説明

フレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物、フレキソ印刷版及びフレキソ印刷版の製造方法

【課題】高反発弾性、高耐ノッチ亀裂性のフレキソ印刷版を製造可能な感光性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマー:100質量部と、(b)エチレン性不飽和化合物:10〜150質量部と、(c)光重合開始剤:0.01〜10質量部と、を含み、前記(b)エチレン性不飽和化合物として、下記一般式(1)で表される化合物を、前記(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマー100質量部に対して5〜100質量部含む、フレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物。
CH2=CH−CO−O−(C36O)n−H ・・・(1)
(一般式(1)中、nは1〜20の範囲の整数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物、フレキソ印刷版及びフレキソ印刷版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷用版として一般的な感光性樹脂印刷版は、下記のようにして形成される。
まず、原材料となる固体状又は液状感光性樹脂に活性光線透過部と非透過部を有するネガフィルム等を介して活性光線を照射し、ラジカル重合反応によってレリーフ部分の感光層のみを硬化する(露光工程)。
次に、レリーフ部分以外の未硬化樹脂を所定の現像液(洗浄液)で溶解除去し、あるいは膨潤分散し、機械的に除去する(現像工程)。
【0003】
上述した感光性樹脂印刷版の形成方法は、硬化部分のみをレリーフとして版表面に出現させる方法であり、短時間で微細レリーフを形成し得ることから好ましく用いられている。
【0004】
特に、液状感光性樹脂を用いる方法は、印刷版製造に要する時間が短く、短納期にも対応できるという利点を有している。また、未硬化樹脂を回収して再利用できるので生産コストを低減することが可能である点も優れている。さらには、形成される印刷版表面の柔軟性が良好となる。
【0005】
上述した各種利点を有していることから、液状感光性樹脂を用いる方法は、特に段ボール印刷用の感光性樹脂印刷版(以下、単に段ボール印刷版ということがある。)を作製する方法として広く普及している。
一般的に段ボール印刷版では、以下の性能が求められる。
(1)段ボールシートへのインク転移を実現するために優れた柔軟性を有していること。
(2)段ボールシート上に載っている紙粉が段ボール印刷版の表面に付着した場合、不良印刷物の発生、版拭き作業による生産性の低下となる(以下、紙粉トラブルということもある。)ため、紙粉が段ボール印刷版表面に付着しない、付着した紙粉がすぐに離脱する性能を有していること。
(3)取り扱いの際に生じる局部的なストレスでレリーフが破壊されないように、優れた耐久性を有していること。
【0006】
通常、フレキソ印刷版、段ボール印刷版形成用の液状感光性樹脂組成物は、エチレン性不飽和基を有するプレポリマー、エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤から構成されている。
上述したような、特に段ボール印刷版に求められる、優れた柔軟性、紙粉離脱性、耐久性を有しているものとするためには、液状感光性樹脂組成物から成る光硬化物の反発弾性と耐ノッチ亀裂性を高めることが重要とされている。
【0007】
特許文献1には、エチレン性不飽和結合を有する不飽和ポリエーテルポリウレタンプレポリマーと、エチレン性不飽和化合物としてアクリレート化合物を用いることで反発弾性の高い感光性樹脂印刷版が得られる旨が記載されている。
特許文献2には、エチレン性不飽和化合物として、ポリオキシエチレン構造を有し、末端に直鎖又は分岐のアルキル基を有するアクリレート化合物を所定量用いることで、大幅に反発弾性が高められた感光性樹脂印刷版が得られる旨が記載されている。
特許文献3には、エチレン性不飽和基を有するプレポリマーとして、特定のポリエステルセグメントを含むポリエーテルポリエステル系のポリウレタンプレポリマーから成る液状感光性樹脂組成物の使用により、製版の際にレリーフに発生するトンネル現象を抑制できる旨が記載されている。また、エチレン性不飽和化合物として、特許文献2に記載のアクリレート化合物を用いることにより、ポリエステルポリエーテル系のポリウレタンプレポリマーから成る組成物においても優れた反発弾性を示す旨が記載されている。
特許文献4には、プレポリマーとしてポリエーテルポリエステル系のポリウレタンプレポリマーと、エチレン性不飽和化合物として単官能(メタ)アクリレート化合物と多官能(メタ)アクリレート化合物を用いることで、耐ノッチ亀裂性が向上する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平07−113767号公報
【特許文献2】特開平07−239548号公報
【特許文献3】特開平07−295218号公報
【特許文献4】特開平04−95959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したような従来技術を前提とし、フレキソ印刷版は、印刷用途に応じた硬度レベルにおいて、反発弾性と耐ノッチ亀裂性をより高いレベルで実現することが求められており、それを達成する液状感光性樹脂組成物が求められている。
更に、近年においては、印刷原紙はコストダウンを目的に古紙混入率高く、低重量の紙を利用する傾向にある。このような粗雑な紙に対して優れたインク転移性を実現する観点からも、柔軟で、かつ35%以上の高い反発弾性を有する印刷版、及び当該印刷版を得るための液状感光性樹脂組成物が求められている。
また、柔軟性に富んだ印刷版は、応力変形が生じやすい傾向があるため、耐久性の指標である耐ノッチ亀裂性の臨界値が20秒以上を示す印刷版及び当該印刷版を得るための液状感光性樹脂組成物が求められている。
【0010】
しかしながら、特許文献1〜4に記載の液状感光性樹脂組成物を用いて得られたフレキソ印刷版は、未だ上記要求特性を全て十分に満たしているものとは言えず、改善の余地がある。
そこで本発明においては、上述した従来技術の問題点に鑑み、フレキソ印刷版の柔軟化に応じて求められる高反発弾性、高耐ノッチ亀裂性の実現を可能とし得るフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した従来技術の課題を解決するべく鋭意研究を行った結果、特定の化学構造を有するアクリル系エチレン性不飽和化合物を含む感光性樹脂組成物が上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は下記の通りである。
【0012】
〔1〕
(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマー:100質量部と、
(b)エチレン性不飽和化合物:10〜150質量部と、
(c)光重合開始剤:0.01〜10質量部と、
を含み、
前記(b)エチレン性不飽和化合物として、下記一般式(1)で表される化合物を、前記(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマー100質量部に対して5〜100質量部含む、
フレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物。
CH2=CH−CO−O−(C36O)n−H ・・・(1)
(一般式(1)中、nは1〜20の範囲の整数を示す。)
【0013】
〔2〕
前記(b)エチレン性不飽和化合物は、前記一般式(1)に示す化合物を含むアクリレート化合物を、30〜100質量%の範囲で含む前記〔1〕に記載のフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物。
【0014】
〔3〕
前記アクリレート化合物は、前記一般式(1)に示す化合物を、20〜100質量%の範囲で含む前記〔2〕に記載のフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物。
【0015】
〔4〕
前記一般式(1)中のnが3〜15の範囲である前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載のフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物。
【0016】
〔5〕
前記(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマーは、
ポリオールとポリイソシアネートとの反応生成物に対して(メタ)アクリル化剤を反応させて得られたプレポリマーであり、
前記(メタ)アクリル化剤が、前記一般式(1)に示す化合物を含む前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載のフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物。
【0017】
〔6〕
前記(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマーは、ポリエーテルポリエステル系のポリウレタンプレポリマーを含有する、前記〔1〕乃至〔5〕のいずれか一に記載のフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物。
【0018】
〔7〕
前記〔1〕乃至〔6〕のいずれか一に記載のフレキソ印刷用液状感光性樹脂組成物の成型体に、露光パターンを具備するフレキソ印刷版。
【0019】
〔8〕
前記〔1〕乃至〔6〕のいずれか一に記載のフレキソ印刷用液状感光性樹脂組成物を成型して成型体を得、当該成型体の表面を露光し、当該成型体の表面に硬化部位を形成する硬化部位形成工程と、
上記硬化部位形成工程の後、現像液により上記硬化部位を現像する現像工程と、
を、有するフレキソ印刷版の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、反発弾性と耐ノッチ亀裂性の双方を高いレベルで実現し得るフレキソ印刷版を製造することができる液状感光性樹脂組成物及び前記特性を有するフレキソ印刷版が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明する。
なお、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0022】
本明細書において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」と「メタクリル」とを包含する概念であり、同様に、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」と「メタクリロイル」とを、「(メタ)アクリレート」は「メタクリレート」と「アクリレート」とを包含する概念である。
【0023】
〔フレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物〕
本実施形態のフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物(以下、単に感光性樹脂組成物と言うこともある。)は、下記(a)〜(c)の各成分を含有する。
(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマー
(b)エチレン性不飽和化合物
(c)光重合開始剤
【0024】
なお、本実施形態の感光性樹脂組成物の態様は常温において液状である。これにより、未硬化の樹脂を回収して再使用できるという利点、並びに、水性現像液による現像が可能である等の生産性及び作業環境の利点が得られる。
本実施形態の感光性樹脂組成物の20℃の温度条件下での粘度は、後述するフレキソ印刷版を製造工程において、優れた厚み精度を発現する観点から、10〜500Pa・sの範囲であることが好ましく、より好ましくは20〜300Pa・sの範囲である。当該粘度は、市販の粘度計、例えばB形粘度計形式B8H(株式会社東京計器製)を用いて測定される値である。
【0025】
((a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマー)
本実施形態の感光性樹脂組成物は、(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマー(以下、(a)成分と言うこともある。)を含有している。
(a)成分の、エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマーは、その分子中に、ウレタン結合を複数有すると共に、エチレン性不飽和基を有しており、重合反応によって、他の化合物と結合可能な化合物である。
(a)成分は、例えば、下記(i)及び(ii)の方法により製造できる。
(i)ポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させて、末端にイソシアネート基を有するポリウレタンを任意分子量でまず形成してプレポリマー前駆体とし、次いで、当該プレポリマー前駆体と、分子内に活性水素とエチレン性不飽和基とを有する化合物とを反応させる方法。
(ii)ポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させて、末端に水酸基を有するポリウレタンを任意分子量でまず形成してプレポリマー前駆体とし、次いで、当該プレポリマー前駆体と、分子内にイソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物とを反応させる方法。
【0026】
上記(i)及び(ii)の方法で使用するポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリエステル共重合ポリオールが挙げられる。
これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
上記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシ1,2−ブチレングリコール、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンランダム共重合グリコール、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンブロック共重合グリコール、ポリオキシエチレン/ポリオキシテトラメチレンランダム共重合グリコール、ポリオキシエチレン/ポリオキシテトラメチレンブロック共重合グリコールが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
上記ポリエステルポリオールとしては、縮合系ポリエステルポリオール、すなわちグリコール化合物とジカルボン酸化合物との重縮合反応により得られるポリエステルセグメントの繰り返しを有するジオールが挙げられる。このようなジオールとしては、例えば、アジピン酸エステル系ジオールであるポリ(エチレングリコールアジペート)ジオール、ポリ(ジエチレングリコールアジペート)ジオール、ポリ(プロピレングリコールアジペート)ジオール、ポリ(1,4−ブタングリコールアジペート)ジオール、ポリ(1,6−へキサングリコールアジペート)ジオール、ポリ(2−メチルプロパングリコールアジペート)ジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンタングリコールアジペート)ジオール、ポリ(ネオペンチルグリコールアジペート)ジオール、ポリ(1,9−ノナングリコールアジペート)ジオール、ポリ(2−メチルオクタングリコールアジペート)ジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリ(β−メチル−δ−バレロラクトン)ジオールが挙げられる。ポリエステルセグメントを構成するジカルボン酸化合物としては、アジピン酸の他、例えば、コハク酸、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
なお、上記例示のとおり、ポリエステルセグメントは、それぞれ単一種のジオール化合物とジカルボン酸化合物とによる重縮合反応により構成されることが一般的である。ただし、いずれか一方又は両方の化合物を複数種用い、任意の割合で混合して重縮合することによりポリエステルセグメントを構成することも可能である。ポリエステルポリオールとしては、上記縮合系ポリエステルポリオールの他にラクトン系ポリエステルポリオールやポリカーボネートジオールも使用可能であり、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
上記ポリエーテルポリエステル共重合ポリオールとしては、上述のポリエーテルポリオールの分子鎖を形成する繰り返しユニットと、上述のポリエステルポリオールの分子鎖を形成する繰り返しユニットとがブロック、又はランダムに結合した構造を有する共重合体が挙げられる。ポリエーテルポリエステル共重合ポリオールは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0027】
上記(i)及び(ii)の方法で使用するポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0028】
上記(i)の方法で使用する、分子内に活性水素とエチレン性不飽和基とを有する化合物としては、例えば、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記(ii)の方法で使用する分子内にイソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートが挙げられる。
上記「分子内に活性水素とエチレン性不飽和基とを有する化合物」、「分子内にイソシアネート基とエチレン性不飽和基とを有する化合物」のように、プレポリマー前駆体と反応して(メタ)アクリル基を付加することを可能とする化合物を、本実施形態において「(メタ)アクリル化剤」と記載することがある。
本実施形態の感光性樹脂組成物を用いて作製したフレキソ印刷版において高い反発弾性及び高い耐ノッチ亀裂性を実現する観点から、前記(メタ)アクリル化剤は、後述の一般式(1)で表される化合物を含むものであることが好ましい。
【0029】
本明細書において、ポリオールの構造がポリエーテルセグメントによって構成されたポリウレタンプレポリマーを「ポリエーテル系のポリウレタンプレポリマー」、ポリエステルによって構成されたポリウレタンプレポリマーを「ポリエステル系のポリウレタンプレポリマー」、ポリエーテルセグメントとポリエステルセグメントとによって構成されたポリウレタンプレポリマーを「ポリエーテルポリエステル系のポリウレタンプレポリマー」と記載することがある。
これらの中では、本実施形態の感光性樹脂組成物を用いて作製したフレキソ印刷版において、高い柔軟性と耐久性とを発現する観点から、(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマーとしては、ポリエーテルポリエステル系のポリウレタンプレポリマーを含有することが好適である。
【0030】
当該ポリエーテルポリエステル系のポリウレタンプレポリマーとしては、ポリエーテルポリオール及びポリエステルポリオールを含むポリオール混合物とポリイソシアネートとの反応生成物であるプレポリマー前駆体に対して、少なくとも一種の(メタ)アクリル化剤を反応させて得られるプレポリマーであることが好ましい。
この方法により得られるポリエーテルポリエステル系のポリウレタンプレポリマーは、水系現像液による現像性の観点から好ましく、また、その分子量を所定の分子量に制御しやすい観点からも好適である。
【0031】
(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマー成分の数平均分子量は、好ましくは5000〜70000であり、より好ましくは5000〜50000である。
(a)成分の数平均分子量を5000以上とすることは、本実施形態の感光性樹脂組成物を用いて作製したフレキソ印刷版に良好な機械的強度を与え、フレキソ印刷版の繰り返し使用及び粗雑な取り扱いに対して高い耐久性を実現する観点から好適である。
当該数平均分子量を70000以下とすることは、本実施形態の感光性樹脂組成物に水系現像液による良好な現像性を与え、汎用的現像装置への対応が容易となる観点から好適である。
「数平均分子量」とは、後述する実施例に記載のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定におけるポリスチレン換算値として算出される値である。
【0032】
また、(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマーを合成した場合、反応希釈剤成分が含有されているプレポリマー組成物として得られることがある。(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマーのみの成分量は、GPC測定で得られるチャートの高分子量成分のピークと低分子量成分のピークにより現れる極小点で成分を分割し、高分子量成分をエチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマーとして扱い、低分子量成分を反応希釈剤成分として扱う。例えば、プレポリマー前駆体に対して反応当量以上の(メタ)アクリル化剤を反応させた場合、余剰分の(メタ)アクリル化剤が反応希釈剤成分としてプレポリマー組成物に含まれる。
【0033】
本実施形態の感光性樹脂組成物において、水系現像液による良好な現像性を発現させる観点から、(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマー成分は、ポリオキシエチレンセグメントを好ましくは5〜25質量%、より好ましくは10〜20質量%の割合で有することが好ましい。
(a)成分が、ポリオキシエチレンセグメントの割合を5質量%以上とすることは、水系現像液に対する感光性樹脂組成物の分散性を確保することに寄与し得る。
ポリオキシエチレンセグメントの割合を25質量%以下とすることは、印刷インクに対する感光性樹脂組成物の硬化物(以下、「樹脂硬化物」という。)の膨潤性を一定値以下に抑制し、印刷時にレリーフが膨れて印刷品質が低下するのを抑制することに寄与し得る。
【0034】
((b)エチレン性不飽和化合物)
本実施形態の感光性樹脂組成物は、(b)エチレン性不飽和化合物(以下、(b)成分と言うこともある。)を含有している。
(b)成分のエチレン性不飽和化合物は、一分子中にエチレン性不飽和基を一つ以上有する化合物である。
本実施形態の感光性樹脂組成物を用いて作製したフレキソ印刷版の物性のバランスの観点から、(b)成分としては、一分子中にエチレン性不飽和基を1個有する単官能エチレン性不飽和化合物と、複数個有する多官能エチレン性不飽和化合物とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0035】
本実施形態の感光性樹脂組成物において、(b)成分の配合量は、上述した(a)成分100質量部に対して10〜150質量部であり、好ましくは10〜100質量部である。
(b)成分の配合量を当該範囲にすることは、良好な製版性を得るために必要な、室温における感光性樹脂組成物の粘度10〜500Pa・sを容易に実現する観点から好適である。
【0036】
本実施形態の感光性樹脂組成物において、(b)成分は、下記一般式(1)で表される化合物を含む。
CH2=CH−CO−O−(C36O)n−H ・・・(1)
(式(1)中、nは1〜20の範囲の整数を表す。)
【0037】
一般式(1)で表される化合物は、本実施形態の感光性樹脂組成物の硬化物の反発弾性の向上に寄与しうる。
さらに、一般式(1)で表される化合物は、他のアクリレート化合物と比較して極めて低毒性であり、皮膚刺激性に関する悪影響が少ないという利点を有する。
前記一般式(1)で表される化合物の括弧内の構造がポリオキシプロピレン構造であることは、フレキソ印刷版の水性インクに対する膨潤を抑制し、尚且つ、柔軟性を発現する観点から好ましい。
前記一般式(1)で表される化合物の末端が水酸基末端構造を有することは、耐ノッチ亀裂性向上の観点から好ましい。
nを1〜20の範囲とすることは、後述する近年の段ボール印刷版に求められる反発弾性と耐ノッチ亀裂性のレベルを同時に実現する観点、また上述した成分(a)の希釈効果の観点から好ましい。
n数の増大により、反発弾性が向上する反面、耐ノッチ亀裂性が低下する傾向にあり、nのより好ましい範囲は1〜15であり、さらに好ましい範囲は1〜13である。
【0038】
本実施形態の感光性樹脂組成物において、(b)エチレン性不飽和化合物としての一般式(1)で表される化合物の配合量は、上述した(a)成分100質量部に対して5〜100質量部である。
一般式(1)成分の配合量を当該範囲にすることで、良好な反発弾性と耐ノッチ亀裂性の双方を同時に実現する観点から好適である。好ましくは5〜90質量部、より好ましくは5〜80質量部である。
【0039】
(b)エチレン性不飽和化合物のうち、一般式(1)で挙げた化合物以外の成分としては、例えば、アクリル酸やメタアクリル酸等の不飽和カルボン酸;不飽和カルボン酸のエステル化合物;(メタ)アクリルアミド及びその誘導体;アリル化合物;マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸及びそのエステル;その他のエチレン性不飽和基を有する化合物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0040】
(b)成分の一例である上記不飽和カルボン酸のエステル化合物としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、ハロゲン化アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、アルキレングリコール又はポリオキシアルキレングリコールのモノ又はジメタクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ、ジ又はトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、及びトリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0041】
(b)成分の一例である上記(メタ)アクリルアミドの誘導体としては、例えば、アルキル基又はヒドロキシアルキル基でN−置換又はN,N’−置換した(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N,N’−アルキレンビス(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0042】
(b)成分の一例である上記アリル化合物としては、例えば、アリルアルコール、アリルイソシアナート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレートが挙げられる。
【0043】
(b)成分の一例である上記マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸のエステルとしては、例えば、アルキル、ハロゲン化アルキル、アルコキシアルキルのモノ又はジマレエート及びフマレートが挙げられる。
【0044】
(b)成分の一例である上記その他のエチレン性不飽和基を有する化合物としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルピロリドンが挙げられる。
【0045】
(b)成分としては、本実施形態の感光性樹脂組成物を用いて作製されるフレキソ印刷版に求められる柔軟性、弾性特性、耐久性に必要な機械的強度を実現し、インクに対する膨潤性等を制御する観点から、プロピレングリコールモノメタクリレート、ポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテルモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びポリオキシプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートよりなる群から選択される1種以上の化合物が好ましい。
【0046】
本実施形態の感光性樹脂組成物を構成する(b)成分全量に対して、30〜100質量%の割合で、アクリレート化合物を含むことが好ましい。
ここで、アクリレート化合物とは、分子内にアクリレート基を有する化合物を意味し、上記一般式(1)で表される化合物もアクリレート化合物に含まれる。
(b)成分中における、上記一般式(1)で表される化合物を含むアクリレート化合物の割合を、30質量%以上とすることは、本実施形態の感光性樹脂組成物を用いて作製したフレキソ印刷版において求められる反発弾性を実現する観点から好ましい。
アクリレート化合物を多く含む感光性樹脂組成物では、光重合時の発熱が大きく、硬化収縮が大きくなる傾向にあり、このような観点からより好ましいアクリレート化合物の含有量は、(b)成分全量に対して、30〜90質量%の範囲であり、さらに好ましい範囲は40〜90質量%である。
【0047】
さらに、本実施形態の感光性樹脂組成物は、(b)成分として用いる前記アクリレート化合物のうち、一般式(1)で表される化合物が、アクリレート化合物全量に対して20〜100質量%の範囲で含有されているものであることが好ましい。
(b)成分として用いるアクリレート化合物全量に対して、一般式(1)で表される化合物の含有量の20質量%以上とすることは、本実施形態の感光性樹脂組成物を用いたフレキソ印刷版において、高い反発弾性を得、かつ優れた耐ノッチ亀裂性を実現する観点から好ましく、より好ましくは30〜100質量%である。
【0048】
(b)成分として用いるアクリレート化合物として、前記一般式(1)で表される化合物と共に好ましく用いられるアクリレート化合物には、下記に示す一般式(2)及び/又は一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0049】
CH2=CH−CO−O−(C24O)m−R1 ・・・(2)
(前記式(2)中、mは1〜20の範囲の整数、R1は炭素数2〜22個の直鎖あるいは分岐のアルキル基を表す。)
前記一般式(2)のmの値が大きい程、概ね本実施形態の感光性樹脂組成物の硬化物の反発弾性を高めることができるが、一方において、感光性樹脂組成物の硬化物の耐水性を減じることとなるため、当該範囲は1〜20の範囲であることが好ましい。より好ましくは2〜10の範囲である。
一般式(2)中のR1で表されるアルキル基の炭素数の好ましい範囲は2〜22個である。R1で表されるアルキル基の炭素数を2個以上とすることは、感光性樹脂組成物の硬化物の耐水性が、R1をメチル基、水酸基にした場合に対して高く設計できる観点から好ましく、22個以下とすることは、上述した成分(a)の希釈効果の観点から好ましい。R1の炭素数は、より好ましくは2〜14個の範囲である。
【0050】
CH2=CH−CO−O−R2 ・・・(3)
(前記式(3)中、R2は炭素数8〜18個の直鎖或いは分岐のアルキル基を表す。)
一般式(3)中のR2で表されるアルキル基の炭素数は、8〜18個の範囲であることが好ましい。
2で表されるアルキル基の炭素数を8個以上とすることは、本実施形態の感光性樹脂組成物の皮膚刺激性を、実害の無いレベルに設計する上で好ましく、18個以下とすることは、上述した成分(a)の希釈効果に優れ、本実施形態の感光性樹脂組成物の低温固化を抑制する観点から好ましい。R2で表されるアルキル基の炭素数は、より好ましくは8〜15個の範囲である。
【0051】
前記一般式(2)で表される化合物の具体例としては、ジオキシエチレングリコールモノエチルエーテルモノアクリレート、ジオキシエチレングリコールモノブチルエーテルモノアクリレート、ジオキシエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテルモノアクリレート、トリオキシエチレングリコールモノヘキシルエーテルモノアクリレート等が挙げられる。
前記一般式(3)で表される化合物の具体例としては、ドデシルアクリレート、トリデシルアクリレート、テトラデシルアクリレート、ペンタデシルアクリレート等が挙げられる。
【0052】
((c)光重合開始剤)
本実施形態の感光性樹脂組成物は、(c)光重合開始剤(以下、(c)成分と言うこともある。)を含有している。
(c)成分の光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイン−n−プロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンジル、ジアセチル、ジフェニルスルフィド、9,10−アントラキノンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0053】
ここで、上記(c)成分は、その反応性を高める観点から、増感剤と組み合わせて使用することが好ましい。このような増感剤としては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ミヒラーズケトン、4,4’−ジエチルアミノフェノン、4−ジエチルアミノ安息香酸エチルエステル等のアミン類;エオシン、チオシン等の染料が挙げられる。特に、上記(c)成分としてベンゾフェノン等の水素引き抜き型開始剤を使用する場合には、このような増感剤を使用することが好ましい。
【0054】
本実施形態の感光性樹脂組成物における前記(c)成分の配合量は、上記(a)成分100質量部に対して0.01〜10質量部であり、好ましくは0.1〜5質量部である。
上記(c)成分の配合量を当該範囲とすることは、感光性樹脂組成物の貯蔵安定性、所望の光硬化速度、感光性樹脂組成物の硬化物の物性を良好にバランスさせる観点から好適である。
【0055】
(その他の成分)
本実施形態の感光性樹脂組成物には、必要に応じて、熱重合禁止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、染料、顔料、滑剤、無機充填剤、可塑剤等を、さらに配合することができる。
【0056】
〔フレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態の感光性樹脂組成物は、先ず、(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマーを合成し、これにより得られた希釈成分を含有するプレポリマー組成物と、(b)エチレン性不飽和化合物、(c)光重合開始剤、及びその他の成分を加えて、必要に応じて加温して攪拌混合することにより得られる。
【0057】
本実施形態のフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物では、一般式(1)で表される化合物を、(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマー100質量部に対して5〜100質量部含有することが重要であり、好ましい含有量を実現する手法として、前記成分(a)のポリウレタンプレポリマーに一般式(1)で表される化合物を添加する方法や、成分(a)のポリウレタンプレポリマー合成時の(メタ)アクリル化剤の少なくとも一種として一般式(1)で表される化合物を使用することも好ましい手段である。具体的には、前記(a)成分の製造方法として説明した上記(i)の方法おいて、一般式(1)で表される化合物を(メタ)アクリル化剤として使用する方法である。
前記(a)成分の製造方法として説明した上記(i)の合成方法において、ポリウレタ
ンプレポリマーの分子量分布を比較的単分散にするために、(メタ)アクリル化剤は、ポリウレタンプレポリマーのための末端基修飾に必要なモル数に対して数倍〜十数倍のモル数で使用することが好ましい。
この時、反応に関与しない(メタ)アクリル化剤は、前述の通り、反応を均質に進めるための反応希釈剤成分となる。
(メタ)アクリル化剤として前記エチレン性不飽和化合物を用いた場合、該反応希釈剤成分は、感光性樹脂組成物においては、成分(b)のエチレン性不飽和化合物の一部又は全部となる。
したがって、本実施形態の感光性樹脂組成物として、一般式(1)で表される化合物をより高濃度で含有させるためには、一般式(1)で表される化合物を、(a)成分の製造工程における(メタ)アクリル化剤の少なくとも一種として使用することが好ましい。
なお、一般式(1)で表される化合物を含む複数のエチレン性不飽和化合物を(メタ)アクリル化剤として使用した場合、使用した質量比に応じて、感光性樹脂組成物における一般式(1)で表される化合物の一部又は全部として扱う。
一般式(1)で表される化合物を(メタ)アクリル化剤に含有させた場合、その濃度が高い程、本実施形態の感光性樹脂組成物を用いて作製されるフレキソ印刷版の反発弾性、耐ノッチ亀裂性を高めることが可能である。
【0058】
〔フレキソ印刷版及びその製造方法〕
本実施形態のフレキソ印刷版は、上述した本実施形態の感光性樹脂組成物を用いて製造される。
本実施形態のフレキソ印刷版は、少なくともその版面側には、本実施形態の感光性樹脂を用いて成形した成型体の硬化体を具備しており、露光処理、現像処理により所定の印刷パターンが形成されている。
本実施形態のフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物を用いたフレキソ印刷版の製造方法は、下記(A)、(B)の各工程を含み、必要に応じて(C)の工程を含む。
(A)本実施形態の感光性樹脂組成物から形成された成型体の表面を露光し、当該成型体の表面に硬化部位を形成する硬化部位形成工程。
(B)上記硬化部位形成工程の後、現像液により上記硬化部位を現像する現像工程。
(C)上記現像工程の後、現像された上記硬化部位の表面に活性光線を照射する活性光線照射工程(「後露光工程」と記載することがある。)。
また、そのフレキソ印刷版の製造方法は、上記(C)工程の後、更に、(D)上記硬化部位を乾燥する乾燥工程、を含んでもよい。
【0059】
上記(A)工程は、本実施形態の感光性樹脂組成物から形成された成型体の表面に対して、その表面上に設けられたマスク層(例えば、ネガフィルム層や赤外レーザー等でアブレーション層を施した層)を介して活性光線を照射することで、レリーフ層を形成させるべき部位を選択的に光硬化する工程である。
上記マスク層は、成型体表面のレリーフ層を形成させるべき部位に、上記活性光線を選択的に照射できるような形状を有し配置されている。
本実施形態で用いられる活性光線源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ、ジルコニウムランプ、太陽光が好ましい。
【0060】
本実施形態の感光性樹脂組成物は液状であるため、上記(A)工程には、通常、上述の感光性樹脂組成物が、専用の装置(製版機)の内部で基材上に一定厚みの膜状に成型される成型工程が含まれる。この場合、上記(A)工程は、成型・露光工程と呼ばれることがある。
このような成型・露光工程は、例えば、以下の(A1)〜(A3)の各工程を含むものである。
(A1)紫外線透過性のガラス板(下部ガラス板)上にネガフィルムを載置し、そのネガフィルムを薄い保護フィルムでカバーした後、その上に液状の感光性樹脂組成物を流し、これが一定の版厚になるようスペーサーを介して支持体となるベースフィルムを貼りあわせ、さらにその上から紫外線透過性のガラス板(上部ガラス板)で押さえつけて感光層を形成する感光層成型工程。段ボール印刷に用いるような印刷版(厚みが4mm以上)を形成する場合、印刷時の印圧に対するレリーフの強度を補填するために、上部ガラス板側の感光層の部分に土台となるシェルフ層を形成するのが好ましい。この場合、レリーフ露光前に、上部ガラス板とベースフィルムとの間に専用のネガフィルム(マスキングフィルム)を挟んで感光層を成型する。
(A2)上記感光層成型工程の後、紫外線蛍光灯等を活性光源とする活性光線(例えば、300nm以上に波長分布を有する光線)を上部ガラス板側からベースフィルムを介して照射することにより、版のベースフィルム側全面に均一な薄い硬化樹脂層(すなわち床部形成層(バック析出層))を析出させるバック露光工程。感光層形成工程でマスキングフィルムが設けられた場合、同様の露光によりシェルフ層が形成される。この場合、マスキング露光工程と称する。
(A3)上記バック露光工程又はマスキング露光工程の後、上記感光層に対し、下部ガラス側からネガフィルムを介して上部と同様の活性光線を照射し、画像形成を行うレリーフ形成露光工程。
なお、マスキング露光工程によりシェルフ層を形成した場合、レリーフ形成露光工程の後にマスキングフィルムを除去し、更にバック露光工程を経ることで、ベースフィルム上の全面にバック析出層を形成することも好ましい態様の一つである。
【0061】
上記(B)工程は、上記(A)工程の硬化部位形成工程の後、所定の現像液により上記硬化部位を現像する工程である。
この(B)工程において用いられる現像液としては、界面活性剤水溶液が好ましい。
界面活性剤の種類や組成は、使用する樹脂の性質に合わせて最適なものが選択される。
また、現像方法としても、露光して得られた感光性樹脂硬化版を現像液中に浸漬する方法、露光して得られた感光性樹脂硬化版面上に現像液をスプレーノズルから吹き付ける方法、あるいは浸漬、スプレーにより膨潤した未硬化樹脂をブラシで掻き取る方法等が適用可能である。
【0062】
上記界面活性剤は、微細部分の現像性、現像液のスタミナ性の観点からアニオン界面活性剤及び/又はノニオン界面活性であると好ましい。
上記界面活性剤の上記現像液中に占める割合は、好ましくは0.2〜4.0質量%、より好ましくは0.5〜3.0質量%である。当該割合を0.2質量%以上とすることは、印刷に供し得る印刷版を提供するための十分な現像能力を確保する観点から好適である。界面活性剤の現像液中に占める割合を4.0質量%以下とすることは、樹脂硬化物表面に浸透した界面活性剤が後述する後露光による硬化反応を阻害する働きを低減し、印刷版表面の粘着性を低減することに寄与し得る。
【0063】
上記現像液には、印刷版の表面の粘着性をより効果的に低減する観点から、水素引き抜き剤を配合することが好ましい。
ここで、「水素引き抜き剤」とは、活性光線を照射することにより、他の化合物中の水素原子を引き抜くことができる化合物を意味する。
このような水素引き抜き剤が、上記現像液中に占める割合は、0.01〜0.5質量%であることが好ましく、0.03〜0.3質量%であることがより好ましい。当該割合を0.01質量%以上とすることは、表面粘着性除去効果を良好に発現させる観点から好ましい。その割合を0.5質量%以下とすることは、現像能力を確保する観点から好適である。
上記水素引き抜き剤としては、例えば、活性光源として安価な殺菌灯による活性光線に対して水素引き抜き反応の開始効率が高く、低濃度で水素引き抜き剤を使用することによる現像性への負荷を軽減する観点から、ベンゾフェノン類の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましく、特にベンゾフェノン用いることが好適である。
【0064】
上記(C)工程は、上記(B)工程における現像後に、印刷版の機械的強度促進、表面粘着性除去を主目的として、樹脂の硬化部位へ活性光線を照射する工程である。
このような活性光線の光源(活性光源)としては、例えば、レリーフ露光に用いる300nm以上の波長領域に分布を有する活性光源(例えば、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ等)、200〜300nmの波長領域に分布を有する活性光源(例えば、低圧水銀灯、殺菌灯、重水素ランプ等)、あるいはこれらを組み合わせた光源が好ましく用いられる。
ここで、上記現像液が水素引き抜き剤を含有する場合に用いる光源として、上記水素引き抜き剤を効果的に活性化する波長領域に分布を有する活性光源を選択することが好ましい。
本実施形態においては、上述のように、水素引き抜き剤としてベンゾフェノン類が好ましく用いられる。この場合、光源としては、200〜300nmの波長領域に分布を有する活性光源が好ましく用いられる。
なお、上記後露光工程における露光方式としては、空気中の酸素による重合反応阻害の防止を目的とした水中露光方式や、空気中、すなわち酸素阻害への対策を行わない空中露光方式を採用し得る。これらの中でも、粘着性を抑制する観点から、水中露光方式が好ましい。
上記後露光工程における活性光線の照射量は、200〜300nmの波長領域に分布を有する活性光線を用いる場合、好ましくは500〜5000mJ/cm2であり、より好ましくは1000〜5000mJ/cm2であり、さらに好ましくは2000〜3500mJ/cm2である。活性光線の照射量を500mJ/cm2以上とすることは、十分に表面粘着性を除去する観点から好適である。活性光線の照射量を5000mJ/cm2以下とすることは、印刷版表面に微少なクラックが生じて粘着性が現れる可能性を低減する観点から好適である。本実施形態における活性光線の照射量は、オーク製作所社製の紫外線測定器である「UV−M02」により測定した250nmの波長における照射量と照射時間とから算出した値である。
【0065】
上記(D)工程は、上記(C)工程の後、さらに、(D)上記硬化部位を乾燥する乾燥工程である。
上記(D)工程により、(B)工程や水中露光方式による(C)工程において感光性樹脂硬化版の表面に付着した水分を乾燥することができる。
このような乾燥工程における乾燥は、専用の収納式熱風乾燥機を用いて行われることが好ましい。
【0066】
上述したフレキソ印刷版の製造方法は、更に、他の工程を含んでもよい。
例えば、(B)工程の後に、水素引き抜き剤を版表面に浸透する工程を経て、更に、(C)工程を経る特許3592336号公報に開示された製版方法も好適に適用可能である。
【0067】
なお、上述した(A)工程において、成型体は、本実施形態の感光性樹脂組成物のみよって形成してもよく、その他の感光性樹脂との積層体としてもよい。
すなわち、優れた反発弾性を発現し得るため、本実施形態の感光性樹脂組成物を、いわゆるキャップ版のキャップ層として用いることも可能である。具体的には、二種類以上の樹脂組成物を積層して成型し、露光によって一体化する製版方法において、版表面に位置するキャップ層に液状の本実施形態の感光性樹脂組成物を用い、下層領域を担うベース樹脂には従来技術による液状感光性樹脂を用いる構成が挙げられる。
【0068】
(フレキソ印刷版の用途)
本実施形態のフレキソ印刷版は、特に段ボール用印刷版として好ましく用いられる。
以下に、段ボール印刷版用に好適なフレキソ印刷版の諸特性について説明する。
【0069】
<硬度>
フレキソ印刷版に求められる柔軟性の指標であるショアA硬度は、好ましくは10〜50度の範囲である。
当該硬度は、非印刷体の材質、要求される印刷品質に応じて適切に選択すればよい。
ショアA硬度を10度以上に設定することは、印圧に対するレリーフの歪みを抑制し、印刷画像が太くなって文字の判読が困難となる虞を低減する観点から好適である。
一方、ショアA硬度を50度以下とすることは、インクを十分に転写する観点から好適である。
段ボール印刷用途に使用されるフレキソ印刷版では、被印刷体となる段ボールが柔軟であり、印刷表面がフルート状中芯の影響により凹凸を有することから、ショアA硬度を10〜40度の範囲に設定することが好ましい。より好ましくは10〜35度の範囲である。
なお、当該ショアA硬度は、後述する実施例に記載の方法と同様にして測定される。
【0070】
<反発弾性>
段ボール印刷版用として好適なフレキソ印刷版に求められる反発弾性は、好ましくは35%以上、より好ましくは45%以上、さらに好ましくは50%以上である。
当該反発弾性を35%以上に設定することは、印刷中に版表面に付着した紙粉が印刷を継続する中で自然に離脱することを可能にする観点、低重量の紙により構成された柔軟な段ボールシートへ印刷を行う場合にはインクの転移性を向上させる観点から好ましい。
なお、当該反発弾性は、後述する実施例に記載の方法と同様にして測定される。
【0071】
<耐ノッチ亀裂性>
本実施形態のフレキソ印刷版が有する耐ノッチ亀裂性は、20秒以上であることが好ましく、より好ましくは30秒以上、さらに好ましくは45秒以上である。
特に制限されないが、フレキソ印刷版の耐久性に要求される耐ノッチ亀裂性は、印刷用途により設定されたショアA硬度に応じて好適な領域に設定することがより好ましい。
具体的には、ショアA硬度40〜50度の範囲では20秒以上、ショアA硬度30〜40度の範囲では30秒以上、ショアA硬度10〜30度の範囲では45秒以上とすることが好適である。
なお、当該耐ノッチ亀裂性は、後述する実施例に記載の方法と同様にして測定される。
耐ノッチ亀裂性を20秒以上とするための方法としては、上記(a)成分のポリウレタンプレポリマーとして、その数平均分子量が前述の5000〜70000の範囲の高分子量体を選択する方法、上記(a)成分に係るポリオールとしてポリエステルポリオールを使用する方法、さらには、上記(a)成分に係る、数平均分子量がそれぞれ1000以上のポリエーテルジオールとポリエステルジオールとを、それらのモル比(ポリエーテルジオール/ポリエステルジオール)として1/2〜2/1の範囲で混合して使用する方法が挙げられる。
【実施例】
【0072】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
〔製造例1〕
(不飽和ポリウレタンプレポリマーAの製造)
国際公開第2008/061150号に記載の製造例1と同様の方法で、不飽和ポリウレタンプレポリマーの合成を行った。
すなわち、2000gのポリオキシエチレン(EO)−オキシプロピレン(PO)ブロック共重合ジオール(水酸基価:44KOHmg/g、EO含量30質量%、以下「PL2500」と略して記載する。)に対して、0.08gのジブチル錫ジラウレート(以下「BTL」と略して記載する。)を加え、40℃で均一になるまで攪拌し、混合物を得た。
得られた混合物に、149gのトリレンジイソシアネート(以下「TDI」と略して記載する。)を加えてさらに攪拌した。
均一となったところで、その混合物を80℃まで昇温した後、約4〜5時間反応させて、両末端にイソシアネート基を有するプレポリマー前駆体を調製した。
そのプレポリマー前駆体に、(メタ)アクリル化剤として、137gのポリ(オキシプロピレン)グリコールモノメタアクリレート(平均分子量380、商品名「ブレンマーPP」、日油株式会社製、以下「PPM」と略して記載する。)と、69gのヒドキシプロピルメタアクリレート(商品名「ブレンマーP」、日油株式会社製、以下「HP」と略して記載する。)と、を加えて約2時間反応させた。
このようにして得られた反応生成物を一部取り出してIR分光測定を行ったところ、イソシアネート基消失を確認した。こうして、プレポリマー組成物Aを得た。
プレポリマー組成物Aについて、下記のようにしてGPC測定を行った結果、プレポリマー成分に由来する高分子量体の数平均分子量は3.3万であり、プレポリマー組成物中の高分子量体(不飽和ポリウレタンプレポリマー)の含有量は93質量%であった。
後述する感光性樹脂組成物の調合においては、このプレポリマー組成物Aは、不飽和ポリウレタンプレポリマーA:93質量%、反応希釈剤成分:7質量%の組成物として取り扱った。
【0074】
<GPC測定>
製造したプレポリマー組成物について、以下の条件でGPC測定を行い、ポリスチレン換算による数平均分子量を求めた。
また、GPC測定により得られるピーク面積比(%)により、製造時に過剰に加えた(メタ)アクリル化剤の未反応成分を除外した不飽和ポリウレタンプレポリマー成分に由来する高分子量体の含有量を求めた。
これらの結果から、高分子量体の数平均分子量を算出した。
機器 :東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」
カラム :東ソー株式会社製「TSLgelGMHXL」
溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :1ミリリットル/分
注入量 :100マイクロリットル
検出器 :RI検出器
検量線標品:ポリスチレン(分子量500〜1260000)
試料 :0.3質量%テトラヒドロフラン溶液
【0075】
〔製造例2〕
(不飽和ポリウレタンプレポリマーBの製造)
特開平07−295218号公報に記載の製造例3と同様の方法によって、不飽和ポリウレタンプレポリマーの合成を行った。
すなわち、810g(0.27モル)のポリ(3−メチル−1,5−ペンタンジオールアジペート)ジオール(水酸基価:37KOHmg/g、商品名「P3010」、クラレ株式会社製、以下「P3010」と略して記載する。)と、800g(0.32モル)のPL2500との混合物に対して、0.07gのBTLを加え、40℃で均一になるまで攪拌し、混合物を得た。
得られた混合物に、120g(0.69モル)のTDIを加えてさらに攪拌した。
均一となったところでその混合物を80℃まで昇温した後、約4〜5時間反応させて両末端にイソシアネート基を有するプレポリマー前駆体を調製した。
そのプレポリマー前駆体に、(メタ)アクリル化剤として、353g(0.93モル)のPPMを加えて約2時間反応させた。
このようにして得られた反応生成物を一部取り出して、IR分光測定を行ったところ、イソシアネート基消失を確認した。こうして、プレポリマー組成物Bを得た。
プレポリマー組成物Bについて上記のようにしてGPC測定を行った結果、プレポリマー成分に由来する高分子量体の数平均分子量は2.3万であり、プレポリマー組成物中の高分子量体の含有量は87質量%であった。
後述の感光性樹脂組成物の調合では、プレポリマー組成物Bは、不飽和ポリウレタンプレポリマーB:87質量%、反応希釈剤成分:13質量%の組成物として取り扱った。
【0076】
〔製造例3〕
(不飽和ポリウレタンプレポリマーCの製造)
(メタ)アクリル化剤として、353g(0.93モル)のPPMに代えて、362.9g(0.86モル)のポリオキシプロピレングリコールモノアクリレート(商品名「AP−400」、日油株式会社製、以下「AP−400」と略して記載する。)を用いた。
その他の条件は、製造例2と同様にしてプレポリマー組成物Cを得た。
プレポリマー組成物Cについて、上記のようにしてGPC測定を行った結果、プレポリマー成分に由来する高分子量体の数平均分子量は2.5万であり、プレポリマー組成物中の高分子量体の含有量は87質量%であった。
後述の感光性樹脂組成物の調合では、プレポリマー組成物Cは、不飽和ポリウレタンプレポリマーC:87質量%、反応希釈剤成分:13質量%の組成物として取り扱った。
製造例3において、(メタ)アクリル化剤は、一般式(1)で表される化合物であるので、感光性樹脂組成物においては、反応希釈剤成分は一般式(1)で表される化合物として扱った。
【0077】
〔製造例4〕
(不飽和ポリウレタンプレポリマーDの製造)
(メタ)アクリル化剤として、353g(0.93モル)のPPMに代えて、169g(0.45モル)のPPMと169g(0.67モル)のポリオキシプロピレングリコールモノアクリレート(商品名「AP−150」、日油株式会社製、以下「AP−150」と略して記載する。)を用いた。
その他の条件は、製造例2と同様にしてプレポリマー組成物Dを得た。
プレポリマー組成物Dについて、上記のようにしてGPC測定を行った結果、プレポリマー成分に由来する高分子量体の数平均分子量は2.5万であり、プレポリマー組成物中の高分子量体の含有量は87質量%であった。
後述の感光性樹脂組成物の調合では、プレポリマー組成物Dは、不飽和ポリウレタンプレポリマーD:87質量%、反応希釈剤成分:13質量%の組成物として取り扱った。
製造例4において、(メタ)アクリル化剤として、一般式(1)で表される化合物を50質量%、すなわち使用した(メタ)アクリル化剤(100質量%)のうちの50質量%、一般式(1)で表される化合物を使用したので、感光性樹脂組成物においては、反応希釈剤成分の50質量%は一般式(1)で表される化合物として扱った。
【0078】
〔実施例1〜11〕、〔比較例1〜4〕
前記製造例1〜4で製造したプレポリマー組成物A〜Dに、下記表1に示すエチレン性不飽和化合物、光重合開始剤、酸化防止剤を加えて、60℃の加温状態で攪拌混合して、下記表2に示す実施例1〜11、比較例1〜4のフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物を得た。
【0079】
このようにして得られた、フレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物を用いて、下記に示す成型・露光工程、現像工程、後露光工程、乾燥工程を順次経ることにより段ボール印刷版を作製した。
((1)成型・露光工程)
ALF−213E型製版機(旭化成イーマテリアルズ(株)製)を用いて、上記(A1)のようにして、シェルフ層用のネガフィルムを備える感光層を形成した。
次いで、マスキング露光量:500mJ/cm2、レリーフ露光量:650mJ/cm2の露光条件で、上記(A2)、(A3)のようにして感光層を露光し、15cm角正方形の印刷レリーフを有する厚み7mmの感光性樹脂硬化版を得た。
((2)現像工程)
未硬化樹脂を常法により回収した後に、AL−400W型現像機(ドラム回転スプレー式、旭化成イーマテリアルズ(株)製、ドラム回転数:20回転/分、スプレー圧:0.15Pa)に該感光性樹脂組成物を乳化し得るAPR(登録商標)洗浄剤 タイプW−10(主剤:アニオン系界面活性剤、旭化成イーマテリアルズ(株)製):2質量%と、APR(登録商標)表面処理剤タイプA−10(主剤:ノニオン界面活性剤、ベンゾフェノン、旭化成イーマテリアルズ(株)製):0.5質量%と、消泡剤SH−4(シリコーン混和物、旭化成イーマテリアルズ(株)製):0.3質量%と、を含む水溶液を現像液として調合し、液温40℃、現像時間10分間の条件で現像を行った。
現像後、水道水で現像液による泡が落ちる程度に洗浄した。
((3)後露光工程)
紫外線蛍光灯、殺菌灯の双方を装備したAL−200UP型後露光機(旭化成イーマテリアルズ(株)製)を用い、水中露光方式により露光を行った。
それぞれの光源から照射される露光量が、感光性樹脂硬化版表面で紫外線蛍光灯:1500mJ/cm2、殺菌灯:4500mJ/cm2となる露光時間で露光を行った。
((4)乾燥工程)
ALF−DRYER(旭化成イーマテリアルズ(株)製)を用い、後露光後の版を、その表面の水分がなくなるまで約30分間乾燥し、フレキソ印刷版を得た。
【0080】
得られたフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物の粘度(下記表2中、樹脂粘度)、フレキソ印刷版の硬度(下記表2中、shoreA硬度)、反発弾性、耐ノッチ亀裂性の評価を、下記に示す方法により実施し、その評価結果を、下記表2に示した。
なお、本明細書の比較例1〜4は、本願発明の有効性を評価するために、特開平07−295218号公報記載の実施例3、実施例5、実施例8、及び、国際公開第2008−15611号公報記載の比較例1に基づいて実施した。
【0081】
〔(1)粘度〕
得られたフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物を、温度20℃、相対湿度70%の恒温恒湿室内に一日放置し、同室内においてB形粘度計形式B8H(株式会社東京計器製)を用いて、粘度を測定した。
【0082】
〔(2)ショアA硬度〕
得られたフレキソ印刷版を、温度20℃、相対湿度70%の恒温恒湿室内に一日放置し、フレキソ印刷版の、15cm角正方画像印刷面のショアA硬度を測定した。
測定は、同室内に設置されたJIS定圧荷重器GS−710(株式会社テクロック社製 ASTM:D2240A、JIS:K6253A、ISO:7619Aに準拠)を1kg荷重で用いて、測定開始後15秒後の値を読み取った。
ショアA硬度は、10〜35度であれば、良好であると判断した。
【0083】
〔(3)反発弾性〕
得られたフレキソ印刷版を、温度20℃、相対湿度70%の恒温恒湿室内に一日放置し、フレキソ印刷版の15cm角正方画像印刷面の反発弾性を落球法により測定した。
同室内でサンプル版の上方30cmの高さから直径8mmの鉄球を版上に自然落下させ、この鉄球の跳ね返る高さHcmを測定し、反発弾性(%)=100×(S/30)の式より求めた。
この際、サンプル版の僅かな表面ベタツキの影響を除外するために、フレキソ印刷版表面に、タルク等でパウダリング処理を実施した後、上記反発弾性の測定を行った。
反発弾性は、35%以上であれば、良好であると判断した。
【0084】
〔(4)耐ノッチ亀裂性〕
得られたフレキソ印刷版のべた画像(全面が平滑で凹部の存在しない印刷用レリーフ)領域から幅2cm、長さ5cmの短冊状のサンプル版3個を切り出し、長さ方向の中央部分にカッターで深さ0.8〜1.2mmの切筋(ノッチ)を入れ、サンプル版とした。
サンプル版を温度20℃、相対湿度70%の恒温恒湿室内に一日放置し、同室内で以下の操作で測定を実施した。
サンプル版の長さ方向両端を、該切筋が外側になるようにやや湾曲させて軽く一方の手の指でつまみ、それから、サンプル版の切筋の裏側に位置する支持体が、該切筋の真下で折れ曲がるよう、もう一方の手の指をその支持体にあてがい、サンプル版を素早く折り曲げて支持体同士が密着した形状を保持するようサンプル版を支持した。
サンプル版を折り曲げた瞬間から該切筋から生じた亀裂が支持体に到達するまでの時間を秒単位で測定した。
サンプル版3個について同様の測定を行い、測定結果の相加平均値に近い5秒単位の整数を耐ノッチ亀裂性(秒)として求めた。
耐ノッチ亀裂性は、40秒以上であれば、良好であると判断した。
【0085】
【表1】

【0086】
表1中、「≒」は、ポリオキシプロピレンの繰り返し単位が分布を有することを示し、おおよそ±2程度の5種構造の化合物を主成分とする混合物であることを意味する。
【0087】
【表2】

【0088】
表2中、(注1)〜(注6)は、下記に従うものとする。
(注1):エチレン性不飽和プレポリマーの質量は、プレポリマー組成物のGPC測定で得られた含有濃度から計算した。
(注2):希釈分は、プレポリマー合成時に、過剰に仕込まれた(メタ)アクリル化剤の残留分であり、プレポリマー組成物からエチレン性プレポリマーを除いた質量として計算した。
(注3):エチレン性不飽和化合物の合計は、プレポリマー組成物の希釈分を含んでいるものとした。
(注4):AP化合物の合計は、化学式(1)が示す化合物の合計であり、プレポリマー組成物希釈分も仕込み比率を元に合算されている。
(注5):アクリレート化合物の割合は、エチレン性不飽和化合物の内に占めるアクリレート化合物の割合を示している。プレポリマー組成物の反応希釈剤成分のうちのアクリレート化合物も仕込み比率を元に合算されている。
(注6):AP化合物の割合は、アクリレート化合物中に占める化学式(1)が示す化合物の割合を示している。
なお、注釈中の「AP化合物」は、化学式(1)が示す化合物であり、本実施例において具体的には、「ポリオキシプロピレングリコールモノアクリレート」を表す。
【0089】
比較例1〜3、実施例1〜8は、ポリエーテルエステル系ウレタンプレポリマーと各種アクリレート化合物を併せて使用した事例である。
比較例1〜3からは反発弾性の増大に対して耐ノッチ亀裂性の低下するトレードオフの関係が確認できた。
一方、一般式(1)で表されるポリオキシプロピレングリコールモノアクリレートを含む実施例1〜8では、比較例2、3と同様の反発弾性の領域において、より高い耐ノッチ亀裂性を発現していることが分かった。
【0090】
実施例1〜8のフレキソ印刷版は、低重量の紙により構成された柔軟な段ボールシートへ良好な印刷を行うために印刷版に求められる特性:ショアA硬度10〜35度、反発弾性40%以上、耐ノッチ亀裂性45秒以上の性能を実現していることが分かった。
【0091】
実施例9、10は、ウレタンプレポリマー合成の(メタ)アクリル化剤として、一般式(1)で表されるポリオキシプロピレングリコールモノアクリレートを用いた事例である。
(メタ)アクリル化剤としてポリオキシプロピレングリコールモノアクリレートを用いない実施例8の印刷版に対して耐ノッチ亀裂性が大幅に向上していることが分かった。
【0092】
実施例11と比較例4は、ポリエーテル系ウレタンプレポリマーを用いた事例である。
一般式(1)で表されるポリオキシプロピレングリコールモノアクリレートを含む実施例11は、これを含まない比較例4と同一の耐ノッチ亀裂性でありながら、反発弾性が高いことが分かった。
【0093】
以上の結果から、一般式(1)で表されるポリオキシプロピレングリコールモノアクリレートの採用が、フレキソ印刷版の反発弾性、耐ノッチ亀裂性の向上に有効に作用していることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物は、特に、段ボール印刷用の印刷版として、産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマー:100質量部と、
(b)エチレン性不飽和化合物:10〜150質量部と、
(c)光重合開始剤:0.01〜10質量部と、
を含み、
前記(b)エチレン性不飽和化合物として、下記一般式(1)で表される化合物を、前記(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマー100質量部に対して5〜100質量部含む、
フレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物。
CH2=CH−CO−O−(C36O)n−H ・・・(1)
(一般式(1)中、nは1〜20の範囲の整数を示す。)
【請求項2】
前記(b)エチレン性不飽和化合物は、
前記一般式(1)に示す化合物を含むアクリレート化合物を、エチレン性不飽和化合物全量に対して、30〜100質量%の範囲で含む請求項1に記載のフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記アクリレート化合物は、前記一般式(1)に示す化合物を、アクリレート化合物全量に対して、20〜100質量%の範囲で含む請求項2に記載のフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)中のnが3〜15の範囲である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマーは、
ポリオールとポリイソシアネートとの反応生成物に対して(メタ)アクリル化剤を反応させて得られたプレポリマーであり、
前記(メタ)アクリル化剤が、前記一般式(1)に示す化合物を含む請求項1乃至4のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(a)エチレン性不飽和基を有するポリウレタンプレポリマーは、
ポリエーテルポリエステル系のポリウレタンプレポリマーを含有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用液状感光性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のフレキソ印刷用液状感光性樹脂組成物の成型体に、露光パターンを具備するフレキソ印刷版。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のフレキソ印刷用液状感光性樹脂組成物を成型して成型体を得、当該成型体の表面を露光し、当該成型体の表面に硬化部位を形成する硬化部位形成工程と、
上記硬化部位形成工程の後、現像液により上記硬化部位を現像する現像工程と、
を、有するフレキソ印刷版の製造方法。

【公開番号】特開2011−221453(P2011−221453A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93270(P2010−93270)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】