説明

フレキシブル性銅張積層板とその製造方法及びフレキシブル配線基板

【課題】 耐屈折性に優れたフレキシブル性銅張積層板(2層FCCL板のうち樹脂フィルム基材上に銅層をめっき法により形成した通称めっき板)、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】 樹脂フィルム基材の表面に接着剤を介さずにシード層を形成し、そのシード層上に10℃〜17℃の温度の硫酸銅めっき浴中で不溶性アノードを用いて銅層を電気めっきした後、170℃〜180℃の温度で2時間以上熱処理する。このフレキシブル性銅張積層板の銅層は、ビッカース硬度が80Hv以下であり、銅の平均結晶粒径が2μm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル性銅張積層板及びフレキシブル配線基板に関し、具体的には、ポリイミドフィルムなどの樹脂フィルム基材上に、めっき法により耐屈折性に優れた銅層を積層してなるフレキシブル性銅張積層板及びフレキシブル配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線基板は、ハードディスクの読み書きヘッドやプリンターヘッドなど電子機器の屈折ないし屈曲を要する部分や、デジタルカメラ内の屈折配線などに広く用いられている。かかるフレキシブル配線基板の製造には、フレキシブル性銅張積層板(FCCL:Flexible Copper Clad Lamination)をサブトラクティブ法等で配線加工する方法が用いられている。
【0003】
上記のサブトラクティブ法とは、銅張積層板の銅層を化学エッチング処理して不要部分を除去する方法である。即ち、フレキシブル性銅張積層板の銅層のうち導体配線として残したい部分の表面にレジストを設け、銅に対応するエッチング液による化学エッチング処理と水洗を経て、銅層の不要部分を選択的に除去して導体配線を形成するものである。
【0004】
ところで、フレキシブル性銅張積層板(FCCL)は、3層FCCL板と2層FCCL板に分類することができる。3層FCCL板は、電解銅箔や圧延銅箔をベース(絶縁層)の樹脂フィルム基材に接着した構造(銅箔/接着剤層/樹脂フィルム基材)となっている。一方、2層FCCL板は、銅層若しくは銅箔と樹脂フィルム基材とが積層された構造(銅層若しくは銅箔/樹脂フィルム基材)となっている。
【0005】
また、上記2層FCCL板には大別して3種のものがある。即ち、樹脂フィルム基材上にシード層と銅層を順次めっきして形成したFCCL板(通称めっき板)、銅箔に樹脂フィルム基材のワニスを塗って絶縁層を形成したFCCL板(通称キャスト板)、及び銅箔に樹脂フィルムをラミネートしたFCCL板(通称ラミネート板)がある。
【0006】
上記めっき板、即ち樹脂フィルム基材上にシード層と銅層を順次めっきして形成したFCCL板は、銅層の薄膜化が可能で且つポリイミドフィルムと銅層界面の平滑性が高いため、キャスト板やラミネート板あるいは3層FCCL板と比較して、配線のファインパターン化に適している。例えば、めっき板の銅層は乾式めっき法及び電気めっき法により層厚を自由に制御できるのに対し、キャスト板やラミネート板あるいは3層FCCL板は使用する銅箔によって厚さ等が制約されるからである。
【0007】
一方、フレキシブル配線基板の配線に用いられる銅箔については、例えば、銅箔に熱処理を施す方法(特開平08−283886号公報参照)や、圧延加工を行う方法(特開平06−269807号公報参照)により、耐屈折性の向上が図られている。しかし、これらの方法は、3層FCCL板用の圧延銅箔や電解銅箔、2層FCCL板のうちのキャスト板とラミネート板に用いられる銅箔自体の処理に関するものである。
【0008】
尚、銅箔の耐屈折性の評価には、JIS P8115やASTM D2176で規格されたMIT耐屈折度試験(folding endurance test)が工業的に使用さている。この試験では、試験片に形成した回路パターンが断線するまでの屈折回数をもって評価し、この屈折回数が大きいほど耐屈折性が良いとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08−283886号公報
【特許文献2】特開平06−269807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したようにフレキシブル配線基板用の銅箔については熱処理や圧延加工による耐屈折性の向上が図られているが、2層FCCL板のうち樹脂フィルム基材上に銅層をめっき法により形成した通称めっき板には熱処理や圧延加工を適用することができない。そのため、フレキシブル配線基板の製造に用いる2層FCCL板のうちのめっき板について、銅層の耐屈折性を向上させる方法は全く提案されていない現状であった。
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、めっき法により樹脂フィルム基材上に形成した銅層の耐屈折性を向上させることによって、耐屈折性に優れたフレキシブル性銅張積層板(2層FCCL板のうち樹脂フィルム基材上に銅層をめっきにより形成した通称めっき板)並びにその製造方法を提供すること、及びこのフレキシブル性銅張積層板から製造したフレキシブル配線基板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明者は、めっき法により樹脂フィルム基材上に形成した銅層の耐屈折性について鋭意検討した結果、樹脂フィルム基材の表面に形成したシード層上に、通常の銅めっき温度よりも低い温度で銅めっきを行った後、強制的に熱処理することによって銅めっき層の結晶粒径が大きくなり、硬度が低下して耐屈折性に優れたフレキシブル性銅張積層板が得られることを見出し、本発明を完成したものである。
【0013】
即ち、本発明が提供するフレキシブル性銅張積層板は、樹脂フィルム基材の少なくとも片方の表面に、接着剤を介さずに(めっき法により)シード層と銅層とが積層された構造を有し、該銅層のビッカース硬度が80Hv以下であることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明が提供するフレキシブル性銅張積層板の製造方法は、樹脂フィルム基材の少なくとも片方の表面に、無電解めっき法又は乾式めっき法により(接着剤を介さずに)シード層を形成し、該シード層上に10℃〜17℃の温度の硫酸銅めっき浴中で不溶性アノードを用いて銅層を電気めっきした後、170℃〜180℃の温度で少なくとも2時間熱処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、通常の銅めっき温度よりも低い温度で銅めっきを行って微細な銅の結晶を析出させた後、強制的に熱処理して銅の結晶粒径を大きくし、得られた銅層の硬度を低下させることができる。この硬度を低下させた銅層では、繰り返し屈折した時に生じる加工硬化が常温動的再結晶により緩和されるため、耐屈折特性に優れたフレキシブル性銅張積層板、並びに、これをサブトラクティブ法で配線加工したフレキシブル配線基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のフレキシブル性銅張積層板は、上述した2層FCCL板の中のめっき基板と同じ層構成を有し、具体的には、樹脂フィルム基材の少なくとも片方の表面に、無電解めっき法又は乾式めっき法により、接着剤を介することなくシード層と銅層とがこの順に積層して形成されている。尚、上記シード層は、下地金属層のみか、若しくは下地金属層と銅薄膜層とで構成される。
【0017】
上記樹脂フィルム基材は、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフィニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルムから用途などに応じて選択することができる。その中でもポリイミド系フィルムが好ましく、例えば厚さ25μm〜75μmのポリイミドフィルムが好適に使用される。
【0018】
上記シード層を構成する下地金属層としては、ニッケル又はその合金、クロム又はその合金などが使用され、特にニッケル−クロム合金が好適に使用される。下地金属層の膜厚は3nm〜50nmの範囲が好ましい。また、下地金属層の上には、必要に応じて銅薄膜層を設けることができる。この銅薄膜層は主に銅で構成され、その膜厚は10nm〜1μmの範囲が望ましい。
【0019】
下地金属層及び銅薄膜層は、無電解めっき法又は乾式めっき法により形成できるが、乾式めっき法による成膜が好ましい。乾式めっき法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法、真空蒸着法、CVD法などが挙げられ、組成の制御等の観点からスパッタリング法が特に望ましい。尚、スパッタリング法の場合、公知のスパッタリング装置を使用でき、特に長尺の樹脂フィルム基材への成膜には公知のロール・ツゥ・ロール方式のスパッタリング装置を用いる。
【0020】
樹脂フィルム基材に設けたシード層上には、電気めっき法により銅層を成膜する。具体的には、通常の硫酸銅めっき浴よりも低い温度である10℃〜17℃に制御した硫酸銅めっき浴中にて、不溶性アノードを用いて電気めっきを行い、シード層上に銅層を形成する。銅層の膜厚としては、1μm〜20μmの範囲が好ましい。
【0021】
通常の硫酸銅めっき浴の温度は20〜30℃程度であるが、本発明による銅層の成膜に用いる銅めっき浴では温度を10℃〜17℃と低くすることによって、析出する銅結晶の粒径を通常の銅めっき条件で析出する結晶よりも細かくすることができる。温度10℃〜17℃で析出させた微細な銅の結晶は、後述するように熱処理により成長して結晶粒径が大きくなり、ビッカース硬度80Hv以下の銅層を実現することができる。
【0022】
使用する硫酸銅めっき浴としては、市販の硫酸銅めっき液を用いることもできるが、めっき速度を考慮するとプリント配線基板用として一般的に使用されているハイスロー硫酸銅めっき浴が好ましい。ただし、本発明ではめっき浴温度が低いため、硫酸銅の結晶が析出する場合がある。そのため、いずれの硫酸銅めっき浴を用いる場合でも、硫酸銅の結晶が析出しないように、銅イオン濃度や硫酸濃度を公知の方法に従って調整することが望ましい。
【0023】
アノードとしては、通常用いられる含リン銅アノードでは表面に硫酸銅の結晶が析出して不動態化するため、白金−チタン、酸化ルテニウム、酸化イリジウム等の不溶性アノードを用いる。また、硫酸銅めっき浴への銅イオンの供給は、硫酸銅の結晶析出を避けるため、酸化銅水溶液、水酸化銅水溶液、炭酸銅水溶液等で供給する。電流密度は1A/dm〜3A/dmが望ましく、3A/dmを超える電流密度では良好銅めっき層が得られない。尚、電圧は上記の電流密度が実現できるように適宜調整すればよい。
【0024】
一般に電気めっき法で基材上に銅層を成膜する場合、得られる銅層は基材表面の影響を受ける。本発明では樹脂フィルム基材上にシード層が形成され、そのシード層の表面に銅層が電気めっきされるため、めっき直後(熱処理前)の銅層の結晶はシード層の影響を受けることとなる。従って、シード層を乾式めっき法、特にスパッタリング法で成膜すれば、その上に成膜された銅層の結晶状態がシード層を反映して微細で且つ均一になる等の利点がある。
【0025】
次に、電気めっき後の銅層の熱処理について説明する。銅層を電気めっきで成膜した後の樹脂フィルム基材(以下、銅層付樹脂フィルム基材とも称する)は、室温の冷風で乾燥させ、引き続き170℃〜180℃の温度で少なくとも2時間熱処理し、その後除冷する。ただし、上記電気めっきの終了から2時間を超えると銅層が常温で結晶変化を起こし、外部からの熱に対して安定な結晶となるため、銅層付樹脂フィルム基材の熱処理は電気めっきの終了から2時間以内に開始することが好ましい。
【0026】
上記熱処理には、乾燥機のほか、熱源が抵抗加熱や赤外線加熱であるオーブン等を使用することもできる。また、加熱雰囲気は特に限定されず、不活性ガス雰囲気をはじめ、大気中で行うこともできる。銅層付樹脂フィルム基材の熱処理の方法は特に限定されず、例えば枚葉式で処理する以外に、フレキシブル性を有するので、ロール状に巻き取った状態で処理したり、長尺の状態でロール・ツゥ・ロールにより処理したりすることも可能である。
【0027】
熱処理温度は170℃〜180℃の範囲とする。熱処理温度が170℃未満では、常温下での銅層の動的再結晶効果が十分に得られず、満足すべき耐屈折性が得られない。一方、熱処理温度が180℃を超えると、樹脂フィルム基材とシード層及び銅層との密着力が低下するため、結果的に耐屈折性の低下を招くこととなる。更に、熱処理温度が180℃を超えると、銅層表面の酸化を招くことがあるため好ましくない。
【0028】
また、熱処理時間は、銅層のビッカース硬度が80Hv以下となるように、銅の結晶が成長して十分大きくなるまで、具体的には後述するように平均結晶粒径が2μm以上になるまでの時間とする。一般に、結晶の成長速度は成長が始まった時点が最も速く、時間が経過するほど(結晶が大きく成長するほど)遅くなる。本発明による温度170℃〜180℃での熱処理時間は、少なくとも2時間必要であるが、上限は生産性などを考慮して適宜定めることができ、具体的には2時間〜3時間の範囲が好ましい。
【0029】
一般に、電気めっき法により得られた銅層は、常温下で動的再結晶しないと考えられてきた。ところが、本発明のフレキシブル性銅張積層板では、電気めっき法で形成された銅層の微細な銅の結晶が上記熱処理により成長して結晶粒径が大きくなり、銅層の硬度が低下することによって、繰り返し屈折した時に生じる銅層の加工硬化が常温動的再結晶により緩和され、MIT耐屈折度試験で評価したとき優れた耐屈折特性を発現することが分った。
【0030】
本発明のフレキシブル性銅張積層板においては、銅層のビッカース硬度が80Hvを超えると、屈折時に常温下にて短時間(MIT耐屈折試験の折り曲げ周期に対応できる時間)での動的再結晶の効果が得られず、優れた耐屈折性が発現されない。ただし、ビッカース硬度が50Hv未満では銅層が柔らかくなり過ぎるため、銅層のビッカース硬度は50Hv〜80Hvの範囲が好ましい。
【0031】
また、熱処理後の銅層における銅の平均結晶粒径は、銅層のビッカース硬度並びに屈折時における常温下での動的再結晶の発現の観点から、2μm以上であることが好ましい。銅層における銅の平均結晶粒径は、フレキシブル性銅張積層板をサブトラクティブ法でフレキシブル配線基板に加工する際にエッチングで形成される配線の形状にも影響するため、12μm以下とすることが好ましく、2μm〜9μmの範囲が更に好ましい。尚、銅の結晶粒径は、SEMのEBSD(electron backscatter diffraction)により測定することができる。
【0032】
本発明のフレキシブル配線基板は、上記した本発明のフレキシブル性銅張積層板をサブトラクティブ法により配線加工して製造することができる。即ち、フレキシブル配線基板は、樹脂フィルム基材の少なくとも片方の表面に、接着剤を介さずに(めっき法により)シード層と銅層とが積層された構造の配線層を有し、該配線層における銅層のビッカース硬度が80Hv以下であることを特徴するものである。
【0033】
具体的なサブトラクティブ法の手順としては、フレキシブル性銅張積層板の銅層表面の配線とする箇所にレジストを設けた後、露出している銅層を塩化第二鉄水溶液等でエッチングして除去し、更にシード層を塩酸や過マンガン酸塩水溶液あるいはフェロシアン化カリウム水溶液等でエッチングして除去する。尚、エッチングの方法としては、フレキシブル性銅張積層板をエッチング液に浸漬する方法や、エッチング液をシャワーなどでフレキシブル性銅張積層板に噴射する方法等がある。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
厚さ25μmの長尺ポリイミドフィルム(登録商標カプトン)の表面に、スパッタリング法で7Cr−Ni合金を膜厚25nmとなるように成膜して下地金属層とした。次に、この下地金属層の表面に、スパッタリング法で銅薄膜層を膜厚200nmとなるように成膜して、下地金属層と銅薄膜層とからなるシード層を形成した。
【0035】
上記シード層の表面に、白金−チタンからなる不溶性アノードとハイスロー硫酸銅めっき浴を用いて、めっき浴温度15℃、電流密度2A/dmの条件で、銅層を層厚8μmとなるように成膜した。尚、上記ハイスロー硫酸銅めっき浴の組成は、硫酸銅5水和物27g/l、硫酸120g/l、塩化ナトリウム100mg/l、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド−2−ナトリウム(SPS)10ppm、及びポリエチレングリコール50mg/lである。
【0036】
得られた銅層付樹脂フィルム基材をハイスロー硫酸銅めっき浴から引き上げ、室温の冷風(大気)をあてて乾燥させた後、A4サイズに切断して、170℃のオーブンで2時間熱処理することにより、本発明のフレキシブル性銅張積層板を製造した。
【0037】
得られた実施例1によるフレキシブル性銅張積層板について、銅層の銅の平均結晶粒径をSEMのEBSDで観察して測定すると共に、ビッカース硬度を測定した。得られた銅層の銅の平均結晶粒径は3.3μm、銅層のビッカース硬度は平均で76.5Hvであった。
【0038】
また、JIS P8115のMIT耐屈折度試験に供するため、実施例1によるフレキシブル性銅張積層板にサブトラクディブ法でJIS C5016の耐屈曲性試料のパターンを配線加工した。配線加工した試料をJIS P8115のMIT試験機にセットし、R=0.38mm、荷重500g、屈折回転数175rpmの条件下に、配線が断線までの屈折回数を測定した。
【0039】
尚、上記MIT耐屈折度試験では、試料に通電して電圧の上昇を観察しながら屈曲を繰り返し、スタート時の電圧に対して10%電圧が上昇した時点で屈折により破断したと判断した。スタート時の電圧(5mV)に対し10%電圧が上昇した時点で、配線にクラックが入っていることが確認され、断線までの屈折回数は861回であった。
【0040】
[実施例2]
銅層を成膜するためのハイスロー硫酸銅めっき浴の温度を12℃とし、且つ銅層成膜後の熱処理温度を180℃とした以外は上記実施例1と同様にして、本発明のフレキシブル性銅張積層板を製造した。
【0041】
得られた実施例2によるフレキシブル性銅張積層板について、銅層の銅の平均結晶粒径をSEMのEBSDで観察して測定すると共に、ビッカース硬度を測定した。得られた銅層の銅の平均結晶粒径は7.8μm、銅層のビッカース硬度は平均で68.7Hvであった。
【0042】
更に、実施例2によるフレキシブル性銅張積層板について、上記実施例1と同様にして、MIT耐屈折度試験により耐屈折性を評価した結果、断線までの屈折回数は1138回であった。
【0043】
[比較例]
上記実施例1と同様にしてポリイミドフィルムの表面に7Cr−Ni合金の下地金属層を成膜した。この下地金属層をシード層として、その表面に不溶性アノードとハイスロー硫酸銅めっき浴を用いて、めっき浴温度25℃、電流密度2A/dmの条件で、銅層を層厚8μmとなるように成膜した。
【0044】
尚、使用した不溶性アノードは実施例1と同じである。また、ハイスロー硫酸銅めっき浴の組成は、硫酸銅5水和物90g/l、硫酸180g/l、塩化ナトリウム50mg/l、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド−2−ナトリウム(SPS)10ppm、及びポリエチレングリコール50mg/lである。
【0045】
得られた比較例によるフレキシブル性銅張積層板(熱処理なし)について、銅層の銅の平均結晶粒径をSEMのEBSDで観察して測定すると共に、ビッカース硬度を測定した。得られた銅層の銅の平均結晶粒径は1.6μmと小さく、銅層のビッカース硬度は平均で88.9Hvであった。
【0046】
更に、比較例によるフレキシブル性銅張積層板について、上記実施例1と同様にして、MIT耐屈折度試験配線により耐屈折性を評価した結果、断線までの屈折回数は397回であった。
【0047】
上記した実施例1〜2及び比較例について、銅層の成膜に用いた硫酸銅めっき浴の温度、熱処理温度、得られたフレキシブル性銅張積層板の銅層の平均結晶粒径と平均ビッカース硬度、並びにMIT耐屈折度試験による断線までの屈折回数を、下記表1にまとめて示した。
【0048】
【表1】

【0049】
上記の結果から明らかなように、従来品に相当する比較例のフレキシブル性銅張積層板は、電気めっき法で成膜した銅層の平均結晶粒径が極めて小さく、従ってビッカース硬度が高いため、MIT耐屈折度試験による断線までの屈折回数が400回に達していない。尚、比較例における銅層の場合、加工硬化時の常温動的再結晶が起こりにくいことが確認された。
【0050】
一方、本発明のフレキシブル性銅張積層板は、従来品(比較例)に比べて、電気めっき法で成膜した銅層の平均結晶粒径が大きくなり、ビッカース硬度も高くなっている。その結果、電気めっき法で成膜した銅層であっても常温動的再結晶により加工硬化が緩和され、耐屈折特性が大幅に向上したことが分る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルム基材の少なくとも片方の表面に、接着剤を介さずにシード層と銅層とが積層された構造を有し、該銅層のビッカース硬度が80Hv以下であることを特徴とするフレキシブル性銅張積層板。
【請求項2】
前記銅層の銅の平均結晶粒径が2μm〜12μmであることを特徴とする、請求項1に記載のフレキシブル性銅張積層板。
【請求項3】
樹脂フィルム基材の少なくとも片方の表面に、無電解めっき法又は乾式めっき法によりシード層を形成し、該シード層上に10℃〜17℃の温度の硫酸銅めっき浴中で不溶性アノードを用いて銅層を電気めっきした後、170℃〜180℃の温度で少なくとも2時間熱処理することを特徴とするフレキシブル性銅張積層板の製造方法。
【請求項4】
樹脂フィルム基材の少なくとも片方の表面に、接着剤を介さずにシード層と銅層とが積層された構造の配線層を有し、該配線層における銅層のビッカース硬度が80Hv以下であることを特徴するフレキシブル配線基板。

【公開番号】特開2011−14721(P2011−14721A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157666(P2009−157666)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】