説明

ヒノキチオールを含有するナノ粒子

【課題】ヒノキチオールの化学的安定性および光安定性を確保し、組織への浸透性を増加させ、かつ抗菌作用の持続性に優れたヒノキチオール含有ナノ粒子を提供すること。
【解決手段】ヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を、リポ型ナノ粒子、ミセル型ナノ粒子とし、これらのナノ粒子を2価または3価の金属塩で二次ナノ粒子とし、この二次ナノ粒子を1価ないし3価の塩基性塩で三次ナノ粒子とする。また、リポ型ナノ粒子、ミセル型ナノ粒子または二次ナノ粒子をキトサンで処理することによりキトサン被覆ナノ粒子を得る。これらのヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するナノ粒子はいずれもヒノキチオールの安定性、組織への浸透性、効果の持続性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒノキチオールを含有するナノ粒子に関し、さらに詳しくはヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子、ミセル型ナノ粒子、それらの表面を金属塩で被覆することにより作成される二次ナノ粒子および三次ナノ粒子ならびにキトサンで被覆されたナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒノキチオールはタイワンヒノキ(Chamaecyparis taiwancensis)の精油の中から発見されたトロポロン骨格を有する化合物であり、近年青森ヒバ、岐阜県産ヒノキなどからも抽出されている化合物である。
【0003】
ヒノキチオールは抗菌作用を有し、その広範な抗菌スペクトルにより防腐用食品添加物、育毛剤、化粧品などの添加物として一般的に使用されている。また、ヒノキチオールはマトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)活性阻害作用を有することが知られており歯周組織の疾患治療剤としても使用されている。
【0004】
ヒノキチオールは結晶または結晶性の塊であり、光によって徐々に分解されると共に、皮膚または粘膜からの吸収性があまり良くないという課題があった。
【0005】
ところで、リポ型ナノ粒子としては、プロスタグランジン誘導体やステロイドを大豆油とレシチンからなる粒子に封入したリポナノ粒子製剤が古くから使用されており(特許文献1:特開昭56−167616号公報、特許文献2:特開昭59−3858号公報)、さらにプロスタグランジンEやパルミチン酸デキサメタゾン、フルルビプロフェン、酢酸ハロプレドンなどのステロイドを含有するリポナノ粒子製剤が医薬品として使用されている。
【0006】
また、ミセル型ナノ粒子、二次ナノ粒子、三次ナノ粒子としては、水不溶体とした水溶性薬物または脂溶性薬物を、疎水性と陰イオン残基を併せもつ中長鎖有機化合物および界面活性剤とを用いてミセル型ナノ粒子とし、これをカルシウムイオン、亜鉛イオンなどの金属イオンで処理することにより二次ナノ粒子とし、次いでこの二次ナノ粒子に炭酸塩、リン酸塩などの塩基性塩で処理することにより三次ナノ粒子とすることが知られている(特許文献3:国際公開WO2005/23282号公報、特許文献4:国際公開WO2005/60935号公報)。これらのナノ粒子においては、薬物として生理活性タンパク質またはペプチドの水溶性薬物およびエナント酸テストステロン、シクロスポリン、レチノールなどの脂溶性薬物が使用されている。
【0007】
しかし、薬物としてヒノキチオールを含有するリポ型ナノ粒子、ミセル型ナノ粒子、二次ナノ粒子および三次ナノ粒子については知られておらず、さらにキトサンで被覆されたナノ粒子についても新規である。また、特許文献1〜4に開示された製剤は外用剤、注射剤として使用されるものであり、歯肉炎、歯周炎などの歯周病用のナノ粒子については記載されていない。
【0008】
したがって、ヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を安定化させ、組織浸透性に優れさらに効果の持続性を有するヒノキチオールを有効成分とする外用剤、特に歯肉炎、歯周炎などの歯周病用剤が期待されている。
【特許文献1】特開昭56−167616号公報
【特許文献2】特開昭59−3858号公報
【特許文献3】国際公開WO2005/23282号公報
【特許文献4】国際公開WO2005/60935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の現状に鑑み、ヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体(以下、総称して「ヒノキチオール」という。)について、その化学的安定性を向上させると共に、組織浸透性に優れ、さらに効果の持続性を有する外用剤、特に歯周病関連疾患の予防、治療用外用剤を提供することを課題とする。
【0010】
かかる課題を解決するべく、本発明者らは鋭意検討した結果、ヒノキチオールをナノ粒子に封入することにより、ヒノキチオールの組織浸透性を高め、効果の持続性を増し、かつ保存安定性に優れたヒノキチオール含有ナノ粒子となることを見出した。それは、ヒノキチオールをリポ型ナノ粒子またはミセル型ナノ粒子に封入し(これらのナノ粒子を「一次ナノ粒子」ということもある。)、この一次ナノ粒子を水性媒体中で2価または3価の金属塩と混合することによりヒノキチオールを含有する二次ナノ粒子とし、当該二次ナノ粒子を水性媒体中で1価ないし3価の塩基性塩と混合することによりヒノキチオールを含有する三次ナノ粒子とすること、さらに一次ナノ粒子または二次ナノ粒子を水性媒体中でキトサンと混合し、キトサン被覆ナノ粒子とすることにより達成された。これらのナノ粒子はいずれもヒノキチオールの組織浸透性、効果の持続性、保存安定性に優れていることが確認され、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって本発明は、組織浸透性、効果の持続性、保存安定性に優れたヒノキチオールを含有する各種ナノ粒子を提供する。さらに本発明は、ヒノキチオール含有ナノ粒子の外用剤、特に歯周病関連疾患の予防、治療用外用剤を提供する。
【0012】
より具体的には、本発明は以下の構成からなる。すなわち、
(1)ヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体、植物油、リン脂質、炭素数6〜22の脂肪酸および等張化剤を弱酸性の水性媒体中で混合することにより作製されるヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子;
(2)さらに界面活性剤を配合することを特徴とする(1)に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子;
(3)ヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体、疎水基および陰イオン残基を有する有機化合物および界面活性剤を、弱酸性の水性媒体中で混合することにより作製されるヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するミセル型ナノ粒子;
(4)(1)もしくは(2)に記載されたリポ型ナノ粒子または(3)に記載されたミセル型ナノ粒子を、水性媒体中で2価または3価の金属塩と混合することにより作製される、リポ型ナノ粒子またはミセル型ナノ粒子の表面が2価または3価の金属塩で被覆されたヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有する二次ナノ粒子;
(5)(4)に記載された二次ナノ粒子を水性媒体中で1価ないし3価の塩基性塩と混合することにより作製される、二次ナノ粒子の表面が1価ないし3価の塩基性塩で被覆されたヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有する三次ナノ粒子;
(6)(1)〜(4)のいずれかに記載されたナノ粒子を水性媒体中でキトサンと混合することにより作製される、リポ型ナノ粒子、ミセル型ナノ粒子または二次ナノ粒子の表面がキトサンで被覆されたヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するキトサン被覆ナノ粒子;
(7)植物油が大豆油、ゴマ油、菜種油、オリーブ油、サフラワー油、コーン油、綿実油、椿油またはサラダ油である(1)または(2)に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子;
(8)リン脂質がホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリンまたはスフィンゴミエリンである(1)または(2)に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子;
(9)炭素数6〜22の脂肪酸がオレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸もしくはリノレン酸またはそれらの塩のいずれかである(1)または(2)に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子;
(10)等張化剤がグリセリン、ブドウ糖、ソルビトール、マンニトールまたはキシリトールである(1)または(2)に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子;
(11)弱酸性の水性媒体がpH4〜7の範囲であることを特徴とする(1)、(2)、(3)または(6)のいずれかに記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子;
(12)疎水基および陰イオン残基を有する有機化合物が、炭素数6〜24の脂肪酸またはそれらの塩のいずれかである(3)に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するミセル型ナノ粒子;
(13)炭素数6〜24の脂肪酸が、オレイン酸、リノール酸またはリノレン酸の不飽和脂肪酸;あるいはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸またはステアリン酸の飽和脂肪酸から選択されるものである(12)に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するミセル型ナノ粒子;
(14)界面活性剤が、ホスファチジルコリン、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート(Tween80)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween20)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート(Tween60)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート(Tween40)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレート(Tween85)、ポリオキシエチレン(8)オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(20)コレステロールエステル、脂質−ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油および脂肪酸−ポリエチレングリコール共重合体から選択される1種または2種以上のものである(2)または(3)に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子またはミセル型ナノ粒子;
(15)2価または3価の金属塩が、カルシウム塩、亜鉛塩、鉄塩または銅塩である(4)に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有する二次ナノ粒子;
(16)1価ないし3価の塩基性塩が、炭酸水素塩、リン酸水素塩、炭酸塩、リン酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩または尿酸塩である(5)に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有する三次ナノ粒子;
(17)キトサンの分子量が500〜1,000,000のものである(6)に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するキトサン被覆ナノ粒子;
(18)粒子の直径が50〜500nmである(1)〜(17)のいずれかに記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するナノ粒子;
(19)(1)〜(18)のいずれかに記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するナノ粒子を含有する皮膚または粘膜適用型外用剤;
(20)外用剤が、軟膏剤、塗布剤、洗口液、歯磨き剤、ゲル剤、ハイドロゲル剤、懸濁剤、ローション剤、パップ剤および貼付剤からなる群から選択されるものである(19)に記載の皮膚または粘膜適用型外用剤;
(21)歯肉炎、歯周炎(歯槽膿漏)、歯肉膿瘍および歯周病諸症状の予防、治療剤である(19)または(20)に記載の皮膚または粘膜適用型外用剤;
である。
【0013】
すなわち、本発明は、ヒノキチオールを植物油、リン脂質、炭素数6〜22の脂肪酸および等張化剤、さらに必要に応じて界面活性剤を、弱酸性の水性媒体中で混合することにより作製されるリポ型ナノ粒子、およびヒノキチオールと疎水性および陰イオン残基を有する有機化合物および界面活性剤を弱酸性の水性溶媒中で混合することにより作製されるミセル型ナノ粒子、さらにリポ型ナノ粒子またはミセル型ナノ粒子をそれぞれ2価または3価の金属塩と水性媒体中で混合することにより二次ナノ粒子とし、当該二次ナノ粒子を1価ないし3価の塩基性塩と水性媒体中で混合することにより三次ナノ粒子とすることを特徴とする。さらにまた、リポ型ナノ粒子、ミセル型ナノ粒子または前記二次ナノ粒子をキトサンで処理することにより粒子表面がキトサンで被覆されたキトサン被覆ナノ粒子を作製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明が提供するヒノキチオール含有ナノ粒子は、ヒノキチオールの化学的安定性および光安定性を良好ならしめ、組織への浸透性を増加し、かつヒノキチオールの有する抗菌作用の持続性に優れたものである。
したがって、これまで十分に達成されていなかったヒノキチオールの抗菌作用を向上させることができるものであり、ヒノキチオールの皮膚または粘膜適用型外用剤として有用であり、特に、歯肉炎、歯周炎(歯槽膿漏)、歯肉膿瘍、歯周病諸症状の予防・治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書において、封入、被覆、結合などの用語を使用しているがこれらの用語は同義に使われていることがあり、いずれもナノ粒子に2価または3価の金属塩および/または1価ないし3価の塩基性塩あるいはキトサンが担持、付着、吸着、結合した状態を示すものである。
【0016】
本発明のヒノキチオールを含有するナノ粒子は、ヒノキチオールをはじめその塩もしくは錯体をも包含するものである。塩としてはヒノキチオールが形成する塩であれはいずれでもよく、例えばナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩などが挙げられるが生理学的に使用できる塩が本発明の目的に使用される。また、錯体としては、ヒノキチオールと錯体を形成するものであればいずれも本発明の範囲に包含される。
【0017】
本発明におけるリポ型ナノ粒子は、以下のとおり作製することができる。
すなわち、ヒノキチオール、植物油、リン脂質、炭素数6〜22の脂肪酸、等張化剤、さらに必要に応じて界面活性剤を、弱酸性の水性媒体中で混合し、この混合液を超音波発振器で処理し、次いでフレンチプレス、マントゴーリーなどの粉砕機で1〜3回処理することによりヒノキチオールを含有するリポ型ナノ粒子を作製することができる。
【0018】
上記の方法で使用される植物油としては、ヒノキチオールを溶解、溶融し分散安定化するものであればいずれでもよく、大豆油、ゴマ油、菜種油、オリーブ油、サフラワー油、コーン油、綿実油、椿油またはサラダ油が挙げられるが、なかでも大豆油が好ましく使用される。
【0019】
上記の方法で使用されるリン脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリンまたはスフィンゴミエリンが挙げられるが、なかでもホスファチジルコリンが好ましく使用される。
【0020】
上記の方法で使用される炭素数6〜22の脂肪酸は、ヒノキチオールの乳化を促進・補助する脂肪酸が好ましく、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸もしくはリノレン酸またはそれらの塩が挙げられるが、なかでもオレイン酸またはその塩が特に好ましく使用される。
【0021】
上記の方法で使用される等張化剤としては、グリセリンまたはブドウ糖、ソルビトール、マンニトール、キシリトールなどの糖類が挙げられるが、なかでもグリセリンが好ましく使用される。
【0022】
上記の方法で使用される界面活性剤は、後述するミセル型ナノ粒子の作製に使用する界面活性剤と同様のものである。
【0023】
上記のリポ型ナノ粒子の作製における各成分の配合量は、ヒノキチオールが0.01〜30%(w/v)、植物油が5〜50%(w/v)、リン脂質が植物油100に対する重量比で1〜50の量、炭素数6〜22の脂肪酸が植物油100に対する重量比で1〜50の量、および等張化剤が適量使用される。
【0024】
また、当該リポ型ナノ粒子の作製は、HEPES緩衝液、MES緩衝液、塩酸水溶液などを使用してpH4〜7の液性の水性媒体中で行うことができる。
【0025】
かくして得られたリポ型ナノ粒子中のヒノキチオールの含有量は0.01〜10重量%であり、ナノ粒子の粒径は50〜500nmである。
【0026】
本発明におけるミセル型ナノ粒子は、以下のとおり作製することができる。
すなわち、ヒノキチオール、疎水基および陰イオン残基を有する有機化合物および界面活性剤を、弱酸性の水性媒体中で混合し、この混合液を超音波発振器で処理することによりヒノキチオールを含有するミセル型ナノ粒子を作製することができる。ヒノキチオールは有機溶媒に溶解した溶液として使用することができる。
【0027】
この作製方法は弱酸性下で行うことに特徴があり、特許文献3および4のいずれにも記載されていない、ヒノキチオール独特の方法である。因みに、特許文献3および4に記載されているミセル型ナノ粒子の作製方法においてはpH8〜10の液性のもとで行われており、この点が本発明のミセル型ナノ粒子と先行技術との大きな相違である。
【0028】
弱酸性として好ましいのはpHが4〜7の範囲であり、なかでもpH5.0〜6.5の範囲が特に好ましい。pH調整には炭酸およびリン酸を含まない緩衝液、例えばHEPES緩衝液、MES緩衝液などが好ましいが、塩酸水溶液を使用することもできる。
【0029】
上記の方法で使用される疎水基および陰イオン残基を有する有機化合物は、炭素数6〜24の脂肪酸またはそれらの塩であり、そのなかでもオレイン酸、リノール酸またはリノレン酸の不飽和脂肪酸;あるいはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸またはステアリン酸の飽和脂肪酸から選択される脂肪酸またはその塩が好ましく、オレイン酸またはその塩が特に好ましい。
【0030】
ヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体と、疎水基および陰イオン残基を有する有機化合物との重量比は1:0.03〜30程度が好ましく、1:0.05〜20程度がさらに好ましく、1:0.2〜10程度が特に好ましい。
【0031】
上記の方法で使用される界面活性剤は、ホスファチジルコリン、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート(Tween80)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween20)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート(Tween60)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート(Tween40)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレート(Tween85)、ポリオキシエチレン(8)オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(20)コレステロールエステル、脂質−ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油および脂肪酸−ポリエチレングリコール共重合体から選択される1種または2種以上のものであり、なかでもポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート(Tween80)が好ましく使用される。
【0032】
界面活性剤の配合量は、ナノ粒子同士が凝集しない程度で適宜選択することができ、疎水基および陰イオン残基を有する有機化合物と界面活性剤との配合比は、モル比で1:0.01〜10程度が好ましく、1:0.05〜5程度がさらに好ましい。
【0033】
上記の方法で使用されるヒノキチオールを溶解する有機溶媒としては、ヒノキチオールを溶解するものであればいずれでもよく、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが好ましい。
【0034】
本発明における二次ナノ粒子は、以下のとおり作製することができる。
前記した方法で作製したリポ型ナノ粒子またはミセル型ナノ粒子(これらを夫々「一次ナノ粒子」ということがある。)を、水性媒体中で2価または3価の金属塩と30分〜15時間撹拌、混合することにより、一次ナノ粒子の表面に2価または3価の金属イオンが被覆された二次ナノ粒子が作製される。
【0035】
上記の方法における水性媒体中には、一次ナノ粒子作製の際ヒノキチオールを溶解するために使用した有機溶媒が混合されていてもよく、また中性またはpH6.0程度の緩衝液中で行うことができる。緩衝液としてはHEPES緩衝液、MES緩衝液、塩酸水溶液などが使用される。
【0036】
上記の方法で使用される2価または3価の金属塩は、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウムなどのカルシウム塩;酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛などの亜鉛塩;塩化鉄、硫化鉄などの鉄塩;または塩化銅、硫化銅などの銅塩であり、なかでもカルシウム塩、特に塩化カルシウムが好ましい。
【0037】
この金属塩は水和物でも使用することができる。金属塩の配合量は一概に限定し得ないが、リポ型ナノ粒子の作製に使用した炭素数6〜22の脂肪酸またはミセル型ナノ粒子の作製に使用した疎水基および陰イオン残基を有する有機化合物に対するモル比で0.01〜100程度が好ましく、0.1〜10程度が特に好ましい。
【0038】
こうして得られた二次ナノ粒子は、当該粒子の表面電位(ζ電位)を測定したところ、カルシウム濃度依存的に表面電位が増大したことから、一次ナノ粒子の表面が2価または3価の金属塩で被覆されていることが証明された。この二次ナノ粒子の粒径は50〜500nmである。
【0039】
本発明における三次ナノ粒子は、以下のとおり作製することができる。
すなわち、前記した方法で作製した二次ナノ粒子を、水性媒体中で1価ないし3価の塩基性塩と30分〜15時間混合、撹拌することにより作製される。
【0040】
上記の方法における水性媒体中には、一次ナノ粒子作製の際ヒノキチオールを溶解するために使用した有機溶媒が混合されていてもよく、また液性が中性またはpH6.0程度の緩衝液中で行うことができる。緩衝液としてはHEPES緩衝液、MES緩衝液、塩酸水溶液などが使用される。
【0041】
上記の方法で使用される1価ないし3価の塩基性塩は、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの炭酸水素塩;リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウムなどのリン酸水素塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウムなどのリン酸塩;シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸カルシウムなどのシュウ酸塩;乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウムなどの乳酸塩;尿酸ナトリウム、尿酸カリウム、尿酸カルシウムなどの尿酸塩などを挙げることができる。そのなかでも、炭酸水素塩、炭酸塩、リン酸水素塩が好ましく、特に炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウムが好ましい。塩基性塩の配合量は一概に限定し得ないが、前記の二次ナノ粒子の作製時に使用した2価または3価の金属塩と塩基性塩とのモル比で1:0.002〜10程度が好ましく、1:0.001〜5程度がさらに好ましく、1:0.02〜2程度が特に好ましい。
【0042】
こうして得られた三次ナノ粒子は、ナノ粒子中に含有されている炭酸量、リン酸量をプラズマスペクトロメーターで測定することにより、二次ナノ粒子の表面が1価ないし3価の塩基性塩で被覆されていることを確認した。
【0043】
本発明におけるキトサン被覆ナノ粒子は、以下のとおり作製することができる。
すなわち、前記の方法で作製したリポ型ナノ粒子、ミセル型ナノ粒子などの一次ナノ粒子または二次ナノ粒子を、水性媒体中でキトサンと混合することにより作製することができる。
【0044】
上記の方法で使用されるキトサンの分子量は500〜1,000,000程度であり、好ましくは10,000〜200,000のものが使用される。キトサンの脱アセチル基度が高ければ高いほどよいが、75%以上のものが好ましく使用される。
【0045】
こうして得られた二次ナノ粒子を用いたキトサン被覆ナノ粒子は、当該粒子の表面電位(ζ電位)を測定したところ、二次ナノ粒子の作製時に使用されたカルシウムイオンの濃度依存的に表面電位が増大したことから、二次ナノ粒子の表面にキトサンが被覆されていることを確認した。
【0046】
以上の方法で作製されたリポ型ナノ粒子、ミセル型ナノ粒子、二次ナノ粒子、三次ナノ粒子およびキトサン被覆ナノ粒子の直径はいずれも50〜500nmの範囲であり、二次ナノ粒子、三次ナノ粒子、キトサン被覆ナノ粒子となるにしたがって若干ずつ粒子径が大きくなる傾向があった。本発明のナノ粒子をヒノキチオール含有の外用剤に使用する場合は、粒子径が100〜300nmのものが好ましく使用される。
【0047】
かくして作製された本発明のヒノキチオールを含有するリポ型ナノ粒子、ミセル型ナノ粒子、二次ナノ粒子、三次ナノ粒子またはキトサン被覆ナノ粒子は、その粒子を溶液または懸濁液として使用するか、または、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥等をすることにより溶媒を除去し乾燥物として使用することができる。これらのナノ粒子の溶液、懸濁液または乾燥物と、適宜製剤学的に許容される製剤基剤、添加剤等を使用することにより、皮膚または粘膜適用型外用剤を調製することができる。
【0048】
本発明は、また、そのような皮膚または粘膜適用型外用剤を提供するものである。そのような外用剤としては軟膏剤、塗布剤、洗口液、歯磨剤、ゲル剤、ハイドロゲル剤、懸濁剤、ローション剤、パップ剤および貼付剤等を挙げることができる。なかでも、ヒノキチオールを医療用医薬品、一般用医薬品、医薬部外品などの歯科医療に使用することを目的とし、歯肉炎、歯周炎(歯槽膿漏)、歯肉膿瘍または歯周病諸症状の予防、治療剤として用いる場合には、軟膏剤、患部へ塗りこむ洗口液、含漱用洗口液および歯磨き剤などの剤型が好ましい。
【0049】
これらの外用剤の調製に使用される基剤、その他の添加剤成分としては、製剤学的に外用剤の調製に使用されている各種基剤、成分を挙げることができる。具体的には、ワセリン、プラスチベース、パラフィン、流動パラフィン、軽質流動パラフィン、サラシミツロウ、シリコン油などの油脂性基剤;水、エタノール、メチルエチルケトン、綿実油、オリーブ油、落花生油、ゴマ油などの溶剤;ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、トラガントガム、アラビアゴム、ゼラチン、アルブミンなどの増粘剤;ジブチルヒドロキシトルエンなどの安定化剤;グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、尿素、ショ糖、エリスリトール、ソルビトールなどの保湿剤;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、プルロニックF−87、ラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤;パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル、デヒドロ酢酸ナトリウム、p−クレゾールなどの防腐剤、その他炭酸カルシウム、ソルビット、無水ケイ酸、クエン酸などであり、剤型に応じて適宜選択して使用することができる。
【実施例】
【0050】
以下に本発明の実施例について記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
実施例1:ヒノキチオール含有リポ型ナノ粒子(一次ナノ粒子)の作製
ヒノキチオール(和光純薬工業社製:以下、Wakoと記す)を1重量%または2.5重量%の濃度で大豆油(Wako)1.5gに溶解し、その溶液に3−sn−ホスファチジルコリン(Wako)270mg、オレイン酸(Wako)36mg、グリセリン(Wako)332mgおよび生理食塩水(大塚製薬社製)12.86mLを加えて混合した。この混合液のpHは6.5であった。この混合液をプローブ型超音波発振器で2分間処理し、次いでフレンチプレス(Thermo Electron Corporation製)で2回処理することにより、ヒノキチオールを含有するリポ型ナノ粒子(一次ナノ粒子)を得た。
【0052】
得られた一次ナノ粒子懸濁液中のヒノキチオール濃度をHPLCで測定したところ、それぞれ0.65mg/mL、1.63mg/mLと算出され、使用したヒノキチオールの約65%が粒子中に包含されたことが判明した。また、得られた一次ナノ粒子の粒径はDLS(光散乱粒子測定器、大塚電子社製、以下同様)測定からいずれも約200nmであった。
【0053】
実施例2:ヒノキチオール含有リポ型ナノ粒子(一次ナノ粒子)の保存安定性試験
実施例1で得られたヒノキチオールを含有するリポ型ナノ粒子(一次ナノ粒子)中のヒノキチオールの化学的安定性を、種々の温度条件のもとで、遮光下/非遮光下に保存し、評価した。なお、ヒノキチオールはHPLCにより検出した。
その結果を表1に示した。
【0054】
表1:ヒノキチオール含有リポ型ナノ粒子の保存安定性
(作製時のナノ粒子中のヒノキチオール量を100とする。)
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示した結果から判るように、非遮光下で室内に放置した場合、10日後にはヒノキチオールが完全に変性した。一方、遮光して保存した場合、温度が高温になると変性する速度が高まる傾向がみられたが、4℃下では45日後においてもほとんど変性していない。また、その粒径においても作製直後に比べて大きな変化は認められず、粒子の分散安定性が優れていることが判った。
【0057】
実施例3:ヒノキチオール含有リポ型ナノ粒子およびその二次、三次およびキトサン被覆ナノ粒子の作製
ヒノキチオールを2.5重量%の濃度で大豆油(Wako)1.5gに溶解し、その溶液に3−sn−ホスファチジルコリン(Wako)150mg、オレイン酸ナトリウム(Wako)150mg、Tween80 60mgおよびグリセリン332mgを、0.2M HEPES緩衝液中で混合し、総量を15mLとした。その後、この混合液を2N塩酸水溶液によりpH6に調整した。この混合液をプローブ型超音波発振器で2分間処理し、次いでフレンチプレス(Thermo Electron Corporation製)で2回処理することによりヒノキチオールを含有するリポ型ナノ粒子の一次ナノ粒子を得た。この一次ナノ粒子を含有する懸濁液2.5mL中に1Mの塩化カルシウム水溶液を330μL添加し、2時間撹拌することにより、カルシウムイオンが粒子表面に結合したヒノキチオール含有リポ型ナノ粒子の二次ナノ粒子を得た。その後、1Mの炭酸水素ナトリウム水溶液82μLを添加し、一晩撹拌することにより炭酸カルシウムで被覆されたヒノキチオールを含有するリポ型ナノ粒子の三次ナノ粒子を得た。また、当該一次粒子あるいは二次粒子に10mg/mLキトサン水溶液(低分子量タイプ(分子量:およそ10万)、Sigma社製)500μLを添加することで、キトサン被覆ナノ粒子を得た。それぞれのナノ粒子懸濁液は最後に5μm径のフィルターによりろ過し、凝集塊を取り除いた。
【0058】
得られたそれぞれのナノ粒子懸濁液中のヒノキチオール濃度をHPLCにより測定したところ、いずれにおいても60%以上のヒノキチオールがナノ粒子化されたことが判明した。また、得られた粒子の粒径はDLS測定から一次、二次、三次ナノ粒子においては約200nm、キトサン被覆ナノ粒子では約400nmであった。
【0059】
上記で得られた一次ナノ粒子、二次ナノ粒子、三次ナノ粒子およびキトサン被覆ナノ粒子の表面電位(ゼータ(ζ)電位)をゼータ電位測定器(大塚電子社製、以下同様)を用いて測定した。その結果、一次ナノ粒子は−9.3mVであったのに対し、二次ナノ粒子は−3.6mVであり粒子の表面にカルシウムが結合していることが確認できた。三次ナノ粒子およびキトサン被覆ナノ粒子では、それぞれ−2.8mV、5.8mVでありそれぞれにおいて結合、被覆されていることが確認された。
【0060】
実施例4:ヒノキチオール含有ミセル型ナノ粒子(一次ナノ粒子)の作製
オレイン酸ナトリウム水溶液(100mg/mL、Wako)0〜2.5mL、Tween80水溶液(200mg/mL、MP Biomedicals社製)0〜1.25mL、ヒノキチオール/エタノール溶液(500mg/mL)0.1mLおよびHEPES緩衝液(1M、pH5.6、Dojindo社製)1mLを混合し、その後プローブ型超音波発振器で5分間処理した。次いで、この混合液を2N塩酸水溶液によりpH6に調整し、さらに水を添加して総量5mLとした。その後、再度超音波処理を5分間行い、ヒノキチオール含有ミセル型ナノ粒子(一次ナノ粒子)を得た。一晩遮光下室温で放置後、8000rpmで5分間遠心し、その上清中に含まれるヒノキチオール量(可溶化したヒノキチオール)をHPLCにより定量し、ナノ粒子中に含有するヒノキチオール量を算出した。
その結果を表2に示した。
【0061】
表2:ヒノキチオールの可溶化/一次粒子内への取り込み
【0062】
【表2】

【0063】
表2に示した結果から判るように、この実験系(pH6、ヒノキチオール10mg/mL)では、使用したヒノキチオールのうち28%が可溶化していた。Tween80の存在により可溶化するヒノキチオール量は増大するが、オレイン酸ナトリウムとTween80を共に混合することでヒノキチオールを良好に可溶化できていることが判った。すなわち、オレイン酸ナトリウムとTween80との混合ミセル中にヒノキチオールが封入されることでヒノキチオールが可溶化されたと考えられる。この粒子の粒径はDLS測定により100〜200nmであった。
【0064】
実施例5:ヒノキチオール含有ミセル型ナノ粒子の二次ナノ粒子の作製
オレイン酸ナトリウム水溶液(100mg/mL、Wako)2.5mL、Tween80水溶液(200mg/mL)0.5mL、ヒノキチオール/エタノール溶液(500mg/mL)0.1mLおよびHEPES緩衝液(1M、pH5.6)1mLを混合し、その後プローブ型超音波発振器で5分間処理した。次いで、この混合液を2N塩酸水溶液によりpH6に調整し、さらに水を添加して総量5mLとした。その後、再度超音波処理を5分間行い、ヒノキチオール含有ミセル型ナノ粒子(一次ナノ粒子)を得た。
【0065】
こうして得られた一次ナノ粒子を含有する溶液中に、種々の濃度の塩化カルシウム水溶液5mLを添加し、一晩撹拌することによりヒノキチオール含有ミセル型ナノ粒子の二次ナノ粒子を作製した。ゼータ電位測定器を用いて作製した二次ナノ粒子の表面電位(ζ電位)を測定した。
その結果を表3に示した。
【0066】
表3:ミセル型ナノ粒子へのカルシウムの結合
【0067】
【表3】

【0068】
表3に示した結果から判るように、表面電位(ζ電位)がカルシウムイオンの濃度依存的に増大したことから、ナノ粒子表面のオレイン酸に由来するマイナス電荷がカルシウムイオンの結合によりほぼ中和されていることが判明した。また、これらの粒子の粒径はおよそ100〜200nmであり、カルシウム被覆によっても粒径が維持されていることが判った。
【0069】
実施例6:ヒノキチオール含有ミセル型ナノ粒子の三次ナノ粒子の作製
実施例5で作製したヒノキチオール含有ミセル型ナノ粒子の二次ナノ粒子(塩化カルシウム水溶液をオレイン酸ナトリウムの4倍モル量添加)の水懸濁液中に、カルシウムに対し4分の1モル量の炭酸水素ナトリウム水溶液またはリン酸水素二ナトリウム水溶液を添加し、一晩撹拌することにより炭酸カルシウムまたはリン酸カルシウムで被覆されたヒノキチオール含有ミセル型ナノ粒子(三次ナノ粒子)を得た。
【0070】
当該三次ナノ粒子の表面電位(ζ電位)を測定したところ、炭酸イオンやリン酸イオンの添加前後では大きな変化は認められなかった。そこで、三次ナノ粒子の水懸濁液をゲルろ過精製した後、ナノ粒子中に含有されているリン酸量をプラズマスペクトロメーター(Shimazu社製)により定量したところ、カルシウムイオンに対しおよそ20%のリン酸が三次ナノ粒子中に含有されていることが判り、粒子がリン酸カルシウムで被覆されたナノ粒子であることが判明した。
【0071】
実施例7:ヒノキチオール含有ミセル型二次ナノ粒子のキトサン被覆ナノ粒子の作製
実施例5で作製したヒノキチオール含有ミセル型ナノ粒子の二次ナノ粒子(塩化カルシウム水溶液をオレイン酸ナトリウムの4倍モル量添加)の水懸濁液中に、キトサン水溶液(低分子量タイプ(分子量およそ10万)、Sigma社製)をオレイン酸ナトリウム重量の5重量%となるように添加した。この懸濁液を一晩撹拌することによりキトサンで被覆されたナノ粒子を得た。
【0072】
このナノ粒子の表面電位(ζ電位)を測定したところ、キトサン添加前のカルシウムイオン添加で作製した二次ナノ粒子では電位が−12.6mVであったのに対し、キトサンを添加して作製したナノ粒子の場合は−0.14mVに変化し、電荷が完全に中和されていた。したがって、キトサンがナノ粒子の表面に結合されていることが確認された。
【0073】
実施例8:ヒノキチオール含有ミセル型ナノ粒子の保存安定性試験
実施例4〜7で作製したヒノキチオール含有ナノ粒子中のヒノキチオールの化学的安定性試験を、遮光下、37℃で行った。ヒノキチオール含量はHPLCにより測定した。
その結果を表4に示した。
【0074】
表4 ヒノキチオール含有ミセル型各種ナノ粒子の保存安定性
(作製時のナノ粒子中のヒノキチオール量を100%とする。)
【0075】
【表4】

【0076】
表4に示した結果から判るように、一次ナノ粒子においてはヒノキチオールが速やかに変性してしまったのに対し、二次、三次およびキトサン被覆ナノ粒子においては遮光、37℃、32日後においてもほとんど変性が認められなかった。これは、ヒノキチオールが各ナノ粒子中に含まれるカルシウムイオンと塩あるいは錯体を形成して安定化されているものと思われる。
【0077】
実施例9:軟膏剤
実施例5で得られたヒノキチオール含有ミセル型ナノ粒子(2.5重量%含有)、白色ワセリン、カルボキシメチルセルースナトリウムおよびパラオキシ安息香酸メチルの適量をとり、全量が均質になるまで混和して軟膏剤を製した。
【0078】
実施例10:歯磨き剤
歯磨き剤を下記の成分量を用いて調製した。
成 分 重量%
実施例6の三次ナノ粒子 1.0
炭酸カルシウム 15.0
プロピレングリコール 4.0
ソルビット液 36.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0
無水ケイ酸 7.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.3
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
精製水 残 量
合 計 100.0
【0079】
実施例11:洗口剤
水性洗口液を下記の成分量を用いて調製した。
成 分 重量%
実施例7のキトサン被覆ナノ粒子 1.0
エタノール 10.0
フレーバー 0.2
プルロニックF87 0.2
グリセリン 3.0
ソルビトール 3.0
精製水 82.3
クエン酸 0.1
カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.2
合 計 100.0
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上記載のように、本発明のヒノキチオールを含有するナノ粒子はヒノキチオールを化学的に安定化し、組織浸透性に優れ、効果の持続性を有するので、ヒノキチオールの各種目的とする外用剤として有用であり、特に歯肉炎、歯周炎などの歯周病用剤およびそれらの予防、治療を目的とした医療用医薬品、一般用医薬品、医薬部外品として有用であり、その産業上の利用可能性は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体、植物油、リン脂質、炭素数6〜22の脂肪酸および等張化剤を弱酸性の水性媒体中で混合することにより作製されるヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子。
【請求項2】
さらに界面活性剤を配合することを特徴とする請求項1に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子。
【請求項3】
ヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体、疎水基および陰イオン残基を有する有機化合物および界面活性剤を、弱酸性の水性媒体中で混合することにより作製されるヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するミセル型ナノ粒子。
【請求項4】
請求項1もしくは2に記載されたリポ型ナノ粒子または請求項3に記載されたミセル型ナノ粒子を、水性媒体中で2価または3価の金属塩と混合することにより作製される、リポ型ナノ粒子またはミセル型ナノ粒子の表面が2価または3価の金属塩で被覆されたヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有する二次ナノ粒子。
【請求項5】
請求項4に記載された二次ナノ粒子を水性媒体中で1価ないし3価の塩基性塩と混合することにより作製される、二次ナノ粒子の表面が1価ないし3価の塩基性塩で被覆されたヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有する三次ナノ粒子。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載されたナノ粒子を弱酸性の水性媒体中でキトサンと混合することにより作製される、リポ型ナノ粒子、ミセル型ナノ粒子または二次ナノ粒子の表面がキトサンで被覆されたヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するキトサン被覆ナノ粒子。
【請求項7】
植物油が大豆油、ゴマ油、菜種油、オリーブ油、サフラワー油、コーン油、綿実油、椿油またはサラダ油である請求項1または2に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子。
【請求項8】
リン脂質がホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリンまたはスフィンゴミエリンである請求項1または2に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子。
【請求項9】
炭素数6〜22の脂肪酸がオレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸もしくはリノレン酸またはそれらの塩のいずれかである請求項1または2に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子。
【請求項10】
等張化剤がグリセリン、ブドウ糖、ソルビトール、マンニトールまたはキシリトールである請求項1または2に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子。
【請求項11】
弱酸性の水性媒体がpH4〜7の範囲であることを特徴とする請求項1、2、3または6のいずれかに記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子。
【請求項12】
疎水基および陰イオン残基を有する有機化合物が、炭素数6〜24の脂肪酸またはそれらの塩のいずれかである請求項3に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するミセル型ナノ粒子。
【請求項13】
炭素数6〜24の脂肪酸が、オレイン酸、リノール酸またはリノレン酸の不飽和脂肪酸;あるいはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸またはステアリン酸の飽和脂肪酸から選択されるものである請求項12に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するミセル型ナノ粒子。
【請求項14】
界面活性剤が、ホスファチジルコリン、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレン(8)オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(20)コレステロールエステル、脂質−ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油および脂肪酸−ポリエチレングリコール共重合体から選択される1種または2種以上のものである請求項2または3に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するリポ型ナノ粒子またはミセル型ナノ粒子。
【請求項15】
2価または3価の金属塩が、カルシウム塩、亜鉛塩、鉄塩または銅塩である請求項4に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有する二次ナノ粒子。
【請求項16】
1価ないし3価の塩基性塩が、炭酸水素塩、リン酸水素塩、炭酸塩、リン酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩または尿酸塩である請求項5に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有する三次ナノ粒子。
【請求項17】
キトサンの分子量が500〜1,000,000のものである請求項6に記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するキトサン被覆ナノ粒子。
【請求項18】
粒子の直径が50〜500nmである請求項1〜17のいずれかに記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するナノ粒子。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載のヒノキチオールまたはその塩もしくは錯体を含有するナノ粒子を含有する皮膚または粘膜適用型外用剤。
【請求項20】
外用剤が、軟膏剤、塗布剤、洗口液、歯磨き剤、ゲル剤、ハイドロゲル剤、懸濁剤、ローション剤、パップ剤および貼付剤からなる群から選択されるものである請求項19に記載の皮膚または粘膜適用型外用剤。
【請求項21】
歯肉炎、歯周炎(歯槽膿漏)、歯肉膿瘍および歯周病諸症状の予防、治療剤である請求項19または20に記載の皮膚または粘膜適用型外用剤。

【公開番号】特開2007−91686(P2007−91686A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286370(P2005−286370)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(303010452)株式会社LTTバイオファーマ (27)
【Fターム(参考)】