説明

フルオレン誘導体およびその重合体

【課題】 室温で重合する、空気中でも重合する、重合しやすい、液晶相の温度範囲が広い、化学的に安定である、無色である、溶媒に溶けやすい、他の重合性化合物のとの相溶性がよい、支持基板に対する付着張力が小さい、などの特性において、複数の特性を充足する液晶化合物、およびこの化合物から得られた重合体などである。
【解決手段】 下記の式(1)または(2)で表される少なくとも1つの化合物、この化合物を含有する組成物、およびこの組成物を重合させることによって得られる重合体などである。


上式において、Rはフッ素、アルキルなどであり、Rは水素、アルキルなどであり、RおよびRは水素、フッ素、アルキルなどであり、Aは1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレンなどであり、Xは単結合、−(CH−などであり、Pはアルキレンなどであり、mおよびnは0、1または2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシラン環またはオキセタン環を有するフルオレン誘導体、この誘導体から得られた重合体、およびこの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性の化合物が液晶であるとき、この化合物を重合させることによって光学異方性を有する重合体が得られることが知られている(特許文献1)。これは、液晶における分子の配向(orientation)が重合によって固定されるからである。そのような化合物の例はアクリロイルオキシ基を有する液晶化合物である(特許文献2)。さらに望まれているのは、室温で重合する、空気中でも重合する、紫外線の照射によって容易に重合する、などの特性を有する液晶化合物である。
【0003】
【特許文献1】特開2001−55573号公報
【特許文献2】特開2001−154019号公報
【特許文献3】特開2005−60373号公報(US2005/0031801A1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、室温で重合する、空気中でも重合する、重合しやすい、液晶相の温度範囲が広い、化学的に安定である、無色である、溶媒に溶けやすい、他の重合性化合物のとの相溶性がよい、支持基板に対する付着張力(adhesion tension)が小さい、などの特性において、複数の特性を充足する液晶化合物である。この課題は、複数の特性に関して適切なバランスを有する化合物である。この課題は、この液晶化合物から得られた重合体でもある。この課題は、光学異方性を有する、支持基板から剥離しにくい、充分な硬度を有する、無色透明である、耐熱性が大きい、耐候性が大きい、光弾性が小さい、などの特性において、複数の特性を充足する重合体でもある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の式(1)または(2)で表される少なくとも1つの化合物、この化合物を含有する組成物、およびこの組成物を重合させることによって得られる重合体を含む。

【0006】
式(1)または(2)において、Rは水素、フッ素、塩素、シアノ、ニトロ、または炭素数1〜20のアルキルであり、このアルキルにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく、そして任意の1つまたは2つの−CH−は−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CO−、−CH=CH−、または−C≡C−で置き換えられてもよく:Rは水素または炭素数1〜8のアルキルであり、このアルキルにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく;RおよびRは独立して水素、フッ素、塩素、または炭素数1〜10のアルキルであり、このアルキルにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく、そして任意の1つまたは2つの−CH−は−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CO−、−CH=CH−、または−C≡C−で置き換えられてもよく;Aは1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、ピリダジン−3,6−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、またはテトラヒドロナフタレン−2,6−ジイルであり、この1,4−フェニレンにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく、そして任意の1つまたは2つの水素はシアノ、メチル、エチル、メトキシ、ヒドロキシ、ホルミル、アセトキシ、アセチル、トリフルオロアセチル、ジフルオロメチル、またはトリフルオロメチルで置き換えられてもよく;Xは単結合、−(CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−(CH−、−(CHCOO−、−OCO(CH−、−CH=CH−COO−、または−OCO−CH=CH−であり;Pは炭素数1〜20のアルキレンであり、このアルキレンにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく、任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよく、任意の1つまたは2つの−CH−は−COO−または−OCO−で置き換えられてもよく、そして任意の1つの−CH−は−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく;そしてmおよびnは独立して0、1または2であり、そしてmとnの和は1、2、3、または4である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の液晶化合物は、室温で重合する、空気中でも重合する、重合しやすい、液晶相の温度範囲が広い、化学的に安定である、無色である、溶媒に溶けやすい、他の重合性化合物との相溶性がよい、支持基板に対する付着張力が小さい、などの特性において、複数の特性を充足する。この化合物は、複数の特性に関して適切なバランスを有する。本発明の重合体は、この液晶化合物から得られる。この重合体は、光学異方性を有する、支持基板から剥離しにくい、充分な硬度を有する、無色透明である、耐熱性が大きい、耐候性が大きい、光弾性が小さい、などの特性において、複数の特性を充足する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この明細書における用語の使い方は次のとおりである。液晶化合物は、液晶相を有する化合物、および液晶相を有しないが液晶組成物の成分として有用な化合物の総称である。液晶相はネマチック相、スメクチック相、コレステリック相などであり、多くの場合ネマチック相を意味する。重合性は、光、熱、触媒などの手段により単量体が重合し、重合体を与える能力を意味する。式(1)、式(M1)などで表わされる化合物を、それぞれ化合物(1)、化合物(M1)などのように表記することがある。化合物(1)を含有する組成物から得られる重合体を重合体(1)と表記することがある。化合物(2)を含有する組成物から得られる重合体を重合体(2)と表記することがある。重合性化合物の重量%(wt%)は、組成物に含有される重合性化合物の全重量に基づいた割合である。添加物の重量%は、重合性化合物の全重量に基づいた割合である。
【0009】
式(1)および(2)において、Rの記号を用いた。2つの記号Rの意味は同一であってもよいし、または異なってもよい。例えば、式(1)と式(2)のRがメチルであるケースがある。式(1)のRがメチルであり、式(2)のRがエチルであるケースがある。式(1)において、A、Xなどの記号を用いた。式(1)の−(A−X)−および−(A−X)−において、2つの記号Aの意味は同一であってもよいし、または異なってもよい。式(1)の−(A−X)−は、mが2のとき、−A−X−A−X−を意味する。この場合、2つの記号Aの意味は同一であってもよいし、または異なってもよい。
このようなルールは、記号Xの意味にも適用する。このルールは他の記号の意味にも適用する。
【0010】
我々は、1)重合性の液晶化合物を重合させることによって、光学異方性を有する重合体が得られる、および、2)オキシラン環またはオキセタン環を有する単量体は容易に開環重合する、という2つの知見を組み合わせることを着想した。この着想に基づいて研究したところ、予想した以上に良好な実験結果を得た。これらの結果をもとに検討を重ねて、下記の項を含む本発明を完成させた。
【0011】
項1.式(1)または(2)で表される化合物。

【0012】
式(1)または(2)において、Rは水素、フッ素、塩素、シアノ(−CN)、ニトロ(−NO)、または炭素数1〜20のアルキルであり、このアルキルにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく、そして任意の1つまたは2つの−CH−は−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CO−、−CH=CH−、または−C≡C−で置き換えられてもよい。
【0013】
このアルキルにおいて、水素はフッ素などで置き換えられてもよく、そして同時に−CH−は−O−などで置き換えられてもよい。つまり、Rは、水素がフッ素などで置き換えられ、そして−CH−が−O−で置き換えられたアルキルを含有する。「アルキルにおいて任意の1つまたは2つの−CH−は−O−、−CH=CH−などで置き換えられてもよい」の句の意味を一例で示す。ブチル(C−)において任意の1つまたは2つの−CH−を−O−または−CH=CH−で置き換えた基の例は、CO−、CH−O−(CH−、CH−O−CH−O−、HC=CH−(CH−、CH−CH=CH−(CH−、CH−CH=CH−CH−O−などである。このように「任意の」は、無作為に選ばれることを意味する。任意の2つの−CH−が−O−で置き換えられたとき、化合物の安定性を考慮して、酸素と酸素とが隣接したCH−O−O−CH−よりも、酸素と酸素とが隣接しないCH−O−CH−O−の方が好ましい。「置き換えられてもよい」の表現は、他のケースでも同様な意味を有している。
【0014】
好ましいRは、水素、フッ素、塩素、シアノ(−CN)、ニトロ(−NO)、トリフルオロメトキシ(−OCF)、ジフルオロメトキシ(−OCFH)、フルオロメトキシ(−OCFH)、テトラフルオロエチル(−CFCFH)、ヘキサフルオロプロピル(−CFCHFCF)、炭素数1〜15のアルキル、炭素数1〜15のアルコキシ、または炭素数2〜15のアルコキシアルキルである。さらに好ましいRは、フッ素、塩素、シアノ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、フルオロメトキシ、テトラフルオロエチル、ヘキサフルオロプロピル、炭素数1〜15のアルキル、炭素数1〜15のアルコキシ、または炭素数2〜15のアルコキシアルキルである。特に好ましいRは炭素数1〜10のアルキルである。
【0015】
は水素または炭素数1〜8のアルキルであり、このアルキルにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよい。好ましいRは水素または炭素数1〜5のアルキルである。さらに好ましいRは水素または炭素数1〜4のアルキルである。特に好ましいRは水素、メチルまたはエチルである。
【0016】
およびRは独立して水素、フッ素、塩素、または炭素数1〜10のアルキルであり、このアルキルにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく、そして任意の1つまたは2つの−CH−は−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CO−、−CH=CH−、または−C≡C−で置き換えられてもよい。
【0017】
好ましいRおよびRは独立して水素、フッ素、塩素、炭素数1〜8のアルキルである。さらに好ましいRおよびRは独立して水素、フッ素、塩素、炭素数1〜6のアルキルである。特に好ましいRおよびRは独立して水素、メチルまたはエチルである。RおよびRの好ましい組み合わせは、水素および水素、水素およびフッ素、フッ素およびフッ素、水素および塩素、水素およびメチル、水素およびエチル、メチルおよびメチル、メチルおよびエチル、またはエチルおよびエチルである。RおよびRのさらに好ましい組み合わせは、水素および水素、水素およびメチル、水素およびエチル、メチルおよびメチル、メチルおよびエチル、またはエチルおよびエチルである。RおよびRの特に好ましい組み合わせは、水素および水素、水素およびメチル、またはメチルおよびメチルである。
【0018】
Aは1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、ピリダジン−3,6−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、またはテトラヒドロナフタレン−2,6−ジイルであり、この1,4−フェニレンにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく、そして任意の1つまたは2つの水素はシアノ(−CN)、メチル(−CH)、エチル(−CHCH)、メトキシ(−OCH)、ヒドロキシ(−OH)、ホルミル(−CHO)、アセトキシ(−OCOCH)、アセチル(−COCH)、トリフルオロアセチル(−COCF)、ジフルオロメチル(−CFH)、またはトリフルオロメチル(−CF)で置き換えられてもよい。
【0019】
好ましいAは1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレンまたはピリジン−2,5−ジイルであり、この1,4−フェニレンにおいて任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の1つの水素はメチル、エチル、メトキシ、アセトキシ、またはアセチルで置き換えられてもよい。Aが1,4−シクロへキシレンのとき、好ましい立体配置はシスよりトランスである。
【0020】
さらに好ましいAは、1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,3,5−トリフルオロ−1,4−フェニレン、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレン、2−メチル−1,4−フェニレン、または2−メトキシ−1,4−フェニレンである。
【0021】
特に好ましいAは1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレンである。最も好ましいAは1,4−フェニレンである。
【0022】
Xは単結合、−(CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−(CH−、−(CHCOO−、−OCO(CH−、−CH=CH−COO−、または−OCO−CH=CH−である。
【0023】
好ましいXは単結合、−(CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OCO−、または−(CH−である。さらに好ましいXは単結合、−C≡C−、−COO−または−OCO−である。特に好ましいXは−COO−または−OCO−である。
【0024】
Pは炭素数1〜20のアルキレンであり、このアルキレンにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく、任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよく、任意の1つまたは2つの−CH−は−COO−または−OCO−で置き換えられてもよく、そして任意の1つの−CH−は−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよい。
【0025】
好ましいPは炭素数1〜12のアルキレンであり、このアルキレンにおいて任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよく、そして任意の1つの−CH−は−COO−または−OCO−で置き換えられてもよい。さらに好ましいPは、−O−、−(CH−、−O−(CH−、−(CH−O−、−O−(CH−O−、または−O−(CHCHO)s−であり、dが1から10の整数であり、そしてsが2から5の整数である。これらの中で−O−、−O−(CH−、−O−(CH−O−、および−O−(CHCHO)s−は、−(CH−および−(CH−O−より好ましい。Pが−O−(CH−であるとき、この記号は−O−が−CH−の側ではなく、−A−の側に結合することを示す。これは、あとで記載する化合物(3a)によって例示されている。オキシラン環を有する化合物(1)において、特に好ましいPは−O−(CH−および−O−(CH−O−であり、dが2から10の整数である。オキセタン環を有する化合物(2)において、特に好ましいPは−O−(CH−O−であり、dが2から10の整数である。
【0026】
そしてmおよびnは独立して0、1または2であり、そしてmとnの和は1、2、3、または4である。好ましいmとnの和は1または2である。さらに好ましいmとnの和は2である。
【0027】
項2.式(1)または(2)において、Rが水素、フッ素、塩素、シアノ、ニトロ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、フルオロメトキシ、テトラフルオロエチル、ヘキサフルオロプロピル、炭素数1〜15のアルキル、炭素数1〜15のアルコキシ、または炭素数2〜15のアルコキシアルキルであり;Rが水素または炭素数1〜5のアルキルであり;RおよびRが独立して水素、フッ素、塩素、炭素数1〜8のアルキルであり;Aが1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイルであり、この1,4−フェニレンにおいて任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の1つの水素はメチル、エチル、メトキシ、アセトキシ、またはアセチルで置き換えられてもよく;Xが単結合、−(CH−、−CH=CH−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OCO−、または−(CH−であり;Pが炭素数1〜10のアルキレンであり、このアルキレンにおいて任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよく、そして任意の1つの−CH−は−COO−または−OCO−で置き換えられてもよく;そしてmおよびnは独立して0、1または2であり、そしてmとnの和は1、2または3である項1に記載の化合物。
【0028】
項3.式(1)または(2)において、Pが−O−、−(CH−、−O−(CH−、−(CH−O−、−O−(CH−O−、−COO−(CH−O−、−OCO−(CH−O−、または−O−(CHCHO)s−であり、dが2から10の整数であり、sが2から5の整数であり、mおよびnは独立して0、1または2であり、そしてmとnの和は1または2である項1または2に記載の化合物。
【0029】
項4.下記の式(3)〜(8)で表されるいずれか1つの化合物。

【0030】
上式において、Rがフッ素、塩素、シアノ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、フルオロメトキシ、テトラフルオロエチル、ヘキサフルオロプロピル、炭素数1〜15のアルキル、炭素数1〜15のアルコキシ、または炭素数2〜15のアルコキシアルキルであり;Rが水素、炭素数1〜4のアルキルであり;RおよびRが独立して水素、フッ素、塩素、または炭素数1〜4のアルキルであり;Aが1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,3,5−トリフルオロ−1,4−フェニレン、または2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレンであり;Xが単結合、−C≡C−、−COO−または−OCO−であり;Pが−O−、−O−(CH−、−O−(CH−O−または−O−(CHCHO)s−であり、dが1から15の整数であり、そしてsが2から5の整数である。
【0031】
項5.式(3)〜(8)において、Rがシアノ、トリフルオロメトキシ、炭素数1〜13のアルキル、炭素数1〜13のアルコキシ、または炭素数2〜13のアルコキシアルキルであり;Rが水素、メチル、またはエチルであり;RおよびRの組み合わせが水素および水素、水素およびフッ素、フッ素およびフッ素、水素および塩素、水素およびメチル、水素およびエチル、メチルおよびメチル、メチルおよびエチル、またはエチルおよびエチルであり;Aが1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレンであり;Xが単結合、−COO−または−OCO−であり;Pが−O−、−O−(CH−、−O−(CH−O−、または−O−(CHCHO)s−であり、dが1から10の整数であり、そしてsが2から5の整数である項4に記載の化合物。
【0032】
項6.式(3)、(5)または(7)において、Rが炭素数1〜10のアルキルであり;Rが水素であり;RおよびRの組み合わせが水素および水素、水素およびメチル、水素およびエチル、メチルおよびメチル、メチルおよびエチル、またはエチルおよびエチルであり;Aが1,4−フェニレンであり;Xが−COO−または−OCO−であり;Pが−O−、−O−(CH−または−O−(CH−O−であり、そしてdが2から10の整数である項4または5に記載の化合物。
【0033】
項7.式(3)、(5)または(7)において、Pが−O−(CH−または−O−(CH−O−であり、そしてdが2から10である項4、5または6に記載の化合物。
【0034】
項8.式(3)、(5)または(7)において、RおよびRの組み合わせが水素および水素、水素およびメチル、またはメチルおよびメチルである項4〜7のいずれか1項に記載の化合物。
【0035】
項9.式(4)、(6)または(8)において、Rが炭素数1〜10のアルキルであり;Rがメチルまたはエチルであり;RおよびRの組み合わせが水素および水素、水素およびメチル、水素およびエチル、メチルおよびメチル、メチルおよびエチル、またはエチルおよびエチルであり;Aが1,4−フェニレンであり;Xが−COO−または−OCO−であり;Pが−O−、−O−(CH−または−O−(CH−O−であり、そしてdが2から10の整数である項4または5に記載の化合物。
【0036】
項10.式(4)、(6)または(8)において、Pが−O−(CH−または−O−(CH−O−であり、そしてdが2から10の整数である項4、5または9に記載の化合物。
【0037】
項11.式(4)、(6)または(8)において、RおよびRの組み合わせが水素および水素、水素およびメチル、またはメチルおよびメチルである項4、5、9、または10に記載の化合物。
【0038】
項12.下記の式(1A)〜(1L)および式(2A)〜(2F)で表されるいずれか1つの化合物。

【0039】

上式において、Rはシアノ、トリフルオロメトキシ、炭素数1〜10のアルキル、または炭素数1〜10のアルコキシであり、dは2から10の整数である。
【0040】
項13.第一成分として、項1〜3のいずれか1項に記載の少なくとも1つの化合物を含有する組成物。
【0041】
項14.第一成分として、項4〜12のいずれか1項に記載の少なくとも1つの化合物を含有する組成物。
【0042】
項15.第二成分として、項1〜12のいずれか1項に記載の化合物とは異なる重合性の化合物をさらに含有する項14に記載の組成物。
【0043】
項16.第二成分が式(M1)、式(M2)、式(M3)、式(M4)、式(M5)、および式(M6)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物である項15に記載の組成物。

【0044】
式(M1)〜式(M6)において、Raは水素、フッ素、塩素、シアノ、トリフルオロメトキシ、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、炭素数2〜20のアルコキシアルキル、炭素数2〜20のアルケニル、または炭素数2〜20のアルケニルオキシであり;Rbは水素または炭素数1〜5のアルキルであり;Bは1,4−シクロへキシレンまたは1,4−フェニレンであり、この1,4−フェニレンにおいて任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の1つまたは2つの水素はメチルまたはトリフルオロメチルで置き換えられてもよく、そしてBの1つはピリジン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、フルオレン−2,7−ジイル、9−メチルフルオレン−2,7−ジイル、9−エチルフルオレン−2,7−ジイル、9,9−ジメチルフルオレン−2,7−ジイル、9−クロロフルオレン−2,7−ジイル、または9,9−ジフルオロフルオレン−2,7−ジイルであってもよく;Yは単結合、−COO−、−OCO−、−(CH−、または−C≡C−であり;Qは単結合または炭素数1〜20のアルキレンであり、このアルキレンにおいて1つまたは2つの−CHは−O−で置き換えられてもよく;そしてtは1または2である。
【0045】
項17.式(M1)〜式(M6)において、Raはフッ素、シアノ、トリフルオロメトキシ、炭素数1〜20のアルキル、または炭素数2〜20のアルコキシであり;Rbは水素または炭素数1〜2のアルキルであり;Bは1,4−シクロへキシレンまたは1,4−フェニレンであり、この1,4−フェニレンにおいて任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の1つまたは2つの水素はメチルまたはトリフルオロメチルで置き換えられてもよく、そしてBの1つは9−メチルフルオレン−2,7−ジイルまたは9−エチルフルオレン−2,7−ジイルであってもよく;Yは単結合、−COO−、−OCO−、または−C≡C−であり;Qは単結合または炭素数1〜10のアルキレンであり、このアルキレンにおいて1つまたは2つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく;そしてtは1または2である項16に記載の組成物。
【0046】
項18.第二成分が、式(M1)および式(M2)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物、または式(M3)および式(M4)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物、または式(M5)および式(M6)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物である項16または17に記載の組成物。
【0047】
項19.第二成分が、式(M1)で表される少なくとも1つの化合物および式(M3)で表される少なくとも1つの化合物、または式(M1)で表される少なくとも1つの化合物および式(M4)で表される少なくとも1つの化合物、または式(M2)で表される少なくとも1つの化合物および式(M3)で表される少なくとも1つの化合物、または式(M2)で表される少なくとも1つの化合物および式(M4)で表される少なくとも1つの化合物である項16または17に記載の組成物。
【0048】
項20.項1〜12のいずれか1項に記載の化合物から得られる重合体。
【0049】
項21.項13〜19のいずれか1項に記載の組成物を重合することによって得られる重合体。
【0050】
項22.項20または21に記載の重合体を含有する素子。
【0051】
項23.光学異方性を有する成形体として、項20または21に記載の重合体の使用。
【0052】
本発明の化合物は次の特徴を有する。この化合物は、室温で重合する、空気中でも重合する、重合しやすい、液晶相の温度範囲が広い、化学的に安定である、無色である、溶媒に溶けやすい、他の重合性化合物との相溶性がよい、支持基板に対する付着張力が小さい、などの特性において、複数の特性を充足する。この化合物は液晶相を有する。この液晶相の温度範囲は広い。この液晶相における分子の配向は、重合によっても維持される。つまり、重合によって分子の配向が固定化されるのである。アクリロイルオキシ基(−OCOCH=CH)を有する液晶化合物の重合は、窒素の雰囲気下で行なうのが好ましいが、この化合物は空気中で重合させてもよい。この化合物は、小さい積算光量の紫外線を照射しても容易に重合する。この化合物は化学的に安定なので、保存安定性に優れる。この化合物は他の重合性化合物との相溶性がよいので、種々の組成を有する組成物が得られる。この化合物は支持基板に対して濡れやすいので、均一な塗膜(paint film)が得られ易い。これらのなかでも重要なのは、空気中でも重合する、重合しやすい、液晶相の温度範囲が広い、均一な塗膜が得られ易い、などのような特性である。
【0053】
このような化合物から得られる重合体は次の特徴を有する。この重合体は、光学異方性を有する、支持基板から剥離しにくい、充分な硬度を有する、耐熱性が大きい、無色透明である、耐候性が大きい、光弾性(photoelasticity)が小さい、などの特性において、複数の特性を充足する。この重合体は、耐衝撃性、加工性、電気特性、耐溶剤性などの特性に優れる場合がある。これらのなかでも重要なのは、支持基板から剥離しにくい、充分な硬度を有する、耐熱性が大きい、などのような特性である。
【0054】
化合物(1)または(2)は1つの重合性基を有する。この化合物は、重合性基を2つ有する化合物に比較して液晶相の広い温度範囲を有する(比較例1を参照)。2つの重合性基を有する化合物は三次元構造の重合体を与えるが、化合物(1)または(2)は二次元構造の重合体を与える。したがって、重合体(1)または(2)は柔らかいので、大きな耐衝撃性を有する。この重合体は熱可塑性であるので、成形が可能である。
【0055】
まず、本発明の化合物について説明する。化合物(1)はオキシラン環を有する液晶化合物である。化合物(2)はオキセタン環を有する液晶化合物である。これらの化合物は重合性を有し、通常の取り扱い条件下では安定である。これらの化合物は、紫外線などの照射によって、空気の雰囲気下であっても容易に室温で重合する。この理由は、化合物(1)は開始反応が速いからであり、そして化合物(2)は重合速度が大きいからである。化合物(1)および(2)は配向膜などによって容易に配向する。したがって、得られた重合体には、配向の欠陥がないか、または少ない。
【0056】
化合物(1)は、速い重合速度という観点から化合物(2)より好ましい。化合物(1)は、得られる重合体(1)の優れた接着性という観点から化合物(2)より好ましい。化合物(2)は、高い重合度の重合体を与えるという観点から化合物(1)より好ましい。化合物(2)は、充分な硬度の重合体を与えるという観点から化合物(1)より好ましい。
【0057】
化合物(1)および(2)は、側鎖R、R、R、R、環A、結合基X、および結合基Pを適切に選択することによって、大きい誘電率異方性、小さい誘電率異方性、大きい光学異方性、小さい光学異方性、小さい粘度などの特性を調整することができる。
【0058】
がフッ素、塩素、シアノ、またはトリフルオロメトキシのとき、化合物(1)または(2)の融点が低いようである。Rがアルキルのとき、炭素数によって液晶相の温度範囲を調整することができる。Rがアルキルのとき、炭素数が少ない単量体は大きな耐熱性の重合体を与える傾向がある。RおよびRの一方または両方がフッ素、塩素のとき、化合物(1)または(2)の融点が低いようである。RおよびRの一方または両方がアルキルのとき、炭素の数によって液晶相の温度範囲を調整することができる。
【0059】
Aが1,4−シクロヘキシレンのとき、化合物(1)または(2)の光学異方性は小さい。Aが1,4−フェニレンのとき、化合物(1)または(2)の光学異方性は大きい。Xの少なくとも1つが−COO−または−OCO−であるとき、化合物(1)または(2)は、より良好な液晶性を有する。Xの少なくとも1つが−C≡C−であるとき、化合物(1)または(2)は、大きな光学異方性を有する。Pが酸素(−O−)を有するとき、化合物(1)または(2)の光学異方性は大きい。
【0060】
化合物(1)または(2)は、H(重水素)または13Cなどの同位体元素を自然に存在する割合より多く含んでもよい。このような場合でも化合物の特性に大きな差異はない。
【0061】
化合物(1)または(2)の特性は、重合体(1)または重合体(2)の特性に反映される。特性のなかでも光学異方性が本発明の目的にとっては重要である。化合物(1)または化合物(2)を含有する組成物を支持基板の上で重合させたとき、得られた重合体は支持基板から剥離しにくい。化合物(3)〜(6)は、粘度が小さいので、組成物の粘度を下げるのに適している。化合物(7)または(8)は、液晶相の温度範囲が広いので、組成物における液晶相の温度範囲を広げるのに適している。
【0062】
好ましい化合物(1)および(2)は、既に記載したの化合物(3)〜(8)である。さらに好ましい化合物(1)および(2)は、次に記載する化合物(3a)〜(8b)である。これらは、Pが−O−(CH−または−O−(CH−O−である化合物である。
【0063】

【0064】

【0065】
これらの式において、Rは水素、フッ素、塩素、シアノ(−CN)、ニトロ(−NO)、トリフルオロメトキシ(−OCF)、または炭素数1〜20のアルキルであり、このアルキルにおいて任意の1つまたは2つの−CH−は−O−で置き換えられてもよい。RおよびRの組み合わせは、水素および水素、水素およびメチル、水素およびエチル、またはメチルおよびメチルである。Aは、1,4−シクロへキシレンまたは1,4−フェニレンであり、1,4−フェニレンにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく、そして任意の1つまたは2つの水素はメチルまたはトリフルオロメチルで置き換えられてもよい。Xは単結合、−C≡C−、−CHO−、−OCH−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−(CHCOO−、−OCO(CH−、−CH=CH−COO−、または−OCO−CH=CH−である。dは、1〜10の整数である。
【0066】
次に、化合物(1)および(2)の合成法を説明する。化合物(1)または(2)は、フーベン・ヴァイル(Houben Wyle, Methoden der Organischen Chemie, Georg Thieme Verlag, Stuttgart)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wily & Sons Inc.)、オーガニック・シンセセーズ(Organic Syntheses, John Wily & Sons, Inc.)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などに記載された、有機化学における合成方法を適切に組み合わせることにより合成できる。
【0067】
化合物(1)および(2)における出発物の一つはフルオレン類である。利用できる市販品は、2−ブロモフルオレン、2,7−ジブロモフルオレン、2−ブロモ−7−ペンチルフルオレン、2−アミノ−7−ブロモフルオレンなどである。2−ペンチル−7−ヒドロキシフルオレンおよび7−ペンチルフルオレン−2−カルボン酸は文献に記載された方法で合成される。文献は、Mol. Cryst. Liq. Cryst., 129, 17 (1985)である。2−ブロモ−7−ペンチルフルオレンは特開2000−178211号公報(実施例1、段落0040を参照)に記載された方法で合成できる。2−アセチル−7−ヒドロキシフルオレンは特開2001−139525号公報(実施例1の段落0051を参照)に記載されている。
【0068】
9位がアルキルで置換されたフルオレン誘導体は、フルオレン環の9位をアルキル化することによって合成される。9位がモノアルキル置換されたフルオレンは、フルオレンを1当量のn−ブチルリチウムなどの塩基で処理したあと、1当量の臭化アルキルと反応させることによって合成される。9−メチルフルオレン誘導体は、Organic Syntheses, Collective Volume 4, page 623または特開2003−238491号公報(段落0043〜0044)を参照のこと。9位がジアルキル置換されたフルオレン誘導体は、2当量のn−ブチルリチウムなどの塩基で処理したあと、2当量の臭化アルキルと反応させることによって合成される。Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, Vol. 31, 2465 (1993)に記載された方法を参照のこと。
【0069】
9位がフッ素で置換されたフルオレン誘導体は、9位のフッ素化によって合成される。9,9−ジフルオロフルオレン誘導体は、Synlett, 191 (1991)に記載された方法によって合成される。2,7−ジヒドロキシ−9−メチルフルオレンの合成法は、特開2003−238491号公報(実施例4の段落0092〜0095を参照)に記載されている。
【0070】
オキシラン環はオレフィン類の過酸化物によるエポキシ化反応により生成する。過酸化物の例は過酸化水素、過酢酸、m−クロロ過安息香酸などである。オキセタン環については、3−アルキル−3−オキセタンメタノールを出発物として利用することができる。3−エチル−3−オキセタンメタノールおよび3−メチル−3−オキセタンメタノールが市販されている。文献の方法に従って、これらの化合物と1,2−ジブロモエタン、1,4−ジブロモブタン、1,6−ジブロモヘキサン、1,8−ジブロモオクタンなどのα,ω−ジブロモメチレンとを反応させることによって、炭素鎖長を延ばすことができる。文献は、Macromolecules, 24, 4531−4537 (1991)である。結合基Xの生成法は、特開2003−277359号公報(段落0040〜0053)に開示されている。フルオレン環に接続した結合基Xの生成法は、特開2003−238491号公報(段落0019〜0038)に開示されている。化合物(1)または(2)の合成スキームを例示する。
【0071】

スキーム1.化合物(7b)の合成
【0072】
Xが−COO−および−OCO−(オキシカルボニル)である化合物(7b)の合成(スキーム1):化合物[a]とヒドロキシ安息香酸エステル誘導体を適当な塩基の存在下、エーテル化することによって化合物[b]を得る。塩基の例は水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、水素化ナトリウムなどである。化合物[b]を加水分解して化合物[c]を得る。一方、2,7−ジヒドロキシフルオレン[d]と当量の酸クロリド[e]とを反応させて、モノエステル[f]を得る。このモノエステル[f]と先に得られた化合物[c]とのエステル化によってジエステル[g]を得る。このジエステル[g]を過酸化物で酸化することによって化合物(7b)を合成する。過酸化物の例は過酸化水素水、過蟻酸、過酢酸、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸などである。
【0073】

スキーム2.化合物(8a)または(8b)の合成
【0074】
Xが−COO−および−OCO−(オキシカルボニル)である化合物(8a)または(8b)の合成(スキーム2):化合物[h]とヒドロキシ安息香酸エステルを適当な塩基の存在下、エーテル化することによって化合物[i]を得る。塩基の例は水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、水素化ナトリウムなどである。化合物[i]を加水分解して化合物[j]を得る。モノエステル[f]と化合物[j]とのエステル化によって化合物(8a)または(8b)を合成する。
【0075】
Xが−C≡C−(三重結合)である化合物(8a)または(8b)の合成は下記のスキーム3のとおりである。

スキーム3.化合物(8a)または(8b)の合成
【0076】
Xが−OCO−である化合物(4)、Xが−COO−である化合物(8)、およびXが−CHO−(メチレンオキシ)である化合物(8)は、下記のスキーム4に従って合成される。Xが−OCO−である化合物(5)は、スキーム5に従って合成される。

スキーム4.化合物(4)および(8)の合成
【0077】

スキーム5.化合物(5)の合成
【0078】
このような方法で合成される化合物の例は、化合物No.1〜No.190である。
【0079】

【0080】

【0081】

【0082】

【0083】

【0084】

【0085】

【0086】

【0087】

【0088】

【0089】

【0090】

【0091】

【0092】

【0093】

【0094】

【0095】

【0096】

【0097】

【0098】
次に、本発明の組成物について説明する。この組成物は第一成分として化合物(1)および(2)の少なくとも1つを含有する。この組成物は、通常は複数の化合物の混合物を意味するが、1つの化合物(1)または1つの化合物(2)であっても組成物ということがある。重合させるために重合触媒などを1つの化合物に添加したり、薄膜を作成するために1つの化合物を溶媒で希釈したりすることがあるからである。第一成分を含有する組成物を重合させることによって光学異方性を有する重合体が得られる。この組成物の重合性化合物が第一成分のみであってもよい。この組成物が第一成分および第一成分とは異なる重合性化合物(他の重合性化合物)の両者を含有してもよい。この組成物は次のような組成物A、B、C、Dなどに分類される。組成物Aは、化合物(1)および(2)の群から選ばれた1つの化合物を含有する。組成物Bは、化合物(1)および(2)の群から選ばれた少なくとも2つの化合物を含有する。組成物Cは、第一成分として化合物(1)および(2)の群から選ばれた少なくとも1つの化合物および第二成分として他の重合性化合物の群から選ばれた少なくとも1つの化合物を含有する。組成物Dは非重合性の化合物をさらに含有する組成物A、BまたはCである。
【0099】
「他の重合性化合物」は、化合物(1)および(2)とは異なる重合性化合物(単量体)である。他の重合性化合物は、組成物Cの第二成分として用いられる。この第二成分は得られる重合体の特性を改善したり、修飾したりするのに有用である。この第二成分は、光学的に非活性であってもよいし、光学活性であってもよい。この第二成分は液晶性であってもよいし、非液晶性であってもよい。第二成分は、これらの同種類の化合物だけであってもよいし、種類の異なる化合物を組み合わせてもよい。このような重合性化合物の好ましい例は、オキシラニル基(oxiranyl)、オキセタニル基(oxetanyl)、ビニルオキシ基(−OCH=CH)、ビニル基(−CH=CH)、アクリロイルオキシ基(−OCOCH=CH)、メタアクリロイルオキシ基(−OCOC(CH)=CH)などを有する化合物である。これらの化合物の一例は、特開平8−3111号公報などに記載されている。好ましい第二成分の例は、液晶化合物、光学活性な化合物などである。液晶化合物の好ましい例は、すでに記載した化合物(M1)〜(M6)である。光学活性な化合物の好ましい例は、あとで記載する化合物(OP1)〜(OP14)である。
【0100】
好ましい組成物Cを例示する。最初の例は、第一成分として化合物(1)および(2)の少なくとも1つ、そして第二成分として化合物(M1)〜(M6)の少なくとも1つを含有する組成物Cである。この第二成分の化合物は、化合物(1)および(2)と共重合させるのに適した重合性基を有する。好ましい化合物(M1)〜(M6)は化合物(M1a)〜(M6f)である。
【0101】

【0102】

【0103】

【0104】

【0105】

【0106】

【0107】
これらの式中:Rは水素、フッ素、塩素、シアノ、トリフルオロメトキシ、炭素数1〜20のアルキル、または炭素数1〜20のアルコキシであり、Rは水素または炭素数1〜5のアルキルであり、WおよびWは、独立して水素、塩素、フッ素、またはシアノであり、WおよびWは独立して水素、塩素、フッ素、シアノ、メチル、エチル、プロピル、またはトリフルオロメチルであり、XおよびXは独立して単結合または−O−であり、o、pおよびrは独立して1から20の整数である。
【0108】
第一成分が化合物(3)〜(8)の少なくとも1つであり、そして第二成分が化合物(M1)〜(M6)の少なくとも1つであるとき、好ましい組み合わせの例は、組成物(C1)〜(C12)である。好ましい組成物を表1にまとめる。化合物(M1)〜(M6)は、組成物における液晶相の温度範囲、粘度、液晶相の配向などの特性、または重合体における皮膜形成性、機械的強度、支持基板との密着性などの特性を調整するのに都合がよい。
【0109】
このような組成物Cにおいて、第一成分と第二成分の割合は次のようである。好ましい割合は、第一成分が5〜95重量%の範囲であり、第二成分が5〜95重量%の範囲である。さらに好ましい割合は、第一成分が20〜90重量%の範囲であり、第二成分が20〜80重量%の範囲である。特に好ましい割合は、第一成分が40〜80重量%の範囲であり、第二成分が20〜60重量%の範囲である。
【0110】
表1.好ましい組成物
組成物 第一成分の化合物 第二成分の化合物
組成物C1 (3)、(5)または(7) (M2)
組成物C2 (3)、(5)または(7) (M4)
組成物C3 (3)、(5)または(7) (M6)
組成物C4 (3)、(5)または(7) (M1)または(M2)
組成物C5 (3)、(5)または(7) (M3)または(M4)
組成物C6 (3)、(5)または(7) (M5)または(M6)
組成物C7 (4)、(6)または(8) (M2)
組成物C8 (4)、(6)または(8) (M4)
組成物C9 (4)、(6)または(8) (M6)
組成物C10 (4)、(6)または(8) (M1)または(M2)
組成物C11 (4)、(6)または(8) (M3)または(M4)
組成物C12 (4)、(6)または(8) (M5)または(M6)
【0111】
組成物(C1)〜(C12)の特長は、次のとおりである。1)適当な光カチオン重合触媒の存在下、組成物に紫外線を照射することによって、重合体が容易に得られる。2)重合は、窒素の雰囲気下だけでなく、空気中でも進行する。3)組成物から重合体(フィルム)になるとき、サイズが小さくなりにくい。組成物(C1)〜(C12)のうち、特に好ましい例は、組成物(C2)、(C5)、(C7)、および(C10)である。これらの組成物の特長は次のとおりである。1)重合が早く短時間で高分子量のフィルムが得られる。2)寸法安定性に優れたフィルムが得られる。3)耐熱性に優れたフィルムが得られる。
【0112】
次の例は、第一成分として化合物(1)および(2)の少なくとも1つ、そして第二成分として光学活性な重合性化合物を含有する組成物Cである。第二成分は液晶相にらせん構造を誘起する。第二成分は大きならせん誘起力(helical twist power)を有する化合物が好ましい。光学活性な重合性化合物の好ましい例は化合物(OP1)〜(OP14)である。
【0113】

【0114】

【0115】
これらの式において、Rは水素または炭素数1〜5のアルキルであり、WおよびWは独立して水素、塩素、フッ素、またはシアノであり、WおよびWは独立して水素、塩素、フッ素、シアノ、メチル、エチル、プロピル、またはトリフルオロメチルであり、Xは単結合または−O−であり、o、pおよびrは独立して1から20の整数であり、そして*は不斉炭素である。化合物(OP10)〜(OP13)は軸不斉である。
【0116】
このような組成物において、第一成分と第二成分の割合は次のようである。好ましい割合は、第一成分が5〜95重量%の範囲であり、第二成分が5〜95重量%の範囲である。さらに好ましい割合は、第一成分が20〜90重量%の範囲であり、第二成分が20〜80重量%の範囲である。特に好ましい割合は、第一成分が40〜80重量%の範囲であり、第二成分が20〜60重量%の範囲である。
【0117】
組成物A,BまたはCは、非液晶性であり、そして光学的に非活性である重合性化合物をさらに含有してもよい。このような化合物の例は、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルモノビニルエーテル、tert−アミルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールメチルビニルエーテル、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−メチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、ジ(3−エチル−オキセタ−3−イルメチル)、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタンなどである。これらの化合物は、組成物の粘度を調整するのに適している。これらの化合物は、組成物を塗布するとき、塗膜の厚さを均一にする効果が大きい。
【0118】
組成物Dは、非重合性の化合物をさらに含有する組成物A,BまたはCである。このような化合物の例は、液晶化合物、光学活性な化合物などである。液晶化合物の例は、富士通九州エンジニアリング社が販売する液晶化合物データベース(登録商標:LiqCryst)などに記載されている。このような化合物は、組成物の粘度を調整する、液晶相の温度範囲を調整する、という役割が期待できる。光学活性な化合物は、組成物のピッチを調整するという役割が期待できる。
【0119】
A、B、C、Dなどの組成物は、必要に応じて添加物をさらに含有してもよい。重合体の特性を調整するための添加物の例は、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、微粒子などである。単量体を重合させるための添加物の例は、重合開始剤、増光剤などである。組成物を希釈するためには有機溶媒が好ましい。これらの添加物の割合は、その目的を達する程度の少ない量が好ましい。
【0120】
界面活性剤は組成物を支持基板などに塗布するのを容易にする、液晶相の配向を制御する、などの効果を有する。界面活性剤の例は、4級アンモニウム塩、アルキルアミンオキサイド、ポリアミン誘導体、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物、ポリエチレングリコールおよびそのエステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸アミン類、アルキル置換芳香族スルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ペルフルオロアルキルスルホン酸塩、ペルフルオロアルキルカルボン酸塩、ペルフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、ペルフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩などである。界面活性剤の好ましい割合は、界面活性剤の種類、組成物の成分比などに依存するが、重合性化合物の全重量に基づいて100ppmから5重量%の範囲である。さらに好ましい割合は0.1から1重量%の範囲である。
【0121】
酸化防止剤の例は、ヒドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、トリフェニルフォスファイト、トリアルキルフォスファイトなどである。好ましい市販品は、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製のイルガノックス245、イルガノックス1035などである。
【0122】
紫外線吸収剤の例は、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製のチヌビンPS、チヌビン213、チヌビン109、チヌビン328、チヌビン384−2、チヌビン327、チヌビン400、チヌビン411Lなどである。
【0123】
光学異方性を調整したり、重合体の強度を上げるために、微粒子を添加してもよい。好ましい微粒子の材質は、無機物、有機物、金属などである。微粒子の好ましい粒径は、0.001〜0.1μmである。さらに好ましい粒径は0.001〜0.05μmである。材質にもよるが、凝集現象を防止するために、小さい粒径が好ましい。粒径の分布はシャープな方が好ましい。好ましい割合は、0.1〜30重量%である。添加の目的を達する限り、少ない割合が好ましい。
【0124】
無機物の例は、セラミックス、フッ素金雲母、フッ素四ケイ素雲母、テニオライト、フッ素バーミキュライト、フッ素ヘクトライト、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、モンモリロナイト、バイデライト、カオリナイト、フライポンタイト、ZnO、TiO、CeO、Al、Fe、ZrO、MgF、SiO、SrCO、Ba(OH)、Ca(OH)、Ga(OH)、Al(OH)、Mg(OH)、Zr(OH)などである。炭酸カルシウムの針状結晶などの微粒子は光学異方性を有する。このような微粒子によって、重合体の光学異方性を調節できる。有機物の例は、カーボンナノチューブ、フラーレン、デンドリマー、ポリビニルアルコール、ポリメタクリレート、ポリイミドなどである。
【0125】
好ましい重合開始剤は光カチオン重合用の開始剤である。この開始剤は、特に組成物(C1)〜(C13)に適している。この開始剤の例は、ジアリールヨードニウム塩(以下DASと略す)、トリアリールスルホニウム塩(以下TASと略す)などである。
【0126】
DASの例は、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスホネート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルセネート、ジフェニルヨードニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−メトキシフェニルフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、4−メトキシフェニルフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスホネート、4−メトキシフェニルフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルセネート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルセネート、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネートなどである。
【0127】
DASと光増感剤の組み合わせは好ましい。光増感剤の例は、チオキサントン、フェノチアジン、クロロチオキサントン、キサントン、アントラセン、ジフェニルアントラセン、ルブレンなどである。
【0128】
TASの例は、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスホネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアルセネー、トリフェニルスルホニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−メトキシフェニルジフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、4−メトキシフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスホネート、4−メトキシフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、4−メトキシフェニルジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホナート、4−メトキシフェニルジフェニルスルホニウムトリフェニルスルホニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−フェニルチオフェニルジフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、4−フェニルチオフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスホネート、4−フェニルチオフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアルセネートなどである。
【0129】
光カチオン重合に用いる開始剤の商品名の例は、みどり化学(株)のDTS−102などである。この例は、UCC社のサイラキューアーUVI−6990、サイラキュアーUVI−6974、サイラキュアーUVI−6992などでもある。この例は、旭電化(株)のアデカオプトマーSP−150、SP−152、SP−170、SP−172などでもある。この例は、ローディア社のPHOTOINITIATOR2074、チバスペシャリティー社のイルガキュアー250、GEシリコンズ社のUV−9380C、などでもある。
【0130】
溶媒の例は、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、n−ブチルベンゼン、ジエチルベンゼン、テトラリン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、t−ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、グリセリン、モノアセチン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブなどである。溶媒は単一化合物であってもよいし、または混合物であってもよい。
【0131】
次に、本発明の重合体について説明する。化合物(1)および(2)は重合性の基を有する。これらの化合物を含有する組成物を重合させることによって重合体が得られる。得られた重合体は光学異方性を有する。反応の種類は、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位重合、リビング重合などである。重合性基の性質を考慮すると、好ましい反応はカチオン重合である。配向の優れた重合体を得るときは、光の照射によるカチオン重合がさらに好ましい。組成物が液晶相を有する条件下で、重合を行なわせるのが容易だからである。
【0132】
好ましい光の種類は、紫外線、可視光線、赤外線などである。電子線、X線などの電磁波を用いてもよい。通常は、紫外線または可視光線が好ましい。好ましい波長の範囲は150〜500nmである。さらに好ましい範囲は250〜450nmであり、最も好ましい範囲は300〜400nmである。光源は、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)、またはショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)などである。好ましい光源は超高圧水銀ランプである。光源からの光はそのまま組成物に照射してもよい。フィルターによって選択した特定の波長(または特定の波長領域)を組成物に照射してもよい。好ましい照射エネルギー密度は、2〜5000mJ/cm2である。さらに好ましい範囲は10〜3000mJ/cm2である。特に好ましい範囲は100〜2000mJ/cm2である。好ましい照度は0.1〜5000mW/cmである。さらに好ましい照度は1〜2000mW/cmである。組成物が液晶相を有するように、光を照射するときの温度を設定する。好ましい照射温度は100℃以下である。100℃以上の温度では熱による重合が起こりうるので、良好な配向が得られないときがある。
【0133】
組成物Aを重合させるとき、単独重合体が得られる。この単独重合体は1つの構成単位からなる。組成物Bまたは組成物Cを重合させるとき、共重合体が得られる。この共重合体は少なくとも2つの構成単位を有する。共重合体における構成単位の配列は、ランダム、ブロック、交互などのいずれであってもよい。組成物Dを重合させるとき、非重合性の化合物を不均一に含有する重合体が得られる。この重合体は少なくとも1つの構成単位を有する。
【0134】
化合物(1)または(2)を単量体として使用することによって熱可塑性樹脂が得られる。この樹脂は、1つの重合性基を有する化合物を主成分にすることによって、線状の高分子構造を有する。熱可塑性樹脂の好ましい重量平均分子量は500〜1,000,000であり、好ましくは1,000〜500,000、より好ましくは5,000〜100,000である。熱可塑性樹脂を合成するときは、反応を制御して重合度を調節する。熱可塑性樹脂を合成するとき、共重合における好ましい第二成分は化合物(M1)、(M3)、(M5)などである。
【0135】
化合物(1)または(2)を単量体として使用することによって熱硬化性樹脂も合成できる。2つの重合性基を有する化合物を主成分にした組成物から、この樹脂が得られる。この樹脂は、三次元の架橋構造を有するので、溶媒に溶けないし、融解しない。したがって、分子量を測定できない。熱硬化性樹脂を合成するとき、共重合における好ましい第二成分は化合物(M2)、(M4)、(M6)などである。
【0136】
重合体の形状は、フィルム、板などである。重合体は成形されてもよい。フィルムの重合体を得るには、一般的に支持基板が用いられる。支持基板の上に組成物を塗布し、液晶相を有している塗膜(paint film)を重合させるとフィルムが得られる。好ましい重合体の厚さは、重合体の光学異方性の値および用途に依存する。従って、その範囲を厳密に決定することはできないが、好ましい厚さは0.05〜50μmの範囲であり、さらに好ましい厚さは0.1〜20μmの範囲である。特に好ましい厚さは0.5〜10μmの範囲である。これらの重合体のヘイズ値(haze value;曇り度)は、一般的に1.5%以下である。これらの重合体の透過率は、可視光領域において一般的に80%以上である。したがって、これらの重合体は液晶表示素子に用いる光学異方性の薄膜として適している。
【0137】
支持基板の例は、トリアセチルセルロース(TACと表記することがある)、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリエステル、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどである。商品名の例は、JSR(株)の「アートン」、日本ゼオン(株)の「ゼオネックス」および「ゼオノア」、三井化学(株)の「アペル」などである。支持基板は一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムなどである。好ましい支持基板はトリアセチルセルロースフィルムである。このフィルムを前処理することなくそのまま用いてもよい。このフィルムは、必要に応じて、鹸化処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、UV−オゾン処理などの表面処理を行ってもよい。その他の例は、アルミニウム、鉄、銅などの金属製の支持基板、アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、フリントガラスなどのガラス製の支持基板などである。
【0138】
支持基板上の塗膜は、組成物をそのまま塗布することによって調製される。塗膜は、組成物を適切な溶媒に溶かして塗布したあと、溶媒を除去することによっても調製される。塗布の方法は、スピンコート、ロールコート、カテンコート、フローコート、プリント、マイクログラビアコート、グラビアコート、ワイヤーバーコード、デップコート、スプレーコート、メニスカスコート、流延成膜法などである。
【0139】
液晶の配向を決定する因子は、1)重合性化合物の化学構造、2)支持基板の種類、3)配向処理の方法、などである。項1)において、配向は重合性化合物の側鎖、環、結合基、重合性基などの種類に依存する。項2)において、配向は重合体、ガラス、金属などのような支持基板の材質に依存する。項3)に関しては、レーヨン布などで一方向にこする(ラビング)、酸化ケイ素を斜方蒸着させる、スリット状にエッチング加工する、などの方法がある。ラビング処理においては、支持基板を直接的にラビングしてもよい。支持基板をポリイミド、ポリビニルアルコールなどの薄膜でコーティングし、この薄膜をラビングしてもよい。ラビング処理をしなくても、良好な配向を与える特殊な薄膜も知られている。
【0140】
液晶化合物における配向の分類は、ホモジニアス(homogenerous;平行)、ホメオトロピック(homeotropic;垂直)、ハイブリッド(hybrid)、チルト(tilt)、ツイスト(twist)などである。ホモジニアスは、配向ベクトルが基板に平行で、かつ一方向にある状態をいう。ホメオトロピックは、配向ベクトルが基板に垂直である状態をいう。ハイブリッドは、配向ベクトルが基板から離れるにしたがって、平行から垂直に立ちあがっている状態をいう。チルトは、配向ベクトルが基板に対して、一定の傾き角で起きあがっている状態をいう。これらの配向は、ネマチック相などを有する組成物で観察される。一方、ツイスト配向は、キラルなネマチック相、コレステリック相などを有する組成物で観察される。ツイストは、配向ベクトルが基板に平行ではあるが、基板から離れるにしたがって、漸次ねじれている状態をいう。このねじれは光学活性な基の作用によって生起する。
【0141】
重合体の用途について説明する。この重合体は、光学異方性を有する成形体として使用できる。この重合体の用途の例は、位相差板(1/2波長板、1/4波長板など)、反射防止膜、選択反射膜、視野角補償膜などの光学フィルムである。ホモジニアス、ハイブリット、ホメオトロピックなどの配向を有する重合体は、位相差板、偏光素子、液晶配向膜、反射防止膜、選択反射膜、視野角補償膜、などに利用できる。ツイストなどの配向を有する重合体は、位相差板、偏光素子、選択反射膜、視野角補償膜などに利用できる。このような重合体は、液晶ディスプレイの位相差板や視野角補償膜などに、光学補償を目的として用いられる。このような重合体は、高熱伝導性エポキシ樹脂、接着剤、機械的異方性を持つ合成高分子、化粧品、装飾品、非線型光学材料、情報記憶材料などにも利用できる。
【0142】
熱可塑性樹脂は接着剤、機械的異方性を持つ合成高分子、化粧品、装飾品、非線形光学材料および情報記憶材料などの用途に適している。熱硬化性樹脂は液晶表示素子の構成要素である位相差板、偏光素子、液晶配向膜、反射防止膜、選択反射膜、視野角補償膜などの用途に適している。
【0143】
位相差板は偏光の状態を変換する機能を有する。1/2波長機能板は、直線偏光の振動方向を90度回転させる機能を有する。d=λ/2×Δnの式を満たすように組成物を支持基板上に塗布する。ここで、dは組成物の厚さ、λは波長、Δnは光学異方性である。この組成物の配向させたあと、光重合させることによって1/2波長機能板が得られる。一方、1/4波長機能板は、直線偏光を円偏光に、または円偏光を直線偏光に変換する機能を有する。この場合には、d=λ/4×Δnの条件を満たすように組成物の塗膜を調製すればよい。重合体の厚さ(d)は次のように調整される。組成物を溶媒で希釈したあと、支持基板上に塗布する方法では、組成物の濃度、塗布する方法、塗布する条件などを適切に選択することによって、目的とする厚さの塗膜を得ることができる。液晶セルを利用する方法も好ましい。液晶セルはポリイミドなどの配向膜を有しているので都合がよい。この液晶セルに組成物を注入する場合には、液晶セルの間隔によって塗膜の厚さを調整することができる。
【0144】
ツイスト配向を有する重合体は、位相差板として有用である。らせんのピッチが、波長の1/n(nは重合体の平均屈折率)であるとき、この波長の光はブラッグの法則に従って反射され、円偏光に変換される。円偏光の方向は、らせんの方向、すなわち光学活性な化合物の立体配置に依存する。光学性な化合物の立体配置を適切に選択することによって、円偏光の方向を決めることができる。この重合体は、円偏光分離機能素子として有用である。
【0145】
この重合体は、輝度向上フィルムとしても有用である。例えば特開平6−281814号公報などに開示された方法に従えば、らせんピッチが厚さ方向に連続的延びる重合体が得られる。この重合体は、ピッチに応じた広い波長領域の光を反射することができる。この重合体は、100〜350nm(または波長350〜750nm)の領域の光を選択的に反射することができる。
【実施例】
【0146】
特性の測定法を記載したあと、実施例により本発明を詳細に説明する。実施例は、本発明の一例である。本発明は下記の実施例によって限定されない。組成物における割合の単位は、重量%(wt%)である。
【0147】
相転移温度: 偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で昇温した。液晶相が別の液晶相に転移する温度を測定した。Cは結晶、Nはネマチック相、SAはスメクチックA相、Iは等方性液体を意味する。NI点は、ネマチック相の上限温度またはネマチック相から等方性液体への転移温度である。「C50N63I」は、50℃で結晶からネマチック相に転移し、63℃でネマチック相から等方性液体へ転移したことを示す。
【0148】
セロテープ(登録商標)剥離試験: 測定は、JIS規格「JIS−K−5400、8.5、付着性(8.5.2、碁盤目テープ法)」の試験法に従った。つまり、100のます目のうち、剥離しなかったます目の数によって、結果を評価した。
【0149】
鉛筆硬度: 測定は、JIS規格「JIS−K−5400、8.4、鉛筆引掻試験」の方法に従った。結果を鉛筆の芯の硬さで表した。
【0150】
耐熱性試験は: この試験は100℃で500時間の条件で行ない、結果はリタデーション(retardation)の変動によって評価した。ガラス基板にポリアミック酸(チッソ(株)のPIA5310)を塗布したあと、210℃で30分加熱して支持基板を得た。加熱によって生成したポリイミドの表面はレーヨン布でラビングした。試料の組成物をトルエンとシクロペンタノンの混合溶媒(重量比で2:1)で希釈して30重量%の溶液を調製した。溶液をスピンコータで支持基板に塗布し、70℃で3分間加熱したあと、生成した塗膜に超高圧水銀灯(250W/cm)を使って紫外線を60℃で10秒間照射した。得られた重合体のリタデーションを25℃で測定した。重合体を100℃で500時間加熱したあと、再度リタデーションを25℃で測定した。2つの値を比較して耐熱性を評価した。レタデーションは、文献の方法に従い、セナルモン・コンペンセータ(Senarmont compensator)を用いて測定した。使用した波長は550nmである。文献は、粟屋裕著、「高分子素材の偏光顕微鏡入門」、94頁、アグネ技術センター発行、2001年である。
【0151】
光学異方性(△n): 上記の耐熱性試験の方法にしたがって重合体のリタデーション(25℃)の値を測定した。重合体の厚さ(d)も測定した。リタデーションは△n×dであるから、この関係から光学異方性の値を算出した。
【0152】
配向: 配向は偏光顕微鏡によって観察した。重合体は支持基板の上に調製した。支持基板には、ケン化処理したTAC(トリアセチルセルロース)フィルムを用いた。この試料を、クロスニコルに配置した2枚の偏光板に挟持した。配向の種類は、透過光強度の角度依存性から判断した。
【0153】
実施例1
化合物No.18の合成
第1段階:アリル(4−クロロブチル)エーテル14g、4−ヒドロキシ安息香酸14g、および炭酸カリウム14gのジメチルホルムアミド(50ml)溶液を90℃で3時間かくはんした。水を加えトルエンで抽出した。トルエン層を水でよく洗浄したあと、トルエンを留去した。得られた残査に水酸化ナトリウム20g、水50ml、エタノール200mlを加え、2時間還流した。エタノールを留去したあと、残査に塩酸を加えて酸性にした。ジエチルエーテルで抽出し、抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去して得られた残査をエタノールと水との混合溶媒から再結晶して、29gの4−(4−アリルオキシブチルオキシ)安息香酸を得た。相転移温度:C94N107I。
【0154】
第2段階:2,7−ジヒドロキシ−9−メチルフルオレン10gおよびピリジン8gのテトラヒドロフラン(100ml)溶液にオクチルオキシ安息香酸クロリド12.5gを数回に分けて加え、5時間還流した。反応混合物に5%塩酸を50ml加え、塩化メチレンで抽出した。抽出液をpHが酸性になるまで5%塩酸で洗浄したあと、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去して得られた残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒:塩化メチレン)で精製し、10gの2−(4−オクチルオキシベンゾイルオキシ)−7−ヒドロキシ−9−メチルフルオレン(J1)を得た。融点140〜143℃。

【0155】
第3段階:4−(4−アリルオキシブチルオキシ)安息香酸0.84gおよび2−(4−オクチルオキシベンゾイルオキシ)−7−ヒドロキシ−9−メチルフルオレン(J1)1.5gの塩化メチレン(50ml)溶液に、5℃を保ちながらジメチルアミノピリジン0.01g、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩0.8gを加え、さらに室温で12時間攪拌した。水50mlを加え、得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去して得られた残査をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、0.5gの2−[4−(4−アリルオキシブチルオキシ)ベンゾイルオキシ]−7−(4−オクチルオキシベンゾイルオキシ)−9−メチルフルオレン(J2)を得た。
【0156】

【0157】
第4段階:2−[4−(4−アリルオキシブチルオキシ)ベンゾイルオキシ]−7−(4−オクチルオキシベンゾイルオキシ)−9−メチルフルオレン(J2)0.5gの塩化メチレン(20ml)溶液に、m−クロロ安息香酸1gを加え、室温で2日間かくはんした。反応混合物を5%水酸化ナトリウム水溶液、亜硫酸水素ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液の順で洗浄したあと、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去して得られた残査を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、エタノールおよび酢酸エチルの混合溶媒から再結晶して0.1gの化合物No.18を得た。相転移温度は下記のとおりである。

【0158】
実施例2
化合物No.19の合成
第1段階:実施例1、第2段階と同様の方法で下記の化合物(J3)を合成した。相転移温度は下記のとおりである。原料にはp−シアノ安息香酸クロリドと2,7−ジヒドロキシ−9−メチルフルオレンを用いた。

【0159】
第2段階:実施例1、第3段階と同様の方法で下記の化合物(J4)を合成した。原料には化合物(J3)と4−(4−アリルオキシブチルオキシ)安息香酸を用いた。

【0160】
第3段階:実施例1、第4段階と同様の方法で下記の化合物No.19を合成した。相転移温度は下記のとおりである。

【0161】
実施例3
化合物No.68の合成
第1段階:3−[(6−ブロモヘキシルオキシ)メチル]−3−エチルオキセタン500g、4−ヒドロキシ安息香酸297gおよび炭酸カリウム490gのジメチルホルムアミド(3L)溶液を90℃で8時間かくはんした。反応混合物に水4Lを加えたあと、トルエン4Lで抽出した。有機層を水で洗浄して、溶媒を留去した。得られた残査に水酸化ナトリウム200g、水1L、エタノール2.5Lを加え、4時間還流した。エタノール(1L)を常圧で留去した後、塩酸で酸性にして、スラリーを得た。スラリーをろ過して乾燥することによて400gの4−[6−(3−エチルオキセタン−3−イルメトキシ)ヘキシルオキシ]安息香酸を得た。融点:58.5℃。
【0162】
同様の方法により、次の化合物を合成した。4−[6−(3−メチルオキセタン−3−イルメトキシ)ヘキシルオキシ]安息香酸(融点:61℃)。4−[4−(3−エチルオキセタン−3−イルメトキシ)ブチルオキシ]安息香酸(融点:75.3〜77.7℃)。2−フルオロ−4−[4−(3−エチルオキセタン−3−イルメトキシ)ブチルオキシ]安息香酸(融点:75〜80℃)。4−(3−エチルオキセタン−3−イルメトキシ)安息香酸(融点:127.5℃)。
【0163】
第2段階:4−[6−(3−エチルオキセタン−3−イルメトキシ)ヘキシルオキシ]安息香酸0.76gおよび化合物(J3)0.8gの塩化メチレン(50ml)溶液を5℃まで冷却したあと、ジメチルアミノピリジン0.05g、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩0.5gを加え、室温で12時間かくはんした。反応混合物に水50mlを加え、有機層を分離し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去して得られた残査をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、さらにエタノールから再結晶して3gの化合物No.68を得た。相転移温度は下記のとおりである。


【0164】
実施例4
実施例3、第2段階で、化合物(J2)を用いて、化合物No.65を合成した。相転移温度は下記のとおりである。

【0165】
比較例1
実施例4の化合物No.65は1つのオキセタン環を有する。この化合物を2つのオキセタンを有する下記の化合物と比較する。化合物No.65のネマチック相の温度範囲は79℃から171℃までの92℃であった。下記の化合物のそれは59℃から130.7℃までの71.7℃であった。したがって、本発明の化合物の方がネマチック相の温度範囲が広いと結論される。

【0166】
実施例5
化合物No.171の合成
第1段階:2−アセチル−7−ヒドロキシフルオレン22.4g、アリル(4−クロロブチル)エーテル18g、炭酸カリウム20gをジメチルホルムアミド150mlに加え、90℃で8時間かくはんした。反応混合物を6N塩酸300mlに注ぎ、固形物を得た。固形物をろ別し、乾燥したあと、固形物をエタノールから再結晶して22gの2−アセチル−7−(4−アリルオキシブチルオキシ)フルオレンを得た。融点は77℃であった。
【0167】
第2段階:2−アセチル−7−(4−アリルオキシブチルオキシ)フルオレン22gのジオキサン(380ml)溶液を8℃に冷却した。そこへ水209ml、水酸化ナトリウム42.7g、臭素15.2mlから調製した次亜臭素酸ナトリウムを滴下した。滴下後に40℃で15分間かくはんした。反応混合物を10℃に冷却したあと、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えた。塩酸で酸性にすることによって析出した固形物をろ過してから乾燥した。固形物を酢酸から再結晶して15gの2−(4−アリルオキシブチルオキシ)フルオレン−7−カルボン酸を得た。相転移温度:C164N222I。
【0168】
第3段階:2−(4−アリルオキシブチルオキシ)フルオレン−7−カルボン酸2gおよび4−シアノフェノール1.17gの塩化メチレン(50ml)溶液を5℃に冷却し、これにジメチルアミノピリジン0.05g、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩1.4gを加え、室温で12時間かくはんした。反応混合物に水50mlを加え、有機層を分離し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去して得られた残査をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、さらにエタノールから再結晶して2.3gの化合物(J5)を得た。

【0169】
第4段階:化合物(J5)2.3gの塩化メチレン(20ml)溶液に、m−クロロ安息香酸1.5gを加え、室温で2日間かくはんした。反応混合物を5%水酸化ナトリウム水溶液、亜硫酸水素ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液の順で洗浄したあと、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去して得られた残査を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、エタノールおよび酢酸エチルの混合溶媒から再結晶して1.4gの化合物No.171を得た。

【0170】
実施例6
実施例4、第3段階で、4−シアノフェノールの代わりに3−フルオロ−4−トリフルオロメトキシフェノールを用いて、化合物(J6)を合成した。相転移温度:C110N176I。次に実施例3、第4段階の方法で酸化して化合物No.172を合成した。

【0171】
実施例7
50重量%の化合物No.68および50重量%の化合物(K1)から組成物(CL1)を調製した。この組成物は室温でネマチック相を有した。化合物No.68は良好な相溶性を有し、相分離することはなかった。組成物(CL1)は、ラビングしたTACフィルム上に塗布したところ、ホモジニアス配向を示した。

【0172】
TACフィルムをケン化処理したあと、その表面をレーヨン布によりラビングした。このフィルムに、組成物(CL1)1gおよびDTS−102(みどり化学(株)の重合開始剤)0.03gのシクロペンタノン(4g)、トルエン(4g)溶液を、スピンコーターを用いて塗布した。塗布後、60℃に設定したオーブン中で5分間加熱した。この熱処理によって溶媒を除去し、液晶分子を配向させた。超高圧水銀灯(250W/cm)を使って紫外線を60℃で10秒間照射し、液晶配向フィルム(F1)を得た。組成物のホモジニアス配向は重合によっても保持された。このフィルムのセロテープ剥離試験において、剥離したます目はなかった。このフィルムの鉛筆硬度は2Hであった。
【0173】
実施例8
70重量%の化合物No.18および30重量%の化合物(K2)から組成物(CL2)を調製した。この組成物は室温でネマチック相を有した。化合物No.18は良好な相溶性を有し、相分離することはなかった。組成物(CL2)は、ラビングしたTACフィルム上に塗布したところ、ハイブリッド配向を示した。

【0174】
TACフィルムをケン化処理したあと、その表面をレーヨン布によりラビングした。このフィルムに、組成物(CL2)1gおよびDTS−102(みどり化学(株)の重合開始剤)0.03gのシクロペンタノン(8g)溶液を、スピンコーターを用いて塗布した。塗布後、60℃に設定したオーブン中で5分間加熱した。この熱処理によって溶媒を除去し、液晶分子を配向させた。超高圧水銀灯(250W/cm)を使って紫外線を60℃で10秒間照射し、液晶配向フィルム(F2)を得た。組成物のハイブリッド配向は重合によっても保持された。このフィルムのセロテープ剥離試験において、剥離したます目はなかった。このフィルムの鉛筆硬度は2Hであった。
【0175】
これらのフィルムの評価結果を表2にまとめる。これらの結果から、1)重合体は支持基板から剥離しにくい、2)重合体は硬い、ということが分かった。

表2.評価結果
フィルム番号 セロテープ剥離試験 鉛筆硬度 配向
F1 100/100 2H ホモジニアス
F2 100/100 2H ハイブリッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)または(2)で表される化合物。

式(1)または(2)において、Rは水素、フッ素、塩素、シアノ、ニトロ、または炭素数1〜20のアルキルであり、このアルキルにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく、そして任意の1つまたは2つの−CH−は−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CO−、−CH=CH−、または−C≡C−で置き換えられてもよく:Rは水素または炭素数1〜8のアルキルであり、このアルキルにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく;RおよびRは独立して水素、フッ素、塩素、または炭素数1〜10のアルキルであり、このアルキルにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく、そして任意の1つまたは2つの−CH−は−O−、−S−、−COO−、−OCO−、−CO−、−CH=CH−、または−C≡C−で置き換えられてもよく;Aは1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイル、ピリダジン−3,6−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、またはテトラヒドロナフタレン−2,6−ジイルであり、この1,4−フェニレンにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく、そして任意の1つまたは2つの水素はシアノ、メチル、エチル、メトキシ、ヒドロキシ、ホルミル、アセトキシ、アセチル、トリフルオロアセチル、ジフルオロメチル、またはトリフルオロメチルで置き換えられてもよく;Xは単結合、−(CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−(CH−、−(CHCOO−、−OCO(CH−、−CH=CH−COO−、または−OCO−CH=CH−であり;Pは炭素数1〜20のアルキレンであり、このアルキレンにおいて任意の水素はフッ素または塩素で置き換えられてもよく、任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよく、任意の1つまたは2つの−CH−は−COO−または−OCO−で置き換えられてもよく、そして任意の1つの−CH−は−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく;そしてmおよびnは独立して0、1または2であり、そしてmとnの和は1、2、3、または4である。
【請求項2】
式(1)または(2)において、Rが水素、フッ素、塩素、シアノ、ニトロ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、フルオロメトキシ、テトラフルオロエチル、ヘキサフルオロプロピル、炭素数1〜15のアルキル、炭素数1〜15のアルコキシ、または炭素数2〜15のアルコキシアルキルであり;Rが水素または炭素数1〜5のアルキルであり;RおよびRが独立して水素、フッ素、塩素、炭素数1〜8のアルキルであり;Aが1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレン、ピリジン−2,5−ジイルであり、この1,4−フェニレンにおいて任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の1つの水素はメチル、エチル、メトキシ、アセトキシ、またはアセチルで置き換えられてもよく;Xが単結合、−(CH−、−CH=CH−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−COO−、−OCO−、または−(CH−であり;Pが炭素数1〜10のアルキレンであり、このアルキレンにおいて任意の−CH−は−O−で置き換えられてもよく、そして任意の1つの−CH−は−COO−または−OCO−で置き換えられてもよく;そしてmおよびnは独立して0、1または2であり、そしてmとnの和は1、2または3である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(1)または(2)において、Pが−O−、−(CH−、−O−(CH−、−(CH−O−、−O−(CH−O−、−COO−(CH−O−、−OCO−(CH−O−、または−O−(CHCHO)s−であり、dが2から10の整数であり、sが2から5の整数であり、mおよびnは独立して0、1または2であり、そしてmとnの和は1または2である請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
下記の式(3)〜(8)で表されるいずれか1つの化合物。

上式において、Rがフッ素、塩素、シアノ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、フルオロメトキシ、テトラフルオロエチル、ヘキサフルオロプロピル、炭素数1〜15のアルキル、炭素数1〜15のアルコキシ、または炭素数2〜15のアルコキシアルキルであり;Rが水素、炭素数1〜4のアルキルであり;RおよびRが独立して水素、フッ素、塩素、または炭素数1〜4のアルキルであり;Aが1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,3,5−トリフルオロ−1,4−フェニレン、または2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−フェニレンであり;Xが単結合、−C≡C−、−COO−または−OCO−であり;Pが−O−、−O−(CH−、−O−(CH−O−または−O−(CHCHO)s−であり、dが1から15の整数であり、そしてsが2から5の整数である。
【請求項5】
式(3)〜(8)において、Rがシアノ、トリフルオロメトキシ、炭素数1〜13のアルキル、炭素数1〜13のアルコキシ、または炭素数2〜13のアルコキシアルキルであり;Rが水素、メチル、またはエチルであり;RおよびRの組み合わせが水素および水素、水素およびフッ素、フッ素およびフッ素、水素および塩素、水素およびメチル、水素およびエチル、メチルおよびメチル、メチルおよびエチル、またはエチルおよびエチルであり;Aが1,4−シクロへキシレン、1,4−フェニレン、2−フルオロ−1,4−フェニレン、2,3−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,5−ジフルオロ−1,4−フェニレン、2,6−ジフルオロ−1,4−フェニレンであり;Xが単結合、−COO−または−OCO−であり;Pが−O−、−O−(CH−、−O−(CH−O−、または−O−(CHCHO)s−であり、dが1から10の整数であり、そしてsが2から5の整数である請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
式(3)、(5)または(7)において、Rが炭素数1〜10のアルキルであり;Rが水素であり;RおよびRの組み合わせが水素および水素、水素およびメチル、水素およびエチル、メチルおよびメチル、メチルおよびエチル、またはエチルおよびエチルであり;Aが1,4−フェニレンであり;Xが−COO−または−OCO−であり;Pが−O−、−O−(CH−または−O−(CH−O−であり、そしてdが2から10の整数である請求項4または5に記載の化合物。
【請求項7】
式(3)、(5)または(7)において、Pが−O−(CH−または−O−(CH−O−であり、そしてdが2から10である請求項4、5または6に記載の化合物。
【請求項8】
式(3)、(5)または(7)において、RおよびRの組み合わせが水素および水素、水素およびメチル、またはメチルおよびメチルである請求項4〜7のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
式(4)、(6)または(8)において、Rが炭素数1〜10のアルキルであり;Rがメチルまたはエチルであり;RおよびRの組み合わせが水素および水素、水素およびメチル、水素およびエチル、メチルおよびメチル、メチルおよびエチル、またはエチルおよびエチルであり;Aが1,4−フェニレンであり;Xが−COO−または−OCO−であり;Pが−O−、−O−(CH−または−O−(CH−O−であり、そしてdが2から10の整数である請求項4または5に記載の化合物。
【請求項10】
式(4)、(6)または(8)において、Pが−O−(CH−または−O−(CH−O−であり、そしてdが2から10の整数である請求項4、5または9に記載の化合物。
【請求項11】
式(4)、(6)または(8)において、RおよびRの組み合わせが水素および水素、水素およびメチル、またはメチルおよびメチルである請求項4、5、9、または10に記載の化合物。
【請求項12】
下記の式(1A)〜(1L)および式(2A)〜(2F)で表されるいずれか1つの化合物。



上式において、Rはシアノ、トリフルオロメトキシ、炭素数1〜10のアルキル、または炭素数1〜10のアルコキシであり、dは2から10の整数である。
【請求項13】
第一成分として、請求項1〜3のいずれか1項に記載の少なくとも1つの化合物を含有する組成物。
【請求項14】
第一成分として、請求項4〜12のいずれか1項に記載の少なくとも1つの化合物を含有する組成物。
【請求項15】
第二成分として、請求項1に記載の化合物とは異なる重合性の化合物をさらに含有する請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
第二成分が式(M1)、式(M2)、式(M3)、式(M4)、式(M5)、および式(M6)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物である請求項15に記載の組成物。

式(M1)〜式(M6)において、Raは水素、フッ素、塩素、シアノ、トリフルオロメトキシ、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、炭素数2〜20のアルコキシアルキル、炭素数2〜20のアルケニル、または炭素数2〜20のアルケニルオキシであり;Rbは水素または炭素数1〜5のアルキルであり;Bは1,4−シクロへキシレンまたは1,4−フェニレンであり、この1,4−フェニレンにおいて任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の1つまたは2つの水素はメチルまたはトリフルオロメチルで置き換えられてもよく、そしてBの1つはピリジン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、フルオレン−2,7−ジイル、9−メチルフルオレン−2,7−ジイル、9−エチルフルオレン−2,7−ジイル、9,9−ジメチルフルオレン−2,7−ジイル、9−クロロフルオレン−2,7−ジイル、または9,9−ジフルオロフルオレン−2,7−ジイルであってもよく;Yは単結合、−COO−、−OCO−、−(CH−、または−C≡C−であり;Qは単結合または炭素数1〜20のアルキレンであり、このアルキレンにおいて1つまたは2つの−CHは−O−で置き換えられてもよく;そしてtは1または2である。
【請求項17】
式(M1)〜式(M6)において、Raはフッ素、シアノ、トリフルオロメトキシ、炭素数1〜20のアルキル、または炭素数2〜20のアルコキシであり;Rbは水素または炭素数1〜2のアルキルであり;Bは1,4−シクロへキシレンまたは1,4−フェニレンであり、この1,4−フェニレンにおいて任意の水素はフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の1つまたは2つの水素はメチルまたはトリフルオロメチルで置き換えられてもよく、そしてBの1つは9−メチルフルオレン−2,7−ジイルまたは9−エチルフルオレン−2,7−ジイルであってもよく;Yは単結合、−COO−、−OCO−、または−C≡C−であり;Qは単結合または炭素数1〜10のアルキレンであり、このアルキレンにおいて1つまたは2つの−CH−は−O−で置き換えられてもよく;そしてtは1または2である請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
第二成分が、式(M1)および式(M2)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物、または式(M3)および式(M4)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物、または式(M5)および式(M6)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物である請求項16または17に記載の組成物。
【請求項19】
第二成分が、式(M1)で表される少なくとも1つの化合物および式(M3)で表される少なくとも1つの化合物、または式(M1)で表される少なくとも1つの化合物および式(M4)で表される少なくとも1つの化合物、または式(M2)で表される少なくとも1つの化合物および式(M3)で表される少なくとも1つの化合物、または式(M2)で表される少なくとも1つの化合物および式(M4)で表される少なくとも1つの化合物である請求項16または17に記載の組成物。
【請求項20】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の化合物から得られる重合体。
【請求項21】
請求項13〜19のいずれか1項に記載の組成物を重合することによって得られる重合体。
【請求項22】
請求項20または21に記載の重合体を含有する素子。
【請求項23】
光学異方性を有する成形体として、請求項20または21に記載の重合体の使用。

【公開番号】特開2006−45195(P2006−45195A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184289(P2005−184289)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】