説明

ピロリジントリプル再取込み阻害剤

種々の実施態様において、本発明は、シクロアルキルピロリジン化合物、並びに、中枢神経系(CNS)疾患、例えば、うつ病、不安、統合失調症、及び睡眠障害を含む種々の疾病、病態、及び症候群の治療及び/又は予防におけるその使用方法、並びにその合成方法を提供する。本発明は、本発明の化合物を含む医薬組成物並びにシナプス間隙からの、ドーパミン、セロトニン、及びノルエピネフリンなどの内因性モノアミンの再取込みを阻害する方法及び1種以上のモノアミントランスポーターを調節する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2009年2月9日に出願された米国仮特許出願第61/151,167号の優先権を主張し、その開示が全ての目的のために引用により全体として本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
種々の実施態様において、本発明は、中枢神経系(CNS)疾患の治療のための化合物及び組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
精神疾患は、認知、感情、気分、又は情動の異常を起こす同定可能な症状により特徴付けられる脳の病態である。このような疾患は、症状の重症度、期間、及び機能障害が異なることがある。精神疾患は世界中で数百万人の人々を苦しめ、生産性の低下及び扶養者ケアのために莫大な人間の苦悩及び経済的負担を生み出す。
【0004】
過去数十年にわたり、精神疾患を治療する薬剤の使用は、主として神経科学及び分子生物学の両方の研究進歩により非常に増加した。さらに、化学者は、精神障害に伴う生化学的改変を修正することを目標とした、副作用が少なくより有効な治療剤である化学化合物を創るのにますます長けてきた。
【0005】
しかし、生じた多くの進歩にもかかわらず、多くの精神病は依然として治療されていないか、又は現行の医薬品による治療が不十分である。さらに、現行の薬剤の多くは、精神病に関与しない分子標的と相互作用する。この無差別な結合は、療法の結果全体に大いに影響を与えうる副作用を起こすことがある。場合によっては、副作用が重症であるため、療法が中断される。
【0006】
うつ病は情動障害であり、その病因は単一の原因又は理論のいずれかによって説明することはできない。それは、持続的な気分の低下又は自身の周囲への関心低下により特徴付けられ、以下の症状の少なくとも1つを伴う:エネルギー及び動機の低下、集中困難、睡眠及び食欲の変化、時には自殺念慮(アメリカ精神医学会:「精神失調の診断と統計の手引き(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」、第4版、ワシントン、アメリカ精神医学会、1994年)。大うつ病は高い罹患率及び死亡率に関連し、自殺率は10-25%である(Kaplan H I, Sadock B J(編):「精神医学の概要(Synopsis of Psychiatry)」 Baltimore, Williams & Wilkins, 1998, p. 866)。本発明の化合物は、通常うつ病に伴う疲労の低減にも使用できる(例えば、Schonfeldt- Lecuonaらの文献「大うつ病エピソードが共存する慢性疲労症候群の治療におけるブプロピオンの増加(Bupropion augmentation in the treatment of chronic fatigue syndrome with coexistent major depression episode)」Pharmacopsychiatry 39(4): 152-4, 2006;Brunelloらの文献「気分変調症:病像、慢性疲労症候群との重複の程度、神経薬理学的考察、及び新たな治療の展望(Dysthymia: clinical picture, extent of overlap with chronic fatigue syndrome, neuropharmacological considerations, and new therapeutic vistas)」J. Affects. Disord. 52(1-3):275-90, 1999;Termanらの文献「慢性疲労症候群及び季節性情動障害:合併症、診断の重複、及び治療の意味づけ(Chronic fatigue syndrome and seasonal affective disorder: comorbidity, diagnostic overlap, and implications for treatment)」Am. J. Med. 105(3A):115S-124S, 1998を参照されたい)。
【0007】
うつ病は、ノルアドレナリン作動系又はセロトニン作動系における機能障害から、より詳細には機能的に重要なアドレナリン受容体又はセロトニン受容体での特定の神経伝達物質(NT)の不足から生じると考えられている。
【0008】
神経伝達物質は、特異的な受容体との相互作用の結果としてその作用を生み出す。ノルエピネフリン(NE)及び/又はセロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン、又は5-HT)を含む神経伝達物質は、脳の神経中で合成され、小胞に貯蔵される。神経インパルスと同時に、神経伝達物質がシナプス間隙に放出され、そこで種々のシナプス後受容体と相互作用する。5-HT及び/又はNEのシナプスレベルの局部的な不足が、うつ状態、覚醒状態、及び注意の原因に関与していると考えられる。
【0009】
ノルエピネフリンは、覚醒、夢、及び気分の制御に関与している。ノルエピネフリンは、血管の収縮及び心拍増加により血圧の制御にも寄与し得る。
【0010】
セロトニン(5-HT)は、種々の疾患の病因又は治療に関連がある。5-HTの最も広く研究されている効果はCNSに対する効果である。5-HTの機能は数多く、食欲、睡眠、記憶及び学習の制御、体温の調節、気分、行動(性的行動及び幻覚行動を含む)、心血管機能、平滑筋収縮、及び内分泌制御がある。末梢的には、5-HTは、血小板の恒常性及び消化管の運動性に重要な役割を果たしているようである。5-HTの作用は、3種の主な機構により停止する:拡散;代謝;及び再取込み。5-HTの作用が停止する主な機構は、シナプス前膜による再取込みによる。5-HTが種々のシナプス後受容体に作用した後、他の生体アミンのものと類似な方法で、特異的な膜トランスポーターを含む取込み機構により、シナプス間隙から神経終末へと取り除かれる。この取込みを選択的に阻害する薬剤は、シナプス後受容体における5-HTの濃度を高め、種々の精神疾患、特にうつ病の治療に有用であることが分かった。
【0011】
数年にわたるうつ病の治療へのアプローチは、NE及び5-HTの代謝(例えば、モノアミンオキシダーゼ阻害剤)又は再取込み(例えば、三環系抗うつ剤又は選択的セロトニン再取込み阻害剤(SSRI))の阻害のいずれかにより、NE及び5-HTの濃度を上昇させる薬剤を使用するものであった。
【0012】
米国では20種を超える承認済み抗うつ剤が利用可能である。現在利用可能な典型的な三環系抗うつ剤(TCA)は、主にNEの取込みを遮断し、さらに、2級アミンか3級アミンかによって程度はさまざまだが5-HTの取込みも遮断する。イミプラミン及びアミトリプチリンなどの3級アミンは、デシプラミンなどの2級アミンに比べて、カテコールアミンの取り込みよりも5-HTの取込みに選択性の高い阻害剤である。
【0013】
選択的セロトニン再取込み阻害剤は、可能性のある抗うつ剤として研究されてきた。フルオキセチン(PROZAC(登録商標))、セルトラリン(ZOLOFT(登録商標))、及びパロキセチン(PAXIL(登録商標))は、現在米国市場にあるSSRIの3つの例である。これらの薬剤はTCAよりも高い効能を有さないようであり、一般的により速い作用発現も有さない。しかし、それらには、副作用が少ないという利点がある。これら3種のSSRIのうち、パロキセチンは5-HT取込みの最も効能のある阻害剤であり、フルオキセチンは効能が最も低い。セルタリン(Sertaline)は、NEに対して5-HT取込みの選択性が最も高く、フルオキセチンは選択性が最も低い。フルオキセチン及びセルトラリンは活性代謝物を生み出すが、パロキセチンは不活性代謝物に代謝される。SSRIは一般的にセロトニンの取込みのみに影響し、ムスカリン受容体、アドレナリン受容体、ドーパミン受容体、及びヒスタミン受容体を含む種々の受容体系に対する親和性はほとんど、又は全く示さない。
【0014】
うつ病の治療の他に、SSRIの他の可能性のある治療用途が研究されてきた。それらには、アルツハイマー病、攻撃的行動、月経前症候群、糖尿病性神経障害、慢性疼痛、線維筋痛症、及びアルコール濫用の治療がある。例えば、フルオキセチンは、強迫性障害(OCD)の治療に承認されている。特に重要なものは、5-HTが、アンフェタミン様薬物に伴う濫用傾向の行動的影響を生み出さずに、食事が誘導する飽満感を増し飢餓感を減らすことにより、摂食量を減らすという観察である。このように、肥満の治療におけるSSRIの使用に関心が持たれている。
【0015】
ベンラファキシン(EFFEXOR(登録商標))は、5-HT及びNE両方の取込みの強力な阻害剤として作用するという点で、典型的なTCA及びSSRIとは、化学的及び薬理学的に異なるデュアル再取込み抗うつ剤である。ベンラファキシンも、その主な代謝物も、アドレナリンα1受容体に対する著しい親和性は持たない。ベンラファキシンはTCAと同等な有効性を有し、SSRIに類似の良性の副作用プロファイルを有する。
【0016】
ドーパミンは、精神病及びドーパミン作動性ニューロンの不足が根底病状であると考えられているパーキンソン病などの特定の神経変性疾患に主要な役割を果たすと仮定されている。ドーパミンは、運動、情緒反応、並びに楽しみ及び痛みを経験する能力を制御する脳のプロセスに影響を与える。DAの制御は、我々の精神的及び肉体的健康にきわめて重要な役割を果たす。特定の薬物は、DA再取込みを防止し、シナプス中により多くのDAを残して、DA濃度を高める。一例はメチルフェニデート(RITALIN(登録商標))であり、小児の多動症及び統合失調症の症状の治療に治療目的で使用されている。ドーパミン異常は、急性統合失調症患者に見られる、核となる注意異常のいくつかの根底にあると考えられる。
【0017】
治療上の遅延(therapeutic lag)がこれらの薬剤の使用に伴う。患者は、臨床的に意味のある症状緩和を得る前に、少なくとも3週間薬を服用しなければならない。さらに、相当数の患者が現行の療法に全く反応しない。例えば、うつ病と臨床的に診断された症例の最大30%が全形態の薬物療法に耐性があると現在推定されている。
【発明の概要】
【0018】
種々の実施態様において、本発明は、新規のシクロアルキルアミン及びその塩に関する。本発明はさらに、新規の医薬組成物並びに中枢神経系及び他の疾患、例えば、うつ病(例えば、大うつ病性障害、双極性障害)、線維筋痛症、疼痛(例えば、神経因性疼痛)、睡眠時無呼吸、注意欠陥障害(ADD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、レストレスレッグ症候群、統合失調症、不安、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、季節性情動障害(SAD)、月経前不機嫌、並びに神経変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病)及び発作の治療におけるそれらの使用に関する。
【0019】
本発明の典型的な化合物は、式(I)の構造を有する。
【化1】

【0020】
式Iにおいて、記号R1は、H、C1-C3置換もしくは非置換のアルキル、又はC1-C3置換もしくは非置換のヘテロアルキルを表す。記号R2及びR2aは、独立に、H、C1-C3置換もしくは非置換のアルキル、C1-C3置換もしくは非置換のヘテロアルキル、又はOR3を表す。R3は、H、C1-C3置換もしくは非置換のアルキル、及びC1-C3置換もしくは非置換のヘテロアルキルから選択される。Arはアリール基である。本発明の化合物に使用されるAr基の典型例は、置換もしくは非置換のナフチル及び置換もしくは非置換のフェニルである。記号Xは下記を表す:
【化2】

(式中、Zは、下記:
【化3】

から選択される構成要素である)。R4及びR5は、独立に、H、C1-C3置換もしくは非置換のアルキル、C1-C3置換もしくは非置換のヘテロアルキル、又はOR6を表す。R6は、H、C1-C3置換もしくは非置換のアルキル、又はC1-C3置換もしくは非置換のヘテロアルキルである。
【0021】
上述の化合物の塩、溶媒和物、エナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ混合物、エナンチオマー的に富化された混合物、及びエナンチオマー的に純粋な形態は全て、本発明の範囲に入る。例示的な実施態様において、本発明は、式Iの化合物の医薬として許容し得る塩、溶媒和物、エナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ混合物、エナンチオマー的に富化された混合物、又はエナンチオマー的に純粋な形態を提供する。
【0022】
例示的な実施態様において、本発明は、本発明の化合物(又は医薬として許容し得るその塩、溶媒和物など)及び医薬として許容し得る担体を含む医薬組成物を提供する。
【0023】
本発明は、式Iの化合物を使用する方法も提供する。例えば、本発明は、セロトニントランスポーター、ドーパミントランスポーター、及びノルエピネフリントランスポーターなどのモノアミントランスポーターへの、モノアミントランスポーターリガンドの結合を阻害する方法を提供する。例示的な方法は、モノアミントランスポーターと本発明の化合物とを接触させることを含む。例示的な実施態様において、該モノアミントランスポーターリガンドは、セロトニン、ドーパミン、及びノルエピネフリンなどのモノアミンである。
【0024】
種々の実施態様において、本発明は、セロトニントランスポーター、ドーパミントランスポーター、及びノルエピネフリントランスポーターなどの少なくとも1種のモノアミントランスポーターの活性を阻害する方法を提供する。例示的な方法は、モノアミントランスポーターと本発明の化合物とを接触させることを含む。
【0025】
さらに、例示的な実施態様において、本発明は、セロトニン、ドーパミン、及びノルエピネフリンなどの少なくとも1種のモノアミンの、細胞による取込みを阻害する方法を提供する。例示的な方法は、該細胞と本発明の化合物とを接触させることを含む。例示的な実施態様において、該細胞は、神経細胞又はグリア細胞などの脳細胞である。
【0026】
種々の実施態様において、本発明は、少なくとも1種のモノアミントランスポーターの活性を阻害することによる、うつ病を治療する方法を提供する。該方法は、哺乳動物の対象に本発明の化合物を投与することを含む。本発明の例示的な化合物は、少なくとも2種の異なるモノアミントランスポーターの活性を阻害する。例示的な実施態様において、該哺乳動物の対象はヒトである。
【0027】
本発明は、中枢神経系疾患を治療する方法も提供する。該方法は、その必要のある対象に治療上有効な量の本発明の化合物又は医薬として許容し得るその塩もしくは溶媒和物を投与することを含む。例示的な実施態様において、該対象はヒトである。
【0028】
本発明の他の実施態様、目的、及び利点は、以下の詳細な説明に述べられる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(発明の詳細な説明)
(I.定義)
「アルキル」という用語は、それ自体又は他の置換基の一部として、特記されない限り、直鎖もしくは分岐鎖又は環式の炭化水素基又はこれらの組み合わせを意味し、完全飽和でも、一不飽和でも、多価不飽和でもよく、指定された数の炭素原子を有する(すなわち、C1-C10は1から10の炭素を表す)二価及び多価の基を含むことがある。飽和炭化水素基の例には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、シクロヘキシル、(シクロヘキシル)メチル、シクロプロピルメチル、例えばn-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチルなどの同族体及び異性体などの基があるが、これらに限定されない。不飽和アルキル基は、1つ以上の二重結合又は三重結合を有するものである。不飽和アルキル基の例には、ビニル、2-プロペニル、クロチル、2-イソペンテニル、2-(ブタジエニル)、2,4-ペンタジエニル、3-(1,4-ペンタジエニル)、エチニル、1-プロピニル及び3-プロピニル、3-ブチニル、及びより高級な同族体及び異性体があるが、これらに限定されない。「アルキル」という用語は、特記されない限り、任意に、「ヘテロアルキル」など、以下により詳細に定義されるアルキルの誘導体を含む。炭化水素基に限定されているアルキル基は「ホモアルキル」と呼ばれる。
【0030】
「アルキレン」という用語は、それ自体又は他の置換基として、-CH2CH2CH2CH2-により例示されるがこれに限定されない、アルカンから誘導される二価の基を意味し、「ヘテロアルキレン」として以下に記載される基もさらに含む。典型的には、アルキル(又はアルキレン)基は、1から24の炭素原子を有し、10以下の炭素原子を持つものが本発明には好ましい。「低級アルキル」又は「低級アルキレン」は、一般に8以下の炭素原子を有する短鎖のアルキル又はアルキレン基である。
【0031】
「アルコキシ」、「アルキルアミノ」、及び「アルキルチオ」(又はチオアルキル)という用語はその従来の意味で使用され、それぞれ酸素原子、アミノ基、又は硫黄原子を介して分子の残りに結合しているアルキル基を意味する。
【0032】
「ヘテロアルキル」という用語は、それ自体又は他の用語と組み合わされて、特記されない限り、記載される数の炭素原子並びにO、N、Si、及びSからなる群から選択される少なくとも1種のヘテロ原子からなり、窒素及び硫黄原子が任意に酸化されていてよく、窒素へテロ原子が任意に4級化されていてよい、安定な直鎖もしくは分岐鎖、又は環式の炭化水素基、又はこれらの組み合わせを意味する。ヘテロ原子(複数可)O、N及びS、及びSiは、ヘテロアルキル基の任意の内部位置又はアルキル基が分子の残りの部分に結合している位置に配置されていてよい。例には、-CH2-CH2-O-CH3、-CH2-CH2-NH-CH3、-CH2-CH2-N(CH3)-CH3、-CH2-S-CH2-CH3、-CH2-CH2-S(O)-CH3、-CH2-CH2-S(O)2-CH3、-CH=CH-O-CH3、-Si(CH3)3、-CH2-CH=N-OCH3、及び-CH=CH-N(CH3)-CH3があるが、これらに限定されない。例えば-CH2-NH-OCH3及び-CH2-O-Si(CH3)3など、最大2つのヘテロ原子が連続していてよい。同様に、「ヘテロアルキレン」という用語は、それ自体又は他の置換基の一部として、ヘテロアルキルから誘導された二価の基を意味し、例えば、-CH2-CH2-S-CH2-CH2-及び-CH2-S-CH2-CH2-NH-CH2-により例示されるが、これらに限定されない。ヘテロアルキレン基では、ヘテロ原子は鎖の末端の片方又は両方を占めてよい(例えば、アルキレンオキシ、アルキレンジオキシ、アルキレンアミノ、アルキレンジアミノなど)。さらに、アルキレン及びヘテロアルキレン結合基では、結合基の式が書かれている方向によって結合基の向きが示されてはいない。例えば、式-CO2R'-は、-C(O)OR'及び-OC(O)R'の両方を表す。
【0033】
「シクロアルキル」及び「ヘテロシクロアルキル」という用語は、それ自体又は他の用語と組み合わされて、特記されない限り、それぞれ「アルキル」及び「ヘテロアルキル」の環式版を表す。さらに、ヘテロシクロアルキルでは、ヘテロ原子は、複素環が分子の残りの部分に結合する位置を占めていてもよい。シクロアルキルの例には、シクロペンチル、シクロヘキシル、1-シクロヘキセニル、3-シクロヘキセニル、シクロヘプチルなどがあるが、これらに限定されない。ヘテロシクロアルキルの例には、1-(1,2,5,6-テトラヒドロピリジル)、1-ピペリジニル、2-ピペリジニル、3-ピペリジニル、4-モルホリニル、3-モルホリニル、テトラヒドロフラン-2-イル、テトラヒドロフラン-3-イル、テトラヒドロチエン-2-イル、テトラヒドロチエン-3-イル、1-ピペラジニル、2-ピペラジニルなどがあるが、これらに限定されない。
【0034】
「ハロ」又は「ハロゲン」という用語は、それ自体又は他の置換基の一部として、特記されない限り、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素原子を意味する。さらに、「ハロアルキル」などの用語は、モノハロアルキル及びポリハロアルキルを含むものとする。例えば、「ハロ(C1-C4)アルキル」は、限定はされないが、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、4-クロロブチル、3-ブロモプロピルなどを含むものとする。
【0035】
「アリール」という用語は、特記されない限り、単環又は縮合もしくは共有結合している複数の環でもよい(好ましくは1から3の環)多価不飽和の芳香族置換基を意味する。「ヘテロアリール」という用語は、N、O、S、Si、及びBから選択される1から4のヘテロ原子を含み、窒素及び硫黄原子が任意に酸化されていて、窒素原子(複数可)が任意に4級化されているアリール基(又は環)を意味する。ヘテロアリール基は、分子の残りの部分にヘテロ原子により結合していてよい。アリール及びヘテロアリール基の非限定的な例には、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、4-ビフェニル、1-ピロリル、2-ピロリル、3-ピロリル、3-ピラゾリル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル、ピラジニル、2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、2-フェニル-4-オキサゾリル、5-オキサゾリル、3-イソオキサゾリル、4-イソオキサゾリル、5-イソオキサゾリル、2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル、2-フリル、3-フリル、2-チエニル、3-チエニル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-ピリミジル、4-ピリミジル、5-ベンゾチアゾリル、プリニル、2-ベンゾイミダゾリル、5-インドリル、1-イソキノリル、5-イソキノリル、2-キノキサリニル、5-キノキサリニル、3-キノリル、及び6-キニリルがある。上述のアリール及びヘテロアリール環系のそれぞれの置換基は、以下に記載の許容できる置換基の群から選択される。
【0036】
簡潔にするため、他の用語と組み合わせて使用される場合の「アリール」という用語(例えば、アリールオキシ、アリールチオキシ、アリールアルキル)は、先に定義されたアリール及びヘテロアリール環の両方を任意に含む。そのため、「アリールアルキル」という用語は、炭素原子(例えば、メチレン基)が、例えば酸素原子に置き替わっているアルキル基(例えば、フェノキシメチル、2-ピリジルオキシメチル、3-(1-ナフチルオキシ)プロピルなど)を含む、アリール基がアルキル基に結合している基(例えば、ベンジル、フェネチル、ピリジルメチルなど)を含むことがある。
【0037】
上記の用語のそれぞれ(例えば、「アルキル」、「ヘテロアルキル」、「アリール」、及び「ヘテロアリール」)は示された基の置換された形態及び非置換の形態の両方を任意に含む。各種類の基に対して、好ましい置換基は以下に与えられる。
【0038】
アルキル及びヘテロアルキル基(アルキレン、アルケニル、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、及びヘテロシクロアルケニルとしばしば称される基を含む)の置換基は、包括的に「アルキル基置換基」と称され、下記から選択されるがこれらに限定されない種々の基の1つ以上でよい:0から(2m'+1)(式中、m'はそのような基の炭素原子の総数である)の範囲の数の置換又は非置換のアルキル、置換又は非置換のヘテロアルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のヘテロアリール、置換又は非置換のヘテロシクロアルキル、-OR'、=O、=NR'、=N-OR'、-NR'R''-SR’、-ハロゲン、-SiR'R''R'''、-OC(O)R'、-C(O)R'、-CO2R'、-CONR'R''、-OC(O)NR'R''、-NR''C(O)R'、-NR'-C(O)NR''R'''、-NR''C(O)2R'、-NR-C(NR'R''R''')=NR''''、-NR-C(NR'R'')=NR'''、-S(O)R'、-S(O)2R'、-S(O)2NR'R''、-NRSO2R'、-CN、及び-NO2。R'、R''、R'''、及びR''''は、それぞれ好ましくは、独立に、水素、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のアリール、例えば、1〜3のハロゲンに置換されているアリール、置換もしくは非置換のアルキル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基、又はアリールアルキル基を意味する。本発明の化合物が2つ以上のR基を含む場合、例えば、R基のそれぞれは独立に選択され、R'、R''、R'''、及びR''''基が2つ以上存在する場合もこれらの基のそれぞれが同様に選択される。R'及びR''が同じ窒素原子に結合している場合、それらは窒素原子と結合して5員、6員、又は7員環を形成できる。例えば、-NR'R''は、限定はされないが、1-ピロリジニル及び4-モルホリニルを含むものとする。置換基の上記の議論から、当業者は、「アルキル」という用語が、ハロアルキル(例えば、-CF3及び-CH2CF3)及びアシル(例えば、-C(O)CH3、-C(O)CF3、-C(O)CH2OCH3など)など、水素基以外の基に結合した炭素原子を含む基を含むものとすることを理解するだろう。
【0039】
アルキル基について記載された置換基と同様に、アリール及びヘテロアリール基の置換基は、包括的に「アリール基置換基」と称される。置換基は例えば以下から選択される:0から芳香族環系の解放原子価(open valence)の総数の範囲の数の置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキル、-OR'、=O、=NR'、=N-OR'、-NR'R''、-SR'、-ハロゲン、-SiR'R''R'''、-OC(O)R'、-C(O)R'、-CO2R'、-CONR'R''、-OC(O)NR'R''、-NR''C(O)R'、-NR'-C(O)NR''R'''、-NR''C(O)2R'、-NR-C(NR'R''R''')=NR''''、-NR-C(NR'R'')=NR'''、-S(O)R'、-S(O)2R'、-S(O)2NR'R''、-NRSO2R'、-CN及び-NO2、-R'、-N3、-CH(Ph)2、フルオロ(C1-C4)アルコキシ、及びフルオロ(C1-C4)アルキル;式中、R'、R''、R'''、及びR''''は、好ましくは、独立に、水素、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のアリール、及び置換もしくは非置換のヘテロアリールから選択される。本発明の化合物が2つ以上のR基を含む場合、例えば、R基のそれぞれは独立に選択され、R'、R''、R'''、及びR''''基が2つ以上存在する場合もこれらの基のそれぞれが同様に選択される。
【0040】
アリール又はヘテロアリール環の隣接する原子に位置する置換基の2つは、T及びUが独立に-NR-、-O-、-CRR'-、又は単結合であり、かつqが0から3の整数である式-T-C(O)-(CRR')q-U-の置換基に任意に置き替わっていてよい。あるいは、アリール又はヘテロアリール環の隣接する原子に位置する置換基の2つは、A及びDが独立に-CRR'-、-O-、-NR-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-S(O)2NR'-、又は単結合であり、かつrが1から4の整数である式-A-(CH2)r-D-の置換基に任意に置き替わっていてよい。そのように形成された新しい環の単結合の1つは、二重結合により任意に置換されていてよい。あるいは、アリール又はヘテロアリール環の隣接する原子に位置する置換基の2つは、s及びdが独立に0から3の整数であり、かつX''が-O-、-NR'-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、又は-S(O)2NR'-である式-(CRR')s-X''-(CR''R''')d-の置換基に任意に置き替わっていてよい。置換基R、R'、R''、及びR'''は、好ましくは、独立に、水素又は置換もしくは非置換の(C1-C6)アルキルから選択される。
【0041】
本明細書では、「アシル」という用語は、カルボニル基、C(O)Rを含む置換基を表す。Rの例示的な種には、H、ハロゲン、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、及び置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキルがある。
【0042】
本明細書では、「縮合環系」という用語は、少なくとも2つの環であって、各環が少なくとも2つの原子を他の環と共有しているものを意味する。「縮合環系」は、芳香族環だけでなく非芳香族環を含むことがある。「縮合環系」の例は、ナフタレン、インドール、キノリン、クロメンなどがある。
【0043】
本明細書では、「ヘテロ原子」という用語は、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、ケイ素(Si)、及びホウ素(B)を含む。
【0044】
記号「R」は、置換又は非置換のアルキル、置換又は非置換のヘテロアルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のヘテロアリール、及び置換又は非置換のヘテロシクロアルキル基から選択される置換基を表す一般的な略語である。
【0045】
本明細書では「治療上有効な量」という句は、任意の医療に適用できる妥当なベネフィット/リスク比で所望の治療効果を生み出す(例えば、哺乳動物のシナプス間隙からのモノアミンの取込みを阻害し、それにより治療される生物のその経路の生物学的影響を調節することによる)のに有効である化合物の量又は本発明の化合物を含む組成物の量を意味する。
【0046】
「医薬として許容し得る」という句は、健全な医学的判断の範囲内で、過度な毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題もしくは合併症なしに、ヒト及び動物に使用するのに好適で、妥当なベネフィット/リスク比につりあっている化合物、物質、組成物、及び/又は剤形を意味するように本明細書で使用される。
【0047】
本明細書では「医薬として許容し得る担体」という句は、液体でも固体でもよい医薬として許容し得る任意の物質を意味する。例示的な担体には、ビヒクル、希釈剤、添加剤、液体及び固体充填剤、賦形剤、溶媒、溶媒カプセル化物質がある。各担体は、製剤の他の成分と適合性があり患者に有害でないという意味で「許容され得」なければならない。医薬として許容し得る担体として機能できる物質の非限定的な例には、下記がある:(1)ラクトース、グルコース、及びスクロースなどの糖類;(2)コーンスターチ及びポテトスターチなどのスターチ;(3)カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、及びセルロースアセテートなどのセルロース及びその誘導体;(4)粉末化トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)ココアバター及び坐剤用ワックスなどの賦形剤;(9)落花生油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、及び大豆油などの油;(10)プロピレングリコールなどのグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール、及びポリエチレングリコールなどのポリオール;(12)オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)パイロジェン除去水;(17)等張食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝溶液;(21)ポリエステル、ポリカーボネート、及び/又はポリ無水物;並びに(22)医薬製剤に使用される他の非毒性の適合性のある物質。
【0048】
本明細書に述べるとおり、本化合物の特定の実施態様は、塩基性官能基、例えばアミノもしくはアルキルアミノ、又は酸性官能基、例えばカルボン酸もしくはスルホン酸を含むことがあり、そのためそれぞれ医薬として許容し得る酸又は塩基と医薬として許容し得る塩を形成することができる。この点での「医薬として許容し得る塩」という用語は、本発明の化合物の比較的非毒性の無機及び有機の酸付加塩を意味する。これらの塩は、投与ビヒクル又は剤形製造プロセスにおいてインサイチュで調製できるか、又は遊離塩基形態にある本発明の精製された化合物を好適な有機又は無機の酸と反応させ、このように形成された塩をその後の精製の間に単離して別に調製できる。代表的な塩には、臭化水素塩、塩酸塩、硫酸塩、スルファミン酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、トシル酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、アスコルビン酸塩、パルミチン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナプチル酸塩(napthylate)、メシル酸塩、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸塩、グルタミン酸塩、グルコヘプトン酸塩、サリチル酸塩、スルファニル酸塩、2-アセトキシ安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンジスルホン酸塩、シュウ酸塩、イソチオン酸塩、ラクトビオン酸塩、及びラウリルスルホン酸塩などがある。本発明の化合物が酸性基を含む場合、置換又は非置換のアルキル、ヘテロアルキル、及びアリールアミンから適切な塩が形成される。例えば、Bergeらの文献(1977)「薬剤塩(Pharmaceutical Salts)」J. Pharm. Sci. 66:1-19を参照されたい。
【0049】
「医薬として許容し得る塩」という用語には、本明細書に記載される化合物に存在する特定の置換基によって、比較的非毒性の酸又は塩基により調製される活性化合物の塩を含む。本発明の化合物が比較的酸性の官能基を含む場合、中性形態のそのような化合物を、ニート又は好適な不活性溶媒中にある十分な量の所望の塩基と接触させて塩基付加塩が得られる。医薬として許容し得る塩基付加塩の例には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、有機アミノ、又はマグネシウム塩、又は類似の塩がある。本発明の化合物が比較的塩基性の官能基を含む場合、中性形態のそのような化合物を、ニート又は好適な不活性溶媒中にある十分な量の所望の酸と接触させて酸付加塩が得られる。医薬として許容し得る酸付加塩の例には、無機酸、例えば、塩化水素酸、臭化水素酸、硝酸、炭酸、炭酸水素、リン酸、リン酸水素、リン酸二水素、硫酸、硫酸水素、ヨウ化水素酸、又は亜リン酸などから誘導されるもの並びに、比較的非毒性の有機酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、マレイン酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、フマル酸、乳酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p-トリルスルホン酸、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸などから誘導されるものがある。アルギン酸塩など、アミノ酸の塩及びグルクロン酸又はガラクツノン酸(galactunoric acids)などの有機酸の塩も含まれる(例えば、Bergeらの文献Journal of Pharmaceutical Science, 66: 1-19 (1977)参照)。本発明の特定の具体的な化合物は、化合物を塩基付加塩又は酸付加塩のいずれかに転化可能にする塩基性及び酸性の官能基を両方含む。
【0050】
化合物の中性形態は、塩を塩基又は酸と接触させ、親化合物を従来の方法で単離することにより、好ましくは再生される。化合物の親形態は、極性溶媒への溶解度など特定の物性が種々の塩形態と異なるが、その他の点では、塩は、本発明の目的には化合物の親形態と等価である。
【0051】
塩形態に加え、本発明はプロドラッグ形態である化合物を提供する。本明細書に記載される化合物のプロドラッグは、生理条件下で容易に化学変化を起こし本発明の化合物を与える化合物である。さらに、プロドラッグは、エクスビボ環境で化学的方法又は生化学的方法により本発明の化合物に転化できる。例えば、プロドラッグは、好適な酵素又は化学試薬とともに経皮パッチリザーバーに配置されると、本発明の化合物にゆっくりと転化できる。
【0052】
本発明の特定の化合物は、非溶媒和形態並びに水和形態を含む溶媒和形態で存在できる。一般的に、溶媒和形態は非溶媒和形態と同等であり、本発明の範囲に包含される。本発明の特定の化合物は、多数の結晶形態でもアモルファス形態でも存在できる。一般的に、全ての物理的形態は本発明により企図される利用にとって等価であり、本発明の範囲内にあるものとする。「化合物又は化合物の医薬として許容し得る塩もしくは溶媒和物」は、塩及び溶媒和物の両方である物質が包含される点で、「もしくは」の包括的な意味を意図する。
【0053】
本発明の特定の化合物は不斉炭素原子(光学中心)又は二重結合を有する。ラセミ体、ジアステレオマー、幾何異性体、及び個々の異性体は本発明の範囲に包含される。光学活性な(R)-及び(S)-異性体は、キラル出発原料又はキラル試薬を利用して調製できるが、従来の技術を利用して分割もできる。本明細書に記載される化合物がオレフィン性二重結合又は他の幾何学的な非対称中心を含み、特記されない場合、該化合物はE幾何異性体及びZ幾何異性体の両方を含むものとする。同様に、全ての互変異性型も含まれるものとする。
【0054】
本明細書において使用されるラセミ、アンビスケールミック(ambiscalemic)及びスケールミック(scalemic)、又はエナンチオマー的に純粋な化合物の図式表示は、Maehr,の文献J. Chem. Ed., 62: 114-120 (1985)から採用する。実線及び破線のくさびは、キラル構成要素の絶対配置を示すために使用される。波線は、それが表す結合が生み出すであろう立体化学の示唆が関係ないことを示す。実線及び破線の太線は、示されている相対配置を表すが絶対的な立体化学を意味しない幾何記述子である。くさび形の輪郭及び点線もしくは破線は、不確定な絶対配置のエナンチオマー的に純粋な化合物を表す。
【0055】
本明細書では、「エナンチオマー的に富化された」又は「ジアステレオマー的に富化された」という用語は、エナンチオマー過剰率(ee)又はジアステレオマー過剰率(de)が約50%を超える、好ましくは約70%を超える、より好ましくは約90%を超える化合物を意味する。一般的に、約90%より高いエナンチオマー又はジアステレオマー純度、例えば約95%を超える、約97%を超える、約99%を超えるee又はdeを持つ組成物が特に好ましい。
【0056】
「エナンチオマー過剰率」及び「ジアステレオマー過剰率」という用語は、本明細書で交換可能に使用される。単一の立体中心を持つ化合物は、「エナンチオマー過剰」に存在すると称され、少なくとも2つの立体中心を持つものは「ジアステレオマー過剰」に存在すると称される。
【0057】
例えば、「エナンチオマー過剰率」という用語は当分野に周知であり、下記のとおり定義される。
【数1】

【0058】
「エナンチオマー過剰率」という用語は古い用語「光学純度」に関連があり、両者とも同じ現象の尺度である。eeの値は0から100の数であり、0はラセミであり、100はエナンチオマー的に純粋である。過去には光学純度98%と呼ばれたであろう化合物は、現在96%eeにより、より正確に特徴付けられる。90%eeは、問題とする物質中の95%の1つのエナンチオマー及び5%の他のエナンチオマー(複数可)の存在を反映する。
【0059】
本発明の化合物は、そのような化合物を構成する1種以上の原子において非天然の比率の同位体を含むこともある。例えば、化合物は、例えば、トリチウム(3H)、ヨウ素125(125I)、又は炭素14(14C)などの放射性同位元素により放射能標識されていることがある。放射性か否かにかかわらず、本発明の化合物の同位体のバリエーションの全ては、本発明の範囲に包含されるものとする。
【0060】
「モノアミントランスポーターリガンド」という用語は、モノアミントランスポーターに結合する任意の化合物を意味する。リガンドには、あるモノアミントランスポーターの天然のリガンドである内因性モノアミン並びに特定のモノアミントランスポーターに結合すると知られている合成分子などの薬剤分子及び他の化合物がある。一例において、リガンドは、トリチウムなどの放射性同位元素を含むか、又は他の方法で(例えば、蛍光で)標識されている。あるモノアミントランスポーターに適切なリガンドを選択するのは、当業者の能力の範囲内である。例えば、ドーパミントランスポーターの公知のリガンドにはドーパミン及びWIN35428があり、セロトニントランスポーターの公知のリガンドには5-ヒドロキシトリプタミン(セロトニン)及びシタロプラムがあり、ノルエピネフリントランスポーターのリガンドにはノルエピネフリン及びニソキセチンがある。
【0061】
「中枢神経系疾患」という用語は、哺乳動物の中枢神経系の異常な状態を意味する。中枢神経系疾患には、アルツハイマー病及びパーキンソン病などの神経変性疾患、神経精神病(例えば、統合失調症)、不安、睡眠障害、うつ病、認知症、運動障害、精神病、アルコール依存症、心的外傷後ストレス障害などがある。「中枢神経系疾患」には、記憶喪失及び又は認識喪失など、該疾病に関連する任意の病態も含まれる。例えば、神経変性疾患を治療する方法は、そのような疾患に特有なニューロン機能の喪失の治療又は予防も含むだろう。「中枢神経系疾患」は、少なくとも部分的にモノアミン(例えば、ノルエピネフリン)シグナル伝達経路に関与する任意の疾病又は病態(例えば、心血管疾患)も含む。
【0062】
「神経疾患」という用語は、哺乳動物の中枢神経系又は末梢神経系の任意の病態を意味する。「神経疾患」という用語は、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、及び筋萎縮性側索硬化症)、神経精神病(例えば、統合失調症及び全般性不安障害などの不安)を含む。例示的な神経疾患には、MLS(小脳性運動失調症)、ハンチントン病、ダウン症候群、多発梗塞性認知症、エピレクティキュス状態(status epilecticus)、挫傷(例えば、脊髄損傷及び頭部損傷)、ウイルス感染が誘発する神経変性(例えば、AIDS、脳症)、てんかん、良性健忘、非開放性頭部損傷、睡眠障害、うつ病(例えば、双極性障害)、認知症、運動障害、精神病、アルコール依存症、心的外傷後ストレス障害などがある。「神経疾患」は、該疾患に関連する任意の病態も含む。例えば、神経変性疾患を治療する方法は、神経変性疾患に関連する記憶喪失及び/又は認知喪失を治療する方法を含む。そのような方法は、神経変性疾患に特有なニューロン機能の喪失の治療又は予防も含むだろう。
【0063】
「疼痛」は、不快な感覚体験及び感情体験である。疼痛の分類は、持続期間、病因又は病態生理学、機構、強度、及び症状に基づいてきた。本明細書での「疼痛」という用語は全ての範疇の疼痛を意味し、刺激又は神経反応に関して記載される疼痛、例えば、体性痛(有害な刺激に対する正常な神経反応)及び神経因性疼痛(明らかな有害な入力がないことが多い、傷害を受けた又は変更された感覚経路の異常な反応);時間に関して分類される疼痛、例えば、慢性疼痛及び急性疼痛;例えば、軽度、中程度、又は重症など重症度に関して分類される疼痛;並びに病態又は症候群の症状又は結果である疼痛、例えば、炎症性疼痛、ガンの疼痛、AIDSの疼痛、関節症、片頭痛、三叉神経痛、心臓虚血、及び糖尿病性神経障害がある(例えば、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる「ハリソン内科学(Harrison's Principles of Internal Medicine)」93〜98ページ(Wilsonら編、第12版、1991年);Williamsらの文献J. of Med. Chem. 42: 1481-1485 (1999)を参照されたい)。「疼痛」は、混合病因疼痛(mixed etiology pain)、二重機構疼痛(dual mechanism pain)、異痛症、カウザルギー、中枢性疼痛、知覚過敏、痛感過敏、感覚異常、及び痛覚過敏も含むものとする。
【0064】
「体性痛」は、上述のとおり、傷害又は病気、例えば、外傷、火傷、感染、炎症、又はガンなどの疾病プロセスなどの有害な刺激に対する正常な神経の反応を意味し、皮膚痛(例えば、皮膚、筋肉、又は関節由来)及び内臓痛(例えば、臓器由来)の両方を含む。
【0065】
「神経因性疼痛」は、神経系への損傷から生じる異質な神経状態の群である。「神経因性」疼痛は、上述のとおり、末梢及び/又は中枢感覚経路への傷害又はその機能不全、及び神経系の機能不全から生じる疼痛を意味し、明らかな有害な刺激なしに疼痛が起こり、又は持続することが多い。これには、末梢性神経障害に関連する疼痛並びに中枢神経因性疼痛も含まれる。よく見られる種類の末梢性神経因性疼痛には、糖尿病性神経障害(DN又はDPN)、ヘルペス後神経痛(PHN)、及び三叉神経痛(TGN)がある。脳又は脊髄への損傷を含む中枢神経因性疼痛には、脳卒中、脊髄損傷後、及び多発性硬化症の結果として起こることがある。
【0066】
神経因性疼痛のよく見られる臨床像には、感覚消失、異痛症(非有毒な刺激が生み出す疼痛)、痛覚過敏、及び痛感過敏(遅延した知覚、加重、及び痛みのある残感覚)がある。疼痛は、侵害受容性と神経因性の種類の組み合わせであることが多く、例えば機械的脊椎痛及び神経根傷害又は脊髄症がある。
【0067】
「急性疼痛」は、典型的には侵襲性の処置、外傷、及び疾病に関連する有毒な化学的、熱的、又は機械的刺激に対する正常で予測される生理的反応である。それは一般的には時間が限られており、組織傷害をする恐れのある、かつ/又は組織傷害を生み出す刺激に対する適切な反応とみなすことができる。「急性疼痛」は、上述のとおり、短い期間又は突然の発症により特徴づけられる疼痛を意味する。
【0068】
「慢性疼痛」は、広範囲の疾患、例えば、外傷、悪性腫瘍、及び関節リウマチなどの慢性炎症性疾患において起こる。慢性疼痛は通常約6ヶ月より長く続く。さらに、慢性疼痛の強度は、有毒な刺激又は根元的なプロセスの強度と不釣り合いなことがある。「慢性疼痛」は、上述のとおり、慢性疾患に関連する疼痛、又は根元的な疾患の消散もしくは傷害の治癒を過ぎても持続し、根元的なプロセスから予測されるよりも強いことの多い疼痛を意味する。それは頻繁に再発することがある。
【0069】
「炎症性疼痛」は、組織の傷害及びその生じた炎症プロセスに反応する疼痛である。炎症性疼痛は、治癒を促進する生理的反応を惹起する点で適応性である。しかし、炎症はニューロン機能に影響することもある。COX2酵素により誘導されるPGE2、ブラジキニン、及び他の物質を含む炎症メディエーターは、痛みを伝達するニューロンの受容体に結合してその機能を変え、その興奮性を高め、それにより痛覚を増大させる。慢性疼痛の多くが炎症成分を有する。「炎症性疼痛」は、上述のとおり、炎症又は免疫系疾患の症状又は結果として生じる疼痛を意味する。
【0070】
「内臓痛」は、上述のとおり、内臓内に位置する疼痛を意味する。
【0071】
「混合病因」疼痛は、上述のとおり、炎症性成分及び神経因性成分の両方を含む疼痛を意味する。
【0072】
「二重機構」疼痛は、上述のとおり、末梢性の過敏化及び中枢性の過敏化の両方により増幅及び維持される疼痛を意味する。
【0073】
「カウザルギー」は、上述のとおり、外傷性の神経損傷後の持続する灼熱感、異痛症、及び痛感過敏の症候群を意味し、血管運動機能障害及び発汗の機能障害並びに後の栄養変化を伴うことが多い。
【0074】
「中枢性」疼痛は、上述のとおり、中枢神経系の一次損傷又は機能不全により起こる疼痛を意味する。
【0075】
「知覚過敏」は、上述のとおり、特殊感覚を除き、刺激に対する感受性の増加を意味する。
【0076】
「痛感過敏」は、上述のとおり、刺激、特に反復性の刺激に対する異常に痛みのある反応、並びに上昇した閾値により特徴づけられる有痛症候群を意味する。異痛症、知覚過敏、痛覚過敏、又は感覚異常とともに起こることがある。
【0077】
「感覚異常」は、上述のとおり、自発性か誘発性かに関わらず、不快な異常感覚を意味する。感覚異常の特殊な例には痛覚過敏及び異痛症が含まれる。
【0078】
「痛覚過敏」は、上述のとおり、通常痛みのある刺激に対する増加した反応を意味する。それは、閾値上刺激に対する増加した疼痛を反映する。
【0079】
「異痛症」は、上述のとおり、通常痛みを起こさない刺激による疼痛を意味する。
【0080】
「痙攣」という用語は中枢神経系疾患の1つを意味し、「発作」と交換可能に使用されるが、発作には多くの種類があり、そのいくつかは痙攣でなく微弱又は軽度の症状を有する。全種類の発作は、脳内の無秩序で突然の電気的活性により起こり得る。痙攣は、人体が急速かつ無秩序に震える場合である。痙攣の間、人間の筋肉は収縮と弛緩を繰り返す。発作が再発し、かつ特定できる基礎病因がない場合、その人はてんかんがあるといわれる。
【0081】
「うつ病」という用語は、大うつ病性障害(MDD)、双極性障害、季節性情動障害(SAD)、及び気分変調症を含む全形態のうつ病を含む。「大うつ病性障害」は、本明細書において「単極性うつ病」及び「大うつ病」と交換可能に使用される。「うつ病」は、全形態の疲労(例えば、慢性疲労症候群)及び認知障害など、通常うつ病に関連する任意の病態も含み得る。
【0082】
(II.序説)
効果的な療法を開発する戦略の1つは、セロトニン(5-HT)、ノルエピネフリン(NE)、及びドーパミン(DA)などの2種以上の生体アミンの再取込みを同時に阻害する、広域スペクトル化合物(例えば、抗うつ剤)の使用である。この手法の根拠は、ドーパミン機能の不足が、うつ病の核である快感喪失に関連し得ることを示す臨床及び前臨床の証拠に基づいている。Hardmanら編「グッドマン及びギルマンの療法の薬理学的基礎(Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics)」431-459(第9版、1996年)の中のBaldessarini, R.J.の文献「薬物及び精神疾患の治療:うつ病及び躁病(Drugs and the Treatment of Psychiatric Disorders: Depression and Mania)」。
【0083】
本発明の選択された化合物及び組成物の例示的な利点は、神経伝達物質(例えば、NE、5-HT、及びDA)のシナプス間隙からの(再)取込みを阻害することにより、少なくとも2種、又は3種の神経伝達物質のシナプス可用性を高める能力である。Skolnick及び協力者らは、DA、NE、及び5-HTのシナプス可用性を同時に高める抗うつ剤の治療プロファイルが、NE及び/又は5-HTのみを阻害する化合物とは異なることを示唆する一群の前臨床的証拠に関して報告している。Skolnick, P.らの文献「DOV-21,947の抗うつ剤様作用:「トリプル」再取込み阻害剤(Antidepressant-like actions of DOV-21,947: a "triple" reuptake inhibitor)」Eur. J. Pharm. 2003, 461, 103。
【0084】
例えば、Skolnick及び協力者らは、化合物、DOV 21,947 ((+)-1-(3,4-ジクロロフェニル)-3-アザビシクロ[3.1.0]ヘキサン)が、セロトニン、ノルエピネフリン、及びドーパミンの再取込みを、対応するヒト遺伝子組替えトランスポーターを発現しているヒト胎児由来腎臓細胞(HEK293)中で阻害する(それぞれ、IC50値が12、23、及び96nM)ことを報告した。Skolnick, P.らの文献「DOV-21,947の抗うつ剤様作用:「トリプル」再取込み阻害剤(Antidepressant-like actions of DOV-21,947: a "triple" reuptake inhibitor)」Eur. J. Pharm. 2003, 461, 99。さらに、DOV 21,947は、強制水泳試験(ラット)の無動期間を短くし、尾懸垂試験における無動性の用量依存的低減を生み出す。追加の証拠は、DOV 21,947などの新規のトリプル再取込み阻害剤の前臨床データ、例えば米国特許第6,372,919号などに見出すことができ、そこではDOV21,947が、ラセミ化合物(±)-1-(3,4-ジクロロフェニル)-3-アザビシクロ[3.1.0]ヘキサンよりも、ノルエピネフリン及びセロトニンの取込み部位に対して著しく高い親和性を持つことが開示された。
【0085】
まとめると、DOV 21,947などの化合物の前臨床データは、デュアル又はトリプル再取込み阻害剤が、診療所における中枢神経系疾患(例えば、うつ病)及び他の疾患の新規な治療の基礎を形成することを示す。
【0086】
(III.組成物)
(A.ピロリジンシクロアルキルアミン)
例示的な実施態様において、本発明は、式(I)の構造を有する化合物を提供する。
【化4】

【0087】
式Iにおいて、記号R1は、H、C1-C3置換もしくは非置換のアルキル、又はC1-C3置換もしくは非置換のヘテロアルキルを表す。記号R2及びR2aは、独立に、H、C1-C3置換もしくは非置換のアルキル、C1-C3置換もしくは非置換のヘテロアルキル、又はOR3を表す。R3は、H、C1-C3置換もしくは非置換のアルキル、及びC1-C3置換もしくは非置換のヘテロアルキルから選択される。Arはアリール基であり、特に置換又は非置換のナフチル及び置換又は非置換のフェニルから選択される構成要素である。記号Xは以下を表す:
【化5】

(式中、Zは、下記:
【化6】

から選択される構成要素である)。R4及びR5は、独立に、H、C1-C3置換もしくは非置換のアルキル、C1-C3置換もしくは非置換のヘテロアルキル、又はOR6を表す。R6は、H、C1-C3置換もしくは非置換のアルキル、又はC1-C3置換もしくは非置換のヘテロアルキルである。
【0088】
本発明の例示的な化合物には下記がある。
【化7】

【0089】
種々の実施態様において、Arは、置換又は非置換のフェニル、及び置換又は非置換のナフチルから選択される構成要素である。例示的な実施態様において、Arは、少なくとも1つのハロゲンにより置換されたフェニルであるか、又はArは非置換ナフチルである。フェニル基は、任意のハロゲン部分により置換されていてよい。しかし、一実施態様において、それは、少なくとも1つのクロロ部分により置換されている。
【0090】
例示的な実施態様において、Arは、下記から選択される構成要素である式を有する:
【化8】

(式中、X1及びX2は、独立に、H及びハロゲンから選択される)。本発明の例示的な化合物において、X1及びX2の少なくとも片方はハロゲンである。
【0091】
特定の実施態様において、本発明は、下記部分:
【化9】

が下記から選択される構成要素である式を有する、式Iの化合物を提供する。
【化10】

【0092】
種々の例示的な実施態様において、本発明は、下記部分:
【化11】

が、下記から選択される式を有し:
【化12】

Arが下記から選択される式を有する、式Iの化合物を提供する。
【化13】

【0093】
例示的な実施態様において、本発明は、下記部分:
【化14】

が、下記式を有し:
【化15】

Arが下記から選択される式を有する、式Iの化合物を提供する。
【化16】

【0094】
本発明の例示的な化合物は、アミノ部分(例えば、1級、2級、又は3級アミノ基)を含み、それ自体、該化合物(例えば、遊離塩基)を酸と接触させることにより、塩形態に転化可能である。例示的な実施態様において、塩形態は、取り扱いを容易にするために、他の油性又は粘性の化合物を固体物質に転化するために生成される。他の例示的な実施態様において、本発明の化合物の遊離塩基を対応する塩に転化させると、水性媒体への化合物の溶解度を上昇させ、生物学的利用能、薬物動態、及び薬力学などの生物学的特性に影響を与えることができる。したがって、本発明の化合物の、無機酸(例えば、塩酸塩)又は有機酸の塩を含む、医薬として許容し得る塩などの任意の塩形態は、本発明の範囲内である。本発明の化合物の任意のプロドラッグも本発明の範囲内である。例えば、R3及びR4は、インビボで開裂して1級又は2級アミンなどのアミンを生み出す任意の基でよい。
【0095】
(B.立体異性体を含む組成物)
本発明の化合物は1つ以上の立体中心を含むことができ、特定の幾何形態又は立体異性形態で存在することがある。化合物はキラル、ラセミで存在でき、1種以上の立体異性体を含む組成物で存在し得る。本発明は、本発明の化合物のエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ混合物、エナンチオマー的に富化された混合物、及びジアステレオマー的に富化された混合物、並びにエナンチオマー的に、又はジアステレオマー的に(基本的に)純粋な形態を包含する。本発明は、シス及びトランス異性体、(-)-及び(+)-エナンチオマー、(D)-異性体、(L)-異性体を本発明の範囲に入るものとして企図する。追加の不斉炭素原子が、アルキル基などの置換基に存在することがある。そのような異性体の全て、並びにそれらの混合物は本発明に含まれるものとする。
【0096】
例えば、本発明の化合物の特定のエナンチオマーが望ましい場合、不斉合成により、又はキラル補助基による誘導により調製できるが、その場合は得られたジアステレオマー混合物は分離され、補助基が開裂して所望の純粋なエナンチオマーを与える。別法としては、分子がアミノ基などの塩基性官能基、又はカルボキシル基などの酸性官能基を含む場合、適切な光学活性な酸又は塩基によりジアステレオマー塩を形成して、その後そのように形成されたジアステレオマーを分別結晶又は当分野に公知であるクロマトグラフィー手段により分割し、次いで純粋なエナンチオマーを回収することができる。さらに、エナンチオマー及びジアステレオマーの分離は、任意に化学誘導(例えば、アミンからのカルバマートの形成)と組み合わせて、キラルな固定相を利用するクロマトグラフィーを利用して実施されることが多い。
【0097】
したがって、一実施態様において、本発明は、本発明の化合物の第1の立体異性体及び少なくとも1種の追加の立体異性体を含む組成物を提供する。該第1の立体異性体は、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%のジアステレオマー過剰率又はエナンチオマー過剰率で存在してよい。特に好ましい実施態様において、該第1の立体異性体は、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又は少なくとも約99.5%のジアステレオマー過剰率又はエナンチオマー過剰率で存在する。エナンチオマー過剰率又はジアステレオマー過剰率は、まさにお互いの立体異性体に対して決めることができ、又は、少なくとも2種の他の立体異性体の合計に対して決めることができる。例示的な実施態様において、エナンチオマー過剰率又はジアステレオマー過剰率は、混合物中に存在する、他の検出可能な全立体異性体に対して決められる。分析される混合物中のそのような立体異性体の濃度が、キラルHPLCなどの通常の分析法を利用して測定可能な場合に、立体異性体は検出可能である。
(C.化合物の合成)
(1.全般)
本発明の化合物は、ラセミ混合物、シス及びトランス異性体の混合物、又は2種以上のジアステレオマーの混合物として合成され得る。立体異性体は、適切な合成段階で、例えばHPLCなどのキラルカラムクロマトグラフィーにより分離して、それぞれの立体異性体のエナンチオマー的に/ジアステレオマー的に富化された形態又はエナンチオマー的に、もしくはジアステレオマー的に純粋な形態を与えることができる。シス及びトランスの帰属は、任意に文献値と共に、NMRカップリングパターンを基になされる。絶対配置は、公知の配置のキラル前駆体からの合成により、又は結晶化した物質を利用するX線結晶構造決定により決定できる。
【0098】
シス及びトランス配置は、アミノ基を有する側鎖とシクロアルキル環の置換基との相対的配置により定義される。2つ以上の置換基が存在する場合、優先順位の高い(IUPAC)置換基が、シス及びトランス配置の決定に使用される。
【0099】
本発明の化合物は、本明細書に含まれる種々のスキームにより合成できる。本発明の所望の化合物を合成するために、スキームに示される例示的な試薬に代わる適切な代替試薬を選択することは、当業者の能力内である。必要な場合に合成工程を省略又は加えることも、当業者の能力内である。非限定的な例として、本明細書に示されるスキームの中のArは、置換又は非置換のナルフチル(nalhthyl)及び置換又は非置換のフェニルから選択される。例示的な実施態様において、Arは3,4-ジクロロフェニルである。
【0100】
(2.ピロリジニルシクロアルキルアミンの一般的な合成)
一実施態様において、本発明の化合物は、以下のスキーム1に示されるとおり対応するニトリルaから合成される。
【化17】

【0101】
第1の工程において、ニトリルaは、ジブロモアルキル又はヘテロアルキル試薬によりアルキル化され、対応するシクロアルキルニトリルbを形成するが、これはアルデヒドcに還元される。アルデヒドウィッティヒ基質cはエステルdに転化され、その後カルボン酸ニトリルeに転化される。ニトリル及びカルボン酸基は、それぞれ対応するアミン及びアルコール部分に還元され(f)、この基質の環化によりピロリジンgが形成する。ピロリジンアミンは、N-Boc又はN-Troc部分として保護されて化合物hを形成し、それがキラルクロマトグラフィーによりそのエナンチオマーi及びjに分離される。エナンチオマーは脱保護されてk及びlを形成し、それが任意にN-アルキル化されて、それぞれn及びmを与える。
【0102】
本発明の化合物の立体異性体混合物は、キラルクロマトグラフィーなどがあるがこれに限定されない当分野に認められた方法を利用して、分割、精製、又は富化されて1つの立体異性体になる。RO1カラムを使用する例示的な富化手順をスキーム2に示す。
【化18】

【0103】
【化19】

スキーム3は、本発明の置換シクロヘキシル化合物の合成及び精製の例示的な経路を示す。例えば、保護されたシアノシクロヘキシルケトンaは、Dibalの作用により対応するアルデヒドbに還元されてウィッティヒ基質を形成し、次にそれが不飽和エステルcに転化される。cの二重結合は対応するニトリルdに転化され、ニトリル及びエステル部分はそれぞれ対応するアミン及びアルコール部分に還元されて、eを形成する。eのアミン部分はBoc基として保護され、得られた化合物fは環化されてピロリジニル化合物gを形成する。化合物gのマスクされたケトンは脱保護されてhを形成し、それが臭化メチルマグネシウムの作用により置換シクロヘキシル誘導体iに転化される。得られた立体異性体の混合物は、RO1カラムを使用して分割される。第1のピークは純粋なIを含み、Boc部分の除去により脱保護される。第2のピークは、2つの化合物j及びkを含み、RO1カラムへの再投入によりさらに分割されてn及びpを与え、次いでこれをBoc基の除去により脱保護すると、それぞれo及びqを与える。最初のカラムクロマトグラフィーの第3のピークは純粋なlを与え、脱保護されてrを形成する。
【0104】
【化20】

スキーム4に、本発明の種々の立体異性体を分割する例示的な経路を示す。保護されたピロリジンケトンaは、対応するシクロヘキシルアルコールの2種のラセミ混合物に還元され、RO1カラムを利用して、純粋なbを含む第1のピーク、dとeとの混合物を含む第2のピーク、及び純粋なhを含む第3のピークに分割される。それぞれ第1及び第3のピーク中の化合物b及びhのN-Boc部分は開裂されてc及びiを与える。第2のピーク中の化合物は脱保護され、逆相クロマトグラフフィーにかけられて、純粋なf及びgを与える。
【0105】
【化21】

スキーム5で、a、b、c及びdのそれぞれは、ヨウ化メチルによりO-アルキル化され、得られたエーテルは脱保護されて、化合物j、k、l及びmを形成する。
【0106】
【化22】

スキーム6で、N-HピロリドンaはN-Boc誘導体(b)として保護され、この化合物が酸化されて対応するN-保護されたラクタムc及びdになる。ラクタムは、ラクタムカルボニル部分のα位でヒドロキシル化されてeを形成し、それはBocの除去により脱保護されてfを与え、BH3の作用により還元的脱カルボニル化されてgを与える。
【0107】
【化23】

スキーム7で、シクロペンチルニトリルaは対応するケトンbに転化され、それがホモログ化されて対応するメチレンメチルエステルcになる。化合物dは、cのケトンカルボニルを対応するニトリルに転化して形成される。dの立体化学混合物は、e及びhを含むピークに分割される。これらのピークから得た化合物は、2工程で反応し、化合物g及びhを形成する。
【0108】
表1は、本明細書に述べられた方法により製造された本発明の例示的な化合物を示す。
【表1】



【0109】
(D.医薬組成物)
本発明は、本発明の化合物(例えば、式(I)の化合物)又は医薬として許容し得るその塩もしくは溶媒和物及び少なくとも1種の医薬として許容し得る担体を含む医薬組成物も提供する。
【0110】
以下に詳細に記載されるとおり、本発明の医薬組成物は、経口投与、例えば、錠剤、水薬(水性又は非水性の溶液又は懸濁液)、非経口投与(静脈内及び筋肉内を含む)、又は硬膜外注射用のもの、例えば滅菌溶液もしくは懸濁液又は徐放性製剤向けのものを含む、固体又は液体形態の投与のために特に製剤できる。本発明の医薬組成物は、特に経皮投与のために製剤することもできる。
【0111】
本発明の医薬組成物は、経口的に、非経口的に、皮下的に、経皮的に、経鼻的に、又は座薬として投与してもよい。本発明の医薬組成物は、制御された送達装置を利用して投与してもよい。
【0112】
本発明の製剤には、経口及び非経口投与、特に、筋肉内、静脈内、及び皮下投与に好適なものがある。製剤は、簡便には単位剤形で表され、薬学の分野で周知な任意の方法により製造できる。担体物質と合わせて単一の剤形を生み出すことのできる有効成分の量は、治療されている宿主及び投与様式により変わるだろう。担体物質と合わせて単一の剤形を生み出すことのできる有効成分の量は、一般的に、患者に対する毒性なしに、治療効果を生み出す化合物の量だろう。一般的に、100パーセントのうち、この量は約1パーセントから約99パーセントの有効成分の範囲であろう。
【0113】
特定の実施態様において、本発明の製剤は、シクロデキストリン、リポソーム、ミセル形成剤、例えば、胆汁酸、及びポリマー性担体、例えば、ポリエステル、及びポリ無水物からなる群から選択される賦形剤;並びに本発明の化合物を含む。特定の実施態様において、上述の製剤は、本発明の化合物を、経口的に生物学的利用可能にする。
【0114】
これらの製剤又は組成物を製造する方法は、本発明の化合物と担体、及び任意に1種以上の副成分とを混合する工程を含む。一般的に、製剤は、本発明の化合物を液体担体、又は微粉砕された固体担体、又はその両方と均一かつ均質に混合し、次いで必要があれば生成物を成形して調製される。
【0115】
経口投与に好適な本発明の製剤は、それぞれ所定量の本発明の化合物を有効成分として含む、カプセル、カシェ剤、丸剤、錠剤、カプレット、ロゼンジ剤(風味のついた基剤、通常スクロース及びアラビアゴム又はトラガカントを使用)、散剤、顆粒剤、又は水性もしくは非水性の液体の液剤もしくは懸濁剤、又は水中油滴型もしくは油中水滴型乳剤、又はエリキシル剤もしくはシロップ剤として、又はトローチ剤(不活性な基剤、ゼラチン及びグリセリン、又はスクロース及びアラビアゴムなどを使用)の形態でよい。本発明の化合物は、ボーラス、舐剤、又はペースト剤としても投与できる。
【0116】
経口投与用の本発明の固体剤形(カプセル、錠剤、カプレット、丸剤、糖剤、散剤、顆粒剤など)において、有効成分は、1種以上の医薬として許容し得る担体、例えば、クエン酸ナトリウム又はリン酸ニカルシウム、及び/又は下記のいずれかと混合される:(1)充填剤又は増量剤、例えば、スターチ、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、及び/又はケイ酸;(2)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、及び/又はアラビアゴム;(3)グリセロールなどの保水剤;(4)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ポテトスターチ又はタピオカスターチ、アルギン酸、特定のケイ酸塩、及び炭酸ナトリウム;(5)パラフィンなどの溶解遅延剤;(6)4級アンモニウム化合物などの吸収促進剤;(7)湿潤剤、例えば、セチルアルコール、グリセロールモノステアレート、及び非イオン性界面活性剤;(8)吸収剤、例えば、カオリン及びベントナイト粘土;(9)滑沢剤、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体のポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及びこれらの混合物;並びに(10)着色剤。カプセル、錠剤、及び丸剤の場合、医薬組成物は緩衝剤も含むことがある。類似の種類の固体の組成物は、ラクトース及び乳糖並びに高分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を使用するソフトシェル及びハードシェルゼラチンカプセルの充填剤として使用されることもある。
【0117】
錠剤は、任意に1種以上の副成分とともに、圧縮又は成型によりつくることができる。打錠剤は、結合剤(例えば、ゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性な希釈剤、防腐剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム又は架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤又は分散剤を利用して調製できる。湿製錠剤は、不活性な液体希釈剤により湿らされた粉末化化合物の混合物を好適な機械中で成型してつくることができる。
【0118】
錠剤及び本発明の医薬組成物の他の固体剤形、例えば、糖剤、カプセル、丸剤、及び顆粒剤などは、任意に刻み目を入れても、腸溶性コーティング及び医薬製剤分野に周知の他のコーティングなど、コーティング及びシェルにより調製してもよい。それらは、例えば、所望の放出プロファイルを与える種々の比率のヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、リポソーム、及び/又は微小球を利用して、その中の有効成分の緩徐放出又は徐放性放出を与えるように調製することもできる。それらは、迅速放出用に調製でき、例えば凍結乾燥できる。それらは、例えば、細菌保持フィルター(bacteria-retaining filter)を通す濾過により、又は用時に滅菌水又は他の滅菌注射用媒体に溶解可能な滅菌固体組成物の形態の滅菌剤を混合して滅菌できる。このような組成物は、任意に不透明化剤を含んでよく、任意に遅延して、消化管の特定の部分のみ、又は優先的に、有効成分(複数可)を放出する組成物であってもよい。利用できる包埋組成物の例には、ポリマー性物質及び蝋がある。適切な場合、有効成分は、上述の賦形剤の1種以上によりマイクロカプセル形態にしてよい。
【0119】
本発明の化合物の経口投与用の液体剤形には、医薬として許容し得る乳剤、ミクロ乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、及びエリキシル剤がある。有効成分に加え、液体剤形は、当分野に通常使用される不活性な希釈剤、例えば、水及び他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油(特に、綿実油、ピーナッツ油、コーン油、胚芽油、オリーブ油、ひまし油、及びごま油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール、及びソルビタンの脂肪酸エステル、並びにこれらの混合物を含むことがある。
【0120】
不活性な希釈剤の他に、経口組成物は、湿潤剤、乳化剤及び懸濁剤、甘味料、着香料、着色料、芳香料、及び防腐剤などの補助剤を含んでよい。
【0121】
懸濁剤は、活性化合物のほかに、懸濁化剤、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、微結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド(metahydroxide)、ベントナイト、寒天及びトラガカント、並びにこれらの混合物を含むことがある。
【0122】
非経口投与に好適な本発明の医薬組成物は、1種以上の本発明の化合物を、1種以上の医薬として許容し得る滅菌等張水性又は非水性溶液、分散液、懸濁液もしくはエマルション、又は糖類、アルコール、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、意図される受容者の血液と製剤とを等張にする溶質、又は懸濁化剤もしくは増粘剤を含むことのある、用時に滅菌注射溶液又は分散液に再構成可能な滅菌粉末と組み合わせて含む。
【0123】
本発明の医薬組成物に利用できる好適な水性及び非水性担体の例には、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、及びこれらの好適な混合物、オリーブ油などの植物油、及びオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルがある。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材料の使用、懸濁剤の場合に要求される粒径の維持、及び界面活性剤の使用により維持される。
【0124】
これらの組成物は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤などの補助剤を含んでもよい。対象化合物への微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などを含ませて確実にできる。糖類、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物に含ませるのが望ましいこともある。さらに、注射用医薬形態の長期の吸収は、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの吸収を遅らせる薬剤を含ませることによりもたらすことができる。
【0125】
場合によっては、薬物の効果を長引かせるために、皮下注射又は筋肉注射からの薬物の吸収を遅くすることが望ましい。これは、水溶解度が低い結晶性又は非晶性物質の液体懸濁液を使用して実施できる。その場合の薬物の吸収速度はその溶出速度に依存し、それは結晶サイズ及び結晶形に依存することがある。別法としては、非経口投与された薬物形態の遅延した吸収は、薬物を油性ビヒクルに溶解又は懸濁させることにより達成される。
【0126】
注射デポ形態は、ポリラクチド−ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中の対象化合物のマイクロカプセルマトリックスを形成することによりつくられる。薬物とポリマーとの比及び利用される特定のポリマーの性質によって、薬物放出の速度が制御できる。他の生分解性ポリマーの例には、ポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)がある。デポ注射製剤は、体組織と適合性のあるリポソーム又はマイクロエマルションに薬物を封入することによっても調製される。持効性錠剤の形態の本発明の医薬組成物又は単位剤形は、一定期間にわたり薬剤を提供するように原薬を放出するように製剤された打錠剤を含むことがある。投与後一定の間隔の間、又は特定の生理条件が存在するまで原薬の放出が防止される遅効性錠剤を含む錠剤の種類がいくつかある。胃腸液に原薬の完全な投与量を周期的に放出する複効錠を形成できる。また、胃腸液に、含まれる原薬の増加量を連続的に放出する延長放出錠も形成できる。
【0127】
本発明の化合物は、徐放性放出手段により、又は当業者に周知である送達装置により投与できる。例には、それぞれ引用により本明細書に組み込まれる米国特許第3,845,770号;同第3,916,899号;同第3,536,809号;同第3,598,123号;及び同第4,008,719号、同第5,674,533号、同第5,059,595号、同第5,591,767号、同第5,120,548号、同第5,073,543号、同第5,639,476号、同第5,354,556号、及び同第5,733,566号に記載されるものがあるが、これらに限定されない。そのような剤形を使用して、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、ゲル、透過膜、浸透圧系、多層コーティング、微粒子、リポソーム、微小球、又はこれらの組み合わせを利用して1種以上の有効成分の緩徐放出又は徐放を与えることができ、変動する比率で所望の放出プロファイルを与えることができる。本明細書に記載されるものを含む、当業者に公知である好適な徐放製剤は、本発明の化合物とともに使用するために容易に選択できる。したがって、本発明は、徐放用になっている錠剤、カプセル、ゲルキャップ、及びカプレットを含むが、これらに限定されない経口投与に好適な単一単位剤形を包含する。
【0128】
徐放医薬品の全ては、徐放でない等価物により達成されるよりも、薬物療法を改善するという共通の目標を有する。理想的には、医療における最適に設計された徐放調合物の使用には、最低限の原薬が、最低の時間で病態の治癒又は制御に利用されるという特徴がある。徐放製剤の利点には、薬物の活性の延長、投薬頻度の低減、及び患者のコンプライアンスの増大がある。さらに、徐放性製剤を使用して、薬剤の血中濃度など、作用の発現の時間又は他の特性に影響を及ぼすことができ、そのため副(例えば、有害)作用の発生に影響を及ぼし得る。
【0129】
ほとんどの徐放製剤は、所望の治療効果を迅速に生み出す量の薬物(有効成分)を初期に放出し、長期にこのレベルの治療効果又は予防効果を維持する薬物の他の量を徐々にかつ断続的に放出するように設計されている。体内のこの一定レベルの薬物を維持するために、代謝され体内から排泄される薬剤の量を置き換える速度で、剤形から薬剤が放出されなければならない。有効成分の徐放は、pH、温度、酵素、水、又は他の生理的条件もしくは化合物を含むがこれらに限定されない種々の条件により刺激できる。
【0130】
本発明の化合物は、経皮、局所、及び粘膜剤形としても製剤でき、その形態には、点眼剤、スプレー、エアゾール、クリーム、ローション、軟膏、ゲル、液剤、乳剤、懸濁剤、又は当業者に公知の他の形態がある。例えば、「レミントンの製薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」、第16版及び第18版、Mack Publishing, Easton PA (1980年及び1990年);及び「医薬剤形入門(Introduction to Pharmaceutical dosage forms)」、第4版、Lea及びFebiger、Philadelphia(1985年)を参照されたい。経皮剤形には、「リザーバータイプ」又は「マトリックスタイプ」のパッチがあり、皮膚に貼付され特定の時間着用されて、所望量の有効成分の浸透を可能にする。
【0131】
本発明に包含される経皮、局所、及び粘膜剤形を与えるのに使用できる好適な賦形剤(例えば、担体及び希釈剤)及び他の物質は、製剤分野の当業者に周知であり、ある医薬組成物又は剤形が利用される特定の組織に依存する。
【0132】
治療すべき具体的な組織によって、追加の成分を、本発明の有効成分による治療の前、それと同時に、又はその後に使用できる。例えば、浸透促進剤を使用して、有効成分の組織への送達を助けることができる。
【0133】
医薬組成物もしくは剤形のpH、又は医薬組成物もしくは剤形が利用される組織のpHを調整して、1種以上の有効成分の送達を向上させることもできる。同様に、溶媒担体の極性、そのイオン強度、又は張性を調整して送達を向上させることができる。ステアリン酸塩などの化合物を医薬組成物又は剤形に加えて、送達を向上させるために1種以上の有効成分の親水性又は親油性を好都合に変えることができる。この点で、ステアリン酸塩は、製剤の脂質ビヒクルとして、乳化剤又は界面活性剤として、かつ送達向上剤(delivery-enhancing agnet)又は浸透促進剤(penetration-enhancing agent)として機能できる。有効成分の種々の塩、水和物、又は溶媒和物を使用して、得られる組成物の性質をさらに調整できる。
【0134】
本発明の化合物が医薬としてヒト及び動物に投与される場合、それらは、それ自体として、又は、例えば医薬として許容し得る担体と組み合わされた0.1から99.5%の有効成分を含む医薬組成物として与えることができる。
【0135】
本発明の調合物は、経口及び非経口で与えることができる。それらは、もちろん、各投与経路に好適な形態で与えられる。例えば、それらは錠剤又はカプセル形態で、注射により、及び静脈内投与により投与される。一実施態様において、経口投与が好ましい。
【0136】
本明細書での「非経口投与」及び「非経口に投与する」という句は、経腸及び局所投与以外の投与様式、通常注射による投与を意味し、限定はされないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、角皮下、関節内、被膜下、くも膜下、髄腔内、及びイントラステマル(intrastemal)の注射及び注入がある。
【0137】
選択された用量レベルは、利用される本発明の特定の化合物、又はそのエステル、塩、もしくはアミドの活性、投与経路、投与の時間、利用される特定の化合物の排泄又は代謝の速度、治療の期間、利用される特定の化合物と組み合わされて利用される他の薬物、化合物、及び/又は物質、治療される患者の年齢、性別、体重、病態、全身の健康及び病歴、並びに医学分野に周知の因子を含む種々の因子により変わるだろう。
【0138】
当分野の通常の技量を有する医師又は獣医は、必要となる医薬組成物の有効量を容易に決定し、処方できる。例えば、医師又は獣医なら、所望の治療効果を得るために要求されるより低いレベルで、医薬組成物に利用される化合物の投与を始め、所望の効果が得られるまで徐々に用量を増やすことができる。
本発明は、本発明の化合物の単位剤形も提供する。一般に、単位剤形は、化合物及び、例えば、本明細書に記載されるもの又は当分野で公知なものなどの医薬として許容し得る担体、希釈剤、賦形剤などを含む。例示的な実施態様において、単位用量製剤(unit dosage formulation)は、約0.1から約7000mgの本発明の化合物を含む。種々の実施態様において、単位用量製剤は、2.5mgから約500mg、又は約5mgから約50mgの本発明の化合物を含む。種々の実施態様において、単位用量は、単位用量製剤が投与される対象に抗うつ活性を与えるのに十分な投与量を含む。種々の実施態様において、単位用量は、単位用量が経口投与される場合に、投与される対象に抗うつ活性を与えるのに十分な活性化合物を与える。
【0139】
(IV.方法)
(A.全般)
本発明は、以下により詳細に述べられる、本発明の化合物を使用する方法も提供する。「治療」又は「治療すること」という用語は、療法、防止(予防)、再発の予防、及び急性症状の緩解を包含するものとする。「治療すること」は、症状の緩解及び基礎にある病態の消散のいずれか又は両方を意味する。本発明の状態の多くにおいて、本発明の化合物又は組成物の投与は、病態に直接作用せずいくつかの悪性の症状に作用することがあり、その症状の改善は、病態の全般的で望ましい緩解につながる。
【0140】
この治療を受け取る患者は、霊長類、特にヒト、及びウマ、ウシ、ブタ、及びヒツジなどの他の哺乳動物、並びに家禽及び愛玩動物全般を含む、必要のある任意の動物である。
【0141】
一般的に、本発明の化合物の好適な1日量は、治療効果を生み出すのに有効な最低の投与量である化合物の量である。そのような有効な投与量は、一般的に上述の因子に依存する。一般的に、患者にとって本発明の化合物の静脈内、脳室内、及び皮下投与量は、1日あたり体重のキログラムあたり約0.005mgからキログラムあたり約5mgの範囲であろう。
【0142】
本発明の化合物及び医薬組成物は、他の医薬品、例えば、ペニシリン、セファロスポリン、アミノグリコシド、及びグリコペプチドなどの抗微生物剤、並びに他の向精神薬と組み合わせて投与できる。したがって、共同療法(conjunctive therapy)は、最初に投与された薬剤の治療効果が、次の薬剤の投与時に完全には消えていないような、活性化合物の連続投与、同時投与、及び別な投与を含む。
【0143】
(B.モノアミントランスポーターへの結合)
他の態様において、本発明は、本発明の化合物をモノアミントランスポーターに結合させる方法を提供する。該方法は、モノアミントランスポーターと本発明の化合物とを接触させることを含む。
【0144】
さらに他の態様において、本発明は、モノアミントランスポーターリガンドのモノアミントランスポーター(セロトニントランスポーター、ドーパミントランスポーター、及びノルエピネフリントランスポーターなど)への結合を阻害する方法を提供する。該方法は、モノアミントランスポーターと本発明の化合物とを接触させることを含む。例示的な実施態様において、モノアミントランスポーターリガンドは、セロトニン、ドーパミン、又はノルエピネフリンなどの内因性モノアミンである。他の例示的な実施態様において、該リガンドは、薬剤分子又はモノアミントランスポーターへの結合親和性を有すると知られている他の小分子である。他の例示的な実施態様において、該モノアミントランスポーターリガンドは、モノアミントランスポーターに結合すると知られている放射性標識された化合物である。
【0145】
例示的な実施態様において、リガンド結合の阻害は、本明細書において、以下の実施例7などに記載されるものなどのエクスビボ結合アッセイを利用して示される。例示的な実施態様において、本明細書の化合物は、ビヒクルに比べて約1%から約100%、好ましくは約10%から約100%、より好ましくは約20%から約90%平均結合を阻害する。平均結合の阻害は、好ましくは投与量依存的である。
【0146】
(C.モノアミントランスポーター活性の阻害)
さらに他の態様において、本発明は、セロトニントランスポーター、ドーパミントランスポーター、及びノルエピネフリントランスポーターなどの少なくとも1種のモノアミントランスポーターの活性を調節(例えば、阻害、増大)する方法を提供する。該方法は、該モノアミントランスポーターと本発明の化合物とを接触させることを含む。例示的な実施態様において、該モノアミントランスポーターは、治療上有効な量の本発明の化合物、例えば、式(I)の化合物、又はその医薬として許容し得る塩もしくは溶媒和物を対象へ投与することにより、本発明の化合物と接触する。好ましい実施態様において、該対象はヒトである。他の例示的な実施態様において、該モノアミントランスポーターは、ドーパミントランスポーター(DAT)、セロトニントランスポーター(SERT)、又はノルエピネフリントランスポーター(NET)である。他の例示的な実施態様において、本発明の化合物は、少なくとも2種の異なるモノアミントランスポーターの活性を阻害する。モノアミントランスポーター活性の阻害は、当分野に公知であるアッセイを利用して測定できる。例示的なアッセイフォーマットには、インビトロ機能的取込みアッセイがある。例示的な実施態様において、機能的取込みアッセイは、所望のモノアミントランスポーターを発現する適切な細胞系を利用する。他の例示的な実施態様において、機能的取込みアッセイは、適切な生物の脳組織から単離されたシナプトソームを利用する。別法において、モノアミントランスポーター活性の阻害は、当分野に公知の受容体結合実験を利用して、例えば、適切な膜標本を利用して評価できる。他のアッセイは、試験対象(例えば、ラット)の本発明の化合物並びに対照化合物による治療、それに次ぐ脳組織の単離、及び本明細書に記載される受容体占有率のエクスビボ分析を含む。
【0147】
(D.モノアミン取込みの阻害)
さらに他の態様において、本発明は、細胞による、少なくとも1種のモノアミン(例えば、ドーパミン、セロトニン、ノルエピネフリン)の取込みを阻害する方法を提供する。該方法は、該細胞と本発明の化合物とを接触させることを含む。例示的な実施態様において、該細胞は、神経細胞又はグリア細胞などの脳細胞である。一例において、モノアミン取込みの阻害はインビボで起こる。生物において、例えば、シナプス間隙からの、ドーパミン又はセロトニンなどのモノアミンの神経細胞への取込み(再取込みとも称される)が起こる。このように、一実施態様において、神経細胞は、哺乳動物のシナプス間隙と接触している。他の例示的な実施態様において、モノアミン取込みの阻害はインビトロで起こる。このような方法において、該細胞は、神経細胞などの脳細胞又は遺伝子組換えモノアミントランスポーターを発現する細胞型でよい。
【0148】
一実施態様において、該化合物は、少なくとも2種の異なるモノアミンの取込みを阻害する。これは、例えば、複数の異なるモノアミントランスポーターを同時に発現する細胞型(単離されたシナプトソームなど)を利用する種々のインビトロ機能的取込みアッセイを実施して示すことができ、又は、遺伝子組換えドーパミントランスポーターなど、それぞれ異なるモノアミントランスポーターを発現する2種の異なる細胞型を、標識された適切なモノアミンとともに使用して示すことができる。モノアミン取込みの阻害は、本明細書において以下に記載されるものなどの機能的モノアミン取込みアッセイにおいて、阻害剤(例えば、本発明の化合物)のIC50が、約0.1nMから約10μM、好ましくは約1nMから約1μM、より好ましくは約1nMから約500nM、さらにより好ましくは約1nMから約100nMである場合に示される。
【0149】
(E.中枢神経系疾患の治療)
他の態様において、本発明は、少なくとも1種のモノアミントランスポーターの活性を阻害することによる、うつ病の治療方法を提供する。該方法は、哺乳動物の対象に本発明の化合物を投与することを含む。例示的な実施態様において、哺乳動物の対象はヒトである。他の例示的な実施態様において、本発明の化合物は、少なくとも2種の異なるモノアミントランスポーターの活性を阻害する。例えば、本発明の化合物は、セロトニントランスポーター、ドーパミントランスポーター、及びノルエピネフリントランスポーターの少なくとも2種の活性を阻害する。モノアミントランスポーター活性の阻害は、本明細書において以下に記載される機能的モノアミン取込みアッセイにより示すことができる。本発明の化合物の抗うつ活性の実証は、ラット強制水泳試験、マウス尾懸垂試験、及びラット自発運動量分析などのうつ病の適切な動物モデルを利用して示すことができる。ラット強制水泳試験は、2種以上のモノアミントランスポーターに対して活性のある(混合モノアミントランスポーター活性)化合物の分析にも好適である。例えば、水泳活動の増加はセロトニン再取込みの阻害を示し、よじ登り活動の増加はノルエピネフリン再取込みの阻害を示す。好ましい実施態様において、本発明の化合物は少なくとも1種の動物モデルにおいて活性があり、それは無動性を評価するものなど抗うつ剤様活性の測定に利用できる。例示的な実施態様において、少なくとも1種の動物モデルにおいて、ビヒクルに比較して、本発明の化合物が、平均無動時間を、約5%から約90%、好ましくは約10%から約70%、より好ましくは約10%から約50%阻害する場合に、本発明の化合物は活性がある。
【0150】
さらに他の態様において、本発明は、抗うつ剤様作用をもたらす方法を提供する。該方法は、その必要のある哺乳動物の対象に、治療上有効な量の本発明の化合物又は組成物、例えば、式(I)の化合物、又は医薬として許容し得るその塩もしくは溶媒和物を投与することを含む。抗うつ剤様作用は、本明細書に記載されるものなどの、疾患の動物モデルを使用して測定できる。
【0151】
さらなる態様において、本発明は中枢神経系疾患を治療する方法を提供する。該方法は、その必要のある対象に、治療上有効な量の本発明の組成物又は化合物、例えば、式(I)の化合物、又は医薬として許容し得るその塩もしくは溶媒和物を投与することを含む。好ましい実施態様において、該対象はヒトである。
【0152】
他の例示的な実施態様において、該中枢神経系疾患は、うつ病(例えば、大うつ病性障害、双極性障害、単極性障害、気分変調症、及び季節性情動障害)、認知障害、線維筋痛症、疼痛(例えば、神経因性疼痛)、精神病態により生じる睡眠障害を含む睡眠関連障害(例えば、睡眠時無呼吸、不眠症、ナルコレプシー、脱力発作)、慢性疲労症候群、注意欠陥障害(ADD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、レストレスレッグ症候群、統合失調症、不安(例えば、全般性不安障害、社会不安障害、パニック障害)、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、季節性情動障害(SAD)、月経前不機嫌、閉経後の血管運動症状(例えば、ほてり、寝汗)、神経変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、及び筋萎縮性側索硬化症)、躁状態、気分変調性障害、気分循環性障害からなる群から選択される構成要素である。好ましい実施態様において、中枢神経系疾患は、大うつ病性障害などのうつ病である。例示的な実施態様において、本発明の化合物は、認知障害及びうつ病など合併する2種以上の病態/疾患を治療するのに有用である。
【0153】
中枢神経系疾患には、限定はされないが、老人性認知症、アルツハイマー型認知症、認識、記憶喪失、記憶喪失/健忘症候群、てんかん、意識障害、昏睡、注意の低下、言語障害、レノックス症候群、自閉症、及び多動症候群を含む大脳機能障害がある。
【0154】
神経因性疼痛には、ヘルペス後(又は帯状疱疹後)神経痛、反射性交感神経性ジストロフィー/カウザルギー、又は神経外傷、幻肢痛、手根管症候群、及び末梢神経障害(糖尿病性神経障害又は慢性のアルコール使用から起こる神経障害など)があるが、これらに限定されない。
【0155】
本発明の方法を利用して治療できる他の例示的な疾病及び病態には、肥満;片頭痛(migraine)又は片頭痛(migraine headache);不随意排尿、尿滴下又は尿漏出、腹圧性尿失禁(SUI)、切迫尿失禁、運動性尿失禁、反射性尿失禁、受動性失禁、及び溢流性失禁を含むがこれらに限定されない尿失禁;心理的及び/又は生理的因子により起こる性機能不全、勃起不全、早漏、膣内乾燥、性的興奮の欠如、絶頂感を得ることの不能を含むがこれらに限定されない男性又は女性の性機能不全、及び性的欲求の抑制、性的興奮の抑制、女性絶頂感の抑制、男性絶頂感の抑制、機能性性交疼痛症、機能性膣痙攣、及び不定型心理的性機能不全を含むがこれらに限定されない心理的性機能不全がある。
【0156】
本発明の選択された化合物をマウスの尾懸垂試験及び自発運動量試験で評価したが、被験化合物が抗うつ剤様プロファイルを示した(すなわち無動時間を著しく短くした)ことを示した。尾懸垂試験において活性のある投与量では、ベースライン運動活性には変化又は減少が全く見られず、抗うつ剤様活性が一般的な刺激作用によるものではないことを示す。
【0157】
本発明の選択された化合物を、ラットの強制水泳試験及び自発運動量試験でも評価した。これらの化合物により生じた無動性の減少は、混合トランスポーター活性(すなわち、SNRIプロファイル)を示す水泳及びよじ登り挙動の増加によるようである。まとめると、本発明の被験化合物は、少なくとも3種の動物モデル、マウス尾懸垂試験及びラット自発運動量試験並びにラット強制水泳試験において、抗うつプロファイルを示した。
【0158】
以下の実施例を、本発明の選択された実施態様の説明のために与えるが、その範囲を限定すると解釈されないものとする。
【実施例】
【0159】
(1.一般的手順)
以下の実施例において、特記されない限り、以下の一般的実験手順を利用した。市販の試薬はさらに精製することなく使用した。無水反応は、N2下で炎で乾燥させたガラス製品で実施した。NMRスペクトルは、トリメチルシラン(TMS)を内部標準として重クロロホルム又はメタノール-d4中で、Varian 400 MHz分光器で記録した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーは、254nmで検出するISCO Combiflashシステムを利用して、又はISCO順相シリカゲルカートリッジを利用して実施した。
【0160】
(分析HPLC)
分析HPLCは、Agilent Zorbax RX-C18 5μm、4.6×250mmカラムに接続しているHewlett Packard Series 1100ポンプで、214及び254nmでモニタリングするHewlett Packard Series 1100 UV/Vis検出器で検出して実施した。典型的な流速=1ml/分。3種の異なるHPLCカラム及び種々の溶出プロトコルを利用した。例えば、(1)直線勾配で運転するAgilent Zorbax RX-C18 5μm、4.6×250mmカラム。溶媒A=H2O w/0.05% TFA、溶媒B=MeCNw/0.05 % TFA。時間0分=5%溶媒B、時間4分=40%溶媒B、時間8分=100%溶媒B、12分=5%溶媒B、20分=5%溶媒B;(2)5→100%のB(アセトニトリル/0.1%ギ酸)及び溶媒A(水/0.1%ギ酸)の3分の勾配で運転するPhenomenex 3μ C18カラム;(3)5→100%のB(アセトニトリル/0.1%ギ酸)及び溶媒A(水/0.1%ギ酸)の5分の勾配で運転するPhenomenex 5μ C18カラム。
【0161】
(逆相HPLC精製)
逆相HPLC精製は、Phenomenex 5μ C18 (50×21.2mm)カラムを利用するGilsonシステムで実施した。標準的な分離方法は下記のとおりであった:溶媒A(水/0.1%ギ酸)中の10→100%B(アセトニトリル/0.1%ギ酸)の10分の勾配。租試料は、典型的にはMeOHに溶かした。フラクションをGenovac(低圧での遠心分離)により濃縮した。
【0162】
(GC-MS)
ガスクロマトグラフィーは、Hewlett Packard 5973シリーズ質量選択検出器に接続しているHP1カラム(30メートル、膜厚0.15μ)を備えたHewlett Packard 6890シリーズGCシステムにより実施した。下記の直線温度勾配を利用した:5分間100℃、次いで20℃/分で320℃にし、320℃で10分間ホールド。
【0163】
(LCMS)
LCMSは、Micromass Platform LCに接続しているAgilent 1100シリーズシステムで実施した。下記のカラム及び勾配を利用した:カラム:Luna C18(2)、粒径3μm、カラム寸法30×2.0mm。流速=0.5mL/分、溶媒A=95%H2O、5%MeOH 中の0.1M NH4Ac、pH 6.0、溶媒B=溶媒B:MeOH中の0.1M NH4Ac。6エントリーを持つ直線勾配:時間0分=100%溶媒A、時間10分=100%B、時間12分=100%溶媒B、時間12分10秒=100%溶媒A、時間14分=100%溶媒A、時間14分20秒=100%溶媒A。
【0164】
(マイクロ波(μW)再結晶)
粗塩(例えば塩酸塩)を、攪拌子とともにマイクロ波容器に入れた。再結晶溶媒を加え、容器を目標温度においてある時間加熱した。容器を反応器中で50℃に冷却し、次いで取り除いて、室温にゆっくりと放冷した。N,N-ジメチルアミンは典型的にはEtOAc又はEtOAc:CH3CN(2:1)で再結晶した。N-Me又は1級アミンは典型的にはCH3CNで再結晶した。混合物を25℃で18時間攪拌した。混合物を15℃に冷却し、飽和NH4Cl水溶液(100mL)でクエンチした。得られた混合物を、H2O (1.2L)とt-ブチルメチルエーテル(MTBE)(300mL)との間で分配した。水層をMTBE(200mL)でさらに抽出した。合わせた有機層をブライン(200mL)で洗浄し、MgSO4(5g)で乾燥させ、真空中でスピンエバポレート(spin-evaporated)して油にした。油を、シリカゲルカラム(1.0kg)を詰めたクロマトグラフィーにかけ、ヘキサン-EtOAc(4:1)(8.0L)で溶出した。TLCにより決定した適切なフラクションを合わせ、真空中でスピンエバポレートして油にしたが、ポンプダウンすると凝固し、精製された生成物27.4g(97.0%)を与えた。このようにして、さらなる変換に好適な生成物を合計で240.2g調製した。
【0165】
(実施例1)
(一般的手順:シクロアルキルピロリジンの合成)
【化24】

(A:環化)
THF(200mL)-NaOH(50%、100mL)に1(50mmoL)を溶かした0℃の溶液に、TBAI(ヨウ化テトラブチルアンモニウム、2.0g)及びジブロモアルカン(60mmoL)を加えた。反応混合物を12時間攪拌し、濃縮した。生成物をジエチルエーテル(200mL×3)で抽出した。合わせた抽出物を乾燥させ、濃縮した。残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル、勾配:0/100から50/50)により精製すると、所望の生成物(約85〜95%)を与えた。
【0166】
(B:還元及びウィッティヒ反応)
CH2Cl2(250mL)に2(40mmoL)を溶かした-78℃の溶液に、Dibal-H(ヘキサン中1.0M、48mL、48mmoL)を加えた。反応混合物を20分間攪拌し、MeOH(40mL)及びHCl(6N、200mL)でクエンチした。生成物をジエチルエーテル(200mL×2)で抽出した。合わせた抽出物を乾燥させ、濃縮した。残渣を、さらに精製することなく次の工程に使用した。
【0167】
トルエン(250mL)に上記反応から得た残渣を溶かした溶液に、ウィッティヒ試薬(60mmoL)を加えた。反応混合物を100℃で7時間攪拌し、濃縮した。得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル、勾配:0/100から60/40)により精製すると、所望の生成物4を与えた(2工程で約90%)。
【0168】
(C:シアン化ナトリウム添加)
DMF(150mL)及びNaHCO3(飽和、10mL)に4(30mmoL)を溶かした室温の溶液に、NaCN(120mmoL)を加えた。反応混合物を16時間攪拌し、濃縮した。得られた残渣をHCl(4N、150mL)により酸性化した。生成物をCH2Cl2(200mL×3)で抽出した。合わせた抽出物を乾燥させ、濃縮した。得られた残渣を、さらに精製することなく次の工程で使用した。
【0169】
(D:ボラン還元)
THF(150mL)に上記反応から得た残渣を溶かした溶液に、室温のBH3.THF(THF中1.0M、200mL、200mmoL)を加えた。反応混合物を14時間攪拌し、濃縮した。得られた残渣をMeOH(100mL)によりクエンチした。得られた混合物を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/MeOH/NH3、勾配:100/0/2から70/30/5)により精製すると、所望の生成物6を与えた(2工程で約79%)。
【0170】
(F:アミノアルコールの環化)
CH2Cl2(100mL)に6(10mmoL)を溶かした溶液に、0℃のSOCl2(20mmoL)をゆっくりと加えた。反応混合物を2時間攪拌し、濃縮した。残渣をCH2Cl2(100mL)に溶かし、NaOH溶液(6N、10mL)で洗浄した。有機層を分離した。水層をCH2Cl2(100mL×2)で抽出した。合わせた抽出物を乾燥させ、濃縮した。残渣を、さらに精製することなく次の工程で使用した。
【0171】
(キラル分離のための一般的方法F)
(F:Boc基によるアミンの保護及び精製(Ar=ナフチル、n=1, 2, 3;Ar=3,4-ジクロロフェニル、n=2,3))
CH2Cl2(30mL)に上述の反応の7(8mmL)を溶かした溶液に、Et3N(12mmoL)及び(BOC)2O(10mmoL)を加えた。反応混合物を室温で2時間攪拌し、NH4Cl(飽和、100mL)でクエンチした。有機層を分離した。水層をCH2Cl2(50mL×2)で抽出した。合わせた抽出物を乾燥させ、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル、勾配:100/0から50/50)により精製すると、所望の生成物8を与えた(約86%)。
【0172】
8の2つのエナンチオマーをキラルカラムにより分離した。本発明のこれらの化合物及び他の化合物の条件を以下の表にまとめる。スキーム2は、2つのエナンチオマーの代表的な分離及び精製されたエナンチオマーのその後の脱保護をまとめる。この表及び実施例全体の化合物番号は、上記の表1に関連している。
【表2】

【0173】
(G:Boc基の脱保護)
CH2Cl2(10mL)にN-Bocエナンチオマー(4mmoL)を溶かした溶液に、TFA(3mL)を加えた。反応混合物を20分間攪拌し、濃縮した。残渣を逆相カラムクロマトグラフィーにより精製すると純粋なエナンチオマーを与えた。
【0174】
(H:Troc基によるアミンの保護及び精製(Ar=3,4-ジクロロフェニル、n=1、R=Troc)
CH2Cl2(30mL)に上述の反応の7(8mmL)を溶かした溶液に、Et3N(12mmoL)及びTrocCl(10mmoL)を加えた。反応混合物を室温で2時間攪拌し、NH4Cl(飽和、100mL)によりクエンチした。有機層を分離した。水層をCH2Cl2(50mL×2)で抽出した。合わせた抽出物を乾燥させ、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル、勾配:100/0から50/50)により精製すると、所望の生成物8を与えた(約90%)。
【0175】
粗の8をキラルカラム(溶離液:ヘキサン/iPrOH/DEA=93/7/0.1)により分離すると、2つのエナンチオマーを与えた(第1のピークはN-Troc保護された8であり、第2のピークはN-Troc保護された7である)。
【0176】
(I:N-Troc基の脱保護)
THF(10mL)にN-Trocエナンチオマー(4mmoL)を溶かした溶液に、NH4Cl(飽和、2mL)及び亜鉛末(12mmol)を加えた。反応混合物を2時間攪拌し、固体を濾過した。濾液を濃縮した。残渣を逆相カラムクロマトグラフィーにより精製すると、純粋なエナンチオマーを与えた。
【0177】
(J:還元的アミノ化)
MeOH(6mL)にアミン11又は12(3mmol)を溶かした溶液に、HCHO(水中37%、2mL)、HCO2H(0.5mL)、及びNaB(CN)H3(6mmol)を加えた。反応物を約30分攪拌し、濃縮した。得られた残渣を逆相カラムクロマトグラフィー(CH3CN/H2O、勾配、10分で10%から100%のCH3CN)により精製すると、純粋な13又は14を与えた(約80%)。
【表3】




【0178】
スキーム2は、本発明の環式エーテルピロリジン、例えば15及び16の合成の例示的な経路を表す。
【化25】

【0179】
表3は、本発明の代表的な環式エーテルピロリジンの例示的な構造及び分析特性を表す。
【表4】

【0180】
【化26】

スキーム3は、ケトン前駆体を経由する本発明の置換シクロアルキル誘導体への例示的な経路を表す。一般的な手順B、C、F、Eを利用して、化合物21を調製した。
【0181】
(K:ケトンの選択的脱保護)
THF(20ml)とH2O(50mL)との混合物に21(7g、15.4mmol)を溶かした溶液に、AcOH(150mL)を加えた。反応混合物を80℃で1.5時間攪拌し、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(勾配、ヘキサン/酢酸エチル、100:0から0:100)により精製すると、22(4.69g、74%)を与え、出発物質(1.3g)を回収した。
【0182】
(L:MeMgBrのケトンへの1,2付加及び脱保護)
以下の工程をスキーム4に表す。THF(40mL)に22(4.0g、9.7mmoL)を溶かした-78℃の溶液に、MeMgBr(ジエチルエーテル中3M、19.4mmoL、6.4mL)を加えた。反応混合物を10分間攪拌し、飽和NH4Cl(20mL)によりクエンチした。生成物をCH2Cl2(100mL×3)で抽出し、乾燥させ、濃縮した。次いで、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(勾配、ヘキサン/酢酸エチル、100:0から0:100)により精製すると、23、24、25、26の混合物を与えた(3.6g)。混合物をキラルカラム(RO1、7.5%IHD)により分離した。エナンチオマー23(第1のピーク)及び26(最後のピーク)を得た。24と25との混合物(第2のピーク)をキラルRO1カラム(溶離液として5%EHD)によりさらに分離すると、24(第1のピーク)及び25(第2のピーク)を与えた。TFAにより23、24、25、26のN-Boc基を脱保護すると20、19、18、及び17を与えた。
【0183】
(M:ケトンの還元及び脱保護)
-78℃のCH2Cl2中でのN-セレクトリドによる化合物22による処理は、2組のラセミ化合物Rac1及びRac2(Rac1:Rac2の比=1:1.5)を与えた。RO1(溶離液として5%EHD)による4種の化合物の分離により、27(第1のピーク)、28と29との混合物(第2のピーク)、及び30(第3のピーク)が生じた。次いで、28及び29を逆相(MeCN/H2O、勾配、5%MeCNから100%MeCN)により分離した。27、28、29、及び30のN-Boc基を脱保護すると、化合物21、22、23、及び24を与えた。
【0184】
【化27】

スキーム4は、シクロアルキルケトンの還元及び得られた立体異性体の混合物の分割の例示的な経路を示す。
【0185】
(N:メチル化及び脱保護)
スキーム5は、種々の基質をメチル化及び脱保護して本発明の化合物を形成する例示的な経路を表す。NaH及びヨウ化メチルにより化合物23、24、25、26を処理すると、それぞれメチル化された化合物31、32、33、34が生じた。N-Boc保護基を除くと、25、26、27、及び28が生じた。
【化28】

【0186】
表4は、本発明の例示的な化合物の構造、それらの合成に利用される一般的な手順、及びこれらの化合物から得られた分析データを表す。
【表5】




【0187】
【化29】

(O:RuCl3-NaIO4酸化)
スキーム6は、ルテニウムを酸化剤として使用する、本発明の化合物への例示的な酸化経路を表す。CH3CN(100mL)及びH2O(5mL)中の化合物34(3g、7.8mmol)に、RuCl3.6H2O(0.5g)及びNaIO4(3.3g、15.7mmol)を加えた。反応混合物を8時間攪拌し、濃縮した。残渣をCH2Cl2(3×50mL)で抽出した。合わせたCH2Cl2溶液を乾燥させ、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン、勾配、0%から100%酢酸エチル)により精製すると、所望の生成物36(2.2g、72%)を与えた。
【0188】
(P:αヒドロキシル化)
-78℃のTHF(30mL)に36(1.5g、3.8mmol)を溶かした溶液に、LiHMDS(THF中1.0M、5mL、5.00mmol)を加えた。反応混合物を1時間攪拌し、THF(15mL)に(1S)-(+)-(10-カンファースルホニル)オキサジリジン(5.0mmol)を溶かした溶液を加え、次いでHMPA(1mL)を加えた。反応混合物を-78℃で2時間攪拌し、次いで-20℃に温め、飽和NH4Cl溶液(10mL)によりクエンチした。次いで、反応混合物を濃縮してTHFのほとんどを除去した。生成物をCH2Cl2(3×50mL)で抽出し、合わせたCH2Cl2抽出物を乾燥させ、濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン、勾配、0%から100%の酢酸エチル)により精製すると、所望の生成物37を与えた(1.3g、85%)。
【0189】
(Q:Boc基の除去)
CH2Cl2(15mL)に37(1.0g、2.4mmol)を溶かした溶液に、TFA(5mL)を加えた。反応混合物を30分間攪拌し、濃縮した。残渣をCH2Cl2(30mL)に溶かし、NaOH(3N、3mL)で洗浄し、乾燥させ、濃縮すると、38(0.69g、92%)を与えた。
【0190】
(R:ラクタムのボラン還元)
スキーム7は、ラクタムの合成及びボランによるそのラクタムの還元の例示的な経路を表す。THFに38(0.5g、1.6mmol)を溶かした溶液に、BH3.THF(THF中1.0M、6mL、6mmol)を加えた。反応混合物を還流しながら8時間攪拌し、濃縮した。残渣をMeOHに溶かし、逆相HPLCにより精製すると、31(0.4g、84%)を与えた。
【化30】

【0191】
(S:シアノ基へのメチル付加)
-10℃のTHF(150mL)に39(9g、37.8mmol)を溶かした溶液に、MeMgCl(THF中3M、20mL、60mmol)を加えた。反応混合物を還流下で5時間攪拌し、NH4Cl(20mL)でクエンチした。得られた混合物を濃縮して、THFのほとんどを除去した。次いで、生成物をCH2Cl2(2×100mL)で抽出した。合わせた抽出物を乾燥させ、濃縮すると、40(9g、95%)を与えた。
【0192】
(T:αカルボキシル化)
-78℃のTHFに40(9.0g、35.2mmol)を溶かした溶液に、LiHMDS(THF中1.0M、45mL、45mmol)及びHMPA(6mL)を加えた。反応混合物を30分間攪拌し、シアノギ酸メチル(3.0g、35.2mmol)を加えた。反応混合物を-78℃で2時間攪拌し、次いで30分かけて-10℃に温め、NH4Cl(20mL)でクエンチした。得られた混合物を濃縮して、THFのほとんどを除去した。次いで、生成物をCH2Cl2(2×100mL)で抽出した。合わせた抽出物を乾燥させ、濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン、勾配、0%から100%の酢酸エチル)により精製すると、所望の生成物41(9.4g、85%)を与えた。
【0193】
(U:ケトンへのシアノ基付加及びキラル分離)
CH2Cl2(30mL)に41(2.11g、6.7mmol)を溶かした溶液に、ZnI2(12.8g、40.2mmol)及びMe3SiCN(5.4mL、3.99g、40.2mmol)を加えた。反応混合物を一晩攪拌した。無機の固体を濾過した。濾液を飽和NaHCO3で洗浄し、乾燥させ、濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン、勾配、0%から100%の酢酸エチル)により精製すると、所望の生成物42(2.3g、83%)を与えた。
【0194】
42(800mg)のラセミ混合物を、5%MEHDを溶離液として使うキラルカラムRO1カラムにより分離すると、43(第1のピーク、300mg)及び44(第2のピーク、280mg)を与えた。
【0195】
(V:シアノ基の還元及び環化)
MeOH(6mL)に43(300mg、0.73mmol)を溶かした溶液に、CoCl2.6H2O(0.52g、2.19mmoL)及びNaBH4(220mg、5.84mmol)を加えた。反応混合物を1時間攪拌し、濃縮した。残渣をCH2Cl2(3×30mL)で洗浄した。合わせたCH2Cl2溶液を乾燥させ、濃縮した。逆相HPLCにより残渣を精製すると、45(192mg、85%)を与えた。
【0196】
(W:ボラン還元及びTMS脱保護)
THF(5mL)に45(150mg、0.47mmol)を溶かした溶液に、BH3.THF(THF中1.0M、4mL、4.0mmol)を加えた。反応混合物を8時間加熱還流し、濃縮した。残渣をMeOH(2mL)でクエンチした。MeOHを除き、CH2Cl2(5mL)及びTFA(3mL)を加えた。反応混合物を30分間攪拌し、濃縮した。残渣を逆相HPLC(CH3CN/H2O、勾配、10分で10%から100%のMeCN)により精製すると、30(112mg、85%)を与えた。
【0197】
工程V及びWに従い、29が43から得られた。表5は、ピロリジン環系が置換されている本発明の代表的な化合物の構造を表す。
【表6】

【0198】
(実施例2)
(インビトロ分析(モノアミン取込みアッセイ))
本発明の化合物を、本明細書において以下に記載するとおり、それぞれラットの全脳、視床下部、もしくは線条体から調製したシナプトソームにおいて、かつ/又は組換えヒトトランスポーターを使用して、セロトニン(5-HT)、ノルエピネフリン(NE)、及びドーパミン(DA)の機能的取込みの阻害について試験した。化合物を最初に10μMで二連で試験した。50%以上の取込みの阻害を示す化合物を、完全な阻害曲線を得るために、10の異なる濃度において二連でさらに試験した。次いで、阻害曲線の非線形回帰分析によりIC50値(対照活性を50%阻害する濃度)を決定した。結果を以下の表6にまとめる。
【表7】

【0199】
(2.1.ラット再取込みトランスポーターのセロトニン機能的取込みアッセイ)
5-HT取込みの定量化は、雄のWistarラット大脳皮質から0.32Mスクロース緩衝液に単離したシナプトソームを使用して実施した。被験化合物及び[3H]5-ヒドロキシトリプタミン(セロトニン;0.1μCi/ポイント)の存在下で、ウェル中で37℃で15分間インキュベートして、放射性標識された5-HTをシナプトソーム(100μgのタンパク質/ポイント)により取り込ませた。
【0200】
シナプトソーム及び[3H]セロトニンは、25mMのNaHCO3、11mMのグルコース、及び50μMのアスコルビン酸を含むpH7.4のクレブス緩衝液に調製した。インキュベーションの前に、このインキュベーション緩衝液を5分間酸素で処理した。取込みを回避するため、基礎対照(Basal control)を4℃で15分間インキュベートした。このインキュベーションの後、フリーの[3H]セロトニンを除くために25mMのNaHCO3を含むクレブス緩衝液により洗浄されたユニフィルター96ウェルGFB Packardプレートにより濾過して取込みを停止した。次いで、取込みに対応するユニフィルターに保持されたシナプトソームに関連する放射能を、シンチレーション液を利用してマイクロプレートシンチレーションカウンター(Topcount、Packard)で測定した。非特異的な結合は、過剰の標識されていない冷リガンドの存在下で測定した。全体の結合から非特異的な結合を引いて、特異的な結合を得た。
【0201】
基準化合物は、IC50値を得るために10-11Mから10-5Mの範囲の10種の濃度で試験したイミプラミンであった。Perovics及びMullerの文献Arzeim. Forsch./Drug Res.,45:1145-1148(1995)を参照されたい。
【0202】
(2.2.ヒト再取込みトランスポーターのセロトニン機能的取込みアッセイ)
既報の方法(Gu Hらの文献J. Biol. Chem. 1994, 269 (10): 7124-7130)を利用し、HEK-293細胞に発現された遺伝子組換えヒトセロトニントランスポーターを使用してヒトセロトニン再取込みトランスポーターの阻害をアッセイした。アッセイの前に、ヒトセロトニントランスポーターを発現するHEK-293細胞を播種した。被験化合物及び/又はビヒクルを、pH7.1又はpH7.4の修飾HEPES緩衝液中で20分間、18から25℃で細胞と共にプレインキュベートし、次いで65nMの[3H]セロトニンを追加のインキュベーション期間(10から30分間)に加えた。[3H]セロトニンを吸収した細胞を洗浄し、細胞内に取り込まれたトリチウムの量を、液体シンチレーションカウンターを利用して計測し、[3H]セロトニン取込み量を測定する。10μMのフルオキセチンを含む対照反応においてトリチウムの非特異的な結合を測定し、アッセイの計数値から引いて、トリチウムの非特異的結合の補正をした。阻害されていない対照反応に比べて50%以上の[3H]セロトニン取込みの低下は、著しい阻害活性を表す。10、1、0.1、0.01、及び0.001μMで化合物をスクリーニングした。アッセイの基準化合物はフルオキセチンであり、7.1nMのIC50値を典型的な実験で得た。
【0203】
(2.3.ラット再取込みトランスポーターのドーパミン機能的取込みアッセイ)
ドーパミン取込みの定量化は、雄のWistarラット線条体から0.32Mスクロース緩衝液に単離したシナプトソームを使用して実施した。被験化合物及び[3H]-ドーパミン(0.1μCi/ポイント)の存在下で、37℃で15分間インキュベートして、放射性標識されたドーパミンをシナプトソーム(20μgのタンパク質/ポイント)により取り込ませた。この実験はディープウェルで実施した。
【0204】
シナプトソーム及び[3H]-ドーパミンは、25mMのNaHCO3、11mMのグルコース、及び50μMのアスコルビン酸を含むpH7.4のクレブス緩衝液に調製した。インキュベーションの前に、このインキュベーション緩衝液を5分間酸素で処理した。取込みを回避するため、基礎対照を4℃で15分間インキュベートした。このインキュベーションの後、フリーの[3H]ドーパミンを除くために25mMのNaHCO3を含むクレブス緩衝液により洗浄されたユニフィルター96ウェルGFB Packardプレートにより濾過して取込みを停止した。次いで、取込みに対応するユニフィルターに保持されたシナプトソームに関連する放射能を、シンチレーション液を利用してマイクロプレートシンチレーションカウンター(Topcount、Packard)で測定した。
【0205】
基準化合物は、IC50値を得るために10-11Mから10-6Mの範囲の8種の濃度で試験したGRB12909であった。Jankowskyらの文献J. Neurochem. 1986, 46: 1272-1276)を参照されたい。
【0206】
(2.4.ヒト再取込みトランスポーターのドーパミン機能的取込みアッセイ)
ヒトドーパミン再取込みトランスポーターの阻害は、既報の方法(Pristupa, Z.B.らの論文Mol. Pharmacol. 45: 125-135, 1994)を利用し、CHO-K1又はHEK293細胞のいずれかに発現された遺伝子組換えヒトドーパミントランスポーターを使用してアッセイした。アッセイの前に、ヒト遺伝子組換えドーパミントランスポーターを発現するCHO-K1又はHEK293細胞のいずれかを播種した。被験化合物及び/又はビヒクルを、pH7.1又はpH7.4の修飾HEPES緩衝液中で20分間、18から25℃で細胞と共にプレインキュベートし、次いで50nMの[3H]ドーパミンを追加のインキュベーション期間(10から30分間)に加えた。細胞を洗浄して内部に取り込まれなかった[3H]ドーパミンを除去した後、細胞を溶解し、溶解物中のトリチウムの量を、液体シンチレーションカウンターを使用して測定して、[3H]ドーパミン取込み量を決定した。10μMのノミフェンシンを含む対照反応においてトリチウムの非特異的結合を測定し、アッセイの計数値から引いて、トリチウムの非特異的結合の補正をした。阻害されていない対照反応に比べて50%以上の[3H]ドーパミン取込みの低下は、著しい阻害活性を表す。10、1、0.1、0.01、及び0.001μMで化合物をスクリーニングした。アッセイの基準化合物はノミフェンシンであり、11nMのIC50値を典型的な実験で得た。
【0207】
(2.5.ラット再取込みトランスポーターのノルエピネフリン機能的取込みアッセイ)
ノルエピネフリン取込みの定量化は、雄のWistarラット視床下部から0.32Mスクロース緩衝液に単離したシナプトソームを使用して実施した。被験化合物及び[3H]-ノルエピネフリン(0.1μCi/ポイント)の存在下で、37℃で20分間インキュベートして、放射性標識されたノルエピネフリンをシナプトソーム(100μgのタンパク質/ポイント)により取り込ませた。この実験はディープウェルで実施した。
【0208】
シナプトソーム及び[3H]-ノルエピネフリンは、25mMのNaHCO3、11mMのグルコース、及び50μMのアスコルビン酸を含むpH7.4のクレブス緩衝液に調製した。インキュベーションの前に、このインキュベーション緩衝液を5分間酸素で処理した。取込みを回避するため、基礎対照を4℃で20分間インキュベートした。このインキュベーションの後、フリーの[3H]-ノルエピネフリンを除くために25mMのNaHCO3を含むクレブス緩衝液により洗浄されたユニフィルター96ウェルGFB Packardプレートにより濾過して取込みを停止した。次いで、取込みに対応するユニフィルターに保持されたシナプトソームに関連する放射能を、シンチレーション液を利用してマイクロプレートシンチレーションカウンター(Topcount、Packard)で測定した。
【0209】
基準化合物は、IC50値を得るために10-11Mから10-5Mの範囲の13種の濃度で試験したプロトリプチリンであった。Perovics及びMullerの文献Arzeim. Forsch./Drug Res., 45:1145-1148 (1995)を参照されたい。
【0210】
(2.6.ヒト再取込みトランスポーターのノルエピネフリン機能的取込みアッセイ)
ヒトノルエピネフリン再取込みトランスポーターの阻害は、既報の方法(Galli Aらの文献J. Exp. Biol. 198: 2197-2212, 1995)を利用し、HEK293又はMDCK細胞のいずれかに発現された遺伝子組換えヒトノルエピネフリントランスポーターを使用してアッセイした。アッセイの前に、細胞を播種した。被験化合物及び/又はビヒクルを、pH7.1又はpH7.4の修飾HEPES緩衝液中で20分間、18から25℃で細胞と共にプレインキュベートした。プレインキュベーションの後、25nMの[3H]ノルエピネフリンを追加のインキュベーション期間(10から20分間)に加えた。細胞を洗浄して内部に取り込まれなかった[3H]ノルエピネフリンを除去した後、細胞を溶解し、細胞溶解物中のトリチウムの量を、液体シンチレーションカウンターを使用して測定して、[3H]ノルエピネフリン取込み量を決定した。10μMのイミプラミン(又は10μMのニソキセチン)を含む対照反応においてトリチウムの非特異的結合を測定し、アッセイの計数値から引いて、トリチウムの非特異的結合の補正をした。阻害されていない対照反応に比べて50%以上の[3H]ノルエピネフリン取込みの低下は、著しい阻害活性を表す。10、1、0.1、0.01、及び0.001μMで化合物をスクリーニングした。アッセイの基準化合物はデシプラミン及びニソキセチンであり、それぞれ1.9nM及び5.3nMのIC50値を典型的な実験で得た。
【0211】
表6において、化合物番号は上記の実施例に使用したものに対応している。さらに、表6では以下の略語を使用した:SERT(セロトニントランスポーター)、NET(ノルエピネフリントランスポーター)、及びDAT(ドーパミントランスポーター)。
【0212】
上記の結果は、本発明の化合物が、NE、DA、及び/又は5-HTのニューロンへの取り込みの強力な阻害を示し、種々の既存の治療剤に見られる効力に勝ることを示す。例えば、承認されて発売された薬物の報告された効力(IC50又はKi値)は以下のとおりである:フルオキセチン(PROZAC(登録商標))、ヒト5-HT再取込みトランスポーターの阻害に7nM;メチルフェニデート(RITALIN(登録商標))、ヒトドーパミン及びノルエピネフリン再取込みトランスポーターの阻害にそれぞれ193nM及び38nM(Eshlemanらの文献、J. Pharmacol. Exp. Ther. 1999,289: 877-885);アミトリプチリン(ELAVIL(登録商標))、ヒトノルエピネフリン及びセロトニン再取込みトランスポーターの阻害にそれぞれ63nM及び67nM並びにベンラファキシン(EFFEXOR(登録商標)、いわゆるセロトニンノルエピネフリン再取込み阻害剤(SNRI)、ヒトセロトニン及びノルエピネフリン再取込みトランスポーターの阻害にそれぞれ145及び1420nM(Vaishnaviらの文献Biol. Psychiatry. 2004, 55: 320-322)。本発明の化合物により示される、NE、DA、及び/又は5-HTのニューロンへの取込みの多重阻害は、別々な薬物を用量設定する必要なく脳内の種々のモノアミンレベルを同時にかつ同じ投与量範囲で上げることにより、中枢神経系疾患、例えば限定はされないが、情動障害、大脳機能障害、不安障害、神経因性疼痛、及び片頭痛(migraine)又は片頭痛(migraine headache)などをより効果的に治療する能力を臨床医に与える。
【0213】
(実施例3)
(エクスビボ結合アッセイ)
化合物の末梢投与後の、中枢ノルアドレナリン(NA)、5-HT、及びドーパミン(DA)トランスポーター部位の受容体占有率を、[3H]ニソキセチン、[3H]シタロプラム、及び[3H]WIN35428結合をそれぞれ利用して測定した。液体シンチレーション計数法を利用して、放射能を定量した。
【0214】
(3.1.方法)
C57BL/6マウス(25〜30g)に、ビヒクル又は化合物のいずれかを4投与量レベルで経口投与した。治療の60分後マウスを殺処分した。全脳を取り出し、皮質及び線条体を解体してからドライアイスで凍結させた。脳組織はアッセイの日まで-20℃で保存した。各半球からとった皮質を別々に凍結した。片方はNAトランスポーター部位の占有率の決定に使用し、もう一方は5-HTトランスポーター部位の占有率の決定に使用した。線条体を使用して、DAトランスポーター部位の占有率を決定した。
【0215】
(3.2.膜調製)
各半球の前頭皮質又は線条体を、密栓ガラス/テフロンホモジナイザーを利用して氷冷アッセイ緩衝液中で個別にホモジナイズし、直ちに結合アッセイに使用した。
【0216】
(マウスの脳内の[3H]シタロプラムの5-HTトランスポーター(SERT)部位への結合)
皮質膜(400μl;1.25mg湿重量の組織/チューブと等価)を、50μlの単一の濃度1.3nMの[3H]シタロプラム及び50μLの緩衝液(全結合)又は50μLのパロキセチン(0.5μM;非特異的結合)のいずれかとともに27℃で1時間インキュベートした。各動物で、3本のチューブを全結合の測定に使用し、3本のチューブを非特異的結合の測定に使用した。
【0217】
(マウスの脳内の[3H]ニソキセチンのノルエピネフリントランスポーター(NET)部位への結合)
皮質膜(400μl;6.0mg湿重量の組織/チューブと等価)を、50μlの単一の濃度0.6nMの[3H]ニソキセチン及び50μLの緩衝液(全結合)又は50μLのマジンドール(1μM;非特異的結合)のいずれかとともに4℃で4時間インキュベートした。各動物で、3本のチューブを全結合の測定に使用し、3本のチューブを非特異的結合の測定に使用した。
【0218】
(マウスの脳内の[3H]WIN 35428のDAトランスポーター(DAT)部位への結合)
線条体膜(200μl;2mg湿重量の組織/チューブと等価)を、25μlの単一の濃度24nMの[3H]WIN 35428及び25μLの緩衝液(全結合)又は25μLのGBR 12935(1μM;非特異的結合)のいずれかとともに4℃で2時間インキュベートした。各動物で、2本のチューブを全結合の測定に使用し、2本のチューブを非特異的結合の測定に使用した。
【0219】
膜に結合した放射能を、Skatronセルハーベスターを使用し、0.5%のPEIに予め浸したSkatron 11731フィルターを通す真空下の濾過により回収した。すばやく氷冷リン酸緩衝液でフィルターを洗浄し、液体シンチレーション計数法(1ml Packard MV Goldシンチレーター)により放射能(dpm)を測定した。
【0220】
(3.3.データ分析)
特異的結合の値(dpm)は、各動物で、平均全結合(dpm)から平均非特異的結合(dpm)を差し引くことにより生成した。データを平均特異的結合(dpm)として表し、ビヒクル処理対照を100%としたパーセンテージとして表した。
【0221】
(3.4.結果の概要)
本発明の選択された化合物について、エクスビボのSERT、NET、及びDAT結合/受容体占有率データを生成した。結果は、化合物が種々のSERT、NET、及びDAT阻害比率を示すことを示した。
【0222】
(実施例4)
(インビボ分析)
(4.1.ラット強制水泳試験)
抗うつ活性を検出する方法は、Porsoltら(Eur. J. Pharmacol, 47, 379-391, 1978)により記載され、Luckiら(Psychopharm., 121, 66-72, 1995)により修正された方法に従った。逃れられない状況において泳ぐように強制されたラットは速やかに静止する。抗うつ剤は無動の期間を低減する。さらに、この試験でノルエピネフリン(NE)及びセロトニン(5-HT)取込みを選択的に阻害する抗うつ剤により、別個なパターンの活発な行動が生み出される。選択的なNE再取込み阻害剤は、よじ登り挙動の増加により無動性を減らす一方で、選択的5-HT再取込み阻害剤は、水泳挙動の増加により無動性を減らす。
【0223】
ラットを、実験の第1日(セッション1)に、22cmの水(25℃)を含む円筒(高さ=40cm;直径=20cm)に個別に15分間入れ、5分間試験のため24時間後に水中に戻した(セッション2)。セッションを録画し、5分間試験の間の無動の期間並びに水泳及びよじ登り挙動を測定した。各群で12匹のラットを試験した。この試験はブラインドで行った。典型的には、化合物を3種の投与量(1-30mg/kg)で、2回、試験(セッション2)の24時間前及び30〜60分前に経口投与して評価し、ビヒクル対照群と比較した。デシプラミン(20mg/kg腹腔内)を同じ実験条件下で投与し、陽性基準物質として使用した。
【0224】
データを一元配置分散分析(ANOVA)により分析し、適切な場合事後比較を行った。P<0.05である場合、効果が有意であると考えられる。データを、平均及び標準誤差(s.e.m)として表す。被験化合物は、最小有効量が10〜30mg/kg、経口の範囲で抗うつ剤様作用を示した。これらの化合物がもたらす無動性の減少は、混合トランスポーター活性を示す(すなわち、SNRIプロファイル)水泳及びよじ登り挙動の増加によるようである。
【0225】
(4.2.マウス尾懸垂試験)
抗うつ活性を検出する方法は、Steruらの文献(Psychopharmacology, 85, 367-370, 1985)により記載されたものに従う。げっ歯類は、尾で懸垂されると、速やかに静止する。抗うつ剤は無動の期間を低減する。
【0226】
動物の挙動は、Steruら(Prog. Neuropsychopharmacol. Exp. Psychiatry, 11, 659-671, 1987)により開発されたものに類似のコンピューター処理装置(Med-Associates Inc.)を使用して5分間自動録画した。各群で10から12匹のマウスを試験した。試験はブラインドで実施した。化合物は、典型的には、3種の投与量(1-30mg/kg)で1回、試験の30〜60分前に経口投与して評価し、ビヒクル対照群と比較した。デシプラミン(100mg/kg)を同じ実験条件下で投与し、陽性基準物質として使用した。
【0227】
データを一元配置分散分析(ANOVA)により分析し、適切な場合事後比較を行った。P<0.05である場合、効果が有意であると考えられる。データを、平均及び標準誤差(s.e.m)として表す。結果は、被験化合物が、最小有効量が3〜30mg/kg、経口の範囲で抗うつ剤様プロファイルを示した(すなわち、無動時間を有意に低減した)ことを示した。
【0228】
(4.3.自発運動量)
無動時間に対する化合物の効果が、基礎運動量に対する一般的な刺激剤効果に関連しないことを確実にするため、光電セルモニターケージ(Med-Associates Inc.)を利用して自発運動量を評価した。各試験チャンバーは、動物の動きを測定する赤外光電セルビームを備えた。水平方向及び垂直方向の運動を測定した。
【0229】
ラット又はマウスをビヒクル又は被験化合物により事前処理し、ホームケージに戻し、その後個別に運動量ケージに入れ、最大60分まで5分間隔で運動をモニターした。
【0230】
データを一元配置分散分析(ANOVA)により分析し、適切な場合事後比較を行った。P<0.05である場合、効果が有意であると考えられる。データを、平均及標準誤差(s.e.m)として表す。尾懸垂試験において活性のある投与量において、基礎運動量の変化又は減少は全く見られず、抗うつ剤様活性が一般的な刺激剤効果によるものでないことを示す。
【0231】
本発明は、本発明の2,3の態様の説明であるものとする実施例に開示された具体的な実施態様により範囲が限定されるものではなく、機能的に等価な実施態様は本発明の範囲内にある。実際に、本明細書に示されて記載されたものに加え、本発明の種々の改良は当業者には明らかになるであろうし、添付される請求項の範囲内にあるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式を有する化合物:
【化1】

(式中、
R1は、H、C1-C3置換又は非置換のアルキル、及びC1-C3置換又は非置換のヘテロアルキルから選択される構成要素であり;
R2及びR2aは、独立に、H、C1-C3置換又は非置換のアルキル、C1-C3置換又は非置換のヘテロアルキル、及びOR3から選択される構成要素であり
式中、
R3は、H、C1-C3置換又は非置換のアルキル、及びC1-C3置換又は非置換のヘテロアルキルから選択される構成要素であり;
Arは、置換又は非置換のナフチル及び置換又は非置換のフェニルから選択される構成要素であり;かつ
Xは、下記から選択される構成要素であり:
【化2】

式中、
Zは、下記から選択される構成要素であり:
【化3】

式中、
R4及びR5は、独立に、H、C1-C3置換又は非置換のアルキル、C1-C3置換又は非置換のヘテロアルキル、及びOR6から選択される構成要素であり
式中、
R6は、H、C1-C3置換又は非置換のアルキル、及びC1-C3置換又は非置換のヘテロアルキルから選択される構成要素である)。
【請求項2】
Arが、少なくとも1つのハロゲンにより置換されたフェニル及び非置換のナフチルから選択される構成要素である、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
前記少なくとも1つのハロゲンがクロロである、請求項2記載の化合物。
【請求項4】
Arが下記から選択される構成要素である式を有する、請求項2記載の化合物:
【化4】

(式中、
X1及びX2は、X1とX2の少なくとも片方がハロゲンであるという条件で、独立に、H及びハロゲンから選択される)。
【請求項5】
下記式:
【化5】

が、下記から選択される構成要素である式を有する、請求項1記載の化合物:
【化6】


【請求項6】
下記式:
【化7】

が、下記から選択される式を有する、請求項1記載の化合物:
【化8】


【請求項7】
X1及びX2のそれぞれがハロゲンである、請求項4記載の化合物。
【請求項8】
X1及びX2のそれぞれがClである、請求項7記載の化合物。
【請求項9】
Arが下記から選択される構成要素である、請求項6記載の化合物:
【化9】


【請求項10】
下記式:
【化10】

が、下記式を有し:
【化11】

Arが下記から選択される式を有する、請求項1記載の化合物:
【化12】


【請求項11】
前記化合物が下記式を有する、請求項10記載の化合物:
【化13】


【請求項12】
請求項1記載の化合物及び医薬として許容し得る担体を含む、医薬組成物。
【請求項13】
モノアミントランスポーターリガンドのモノアミントランスポーターへの結合を阻害する方法であって、該モノアミントランスポーターと請求項1記載の化合物とを接触させることを含む、前記方法。
【請求項14】
少なくとも1種のモノアミントランスポーターの活性を阻害する方法であって、該モノアミントランスポーターと請求項1記載の化合物とを接触させることを含む、前記方法。
【請求項15】
前記モノアミントランスポーターが、セロトニントランスポーター(SERT)、ドーパミントランスポーター(DAT)、ノルエピネフリントランスポーター(NET)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される構成要素である、請求項13又は14記載の方法。
【請求項16】
前記化合物が少なくとも2種の異なるモノアミントランスポーターの活性を阻害する、請求項14記載の方法。
【請求項17】
細胞による、少なくとも1種のモノアミンの取込みを阻害する方法であって、該細胞と請求項1記載の化合物とを接触させることを含む、前記方法。
【請求項18】
前記モノアミンが、セロトニン、ドーパミン、ノルエピネフリン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される構成要素である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記化合物が少なくとも2種の異なるモノアミンの取込みを阻害する、請求項17記載の方法。
【請求項20】
前記細胞が神経細胞である、請求項17記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1種のモノアミントランスポーターの活性を阻害することによるうつ病の治療方法であって、哺乳動物の対象に請求項1記載の化合物を投与することを含む、前記方法。
【請求項22】
前記哺乳動物の対象がヒトである、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記化合物が、少なくとも2種の異なるモノアミントランスポーターの前記活性を阻害する、請求項21記載の方法。
【請求項24】
中枢神経系疾患を治療する方法であって、その必要のある対象に、治療上有効な量の請求項1記載の化合物を投与することを含む、前記方法。
【請求項25】
前記対象がヒトである、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記中枢神経系疾患が、うつ病、認知障害、線維筋痛症、疼痛、睡眠障害、注意欠陥障害(ADD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、レストレスレッグ症候群、統合失調症、不安、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、月経前不機嫌、及び神経変性疾患からなる群から選択される構成要素である、請求項24記載の方法。
【請求項27】
前記うつ病が、大うつ病性障害(MDD)、単極性うつ病、双極性障害、季節性情動障害(SAD)、及び気分変調症からなる群から選択される構成要素である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記神経変性疾患がパーキンソン病である、請求項26記載の方法。
【請求項29】
前記睡眠障害が睡眠時無呼吸である、請求項26記載の方法。
【請求項30】
前記疼痛が神経因性疼痛である、請求項26記載の方法。

【公表番号】特表2012−517437(P2012−517437A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549288(P2011−549288)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/023344
【国際公開番号】WO2010/091268
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(511145546)スノビオン プハルマセウトイカルス インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】