説明

ビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法及びビニル・シス−ポリブタジエンゴム

【課題】従来のビニル・シス−ポリブタジエンゴムに比べ、押出加工性、引張応力並びに耐疲労性をさらに向上させたビニル・シス−ポリブタジエンゴムを製造することが可能なビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法を提供する
【解決手段】ビニル含有率が75%以上であり、かつ、ビニル含有率/シス含有率が3以上20以下であることを特徴とする1,2−ポリブタジエンを、1,3−ブタジエンと炭化水素を主成分とする不活性有機溶媒との混合溶液を調製し、当該混合溶液に水、有機アルミニウム化合物及び可溶性コバルト化合物からなる触媒を添加して、1,3−ブタジエンをシス−1,4重合する第1工程と、第1工程で得られた重合反応混合物中の1,3−ブタジエンを60℃未満の温度でシンジオタクチック−1,2重合する第2工程からなることを特徴とするビニル・シス−ポリブタジエンゴム組成物の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出加工性、引張応力並びに耐疲労性に優れたビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造は、ベンゼン、トルエン及びキシレンなどの炭化水素を主成分とする不活性有機溶媒中において、所定の触媒を用いて、1,3−ブタジエンをシス−1,4重合し、続いて、シンジオタクチック−1,2重合(以下、「1,2重合」とする)する方法により行われている。
【0003】
上記の製造方法として、例えば、特許文献1及び特許文献2には、以下のような方法が開示されている。まず、前記の不活性有機溶媒中において、水、可溶性コバルト化合物、及び一般式AlRn3-n(但し、Rは炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基又はシクロアルキル基であり、Xはハロゲン元素であり、nは1.5〜2の数字である)により表される有機アルミニウムクロライドから得られる触媒を用いて、1,3−ブタジエンをシス−1,4重合し、ブタジエンゴムを製造する。次いで、この重合系に、1,3−ブタジエン及び前記溶媒を添加し(但し、1,3−ブタジエン及び前記溶媒のいずれか一方のみを添加しても、いずれも添加しなくてもよい)、さらに、可溶性コバルト化合物、一般式AlR3(但し、Rは炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基又はシクロアルキル基である)により表される有機アルミニウム化合物、及び二硫化炭素から得られる触媒を存在させて、1,3−ブタジエンを1,2重合してビニル・シス−ポリブタジエンゴムを製造する。
【0004】
また、特許文献3には、n−ブタン、シス−2−ブテン、トランス−2−ブテン及びブテン−1などのC留分を主成分とする不活性有機溶媒中において、ビニル・シス−ポリブタジエンゴムを製造する方法が開示されている。この方法により製造されたゴム組成物が含有する1,2−ポリブタジエンは短繊維結晶であり、その短繊維結晶の長軸長さの分布は繊維長さの98%以上が0.6μm未満であり、70%以上が0.2μm未満であって、得られたゴム組成物は、シス−1,4−ポリブタジエンゴムの成形性、引張応力、引張強さ及び耐屈曲亀裂成長性などを改良するものであることが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献4には、溶解された1,2−ポリブタジエンと、1,3−ブタジエンと、炭化水素を主成分とする不活性有機溶媒との混合物を調製する第1工程と、第1工程で調整された混合物に水、有機アルミニウム化合物及び可溶性コバルト化合物からなる触媒、又は、ニッケル化合物、有機アルミニウム化合物及びフッ素化合物からなる触媒を添加して、1,3−ブタジエンをシス−1,4重合する第2工程と、第2工程で得られた重合反応混合物中の1,3−ブタジエンをシンジオタクチック−1,2重合する第3工程と、を備えたことを特徴とするビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法が開示されている。この方法により製造されたゴム組成物はマトリクス成分であるシス−ポリブタジエンゴム中への1,2−ポリブタジエンの分散性が著しく向上しており、押出加工性及び引張応力を改良するものであることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭49−17666号公報
【特許文献2】特公昭49−17667号公報
【特許文献3】特開2000−44633号公報
【特許文献4】特開2008−163144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の方法により製造されたビニル・シス−ポリブタジエンゴムは、1,2−ポリブタジエン短繊維結晶の、マトリクス成分であるブタジエンゴム中への極微細分散が十分でないため、成形性、引張応力、引張強さ及び耐屈曲亀裂成長性などの点で必ずしも十分な効果を得られないという問題がある。
【0008】
一方、特許文献3及び特許文献4の方法により製造されたビニル・シス−ポリブタジエンゴムは、成形性、引張応力、引張強さ及び耐屈曲亀裂成長性などに優れるものの、成形性の更なる向上をはじめ、用途によっては種々の特性の改良が望まれている。
【0009】
そこで、本発明は、従来のビニル・シス−ポリブタジエンゴムに比べ、押出加工性、引張応力並びに耐疲労性をさらに向上させたビニル・シス−ポリブタジエンゴムを製造することが可能なビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、1,3−ブタジエンをシス−1,4重合する際に、ビニル含有率が75%以上であり、かつ、ビニル含有率とシス含有率の比(ビニル含有率/シス含有率)が3以上20以下であることを特徴とする1,2−ポリブタジエンと、1,3−ブタジエンと、炭化水素を主成分とする不活性有機溶媒との混合物を予め調製すること、また、シンジオタクチック−1,2重合する際の重合温度を60℃未満とすることによって、従来のビニル・シス−ポリブタジエンゴムに比べ、押出加工性、引張応力並びに耐疲労性をさらに向上させたビニル・シス−ポリブタジエンゴムを製造することができることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、ビニル含有率が75%以上であり、かつ、ビニル含有率/シス含有率が3以上20以下であることを特徴とする1,2−ポリブタジエンを、1,3−ブタジエンと炭化水素を主成分とする不活性有機溶媒との混合溶液を調製し、当該混合溶液に水、有機アルミニウム化合物及び可溶性コバルト化合物からなる触媒を添加して、1,3−ブタジエンをシス−1,4重合する第1工程と、第1工程で得られた重合反応混合物中の1,3−ブタジエンを60℃未満の温度でシンジオタクチック−1,2重合する第2工程からなることを特徴とするビニル・シス−ポリブタジエンゴム組成物の製造方法である。
【0012】
本発明に係るビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法において、前記1,2−ポリブタジエンは、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエンであることが好ましく、融点は、65℃〜150℃であることが好ましい。
【0013】
また、前記第3工程は、第2工程で得られた重合反応混合物中に、可溶性コバルト化合物、一般式AlR3(但し、Rは炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基又はシクロアルキル基である)により表される有機アルミニウム化合物、及びニ硫化炭素からなる触媒を存在させて、1,3−ブタジエンをシンジオタクチック−1,2重合することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法によれば、従来のビニル・シス−ポリブタジエンゴムに比べ、押出加工性、引張応力並びに耐疲労性をさらに向上させたビニル・シス−ポリブタジエンゴムを製造することができる。得られたビニル・シス−ポリブタジエンゴムをタイヤ用途などに用いた場合、製造工程においてその優れた加工性により作業性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法は、溶解された特定の1,2−ポリブタジエンと、1,3−ブタジエンと、炭化水素を主成分とする不活性有機溶媒との混合物に所定の触媒を添加して、1,3−ブタジエンのシス−1,4重合を行い、続いて60℃未満の温度で1,2重合を行うことによってビニル・シス−ポリブタジエンゴムを製造することを特徴とする。
【0016】
第1工程
本発明に係るビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法の第1工程において使用する1,2−ポリブタジエンは、コバルト化合物、一般式AlR3で表せる有機アルミニウム化合物及び二硫化炭素、アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、ニトリル、スルホキシド、アミド、ホスフィン、並びに燐酸エステルからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物、からなる触媒を用い、1,3−ブタジエンを重合することにより製造される。前記1,2−ポリブタジエンは、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエンであることが好ましい。また、前記1,2−ポリブタジエンのビニル含有率が75%以上であり、かつ、ビニル含有率/シス含有率が3以上20以下であることが好ましい。融点は、60℃〜150℃であることが好ましく、70℃〜140℃であることがさらに好ましい。
【0017】
前記1,2−ポリブタジエンの具体例としては、例えば、特開平2−158610号、特開平5−194656号、特開平6−25311号、特開平6−25312号、特開平6−93012号、特開平6−116318号、特開平6−128301号、特開平6−293852号、特開平8−208722号にそれぞれ記載の方法で合成することができるシンジオタクチック−1,2−ポリブタジエンが挙げられる。また、JSR製 RB−810、RB−820、RB−830、RB−840などの1,2−ポリブタジエン樹脂、日本曹達製ポリブタジエンB−1000、B−2000、B−3000などの1,2−ポリブタジエンが挙げられる。
【0018】
本発明に係るビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法において使用する不活性有機溶媒としては、トルエン、ベンゼン及びキシレン等の芳香族炭化水素、n−ヘキサン、ブタン、ヘプタン及びペンタン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン及びシクロペンタン等の脂環族炭化水素、上記のオレフィン化合物及びシス−2−ブテン、トランス−2−ブテン等のオレフィン系炭化水素、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ及びケロシン等の炭化水素系溶媒、並びに塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒などが挙げられる。また、1,3−ブタジエンモノマーそのものを重合溶媒として用いてもよい。
【0019】
上記の不活性有機溶媒の中でも、トルエン、シクロヘキサン、及びシス−2−ブテンとトランス−2−ブテンとの混合物などが好適に用いられる。
【0020】
本発明に係るビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法において、溶解された1,2−ポリブタジエンと、1,3−ブタジエンと、炭化水素を主成分とする不活性有機溶媒との混合物は、1,3−ブタジエン及び前記不活性有機溶媒に1,2−ポリブタジエンを溶解することより調製してもよい。1,2−ポリブタジエンが溶解し難い場合は30℃〜180℃に加熱し、溶解することができる。また、1,3−ブタジエンと前記不活性有機溶媒との混合物中において、上記の触媒系を用いて1,2−ポリブタジエンを合成して、溶解させて、混合物を調製してもよい。
【0021】
次に、調整された混合物中の水分の濃度を調整する。水分の濃度は、シス−1,4重合で用いる有機アルミニウム化合物1モル当たり、好ましくは0.1〜1.4モル、特に好ましくは0.2〜1.2モルの範囲である。この範囲外では触媒活性が低下したり、シス−1,4構造含有率が低下したり、分子量が異常に低く又は高くなったりするため好ましくない。また、上記の範囲外では、重合時のゲルの発生を抑制することができず、このため重合槽などへのゲルの付着が起り、さらに連続重合時間を延ばすことができないので好ましくない。水分の濃度を調整する方法は、公知の方法が適用できる。多孔質濾過材を通して添加・分散させる方法(特開平4−85304号公報)も有効である。
【0022】
上記のように水分の濃度を調整して得られた混合物に、有機アルミニウム化合物を添加する。有機アルミニウム化合物としては、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムクロライド、ジアルキルアルミニウムブロマイド、アルキルアルミニウムセスキクロライド、アルキルアルミニウムセスキブロマイド、及びアルキルアルミニウムジクロライドなどが挙げられる。
【0023】
具体的な有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、及びトリデシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウムが好適である。
【0024】
上記の有機アルミニウム化合物に加えて、ジメチルアルミニウムクロライド及びジエチルアルミニウムクロライドなどのジアルキルアルミニウムクロライド、セスキエチルアルミニウムクロライド及びエチルアルミニウムジクロライドなどの有機アルミニウムハロゲン化合物、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド及びセスキエチルアルミニウムハイドライドなどの水素化有機アルミニウム化合物を用いることもできる。これらの有機アルミニウム化合物は、2種類以上を併用することもできる。有機アルミニウム化合物の使用量は、1,3−ブタジエンの全量1モル当たり0.1ミリモル以上、特に0.5〜50ミリモルが好ましい。
【0025】
次いで、有機アルミニウム化合物を添加した混合物に可溶性コバルト化合物を添加して、1,3−ブタジエンをシス−1,4重合する。可溶性コバルト化合物としては、炭化水素を主成分とする不活性有機溶媒又は液体1,3−ブタジエンに可溶なものであるか、又は均一に分散できる、例えば、コバルト(II)アセチルアセトナート及びコバルト(III)アセチルアセトナートなどコバルトのβ−ジケトン錯体、コバルトアセト酢酸エチルエステル錯体のようなコバルトのβ−ケト酸エステル錯体、コバルトオクトエート、コバルトナフテネート及びコバルトベンゾエートなどの炭素数6以上の有機カルボン酸のコバルト塩、塩化コバルトピリジン錯体及び塩化コバルトエチルアルコール錯体などのハロゲン化コバルト錯体などが用いられる。可溶性コバルト化合物の使用量は、1,3−ブタジエンの1モル当たり0.001ミリモル以上、特に0.005ミリモル以上であることが好ましい。また、可溶性コバルト化合物に対する有機アルミニウム化合物のモル比(Al/Co)は10以上であり、特に50以上であることが好ましい。
【0026】
1,3−ブタジエンをシス−1,4重合する温度は、0℃を超えて100℃以下、好ましくは10〜100℃、さらに好ましくは20〜100℃である。重合時間は、10分〜2時間の範囲が好ましい。シス−1,4重合後のポリマー濃度が5〜26重量%となるように、シス−1,4重合を行うことが好ましい。重合は、重合槽(重合器)内にて溶液を攪拌混合して行う。重合に用いる重合槽としては、高粘度液攪拌装置付きの重合槽、例えば特公昭40−2645号公報に記載された装置を用いることができる。
【0027】
シス−1,4重合時に、公知の分子量調節剤、例えばシクロオクタジエン、アレン、メチルアレン(1,2−ブタジエン)などの非共役ジエン類、又はエチレン、プロピレン、ブテン−1などのα−オレフィン類を使用することができる。また、重合時のゲルの生成をさらに抑制するため、公知のゲル化防止剤を使用することができる。
【0028】
シス−1,4重合で得られるポリブタジエンのシス−1,4構造含有率は90%以上、特に95%以上であることが好ましい。ムーニー粘度(ML1+4,100℃。以下、「ML」とする)は10〜130、特に15〜80が好ましい。5%トルエン溶液粘度(Tcp)は、25〜250であることが好ましい。
【0029】
また、シス−1,4重合で得られるポリブタジエンは実質的にゲル分を含有しない。
【0030】
第2工程
次に、第1工程で得られた重合反応混合物中の1,3−ブタジエンをシンジオタクチック−1,2重合する。その際に、得られたシス−1,4重合物に、1,3−ブタジエンを添加しても添加しなくてもよい。また、この1、2重合する際に、一般式AlR3 により表される有機アルミニウム化合物及び二硫化炭素、並びに、必要に応じて前記の可溶性コバルト化合物を添加して1,3−ブタジエンを1,2重合することが好ましく、さらに、1,2重合する際に、重合系に水を添加してもよい。
【0031】
前記の一般式AlR3 により表される有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリn−ヘキシルアルミニウム及びトリフェニルアルミニウムなどが好適である。有機アルミニウム化合物は、1,3−ブタジエン1モル当たり0.1ミリモル以上、特に0.5〜50ミリモルが好ましい。二硫化炭素の濃度は、20ミリモル/L以下、特に好ましくは0.01〜10ミリモル/Lである。二硫化炭素の代替として、公知のイソチオシアン酸フェニルやキサントゲン酸化合物を使用してもよい。水は、有機アルミニウム化合物と接触させた後、重合系に添加することが好ましい。水の添加量は、有機アルミニウム化合物1モル当たり0.1〜1.5モルが好ましい。
【0032】
1,2重合する温度は、−5〜100℃が好ましく、特に0〜60℃が好ましい。1,2重合する際の重合系には、前記のシス重合液100重量部当たり1〜50重量部、好ましくは1〜20重量部の1,3−ブタジエンを添加する。これにより、1,2重合時の1,2−ポリブタジエンの収量を増大させることができる。重合時間は、10分〜2時間の範囲が好ましい。1,2重合後のポリマー濃度が9〜29重量%となるように、1,2重合を行うことが好ましい。重合は重合槽(重合器)内にて重合溶液を攪拌混合して行う。1,2重合に用いる重合槽としては、1,2重合中は更に高粘度となり、ポリマーが付着しやすいので、高粘度液攪拌装置付きの重合槽、例えば特公昭40−2645号公報に記載された装置を用いることができる。
【0033】
重合反応が所定の重合率に達した後、常法に従って公知の老化防止剤を添加することができる。老化防止剤としては、フェノール系の2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)、リン系のトリノニルフェニルフォスファイト(TNP)、並びに硫黄系の4.6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール及びジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート(TPL)などが挙げられる。これらを単独でも2種以上組み合わせて用いてもよく、老化防止剤の添加はビニル・シス−ポリブタジエン100重量部に対して0.001〜5重量部である。
【0034】
重合反応は、重合溶液にメタノール及びエタノールなどのアルコール、又は水などの極性溶媒を大量に投入する方法、あるいは前述した大量の極性溶媒中に重合溶液を投入する方法、塩酸及び硫酸などの無機酸、酢酸及び安息香酸などの有機酸、又は塩化水素ガスを重合溶液に導入する方法など、それ自体公知の方法を用いて停止する。次いで、通常の方法に従い、生成したビニル・シス−ポリブタジエンを分離、洗浄、続いて乾燥する。
【0035】
このようにして得られたビニル・シス−ポリブタジエンの沸騰n−ヘキサン不溶分(H.I)の割合は、3〜60重量%であることが好ましく、特に10〜40重量%が好ましい。また、沸騰n−ヘキサン可溶分は、ミクロ構造がシス80%以上のシス−1,4−ポリブタジエンである。
【0036】
上記の方法によって製造されたビニル・シス−ポリブタジエンゴムにおいては、融点が170℃以上である1,2−ポリブタジエンの、マトリクス成分であるシス−ポリブタジエンゴム中への分散性が著しく向上される。その結果、得られるビニル・シス−ポリブタジエンゴムは、押出加工性及び引張応力などの特性が優れたものとなる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて本発明に係るビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、本発明に係るビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法により製造されたビニル・シスポリブタジエンゴムの素ゴム、配合物及び加硫物の物性は、以下のようにして測定した。
【0038】
ムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、JIS K6300に準拠し、100℃にて予熱1分測定4分の値をムーニー粘度計(島津製作所製、SMV−202)により測定した。
【0039】
沸騰n−ヘキサン不溶分(H.I:シンジオタクチック−1,2−ポリブタジジエン成分)の融点、融解熱量及び結晶化温度は、試料約10mg、昇温速度10℃/minとした場合の値を示差走査熱量計(島津製作所製、DSC−50)により測定した。
【0040】
低融点SPBのミクロ構造、ビニル/シス比は、重水素化1,2−ジクロロベンゼン中で測定した1H−NMRスペクトルにより算出した。
【0041】
沸騰n−ヘキサン不溶分(H.I)は、示差走査熱量計(島津製作所製、DSC−50)により測定した融解熱量と、実測H.I測定法で得られたH.Iの検量線から求めた。実測H.I測定法においては、スターラー撹拌したn−ヘキサン350mlに、精秤したビニル・シス−ポリブタジエン5gをマッチの頭大の大きさに刻んで投入し、溶解させた。次に、この溶液を予め精秤した円筒濾紙(86R、20×100mm。アドバンテック社製)で濾過した。濾紙に残った不溶部は、n−ヘキサンで3時間ソックスレー抽出を行ない、60℃で3時間真空乾燥させ精秤して、H.Iの割合(重量%)を算出した。
【0042】
ηsp/cは、沸騰n−ヘキサン不溶分の分子量の大きさの目安として、0.20g/dlのテトラリン溶液から135℃で還元粘度を測定した。
【0043】
ダイ・スウェル比は、配合物の押出加工性の目安として、加工性測定装置(モンサント社製、MPT)を用いて、100℃、100sec−1のせん断速度で、押出時の配合物の断面積とダイオリフィス断面積(但し、L/D=1.5mm/1.5mm)の比を測定した。また、比較例1を100とし、指数を算出した。数値が小さいほど押出し加工性が良好なことを示す。
【0044】
引張弾性率は、JIS K6251に準拠して引張弾性率M100を測定した。また、比較例1を100とし、指数を算出した。数値が大きいほど引張応力が高いことを示す。
【0045】
伸張疲労性
定伸張疲労試験機(上島製作所製)を用いて、ダンベル状3号形(JIS−K6251)試験片の中央に0.5mmの傷を入れ、
初期歪50%、300回/分の条件で試験片が破断した回数を測定した。
【0046】
(実施例1)
第1工程
ヘリカル羽根を備えチッソ置換を終えた1.9Lステンレス製オートクレーブに、示差走査熱量計(島津製作所製、DSC−50)で測定した融点が128.0℃(ピークトップの温度)、ηsp/cが0.66、1,2−ビニル含有率80.2%、ビニル含有率/シス含有率=4.1のシンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン(低融点SPB)粉末を0.7g導入した後、チッソ置換を5kg/cmで5回行った。次に、1,3−ブタジエン、2−ブテン及びシクロヘキサンの重量比が32:31:35からなる混合液(FB)を1.2L導入した。撹拌スピードは500回転/分とした。水36.8mgを添加し、65℃で10分間SPBを溶解した後、25℃で20分間保持した。次に、1,5−シクロオクタジエン(COD)2.10ml、ジラウリル−3,3’−ジチオプロピオネート(TPL)のシクロヘキサン溶液(0.02M)0.9ml、及びジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)のシクロヘキサン溶液(2.0M)1.8mlを添加し、25℃で5分間反応させた。その後、溶液を60℃に昇温し、直ちにオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(5.0mM)1.4mlを添加して、60℃で20分間シス−1,4重合を行った。
第2工程
次に、トリエチルアルミニウム(TEA)のシクロヘキサン溶液(2.0M)2.34mlを添加し、5分後にオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)0.76ml及び二硫化炭素(CS)のシクロヘキサン溶液(0.25M)1.2mlを添加して、40℃で20分間1,2重合を行った。重合停止は、n−ヘプタンとエタノールの1:1混合液である「イルガノックス」(登録商標)1076(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)の0.2%溶液を1.2ml、及びナフトキノンのエタノール溶液(0.2M)を0.5ml加えて行った。次にオートクレーブを氷水で冷やしながら放圧し、圧力が常圧に戻った後、重合物をバットに回収し、100℃で3時間真空乾燥した。第1工程重合条件(シス−1,4重合)を表1に、第2工程重合条件(1,2重合)を表2に、重合結果を表3に示す。
【0047】
(実施例2)
第2工程におけるオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)の添加量を1.8mlとした以外は実施例1と同様の重合を行った。
【0048】
(実施例3)
第1工程
ヘリカル羽根を備えチッソ置換を終えた1.9Lステンレス製オートクレーブに、示差走査熱量計(島津製作所製、DSC−50)で測定した融点が128.0℃(ピークトップの温度)、ηsp/cが0.66、1,2−ビニル含有率80.2%、ビニル含有率/シス含有率=4.1のシンジオタクチック−1,2−ポリブタジジエン(低融点SPB)粉末を1.8g導入した後、チッソ置換を5kg/cmで5回行った。次に、1,3−ブタジエン、2−ブテン及びシクロヘキサンの重量比が32:31:35からなる混合液(FB)を1.2L導入した。撹拌スピードは500回転/分とした。水36.8mgを添加し、65℃で10分間SPBを溶解した後、25℃で20分間保持した。次に、1,5−シクロオクタジエン(COD)2.37ml、ジラウリル−3,3’−ジチオプロピオネート(TPL)のシクロヘキサン溶液(0.02M)0.9ml、及びジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)のシクロヘキサン溶液(2.0M)1.8mlを添加し、25℃で5分間反応させた。その後、溶液を60℃に昇温し、直ちにオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(5.0mM)1.65mlを添加して、60℃で20分間シス−1,4重合を行った。
第2工程
次に、トリエチルアルミニウム(TEA)のシクロヘキサン溶液(2.0M)2.34mlを添加し、5分後にオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)0.74ml及び二硫化炭素(CS)のシクロヘキサン溶液(0.25M)1.2mlを添加して、40℃で20分間1,2重合を行った。重合停止は、n−ヘプタンとエタノールの1:1混合液である「イルガノックス」(登録商標)1076(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)の0.2%溶液を1.2ml、及びナフトキノンのエタノール溶液(0.2M)を0.5ml加えて行った。次にオートクレーブを氷水で冷やしながら放圧し、圧力が常圧に戻った後、重合物をバットに回収し、100℃で3時間真空乾燥した。第1工程重合条件(シス−1,4重合)を表1に、第2工程重合条件(1,2重合)を表2に、重合結果を表3に示す。
【0049】
(実施例4)
第2工程におけるオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)の添加量を1.5mlとした以外は実施例3と同様の重合を行った。
【0050】
(実施例5)
第1工程
ヘリカル羽根を備えチッソ置換を終えた1.9Lステンレス製オートクレーブに、示差走査熱量計(島津製作所製、DSC−50)で測定した融点が128.0℃(ピークトップの温度)、ηsp/cが0.66、1,2−ビニル含有率80.2%、ビニル含有率/シス含有率=4.1のシンジオタクチック−1,2−ポリブタジジエン(低融点SPB)粉末を3.6g導入した後、チッソ置換を5kg/cmで5回行った。次に、1,3−ブタジエン、2−ブテン及びシクロヘキサンの重量比が32:31:35からなる混合液(FB)を1.2L導入した。撹拌スピードは500回転/分とした。水36.8mgを添加し、65℃で10分間SPBを溶解した後、25℃で20分間保持した。次に、1,5−シクロオクタジエン(COD)2.83ml、ジラウリル−3,3’−ジチオプロピオネート(TPL)のシクロヘキサン溶液(0.02M)0.9ml、及びジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)のシクロヘキサン溶液(2.0M)1.8mlを添加し、25℃で5分間反応させた。その後、溶液を60℃に昇温し、直ちにオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(5.0mM)2.3mlを添加して、60℃で20分間シス−1,4重合を行った。
第2工程
次に、トリエチルアルミニウム(TEA)のシクロヘキサン溶液(2.0M)2.34mlを添加し、5分後にオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)0.75ml及び二硫化炭素(CS)のシクロヘキサン溶液(0.25M)1.2mlを添加して、40℃で20分間1,2重合を行った。重合停止は、n−ヘプタンとエタノールの1:1混合液である「イルガノックス」(登録商標)1076(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)の0.2%溶液を1.2ml、及びナフトキノンのエタノール溶液(0.2M)を0.5ml加えて行った。次にオートクレーブを氷水で冷やしながら放圧し、圧力が常圧に戻った後、重合物をバットに回収し、100℃で3時間真空乾燥した。第1工程重合条件(シス−1,4重合)を表1に、第2工程重合条件(1,2重合)を表2に、重合結果を表3に示す。
【0051】
(実施例6)
第2工程におけるオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)の添加量を1.5mlとした以外は実施例5と同様の重合を行った。
【0052】
(実施例7)
第1工程
ヘリカル羽根を備えチッソ置換を終えた1.9Lステンレス製オートクレーブに、示差走査熱量計(島津製作所製、DSC−50)で測定した融点が105℃(ピークトップの温度)、1,2−ビニル含有率93%、ビニル含有率/シス含有率=13.9のシンジオタクチック−1,2−ポリブタジジエン(低融点SPB)粉末を0.4g導入した後、チッソ置換を5kg/cmで5回行った。次に、1,3−ブタジエン、2−ブテン及びシクロヘキサンの重量比が32:31:35からなる混合液(FB)を0.8L導入した。撹拌スピードは500回転/分とした。水24.5mgを添加し、65℃で10分間SPBを溶解した後、25℃で20分間保持した。次に、1,5−シクロオクタジエン(COD)1.61ml、ジラウリル−3,3’−ジチオプロピオネート(TPL)のシクロヘキサン溶液(0.02M)0.6ml、及びジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)のシクロヘキサン溶液(2.0M)1.2mlを添加し、25℃で5分間反応させた。その後、溶液を60℃に昇温し、直ちにオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(5.0mM)0.98mlを添加して、60℃で20分間シス−1,4重合を行った。
第2工程
次に、トリエチルアルミニウム(TEA)のシクロヘキサン溶液(2.0M)1.56mlを添加し、5分後にオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)0.53ml及び二硫化炭素(CS)のシクロヘキサン溶液(0.25M)0.8mlを添加して、40℃で20分間1,2重合を行った。重合停止は、n−ヘプタンとエタノールの1:1混合液である「イルガノックス」(登録商標)1076(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)の0.2%溶液を0.8ml、及びナフトキノンのエタノール溶液(0.2M)を0.3ml加えて行った。次にオートクレーブを氷水で冷やしながら放圧し、圧力が常圧に戻った後、重合物をバットに回収し、100℃で3時間真空乾燥した。第1工程重合条件(シス−1,4重合)を表1に、第2工程重合条件(1,2重合)を表2に、重合結果を表3に示す。
【0053】
(実施例8)
第1工程におけるシンジオタクチック−1,2−ポリブタジジエン(低融点SPB)粉末の添加量を0.8g、1,5−シクロオクタジエン(COD)の添加量を1.65ml、オクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(5.0mM)の添加量を1.13ml、第2工程におけるオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)の添加量を0.5mlとした以外は実施例7と同様の重合を行った。
【0054】
(実施例9)
第1工程におけるシンジオタクチック−1,2−ポリブタジジエン(低融点SPB)粉末の添加量を1.2g、1,5−シクロオクタジエン(COD)の添加量を1.71ml、オクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(5.0mM)の添加量を1.24ml、第2工程におけるオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)の添加量を0.52mlとした以外は実施例7と同様の重合を行った。
【0055】
(実施例10)
第1工程におけるシンジオタクチック−1,2−ポリブタジジエン(低融点SPB)粉末の添加量を1.6g、1,5−シクロオクタジエン(COD)の添加量を1.82ml、オクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(5.0mM)の添加量を1.44ml、第2工程におけるオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)の添加量を0.55mlとした以外は実施例7と同様の重合を行った。
【0056】
(実施例11)
第1工程
ヘリカル羽根を備えチッソ置換を終えた1.9Lステンレス製オートクレーブに、示差走査熱量計(島津製作所製、DSC−50)で測定した融点が95℃(ピークトップの温度)、1,2−ビニル含有率92%、ビニル含有率/シス含有率=11.9のシンジオタクチック−1,2−ポリブタジジエン(低融点SPB)粉末を0.45g導入した後、チッソ置換を5kg/cmで5回行った。次に、1,3−ブタジエン、2−ブテン及びシクロヘキサンの重量比が32:31:35からなる混合液(FB)を0.9L導入した。撹拌スピードは500回転/分とした。水27.6mgを添加し、65℃で10分間SPBを溶解した後、25℃で20分間保持した。次に、1,5−シクロオクタジエン(COD)1.55ml、ジラウリル−3,3’−ジチオプロピオネート(TPL)のシクロヘキサン溶液(0.02M)0.68ml、及びジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)のシクロヘキサン溶液(2.0M)1.35mlを添加し、25℃で5分間反応させた。その後、溶液を60℃に昇温し、直ちにオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(5.0mM)1.55mlを添加して、60℃で20分間シス−1,4重合を行った。
第2工程
次に、トリエチルアルミニウム(TEA)のシクロヘキサン溶液(2.0M)1.76mlを添加し、5分後にオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)0.56ml及び二硫化炭素(CS)のシクロヘキサン溶液(0.25M)0.9mlを添加して、40℃で20分間1,2重合を行った。重合停止は、n−ヘプタンとエタノールの1:1混合液である「イルガノックス」(登録商標)1076(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)の0.2%溶液を0.9ml、及びナフトキノンのエタノール溶液(0.2M)を0.4ml加えて行った。次にオートクレーブを氷水で冷やしながら放圧し、圧力が常圧に戻った後、重合物をバットに回収し、100℃で3時間真空乾燥した。第1工程重合条件(シス−1,4重合)を表1に、第2工程重合条件(1,2重合)を表2に、重合結果を表3に示す。
【0057】
(実施例12)
第1工程におけるシンジオタクチック−1,2−ポリブタジジエン(低融点SPB)粉末の添加量を0.9g、1,5−シクロオクタジエン(COD)の添加量を1.65ml、オクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(5.0mM)の添加量を1.91mlとした以外は実施例11と同様の重合を行った。
【0058】
(実施例13)
第1工程におけるシンジオタクチック−1,2−ポリブタジジエン(低融点SPB)粉末の添加量を1.35g、1,5−シクロオクタジエン(COD)の添加量を1.79ml、オクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(5.0mM)の添加量を2.5ml、第2工程におけるオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)の添加量を0.49mlとした以外は実施例11と同様の重合を行った。
【0059】
(実施例14)
第1工程
ヘリカル羽根を備えチッソ置換を終えた1.9Lステンレス製オートクレーブに、示差走査熱量計(島津製作所製、DSC−50)で測定した融点が139.8℃(ピークトップの温度)、ηsp/cが0.55、1,2−ビニル含有率83.1%、ビニル含有率/シス含有率=5.0のシンジオタクチック−1,2−ポリブタジジエン(低融点SPB)粉末を1.8g導入した後、チッソ置換を5kg/cmで5回行った。次に、1,3−ブタジエン、2−ブテン及びシクロヘキサンの重量比が32:31:35からなる混合液(FB)を1.2L導入した。撹拌スピードは600回転/分とした。水36.8mgを添加し、65℃で10分間SPBを溶解した後、25℃で20分間保持した。次に、1,5−シクロオクタジエン(COD)2.25ml、ジラウリル−3,3’−ジチオプロピオネート(TPL)のシクロヘキサン溶液(0.02M)0.9ml、及びジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)のシクロヘキサン溶液(2.0M)1.8mlを添加し、25℃で5分間反応させた。その後、溶液を60℃に昇温し、直ちにオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(5.0mM)1.6mlを添加して、60℃で20分間シス−1,4重合を行った。
第2工程
次に、トリエチルアルミニウム(TEA)のシクロヘキサン溶液(2.0M)2.34mlを添加し、5分後にオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)0.76ml及び二硫化炭素(CS)のシクロヘキサン溶液(0.25M)1.2mlを添加して、40℃で20分間1,2重合を行った。重合停止は、n−ヘプタンとエタノールの1:1混合液である「イルガノックス」(登録商標)1076(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)の0.2%溶液を1.2ml、及びナフトキノンのエタノール溶液(0.2M)を0.5ml加えて行った。次にオートクレーブを氷水で冷やしながら放圧し、圧力が常圧に戻った後、重合物をバットに回収し、100℃で3時間真空乾燥した。第1工程重合条件(シス−1,4重合)を表1に、第2工程重合条件(1,2重合)を表2に、重合結果を表3に示す。
【0060】
(実施例15)
第1工程
ヘリカル羽根を備えチッソ置換を終えた1.9Lステンレス製オートクレーブに、示差走査熱量計(島津製作所製、DSC−50)で測定した融点が111.5℃(ピークトップの温度)、ηsp/cが0.96、1,2−ビニル含有率76.7%、ビニル含有率/シス含有率=3.3のシンジオタクチック−1,2−ポリブタジジエン(低融点SPB)粉末を1.8g導入した後、チッソ置換を5kg/cmで5回行った。次に、1,3−ブタジエン、2−ブテン及びシクロヘキサンの重量比が32:31:35からなる混合液(FB)を1.2L導入した。撹拌スピードは600回転/分とした。水36.8mgを添加し、65℃で10分間SPBを溶解した後、25℃で20分間保持した。次に、1,5−シクロオクタジエン(COD)2.43ml、ジラウリル−3,3’−ジチオプロピオネート(TPL)のシクロヘキサン溶液(0.02M)0.9ml、及びジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)のシクロヘキサン溶液(2.0M)1.8mlを添加し、25℃で5分間反応させた。その後、溶液を60℃に昇温し、直ちにオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(5.0mM)1.75mlを添加して、60℃で20分間シス−1,4重合を行った。
第2工程
次に、トリエチルアルミニウム(TEA)のシクロヘキサン溶液(2.0M)2.34mlを添加し、5分後にオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)0.74ml及び二硫化炭素(CS)のシクロヘキサン溶液(0.25M)1.2mlを添加して、40℃で20分間1,2重合を行った。重合停止は、n−ヘプタンとエタノールの1:1混合液である「イルガノックス」(登録商標)1076(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)の0.2%溶液を1.2ml、及びナフトキノンのエタノール溶液(0.2M)を0.5ml加えて行った。次にオートクレーブを氷水で冷やしながら放圧し、圧力が常圧に戻った後、重合物をバットに回収し、100℃で3時間真空乾燥した。第1工程重合条件(シス−1,4重合)を表1に、第2工程重合条件(1,2重合)を表2に、重合結果を表3に示す。
【0061】
(実施例16)
第1工程における1,5−シクロオクタジエン(COD)の添加量を1.78ml、オクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(5.0mM)の添加量を1.2ml、第2工程におけるオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)の添加量を0.51mlとした以外は実施例9と同様の重合を行った。
【0062】
(実施例17)
第2工程におけるオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)の添加量を0.55ml、重合温度を45℃とした以外は実施例16と同様の重合を行った。
【0063】
(実施例18)
第2工程におけるオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)の添加量を0.58ml、重合温度を50℃とした以外は実施例16と同様の重合を行った。
【0064】
(実施例19)
第2工程におけるオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)の添加量を0.61ml、重合温度を55℃とした以外は実施例16と同様の重合を行った。
【0065】
(比較例1)
第2工程におけるオクテン酸コバルト(Co(Oct))のシクロヘキサン溶液(0.05M)の添加量を0.67ml、重合温度を60℃とした以外は実施例16と同様の重合を行った。
【0066】
前記実施例1〜19で得られたビニル・シス−ポリブタジエンゴムを、表4の配合表に従ってプラストミルでカーボンブラック、天然ゴム、亜鉛華、ステアリン酸及び老化防止剤を加えて混練する一次配合を実施し、次いで、ロールにて加硫促進剤及び硫黄を添加する二次配合を実施して、配合物を作製した。この配合物を用いて、ダイ・スウェル比を測定した。さらに、この配合物を目的物性に応じて成型し、150℃にてプレス加硫して加硫物を得た後、引張弾性率M100、50%伸張疲労性を測定した。配合物及び加硫物の物性測定結果について、比較例2として、市販のビニル・シス−ポリブタジエンゴムであるUBEPOL VCR412(宇部興産株式会社製)を用い、これを100とした指数を表5に示す。表5の結果から、実施例1〜19で得られたビニル・シス−ポリブタジエンゴムを用いた場合、比較例1、2と比べ、配合物及び加硫物の押出加工性、引張応力並びに耐伸張疲労性が向上していることが分かる。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル含有率が75%以上であり、かつ、ビニル含有率とシス含有率の比(ビニル含有率/シス含有率)が3以上20以下であることを特徴とする1,2−ポリブタジエンを、1,3−ブタジエンと炭化水素を主成分とする不活性有機溶媒に溶解させた混合溶液を調製し、当該混合溶液に水、有機アルミニウム化合物及び可溶性コバルト化合物からなる触媒を添加して、1,3−ブタジエンをシス−1,4重合する第1工程と、第1工程で得られた重合反応混合物中の1,3−ブタジエンを、温度60℃未満でシンジオタクチック−1,2重合する第2工程からなることを特徴とするビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法。
【請求項2】
前記1,2−ポリブタジエンの融点が60℃〜150℃であることを特徴とする請求項1記載のビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法。
【請求項3】
ビニル・シス−ポリブタジエンゴムに対する前記1,2−ポリブタジエンの添加率が5%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法。
【請求項4】
前記第2工程は、第1工程で得られた重合反応混合物中に、可溶性コバルト化合物、一般式AlR3(但し、Rは炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基又はシクロアルキル基である)により表される有機アルミニウム化合物、及びニ硫化炭素からなる触媒を存在させて、1,3−ブタジエンをシンジオタクチック−1,2重合することを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載のビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか記載のビニル・シス−ポリブタジエンゴムの製造方法によって製造されたビニル・シス−ポリブタジエンゴム。

【公開番号】特開2011−184570(P2011−184570A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51364(P2010−51364)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】