〜4のいずれかに記載のブレンド粉。
(1)生米粒をアルカリ性水溶液とともに粉砕処理するか、または生米粒を粉砕した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理し、処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する工程、
(2)分離した米粉をアルカリ性水溶液に浸漬処理し、処理後の米粉とアルカリ性水溶液とを分離する工程、但し、この工程は、1回または2回以上行う、
(3)得られた米粉を、任意に水洗及び/又は中和した後に、脱水及び/又は乾燥して米粉を得る工程
【請求項6】
請求項1、4または5に記載のブレンド粉を用い、かつ粉末グルテンおよび増粘多糖類を用いることなくパン類を製造する、パン類の製造方法。
【請求項7】
請求項2、4または5に記載のブレンド粉を用い、かつ粉末グルテンおよび増粘多糖類を用いることなく麺類を製造する、アルカリ麺類の製造方法。
【請求項8】
請求項1、4または5に記載のブレンド粉を用い、かつ粉末グルテンおよび増粘多糖類を用いることなく製造されたパン類。
【請求項9】
請求項1、4または5に記載のブレンド粉を用い、かつ粉末グルテンおよび増粘多糖類を用いることなく製造されたアルカリ麺類。

【公開番号】特開2012−179024(P2012−179024A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45437(P2011−45437)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省、「地域イノベーション創出研究開発事業」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(503308508)江別製粉株式会社 (7)
【出願人】(302024571)株式会社 山本忠信商店 (8)
【Fターム(参考)】