説明

フロート弁装置

【課題】満タン規制バルブやカットオフバルブとして用いることができ、燃料タンク内に燃料を最大限給油できる、フロート弁装置を提供する。
【解決手段】フロート弁装置1は、隔壁15を介して、下方に燃料タンクT内に連通するフロート室R1、上方にタンク外部に連通する通気室R2が設けられたハウジングと、フロート室R1に上下昇降可能に配置されたフロート弁40と、フロート室R1と通気室R2とを連通するように隔壁15に形成され、その下面周縁が、フロート弁40が接離する弁座17をなす連通口16とを備え、フロート弁40が下降して、その底部がハウジングの底壁に接触したとき、フロート弁40をハウジングの側壁11、14に接触させる摩擦付与手段が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の燃料タンクに取付けられる、特にカットオフバルブに好適なフロート弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃料タンクには、燃料蒸気をキャニスタに逃がすと共に、自動車が走行中に大きく揺れたり、自動車が転倒したりしたときには、キャニスタに連通する開口を閉じて燃料が外部に漏れるのを防止するため、カットオフバルブ(ロールオーバーバルブともいう)が設けられている。
【0003】
また、自動車の燃料タンクには、給油時に燃料が満タン位置まで給油されたとき、燃料タンクの外部に連通する開口を閉じて、給油を停止させる満タン規制バルブが取付けられることもある。
【0004】
この場合、満タン規制バルブが閉じて給油が停止されるまでは、燃料タンク内が過度に加圧されることを防止するため、カットオフバルブは開いていることが要求される。このため、一般に、満タン規制バルブが閉じる高さよりもカットオフバルブが閉じる高さの方が、所定の距離だけ高い位置になるように設定されている。なお、満タン規制バルブが閉じると、カットオフバルブが開いていても、その先に連結されたチェックバルブが閉じているので、満タン規制がなされるようになっている。
【0005】
上記のカットオフバルブや、満タン規制バルブとしては、燃料の液面の上昇に応じて浮上し、燃料給油管や外キャニスタ等に連通する開口部を閉じるように構成したフロート弁装置が採用されている。
【0006】
従来のこの種のフロート弁装置として、下記特許文献1には、上端面に排出口が形成されたケース体と、該ケース体の内側に設けられ、上端に上記排出口と連通する弁座が設けられたバルブ室と、該バルブ室内に上下動可能に収容され、上端部に弁頭を有するフロート体とを有し、常時は、燃料タンク内のベーパを燃料タンク外へ排出し、給油時に、燃料液面が上昇するとフロート体が上昇し、その弁頭が弁座に当接密着して排出口を閉じるように構成された燃料タンクの液面検知バルブ(満タン規制バルブ)が開示されている。
【0007】
また、下記特許文献2には、車両の燃料タンクの天井に取付けられ、燃料蒸気をキャニスタへ逃がして燃料タンク内の圧力上昇を防ぐと共に、車両を急加速又は急制動させたときなどに燃料が燃料タンクから流出するのを防止するフューエルカットバルブが開示されている。このフューエルカットバルブは、ハウジング本体内にコイルスプリングで付勢された弁体が配置され、燃料が上昇すると弁体が浮上して、弁体の弁頭が弁座に当接して閉塞されるようになっている。
【特許文献1】特開2004−44525号公報
【特許文献2】特開2003−269274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載されたような満タン規制バルブと、上記特許文献2に記載されたようなカットオフバルブとを組合せる場合、前述したように、満タン規制バルブが閉じて給油が停止されるまでは、カットオフバルブは開いていることが要求されるため、満タン規制バルブが閉じる高さよりもカットオフバルブが閉じる高さの方が、所定の距離だけ高い位置になるように設定される。
【0009】
しかしながら、そのような従来のフロート弁装置では、満タン規制バルブが閉じる高さよりもカットオフバルブが閉じる高さの方が、所定の距離だけ高い位置になるように設定する必要性から、燃料タンクの上部に空間を残して給油を停止させなければならず、燃料タンク内に充填できる燃料の満タン量が少なくなってしまうという問題があった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、燃料タンク内に燃料をより多く充填することができるようにした、特にカットオフバルブに好適なフロート弁装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の第1は、隔壁を介して、下方に燃料タンク内に連通するフロート室、上方にタンク外部に連通する通気室が設けられたハウジングと、
前記フロート室に上下昇降可能に配置されたフロート弁と、
前記フロート室と前記通気室とを連通するように前記隔壁に形成され、その下面周縁が、前記フロート弁が接離する弁座をなす連通口とを備え、
前記フロート弁が下降して、その底部が前記ハウジングの底壁に接触したとき、前記フロート弁を前記ハウジングの側壁に少なくとも一箇所で接触させる摩擦付与手段が設けられていることを特徴とするフロート弁装置を提供するものである。
【0012】
上記発明のフロート弁装置においては、燃料タンク内の燃料液面が所定高さ以上になると、燃料がフロート室内に流入して浮力によりフロート弁が上昇し、隔壁に形成された弁座に当接して連通口を閉塞し、燃料が連通口を通して通気室に流入することを防止する。
【0013】
また、このフロート弁装置においては、フロート弁が下降して、ハウジングの底壁に接触したとき、フロート弁をハウジングの側壁に少なくとも一箇所で接触させる摩擦付与手段が設けられていることにより、燃料がフロート室に流入して浮力が作用しても、摩擦付与手段によってフロート弁がハウジングの側壁に接触しているので、フロート弁の上昇を遅らせることができる。
【0014】
そこで、このフロート弁装置を例えばカットオフバルブに適用した場合には、バルブが閉じるタイミングを遅らせることにより、カットオフバルブが同じ高さに保持されていても、バルブが閉じる液面の高さを実質的に高くする効果がもたらされる。その結果、その分だけ、燃料満タン規制バルブを通常よりも上方に配置しても、燃料満タン規制バルブが閉じる前に、カットオフバルブが閉じてしまうという危険性を回避できる。それにより、同じ大きさ及び形状の燃料タンクであっても、従来よりも燃料満タン規制バルブを高い位置に配置することが可能となり、結果的に燃料タンク内に充填できる燃料の満タン量を増大させることができる。
【0015】
一方、フロート弁が上昇して隔壁に形成された連通孔を閉塞している状態では、摩擦付与手段は作用しないので、燃料液面が降下すると、速やかに連通孔から離れて、開弁動作に支障をきたすことはない。なお、車が旋回したり、横転したりした場合には、多量の燃料が瞬時にフロート室に流入するため、摩擦付与手段による摩擦力以上の強い浮力が作用することになるので、閉弁タイミングの遅れを生じることはなく、カットオフバルブとしての機能も損なわれることはない。
【0016】
本発明の第2は、前記第1の発明において、前記摩擦付与手段は、前記ハウジングの底壁の、前記フロート弁を支持する支持面を、同ハウジングのフロート室の軸心に対して所定角度で傾斜させることにより構成されているフロート弁装置を提供するものである。
【0017】
上記発明によれば、ハウジングの底壁の、フロート弁の支持面が傾斜しているので、フロート弁が下降したときに、フロート弁を傾かせて、ハウジングの側壁に接触させることができる。
【0018】
そして、ハウジングの底壁の支持面を傾斜させて、フロート弁及びハウジング側壁の形状を何ら変更するものではないので、フロート弁が上昇して連通口を閉塞した後、燃料液面が通常の位置に戻って、フロート弁が再び下降するときには、フロート弁に摩擦抵抗を付与することなくスムーズに下降させることができる。
【0019】
また、フロート弁の形状を変更しない場合には、フロート弁の共用化を図ることができると共に、フロート弁が重くなることを防止できるので、フロート弁の上昇動作が過度に遅れることを抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、燃料がフロート室に流入して浮力が作用しても、摩擦付与手段によってフロート弁がハウジングの側壁に接触しているので、フロート弁の上昇を遅らせることができ、連通孔がフロート弁によって閉塞されるタイミングを遅らせることができ、その結果、バルブが閉じる液面の高さを実質的に高くすることができ、このようなフロート弁装置を例えばカットオフバルブに適用した場合には、上記バルブが閉じる液面の高さが高くなった分だけ、燃料満タン規制バルブを通常よりも上方に配置することが可能となるので、満タンとされる液面の高さを上昇させて、従来のフロート弁装置を用いた場合よりも、燃料タンク内により多くの燃料を充填することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図1〜5を参照して本発明のフロート弁装置をカットオフバルブに適用した一実施形態について説明する。
【0022】
図1に示すように、このフロート弁装置1(以下、「弁装置1」という)は、ハウジング本体10と、このハウジング本体10の上方に装着される上部キャップ20と、ハウジング本体10の下方開口部に装着される下部キャップ30とからなる、ハウジング5を有している。
【0023】
図3を併せて参照すると、ハウジング本体10及び下部キャップ30により画成される内部空間が、後述するフロート弁40が上下昇降可能に配置されるフロート室R1をなし、ハウジング本体10及び上部キャップ20により画成される内部空間が、通気室R2をなしている。前記フロート室R1は燃料タンク内に連通し、前記通気室R2は、燃料タンク外部に配置されたキャニスタに至る流路に連通している。以下、各構成部材について説明する。
【0024】
ハウジング本体10は、下方が開口した円筒状の側壁11と、その上方を閉塞する上壁12と、この上壁12の上面中央部から、上方に向かって膨出した膨出部13とを有している。この膨出部13の内側の上方空間R1aは、側壁11の内側の下方空間R1bに連通している(図3参照)。この実施形態におけるフロート室R1は、膨出部内側の上方空間R1aと、周壁内側の下方空間R1bとから構成されている。
【0025】
膨出部13は、筒状の側壁14と、側壁14の上方に連結された隔壁15とを有しており、前記隔壁15の中央に連通口16が形成され、この下面周縁が所定高さで円筒状に突設して、後述するフロート弁40の弁頭45が接離する弁座17をなしている。上記通連口16により、フロート室R1及び通気室R2の両者が連通されている。
【0026】
前記側壁11には、燃料及び燃料蒸気の通路となる複数の透孔11aが形成され、その下方には、周方向に沿って複数の爪部11bが形成されている。また、上壁12の上面であって、膨出部13の側壁14の外周には、筒状壁18が所定高さで突設されている。
【0027】
前記上壁12の周縁はフランジ状に広がっており、このフランジ部分に周方向に所定間隔を設けて複数の挿通孔12aが形成され、この挿通孔12aに対応した側壁11の所定位置に、複数の突起11cが突設されている。
【0028】
図3を併せて参照すると、ハウジング本体10の上方に装着される上部キャップ20は、下方が開口した略円筒状の収容部21を有している。収容部21の周壁には、接続管22が一体的に突設されており、これが収容部21内側の通気室R2に連通している。
【0029】
収容部21の外周には、環状のフランジ部23が外方に向かって突設されており、その外周縁部は、下方に向かって所定高さで突出していて、図3に示すように、燃料タンクTの開口部Taの表側周縁への溶着部をなしている。また、フランジ部23の下面からは、四角枠状をなした複数の係合片24が突設されている(図1参照)。
【0030】
そして、収容部21の下端外周、若しくは、前記ハウジング本体10の筒状壁18内周に、環状のシールリングSを装着して、上部キャップ20の複数の係合片24を、ハウジング本体10の挿通孔12aを通して、複数の突起11cにそれぞれ係合させることにより、ハウジング本体10に上部キャップ20が装着される。このとき、収容部21の下端外周と、筒状壁18の内周との間に、シールリングSが弾性的に介装されるので、通気室R2が気密的にシールされるようになっている。
【0031】
図1に示すように、ハウジング本体10のフロート室R1内に配置されるフロート弁40は、上方に向かって次第に縮径した略円筒形状の弁本体41と、この弁本体41の上面中央に突設された隆起部43とを有している。前記弁本体41の外周には、周方向に均等な間隔で、上下に伸びる下方リブ44が複数形成されている。また、前記隆起部43の上面中央からは、上方に向かって次第に縮径した形状をなす、弁頭45が所定高さで突設されており、同弁頭45の外周には、周方向に均等な間隔を設けて、複数の上方リブ46が放射状に突設されている。また、フロート弁40の下面中央には、所定高さの凹部47が形成されている。
【0032】
上記構造をなすフロート弁40は、下方の凹部47に付勢バネ50が挿入された状態でフロート室R1内に収容され、常時は自重により下降して、その底部が後述する下部キャップ30の底壁31の支持面に接触して支持されるようになっている。このとき、フロート弁40の上方突出部(弁頭45と、隆起部43及び上方リブ46の上方一部)が上方空間R1a内に入り込み、残りの部分(隆起部43及び上方リブ46の残りの部分と、弁本体41と、下方リブ44)が、下方空間R1b内に配置されるようになっている。
【0033】
また、フロート弁40の上方リブ46の外径は、膨出部13の側壁14の内径よりもやや小さく形成され、下方リブ44の外径も、側壁11の内径よりもやや小さく形成されている。具体的には、図5に示すように、フロート弁40が浮き上がって、その軸心C2がフロート室R1の軸心C1にほぼ一致した状態で、上方リブ46と側壁14の内径との隙間D1が0.10〜0.70mmであることが好ましく、下方リブ44と側壁11の内径との隙間D2が0.10〜0.70mmであることが好ましい。
【0034】
隙間D1が0.10mmより小さい場合、又は、隙間D2が0.10mmより小さい場合は、寸法精度のバラツキ等により、上方リブ46又は下方リブ44が、側壁14又は側壁11に対して強く接触してしまう可能性があり、その結果、フロート弁40の昇降時の摩擦抵抗が増大し、フロート弁40の昇降動作に支障が生じ好ましくない。一方、隙間D1が0.70mmより大きい場合、又は、隙間D2が0.70mmより大きい場合は、ガタが大きくなりすぎて本来の機能を損なうため、好ましくない。
【0035】
そして、本発明においては、フロート弁40をハウジング5の側壁に少なくとも一箇所で接触させる摩擦付与手段が設けられている。この実施形態の摩擦付与手段は、下部キャップ30を次の形状にすることにより構成されている。
【0036】
すなわち、下部キャップ30は、燃料の通過可能な透孔31aを有する略円形状の底壁31と、この底壁31の外周縁から立設して、ハウジング本体10の側壁11の下方外周に被さるカバー壁32とから主として構成されている。前記カバー壁32には、ハウジング本体10の爪部11bに係合する係合孔32aが形成されている。
【0037】
また、底壁31の中央には、付勢バネ50の下端部を支持する、略十字状をなす支持突起33が突設されている。この支持突起33の外周には、環状の内側リブ34が突設されて、更にこの内側リブ34の外周に、同心状に環状の外側リブ35が突設されている。両リブ34,35は、キャップ中心に対して放射状に広がる補強リブ36により連結されている。
【0038】
これら複数のリブ34,35,36の上端面が、フロート弁40が下降したときに、その底部が接触して、これを支持する支持面をなしている(図3参照)。そして、これら複数のリブ34,35,36の上端面を含む支持面が、ハウジング5に画成されたフロート室R1の軸心C1に対して、所定角度θ1で傾斜するように形成されている(図3参照)。
【0039】
この実施形態において、内側リブ34及び外側リブ35の上端面は、周方向の所定箇所が最も低く、この最も低い箇所の周方向反対側が最も高くなるように、周方向に沿って次第に高く形成され、補強リブ36の上端面もそれに合わせて傾斜した形状をなしている。
【0040】
そして、凹部47に付勢バネ50を挿入した状態で、フロート弁40をハウジング5のフロート室R1内に収容した後、下部キャップ30をハウジング本体10の下方開口部に押し込んで、係合孔32aに爪部11bを係合させることにより、ハウジング本体10の下方に下部キャップ30が装着される。それと共に、フロート弁40と下部キャップ30の底壁31との間に、付勢バネ50が介装され、この付勢バネ50は、燃料液面が上昇して、フロート弁40が燃料に浸漬されたとき、フロート弁40に生じる浮力と合わせて、フロート弁40に浮上力を与える。
【0041】
また、フロート弁40は、燃料に浸漬しない状態では自重により下降して、付勢バネ50を圧縮し、下部キャップ30の底壁31に接触した状態で支持される。それと共に、摩擦付与手段により、フロート弁40の少なくとも一箇所がハウジング5の側壁に接触するようになっている。
【0042】
すなわち、この弁装置1では、下部キャップ30の底壁31のフロート弁40の支持面を、フロート室R1の軸心C1に対して所定角度θ1で傾斜させたので、フロート弁40の軸心C2がフロート室R1の軸心C1に対し傾き、フロート弁40が所定角度で傾いた状態で、フロート室R1内に上下昇降可能に収容配置される(図3参照)。
【0043】
その結果、フロート弁40が、ハウジング5の側壁に少なくとも一箇所で接触し、燃料液面の上昇によって、フロート弁40が浮力及び付勢バネ50の付勢力により上昇するときに、摩擦抵抗によりフロート弁40の上昇速度が遅れて、フロート弁40による連通口16の閉塞タイミングを遅らせることが可能となっている。
【0044】
この実施形態では、図3に示すように、上方リブ46の上方部分Aが膨出部13の側壁14に接触すると共に、側壁14に接触した上方リブ46とは周方向反対側に形成された、下方リブ44の下方部分Bが側壁11に接触し、合計2箇所でフロート弁40がハウジング5の側壁に接触するようになっている。
【0045】
以上説明したように、この実施形態では、下部キャップ30のフロート弁40の支持面を、フロート室R1の軸心C1に対し所定角度θ1で傾斜させることにより、本発明における摩擦付与手段が構成されている。
【0046】
なお、この実施形態における下部キャップ30のフロート弁40の支持面は、二重環状の内側リブ34及び外側リブ35の上端面を、周方向所定箇所を最も低く、その反対側が最も高くなるように、周方向に沿って次第に高くすることにより形成されているが、これに限定されるものではない。例えば、下部キャップ30の所定箇所に所定高さのリブを設け、キャップ中心を挟んでその反対側に、前記リブよりも高いもう一つのリブを設けて、フロート弁40を載置させたときに、傾くように構成してもよい。
【0047】
また、摩擦付与手段を構成する下部キャップ30の支持面の、フロート室R1の軸心C1に対する傾斜角度θ1は、3〜10°であることが好ましい。前記角度θ1が3°よりも小さいと、フロート弁40の傾きが不足して、ハウジング5の側壁にしっかりと接触させることができないので好ましくなく、10°よりも大きいと、フロート弁40の傾斜角度が大きいので、ハウジング5の通気室R1内にフロート弁40を収容した後、下部キャップ30を組み付けにくくなり好ましくない。
【0048】
次に、この弁装置1の作用効果を説明する。
【0049】
図3に示すように、この弁装置1は、燃料タンクTの開口部Taの表側周縁に、上部キャップ20のフランジ部23の下方突出部を溶着することにより、燃料タンクTに取付けられるようになっている。また、弁装置1の接続管22には、燃料タンクTの外部に配置された図示しないキャニスタに連結された配管が接続される。
【0050】
図示しないが、燃料タンクT内には、上記弁装置1(カットオフバルブ)の他に、満タン規制バルブが配置されており、給油時に燃料液面が一定の高さになると満タン規制バルブが閉じて、図示しないベントチューブを通して燃料が給油管の所定箇所に返送され、燃料の供給が停止するようになっている。満タン規制バルブが閉じる液面の高さに対して、弁装置1(カットオフバルブ)が閉じる液面の高さが所定距離だけ高くなるように設定され、満タン規制バルブが閉じる前に弁装置1(カットオフバルブ)が閉じてしまうことを防止するようにしている。
【0051】
そして、上記フロート弁40が燃料Fに浸漬されていない状態では、フロート弁40は、その自重で付勢バネ50を圧縮して下降すると共に、その底部が下部キャップ30の底壁31の支持面に支持されて、所定角度で傾いた状態でフロート室R1内に配置されている。この状態では、フロート弁40の弁頭45が、弁座17から離れて連通口16が開口している。
【0052】
この状態で、図示しない給油管から燃料Fが給油されると、その液面が徐々に上昇すると共に、燃料タンクT内の空気及び燃料蒸気が、ベントチューブを通って外部に流出したり、図示しない満タン規制バルブ及び弁装置1の連通口16及び通気室R2を通って、外部キャニスタへと送られる。すなわち、給油される燃料の体積に応じた体積の空気や燃料蒸気が排出されることにより、給油が進行されることになる。
【0053】
その後、燃料Fの液面が上昇すると、弁装置1よりも下方に位置する、ベントチューブの開口部や、満タン規制バルブが閉塞されて、燃料タンクTの内圧が高まって、それ以上燃料Fを給油することができなくなる。その結果、燃料Fが、ベントチューブを通して図示しない給油管の給油口近傍に返送され、給油ノズル先端のセンサーに燃料が接触して自動的に給油が停止され、燃料の満タン規制がなされる。
【0054】
更に、図4に示すように、燃料Fの液面が上昇して、下部キャップ30の透孔31aからフロート室R1内に燃料Fが流入し、フロート弁40の所定体積以上が燃料Fに浸漬されると、フロート弁40に働く浮力と付勢バネ50の付勢力とによって、フロート弁40が徐々に上昇する。
【0055】
このとき、この弁装置1においては、図3に示すように、摩擦付与手段によって、上方リブ46の上方が膨出部13の側壁14に接触し、かつ、下方リブ44の下方が側壁11に接触しているので、フロート弁40が上昇しようとしても、摩擦付与手段により付与された摩擦抵抗によって、フロート弁40の上昇速度を遅らせることができるようになっている。
【0056】
すなわち、フロート弁40は上昇し始めても、その軸心C2がフロート室R1の軸心C1に整合するように、真っ直ぐの姿勢に復帰するものではなく、図4に示すように、上方リブ46及び下方リブ44が、側壁14及び側壁11に摺接しつつ上昇し、摩擦抵抗が付与されるようになっているので、フロート弁40の上昇が遅れることとなる。その結果、フロート弁40が閉じるときの液面F(図5参照)の高さ(ロックポイント)を、通常のカットオフバルブにおいてフロート弁が閉じる液面の高さよりも高くすることができる。
【0057】
このように、カットオフバルブが閉じる液面Fの高さを高くできるということは、カットオフバルブが閉じるときの液面Fに対して、所定距離だけ下方の位置で閉じる必要がある満タン規制バルブの取付位置を、その分だけ高くすることができることを意味する。それによって、燃料が満タンとなる液面の高さを高くして、満タン時の液面から燃料タンクTの上面内周との距離D3を小さくすることができるので、燃料タンクに充填できる燃料の満タン量を増大させることができる。
【0058】
なお、フロート弁40が閉じた状態から、燃料液面が下降してフロート弁40が浸漬されなくなると、フロート弁40は自重により下降して、弁座17から弁頭45が離れて、連通口16が再び開くと共に、フロート弁40が図3に示す初期位置に復帰するようになっている。
【0059】
このとき、この弁装置1においては、フロート弁40が下降した状態で摩擦付与手段が作用し、フロート弁40が上昇して連通口16を閉塞している状態では、摩擦付与手段は作用しないように構成されているので、燃料液面が降下すると、フロート弁40の弁頭45が速やかに連通口16から離れて、開弁動作に支障をきたすことを防止することができる。
【0060】
また、この実施形態では、ハウジング5を構成する下部キャップ30の、底壁31の支持面を傾斜させた形状として、摩擦付与手段が構成されていて、フロート弁40及びハウジング5の側壁の形状を何ら変更するものではない。そのため、フロート弁40が上昇して連通口16を閉塞した後、燃料液面が通常の位置に戻って、フロート弁40が再び下降するときに、フロート弁40に摩擦抵抗を付与することなくスムーズに下降させることができる。
【0061】
また、フロート弁40の形状を変更しない場合には、フロート弁40の共用化を図ることができると共に、フロート弁40が重くなることを防止できるので、フロート弁40の上昇動作が過度に遅れることを抑制することが可能となる。
【0062】
一方、上記構造のフロート弁40を備える弁装置1が、燃料Fの外部への漏れを防ぐ、カットオフバルブとして機能するときは次のようになる。
【0063】
すなわち、車両が揺れず、燃料タンクT内の燃料Fの液面が傾かずに、フロート弁40が燃料に浸漬されておらず、弁座17から弁頭45が離れて、連通口16が開いた状態のときには、燃料タンクT内の燃料蒸気が、連通口16及び接続管22を介して、外部キャニスタに送られて、燃料タンク内の圧力の増大が抑制される。
【0064】
そして、車両が旋回したり大きく傾いたりして、燃料Fの液面が上昇して、フロート弁40に燃料Fが所定高さ以上浸漬すると、浮力及び付勢バネ50の付勢力によりフロート弁40が浮き上がって、連通口16が閉塞されるので、燃料Fが連通口16を通って通気室R2内へ流入することが阻止されて、燃料タンクTの外部への燃料Fの漏れを確実に防止することができる。
【0065】
なお、この弁装置1においては、摩擦付与手段によって、フロート弁上昇時に、摩擦抵抗が付与されるようになっているが、車両が旋回したり大きく傾いたりしたときには、多量の燃料Fが瞬時にフロート室R1内に流入するため、摩擦付与手段による摩擦力以上の強い浮力がフロート弁40に作用することになるので、閉弁タイミングの遅れを生じることはなく、カットオフバルブとしての機能が損なわれることはない。
【0066】
図6には、本発明のフロート弁装置の他の実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0067】
この実施形態のフロート弁装置1a(以下、「弁装置1a」という)は、フロート弁40をハウジング5の側壁に接触させるための、摩擦付与手段の構成が図1〜5に示す弁装置1と異なっている。
【0068】
すなわち、この実施形態では、下部キャップ30の支持突起33の中心C5を、下部キャップ30の中心C6から偏倚させ、この支持突起33に付勢ばね50の下端部を嵌合させることにより、付勢バネ50の軸心C4が、フロート室R1の軸心C1に対して偏心した構造をなしている。その結果、付勢バネ50により支持されるフロート弁40の重心位置がずれ、フロート弁40が図6の矢印G方向側に転び、フロート弁40の下方リブ44の下方部分Bと、この下方リブ44の周方向反対側に位置する下方リブ44の上方部分B´との二箇所が、ハウジング本体10の側壁11内周に接触するようになっている。
【0069】
この実施形態の弁装置1aでは、付勢バネ50の軸心C4を、フロート室R1の軸心C1に対してずらす構成が、本発明における摩擦付与手段をなしている。そして、この弁装置1aにおいても、フロート弁40上昇時に摩擦抵抗が生じて、フロート弁40の上昇タイミングを遅らせることができる。
【0070】
更に、摩擦付与手段による摩擦抵抗を向上させる手段としては、次のような構成を挙げることができる。すなわち、フロート弁40及び/又はハウジング5の側壁の、接触部分の表面荒さを所定値よりも大きくして、故意に荒い表面とすることにより、フロート弁40の上昇時の摩擦抵抗を向上させることができる。表面荒さを大きくする手段としては、表面に細かな模様を施す、いわゆるシボ加工等によって、荒い表面に形成することができる。表面荒さとしては、最大高さRyが25μm以上となるように形成することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明のフロート弁装置の一実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】同フロート弁装置を構成する下部キャップを示し、(a)はその斜視図、(b)は断面図である。
【図3】同フロート弁装置において、フロート弁が下降した状態を示す断面図である。
【図4】同フロート弁装置において、フロート弁が上昇する途中の状態を示す断面図である。
【図5】同フロート弁装置において、フロート弁が最大限上昇して、連通口を閉じた状態を示す断面図である。
【図6】本発明のフロート弁装置の他の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1,1a,1b フロート弁装置(弁装置)
5 ハウジング
10 ハウジング本体
11 側壁
14 側壁
15 隔壁
16 連通口
17 弁座
20 上部キャップ
30 下部キャップ
31 底壁
40 フロート弁
45 弁頭
R1 フロート室
R2 通気室
T 燃料タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁を介して、下方に燃料タンク内に連通するフロート室、上方にタンク外部に連通する通気室が設けられたハウジングと、
前記フロート室に上下昇降可能に配置されたフロート弁と、
前記フロート室と前記通気室とを連通するように前記隔壁に形成され、その下面周縁が、前記フロート弁が接離する弁座をなす連通口とを備え、
前記フロート弁が下降して、その底部が前記ハウジングの底壁に接触したとき、前記フロート弁を前記ハウジングの側壁に少なくとも一箇所で接触させる摩擦付与手段が設けられていることを特徴とするフロート弁装置。
【請求項2】
前記摩擦付与手段は、前記ハウジングの底壁の、前記フロート弁を支持する支持面を、同ハウジングのフロート室の軸心に対して所定角度で傾斜させることにより構成されている請求項2記載のフロート弁装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−100117(P2010−100117A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271871(P2008−271871)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000124096)株式会社パイオラックス (331)
【Fターム(参考)】