説明

フュージョン成形可能なナトリウム不含有ガラス

フュージョン成形可能な、高歪み点のナトリウム不含有のケイ酸塩、アルミノケイ酸塩およびアルミノホウケイ酸塩ガラスの組成範囲がここに記載されている。このガラスは、光起電装置、例えば、CIGS光起電装置などの薄膜光起電装置のための基体として使用できる。これらのガラスは、540℃以上の歪み点、6.5から10.5ppm/℃の熱膨張係数、並びに50,000ポアズ超の液相線粘度を有するものとして特徴付けられる。それゆえ、そのガラスは、フュージョン法により板に成形するのに理想的に適している。

【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、2009年5月29日に出願された米国仮特許出願第61/182404号および2010年5月27日に出願された米国特許出願第12/788763号への優先権の利益を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
実施の形態は、広く、ナトリウム不含有ガラスに関し、より詳しくは、フォトクロミック、エレクトロクロミック、有機発光ダイオード(OLED)照明、または光起電用途、例えば、薄膜太陽光発電装置に有用であろうフュージョン成形可能なナトリウム不含有ガラスに関する。
【背景技術】
【0003】
フュージョン成形法により、典型的に、多くの電子機器用途に有用な最適な表面特徴と幾何学的特徴を有する平らなガラス、例えば、電子機器用途に使用される基板、例えば、LCDテレビのディスプレイ用ガラスが製造されている。
【0004】
過去10年に亘り、コーニング(Corning)のフュージョンガラス製品としては、1737F(商標)、1737G(商標)、Eagle2000F(商標)、EagleXG(商標)、Jade(商標)、およびコード1317および2317(Gorilla Glass(商標))が挙げられる。効率的な溶融は、約200ポアズ(p)の溶融粘度に対応する温度で行われると一般に考えられている。これらのガラスは、1600℃超の200p温度を共有し、このことは、タンクと電極の加速した腐食、さらに高温の清澄器温度による清澄のより重大な難題、および/または特に清澄器の周りの、白金システムの減少した寿命につながる。多くのガラスは、3000ポアズで約1300℃超の温度を有し、これは、光スターラ(optical stirrer)にとって典型的な粘度であるので、この粘度での高温のために、スターラの過剰な磨耗およびガラス塊内の上昇したレベルの白金欠陥がもたらされ得る。
【0005】
上述したガラスの多くは、1200℃超の吐出し温度を有し、これは、特に大きい板サイズにとって、アイソパイプの耐火材料のクリープに寄与し得る。
【0006】
これらの属性は、流動を制限し(遅い溶融速度のために)、資産の劣化を加速させ、製品の寿命よりずっと短い時間スケールで再構築を強い、欠陥の除去に対する許容できない(ヒ素)、高価な(カプセル)または非現実的な(真空清澄)解決策を強いるように組み合わさり、それゆえ、ガラスの製造コストに多大に寄与する。
【0007】
どちらかと言えば厚く、比較的低コストの、それほど極端ではない性質を有するガラスが要求される用途において、これらのガラスは、行き過ぎであるだけでなく、製造するのがひどく高くつく。このことは、競合材料が、どちらかと言えば従来の性質を有する低コストのガラスを製造するのに非常に優れたプロセスであるフロート法により製造される場合に特に当てはまる。大面積の光起電パネルおよびOLED照明などのコストに敏感な用途において、このコスト差は、LCDタイプのガラスの売れる価格が容認できなくなるほど大きい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そのようなコストを減少させるために、最大の全体的な寄与因子(仕上げを除く)を引き下げることが都合よく、これらの多くは、溶融および成形プロセスに使用される温度に直接関連する。したがって、上述したガラスよりも低い温度で溶融するガラスが必要とされている。
【0009】
さらに、低温用途、例えば、光起電用途およびOLED照明用途に有用なガラスを有することが都合よいであろう。さらに、ガラスの製造が、これらの用途が節約することを目的としているエネルギーを過剰に消費しないほど、その加工温度が十分に低いガラスを有することが都合よいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
例えば、薄膜太陽光発電用途に有用な、フュージョン成形可能な高歪み点のナトリウム不含有ケイ酸塩、アルミノケイ酸塩およびアルミノホウケイ酸塩ガラスのある組成範囲がここに記載されている。より詳しくは、これらのガラスは、電池の効率を最適化するのに必要なナトリウムを、基板ガラスからではなく、代わりに、NaFなどのナトリウム含有材料からなる別の堆積層から引き出すべきである二セレン化銅インジウムガリウム(CIGS)光起電モジュールに使用すべき都合よい材料である。現行のCIGSモジュール基板は、典型的に、フロート法により製造されてきたソーダ石灰ガラス板から製造される。しかしながら、歪み点のより高いガラス基板を使用することにより、より高温のCIGS加工が可能になり、これは、電池効率において望ましい改善をもたらすと期待されている。さらに、フュージョン成形されたガラス板のより滑らかな表面により、改善された膜接着などの追加の利点が生じるであろう。
【0011】
したがって、ここに記載されたナトリウム不含有ガラスは、ソーダ石灰ガラスに対する利点および/またはフュージョン法による製造を可能にするように30,000ポアズ以上の液相線粘度を提供するように、540℃以上、例えば、560℃以上の歪み点により特徴付けられる。基板とCIGS層との間の熱膨張の不一致を避けるために、本発明のガラスは、6.5から10.5ppm/℃の範囲にある熱膨張係数によりさらに特徴付けられる。
【0012】
ある実施の形態は、質量パーセントで、
35から75パーセントのSiO2
0から15パーセントのAl23
0から20パーセントのB23
3から30パーセントのK2O、
0から15パーセントのMgO、
0から10パーセントのCaO、
0から12パーセントのSrO、
0から40パーセントのBaO、および
0から1パーセントのSnO2
を含むガラスであって、Na2Oを実質的に含まないガラスである。
【0013】
別の実施の形態において、前記ガラスは、質量パーセントで、
35から75パーセントのSiO2
0超から15パーセントのAl23
0超から20パーセントのB23
3から30パーセントのK2O、
0超から15パーセントのMgO、
0超から10パーセントのCaO、
0超から12パーセントのSrO、
0超から40パーセントのBaO、および
0超から1パーセントのSnO2
を含み、Na2Oを実質的に含まない。
【0014】
別の実施の形態において、前記ガラスは、質量パーセントで、
39から75パーセントのSiO2
2から13パーセントのAl23
1から11パーセントのB23
3から30パーセントのK2O、
0から7パーセントのMgO、
0から10パーセントのCaO、
0から12パーセントのSrO、
0から40パーセントのBaO、および
0から1パーセントのSnO2
を含み、Na2Oを実質的に含まない。
【0015】
別の実施の形態において、前記ガラスは、質量パーセントで、
50から70パーセントのSiO2
2から13パーセントのAl23
1から11パーセントのB23
3から30パーセントのK2O、
0から7パーセントのMgO、
0から7パーセントのCaO、
0から5パーセントのSrO、
1から40パーセントのBaO、および
0から0.3パーセントのSnO2
を含み、Na2Oを実質的に含まない。
【0016】
別の実施の形態は、質量パーセントで、
35から75パーセントのSiO2
0から15パーセントのAl23
0から20パーセントのB23
3から30パーセントのK2O、
0から15パーセントのMgO、
0から10パーセントのCaO、
0から12パーセントのSrO、
0から40パーセントのBaO、および
0から1パーセントのSnO2
から実質的になるガラスであって、Na2Oを実質的に含まないガラスである。
【0017】
別の実施の形態は、質量パーセントで、
45から75パーセントのSiO2
3から15パーセントのAl23
0から20パーセントのB23
14から25パーセントのK2O、
0から15パーセントのMgO、
0から10パーセントのCaO、
0から12パーセントのSrO、
0から40パーセントのBaO、および
0から1パーセントのSnO2
を含むガラスであって、Na2Oを実質的に含まず、フュージョン成形可能であり、540℃以上の歪み点、50×10-7以上の熱膨張係数、1630℃未満のT200、および150,000ポアズ以上の液相線粘度を有するガラスである。
【0018】
追加の特徴および利点は、以下の詳細な説明に述べられており、一部は、その説明から当業者には容易に明白であるか、またはその説明および特許請求の範囲に記載されたように本発明を実施することによって、認識されるであろう。
【0019】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方とも、本発明の単なる例示であり、特許請求の範囲に記載された本発明の性質および特徴を理解するための概要または骨子を提供することが意図されているのが理解されよう。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ここで、本発明の様々な実施の形態を詳しく参照する。
【0021】
ここに用いたように、「基板」という用語は、光電池の構成に応じて、基板(substrate)または表板(superstrate)いずれを述べるためにも使用して差し支えない。例えば、基板は、光電池に組み込まれたときに、光電池の光入射側にある場合に、表板である。この表板は、太陽のスペクトルの適切な波長の透過を可能にしながら、衝撃および環境劣化から光起電材料を保護することができる。さらに、多数の光電池を光起電モジュールへと配列しても差し支えない。光起電装置は、電池、モジュール、またはその両方のいずれも述べることができる。
【0022】
ここに用いたように、「隣接する」という用語は、密接に近接すると定義できる。隣接した構造は、互いに物理的に接触していても、いなくてもよい。隣接した構造は、それらの間に配置された他の層および/または構造を有することもできる。
【0023】
ある実施の形態は、質量パーセントで、
35から75パーセントのSiO2
0から15パーセントのAl23
0から20パーセントのB23
3から30パーセントのK2O、
0から15パーセントのMgO、
0から10パーセントのCaO、
0から12パーセントのSrO、
0から40パーセントのBaO、および
0から1パーセントのSnO2
を含むガラスであって、Na2Oを実質的に含まないガラスである。
【0024】
別の実施の形態は、質量パーセントで、
45から75パーセントのSiO2
3から15パーセントのAl23
0から20パーセントのB23
14から25パーセントのK2O、
0から15パーセントのMgO、
0から10パーセントのCaO、
0から12パーセントのSrO、
0から40パーセントのBaO、および
0から1パーセントのSnO2
を含むガラスであって、Na2Oを実質的に含まず、フュージョン成形可能であり、540℃以上の歪み点、50×10-7以上の熱膨張係数、1630℃未満のT200、および150,000ポアズ以上の液相線粘度を有するガラスである。
【0025】
別の実施の形態において、前記ガラスは、質量パーセントで、
45から75パーセントのSiO2
3から15パーセントのAl23
0から20パーセントのB23
14から25パーセントのK2O、
0から15パーセントのMgO、
0から10パーセントのCaO、
0から12パーセントのSrO、
0から40パーセントのBaO、および
0から1パーセントのSnO2
から実質的になり、Na2Oを実質的に含まず、フュージョン成形可能であり、540℃以上の歪み点、50×10-7以上の熱膨張係数、1630℃未満のT200、および150,000ポアズ以上の液相線粘度を有する。
【0026】
前記ガラスは、Na2Oを実質的に含まず、例えば、Na2Oの含有量は0.05質量パーセント以下、例えば、ゼロ質量パーセントであって差し支えない。このガラスは、いくつかの実施の形態によれば、意図的に添加されるナトリウムを含まない。
【0027】
いくつかの実施の形態において、前記ガラスは、3パーセント超のK2O、例えば、5パーセント超のK2O、10パーセント超のK2O、例えば、12パーセント超のK2O、例えば、13.5パーセント超のK2O、例えば、15パーセント超のK2Oを含む。
【0028】
前記ガラスはNa2Oを実質的に含まないので、いくつかの実施の形態において、Na2OとK2Oの組合せの質量パーセントは、3パーセント超、例えば、5パーセント超、例えば、10パーセント超、例えば、12パーセント超、例えば、13.5パーセント超、例えば、15パーセント超である。
【0029】
いくつかの実施の形態において、前記ガラスは、少なくとも45パーセントのSiO2、例えば、少なくとも50パーセントのSiO2、例えば、少なくとも60パーセントのSiO2を含む。
【0030】
前記ガラスは、ある実施の形態において、圧延可能である。前記ガラスは、ある実施の形態において、ダウンドロー可能である。前記ガラスは、例えば、スロットドローまたはフュージョンドローすることができる。別の実施の形態によれば、前記ガラスは、フロート成形することができる。
【0031】
前記ガラスは、さらに、3質量パーセント以下、例えば、0から3質量パーセント、例えば、0超から3質量パーセント、例えば、1から3質量パーセントのTiO2、MnO、ZnO、Nb25、MoO3、Ta25、WO3、ZrO2、Y23、La23、HfO2、CdO、SnO2、Fe23、CeO2、As23、Sb25、Cl、Br、またはそれらの組合せを含んで差し支えない。いくつかの実施の形態において、前記ガラスは、ZrO2を実質的に含まない。いくつかの実施の形態において、前記ガラスは、ZnOを実質的に含まない。前記ガラスは、ある実施の形態において、3質量パーセント以下、例えば、0から3質量パーセント、例えば、0超から3質量パーセント、例えば、1から3質量パーセントのTiO2を含む。
【0032】
上述したように、前記ガラスは、いくつかの実施の形態によれば、0質量パーセント超のB23、例えば、1質量パーセント以上、または例えば、0から11質量パーセント、例えば、0超から11質量パーセントのB23、例えば、0.5から11質量パーセントのB23、例えば、1から11質量パーセントのB23を含む。B23は、溶融温度を減少させ、液相線温度を減少させ、液相線粘度を増加させ、B23を含有しないガラスに対して機械的耐久性を改善するために、ガラスに添加される。
【0033】
いくかの実施の形態によれば、前記ガラスはB23を実質的に含まない。いくつかの実施の形態において、前記ガラスは、B23を実質的に含まず、少なくとも45パーセントのSiO2、例えば、少なくとも50パーセントのSiO2、例えば、少なくとも60パーセントのSiO2を含む。
【0034】
前記ガラスは、いくつかの実施の形態によれば、Rが、Mg、Ca、Ba、およびSrから洗濯されるアルカリ土類金属である、30質量パーセント以下の総RO、例えば、20質量パーセント以下の総RO、例えば、15質量パーセント以下の総RO、例えば、13.5質量パーセント以下の総ROを含む。
【0035】
前記ガラスは、例えば、0から15、0超から15質量パーセント、例えば、1から15質量パーセントのMgOを含んで差し支えない。前記ガラスは、例えば、0から7、0超から7質量パーセント、例えば、1から7質量パーセントのMgOを含んで差し支えない。MgOは、溶融温度を減少させ、歪み点を増大させるためにガラスに添加して差し支えない。MgOは、他のアルカリ土類酸化物(例えば、CaO、SrO、BaO)に対して不都合なほどCTEを低下させ得、それゆえ、CTEを所望の範囲内に維持するために、他の調節を行ってもよい。適切な調節の例としては、CaOを犠牲にしてSrOを増加させること、アルカリ酸化物の濃度を増加させること、およびより小さいアルカリ酸化物を一部、より大きいアルカリ酸化物と置き換えることが挙げられる。
【0036】
別の実施の形態によれば、前記ガラスは、BaOを実質的に含まない。例えば、BaOの含有量は、0.05質量パーセント以下、例えば、ゼロ質量パーセントであって差し支えない。
【0037】
いくつかの実施の形態において、前記ガラスは、Sb23、As23、またはそれらの組合せを実質的に含まず、例えば、前記ガラスは、0.05質量パーセント以下のSb23またはAs23もしくはそれらの組合せを含む。例えば、前記ガラスは、ゼロ質量パーセントのSb23またはAs23もしくはそれらの組合せを含んで差し支えない。
【0038】
前記ガラスは、いくつかの実施の形態において、0から10質量パーセントのCaO、例えば、0から7質量パーセントのCaO、または例えば、0超、例えば、1から10質量パーセントのCaO、例えば、1から7質量パーセントのCaOを含む。アルカリ酸化物またはSrOに対して、CaOは、より高い歪み点、より低い密度、およびより低い融点に寄与する。
【0039】
前記ガラスは、いくつかの実施の形態において、0から12質量パーセントのSrO、例えば、0超から12質量パーセント、例えば、1から12質量パーセントのSrO、または例えば、0から5質量パーセントのSrO、例えば、0超から5質量パーセント、例えば、1から5質量パーセントのSrOを含んで差し支えない。ある実施の形態において、前記ガラスは、故意に配合したSrOを含有しないが、もちろん、他のバッチ材料中の汚染物質として存在してもよい。SrOはより高い熱膨張係数に寄与し、SrOとCaOの相対比は、液相線温度、それゆえ、液相線粘度を改善するように操作して差し支えない。SrOは、歪み点を改善するためには、CaOやMgOほど効果的ではなく、これらの内のいずれをSrOで置き換えても、溶融温度が上昇する傾向にある。
【0040】
Kなどのアルカリ陽イオンは、CTEを急激に上昇させるが、歪み点を低下させ、どのように添加されたかに応じて、溶融温度を上昇させる。CTEに関して最も効果的ではないアルカリ酸化物はLi2Oであり、最も効果的なアルカリ酸化物はCs2Oである。
【0041】
別の実施の形態は、質量パーセントで、
35から75パーセントのSiO2
0から15パーセントのAl23
0から20パーセントのB23
3から30パーセントのK2O、
0から15パーセントのMgO、
0から10パーセントのCaO、
0から12パーセントのSrO、
0から40パーセントのBaO、および
0から1パーセントのSnO2
から実質的になるガラスであって、Na2Oを実質的に含まないガラスである。
【0042】
前記ガラスは、いくつかの実施の形態によれば、ダウンドロー可能である。すなわち、そのガラスは、以下に限られないが、ガラス製造業界における当業者に公知のフュージョンドローおよびスロットドローなどのダウンドロー法を使用して板に成形することができる。そのようなダウンドロー法は、イオン交換可能な平らなガラスの大規模製造に使用されている。
【0043】
フュージョンドロー法では、溶融ガラス原材料を受け取るための通路を有するドロータンクが使用される。この通路は、通路の両側に通路の長手方向に沿って上部で開いた堰を有する。通路が溶融ガラスで満たされたときに、溶融ガラスは堰を溢れ出る。重力のために、溶融ガラスはドロータンクの外面を流下する。これらの外面は、ドロータンクの下の縁で接合するように下方と内方に延在している。2つの流れているガラス表面は、この縁で接合して、融合し、1つの流れる板を形成する。このフュージョンドロー法は、通路を越えて流れる2つのガラス膜が一緒に融合するので、その結果として得られるガラス板のどの外面も、装置のどの部分とも接触しないという利点を提示する。それゆえ、表面の性質は、そのような接触により影響を受けない。
【0044】
スロットドロー法は、フュージョンドロー法とは異なる。ここで、溶融ガラス原材料はドロータンクに供給される。ドロータンクの底部には、長手方向に延在するノズルを備えた開放スロットがある。溶融ガラスは、スロット/ノズルを通じて流れ、そこを通る連続板としてアニール領域へと下方に引っ張られる。フュージョンドロー法と比べると、スロットドロー法では、フュージョンダウンドロー法におけるように2つの板が一緒に融合されるのではなく、たった1つの板がスロットを通じて引っ張られるので、より薄い板が提供される。
【0045】
ダウンドロー法に適合するために、ここに記載されたガラスは、高い液相線粘度を有する。ある実施の形態において、前記ガラスは、150,000ポアズ以上、例えば、200,000ポアズ以上、例えば、250,000ポアズ以上、例えば、300,000ポアズ以上、例えば、350,000ポアズ以上、例えば、400,000ポアズ以上、例えば、500,000ポアズ以上の液相線粘度を有する。いくつかの例示のガラスの液相線粘度は、液相線温度と軟化点との間の差に密接に相関する。ダウンドロー法について、いくつかの例示のガラスは、約230℃未満、例えば、200℃未満の液相線−軟化点を都合よく有する。
【0046】
したがって、ある実施の形態において、前記ガラスは、540℃以上、例えば、550℃以上、例えば、560℃以上、または例えば、540℃から650℃の歪み点を有する。いくつかの実施の形態において、前記ガラスは、50×10-7以上、例えば、60×10-7以上、例えば、70×10-7以上、例えば、80×10-7以上の熱膨張係数を有する。ある実施の形態において、前記ガラスは、50×10-7から90×10-7の熱膨張係数を有する。
【0047】
ある実施の形態において、前記ガラスは、50×10-7以上の熱膨張係数および540℃以上の歪み点を有する。ある実施の形態において、前記ガラスは、50×10-7以上の熱膨張係数および560℃以上の歪み点を有する。
【0048】
ある実施の形態によれば、前記ガラスは、1種類以上のアルカンイオンの塩を含む塩浴中でイオン交換される。このガラスは、その機械的性質を変えるためにイオン交換しても差し支えない。例えば、リチウムなどのより小さいアルカリイオンを、カリウム、ルビジウムまたはセシウムなどのより大きいアルカリイオンを1種類以上含有する溶融浴中でイオン交換することができる。十分な時間に亘り歪み点よりもずっと低い温度で行われれば、より大きいアルカリが塩浴からガラス表面中に移動し、より小さいイオンがガラスの内部から塩浴中に移動させられる拡散プロファイルが形成されるであろう。サンプルを取り出したときに、表面は圧縮下に置かれ、損傷に対して向上した靭性が生じる。そのような靭性は、ガラスが、雹に曝される太陽光発電グリッドのように、過酷な環境条件に曝露される場合に望ましいであろう。ガラス中に既にある大きいアルカリも、塩浴中のより小さいアルカリと交換され得る。このことが、歪み点に近い温度で行われ、かつガラスが取り出されて、その表面が急激に高温に再加熱され、急激に冷却されると、ガラスの表面は、熱焼戻しによって導入される著しい圧縮応力を示す。これも、過酷な環境条件に対する保護を提供する。銅、銀、タリウムなどを含むどの一価の陽イオンも、ガラス中に既にあるアルカリと交換され得、これらにより、照明のための色の導入、または光トラップのための高屈折率の層などの潜在価値の属性が最終用途に提供される。
【0049】
別の実施の形態によれば、前記ガラスは、ガラスのフロート成形の当該技術分野に公知のようにフロート成形することができる。
【0050】
ある実施の形態において、前記ガラスは板の形態にある。板の形態にあるガラスは熱により焼き戻しすることができる。
【0051】
ある実施の形態において、有機発光ダイオード装置が、板の形態にあるガラスを含む。
【0052】
前記ガラスは、ある実施の形態によれば、透明である。
【0053】
ある実施の形態において、光起電装置は、板の形態にあるガラスを含む。光起電装置は、例えば、基板および/または表板として、複数のガラス板を含む。ある実施の形態において、光起電装置は、基板および/または表板としてのガラス板、基板に隣接した導電性材料、および導電性材料に隣接した活性光起電媒体を含む。ある実施の形態において、活性光起電媒体はCIGS層を含む。ある実施の形態において、活性光起電媒体はテルル化カドミウム(CdTe)層を含む。ある実施の形態において、光起電装置は、二セレン化銅インジウムガリウムまたはテルル化カドミウムを含む機能層を含む。ある実施の形態において、機能層は二セレン化銅インジウムガリウムである。ある実施の形態において、機能層はテルル化カドミウムである。
【0054】
前記光起電装置は、ある実施の形態によれば、表板または基板および機能層の間にまたはそれに隣接して配置されたバリア層をさらに含む。ある実施の形態において、光起電装置は、表板または基板および透明導電性酸化物(TCO)層の間にまたはそれに隣接して配置されたバリア層をさらに含み、ここで、TCO層は、機能層およびバリア層の間にまたはそれに隣接して配置されている。TCOは、CdTe機能層を含む光起電装置に存在してもよい。ある実施の形態において、バリア層は、ガラス上に直接配置されている。
【0055】
ある実施の形態において、ガラス板は透明である。ある実施の形態において、基板および/または表板としてのガラス板は透明である。
【0056】
いくつかの実施の形態によれば、ガラス板は、4.0mm以下、例えば、3.5mm以下、例えば、3.2mm以下、例えば、3.0mm以下、例えば、2.5mm以下、例えば、2.0mm以下、例えば、1.9mm以下、例えば、1.8mm以下、例えば、1.5mm以下、例えば、1.1mm以下、例えば、0.5mmから2.0mm、例えば、0.5mmから1.1mm、例えば、0.7mmから1.1mmの厚さを有する。これらは例示の厚さであるが、ガラス板は、0.1mmから4.0mmまでの範囲の小数点以下の桁数を含むどの数値の厚さを有しても差し支えない。
【0057】
ある実施の形態において、エレクトロクロミック装置は、板の形態にあるガラスを含む。エレクトロクロミック装置は、例えば、エレクトロクロミック窓であり得る。ある実施の形態において、エレクトロクロミック窓は、1枚、二重、または三重ガラス窓におけるように1つ以上のガラス板を含む。
【0058】
本発明のフュージョン成形可能なガラスは、比較的高い歪み点のおかげで、重大な半導体層のより高温での加工を可能にできるので、CIGS光起電モジュールのための利点に恵まれた基板材料を提示する。フュージョン法より製造された場合、フロートガラスの表面品質に対して優れた表面品質のために、光起電モジュール製造プロセスにさらなる改善がもたらされるであろう。本発明の都合のよい実施の形態は、400,000ポアズ超の液相線粘度により特徴付けられ、それによって、あるモジュール製造業者により要求されるであろう比較的厚いガラス板の製造が可能になる。最後に、本発明の最も都合のよい実施の形態は、200ポアズ温度が1580℃未満であり、著しく低いコストの溶融/成形の可能性を提供するガラスを含む。
【実施例】
【0059】
以下は、表1に示されるような、本発明のある実施の形態による例示のガラスのサンプルをどのように製造するかの実施例である。この組成は、表5に示される組成番号22に相当する。
【表1】

【0060】
いくつかの実施の形態において、ある微量元素は無視できない濃度で存在するので、合計は100%にはならない。
【0061】
表2に示されるようなバッチ材料を秤量し、4リットルのプラスチック容器に加えた:
【表2】

【0062】
バッチにおいて、石灰石は、供給源に応じて、微量元素を含有してもおよび/または1種類以上の酸化物、例えば、MgOおよび/またはBaOの量を変動させても差し支えないことが認識されよう。砂は、少なくとも80質量%が60メッシュ、例えば、80メッシュ、例えば、100メッシュを通過するように選鉱されることが都合よい。この実施例において、添加されるSnO2は、他の成分との均質な混合を確実にするように、10質量%のレベルで砂と予め混合した。バッチ材料を収容するボトルをタンブラーに取り付け、そのバッチ材料を、均質なバッチ材料を製造し、軟らかい凝集塊を粉々にするように混合した。混合したバッチを1800ccの白金坩堝に移し、高温セラミック裏材料内に入れた。裏材料内の白金坩堝を、1600℃の温度で空運転しているグローバー炉に装填した。16時間後、坩堝+裏材料を取り出し、ガラス溶融物を鋼板などの冷たい表面上に注いで、パテを形成し、次いで、615℃の温度に保持されたアニーラに移した。ガラスパテを2時間に亘りアニーラの温度に保持し、次いで、毎分1℃の速度で室温まで冷却した。
【0063】
表3、表4、表5、表6、表7、表8、および表9は、本発明による、上述した実施例にしたがって製造された例示のガラスを示している。いくつかの例示のガラスの性質データも、表3、表4、表5、表6、表7、表8、および表9に示されている。
【0064】
表において、Tstr(℃)は、粘度が、ビーム曲げまたはファイバ伸張により測定して、1014.7Pと等しいときの温度である、歪み点である。Tann(℃)は、粘度が、ビーム曲げまたはファイバ伸張により測定して、1013.18Pと等しいときの温度である、アニール点である。Ts(℃)は、粘度が、ビーム曲げまたはファイバ伸張により測定して、107.6Pと等しいときの温度である、軟化点である。表におけるα(10-7/℃)またはa(10-7/℃)は、測定に応じて、0から300℃または25から300℃いずれかでの寸法変化の量である、熱膨張係数(CTE)である。CTEは、典型的に、膨脹計測により測定される。r(g/cc)は、アルキメデス法(ASTM C693)により測定される密度である。T200(℃)は200ポアズ(P)温度である。これは、溶融物の粘度が、同軸円筒形粘度測定法を使用するHTV(高温粘度)測定により測定して200Pである温度である。Tliq(℃)は液相線温度である。これは、最初の結晶が、標準勾配ボート液相線測定(ASTM C829−81)において観察される温度である。一般に、この試験は、72時間であるが、精度を犠牲にして、処理量を増加させるために24時間ほど短くても差し支えない(より短い試験は液相線温度を過小評価し得る)。ηliq(kP)は液相線粘度である。これは、液相線温度に相当する溶融物の粘度である。
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【0065】
本発明の精神または範囲から逸脱せずに、様々な改変および変更を本発明に行えることが当業者には明らかであろう。それゆえ、本発明は、本発明の改変および変更を、それらが添付の特許請求の範囲およびその同等物に含まれるという条件で、包含することが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量パーセントで、
35から75パーセントのSiO2
0から15パーセントのAl23
0から20パーセントのB23
3から30パーセントのK2O、
0から15パーセントのMgO、
0から10パーセントのCaO、
0から12パーセントのSrO、
0から40パーセントのBaO、および
0から1パーセントのSnO2
を含むガラスであって、Na2Oを実質的に含まないガラス。
【請求項2】
質量パーセントで、
35から75パーセントのSiO2
0超から15パーセントのAl23
0超から20パーセントのB23
3から30パーセントのK2O、
0超から15パーセントのMgO、
0超から10パーセントのCaO、
0超から12パーセントのSrO、
0超から40パーセントのBaO、および
0超から1パーセントのSnO2
を含み、Na2Oを実質的に含まないことを特徴とする請求項1記載のガラス。
【請求項3】
質量パーセントで、
39から75パーセントのSiO2
2から13パーセントのAl23
1から11パーセントのB23
3から30パーセントのK2O、
0から7パーセントのMgO、
0から10パーセントのCaO、
0から12パーセントのSrO、
0から40パーセントのBaO、および
0から1パーセントのSnO2
を含み、Na2Oを実質的に含まないことを特徴とする請求項1記載のガラス。
【請求項4】
質量パーセントで、
50から70パーセントのSiO2
2から13パーセントのAl23
1から11パーセントのB23
3から30パーセントのK2O、
0から7パーセントのMgO、
0から7パーセントのCaO、
0から5パーセントのSrO、
1から40パーセントのBaO、および
0から0.3パーセントのSnO2
を含み、Na2Oを実質的に含まないことを特徴とする請求項1記載のガラス。
【請求項5】
請求項1記載のガラスを含む光起電装置。
【請求項6】
基板または表板に隣接した、二セレン化銅インジウムガリウムまたはテルル化カドミウムを含む機能層を含むことを特徴とする請求項5記載の光起電装置。
【請求項7】
フュージョン成形可能であり、540℃以上の歪み点、50×10-7以上の熱膨張係数、1630℃未満のT200および150,000ポアズ以上の液相線粘度を有することを特徴とする請求項1記載のガラス。
【請求項8】
質量パーセントで、
35から75パーセントのSiO2
0から15パーセントのAl23
0から20パーセントのB23
3から30パーセントのK2O、
0から15パーセントのMgO、
0から10パーセントのCaO、
0から12パーセントのSrO、
0から40パーセントのBaO、および
0から1パーセントのSnO2
から実質的になるガラスであって、Na2Oを実質的に含まないガラス。
【請求項9】
質量パーセントで、
45から75パーセントのSiO2
3から15パーセントのAl23
0から20パーセントのB23
14から25パーセントのK2O、
0から15パーセントのMgO、
0から10パーセントのCaO、
0から12パーセントのSrO、
0から40パーセントのBaO、および
0から1パーセントのSnO2
を含むガラスであって、Na2Oを実質的に含まず、フュージョン成形可能であり、540℃以上の歪み点、50×10-7以上の熱膨張係数、1630℃未満のT200、および150,000ポアズ以上の液相線粘度を有するガラス。
【請求項10】
質量パーセントで、
45から75パーセントのSiO2
3から15パーセントのAl23
0から20パーセントのB23
3から30パーセントのK2O、
0から15パーセントのMgO、
0から10パーセントのCaO、
0から12パーセントのSrO、
0から40パーセントのBaO、および
0から1パーセントのSnO2
を含むガラスであって、Na2Oを実質的に含まず、フュージョン成形可能であり、540℃以上の歪み点、50×10-7以上の熱膨張係数、1630℃未満のT200、および150,000ポアズ以上の液相線粘度を有するガラス。

【公表番号】特表2012−528072(P2012−528072A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513277(P2012−513277)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/036508
【国際公開番号】WO2010/138784
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】