説明

フローティングキャリパ型ディスクブレーキ

【課題】キャリパ2bの爪部を省略した構造で、制動時に両パッド21a、22aによりロータ1を挟み込む事に対する反力を、十分支承可能な構造を実現する。
【解決手段】上記キャリパ2bのブリッジ部23aの先端面に、アウタパッド21aのプレッシャプレート28の外径側部分を、ボルト24aにより結合して、このアウタパッド21aを上記キャリパ2bと共に軸方向変位可能とする。又、サポート3aに固定された案内ピン4aの先端部を、上記プレッシャプレート28の周方向両端部で、上記ブリッジ部23aとの結合部よりも内径側に形成した係合孔に挿通する。そして、上記案内ピン4aの先端部とこの係合孔との係合により、上記反力の一部を支承する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係るフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、自動車等の車両の制動を行う為に利用する。特に、本発明は、キャリパの製造コストの低減と、耐久性の向上との両立を図れる構造を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の制動を行う為のディスクブレーキとして従来から、サポートに対しキャリパを軸方向の変位を自在に支持すると共に、このキャリパのうち、ロータに関して片側のみにシリンダ及びピストンを設けたフローティングキャリパ型のものが、例えば、特許文献1〜5に記載されている様に、従来から広く知られ、実際に広く使用されている。
【0003】
図14は、上記各特許文献のうちの特許文献1に記載されたフローティングキャリパ型ディスクブレーキを示している。このフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、制動時には、車輪(図示せず)と共に回転するロータ1に対しキャリパ2を変位させる。車両への組み付け状態では、このロータ1の片側に隣接して設けるサポート3を車体(図示せず)に固定する。又、このサポート3に上記キャリパ2を、上記ロータ1の軸方向に変位可能に支持している。
【0004】
この為に、上記ロータ1の周方向に関する上記キャリパ2の幅方向両端部に一対の案内ピン4を、同じく上記サポート3の両端部に一対の案内孔5を、それぞれ上記ロータ1の中心軸に対し平行に設けている。そして、上記両案内ピン4を上記両案内孔5内に、軸方向(図14の上下方向)の摺動自在に挿入している。これら両案内ピン4の基端部外周面と上記両案内孔5の開口部との間には、防塵用のブーツ6、6を設けている。
【0005】
又、上記サポート3の両端部で、上記ロータ1の周方向に離隔した部分に、回入側、回出側両係合部7、8を、それぞれ設けている。そして、これら両係合部7、8に、パッド9、9を構成するプレッシャプレート10、10の両端部を、上記ロータ1の軸方向に摺動可能に係合させている。又、上記両パッド9、9を跨ぐ様に、シリンダ部11と爪部12とを有する、上記キャリパ2を配置している。又、このシリンダ部11に、インナ側(車両の幅方向内側で図14の上側)のパッド9を上記ロータ1に対し押圧するピストン13を、液密に嵌装している。
【0006】
制動を行う場合には、上記シリンダ部11内に圧油を送り込み、上記ピストン13により上記インナ側のパッド9のライニング14を、上記ロータ1の内側面に、図14の上から下に押し付ける。すると、この押し付け力の反作用として上記キャリパ2が、上記両案内ピン4と上記両案内孔5との摺動に基づいて、図14の上方に変位し、上記爪部12がアウタ側(車両の幅方向外側で図14の下側)のパッド9のライニング14を、上記ロータ1の外側面に押し付ける。この結果、このロータ1が内外両側面側から強く挟持されて、制動が行われる。
【0007】
上述した様なフローティングキャリパ型ディスクブレーキを構成するキャリパは、一般的に鋳造により製造されるが、上述の図14に示した従来構造の様に、キャリパ2のアウタ側に爪部12が存在する場合、製造コストが高くなる。即ち、このキャリパ2を鋳造により製造する場合、図15に示す様に、鋳型15内に中子16を設置した状態で行う必要がある。この様な中子16が存在すると、鋳造の工程に、中子16の製造、この中子16の鋳型15内への設置、この中子16の除去と言う様な工程が必要になる為、製造コストが高くなる事が避けられない。又、上記キャリパ2に爪部12が存在する事により、上記鋳型15の構造が複雑になり、この鋳型15の製造コストも高くなる。
【0008】
更に、図16に示す様に、鋳造後に、ピストン13を嵌装する為にキャリパ2に設けるシリンダ17を加工する必要があるが、爪部12が存在すると、加工工具18の全長が長くなると共に、この加工工具18のロッド部19が細くなる。即ち、上記爪部12は、一般的に二股に形成されており、この二股の間部分に上記加工工具18のロッド部19を配置する。この二股の間部分の大きさは、爪部12の強度を考慮すると、必要以上に大きくできない為、このロッド部18が細くなる事は避けられない。又、この様に爪部12の二股の間部分を通じて加工工具18を配置する関係上、この加工工具18の全長が長くなる事も避けられない。
【0009】
上記シリンダ17の加工は、上記加工工具18を回転させつつ、この加工工具18の先端部に設けた加工刃20を、上記シリンダ17となるべき部分の内周面に押し付けて、このシリンダ17となるべき部分を削る事により行う。従って、上述の様に、加工工具18の全長が長く、ロッド部19が細い場合には、加工中に上記シリンダ17の内周面に対する上記加工刃20の押し付けにより、上記加工工具18にも若干の弾性変形が生じ、加工精度が低下する可能性がある。又、この加工工具18の全長が長いと、加工が終了し、次の素材に交換する際のこの加工工具18を抜き出す為のストローク量が長くなって、この交換作業に時間が掛かり、加工工程のサイクルタイムが長くなる。この結果、生産効率が低下し、やはり、製造コストが高くなる。
【0010】
これに対して、特許文献2には、キャリパの爪部を省略した構造が記載されている。図17は、この特許文献2に記載された構造を示している。この図17に示した従来構造の場合、キャリパ2aのアウタ側(図17に右下側)に爪部を設けず、アウタパッド21を直接結合している。即ち、このキャリパ2aは、インナ側(図17の左上側)に設けられピストン13aが嵌装されるシリンダ部11aの周方向両端寄りから、アウタ側に向けてインナパッド22とロータ1とを跨ぐ様に、ブリッジ部23を形成している。そして、このブリッジ部23の先端面(アウタ側端面)に上記アウタパッド21を、ボルト24、24により結合している。従って、このアウタパッド21は、上記キャリパ2aと共に、図示しないサポートに対し軸方向に変位可能である。
【0011】
この様な図17に示した従来構造の様に、キャリパ2aのアウタ側に爪部を設けなければ、上述した様な製造コストの上昇を抑えられると共に、爪部を設けない分、材料費の低減及び軽量化も図れる。但し、爪部を設けない分、キャリパ2aとアウタパッド21との結合部の強度を図りにくくなる。即ち、制動時には、ロータ1をインナパッド22とアウタパッド21とにより挟み込み、この挟み込む力に対する反力が、これら両パッド22、21が互いに離れる方向に作用する。そして、この反力により、上記キャリパ2aとアウタパッド21との結合部を構成するボルト24、24に曲げ方向に力が作用する。又、上記キャリパ2aのブリッジ部23の両端部が径方向外方に向かう方向に曲げられる方向にも、力が作用する。
【0012】
前述の図14に示した従来構造の様に、キャリパに爪部が存在する構造の場合には、上述の様な反力は、この爪部に作用していた為、この反力に対する強度を確保し易かった。これに対して、上述の図17に示した構造の様に、爪部を省略して、キャリパ2aとアウタパッド21とをボルト24、24により直接結合した場合、上述した様に、上記反力により、これら各ボルト24、24に曲げ方向の力が作用する。従って、これら各ボルト24、24の強度を十分に確保する必要があるが、この為には、例えば、これら各ボルト24、24のサイズを大きくする等の措置が必要になる。この様にボルト24、24のサイズを大きくした場合には、キャリパ2aのブリッジ部23も大きくする必要がある。又、上記反力により、ブリッジ部23に曲げ方向の力が作用するが、この様な力に対する強度を確保する為には、上記ブリッジ部23の肉厚を大きくする必要がある。この様に、ブリッジ部23を大きくした場合には、爪部をなくした事による低コスト化及び軽量化の効果が低減してしまう。
【0013】
尚、特許文献3〜5には、キャリパをサポートに対し軸方向変位可能に支持する為の案内ピンの先端部を、アウタパッドの両端部に挿通或は係合した構造が記載されている。但し、このうちの特許文献3に記載された構造の場合、案内ピンは、制動時にアウタ、インナ両パッドに加わるブレーキトルクを支承するものではない。又、案内ピンをアウタパッドに挿通している位置が、アウタパッドと爪部との当接部よりも外径側に存在する為、制動時にロータを挟み込む力に対する反力を上記案内ピンで支承するとは考えられない。即ち、この反力の殆どは上記爪部により支承される。
【0014】
又、特許文献4、5には、制動時にアウタ、インナ両パッドに加わるブレーキトルクを案内ピンにより支承する構造が記載されている。但し、このうちの特許文献4に記載された構造の場合も、案内ピンをアウタパッドに挿通している位置を考慮すると、上記反力をこの案内ピンにより支承するとは考えられない。又、特許文献5に記載された発明の場合、図面から案内ピンがアウタパッドを挿通しているとは考えられない為、この案内ピンにより上記反力を支承するものでない事は明らかである。即ち、上記特許文献3〜5に記載された何れの構造の場合も、案内ピンにより上記反力を支承する事は意図していない。
【0015】
【特許文献1】実開昭57−1922号公報
【特許文献2】特開平8−49736号公報
【特許文献3】特開昭55−33995号公報
【特許文献4】特開昭54−138962号公報
【特許文献5】実開昭56−106241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、上述の様な事情に鑑み、キャリパの爪部を省略した構造で、制動時に両パッドによりロータを挟み込む事に対する反力を十分支承可能な構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、サポートと、一対の案内ピンと、インナパッド及びアウタパッドと、キャリパとを備える。
このうちのサポートは、車輪と共に回転するロータに隣接して車体に固定される。
又、上記両案内ピンは、このサポートの周方向両側に固定され、このロータの外径側に軸方向に亙って配置されている。
又、上記両パッドは、上記ロータの軸方向両側に配置される。
又、上記キャリパは、これら両パッドのうちのインナパッドと上記ロータとを跨ぐブリッジ部、及び、このロータよりもインナ側に設けられてピストンが嵌装されるシリンダ部を有する。そして、上記両案内ピンにより上記サポートに対し軸方向に変位可能に支持されている。
又、上記アウタパッドは、一部を上記ブリッジ部のアウタ側端面に結合する事により、上記キャリパと共に軸方向に変位可能としている。
又、上記両案内ピンの先端部を、それぞれ、上記アウタパッドの周方向両端部に形成された一対の係合孔に、上記アウタパッドが上記両案内ピンに対し軸方向に変位可能に、且つ、制動時に上記両パッドが上記ロータを挟み込む力に対する反力の一部を支承可能に、挿通している。
更に、制動時に上記アウタパッドに作用するトルクを、上記両係合孔と上記両案内ピンとの係合部を介して、上記サポートにより支承している。
【0018】
尚、本明細書及び特許請求の範囲で、「軸方向」とは、特に断らない限り、ロータの「軸方向」を指す。又、同じく「径方向」とはロータの「径方向」を、「周方向」とはロータの「周方向」を、それぞれ指す。
【0019】
上述の発明を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、上記インナパッドを、上記両案内ピン同士の間に配置し、周方向両端部にそれぞれ突出形成した係合突部をこれら両案内ピンの外周面にそれぞれ係合させる。これにより、上記インナパッドを、これら両案内ピンに対し軸方向に変位可能に支持し、制動時にこのインナパッドに作用するトルクを、上記両係合突部と上記両案内ピンとの係合部を介して、上記サポートにより支承する。
【0020】
又、より好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、上記アウタパッドを構成するプレッシャプレートの外径側部分を、上記ブリッジ部のアウタ側端面に結合する。又、上記両案内ピンの先端部を挿通する両係合孔を、上記プレッシャプレートの周方向両端部で、このプレッシャプレートと上記ブリッジ部との結合部よりも径方向内側に形成する。
【発明の効果】
【0021】
上述の様に構成される本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキの場合には、キャリパのブリッジ部に直接アウタパッドを結合している為、爪部を省略できる。この為、鋳造によりキャリパを製造する場合には中子を設ける必要がなくなると共に、ピストンを嵌装するシリンダの加工工程のサイクルタイムを短縮でき、製造コストの低減を図れる。又、爪部がなくなる分、材料費の低減及び軽量化を図れる。
【0022】
又、両案内ピンをアウタパッドの係合孔に挿通する事により、制動時に両パッドがロータを挟み込む力に対する反力を支承している為、この反力により、キャリパを構成するブリッジ部や、アウタパッドとブリッジ部との結合部に作用する力を低減できる。この結果、上記反力を支承すべく、このブリッジ部の肉厚を大きくしたり、例えば、上記結合部を構成するボルトのサイズを大きくする必要がなく、フローティングキャリパ型ディスクブレーキの低コスト化及び軽量化を、より一層図れる。
【0023】
又、本発明の場合、上記両案内ピンを上記アウタパッドの係合孔に挿通する事により、制動時にこのアウタパッドに作用するトルクを支承可能としているが、このトルクを支承する際、ロータの回出側が押しアンカとなるのに対し、ロータの回入側は引きアンカとなる。即ち、回出側では、係合孔の外径側周縁部及び回入側周縁部と案内ピンの外周面とが係合するのに対し、回入側では、係合孔の内径側周縁部及び回入側周縁部と案内ピンの外周面とが係合する。これにより、制動時のトルクを回出側と回入側とに分散すると共に、キャリパを構成するブリッジ部に捩り方向の力が作用する事を防止している。即ち、仮に、回出側の押しアンカのみによりトルクを支承した場合、制動時に、アウタパッドの回入側が外径側に浮き上がる傾向となる。このアウタパッドは上記ブリッジ部に直接固定されている為、この回入側の浮き上がりによりこのブリッジ部に捩り方向の力が加わる事になる。従って、この場合には、この捩り方向の力を考慮してブリッジ部の肉厚を大きくする等の対策が必要になるが、本発明の様に、回入側に引きアンカを設ければ、ブリッジ部の肉厚を大きくする等の対策が不要となる。
【0024】
又、請求項2に記載した発明の場合、制動時にインナパッドに作用するトルクも案内ピンにより支承する為、サポートの形状を簡略にできる。即ち、サポートによりインナパッドに作用するトルクを支承する場合、このサポートをこのトルクを支承可能とする為の形状とする必要があるが、請求項2に記載した発明の場合には、この様な必要がない。
【0025】
又、請求項3に記載した発明の場合、両案内ピンと両係合孔との係合部が、アウタパッドとブリッジ部との結合部よりも径方向内側に存在する。この為、制動時に両パッドによりロータを挟み込む事に対する反力を、より効果的に支承でき、上記反力により上記ブリッジ部及び上記結合部に作用する力を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1〜13は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例のフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、車輪と共に回転するロータ1に隣接して車体に固定されるサポート3aに、一対の案内ピン4a、4aを介して、キャリパ2bと、インナパッド22a及びアウタパッド21aとを、軸方向(図1、11の上下方向、図2、3、5の表裏方向、図4、7〜10、12、13の左右方向)に変位可能に支持している。このうちの両案内ピン4a、4aは、全体を段付きの円杆状(図4、10参照)としており、中間部に形成した雄ねじ部を、上記サポート3aの周方向両側に形成されたねじ孔25、25に螺合し更に締め付ける事により、このサポート3aに対し固定されている。又、この際、上記両案内ピン4a、4aの中間部に形成した鍔部26を、上記サポート3aのインナ側面で上記各通孔25、25の周囲部分に当接させる事により、上記両案内ピン4a、4aのこのサポート3aに対する位置決めを図っている。これら両案内ピン4a、4aは、このサポート3aに固定した状態で、上記ロータ1の外径側に、軸方向に亙って配置される。
【0027】
又、上記両案内ピン4a、4aの基端(図1、11の上端、図4、7、10、12、13の右端)寄り部分には、上記キャリパ2bを軸方向に変位可能に支持している。このキャリパ2bは、ピストンが嵌装されるシリンダ部11bと、このシリンダ部11bの周方向両側から互いに反対側に向けて延出した腕部27、27と、このシリンダ部11bの径方向外端(図2〜5、7、10、12、13の上端)寄り部分から、アウタ側(図1、11の下側、図4、7〜10、12、13の左側)に二股に分かれた状態で延出したブリッジ部23aとを有する。このうちの腕部27、27には、それぞれ軸方向に通孔を形成し、これら両通孔にそれぞれ上記両案内ピン4a、4aの基端寄り部分を緩く挿通している。
【0028】
即ち、上記両通孔にこれら両案内ピン4a、4aの基端寄り部分を挿通した状態で、上記キャリパ2bがこれら両案内ピン4a、4aに対し軸方向に変位可能にすべく、これら両案内ピン4a、4aと上記両通孔との間に若干の隙間を設けている。これと共に、制動時のピストンの押し出しに伴う反力により、上記キャリパ2bがインナ側(図1、11の上側、図4、7〜10、12、13の右側)に移動しても、このキャリパ2bが上記両案内ピン4a、4aから脱落しない様に、これら両案内ピン4a、4aの基端寄り部分の軸方向長さを確保している。
【0029】
又、上記ブリッジ部23aの先端面(アウタ側端面)には、上記アウタパッド21aを結合している。即ち、このアウタパッド21aを構成するプレッシャプレート28の径方向外側部分のインナ側面を上記ブリッジ部23aの先端面に当接させた状態で、このプレッシャプレート28の径方向外側部分をこのブリッジ部23aに対し、ボルト24a、24aにより固定している。この為に、上記ブリッジ部23aの先端面は、軸方向に対し直交する仮想平面上に存在する。又、上記アウタパッド21aのライニング14は、上記プレッシャプレート28の径方向中間部乃至内端寄り部分に設けられている。従って、このプレッシャプレート28の径方向外端寄り部分には、上記ライニング14を設けていない平らな面を有する当接板部29が存在する。本例の場合、この当接板部29の上記ブリッジ部23aと対向する平らな面を、このブリッジ部23aの先端面に当接させた状態で、上記各ボルト24a、24aを軸方向に挿通、螺合する事により、上記アウタパッド21aを上記ブリッジ部23aに結合している。そして、このアウタパッド21aを、上記キャリパ2bと共に軸方向に変位可能としている。
【0030】
又、上記アウタパッド21aと上記ブリッジ部23aとの結合位置は、このアウタパッド21aを構成するプレッシャプレート28とこのブリッジ部23aの先端面との当接部の径方向外端位置から、可能な限り離す事が好ましい。本例の場合、図7に示す様に、上記各ボルト24aの中心軸から上記当接部の径方向外端までの距離Aと、アウタパッド21aとロータ1との当接中心から上記当接部の径方向外端までの距離Bとの関係を、B/A≦3.0としている。
【0031】
即ち、制動時には、アウタ、インナ両パッド21a、22aが上記ロータを挟み込む力に対する反力が、前記キャリパ2bに作用する。そして、上記アウタパッド21aに、上記プレッシャプレート28と上記ブリッジ部23aの先端面との当接部の径方向外端位置を中心としたモーメントが作用する。この結果、図7に示す様に、この当接部の径方向外端位置を支点として、上記各ボルト24aに曲げモーメントMが作用する。本例の場合、B/A≦3.0とし、これら各ボルト24aの中心軸と上記当接部の径方向外端位置までの距離Aをできる限り大きくして、上記曲げモーメントMが作用する半径を大きくしている。この結果、この曲げモーメントMが上記各ボルト24aに対しては、軸方向に近い方向に引っ張り力として作用する。
【0032】
上記各ボルト24aによる結合部は、引っ張り力に対して優れた強度及び剛性を有する為、この引っ張り力が支配的である方が耐久性を確保し易い。この為、上述の様に、曲げモーメントMが上記各ボルト24aに引っ張り力として作用すれば、これら各ボルト24aによる結合部の耐久性を向上させられる。尚、上記B/Aを小さくし過ぎると、キャリパ2bが大型化し過ぎる為、好ましくない。一方、上記B/Aが3.0を超えると、制動時に上記各ボルト24aに加わる力のうち、曲げ方向の力が支配的になり、これら各ボルト24aによる結合部の耐久性を確保しにくくなる。
【0033】
又、本例の場合、上記アウタパッド21aの周方向両端部で、上記ブリッジ部23aとの結合部よりも径方向内側に、一対の係合孔30、30を形成している。そして、前記案内ピン4a、4aの先端部を、それぞれ、これら両係合孔30、30に挿通している。これら両係合孔30、30は、角部を丸めた矩形状に形成されており、径方向の幅は上記両案内ピン4a、4aの先端部の外径とほぼ同じとしている。これに対して、周方向の幅はこれら両案内ピン4a、4aの先端部の外径よりも僅かに大きくしている。従って、上記アウタパッド21aは、上記両係合孔30、30に上記両案内ピン4a、4aを挿通した状態で、径方向に殆どがたつく事はないが、周方向に関しては若干の変位を可能としている。又、上述した様な、制動時の反力が上記アウタパッド21aに作用した場合には、上記両案内ピン4a、4aの先端部の外周面と上記両係合孔30、30の内周縁部とが係合し、この係合部により上記反力の一部を支承する(アウタパッド21aが径方向外側に変化しようとするのを抑え付ける)。
【0034】
又、本例の場合、制動時に上記アウタパッド21aに作用するブレーキトルクは、上記両案内ピン4a、4aと上記両係合孔30、30との係合部を介して、前記サポート3aにより支承する。この為に、本例の場合、上記キャリパ2bの両腕部27、27に形成した通孔の内周面と上記両案内ピン4a、4aの外周面との間の隙間よりも、上記アウタパッド21aの両係合孔30、30の内周面とこれら両案内ピン4a、4aの外周面との間の隙間を小さくしている。そして、制動時に上記アウタパッド21aに作用するトルクを、上記両係合孔30、30と上記両案内ピン4a、4aとの係合部を介して、上記サポート3aにより支承する様にしている。
【0035】
又、本例の場合、上記アウタパッド21aに作用するブレーキトルクを支承する際、ロータ1の回出側が押しアンカとなるのに対し、ロータの回入側は引きアンカとなる。例えば、図1の左方向にロータが回転する場合、図1、2、5の左側、及び、図3の右側が回出側に、図1、2、5の右側、及び、図3の左側が回入側になる。回出側の案内ピン4aと係合孔30とは、この係合孔30の外径側周縁部及び回入側周縁部と案内ピン4aの外周面とが係合するのに対し、回入側の案内ピン4aと係合孔30とは、この係合孔30の内径側周縁部及び回入側周縁部と案内ピン4aの外周面とが係合する。これにより、制動時に上記アウタパッド21aに作用するブレーキトルクを回出側と回入側とに分散すると共に、上記キャリパ2aを構成するブリッジ部23aに捩り方向の力が作用する事を防止している。
【0036】
又、本例の場合、前記インナパッド22aも、上記両案内ピン4a、4aにより支持している。即ち、このインナパッド22aを、これら両案内ピン4a、4a同士の間に配置し、このインナパッド22aの周方向両端部にそれぞれ突出形成した係合突部31、31を、上記両案内ピン4a、4aの軸方向中間部外周面にそれぞれ係合させている。これら両係合突部31、31には、図5に示す様に、互いに周方向反対側に開口した係合凹部32、32をそれぞれ形成しており、これら両係合凹部32、32で上記両案内ピン4a、4aの中間部の半部外周面を覆う事により、上記両係合突部31、31をこれら両案内ピン4a、4aに係合している。この様なインナパッド22aも、制動時に作用するブレーキトルクは、上記両係合突部31、31と上記両案内ピン4a、4aとの係合部により支承する。
【0037】
上述の様に構成される本例のフローティングキャリパ型ディスクブレーキは、図8〜10に示す様に製造する。先ず、図8に示す様に、鋳型15aによりキャリパ2bの中間素材33を得る。この際、前述の図15に示した従来方法で使用した中子16は必要ない。即ち、本例のキャリパ2bは、前述の図14に示した従来構造の様に、爪部12が存在しない為、上記中子16を設けなくても、2分割型の鋳型15aのみで、上記中間素材33を得られる。
【0038】
次に、この中間素材33にシリンダ17aを形成すべく、図9に示す様に、この中間素材33のこのシリンダ17aを形成すべき部分に、加工工具18aを挿入する。そして、この加工工具18aの先端部に設けた加工刃20aにより加工を行う。本例の場合、前述の図14に示した従来構造と異なり爪部12が存在しない為、上記加工工具18aの全長を短くできる。又、ロッド部19aを爪部12の二股の間部分を通す必要もない為、このロッド部19aの太さも大きくできる。この為、このロッド部19aの剛性を大きくできる。上記加工刃20aによる加工の際には、上記加工工具18aを上記中間素材33の内周面に押し付けるが、本例の場合、上記ロッド部19aの剛性を大きくできる為、この押し付けに伴う弾性変形を抑えられ、加工精度を良好にできる。又、上記ロッド部19aの全長が短い為、加工工程のサイクルタイムを短くでき、生産効率を向上させる事ができる。
【0039】
上述の様な工程を経て得られたキャリパ2bは、サポート3a、アウタ、インナ両パッド21a、22a、及び、案内ピン4a、4aと組み合わせて、フローティングキャリパ型ディスクブレーキとする。この際、図10に示す様に、これら各部材を軸方向(図10の左右方向)に移動させる事により、組み付けが可能である。先ず、上記サポート3aのねじ孔25、25(図1参照)に上記両案内ピン4a、4aを軸方向に螺入し更に締め付けて組み付ける。次に、上記キャリパ2bをインナ側から軸方向に移動させて、これら両案内ピン4a、4aの基端寄り部分に組み付ける。又、上記両パッド21a、22aをアウタ側から軸方向に移動させて、上記両案内ピン4a、4aの中間部及び先端寄り部分に組み付ける。この際、上記アウタパッド21aの外径側部分を上記キャリパ2bのブリッジ部23aの先端面に当接させ、アウタ側からボルト24a、24aを軸方向に挿入、螺合して組み付ける。尚、この様な組み付け順序は、適宜変更可能である。何れにしても、上記各部材は、ねじ部の螺合時に一部の部材を回転させる以外、互いに軸方向に移動させるだけで、組み付けが可能である。
【0040】
この様に、各部材を一方向(軸方向)にのみ変位させるだけで組み付けが可能であれば、組み付け作業を自動化して行う場合に、部材を動かす例えばアーム等の動きが単純で済み、自動組み立て装置自体の構造を簡略にできると共に、作業効率を向上させ易い。これに対して、組み立て時に軸方向以外の例えば径方向等にも動かす場合には、各部材を三次元に動かす必要があり、自動組み立て装置が複雑になると共に、作業効率を向上させにくくなる。本例の場合、上述の様に、各部材の組み付けの際の動きを一方向としている為、組み立ての自動化を図り易い。
【0041】
上述の様に構成される本発明のフローティングキャリパ型ディスクブレーキの場合には、キャリパ2bのブリッジ部23aに直接アウタパッド21aを結合している為、図11、12に斜格子で示した爪部12を省略できる。この為、鋳造によりキャリパ2bを製造する場合には、前述した様に、中子16を設ける必要がなくなると共に、ピストンを嵌装するシリンダ17aの加工工程のサイクルタイムを短縮でき、製造コストの低減を図れる。又、上記爪部12がなくなる分、上記キャリパ2bの材料費の低減及び軽量化を図れる。具体的には、この爪部12がなくなる事により、20〜30重量%の材料を削減できる。
【0042】
又、本例の場合、前述した様に、両案内ピン4a、4aをアウタパッド21aの係合孔30、30に挿通し、このアウタパッド21aがサポート3aに対し径方向外方に変位しない様に抑え付ける事により、制動時に両パッド21a、22aがロータを挟み込む力に対する反力の一部を支承している。この為、この反力により、上記キャリパ2bのブリッジ部23aに作用する曲げ方向の力、及び、上記アウタパッド21aとこのブリッジ部23aとの結合部に作用する力を低減できる。即ち、制動時には、上記反力により、図13に誇張して示す様に、キャリパ2bのシリンダ部11bとアウタパッド21aとが離れる方向に力が作用する。この結果、上記ブリッジ部23aには、曲げ方向の力が、上記結合部には分離する方向の力がそれぞれ作用する。
【0043】
本例の場合、上記アウタパッド21aと上記キャリパ2bとの結合部よりも内径側で、上記両案内ピン4a、4aの先端部と上記両係合孔30、30とを係合し、上記反力の一部をこの係合部により支承している。即ち、この反力により上記ブリッジ部23aの先端部が径方向外側に変位する傾向になるのを、上記両案内ピン4a、4aにより抑え付ける様にしている。この為、上記ブリッジ部23aに作用する曲げ方向の力、及び、上記結合部に作用する力が低減される。従って、上記反力により上記ブリッジ部23aに作用する曲げ方向の力を低減できて、このブリッジ部23aの肉厚を小さくできる。又、上記反力により上記結合部に作用する力に関しても、前述の様に引っ張り力の割合を大きくし、ボルト24a、24aにより支承し易くしている。この為、例えば、ボルト24a、24aのサイズを大きくしなくても、上記反力を十分に支承可能である。この結果、フローティングキャリパ型ディスクブレーキの低コスト化及び軽量化を、より一層図れる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
尚、上述の実施の形態の構造に、両パッド21a、22aのがたつきを防止する為のパッドクリップや、これら両パッド21a、22aをロータから引き離す方向に付勢するパッドスプリングを設けても良い。特に、インナパッド22aとサポート3a或は上記両案内ピン4a、4aとの間にパッドクリップを設ける事が好ましい。更には、これら両案内ピン4a、4aの基端寄り周囲で、キャリパ2bと上記サポート3aとの間に、これら両案内ピン4a、4aとこのキャリパ2bの通孔との摺動部に異物が侵入する事を防止する為のブーツを設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態の1例を、一部を切断してロータの外径側から見た正投影図。
【図2】同じくアウタ側から見た正投影図。
【図3】同じくインナ側から見た正投影図。
【図4】同じく、一部を切断して図1の右側から見た正投影図。
【図5】ブリッジ部のボルトを螺合するねじ孔を省略して示す、図1のイ−イ断面図。
【図6】本発明の実施の形態の1例を、アウタ側から見た斜視図。
【図7】アウタパッドとブリッジ部との結合部を切断して示す、図1の右側から見た図。
【図8】キャリパを製造する為の鋳型の、図1のロ−ロ断面に相当する図。
【図9】キャリパのシリンダの加工状態を示す断面図。
【図10】フローティングキャリパ型ディスクブレーキの組み立て状態を、図1の右側から見た分解図。
【図11】従来構造と対比する為に、本発明の実施の形態の1例に爪部を重ねて示す、ロータの外径側から見た正投影図。
【図12】同じく図11の右側から見た正投影図。
【図13】制動時の反力が作用してキャリパが弾性変形した状態を誇張して示す、図1の右側から見た一部断面図。
【図14】フローティングキャリパ型ディスクブレーキの従来構造の第1例を、ロータの外径側から見た、一部断面図。
【図15】爪部を有するキャリパを製造する為の鋳型の断面図。
【図16】同じくシリンダの加工状態を示す断面図。
【図17】フローティングキャリパ型ディスクブレーキの従来構造の第2例を示す分解斜視図。
【符号の説明】
【0046】
1 ロータ
2、2a、2b キャリパ
3、3a サポート
4、4a 案内ピン
5 案内孔
6 ブーツ
7 回入側係合部
8 回出側係合部
9 パッド
10 プレッシャプレート
11、11a、11b シリンダ部
12 爪部
13、13a ピストン
14 ライニング
15、15a 鋳型
16 中子
17、17a シリンダ
18、18a 加工工具
19、19a ロッド部
20、20a 加工刃
21、21a アウタパッド
22、22a インナパッド
23、23a ブリッジ部
24、24a ボルト
25 ねじ孔
26 鍔部
27 腕部
28 プレッシャプレート
29 当接板部
30 係合孔
31 係合突部
32 係合凹部
33 中間素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータに隣接して車体に固定されるサポートと、このサポートの周方向両側に固定され、このロータの外径側に軸方向に亙って配置された一対の案内ピンと、このロータの軸方向両側に配置されるインナパッド及びアウタパッドと、これら両パッドのうちのインナパッドと上記ロータとを跨ぐブリッジ部、及び、このロータよりもインナ側に設けられてピストンが嵌装されるシリンダ部を有し、上記両案内ピンにより上記サポートに対し軸方向に変位可能に支持されたキャリパとを備え、
上記アウタパッドは、一部を上記ブリッジ部のアウタ側端面に結合する事により上記キャリパと共に軸方向に変位可能としており、
上記両案内ピンの先端部を、それぞれ、上記アウタパッドの周方向両端部に形成された一対の係合孔に、上記アウタパッドが上記両案内ピンに対し軸方向に変位可能に、且つ、制動時に上記両パッドが上記ロータを挟み込む力に対する反力の一部を支承可能に挿通しており、
制動時に上記アウタパッドに作用するトルクを、上記両係合孔と上記両案内ピンとの係合部を介して、上記サポートにより支承するフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。
【請求項2】
上記インナパッドは、上記両案内ピン同士の間に配置され、周方向両端部にそれぞれ突出形成した係合突部をこれら両案内ピンの外周面にそれぞれ係合させる事により、これら両案内ピンに対し軸方向に変位可能に支持されており、制動時に上記インナパッドに作用するトルクを、上記両係合突部と上記両案内ピンとの係合部を介して、上記サポートにより支承する、請求項1に記載したフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。
【請求項3】
上記アウタパッドを構成するプレッシャプレートの外径側部分を上記ブリッジ部のアウタ側端面に結合しており、上記両案内ピンの先端部を挿通する両係合孔は、上記プレッシャプレートの周方向両端部で、このプレッシャプレートと上記ブリッジ部との結合部よりも径方向内側に形成されている、請求項1又は請求項2に記載したフローティングキャリパ型ディスクブレーキ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2010−121721(P2010−121721A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296466(P2008−296466)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】