説明

ビニルピロリドン系重合体およびその製造方法

【課題】アルカリ溶液中でもK値の変化が小さいビニルピロリドン系重合体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ビニルピロリドンモノマーを溶液中でラジカル重合開始剤を用いて重合させるビニルピロリドン系重合体の製造方法において、ビニルピロリドンモノマーと亜硫酸塩を含む溶液を調製し、この溶液に10時間半減期温度が60℃以下のアゾ系開始剤を連続的又は断続的に添加することにより重合を行う。本製造方法により50℃で3ヶ月間保管後のK値の変化率が3%以下であるビニルピロリドン系重合体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルピロリドン系重合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルピロリドン系重合体は一般に経時的な劣化を起こし、K値や色相等が変化する。K値とは、ドイツの化学者フィケンチャーにより提案された重合度を表わす定数である。ビニルピロリドン系重合体の製造時には開始剤あるいは連鎖移動剤として過酸化水素を使用する場合があるが、このような方法で得られるビニルピロリドン系重合体は特にアルカリ溶液中での経時的なK値の変化が大きく、問題となっている。
【0003】
これに対しビニルピロリドン系重合体の貯蔵安定性を向上させる手法として、重合体と接触する気相中の酸素濃度を50000ppm以下にする方法(特開2001−2880号公報)や、酸化防止剤を配合する方法(特開2001−192457号公報)などが提案されているが、いずれも効果は不十分であり、根本的な解決には至っていない。
【特許文献1】特開2001−2880号公報
【特許文献2】特開2001−192457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、貯蔵安定性が向上したビニルピロリドン系重合体を提供することを目的とし、特にアルカリ溶液中でもK値の変化が小さいビニルピロリドン系重合体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために種々の検討を行った結果、ポリマー末端に亜硫酸を組み込む連鎖移動剤を使用し、かつアゾ系開始剤を連続的あるいは断続的に添加することにより、アルカリ溶液中でも保存安定性が極めて良好なビニルピロリドン系重合体が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0006】
すなわち、本発明のビニルピロリドン系重合体の製造方法は、ビニルピロリドンモノマーを溶液中でラジカル重合開始剤を用いて重合させるビニルピロリドン系重合体の製造方法であって、ビニルピロリドンモノマーと亜硫酸塩を含む溶液を調製し、この溶液に10時間半減期温度が60℃以下のアゾ系開始剤を連続的又は断続的に添加することにより重合を行うものとする。
【0007】
本発明のビニルピロリドン系重合体は、上記製造方法により得られるものであって、50℃で3ヶ月間保管後のK値の変化率が3%以下であるものとする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、アルカリ溶液中においても貯蔵安定性が極めて良好なビニルピロリドン系重合体を得ることができ、重合体の容器への充填時等に酸素濃度制御をしたり酸化防止剤の添加をしたりする必要がなくなる。
【0009】
しかも10時間半減期温度が60℃以下のアゾ系開始剤を連続的あるいは断続的に添加することにより、重合熱による反応の暴走の危険性を抑制できるため、製造時間の大幅な増加を伴うことなく、高濃度での製造も可能となり、広範な濃度のポリマー溶液を安全かつ効率的に得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明でいうビニルピロリドン系重合体とは、ビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドン、以下、VPとも表記する)の単独重合体又はVPと他の単量体との共重合体であり、他の単量体はVPと共重合可能なものであればよく、特に限定されないが、例としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸のアルキルエステル(メチルアクリレート、エチルアクリレート等)、メタクリル酸のアルキルエステル(メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等)、アクリル酸のアミノアルキルエステル(ジエチルアミノエチルアクリレート等)、メタクリル酸のアミノアルキルエステル、アクリル酸とグリコールとのモノエステル、メタクリル酸とグリコールとのモノエステル(ヒドロキシエチルメタクリレート等)、アクリル酸のアルカリ金属塩、メタクリル酸のアルカリ金属塩、アクリル酸のアンモニウム塩、メタクリル酸のアンモニウム塩、アクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、メタクリル酸のアミノアルキルエステルの第4級アンモニウム誘導体、ジエチルアミノエチルアクリレートとメチルサルフェートとの第4級アンモニウム化合物、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルスルホン酸のアルカリ金属塩、ビニルスルホン酸のアンモニウム塩、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸塩、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸塩、酢酸ビニル、ビニルステアレート、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルカルバゾール、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−メチレンビスアクリルアミド、グリコールジアクリレート、グリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、グリコールジアリルエーテル等がある。
【0011】
ビニルピロリドンと他の単量体の割合も特に限定されないが、VPの割合が少なすぎると本発明の目的から外れるため、目安としてはVPの割合が20重量%以上であるものとする。
【0012】
ビニルピロリドンモノマーの重合(ビニルピロリドンと他の単量体との共重合を含む)は、溶液重合によって行なう。溶媒としては水又は水系溶媒を用いることが好ましい。水系溶媒とは水と混じり合うことができる化合物の1種又は2種以上の混合溶媒や、このような化合物に水が主成分となるように混合した混合溶媒を意味する。水と混じり合うことができる化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール等のアルコール、エチレングリコール等のジオール;グリセリン等のトリオール類等の多価アルコール等が挙げられる。
【0013】
本発明の製造方法においては、上記モノマー溶液に亜硫酸塩を含有させる。本発明で使用可能な亜硫酸塩の例としては、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等が挙げられ、特に亜硫酸アンモニウムが好ましい。
【0014】
上記溶液の濃度としては、ビニルピロリドンモノマー濃度が10〜60重量%の範囲内であることが好ましく、15〜50重量%であることがより好ましい。濃度が10重量%未満であると生産性が悪くコスト高を招く傾向があり、60重量%を越えると、重合中、経時的に粘度が高くなり攪拌が困難となって反応に支障をきたし易くなる。
【0015】
また、亜硫酸塩の濃度は0.0001〜20重量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.001〜10重量%の範囲とする。濃度が0.0001重量%未満であると目的とする安定性が得られ難くなり、20重量%を超えると製品中の不純物量が多くなり易い。
【0016】
上記溶液に10時間半減期温度が60℃以下のアゾ系開始剤を連続的又は断続的に添加して重合を行う。
【0017】
このようなアゾ系開始剤の例としては、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(10時間半減期温度51℃)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩(10時間半減期温度44℃)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(10時間半減期温度56℃)等が挙げられ、特に2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が好ましい。
【0018】
上記アゾ系開始剤の添加量(合計量)はビニルピロリドン単量体に対して、0.001〜5重量%の範囲内が好ましい。0.001重量%未満であると重合速度が低下し、生産効率が悪くなり、5重量%を超えると製品中の不純物量が多くなり易い。
【0019】
アゾ系開始剤は上記モノマー溶液にそのまま添加してもよいし、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの有機溶剤に溶解させて添加してもよい。
【0020】
アゾ系開始剤を「連続的又は断続的に添加する」とは、上記アゾ系開始剤の必要量を一度に添加せずに、重合熱による反応の暴走が生じないように、ある程度以上の時間をかけて徐々に添加することをいう。好ましくは、重合系内の温度上昇が毎分5℃以下となるように添加する。従って、一定時間当たりの添加量は必ずしも一定でなくてもよく、例えば、連続的な添加に続いて断続的な添加を行っても、その逆であってもよく、断続的に添加する場合の間隔を変化させてもよい。
【0021】
上記製造方法により、pHが7〜10のアルカリ溶液中においても50℃で3ヶ月間保管後のK値の変化率が3%以下という極めて貯蔵安定性の良好なビニルピロリドン系重合体が得られる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
[実施例1]
撹拌容器中で水500部及びビニルピロリドン500部を混合し、窒素導入による脱酸素の後、系内を70℃に加熱した。亜硫酸アンモニウム一水和物2部を添加し均一となった溶液にV−65(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、和光純薬工業(株)製、10時間半減期温度51℃)の5重量%エタノール溶液0.45部を30分おきに10回、断続的に添加した。このとき、温度上昇は最高でも毎分2℃であった。さらに5重量%V−65エタノール溶液4.5部を添加した後、1時間加熱撹拌を行い、ポリマー溶液を得た。
【0024】
[実施例2]
撹拌容器中で水700部及びビニルピロリドン300部を混合し、窒素導入による脱酸素の後、系内を70℃に加熱した。亜硫酸アンモニウム一水和物1.2部を添加し均一となった溶液に5重量%V−65エタノール溶液4.5部を4時間かけて連続的に添加した。このとき、温度上昇は最高でも毎分1.5℃であった。さらに5重量%V−65エタノール溶液4.5部を添加した後、1時間加熱撹拌を行い、ポリマー溶液を得た。
【0025】
[比較例1]
撹拌容器中で水700部及びビニルピロリドン300部を混合し、窒素導入による脱酸素の後、系内を70℃に加熱した。30%過酸化水素水10部を添加し均一となった溶液に5重量%V−65エタノール溶液4.5部を4時間かけて連続的に添加した。さらに5重量%V−65エタノール溶液4.5部を添加した後、1時間加熱撹拌を行い、ポリマー溶液を得た。
【0026】
[比較例2]
撹拌容器中で水700部及びビニルピロリドン300部を混合し、窒素導入による脱酸素の後、系内を70℃に加熱した。0.01%硫酸銅水溶液2.3部添加し均一となった溶液に30%過酸化水素水1.8部を30分おきに10回、断続的に添加した。さらに30%過酸化水素水0.5部を添加した後、1時間加熱撹拌を行い、ポリマー溶液を得た。
【0027】
[比較例3]
撹拌容器中で水500部及びビニルピロリドン500部を混合し、窒素導入による脱酸素の後、系内を70℃に加熱した。亜硫酸アンモニウム一水和物2部を添加し均一となった溶液に5重量%V−59(2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、和光純薬工業(株)製、10時間半減期温度67℃)エタノール溶液0.45部を30分おきに添加した。この場合、重合途中で急激に系内温度が上昇して突沸し、反応溶液が容器開口部から噴出するという危険な状態となった。
【0028】
[比較例4]
撹拌容器中で水500部及びビニルピロリドン500部を混合し、窒素導入による脱酸素の後、系内を70℃に加熱した。この溶液に5重量%V−65エタノール溶液0.45部を30分おきに添加した。この場合、重合途中で重合溶液の粘度が非常に高くなり、ついには攪拌できなくなった。また、粘度を低減するために5重量%V−65エタノール溶液4.5部を30分おきに添加すると、比較例3と同様に急激に系内温度が上昇して突沸し、反応溶液が容器開口部から噴出するという危険な状態となった。
【0029】
上記実施例1,2及び比較例1,2で得られたビニルピロリドン系重合体の貯蔵安定性を加速試験により評価した。すなわち得られたビニルピロリドン系重合体溶液にアンモニア水を適量添加し、pHをアルカリ性に調整した後、密閉可能なサンプル瓶に入れ、50℃の恒温器に3ヶ月間保存した。加速試験前後のK値及びその変化率、並びにpHの測定値を表1に示す。
【0030】
なおK値は、以下の測定方法によって求めた。すなわち、1%(g/100ml)溶液の粘度を測定する。試料濃度は乾燥物換算する。K値が20以上の場合、1.0gの試料を精密に測りとり、100mlのメスフラスコに入れ、室温で蒸留水を加え、振とうしながら完全に溶かして蒸留水を加えて正確に100mlとする。この試料溶液を恒温槽(25±0.2℃)で30分間放置後、ウベローデ型粘度計を用いて試料溶液が2つの印線の間を流れる時間(流動時間)を測定する。数回測定し、平均値をとる。相対粘度を規定するために、蒸留水についても同様に測定する。2つの得られた流動時間をハーゲンバッハ−キュッテ(Hagenbach−Couette)の補正値に基づいて補正する。
【数1】

【0031】
上記式中、Cは試料の濃度(%:g/100ml)、Zは濃度Cの溶液の相対粘度(ηrel)を示す。相対粘度ηrelは次式より得られる。
【0032】
ηrel=(溶液の流動時間)÷(水の流動時間)
【0033】
【表1】

【0034】
表に示された結果から、ビニルピロリドンと亜硫酸塩を含む溶液に所定の開始剤を連続的又は断続的に添加した実施例1,2ではアルカリ溶液中でもK値の変化率が極めて小さかったのに対し、開始剤あるいは連鎖移動剤として過酸化水素を使用した比較例1,2ではK値の変化率が大きいのが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルピロリドンモノマーを溶液中でラジカル重合開始剤を用いて重合させるビニルピロリドン系重合体の製造方法であって、
ビニルピロリドンモノマーと亜硫酸塩を含む溶液を調製し、
この溶液に10時間半減期温度が60℃以下のアゾ系開始剤を連続的又は断続的に添加することにより重合を行う
ことを特徴とするビニルピロリドン系重合体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により得られる、50℃で3ヶ月間保管後のK値の変化率が3%以下であるビニルピロリドン系重合体。

【公開番号】特開2008−63493(P2008−63493A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244501(P2006−244501)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】