説明

フェイズドアレイレーダの移送量補正装置及び移送量補正システム

【課題】フェイズドアレイレーダが有する移相器の個体差により生ずる移相器からの出力の理論出力からのずれを、正面方向以外にビームを向ける場合にも適正に補正することができる移送量補正装置及び移送量補正システムを提供することを目的とする。
【解決手段】移相器毎に移相器の入力値である設定移相と設定移相に対応する実際の移相器からの出力である実出力移相を格納した移相量テーブルを設け、設定移相の理想的な出力移相である理論出力移相に最も近い実出力移相に対応する設定移相を移相量テーブルから検索して出力する。移相量テーブルは移相器毎に設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェイズドアレイレーダが有する移相器の個体差により生ずる移相器からの出力の理論出力からのずれを補正する移送量補正装置及び移送量補正システムに関する。
【背景技術】
【0002】
フェイズドアレイレーダは複数の移相器を有し、この移相器からビームを照射してその反射波を受信することにより物体を検知するレーダである。図12に示すように、分配部が信号を各移相器に分配し、各移相器は位相φだけずらして電波を照射する。移相波面をそろえることによりビームが一点鎖線の矢印の方向に照射される。
【0003】
しかし、従来のフェイズドアレイレーダにおいては、移相器に個体差があり、ビーム照射角から計算された理論値を移相器に入力しても移相器から出力される電波の移相は理論値からずれ、照射されるビームの精度が落ちてしまうという問題点があった。
【0004】
この点に関し、特許文献1には試験用送信機から送信されてきた電波をフェイズドアレイレーダに受信させ、あらかじめ測定した補正値との差を求め、各移相器におけるこの差の平均を移相器の経年変化及び環境による変化として各移相器に入力する移送量を補正する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004−294223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、正面方向以外にビームを向ける場合は、理論的な移相を正面方向にビームを向ける場合の移相に加算するだけであった。このため、正面方向以外にビームを向ける場合には、依然として各移相器の個体差によって各移相器から出力される電波の移相に理論値からのずれがあり、精度が落ちると言う問題点があった。
【0006】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、フェイズドアレイレーダが有する移相器の個体差により生ずる移相器からの出力の理論出力からのずれを、正面方向以外にビームを向ける場合にも適正に補正することができる移送量補正装置及び移送量補正システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1記載の発明は、ビームを照射する角度に応じて所定の移相量ずつずらして電波を照射する複数の移相器と;移相器の入力値である設定移相と各移相器における設定移相毎の実際の出力値である実出力移相とを格納するテーブルと;ビームを照射する角度から理想的な出力移相である理論出力移相を算出し、テーブルから移相器毎に前記出力移相を読み込み、理論出力移相との差が最も小さい出力移相に対応する設定移相である出力設定移相を移相器毎に判定し、出力設定移相を出力する信号制御部と、を有することを特徴とするフェイズドアレイレーダの移相量補正装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、移相器毎に移相器への入力値とこの入力値に対応する実際の出力移相を格納したテーブルを設け、理論出力移相に最も近い出力移相に対応する入力値をこのテーブルから検索して各移相器に出力する。このため、正面方向以外の方向にビームを向ける場合にも各移相器からの出力を適正な値に補正することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は第1の実施形態の構成を表す概要図である。
【0010】
本実施形態のフェイズドアレイレーダの移相補正システムは、シーカの位置及び姿勢角を出力する慣性航法装置10と、慣性航法装置10から位置及び姿勢角のデータを入力し、目標方向を計算し、目標方向にビームを向けるための角度である指示角を計算して出力する誘導処理部11と、誘導処理部11から入力した指示角に基づいて計算とテーブルの検索を行い、後述の移相器15に出力する移相を求めて後述の分配器14を介して移相器15に出力する信号制御部12と、移相器15の入力値とこの入力値に対応する移相器15からの実際の出力値を移相器15毎に格納する移送量テーブル13と、信号制御部12から出力された移相を各移相器15に分配する分配部14と、分配器14から入力した移相に基づいて照射する電波を発生させる移相器15と、移相器15が発生させた電波を照射するアンテナ16と、を備える。
【0011】
移送量テーブル13は図示しない記憶装置に格納される。慣性航法装置10は電波を照射する装置であるシーカの位置及び姿勢を計測する各種のセンサ及び計算処理を行うプロセッサなどの装置を備える。誘導処理部11は公知の計算式を用いて目標方向と指示角を計算する。分配部14は信号制御部12からの入力を移相器15毎に分けて移相器15に出力する。
【0012】
誘導処理部11、信号制御部12、分配部14は電子部品を用いて回路として構成することもできる。また、ディジタルシグナルプロセッサのようなプロセッサとメモリと記憶装置と入出力装置などの装置を備え、処理動作を行うプログラムを記憶装置に格納し、プロセッサに上記プログラムを実行させることにより各処理を実行する装置として構成することもできる。
【0013】
プロセッサを用いる場合には、誘導処理部11、信号制御部12、分配部14毎にプロセッサとメモリと記憶装置と入出力装置などの装置を設け、それぞれ独立した装置として構成することもできる。また、誘導処理部11、信号制御部12、分配部14のうち二つ以上について、プロセッサとメモリと記憶装置と入出力装置などの装置を一組設け、各部の処理を一つ以上のプログラムに記述してこれをプロセッサに実行させる装置として構成することもできる。
【0014】
図2は移相量テーブル13のデータ構成を表した図である。設定移相は各移相器15に入力される移相である。各移相器15は設定移相に基づいて電波を照射する。実出力移相は実際に出力される電波の移相である。移相量テーブル13に格納される項目は、設定移相と、この設定移相を移相器に入力したときに出力される移相器毎の実出力移相である。設定移相は所定の間隔にて複数格納されている。図2に示したように、各移相器には個体差があるため、同じ設定移相を入力しても実出力移相が各移相器間において同じになるとは限らない。
【0015】
図3は信号制御部12の処理の原理を説明するためのグラフである。縦軸40は移相器からの出力である出力移相を、横軸41は設定移相を示す。指示角が定まると、公知の計算式により設定移相が唯一定まる。これを理論設定移相と呼び、グラフにおいてAにて表す。
【0016】
設定移相が定まると公知の計算式より理想的な出力移相が計算できる。これを理論出力移相と呼ぶ。点線42は公知の計算式による理論出力移相のグラフである。理論設定移相Aに対する理論出力移相をグラフにおいてA’にて表す。
【0017】
従来のフェイズドアレイレーダにおいては、設定移相は分解能に依存する所定の間隔にて定められる。これは信号処理がディジタル処理されるために設定移相が離散値を取ることによる。
【0018】
理論移相がAのとき、従来のフェイズドアレイレーダにおいては、図3のグラフに示したように数値がCより近いBを設定移相として選択していた。ところが、各移相器には個体差があり、同じ設定移相を入力しても移相器毎に実出力移相が同じになるとは限らない。さらに、一つの移相器において、設定移相を一定割合ずつ増加させても、実出力移相が一定割合ずつ増加するとは限らない。実出力移相はグラフ43の丸印に示すように理論値からずれている。例えば、設定移相をBとすると実出力移相はB’となる。
【0019】
本実施形態においては、信号制御部12は次のような処理を行う。理論設定移相Aから理論出力移相A’を算出する。次に、移相量テーブル13のうち該当する移相器15の欄の実出力移相を順次読み込む。次に、理論出力移相A’との差が最も小さい実出力移相を判定する。図3の例ではC’が差の最も小さい実出力移相にあたる。次に、この実出力移相C’に対応する設定移相Cを移相量テーブル13から読み込み、移相器に出力する出力設定移相とする。
【0020】
ここでグラフを見ると、理論出力移相A’と実出力移相B’の差d1より、理論出力移相A’と出力設定移相C’の差d2は小さくなっている。このようにして、最適な設定移相を求めることが可能となる。
【0021】
なお、指示角と理論出力移相を出力するための設定移相を移相器別に指示角毎に格納するテーブルを設け、指定された指示角に対応する設定移相をテーブルから読み出すように構成することも考えられる。
【0022】
しかし、このようにすると分解能を落とさない精度にて指示角を細分化してテーブルに格納する必要があるため、テーブルに格納される情報量が膨大なものとなる。このため、記憶装置とメモリの容量を大きくする必要があり、製造コストを押し上げる。このような問題を回避するため、本実施形態においては上述したような方式を採用した。
【0023】
図4は信号制御部12における処理のフローチャートである。ステップS401において、信号制御部12は誘導処理部11から指示角を入力する。ステップS402において、信号制御部12は指示角から公知の計算式により理論設定移相を算出し、さらに理論設定移相から公知の計算式により理論出力移相を算出し、メモリに格納する。
【0024】
信号制御部12はステップS403からステップS412を移相器15の数だけi回繰り返す。さらに、信号制御部12はステップS404からステップS408を移相量テーブル13に格納されている移相器iの実出力移相のデータ数だけk回繰り返す。
【0025】
ステップS405において、信号制御部12は移相量テーブル13から移相器(i)のk番目の実出力移相を読み出す。ステップS406において、信号制御部12は読み出した移相器(i)のk番目の実出力移相と、メモリに格納されている理論出力移相との差を求める。
【0026】
ステップS407において、信号制御部12はkとステップS406において求めた差をメモリに格納する。ステップS408において、信号制御部12はkに1を加えてステップS404に戻る。
【0027】
ステップS404からステップS408をk回繰り返した後、ステップS409において、信号制御部12はメモリ内において格納してある差に基づいて、kと差の組み合わせのデータをソートし、差が最も小さいkを読み出す。
【0028】
ステップS410において、信号制御部12は移相量テーブル13のk番目の設定移相を読み出し、出力設定移相とする。ステップS411において、信号制御部12は出力設定移相を分配部14に出力する。分配部14は出力設定移相を移相器(i)に分配する。
【0029】
ステップS412において、信号制御部12はiに1を加算してステップS403に戻る。ステップS403からステップS412をi回繰り返した後、信号制御部12はステップS401に戻る。
【0030】
以上述べたように、本実施形態においては移相器15毎に設定移相と設定移相に対応する実出力移相を格納した移相量テーブル13を設け、理論出力移相に最も近い実出力移相に対応する設定移相を移相量テーブル13から検索して出力設定移相とし、各移相器15に出力する。このため、正面方向以外の方向にビームを向ける場合にも各移相器15からの実出力移相を理論出力移相により近い移相に補正することが可能となる効果がある。
【0031】
図5は第2の実施形態の構成を表す概要図である。本実施形態においては、第1の実施形態の移相量テーブル13に相当するテーブルと、信号制御部を移相器毎に設けたことを特徴とする。
【0032】
本実施形態のフェイズドアレイレーダの移相補正システムは、シーカの位置及び姿勢角を出力する慣性航法装置10と、慣性航法装置10から位置及び姿勢角のデータを入力し、目標方向を計算し、目標方向にビームを向けるための角度である指示角を計算して出力する誘導処理部11と、誘導処理部11から出力された指示角を分配する分配部24と、を備える。
【0033】
また、本実施形態のフェイズドアレイレーダの移相補正システムは、入力した移相に基づいて照射する電波を発生させる移相器15と、移相器15毎に設けられ、分配部24から入力した指示角に基づいて計算とテーブルの検索を行い、移相器15に出力する移相を求めて移相器15に出力する信号制御部22と、移相器15毎に設けられ、設定移相と実出力移相とを移相器毎に格納する個別移送量テーブル23と、移相器15が発生させた電波を照射するアンテナ16と、を備える。個別移送量テーブル23は図示されない記憶装置に格納される。
【0034】
慣性航法装置10は電波を照射する装置であるシーカの位置及び姿勢を計測する各種のセンサ及び計算処理を行うプロセッサなどの装置を備える。誘導処理部11は公知の計算式を用いて目標方向と指示角を計算する。分配部24は誘導処理部11から入力した指示角を信号処理部22毎に分けて出力する。
【0035】
誘導処理部11、信号制御部22、分配部24は電子部品を用いて回路として構成することもできる。また、ディジタルシグナルプロセッサのようなプロセッサとメモリと記憶装置と入出力装置などの装置を備え、処理動作を行うプログラムを記憶装置に格納し、プロセッサに上記プログラムを実行させることにより各処理を実行する装置として構成することもできる。
【0036】
プロセッサを用いる場合には、誘導処理部11、信号制御部22、分配部24毎にプロセッサとメモリと記憶装置と入出力装置などの装置を設け、それぞれ独立した装置として構成することもできる。また、誘導処理部11、信号制御部22、分配部24のうち二つ以上について、プロセッサとメモリと記憶装置と入出力装置などの装置を一組設け、各部の処理を一つ以上のプログラムに記述してこれをプロセッサに実行させる装置として構成することもできる。
【0037】
図6は個別移相量テーブル23のデータ構成を表した図である。個別移相量テーブル23に格納される項目は、設定移相と、この設定移相を移相器15に入力したときに出力される移相器15毎の実出力移相である。個別移相量テーブル23には個別移相量テーブル23が設置される移相器15の実出力移相が格納されている。設定移相は所定の間隔にて複数格納されている。
【0038】
図7は信号制御部22における処理のフローチャートである。ステップS701において、信号制御部22は分配部24から指示角を入力する。ステップS702において信号制御部22は指示角から公知の計算式により理論設定移相を算出し、さらに理論設定移相から公知の計算式により理論出力移相を算出し、メモリに格納する。
【0039】
信号制御部22はステップS703からステップS707を個別移相量テーブル23に格納されている実出力移相のデータ数だけk回繰り返す。ステップS704において、信号処理部22は個別移相量テーブル23からk番目の実出力移相を読み出す。
【0040】
ステップS705において、信号制御部22は読み出したk番目の実出力移相と、メモリに格納した理論出力移相との差を求める。ステップS706において、信号制御部22はkとステップS705において求めた差をメモリに格納する。ステップS707において、信号制御部22はkに1を加算してステップS703に戻る。
【0041】
ステップS703からステップS707をk回繰り返した後、信号制御部22はステップS708において、メモリ内において格納してある差に基づいて、kと差の組み合わせのデータをソートし、差が最も小さいkを読み出す。
【0042】
ステップS709において、信号制御部22は個別移相量テーブル23からk番目の設定移相を読み出し、出力設定移相とする。ステップS710において、信号制御部22は出力設定移相を移相器15に出力する。
【0043】
以上述べたように、本実施形態においては個別移相量テーブル23と、信号制御部22を移相器毎に設けた。このため、処理速度を第1の実施形態よりも速くすることができる効果がある。
【0044】
図8は第3の実施形態の構成を表す概要図である。本実施形態においては、指示角と指示角から算出した理論出力移相を格納したテーブルを移相器15毎に設け、理論出力移相の計算を不要にした。また、実出力移相毎にアジマス方向の設定移相とエレベーション方向の設定移相を格納したテーブルを設け、アジマス方向の設定移相とエレベーション方向の設定移相を同時に求めるようにした。
【0045】
本実施形態のフェイズドアレイレーダの移相補正システムは、シーカの位置及び姿勢角を出力する慣性航法装置10と、慣性航法装置10から位置及び姿勢角のデータを入力し、目標方向を計算し、目標方向にビームを向けるための角度である指示角を計算して出力する誘導処理部11と、誘導処理部11から出力された指示角を分配する分配部24と、を備える。
【0046】
また、本実施形態のフェイズドアレイレーダの移相補正システムは、入力した移相に基づいて照射する電波を発生させる移相器15と、移相器15毎に設けられ、分配部24から入力した指示角に基づいて計算とテーブルの検索を行い、移相器15に出力する移相を求めて移相器15に出力する信号制御部32と、移相器15毎に設けられ、指示角と指示角から公知の計算式により計算された理論出力移相とを格納する理論移相量テーブル33と、移相器15毎に設けられ、実出力移相毎にアジマス方向の設定移相とエレベーション方向の設定移相を格納した設定移相量テーブル34と、移相器15が発生させた電波を照射するアンテナ16と、を備える。理論移相量テーブル33と設定移相量テーブル34は図示しない記憶装置に格納される。
【0047】
慣性航法装置10は電波を照射する装置であるシーカの位置及び姿勢を計測する各種のセンサ及び計算処理を行うプロセッサなどの装置を備える。誘導処理部11は公知の計算式を用いて目標方向と指示角を計算する。分配部24は誘導処理部11から入力した指示角を信号処理部32毎に分けて出力する。
【0048】
誘導処理部11、信号制御部32、分配部24は電子部品を用いて回路として構成することもできる。また、ディジタルシグナルプロセッサのようなプロセッサとメモリと記憶装置と入出力装置などの装置を備え、処理動作を行うプログラムを記憶装置に格納し、プロセッサに上記プログラムを実行させることにより各処理を実行する装置として構成することもできる。
【0049】
プロセッサを用いる場合には、誘導処理部11、信号制御部32、分配部24毎にプロセッサとメモリと記憶装置と入出力装置などの装置を設け、それぞれ独立した装置として構成することもできる。また、誘導処理部11、信号制御部32、分配部24のうち二つ以上について、プロセッサとメモリと記憶装置と入出力装置などの装置を一組設け、各部の処理を一つ以上のプログラムに記述してこれをプロセッサに実行させる装置として構成することもできる。
【0050】
図9は理論移相量テーブル33のデータ構成を表した図である。理論移相量テーブル33に格納される項目は、指示角とこの指示角から公知の計算式により計算された理論出力移相である。具体的には、指示角から理論設定移相が計算され、理論設定移相から理論出力移相が計算される。
【0051】
図10は設定移相量テーブル34のデータ構成を表した図である。設定移相量テーブル34に格納される項目は、アジマス方向の設定移相であるアジマス方向設定移相と、エレベーション方向の設定移相であるエレベーション方向設定移相と、アジマス方向設定移相とエレベーション方向設定移相がそれぞれ定められた場合の実出力移相である。
【0052】
図11は信号制御部32における処理のフローチャートである。ステップS1101において、信号制御部32は分配部24から指示角を入力する。ステップS1102において、信号制御部32は指示角をキーに理論移相量テーブル33を検索し、理論出力移相を読み出す。
【0053】
信号制御部32はステップS1103からステップS1107を設定移相量テーブル34に格納されている実出力移相のデータ数だけk回繰り返す。ここで、アジマス方向の設定移相がs個、エレベーション方向の設定移相がt個格納されているとき、kはsとtの積である。
【0054】
ステップS1104において、信号制御部32は設定移相量テーブル34からk番目の実出力移相を読み出す。設定移相量テーブル34に格納されている実出力移相の読み出し順は任意に設定できる。例えば、アジマス方向の設定移相が小さいものから、エレベーション方向の設定移相の小さい順にkを割り当てて読み出すことができる。
【0055】
ステップS1105において、信号制御部32は設定移相量テーブル34から読み出したk番目の実出力移相と理論移相量テーブル33から読み出した理論出力移相との差を求める。ステップS1106において、信号制御部32はkとステップS1105において求めた差をメモリに格納する。ステップS1107において、信号制御部32はkに1を加算してステップS1103に戻る。
【0056】
ステップS1103からステップS1107をk回繰り返した後、信号制御部32はステップS1108において、メモリ内において格納してある差に基づいて、kと差の組み合わせのデータをソートし、差が最も小さいkを読み出す。
【0057】
ステップS1109において、信号制御部32は設定移相量テーブル34からk番目の実出力移相に対応するアジマス方向設定移相及びエレベーション方向設定移相を読み出し、それぞれアジマス方向の出力設定移相及びエレベーション方向の出力設定移相とする。ステップS1110において、信号制御部32はアジマス方向の出力設定移相及びエレベーション方向の出力設定移相を移相器15に出力する。
【0058】
以上述べたように、本実施形態においては指示角と指示角から算出した理論出力移相を格納した理論移相量テーブル33を移相器15毎に設け、理論出力移相の計算を不要にした。また、実出力移相毎にアジマス方向の設定移相とエレベーション方向の設定移相を格納した設定移相量テーブル34を設け、アジマス方向の設定移相とエレベーション方向の設定移相を同時に求めるようにした。
【0059】
このため、処理速度が第2の実施形態よりも速くなる。また、プロセッサの負荷が軽くなるため、より安価なプロセッサを用いることができ、製造コストを抑えることができる効果がある。
【0060】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】第1の実施形態の構成を表す概要図である。
【図2】移相量テーブルのデータ構成を表した図である。
【図3】信号制御部の処理の原理を説明するためのグラフである。
【図4】第1の実施形態の信号制御部における処理のフローチャートである。
【図5】第2の実施形態の構成を表す概要図である。
【図6】個別移相量テーブルのデータ構成を表した図である。
【図7】第2の実施形態の信号制御部における処理のフローチャートである。
【図8】第3の実施形態の構成を表す概要図である。
【図9】理論移相量テーブルのデータ構成を表した図である。
【図10】設定移相量テーブルのデータ構成を表した図である。
【図11】信号制御部における処理のフローチャートである。
【図12】フェイズドアレイレーダのビーム照射方法を模式的に表した図である。
【符号の説明】
【0062】
10:慣性航法装置、
11:誘導処理部、
12:信号制御部、
13:移相量テーブル、
14:分配部、
15:移相器、
23:個別移相量テーブル、
24:分配部、
32:信号制御部、
33:理論移相量テーブル、
34:設定移相量テーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームを照射する角度に応じて所定の移相量ずつずらして電波を照射する複数の移相器と;
前記移相器の入力値である設定移相と前記各移相器における前記設定移相毎の実際の出力値である実出力移相とを格納するテーブルと;
ビームを照射する角度から理想的な出力移相である理論出力移相を算出し、
前記テーブルから前記移相器毎に前記出力移相を読み込み、
前記理論出力移相との差が最も小さい前記出力移相に対応する前記設定移相である出力設定移相を移相器毎に判定し、
前記出力設定移相を出力する信号制御部と;
を有することを特徴とするフェイズドアレイレーダの移相量補正装置。
【請求項2】
ビームを照射する角度に応じて所定の移相量ずつずらして電波を照射する複数の移相器と;
前記移相器の入力値である設定移相と前記各移相器における前記設定移相毎の実際の出力値である実出力移相とを格納する移相量テーブルと;
前記各移相器に信号を分配する分配部と;
ビームを照射する角度から理想的な出力移相である理論出力移相を算出し、
前記移相量テーブルから前記移相器毎に前記出力移相を読み込み、
前記理論出力移相との差が最も小さい前記出力移相に対応する前記設定移相である出力設定移相を移相器毎に判定し、
前記出力設定移相を、前記分配部を介して移相器に出力する信号制御部と;
を有することを特徴とするフェイズドアレイレーダの移相量補正装置。
【請求項3】
ビームを照射する角度に応じて所定の移相量ずつずらして電波を照射する複数の移相器と;
前記移相器の入力値である設定移相と前記各移相器における前記設定移相毎の実際の出力値である実出力移相とを前記移相器毎に格納する、前記移相器毎に設けられた個別移相量テーブルと;
ビームを照射する角度から理想的な出力移相である理論出力移相を算出し、
前記移相量テーブルから前記出力移相を読み込み、
前記理論出力移相との差が最も小さい前記出力移相に対応する前記設定移相である出力設定移相を判定し、
前記出力設定移相を移相器に出力する、前記移相器毎に設けられた信号制御部と;
を有することを特徴とするフェイズドアレイレーダの移相補正装置。
【請求項4】
ビームを照射する角度である指示角に応じて所定の移相量ずつずらして電波を照射する複数の移相器と;
前記指示角と前記指示角から算出される理想的な出力移相である理論出力移相を格納する、前記移相器毎に設けられた理論移相量テーブルと;
前記移相器の入力値である設定移相と前記各移相器における前記設定移相毎の実際の出力値である実出力移相とを格納する、前記移相器毎に設けられた設定移相量テーブルと;
前記設定移相量テーブルから前記実出力移相を読み込み、
前記理論出力移相との差が最も小さい前記出力移相に対応する前記設定移相である出力設定移相を判定し、
前記出力設定移相を前記移相器に出力する、前記移相器毎に設けられた信号制御部と;
を有することを特徴とするフェイズドアレイレーダの移相補正装置。
【請求項5】
前記設定移相量テーブルが、
アジマス方向の設定移相量と、
エレベーション方向の設定移相量と、
前記アジマス方向の設定移相量と前記エレベーション方向の設定移相量に対応した前記実出力移相と、
を格納し、
前記信号制御部が、前記理論出力移相との差が最も小さい前記実出力移相に対応する前記アジマス方向の設定移相であるアジマス方向出力設定移相と、前記エレベーション方向の設定移相であるエレベーション方向出力設定移相とを判定することを特徴とする請求項4記載のフェイズドアレイレーダの移相補正装置。
【請求項6】
ビームを照射する角度に応じて所定の移相量ずつずらして電波を照射する複数の移相器を備えるフェイズドアレイレーダの前記移相器の個体差を補正する移相量補正システムであって、
前記移相器の入力値である設定移相と前記各移相器における前記設定移相毎の実際の出力値である実出力移相とを格納するテーブルと、
前記移相器に出力する前記設定移相を判定する信号制御部と、を備え、
前記信号制御部が、
ビームを照射する角度から理想的な出力移相である理論出力移相を算出し、
前記テーブルから移相器毎に前記出力移相を読み込み、
前記理論出力移相との差が最も小さい前記出力移相に対応する前記設定移相である出力設定移相を移相器毎に判定し、
前記出力設定移相を出力する
ことを特徴とするフェイズドアレイレーダの移相量補正システム。
【請求項7】
ビームを照射する角度に応じて所定の移相量ずつずらして電波を照射する複数の移相器を備えるフェイズドアレイレーダの前記移相器の個体差を補正する移相量補正システムであって、
前記移相器の入力値である設定移相と前記各移相器における前記設定移相毎の実際の出力値である実出力移相とを格納する移相量テーブルと、
前記各移相器に信号を分配する分配部と、
前記移相器に出力する前記設定移相を判定する信号制御部と、を備え、
前記信号制御部が、
ビームを照射する角度から理想的な出力移相である理論出力移相を算出し、
前記移相量テーブルから移相器毎に前記出力移相を読み込み、
前記理論出力移相との差が最も小さい前記出力移相に対応する前記設定移相である出力設定移相を移相器毎に判定し、
前記出力設定移相を、前記分配部を介して移相器に出力する
ことを特徴とするフェイズドアレイレーダの移相量補正システム。
【請求項8】
ビームを照射する角度に応じて所定の移相量ずつずらして電波を照射する複数の移相器を備えるフェイズドアレイレーダの前記移相器の個体差を補正する移相量補正システムであって、
前記移相器の入力値である設定移相と前記各移相器における前記設定移相毎の実際の出力値である実出力移相とを前記移相器毎に格納する、前記移相器毎に設けられた個別移相量テーブルと、
前記移相器毎に設けられた信号制御部と、を備え、
前記信号制御部が、
ビームを照射する角度から理想的な出力移相である理論出力移相を算出し、
前記移相量テーブルから前記出力移相を読み込み、
前記理論出力移相との差が最も小さい前記出力移相に対応する前記設定移相である出力設定移相を判定し、
前記移相器に前記出力設定移相を出力する
ことを特徴とするフェイズドアレイレーダの移相量補正システム。
【請求項9】
ビームを照射する角度である指示角に応じて所定の移相量ずつずらして電波を照射する複数の移相器を備えるフェイズドアレイレーダの前記移相器の個体差を補正する移相量補正システムであって、
前記指示角と前記指示角から算出される理想的な出力移相である理論出力移相を格納する、前記移相器毎に設けられた理論移相量テーブルと、
前記移相器の入力値である設定移相と前記各移相器における前記設定移相毎の実際の出力値である実出力移相とを格納する、前記移相器毎に設けられた設定移相量テーブルと、
移相器毎に設けられた信号制御部と、を備え、
前記信号制御部が、
前記設定移相量テーブルから前記出力移相を読み込み、
前記理論出力移相との差が最も小さい前記出力移相に対応する前記設定移相である出力設定移相を判定し、
前記移相器に前記設定移相を出力する
ことを特徴とするフェイズドアレイレーダの移相補正システム。
【請求項10】
前記設定移相量テーブルが、
アジマス方向の設定移相量と、
エレベーション方向の設定移相量と、
前記アジマス方向の設定移相量と前記エレベーション方向の設定移相量に対応した前記実出力移相と、
を格納し、
前記信号制御部が、前記理論出力移相との差が最も小さい前記実出力移相に対応する前記アジマス方向の設定移相であるアジマス方向出力設定移相と、前記エレベーション方向の設定移相であるエレベーション方向出力設定移相とを判定することを特徴とする請求項9記載のフェイズドアレイレーダの移相補正システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−134151(P2008−134151A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320513(P2006−320513)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】