説明

フロッグレッグアームロボット及びその制御方法

【課題】機構を複雑化させることなく制御上の特異点を通過する。
【解決手段】アーム部2が現在の姿勢から上記駆動モータ5の駆動により、所望の姿勢を含む複数の姿勢に移行可能な姿勢である特異点姿勢を通過する際に、ハンド部3を減速させる制御手段4を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンド部に搬送対象物を載置した状態にて移送するフロッグレッグアームロボット及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、所定の搬送対象物をハンド部に載置した状態にて移送するアームロボットが用いられているが、このアームロボットの中には、同期して動く2つのアーム部にハンド部が支持されたいわゆるフロッグレッグアームロボットがある。
このフロッグレッグアームロボットは、各アーム部が回転軸部によって連結された上腕部と前腕部とによって構成されており、各アーム部の上腕部を本体部に設置された駆動モータによって回転駆動することによって前腕部に連結されたハンド部を移動する構成となっている。
【0003】
ところで、フロッグレッグアームロボットでは、アーム部が所定の姿勢の場合に、現在の姿勢から駆動モータの駆動により、所望の姿勢を含む複数の姿勢に移行可能な状態となる場合がある。このような状態は、いわゆる特異点と呼ばれている。特異点における姿勢から駆動モータを駆動した場合には、アーム部が所望の姿勢となる場合と、所望しない姿勢となる場合とのどちらに移行するかが不定となり、制御が不安定となる。このため、特異点における姿勢をアーム部が通過する際にアーム部の動作が不安定となり、振動等が生じる場合がある。また、万が一、特異点にてアーム部が停止した場合には、制御不能となる。
【0004】
これに対して、例えば特許文献1には、駆動モータの動力を上腕部と前腕部とを回転可能に連結する回転軸部に伝達するためのスプロケットやチェーンを備えるフロッグレッグアームロボットが記載されている。このようなスプロケットやチェーンを備えるフロッグレッグアームロボットによれば、上腕部と前腕部とを連結する回転軸部にチェーン等を介してトルクを供給することによって、制御上の特異点が解消されるものとされている。
【特許文献1】特開平11−216691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スプロケットやチェーン等を備える場合には、機構が複雑化する。また、機構が複雑化することに伴って、取付精度や形状精度等の誤差に起因する不具合が大きくなるとともに、制御対象が増え、制御が複雑化する。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、機構を複雑化させることなく制御上の特異点を通過することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のフロッグレッグアームロボットは、本体部に設置される駆動モータによって回転される第1の回転軸部を介して一端側が上記本体部に連結されるとともに基準平面に沿って揺動可能な第1の上腕部及び第2の上腕部と、第2の回転軸部を介して一端側が上記第1の上腕部の他端側に回転可能に支持されるとともに上記基準平面に沿って揺動可能な第1の前腕部と、第3の回転軸部を介して一端側が上記第2の上腕部の他端側に回転可能に支持されるとともに上記基準平面に沿って揺動可能な第2の前腕部と、第4の回転軸部を介して上記第1の前腕部の他端側に回転可能に支持されるとともに第5の回転軸部を介して上記第2の前腕部の他端側に回転可能に支持されるハンド部と、上記第4の回転軸部と上記第5の回転軸部とを反対方向に同期回転させる同期手段と、上記駆動モータの回転方向及び回転数を制御することによって上記ハンド部の速度を制御する制御手段とを備えるフロッグレッグアームロボットであって、上記制御手段は、上記第1の上腕部、上記第2の上腕部、上記第1の前腕部及び上記第2の前腕部が現在の姿勢から上記駆動モータの駆動により、所望の姿勢を含む複数の姿勢に移行可能な姿勢である特異点姿勢を通過する際に、上記ハンド部を減速させることを特徴とする。
【0008】
このような特徴を有する本発明のフロッグレッグアームロボットによれば、上記第1の上腕部、上記第2の上腕部、上記第1の前腕部及び上記第2の前腕部が現在の姿勢から上記駆動モータの駆動により、所望の姿勢を含む複数の姿勢に移行可能な姿勢である特異点姿勢を通過する際に、上記ハンド部が減速される。
【0009】
また、本発明のフロッグレッグアームロボットにおいては、上記第2〜第5の回転軸部の少なくともいずれかに接続されるとともに接続された回転軸部に対して上記基準平面に沿う予備トルクを供給するトルク供給手段を備え、該トルク供給手段が、上記第1の上腕部、上記第2の上腕部、上記第1の前腕部及び上記第2の前腕部が現在の姿勢から上記駆動モータの駆動により、所望の姿勢を含む複数の姿勢に移行可能な姿勢である場合に、上記所望の姿勢を達成する方向の上記予備トルクを供給するという構成を採用することができる。
【0010】
また、本発明のフロッグレッグアームロボットにおいては、上記制御手段が、上記ハンド部を減速させる際に上記ハンド部に与える加速度による力が、上記予備トルク及び予め有する機械的な抵抗よりも大きくなるように上記駆動モータを制御するという構成を採用することができる。
【0011】
また、本発明のフロッグレッグアームロボットの制御方法は、本体部に設置される駆動モータによって回転される第1の回転軸部を介して一端側が上記本体部に連結されるとともに基準平面に沿って揺動可能な第1の上腕部及び第2の上腕部と、第2の回転軸部を介して一端側が上記第1の上腕部の他端側に回転可能に支持されるとともに上記基準平面に沿って揺動可能な第1の前腕部と、第3の回転軸部を介して一端側が上記第2の上腕部の他端側に回転可能に支持されるとともに上記基準平面に沿って揺動可能な第2の前腕部と、 第4の回転軸部を介して上記第1の前腕部の他端側に回転可能に支持されるとともに第5の回転軸部を介して上記第2の前腕部の他端側に回転可能に支持されるハンド部と、上記第4の回転軸部と上記第5の回転軸部とを反対方向に同期回転させる同期手段とを備えるフロッグレッグアームロボットの制御方法であって、上記第1の上腕部、上記第2の上腕部、上記第1の前腕部及び上記第2の前腕部が現在の姿勢から上記駆動モータの駆動により、所望の姿勢を含む複数の姿勢に移行可能な姿勢である特異点姿勢を通過する際に、上記ハンド部を減速することを特徴とする。
【0012】
このような特徴を有する本発明のフロッグレッグアームロボットの制御方法によれば、上記第1の上腕部、上記第2の上腕部、上記第1の前腕部及び上記第2の前腕部が現在の姿勢から上記駆動モータの駆動により、所望の姿勢を含む複数の姿勢に移行可能な姿勢である特異点姿勢を通過する際に、上記ハンド部が減速される。
【0013】
また、本発明のフロッグレッグアームロボットの制御方法においては、上記第2〜第5の回転軸部の少なくともいずれかに対して上記基準平面に沿う予備トルクを供給するという構成を採用することができる。
【0014】
また、本発明のフロッグレッグアームロボットの制御方法においては、上記ハンド部を減速する際に上記ハンド部に与える加速度による力は、上記予備トルク及び予め有する機械的な抵抗よりも大きいという構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記第1の上腕部、上記第2の上腕部、上記第1の前腕部及び上記第2の前腕部が現在の姿勢から上記駆動モータの駆動により、所望の姿勢を含む複数の姿勢に移行可能な姿勢である特異点姿勢を通過する際に、上記ハンド部が減速される。
ハンド部が減速された場合には、ハンド部、第1の上腕部、第2の上腕部、第1の前腕部及び第2の前腕部に対して慣性力が与えられる。つまり、本発明においては、特異点姿勢を通過する際に、ハンド部、第1の上腕部、第2の上腕部、第1の前腕部及び第2の前腕部に対して慣性力が与えられている。このため、ハンド部、第1の上腕部、第2の上腕部、第1の前腕部及び第2の前腕部が慣性力に従って、特異点姿勢から所望の姿勢に滑らかに移行することができる。
したがって、本発明によれば、機構を複雑化させることなく制御上の特異点を通過することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明に係るフロッグレッグアームロボット及びその制御方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態であるフロッグレッグアームロボットRの概略構成を示した平面図である。また、図2は、本発明の一実施形態であるフロッグレッグアームロボットRの概略構成を示した側面図である。また、図3は、本発明の一実施形態であるフロッグレッグアームロボットRの機能構成を示したブロック図である。
【0018】
これらの図に示すように、本実施形態のフロッグレッグアームロボットRは、本体部1とアーム部2とハンド部3と制御部4とを備えている。
【0019】
本体部1は、例えば、スタッカクレーンのケージ上に回転可能に設置されるものであり、アーム部2を揺動させることによってハンド部3を水平面(基準平面)に沿って前後に移動させるための駆動モータ5(51,52)が設置されている。
【0020】
アーム部2は、ハンド部3の移動方向に対して左右対称とされる一対のアーム部21とアーム部22とによって構成されている。なお、以下の説明においては、アーム部21を第1アーム部21と称し、アーム部22を第2アーム部22と称する。
【0021】
第1アーム部21は、上腕部23(第1の上腕部)と、前腕部24(第1の前腕部)とによって構成されている。
上腕部23は、一端側が肩回転軸部6a(第1の回転軸部)を介して本体部1に連結されている。そして、肩回転軸部6aが駆動モータ51と接続され回転されることによって、上腕部23は、水平面に沿って揺動可能な構成とされている。
前腕部24は、肘回転軸部6b(第2の回転軸部)を介して一端側が上腕部23の他端側に回転可能に支持されている。そして、上腕部23の揺動によって肘回転軸部6bが回転されることによって、前腕部24は、水平面に沿って揺動可能な構成とされている。
【0022】
第2アーム部22は、上腕部25(第2の上腕部)と、前腕部26(第2の前腕部)とによって構成されている。
上腕部25は、一端側が肩回転軸部6c(第1の回転軸部)を介して本体部1に連結されている。そして、肩回転軸部6cが駆動モータ52と接続され回転されることによって、上腕部25は、水平面に沿って揺動可能な構成とされている。
前腕部26は、肘回転軸部6d(第3の回転軸部)を介して一端側が上腕部25の他端側に回転可能に支持されている。そして、上腕部25の揺動によって肘回転軸部6dが回転されることによって、前腕部26は、水平面に沿って揺動可能な構成とされている。
【0023】
ハンド部3は、手首回転軸部6e(第4の回転軸部)を介して第1アーム部21の前腕部24の他端側に回転可能に支持されるとともに、手首回転軸部6f(第5の回転軸部)を介して第2アーム部22の前腕部26の他端側に回転可能に支持されている。
このハンド部3は、搬送対象物(例えば、ガラス基板やガラス基板を収納したカセット等)を載置可能とされている。
【0024】
また、第1アーム部21の前腕部24の他端側と、第2アーム部22の前腕部26の他端側とには、互いに噛み合うことによって反対方向に同期回転する一対の同期歯車71,72(同期手段)が設置されている。これらの同期歯車71,72が噛み合うことによって、第1アーム部21と第2アーム部22が同期して動く。すなわち、第1アーム部と第2アーム部22とが対称に動作する。これによって、ハンド部3を直線的に移動させることができる。
【0025】
また、本実施形態のフロッグレッグアームロボットRにおいては、第1アーム部21の上腕部23と前腕部24とを接続する肘回転軸部6bと、第2アーム部22の上腕部25と前腕部26とを接続する肘回転軸部6dとに対してバネ10が接続されて設置されている。なお、バネ10としては、引張りバネ、トーションバネ、コンストンバネ等を用いることができる。
このバネ10は、肘回転軸部6b,6dに対して水平面に沿う方向の予備トルクを供給するものである。なお、バネ10が肘回転軸部6b,6dに対して供給する予備トルクの方向は、アーム部2が現在の姿勢から、所望の姿勢を含む複数の姿勢に移行可能な姿勢である場合に、アーム部2が所望しない姿勢に移行しないように、すなわちアーム部2が所望の姿勢を達成する方向とされている。
このように予備トルクを供給する本発明のトルク供給手段としてバネ等を用いた場合は、ハンド部3の一方向の動作に対してトルク供給手段の効果を得ることができる。また、本発明のトルク供給手段としてモータ、電磁石、エアロータリーモータ当の反転動作が可能なものを用いた場合には、ハンド部3の両方向の動作に対してトルク供給手段の効果を得ることができる。
【0026】
なお、駆動モータ51,52のみを駆動した場合において、アーム部2が現在の姿勢から、所望の姿勢を含む複数の姿勢に移行可能な姿勢とは、図4に示すように、第1アーム部21の上腕部23と前腕部24とが重なり、第2アーム部22の上腕部25と前腕部26とが重なり、さらに第1アーム部21と第2アーム部22とが直線的に位置する姿勢である。このような姿勢は、制御上の特異点となるため、以下の説明において、図4に示す姿勢を特異点姿勢と称する。なお、図4及び下記図5及び図6においては、図面の視認性を向上させるために、ハンド部3及び制御部4の図示を省略している。
このような図4に示す特異点姿勢において、ハンド部3を押し出す方向に移動させるために駆動モータ51,52を矢印方向に駆動した場合には、第1アーム部21の上腕部23と前腕部24とが、また第2アーム部22の上腕部25と前腕部26とが開き、所望のようにハンド部3を押し出す姿勢(所望の姿勢)にアーム部2の姿勢が移行する(図5参照)場合もある。一方で、第1アーム部21の上腕部23と前腕部24とが、また第2アーム部22の上腕部25と前腕部26とが重なった状態のまま、ハンド部3を移動させることなく第1アーム部21と第2アーム部22とのみが回動する姿勢(所望しない姿勢)にアーム部2の姿勢が移行する(図6参照)場合もある。
このため、特異点姿勢にてアーム部2が停止した場合には、所望の姿勢と所望でない姿勢のいずれの姿勢に移行するかが不定となり、制御が不安定となる。従来のフロッグレッグアームロボットにおいては、特異点姿勢、すなわち所望の姿勢を含む複数の姿勢のいずれに移行するかが不定の姿勢が、上述のように制御上の特異点とされている。
【0027】
また、特異点姿勢からハンド部3を引き出す方向に移動させる場合であっても、ハンド部3を押し出す方向に移動させる場合と同様に、特異点姿勢から所望の姿勢(ハンド部3を引き出す姿勢)と所望しない姿勢(第1アーム部21と第2アーム部22とのみが回動する姿勢)のいずれの姿勢に移行するかが不定となり、特異点姿勢が制御上の特異点となる。
【0028】
なお、上述のように、本実施形態のフロッグレッグアームロボットRにおいては、ハンド部3を押し出すアーム部2の姿勢あるいはハンド部3を引き出すアーム部2の姿勢が所望の姿勢とされている。通常の産業用の装置ではハンド部3を引き出す方向の姿勢が安全側なので、特異点姿勢から引き出す姿勢を達成するために、第1アーム部21の肘回転軸部6bに接続されるバネ10は、肘回転軸部6bに対して図1における右回り方向に予備トルクを供給する。また、第2アーム部22の肘回転軸部6dに接続されるバネ10は、肘回転軸部6dに対して図1における左回り方向に予備トルクを供給する。
【0029】
制御部4は、フロッグレッグアームロボットRの動作全体を統括するものであり、外部から入力される情報に基づいて、駆動モータ5の動作指示情報を求める演算処理部41と、演算処理部41にて用いられる各種アプリケーションやデータを記憶する記憶部42と、演算処理部41によって求められた動作指示情報を一時的に記憶する動作指示情報記憶部43と、駆動モータ5と演算処理部41との間において信号の入出力を行う入出力部44とを備えている。
【0030】
このような構成を有する制御部4は、駆動モータ51,52を同期して駆動することによって第1アーム部21と第2アーム部22とを揺動させ、これによってハンド部3を前後に移動させる。
そして、本実施形態のフロッグレッグアームロボットRにおいては、制御部4は、アーム部2が特異点姿勢を通過する際に、ハンド部3が減速されるように駆動モータ51,52を制御する。なお、ハンド部3を減速させる際にハンド部3に与える加速度による力は、上述のバネ10による予備トルク及び予めアーム部等の機構が有する抵抗を合わせた力よりも大きな力とされる。
【0031】
次に、上述のように構成された本実施形態のフロッグレッグアームロボットRの動作(フロッグレッグアームロボットの制御方法)について説明する。
【0032】
まず、制御部4は、演算処理部41を用いて、駆動モータ5から入出力部44を介して入力される情報、フロッグレッグアームロボットRの外部から入力される情報、及び、記憶部42に記憶されたアプリケーションやデータに基づいて、ハンド部3を移動させる方向(押し出す方向あるいは引き出す方向)及びその移動量を求め、動作指示情報として動作指示情報記憶部43に記憶させる。
続いて、制御部4は、所定のタイミングで動作指示情報記憶部43から動作指示情報を引き出し、入出力部44を介して動作指示信号を駆動モータ5に供給する。
【0033】
例えば、制御部4からハンド部3を押し出す方向に所定量移動させる動作指示信号が出力された場合には、駆動モータ51が肩回転軸部6aを図1における右回りに回転させ、駆動モータ52が肩回転軸部6cを図1における左周りに回転させる。なお、駆動モータ51と駆動モータ52とは同期して回転するが、駆動モータを1台として歯車当で機械的に同期させても良い。
このように肩回転軸部6aが図1における右回りに回転され、肩回転軸部6cが図1における左周りに回転されることによって、第1アーム部21の上腕部23が一端側を中心として図1における右回転方向に揺動され、第2アーム部22の上腕部25が一端側を中心として図1における左回転方向に揺動される。これらの上腕部23,25の揺動が、肘回転軸部6b,6dを介して前腕部24,26に伝達され、第1アーム部21の前腕部24が肘回転軸部6bを中心として左回転方向に揺動され、第2アーム部22の前腕部26が肘回転軸部6dを中心として右回転方向に揺動される。
ここで、第1アーム部21の動きと第2アーム部22の動きとは、同期歯車71,72が噛み合うことによって同期されている。このため、第1アーム部21の前腕部24の揺動と第2アーム部22の前腕部26の揺動とが同期される。
そして、第1アーム部21の前腕部24の揺動と第2アーム部22の前腕部26の揺動とが手首回転軸部6e,6fを介してハンド部3に伝達されることによって、ハンド部3は、押し出される方向に移動する。
なお、ハンド部3の移動量は、肩回転軸部6a,6cの回転量によって決定付けられるため、駆動モータ5は、ハンド部3を所定量移動させる分だけ肩回転軸部6a,6cさせることによって、ハンド部3を所定移動量だけ移動させる。
【0034】
一方、制御部4からハンド部3を引き出す方向に所定量移動させる動作指示信号が出力された場合には、駆動モータ51が肩回転軸部6aを図1における左回りに回転させ、駆動モータ52が肩回転軸部6cを図1における右周りに回転させる。
このように肩回転軸部6aが図1における左回りに回転され、肩回転軸部6cが図1における右周りに回転されることによって、第1アーム部21の上腕部23が一端側を中心として図1における左回転方向に揺動され、第2アーム部22の上腕部25が一端側を中心として図1における右回転方向に揺動される。これらの上腕部23,25の揺動が、肘回転軸部6b,6dを介して前腕部24,26に伝達され、第1アーム部21の前腕部24が肘回転軸部6bを中心として右回転方向に揺動され、第2アーム部22の前腕部26が肘回転軸部6dを中心として左回転方向に揺動される。
そして、第1アーム部21の前腕部24の揺動と第2アーム部22の前腕部26の揺動とが手首回転軸部6e,6fを介してハンド部3に伝達されることによって、ハンド部3は、引き出される方向に移動する。
【0035】
ここで、本実施形態のフロッグレッグアームロボットRにおいては、制御部4は、アーム部2が上述の特異点姿勢を通過する際、すなわち制御上の特異点を通過する際に、駆動モータ5の回転数を低減させることによってハンド部3を減速させる。
【0036】
図7は、ハンド部3を押し出す方向に移動する場合における速度変化及び加速度変化の一例を示すグラフであり、(a)が速度変化を示すグラフであり、(b)が加速度変化を示すグラフである。
この図に示すように、ハンド部3は、制御上の特異点を通過する前の時間、すなわち特異点姿勢より手前に位置する状態において、進行方向(押し出す方向)に加速度を与えられることによって所定の速度vaまで加速された後、速度vaを維持して進む。
そして、ハンド部3は、特異点を通過する直前において進行方向と逆方向に加速度を与えられることによって減速し、この減速中にアーム部2の特異点姿勢、すなわち制御上の特異点を通過する。
ハンド部3は、特異点姿勢を通過後、速度vbまで減速され後、速度vbを維持して進む。その後、ハンド部3は所望の位置にて停止する。このようにハンド部3が速度vbから所望の位置において停止されるまでの間、ハンド部3には進行方向と逆方向に加速度が与えられる。
【0037】
なお、ハンド部3を引き出す方向に移動する場合においても、ハンド部3は、押し出す方向に移動する場合と同様に、アーム部2の特異点姿勢、すなわち制御上の特異点を通過する際には、進行方向と逆方向に加速度が与えられることによって減速される。
【0038】
このような本実施形態のフロッグレッグアームロボット及びその制御方法によれば、アーム部2が特異点姿勢を通過する際に、ハンド部3が減速される。
つまり、本実施形態のフロッグレッグアームロボットR及びその制御方法においては、アーム部2が特異点姿勢を通過する際に、ハンド部3及びアーム部2に対して慣性力が与えられている。このため、ハンド部3及びアーム部2が慣性力に従って、特異点姿勢から所望の姿勢に滑らかに移行することができる。
したがって、本発明によれば、機構を複雑化させることなく制御上の特異点を通過することができる。
【0039】
また、本実施形態のフロッグレッグアームロボット及びその制御方法によれば、バネ10が肘回転軸部6b,6dに対して供給するトルクの方向は、アーム部2が現在の姿勢から、所望の姿勢を含む複数の姿勢に移行可能な姿勢である場合に、アーム部2が所望しない姿勢に移行しないように、すなわちアーム部2が所望の姿勢を達成する方向とされている。
このため、何らかの原因によって万が一、アーム部2が特異点姿勢において停止した場合であっても、バネ10によって与えられるトルクによって、アーム部2が揺動され、ハンド部3が低速で特異点姿勢から所望の姿勢に脱することができる。
よって、本実施形態のフロッグレッグアームロボット及びその制御方法によれば、アーム部2が特異点姿勢において停止し、制御不能に陥ることを回避することができる。
【0040】
また、本実施形態においては、ハンド部3を減速させる際にハンド部3に与える加速度による力は、上述のバネ10による予備トルク及び予めアーム部等の機構が有する抵抗を合わせた力よりも大きな力とされる。
このため、ハンド部3を減速させる際にハンド部3に与える加速度による力が、上述のバネ10による予備トルク及び予めアーム部等の機構が有する抵抗を合わせた力とが同一の方向である場合であっても、確実にハンド部3を減速させることができる。
【0041】
以上、図面を参照しながら本発明に係るフロッグレッグアームロボット及びその制御方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0042】
例えば、上記実施形態においては、予備トルクを供給するトルク供給手段として、バネを用いた。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、ゴムやトルクモータ等を用いても良い。
【0043】
また、上記実施形態においては、バネを肘回転軸部6b,6dに対して接続して設置した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、バネ10は、肘回転軸部6b,6d及び手首回転軸部6e,6fのうち、いずれかあるいは複数に設置されていれば良い。
【0044】
また、例えば、必要に応じて駆動モータ5と肩回転軸部6a,6cとの間に減速器を介在させても良い。
【0045】
また、上記実施形態においては、第1アーム部21と第2アーム部22との各々が異なる肩回転軸部6a,6cを介して本体部1に連結される構成、すなわち、本発明の第1回転軸部が2つ設置された構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、第1アーム部21と第2アーム部22とが互いに反対方向に回転可能に共通の肩回転軸部を介して本体部1に連結される構成、すなわち、本発明の第1回転軸部が1つのみ設置される構成を採用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態であるフロッグレッグアームロボットの概略構成を示す平面図である。
【図2】本発明の一実施形態であるフロッグレッグアームロボットの概略構成を示す側面図である。
【図3】本発明の一実施形態であるフロッグレッグアームロボットの機能構成を示すブロック図である。
【図4】フロッグレッグアームロボットの特殊姿勢を説明するための平面図である。
【図5】フロッグレッグアームロボットの所望する姿勢を説明するための平面図である。
【図6】フロッグレッグアームロボットの所望しない姿勢を説明するための平面図である。
【図7】ハンド部を押し出す方向に移動する場合における速度変化及び加速度変化の一例を示すグラフであり、(a)が速度変化を示すグラフであり、(b)が加速度変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
R……フロッグレッグアームロボット、1……本体部、2……アーム部、21……アーム部(第1のアーム部)、22……アーム部(第2のアーム部)、23……上腕部(第1の上腕部)、24……前腕部(第1の前腕部)、25……上腕部(第1の上腕部)、26……前腕部(第2の前腕部)、3……ハンド部、4……制御部(制御手段)、5(51,52)……駆動モータ、6a……肩回転軸部(第1の回転軸部)、6b……肘回転軸部(第2の回転軸部)、6c……肩回転軸部(第1の回転軸部)、6d……肘回転軸部(第3の回転軸部)、6e……手首回転軸部(第4の回転軸部)、6f……手首回転軸部(第5の回転軸部)、10……バネ(トルク供給手段)、71,72……同期歯車(同期手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部に設置される駆動モータによって回転される第1の回転軸部を介して一端側が前記本体部に連結されるとともに基準平面に沿って揺動可能な第1の上腕部及び第2の上腕部と、
第2の回転軸部を介して一端側が前記第1の上腕部の他端側に回転可能に支持されるとともに前記基準平面に沿って揺動可能な第1の前腕部と、
第3の回転軸部を介して一端側が前記第2の上腕部の他端側に回転可能に支持されるとともに前記基準平面に沿って揺動可能な第2の前腕部と、
第4の回転軸部を介して前記第1の前腕部の他端側に回転可能に支持されるとともに第5の回転軸部を介して前記第2の前腕部の他端側に回転可能に支持されるハンド部と、
前記第4の回転軸部と前記第5の回転軸部とを反対方向に同期回転させる同期手段と、
前記駆動モータの回転方向及び回転数を制御することによって前記ハンド部の速度を制御する制御手段と
を備えるフロッグレッグアームロボットであって、
前記制御手段は、前記第1の上腕部、前記第2の上腕部、前記第1の前腕部及び前記第2の前腕部が現在の姿勢から前記駆動モータの駆動により、所望の姿勢を含む複数の姿勢に移行可能な姿勢である特異点姿勢を通過する際に、前記ハンド部を減速させる
ことを特徴とするフロッグレッグアームロボット。
【請求項2】
前記第2〜第5の回転軸部の少なくともいずれかに接続されるとともに接続された回転軸部に対して前記基準平面に沿う予備トルクを供給するトルク供給手段を備え、
該トルク供給手段は、前記第1の上腕部、前記第2の上腕部、前記第1の前腕部及び前記第2の前腕部が現在の姿勢から前記駆動モータの駆動により、所望の姿勢を含む複数の姿勢に移行可能な姿勢である場合に、前記所望の姿勢を達成する方向の前記予備トルクを供給することを特徴とする請求項1記載のフロッグレッグアームロボット。
【請求項3】
前記制御手段は、前記ハンド部を減速させる際に前記ハンド部に与える加速度による力が、前記予備トルク及び予め有する機械的な抵抗よりも大きくなるように前記駆動モータを制御することを特徴とする請求項1または2記載のフロッグレッグアームロボット。
【請求項4】
本体部に設置される駆動モータによって回転される第1の回転軸部を介して一端側が前記本体部に連結されるとともに基準平面に沿って揺動可能な第1の上腕部及び第2の上腕部と、
第2の回転軸部を介して一端側が前記第1の上腕部の他端側に回転可能に支持されるとともに前記基準平面に沿って揺動可能な第1の前腕部と、
第3の回転軸部を介して一端側が前記第2の上腕部の他端側に回転可能に支持されるとともに前記基準平面に沿って揺動可能な第2の前腕部と、
第4の回転軸部を介して前記第1の前腕部の他端側に回転可能に支持されるとともに第5の回転軸部を介して前記第2の前腕部の他端側に回転可能に支持されるハンド部と、
前記第4の回転軸部と前記第5の回転軸部とを反対方向に同期回転させる同期手段と
を備えるフロッグレッグアームロボットの制御方法であって、
前記第1の上腕部、前記第2の上腕部、前記第1の前腕部及び前記第2の前腕部が現在の姿勢から前記駆動モータの駆動により、所望の姿勢を含む複数の姿勢に移行可能な姿勢である特異点姿勢を通過する際に、前記ハンド部を減速することを特徴とするフロッグレッグアームロボットの制御方法。
【請求項5】
前記第2〜第5の回転軸部の少なくともいずれかに対して前記基準平面に沿う予備トルクを供給し、
前記予備トルクは、前記第1の上腕部、前記第2の上腕部、前記第1の前腕部及び前記第2の前腕部が現在の姿勢から前記駆動モータの駆動により、所望の姿勢を含む複数の姿勢に移行可能な姿勢である場合に、前記所望の姿勢を達成する方向に供給されることを特徴とする請求項4記載のフロッグレッグアームロボットの制御方法。
【請求項6】
前記ハンド部を減速する際に前記ハンド部に与える加速度による力は、前記予備トルク及び予め有する機械的な抵抗よりも大きいことを特徴とする請求項5記載のフロッグレッグアームロボットの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−119772(P2008−119772A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304003(P2006−304003)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】