説明

ピアスナット打ち込み装置及びピアスナット打ち込みロボットシステム

【課題】ナット接合作業における生産性の向上を図る。
【解決手段】ピアスナットの取り付け対象となる薄板材料をカシメるためのカシメ金型と、ピアスナット及び薄板材料を挟んでカシメ金型に対向配置される対向部材と、カシメ金型及び対向部材を保持するフレーム13と、カシメ金型と対向部材の少なくともいずれか一方を他方側に押圧する駆動源となるサーボモータ17と、サーボモータに対してカシメ金型と対向部材の押圧往復動作を設定ストロークで行う動作制御を行うコントローラを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピアスナット打ち込み装置及びピアスナット打ち込みロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属の薄板材料にナットを接合する方法として、ピアスナット(SELF PIERCING AND CLINCHING NUT)が広く採用されている。かかるピアスナットとは、ナット下面側であってねじ穴の周囲に環状の突出部を形成すると共にさらにその外周に環状溝を設けたものである。
かかるピアスナットの接合には、ピアスナット打ち込み装置が使用される。従来のピアスナット打ち込み装置は、薄板材料を挟んでピアスナットの下側に配置されるカシメダイスと、ピアスナットの環状の突出部を薄板材料側に向けた状態で保持する保持体と、保持されたピアスナットを上方から薄板材料に向けて押圧するパンチと、パンチの押圧駆動源となる油圧機構とを備えるものが一般的である(例えば、特許文献1及び2参照)。
かかるピアスナット打ち込み装置によって、ピアスナットの環状の突出部を薄板材料側に向けた状態で保持すると共に、当該ピアスナットと薄板材料をカシメるカシメダイスとで薄板材料を挟むように配置し、パンチを下降させてピアスナットをカシメダイス側に押圧する。これにより、薄板材料のピアスナットの環状の突出部が圧接する部分が円形に打ち抜かれると共に、円形に打ち抜かれた薄板材料の縁部が環状溝内に入り込むようにカシメられる。これにより、ピアスナットの薄板材料への接合が行われる。
このように、ピアスナットの接合は、薄板材料とナット材料の溶接による接合が困難な組み合わせの場合にも有効な接合手段である。また、接合による材料の溶融がないことから、メッキや塗装などの表面処理を施した材料へのナット付けを行った場合にも、表面処理が剥がれることがなく、接合後に、再度の表面処理の必要がない。さらに、溶接による接合の場合のようなスパッタが発生しないため、生産工程が汚れないというメリットもある。
このため、近年、薄板材料へのナット接合として、ピアスナットは広く活用されるようになりつつある。
【特許文献1】特開平7−223129号公報
【特許文献2】特開平6−320354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、薄板材料に穴を打ち抜き(穿ち)、カシメるには、大きな力が必要であり、上記従来のピアスナット打ち込み装置は、その駆動源として、油圧シリンダが使用されている。油圧シリンダへは、油圧ポンプから供給される油の流れを、方向制御弁を用いて切り替え供給され、パンチを押し込み方向と開放方向とに動作させる。
油圧機構は、一般に、動作ストロークの途中での位置制御には不向きであり、押し込み位置(最前進位置)と開放位置(最後退位置)との二位置間の動作に制限される。そして、その間の動作ストローク長は油圧シリンダの長さによって決まってしまうため、動作ストロークが任意に設定できない。このため、従来のピアスナット打ち込み装置は、パンチの開放動作が、ワークの形状や厚さに依らず、最後退位置までストロークすることとなり、サイクルタイムが長くなり、生産性を高めることができないという問題があった。
【0004】
さらに、薄板材料の複数箇所へピアスナット接合作業を行う場合には、ピアスナット打ち込み装置をロボットと同期させて作業を行うことが望ましいが、従来のピアスナット打ち込み装置は、油圧機構を駆動源とするため、サーボモータを駆動源とするロボットと動作を同期させてナット接合作業を行わせるには不適であるという問題があった。精密な同期が図れない場合、ピアスナット打ち込み装置とロボットとを併用すると、ピアスナット打ち込み装置のパンチの開放動作が終わらないとロボットによる次打点への移動動作ができず、また、次打点への移動動作が終わらないとパンチの前進動作を打ち込み動作ができないことから、サイクルタイムが長くなり、生産性を高めることができない。
また、連続的にナット接合を行う場合、油圧機構を駆動源とすると、動作時・非動作時にかかわらず、油圧ポンプを作動させ続けなければならないため、エネルギー効率を高めることができないという問題もあった。
【0005】
また、前述したように、ピアスナットの打ち込みの際には大きな力が必要となるため、加圧の際にピアスナット打ち込み装置のフレームは、相当量のたわみを生じる。その結果、ピアスナット打ち込み装置を用いて、治具上に固定された被加工部材にピアスナットの打ち込みを行う場合、ピアスナット打ち込み装置のフレームたわみの分だけ、被加工部材は押し曲げられることとなり、このために応力を生じ、最悪の場合、歪み(変形)に至る場合があるという問題もあった。
【0006】
本発明は、ナット接合作業における生産性の向上を図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、ピアスナットの取り付け対象となる薄板材料をカシメるためのカシメ金型と、前記ピアスナット及び薄板材料を挟んでカシメ金型に対向配置される対向部材と、前記カシメ金型及び対向部材を保持するフレームと、前記カシメ金型と対向部材の少なくともいずれか一方を他方側に押圧する駆動源となるサーボモータと、前記サーボモータに対して前記カシメ金型と対向部材の押圧往復動作を設定ストロークで行う動作制御を行うコントローラを備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のピアスナット打ち込み装置と、前記ピアスナット打ち込み装置を先端に搭載した、サーボモータを駆動源とするロボットとを備え、前記コントローラは、ピアスナット打ち込み装置及びロボットの各サーボモータの動作制御を行うことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1に記載のピアスナット打ち込み装置と、前記薄板材料を先端で保持する、サーボモータを駆動源とするロボットとを備え、前記コントローラは、ピアスナット打ち込み装置及びロボットの各サーボモータの動作制御を行うことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項2又は3記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記コントローラは、前記ピアスナット打ち込み装置のサーボモータに流れる電流値とピアスナット打ち込み装置のフレームに生じるたわみ量との相対的な関係を記憶する記憶部と、前記ピアスナット打ち込み装置のサーボモータに流れる電流値から前記たわみ量を求めると共に当該たわみ量に基づいて前記ロボットの動作位置を補正する補正部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明は、カシメ金型と対向部材のいずれか一方を他方側に押圧する際の駆動源をサーボモータとしているため、油圧機構と異なり、押圧時の前進移動又は押圧から開放する際の後退移動のストロークを任意に制御することができる。このため、薄板材料の形状や厚さに応じて必要最小限にストロークの設定を行うことで、動作距離が短縮されてサイクルタイムが短縮化され、生産性の向上を図ることが可能となる。
また、コントローラによってサーボモータの動作速度を設定値となるように制御することにより、押圧動作を予定されたタイミング通りに行うことが可能となる。
また、サーボモータを使用することにより、押し込みと開放の動作時にのみ動作電流を流すようにすれば、非動作時の電力消費を抑制することができるので、省力化によるエネルギー効率の向上を図ることが可能となる。
【0012】
請求項2記載の発明は、ピアスナット打ち込み装置とロボットとがいずれもサーボモータを駆動源とするので、これらを容易に精密に同期させることができる。このため、例えば、ロボットの目的位置への到達を待たずにピアスナット打ち込み装置の打ち込み動作を開始して目的位置でちょうどピアスナットの接合を行ったり、ピアスナットの開放が完了する前にロボットによる次の目的位置への移動を開始させたりすることも可能となり、ピアスナットの接合作業が連続的に行われる場合でも、そのサイクルタイムを短縮し、生産性を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2と同様に、ピアスナット打ち込み装置とロボットとがいずれもサーボモータを駆動源とするので、容易且つ精密に同期させることができ、ピアスナットの接合作業が連続的に行われる場合に、サイクルタイムの短縮による生産性の飛躍的な向上を図ることが可能となる。
なお、かかる請求項3では、ロボットがピアスナット打ち込み装置を搭載していることを前提とせず、例えば、ロボットは薄板材料を保持し、固定設置されたピアスナット打ち込み装置に対して薄板材料のナット取り付け位置を位置決めしてピアスナットの接合を実行する。
【0014】
請求項4記載の発明では、ピアスナット打ち込み装置のサーボモータに流れる電流値がトルク負荷に応じて変化するため、フレームに生じるたわみ量との相対的な関係を求めることができる。この場合、サーボモータの電流値とフレームたわみ量との関係は数式化して逐次演算により求めても良いし、サーボモータの電流値とフレームたわみ量との関係を実測などによりテーブル化しておいても良い。
そして、打ち込みの際のピアスナット打ち込み装置のサーボモータの電流値を検出し、これによりフレームのたわみ量を求め、それを打ち消すようにロボットの動作制御を行うことにより、打ち込み時のフレームたわみによる薄板材料への応力付加を回避し、不均一な加圧による接合不良や薄板材料の歪み変形等の発生をも抑止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(発明の実施形態の全体構成)
本発明の実施の形態を図1乃至図8に基づいて説明する。図1は、実施形態であるピアスナット打ち込みロボットシステム100の概略構成図である。
上記ロボットシステム100は、ピアスナット打ち込み装置10と、当該ピアスナット打ち込み装置10を先端ツールとして保持可能であると共にピアスナット打ち込み装置10を任意の位置及び任意の向きに合わせるロボット50と、当該ロボット50及びピアスナット打ち込み装置10に対して入力される教示点に基づいて再生動作を行わせるコントローラとしての制御装置80とを備えている。
なお、ロボット50は水平面上にボルトなどにより固定設置されていることを前提として説明を行うものとする。
【0016】
(ロボット)
上述のロボット50は、設置面に固定される土台となるベース51と、ベース51に対して垂直軸s1回りの関節を介して旋回可能な旋回台52と、水平軸s2回りの関節を介して旋回台52に基端部が軸支された第一アーム53と、水平軸s3回りの関節を介して第一アーム53の先端部に基端部が軸支された第二アーム55と、自らの長手方向に沿った回転軸s4回りの関節を介して第二アーム55の先端部に基端部が軸支された第三アーム56と、自らの長手方向に直交する回転軸s5回りの関節を介して第三アーム56の先端部に基端部が軸支された第四アーム57とを備え、当該第四アーム57の先端部には第四アーム57の長手方向に沿った回転軸s6回りにピアスナット打ち込み装置10が固定装着されている。
また、ロボット50は、各軸s1〜s6回りの回転動作の駆動源となるサーボモータ58及びエンコーダ59(図4参照)と減速器(図示略)とを各軸s1〜s6の関節ごとに保有している。
そして、ロボット50は、各軸s1〜s3の軸回転動作によりロボット先端に位置するピアスナット打ち込み装置10の打ち込み位置を任意の位置に位置決めすることを可能とし、各軸s4〜s6の軸回転動作によりロボット先端に位置するピアスナット打ち込み装置10の打ち込み位置を任意の方向に向けることを可能としている。即ち、本実施形態におけるロボット50は垂直多関節構造のロボットに相当する。
【0017】
(ピアスナット)
ピアスナット打ち込み装置10の説明の前に当該ピアスナット打ち込み装置10が薄板材料Pに接合を行うピアスナット200について図2に基づいて説明することとする。ピアスナット200は、図2(A)に示すように、中心部を貫通してネジ穴201が形成されており、薄板材料Pへの接合面側(図2では下面側)にはネジ穴201を同心の環状の突出部202と、突出部202の外側に同心で環状溝203が形成されている。かかる環状溝203はその断面形状が溝底部に向かうに従って広がる形状となっている。環状の突出部202は、接合面よりも突出することで、図2(B)に示すように、ナット接合時に薄板材料P側に加圧されることにより当該薄板材料Pを円形に打ち抜くことを可能としている。また、図2(C)に示すように、後述するカシメダイス12により薄板材料Pの打ち抜かれた穿孔の縁部が環状溝内に入り込むようにカシメられ、これにより、薄板材料Pに対するピアスナット200の保持力が得られるようになっている。
【0018】
(ピアスナット打ち込み装置)
図3は図1におけるW−W線に沿ったピアスナット打ち込み装置10の断面図である。図1及び図3に基づいてピアスナット打ち込み装置10の詳細を説明する。なお、このピアスナット打ち込み装置10はナット打ち込み動作の駆動源として加圧用サーボモータ17を備えており、かかる加圧用サーボモータ17の回転軸線は前述した回転軸s6の軸線方向に直交するようにピアスナット打ち込み装置10がロボット50に装着されている。
ここで、以下のピアスナット打ち込み装置10の各構成の向き及び配置の説明については、ピアスナット打ち込み装置10が備える加圧用サーボモータ17の回転中心線に沿った方向を上下方向、回転軸s6に沿った方向を前後方向、上下、前後方向の双方に直交する方向を左右方向としてピアスナット打ち込み装置10の各構成を説明するものとする。
【0019】
ピアスナット打ち込み装置10は、ピアスナット200が取り付けられる薄板材料Pをカシメるためのカシメ金型11を備えるカシメダイス12と、カシメダイス12と後述するパンチ16とを上下に支持するフレーム13と、フレーム13の上部に固定支持された外筒部14と、外筒部14に嵌挿されると共に当該外筒部14に対して進退移動可能に支持された内筒部15と、内筒部15の下端部に設けられ、ピアスナット200及び薄板材料Pを挟んでカシメダイス12に対向配置される対向部材としてのパンチ16と、内筒部15に進退移動動作を付与するボールネジ機構30と、ボールネジ機構30の回転駆動源となる加圧用サーボモータ17と、当該加圧用サーボモータ17の軸角度を検出するエンコーダ25と、加圧用サーボモータ17の減速器22と、サーボモータ17の出力を減速器22を介してボールネジ機構30に伝達する主動歯車18及び従動歯車19と、加圧用サーボモータ17と外筒部14とを並列支持する連接板20と、上部カバー21と、パンチ16の下側にピアスナット200を一つずつ供給するナット供給機構40とを備えている。
【0020】
フレーム13は、図1に示すように、側面視略コ字状に形成され、上下方向に延びる本体部13aと、二股状で前後方向に延出された上側及び下側の延出部13b,13cとから構成されている。そして、一方の下側延出部13cにはカシメダイス12が保持され、他方の上側延出部13bには外筒部14、内筒部15、パンチ16及びサーボモータ17等が保持されている。また、ピアスナット打ち込み装置10は、フレーム13の本体部13aにおける各延出部13b,13cの延出方向とは逆側の端部においてロボット50に保持されている。
【0021】
カシメダイス12は、下側延出部13cの上面に配置され、その上部にカシメ金型11が形成されている。かかるカシメ金型11はピアスナット200の環状溝203内に薄板材料Pをカシメることができるように環状に突出しており、カシメダイス12にはカシメ金型11の内側から下方に向けて穿孔が形成されている。フレーム13の下側延設部13cにはカシメダイス12の穿孔に連なるように貫通穴が形成され、ピアスナット200によるナット接合時の薄板材料Pから打ち抜かれた円形片(図2(B)参照)が下方に排出可能となっている。
また、カシメダイス12と下側延出部13の間には図示しない弾性体が介挿されている。ピアスナット200の打ち込み時にはカシメダイス12は上方から加圧力が付与されるのでフレーム13に撓みを生じ、その結果、カシメ金型11に傾きを生じてその当接領域の各部について加圧力に偏りを生じる場合がある。そのような場合でも、弾性体が変形することで傾斜を解消し、加圧力の偏りを軽減し、円周全体について均一にカシメることを可能としている。
【0022】
サーボモータ17は減速器22と一体的に連結された状態で連接板20に保持されており、減速器22の出力軸は、連接板20に設けられた貫通穴に遊挿されており、連接板20の上方に突出している。そして、連接板20の上側において、減速器22の出力軸には主動歯車18が装備され、主動歯車18は隣接配置された従動歯車19に噛合している。かかる従動歯車19は後述するボールネジ軸31に固定軸支されている。
【0023】
外筒部14は、その中心線が上下方向に沿った状態で、後部においてフレーム13の上側延設部13bに固定支持されている。また、外筒部14の上端部には連接板20が連結されている。
内筒部15は、外筒部14内に同心となるように挿入されており、外筒部14と内筒部15との間には当該内筒部15の軸線方向の滑動を可能とする直動式のスライドガイド23が介挿されている。また、外筒部14と内筒部15とはボールネジ機構30を介して連結されている。
かかるボールネジ機構30は、主にボールネジ軸31とスライダ32とから構成されている。ボールネジ軸31は、前述したように連接板20から上方に突出しており、その上端部には従動歯車19が固定連結されている。また、その上端部近傍は外筒部14内で軸受けにより回転可能に支持されている。さらに、ボールネジ軸31の下半分の外周面はスライダ32をガイドするネジ溝が形成されている。
スライダ32は、筒状であってボールネジ軸31が挿入されており、スライダ32とボールネジ軸31との間には複数のボールが介挿されている。また、スライダ32は内筒部15の上端部に固定連結されている。そして、内筒部15の外周面には中心線方向に沿ってガイド溝15aが形成されており、外筒部14から外部に向かって突出した回転止め24が嵌合している。これにより、サーボモータ17の回転が減速器22、主動歯車18、従動歯車19を介してボールネジ軸31に伝えられると、内筒部15と共に回転が規制されたスライダ32が上下方向に移動するようになっている。
また、パンチ16は、内筒部15の下部に固定装備されており、内筒部15に伴って下降してピアスナット200をカシメダイス12側に加圧する。
【0024】
ナット供給機構40は、パンチ16の下側においてピアスナット200の保持を行うナット保持体41と、図示しない送出装置から送られてくるピアスナット200をナット保持体41に導出するチューブ42とを備えている。ナット保持体41は、チューブ42から送り出されるピアスナット200をパンチ16の下方において一つずつ保持する機能を有し、所定ストロークの範囲内でパンチ16と共に昇降可能となるようにフレーム13に支持されている。このナット保持体41には、下方に延出されたナットガイド43が設けられており、当該ナットガイド43がカシメダイス12上の薄板材料Pの上面に当接するまで下降することが可能となっている。さらに、内筒部15とナット保持体41と間にはコイルバネが介挿されており、内筒部15及びパンチ16の下降時にナット保持体41はコイルバネを介して下方に押圧され、ナットガイド43がカシメダイス12上の薄板材料Pの上面に当接する位置まで内筒部15及びパンチ16と共に下降する。一方、ナットガイド43によりナット保持体41の下降が規制されても、パンチ16及び内筒部15はさらに下降し、これにより、ナット保持体41に保持されたピアスナット200がパンチ16に押圧されて下方に押し出されて薄板材料Pに加圧接合されるようになっている。
【0025】
(制御装置)
図4は制御装置80のブロック図である。
この制御装置80は、各種のプログラムとピアスナット200の打ち込み位置を示す動作データを記憶するメモリ82と、制御プログラムを実行するCPU81と、ロボット50及びピアスナット打ち込み装置10の動作を入力する動作入力手段89と、ピアスナット200の打ち込み位置にカシメ金型11を位置決めするためにCPU81から順次出力されるロボット50の各関節のサーボモータ58の位置指令に対してエンコーダ59の検出角度(位置)に基づいて位置フィードバック処理を行う位置制御部83と、位置制御部83から出力されるサーボモータ58の速度指令に対してエンコーダ59の検出角度(位置)を微分して求まる検出速度に基づいて速度フィードバック処理を行う速度・電流制御部84と、速度・電流制御部84により決定されるサーボモータ58への駆動電流を検出する電流検出部85と、ピアスナット200の打ち込みを行うためにCPU81から順次出力されるピアスナット打ち込み装置10の加圧用サーボモータ17の位置指令に対してエンコーダ25の検出角度(位置)に基づいて位置フィードバック処理を行う位置制御部86と、位置制御部86から出力される加圧用サーボモータ17の速度指令に対してエンコーダ25の検出角度(位置)を微分して求まる検出速度に基づいて速度フィードバック処理を行う速度・電流制御部87と、速度・電流制御部87により決定される加圧用サーボモータ17への駆動電流を検出する電流検出部88とを備えている。
なお、ロボット50は、各関節ごとにサーボモータ58及びエンコーダ59を備えるが、図4では一つのみを図示して他の図示を省略する。また、同様に、位置制御部83、速度・電流制御部84及び電流検出部85は、サーボモータ58ごとに個別に制御回路80は備えているが、図4では一つのみを図示して、他の図示を省略する。
【0026】
CPU81は、動作制御プログラムの実行により、ロボット50の動作入力手段89からロボット50の実働を伴う動作軌跡の入力を受けると、これを再現するためのロボット50の各関節のサーボモータ58及びピアスナット打ち込み装置10の加圧用サーボモータ17の位置指令を生成してメモリ82に記憶する共に、再現実行時には所定周期で各位置指令を順次出力して再現のための動作制御を行ういわゆるティーチングプレイバック機能を実行することができる。
そして、その際には、ピアスナット打ち込み装置10の加圧用サーボモータ17による昇降動作の上端位置(パンチ16の待機位置)及び下端位置(パンチ16の加圧位置)の設定を行うことができ、これにより、実質的に往復動作のストロークの設定が可能である。これにより、薄板材料Pの厚さに対して余剰なストロークによるサイクルタイムロスを回避するよう設定が可能である。
【0027】
また、ティーチングの際には、ロボット50により加圧位置到達時点に対する(1)ピアスナット打ち込み装置10の加圧用サーボモータ17の下降動作開始タイミング(2)下端位置到達タイミング(3)上昇動作開始タイミング(4)上端位置到達タイミングの設定を行うことができ、設定を受けると、CPU81は、(1)〜(4)のタイミングで加圧用サーボモータ17を動作させるための速度パターンを生成し、さらに、位置指令を生成して、メモリ82に記憶する。
これにより、ロボット50の加圧位置到達前に予め加圧用サーボモータ17の動作を開始させ、ロボット50により加圧位置到達時点で加圧用サーボモータ17も速やかに下端位置に到達させるよう設定することが可能となり、サイクルタイムの低減を図ることができる。
なお、予めメモリ82内に、予め、加圧用サーボモータ17に固定の速度パターンを用意しておき(往復動作ストロークを複数選択可能としてそれぞれのストロークごとの速度パターンを用意してもよい)、ロボット50の動作のティーチングの際に加圧位置の設定が行われると、加圧用サーボモータ17の速度パターンに従って当該加圧位置の到達に合わせて下端位置に到達するようCPU81が自動的に位置指令を生成しても良い。
【0028】
ピアスナット打ち込み装置10に対する位置制御部86は、CPU81から入力される位置指令とエンコーダ25から入力される検出位置との偏差を求め、当該位置偏差に基づいて速度指令を出力する。
速度・電流制御部87は、位置制御部86から入力される速度指令とエンコーダ25から入力される検出位置の変化から求まる検出速度との偏差を求め、当該速度偏差に基づいてトルク指令を生成する。さらに、速度・電流制御部87は、トルク指令に基づく加圧用サーボモータ17への必要電流値と電流検出部88により検出される加圧用サーボモータ17への通電電流との偏差を求め、当該速度偏差に基づいて加圧用サーボモータ17への通電電流を加減調整する。
電流検出部88は、前述のように、加圧用サーボモータ17への通電電流値を検出するが、その検出電流値は速度・電流制御部87だけではなく、ロボット50の各サーボモータ58の位置制御部83にも出力している。
【0029】
図5はロボット50のサーボモータ58の位置制御部83の詳細を示すブロック図である。
ロボット50の各サーボモータ58の位置制御部83は、CPU81から入力される位置指令とエンコーダ59から入力される検出位置との偏差を求め、当該位置偏差に基づいて速度指令を出力するフィードバック処理部83aと、フィードバック処理部83aの処理の前段階でCPU81から入力される位置指令に対して加圧用サーボモータ17の検出通電電流値に基づいて補正を行う補正部83bとを備えている。
【0030】
ピアスナット200の打ち込み作業時には、図6に示すように、例えば治具等に固定された薄板材料Pのナット取り付け位置にピアスナット打ち込み装置10の打点(下降したパンチ16とカシメ金型11の当接位置)が一致するように、ロボット50がピアスナット打ち込み装置10を移動位置決めする。その際、パンチ16の加圧力によりカシメダイス12を介してフレーム13の下側延出部13cに撓みを生じる場合がある。そして、かかる撓みは、固定保持された薄板材料Pのナット取り付け位置に対してピアスナット打ち込み装置10の打点位置の不一致を生じさせることになる。
従って、上記補正計算部83bでは、加圧用サーボモータ17の検出通電電流値から撓みを解消する位置補正量を算出し、CPU81からの位置指令に補正を行っている。
【0031】
下側延出部13cの撓み量及びその撓み方向は、加圧用サーボモータ17のトルク出力と相対的な関係にある。これらの相対関係は、フレーム13の剛性と加圧用サーボモータ17の加圧力とによって決定されるので、フレーム13の構造から演算により求めることも可能である。また、加圧用サーボモータ17の出力トルクに応じてその撓み状態を実測で求めても良い。
補正部83bには、上記演算又は実測データに基づく加圧用サーボモータ17のトルク出力とピアスナット打ち込み装置10の直交座標系におけるX軸、Y軸、Z軸方向のたわみ量との対応関係を示すトルク−撓みテーブルを記憶する図示しないメモリが併設されている。
さらに、補正部83bは、加圧用サーボモータ17の検出電流値からトルクを算出するトルク算出処理と、算出トルクからトルク−撓みテーブルを参照して撓み量を特定する撓み算出処理と、ピアスナット打ち込み装置の座標系での撓み量をロボット座標系の撓み量に変換して現在位置からの補正動作量を算出する補正量算出処理と、補正動作量から各関節の位置補正量を算出してCPU81からの動作指令に加算する加算処理とを行う。
これにより、ピアスナット打ち込み装置10のパンチ16が薄板材料Pに到達して加圧用サーボモータ17のトルクが増加すると、これにより通電電流値が上昇する。補正部83bでは、かかる電流変化に伴うサーボモータ17のトルク増加及びフレーム13の撓み量を予測的に求め、ピアスナット打ち込み装置10の打点の位置変化を求め、ロボット50の位置指令を補正するので、フレーム13が撓みを生じても薄板材料Pのナット取り付け位置に対してピアスナット打ち込み装置10の打点位置を常に一致させることができる。
【0032】
ロボット50の各サーボモータ58に対する速度・電流制御部84は、速度・電流制御部87と同様に、位置制御部83からの速度指令とエンコーダ25の検出に基づく検出速度との偏差を求めてトルク指令を生成すると共に、トルク指令からサーボモータ58への通電電流を調整する。
また、電流検出部85は、電流検出部88と同様に、サーボモータ58への通電電流値を検出する。
【0033】
(ピアスナット打ち込みロボットシステムの動作)
ピアスナット打ち込み作業時に制御装置80が行う処理を図7及び図8のフローチャートに基づいて説明する。
まず、CPU81は、ティーチングによる記録されたロボット50及びピアスナット打ち込み装置10の動作データから位置指令を生成し(図7のステップS11)、ロボット50の各サーボモータ58及びピアスナット打ち込み装置10の加圧用サーボモータ17に対する位置指令(軸角度動作量)を位置制御部83,86に出力する(図7のステップS12)。
位置制御部86では位置指令に対して位置フィードバックを行い、速度・電流制御部87では速度指令に対して速度及び電流フィードバックを行い加圧用サーボモータ17の動作制御を行う(図7のステップS13)。
【0034】
位置制御部83では、位置指令に対して補正処理を行う(図7のステップS14)。即ち、加圧用サーボモータ17の電流検出部88からモータ電流を検出する(図8のステップS21)。
そして、検出電流値からモータトルクを算出する(図8のステップS22)。
次いで、位置制御部83は、トルク−撓みテーブルからフレーム13の撓み量を求める(図8のステップS23)。
かかる撓み量をロボット座標系の撓み量の変換し(図8のステップS24)、ロボット50の各軸s1〜s6のサーボモータ58ごとに個別に補正量を算出してCPU81からの位置指令に加算して補正する(図8のステップS25)。
【0035】
位置制御部83では補正された位置指令に対して位置フィードバックを行い、速度・電流制御部87では速度指令に対して速度及び電流フィードバックを行い加圧用サーボモータ17の動作制御を行う(図7のステップS15)。
これにより、ピアスナット打ち込み装置10は設定された通りの再現が行われ、ロボット50は加圧用サーボモータ17によるフレーム13の撓みを考慮した位置にピアスナット打ち込み装置10を位置決めしてピアスナット200の打ち込みが行われる。
【0036】
(発明の実施形態の効果)
ピアスナット打ち込みロボットシステム100では、ピアスナット打ち込み装置10のパンチ16をカシメ金型11側に押圧する際の駆動源をサーボモータ17としているため、前端位置及び後端位置を任意に設定することで往復のストロークを任意に制御することができ、薄板材料Pの形状や厚さに応じて最小限のストロークに設定することで、動作距離が短縮されてサイクルタイムが短縮化され、生産性の向上を図ることが可能となる。
また、制御装置80によって加圧用サーボモータ17の動作速度を設定値となるように制御することにより、押圧動作を予定されたタイミング通りに行うことが可能となる。
また、加圧用サーボモータ17を使用することにより、押し込みと開放の動作時にのみ動作電流を流し、それ以外はサーボロックをかけておけば、非動作時の電力消費を抑制することができるので、省力化によるエネルギー効率の向上を図ることが可能となる。
【0037】
さらに、ピアスナット打ち込み装置10の加圧用サーボモータ17とロボット50の各サーボモータ58とを、ロボット50による目標位置への到達前に加圧用サーボモータ17によるパンチ16の下降動作を開始させ、加圧用サーボモータ17によるパンチ16の上端位置到達までにロボット50により次の目標位置への移動を開始するように同期制御を行うことにより、ピアスナット200の接合作業が連続的に行われる場合でも、そのサイクルタイムを短縮し、生産性を飛躍的に向上させることが可能となる。
【0038】
さらに、制御装置80の位置制御部83により、加圧用サーボモータ17に流れる電流値からモータトルクを求め、さらに、モータトルクからフレーム13の撓み量を求めて、ロボット50の各サーボモータ58の位置指令に補正をかけるので、打ち込み時のフレームたわみによる薄板材料への応力付加を回避し、不均一な加圧による接合不良や薄板材料Pの歪み変形等の発生をも抑止することが可能となる。
【0039】
(その他)
上記ピアスナット打ち込みロボットシステム100では、ティーチングプレイバック方式を例示したが、これに限定されるものではなく、動作データはティーチング以外の方法で取得されたものであっても良い。
【0040】
また、上記実施形態では、ロボット50がピアスナット打ち込み装置10を保持しているが、これに限らず、ロボット50とピアスナット打ち込み装置10とをそれぞれ別個に設置面に固定設置し、ロボット50には薄板材料Pの保持ツールを搭載して、ピアスナット打ち込み装置10の打点に対して薄板材料Pのナット取り付け位置を位置決めするように動作制御を実行しても良い。
【0041】
また、CPU81がプログラムの実行により実現する位置指令の出力は、ソフトウェアを用いる演算装置に限らず、アナログ回路等のハードウェアを用いてその機能を実現しても良い。
また、各位置制御部83,86の構成は、サーボアンプ等のハードウェアにより実現させても良いし、同様の処理をCPUに実行させるプログラムを用いて実現させても良い。
【0042】
また、ピアスナット打ち込み装置10では、パンチ16によりピアスナット200をカシメ金型11側に押圧する構成としたが、逆に、カシメ金型11をピアスナット200側に押圧する構成としても良い。
また、ピアスナット200は、上述のものに限られず、穿孔を行う機能を有するものにも限定されない。例えば、加圧力を受けて薄板材料P側にカシメを生じさせるものであればどのような形式のものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施形態であるピアスナット打ち込みロボットシステムの概略構成図である。
【図2】ピアスナットの打ち込み作業を示す説明図であって、図2(A)は打ち込み直前の状態を示し、図2(B)は穿孔の形成及びカシメ途中の状態を示し、図2(C)はカシメ完了の状態を示す。
【図3】図1におけるW−W線に沿ったピアスナット打ち込み装置の断面図である。
【図4】制御装置のブロック図である。
【図5】ロボットのサーボモータの位置制御部の詳細を示すブロック図である。
【図6】ピアスナットの打ち込み作業時における撓みの発生状態を示す説明図である。
【図7】制御装置が行う処理を示すフローチャートである。
【図8】制御装置の補正部が行う処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0044】
10 ピアスナット打ち込み装置
11 カシメ金型
12 カシメダイス
13 フレーム
16 パンチ(対向部材)
17 加圧用サーボモータ
50 ロボット
58 サーボモータ
80 制御装置(コントローラ)
81 CPU
83b 補正部
100 ピアスナット打ち込みロボットシステム
200 ピアスナット
P 薄板材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピアスナットの取り付け対象となる薄板材料をカシメるためのカシメ金型と、
前記ピアスナット及び薄板材料を挟んでカシメ金型に対向配置される対向部材と、
前記カシメ金型及び対向部材を保持するフレームと、
前記カシメ金型と対向部材の少なくともいずれか一方を他方側に押圧する駆動源となるサーボモータと、
前記サーボモータに対して前記カシメ金型と対向部材の押圧往復動作を設定ストロークで行う動作制御を行うコントローラを備えることを特徴とするピアスナット打ち込み装置。
【請求項2】
請求項1に記載のピアスナット打ち込み装置と、
前記ピアスナット打ち込み装置を先端に搭載した、サーボモータを駆動源とするロボットとを備え、
前記コントローラは、ピアスナット打ち込み装置及びロボットの各サーボモータの動作制御を行うことを特徴とするピアスナット打ち込みロボットシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のピアスナット打ち込み装置と、
前記薄板材料を先端で保持する、サーボモータを駆動源とするロボットとを備え、
前記コントローラは、ピアスナット打ち込み装置及びロボットの各サーボモータの動作制御を行うことを特徴とするピアスナット打ち込みロボットシステム。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記ピアスナット打ち込み装置のサーボモータに流れる電流値とピアスナット打ち込み装置のフレームに生じるたわみ量との相対的な関係を記憶する記憶部と、
前記ピアスナット打ち込み装置のサーボモータに流れる電流値から前記たわみ量を求めると共に当該たわみ量に基づいて前記ロボットの動作位置を補正する補正部とを備えることを特徴とする請求項2又は3記載のピアスナット打ち込みロボットシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−125840(P2009−125840A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301853(P2007−301853)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【出願人】(595048337)高丸工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】