説明

ヒートシンク

【課題】 高熱伝導率を有するヒートシンク本体空間に、融点の異なる複数の潜熱蓄熱剤と熱伝導微粉末フィラーを分散させた液体とを充填することにより、発熱体の熱を低温で融解する潜熱蓄熱剤から順次溶解し、液化する事で対流しつつ他の高い潜熱蓄熱剤に熱を伝達して、その融解によりより多い熱を蓄熱させることを技術的課題とする。
【解決手段】 高熱伝導率を有するヒートシンク本体空間に、融点が0〜130℃の範囲で異なる複数の潜熱蓄熱剤と、熱伝導微粉末フィラーを分散させた液体とを混合充填して密閉した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱伝導率を有するヒートシンク本体空間に、異なる複数の潜熱蓄熱剤と熱伝導微粉末フィラーを分散させた液体とを混合充填することにより、全体を小型の容積及び構成で発熱体の熱を素早く蓄熱して発熱体を冷却する事ができ、比較的低温での制御ができて強制冷却などが不要となるヒートシンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器、特にコンピューター及びLED照明器具の性能向上は目覚ましく、それに伴い、CPUやLEDチップ近傍における発熱対策が重要となってきている。例えば、パソコンでは発熱体の放熱については従来から、ヒートシンクにその熱を伝え空冷ファンを設けて空気の強制対流によって放熱を行っている。ヒートシンクとは多数の放熱フィンを付けて表面積を大きくした金属製ブロックで、発熱体の発熱部に接触、固定して使用され、発熱体から発生する熱を放熱フィンを介して空気中に放熱し、発熱体を冷却するものである。近年はCPUに直付けされた高性能な水冷タイプのヒートシンクなども提案されている。また、比較的低温で融解する潜熱蓄熱剤を熱媒体として熱の移動を行うことで熱交換部を小型化する試みもなされている。
【0003】
しかしながら、上記ヒートシンクの場合、空気の自然対流により熱の移動を行う為に、大量の熱移動が必要な時は放熱フィンの枚数が増加し大型化する。放熱フィンの熱を空冷ファンにより強制冷却をする手段もあるが、取り付けスペース、騒音、消費電力の増大などの課題が伴う。また、潜熱蓄熱剤を利用するものについては、潜熱蓄熱剤が大きな融解熱を持つ一方、常温では固体でありその熱伝導率が低い為に、融解から対流が始まるまでの時間熱の移動が遅く、発熱体の熱が速やかに伝わらない欠点を有している。
【0004】
従来、例えば特許文献1(特開2008−246719号公報)には、「発熱素子を備えたサーマルヘッドと、前記サーマルヘッドを支持するヘッド支持部材とを備えたサーマルプリンターであって、前記ヘッド支持部における前記サーマルヘッドが支持されている一端部と反対側の他端部に、シート状の蓄熱部材を取り付け、前記サーマルヘッドを、前記ヘッド支持部に直接固着したことを特徴とするサーマルプリンター」が提供されている。
【0005】
そして、この特許文献1には「前記蓄熱部材は、基材に複数の蓄熱材が添加されている潜熱型の蓄熱シートからなり、前記各蓄熱材は吸収した熱が所定の温度に達すると融解を開始し、前記蓄熱シートは、各蓄熱材が融解している間、一定の温度に維持されながら蓄熱する」旨説明され、また、「サーマルヘッドの熱は、このサーマルプリンターの内部の空気を加熱することなく、熱伝導プレートを介してシート状の蓄熱部材に蓄えられるので、冷却ファンを設けることなく、サーマルプリンターを効率的に冷却することができる」旨説明されている。
【0006】
しかしながら、この特許文献1においては、蓄熱剤がシート状で固定化されているために、蓄熱剤の充てん量が少ない事から大きな容積を必要とする事と発熱体からのシートへの温度吸収が素早く出来ない。又、表1の実施例1、2に示されるように、サーマルプリンターとしての融解温度〜待機温度での所定時間の融解温度(20〜70度)を維持するように蓄熱シートの蓄熱材の溶融温度が設定されており、蓄熱材の溶融温度が広い温度範囲(0〜130℃)に設定されていない。また、蓄熱材を含むものが蓄熱シート状であるため液体の対流が生じるスペースが皆無で、低温から液体の対流がなされ、低温で溶解した潜熱蓄熱剤が液化して対流する事で、局部的な発熱体の熱をヒートシンク全体に拡散されることはできない。また、その熱は液体と共に流動する熱伝導微粉末フィラーを用いて早く熱伝導の高い容器に熱移動し、低い温度でありながら外部に速やかに放熱するものではない。
【0007】
また、特許文献2(特開2008−193017号公報)には、「半導体素子と、前記半導体素子が搭載されるヒートシンクと、前記半導体素子に対して前記ヒートシンクの反対側に位置するように前記半導体素子に取り付けられた潜熱蓄熱剤を含む蓄熱部材とを備えた半導体素子の冷却構造」が記載されている。
【0008】
そして、この特許文献2には「ヒートシンクによって、半導体素子の定常的な冷却を行いながら、該半導体素子の発熱量が短時間で急激に増大する場合には、潜熱蓄熱剤の相変化により当該発熱量を吸収することができる。したがって、ヒートシンクが過度に大型化することを抑制しながら半導体素子の冷却性能を向上されることができる」旨説明されている。
【0009】
しかしながら、この特許文献2においては、半導体素子の上下に放熱する手段を講じる事から回路設計に大きな制限を与える事になる。ヒートシンクを使用する以上、その熱は強制冷却を必要とする場合においてファンの使用が必要となる欠点を有している。また、蓄熱部材とヒートシンクとの2つを半導体素子に取り付けなければならない。また、潜熱蓄熱剤が、例えばSn/Zn(融点:199℃)や溶解塩NaOH−KOH(融点:170℃)と高く、蓄熱部材も低温から液体の対流がなされ、低温で溶解した潜熱蓄熱剤が液化して対流する事により、局部的な発熱体の熱をヒートシンク全体に拡散させることができない。また、蓄熱剤の溶融温度が広い温度範囲(0〜130℃)に設定することについても記載されていない。さらに、その熱は液体と共に流動する熱伝導微粉末フィラーを用いて素早く熱伝導の高い容器に熱移動し、低い温度でありながら外部に速やかに放熱するものではない。
【0010】
また、本願出願人の一人が提出した特許文献3(特願2008−265647号特許請求の範囲、明細書、図面)には、「発熱体の発熱部に取り付けられているヒートシンクにおいて、ヒートシンク本体の放熱フィンに対し、潜熱蓄熱材を含み熱伝導性のある蓄熱樹脂が取り付け加工され、前記蓄熱樹脂体は、前記潜熱蓄熱材が熱伝導性樹脂内に練り込まれて板状又はブロック上に一体成形され、当該蓄熱樹脂体に対して前記放熱フィンの先端部側が埋設されていることを特徴とするヒートシンク」を提供している。
【0011】
そして、この特許文献3には「潜熱蓄熱材が30〜120℃の範囲で、固相から液相又は液相から気相に変化する材料から構成されている」旨説明され、「表4の結果によると、・・・実施例のヒートシンクは180分でも100℃を下回った。また、表5の結果によると、・・・ヒートシンクは180分でも60℃を下回った」旨説明されている。
【0012】
しかしながら、この特許文献3においては、従来と同じ容積以上が必要となる問題がある。また、潜熱蓄熱材の溶融温度が30℃から、潜熱剤が樹脂に練りこまれているのでその体積充填率を70%以上に出来ず、その結果潜熱剤を内包するブロックの大きさにおいて高いため低温(0℃)から融解して対流が生じることができなく、発熱体の熱を低温で融解する潜熱蓄熱剤から順次溶解し、液化する事で対流しつつ他の高い潜熱蓄熱剤に熱を伝達して、その融解によりより多い熱を蓄熱することができない。また、ヒートシンク自体に潜熱蓄熱剤が充填されていないので、その熱は液体と共に流動する熱伝導微粉末フィラーから素早く熱伝導の高いヒートシンク容器に熱移動し、低い温度でありながら外部に速やかに放熱させることもできない。したがって、この特許文献3の表4及び5に示される実施例と本発明の実施例とを比較すると、本発明の実施例の方が6時間で48℃(表2)、6時間で35℃(表3)と潜熱蓄熱効果がより向上していることが理解される。
【0013】
上述の様に、上記いずれの特許文献1〜3においても、融点の異なる複数の潜熱蓄熱剤と熱伝導微粉末フィラーを分散させた液体とを充填することにより、発熱体の熱を低温で融解する潜熱蓄熱剤から順次溶解し、液化する事で対流しつつ他の高い潜熱蓄熱剤に熱を伝達して、その融解によりより多い熱を蓄熱させ、その熱は液体と共に流動する熱伝導微粉末フィラーから素早く熱伝導の高いヒートシンク容器に熱移動し、低い温度でありながら外部に速やかに放熱される技術は記載されていない。
【0014】
また、低融点の潜熱蓄熱剤から溶解して行き、幅広い温度帯で発熱体の熱を吸収する。したがって、発熱体の温度及び外部環境温度により、必要な温度帯(0℃〜130℃)で個別に潜熱蓄熱剤の対応が可能となる点も記載がない。
【0015】
また、対流を起こす潜熱蓄熱剤の液体と共に移動する熱伝導微粉末フィラーは、異なる高い融点を持つ潜熱蓄熱剤及びヒートシンク容器内部に速やかに熱を移動させることにより、発熱体の熱移動がより速やかとなり内部の熱伝搬量を増加させ、容器に伝わる熱伝搬量を外部により多量に速やかに放出する事が可能となる点も記載されていない。
【0016】
さらに、低沸点溶剤により、潜熱蓄熱剤の融解温度近辺で気化し、速やかに容器上部に蒸気として熱の外部移動を促進させ、熱を奪われてから冷却して液化してこのサイクルを繰り返すことにより、潜熱蓄熱剤の液化による対流での熱拡散とは別に、低沸点溶剤の蒸発及び外部温度に近い容器温度での冷却に伴う液化で熱拡散が可能となる点の記載もされていない。即ち、潜熱蓄熱剤の融点と大きく異ならない温度帯において低沸点溶剤の沸点がある為、潜熱蓄熱剤が液化する前後で、低沸点溶剤の気化が著しくなる事で、その気化熱により潜熱蓄熱剤の熱を吸収しつつ熱伝導の高い容器にその熱を伝え、それは低沸点溶剤の沸点より低い温度で速やかに外部に熱を放散させることが出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】 特開2008−246719号公報
【特許文献2】 特開2008−193017号公報
【特許文献3】 特願2008−265647号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
高熱伝導率を有するヒートシンク本体空間に、融点の異なる複数の潜熱蓄熱剤と熱伝導微粉末フィラーを分散させた液体とを充填することにより、発熱体の熱を低温で融解する潜熱蓄熱剤から順次溶解し、液化する事で対流しつつ他の高い潜熱蓄熱剤に熱を伝達して、その融解によりより多い熱を蓄熱させる。一方、その熱は液体と共に流動する熱伝導微粉末フィラーから素早く熱伝導の高いヒートシンク容器に熱移動し、低い温度でありながら外部に速やかに放熱されるようにする。さらに、潜熱蓄熱効果と低沸点溶剤による低温での気化により、大量の熱を速やかに移動させることで発熱体近傍の温度上昇を抑制し、所定の温度範囲に制御することを可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1の発明は、高熱伝導率を有するヒートシンク本体空間に、融点が0〜130℃の範囲で異なる複数の潜熱蓄熱剤と熱伝導微粉末フィラーを分散させた液体とを混合充填して密閉したヒートシンクを提供するものである。
【0020】
この発明においては、発熱体の熱を低温で融解する潜熱蓄熱剤から順次溶解し、液化する事で対流しつつ他の高い潜熱蓄熱剤に熱を伝達して、その融解によりより多い潜熱を蓄熱する事となる。一方、その潜熱は液体と共に流動する熱伝導微粉末フィラーから素早く熱伝導の高いヒートシンク容器に熱移動し、低い温度でありながら外部に速やかに放熱される。したがって、発熱体が急激に熱を放出するにあたり、潜熱蓄熱剤の融点が異なる事で、低温から液体の対流が可能となる事から、低温で溶解した潜熱蓄熱剤が液化して対流する事で、局部的な発熱体の熱をヒートシンク全体に拡散させるという効果を得ることができる。これらの熱は熱伝導の高いヒートシンク容器から外部に速やかに放出される。熱吸収部の局部的な熱を放散するにあたり、潜熱蓄熱剤及び熱伝導微粉末フィラーの対流により速やかな熱拡散を可能にした。
【0021】
請求項2の発明は、前記融点の異なる複数の潜熱蓄熱剤が、無機水和塩、有機物化合物、無機系固液蒸気相、溶解共晶塩の少なくともいずれか1つの複数若しくは2つ以上の複数を含む請求項1に記載のヒートシンクを提供するものである。
【0022】
この発明においては、発熱体が発した熱により、低融点の潜熱蓄熱剤から溶解して行き、幅広い温度帯で発熱体の熱を吸収する。したがって、発熱体の温度及び外部環境温度により、必要な温度帯(0℃〜130℃)で個別に潜熱蓄熱剤の対応が可能となった。
【0023】
請求項3の発明は、前記熱伝導微粉末フィラーが、炭素、金属微粉末の少なくともいずれか1つ以上から選ばれる請求項1及び請求項2のいずれかに記載のヒートシンクを提供するものである。
【0024】
この発明においては、対流を起こす潜熱蓄熱剤の液体と共に移動する熱伝導微粉末フィラーは、異なる高い融点を持つ潜熱蓄熱剤及びヒートシンク容器内部に速やかに熱を移動させる。したがって、発熱体の熱移動がより速やかとなり内部の熱伝搬量が増加され、容器に伝わる熱伝搬量を外部により多量に速やかに放出させる事が可能となる。
【0025】
請求項4の発明は、前記液体が、低沸点溶剤、水、ポリエチレングリコール又は無機塩水和物の融解したものから得られる液体の少なくともいずれか1つ以上を含む請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のヒートシンクを提供するものである。
【0026】
この発明においては、潜熱蓄熱剤の個別の液体は各融点において融解し、液化して対流での熱拡散を行うことができる。低沸点溶剤は、潜熱蓄熱剤の融解温度近辺で気化し、速やかに容器上部に蒸気として熱の外部移動を促進させ、熱を奪われてから冷却して液化する。そして、このサイクルを繰り返す。したがって、潜熱蓄熱剤の液化による対流での熱拡散とは別に、低沸点溶剤の蒸発及び外部温度に近い容器温度での冷却に伴う液化で熱拡散が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を実施する為の実施形態について図1を参照にして説明する。符号1は電子部品(発熱体)、符号2はヒートシンクである。ヒートシンク2はアルミニウム等の熱伝導性にすぐれた材質からなり、電子部品1の発熱部に取り付けられる。このヒートシンク2には空間2aが形成され、この空間2aは融点の異なる複数からなる潜熱蓄熱剤3の低温から液体の対流がなされるに充分な厚み幅Dを有している。この厚み幅Dは 0.5mm以上を必要とする。
【0028】
この高熱伝導率を有するヒートシンク本体空間2aに、融点が0〜130℃の範囲で異なる複数の潜熱蓄熱剤と熱伝導微粉末フィラーを分散させた液体とを混合充填して密閉している。好ましくは融点が0〜80℃の範囲、より好ましくは融点が0〜60℃の範囲である。
【0029】
前記融点の異なる複数の潜熱蓄熱剤は、無機水和塩、有機物化合物、無機系固液蒸気相、溶解共晶塩の少なくともいずれか1つの複数若しくは2つ以上の複数から選ばれる。無機水和塩としては塩化カルシウム水和物、硫酸ナトリウム水和物、チオ硫酸ナトリウム水和物、酢酸ナトリウム水和物等。有機物化合物としては各種パラフィン N−デカン等。無機系固液蒸気相としては水等。溶解共晶塩としては水酸化ナトリウム−硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム−塩化カリウム−塩化マグネシウム等が使用される。
【0030】
また、前記熱伝導微粉末フィラーは、炭素、金属微粉末のいずれか1つ以上から選ばれる。前記金属微粉末としては、アルミ、銅等を使用する。
【0031】
さらに、前記液体は、低沸点溶剤、水、ポリエチレングリコール又は無機塩水和物の融解したものから得られる液体から選ばれる。
【0032】
前記ヒートシンク2本体容器は、例えば、アルミ、銅などの熱伝導性に優れた金属を用い、発熱体との接触部以外はフィン、エンボス加工などの表面加工を施し、表面積を大きくすることで熱交換性をより高めることも可能である。潜熱蓄熱剤は0℃から130℃の範囲で、固相から液相、液相から気相に変化する材料が一般的には選定される。
【0033】
上記実施形態における構成の作用としては、融点の異なる複数の潜熱蓄熱剤と熱伝導微粉末フィラーの混合物を、熱伝導率の高いヒートシンク容器内に密閉し、常温付近から容器内部を液状に保持する事により、発熱体からの熱を潜熱蓄熱剤に速やかに移動させ、複数の潜熱蓄熱剤は、それぞれが持つ融点で、温度上昇に伴い順次発熱体の熱吸収を行いながら液化して熱の対流を促進させる
【0034】
また、低沸点溶剤は、潜熱蓄熱剤の融解温度近辺で気化し、速やかに容器上部に蒸気として熱の外部移動を促進させ、熱を奪われてから冷却して液化し、そしてこのサイクルを繰り返す。
【0035】
したがって、液中に分散させた複数の潜熱蓄熱剤の大きな融解潜熱を利用して、常温付近から大量の熱移動が可能となるため、他のフィン付きヒートシンクなどに比較して小容積で、熱容量の大きな発熱体近傍の温度を、所定の温度幅に抑える事が可能となる。また、低沸点溶剤の気化によるヒートシンク容器内壁への熱移動により、ヒートシンク自体の温度はその沸点以下に抑える。
【実施例】
【0036】
融点の異なる複数の潜熱蓄熱剤は無機塩水和物として酢酸ナトリウム3水和物(融点58℃)、硫酸ナトリウム10水和物(融点32℃)、熱伝導微粉末フィラー(炭素と金属粉末としてアルミ、銅の微粉)、液体(水)及び低融点溶剤としてメタノールを表1に示す割合で内容積250ccのアルミニウム製からなるヒートシンク2の容器に入れて完全に密閉した。10Wの熱量を与えながら、その近傍部(発熱体から4cm離れた場所)及びヒートシンクの表面温度を測定した。又、比較例としてアルミニウムの空容器を同様の方法で測定した。
【0037】
【表1】

【0038】
10Wの発熱体を取り付けたヒートシンク(実施例1)及び空容器(比較例1)の発熱体近傍(ヒートシンク表面)の温度(℃)は表2及びグラフ1の通りであった。また、10Wの発熱体を取り付けたヒートシンク(実施例2)及び空容器(比較例2)の発熱体から離れた壁面(発熱体から4cm離れた場所)の温度(℃)は表3及びグラフ2の通りであった。尚、潜熱蓄熱剤:熱伝導微粉末フィラーを分散した液体は100:5〜100:70が好ましい。より好ましくは100:30〜100:50である。また、液体:熱伝導微粉末フィラーは100:5〜100:40が好ましい。より好ましくは100:10〜100:30である。
【0039】
【表2】

【グラフ1】

【0040】
【表3】

【グラフ2】

【0041】
上記表2及び3、グラフ1及び2から明らかなように、実施例1、2のヒートシンク2における温度制御は極めて良好であり、電子機器1に悪影響を与える可能性が有あるとされる約80度の温度に96時間放置しても到達していないことが理解される。一方、空容器については発熱体温度と殆ど同じ温度にまで到達している。又、発熱部から離れた壁面(発熱体から4cm離れた場所)におけるヒートシンクの温度は50度にも到達せず、強制冷却をせずとも安全上からも充分に使用可能である。
【発明の効果】
【0042】
本発明においては、発熱体の熱を低温で融解する潜熱蓄熱剤から順次溶解し、液化する事で対流しつつ他の高い潜熱蓄熱剤に熱を伝達して、その融解によりより多い潜熱を蓄熱する事となる。一方、その潜熱は液体と共に流動する熱伝導微粉末フィラーから素早く熱伝導の高いヒートシンク容器に熱移動し、低い温度でありながら外部に速やかに放熱される。したがって、発熱体が急激に熱を放出するにあたり、潜熱蓄熱剤の融点が異なる事で、低温から液体の対流が可能となる事から、低温で溶解した潜熱蓄熱剤が液化して対流する事で、局部的な発熱体の熱をヒートシンク全体に拡散させるという効果を得ることができる。これらの熱は熱伝導の高いヒートシンク容器から外部に速やかに放出される。熱吸収部の局部的な熱を放散するにあたり、潜熱蓄熱剤及び熱伝導微粉末フィラーの対流により速やかな熱拡散を可能にすることができる。
【0043】
また、本発明においては、発熱体が発した熱により、低融点の潜熱蓄熱剤から溶解して行き、幅広い温度帯で発熱体の熱を吸収する。したがって、発熱体の温度及び外部環境温度により、必要な温度帯(0℃〜130℃)で個別に潜熱蓄熱剤の対応が可能となる。
【0044】
また、本発明においては、対流を起こす潜熱蓄熱剤の液体と共に移動する熱伝導微粉末フィラーは、異なる高い融点を持つ潜熱蓄熱剤及びヒートシンク容器内部に速やかに熱を移動させる。したがって、発熱体の熱移動がより速やかとなり内部の熱伝搬量が増加され、容器に伝わる熱伝搬量を外部により多量に速やかに放出する事が可能となる。
【0045】
また、本発明においては、潜熱蓄熱剤の個別の液体は各融点において融解し、液化して対流での熱拡散を行うことができる。低沸点溶剤は、潜熱蓄熱剤の融解温度近辺で気化し、速やかに容器上部に蒸気として熱の外部移動を促進させ、熱を奪われてから冷却して液化する。したがって、潜熱蓄熱剤の液化による対流での熱拡散とは別に、低沸点溶剤の蒸発及び外部温度に近い容器温度での冷却に伴う液化で熱拡散が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】 本発明のヒートシンクに電子機器(発熱体)を取り付けた概略断面図
【符号の説明】
1 電子機器(発熱体)
2 ヒートシンク
2a ヒートシンクの密閉容器空間
D 厚み幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高熱伝導率を有するヒートシンク本体空間に、融点が0〜130℃の範囲で異なる複数の潜熱蓄熱剤と、熱伝導微粉末フィラーを分散させた液体とを混合充填して密閉したヒートシンク。
【請求項2】
前記融点の異なる複数の潜熱蓄熱剤が、無機水和塩、有機物化合物、無機系固液蒸気相、溶解共晶塩の少なくともいずれか1つの複数若しくは2つ以上の複数を含む請求項1に記載のヒートシンク。
【請求項3】
前記熱伝導微粉末フィラーが、炭素、金属微粉末の少なくともいずれか1つ以上から選ばれる請求項1及び請求項2のいずれかに記載のヒートシンク。
【請求項4】
前記液体が、低沸点溶剤、水、ポリエチレングリコール又は無機塩水和物の融解したものから得られる液体の少なくともいずれか1つ以上から選ばれる請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のヒートシンク。

【図1】
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【公開番号】特開2010−251677(P2010−251677A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115956(P2009−115956)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(502334973)株式会社イネックス (7)
【出願人】(506238341)薩摩総研株式会社 (4)
【Fターム(参考)】