説明

フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンド用反射防止膜

【課題】 「フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンド用反射防止膜」である。
【解決手段】 ストップバンドでの強い反射を保ちつつも、(交互に配置された高屈折率材料と低屈折率材料を有する)フォトニックバンドギャップ(PBG)結晶のパスバンドを通過する光の透過率は、最大化される。反射防止膜(ARC)は、PBG結晶を被覆するために用いられ、ARCの材料は、n=(nair×nhigh−index material1/2の屈折率を有し、λを中心波長とした場合に、λ/8程度の厚さを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にはフォトバンドギャップ(PBG)結晶に関する。より具体的には、本発明は、PBG結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する際に用いられる反射防止膜に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術の方法は、厚さがλ/(4n)である高屈折率材料と低屈折材料とを交互に積層する。ただし、nはそれぞれの材料の屈折率であり、λは、光が効果的に反射される波長である中心波長である。この周期構造はフォトニックバンドギャップ結晶(以下、PBGと言う)と呼ばれる。
【0003】
高い反射率は、中心波長付近(ストップバンド)で得られる。しかし、同時に、層の数に応じて、いくつかの光子状態が結晶のパスバンド中で形成される。一部の光が効果的に反射され、その他の光が波長に応じて透過される、波長フィルターのような一部のデバイスについては、パスバンドにおいても光の一部分が反射されてしまうので、このような光子状態は望ましいものではない。例えば、パスバンド波長(図2中の0.78−1.5μm)において、およそ25%の光は反射される。
【0004】
単純な一層のデバイス、例えば、通常の太陽電池などでは、反射はλ/4の厚さの反射防止膜(以下、ARCと言う)を配置することによって抑制することができる。しかし、この単純な概念は、PBGは2つの異なる種類のバンド(パスバンドとストップバンド)を有し、積層された多数の層から組織されるので、PBGには適用できない。
【0005】
前述した先行技術の明らかな長所、特色、利点が何であっても、それらのいずれも、本発明の目的を達成しない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する半導体構造であって、該構造は、(a)高屈折率材料(nhigh−index materialの屈折率)と低屈折率材料との交互層から成るフォトニックバンドギャップ結晶(PBG)であって、中心波長λを有するものであるPBGと、(b)PBGの最上部に堆積される反射防止膜(ARC)層であって、nARC=√(nair×nhigh−index material)で与えられる屈折率を有し、λ/8の実質的な厚さを有するものであるARC層とから成る半導体構造を提供する。
【0007】
本発明は、また、フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する方法であって、該方法は、(a)高屈折率材料と低屈折率材料との交互層を堆積させてフォトニックバンドギャップ結晶(PBG)を形成する工程であって、高屈折率材料はnhigh−index materialの屈折率を有するものとし、PBG結晶は中心波長λを有するものとする工程と、(b)PBG結晶の最上部の反射防止膜(ARC)層を堆積する工程であって、ARC層はnARC=√(nair×nhigh−index material)で与えられる屈折率を有するものとし、ARC層はλ/8の実質的な厚さを有するものとする工程とを有し、堆積されたARC層は、前記PBG結晶のストップバンドを通過する光の強い反射を保ちつつ、PBG結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化することを特徴とする方法を提供する。
【0008】
本発明は、また、フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する方法であって、該方法は、(a)高屈折率材料と低屈折率材料との交互層を堆積させてフォトニックバンドギャップ結晶(PBG)を形成する工程であって、高屈折率材料はnhigh−index materialの屈折率を有し、PBGは中心波長λを有するものとする工程と、(b)シリコン(Si)基板上に、少なくとも亜酸化窒素(NO)を含むガスを導入することによってSiON反射防止膜(ARC)層を形成する工程と、(c)SiONARC層が、nARC=√(nair×nhigh−index material)で与えられる屈折率を有するように前記ガス中のNOの濃度を調節し、SiONARC層が、λ/8の実質的な厚さを有するものとする工程とを有し、形成されたSiONARC層は、前記PBG結晶のストップバンドを通過する光の強い反射を保ちつつ、PBG結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化することを特徴とする方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明が好適な実施例で図示され説明されるが、本発明は多くの異なる形態で実現され得る。本発明の好適な実施例が、図面中に図示され、以下に詳細に説明される。なお、この開示は、本発明の基本原理の具体例と、その具体化のための関連する機能上の詳細を示したものとされ、本発明を以下に例示される実施例のみに制限するものではないと理解される。当業者は、本発明の範囲内において多くの他の可能な変形を予想するであろう。
【0010】
本発明は、ストップバンドでの強い反射を保ちつつ、フォトニックバンドギャップ結晶(しばしばPBGと呼ばれる)のパスバンドを通過する最大の光透過率を得ることを可能にする。この特性は光起電力デバイスやレーザー光学デバイスなどの波長フィルターとして有用である。
【0011】
本発明は、フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する半導体構造であって、該構造は、(a)高屈折率材料(nhigh−index materialの屈折率)と低屈折率材料との交互層から成るフォトニックバンドギャップ結晶(PBG)であって、中心波長λを有するものであるPBGと、(b)PBGの最上部に堆積される反射防止膜(ARC)層であって、nARC=√(nair×nhigh−index material)で与えられる屈折率を有し、λ/8の実質的な厚さを有するものであるARC層とから成る半導体構造を提供する。
【0012】
図1は、本発明に関して用いられるPBG結晶の1つの例を図示する。PBG結晶は、2.0μmの中心波長(λ)を有し、Si層が最上層になるように5ペア(10層)のSi/SiO層を有する。図2は、中心波長(λ)=2.0μmでのPBGの反射率を示すグラフを図示したものであり、TSi(Si層の厚さ)=0.143μm及びTSiO2(SiO層の厚さ)=0.345μm(Si/SiO層の数=5)である。図1の議論に戻る。本発明に従えば、別の、屈折率が以下のように表現されるARC層がPBG上に配置される(図1)。
【0013】
(数1)
ARC=√(nair×ntop
【0014】
ここで、nARC、nair、ntopは、付加的に被覆または堆積させた層の屈折率、空気の屈折率(通常、1.0)、付加層を配置する前の最上層の屈折率(この例の場合、ntop=3.5)を意味する。最上層がSiである場合、nARCは1.87になる。厚さはλc/8程度(±30%)とするべきである。λ/8の厚さの層の効果は、パスバンド波長において反射を抑制するλ/2における反射防止膜(以下、ARCと言う)である。図1の個々の光子状態では、進行波は、その周期がPBGの内部でλ/2である定常波を形成する。
【0015】
図3は、λ=1.1μm(光子状態の一つ)のときに、どのように電界強度がPBGの内部で分布されているかを図示したものである。図3で見られるように、定常波がPBGの内部でλ/2の長さの周期を形成している。また、他の光子状態でも同様である。本発明に従うと、これらの光子状態は、λ/2波長のための無反射層、すなわち、λ/2の4分の1(すなわち、(λ/2)(1/4)=λ/8)の無反射層を配置することで抑制することができる。インピーダンスの調和をとるために、(1)nARC=√(nair×nhigh−index material)で与えられる屈折率を有し、(2)λ/8の実質的な厚さを有する、コーティング材料を用いることが望ましい。
【0016】
図4に示されるグラフは、(1)単純な5ペアのPBG、(2)λ/8の厚さのSiOARC層を具備する5ペアのPBG、(3)λ/8の厚さのSiON(n=1.86)を具備する5ペアのPBG、の反射率を図示したものである。SiONはシリコン酸窒化物を意味する。図4に見られるように、反射率は、λ/8の厚さのSiOを配置することによって、単純な5ペアのPBGと比べて抑制することができる。しかし、この場合、パスバンドにおける反射率は、λ/8の厚さの、その屈折率が1.87であるSiONを配置することによって、より抑制することができる。
【0017】
図4は、反射防止膜を具備した5ペアのPGBと、反射防止膜を具備しない5ペアのPBGの反射率を示す。SiOARCを付加することによってパスバンドにおけるリプルを著しく減少させることができるが、基板、Si、SiOと空気との間の屈折率の不一致のために、0になることはないことがわかる。しかしながら、SiONARC層がSiOARCの代わりにPBG積層の最上部に付加される場合、リプルが減少するとともに反射率はパスバンドの不連続な点において0に至らされる。ここで注意すべきことは、全ての場合において、中心波長は2.0μmであることである。
【0018】
図5は、パスバンド(0.78−1.5μm)を通過するPBGの光の透過率を示す(事例番号1…ARCを具備しない場合、事例番号2…SiOARCを具備する場合、事例番号3…SiONARCを具備する場合)。
【0019】
ここで注意すべきことは、本発明で提示されたPBGは、様々な作製法によって作製することができることである。通常の方法の一つは、化学蒸着法(CVD)技術である。この手法を用いると、多結晶Siと酸化物を堆積させることができる。酸化物はまた、熱酸化、すなわち、酸化物が多結晶Si層を酸化させることにより形成される方法、によって形成することができる。他の作製法としては、スパッタリングや電子線堆積法を採用することができる。反射防止膜(SiON)の作製では、プラズマ化学蒸着法(PECVD)が、堆積中にガスの組成を変化させることのみで屈折率を容易に調節することができるため望ましい。しかし、スパッタリングや他の手法も、SiONの堆積のために採用することができる。
【0020】
本発明では、Si/SiOのPBGを用いることを述べている。しかし、他の材料、例えば、組成比に応じて窒化物の屈折率が2−2.3で変化するSi/SiN等を用いることができる。
【0021】
システムと方法が、フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンド用反射防止膜の効果的な実施について上記した実施例で示されている。様々な好ましい実施例が示されて説明されたが、そのような開示内容によって本発明を制限する意図が無いことは理解されるであろう。しかし、もっと適切に言えば、添付した特許請求の範囲の中で定義されたような本発明の思想と範囲内にある変更をすべてカバーすることが意図される。例えば、本発明は、用いられる特定の高屈折率材料、用いられる特定の低屈折率材料、用いられる特定のARC層、ARC層の堆積の際に用いられる特定の技術によって制限されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】提示されるフォトニックバンドギャップ結晶の基本的構造を示す。
【図2】5ペアのSi/SiOPBG(λ=2.0μm)の反射率を示す。
【図3】光子状態の一つ(λ=1.1μm)について電界強度を示す。
【図4】5ペアのPBGの反射率を、反射防止膜を具備する場合と具備しない場合について示す。
【図5】パスバンド(0.78−1.5μm)を通過するPBGの光の透過率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する半導体構造であって、該構造は、
(a)高屈折率材料と低屈折率材料との交互層から成るフォトニックバンドギャップ結晶(PBG)であって、前記高屈折率材料はnhigh−index materialの屈折率を有するものであり、前記PBGは中心波長λを有するものであるPBGと、
(b)前記PBGの最上部に堆積される反射防止膜(ARC)層であって、前記ARC層はnARC=√(nair×nhigh−index material)で与えられる屈折率を有するものであり、前記ARC層はλ/8の実質的な厚さを有するものであるARC層と
から成る半導体構造。
【請求項2】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する半導体構造であって、前記厚さがλ/8±[(0.3λ)/8]であることを特徴とする請求項1に記載の半導体構造。
【請求項3】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する半導体構造であって、前記ARC層がSiON層であることを特徴とする請求項1に記載の半導体構造。
【請求項4】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する半導体構造であって、前記高屈折率材料がSiであることを特徴とする請求項1に記載の半導体構造。
【請求項5】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する半導体構造であって、前記低屈折率材料がSiOであることを特徴とする請求項4に記載の半導体構造。
【請求項6】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する半導体構造であって、前記低屈折率材料がSiNであることを特徴とする請求項4に記載の半導体構造。
【請求項7】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する半導体構造であって、前記ARC層が、スパッタリング、電子線堆積法、化学蒸着法、プラズマ化学蒸着法のいずれかの方法により堆積されたものであることを特徴とする請求項1に記載の半導体構造。
【請求項8】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する方法であって、該方法は、
(a)高屈折率材料と低屈折率材料との交互層を堆積させてフォトニックバンドギャップ結晶(PBG)を形成する工程であって、前記高屈折率材料はnhigh−index materialの屈折率を有するものとし、前記PBGは中心波長λを有するものとする工程と、
(b)前記PBGの最上部の反射防止膜(ARC)層を堆積する工程であって、前記ARC層はnARC=√(nair×nhigh−index material)で与えられる屈折率を有するものとし、前記ARC層はλ/8の実質的な厚さを有するものとする工程と
を有し、前記堆積されたARC層は、前記PBG結晶のストップバンドを通過する光の強い反射を保ちつつ、前記PBG結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化することを特徴とする方法。
【請求項9】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する方法であって、前記厚さをλ/8±[(0.3λ)/8]とすることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する方法であって、前記ARC層をSiON層とすることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する方法であって、前記高屈折率材料がSiとすることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項12】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する方法であって、前記低屈折率材料をSiOとすることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する方法であって、前記低屈折率材料をSiNとすることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する方法であって、前記ARC層を、スパッタリング、電子線堆積法、化学蒸着法、プラズマ化学蒸着法のいずれかの方法により堆積されたものとすることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項15】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する方法であって、該方法は、
(a)高屈折率材料と低屈折率材料との交互層を堆積させてフォトニックバンドギャップ結晶(PBG)を形成する工程であって、前記高屈折率材料はnhigh−index materialの屈折率を有するものとし、前記PBGは中心波長λを有するものとする工程と、
(b)シリコン(Si)基板上に、少なくとも亜酸化窒素(NO)を含むガスを導入することによってSiON反射防止膜(ARC)層を形成する工程と、
(c)前記SiONARC層が、nARC=√(nair×nhigh−index material)で与えられる屈折率を有するように前記ガス中のNOの濃度を調節し、前記SiONARC層が、λ/8の実質的な厚さを有するものとする工程と
を有し、前記形成されたSiONARC層は、前記PBG結晶のストップバンドを通過する光の強い反射を保ちつつ、前記PBG結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化することを特徴とする方法。
【請求項16】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する方法であって、前記厚さをλ/8±[(0.3λ)/8]とすることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する方法であって、前記高屈折率材料がSiとすることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項18】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する方法であって、前記低屈折率材料をSiOとすることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する方法であって、前記低屈折率材料をSiNとすることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項20】
フォトニックバンドギャップ結晶のパスバンドを通過する光の透過率を最大化する方法であって、前記SiONARC層を、スパッタリング、電子線堆積法、化学蒸着法、プラズマ化学蒸着法のいずれかの方法により堆積されたものとすることを特徴とする請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−65643(P2007−65643A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−211632(P2006−211632)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】