説明

フロントウインドの支持構造

【課題】NV性能の確保と、こもり音防止効果の確保と、歩行者保護性能の確保とを達成することができ、特に、上方からの荷重入力を受けた衝撃初期にカウルパネルの下方への変形を許容して、適切に衝撃吸収を図るフロントウインドの支持構造を提供する。
【解決手段】カウルパネル12の自由端となる前端部でフロントウインド部材11を支持し、カウルパネル12の自由端を下方から支持する支持部材20が設けられ、支持部材20は、カウルパネル12の自由端を前後所定長さにわたって支持すると共に、フロントウインド部材11が上方からの荷重入力を受けた時に、カウルパネル12の下方への変形を許容する空間X,Yを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フロントウインド部材(フロントウインドガラス)を車室内側から支持するカウルパネルと、エンジンルームと車室とを前後方向に仕切るダッシュパネルとを備えたようなフロントウインドの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フロントウインド部材としてのフロントウインドガラスを支持する構造としては、特許文献1、特許文献2、特許文献3に開示された構造がある。
特許文献1に開示された構造は、図13に示すように、カウルアウタパネル61とカウルインナパネル62とでカウル部63を構成し、カウルアウタパネル61に接着剤64を介してフロントウインドガラス65を支持させた構造において、カウルインナパネル62の下部前面からカウルアウタパネル61の前片背面に向けてブレース66を設け、このブレース66とカウルインナパネル62とカウルアウタパネル61との間に閉断面67を形成し、この閉断面構造によりNVH(nois ノイズ、vibration 振動、harshness 連成振動の略)性能を確保すると共に、上述のブレース66の上下方向中間部に折れ部66aを設け、上方からの衝撃荷重入力時に、折れ部66aを起点としてブレース66の変形を促進することで、歩行者保護を図ったものである。
【0003】
図13に示す従来構造においては、NVH性能と歩行者保護性能との両立を図ることができる利点がある反面、閉断面構造に成す必要があるためカウル部63周りのレイアウトに制約を受ける問題点があった。
【0004】
特許文献2に開示された構造は、図14に示すように、カウルアウタパネル71とカウルインナパネル72とで開断面構造のカウル部73を構成し、カウルアウタパネル71に接着剤74を介してフロントウインドガラス75を支持させた構造において、上述のカウルインナパネル72の下部前方にカウル部材76を設け、このカウル部材76の後部上面と、上述のカウルアウタパネル71の前片背面との間に上下方向に延びるレインフォースメント77を立設固定して、このレインフォースメント77によりカウル部73の上下方向の剛性を確保すると共に、NVH性能を維持させたものである。
【0005】
このように、図14に示す従来構造においては、カウル部の剛性確保とNVH性能との両立を図ることができる利点がある反面、歩行者保護性能を確保するためには、同図に示すエアバッグ装置78を設ける等、上方からの衝撃荷重入力時においてレインフォースメント77を座屈または変形させる別手段が必要不可欠となり、構造が複雑化する問題点があった。
【0006】
特許文献3に開示された構造は、図15に示すように、カウルアウタパネル81とカウルインナパネル82とで車体前方に向けて開口したオープンカウル構造のカウル部83を構成し、カウルアウタパネル81に接着剤84を介してフロントウインドガラス85を支持させた構造において、カウルインナパネル82の下部前面とカウルアウタパネル81の前片下面との間にブレース86を立設し、さらに、該ブレース86の上下方向中間位置に折れ部86aを設け、上方からの衝撃荷重入力時に、折れ部86aを起点としてブレース86の変形を促進することで、歩行者保護を図ったものである。
【0007】
このように、図15に示す従来構造においては、歩行者保護性能を確保することができる利点がある反面、カウル部83はブレース86の上端折曲げ部86bの前後方向の幅が小さい一箇所のみで支持されている関係上、車両走行時にフロントウインドガラス85の先端の振動に起因して、該フロントウインドガラス85全体が太鼓膜のように振動し、車室内騒音としてのこもり音が発生する問題点があった。なお、図13、図14、図15において矢印Fは車両の前方を示す。
そこで、近年においては、NV性能の確保と、こもり音防止効果の確保と、歩行者保護性能の確保と、の両立を図ることが要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−331720号公報
【特許文献2】特開2009−6801号公報
【特許文献3】特開2006−206004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、カウルパネルの自由端となる前端部でフロントウインド部材を支持し、カウルパネルの自由端を下方から支持する支持部材を設け、該支持部材がカウルパネルの自由端を前後所定長さにわたって支持すると共に、フロントウインド部材が上方からの荷重入力を受けた時、カウルパネルの下方への変形を許容する空間を備えることで、NV性能の確保と、こもり音防止効果の確保と、歩行者保護性能の確保とを達成することができ、特に、上記空間にて上方からの荷重入力を受けた衝撃初期にカウルパネルの下方への変形を許容して、適切に衝撃吸収を図ることができるフロントウインドの支持構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明によるフロントウインドの支持構造は、フロントウインド部材を車室内側から支持するカウルパネルと、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルとを備えたフロントウインド支持構造であって、上記カウルパネルの自由端となる前端部でフロントウインド部材を支持し、上記カウルパネルの自由端を下方から支持する支持部材が設けられ、該支持部材は、上記カウルパネルの自由端を前後所定長さにわたって支持すると共に、フロントウインド部材が上方からの荷重入力を受けた時に、カウルパネルの下方への変形を許容する空間を備えたものである。
上記構成によれば、フロントウインド部材の前端部をカウルパネルの自由端で支持するので、開断面が形成され、これにより、歩行者保護性能を確保することができる。
【0011】
また、カウルパネルの自由端を下方から延びる支持部材で支持することにより、フロントウインド部材の振動を抑制することができる。
さらに、上述の支持部材は、カウルパネル自由端を前後所定長さにわたって支持するので、こもり音防止効果を確保することができる。
しかも、支持部材はフロントウインド部材が上方からの荷重入力を受けた時に、カウルパネルの下方への変形を許容する空間を備えているので、上方からの荷重入力を受けた衝撃初期にカウルパネルの下方への変形を許容して、適切に衝撃吸収を図ることができ、この結果、歩行者保護性能の向上を図ることができる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、上記カウルパネルとダッシュパネルとで、車両前方に開口する開断面を形成すると共に、上記カウルパネルは、ダッシュパネルとの接合位置から上方かつ前方へ延出する第1延出部と、該第1延出部よりも下方かつ前方へ延出してフロントウインド部材を支持する第2延出部とを有し、上記支持部材は、第1支持部と第2支持部とを備え、上記第1支持部は、下端が上記開断面の下側面に取付けられると共に、上端が第1延出部に取付けられ、上記第2支持部は、下端が上記開断面の下側面に取付けられると共に、上端がフロントウインド部材を支持する第2延出部に取付けられることで、カウルパネル先端の振動を抑制すべく構成され、さらに、上記第1支持部と第2支持部との間には空間が形成されたものである。
上記構成によれば、支持部材の第1支持部と第2支持部とでカウルパネルの各延出部を前後方向に間隔を隔てて支持すると共に、第1支持部と第2支持部との間には空間を形成したので、支持部材によるカウルパネル自由端の適切な支持と、上方から衝撃荷重が入力された際の該支持部材の変形の容易化との両立が図れ、NV性能の確保と、こもり音防止効果の確保と、歩行者保護性能の確保とを達成することができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記支持部材のカウルパネルに対する取付け位置と、ダッシュパネルに対する取付け位置との間に、折れ起点を設けたものである。
上記構成によれば、支持部材に折れ起点を設けたので、上方からの荷重入力時に該折れ起点により支持部材を車幅方向に向けて変形促進させることができるので、支持部材がカウルパネルの変形を阻害することがなく、カウルパネルを容易に変形させて、歩行者保護性能の向上を図ることができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記第1支持部の上部と、第2支持部の上部とを連結する連結部を設けたものである。
上記構成によれば、連結部で第1支持部と第2支持部とを前後方向に連結するので、フロントウインド部材の振動をより一層効果的に低減することができて、加えて、連結部の下側の空間を変形許容空間および空調用の空気通路空間として有効利用することができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記第1支持部はその後方のカウルパネルから前方に離間して設けられたものである。
上記構成によれば、第1支持部とカウルパネルとの間に空間が形成されるので、上方からの衝撃荷重の入力時に、カウルパネルの変形が容易となって、歩行者保護性能を確保することができる。
また、上記空間により空調用の空気通路を確保することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、カウルパネルの自由端となる前端部でフロントウインド部材を支持し、カウルパネルの自由端を下方から支持する支持部材を設け、該支持部材がカウルパネルの自由端を前後所定長さにわたって支持すると共に、フロントウインド部材が上方からの荷重入力を受けた時、カウルパネルの下方への変形を許容する空間を備えたので、NV性能の確保と、こもり音防止効果の確保と、歩行者保護性能の確保とを達成することができ、特に、上記空間にて上方からの荷重入力を受けた衝撃初期にカウルパネルの下方への変形を許容して、適切に衝撃吸収を図ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のフロントウインドの支持構造を備えた車両前部の斜視図
【図2】図1の部分斜視図
【図3】フロントウインドの支持構造を示す斜視図
【図4】図3のA−A線矢視断面図
【図5】図3のB−B線矢視断面図
【図6】図3の要部正面図
【図7】(a)は支持部材の斜視図、(b)は補助部材の斜視図
【図8】支持部材およびカウルパネルの変形状態を示す正面図
【図9】補助部材およびカウルパネルの変形状態を示す正面図
【図10】補助部材およびカウルパネルの変形状態を示す側面図
【図11】フロントウインドの支持構造の他の実施例を示す正面図
【図12】フロントウインドの支持構造の実施例開示構造を示す側面図
【図13】従来のフロントウインドの支持構造を示す側面図
【図14】従来のフロントウインドの支持構造の他の例を示す側面図
【図15】従来のフロントウインドの支持構造のさらに他の例を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
NV性能の確保と、こもり音防止効果の確保と、歩行者保護性能の確保とを達成し、特に、上方からの荷重入力を受けた衝撃初期にカウルパネルの下方への変形を許容して、適切に衝撃吸収を図るという目的を、フロントウインド部材を車室内側から支持するカウルパネルと、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルとを備えたフロントウインド支持構造において、上記カウルパネルの自由端となる前端部でフロントウインド部材を支持し、上記カウルパネルの自由端を下方から支持する支持部材が設けられ、該支持部材は、上記カウルパネルの自由端を前後所定長さにわたって支持すると共に、フロントウインド部材が上方からの荷重入力を受けた時に、カウルパネルの下方への変形を許容する空間を備えるという構成にて実現した。
【実施例】
【0019】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面はフロントウインドの支持構造を示し、図1は該フロントウインドの支持構造を備えた車両前部の斜視図、図2は図1の部分斜視図、図3はフロントウインドの支持構造を示す概略斜視図、図4は図3のA−A線矢視断面図、図5は図3のB−B線矢視断面図である。なお、図中、矢印Fは車両の前方を示す。
【0020】
図1、図4において、エンジンルーム1(図4、図5参照)の上方を開閉可能に覆うボンネット2を設け、このボンネット2の下面には、ボンネットレインフォースメント(図示せず)を一体的に接合固定している。
【0021】
また、図1に示すように、エンジンルーム1(図4、図5参照)の前方部に位置してフロントバンパの外表面を構成するバンパフェイス3を設けると共に、エンジンルーム1の側方部に位置してボンネット2の側部と、バンパフェイス3の後部と、図示しないフロントピラーの下部およびヒンジピラーの前部との間を覆うフロントフェンダパネル4を設けている。ここで、上述のバンパフェイス3は走行風の取入れ部5,6を有する樹脂製部材にて構成することができる。
【0022】
さらに、図4、図5に示すように、エンジンルーム1と車室7とを車両の前後方向に仕切るダッシュパネル8を設けている。このダッシュパネル8は上側に位置するダッシュアッパパネル9と、下側に位置するダッシュロアパネル10とを備えている。
これらダッシュアッパパネル9およびダッシュロアパネル10は、図3に示すように、何れも車幅方向の略全幅にわたって延びるパネル部材であって、上述のダッシュロアパネル10は、図4、図5に示すように、上下方向に延びる主体部10aと、この主体部10aの上端10bから車両前方に延びるフランジ状の取付け片10cとを備えている。
【0023】
また、上述のダッシュアッパパネル9は、図4、図5に示すように、ダッシュロアパネル10の取付け片10cに溶接固定される略水平な取付け片9aと、この取付け片9aの後端から斜め後方かつ上方(前低後高状)に立上がる立上り片9bと、この立上り片9bの後端から後方に略水平に延びるフランジ状の取付け片9cと、を一体形成したパネル部材である。
【0024】
図4、図5に示すように、上述のダッシュアッパパネル9には、フロントウインド部材としてのフロントウインドガラス11を車室内側から支持するカウルパネル12が取付けられている。なお、上述のフロントウインド部材としては、ガラス製または強化プラスチック製のものを用いることができる。
【0025】
このカウルパネル12も車幅方向の略全幅にわたって延びるパネル部材であって、該カウルパネル12は、ダッシュアッパパネル9の取付け片9cに溶接固定される略水平の取付け片12Aと、ダッシュパネル8との接合位置としての該取付け片12Aから上方かつ前方へ延出する第1延出部12Bと、この第1延出部12Bより下方かつ前方へ延出してフロントウインドガラス11の傾斜下端部を支持する第2延出部12Cとを一体形成したものであって、上述の第1延出部12Bは、取付け片12Aから前高後低状に立上がる立上り片13と、この立上り片13の上端から前方に向けて略水平に延びる水平片14とを備えている。
【0026】
上述のカウルパネル12の自由端となる前端部、詳しくは、第2延出部12Cの上面には、接着剤15を用いて、フロントウインドガラス11の傾斜下端部を支持させている。要するに、カウルパネル12の自由端となる前端部でフロントウインド部材としてのフロントウインドガラス11を支持したものである。
【0027】
また、図4、図5に示すように、カウルパネル12と、ダッシュアッパパネル9との両者で、車両前方向に開口を有する開断面16を形成し、オープンカウル構造のカウル部CPと成している。換言すれば、カウルパネル12とダッシュアッパパネル9との両者で、閉断面ではなく、開断面16(前方が開放した断面)を形成したものである。
ここで、上述のダッシュアッパパネル9における立上り片9bの車幅方向一端部側、この実施例では、車幅方向の右端部側には、図3に示すように、空調風の取入れ口17が開口形成されている。
【0028】
しかも、上述の開断面16内には、図4に示すように、カウルパネル12の自由端を下方から支持する支持部材20(いわゆるステー)が設けられている。
この支持部材20は、カウルパネル12の前端部からその後方にかけて該カウルパネル12前端部を車両前後方向の所定長さにわたって支持することで、カウルパネル12先端の振動を抑制するものである。
【0029】
換言すれば、上述の支持部材20は、カウルパネル12の自由端を前後所定長さにわたって支持するものである。そして、該支持部材20は、フロントウインドガラス11が上方からの荷重入力を受けた時に、カウルパネル12の下方への変形を許容する空間X(変形許容領域)を備えている。
【0030】
図6はカウル部CPを車両前方から見た状態で示す正面図であって、上述の支持部材20は、カウルパネル12とダッシュパネル8(詳しくは、ダッシュアッパパネル9参照)とから成るカウル部CPの車幅方向の中間位置(この実施例では中央位置)に配設されており、カウル部CPの左右両サイド位置には補助部材30,30(いわゆる補助ステー)を設けている。
【0031】
図6に正面図で示すように、上述の支持部材20は正面視で略直線状に形成されており、このように該支持部材20を正面視略直線状に形成することで、上下方向の振動に対して強い構造に成すと共に、フロントウインドガラス11の振動抑制を図るように構成している。
【0032】
図7の(a)は支持部材20の斜視図を示し、この支持部材20は上下方向に延びる第1支持部21と、同様に上下方向に延びる第2支持部22と、これら各支持部21,22の上部を前後方向に連結する連結部23と、第1支持部21の上端部に一体に折曲げ形成されたフランジ部24と、第2支持部22の上端部に一体に折曲げ形成されたフランジ部25と、を備えている。
【0033】
また、第1支持部21と第2支持部22とは側面視でV字状に形成されており、これら両支持部21,22の下部は一体化されたコモン部26と成しており、このコモン部26の下端部にはフランジ部27を一体に折曲げ形成している。
この実施例では、上述の各フランジ部24,25,27の折曲げ方向は同一方向に設定されている。
【0034】
図4に示すように、上述の支持部材20の第1支持部21は下端が開断面16の下側面に取付けられると共に、上端が第1延出部12Bに取付けられている。詳しくは、第1支持部21はその下部に位置するコモン部26およびフランジ部27を介してダッシュアッパパネル9の立上り片9bに取付けられると共に、その上端がフランジ部24を介して第1延出部12Bの水平片14に取付けられたものである。
【0035】
また、同図に示すように、上述の支持部材20の第2支持部22は下端が開断面16の下側面に取付けられると共に、上端がフロントウインドガラス11を支持する第2延出部12Cに取付けられている。詳しくは、第2支持部22はその下部に位置するコモン部26およびフランジ部27を介してダッシュアッパパネル9の立上り片9bに取付けられると共に、その上端がフランジ部25を介して第2延出部12Cにおけるフロントウインドガラス接着部位よりも前側部に取付けられたものである。
【0036】
さらに、図4、図7に示すように、後側に位置する第1支持部21と、前側に位置する第2支持部22との間には空間Yが形成されている。
ここで、図4に示すように、上述の第2支持部22は、カウルパネル12先端部への振動の入力方向(矢印α方向)と対向するように設けられている。また、上述の第1支持部21はその後方に位置するカウルパネル12(詳しくは、立上り片13)から車両前方に離間して設けられており、第1支持部21とカウルパネル12の立上り片13との間には、空間Zが形成されている。
【0037】
図7の(b)は補助部材30の斜視図を示し、この補助部材30は主体部31と、この主体部31の下端に一体に折曲げ形成された下端フランジ部32と、主体部31の上端に一体に折曲げ形成された上端フランジ部33と、を備えている。
【0038】
そして、図5に示すように、上述の補助部材30は、空調風の取入れ口17(図6参照)を閉塞しないように、その下端がカウルパネル12とダッシュアッパパネル9との接合面に取付けられ、その上端がカウルパネル12の第2延出部12Cに取付けられたものである。詳しくは、該補助部材30、その下端フランジ部32がカウルパネル12の取付け片12Aとダッシュアッパパネル9の取付け片9cとの間に、スポット溶接手段等により挟持固定され、その上端フランジ部33がカウルパネル12の第2延出部12Cにおけるフロントウインドガラス接着部位よりも前側部に取付けられたものであって、該補助部材30は図6に正面図で示す空調風の取入れ口17と干渉しないように配設されている。
【0039】
図示実施例は上記の如く構成するものにして、以下作用を説明する。
まず、上方からの衝撃荷重入力がない非衝突時(通常時)の作用について説明する。
図4に示すように、カウルパネル12の自由端は下方から上方に向けて延びる側面視略V字状の支持部材20で支持されているので、この支持部材20により該カウルパネル12およびフロントウインドガラス11の振動を抑制することができる。
【0040】
しかも、上述の支持部材20は、図4に示すように、カウルパネル12前端部から後方にかけて該カウルパネル12前端部を車両前後方向の所定長さにわたって支持(詳しくは、前側のフランジ部25と後側のフランジ部24との間の前後方向の長いスパンにわたって支持)しているので、フロントウインドガラス11の振動に伴うこもり音(フロントウインドガラス11の先端が走行時に振動して車室7内に発生するこもり音)を防止することができる。
【0041】
また、図6に正面図で示すように、支持部材20は正面視で略直線状に形成したので、該支持部材20が上下方向の振動に対して強い構造となり、カウルパネル12およびフロントウインドガラス11の振動抑制を図ることができる。
さらに、図4に示すように、連結部23で後側の第1支持部21と前側の第2支持部22との上部相互間を前後方向に連結しているので、該支持部材20によりフロントウインドガラス11の振動をより一層効果的に低減することができる。
【0042】
また、図4に示すように、支持部材20の第2支持部22はカウルパネル12先端部への振動入力方向と対向するように設けられており、該第2支持部22がその振動と対抗する方向に指向しているので、より一層効果的に振動低減を図ることができる。
【0043】
加えて、図6に示すように、カウルパネル12を、車幅方向中間に位置する支持部材20と、車幅方向の両サイドに位置する補助部材30,30とで支持しており、フロントウインドガラス11の振動が大きい中間位置は上述の支持部材20で支持し、フロントウインドガラス11の振動が相対的に小さい両サイド位置は補助部材30,30で支持するので、該フロントウインドガラス11の振動を効果的に抑制することができる。
【0044】
一方、図4に示す各空間X,Y,Zが形成されているので、これら空間X,Y,Zにより空調用の空気通路を確保することができ、支持部材20を配設しても、図示しないカウルグリルの開口から開断面16内に流入した空気が、空調風の取入れ口17に向けて流れる空気の流動を阻害するものではない。
【0045】
次に、上方からの衝撃荷重が入力された場合の作用について説明する。
図4に示すように、フロントウインドガラス11の前端部(傾斜下端部)はカウルパネル12の自由端で支持されていて、カウル部(CP)には開断面16が形成されているので、上記荷重入力時にカウルパネル12の変形が容易となって、歩行者保護性能を確保することができる。
【0046】
しかも、図4に示すように、支持部材20はフロントウインドガラス11が上方からの荷重入力を受けた時に、カウルパネル12の下方への変形を許容する空間Xを備えると共に、該支持部材20の各支持部21,22間には支持部材20それ自体の変形を容易となす空間Yを形成し、さらに、支持部材20の第1支持部21とその後方のカウルパネル12の立上り片13との間には、これら両者20,12の変形を容易となす空間Zを形成したので、空調用の空気通路を確保しつつ、上方から衝撃荷重が入力された際の支持部材20およびカウルパネル12の変形が容易となり、歩行者保護性能を確保することができる。
【0047】
図8はカウルパネル12および支持部材20の変形状態を示す正面図であって、上方からの衝撃荷重入力時に、カウルパネル12および支持部材20は図6に示す変形前の状態から図8に示すように、カウルパネル12の自由端が下方に変形し、これにより支持部材20はその第1支持部21、第2支持部22が車幅方向右方向に湾曲状に屈曲変形する。
【0048】
上方からの衝撃荷重が入力される時、カウルパネル12とフランジ部24(またはフランジ部25)との接合部、並びに、ダッシュアッパパネル9とフランジ部27との接合部は、他部に対して剛性が強いので、カウルパネル12が図8のように湾曲状に変形する。
【0049】
図9はカウルパネル12および補助部材30の変形状態を示す正面図、図10はその側面図であって、上方からの衝撃荷重入力時に、カウルパネル12および補助部材30は、図5、図6に示す変形前の状態から、図9、図10に示すように、カウルパネル12の自由端が下方に変形し、これにより補助部材30は変形したカウルパネル12内において折れ曲がるように変形する。
【0050】
このように、図1〜図10で示した実施例のフロントウインドの支持構造は、フロントウインドガラス11を車室7内側から支持するカウルパネル12と、エンジンルーム1と車室7とを仕切るダッシュパネル8とを備えたフロントウインド支持構造であって、上記カウルパネル12の自由端となる前端部でフロントウインドガラス11を支持し、上記カウルパネル12の自由端を下方から支持する支持部材20が設けられ、該支持部材20は、上記カウルパネル12の自由端を前後所定長さにわたって支持すると共に、フロントウインドガラス11が上方からの荷重入力を受けた時に、カウルパネル12の下方への変形を許容する空間X,Yを備えたものである(図4参照)。
この構成によれば、フロントウインドガラス11の前端部をカウルパネル12の自由端で支持するので、開断面16が形成され、これにより、歩行者保護性能を確保することができる。
【0051】
また、カウルパネル12の自由端を下方から上方へ延びる支持部材20で支持することにより、フロントウインドガラス11の振動を抑制することができる。
さらに、上述の支持部材は、カウルパネル自由端を前後所定長さにわたって支持するので、こもり音防止効果を確保することができる。
しかも、支持部材20はフロントウインドガラス11が上方からの荷重入力を受けた時に、カウルパネル12の下方への変形を許容する空間X,Yを備えているので、上方からの荷重入力を受けた衝撃初期にカウルパネル12の下方への変形を許容して、適切に衝撃吸収を図ることができ、この結果、歩行者保護性能の向上を図ることができる。
【0052】
また、上記カウルパネル12とダッシュパネル8(詳しくは、ダッシュアッパパネル9参照)とで、車両前方に開口する開断面16を形成すると共に、上記カウルパネル12は、ダッシュパネル8との接合位置から上方かつ前方へ延出する第1延出部12Bと、該第1延出部12Bよりも下方かつ前方へ延出してフロントウインドガラス11を支持する第2延出部12Cとを有し、上記支持部材20は、第1支持部21と第2支持部22とを備え、上記第1支持部21は、下端が上記開断面16の下側面に取付けられると共に、上端が第1延出部12Bに取付けられ、上記第2支持部22は、下端が上記開断面16の下側面に取付けられると共に、上端がフロントウインドガラス11を支持する第2延出部12Cに取付けられることで、カウルパネル12先端の振動を抑制すべく構成され、さらに、上記第1支持部21と第2支持部22との間には空間Yが形成されたものである(図4参照)。
この構成によれば、支持部材20の第1支持部21と第2支持部22とでカウルパネル12の各延出部12C,12Bを前後方向に間隔を隔てて支持すると共に、第1支持部21と第2支持部22との間には空間Yを形成したので、支持部材20によるカウルパネル12自由端の適切な支持と、上方から衝撃荷重が入力された際の該支持部材20の変形の容易化との両立が図れ、NV性能の確保と、こもり音防止効果の確保と、歩行者保護性能の確保とを達成することができる。
【0053】
さらに、上記第1支持部21の上部と、第2支持部22の上部とを連結する連結部23を設けたものである(図4参照)。
この構成によれば、連結部23で第1支持部21と第2支持部22とを前後方向に連結するので、フロントウインドガラス11の振動をより一層効果的に低減することができて、加えて、連結部23の下側の空間Yを変形許容空間および空調用の空気通路空間として有効利用することができる。
【0054】
加えて、上記第1支持部21はその後方のカウルパネル12(詳しくは、該カウルパネル12の立上り片13参照)から前方に離間して設けられたものである。(図4参照)
この構成によれば、第1支持部21とカウルパネル12との間に空間Zが形成されるので、上方からの衝撃荷重の入力時に、カウルパネル12の変形が容易となって、歩行者保護性能を確保することができる。
【0055】
また、上記空間Zにより空調用の空気通路を確保することができる。
なお、実施例で開示したように、支持部材20を正面視で略直線状に形成すると、上下方向の振動に対して強い構造となり、フロントウインドガラス11の振動抑制を図ることができる。
【0056】
また、実施例で開示したように、上記支持部材20がカウルパネル12とダッシュパネル8とから成るカウル部CPの車幅方向の中間位置(望ましくは、中央位置)に配設され、カウル部CPの両サイド位置には補助部材30,30を設け、該補助部材30はその下端を上記カウルパネル12とダッシュパネル8との接合面に取付け、上端を上記カウルパネル12の第2延出部12Cに取付けると(図5、図6参照)、カウルパネル12を支持部材20と両サイドの補助部材30,30との複数箇所で支持すると共に、フロントウインドガラス11の振動が大きい中間位置は支持部材20で支持し、フロントウインドガラス11の振動が相対的に小さい両サイド位置は補助部材30,30で支持するので、フロントウインドガラス11の振動を効果的に抑制することができる。
【0057】
図11はフロントウインド支持構造の他の実施例を示し、図6で示した先の実施例においては、カウル部CPの車幅方向中間に設けた支持部材20を、正面視で略直線状に形成したが、図11で示すこの実施例においては、支持部材20のカウルパネル12に対する取付け位置(図7のフランジ部24,25参照)と、ダッシュパネル8(詳しくは、ダッシュアッパパネル9の立上り片9b参照)に対する取付け位置(図7、図11のフランジ部27参照)との間に、折れ起点28を設けたものである。
【0058】
このように、上述の折れ起点28を設けて、支持部材20の正面視形状を略くの字状に成すと、上方からの荷重入力時に、該折れ起点28により支持部材20の車幅方向へ向けての変形が促進されるので、カウルパネル12の変形がさらに容易となって、歩行者保護性能の向上を図ることができる。
【0059】
図11で示すこの実施例においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例と同様であるから、図11において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略するが、上記支持部材20の正面視形状は、折れ起点28が車幅方向左側に位置する逆くの字状であってもよい。
【0060】
図12はフロントウインドの支持構造の実施例開示構造を示すものである。
図12に示す構造においては、カウルパネル12は取付け片12Aと、この取付け片12Aの前端としてのポイントUと、該ポイントUから上方に立上る立上り片12Dと、この立上り片12Dの上端としてのポイントVから前方かつ下方に向けて延びる延出部12Eと、を有し、この延出部12Eの前端としてのポイントWに対してフロントウインドガラス接着部12Fおよび先端部12Gを連設して、これら各要素12A、12D、12E、12F、12Gを一体形成したものである。
【0061】
上述の各ポイントU,V,Wの位置関係は、各ポイントU,V,W中において、ポイントVが最も車両上方に位置し、ポイントUが最も車両下方に位置し、ポイントWが最も車両前方に位置する。
【0062】
上方からの衝撃荷重入力に対してカウルパネル12を最も効率的に変形させる場合、ポイントW,V間の距離(延出部12Eの長さ)と、ポイントV,U間の距離(立上り片12Dの高さ)とを等しく設定すると、ポイントVを中心としてカウルパネル12が折れ曲がる時、ポイントW,V間とポイントV,U間との実長差がなくなるので、カウルパネル12の変形時に片寄りや歪みが最小となって、該カウルパネル12を効率よく折り曲げ変形させることができる。
【0063】
特に、カウルパネル12は車両デザインの関係上、車幅方向中央が最も車両前方に位置しており、車幅方向両端部は車両後方に位置しており、カウルパネル12の全体が三次元的に構成されているので、ポイントW,V間とポイントV,U間とに実長差が存在する場合には、カウルパネル12の変形時に片寄りや歪みが発生するが、図12で示したように、実長差をなくすことで、片寄り、歪みを最小となして、カウルパネル12を効率よく変形させることができるものである。
なお、図12において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略している。
【0064】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のフロントウインド部材は、実施例のフロントウインドガラス11に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0065】
1…エンジンルーム
7…車室
8…ダッシュパネル
11…フロントウインドガラス(フロントウインド部材)
12…カウルパネル
12B…第1延出部
12C…第2延出部
16…開断面
20…支持部材
21…第1支持部
22…第2支持部
23…連結部
28…折れ起点
30…補助部材
CP…カウル部
X,Y…空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントウインド部材を車室内側から支持するカウルパネルと、
エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネルとを備えたフロントウインド支持構造であって、
上記カウルパネルの自由端となる前端部でフロントウインド部材を支持し、
上記カウルパネルの自由端を下方から支持する支持部材が設けられ、
該支持部材は、上記カウルパネルの自由端を前後所定長さにわたって支持すると共に、フロントウインド部材が上方からの荷重入力を受けた時に、カウルパネルの下方への変形を許容する空間を備えたことを特徴とする
フロントウインドの支持構造。
【請求項2】
上記カウルパネルとダッシュパネルとで、車両前方に開口する開断面を形成すると共に、
上記カウルパネルは、ダッシュパネルとの接合位置から上方かつ前方へ延出する第1延出部と、
該第1延出部よりも下方かつ前方へ延出してフロントウインド部材を支持する第2延出部とを有し、
上記支持部材は、第1支持部と第2支持部とを備え、
上記第1支持部は、下端が上記開断面の下側面に取付けられると共に、上端が第1延出部に取付けられ、
上記第2支持部は、下端が上記開断面の下側面に取付けられると共に、上端がフロントウインド部材を支持する第2延出部に取付けられることで、カウルパネル先端の振動を抑制すべく構成され、
さらに、上記第1支持部と第2支持部との間には空間が形成された
請求項1記載のフロントウインドの支持構造。
【請求項3】
上記支持部材のカウルパネルに対する取付け位置と、ダッシュパネルに対する取付け位置との間に、折れ起点を設けた
請求項2記載のフロントウインドの支持構造。
【請求項4】
上記第1支持部の上部と、第2支持部の上部とを連結する連結部を設けた
請求項2または3記載のフロントウインドの支持構造。
【請求項5】
上記第1支持部はその後方のカウルパネルから前方に離間して設けられた
請求項2〜4の何れか1に記載のフロントウインドの支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−30763(P2012−30763A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174283(P2010−174283)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】