説明

フッ素樹脂被覆ベルトおよびその製造方法、画像定着装置並びに画像形成装置

【課題】未定着画像を押圧した場合であっても梨地状欠陥の発生を好適に抑制したフッ素樹脂被覆ベルト、並びに、該フッ素樹脂被覆ベルトを容易に得ることができるフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法を提供する。
【解決手段】基材と、弾性層と、フッ素樹脂製の環状体からなる離型層と、をこの順に設けてなり、前記離型層を形成した側の表面のダイナミック微小硬度が1.00以下であるフッ素樹脂被覆ベルト、並びに、基材の上に弾性層を形成する弾性層形成工程と、前記弾性層の上にフッ素樹脂製の環状体を被覆して離型層を形成するフッ素樹脂被覆工程と、前記離型層に延伸処理を施す延伸工程と、を有するフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂被覆ベルトおよびその製造方法、画像定着装置並びに画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真装置用の画像定着装置においては、定着用のベルト内面に発熱部材を配置し、この発熱部材を介してローラ等の押圧部材を押し当てて押圧領域を形成し、該押圧領域でトナー像などの未定着画像が転写された記録媒体を挟持搬送し定着を行なう方法が採用されている。
【0003】
上記定着用のベルトとしては、ベルト基材の周囲にゴム等からなる弾性層を設け、この弾性層の外周にフッ素樹脂を被覆した定着用のベルトが用いられ始めている。また、高速化が進むことでより径の大きな定着部材が望まれるようになり、この弾性層を有するベルト基材の外周面にフッ素樹脂を被覆する方法としては、以下の方法が従来採用されていた。
【0004】
先ず第1の方法としては、弾性層の外周にフッ素樹脂の粉体または液体の塗料を塗布し、その後に焼成してフッ素樹脂離型層を形成する方法が知られている。
また、第2の方法としては、弾性層の外周面に接着剤を塗布し、その後にフッ素樹脂製の熱収縮性環状体を被せ、ドライヤー等の加熱機でこの熱収縮性環状体を加熱溶着して(この際の加熱は、通常320℃以上380℃以下の温度にて行われる。)弾性層と接着させる方法が知られている。
【0005】
また、第3の方法としては、中空の円筒状の金型内に、予めフッ素樹脂製の環状体と外周に弾性層を設けていないベルト基材とを同心的に取り付け、フッ素樹脂製の環状体とベルト基材とで挟まれる領域に弾性層用材料を注入して硬化させる方法が知られている。
また、第4の方法としては、弾性層の外周面に接着剤を塗布し、その後に弾性層を形成したベルト基材の外径よりも小さい内径を有するフッ素樹脂製の環状体を拡張し、前記ベルト基材を挿入して、フッ素樹脂製の環状体の収縮力により被覆する方法がある。
【0006】
これらのフッ素樹脂の被覆方法の中でも、近年、上記第4の方法に関する研究がさかんになされており、例えば、フッ素樹脂製の環状体を被覆した後、O型のリングによってフッ素樹脂製の環状体表面を扱く方法が試されている(例えば、特許文献1参照)。
また、ベルト基材にフッ素樹脂製の環状体を被覆して離型層を形成する際に、弾性層とフッ素樹脂製の環状体との接着性を向上させるため、前記フッ素樹脂製の環状体の内周面を粗面化して用いる方法が試されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−36361号公報
【特許文献2】特開平5−169566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
とろこで、定着用のベルトを備えた画像定着装置を用いて記録媒体上のトナー像を定着すると、梨地状欠陥(梨の表面様の点々状の欠陥)が発生してしまうことがある。この梨地状欠陥とは、未定着のトナー像をつぶしても、トナー像の表面の凹凸を均すことができずに凹部が残るため、その凹部で光が乱反射することで発生するものである。
【0008】
本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、即ち本発明の目的は、未定着画像を押圧した場合であっても梨地状欠陥の発生を好適に抑制したフッ素樹脂被覆ベルト、該フッ素樹脂被覆ベルトを容易に得ることができるフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法、良好な定着画像を得ることができる画像定着装置および画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の本発明により達成される。
すなわち請求項1に係る発明は、基材と、弾性層と、フッ素樹脂製の環状体からなる離型層と、をこの順に設けてなり、前記離型層を形成した側の表面のダイナミック微小硬度が1.00以下であるフッ素樹脂被覆ベルトである。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の前記ダイナミック微小硬度が0.5以下であるフッ素樹脂被覆ベルトである。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の態様において、周方向を長辺とした50mm×25mmの長方形の試験片を切り出し、該試験片を平面上に配置した際の反りかえりの状態が下記(c)または(d)の状態であるフッ素樹脂被覆ベルトである。
(c)反りかえりがない
(d)ベルト内周面側に反りかえる
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の前記弾性層の厚さが0.1mm以上0.5mm以下であるフッ素樹脂被覆ベルトである。
【0013】
請求項5に係る発明は、基材の上に弾性層を形成する弾性層形成工程と、前記弾性層の上にフッ素樹脂製の環状体を被覆して離型層を形成するフッ素樹脂被覆工程と、前記離型層に延伸処理を施す延伸工程と、を有するフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法である。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のフッ素樹脂被覆ベルトと、該フッ素樹脂被覆ベルトに対向して配設された加圧回転体と、を有する画像定着装置である。
【0015】
請求項7に係る発明は、像保持体と、該像保持体の表面にトナー像を形成するトナー像形成手段と、前記トナー像を記録媒体に転写させる転写手段と、請求項6に記載の画像定着装置を用い、転写された前記トナー像を記録媒体に定着させる定着手段と、を有する画像形成装置である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、未定着画像を押圧した場合であっても梨地状欠陥の発生を好適に抑制することができる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、未定着画像を押圧した場合であっても梨地状欠陥の発生をより好適に抑制することができる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、未定着画像を押圧した場合であっても梨地状欠陥の発生をより好適に抑制することができる。
【0019】
請求項4に係る発明によれば、さらにベルトとしての良好な屈曲性を得ることができる。
【0020】
請求項5に係る発明によれば、未定着画像を押圧した場合であっても梨地状欠陥の発生を好適に抑制することができるフッ素樹脂被覆ベルトを容易に得ることができる。
【0021】
請求項6に係る発明によれば、良好な定着画像を得ることができる。
【0022】
請求項7に係る発明によれば、良好な定着画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
<フッ素樹脂被覆ベルト>
以下、好ましい態様である第1の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトについて図を参照しつつ詳細に説明する。図1に示すように、第1の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトは、円筒状の基材30の表面に、弾性層20と、フッ素樹脂製の環状体(以下、単に「フッ素樹脂チューブ」と称すことがある)からなる離型層10と、を有している。
上記第1の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトは、電子写真方式の画像形成装置におけるベルト部材として好適に用いることができ、例えば、画像定着装置における定着ベルトとして特に好適に用いることができる。
【0024】
上記第1の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトにおいては、離型層10を形成した側の表面のダイナミック微小硬度は1.00以下であり、更には0.50以下であることが好ましい。
【0025】
ここで、上記ダイナミック微小硬度とは、圧子が試料にどれだけ侵入したかを測定する方法によって求めることができる。試験荷重P(mN)、圧子の試料への侵入量(押し込み深さ)D(μm)とした時、表面微小硬度DHは下記式(A)で定義される。
式(A) DH≡αP/D
式(A)中、αは圧子形状による定数で、α=3.8584(使用圧子:三角錐圧子の場合)である。
【0026】
このダイナミック微小硬度は、圧子を押し込んで行く過程の荷重と押し込み深さから得られる硬さで、試料の塑性変形だけでなく、弾性変形をも含んだ状態での材料の強度特性を表すものである。なおかつ、その計測面積は微小であり、トナー粒径に近い範囲でより正確な硬度の測定が可能になる。
【0027】
本明細書においては、フッ素樹脂被覆ベルト表面におけるダイナミック微小硬度を下記の方法によって求めた。フッ素樹脂被覆ベルトを5mm角程度に切り、その小片を瞬間接着剤で硝子板に固定する。この試料の表面のダイナミック微小硬度を微小硬度計DUH−201S(株式会社島津製作所製)を用いて測定する。測定条件は、以下の通りである。
測定環境:23℃、55%RH
使用圧子:三角錐圧子
試験モード:3(軟質材料試験)
試験荷重:0.70gf
負荷速度:0.0145gf/sec
保持時間:5sec
【0028】
上記第1の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトにおいて、弾性層20の厚さは0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましく、0.1mm以上0.3mm以下であることが特に好ましい。また、特に限定されるわけではないが、基材30の厚さは0.05mm以上0.15mm以下であることが一般的に好ましい。また、離型層10の厚さは15μm以上100μm以下であることが好ましい。
上記フッ素樹脂被覆ベルトの外径や軸方向の長さ等は、用いる態様に応じて自由に設計することができる。
【0029】
−反りかえり試験−
また、第1の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトにおいては、以下の試験方法によって観察される試験片の反りかえりの状態が、以下の(c)または(d)の状態であることが好ましい。
より詳しくは、図2(A)に示すように、まずフッ素樹脂被覆ベルト70から、周方向を長辺とした50mm×25mmの長方形の試験片(厚みはフッ素樹脂被覆ベルト厚みに等しい試験片)72を切り出し、該試験片72を外周面側を上にして平面(例えば平板74)上に配置する。その際の反りかえりの状態が、図2(B)に示すごとくベルト外周面側に反りかえるのではなく、下記(c)または(d)の状態であることが好ましい。
(c)反りかえりがない(例えば図2(C)に示す状態)
(d)ベルト内周面側に反りかえる(例えば図2(D)に示す状態)
【0030】
図2(B)に示すごとくベルト外周面側に反りかえる場合、円筒状の基材30および弾性層20が離型層(フッ素樹脂チューブ)10によって引っ張られている状態である。基材30、弾性層20および離型層(フッ素樹脂チューブ)10の状態は、試験片72の形態とフッ素樹脂被覆ベルト70の形態とで変化はないため、フッ素樹脂被覆ベルト70の形態でも離型層(フッ素樹脂チューブ)10によって引っ張られている状態であるといえる。一方、図2(C)や図2(D)に示すごとく反りかえりがない、またはベルト内周面側に反りかえる場合、離型層(フッ素樹脂チューブ)10による引っ張りがない状態であるといえる。
【0031】
<フッ素樹脂被覆ベルトの製造方法>
第2の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法は、基材の上に弾性層を形成する弾性層形成工程と、前記弾性層の上にフッ素樹脂製の環状体を被覆して離型層を形成するフッ素樹脂被覆工程と、前記離型層に延伸処理を施す延伸工程と、を有することを特徴とする。
【0032】
尚、前述の第1の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトは、延伸工程を有する上記第2の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法によって得ることができる。
【0033】
第2の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法は、あらかじめ弾性層を形成した円筒状の基材(図1における基材30と弾性層20とを指し、以下両者を指して「弾性べルト基材」と称すことがある)を準備し、該弾性べルト基材表面に、フッ素樹脂チューブを覆い被せる被覆工程と、覆い被せられたフッ素樹脂チューブ(即ち離型層10)に延伸処理を施す延伸工程と、を有する。
【0034】
尚、フッ素樹脂チューブとしては、弾性べルト基材の外径よりも小さな内径を有するものを用いることが好ましい。このフッ素樹脂チューブを用いる場合、上記被覆工程においては、径を拡張させた状態のフッ素樹脂チューブを弾性べルト基材に被覆し、その後、径の拡張を解くことによって上記フッ素樹脂チューブと弾性ベルトとを密着させることができる。
【0035】
また、フッ素樹脂チューブと弾性べルト基材との良好な密着性を得る観点から、前記被覆工程の前に、フッ素樹脂チューブの内周面および/または弾性べルト基材の外周面に接着剤を塗布する接着剤塗布工程を有することが好ましい。尚、接着剤塗布工程を設けた場合には、接着剤の加熱硬化を行う加熱工程を有することがより好ましい。
【0036】
以下、第2の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法の一例を、図を用いて詳細に説明する。
(0)基材の準備
弾性層20が設けられる基材30としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリベンゾイミダゾール等の樹脂製円筒体等を用いることができる。
【0037】
(1)弾性層の形成
弾性層20に使用する材料としては、耐熱性に優れたシリコーンゴム、フッ素ゴム等を用いるのが好ましく、その他、種々のゴム成分等を混合して用いることができる。また、必要に応じて各種添加剤が配合されてもよい。上記基材30表面に弾性層20を形成する方法としては、上記弾性層20の成分を分散した塗布液(弾性層20用の塗布液)をブレードコート法や、塗布液を溶剤で希釈し浸漬塗布する方法等を用いて基材30表面に塗布膜を形成した後、加熱硬化処理を施して形成する方法など、公知の方法を用いることができる。形成される弾性層の厚さは、前述の通り0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。
【0038】
得られた弾性べルト基材は、図5に示すように、弾性べルト基材25内に内型46を緊密に(即ち、径方向のがたつきが無い状態に)挿入し、内型46によって支持された状態とする。
【0039】
(2)フッ素樹脂チューブの準備
フッ素樹脂チューブとしては、いかなる方法により成形されたものも用いることができるが、特に連続的に長尺なチューブを得ることができるとの観点から、押出成形により得られたものを用いることが好ましい。
フッ素樹脂チューブの材質としては、耐熱性等の点よりテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)が好ましい。またその他、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の種々のフッ素樹脂を1種または複数種の組み合わせ等により用いることができる。
【0040】
上記フッ素樹脂チューブの厚みは100μm以下であるのが好ましく、また15μm以上であるのが好ましい。
尚、前述の通り、フッ素樹脂チューブとしては、弾性べルト基材の外径よりも小さな内径を有するものが好ましく、具体的なフッ素樹脂チューブの内径としては、弾性べルト基材の95%以上99%以下が好ましい。
また、フッ素樹脂チューブの幅(軸方向長さ)は、外型パイプ42の幅よりも長く設定することが好ましい。
【0041】
更に、上記第2の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法が、前記接着剤塗布工程を有する場合には、フッ素樹脂チューブの内周面は、ナトリウム−ナフタレン処理、液体アンモニア処理等の化学的な処理、またはエキシマレーザー処理、低温プラズマ処理等による物理的な処理により表面改質されていることが好ましい。
【0042】
(3)接着剤塗布工程
第2の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法においては、前述の通り被覆工程の前に、フッ素樹脂チューブの内周面および/または弾性べルト基材の外周面に接着剤を塗布する接着剤塗布工程を有することが好ましい。
接着剤としては、シリコーンシーラント接着剤等が挙げられ、具体例としては、信越シリコーン(株)製のシーラント40、シーラント45、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製のNo.051等が好適に使用することができる。接着剤は、スプレー塗布、ハケによる塗布、浸漬塗布等により薄く塗布することが有効である。
なお、接着剤を塗布した後は、該接着剤が半乾燥の状態でフッ素樹脂チューブを被覆することが好ましい。
【0043】
(4)被覆工程
まず、図3に示すように、上下両面が全面的に開放され、真空引き装置44が備えられた外型パイプ42を用意する。この外型パイプ42の内径は、上記で準備した弾性べルト基材の外径よりも大きく設定されており、具体的には101%以上105%以下であることが好ましい。また、外型パイプ42の幅(軸方向長さ)は、弾性べルト基材の幅よりも長く設定されている。
【0044】
このように構成された外型パイプ42内に、フッ素樹脂チューブ11を、その下端が外型パイプ42から下方に突出するように挿入し、図3に示すように、外型パイプ42の下部開口から下方に突出した部分を、径方向外方に径を拡張させながら、外型パイプ42の外周面に折り返すようにする。また、図3に示すように、今度は、フッ素樹脂チューブ11の、外型パイプ42の上部開口から上方に突出した部分を、径方向外方に径を拡張させながら、外型パイプ42の外周面に折り返すようにする。
【0045】
フッ素樹脂チューブ11の皺・捩れ等を修正した後、図4に示すように、真空引き装置44を起動して、フッ素樹脂チューブ11の径を外型パイプ42の内径にまで拡張する。
【0046】
その後、図5に示すように、径を拡張したフッ素樹脂チューブ11を外型パイプ42と共に、位置合わせの為の凸部48を備えた下蓋50Bに装着する。
【0047】
このフッ素樹脂チューブの内側に、図5に示すように、前記(1)において準備した弾性べルト基材25(内型46によって支持された弾性べルト基材25)を、位置合わせの為の凸部48に沿うように上方から挿入する。
尚、弾性べルト基材25の外周面および/またはフッ素樹脂チューブの内周面に、接着剤が塗布されている場合であっても、フッ素樹脂チューブ11は、弾性べルト基材25の外径よりも大きく径を拡張されているので、弾性べルト基材25は、問題なくフッ素樹脂チューブ11の内側に挿入される。
【0048】
このようにして弾性べルト基材25がフッ素樹脂チューブ11内側に挿入された後、図6に示すように、真空引き装置44の動作を停止する。これにより、フッ素樹脂チューブ11は、自身の弾性に基づいて径方向に収縮することとなり、即ち、弾性べルト基材25の外周にフッ素樹脂チューブ11が密着し被覆した状態となる。そこで、外型パイプ42の外周に折り返されたフッ素樹脂チューブの折返し部分を元に戻す(図6では上部開口から突出した部分を戻す)。
【0049】
(5)反転工程
上記被覆工程の後、図7に示すように、外型パイプ42の上端に上蓋50Aを嵌め込み、次いで図8に示すように、全体を反転させた後に下蓋50Bを取り外し、外型パイプ42の外周に折り返されたフッ素樹脂チューブ11の折返し部分を元に戻す。更に外型パイプ42を図8の矢印に示す方向に取り外す。
【0050】
(6)加熱工程
また、上記フッ素樹脂被覆ベルトの製造方法が、前記接着剤塗布工程を有する場合には、接着剤の加熱硬化を行う加熱工程を設けることが好ましい。該加熱工程は、内型46を引抜く前に行うことが好ましく、その場合耐熱性を有する内型46を用いることが好ましい。
上記加熱工程における加熱温度は、用いる接着剤によっても異なるものであるが、前記に列挙した接着剤を用いる場合であれば、100℃以上200℃以下にて加熱することが好ましく、更には120℃以上180℃以下がより好ましい。また加熱時間としては、通常30分以上180分以下が好ましい。尚、加熱手段としては、加熱槽、熱風乾燥機等が挙げられる。
【0051】
(7)延伸工程
第2の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法においては、上記のようにして得られたフッ素樹脂被覆ベルトの表面(離型層10の表面)に延伸処理を施す。延伸処理としては、離型層10表面に小領域(スポット)に高圧で液滴(例えば、水や、水とフィラーとの混合液等)を当てて延伸する方法が好ましく用いられる。例えば、図9に示されるように、まずフッ素樹脂被覆ベルト70を内型46と共に矢印Kの方向に回転させ、矢印Lの方向に移動する噴射ノズル82からフッ素樹脂被覆ベルト70表面に液滴84を噴射する。
【0052】
ここで、上記「小領域(スポット)」とは、直径50mm以下の領域であることを表し、更には上記スポットは30mm以下であることがより好ましく、10mm以下であることが特に好ましい。
【0053】
また、上記「高圧」とは、好ましくは0.05Mpa以上5Mpa以下であり、0.1Mpa以上1Mpa以下であることがより好ましい。
【0054】
離型層10表面に当てる液滴84としては、上述の通り、例えば水や、水とフィラーとの混合液が挙げられる。該フィラーとしては、酸化アルミニウム、酸化セリウム、メラミン樹脂粒子、ユリア樹脂粒子、その他の樹脂粒子、ガラスビーズ、等が挙げられ、これらの中でも、酸化アルミニウム、酸化セリウムが特に好ましく用いられる。
【0055】
尚、離型層10表面に液滴を当てる際、離型層10の表面が曇る(即ち、前記フィラーにより表面が摩耗されてしまう状態となる)場合には、離型層10の表面にビニールフィルムやビニール袋等の保護膜86を配置し、該保護膜86を介して延伸処理を行なってもよい。
【0056】
(8)引抜きおよび仕上げ工程
その後、内型46を弾性べルト基材25の内側から引抜き、フッ素樹脂被覆ベルトを得る。尚、内型46は、図10に示すように、シリコーンゴムやフッ素樹脂等の材質からなる薄片状のブレード52にてしごきながら引抜いてもよい。ブレード52によってしごきながら引抜くことにより、弾性層とチューブ間に残存している使用上問題とはならない微小な気泡もとり除くことができる。
【0057】
また、得られたフッ素樹脂被覆ベルトの仕上げ工程として、余分なフッ素樹脂チューブ11を切断する工程を、前記内型46を引き抜いた後に設けることができる。該仕上げ工程は、上記加熱工程の後に行うことが好ましい。
【0058】
上記のようにして、フッ素樹脂被覆ベルトを得ることができる。尚、第2の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法においては、上述した手順に限定されることなく、要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能であることは言うまでもない。
例えば、弾性べルト基材25にフッ素樹脂チューブ11を被覆する方法として、フッ素樹脂チューブ11を拡張させた後、フッ素樹脂チューブ11を弾性べルト基材25に覆い被せていくことも可能であるし、あるいは被覆前と被覆時とで段階的に拡張させて被覆させることも可能である。
【0059】
<定着装置および画像形成装置>
次いで、前記第1の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトを、画像定着装置における定着ベルトとして用いた第3の実施形態に係る画像形成装置について詳細に説明する。
図11は第3の実施形態が適用される画像形成装置を示した概略構成図である。図11に示す画像形成装置は、一般にタンデム型と呼ばれる中間転写方式の画像形成装置であって、電子写真方式により各色成分のトナー像が形成される複数の画像形成ユニット1Y,1M,1C,1K、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにより形成された各色成分トナー像を中間転写ベルト115に順次転写(一次転写)させる一次転写部110、中間転写ベルト115上に転写された重畳トナー画像を記録材(記録紙)である用紙Pに一括転写(二次転写)させる二次転写部120、二次転写された画像を用紙P上に定着させる画像定着装置160を備えている。また、各装置(各部)の動作を制御する制御部140を有している。
【0060】
第3の実施形態において、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、矢印A方向に回転する感光体ドラム111の周囲に、これらの感光体ドラム111を帯電する帯電器112、感光体ドラム111上に静電潜像を書込むレーザ露光器113(図中露光ビームを符号Bmで示す)、各色成分トナーが収容されて感光体ドラム111上の静電潜像をトナーにより可視像化する現像器114、感光体ドラム111上に形成された各色成分トナー像を一次転写部110にて中間転写ベルト115に転写する一次転写ロール116、感光体ドラム111上の残留トナーが除去されるドラムクリーナ117、などの電子写真用デバイスが順次配設されている。これらの画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、中間転写ベルト115の上流側から、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)の順に、直線状に配置されている。
【0061】
中間転写体である中間転写ベルト115は、ポリイミドあるいはポリアミド等の樹脂にカーボンブラック等の帯電防止剤を適当量含有させたフィルム状の無端ベルトで構成されている。そして、その体積抵抗率は10Ωcm以上1014Ωcm以下となるように形成されており、その厚みは例えば0.1mm程度に構成されている。中間転写ベルト115は、各種ロールによって図11に示すB方向に所定の速度で循環駆動されている。この各種ロールとしては、定速性に優れたモータ(図示せず)により駆動されて中間転写ベルト115を駆動させる駆動ロール131、各感光体ドラム111の配列方向に沿って直線状に延びる中間転写ベルト115を支持する支持ロール132、中間転写ベルト115に対して一定の張力を与えると共に中間転写ベルト115の蛇行を防止する補正ロールとして機能するテンションロール133、二次転写部120に設けられるバックアップロール125、中間転写ベルト115上の残留トナーを掻き取るクリーニング部に設けられるクリーニングバックアップロール134が配設されている。
【0062】
一次転写部110は、中間転写ベルト115を挟んで感光体ドラム111に対向して配置される一次転写ロール116で構成されている。一次転写ロール116は、シャフトと、シャフトの周囲に固着された弾性層としてのスポンジ層とで構成されている。シャフトは鉄、SUS等の金属で構成された円柱棒である。スポンジ層はカーボンブラック等の導電剤を配合したNBRとSBRとEPDMとのブレンドゴムで形成され、体積抵抗率が10Ωcm以上10Ωcm以下のスポンジ状の円筒ロールである。そして、一次転写ロール116は中間転写ベルト115を挟んで感光体ドラム111に圧接配置され、さらに一次転写ロール116にはトナーの帯電極性(マイナス極性とし、以下同じである。)と逆極性の電圧(一次転写バイアス)が印加されるようになっている。これにより、各々の感光体ドラム111上のトナー像が中間転写ベルト115に順次、静電吸引され、中間転写ベルト115上に重畳されたトナー像が形成されるようになっている。
【0063】
二次転写部120は、中間転写ベルト115のトナー像保持面側に配置される二次転写ロール122と、バックアップロール125とによって構成される。バックアップロール125は、表面がカーボンを分散したEPDMとNBRとのブレンドゴムのチューブ、内部がEPDMゴムで構成されている。そして、その表面抵抗率が10Ω/□以上1010Ω/□以下となるように形成され、硬度は例えば70°(アスカーC)に設定される。このバックアップロール125は、中間転写ベルト115の裏面側に配置されて二次転写ロール122の対向電極をなし、二次転写バイアスが安定的に印加される金属製の給電ロール126が接触配置されている。
【0064】
一方、二次転写ロール122は、シャフトと、シャフトの周囲に固着された弾性層としてのスポンジ層とで構成されている。シャフトは鉄、SUS等の金属で構成された円柱棒である。スポンジ層はカーボンブラック等の導電剤を配合したNBRとSBRとEPDMとのブレンドゴムで形成され、体積抵抗率が10Ωcm以上10Ωcm以下のスポンジ状の円筒ロールである。そして、二次転写ロール122は中間転写ベルト115を挟んでバックアップロール125に圧接配置され、さらに二次転写ロール122は接地されてバックアップロール125に挟持される領域に二次転写バイアスが形成され、二次転写部120に搬送される用紙P上にトナー像を二次転写する。
【0065】
また、中間転写ベルト115の二次転写部120の下流側には、二次転写後の中間転写ベルト115上の残留トナーや紙粉を除去し、中間転写ベルト115の表面をクリーニングする中間転写ベルトクリーナ135が接離自在に設けられている。一方、イエローの画像形成ユニット1Yの上流側には、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにおける画像形成タイミングをとるための基準となる基準信号を発生する基準センサ(ホームポジションセンサ)142が配設されている。また、黒の画像形成ユニット1Kの下流側には、画質調整を行うための画像濃度センサ143が配設されている。この基準センサ142は、中間転写ベルト115の裏側に設けられた所定のマークを認識して基準信号を発生しており、この基準信号の認識に基づく制御部140からの指示により、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは画像形成を開始するように構成されている。
【0066】
さらに、第3の実施形態の画像形成装置では、用紙搬送系として、用紙Pを収容する用紙供給部150、この用紙供給部150に集積された用紙Pを所定のタイミングで取り出して搬送するピックアップロール151、ピックアップロール151により繰り出された用紙Pを搬送する搬送ロール152、搬送ロール152により搬送された用紙Pを二次転写部120へと送り込む搬送部材153、二次転写ロール122により二次転写された後に搬送される用紙Pを画像定着装置160へと搬送する搬送ベルト155、用紙Pを画像定着装置160に導く定着入口ガイド156を備えている。
【0067】
次に、第3の実施形態に係る画像形成装置の基本的な作像プロセスについて説明する。図11に示す画像形成装置では、図示しない画像読取装置や図示しないパーソナルコンピュータ(PC)等から出力される画像データは、図示しない画像処理装置により所定の画像処理が施された後、画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kによって作像作業が実行される。画像処理装置では、入力された反射率データに対して、シェーディング補正、位置ズレ補正、明度/色空間変換、ガンマ補正、枠消しや色編集、移動編集等の各種画像編集等の所定の画像処理が施される。画像処理が施された画像データは、Y、M、C、Kの4色の色材階調データに変換され、レーザ露光器113に出力される。
【0068】
レーザ露光器113では、入力された色材階調データに応じて、例えば半導体レーザから出射された露光ビームBmを画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの各々の感光体ドラム111に照射している。画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの各感光体ドラム111では、帯電器112によって表面が帯電された後、このレーザ露光器113によって表面が走査露光され、静電潜像が形成される。形成された静電潜像は、各々の画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの現像器114によって、Y、M、C、Kの各色のトナー像として現像される。
【0069】
画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの感光体ドラム111上に形成されたトナー像は、各感光体ドラム111と中間転写ベルト115とが接触する一次転写部110において、中間転写ベルト115上に転写される。より具体的には、一次転写部110において、一次転写ロール116により中間転写ベルト115の基材に対しトナーの帯電極性と逆極性(プラス極性)の電圧(一次転写バイアス)が付加され、トナー像を中間転写ベルト115の表面に順次重ね合わせて一次転写が行われる。
【0070】
トナー像が中間転写ベルト115の表面に順次一次転写された後、中間転写ベルト115は移動してトナー像が二次転写部120に搬送される。トナー像が二次転写部120に搬送されると、用紙搬送系では、トナー像が二次転写部120に搬送されるタイミングに合わせてピックアップロール151が回転し、用紙供給部150から所定サイズの用紙Pが供給される。ピックアップロール151により供給された用紙Pは、搬送ロール152により搬送され、搬送部材153を経て二次転写部120に到達する。この二次転写部120に到達する前に、用紙Pは一旦停止され、トナー像が保持された中間転写ベルト115の移動タイミングに合わせてレジストロール(図示せず)が回転することで、用紙Pの位置とトナー像の位置との位置合わせがなされる。
【0071】
二次転写部120では、中間転写ベルト115を介して、二次転写ロール122がバックアップロール125に押圧される。このとき、タイミングを合わせて搬送された用紙Pは、中間転写ベルト115と二次転写ロール122とに挟み込まれる。その際に、給電ロール126からトナーの帯電極性と同極性(マイナス極性)の電圧(二次転写バイアス)が印加されると、二次転写ロール122とバックアップロール125とで挟まれる領域に転写電界が形成される。そして、中間転写ベルト115上に保持された未定着トナー像は、二次転写ロール122とバックアップロール125とによって押圧される二次転写部120において、用紙P上に一括して静電転写される。
【0072】
その後、トナー像が静電転写された用紙Pは、二次転写ロール122によって中間転写ベルト115から剥離された状態でそのまま搬送され、二次転写ロール122の用紙搬送方向下流側に設けられた搬送ベルト155へと搬送される。搬送ベルト155では、画像定着装置160における搬送速度に合わせて、用紙Pを最適な搬送速度で画像定着装置160まで搬送する。画像定着装置160に搬送された用紙P上の未定着トナー像は、画像定着装置160によって熱および圧力による定着処理を受けることで用紙P上に定着される。そして定着画像が形成された用紙Pは、画像形成装置の排出部に設けられた排紙部(不図示)に搬送される。
一方、用紙Pへの転写が終了した後、中間転写ベルト115上に残った残留トナーは、中間転写ベルト115の駆動に伴って搬送され、クリーニングバックアップロール134および中間転写ベルトクリーナ135によって中間転写ベルト115上から除去される。
【0073】
次に、第3の実施形態の画像形成装置に用いられる画像定着装置160について説明する。
図12は第3の実施形態における画像定着装置160の概略構成を示す側断面図である。この画像定着装置160は、加熱部材の一例としての定着ベルトモジュール161と、定着ベルトモジュール161に対して圧接して配置された加圧部材の一例としての加圧ロール162とで主要部が構成されている。
定着ベルトモジュール161は、ベルト部材の一例としての定着ベルト610、定着ベルト610を張架しながら回転駆動する定着ロール611、内側から定着ベルト610を張架する張架ロール612、外側から定着ベルト610を張架する張架ロール613、定着ロール611と張架ロール612とに挟まれる領域で定着ベルト610の姿勢を矯正する姿勢矯正ロール614により主要部が構成されている。
【0074】
定着ベルト610は、周長314mm、幅340mmのフレキシブルなエンドレスベルトであって、厚さ80μmのポリイミド樹脂で形成された基材と、基材の表面側(外周面側)に積層された厚さ200μmのシリコーンゴムからなる弾性層と、さらに弾性層の上に、離型層として厚さ30μmのテトラフルオロエチレン−ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)チューブで形成された離型層とからなる多層構造で構成された、前述の第1の実施形態にかかるフッ素樹脂被覆ベルトが用いられている。
【0075】
定着ロール611は、外径65mm、長さ360mm、厚さ10mmのアルミニウムで形成された円筒状ロールである。そして定着ロール611は、図示しない駆動モータからの駆動力を受けて、300mm/sの表面速度で矢印C方向に回転する。
また、定着ロール611の内部には、加熱源として定格900Wのハロゲンヒータ616aが配設され、定着ロール611の表面に接触するように配置された温度センサ617aの計測値に基づき、画像形成装置の制御部40(図11参照)が定着ロール611の表面温度を150℃に制御している。
【0076】
張架ロール612は、外径30mm、肉厚2mm、長さ360mmのアルミニウムで形成された円筒状ロールである。そして、張架ロール612の内部には加熱源として定格1000Wのハロゲンヒータ616bが配設されており、温度センサ617bと制御部40(図11参照)とによって、張架ロール612の表面温度が190℃に制御されている。したがって、張架ロール612は、定着ベルト610を張架する機能とともに、定着ベルト610を加熱する機能をも併せ持っている。
また、張架ロール612の両端部には定着ベルト610を外側に押圧するバネ部材(不図示)が配設され、定着ベルト610全体の張力を15kgfに設定している。その際に、定着ベルト610の張力を幅方向に亘って均一にするとともに、定着ベルト610の軸方向の変位をできる限り小さく抑えるため、張架ロール612は、外径が端部よりも中央部のほうを100μmだけ大きくした所謂クラウン形状で形成されている。
【0077】
張架ロール613は、外径25mm、肉厚2mm、長さ360mmのアルミニウムで形成された円筒状ロールである。また、張架ロール613の表面には厚さ20μmのPFAが被覆されて離型層が形成されている。この離型層は、定着ベルト610の外周面からのオフセットトナーや紙粉が張架ロール613に堆積するのを防止するために形成されるものである。また、張架ロール613も張架ロール612のように、外径が端部よりも中央部の方を100μmだけ大きくしたクラウン形状で形成されている。なお、張架ロール612と張架ロール613の双方をクラウン形状で形成する場合のみならず、張架ロール612または張架ロール613のいずれか一方のみをクラウン形状で形成してもよい。
張架ロール613の内部には、加熱源としての定格1000Wのハロゲンヒータ616cが配設されており、温度センサ617cと制御部40(図11参照)とによって表面温度が190℃に制御されている。したがって、張架ロール613は、定着ベルト610を張架する機能とともに、定着ベルト610を外表面から加熱する機能をも併せ持っている。したがって、第3の実施形態では、定着ロール611と張架ロール612および張架ロール613とによって定着ベルト610が加熱される構成を採用している。
【0078】
姿勢矯正ロール614は、外径15mm、長さ360mmのアルミニウムで形成された円柱状ロールである。姿勢矯正ロール614の近傍には、定着ベルト610のエッジ位置を検知するベルトエッジ位置検知機構(不図示)が配置されている。そして、姿勢矯正ロール614は、ベルトエッジ位置検知機構の検知結果に応じて定着ベルト610の軸方向における接触位置を変位させる軸変位機構が配設され、定着ベルト610の蛇行(ベルトウォーク)を制御するように構成されている。
【0079】
次に、加圧ロール162は、直径45mm、長さ360mmのアルミニウムからなる円柱状ロール621を基体として、基体側から順に、ゴム硬度30°(JIS−A)のシリコーンゴムからなる厚さ10mmの弾性層622と、膜厚100μmのPFAチューブからなる離型層623とが積層されて構成されている。そして、加圧ロール162は、定着ベルトモジュール161に押圧されるように設置され、定着ベルトモジュール161の定着ロール611が矢印C方向へ回転するのに伴い、定着ロール611に従動して矢印E方向に駆動する。その進行速度は、定着ロール611の表面速度と同じ300mm/sである。
【0080】
続いて、定着ベルトモジュール161と加圧ロール162とが圧接された押圧部Nについて説明する。
定着ベルトモジュール161と加圧ロール162とが圧接された押圧部Nには、定着ベルト610が定着ロール611に巻き付けられた(ラップされた)領域(ラップ領域)内において、加圧ロール162が定着ベルト610の外周面に圧接するように配置されることにより、ロール押圧部Nが形成されている。
【0081】
ここで、第3の実施形態の画像定着装置160では、上述したように定着ロール611がアルミニウムで形成されたハードロールで構成され、加圧ロール162が弾性層622を被覆されたソフトロールで構成されている。
なお、第3の実施形態の画像定着装置160では、ロール押圧部Nは定着ベルト610の進行方向に沿って15mmの幅に設定されている。
【0082】
次に、第3の実施形態の画像定着装置160における定着動作について説明する。
画像形成装置の二次転写部120(図11参照)において未定着トナー像が静電転写された用紙Pは、搬送ベルト155および定着入口ガイド156により、画像定着装置160の押圧部Nに向けて(図12参照:矢印F方向)搬送されてくる。そして、押圧部Nを通過する用紙P表面の未定着トナー像は、ロール押圧部Nに作用する圧力と熱とにより用紙Pに定着される。
【0083】
このとき、第3の実施形態の画像定着装置160では、押圧部Nに作用する熱は、主として定着ベルト610によって供給される。定着ベルト610は、定着ロール611の内部に配置されたハロゲンヒータ616aから定着ロール611を通じて供給される熱と、張架ロール612の内部に配置されたハロゲンヒータ616bから張架ロール612を通じて供給される熱と、張架ロール613の内部に配置されたハロゲンヒータ616cから張架ロール613を通じて供給される熱とによって加熱されるように構成されている。
【0084】
そして、定着ベルト610から分離された用紙Pは、排紙ガイド165および排紙ロール166によって機外に排出されて、定着処理が完了する。
【実施例】
【0085】
以下、実施例および比較例を示して、具体的に説明する。但し、特にこれらに限定されるものではない。
【0086】
<比較例1>
まず、基材として、厚さ80μm、外径168mmのポリイミドベルトを準備した。次いで、上記基材上に、Siゴム(東レ・ダウコーニング社製:CF9379)を溶剤(酢酸ブチル)にて85質量%に希釈し、ブレードコート法により、乾燥膜厚が0.15mmの厚さとなるようコートし、加熱硬化を行って弾性層を形成した
【0087】
次いで、厚さ20μm、内径165mmのPFAチューブを押出成形法により形成し、その内面に、接着剤(東レ・ダウコーニング社製:015)を、スプレー塗布した。前述の第2の実施形態に記載の方法に基づき、弾性層を形成した基材に、PFAチューブを被覆して離型層を形成し、比較例1に係るフッ素樹脂被覆ベルト(1A)を得た。
【0088】
−ダイナミック微小硬度の測定−
前述の方法により、フッ素樹脂被覆ベルト(1A)のダイナミック微小硬度を測定した。結果を表1に示す。
【0089】
−反りかえり試験−
図2(A)に示すように、フッ素樹脂被覆ベルト(1A)から、周方向を長辺とした50mm×25mmの長方形の試験片(厚みはフッ素樹脂被覆ベルト厚みに等しい試験片)72を切り出し、該試験片72を外周面側を上にして平板74上に配置し、その際の反りかえりの状態が、下記(b)〜(d)の何れに該当するかを観察した。結果を表1に示す。
(b)ベルト外周面側に反りかえる(図2(B)に示す状態)
(c)反りかえりがない(図2(C)に示す状態)
(d)ベルト内周面側に反りかえる(図2(D)に示す状態)
【0090】
−梨地画質の評価−
上記フッ素樹脂被覆ベルト(1A)を、図11に示される画像形成装置(富士ゼロックス社製の商品名:Color DocuTech 60の定着装置を図12に示す定着装置に改造した画像形成装置、記録媒体の搬送速度250mm/秒)における画像定着装置の定着ベルトとして装着し、画出し評価を行った。評価は目視にて判定し、下記判定基準に則して行った。尚、グレード1または2が、使用可能レベルである。
1:梨地画質なし
2:斜めグロス画像で僅かに梨地画質が認識される。
3:斜めグロス画像で梨地画質が確認される。
4:正面視野で梨地画質が確認される。
5:正面視野で顕著に梨地画質が確認される。
【0091】
<比較例2〜4>
基材、弾性層および離型層の厚さを、それぞれ下記表1に示すごとく変更した以外は、上記比較例1に記載の方法により、比較例2,3および4に係るフッ素樹脂被覆ベルト(1B),(1C)および(1D)を得、各種測定および梨地画質の評価を行った。
【0092】
【表1】



【0093】
<実施例1〜4>
前記比較例1〜4にて作製したフッ素樹脂被覆ベルト(1A),(1B),(1C)および(1D)に、下記示す延伸処理を施して、実施例1〜4に係るフッ素樹脂被覆ベルト(2A),(2B),(2C)および(2D)を得、各種測定および梨地画質の評価を行った。
【0094】
[延伸処理]
延伸処理装置として、不二精機製造所製の商品名:液体ホーニング装置 型式:L5−12−Sを用い、液滴として酸化アルミニウムと水との混合液を準備した。圧力およびスポット径を下記表2に記載のとおり設定し、離型層表面に液滴を当てて延伸処理を施した。
【0095】
【表2】



【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】第1の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの一態様を示す模式斜視図である。
【図2】(A)は反りかえり試験における試験片の切り出しを表す概略図であり、(B)、(C)および(D)は試験片を平面上に配置した際の反りかえりの状態を表す概略図である。
【図3】第2の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法において、フッ素樹脂チューブを外型パイプに挿入した状態を示す模式断面図である。
【図4】第2の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法において、フッ素樹脂チューブの径を拡張した状態を示す模式断面図である。
【図5】第2の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法において、弾性べルト基材を、フッ素樹脂チューブ内に挿入する状態を示す模式断面図である。
【図6】第2の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法において、フッ素樹脂チューブの径の拡張を解き、弾性べルト基材に密着させる状態を示す模式断面図である。
【図7】第2の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法において、上蓋を設置した状態を示す模式断面図である。
【図8】第2の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法において、全体を反転させ、下蓋および外型パイプを取り外す状態を示す模式断面図である。
【図9】延伸処理の処理方法を表す概略図である。
【図10】第2の実施形態に係るフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法において、ブレードでしごきながら内型を引抜く状態を示す模式断面図である。
【図11】第3の実施形態に係る画像形成装置の構成例を示す模式断面図である。
【図12】図11に示す画像定着装置を拡大して示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0097】
1Y,1M,1C,1K 画像形成ユニット
10 離型層
11 フッ素樹脂チューブ
20 弾性層
25 弾性べルト基材
30 基材
42 外型パイプ
44 真空引き装置
46 内型
48 凸部
50A 上蓋
50B 下蓋
52 ブレード
70 フッ素樹脂被覆ベルト
72 試験片
74 平板
82 噴射ノズル
84 液滴
86 保護膜
115 中間転写ベルト
160 定着装置
161 定着ベルトモジュール
162 加圧ロール
610 定着ベルト
611 定着ロール
612,613 張架ロール
616a,616b,616c ハロゲンヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、弾性層と、フッ素樹脂製の環状体からなる離型層と、をこの順に設けてなり、
前記離型層を形成した側の表面のダイナミック微小硬度が1.00以下であることを特徴とするフッ素樹脂被覆ベルト。
【請求項2】
前記ダイナミック微小硬度が0.5以下であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素樹脂被覆ベルト。
【請求項3】
周方向を長辺とした50mm×25mmの長方形の試験片を切り出し、該試験片を平面上に配置した際の反りかえりの状態が下記(c)または(d)の状態であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフッ素樹脂被覆ベルト。
(c)反りかえりがない
(d)ベルト内周面側に反りかえる
【請求項4】
前記弾性層の厚さが0.1mm以上0.5mm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のフッ素樹脂被覆ベルト。
【請求項5】
基材の上に弾性層を形成する弾性層形成工程と、
前記弾性層の上にフッ素樹脂製の環状体を被覆して離型層を形成するフッ素樹脂被覆工程と、
前記離型層に延伸処理を施す延伸工程と、を有することを特徴とするフッ素樹脂被覆ベルトの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のフッ素樹脂被覆ベルトと、
該フッ素樹脂被覆ベルトに対向して配設された加圧回転体と、を有することを特徴とする画像定着装置。
【請求項7】
像保持体と、該像保持体の表面にトナー像を形成するトナー像形成手段と、前記トナー像を記録媒体に転写させる転写手段と、請求項6に記載の画像定着装置を用い、転写された前記トナー像を記録媒体に定着させる定着手段と、を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−116273(P2009−116273A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292291(P2007−292291)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】