説明

フェノール含有流出ストリームの抽出

本発明では、メチルイソブチルケトン、アニソールおよび場合によってはメシチレンを含んだ混合物を用いて抽出することによって、フェノールを含んだ流出ストリームを精製する方法が供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノールを含んだ流出ストリームを抽出する方法に関している。
【背景技術】
【0002】
例えばクメン法によるフェノールの製造やフェノールとアセトンとの縮合反応によるビスフェノールAの製造等の工業プロセスでは、流出ストリームとしてフェノールを含んだ水溶液が生じる。
【0003】
水に対するフェノールの溶解度を利用する簡易な蒸留法では、フェノール含有流出ストリームからフェノールを分離することが不可能である(65.3℃よりも高い温度では、水とフェノールとが相互に混和性を有することになり、室温であっても、約10重量%のフェノールが依然、水中に溶解している)。フェノールを含んだ水溶液の蒸留に際しては、共沸混合物が形成されてしまう。J.M.Sφrensen、W.Arlt、液−液平衡データ集、化学データ・サービスV/1、第356頁〜第361頁(Dechema,Frankfurt 1979)およびウルマンの工業化学百科事典の第A19巻(第5版、VCH Weinheim 1991)の第299頁〜第312頁を参照のこと。
【0004】
酸イオン交換体を用いてビスフェノールAを調製する際、反応に起因して生じる水は、触媒活性を低下させ得るので除去する必要がある。そのような水の除去は、まず、ビスフェノールA、そのモノマーおよびビスフェノールAプロセスで溶剤として過剰に使用されるフェノールから、反応に起因した水を蒸留で分離することよって行われる。このような蒸留から得られる水は、多くのフェノール(1〜15重量%)を含んでおり、場合によってはアセトン(0〜5重量%)をも含んでいる。このような2種類の成分に加えて、ビスフェノールAプロセスに用いられる他の有機成分(例えばメタノール)、アセトン自己縮合生成物(例えばメシチルオキシド)および硫黄含有共触媒(チオール)なども水に含まれている場合があり、更に、そのような化合物の分解生成物および副生成物もまた水に含まれ得る。尚、上記プロセスで生じる他の水性ストリーム(例えば、遊動リング・シールまたは真空装置に用いられる水)にも、フェノールおよび他の有機成分が含まれている場合がある。
【0005】
フェノールの毒性および経済的な観点(フェノールの回収率の観点)から、フェノールを含んだ流出液は、有機溶剤を用いた抽出処理によって精製される。かかる抽出処理では、例えばベンゼン、クメン、ジイソプロピルエーテルまたはメチルイソブチルケトン(MIBK)等が用いられる。抽出は、当業者に既知の手法(タンク抽出、ミキサーセトラー抽出、向流抽出など)を用いて行うことができる。抽出処理された後の流出液は、その後、抽出剤の残留濃度を下げるべく、蒸気ストリッピング塔で一般的に処理される。抽出剤が残留していると、流出液がひどい有機物汚染を引き起こしかねないので、残留濃度を下げることは重要である。流出液の抽出剤の濃度を減じることによって、ストリームの使用の点で節約が図られ、エネルギー・コストを節約することができる。このように処理された流出液は、その後、流出液処理プラントで生物学的に処理されることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抽出剤としてMIBKを用いるフェノール含有水溶液の抽出に際して、アニソールおよび場合によってはメシチレンがMIBKに含まれていると、抽出後にてMIBKの残留濃度が減少することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、フェノール含有水溶液(またはフェノールを含んだ水性液)を抽出する方法であって、
混合物の重量基準で60〜99重量%のメチルイソブチルケトン、1〜40重量%のアニソールおよび0〜20重量%のメシチレンを含んだ混合物を抽出剤として用いる方法が供される。
【0008】
好ましくは、混合物の重量基準で75〜95重量%のメチルイソブチルケトン、5〜25重量%のアニソールおよび0〜10重量%のメシチレンを含んだ混合物を抽出剤として用いる。
【0009】
純粋なMIBKを用いる代わりに、MIBKおよびアニソールを含んだ混合物を用いて、フェノールおよびアセトンを含んだ流出液を抽出すると、流出液に残存するMIBKの濃度(残存濃度)を大きく減じることができる(同様の抽出条件と仮定している)。尚、この場合、フェノールおよびアセトンの抽出度は実質的に変わらない。
【0010】
MIBKとアニソールとの混合物を用いると、少量のアニソールが流出液中に残存し得るものの、MIBK濃度の低下が、アニソール濃度の増加よりも相当に大きいので、全体としては、流出液の有機成分濃度がより低下する。抽出剤の混合物にメシチレンを加えると、抽出効率およびMIBK残留濃度を同様に維持しつつも、抽出後の水溶液のアニソール濃度を更に減じることができる。
【0011】
フェノール含有水溶液(即ち、流出液)のフェノール濃度は、全重量基準(フェノール含有水溶液の重量基準)で、1〜15重量%であることが好ましい。
【0012】
フェノール含有水溶液には、5重量%以下(フェノール含有水溶液の重量基準)のアセトンが更に含まれていてもよい。
【0013】
フェノール含有水溶液が硫酸ナトリウムを含んでいてよく、および/または、フェノール含有水溶液がpH7未満となるように例えば硫酸もしくは他の酸を用いてフェノール含有水溶液を酸性化させてよい。これにより、抽出処理が向上することになる。
【0014】
抽出は、当業者に既知の手法(多段抽出、タンク抽出、ミキサーセトラー抽出、向流抽出など)で行うことができる。
【0015】
抽出後、カラムにて蒸留を行うことによって、抽出剤の残留分を流出液から除去してもよい。この場合、必要に応じて、カラムに蒸気を供給して蒸留を行ってもよい。
【0016】
蒸留後または抽出後に得られる水性相を採取して、それを生物学的な流出液処理を行うプラントで処理してもよい。
【0017】
フェノール含有水溶液は、抽出処理に付す前に、蒸留処理に付してもよい。かかる蒸留処理によって、フェノール含有水溶液中に存在するケトンまたは他の有機成分の全てまたは一部を除去することができる。
【0018】
フェノール含有水溶液から抽出されたフェノールおよび場合によっては他の有機成分(特にケトン)は、蒸留によって抽出剤から分離し、回収することができる。この処理によって得られる(又は精製される)抽出剤は、抽出処理に再使用できる。
【0019】
抽出後または蒸留後に得られる水性相は、生物学的な流出液処理を行うプラントで処理するに先だって、活性炭で精製してもよい。
【0020】
本発明の方法は、ビスフェノールAの製造(または生成)に起因して生じる流出液の精製に用いることが好ましい。ビスフェノールAの製造プロセスでは、例えば、触媒としてのスルホン酸型陽イオン交換体にて(場合によっては共触媒としてのチオールの存在下で)フェノールとアセトンとを反応させ、得られるビスフェノールAの全部または一部を、付加物としてフェノールを含んだ結晶形態で晶析させた後、濾過する。次いで、蒸留を行うことによって、濾液から全ての水または一部の水を除去する。ビスフェノールAの製造プロセスでは、付加物としてフェノールを含んだビスフェノールAの晶析に先だって又はかかる晶析に部分的に先だって、上記で説明した以外の方法で、反応に起因した水の分離を行ってもよい。更に、晶析工程に際して又は晶析工程に先だって水(場合によってはフェノールまたは他の有機溶剤と混合されている水)が加えられるビスフェノールAの生成プロセスから生じる流出液に対して行う抽出にも本発明は適している。
【実施例】
【0021】
実施例1(比較例)
100mlのMIBKと共に、170mlのフェノール含有水溶液(ビスフェノールAの生成に起因して生じた流出液)を、500ml分液漏斗にて15秒間振動させた。次いで、分液漏斗を5分間静置させ、得られる水性相を採取してガスクロマトグラフィーに付した。得られた結果を表1に示す。
【0022】
実施例2(本発明の実施例)
実施例2は、100mlのMIBKに代えて、80mlのMIBKと20mlのアニソールとの混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0023】
実施例3(本発明の実施例)
実施例3は、100mlのMIBKに代えて、83mlのMIBKと12mlのアニソールと5mlのメシチレンとの混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0024】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール含有水溶液を抽出する方法であって、
混合物基準で60〜99重量%のメチルイソブチルケトン、1〜40重量%のアニソールおよび0〜20重量%のメシチレンを含んだ混合物を抽出剤として用いる方法。
【請求項2】
抽出されるフェノール含有水溶液のフェノール濃度が1〜15重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フェノール含有水溶液の全部または一部が、ビスフェノールAの製造から生じたものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
フェノール含有水溶液が、硫酸ナトリウムを含んでいる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
フェノール含有水溶液が、5重量%以下のアセトンを更に含んでいる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
フェノール含有水溶液を抽出する前に蒸留に付すことによって、少なくともアセトンを分離する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
抽出後の水溶液のメチルイソブチルケトン濃度を蒸留によって減じる、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
抽出処理で得られるメチルイソブチルケトン含有混合物から、フェノールおよび場合によっては他の有機成分を蒸留により回収する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
活性炭に通すことによって、抽出後の水溶液の有機成分濃度を減じる、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
抽出に先だって、フェノール含有水溶液のpHが7未満となるようにフェノール含有水溶液を酸性化させる、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2007−534471(P2007−534471A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508787(P2007−508787)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003923
【国際公開番号】WO2005/102936
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】