説明

フラッシュ蒸着方法及び装置

【課題】 2種類以上の液体状のモノマーを異なるエバポレータで気化させて混合することができるフラッシュ蒸着方法及び装置を提供する。
【解決手段】フラッシュ蒸着装置10は、反応室30と、連続搬送されるフィルム20を支持するためのドラム32と、複数のエバポレータ40,50と、各エバポレータ40,50に接続され、液体状のモノマーを保持するモノマータンク46,56と、モノマータンク46,56からモノマーをエバポレータ40,50に送液するための送液ポンプ44,54と、エバポレータ40,50から排出される気化されたモノマーを合流させる合流部80と、合流部80に接続された混合機82と、混合機82に接続されたノズル84を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラッシュ蒸着方法及び装置に関し、特に、連続して走行する基材上にモノマー層を成膜するためのフラッシュ蒸着方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続して走行する基材にモノマー層を成膜する方法として、フラッシュ蒸着法が知られている。特許文献1は、連続して走行する基材上にフラッシュ蒸発器(エバポレータ)によりアクリルモノマー層を堆積し、アクリルモノマー層を重合した後、金属のコーティングする方法を開示する。フラッシュ蒸発器は、液体状のモノマーを蒸発させる装置であり、フラッシュ蒸発器より供給された気化されたモノマーは、冷却された基材上で凝縮しモノマー層を形成する。
【特許文献1】特表2001−508089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、モノマーは分子量、官能基数、等によって蒸気圧や重合のし易さが異なる。一方、品質向上の観点から複数の特性の異なるモノマーをブレンドして使用しようとする要求は強い。
【0004】
しかし、モノマーがキャピラリ内で蒸発してしまったり、モノマーがキャピラリ内で重合してしまったりして安定した送液ができない、といった問題がある。したがって、モノマー選定にあたっては制約が多く、モノマーを混合することは容易ではなかった。
【0005】
また、長時間運転を行った場合、エバポレータの内部に特定のモノマーが滞留・堆積してしまう。一旦、エバポレータの内壁へのモノマーの堆積が始まると、壁面温度の低下を招く。これにより、フラッシュ蒸着が十分に行われないようになり、蒸発効率が低下し、内壁へのモノマーの堆積は急激に加速する。結果、成膜レートが急激に低下し、膜厚分布が悪化するという問題が発生する。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、複数の気化したモノマーを混合して基材に供給することができるフラッシュ蒸着方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明のフラッシュ蒸着方法は、基材を連続搬送するステップと、液体状で準備された少なくとも2種類のモノマーを、異なるエバポレータに供給するステップと、前記エバポレータでモノマーを気化し、気化したモノマーを該エバポレータから排出するステップと、前記気化した各モノマーを合流して前記基材に供給し、堆積させるステップと、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、2種類のモノマーを別々のエバポレータで気化して合流させた後、基材上にフラッシュ蒸着してモノマーを堆積させているので、モノマーの制約を受けずに比較的容易にモノマーを混合することができる。
【0009】
本発明のフラッシュ蒸着方法は、前記発明において、前記各モノマーを合流させた後に、さらに混合するステップを備えていることが好ましい。
【0010】
2種類の気化したモノマーを、合流後に混合させているので、効率よく混合することができる。
【0011】
本発明のフラッシュ蒸着方法は、前記発明において、前記各モノマーを混合するステップが、スタチックミキサ又はダイナミックミキサによって混合することが好ましい。
【0012】
2種類の気化したモノマーを、スタチックミキサ又はダイナミックミキサによって混合することができる。
【0013】
前記目的を達成するために、本発明のフラッシュ蒸着装置は、反応室と、前記反応室の内部に設けられ、連続搬送される基材を支持するためのドラムと、複数のエバポレータと、前記エバポレータに接続され、液体状のモノマーを保持するタンクと、前記タンクから前記モノマーを前記エバポレータに送液するためのポンプと、前記各エバポレータから排出される、気化されたモノマーを合流させる合流部と、前記ドラムに対向して配置され、前記合流部に接続されたノズルと、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明のフラッシュ蒸着装置は、前記発明において、前記ノズルと前記合流部の間に接続された混合機を、さらに備えることが好ましい。
【0015】
本発明のフラッシュ蒸着装置は、前記発明において、前記混合機が、スタチックミキサ又はダイナミックミキサであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフラッシュ蒸着方法及び装置によれば、2種類以上のモノマーを別々のエバポレータで気化して合流させた後、基材上にフラッシュ蒸着してモノマーを堆積させているので、比較的容易にモノマーを混合することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施の形態により説明されるが、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、本実施の形態以外の他の実施の形態を利用することができる。従って、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。
【0018】
また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する。
【0019】
図1は、フラッシュ蒸着装置の実施形態の一例を示す概略図である。フラッシュ蒸着装置10は、基体として連続して走行するフィルム20にモノマー層を成膜する、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)でフィルム20に成膜する装置である。
【0020】
フラッシュ蒸着装置10は、内部の圧力を調整できる反応室30を備えている。反応室30は、内部圧力を0.1Torr〜10Torrに調整することができる。反応室30の内部には、連続走行するフィルム20を支持するためのドラム32と、ドラム32の上流側と下流側に配置されたガイドローラ34,36を備えている。ガイドローラ34,36によって、反応室30に搬送されたフィルム20がドラム32に導かれる。ドラム32は、図示しない温度制御装置を備えており、これによりドラム32の表面を、例えば、−20℃〜80℃に調整することができる。
【0021】
反応室30の外部に、2つのエバポレータ40,60が設けられている。エバポレータ40に、超音波ノズル42、送液ポンプ44、モノマータンク46がキャピラリ48を介して接続されている。同様に、エバポレータ60に、超音波ノズル62、送液ポンプ64、モノマータンク66がキャピラリ68を介して接続されている。
【0022】
モノマータンク46,66は液体状のモノマーを保持するためのタンクであり、本形態においては、モノマータンク46,66には異なるモノマーが収納されている。送液ポンプ44,64は、モノマータンク46,66に保持されている液体状のモノマーをエバポレータ40,60に供給するためのポンプである。超音波ノズル42,62は、送液ポンプ44,64で供給される液体状のモノマーを適切な粒子径の霧状にするための装置であり、これによりモノマーがエバポレータ40,60に供給される。
【0023】
エバポレータ40,60は、内壁の温度を200℃〜300℃とすることで、超音波ノズル42,62から供給された霧状のモノマーを気化させる装置である。内壁の温度は、使用するモノマーに応じて適宜調整することができる。エバポレータ40,60には、気化されたモノマーを排出するための排出口50,70が設けられている。各エバポレータ40,60から排出された、気化されたモノマーを合流するため、排出口50,70が合流部80に接続されている。
【0024】
気化されたモノマーを混合するため、混合機82が合流部80の先端に設けられている。混合機82として、スタチックミキサ又はダイナミックミキサを好適に使用することができる。スタチックミキサは、例えば、円筒状の配管内に、長方形の板を180°ねじった形のエレメントを備えており、駆動部を有していない。気化されたモノマーがエレメントを通過することで、2種類の気化されたモノマーが混合される。
【0025】
ダイナミックミキサは、例えば、円筒状の配管内に、モータ駆動される強制攪拌羽を備えている。モータの出力を変化させることで、混合出力を任意に設定して攪拌混合を実現することができる。
【0026】
なお、スタチックミキサは、駆動部を持たず構造が簡単なこと、エレメントへのモノマーの付着を防止するための各種表面処理等が容易に行えること、また低粘度の気体に対して効率的に混合が可能なこと、多段に設置することで容易に混合を促進可能なこと、等の特徴を有しており、混合機として好適に使用できる。
【0027】
混合機82の先端にノズル84が接続されている。ノズル84はドラム32と対向する位置に配置されている。ノズル84は混合機82で混合された、2種類の気化されたモノマーを走行するフィルム20に供給する。
【0028】
次に、上述のフラッシュ蒸着装置10により、フィルム20の表面にモノマー層を成膜する方法を、図1を参照に説明する。各種の処理を終えたフィルム20が反応室30に搬送される。反応室30の内部は予め温度−20℃〜80℃に調整されている。フィルム20は、反応室30内のガイドローラ34によってドラム32に案内される。
【0029】
モノマータンク46,66に収納された、異なる種類の液体状のモノマーが、送液ポンプ44,64によりキャピラリ48,68を介してエバポレータ40,50に送られる。液体状のモノマーは超音波ノズル42,62により適切な粒子径の霧状とされ、エバポレータ40,50に供給される。供給されたモノマーは、エバポレータ40,50によって気化され、気化した各モノマーは排出口50,70から排出され、合流部80で合流される。その後、気化した各モノマーは混合機82で混合され、ノズル84から連続走行するフィルム20にフラッシュ蒸着される。
【0030】
エバポレータ40,50及び合流前の配管(50及び70から80の間)の温度は、各モノマーに適した温度に個別に流量・温度制御されている。合流後の配管85、86及びノズル84の温度は、各モノマーが凝縮・重合を開始する温度の最小値より高く、かつ各モノマーの熱分解温度の最低値より低い範囲に設定されている。配管合流後の配管86を、ドラム軸方向(フィルムの幅方向)に複数本に分岐することが好ましい。フィルムの幅方向の全域にわたり、ノズル84から連続走行するフィルム20に均一にフラッシュ蒸着するためである。
【0031】
フィルム20にフラッシュ蒸着されたモノマーは、冷却されたドラム32に支持されたフィルム20の表面で凝縮して堆積され、モノマー層を形成する。モノマー層が形成されたフィルム20は、ガイドローラ36に案内され、反応室30から次の工程へと搬送される。その後、例えば、モノマー層が形成されたフィルム上に、真空成膜法によって無機膜を成膜することができる。本発明の実施形態を図1に基づいて説明したが、本発明はこの態様に限定されるものではない。例えば、反応室30の上流側で無機膜を成膜する、ドラム32上の上流側または下流側で無機膜を成膜する、等の構成としても良い。
【0032】
本発明において、モノマー層が成膜される基材として、特に限定はなく、PET、PEN、TAC、PCフィルム等の各種の樹脂フィルム、アルミニウムシートなどの各種の金属シートなど、モノマー層の成膜が可能なものであれば、ガスバリアフィルム、光学フィルム、保護フィルムなどの各種の機能性フィルムに利用される各種のベースフィルムが、全て利用可能である。
【0033】
本発明において、モノマー層の成膜に用いることができる好ましいモノマーとしては、アクリレートおよびメタクリレート、市販の接着剤が挙げられる。すなわち、本発明において、エチレン性不飽和結合を有するアクリレートモノマーおよび/またはメタクリレートモノマーを重合してなるポリマーを主成分とするのが好ましい。特に、後述する真空中での不都合を回避できる等の理由で、アクリレートモノマーおよび/またはメタクリレートモノマーを用いる場合には、分子量が700以下、中でも特に150〜600の物を用いるのが好ましい。
【0034】
市販の接着剤としては、ダイゾーニチモリ製エポテックシリーズ、ナガセケムテックス製XNR−5000シリーズ、スリーボンド製3000シリーズ等が挙げられる。
【0035】
アクリレートおよびメタクリレートの好ましい例としては、例えば、米国特許6083628号、同6214422号の各明細書に記載の化合物が挙げられる。これらの一部を以下に例示する。
【0036】
【化1】

【0037】
【化2】

【0038】
【化3】

【0039】
モノマーの重合法には特に限定は無いが、加熱重合、光(紫外線、可視光線)重合、電子ビーム重合、プラズマ重合、あるいはこれらの組み合わせが好ましく用いられる。加熱重合を行う場合、基板Bは相応の耐熱性を有する必要がある。この場合、少なくとも、加熱温度よりも基板Bのガラス転移温度(Tg)が高いことが必要である。
【0040】
光重合を行う場合は、光重合開始剤を併用するのが好ましい。光重合開始剤としてはチバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えば、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819など)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えば、ダロキュアTPO、ダロキュア1173など)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、サートマー(Sartomer)社から市販されているエザキュア(Ezacure)シリーズ(例えば、エザキュアTZM、エザキュアTZTなど)、同じくオリゴマー型のエザキュアKIPシリーズ等が挙げられる。
【0041】
照射する光は、通常、高圧水銀灯もしくは低圧水銀灯による紫外線である。照射エネルギーは0.5J/cm以上が好ましく、2J/cm以上がより好ましい。
【0042】
なお、アクリレートやメタクリレートは、空気中の酸素によって重合阻害を受ける。従って、本発明において、モノマー層としてこれらを利用する場合には、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で2J/cm以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが特に好ましい。
【0043】
本発明において、モノマーの重合率は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。ここでいう重合率とはモノマー混合物中の全ての重合性基(例えばアクリレートやメタクリレートであれば、アクリロイル基およびメタクリロイル基)のうち、反応した重合性基の比率を意味する。
【0044】
本発明の機能性フィルム10の製造方法において、特に好ましいモノマー層は、下記の一般式(I)で示される構造単位であって、mが2である構成単位と、mが3以上である構成単位とを有するポリマー(重合体)を主成分とする膜である。
【0045】
一般式(I)
(Z−COO)m−L
[一般式(I)において、Zは下記の(a)または(b)で表され、前記構造中のRおよびRは各々独立に水素原子またはメチル基を表し、*は一般式(I)のカルボニル基と結合する位置を表し、Lはm価の連結基を表す。また、m個のZは、互いに同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つのZは下記の(a)で表される。]
【0046】
【化4】

【0047】
モノマー層は、特に、mが2である構成単位と、mが3である構成単位とを有するポリマー、mが2である構成単位と、mが4以上である構成単位とを有するポリマー、mが2である構成単位と、mが3である構成単位と、mが4以上である構成単位とを有するポリマーの、いずれか1種のポリマーを主成分とする膜であることが好ましい。
【0048】
あるいは、これらのポリマーの複数を有して、総合してモノマー層の主成分となってもよい。
【0049】
Lは、m価の連結基である。本発明において、Lの炭素数には、特に限定は無いが、好ましくは3〜18、より好ましくは4〜17、さらに好ましくは5〜16、特に好ましくは6〜15である。
【0050】
mが2の場合、Lは2価の連結基である。このような2価の連結基の例として、アルキレン基(例えば1,3−プロピレン基、2,2−ジメチル−1,3−プロピレン基、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロピレン基、1,6−ヘキシレン基、1,9−ノニレン基、1,12−ドデシレン基、1,16−ヘキサデシレン基等)、エーテル基、イミノ基、カルボニル基、およびこれらの2価基が複数個直列に結合した2価残基(例えばポリエチレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基、プロピオニルオキシエチレン基、ブチロイルオキシプロピレン基、カプロイルオキシエチレン基、カプロイルオキシブチレン基等)等が例示される。これらの中ではアルキレン基が好ましい。
【0051】
Lは置換基を有してもよい。Lを置換することのできる置換基の例としては、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、ブチル基等)、アリール基(例えばフェニル基等)、アミノ基(例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、2−エチルヘキシロキシ基等)、アシル基(例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基等)、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基などが挙げられる。置換基として好ましくは、含酸素官能基を持たない基が後述の理由から好ましく、特にアルキル基である。
【0052】
すなわち、mが2の場合、Lは含酸素官能基を持たないアルキレン基が最も好ましい。このような基を採用することにより、本発明をガスバリアフィルムの製造に利用した際に、得られるガスバリアフィルムの水蒸気透過率をより低くすることが可能になる。
【0053】
mが3の場合、Lは3価の連結基を表す。そのような3価の連結基の例として、前述の2価の連結基から任意の水素原子を1個除いて得られる3価残基、または、前述の2価の連結基から任意の水素原子を1個除き、ここにアルキレン基、エーテル基、カルボニル基、およびこれらを直列に結合した2価基を置換した3価残基を挙げることができる。このうち、アルキレン基から任意の水素原子を1個除いて得られる、含酸素官能基を含まない3価残基が好ましい。本発明をガスバリアフィルムの製造に利用した際に、得られるガスバリアフィルムの水蒸気透過率をより低くすることが可能になる。
【0054】
mが4以上の場合、Lは4価以上の連結基を表す。そのような4価以上の連結基の例も、同様に挙げられる。好ましい例も同様に挙げられる。特に、アルキレン基から任意の水素原子を2個除いて得られる、含酸素官能基を含まない4価残基が好ましい。このような基を採用することにより、本発明をガスバリアフィルムの製造に利用した際に、得られるガスバリアフィルムの水蒸気透過率をより低くすることが可能になる。
【0055】
本発明の製造方法において、モノマー層を形成するポリマーが、一般式(I)においてmが2の構造単位とmが3以上の構造単位を含むポリマーである場合、このポリマーは、mが2および/または3の構造単位は75〜95質量%であることが好ましく、75〜90質量%であることがより好ましく、75〜85質量%であることがさらに好ましい。
【0056】
モノマー層を形成するポリマーが、一般式(I)においてmが2の構造単位とmが3の構造単位を含むポリマーである場合、このポリマーは、mが2の構造単位は60〜80質量%であることが好ましく、65〜75質量%であることがより好ましい。他方、mが3の構造単位は10〜50質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、膜硬度と重合率の両立がより効果的に発揮され好ましい。
【0057】
また、モノマー層を形成するポリマーが、一般式(I)において、mが2である構成単位と、mが4以上である構成単位とを有するポリマーである場合、このポリマーは、mが4以上の構造単位は、10〜50質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。また、mは4が好ましい。
【0058】
さらに、モノマー層を形成するポリマーが、一般式(I)において、mが2の構造単位と、mが3の構造単位と、mが4以上の構造単位とを含むポリマーである場合、このポリマーは、mが2の構造単位と、mが3の構造単位の合計で75〜95質量%含むことが好ましく、75〜90質量%であることがより好ましく、75〜85質量%であることがさらに好ましい。mが4以上の構造単位は5〜25質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがより好ましく、15〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0059】
モノマー層の主成分となる前記ポリマーは、一般式(I)で表されない構造単位を有していてもよい。例えば、アクリレートモノマーやメタクリレートモノマーを共重合したときに形成される構造単位を有していてもよい。前記ポリマーにおいて、一般式(I)で表されない構造単位は20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0060】
前述のように、モノマー層は、一般式(I)で表される構造単位を有するポリマーを主成分とする膜であるが、ここでいう「主成分」とは、一般式(I)で表される構造単位を有するポリマーが有機膜全体の重量の80質量%以上であることを意味する。特に、モノマー層中において、前記ポリマーは90質量%以上であることが好ましい。
【0061】
モノマー層に含有させることができる一般式(I)で表される構造単位を有さないポリマーには、特に限定は無いが、一例として、ポリエステル、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル等が例示される。
【0062】
モノマー層の主成分となる、このようなポリマーは、下記一般式(II)のnが2であるモノマーとnが3以上であるモノマーとを含有する混合物(モノマー混合物)を重合させることで、重合することができる。
【0063】
【化5】

【0064】
一般式(II)において、Rは水素原子またはメチル基を表し、Lはn価の連結基を表す。nが2以上の場合、それぞれのRは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0065】
すなわち、言い換えれば、特に好ましい本発明のフラッシュ蒸着装置10の製造方法は、基板Bに、上記一般式(II)のnが2であるモノマーとnが3以上であるモノマーとを含有する、モノマー混合物を重合させることによってモノマー層を成膜する。
【0066】
Lの具体例と好ましい範囲は、前述の一般式(I)におけるLの具体例および好ましい範囲と同じである。また、モノマー混合物中における、nが2であるモノマーと、nが3以上であるモノマー(nが3であるモノマー、nが4以上であるモノマー)との含有量の好ましい範囲も、前述の一般式(I)において、nが2の構造単位とnが3以上の構造単位(nが3の構造単位とnが4以上の構造単位)の含有量の好ましい範囲と同じである。
【0067】
本発明においては、特に、nが2であるモノマーとnが3であるモノマーとを含有するモノマー混合物を重合させることにより、あるいは、nが2であるモノマーとnが4以上であるモノマーとを含有するモノマー混合物を重合させることにより、あるいは、nが2であるモノマーとnが3であるモノマーとnが4以上であるモノマーとを含有するモノマー混合物を重合させることにより、モノマー層を成膜するのが好ましい。あるいは、これらのモノマー混合物を、複数用いて重合を行なって、モノマー層を成膜してもよい。
【0068】
以下に、一般式(II)のnが2または3であるモノマーの具体例を示すが、本発明で用いることができるnが2または3のモノマーは,これらに限定されるものではない。
【0069】
【化6】

【0070】
【化7】

【0071】
一般式(II)のnが4以上であるモノマーとしては、nが4〜6であるモノマーを用いるのが好ましく、特に、nが4であるモノマーが好ましい。具体的にはペンタエリスリトール骨格、ジペンタエリスリトール骨格を有するモノマーを挙げることができる。以下に、一般式(II)のnが4以上であるモノマーの具体例を示すが、本発明で用いることができる4以上のモノマーはこれらに限定されるものではない。
【0072】
【化8】

【0073】
【化9】

【0074】
一般式(II)のnが2であるモノマーと、nが3以上であるモノマー(nが3であるモノマーと、nが4以上であるモノマーは)、それぞれモノマー混合物中に一種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもよい。
【0075】
前述のように、本発明においては、モノマー層が硬い方が、良好な特性を有する機能性フィルムを製造することができる。特に、鉛筆硬度としてH以上、中でも特に2H以上の硬度を有するのが好ましい。
【0076】
モノマー層の硬度を高めるには、下記の方法が例示される。
(1)モノマーの重合率を高める
(2)多官能モノマーを用いる
(3)モノマーの連結基として柔軟性の高い含酸素官能基を用いない。
【0077】
重合率と官能基数はトレードオフの関係にあり、官能基数が増えるほど重合度が低くなるという関係にある。本発明者らの検討によれば、モノマーの官能基数を上げ、かつ、重合度を上げるための処方を検討した結果、前述のようなモノマー混合比率が好ましい。ここで、重合率は、90%以上が好ましい。
【0078】
良好な硬度を有するモノマー層を成膜するには、モノマー成分の混合比を以下に示す範囲とするのが好ましい。例えば、モノマー混合物中に、一般式(II)で表されるモノマー成分として、nが2であるモノマーと、nが3であるモノマーのみを用いる場合、nが2であるモノマーの混合比は60〜80質量%であることが好ましく、65〜75質量%であることがより好ましい。nが3であるモノマーは20〜40質量%であることが好ましく、25〜35質量%であることがより好ましい。
【0079】
また、モノマー混合物中に、一般式(II)で表されるモノマー成分として、nが2であるモノマーと、nが4以上であるモノマーのみを用いる場合は、nが2であるモノマーの混合比は75〜95質量%であることが好ましく、75〜90質量%であることがより好ましく、75〜85質量%であることがさらに好ましい。nが4以上であるモノマーの混合比は5〜25質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがより好ましく、15〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0080】
さらに、モノマー混合物中に、一般式(II)で表されるモノマー成分として、nが2であるモノマーと、nが3であるモノマーと、nが4以上であるモノマーのみを含む混合物を用いる場合は、nが2または3であるモノマーの混合比の合計で75〜95質量%含むことが好ましく、75〜90質量%であることがより好ましく、75〜85質量%であることがさらに好ましい。nが4以上であるモノマーの混合比は、5〜25質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがより好ましく、15〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0081】
モノマー層となるモノマー混合物中には、一般式(II)で表されないモノマーが含まれていてもよい。ただし、これらのモノマーは、前述のモノマー層の硬度を高めることに対して障害となるので、モノマー混合物中に20質量%以下の量であるのが好ましい。
【0082】
一般式(II)で表されないモノマーは、例えば単官能モノマーであり、好ましくは、単官能のアクリレートモノマーや単官能のメタクリレートモノマーである。単官能のアクリレートモノマーや単官能のメタクリレートモノマーの分子量は特に制限されないが、通常は150〜600であるものを用いる。これらのモノマーは、モノマー混合物中に一種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもよい。単官能モノマーは重合率を高める作用があるが、含有量が多すぎると成膜される有機層の硬さを損なうため、前述の通り、含有率を20質量%以下にすることが好ましい。より好ましい範囲は、上記の一般式(I)で表されない構造単位の好ましい含有量の範囲と同じである。
【0083】
以下に単官能モノマーの好ましい具体例を示すが、本発明で用いることができる単官能モノマーはこれらに限定されるものではない。
【0084】
【化10】

【0085】
モノマー層を形成するモノマー混合物は、密着性改良のために、リン酸系の(メタ)アクリレートモノマーやシランカップリング基を含有する(メタ)アクリレートモノマーを含んでいてもよい。これらのモノマーの添加量は、その官能基数により、前述の添加量の範囲に合致するように添加される。
【0086】
以下にリン酸系モノマーもしくはシランカップリング基含有モノマーの好ましい具体例を示すが、本発明で用いることができるものはこれらに限定されるものではない。
【0087】
【化11】

【0088】
上記のモノマーを適宜組み合わせ、個別のエバポレータで気化してフィルムにフラッシュ蒸着することで、2種類以上のモノマーを容易に混合することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明によるフラッシュ蒸着装置の一例を示す概略構成図
【符号の説明】
【0090】
10…フラッシュ蒸着装置、20…フィルム、30…反応室、32…ドラム、34,36…ガイドローラ、40,60…エバポレータ、42,62…超音波ノズル、44,64…送液ポンプ、46,66…モノマータンク、48,68…キャピラリ、50,70…排出口、85,86…配管、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を連続搬送するステップと、
液体状で準備された少なくとも2種類のモノマーを、異なるエバポレータに供給するステップと、
前記エバポレータでモノマーを気化し、気化したモノマーを該エバポレータから排出するステップと、
前記気化した各モノマーを合流して前記基材に供給し、堆積させるステップと、を備えるフラッシュ蒸着方法。
【請求項2】
前記各モノマーを合流させた後に、さらに混合するステップを備えたことを特徴とする請求項1に記載のフラッシュ蒸着方法。
【請求項3】
前記各モノマーを混合するステップを、スタチックミキサ又はダイナミックミキサによって混合することを特徴とする請求項2に記載のフラッシュ蒸着方法。
【請求項4】
反応室と、
前記反応室の内部に設けられ、連続搬送される基材を支持するためのドラムと、
複数のエバポレータと、
前記各エバポレータに接続され、液体状のモノマーを保持するタンクと、
前記タンクから前記モノマーを前記エバポレータに送液するためのポンプと、
前記各エバポレータから排出される、気化されたモノマーを合流させる合流部と、
前記ドラムに対向して配置され、前記合流部に接続されたノズルと、
を備えたことを特徴とするフラッシュ蒸着装置。
【請求項5】
前記ノズルと前記合流部の間に接続された混合機を、さらに備えたことを特徴とする請求項4記載のフラッシュ蒸着装置。
【請求項6】
前記混合機が、スタチックミキサ又はダイナミックミキサであることを特徴とする請求項5記載のフラッシュ蒸着装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−270134(P2009−270134A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118976(P2008−118976)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】