説明

ヒートパイプ、冷却装置、電子機器

【課題】本発明は、複数の発熱体に対する熱接続を可能とし、かつ複数の発熱体を同時に冷却して冷却効率を向上させたヒートパイプと、このヒートパイプを備えた冷却装置と、この冷却装置を備えた電子機器を提供する。
【解決手段】密閉構造のケース体16内に液体を収容し、液体の蒸発作用と凝縮作用をともなうヒートパイプであり、ケース体は長さ方向に対して両端部17A,17Bと中間部18で構成され、中間部は長さ方向に少なくとも3つ以上の筒部20に仕切る複数の仕切り体19を備え、筒部の少なくとも2つ以上に毛細管構造体であるウイック21を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートパイプと、このヒートパイプを備えた冷却装置と、この冷却装置を備えたポータブルコンピュータ等の電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器である、たとえばポータブルコンピュータに備えられるCPU等の発熱体は、従来、その数が少なく、かつ発熱量が比較的小さいものであった。したがって、発熱体に対して、単に伝熱性に優れた金属片の一端部を接触させて受熱し、金属片の他端部を冷却するだけで発熱体に対する冷却効果が確保されていた。
近時、筐体は、より薄型化が求められる傾向にあり、CPU等の発熱体の数が増えるとともに、より大容量化するのにともない、発熱量の増大が顕著となっている。そのため、従来のような金属片の利用では対応できなくなり、代って、宇宙空間に打ち上げられる飛翔物体の部分冷却に用いられるヒートパイプの採用が一般化しつつある。
【0003】
前記ヒートパイプについても種々の構成が提供されているが、その一例として、密閉管体の内周面に周方向に所定間隔を存し、かつ両端部を除く中間部の軸方向に亘って、凹溝からなるウイックを形成したものがある。
作用として、封入した水等の作動液が一端部に熱接続されたCPU等の発熱体からの入熱によって蒸発し、蒸気が中間部を介して他端部に導かれる。他端部において蒸気が冷却され凝縮して液体に変る。液体はウイックによる毛細管圧力を利用して再び発熱体取付け側端部に還流され、以上のように作動液の潜熱として熱を輸送する。
【0004】
ところで、このヒートパイプにおいて、液体は一端部から溝形ウイックを介して他端部に導かれる一方で、蒸気は他端部からパイプ内部を介して一端部に導かれる。すなわち、ヒートパイプ内で液体と蒸気は、互いに逆方向に導かれて還流する。
そのため、特にウイック内面において液体と蒸気とが互いに接触し、互いに抵抗となって、熱輸送量を充分に確保できない不具合がある。上記溝形ウイックに代えて、アルミニウム合金繊維からなるフェルト、ワイヤ、発泡体、焼結金属その他の毛細管圧力を生じるウイック層を採用できるが、いずれも最大熱輸送量の確保は困難である。
【0005】
そこで、[特許文献1]に記載されるようなヒートパイプが提供されるに至った。これは、パイプ内部に一端の加熱部から中間の断熱部を経て他端の冷却部まで連続し、かつ両端が解放された内管を設け、断熱部においてパイプと内管との間にウイック層が設けられることを特徴としている。
【特許文献1】特開平3−134493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような[特許文献1]の構成を採用すれば、加熱部で加熱され蒸発した作動液の蒸気は内管内を通って冷却部へ移動する。冷却部で冷却され凝縮した液体は内管とパイプとの間のウイック層を介して加熱部へ導かれる。したがって、気流の流れは対向方向において内管によって完全に分離され、互いに接触することがない。
しかしながら、[特許文献1]においては、ヒートパイプと複数の発熱体との係わり合いについての記述が全くない。すなわち、ヒートパイプのどこに複数の発熱体を熱接触させて冷却するのかが不明である。常識的には、加熱部に発熱体を熱接続することで冷却が行えると考えられる。
【0007】
ここにはパイプの外径が20mm、全長が500mm、加熱部と冷却部の長さが100mmとの記載があり、このような大型ヒートパイプではポータブルコンピュータに採用できない。ヒートパイプを小型化して複数本用意し、発熱体毎に対応しようとしても、筐体が薄型化されているので、全てのヒートパイプを搭載するには無理がある。
ヒートパイプを1本だけとし、加熱部の長さを長くして、この加熱部に複数の発熱体を熱接続する考えもある。この場合、複数の発熱体により、複数ヶ所で蒸発した蒸気の流れが互いに干渉し、蒸発するための液体が偏るなどの不具合が発生し易い。したがって、効率よく熱を伝えられず、冷却効果が期待できなくなる。
【0008】
本発明は上記事情にもとづきなされたものであり、その目的とするところは、複数の発熱体に対する熱接続を可能とし、かつ複数の発熱体を同時に冷却して冷却効率を向上させたヒートパイプと、このヒートパイプを備えた冷却装置と、この冷却装置を備えた電子機器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を満足するため本発明のヒートパイプは、密閉構造のケース体内に液体を収容し液体の蒸発作用と凝縮作用をともなうものであり、ケース体は長さ方向に対して両端部と中間部で構成され、中間部は長さ方向に少なくとも3つ以上の空間である筒部に仕切る複数の仕切り体を備え、筒部の少なくとも2つ以上に毛細管構造体であるウイックを備えた。
上記目的を満足するため本発明の冷却装置は、前記ヒートパイプを用いて複数の発熱体を同時に冷却するものであり、前記ウイックが備えられる筒部において、ウイックが備えられる領域をウイック域とし、ウイックが備えられていない領域を非ウイック域としたとき、ウイック域と非ウイック域との境を発熱体の熱接続位置に定めた。
上記目的を満足するため本発明の電子機器は、複数の発熱体を収容する筐体内に、前記冷却装置を備えた。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数の発熱体を同時に冷却可能とし、かつそれぞれの発熱体に対する冷却効率の向上を得られるヒートパイプと、冷却装置と、電子機器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面にもとづいて説明する。
図1は、電子機器であるポータブルコンピュータ1を示している。
このポータブルコンピュータ1は、コンピュータ本体2と、表示ユニット3とを備えている。
コンピュータ本体2は、略扁平な箱状の第1の筐体4を備えていて、この第1の筐体4は、底壁4aと上壁4bと前壁4cと後側壁4dと左側壁4eと右側壁4fとを有している。上壁4bはキーボード5を支持し、前壁4cと左側壁4eと右側壁4fと後側壁4dは、第1の筐体4の周方向に沿う周壁を構成している。
【0012】
上記表示ユニット3は、第2の筐体6と液晶表示パネル7とを備えている。液晶表示パネル7は、第2の筐体6に収容され、画像を表示するスクリーン7aを有している。スクリーン7aは、第2の筐体6の前面に形成した開口部6aを通じて第2の筐体6の外方に露出している。
第2の筐体6は、コンピュータ本体2の上に横たわる閉じ位置と、キーボード5やスクリーン7aが露出されるようにコンピュータ本体2に対して起立する開位置との間で回動可能となるように、軸8によって第1の筐体4に連結されている。
【0013】
図2は、コンピュータ本体2の上壁4bを切り欠いて第1の筐体4内部を概略的に示す平面図である。
第1の筐体4内には、たとえばCPUやVGA(Video Graphics Array)などの第1〜第3の発熱体10,11,12と、冷却装置13が備えられる。さらに第1の筐体4内には、前記第1〜第3の発熱体10〜12が実装されるプリント基板を備えていて、このプリント基板には他の電子部品等が実装されているが、同図においていずれも図示しない。
前記第1〜3の発熱体10〜12は、コンピュータ本体2の前後方向(Y方向)に位置をずらせるとともに、左右幅方向(X方向)に位置をずらせて配置されている。前記冷却装置13は単体でありながら、複数の発熱体10〜12を同時に冷却できる。換言すれば、単体の冷却装置13で複数の発熱体10〜12を同時に冷却する必要から、発熱体10〜12の位置が必然的に上述のように定められる。
【0014】
前記冷却装置13は、コンピュータ本体2内において、第1〜3の発熱体10〜12に近接して配置されている。冷却装置13は、ヒートパイプ15と、ヒートシンク25と、冷却ファン30とから構成される。
前記ヒートパイプ15は平面視で略L字状に形成される板体であり、冷却ファン30とともに第1の筐体4に載設される。前記ヒートシンク25は平面視で略矩形状に形成され、ヒートパイプ15の一方の直線部(X方向)15a端部上に載置される。前記冷却ファン30は、ヒートパイプ15の内側の側辺に囲まれるようにして配置される。
【0015】
つぎに、コンピュータ本体2内でのヒートパイプ15の配置について説明する。ヒートパイプ15は、一方(X方向)の直線部15aが第1の筐体4の後側壁4d近傍部位、たとえば直前に位置するように、コンピュータ本体2の幅方向(X方向)に沿うように配置される。また、他方(Y方向)の直線部15bはコンピュータ本体2の前後方向(Y方向)に亘って配置される。
第1〜第3の発熱体10〜12は、ヒートパイプ15の直線部15b上面に密接し、全て熱的に接続状態にある。第2の発熱体11のみ全面的にヒートパイプ15に接しているが、第1の発熱体10と第3の発熱体12は、一部がヒートパイプ15側辺から外れて接している。なお、図2に示すヒートパイプ15の破線については後述する。
【0016】
図3は、冷却装置13を分解して示すとともに、プリント基板14に実装される第1〜第3の発熱体10〜12との相対配置関係を示す斜視図である。
ヒートパイプ15は、直線部15aと直線部15bとで略L字状に形成されるとともに、所定の厚みを有する薄肉状の箱体である。このヒートパイプ15の一端部にヒートシンク25が載置され、このヒートシンク25と近接して冷却ファン30が配置される。これらヒートシンク25と冷却ファン30とで放熱機構35が構成される。
前記ヒートシンク25は、ヒートシンク本体26と、複数のフィン部材27とを備えている。ヒートシンク本体26は、図示しないクールシートを介してヒートパイプ15に密着状態にあり、熱的に接続される。
【0017】
ヒートシンク本体26は、両端面が開口する断面略矩形の筒状体であり、フィン部材27は、ヒートシンク本体26内に一方の開口端から他方の開口端に亘って設けられる。各フィン部材27間には隙間が形成されており、ヒートシンク本体26内部を空気などの気体が通過できる。
ヒートシンク本体26の両開口端は、ヒートパイプ15の直線部15aの長手方向とは直交する方向に設けられている。したがって、ヒートシンク本体26の一方の開口端は、ヒートパイプ15の側辺部に沿って配置される冷却ファン30と対向する。また、図2に示すように、ヒートシンク本体26の他方の開口端と対向する第1の筐体4の後側壁4d部位には、排気孔29が設けられる。
【0018】
前記冷却ファン30は、ファン本体31と、ファン本体31内に収容されるインペラ32を備えている。ファン本体31の上壁31aと下壁31bには、吸気口33が形成されていて、インペラ32の回転にともなって周囲の空気を吸気口33から内部に吸込む。また、ファン本体31には、吐出口34が形成されている。
この吐出口34は、ファン本体31の内部と外部とを連通していて、ヒートシンク25を構成するヒートシンク本体26の一方の開口端と対向するように配置される。それゆえ、吸気口33から吸込まれた空気は、吐出口34を通ってヒートシンク25の一方の開口端に向かって吐出されるようになっている。
【0019】
ヒートシンク25の開口端へ向って吐出された空気は、ヒートシンク25内部を流通し他方の開口端から出る。そして、再び図2に示すように、ヒートシンク25の他方の開口端と対向する第1の筐体4の後側壁4dに設けられる排気孔29を通って、コンピュータ本体2の外部へ排出されるようになっている。
つぎに、前記ヒートパイプ15について詳述する。
図4(A)は、ヒートパイプ15の内部構成図および冷却装置13の第1〜第3の発熱体10〜12に対する冷却作用を説明する図、図4(B)は、ヒートパイプ15の断面図である。図5(A)は、ヒートパイプ15の最小構成を説明する横断面図、図5(B)は図5(A)のB−B線に沿う断面図である。
【0020】
はじめに、図5(A)(B)のヒートパイプ15の最小構成から説明する。
このヒートパイプ15は、平面視で矩形状をなし、所定の厚み寸法に形成される薄箱状で密閉構造のケース体16を備えている。内部には図示しない作動液(冷媒)が収容されていて、作動液として、水、アルコール、アンモニア、フロン、代替フロン等が、流路体積の30〜70パーセントの割合で収容されている。
前記ケース体16は、長さ方向に対して両側の端部17A、17Bと、これら両端部17A,17Bの相互間に中間部18を備えている。前記中間部18は、複数の仕切り体19によって長さ方向に複数の筒部20に仕切られている。最小構成として、ケース体16内に設けられる仕切り体19は2つ必要であり、これにより3つの筒部20である、第1〜第3の筒部20a,20b,20cが形成される。
【0021】
第1の筒部20aと第3の筒部20cに、毛細管構造体であるウイック21を備えているが、第2の筒部20bにはウイックが備えられていない。すなわち、ウイック21有りの筒部20a,20cは、ウイック無しの筒部20bを挟んで、この両側に設けられることとなる。
ウイック21として、金属ワイヤ、メッシュ、焼結金属等が用いられる。第1の筒部20aに備えられるウイック21と、第3の筒部20cに備えられるウイック21の一端部は、互いに仕切り体19の一端部に揃えられ、かつ互いのウイック21は、互いに長さの異なる他端部を備えている。
【0022】
具体的には、第1の筒部20aに備えられるウイック21の他端部よりも、第3の筒部20cに備えられるウイック21の他端部の長さが、より長く形成される。あるいは、第1、第3の筒部20a,20cで、互いに逆の長さの設定であってもよい。
以上述べたヒートパイプ15の最小構成から、本発明におけるヒートパイプ15を定義すると、ケース体16の中間部18は、長さ方向に少なくとも3つ以上の筒部20に仕切る複数の仕切り体19を備えている。そして、前記筒部20のうちの少なくとも2つ以上の筒部20に、毛細管構造体であるウイック21を備えている。
【0023】
ウイック21を備えた筒部20の少なくとも1つ以上は、仕切り体19の長さより短い長さのウイック21を備え、筒部20の少なくとも1つ以上は、ウイック無しの筒部20とする。ウイック21を備えた筒部20と、ウイック無しの筒部20とは、互いに1つ置きに設けられる。
筒部20に備えられるウイック21は、一端部が仕切り体19の一端部に揃えられ、互いのウイック21は、互いに長さの異なる他端部を有する。そして、筒部20に備えられるウイック21は、一端部が仕切り体19の一端部に揃えられ、互いのウイック21は互いに他端部の長さが配列に沿って順次異なる。
【0024】
つぎに、図4(A)(B)から、実際にポータブルコンピュータ1に備えられ、冷却装置13を構成するヒートパイプ15について説明する。なお、同図におけるX方向とY方向の矢印は、図2のX方向とY方向の矢印に合わせて記してある。
図4(A)に示すヒートパイプ15は、ケース体16の平面形状が略L字状に形成されていて、図4(B)に示すように所定厚みの薄箱状になっている。ケース体16内部には先に説明したような作動液が収容される。
図4(A)に示すように、ケース体16の内部は、縦方向(X方向)の端部17Aと、横方向(Y方向)の端部17Bと、これら端部17A,17B相互間に亘り略L字状に形成される中間部18とから構成される。
【0025】
前記中間部18は、長さ方向に沿って5つの筒部20に仕切る4つの仕切り体19を備えている。略L字状の最も内側の筒部を第1の筒部20Aと呼ぶとすると、この外側に向って、第2の筒部20B、第3の筒部20C、第4の筒部20Dおよび第5の筒部20Eが順次形成される。
第1の筒部20Aと、第3の筒部20Cおよび第5の筒部20Eは、先に説明したような毛細管構造体であるウイック21を備えている。第2の筒部20Bおよび第4の筒部20Dはウイックを備えておらず、空間部となっている。結局、ウイック21を備えた筒部20A,20C,20Eと、ウイック無しの筒部20B,20Dは、互いに1つ置きに設けられている。
【0026】
各筒部20A,20C,20Eに備えられるウイック21は、互いの一端部が仕切り体19の一端部に揃えられ、互いの他端部の長さが順次異なる。すなわち、第1の筒部20Aにおけるウイック21の他端部長さが最も短く、第3の筒部20Cのウイック21他端部長さがつぎに長く、第5の筒部20Eのウイック21他端部長さが最も長い。
第1、第3、第5の筒部20A,20C,20Eにおいて、実際にウイック21を備えた領域を「ウイック域W」と呼び、ウイックが備えられない領域を「非ウイック域H」と呼ぶとすると、ウイック域Wと非ウイック域Hとの境位置Sを前記発熱体10,11,12の熱接続位置として定めなければならない。
【0027】
なお、第5の筒部20Eに備えたウイック21は、仕切り体19と同じ長さであるので、第5の筒部20E全体がウイック域Wであり、端部17Bが非ウイック域Hとなって、これらの境位置Sに発熱体20が熱接続される。
上述したように、各筒部20A,20C,20Eに備えられるウイック21の他端部長さを順次異ならせたので、ウイック域Wと非ウイック域Hとの境位置Sに熱接続される発熱体10,11,12は、直線部15aにおいて横方向(Y方向)と縦方向(X方向)に沿って順次位置が異なっている。
【0028】
したがって、ウイック21の他端部長さを発熱体10〜12の幅寸法aに合わせて設定すれば、各発熱体10〜12が互いに接することなく適宜な間隔を存する。図のように、第1〜第3の発熱体10〜12の幅寸法aを全て同一とする必要がなく、互いに異なっていてもよい。
各筒部20の幅寸法bを必要最小限確保すれば、ある程度の大きさの発熱体10〜12を熱接続できる。換言すれば、ヒートパイプ15全体の幅寸法Lを必要最小限に短くして、より大きな平面面積の発熱体10〜12を熱接続できることとなる。
【0029】
再び図2で示すヒートパイプ15の破線は、第1の筒部20Aと、第3の筒部20Cおよび第5の筒部20Eに備えられるウイック域Wを示していて、非ウイック域Hとの境位置Sに第1〜第3の発熱体10〜12が熱接続される状態を示している。
つぎに、冷却装置13の動作について説明する。
第1〜第3の発熱体10〜12は、全て、作用にともなって発熱する。これら発熱体10〜12の熱は、発熱体10〜12と熱接続されるヒートパイプ15へ伝熱される。同時に冷却ファン30が作動を開始し、ヒートシンク25へ送風し冷却する。ヒートシンク25は熱接続されるヒートパイプ15の一端部から熱を奪う。
【0030】
ヒートパイプ15内に収容される作動液は、ヒートパイプ15の端部17Aとその近傍位置でヒートシンク25によって冷却され、凝縮して液体になる。この液体は、第1の筒部20Aと、第3の筒部20Cおよび第5の筒部20Eに備えられるウイック21に、表面張力により蓄えられる。
液体は、図4(A)に二点鎖線矢印で示すように、ウイック21における毛細管圧力によって、ウイック域Wに形成される隙間を非ウイック域H側へ導かれる。そして、各筒部20A,20C,20Eにおけるウイック域Wと非ウイック域Hとの境位置Sにおいて、熱接続される第1〜第3の発熱体10〜12から熱を奪う。
【0031】
すなわち、第1〜第3の発熱体10〜12はともに冷却されることとなり、1つのヒートパイプ15で複数の発熱体10〜12に対して同時に冷却作用が行われる。ウイック域Wを導かれてきた液体は、非ウイック域Hとの境位置Sで各発熱体10〜12の熱を受けて蒸発し、蒸気に変わる。
ウイック域Wにはウイック21が備えられるとともに液体が表面張力により導かれているので、蒸気に対する抵抗となる。その一方で、非ウイック域Hには何らの充填物もなく単なる空間部であるので、蒸気は左右の抵抗(圧力損失)差によりウイック域Wには戻らず、二点鎖線矢印で示すように非ウイック域Hから端部17B方向へ導かれる。
【0032】
すなわち、気化膨張による蒸気の圧力はウイック域Wを流れる作動液に対して逆流方向へは作用せず、作動液の流れに対して順方向にのみ作用して、順方向への流れを促進するので最大熱輸送量がより増大する。
特に、第5の筒部20Eにおいては、筒部20E全体にウイック21が備えられ、ウイック域Wとなっているので、蒸気は直ちに端部17Bに導かれる。第1、第3、第5の筒部20A,20C,20Eにおける蒸気は、仕切り体19が設けられていない端部17Bにおいて合流する。
【0033】
第2の筒部20Bと第4の筒部20Dには何らの充填物もなく空間部であり、第1、第3、第5の筒部20A,20C,20Eから蒸気が継続して送られてくるので、蒸気は端部17Bから第2の筒部20Bと第4の筒部20Dに分流し、二点鎖線矢印で示すようにヒートシンク25側の端部17A方向へ導かれる。
したがって、液体と蒸気の流れは対向方向において仕切り体19によって完全に分離され、互いに接触することはない。蒸気の流れは第2の筒部20Bおよび第4の筒部20Dを円滑に導かれてヒートシンク25取付け側の端部17Aに到達し、ヒートシンク25によって冷却され凝縮して液体に変わる。
【0034】
そして、再び第1の筒部20Aと第3の筒部20Cおよび第5の筒部20Eに備えられるウイック21の毛細管圧力により、ウイック域Wから非ウイック域H方向へ導かれる。このとき、第2の筒部20Bと第4の筒部20Dに導かれる蒸気の流れとは仕切り体19によって完全に分離されているので、蒸気の流れが抵抗にならずにすみ円滑に流れる。
結局、ヒートパイプ15に備えられる作動液は、第1、第3、第5の筒部20A,20C,20Eから第2の筒部20Bおよび第4の筒部20Dを逆方向に導かれて、再び第1、第3、第5の筒部20A,20C,20Eに案内される循環流となる。
【0035】
ヒートパイプ15は単体でありながら、複数の発熱体10〜12を同時に冷却することとなり、しかも、複数の発熱体10〜12に対して蒸気と液体の流れを干渉させずに循環でき、効率的に熱を伝えることができる。
特に、ウイック域Wと非ウイック域Hとの境位置Sに発熱体10〜12を熱接続することにより、蒸気の流れが円滑となり、ヒートパイプ15の発熱体10〜12に対する冷却効率が向上する。
また、複数の筒部20を備えるとともに、それぞれの筒部20におけるウイック域Wと非ウイック域Hとの境位置Sを非同一位置に設定することにより、発熱体10〜12相互の熱干渉を防止して効率の良い冷却作用が行われる。
【0036】
冷却装置13として、複数の発熱体10〜12を1つのヒートパイプ15で効率的に冷却できるので、省スペース化と、コストの低減化および軽量化を図れる。この冷却装置13を備えた電子機器であるポータブルコンピュータ1において、複数のCPU等の発熱体10〜12を同時に冷却でき、冷却効率が向上するうえに、筐体の薄型化および小型化に寄与する。
図6(A)に示すようなヒートパイプ15Aであってもよい。すなわち、ケース体16は完全密閉構造とする必要があるが、中間部18を長さ方向に少なくとも3つ以上の筒部20に仕切る複数の仕切り体19aは、必ずしも筒部20を完全密閉構造とする必要はなく、ある程度の隙間を有していてもよい。
【0037】
たとえば、ケース体16は第1の板体16aと、第2の板体16bとから構成され、互いの板体16a,16bの当接部tが常温接合もしくは、はんだ溶接のようなロウ付けによって互いに液密に接合される。仕切り体19aの一方の端部は第1の板体16aから突設され、本来は、他端部が第2の板体16bと密に接合する。
しかしながら、このような構成を採用すると、全ての仕切り板19aの高さ寸法を、高精度に保持する必要があり、コストに与える影響が大となる。しかも、仕切り体19aによって仕切られる筒部20に、液体を表面張力で蓄えるウイック21を備えているので、仕切り体19a先端と第2の板体16bとの間にある程度の隙間が存在しても、少なくとも悪影響はない。
【0038】
そして、仕切り体19aはウイック21を備えた筒部20と、ウイックが存在しない筒部20とを仕切り、これらには蒸気が導かれ流れに圧力があるので、仕切り体19a先端と第2の板体16bとの間にある程度の隙間が存在しても、蒸気の漏れはほとんどなく悪影響はない。したがって、仕切り体19の寸法管理が厳密でなくともすみ、加工費の低減化を図れる。
なお、ウイック21として、金属ワイヤ、メッシュ、焼結金属等を用いるようにしたが、これに限定されるものではなく、図6(B)に示すように、複数の細い溝からなるウイック21aで構成するヒートパイプ15Bであってもよい。
この場合、ヒートパイプ15Bを第1の板体116aと第2の板体116bとから構成し、第1の板体116aの製造にあたって、たとえばエッチングの技術を用いて溝からなるウイック21aを形成すれば、金属ワイヤ、メッシュ、焼結金属等の別部材を用意し、これを筒部20に充填する手間が不要となって、コストの低減に寄与する。
【0039】
上述の冷却装置13は第1〜第3の発熱体10〜12を同時に冷却するようにしたが、これに限定されるものではなく、さらに多くの発熱体を同時に冷却することが可能な構成を得られる。そして、図5(A)(B)で説明したように、ヒートパイプ15の最小構成を採用すれば、2つの発熱体を同時に冷却することが可能である。
また、ヒートパイプ15において、ウイック21が備えられる第1の筒部20Aと、第3の筒部20Cおよび第5の筒部20Eは、ウイック域Wと非ウイック域Hとの境位置Sを順にずらせて発熱体10〜12を熱接続したが、これに限定されるものではなく、互いに位置がずれていればよい。
【0040】
すなわち、種々の電子回路構成があり、発熱体であるCPU等の位置が順にずれているとは限らない。上記ヒートパイプによれば、複数の発熱体が非同一位置に備えられていても、何らの支障もなく適応できることとなる。
上述のヒートポンプ15は、平面視で略L字状に形成されているが、これに限定されるものではなく、直状、あるいは円弧状、あるいは波形状であってもよい。すなわち、搭載される電子機器の内部構成に応じて適宜選択できる。
さらに、本発明は上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。そして、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明における一実施の形態に係る、ポータブルコンピュータの斜視図。
【図2】同実施の形態に係る、コンピュータ本体の内部を概略的に示す平面図。
【図3】同実施の形態に係る、冷却装置を分解して示すとともに、プリント基板と第1〜第3の発熱体との相対配置関係を示す図。
【図4】同実施の形態に係る、ヒートパイプの内部構成図および冷却装置の第1〜第3の発熱体に対する冷却作用を説明する図と、ヒートパイプの断面図。
【図5】同実施の形態に係る、最小構成のヒートパイプの内部構成を説明する図と、ヒートパイプの断面図。
【図6】同実施の形態の変形例に係る、互いに異なる構成のヒートパイプの断面図。
【符号の説明】
【0042】
16…ケース体、15…ヒートパイプ、17A,17B…端部、18…中間部、20…筒部、20A…第1の筒部、20B…第2の筒部、20C…第3の筒部、20D…第4の筒部、20E…第5の筒部、19…仕切り体、21…ウイック、10…第1の発熱体、11…第2の発熱体、12…第3の発熱体、13…冷却装置、W…ウイック域、H…非ウイック域、S…境位置、35…放熱機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉構造のケース体内に作動液を収容し、この作動液の蒸発作用と凝縮作用をともなうヒートパイプにおいて、
前記ケース体は、長さ方向に対して両端部と中間部で構成され、
前記中間部は、長さ方向に少なくとも3つ以上の空間である筒部に仕切る複数の仕切り体を備え、
前記筒部の少なくとも2つ以上に、毛細管構造体であるウイックを備えたことを特徴とするヒートパイプ。
【請求項2】
前記ウイックを備えた前記筒部の少なくとも1つ以上は、前記仕切り体の長さより短い長さのウイックを備え、
前記筒部の少なくとも1つ以上は、ウイック無しの筒部としたことを特徴とする請求項1記載のヒートパイプ。
【請求項3】
前記ウイックを備えた筒部と、ウイック無しの筒部とは、互いに1つ置きに設けられることを特徴とする請求項2記載のヒートパイプ。
【請求項4】
前記筒部に備えられるウイックは、一端部が前記仕切り体の一端部に揃えられ、互いのウイックは、互いに長さの異なる他端部を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のヒートパイプ。
【請求項5】
前記筒部に備えられるウイックは、一端部が前記仕切り体の一端部に揃えられ、互いのウイックは、互いに他端部の長さが配列に沿って順次異なることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のヒートパイプ。
【請求項6】
密閉構造のケース体内に液体を収容し、液体の蒸発作用と凝縮作用をともなうヒートパイプにおいて、
前記ケース体は、長さ方向に対して両端部と中間部で構成され、
前記中間部は、長さ方向に少なくとも3つ以上の空間である筒部に仕切る複数の仕切り体を備え、
前記筒部の少なくとも2つ以上に、毛細管構造体であるウイックを備え、
前記筒部の少なくとも1つ以上は、ウイック無しの筒部とし、
前記ウイックを備えた筒部と、ウイック無しの前記筒部とは、互いに1つ置きに設けられることを特徴とするヒートパイプ。
【請求項7】
前記ウイックは、互いの一端部が仕切り体の一端部に揃えられ、互いのウイックは、互いに他端部の長さが配列に沿って順次異なることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかにヒートパイプ。
【請求項8】
前記仕切り体は、前記筒部を完全密閉構造に仕切る、もしくは隙間を存して仕切るの、いずれか一方であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のヒートパイプ。
【請求項9】
前記ウイックは、金属ワイヤ、メッシュ、焼結金属のいずれかが選択される、もしくは複数の細かい溝からなることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のヒートパイプ。
【請求項10】
前記請求項1ないし請求項9のいずれかに記載のヒートパイプを用いて複数の発熱体を同時に冷却する冷却装置であり、
前記ウイックが備えられる筒部において、ウイックが備えられる領域をウイック域とし、ウイックが備えられていない領域を非ウイック域としたとき、前記ウイック域と非ウイック域との境位置を、前記発熱体の熱接続位置に定めたことを特徴とする冷却装置。
【請求項11】
前記ケース体における前記発熱体の熱接続位置とは反対側の端部に、この端部を冷却する放熱機構を備えたことを特徴とする請求項10記載の冷却装置。
【請求項12】
複数のCPU等の発熱体を収容する筐体内に、前記請求項10および請求項11のいずれかに記載の冷却装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−51407(P2008−51407A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228143(P2006−228143)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】