説明

パール光沢組成物の製造方法

【課題】幅広いパール光沢を有する優れたパール光沢組成物を容易に製造する方法を提供すること。
【解決手段】脂肪酸、脂肪族アルコール及び脂肪酸モノグリセリドからなる群より選ばれる少なくとも1種の脂肪族化合物、脂肪酸グリコールエステル、界面活性剤並びに水を含む溶融混合物を、晶析温度から融点の間の温度で10時間以上保持する保持工程を含む、パール光沢組成物の製造方法、並びに当該製造方法により得られたパール光沢組成物を配合してなる化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パール光沢組成物の製造方法に関する。さらに詳しくは、シャンプー、リンス、ボディシャンプー、液体洗浄剤等の付加価値を高めるのに好適に使用し得るパール光沢組成物の製造方法に関する。さらに本発明は、かかる製造方法によって得られるパール光沢組成物が配合されてなる化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シャンプー、リンス、ボディシャンプー、化粧料、液体洗浄剤等の付加価値を高めるために、パール光沢を与える基剤(パール光沢組成物)が用いられている。かかるパール光沢組成物において、パール光沢を付与するための主要成分としては、脂肪酸グリコールエステル、脂肪酸モノアルキロールアミド、脂肪酸等が知られている(特許文献1参照)。なかでも、脂肪酸グリコールエステルはパール光沢組成物における主成分として各種検討されている。例えば、ベッセルを使用した場合、十分なパール光沢を得る方法として晶析時に1〜2日間、所定の温度保持を行う技術が開示されている(特許文献2参照)。しかし、この方法においては、光沢の色調が異なる多種多様なパール光沢を得ることは難しかった。
【0003】
また、ラインミキサーあるいは攪拌器付のベッセルを用いて融点以上の脂肪酸グリコールエステルと冷却媒を混合させ晶析させる場合に、冷却媒の温度を変化させることによりシルキー調の光沢あるいはメタリック調の光沢を得る技術が開示されている(特許文献3参照)。しかし、この方法では大規模な設備や複数の混合槽を必要とし、生産性が悪いという課題が考えられる。
【特許文献1】特表平6−504781号公報
【特許文献2】特開2003−246713号公報
【特許文献3】特開2003−155214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の課題は、幅広いパール光沢を有する優れたパール光沢組成物を容易に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは、パール光沢組成物の外観の色調を客観的に示すべく、白色度W値で表すことを試みた。その結果、W値が高いほどシルキー調に、W値が低いほどメタリック調となる傾向があることを見出した。さらに、溶融混合物を保持する温度が高いほどパール光沢組成物の白色度W値はより低くなり、保持する温度が低いほどW値はより高くなることも分かった。例えば、外観の色調がシルキー調のパール光沢組成物を得るためには保持する温度をより低く設定すればよい。しかしながら、さらに検討を進めたところ、保持する温度を晶析温度より低く設定すると、脂肪酸グリコールエステルの晶析が一気に生じるため、パール光沢組成物の光沢が劣化してしまうことが分かった。
【0006】
そこで本発明者らは、想定される多数の因子を種々検討し、それらの因子の中から晶析温度について着目した。かかる晶析温度をより低下させるべく検討したところ、特定の脂肪族化合物を溶融混合物に配合することによって、当該晶析温度をより低下させることができた。これによって、保持する温度の下限値をより低下させることが可能となり、単に保持する温度の設定を変更するという容易な操作により、シルキー調からメタリック調までといった幅広い光沢の外観を持つパール光沢組成物を製造することができた。
【0007】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕 脂肪酸、脂肪族アルコール及び脂肪酸モノグリセリドからなる群より選ばれる少なくとも1種の脂肪族化合物、脂肪酸グリコールエステル、界面活性剤並びに水を含む溶融混合物を、晶析温度から融点の間の温度で10時間以上保持する保持工程を含む、パール光沢組成物の製造方法;並びに
〔2〕 前記〔1〕に記載の製造方法により得られたパール光沢組成物を配合してなる化粧料;に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法により得られるパール光沢組成物は、優れたパール光沢(メタリック調からシルキー調の光沢)を有する、多種多様なパール光沢組成物である。本発明の製造方法によって、特定の時間以上にわたって原料の混合物を特定の温度に設定して保持するという容易な操作で、目的のW値のパール光沢組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<パール光沢組成物の製造方法>
本発明は、脂肪酸、脂肪族アルコール及び脂肪酸モノグリセリドからなる群より選ばれる少なくとも1種の脂肪族化合物、脂肪酸グリコールエステル、界面活性剤並びに水を含む溶融混合物を、特定の範囲の温度で10時間以上保持するという保持工程を含む。しかもこの特定の範囲の温度として、晶析温度から融点の間の温度に制御する点にも一つの特徴を有する。これにより、白色度W値が低くメタリック調のパール光沢組成物から白色度W値が高くシルキー調のパール光沢組成物まで、保持する温度の設定と維持という容易な操作によって製造することができる。
【0010】
脂肪酸グリコールエステルとしては、例えば一般式(I):
Y−O−(CH2CH2O)m−COR1 (I)
(式中、R1は炭素数13〜21の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、Yは水素原子又はR1CO−(R1は前記と同じ。)を示し、mは1〜3の数であって平均付加モル数を意味する。)で示される化合物が挙げられる。
【0011】
一般式(I)において、R1としては、炭素数13〜21のアルキル基及びアルケニル基が好ましく、具体的には、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、ヘンイコシル基等が挙げられる。また、脂肪酸グリコールエステルは、一般式(I)で表されるように、Yが水素原子である場合のモノ脂肪酸エステル、Yが−COR1である場合のジ脂肪酸エステルのいずれであってもよく、ジ脂肪酸エステルにおいて、R1は同一であっても、異なっていてもよい。
【0012】
脂肪酸グリコールエステルとしては、融点が50℃以上のものが好ましく、また、結晶性のものがより好ましい。従って、脂肪酸グリコールエステルとしては、融点が50℃以上の結晶性のものがより好ましく、具体的には、モノパルミチン酸エチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、モノイソステアリン酸エチレングリコール、ジパルミチン酸エチレングリコール、ジステアリン酸エチレングリコール、ジベヘン酸エチレングリコール等のモノエチレングリコール体;これらのジエチレングリコール体;並びにこれらのトリエチレングリコール体等が挙げられ、それぞれ単独であっても2種以上が併用されていてもよい。
【0013】
なお、2種以上の脂肪酸グリコールエステルが併用されている場合、それぞれ調製された脂肪酸グリコールエステルの混合物であってもよく、異なるアルキル鎖長の脂肪酸の混合物とグリコールを用い、それらを反応させて得られた脂肪酸グリコールエステルの混合物であってもよい。例えば、パルミチン酸とステアリン酸の混合物とグリコールとの反応からは、ジパルミチン酸エチレングリコール、モノパルミチン酸モノステアリン酸エチレングリコール、及びジステアリン酸エチレングリコールの混合物が得られる。異なる脂肪酸の混合物とグリコールとを反応させる際に用いられる脂肪酸の混合物において、各脂肪酸により占められる割合は、85重量%以下であることが好ましい。
【0014】
上記に例示された脂肪酸グリコールエステルにおいて、本発明において好ましい脂肪酸グリコールエステルとしては、ジステアリン酸エチレングリコール、ジパルミチン酸エチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、モノパルミチン酸エチレングリコール、ジベヘン酸エチレングリコール及びモノパルミチン酸モノステアリン酸エチレングリコールからなる群より選択される1種以上のエステルが挙げられる。
【0015】
パール光沢組成物中の脂肪酸グリコールエステルの含有量は、パール光沢付与の観点から、パール光沢組成物の15重量%以上が好ましく、流動性の観点から、パール光沢組成物の30重量%以下が好ましい。これらの観点から、脂肪酸グリコールエステルの含有量は、パール光沢組成物の15〜30重量%が好ましく、15〜25重量%がより好ましく、18〜25重量%がさらに好ましい。
【0016】
本発明において用いられる界面活性剤は、パール光沢組成物の乳化促進に有効であり、アニオン性界面活性剤及び/又はノニオン界面活性剤が好適に用いられる。本発明においては、分散性及び流動性を確保する観点から、アニオン性界面活性剤及びノニオン界面活性剤を併用することがより好ましい。両者を併用する場合の両者の比率は特に限定されない。
【0017】
アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルアミドエーテル硫酸塩、モノグリセライド硫酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アシル化イセチオン酸塩、アシル化アミノ酸、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸塩等が挙げられ、これらの中ではアルキル硫酸エステル塩が好ましい。
【0018】
アルキル硫酸エステル塩は、例えば、式(II):
2−O−(R3O)r−SO3M (II)
(式中、R2は炭素数8〜20の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、R3はエチレン基又はプロピレン基を示し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン又は炭素数2若しくは3のヒドロキシアルキル置換アンモニウムを示し、rは0〜8の数で、平均付加モル数を意味する。)で表わされるポリオキシアルキレン基を有していてもよいアルキル硫酸エステル塩等が挙げられる。
式(II)において、R2としては、炭素数8〜20のアルキル基及びアルケニル基が好ましく、具体的には、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等が挙げられる。R3としては、エチレン基、n−プロピレン基及びイソプロピレン基が挙げられる。rは0〜4が好ましい。
【0019】
アルキル硫酸エステル塩の好適例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(エチレンオキサイド(EO)の平均付加モル数:1〜4)及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン(EOの平均付加モル数:1〜4)が挙げられ、それぞれ単独であっても2種以上が併用されていてもよい。
【0020】
ノニオン界面活性剤としては、脂肪酸モノアルキロールアミド、ポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤等が挙げられる。
【0021】
脂肪酸モノアルキロールアミドとしては、例えば、式(III):
4CO−NH−R5OH (III)
(式中、R4は炭素数7〜20の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、R5はエチレン基又はプロピレン基を示す。)
で表わされるものが挙げられる。
【0022】
式(III)において、R4としては、炭素数7〜20のアルキル基及びアルケニル基が好ましく、具体的には、ウンデシル基、トリデシル基、ヘプタデシル基等が挙げられる。
【0023】
脂肪酸モノアルキロールアミドとしては、ラウリン酸モノエタノールアミド、ラウリン酸モノプロパノールアミド、ラウリン酸モノイソプロパノールアミド、ミリスチン酸モノエタノールアミド、パルミチン酸モノエタノールアミド、ステアリン酸モノエタノールアミド、オレイン酸モノエタノールアミド、オレイン酸モノイソプロパノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノプロパノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノイソプロパノールアミド、ヤシ科植物油脂肪酸モノエタノールアミド等が挙げられ、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでは、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミド、パルミチン酸モノエタノールアミド及びステアリン酸モノエタノールアミドが好ましい。
【0024】
ポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤とは、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基を有するものである。本発明では、ポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤の配合により、粘度を低下させることができ、流動性を損なうことなく強いパール光沢が得られるのみならず、濁度の向上が奏される。
【0025】
ポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤の具体例としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸モノアルカノールアミド、ポリオキシアルキレン脂肪酸ジアルカノールアミド等が挙げられ、それぞれ単独であっても2種以上が併用されていてもよい。これらのうち、式(IV):
6−O−(R7O)p−H (IV)
(式中、R6は炭素数8〜20の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基、R7はエチレン基又はプロピレン基を示し、pは1〜12、好ましくは1〜6の数で、平均付加モル数を意味する。)で表わされるポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。
【0026】
式(IV)において、R6としては、炭素数8〜20のアルキル基又は炭素数8〜20のアルケニル基が好ましい。
【0027】
ノニオン界面活性剤のHLBは、パール光沢組成物の乳化を抑制し、粘度を制御する観点から、15未満が好ましく、5〜12.5がより好ましい。なお、HLBとは、親水性−親油性のバランス(Hydrophilic-Lipophilic Balance)を示す指標であり、本発明においては、小田・寺村らによる式:
HLB=(Σ無機性値/Σ有機性値)×10
を用いて算出したときの値である。
【0028】
パール光沢組成物中の界面活性剤の含有量は、各成分を均一に混合する観点から、パール光沢組成物の8重量%以上が好ましく、流動性の観点から、パール光沢組成物の40重量%以下が好ましい。これらの観点から、界面活性剤の含有量はパール光沢組成物の8〜40重量%が好ましく、10〜35重量%がより好ましく、15〜30重量%がさらに好ましい。
【0029】
パール光沢組成物における脂肪酸グリコールエステル及び界面活性剤の総含有量は、パール光沢組成物の25〜70重量%が好ましく、30〜60重量%がより好ましい。
【0030】
本発明におけるパール光沢組成物には、脂肪酸、脂肪族アルコール、及び脂肪酸モノグリセリドからなる群より選ばれる少なくとも1種の脂肪族化合物が用いられる。かかる脂肪族化合物は晶析添加剤として用いられる。
【0031】
脂肪酸としては、炭素数8〜22の飽和又は不飽和の脂肪酸が好ましく、直鎖でも分岐でもよい。結晶微細化の観点から、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の炭素数12〜18の脂肪酸がより好ましい。これらの脂肪酸は、それぞれ単独でも、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
脂肪族アルコールとしては、炭素数8〜22の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールが好ましく、直鎖でも分岐でもよい。結晶微細化の観点から、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の炭素数12〜22の脂肪族アルコールがより好ましく、炭素数12〜18の脂肪族アルコールがさらに好ましい。これらの脂肪族アルコールは、それぞれ単独でも、2種以上が併用されてもよい。
【0033】
脂肪酸モノグリセリドとしては、グリセロールと脂肪酸とのエステルである、式(A):
【0034】
【化1】

【0035】
(式中、Ra及びRbは、いずれか一方が水素原子、もう一方が−CORc(Rcは炭素数7〜21のアルキル基又はアルケニル基を示す。)である。)
で表される化合物が好ましい。
【0036】
cにおいて、アルキル基及びアルケニル基の炭素数は11〜17が好ましく、アルキル基及びアルケニル基は、直鎖であっても分岐であってもよい。
【0037】
本発明における脂肪酸モノグリセリドの好適例としては、ラウリン酸モノグリセリド、ミリスチン酸モノグリセリド、パルミチン酸モノグリセリド、ステアリン酸モノグリセリド、ベヘン酸モノグリセリド、ヤシ油脂肪酸モノグリセリド、パーム核油脂肪酸モノグリセリド、獣脂脂肪酸モノグリセリド、及びそれらの混合物等が挙げられ、製造工程からの少量のジグリセリド及びトリグリセリドが含有されていてもよい。
【0038】
前記脂肪族化合物の配合量は、晶析温度の低下効果を発揮させる観点から、脂肪酸グリコールエステル100重量部に対して、1.5〜18.0重量部が好ましく、2.5〜15.0重量部がより好ましく、6〜12重量部がさらに好ましい。かかる脂肪族化合物を配合することにより、パール光沢を劣化させることなく晶析温度をより低下させることができる。このような効果を発揮させる観点から、当該配合量は1.5重量部以上が好ましい。かかる脂肪族化合物の含有量が多いほど、晶析温度をより低下させることができるが、パール光沢の劣化を抑制する観点から、当該配合量は18.0重量部以下が好ましい。この場合の光沢劣化は、過剰に細かい結晶が生成するためと推定される。
【0039】
水の含有量は、パール光沢組成物の濃度及び粘度調整の観点から、パール光沢組成物の25〜75重量%が好ましく、40〜75重量%がより好ましく、50〜75重量%がさらに好ましい。
【0040】
本発明のパール光沢組成物には、さらにpH調整剤、防腐剤、塩類、アルコール類、ポリオール類等が適宜配合されていてもよい。
【0041】
本発明の製造方法においては、まずは溶融混合物を準備する。
本発明のパール光沢組成物の製造方法において、溶融混合物は、脂肪酸グリコールエステル等の原料を溶融させる方法により得られるものであれば特に限定されない。具体的な方法としては、例えば、脂肪酸グリコールエステル、界面活性剤、水等の原料の混合物を加熱する方法等が挙げられる。
【0042】
原料の溶融混合物の温度は、脂肪酸グリコールエステル又は脂肪族化合物の融点のいずれか高い方の融点以上の温度が好ましく、混合物の沸点以下の温度が好ましい。また、脂肪酸グリコールエステル又は脂肪族化合物の融点のいずれか高い方の融点より1〜30℃高い温度がより好ましく、いずれか高い方の融点より1〜20℃高い温度がさらに好ましい。具体的には、原料の溶融混合物の温度としては75℃〜90℃が好ましく、75〜85℃がより好ましい。
【0043】
次いで、晶析温度から融点の間の温度で当該溶融混合物を10時間以上保持する保持工程を行う。即ち、本発明の製造方法は、かかる保持工程を含むことを一つの特徴とする。
【0044】
通常、保持工程で保持する温度は当該溶融混合物の温度より低いため、当該溶融混合物を冷却する操作を行った後、保持工程を実施する。冷却操作の際の溶融混合物の冷却速度としては、0.1〜20.0℃/minが好ましく、0.1〜10.0℃/minがより好ましく、0.1〜5.0℃/minがさらに好ましい。晶析温度を安定とする観点から、0.1℃/min以上が好ましく、製造の効率化の観点から、20.0℃/min以下が好ましい。このような冷却速度を達成する方法としては、汎用の混合槽、例えば、ジャケットが付帯した混合槽で溶融混合物を調製し、ジャケットに冷媒水を通水する方法等が挙げられる。
【0045】
本工程における晶析温度は、対象となる溶融混合物を0.35℃/minの速度で冷却したときに、結晶が析出し始める温度である。なお、結晶が析出し始める温度は、冷却速度を0.35℃/minとした時に、溶融混合物の温度、攪拌電流値、電気伝導度、目視観察等によって確認することができる。また、本工程における融点は、対象となる溶融混合物の融点である。
【0046】
本工程における保持する温度としては、晶析が開始される前に確実に温度保持を行う観点から、下限値としては当該晶析温度と同じ温度が好ましく、当該晶析温度より2℃以上高い温度が好ましい。一方、十分に晶析させる観点から、上限値としては当該融点より2℃以上低いことが好ましい。よりW値の高いパール光沢組成物を得る観点からは、保持する温度の具体的な温度範囲としては30〜60℃が好ましく、32〜48℃がより好ましく、32〜42℃がさらに好ましい。本工程においては、保持する温度の範囲内で、特定の温度(「設定温度」という。)を設定することが好ましい。
【0047】
保持する温度に関して言えば、当該温度が低いほど過冷却度が高くなり結晶化が進行すると考えられる。その結果、結晶が微細になり白色度W値が高くなると考えられる。
【0048】
保持工程における保持する温度の変動は、槽内での不均一な結晶化を促進させる観点、すなわち結晶化熱が一斉に発生することを抑える観点から可能な限り小さい方が好ましい。具体的には、保持する温度を、設定温度から±5℃の温度範囲内で維持することが好ましく、設定温度から±3℃の温度範囲内で維持することがより好ましい。
【0049】
保持工程における溶融混合物の攪拌は特に制約は受けないが、無攪拌あるいは弱攪拌を行うと結晶が微細化する傾向がある。具体的には、好ましくは設定温度から±5℃の温度範囲内で保持工程が実施できるような無攪拌あるいは弱攪拌を行うことが好ましい。攪拌の回転数は装置により異なるが、単位体積当りの攪拌所要動力が一定とした場合に、回転数をn、翼径をdとすると次式が成立する。
nd2/3=一定
【0050】
したがって、本明細書において、弱攪拌とは、好ましくはnd2/3が0.1〜100、より好ましくは0.1〜50、さらに好ましくは0.1〜30になる攪拌のことを言い、間欠攪拌等を含む。
【0051】
保持工程中に攪拌を行うと、既に結晶化したものと未析出の融液が合一して結晶が粗大化し、白色度W値は減少すると考えられる。一方、晶析中の攪拌を緩めるか無攪拌にすると合一が抑制され結晶は微細化し白色度W値は高くなると考えられる。
【0052】
保持工程中に緩やかに結晶化が進むため、保持時間は十分に晶析を行う観点から、10時間以上が好ましく、12時間以上がより好ましい。一方、作業効率の観点から、保持時間は78時間以下が好ましく、48時間以下がより好ましく、20時間以下がさらに好ましく、15時間以下がなお好ましい。
【0053】
上記のようにしてパール光沢組成物を製造することができるが、本発明の製造方法においては、脂肪酸グリコールエステルが結晶化した後、当該組成物を冷却する冷却工程をさらに含んでもよい。この工程の実施によって、当該組成物中の結晶をさらに安定化させることができる。本工程においては、当該組成物を10〜40℃に冷却することが好ましく、15〜35℃に冷却することがより好ましい。この温度範囲に達するまでの当該組成物の冷却速度としては、0.05〜10℃/minが好ましく、1〜5℃/minがより好ましい。
【0054】
<パール光沢組成物>
このようにして、W値の範囲が10〜35の範囲のパール光沢組成物を製造することができる。いわゆるシルキー調のパール光沢組成物は、W値が25以上の範囲であり、いわゆるメタリック調のパール光沢組成物は、W値が25未満の範囲である。例えば、本発明の製造方法において、シルキー調のパール光沢組成物を得ようとする場合の条件としては、例えば設定温度を30〜38℃未満とすることである。さらに、例えば本発明の製造方法において、メタリック調のパール光沢組成物を得ようとする場合の条件としては、例えば設定温度を38〜60℃とすることである。
【0055】
白色度W値は色差計によりL(明度)、b(色相・彩度)を測定し、ASTM(米国材料試験協会)が定義(E-313)する次式により求める。
【0056】
W値=(7L2−40Lb)/700
W値はパール光沢組成物の白さ、言いかえれば濁度を表す指標として用いる。W値が高いほどパール光沢組成物は白く濃くなりシルキー調となる。W値が低いほどパール光沢組成物は薄くなり、パール光沢が際立つ、すなわちメタリック調になる。W値は、パール光沢組成物の濃さの観点から10〜35が好ましく、25〜35がより好ましい。
【0057】
<化粧料>
本発明の製造方法により得られるパール光沢組成物を化粧料に配合してなる化粧料も、本発明に包含される。化粧料に対するパール光沢組成物の配合量としては、化粧料100重量部に対して好ましくは0.3〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部である。また、本明細書における化粧料としては、シャンプー、ボディシャンプー、ハンドソープ、フェイスソープ等が挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の態様を実施例によりさらに記載し、開示する。この実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。
【0059】
実施例等で得られたパール光沢組成物の諸性質は、以下の方法によって測定した。
<パール光沢組成物のパール光沢及び色調の評価>
パール光沢組成物を水で20倍(重量比)に希釈し、肉眼にてパール光沢の外観を観察し、以下の基準に従って評価した。なお、気泡の混入しているものは遠心分離に掛け、脱泡を行った。
〔評価基準〕
1:光沢がない。
2:弱い光沢が認められる。
3:強い光沢が認められる。
【0060】
得られたパール光沢組成物の希釈物について、目視により外観を観察し、パール調の評価を行った。白度のあるきめの細かいパール光沢を有していた場合を「シルキー調」と評価し、金属的な鋭いパール光沢を有していた場合を「メタリック調」と評価した。
なお、パール光沢及び色調の評価は、3名のパネラーが実施した。
【0061】
<パール光沢組成物のW値>
パール光沢組成物を、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムを19.5重量%含む水溶液で3重量%に希釈したものをセルに1gを測り取り、色差計(日本電色製、SE-2000)でL(明度)、b(色相・彩度)を測定し、ASTM(米国材料試験協会)が定義(E-313)する次式により求めた。
W値=(7L2−40Lb)/700
【0062】
次に具体的な製造方法について説明する。
溶融混合物の調製等を行うための装置としての混合槽は、T.Kアジホモミクサーf model(プライミクス株式会社製、5L仕様)、及びジャケット付セパラブルフラスコ(VIDREX株式会社製、300mL仕様)を用いた。なお、冷却は上記混合槽のジャケットに冷媒水を通水して行った。
【0063】
表1〜表3に組成、実験条件及び評価を示す。表中の組成値は重量%を示す。
表1〜表3に記載の原料は次のとおりである。
脂肪酸:ステアリン酸(融点:69.0℃;その他脂肪酸を2重量%含む。)
脂肪族アルコール:ステアリルアルコール(融点:62.0℃;その他高級アルコールを2重量%含む。)
脂肪酸モノグリセリド:ミリスチン酸モノグリセリド(C16)/ステアリン酸モノグリセリド(C18)=25/75(重量比)の混合物(融点:72.3℃)
脂肪酸グリコールエステル:パルミチン酸(C16)/ステアリン酸(C18)=50/50(重量比)の混合物とエチレングリコールとのエステル(融点:61.8℃)
【0064】
実施例1〜9
表1及び表2に示す脂肪族化合物、脂肪酸グリコールエステル、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸Na、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド(HLBは10.7)、ポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル(HLBは9.7)(なお、上記カッコ内の数字はエチレンオキサイドの平均付加モル数を示す。)、クエン酸一水和物、安息香酸ナトリウム及び水を装置に投入し、120回転/min(nd2/3=41)で攪拌しながら80℃でこれらを混合して溶融混合物を得た。その後、同じ速度で攪拌しながら約0.35℃/minの冷却速度で設定温度まで冷却した。実施例1〜2においては、同じ回転数で攪拌を続け、他の実施例では攪拌を停止して、所定の保持時間、当該設定温度で溶融混合物を保持した。次いで、120回転/min(nd2/3=41)で攪拌しながら約0.1℃/minの冷却速度で、当該パール光沢組成物を25℃まで冷却した。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
比較例1〜2
表3に示す脂肪酸グリコールエステル、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸Na、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル、クエン酸一水和物、安息香酸ナトリウム及び水を装置に投入し、120回転/min(nd2/3=41)で攪拌しながら80℃でこれらを混合して溶融混合物を得た。その後、同じ速度で攪拌しながら約0.35℃/minの冷却速度で設定温度まで冷却した。比較例1においては、同じ回転数で攪拌を続け、比較例2では攪拌を停止して、所定の保持時間、当該設定温度で溶融混合物を保持した。次いで、120回転/min(nd2/3=41)で攪拌しながら約0.1℃/minの冷却速度で、当該パール光沢組成物を25℃まで冷却した。
【0068】
【表3】

【0069】
比較例3
表3に示す脂肪酸グリコールエステル、ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸Na、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル、クエン酸一水和物、安息香酸ナトリウム及び水を装置に投入し、120回転/min(nd2/3=41)で攪拌しながら80℃でこれらを混合して溶融混合物を得た。その後、同じ速度で攪拌しながら約0.35℃/minの冷却速度で50℃以下まで冷却しようとしたところ、50℃で脂肪酸グリコールエステルの晶析が開始した。その後、急激に混合物の粘度が上昇したため、これ以上攪拌を続けることを断念した。
【0070】
以上の実験より、実施例1〜9において、パール光沢組成物は設定温度が低いほどW値が高く、シルキー調となることが分かった(図1)。また、実施例1と4及び5、あるいは実施例2と7を比較すると、同じ設定温度であっても設定温度からの変動が小さい方がよりW値が高くなることが分かった。それに対し、晶析添加剤である脂肪族化合物を含まない比較例1〜2では、保持工程中の設定温度からの変動の幅や攪拌の有無によらず、メタリック調のパール光沢組成物しか製造できないことが分かった。さらに比較例3において、晶析添加剤である脂肪族化合物を含まない場合に、シルキー調の外観のパール光沢組成物を得るために設定温度をさらに下げようとしたところ、約50℃で晶析が開始され、パール光沢組成物を製造することができなかった。従って、溶融混合物に脂肪族化合物を配合することにより、晶析温度を下げることができ、より低い温度で設定温度を設けることができることが分かった。すなわち、設定温度を下げ、シルキー調のパール光沢組成物を得るためには晶析添加剤が必須であることが分かった。
【0071】
実施例10
実施例1で製造されたパール光沢組成物を用いて、以下の処方例に示す組成のシャンプーを調製した。
(処方例)
パール光沢組成物(実施例1):5.0重量%
ポリオキシプロピレン(3)オクチルエーテル:0.7重量%
ポリオキシエチレン(1)ラウリルエーテル硫酸アンモニウム:12.0重量%
ラウリン酸モノエタノールアミド:0.8重量%
シリコーンエマルション*:2.0重量%
カチオン性ポリマー**:0.2重量%
香料、メチルパラベン:適量
精製水:バランス
計:100重量%
*:BY22−060〔東レ・ダウコーニング(株)製〕
**:ポイズ C-150L〔花王(株)製〕
()内の数値はエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの平均付加モル数を示す。
【0072】
調製されたシャンプーはパール光沢を有するシャンプーとして仕上がっていた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のパール光沢組成物は、シャンプー、リンス、ボディシャンプー、液体洗浄剤等に好適に用いられるものである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、設定温度とW値との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸、脂肪族アルコール及び脂肪酸モノグリセリドからなる群より選ばれる少なくとも1種の脂肪族化合物、脂肪酸グリコールエステル、界面活性剤並びに水を含む溶融混合物を、晶析温度から融点の間の温度で10時間以上保持する保持工程を含む、パール光沢組成物の製造方法。
【請求項2】
保持する温度を、設定温度から±5℃の温度範囲内で維持する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
脂肪酸グリコールエステルが一般式(I):
Y−O−(CH2CH2O)m−COR1 (I)
(式中、R1は炭素数13〜21の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、Yは水素原子又はR1CO−(R1は前記と同じ。)を示し、mは1〜3の数であって平均付加モル数を意味する。)で示される化合物である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記脂肪酸グリコールエステル100重量部に対し脂肪族化合物を1.5〜18.0重量部配合する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法により得られたパール光沢組成物を配合してなる化粧料。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−155903(P2010−155903A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334470(P2008−334470)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】