説明

フレキシブルプリント基板用材料およびその製造方法

【課題】
製造(めっき加工)直後から屈曲性が非常に良好であるとともに、高密度配線における折り曲げ時の断線やクラックの発生しにくい、電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料および材料を製造する方法を提供する。
【解決手段】
プラスチックフィルムに電解銅めっき法による銅層を積層後、特定の温度で特定の時間熱処理を行うことにより、銅の結晶子サイズを制御し、良好な銅の耐折れ性を有することにより高密度配線における折り曲げ時の断線やクラックの発生しにくい電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化、高機能化、多機能化および高密度実装化に伴い、プリント配線板は、導体幅および導体間の狭小化、多層化、フレキシブル化および基材の薄膜化により高密度化が急速に進み、フレキシブルプリント基板用材料へと発展している。
従来より、ポリイミドフィルムに接着剤層を介して導体層としての銅箔を貼り合せた3層構造のフレキシブルプリント基板用材料が知られている(特許文献1参照。)。この3層構造タイプのフレキシブルプリント基板用材料では、用いられる接着剤の耐熱性がポリイミドフィルムより劣るため、加工後の寸法精度が低下するという問題があり、また用いられる銅箔の厚さが通常10μm以上であるため、ピッチの狭い高密度配線用のパターニングが難しいという欠点もあった。さらに、IC実装の際には、高温に熱せられたICに対して接着剤が溶融あるいは熱分解してしまうため、精度良くICのバンプとフレキシブルプリント基板用材料上のリードを接続することが出来ない。そこで、IC実装の際には、ICの実装される位置にパンチングなどの方法により穴をあけて、ICチップの下に接着剤が介在しないようにして実装を行うことが一般的である。
一方、ポリイミドフィルム上に接着剤を用いることなく、湿式電解銅めっき法や乾式めっき法 (例えば、真空蒸着法、スパッタリング法およびイオンプレーティング法など) により導体層としての銅層を形成させた2層構造タイプのフレキシブルプリント基板用材料が知られている(特許文献2および特許文献3参照。)。これら接着剤を用いない電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料は、接着剤がないために、IC実装の際に前記したようなフィルム面に穴あけすることなく、直接ポリイミドフィルム上にICを実装することが可能である。また、この2層構造タイプのフレキシブルプリント基板用材料は、銅層を容易に10μmよりも薄くすることができるため、フレキシブルプリント基板用材料の高密度配線が可能である。
通常、エレクトロニクス機器などの屈曲用途で使用されるフレキシブルプリント基板用材料では、屈曲性を向上させるため、金属箔層の金属箔を高純度金属箔や他の低再結晶温度金属箔を使用し、これらの金属箔では再結晶温度が低く、変形による歪みエネルギーによって再結晶が起こり、歪みエネルギーが適宜開放され、高い柔軟性が得られると共に、粒界やクラックの発生も抑えられ、優れた屈曲性が得られることが知られている(特許文献4参照。)。
しかしながら、上記屈曲性を高める方法は、金属箔を使用したフレキシブルプリント基板用材料の屈曲性を向上させるためのものであり、電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料の場合には適用できないが、電解銅めっき法の場合においてはめっき液組成の最適化などにより、銅の結晶子サイズを十分大きく成長させることにより上記金属(銅)箔を用いたフレキシブルプリント基板用材料より優れた屈曲性を得ることができる。
この屈曲性は、JIS C5016に記載されている耐折れ性試験で測定することができるが、電子機器の部品として、屈曲性が求められる場合、両面に導電層を持つ基板では上記耐折れ性試験で30回以上、また片面に導電層を持つ基板で繰り返し屈曲が行われる用途では上記耐折れ性試験で300回以上のレベルが求められる。
ところが、本発明者らが鋭意検討の結果、上記の電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料の電解銅めっき直後における銅の結晶子サイズ(200面)は、200オングストローム未満であり、銅の耐折れ性に乏しく、屈曲用途に使用するには自然放置で10日以上放置しなければならないことが分かった。
【特許文献1】特開平07−202417号公報
【特許文献2】特開2002−20898号公報
【特許文献3】特開2003−321796公報
【特許文献4】特開2001−168480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、銅の結晶子サイズを制御し、めっき直後でも良好な銅の耐折れ性を有することにより、高密度配線における折り曲げ時の断線やクラックの発生しにくい電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の上記課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
【0005】
本発明のフレキシブルプリント基板用材料は、プラスチックフィルムのどちらか一方の面に、電解銅めっき法により厚み4μm以上12μm以下の銅層を積層してなるフレキシブルプリント基板用材料であって、前記銅層の電解銅めっき後240時間以内における耐折れ指数Aが300回以上であることを特徴とするフレキシブルプリント基板用材料である。
【0006】
また、本発明のフレキシブルプリント基板用材料は、プラスチックフィルムの両面に、電解銅めっき法により各々厚み4μm以上12μm以下の銅層を積層してなるフレキシブルプリント基板用材料であって、前記銅層の電解銅めっき後240時間以内における耐折れ指数Bが30回以上であることを特徴とするフレキシブルプリント基板材料である。
【0007】
本発明のフレキシブルプリント基板用材料の好ましい態様によれば、電解銅めっき後240時間以内における前記の銅層の銅の結晶子サイズ(200面)は200オングストローム以上である。
【0008】
本発明のフレキシブルプリント基板用材料の好ましい態様によれば、前記のプラスチックフィルムは、ポリイミドフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムであり、その厚みは12〜40μmである。
【0009】
本発明のフレキシブルプリント基板用材料の好ましい態様によれば、フレキシブルプリント基板用材料は、前記のプラスチックフィルム上に、ニッケル/クロム合金層を形成した後、その上に電解銅めっき法で銅層を積層してなるものである。
【0010】
また、本発明のフレキシブルプリント基板用材料の製造方法は、電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料の製造方法において、プラスチックフィルムに電解銅めっき後、巻取ったものを120時間以内に60〜200℃の温度で、1〜15時間熱処理することを特徴とするフレキシブルプリント基板用材料の製造方法である。
【0011】
また、本発明のフレキシブルプリント基板用材料の製造方法は、電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料の製造方法において、プラスチックフィルムに電解銅めっき後巻取る前に、熱処理温度T(℃)が220≧Tであり、熱処理時間t(分)が0.1<t<10であり、かつ、熱処理温度Tと熱処理時間tの関係が、T>95−250Logtの範囲を満たしている温度条件で熱処理することを特徴とするフレキシブルプリント基板用材料の製造方法である。
【0012】
本発明において、プラスチックフィルム基材は長尺のプラスチックフィルム基材に好適に用いられる。長尺とは、通常、幅が5m以内であるのに対して長さが10m以上であるようなフィルム基材について用いられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高密度配線における折り曲げ時の断線やクラックの発生しにくい電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料が得られる。本発明による電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料は、製造(めっき加工)直後にも電子計算機、端末機器、電話機、通信機器、計測制御機器、カメラ、時計、自動車、事給機器、家電製品、航空機計器および医療機器などのあらゆるエレクトロニクスの分野に活用することができ、導体断線や破断の抑制および回路基板の高密度化に寄与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のフレキシブルプリント基板用材料は、プラスチックフィルムのどちらか一方の面あるいは両面に、電解銅めっき法により厚み4μm以上12μm以下の銅層を積層してなるものである。
【0015】
そして、本発明のフレキシブルプリント基板用材料は、プラスチックフィルムのどちらか一方の面に、電解銅めっき法により厚み4μm以上12μm以下の銅層を積層してなるフレキシブルプリント基板用材料であって、前記銅層の解銅めっき後240時間以内における耐折れ指数Aが300回以上であることを特徴とするフレキシブルプリント基板用材料であり、更に好ましくは銅層の銅の結晶子サイズ(200面)は200オングストローム以上である。耐折れ指数Aの評価方法については後述する。
【0016】
また、本発明においては、プラスチックフィルムの両面に、電解銅めっき法により各々厚み4μm以上12μm以下の銅層を積層してなるフレキシブルプリント基板用材料であって、前記銅層の電解銅めっき後240時間以内における耐折れ指数Bが30回以上であることを特徴とするフレキシブルプリント基板材料であり、更に好ましくは銅層の銅の結晶子サイズ(200面)は200オングストローム以上である。耐折れ指数Bの評価方法については後述する。
【0017】
本発明で用いられるプラスチックフィルムを例示すると、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリエチレン−α,β−ビス (2−クロルフェノキシエタン−4,4´−ジカルボキシレート) などのポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアミド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリパラジン酸、ポリオキサジアゾールおよびこれらのハロゲン基あるいはメチル基置換体からなるプラスチックフィルムが挙げられる。また、これらのポリマーの共重合体や他の有機重合体を含有するプラスチックフィルムであっても良い。
【0018】
これらのプラスチックフィルムに、公知の添加剤、例えば、滑剤や可塑剤などが添加されていても良い。これらのプラスチックフィルムの中でもポリイミドフィルムは、ハンダ実装時などにおける耐熱性に優れており、本発明の用途に特に好適に用いられる。また、ポリエチレンテレフタレートフィルムは、ハンダづけによる実装などがなければ、安価で取り扱い易い。
【0019】
また、基材であるプラスチックフィルムの厚さは、通常4〜125μm程度のものが多用されるが、本発明の場合、12〜40μmの厚さのプラスチックフィルムが好適である。プラスチックフィルムの厚さが12μmより薄いと銅めっき前のスパッタリング工程においてシワが発生したり、平面性不良が発生する可能性がある。また、厚さが40μmよりも厚いとプラスチックフィルム上に形成される銅めっき層の屈曲性が低くなることがある。
本発明では、プラスチックフィルムに電解銅めっきで、より厚膜の銅層を形成するに先立って、真空蒸着またはスパッタリング法等により、プラスチックフィルム上に金属蒸着層を形成することができる。金属蒸着層を構成する金属としては、好ましくは銅、金、銀、ニッケル、クロム、モリブテンおよびチタンなどの金属、より好ましくは銅、ニッケルおよびクロム、さらに好ましくは銅およびニッケル/クロム合金であり、これによって低抵抗でしかも屈曲性に富む金属蒸着層を形成することができる。
【0020】
本発明において該金属蒸着層は、一層でも良いが、銅層とプラスチックフィルムの密着力を高めるため、ニッケル/クロム合金で第一層を形成し、銅で第二層を形成することが好ましく、さらに他の機能を有する層を積層させても構わない。
【0021】
プラスチックフィルムに蒸着またはスパッタリング法などによって設けられる該金属蒸着層の厚さは、好ましくは10〜3000オングストロームであり、より好ましくは20〜2500オングストロームであり、さらに好ましくは30〜2000オングストロームである。金属蒸着層の膜厚が10オングストロームよりも薄い場合は、電解銅めっき工程後で膜が溶出しやすく、また、3000オングストロームよりも厚い場合は、電解銅めっき工程後にシワ発生や生産性速度低下等の問題が起こり得る。
【0022】
前記金属蒸着層の表面の抵抗値は電解銅めっきがしやすいことから、1.0Ω/cm以下 (端子間距離1cm測定した抵抗値が1.0Ω/cm以下) であることが好ましく、より好ましくは0.5Ω/cm以下である。
【0023】
前記金属蒸着層上に、電解銅めっきによって、より膜厚の銅層を形成することができる。電解銅めっき工程には、金属蒸着層とめっき層の密着性を向上させるための脱脂あるいは酸活性処理、金属ストライクなどの処理を行った後、電解銅めっきの各工程を経ることができる。金属蒸着層を蒸着した直後に電解銅めっきに入る場合には、脱脂および酸活性処理や、金属ストライクを省略してもよい。金属蒸着層に給電する電流密度は、0.2〜10A/dm2が好ましく、より好ましくは0.5〜5A/dm2である。
【0024】
本発明において、電解銅めっきによって形成される銅層の厚さは、好ましくは2〜30μmであり、より好ましくは4〜12μmである。銅層の厚さが4μmより小さい場合は、銅層の信頼性が十分とはいえないことがある。また、銅層の厚さが12μmを超える場合は、膜形成に時間がかかり経済性が劣るほか、エッチング加工時に回路パターンの端部エッチングが進行しやすく、また、折り曲げによる断線の恐れがあるなど品質面でも好ましくないことがある。
【0025】
本発明において、電解銅めっきの条件は、めっき浴の組成、電流密度、浴温および攪拌条件などにより異なるが、とくに制限はない。
【0026】
本発明におけるにおいて、プラスチックフィルムのどちらか一方の面に厚み4μm以上12μm以下の銅層を積層してなる電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料であって、該銅層が電解銅めっき後240時間以内に、後述する耐折れ指数Aが300回以上であることを特徴とする電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料では、該耐折れ指数Aを上記範囲内とするために特定の熱処理が好適に適用される。熱処理は、窒素雰囲気下あるいは大気雰囲気下などいずれも適用される。
【0027】
また、プラスチックフィルムの両面に、電解銅めっき法により各々厚み4μm以上12μm以下の銅層を積層してなるフレキシブルプリント基板用材料であって、前記銅層の電解銅めっき後240時間以内における耐折れ指数Bが30回以上であることを特徴とするフレキシブルプリント基板材料では、該耐折れ指数Bを上記範囲内とするために特定の熱処理が好適に適用される。熱処理は、窒素雰囲気下あるいは大気雰囲気下などいずれも適用される。
【0028】
次に、本発明のフレキシブルプリント基板用材料の製造方法について説明する。
【0029】
本発明のフレキシブルプリント基板用材料の製造方法の一つは、電解銅めっき後、好適には巻取り、巻取ったものを120時間以内にオーブンや乾燥機などを用いて熱処理工程に投入することである。該熱処理温度は、60〜200℃程度が適切である。熱処理温度が60℃以下であると、十分に熱処理効果が得られないことがある。また、熱処理温度が60℃以下であると、巻取ったフィルム状物の芯部における十分な熱処理を行うことができず、その結果銅の結晶子サイズ制御が困難となることがある。また、熱処理温度が200℃以上であると、銅の酸化や、プラスチックフィルムの寸法変化やプラスチックフィルムと銅層間の密着などに影響を与えることがある。
【0030】
上記熱処理時間は、通常、1〜15時間程度が好適である。熱処理時間が1時間以下であると、巻取ったフィルム状物の中心における銅の結晶子サイズ制御が困難となることがある。また、熱処理時間が15時間以上であると、プラスチックフィルムの寸法変化率や平面性の悪化(縦ジワや横段ジワ)などに影響を与えることがある。
【0031】
本発明において、もう一つの好ましい手法として、電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料において、電解銅めっき後、巻取る前にオーブンや乾燥機などを用いて連続的に熱処理工程に投入することが挙げられる。連続的に(インラインで)処理を行うため、あまり長時間の処理は現実的でなく、逆に短時間でありすぎると銅の結晶子サイズ制御が困難となることがある。そのため、熱処理時間をt(分)とすると、0.1<t<10の範囲が適切であり、該熱処理温度T(℃)は220≧T≧70の範囲が適切である。熱処理温度Tが70℃以下であると、十分に熱処理効果が得られない。また、熱処理温度Tが220℃以上であると、銅の結晶子サイズ制御が困難となり、銅の酸化やプラスチックフィルムの寸法変化やプラスチックフィルムと銅層間の密着などに影響を与える。
【0032】
本発明においては、さらに高温処理であればあるほど、長時間の処理によりプラスチックフィルムの寸法変化率や平面性の悪化(縦ジワや横段ジワ)などに影響を与える可能性があるため、T(℃)とt(分)の関係が、T>95-25Logtの範囲を満たして処理を行うことが適切である。
【0033】
次に、本発明における電解銅めっき後、巻取る前にオーブンや乾燥機などを用いて連続的に熱処理工程に投入する電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料の製造方法を図面に基づいて説明する。
【0034】
図1は、本発明に係るリール・ツー・リール方式で、プラスチックフィルムに連続的に金属蒸着層に銅層を形成させ、オーブンを用いて連続的に熱処理を施すためのフレキシブルプリント基板用材料を製造する工程を説明するための全体概略図である。
【0035】
図1において、巻出しローラー1から送り出された金属蒸着層を有する長尺プラスチックフィルム2は、陰極6や陽極5を備えためっき液槽3に導かれて、電解銅めっきにより銅層が形成され、次いて、側壁7で隔てられたオーブン槽4に導かれて熱処理される。熱処理された電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料は、巻取りローラー7にて巻取られる。
【0036】
オーブン槽4は1槽でもよいが、本発明では、オーブン槽4を図1のように複数回内部往復させるように、例えば、好ましくは5〜10往復、より好ましくは2〜7往復できるように配置させて連続的に熱処理をすることができる。オーブン槽4を複数回内部往復することにより熱処理時間を長くすることやオーブン設置の省スペース化などが可能である。
【0037】
本発明のフレキシブルプリント基板用材料は、電子機器、例えば、液晶ディスプレイパネルの回路基板や携帯電話の折り曲げ部の回路基板、データ記録装置であるハードディスクのサスペンションおよびプリンターヘッド等に好適に用いられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明のフレキシブルプリント基板用材料について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0039】
(1)長尺プラスチックフィルム基材上への金属蒸着層の形成
絶縁フィルムとして、ポリイミドフィルム“カプトン”(登録商標)EN (東レ・デュポン社製、厚さ25μm、幅520mm、長さ3000m) を用いた。ポリイミドフィルム片面に前処理として真空プラズマ処理を施し、次いでスパッタリング法により、厚さ5nmのニッケル/クロム層を、さらに150nmの銅層の成膜を行い、金属蒸着層 (導電層) 付きの長尺プラスチックフィルム基材を作製した。さらに、その金属蒸着層 (導電層) 付き長尺プラスチックフィルム基材の裏面に同様に真空プラズマ処理、スパッタリングを行い、両面に導電層の付いた長尺プラスチックフィルム基材を作成した。
【0040】
(2) 耐折れ性の評価
片面に銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を、銅層形成後5分以内に長手方向(縦方向)に50mm、短手方向(横方向)に10mmカットし、該サイズにカットした銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料上に0.3mmのシックネスゲージを置き、一端を固定し、0.5Nの力で該シックネスゲージを支点とし交互に折り曲げ、銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料の銅層が破断する回数を耐折れ指数Aとした。ここでは銅層形成後5分以内で評価したが、銅層形成後240時間以内に同様にして評価することができる。
【0041】
また、両面に銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を、銅層形成後5分以内に長手方向 (縦方向) に50mm、短手方向 (横方向) に10mmカットし、該サイズにカットした銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料上に0.3mmのシックネスゲージを置き、一端を固定し、0.5Nの力で該シックネスゲージを支点とし交互に折り曲げ、銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料の銅層のどちらか一方が最初に破断する回数を耐折れ指数Bとした。ここでは銅層形成後5分以内で評価したが、銅層形成後240時間以内に同様にして評価することができる。
【0042】
(3) 銅の結晶子サイズ
X線回折 (XRD:X−Ray Diffraction) 装置を用いて、200面の結晶子サイズの測定を行った。なお、XRD装置は日本電子社製JDX−3500を用いた。XRD測定条件は40kV、20mAでスキャンレート0.5°/分、スキャンステップ0.02°、測定範囲を2θで43°から95°で行った。
【0043】
(実施例1)
片面にスパッタリング法により金属蒸着層を設けた厚さ25μmのポリイミドフィルム“カプトンEN”( 東レデュポン社製、登録商標)の該金属蒸着層上に、層厚が4μmとなるように、図1に示した電解銅めっき装置を用いて電解銅めっきを行って銅層を形成した。次いで、巻取り、巻取った銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料(直径7.6cm)を1時間以内にオーブン(エスペック社製)を用いて、80℃・12時間(実施例1−1)および200℃・2時間(実施例1−2)の熱処理を行った。熱処理終了後、耐折れ指数Aの測定を行った。また、XRD装置を用いて、銅の結晶子サイズ(200面)を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
(実施例2)
両面に銅層厚が4μmとなるように銅層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を巻取り、巻取った銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を1時間以内に80℃・12時間(実施例2−1)および200℃・2時間(実施例2−2)の熱処理を行った。熱処理終了後、ただちに耐折れ指数Bの測定を行った。また、XRD装置を用いて、銅の結晶子サイズ(200面)を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
(実施例3)
片面に銅層厚が8μmとなるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を巻取り、巻取った銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を1時間以内に80℃・12時間(実施例3−1)および200℃・2時間(実施例3−2)の熱処理を行い、熱処理終了後、ただちに耐折れ指数Aの測定を行った。また、XRD装置を用いて、銅の結晶子サイズ(200面)を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例4)
両面に銅層厚が8μmとなるようにしたこと以外は、実施例2と同様にして銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を巻取り、巻取った銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を1時間以内に80℃・12時間(実施例4−1)および200℃・2時間(実施例4−2)の熱処理を行い、熱処理終了後、ただちに耐折れ指数Bの測定を行った。また、XRD装置を用いて、銅の結晶子サイズ(200面)を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
(実施例5)
片面にスパッタリング法により厚さ0.1μmの金属蒸着層を設けた厚さ25μmのポリイミドフィルム“カプトンEN”(東レデュポン社製、登録商標)1500m巻原反の該金属蒸着層上に、層厚が4μmとなるように、図1に示した電解銅めっき装置を用いて電解銅めっきを行って銅層を形成した。次いで、銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を巻取る前に銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を210℃・0.2分(実施例5−1)、200℃・1分(実施例5−2)、180℃2分(実施例5−3)、150℃・5分(実施例5−4)、120℃・8分(実施例5−5)、および100℃・9分(実施例5−6)にて熱処理を行った。熱処理終了後、ただちに耐折れ指数Aの測定を行った。また、XRD装置を用いて、銅の結晶子サイズ(200面)を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
(実施例6)
両面に銅層厚が4μmとなるようにしたこと以外は、実施例5と同様にして銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を巻取る前に銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を210℃・0.2分(実施例6−1)、200℃・1分(実施例6−2)、180℃・2分(実施例6−3)、150℃・5分(実施例6−4)、120℃88分(実施例6−5)、100℃・9分(実施例6−6)、190℃・1分(実施例6−7)、140℃・2分(実施例6−8)、および120℃・3分 (実施例6−9)にて熱処理を行った。熱処理終了後、ただちに耐折れ指数Bの測定を行った。また、XRD装置を用いて、銅の結晶子サイズ(200面)を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
(比較例1)
片面にスパッタリング法により金属蒸着層を設けた厚さ25μmのポリイミドフィルム“カプトンEN”(登録商標)の該金属蒸着層上に、層厚が4μmとなるように、図1に示した電解銅めっき装置を用いて電解銅めっきを行って銅層を形成した。次いで、銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を巻取り、巻取った銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料の熱処理を未実施(比較例1−1) 、および1時間以内にオーブン(エスペック社製) を用いて80℃・0.2時間(比較例1−2)の熱処理を行った。熱処理を未実施、または、熱処理を施し、耐折れ指数Aの測定を行った。また、XRD装置を用いて、銅の結晶子サイズ(200面)を測定した。結果を表2に示す。
【0050】
(比較例2)
両面に銅層厚が4μmとなるようにしたこと以外は、比較例1と同様にして銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を巻取り、巻取った銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料の熱処理を未実施(比較例2−1)、および1時間以内にオーブンを用いて80℃・0.2時間(比較例2−2)の熱処理を行った。熱処理を未実施、または、熱処理を施し、耐折れ指数Bの測定を行った。また、XRD装置を用いて、銅の結晶子サイズ(200面)を測定した。結果を表2に示す。
【0051】
(比較例3)
片面に銅層厚が8μmとなるようにしたこと以外は、比較例1と同様にして銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を巻取り、巻取った銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料の熱処理を未実施(比較例3−1)、および1時間以内にオーブンを用いて80℃・0.2時間(比較例3−2)の熱処理を行った。熱処理を未実施、または、熱処理を施し、耐折れ指数Aまた、銅の結晶子サイズ(200面)を評価した。結果を表2に示す。
【0052】
(比較例4)
両面に銅層厚が8μmとなるようにしたこと以外は、比較例2と同様にして銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を巻取り、巻取った銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料の熱処理を未実施(比較例4−1)、および1時間以内にオーブンを用いて80℃・0.2時間(比較例4−2)の熱処理を行った。熱処理を未実施、または、熱処理を施し、耐折れ指数Bまた、銅の結晶子サイズ(200面)を評価した。結果を表2に示す。
【0053】
(比較例5)
片面にスパッタリング法により金属蒸着層を設けた厚さ25μmのポリイミドフィルム“カプトンEN”(登録商標)の該金属蒸着層上に、層厚が4μmとなるように、図1に示した電解銅めっき装置を用いて電解銅めっきを行って銅層を形成した。次いで、銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を巻取る前に銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料の熱処理を未実施(比較例5−1)、100℃・0.2分(比較例5−2)、90℃・1分(比較例5−3)、85℃・2分(比較例5−4)、75℃・5分(比較例5−5)、および68℃・10分(比較例5−6)にて熱処理を行った。熱処理を未実施、または、熱処理を施し、耐折れ指数Aまた、銅の結晶子サイズ(200面)を評価した。結果を表2に示す。
【0054】
(比較例6)
両面に銅層厚が4μmとなるようにしたこと以外は、実施例5と同様にして銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料を巻取る前に銅層を形成したフレキシブルプリント基板用材料の熱処理を未実施(比較例6−1)、100℃・0.2分(比較例6−2)、90℃・1分(比較例6−3)、85℃・2分(比較例6−4)、75℃・5分(比較例6−5)、および68℃・10分(比較例6−6)にて熱処理を行った。熱処理を未実施または熱処理を施したものについて、耐折れ指数Bと銅の結晶子サイズ(200面)を評価した。結果を表2に示す。
【0055】
上記の耐折れ指数A、 耐折れ指数Bおよび銅の結晶子サイズの評価結果を、表1(実施例)と表2(比較例)に示す。表中の耐折れ指数は回数を表し、銅の結晶子サイズはオングストロームを表す。本発明の範囲にあるものは、いずれも良好な結果を示した。
【0056】
また、図2は、本発明の実施例5および6と比較例5および6の結果を、X軸にLogt 、Y軸に温度Tで示したグラフである。この図2から、T>95−25Logtを満たすことにより、本発明の範囲の耐折れ指数Aと耐折れ指数Bが得られることがわかる。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、本発明に係るリール・ツー・リール方式で、プラスチックフィルムに連続的に金属蒸着層に銅層を形成させ、オーブンを用いて連続的に熱処理を施すためのフレキシブルプリント基板用材料を製造する工程を説明する全体概略図である。
【図2】図2は、本発明の実施例5および6と比較例5および6の結果を、X軸にLogt 、Y軸に温度Tで示したクラフである。
【符号の説明】
【0060】
A:巻出しローラー
B:銅層を有する長尺プラスチックフィルム
C:めっき液槽
D:オーブン槽
E:陽極(アノード)
F:陰極(カソード)
G:側壁
H:巻取りローラー
1:実施例5−1および6−1
2:実施例5−2および6−2
3:実施例5−3および6−3
4:実施例5−4および6−4
5:実施例5−5および6−5
6:実施例5−6および6−6
7:実施例6−7
8:実施例6−8
9:実施例6−9
10:比較例5−2および6−2
11:比較例5−3および6−3
12:比較例5−4および6−4
13:比較例5−5および6−5
14:比較例5−6および6−6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムのどちらか一方の面に、電解銅めっき法により厚み4μm以上12μm以下の銅層を積層してなるフレキシブルプリント基板用材料にであって、前記銅層の電解銅めっき後240時間以内における耐折れ指数Aが300回以上であることを特徴とするフレキシブルプリント基板用材料。
【請求項2】
プラスチックフィルムの両面に、電解銅めっき法により各々厚み4μm以上12μm以下の銅層を積層してなるフレキシブルプリント基板用材料であって、前記銅層の電解銅めっき後240時間以内における耐折れ指数Bが30回以上であることを特徴とするフレキシブルプリント基板材料。
【請求項3】
電解銅めっき後240時間以内における銅層の銅の結晶子サイズ(200面)が200オングストローム以上であることを特徴とする請求項1または2記載のフレキシブルプリント基板用材料。
【請求項4】
プラスチックフィルムがポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフレキシブルプリント基板用材料。
【請求項5】
プラスチックフィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフレキシブルプリント基板用材料。
【請求項6】
プラスチックフィルムの厚みが12〜40μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフレキシブルプリント基板用材料。
【請求項7】
プラスチックフィルム上に、ニッケル/クロム合金層を形成した後、その上に電解銅めっき法で銅層を積層してなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のフレキシブルプリント基板用材料。
【請求項8】
電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料の製造方法において、プラスチックフィルムに電解銅めっき後、巻取ったものを120時間以内に60〜200℃の温度で1〜15時間熱処理することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のフレキシブルプリント基板用材料の製造方法。
【請求項9】
電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料の製造方法において、プラスチックフィルムに電解銅めっき後、巻取ったものを120時間以内に60〜200℃の温度で1〜15時間熱処理することを特徴とするフレキシブルプリント基板用材料の製造方法。
【請求項10】
電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料の製造方法において、プラスチックフィルムに電解銅めっき後巻取る前に、熱処理温度T(℃)が220≧であり、熱処理時間t(分)が0.1<t<10であり、かつ、熱処理温度Tと熱処理時間tの関係がT>95−250Logtの範囲を満たしている温度条件で熱処理することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のフレキシブルプリント基板用材料の製造方法。
【請求項11】
電解銅めっき法による銅積層タイプのフレキシブルプリント基板用材料の製造方法において、プラスチックフィルムに電解銅めっき後巻取る前に、熱処理温度T(℃)が220≧Tであり、熱処理時間t(分)が0.1<t<10であり、かつ、熱処理温度Tと熱処理時間tの関係が、T>95−250Logtの範囲を満たしている温度条件で熱処理することを特徴とするフレキシブルプリント基板用材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−262493(P2007−262493A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89050(P2006−89050)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000222462)東レフィルム加工株式会社 (142)
【Fターム(参考)】