説明

ビーム整形光学系および走査型顕微鏡

【課題】エネルギー損失が少なく、よりコンパクトな構成で、入射光束の強度分布を均一な分布に変換できるようにする。
【解決手段】入射面21と射出面22の曲率半径とコーニック定数が負となるようにし、射出瞳半径をD_expとして、ビーム整形光学系11の光軸からの各高さhの位置における、入射面21と射出面22のサグ量の差分が0<h<D_expにおいて常に正であり、かつ少なくとも1つの変曲点をもつとともに、変曲点のうち、光軸からの高さが最も小さい変曲点の光軸からの高さをh_inflとし、ビーム整形光学系11の入射瞳半径をD_entとしたときに、h_infl/D_ent<0.6を満たし、さらに、サグ量の差分の一次微分値が2つの変曲点をもつように、ビーム整形光学系11を構成する。これにより、1つのレンズ素子により、入射光束の強度分布を均一な分布に整形することができる。本発明は、非球面レンズに適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光束の光強度分布を変換して射出するビーム整形光学系、およびこのビーム整形光学系を用いた走査型顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体レーザを光源として用いるデバイスとして、光学記録媒体用の光ピックアップ装置やレーザプリンタなどの走査光学系、レーザ加工機、光通信デバイスなどが知られている。例えば、レーザ加工では、対象物や加工目的によって、炭酸ガスレ−ザ、YAGレーザなどのパルス光や連続光が利用される。
【0003】
半導体レーザ等の光源から射出されるレーザビームは、その光束の中心部でパワー密度が高く、光束の周辺部ではパワー密度が低い不均一なパワー分布(光強度分布)を有している。レーザビームのパワー分布は様々であるが、理想的にはガウス分布となるので、半導体レーザから射出されたレーザビームは、ガウシアンビームと呼ばれている。
【0004】
このようなガウシアンビームは、そのまま対象物の加工に利用できる場合もあるが、光束のある範囲でパワー密度が均一であることが望まれることもある。
【0005】
例えば、対象物に丸穴を穿孔しようとする場合、ガウシアンビームがレンズまたは回折型光学部品である円領域で一様なパワー密度を持つビームに変換されてから、レンズで絞られて対象物に照射される。このように、ガウシアンビームを一様なパワー密度を持つビームに整形する技術として、前群と後群とから構成されるアフォーカル系のビーム整形光学系が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4378963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したアフォーカル系のビーム整形光学系は、非球面レンズを含む複数のレンズから構成されているため、十分な光学性能を得るためには精度の高いレンズ調整が必要となる。また、ビーム整形光学系を構成する前群と後群が離れているために光学系のサイズが大きく、既存の装置に組み込むことは困難であった。
【0008】
さらに、例えば半導体レーザ等を光源として用いた共焦点顕微鏡において、走査光学系の瞳位置が対物レンズの射出瞳位置と共役な位置からずれていると、対物レンズの射出瞳上の励起光強度分布が一様でなくなり、標本上に形成される励起光の軸外の点像強度分布が歪んでしまうという問題があった。しかも共焦点顕微鏡では、対物レンズの射出瞳上における励起光の光強度分布を一様にするために、励起光のビーム幅を広げようとするとエネルギー損失が大きくなってしまう。
【0009】
以上のような理由により、入射した光の光強度分布を均一な分布に変換する、エネルギー損失が少なくコンパクトなビーム整形光学系が望まれていた。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、エネルギー損失が少なくコンパクトな構成で、入射した光の光強度分布を略均一な分布に変換することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のビーム整形光学系は、物体側から像側に光が進行する場合に、前記物体側からの光が入射する入射面と、前記入射面に入射した前記光が射出される射出面とを有するビーム整形光学系であって、前記入射面の曲率半径とコーニック定数が負であり、前記射出面の曲率半径とコーニック定数が負であり、前記ビーム整形光学系の射出瞳半径をD_expとしたときに、前記ビーム整形光学系の光軸からの各高さhの位置における、前記入射面のサグ量と前記射出面のサグ量の差分が、0<h<D_expにおいて、常に正であり、かつ少なくとも1つの変曲点をもつとともに、前記変曲点のうち、前記光軸からの高さが最も小さい変曲点の前記光軸からの高さをh_inflとし、前記ビーム整形光学系の入射瞳半径をD_entとしたときに、h_infl/D_ent<0.6を満たし、さらに、前記サグ量の差分の一次微分値が2つの変曲点をもつことを特徴とする。
【0012】
本発明の走査型顕微鏡は、観察対象の標本に照射する照明光を射出する光源と、前記光源からの前記照明光を偏向させて前記標本に照射することで、前記標本上で前記照明光を所定方向に走査させる走査手段と、前記光源と前記走査手段との間に配置され、前記照明光のビーム幅を広げずに、略均一な光強度分布を有するように前記照明光を整形するビーム整形手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エネルギー損失が少なくコンパクトな構成で、入射した光の光強度分布を略均一な分布に変換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用したビーム整形光学系の一実施の形態の構成例を示す図である。
【図2】ビーム整形光学系のレンズデータを示す図である。
【図3】ビーム整形光学系のサグ量を示す図である。
【図4】ビーム整形光学系のサグ量の差分を示す図である。
【図5】ビーム整形光学系のサグ量の差分の一次微分値を示す図である。
【図6】ビーム整形光学系のレンズデータを示す図である。
【図7】ビーム整形光学系のサグ量を示す図である。
【図8】ビーム整形光学系のサグ量の差分を示す図である。
【図9】ビーム整形光学系のサグ量の差分の一次微分値を示す図である。
【図10】本発明を適用した走査型顕微鏡の一実施の形態の構成例を示す図である。
【図11】照明光の光強度分布の重心のずれを示す図である。
【図12】照明光の光強度分布の重心のずれを示す図である。
【図13】標本に照射される照明光の光強度分布の歪みを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明を適用した実施の形態について説明する。
【0016】
〈第1の実施の形態〉
図1は、本発明を適用したビーム整形光学系の一実施の形態の構成例を示す図である。なお、図中、点線はビーム整形光学系を通る光の光路を示しており、一点鎖線はビーム整形光学系の光軸を示している。また、図中、左側が物体側であり、右側が像側である。
【0017】
このビーム整形光学系11は、平行光として入射する光束を再び平行光として射出するアフォーカル系を構成する。また、ビーム整形光学系11は、ガウス分布等の不均一な光強度分布を有する入射光束を、ビーム整形光学系11の光軸と垂直な方向に略均一な光強度分布を有するように整形して、射出するものである。
【0018】
具体的には、ビーム整形光学系11は、出射光束の光強度分布中に、光強度が略均一となる領域を有するように、入射した光束の光強度を変換するものである。すなわち、ビーム整形光学系11は、入射した光束のビーム幅を広げることなく、光強度分布における光強度(パワー)のピーク部分が広がるように、入射光束の光強度分布を変換する。なお、以下、光強度が略均一となる領域を有する光強度分布を、トップハット形状の光強度分布とも称することとする。
【0019】
ビーム整形光学系11は、例えば、非球面レンズ等の1つのレンズ素子から構成され、光源からの平行光束が入射する入射面21と、後段の光学系に平行光束を射出する射出面22とを有しており、入射面21と射出面22は、ともに光軸対称な非球面形状となっている。また、ビーム整形光学系11における光の光路、つまり入射面21から射出面22までは全て屈折率が1以上の媒質で満たされている。
【0020】
このようなビーム整形光学系11の入射面21には、図中、左側、すなわち物体側にある光源からレーザビームが入射し、このレーザビームがビーム整形光学系11で整形されて、射出面22から図中、右側、つまり像側に射出される。ここで、光源からのレーザビームの光強度分布は、レーザビームの中心部でパワー密度が高く、レーザビームの周辺部ではパワー密度が低いガウス分布となっている。
【0021】
なお、光強度分布がガウス分布となるレーザビームとは、ビーム整形光学系11の光軸からの高さhにおける入射ビーム強度をI(h)としたときに、I(h)=Iexp(−2h/ω)を満たすビームをいう。ここで、Iは、入射したビームのビーム整形光学系11の光軸中心における入射ビーム強度であり、ωはビーム整形光学系11の光軸中心に対して、1/e強度点における入射ビーム半径である。
【0022】
図1では、ビーム整形光学系11に、ビーム整形光学系11の光軸と垂直な方向(以下、高さ方向と呼ぶ)に等間隔で並ぶ互いに平行な複数の光束が入射した場合、光軸付近の光束は、それらの光束同士の高さ方向の距離が入射面21よりも射出面22でより長くなっている。逆に、ビーム整形光学系11の光軸から遠い、ビーム整形光学系11のレンズ端付近の光束は、それらの光束同士の高さ方向の距離が、入射面21よりも射出面22でより短くなっている。
【0023】
すなわち、ビーム整形光学系11によれば、入射光束は、中心(光軸)付近のパワー密度が疎となり、レンズ端付近のパワー密度がより密になるように、かつ全体のビーム半径はより小さくなるように整形されることになる。したがって、ビーム整形光学系11に、光強度分布がガウス分布である光束が入射すると、その光束は、トップハット形状の光強度分布を有する光束に整形されて射出されることになる。
【0024】
次に、ビーム整形光学系11の具体的な光学特性について説明する。
【0025】
例えば、図2に示すように、ビーム整形光学系11の入射瞳半径D_entは4mmとされ、射出瞳半径D_expは3.719mmとされ、上述した1/e強度点での入射ビーム半径ωは4mmとされる。
【0026】
また、入射面21の曲率半径は-4.528mmであり、入射面21のコーニック定数は-0.887である。さらに、入射面21の各次数の非球面係数は次の通りである。すなわち、4次係数が5.161E-03であり、6次係数が1.063E-04であり、8次係数が-2.246E-05である。また、10次係数が1.548E-06であり、12次係数が-5.516E-08であり、14次係数が8.124E-10である。
【0027】
一方、射出面22の曲率半径は-6.402mmであり、射出面22のコーニック定数は-0.995である。さらに、射出面22の各次数の非球面係数は次の通りである。すなわち、4次係数が1.161E-03であり、6次係数が7.466E-05であり、8次係数が-5.560E-06である。また、10次係数が1.141E-06であり、12次係数が-9.089E-08であり、14次係数が3.048E-09である。
【0028】
なお、入射面21と射出面22の曲率半径は、それらの球面中心が面に対してビーム整形光学系11の像側にある場合、正となる。
【0029】
さらに、ビーム整形光学系11の光軸に沿ったレンズ厚は5.5mmであり、ビーム整形光学系11を構成するレンズの媒質屈折率(d線)は1.5168である。
【0030】
また、射出瞳径を1に規格化した場合における、ビーム整形光学系11の光軸から高さh(但し、0≦h≦D_exp)における入射面21と射出面22のサグ量は、図3に示すようになっている。なお、図3において、縦軸はサグ量を示しており、横軸は光軸からの高さを示している。また、サグ量は、図1中、右方向(像側方向)、すなわちビーム整形光学系11に入射するレーザビームの進行方向が正とされている。
【0031】
図3では、曲線C11は、入射面21の各位置(高さh)におけるサグ量を示しており、曲線C12は射出面22の各位置(高さh)におけるサグ量を示しており、射出面22に比べて、入射面21のサグ量がやや大きくなっている。
【0032】
また、ビーム整形光学系11の光軸からの高さhにおける、入射面21および射出面22のそれぞれのサグ量Sag1(h)およびサグ量Sag2(h)の差分をSagDiff(h)=Sag2(h)−Sag1(h)とすると、各高さhにおけるサグ量の差分SagDiff(h)は、図4に示すようになる。なお、図4において、縦軸はサグ量の差分SagDiff(h)を示しており、横軸は光軸からの高さh(但し、0≦h≦D_exp)を示している。また、図4における場合においても、射出瞳径が1に規格化されているものとする。
【0033】
図4では、サグ量の差分SagDiff(h)は、0<h<D_expにおいて常に正であり、光軸からの各高さhにおけるサグ量の差分SagDiff(h)を表す曲線から分かるように、射出瞳径を少し制限すれば、差分SagDiff(h)の変曲点の数は1つになる。この場合、ビーム整形光学系11に入射する光束のエネルギー損失は10%に満たなくなる。一方、差分SagDiff(h)の変曲点数を0にするためには、射出瞳を大幅に制限することが必要となり、入射光束のエネルギーが半分以上失われることになる。したがって、エネルギー損失の観点からは、差分SagDiff(h)の変曲点数が1つ以上であることが望ましい。
【0034】
また、差分SagDiff(h)の変曲点のうち、ビーム整形光学系11の光軸からの高さhが最も光軸(高さh=0)に近い変曲点の光軸からの高さhをh_inflとすると、高さh_inflを入射瞳半径D_entで除算して得られる値h_infl/D_entは0.525となる。
【0035】
このh_infl/D_entが0.6を超えると、ビーム整形光学系11の入射瞳に対して、1/e強度点での入射ビーム半径ωの値が大きくなるので、ビーム整形光学系11に入射するレーザビームのエネルギーが無駄になってしまう。換言すれば、光源からの光の大部分がビーム整形光学系11に入射しなくなってしまう。そのため、エネルギー損失を少なくするには、ビーム整形光学系11のh_infl/D_entは0.6未満であることが望ましい。
【0036】
さらに、上述したサグ量の差分SagDiff(h)を、光軸からの高さhで微分して得られる一次微分値d/dh(SagDiff(h))は、図5に示すようになる。すなわち、図5では、0≦h≦D_expの範囲で、一次微分値d/dh(SagDiff(h))は2つの変曲点を有している。
【0037】
なお、図5において、縦軸は一次微分値d/dh(SagDiff(h))を示しており、横軸はビーム整形光学系11の光軸からの高さhを示している。また、図5における場合においても、射出瞳径が1に規格化されているものとする。
【0038】
入射ビームがビーム整形光学系11から略ロスなく射出されるか、またはビーム整形光学系11の有効径により入射ビームが制限される場合、入射ビームのエネルギーは、常にビーム整形光学系11から射出される射出ビームのエネルギーよりも大きくなる。また、光強度分布がガウス分布である入射ビームは、ビーム整形光学系11によりトップハット形状の光強度分布を有するビームに整形される。
【0039】
以上のことから、入射ビームの光強度の最大値は、必ず射出ビームの光強度の最大値よりも大きくなる。したがって、入射ビームは射出ビームの光強度の最大値より強度が大きいビーム光束と強度が小さいビーム光束に2分することができる。
【0040】
エネルギー保存を考えれば、射出ビームの光強度の最大値よりも大きな光強度をもつ入射ビーム光束は、ビーム整形光学系11への入射時の光束断面積に対して、ビーム整形光学系11からの射出時の光束断面積が必ず大きくなる必要がある。したがって、射出ビームの光強度の最大値よりも大きな光強度をもつ入射ビーム光束は、入射面21を通過した後、発散する。
【0041】
これに対して、射出ビームの光強度の最大値よりも小さな光強度をもつ入射ビーム光束は、ビーム整形光学系11への入射時の光束断面積に対して、ビーム整形光学系11からの射出時の光束断面積が必ず小さくなる必要がある。したがって、射出ビームの光強度の最大値よりも小さな光強度をもつ入射ビーム光束は、入射面21を通過した後、収束する。
【0042】
入射ビーム光束の光強度分布は、光軸対称のガウス分布であるので、ビーム整形光学系11の光軸に近い光束は発散し、光軸から離れるにしたがって光束の状態は発散から収束方向へ変化していく。
【0043】
一方、入射面21と射出面22がそれぞれ1つのアフォーカル光学系であることから、任意の光線の入射面21との交点における入射面法線ベクトルと、その光線の射出面22との交点における射出面法線ベクトルとは必ず一致しなくてはならない。
【0044】
それぞれ1つの連続面から構成される入射面21と射出面22とで、入射面法線ベクトルと射出面法線ベクトルが一致する条件は、上述した一次微分値d/dh(SagDiff(h))が、2つの変曲点を持つことである。図5から分かるように、ビーム整形光学系11の一次微分値d/dh(SagDiff(h))は、0<h<D_expにおいて2つの変曲点を有することから、入射面21と射出面22はそれぞれ1つのアフォーカル光学系となる。
【0045】
以上のように、入射面21と射出面22の曲率半径およびコーニック定数がともに負であり、サグ量の差分SagDiff(h)が、0<h<D_expにおいて常に正で少なくとも1つの変曲点を持つとともにh_infl/D_ent<0.6を満たし、一次微分値d/dh(SagDiff(h))が、2つの変曲点を持つように、ビーム整形光学系11を構成すれば、エネルギー損失が少なくコンパクトな構成で、入射した光の光強度分布をトップハット形状に変換することができる。
【0046】
〈第2の実施の形態〉
なお、以上においては、ビーム整形光学系11は、図2に示す光学特性を有すると説明したが、図6に示す光学特性を有するようにしてもよい。
【0047】
すなわち、図6に示すように、ビーム整形光学系11の入射瞳半径D_entは4mmとされ、射出瞳半径D_expは3.428mmとされ、上述した1/e強度点での入射ビーム半径ωは3.578mmとされる。
【0048】
また、入射面21の曲率半径は-4.513mmであり、入射面21のコーニック定数は-2.600である。さらに、入射面21の各次数の非球面係数は次の通りである。すなわち、4次係数が4.635E-03であり、6次係数が7.086E-05であり、8次係数が-1.956E-05である。また、10次係数が1.473E-06であり、12次係数が-5.709E-08であり、14次係数が9.126E-10である。
【0049】
一方、射出面22の曲率半径は-6.387mmであり、射出面22のコーニック定数は-1.121である。さらに、射出面22の各次数の非球面係数は次の通りである。すなわち、4次係数が1.473E-03であり、6次係数が1.809E-04であり、8次係数が-4.139E-05である。また、10次係数が8.050E-06であり、12次係数が-6.969E-07であり、14次係数が2.446E-08である。
【0050】
さらに、ビーム整形光学系11の光軸に沿ったレンズ厚は5.5mmであり、ビーム整形光学系11を構成するレンズの媒質屈折率(d線)は1.5168である。
【0051】
また、射出瞳径を1に規格化した場合における、ビーム整形光学系11の光軸から高さhにおける入射面21と射出面22のサグ量は、図7に示すようになっている。なお、図7において、縦軸はサグ量を示しており、横軸は光軸からの高さh(但し、0≦h≦D_exp)を示している。また、サグ量は、図1中、右方向(像側方向)、すなわちビーム整形光学系11に入射するレーザビームの進行方向が正とされている。
【0052】
図7では、曲線C31は、入射面21の各位置におけるサグ量を示しており、曲線C32は射出面22の各位置におけるサグ量を示している。
【0053】
また、ビーム整形光学系11における、入射面21および射出面22のそれぞれのサグ量Sag1(h)およびサグ量Sag2(h)の差分SagDiff(h)は、図8に示すようになる。なお、図8において、縦軸はサグ量の差分SagDiff(h)を示しており、横軸は光軸からの高さh(但し、0≦h≦D_exp)を示している。また、図8における場合においても、射出瞳径が1に規格化されているものとする。
【0054】
図8では、サグ量の差分SagDiff(h)は、0<h<D_expにおいて常に正であり、射出瞳径を少し制限すれば、差分SagDiff(h)の変曲点の数は1つになる。
【0055】
また、差分SagDiff(h)の変曲点のうち、ビーム整形光学系11の光軸からの高さhが最も光軸(高さh=0)に近い変曲点の光軸からの高さh_inflを、入射瞳半径D_entで除算して得られる値h_infl/D_entは0.475<0.6となる。
【0056】
さらに、ビーム整形光学系11のサグ量の差分SagDiff(h)の一次微分値d/dh(SagDiff(h))は、図9に示すようになる。図9では、一次微分値d/dh(SagDiff(h))は、0<h<D_expにおいて2つの変曲点を有している。
【0057】
なお、図9において、縦軸は一次微分値d/dh(SagDiff(h))を示しており、横軸はビーム整形光学系11の光軸からの高さhを示している。また、図9における場合においても、射出瞳径が1に規格化されているものとする。
【0058】
ビーム整形光学系11が図6乃至図9に示した構成とされる場合においても、エネルギー損失が少なくコンパクトな構成で、入射した光の光強度分布をトップハット形状に変換することができる。
【0059】
なお、複数の硝材を張り合わせて1つのレンズ素子からなるビーム整形光学系11を構成し、複数波長に対する同様なビーム整形を可能とすることも勿論可能である。
【0060】
〈第3の実施の形態〉
ところで、上述したビーム整形光学系11を用いれば、入射したガウシアンビームを、トップハット形状の光強度分布を有するビーム(光)に変換することが可能である。このように、入射ビームの光強度分布を略均一な分布に変換する光学系を走査型顕微鏡に用いれば、標本上に形成される軸外の光の点像強度分布の歪みを低減させることができる。
【0061】
図10は、本発明を適用した走査型顕微鏡の一実施の形態の構成例を示す図である。
【0062】
走査型顕微鏡51は、例えば観察対象の標本52を蛍光観察するための共焦点顕微鏡であり、ステージ61に載置された標本52に対して励起光としての照明光を照射し、これにより標本52から生じた蛍光(以下、観察光と称する)を受光して、観察画像を得る。
【0063】
すなわち、半導体レーザや短パルスレーザのレーザ光源である光源62から射出された照明光は、コリメートレンズ63により平行光とされ、ビーム整形ユニット64に入射する。ここで、コリメートレンズ63から射出される照明光は、ガウシアンビームとされる。
【0064】
ビーム整形ユニット64は、例えば図1に示したビーム整形光学系11から構成され、コリメートレンズ63から入射した照明光を、略均一な光強度分布を有する光に整形し、ダイクロイックミラー65に入射させる。
【0065】
ダイクロイックミラー65は、ビーム整形ユニット64から入射した照明光を反射させ、走査ユニット66に入射させる。なお、ダイクロイックミラー65は、照明光の波長帯域の光を反射するとともに、観察光の波長帯域の光を透過させる光学特性を有している。
【0066】
走査ユニット66は、例えばガルバノスキャナなどからなり、ダイクロイックミラー65から入射した照明光を偏向させることにより、標本52上で照明光を図中、左右方向(以下、x方向と称する)および奥行き方向(以下、y方向と称する)に走査させる。走査ユニット66から射出された照明光は、スキャンレンズ67、第2対物レンズ68、ダイクロイックミラー69、および第1対物レンズ70を通って標本52に照射される。
【0067】
標本52に照明光が照射されると、標本52からは観察光が発生し、この観察光は、第1対物レンズ70乃至ダイクロイックミラー65を通って、集光レンズ71に入射する。そして、集光レンズ71に入射した観察光は、集光レンズ71により集光され、ピンホール72を通って光検出器73に入射する。ここで、ピンホール72は、第1対物レンズ70の焦点位置と共役な位置に配置されている。
【0068】
光検出器73は、入射した観察光を受光して光電変換し、その結果得られた観察光の受光強度に応じた電気信号を図示せぬコンピュータに供給する。コンピュータは、供給された電気信号に基づいて標本52の観察画像を生成し、表示する。これにより、ユーザは、表示された観察画像を見ることで、標本52を観察することができる。
【0069】
なお、ビーム整形ユニット64は、照明光の光路上における走査ユニット66と光源62との間に配置されていれば、どのような位置に配置されるようにしてもよい。また、以下、光源62乃至第1対物レンズ70から構成される光学系を照明光学系とも称することとする。
【0070】
このような走査型顕微鏡51の走査ユニット66には、通常、照明光をx方向に走査させる走査ミラー(以下、x走査ミラーと称する)と、照明光をy方向に走査させる走査ミラー(以下、y走査ミラーと称する)とが、個別に設けられている。そのため、これらのx走査ミラーとy走査ミラーを、ともに第1対物レンズ70の瞳位置と共役な位置に配置することは困難である。
【0071】
例えば、図11に示すように走査ユニット66内には、照明光の光路上にy走査ミラー101とx走査ミラー102とが配置されており、矢印Y11および矢印X11に示される位置が、それぞれy走査ミラー101とx走査ミラー102の共役位置となっている。
【0072】
また、図11の例では、矢印A11に示す位置に、第1対物レンズ70の瞳が位置している。つまり、第1対物レンズ70の瞳位置は、y走査ミラー101とx走査ミラー102の何れとも共役でない。
【0073】
なお、以下、矢印Y11により示される位置、および矢印X11により示される位置を、それぞれ位置Y11および位置X11とも称する。また、以下、矢印A11に示される位置を瞳位置A11とも称することとする。
【0074】
いま、x走査ミラー102の光軸中心から、光強度分布がガウス分布となっている照明光が射出されたとすると、x走査ミラー102と位置Y11とは共役ではないから、照明光の主光線は、位置Y11において照明光学系の光軸の位置を通らない。従って、位置Y11における照明光の光強度分布では、矢印Q11に示すように、光強度のピーク位置が照明光学系の光軸からずれることになる。
【0075】
なお、矢印Q11に示される光強度分布では、横軸は照明光学系の光軸を基準とする、光軸と垂直な方向の位置を示しており、縦軸は各位置における照明光の光強度を示している。図11の例では、照明光の光強度のピークおよび重心が図中、右側にずれている。また、位置Y11と同様に、第1対物レンズ70の瞳位置A11もx走査ミラー102とは共役ではないから、照明光の主光線は瞳位置A11の中心を通らず、瞳位置A11における照明光の光強度分布のピークおよび重心も照明光学系の光軸からずれることになる。
【0076】
一方、位置X11とx走査ミラー102は共役であるから、照明光の主光線は、位置X11において照明光学系の光軸の位置を通る。従って、位置X11における照明光の光強度分布では、矢印Q12に示すように、光強度のピークおよび重心の位置は、照明光学系の光軸位置となる。なお、矢印Q12に示される光強度分布では、横軸は照明光学系の光軸を基準とする、光軸と垂直な方向の位置を示しており、縦軸は各位置における照明光の光強度を示している。
【0077】
このように、第1対物レンズ70の瞳位置A11における、照明光の主光線の入射位置が瞳位置A11の中心(光軸)からずれると、照明光は、標本52の観察面に対して垂直に入射しなくなる。特に、瞳位置A11における照明光の光強度分布の重心が、照明光学系の光軸からずれるほど、照明光の光強度分布の重心位置にある光束の観察面への入射角度のずれが大きくなり、観察面において照明光の光強度分布に歪みが生じる。
【0078】
通常、y走査ミラー101とx走査ミラー102の両方を、第1対物レンズ70の瞳位置A11と共役位置な位置に配置することはできない。そのため、これらの走査ミラーの何れかの瞳位置A11との共役のずれの分だけ、照明光の光強度分布の重心位置にある光束は、標本52の観察面に対して、角度のずれをもって入射することになる。
【0079】
これに対して、照明光学系上にビーム整形ユニット64を配置すると、照明光の光強度分布は、ガウス分布からトップハット形状の分布に変換されるので、図12に示すように、照明光の光強度分布における重心のずれ量は、小さくなる。なお、図12において、図11における場合と対応する部分には同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略する。
【0080】
図12において、矢印Q21に示される光強度分布は、照明光の位置Y11における光強度分布であり、矢印Q22に示される光強度分布は、位置X11における照明光の光強度分布である。なお、これらの光強度分布において、横軸は照明光学系の光軸を基準とする、光軸と垂直な方向の位置を示しており、縦軸は各位置における照明光の光強度を示している。
【0081】
図12の例では、x走査ミラー102の光軸中心から、光強度分布がトップハット形状となっている照明光が射出されている。したがって、位置Y11における照明光の光強度分布では、矢印Q21に示すように、光強度は略均一に分布しているが、照明光の光強度の重心は、照明光学系の光軸から、図中、右側にずれている。一方、矢印Q22に示すように、位置X11における照明光の光強度分布では、光強度は略均一に分布しており、光強度の重心の位置も照明光学系の光軸位置となっている。
【0082】
このように、照明光の光強度分布を略均一な分布に整形すると、瞳位置A11における、照明光の主光線の入射位置の光軸からのずれ量が同じであっても、瞳位置A11における光軸からの照明光の光強度分布の重心のずれ量は、光強度分布がガウス分布である場合よりも、より少なくなる。
【0083】
したがって、トップハット形状の光強度分布の照明光は、ガウス分布の照明光よりも、照明光の光強度分布の重心となる光束の観察面への入射角度のずれがより少なくなり、図13に示すように、観察面における照明光の光強度分布の歪みをより少なくすることができる。
【0084】
すなわち、走査型顕微鏡51の照明光学系上に、ビーム整形ユニット64が配置されない場合、標本52に照射される照明光の光強度分布は、矢印Q31に示されるように、ガウス分布となる。この場合、第1対物レンズ70の瞳位置A11における、照明光の主光線の位置が、瞳位置A11の中心からずれると、矢印Q32に示すように、照明光は標本52の観察面に斜めに傾いて照射され、観察面における照明光の光強度分布には、歪みが生じる。
【0085】
これに対して、走査型顕微鏡51の照明光学系上にビーム整形ユニット64が配置される場合、標本52に照射される照明光の光強度分布は、矢印Q33に示されるように、トップハット形状となる。この場合、第1対物レンズ70の瞳位置A11における、照明光の主光線の位置が、瞳位置A11の中心からずれても、矢印Q34に示すように、標本52の観察面に照射される照明光の傾きは、ビーム整形ユニット64を照明光学系上に配置しない場合よりも小さくなる。また、観察面における照明光の光強度分布の歪みも、ビーム整形ユニット64を照明光学系上に配置した方が、ビーム整形ユニット64を配置しない場合と比べて、より小さくなる。
【0086】
以上のように、走査型顕微鏡51の光源62と走査ユニット66の間に、光強度分布が略均一になるように照明光を整形するビーム整形ユニット64を配置することで、標本52における照明光の光強度分布の歪みを低減させることができる。
【0087】
なお、以上においては、ビーム整形ユニット64が、非球面レンズであるビーム整形光学系11から構成されると説明したが、ビーム整形ユニット64は、マイクロレンズアレイや、光ファイバなどから構成されるようにしてもよい。
【0088】
また、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0089】
11 ビーム整形光学系, 21 入射面, 22 射出面, 51 走査型顕微鏡, 52 標本, 62 光源, 63 コリメートレンズ, 64 ビーム整形ユニット, 66 走査ユニット, 70 第1対物レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側に光が進行する場合に、前記物体側からの光が入射する入射面と、前記入射面に入射した前記光が射出される射出面とを有するビーム整形光学系であって、
前記入射面の曲率半径とコーニック定数が負であり、前記射出面の曲率半径とコーニック定数が負であり、
前記ビーム整形光学系の射出瞳半径をD_expとしたときに、前記ビーム整形光学系の光軸からの各高さhの位置における、前記入射面のサグ量と前記射出面のサグ量の差分が、0<h<D_expにおいて、常に正であり、かつ少なくとも1つの変曲点をもつとともに、前記変曲点のうち、前記光軸からの高さが最も小さい変曲点の前記光軸からの高さをh_inflとし、前記ビーム整形光学系の入射瞳半径をD_entとしたときに、h_infl/D_ent<0.6を満たし、さらに、前記サグ量の差分の一次微分値が2つの変曲点をもつ
ことを特徴とするビーム整形光学系。
【請求項2】
観察対象の標本に照射する照明光を射出する光源と、
前記光源からの前記照明光を偏向させて前記標本に照射することで、前記標本上で前記照明光を所定方向に走査させる走査手段と、
前記光源と前記走査手段との間に配置され、前記照明光のビーム幅を広げずに、略均一な光強度分布を有するように前記照明光を整形するビーム整形手段と
を備えることを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項3】
前記走査手段は、前記標本上で前記照明光を互いに直交する第1の方向および第2の方向に走査させる
ことを特徴とする請求項2に記載の走査型顕微鏡。
【請求項4】
前記光源からの前記照明光を平行光に整形して前記ビーム整形手段に入射させるコリメート手段をさらに備え、
前記ビーム整形手段は、光強度分布がガウス分布である前記照明光を、略均一な光強度分布を有する平行光に整形する
ことを特徴とする請求項3に記載の走査型顕微鏡。
【請求項5】
前記ビーム整形手段は、請求項1に記載のビーム整形光学系である
ことを特徴とする請求項4に記載の走査型顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−42513(P2012−42513A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181014(P2010−181014)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】