説明

ヒータ、結晶成長装置及び化合物半導体単結晶の製造方法

【課題】ZnTe等の化合物半導体単結晶の製造において、歩留まりの向上及びウェハとしたときの面内均一性の向上を図ることができるヒータ、結晶成長装置及び化合物半導体単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】抵抗加熱により発熱する円筒状の発熱部101と、この発熱部101の外周面下部の対向する2箇所から突出形成された脚部102とを備えたヒータ10において、電極棒が接続される端子部102aと、この端子部102aと発熱部を接続する接続部102bとで脚部102を構成し、接続部102bの厚さを10mm以下、幅を20mm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LEC法による化合物半導体単結晶の成長に好適なヒータ、結晶成長装置及び化合物半導体単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ZnTe等の化合物半導体単結晶の製造方法の一つとして、液体封止チョクラルスキー(LEC:Liquid Encapsulated Czochralski)法が知られている。LEC法では、ルツボに原料融液を収容し、原料融液の成分元素が蒸発するのを防止するために、この原料融液の上を液体封止剤(例えばB)で封止する。そして、結晶引き上げ軸に保持された種結晶を原料融液表面に接触させ、ゆっくりと回転させながら上方へ引き上げることにより半導体単結晶を成長させる。このLEC法に用いられる結晶成長装置では、原料融液を加熱するために、ルツボの周囲にグラファイト製の円筒状ヒータが配置されている(例えば特許文献1)。
【0003】
図8は、結晶成長装置に従来用いられているヒータの形状を示す図である。図8に示すように、ヒータ50は、上下方向に交互にスリット501aが設けられ電流経路がつづら折れ状に形成された発熱部501と、発熱部501の外周面下部の対向する2箇所から突出形成された脚部502とを備えている。脚部502は、電極棒(図示略)が接続される端子部502aと、この端子部502aと発熱部501を接続する接続部502bとで構成されている。端子部502aに接続された電極棒を介して給電されると、発熱部501が所定の温度に昇温され、原料融液が加熱される。
【0004】
ここで、結晶成長装置においては、脚部502及び電極棒で発熱が生じるのは好ましくないため、これらの断面積は比較的大きく設計される(例えば、端子部502aの厚さ:15mm、幅:40mm)。また、接続部502bは、端子部502aと発熱部501の屈折部(同一方向に形成されたスリット間の部位、幅:約20mm)を連結するために、発熱部501から端子部502aに向けて徐々に幅が広くなるように形成されている。
【0005】
なお、特許文献2には、ガラスの線引き加熱用、アルミ溶解用、ノズル保温用のSiC製のリング状ヒータにおいて、端子部と発熱部の連結部となる脚部を、くびれた形状とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−157083号公報
【特許文献2】特許第2938481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したヒータ50を備えた結晶成長装置を用いてLEC法により育成したZnTe単結晶では、ファセット面が確認できる。しかしながら、ほとんどの場合で種結晶からデンドライト成長が起こっており(図9(b)参照)、例えば数十ランに一度だけ単結晶成長ができるという具合で、歩留まりが非常に悪い。
また、LEC法においては、結晶を引き上げながら成長させることで原料融液界面において成長した単結晶が胴部を形成していくが、結晶を取り出すと必ず胴部が周方向に波打っているような模様になっており、底部も平坦ではないことが多い(図9(a)参照)。このような場合、ウェハとしたときに面内均一性が低下してしまう。
【0008】
本発明は、ZnTe等の化合物半導体単結晶の製造において、歩留まりの向上及びウェハとしたときの面内均一性の向上を図ることができるヒータ、結晶成長装置及び化合物半導体単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するためになされたもので、
抵抗加熱により発熱する円筒状の発熱部と、前記発熱部の外周面下部の対向する2箇所から突出形成された脚部とを備えたヒータにおいて、
前記脚部は、電極棒が接続される端子部と、この端子部と前記発熱部を接続する接続部とで構成され、
前記接続部の厚さが10mm以下、幅を20mm以下であることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のヒータにおいて、前記発熱部及び前記脚部は、グラファイト材で構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のヒータにおいて、前記接続部の外周に絶縁体からなる補強部材を設けたことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のヒータにおいて、前記補強部材は、窒化ホウ素からなることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載のヒータを多段に積み重ねた加熱部と、
前記加熱部で囲まれた空間に配置され、原料融液を収容するルツボと、
先端に保持された種結晶を前記原料融液表面に接触させ、引き上げながら単結晶を成長させる結晶引き上げ軸と、
を備えたことを特徴とする結晶成長装置である。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の結晶成長装置を用いて、LEC法により化合物半導体単結晶を成長させることを特徴とする化合物半導体単結晶の製造方法である。
【0015】
以下、本発明を完成するに至った経緯について説明する。
従来、LEC法による化合物半導体単結晶の製造には、例えば図1に示す結晶成長装置が用いられている。図1に示す結晶成長装置1では、縦方向にグラファイトヒータTH1〜TH5が5段重ねに配設されており、ヒータTH3の側面内側に原料融液19及び液体封止剤20を収容するルツボ14,15が配置されている。結晶成長時には、成長させる単結晶の種別に応じてヒータTH3,TH4の温度を制御することとなる。ここで、ヒータTH3,TH4による周方向の温度分布は、原料融液の対流やヒータ周りのガスの対流に大きく影響するため、非常に重要となる。
【0016】
従来は、このヒータTH1〜TH5として、図8に示すヒータ50を使用していた。そして、本発明者が、ヒータ50を備えた結晶成長装置1を用いてZnTe単結晶を成長させたところ、極めて歩留まりが悪く、ウェハとしたときの面内均一性にも問題があることが判明した。
また、結晶成長装置1においては、異物対策でホットゾーンのベーキング(約1300℃)を適時行っているが、このときのモニタ画面で発熱部501の一部に黒く見える(周囲に比較して発熱が小さい)ところが確認された(図10参照)。
【0017】
ヒータ50の形状を踏まえたうえで、高圧容器11内にルツボ14,15やルツボホルダ13等を配置せずに、ヒータTH1〜TH5による周方向の温度分布を測定した。
具体的には、結晶引き上げ軸17に熱電対をぶら下げるように取り付け、熱電対の先端(感温部)を円周方向に回転して測定できるようにセットした。そして、高圧容器11のフランジの上面より750mm下方を基準(Z=0)とし、ヒータTH3の下端(Z=−40)から上端(Z=70)に対応する面内における周方向の温度を測定した。このとき、ヒータTH1〜TH5の制御温度はすべて800℃とした。また、周方向に37分割した点を測定点とした。
【0018】
測定結果を図11に示す。図11に示すように、Z=−40の面では、18方向と37方向で他の方向に比較して顕著に温度が低くなっていた。また、Z=−30〜0の面でも同様に、18方向と37方向の温度が低くなっていた。18方向と37方向のポジションを確認してみると、ヒータTH3の脚部に対応していた。
一方、Z=70の面では、21方向と2方向で他の方向に比較して温度が低くなっていた。この21方向と2方向のポジションを確認してみると、ヒータTH3の上段に配設されたヒータTH4の脚部に対応していた。これより、ヒータ50の脚部502が周方向の温度分布に少なからず影響を与えていると考えられた。
【0019】
このような状況を踏まえ、ヒータ50の脚部502では、どのように電流が流れているか考察した。なお、ヒータ50には高純度グラファイト部材を使用しているので、部材内部はすべて同じ抵抗値であると考えられる。
電流は最短経路を通電する習性があるので、部材にR箇所があれば、一番内側を多く通電することになる。したがって、R箇所の内側で電流密度が高くなり、大きく発熱する。逆に、R箇所の外側ではほとんど通電しないため、電流密度が疎になり、ほとんど発熱しない。これより、ヒータ50の脚部502と発熱部501とが略直角に接続する部分(接続部502b)では、上部が発熱し、下部ではほとんど発熱しないと考えられる。そのため、モニタ観察(図10参照)でも、発熱部501の脚部502に対応する箇所が他の部分より黒く見えたと考えられる。
【0020】
以上のことから、ヒータ50の発熱部501と脚部502の接続部分(接続部502b)における発熱が原因で原料融液の周方向の温度にばらつきが生じ、単結晶の歩留まりに影響するのではないか、ひいてはウェハとしたときに面内均一性が阻害されるのではないかと推論し、ヒータ構造を改善することに着想した。
【0021】
そして、脚部502から発熱部501に一様に電流が流れることにより、発熱部501における温度ムラが解消されると考え、脚部502(特に、接続部502b)の厚さを薄くし、従来よりも接続部502bの上面が発熱部501の下側となるようにすることを発案した。
また、接続部502bから端子部502a側への伝熱による熱放出を考慮し、放出熱量を最小限にすることで発熱部501における温度ムラを効果的に解消できると考え、脚部502の幅を狭くして断面積を最小とすることを発案した。
【0022】
このように、脚部502の厚さを薄くし、幅を狭くすることは、いずれも脚部502における発熱に貢献すると考えられる。一方で、結晶成長装置1においては、脚部502の全体における発熱は小さいほうが望ましいとされている。つまり、脚部502の断面積を単純に小さくするだけでは、結晶成長装置1に使用する場合に弊害を生じる虞がある。
【0023】
そこで、本発明では、脚部502を構成する端子部502aと接続部502bの形状をそれぞれ独立して最適に設計することで、脚部502の全体における発熱を抑えつつ、発熱部501の温度ムラが解消されるようにした。
【0024】
また、接続部502bの厚さを薄く、幅を狭くする(接続部502bを細くする)と、機械的強度が低下して折損する危険性が高くなる。実際に、接続部502bを細くしたヒータ50を結晶成長装置1に配置したところ、ヒータ交換時に脚部502が折損してしまい、このままでは荷電時に折損してしまう危険性が高く改良の余地があることが判明した。折損箇所を確認すると、脚部502と発熱部501が直角に接合する部分に亀裂が入っていた。この部分には、少ない荷重でも応力が集中して加わるためと考えられた。
そこで、接続部502bを細くした場合でも機械的強度が確保されるように、接続部502bの周囲に絶縁体からなる補強部材を取り付けるようにした。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るヒータによれば、加熱領域における周方向の温度分布が均一となる。したがって、このヒータを用いた結晶成長装置及び製造方法によれば、ZnTe等の化合物半導体単結晶の製造において、歩留まりの向上及びウェハとしたときの面内均一性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】LEC法により化合物半導体単結晶を成長させるための結晶成長装置の概略構成図である。
【図2】実施形態に係るヒータにおける発熱部と脚部の接合部分を示す図である。
【図3】実施形態に係るヒータの補強部材を示す図である。
【図4】実施例に係るヒータを採用した結晶成長装置でベーキングを行ったときのヒータ部の観察結果を示すモニタ写真である。
【図5】実施例に係る結晶成長装置において、ZnTe単結晶の成長時と同じ条件にて加熱したときの周方向の温度分布を示す図である。
【図6】実施例に係る結晶成長装置を用いて、LEC法によりZnTe単結晶を成長させたときの成長結晶の一例を示す図である。
【図7】比較例に係るヒータを採用した結晶成長装置において、ZnTe単結晶の成長時と同じ条件にて加熱したときの周方向の温度分布を示す図である。
【図8】従来のヒータにおける発熱部と脚部の接合部分を示す図である。
【図9】従来のヒータを採用した結晶成長装置で得られた成長結晶の一例を示す図である。
【図10】従来のヒータを採用した結晶成長装置でベーキングを行ったときのヒータ部の観察結果を示すモニタ写真である。
【図11】従来のヒータを採用した結晶成長装置(ホットゾーンのみ)における周方向の温度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、LEC法により化合物半導体単結晶を成長させるための結晶成長装置の概略構成図である。結晶成長装置1では、高圧容器11の内部に、グラファイト断熱材22および円筒状ヒータTH1〜TH5が同心円上に配設されている。具体的には、炉底部に設けられた各ヒータに対応する電極端子(図示略)に電極棒(図示略)の一端側が接続されており、この電極棒の他端側にヒータTH1〜TH5の脚部が接続されている。また、円筒状のグラファイトシールド(図示略)が、各ヒータTH1〜TH5に対応して一段ずつ重ねて配設されている。グラファイトシールドの下部には対向する2箇所に切欠部が形成されており、切欠部がヒータTH1〜TH5の脚部を跨ぐように配置される。
【0028】
高圧容器11の中央部には、ルツボ回転軸12が垂直に配置され、このルツボ回転軸12の上端にルツボホルダ13が固定されている。
ルツボホルダ13には、有底円筒状をしたpBN製の外側ルツボ14が嵌合され、この外側ルツボ14の内側にpBN製の内側ルツボ15が配置されている。内側ルツボ15の上方には、下端に種結晶21を保持するシードホルダ18を有する結晶引き上げ軸17が設けられている。結晶引き上げ軸17及びルツボ回転軸12は、それぞれ駆動部(図示略)に連結されており、回転並びに昇降可能となっている。
【0029】
外側ルツボ14及び内側ルツボ15には、原料融液(例えばZnTe)19が収容され、原料融液19の上面は液体封止剤20(例えばB)によって封止されている。内側ルツボ15は、底面に外側ルツボ14と連通する連通孔を有しており、この連通孔を介して原料融液19が外側ルツボ14から内側ルツボ15に移動できるようになっている。
【0030】
このように、結晶成長装置1は、ヒータTH1〜TH5を多段に積み重ねた加熱部と、加熱部で囲まれた空間に配置され、原料融液19を収容するルツボ14,15と、先端に保持された種結晶21を原料融液19の表面に接触させ、引き上げながら単結晶を成長させる結晶引き上げ軸17とを備えている。
【0031】
本実施形態の結晶成長装置1では、ヒータTH1〜TH5として、図2、3に示すグラファイト製のヒータ10を採用している。なお、図2では、図3における補強部材103を外した状態を示している。
図2に示すように、ヒータ10は、上下方向に交互にスリット101aが設けられ電流経路がつづら折れ状に形成された発熱部101と、発熱部101の外周面下部の対向する2箇所から突出形成された脚部102とを備えている。脚部102は、電極棒が接続される端子部102aと、この端子部102aと発熱部101を接続する接続部102bとで構成されている。発熱部101及び脚部102(端子部102a,接続部102b)はグラファイト材で構成され、一体的に成型されている。
ここで、接続部102bの幅は端子部102aの幅よりも狭く20mm以下とされ、厚さは10mm以下とされる。また、接続部102bの上面と発熱部101の接合部分102cにはR加工が施されており、荷重が効率的に分散され、脚部102の折損がより効果的に防止されるようにしている。
【0032】
また、図3に示すように、接続部102bの周囲には、例えばBN(窒化ホウ素)等の絶縁体からなる補強部材103が取り付けられている。この補強部材103は、断面コ字状の冠部材と平板状の底板部材とで構成されており、それぞれが接続部102bの上面又は下面に螺設されている。
この補強部材103を跨ぐようにグラファイトシールドが配設されることとなるが、補強部材103は絶縁体であるため、グラファイトシールドと接触しても構わない。従来は、ヒータ50の脚部502(図8参照)と接触しないようにグラファイトシールドを配設するために、グラファイトシールドを大きくくり貫いて切欠部を形成する必要があった。
このように、実施形態の結晶成長装置1では、グラファイトシールドをヒータ10の脚部102(補強部材103)に接触させて取り付けることで、発熱部101と端子部102aを分離することができるので、グラファイトシールドの切欠部により生じていたガスの対流をなくすことができる。
【0033】
結晶成長装置1を用いて、LEC法によりZnTe単結晶を成長させる場合、ZnTe原料融液19が成長温度となるように、ヒータTH1〜TH5(ヒータ10)の制御温度が設定される。設定された制御温度に従って、電極棒を介してヒータTH1〜TH5に給電される。そして、発熱部101が所定の温度に昇温され、ルツボ14,15内の原料融液19が水平面内の周方向で一様に加熱される。
【0034】
[実施例]
実施例では、ヒータ10の発熱部101の寸法を、外径:222mm、高さ:105mm、肉厚:6mm、スリット幅:4mmとした。端子部102aの寸法を、幅:40mm、長さ:35mm、高さ(厚さ):10mmとした。接続部102bの寸法を、幅:20mm、長さ:24mm、高さ(厚さ):10mmとした。
【0035】
図4は、実施例に係るヒータ10を採用した結晶成長装置1において、1300℃でベーキングしたときのヒータ部の観察結果を示すモニタ写真である。従来のヒータ50を使用した場合(図10参照)、ヒータ50の発熱部501の脚部502に対応する部分が周囲と比較して黒く暗く見えた(周囲に比較して発熱が小さい)が、図4に示すように、実施例のヒータ10では、温度分布の均一性が格段に改善されていることが確認された。
【0036】
図5は、実施例に係る結晶成長装置1において、ZnTe単結晶の成長時と同じ条件(ヒータTH3の制御温度:1340℃、ヒータTH4の制御温度:1208℃)にて加熱したときの周方向の温度分布を示す図である。
図5では、高圧容器11のフランジの上面より750mm下方を基準(Z=0)とし、Z=10〜25(ヒータTH3の高さ方向略中央に対応)に対応する面内における周方向の温度を測定した結果を示している。Z=15がちょうど原料融液19の界面の位置である。また、周方向に8分割した点を測定点とし、複数回測定したうちの各測定点における最大値maxと最小値minについて示している。なお、ルツボ14,15ともに回転はさせていない。
図5に示すように、Z=15の面内では、低いところで1289.9℃、高いところで1292.5℃であり、その差が2.6℃となっていた。
【0037】
図6は、実施例に係る結晶成長装置1を用いて、LEC法によりZnTe単結晶を成長させたときの成長結晶の一例を示す写真である。図6(a),(b)に示すように、デンドライト成長が観察されず、極めて良好な単結晶が得られた。
【0038】
[比較例]
比較例では、ヒータ50の端子部502aの寸法を、幅:40mm、長さ:70mm、高さ(厚さ):15mmとした。接続部502bは、端子部502aと発熱部501の屈折部(同一方向に形成されたスリット間の部位、幅:約20mm)を連結するために、発熱部501から端子部502aに向けて徐々に幅が広くなるように形成した。接続部502bの高さ(厚さ)は端子部502aと同様に15mmとした。発熱部501の寸法は、実施例で示すヒータ10とほぼ同様とした。
【0039】
図7は、比較例に係るヒータ50を採用した結晶成長装置1において、ZnTe単結晶の成長時と同じ条件(ヒータTH3の制御温度:1380℃、ヒータTH4の制御温度:1280℃)にて加熱したときの周方向の温度分布を示す図である。測定条件については実施例と同様とした。
図7に示すように、Z=15の面内では、低いところで1301.6℃、高いところで1305.8℃であり、その差が4.2℃となっていた。
これより、実施例に係るヒータ10を用いることで、周方向の温度分布の均一性が格段に改善され、良好な結晶性を有する単結晶を育成できることが確認された。
【0040】
このように、本実施形態に係るヒータ10は、抵抗加熱により発熱する円筒状の発熱部101と、発熱部101の外周面下部の対向する2箇所から突出形成された脚部102を備えている。そして、脚部102は、電極棒が接続される端子部102aと、この端子部102aと発熱部101を接続する接続部102bとで構成され、接続部102bの厚さが10mm以下、幅が20mm以下とされている。また、ヒータ10はグラファイト材で構成されている。
このように構成することで、接続部102bの断面積が従来に比較して小さくなるので、接続部102bから放出される熱量を低減できるとともに、この部分における電流密度を従来と比較して大きく一様とすることができる。したがって、脚部102においても発熱部101と同等の熱量が確保されるので、発熱部101に温度ムラが生じるのを防止できる(図4参照)。
【0041】
また、ヒータ10は、接続部102bの外周に絶縁体からなる補強部材103を有している。これにより、接続部102bを細くしたために脚部102の機械的強度が低下しても、折損等により破損してしまうのを効果的に防止することができ、取り扱いが容易となる。さらに、補強部材103は絶縁体で構成され電気を通さないため、グラファイトシールドを発熱部101と端子部102aとの間に接触して配設することができる。これにより、発熱部101と脚部102とが分離されるので、ヒータ周りのガスの制御が容易になる。
【0042】
そして、このようなヒータ10を備えた結晶成長装置1によれば、原料融液19が周方向に均一に加熱されるので、LEC法によりZnTe等の化合物半導体単結晶を製造する際の歩留まりを飛躍的に向上させることができるとともに、ウェハとしたときの面内均一性を向上させることができる。
【0043】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
上記実施形態では、ZnTe単結晶を成長させた場合について示したが、他の化合物半導体単結晶をLEC法により製造する場合にも適用できる。
【0044】
なお、実施形態で示したヒータ10の寸法は、本発明を適用する場合の一例に過ぎない。例えば、接続部102bの最適な寸法を決定するにあたり、シミュレーションにより検討したところ、厚さは3mmとするのが最良との結果が得られている。具体的には、接続部102bの幅によっては、脚部102の厚さを3mmより薄くすると、発熱部101の脚部102に対応する部分が周囲と比較して高くなったり、当該部分の下部の温度が上部ほど上がらなかったりすることがわかっている。
【0045】
つまり、接続部102bの寸法は、接続部102bにおける発熱・放熱、接続部102bの機械的強度、脚部102の全体における発熱による影響、及び成型や取り扱いの容易さ等を総合的に勘案して決定することが重要となる。ただし、本発明のように、厚さを10mm以下、幅を20mm以下とすれば、少なくとも発熱部101において生じる温度ムラが従来よりも確実に低減される。
【0046】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0047】
1 結晶成長装置
10 ヒータ
11 高圧容器
12 ルツボ回転軸
13 ルツボホルダ
14 外側ルツボ
15 内側ルツボ
17 結晶引き上げ軸
18 シードホルダ
19 原料融液(ZnTe)
20 液体封止剤(B
21 種結晶
22 グラファイト断熱材
101 発熱部
102 脚部
102a 端子部
102b 接続部
103 補強部材
TH1〜TH5 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗加熱により発熱する円筒状の発熱部と、前記発熱部の外周面下部の対向する2箇所から突出形成された脚部とを備えたヒータにおいて、
前記脚部は、電極棒が接続される端子部と、この端子部と前記発熱部を接続する接続部とで構成され、
前記接続部の厚さが10mm以下、幅を20mm以下であることを特徴とするヒータ。
【請求項2】
前記発熱部及び前記脚部は、グラファイト材で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項3】
前記接続部の外周に絶縁体からなる補強部材を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載のヒータ。
【請求項4】
前記補強部材は、窒化ホウ素からなることを特徴とする請求項3に記載のヒータ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のヒータを多段に積み重ねた加熱部と、
前記加熱部で囲まれた空間に配置され、原料融液を収容するルツボと、
先端に保持された種結晶を前記原料融液表面に接触させ、引き上げながら単結晶を成長させる結晶引き上げ軸と、
を備えたことを特徴とする結晶成長装置。
【請求項6】
請求項5に記載の結晶成長装置を用いて、LEC法により化合物半導体単結晶を成長させることを特徴とする化合物半導体単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図4】
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【図6】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−213503(P2011−213503A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81035(P2010−81035)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】