説明

パール光沢組成物の製造方法

【課題】強いパール光沢を維持しつつ白色度が高く、さらに分散安定性に優れたパール光沢組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】脂肪酸グリコールエステル、界面活性剤、及び水を含有してなり、さらに、晶析添加剤として、(1) 脂肪酸、(2) 脂肪族アルコール、(3) 脂肪酸モノグリセリド、及び(4) 脂肪族エーテルからなる群より選ばれたいずれかを含有してなるパール光沢組成物の製造方法であって、脂肪酸グリコールエステル、界面活性剤、水、及び晶析添加剤を含有してなる溶融混合液を冷却する工程を含み、この冷却工程における結晶化時の単位質量当たりの代表除熱速度が9〜36[W/kg]であるパール光沢組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パール光沢組成物の製造方法に関する。さらに詳しくは、シャンプー、リンス、ボディシャンプー、液体洗浄剤等の付加価値を高めるのに好適に使用しうるパール光沢組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シャンプー、リンス、ボディシャンプー、化粧料、液体洗浄剤等の付加価値を高めるために、パール光沢を与える基剤が用いられており、パール光沢組成物において、パール光沢を付与するための主要成分としては、脂肪酸グリコールエステル、脂肪酸モノアルキロールアミド、脂肪酸等が知られている(特許文献1参照)。なかでも、脂肪酸グリコールエステルはパール光沢組成物における主成分として各種検討されているが、十分なパール光沢を得ようとして脂肪酸グリコールエステルの配合量を増加すると、室温下での粘度が高くなり、流動性が低下する。そこで、特定のノニオン界面活性剤を併用したパール光沢組成物が提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
また、パール光沢を与える他の基剤も検討されている。例えば、特許文献3には、脂肪酸グリコールエステルに代わり、脂肪族アルコール、脂肪酸モノグリセリド、脂肪族エーテル等の脂肪族化合物、界面活性剤、及びポリオールを含有する真珠光沢濃縮物が開示されている。特許文献4には、非常に長鎖の脂肪族アルコール、脂肪酸モノグリセリド、脂肪族エーテル等を含有した真珠光沢剤濃縮物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平6−504781号公報
【特許文献2】特開2000−212031号公報
【特許文献3】特表2000-511913号公報
【特許文献4】特表2003−506393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パール化剤組成物を化粧料や洗浄剤等に配合する場合、なるべく少量の配合で十分なパール感が発現するパール化剤、言い換えれば白色度の高いパール化剤であり、なおかつ分散安定性に優れたパール化剤が求められる。
【0006】
すなわち、本発明の課題は、強いパール光沢を維持しつつ白色度が高く、さらに分散安定性に優れたパール光沢組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、脂肪酸グリコールエステル、界面活性剤、及び水を含有してなり、さらに、晶析添加剤として、(1) 脂肪酸、(2) 脂肪族アルコール、(3) 脂肪酸モノグリセリド、及び(4) 脂肪族エーテルからなる群より選ばれたいずれかを含有してなるパール光沢組成物の製造方法であって、脂肪酸グリコールエステル、界面活性剤、水、及び晶析添加剤を含有してなる溶融混合液を冷却する工程を含み、この冷却工程における結晶化時の単位質量当たりの代表除熱速度が9〜36[W/kg]であるパール光沢組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により得られるパール光沢組成物は、強いパール光沢を維持しつつ、白色度が高いため、少量の配合でも十分なパール感が発現し、さらに分散安定性に優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のパール光沢組成物の製造方法は、脂肪酸グリコールエステル、界面活性剤、水、及び特定の晶析添加剤を含有してなるパール光沢組成物の製造方法であって、脂肪酸グリコールエステル、界面活性剤、水、及び特定の晶析添加剤を含有した溶融混合液を冷却する工程を含み、この冷却工程における結晶化時の単位質量当たりの代表除熱速度を特定の範囲に制御する点に大きな特徴を有する。これにより、詳細な理由は不明なるも、パール光沢形成成分である脂肪酸グリコールエステルを含む微細なパール光沢形成粒子が多量に析出し、白色度が高く、かつ分散安定性に優れたパール光沢組成物が得られる。なお、本発明において、パール光沢組成物の白色度を示す値として、後述の実施例に示されるW値を使用することができる。W値は、光沢性を付与する観点から、16〜43が好ましく、18〜40がより好ましい。
【0010】
脂肪酸グリコールエステルとしては、例えば、式(I):
Y−O−(CH2CH2O)p-COR1 (I)
(式中、R1は炭素数13〜21の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、Yは水素原子又は−COR1(R1は前記と同じ)を示し、pは1〜3の数で、平均付加モル数を意味する)で表わされるものが挙げられる。
【0011】
式(I)において、R1としては、炭素数13〜21のアルキル基及びアルケニル基が好ましく、具体的には、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、ヘンイコシル基等が挙げられる。また、脂肪酸グリコールエステルは、式(I)で表されるように、Yが水素原子である場合のモノカルボン酸エステル、Yが−COR1である場合のジカルボン酸エステルのいずれであってもよく、ジカルボン酸エステルにおいて、R1は同一であっても、異なっていてもよい。
【0012】
脂肪酸グリコールエステルとしては、融点が50℃以上のものが好ましく、また、結晶性のものが好ましい。従って、脂肪酸グリコールエステルとしては、融点が50℃以上の結晶性のものがより好ましく、具体的には、モノパルミチン酸エチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、モノイソステアリン酸エチレングリコール、ジパルミチン酸エチレングリコール、ジステアリン酸エチレングリコール、ジベヘン酸エチレングリコール等のモノエチレングリコール体;これらのジエチレングリコール体;並びにこれらのトリエチレングリコール体等が挙げられ、それぞれ単独であっても2種以上が併用されていてもよい。
【0013】
なお、2種以上の脂肪酸グリコールエステルが併用されている場合、それぞれ調製された脂肪酸グリコールエステルの混合物であってもよく、異なるアルキル鎖長の脂肪酸の混合物とグリコールを用い、それらを反応させて得られた脂肪酸グリコールエステルの混合物であってよい。例えば、パルミチン酸とステアリン酸の混合物とグリコールとの反応からは、ジパルミチン酸エチレングリコール、モノパルミチン酸モノステアリン酸エチレングリコール、及びジステアリン酸エチレングリコールの混合物が得られる。異なる脂肪酸の混合物とグリコールとを反応させる際に用いられる脂肪酸の混合物において、各脂肪酸により占められる割合は、85重量%以下であることが好ましい。
【0014】
上記に例示された脂肪酸グリコールエステルにおいて、本発明において好ましい脂肪酸グリコールエステルとしては、ジステアリン酸エチレングリコール、ジパルミチン酸エチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、モノパルミチン酸エチレングリコール、及びジベヘン酸エチレングリコール、並びにジパルミチン酸エチレングリコール、モノパルミチン酸モノステアリン酸エチレングリコール、及びジステアリン酸エチレングリコールの混合物が好ましい。
【0015】
脂肪酸グリコールエステルのパール光沢組成物中の含有量は、パール光沢付与の観点から、15重量%以上が好ましく、流動性の観点から、30重量%以下が好ましい。これらの観点から、脂肪酸グリコールエステルの含有量は、パール光沢組成物中、15〜30重量%が好ましく、15〜25重量%がより好ましく、18〜25重量%がさらに好ましい。
【0016】
界面活性剤は、パール光沢組成物の乳化促進に有効であり、ノニオン界面活性剤及びアニオン性界面活性剤が好適に用いられる。
【0017】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤、脂肪酸モノアルキロールアミド等が挙げられる。
【0018】
ポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤とは、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基を有するものである。ポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤の具体例としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸モノアルカノールアミド、ポリオキシアルキレン脂肪酸ジアルカノールアミド等が挙げられ、それぞれ単独であっても2種以上が併用されていてもよい。これらのうち、式(II):
2−O−(R3O)q−H (II)
(式中、R2は炭素数8〜20の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基、R3はエチレン基又はプロピレン基を示し、qは1〜12、好ましくは1〜6の数で、平均付加モル数を意味する)
で表わされるポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。
【0019】
式(II)において、R2としては、炭素数8〜20のアルキル基又は炭素数8〜20のアルケニル基が好ましい。また、R3としては、エチレン基、n−プロピレン基及びイソプロピレン基が挙げられる。qは3〜6が好ましい。
【0020】
ポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤のHLBは、パール光沢組成物の乳化を抑制し、粘度を制御する観点から、15未満が好ましく、9〜12.5がより好ましい。なお、HLBとは、親水性−親油性のバランス(Hydrophilic-Lipophilic Balance)を示す指標であり、本発明においては、小田・寺村らによる式:
HLB=(Σ無機性値/Σ有機性値)×10
を用いて算出したときの値である。
【0021】
ポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤のパール光沢組成物中の含有量は、パール光沢組成物の粘度を低下させる観点から、0.5重量%以上が好ましく、良好なパール光沢を得る観点から、10重量%以下が好ましい。これらの観点から、ポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤の含有量は、パール光沢組成物中、0.5〜10重量%が好ましく、0.5〜8重量%がより好ましく、1〜5重量%がさらに好ましい。
【0022】
脂肪酸モノアルキロールアミドは、光沢の向上に有効であり、例えば、式(III):
4CO−NH−R5OH (III)
(式中、R4は炭素数7〜20の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、R5はエチレン基又はプロピレン基を示す)
で表わされるものが挙げられる。
【0023】
式(III)において、R4としては、炭素数7〜20のアルキル基及びアルケニル基が好ましく、具体的には、ウンデシル基、トリデシル基、ヘプタデシル基等が挙げられる。また、R5としては、エチレン基、n−プロピレン基及びイソプロピレン基が挙げられる。
【0024】
脂肪酸モノアルキロールアミドとしては、ラウリン酸モノエタノールアミド、ラウリン酸モノプロパノールアミド、ラウリン酸モノイソプロパノールアミド、ミリスチン酸モノエタノールアミド、パルミチン酸モノエタノールアミド、ステアリン酸モノエタノールアミド、オレイン酸モノエタノールアミド、オレイン酸モノイソプロパノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノプロパノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノイソプロパノールアミド、ヤシ科植物油脂肪酸モノエタノールアミド等が挙げられ、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでは、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミド、パルミチン酸モノエタノールアミド及びステアリン酸モノエタノールアミドが好ましい。
【0025】
脂肪酸モノアルキロールアミドのパール光沢組成物中の含有量は、光沢付与の観点から、3重量%以上が好ましく、パール光沢組成物の粘度の上昇を抑制し、流動性を高める観点から、15重量%以下が好ましい。これらの観点から、脂肪酸モノアルキロールアミドの含有量は、パール光沢組成物中、3〜15重量%が好ましく、3〜10重量%がより好ましく、5〜10重量%がさらに好ましい。
【0026】
アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルアミドエーテル硫酸塩、モノグリセライド硫酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アシル化イセチオン酸塩、アシル化アミノ酸、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩等が挙げられ、これらの中ではアルキル硫酸エステル塩が好ましい。
【0027】
アルキル硫酸エステル塩は、例えば、式(IV):
6−O−(R7O)r−SO3M (IV)
(式中、R6は炭素数8〜20の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基を示し、R7はエチレン基又はプロピレン基を示し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン又は炭素数2もしくは3のヒドロキシアルキル置換アンモニウムを示し、rは0〜8の数で、平均付加モル数を意味する)
で表わされるポリオキシアルキレン基を有していてもよいアルキル硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0028】
式(IV)において、R6としては、炭素数8〜20のアルキル基及びアルケニル基が好ましく、具体的には、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等が挙げられる。R7としては、エチレン基、n−プロピレン基及びイソプロピレン基が挙げられる。rは0〜4が好ましい。
【0029】
アルキル硫酸エステル塩の好適例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(エチレンオキサイド(EO)の平均付加モル数:1〜4)及びポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン(EOの平均付加モル数:1〜4)が挙げられ、それぞれ単独であっても2種以上が併用されていてもよい。
【0030】
アルキル硫酸エステル塩のパール光沢組成物中の含有量は、各成分を均一に混合する観点から、5重量%以上が好ましく、流動性の観点から、15重量%以下が好ましい。これらの観点から、アルキル硫酸エステル塩の含有量は、5〜15重量%が好ましく、8〜15重量%がより好ましく、8〜13重量%がさらに好ましい。
【0031】
パール光沢組成物における脂肪酸グリコールエステル及び界面活性剤の総含有量は、25〜70重量%が好ましく、30〜60重量%がより好ましい。
【0032】
パール光沢組成物における水の含有量は、パール光沢組成物の濃度及び粘度調整の観点から、25〜75重量%が好ましく、40〜75重量%がより好ましく、50〜75重量%がさらに好ましい。
【0033】
本発明では、晶析添加剤として、(1) 脂肪酸、(2) 脂肪族アルコール、(3) 脂肪酸モノグリセリド、及び(4) 脂肪族エーテルからなる群より選ばれたいずれかを用いる。
【0034】
脂肪酸としては、炭素数8〜22の飽和又は不飽和の脂肪酸が好ましく、直鎖でも分岐でもよい。結晶微細化の観点から、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の炭素数12〜18の脂肪酸がより好ましい。これらの脂肪酸は、それぞれ単独でも、2種以上が併用されても良い。
【0035】
脂肪族アルコールとしては、炭素数8〜22の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールが好ましく、直鎖でも分岐でもよい。結晶微細化の観点から、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の炭素数12〜22の脂肪族アルコールがより好ましく、炭素数12〜18の脂肪族アルコールがさらに好ましい。これらの脂肪族アルコールは、それぞれ単独でも、2種以上が併用されても良い。
【0036】
脂肪酸モノグリセリドとしては、グリセロールと脂肪酸とのエステルである、式(A):
【0037】
【化1】

【0038】
(式中、Ra及びRbは、いずれか一方が水素原子、もう一方が−CORc(Rcは炭素数7〜21のアルキル基又はアルケニル基を示す)である)
で表される化合物が好ましい。
【0039】
cにおいて、アルキル基及びアルケニル基の炭素数は11〜17が好ましく、アルキル基及びアルケニル基は、直鎖であっても分岐であってもよい。
【0040】
本発明における脂肪酸モノグリセリドの好適例としては、ラウリン酸モノグリセリド、ミリスチン酸モノグリセリド、パルミチン酸モノグリセリド、ステアリン酸モノグリセリド、ベヘン酸モノグリセリド、ヤシ油脂肪酸モノグリセリド、パーム核油脂肪酸モノグリセリド、獣脂脂肪酸モノグリセリド、及びそれらの混合物等が挙げられ、製造工程からの少量のジグリセリド及びトリグリセリドが含有されていてもよい。
【0041】
脂肪族エーテルは、式(B):
d−O−Re (B)
(式中、Rd及びReは、それぞれ独立して、炭素数8〜22のアルキル基又はアルケニル基を示す)
で表される化合物が好ましい。
【0042】
d及びReにおいて、アルキル基及びアルケニル基の炭素数は12〜18が好ましく、またアルキル基及びアルケニル基は、直鎖であっても分岐であってもよい。また、脂肪族エーテルは、単一エーテルであっても、混成エーテルであってもよく、従って、Rd及びReも、同一であっても、互いに異なっていてもよい。
【0043】
本発明における脂肪族エーテルの好適例としては、ジラウリルエーテル、ジミリスチルエーテル、ジセチルエーテル、ジステアリルエーテル等が挙げられる。
【0044】
晶析添加剤の含有量は、パール光沢組成物中、微細な結晶の過剰生成による光沢劣化や濁度低下を防止する観点から、0.3〜3重量%が好ましく、0.5〜2.1重量%がより好ましい。また、前記晶析添加剤の含有量は、脂肪酸グリコールエステル100重量部に対して、1〜20重量部が好ましく、1.5〜20重量部がより好ましく、1.5〜15重量部がさらに好ましく、3〜10重量部がさらに好ましい。
【0045】
脂肪酸グリコールエステル、界面活性剤、水、晶析添加剤、その他の添加剤等は、前記同様に用いることができるが、晶析添加剤として、脂肪酸及び脂肪族アルコールを用いる場合は、ポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤をともに配合することが好ましい。ポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤により、粘度を低下させることができ、流動性を損なうことなく強いパール光沢が得られるのみならず、濁度の向上が奏される。
【0046】
パール光沢組成物には、さらに、pH調整剤、防腐剤、塩類、アルコール類、ポリオール類等を適宜配合してもよい。
【0047】
本発明のパール光沢組成物の製造方法において、溶融混合液は、脂肪酸グリコールエステル、晶析添加剤等の原料を溶融させる方法により得られるものであれば特に限定されない。具体的な方法としては、例えば、脂肪酸グリコールエステル、晶析添加剤、界面活性剤、水等の原料の混合物を加熱する方法;水及び界面活性剤等を含む混合物と、溶融状態の脂肪酸グリコールエステル及び晶析添加剤を混合する方法等が挙げられる。
【0048】
また、脂肪酸グリコールエステルと晶析添加剤は、それぞれを加熱し、溶融させた両者の混合液を添加しても、また、別々に添加してもよいが、両者の溶融混合液を添加することが好ましい。
【0049】
原料の溶融混合液の温度は、脂肪酸グリコールエステル又は晶析添加剤の融点のいずれか高い方の融点以上の温度が好ましく、混合物の沸点以下の温度が好ましい。また、脂肪酸グリコールエステル又は晶析添加剤の融点のいずれか高い方の融点より1〜30℃高い温度がより好ましく、いずれか高い方の融点より1〜20℃高い温度がさらに好ましい。
【0050】
冷却工程を終了する温度は、脂肪酸グリコールエステルを十分に結晶化させる観点から、脂肪酸グリコールエステルの融点未満が好ましく、該融点より10℃以上低い温度がより好ましく、該融点より20℃以上低い温度がさらに好ましい。また、脂肪酸グリコールエステル又は晶析添加剤の融点のいずれか低い方の融点より10℃以上低い温度が好ましく、いずれか低い方の融点より20℃以上低い温度がより好ましい。
【0051】
また、冷却は、形状が均一なパール光沢形成粒子を得る観点から、温度分布が少ない緩やかな冷却が好ましい。かかる観点から、冷却速度は0.1〜10℃/minが好ましく、0.1〜5℃/minがより好ましく、0.1〜3℃/minがさらに好ましい。
【0052】
冷却は、温度分布の少ない方法が好ましい。具体的な方法としては、例えば、溶融混合液をジャケットが付帯した配合槽で調製し、ジャケットに冷媒水を通水する方法等があげられる。
【0053】
冷却時に、脂肪酸グリコールエステルが結晶化し、結晶化熱を発生する。本発明は、この結晶化熱発生時の除熱速度を制御することに特徴を有する。
【0054】
結晶化熱の発生は過冷却度を緩和し、結晶化の進行を抑制すると考えられる。しかし、発熱時に除熱操作を行えば、過冷却度の緩和は抑制され、結晶化が進行し、これによって微細な結晶が得られ得ると考えられた。微細な結晶を有するパール光沢組成物は、強いパール光沢を維持しつつ白色度が大きく、さらに分散安定性が高かった。ただし、過剰な除熱は過剰に微細な結晶を生成し、光沢を劣化した。そこで、本発明では、結晶化の進行を容易に調整し得る指標として、結晶化時の単位質量当たりの代表除熱速度を見出した。
【0055】
この結晶化熱発生時の除熱速度は、パール光沢組成物等の温度変化により経時的に変化する。そこで、結晶化開始時と結晶化終了時の中間時点を代表点、さらに代表点でのパール光沢組成物の温度を代表中間温度として取り扱い、この代表点での除熱速度を求める。
【0056】
結晶化の開始時及び終了時は、パール光沢組成物の温度、撹拌電流値、電気伝導度、目視観察等によって確認することができる。
【0057】
代表点での除熱速度Q[W]は、式(X):
Q=UAΔT (X)
〔Q:除熱速度[W],U:総括熱伝達係数[W/m2/K],A:伝熱面積[m2],ΔT:平均温度差[K]〕
から求められる。なお、式(X)は、例えば、「化学工学概論」(水科篤郎、桐榮良三編、産業図書株式会社、平成5年(第15刷)、第66頁)に示されるように、伝熱を表すものとして一般的な式である。
【0058】
式(X)において、ΔTは式(Y):
ΔT=[(Tp−Tc1)−(Tp−Tc2)]/LN[(Tp−Tc1)/(Tp−Tc2)] (Y)
〔Tp:代表点でのパール光沢組成物の温度(代表中間温度)[℃]、Tc1:代表点での冷媒入口温度[℃],Tc2:代表点での冷媒出口温度[℃]〕
から得られる。
【0059】
さらにUは、次の式(Z-1)及び式(Z-2)によって求める。
【0060】
冷却工程のある時点を始点(0秒)とし、これよりt1[秒]経過後に結晶化が開始したときのt1/2[秒]をt2[秒]とする。0秒からt1秒までのパール光沢組成物の温度を所定時間ごとに測定して得られる回帰直線の傾きa[℃/s]は、冷却速度を表し負の値となる。回帰直線の傾きa[℃/s]を求める際、測定温度データは多数である方が精度は高い。そのため、パール光沢組成物の温度測定は1秒毎とする。a[℃/s]を用いた式(Z-1)よりt2[秒]時の総括熱伝達係数Ut2が求められる。
t2=-aMc/(AΔTt2) (Z-1)
〔M:パール光沢組成物の配合量[kg],c:パール光沢組成物の比熱[J/kg/K],A:伝熱面積[m2],ΔTt2:t2[秒]時点での平均温度差[K]〕
ここで、t2[秒]、言い換えればt1[秒]を短時間とすることで、得られるUt2は式(X)のUと近似することが可能となる。ただし、t1[秒]が過剰に短時間であると誤差の原因となり、また長時間だと式(X)のUと差異が大きいことから、t1[秒]は300秒とするときのUt2を式(X)における総括熱伝達係数Uとする。
【0061】
【数1】

【0062】
〔Tpt2:t2[秒]時点でのパール光沢組成物温度[℃]、Tct2・1:t2[秒]時点での冷媒入口温度[℃],Tct2・2:t2[秒]時点での冷媒出口温度[℃]〕
【0063】
代表点での除熱速度Q[W]を、パール光沢組成物の配合量M[kg]で除した値(Q/M[W/kg])を、冷却工程における結晶化時の単位質量当たりの代表除熱速度とする。
【0064】
晶析添加剤を配合するパール光沢組成物の製造において、結晶化時の単位質量当たりの代表除熱速度は、9〜36[W/kg]であり、好ましくは11〜36[W/kg]、より好ましくは13〜36[W/kg]である。当該代表除熱速度を特定の範囲に制御する方法は、例えば、配合槽に付帯したジャケットに通水する冷媒水の温度を、適宜調整することによって可能である。その際、脂肪酸グリコールエステルの結晶化熱発生時の除熱速度を制御すればよいので、冷却工程の冷却速度に関わらず冷媒水の温度を調整すればよい。冷媒水の温度は、代表点の前後で変化していてもよく、実質的に一定であってもよい。
【0065】
パール光沢形成粒子が結晶化した後は、さらに冷却して、結晶を安定化させることが好ましく、液温が、10〜40℃、好ましくは15〜35℃となるまで冷却することが望ましい。
【0066】
原料の溶融及び冷却は、溶解液が分離しないように、攪拌しながら行うことが好ましい。
【0067】
配合槽の大きさは、特に限定されないが、例えば0.3Lから20m3の配合槽を使用することができる。工業的スケールで大量生産する場合、100Lから20m3の配合槽を使用することが好ましい。このような工業的スケールの配合槽を使用する場合、通常、冷却工程全体にわたって冷却速度を所望の範囲に制御することが困難であり、付帯の冷却設備に大きな負荷がかかることになる。本発明は、冷却速度を常時制御する必要はなく、結晶化時の単位質量当たりの代表除熱速度を特定範囲に調整するだけで、白色度が高く、かつ分散安定性に優れたパール光沢組成物を簡便に得ることができる。
【実施例】
【0068】
各実施例及び各比較例で得られたパール光沢組成物の諸性質は、以下の方法によって測定した。
【0069】
<パール光沢組成物のパール光沢>
パール光沢組成物を水で20倍(重量比)に希釈し、肉眼にてパール光沢の外観を観察し、以下の基準に従って評価する。なお、気泡の混入しているものは遠心分離に掛け、脱泡を行う。
【0070】
〔評価基準〕
A:強い光沢が認められる。
B:弱い光沢が認められる。
C:光沢がない。
【0071】
<パール光沢組成物の白色度>
ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムを19.5重量%含む水溶液で、パール光沢組成物を33.3倍(重量比)に希釈したものをセルに1gを測り取り、色差計(日本電色製、SE-2000)でL(明度)、b(色相・彩度)を測定し、ASTM(米国材料試験協会)が定義(E-313)する次式により求める。
W値=(7L2-40Lb)/700
W値はパール光沢組成物の白さ、言いかえれば濁度を表す指標として用いる。W値が高いほどパール光沢組成物は白く濃くなる。
【0072】
<パール光沢組成物の分散安定性>
食塩と水を用いて特定の比重(1.028g/cm3、1.035g/cm3、1.042g/cm3、又は1.049g/cm3)に調整した食塩水との混合によりパール光沢組成物を、重量比で50倍に希釈した。この希釈液25mlを直径18mm高さ180mmの試験管に加え、23℃で18時間静置した後、以下の基準に従って評価する。測定は23℃で行う。
【0073】
〔評価基準〕
A:1.028g/cm3の食塩水及び1.049g/cm3の食塩水において、18時間静置後も白濁したまま安定に分散する。
B:1.028g/cm3の食塩水及び1.049g/cm3の食塩水の少なくともいずれかにおいては、18時間静置後に透明な分離層が生じ、安定に分散できないが、1.035g/cm3の食塩水及び1.042g/cm3の食塩水においては、18時間静置後も白濁したまま安定に分散する。
C:1.035g/cm3の食塩水及び1.042g/cm3の食塩水の少なくともいずれかにおいて、18時間静置後に透明な分離層が生じ、安定に分散できない。
【0074】
<脂肪酸グリコールエステル及び晶析添加剤の融点>
示差走査熱量計(Thermo plus DSC8230, Rigaku製)を用い、脂肪酸グリコールエステル又は晶析添加剤を5℃/minで昇温し、得られる融解のピークトップを融点とする。
【0075】
<パール光沢組成物の比熱>
示差走査熱量計(Thermo plus DSC8230, Rigak製)を用い、空容器、比熱既知試料、パール光沢組成物の溶融混合液について等速昇温時のDSC曲線を求め、それぞれのベースラインのシフト量から比例計算により比熱を求める。
【0076】
実施例1〜7及び比較例1、2
表1、2に示す脂肪酸モノアルキロールアミド、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤及びその他成分の混合物を80℃で、攪拌回転数を表1、2に示す速度に設定したT.Kアジホモミクサーf model(プライミクス株式会社製、2L仕様)にて混合し、これに予め両者を溶融させ混合してあった脂肪酸グリコールエステルと晶析添加剤を、溶融状態のまま添加し、混合して溶融混合液を得た。その後、表1、2に示す設定の冷媒水をジャケットに通水して溶融混合液を冷却し、パール光沢組成物を得た

【0077】
なお、実施例及び比較例において、結晶化開始温度は液温が上昇を開始した温度とし、結晶化終了温度は液温の上昇が停止した温度とした。さらに、これら温度の中間を代表中間温度とした。
【0078】
また、総括熱伝達係数Uは、前記式(Z-1)及び式(Z-2)により算出した。つまり、T.Kアジホモミクサーf model(プライミクス株式会社製、2L仕様)を用いた実施例1では、a(0秒からt1秒までの1秒毎のパール光沢組成物温度の回帰曲線の傾き、つまり冷却速度)=-0.00694℃/s、M(パール光沢組成物配合量)=2.0kg、c(比熱)=3,090J/Kg/K、A(伝熱面積)=0.072(m2)、t1=300秒、t2=150秒、Tpt2=41.6℃、Tct2・1=35.9℃、Tct2・2=37.5℃を代入すると、U=120W/m2/Kが得られた。これより、T.Kアジホモミクサーf model(プライミクス株式会社製、2L仕様)を用いた実施例1〜7及び比較例1、2のUは120W/m2/Kとした。
【0079】
T.K.アジホモミクサーS100型(プライミクス株式会社製)を用いた後述の実施例8では、a(0秒からt1秒までの1秒毎のパール光沢組成物温度の回帰曲線の傾き、つまり冷却速度)=-0.00528℃/s、M(パール光沢組成物配合量)=100kg、c(比熱)=3,090J/Kg/K、A(伝熱面積)=1.2(m2)、t1=300秒、t2=150秒、Tpt2=35.2℃、Tct2・1=27.2℃、Tct2・2=29.1℃を代入すると、U=190W/m2/Kが得られた。これより、T.K.アジホモミクサーS100型(プライミクス株式会社製、2L仕様)を用いた実施例8〜15のUは190W/m2/Kとした。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
以上の結果より、実施例1〜7で得られたパール光沢組成物は、強いパール光沢を有し、白色度も高く、分散安定性も良好であることが分かる。これに対し、結晶化時の単位質量当たりの代表除熱速度が9[W/kg]未満の比較例1で得られたパール光沢組成物は、パール光沢は強いものの、白色度が低く、分散安定性も低いことが分かる。また、結晶化時の単位質量当たりの代表除熱速度が36[W/kg]より大きい比較例2で得られたパール光沢組成物は、白色度が高いものの、パール光沢が弱いことが分かる。
【0083】
実施例8〜15
表3、4に示す脂肪酸モノアルキロールアミド、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤及びその他成分の混合物を80℃で、攪拌回転数を表3、4に示す速度に設定したT.K.アジホモミクサーS100型(プライミクス株式会社製)にて混合し、これに予め両者を溶融させ混合してあった脂肪酸グリコールエステルと晶析添加剤を、溶融状態のまま添加し、混合し、溶融混合液を得た。その後、表3、4に示す設定の冷媒水をジャケットに通水して溶融混合液を冷却し、パール光沢組成物を得た。
【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
以上の結果より、製造規模を大きくしても、実施例8〜15の方法により、強いパール光沢を有し、白色度も高く、分散安定性も良好なパール光沢組成物が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の方法により得られるパール光沢組成物は、シャンプー、リンス、ボディシャンプー、液体洗浄剤等に好適に用いられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸グリコールエステル、界面活性剤、及び水を含有してなり、さらに、晶析添加剤として、(1) 脂肪酸、(2) 脂肪族アルコール、(3) 脂肪酸モノグリセリド、及び(4) 脂肪族エーテルからなる群より選ばれたいずれかを含有してなるパール光沢組成物の製造方法であって、脂肪酸グリコールエステル、界面活性剤、水、及び晶析添加剤を含有してなる溶融混合液を冷却する工程を含み、この冷却工程における結晶化時の単位質量当たりの代表除熱速度が9〜36[W/kg]であるパール光沢組成物の製造方法。
【請求項2】
晶析添加剤が脂肪酸であり、界面活性剤がポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤を含有してなる、請求項1記載のパール光沢組成物の製造方法。
【請求項3】
晶析添加剤が脂肪族アルコールであり、界面活性剤がポリオキシアルキレン型ノニオン界面活性剤を含有してなる、請求項1記載のパール光沢組成物の製造方法。
【請求項4】
晶析添加剤が脂肪酸モノグリセリド又は脂肪族エーテルである、請求項1記載のパール光沢組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−95518(P2010−95518A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210728(P2009−210728)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】