説明

フードロック装置

【課題】 自動車の前面衝突時にフロントフードの前部を所望の荷重で後退させて衝撃吸収ストロークを確保する。
【解決手段】 ロック装置18のベース部28を骨格部材17に支持するブラケット25は、骨格部材17に固定される一対の第1固定部31aと、ベース部28が固定される第2固定部31c,32aと、U字状に屈曲して両端が一対の第1固定部31aおよび第2固定部31c,32aに接続される金属板よりなる一対の変形部31bとを備えるので、フロントフードに加わった前面衝突の衝突荷重がベース部28に伝達されると、ブラケット25の変形部31bが塑性変形することで、ベース部28が後方に移動してフロントフードの衝撃吸収ストロークが確保される。このとき、変形部31bが塑性変形する荷重はボルトの締付トルクの影響を受けずに一定であるため、常に最適の荷重でフロントフードの前部を後方にストロークさせて衝突エネルギーの吸収効果を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンルームを開閉自在に覆うフロントフードの前部に下向きに突設したストライカを、車体の骨格部材に設けたロック装置で係止するフードロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントフードに歩行者が衝突した場合に、フロントフードが大きなストロークで圧壊して衝突エネルギーを吸収すれば、歩行者に加わる衝撃を軽減することができる。しかしながら、フロントフードを閉じた位置でロックすべく、フロントフードのストライカがバルクヘッド等の骨格部材に設けたロック装置に係止されているため、この部分でフロントフードの移動が拘束されてしまい、充分な衝撃吸収ストロークを確保できなくなる問題がある。
【0003】
そこで車体の骨格部材に設けたブラケットに前後方向の長孔を形成し、ロック装置のベース部を前記長孔にスライド可能にボルトで締結することで、衝突荷重の入力時にベース部を後方にスライドさせて衝撃吸収ストロークを確保するものが、下記特許文献1により公知である。
【0004】
またフロントフードには前方からの衝突荷重が加わるだけでなく、上方からの衝突荷重も加わるため、ブラケットの長孔を上下方向に形成することで、衝突荷重の入力時にベース部を下方にスライドさせて衝撃吸収ストロークを確保するものが、下記特許文献2により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−255635号公報
【特許文献1】特開2009−57708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1および特許文献2に記載された発明は、ブラケットにベース部を締結するボルトの締付トルクが強すぎると、衝突荷重が入力してもベース部がスライドできない可能性があり、逆に前記締付トルクが弱すぎると、フロントフードを閉じるときの衝撃でベース部が移動してしまう可能性があるため、ボルトの締付トルクの管理が難しいという問題があった。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、自動車の前面衝突時にフロントフードの前部を所望の荷重で後退させて衝撃吸収ストロークを確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、エンジンルームを開閉自在に覆うフロントフードの前部に下向きに突設したストライカを、車体の骨格部材に設けたロック装置で係止するフードロック装置において、前記ロック装置は、前記骨格部材の後面に固定されるブラケットと、前記ブラケットに固定されるベース部と、前記ベース部に移動可能に支持されて前記ストライカに係脱するフックとを備え、前記ブラケットは、左右方向両側に設けられて前記骨格部材に固定される一対の第1固定部と、左右方向中央に設けられて前記ベース部が固定される第2固定部と、U字状に屈曲して両端が前記一対の第1固定部および前記第2固定部に接続される金属板よりなる一対の変形部とを備えることを特徴とするフードロック装置が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記ブラケットは、左右一対の前記第2固定部の間に、前記骨格部材の後面に当接する当接部を有することを特徴とするフードロック装置が提案される。
【0010】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、前記第2固定部は前上方から後下方に傾斜することを特徴とするフードロック装置が提案される。
【0011】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項2または請求項3の構成に加えて、前記骨格部材の後面を切り起こして形成した係止爪が、前記当接部に形成したスリットに係合することを特徴とするフードロック装置が提案される。
【0012】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1〜請求項4の何れか1項の構成に加えて、前記一対の第1固定部、前記一対の変形部および前記第2固定部は一枚の金属板を屈曲して一体に形成されることを特徴とするフードロック装置が提案される。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、フロントフードに加わった前面衝突の衝突荷重は、ストライカから骨格部材に設けたロック装置に伝達される。ロック装置のブラケットは、左右方向両側に設けられて骨格部材に固定される一対の第1固定部と、左右方向中央に設けられてベース部が固定される第2固定部と、U字状に屈曲して両端が一対の第1固定部および第2固定部に接続される金属板よりなる一対の変形部とを備えるので、衝突荷重がロック装置のフックを経てベース部に伝達されると、第1固定部と第2固定部とを接続する変形部が塑性変形することで、ベース部が後方に移動してフロントフードの衝撃吸収ストロークが確保される。このとき、変形部が塑性変形する荷重はボルトの締付トルクの影響を受けずに一定であるため、常に最適の荷重でフロントフードの前部を後方にストロークさせて衝突エネルギーの吸収効果を高めることができる。
【0014】
また請求項2の構成によれば、ブラケットは左右一対の第2固定部の間に骨格部材の後面に当接する当接部を有するので、フロントフードを強く閉じたときの衝撃がベース部からブラケットに加わったとき、その衝撃を当接部から骨格部材に伝達することでブラケットの剛性を確保し、前記衝撃によるロック装置の下方への移動を防止することができる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、第2固定部は前上方から後下方に傾斜するので、フロントフードを強く閉じたときの下向きの荷重で第2固定部を前方に付勢して当接部を骨格部材に押し付け、ブラケットの上下方向の剛性を更に高めることができる。
【0016】
また請求項4の構成によれば、骨格部材の後面を切り起こして形成した係止爪がブラケットの当接部に形成したスリットに係合するので、フロントフードを強く閉じたときの衝撃を当接部から骨格部材に更に効果的に伝達することで、ブラケットの剛性を更に高めることができる。車両の前面衝突時には、係止爪が容易に変形してスリットから抜けるので、ブラケットの後方への変形を支障なく行わせることができる。
【0017】
また請求項5の構成によれば、ブラケットの一対の第1固定部、一対の変形部および第2固定部は一枚の金属板を屈曲して一体に形成されるので、部品点数を削減してコストダウンに寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】自動車の車体前部の斜視図。
【図2】図1の2−2線断面図。
【図3】図2の3−3線断面図。
【図4】図2の4方向矢視図。
【図5】図3の5方向矢視図。
【図6】自動車の前面衝突時の作用説明図。
【図7】図6の7−7線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1〜図7に基づいて本発明の実施の形態を説明する。尚、本明細書において、前後方向および左右方向とは、運転席に着座する乗員を基準として定義される。
【0020】
図1に示すように、フロントバンパー11、左右のフロントフェンダ12,12およびダッシュボード13に囲まれたエンジンルーム14がフロントフード15で開閉自在に覆われる。フロントフード15の前部下面にU字状のストライカ16が固定されており、エンジンルーム14に左右方向に配置された骨格部材であるバルクヘッド17の上部に設けたロック装置18にストライカ16を係止することで、フロントフード15が閉位置にロックされる。
【0021】
図2〜図5に示すように、フロントフード15はフードフレーム19の上面にフードスキン20を重ね合わせて周縁部で結合して構成されており、その前部内面にスチフナ21が溶接される。スチフナ21の後方のフードフレーム19に、ストライカ16が固定された板状のブラケット22が溶接される。
【0022】
バルクヘッド17は、前壁23aおよび下壁23bを有するL字状断面の第1部材23と、後壁24aおよび上壁24bを有するL字状断面の第2部材24とを溶接して四角形の閉断面に構成されており、その後壁24aにロック装置18のブラケット25が固定される。前記ブラケット25は、3枚の金属板を屈曲して構成されるもので、左右方向両側に設けられて第2部材24の後壁24aに固定される一対のアウター部材31,31と、左右方向中央に設けられて両アウター部材31,31を接続するインナー部材32とで構成される。
【0023】
各アウター部材31は、左右方向外側に設けられて第2部材24の後壁24aにボルト33,33およびナット34,34で固定される第1固定部31aと、第1固定部31aに連なる断面U字状の変形部31bと、変形部31bに連なる第2固定部31cとを一体に備える。一方、インナー部材32は、アウター部材31の各々の第2固定部31cにボルト35,35およびナット36,36で固定される左右一対の固定部32a,32aと、両固定部32a,32aから前方に突出して第2部材24の後壁24aに面接触する当接部32bとを一体に備える。アウター部材31,31の第2固定部31c,31cおよびインナー部材32の固定部32a,32aは、鉛直線Vに対して上部が前側に倒れるように傾斜している。
【0024】
ロック装置18は、前記ブラケット25に加えて、そのブラケット25を介してバルクヘッド17に支持されるベース部28と、ベース部28に支点ピン29を介して下端を枢支されたフック30とを備える。ベース部28は前壁、後壁および左右の側壁を有して上下面が解放した四角枠状の部材であり、前壁から左右方向に張り出す取付板28a,28aが、前記ボルト35…および前記ナット36…で、アウター部材31,31の第2固定部31c,31cおよびインナー部材32の固定部32a,32aに共締めされる。従って、ベース部28は左右のアウター部材31,31の左右一対の変形部31b,31bの間に挟まれるように配置される。
【0025】
バルクヘッド17の第2部材24の後壁24aには、切り起こしにより上向きに延びる2個の係止爪24c,24cが形成されており、これらの係止爪24c,24cがインナー部材32の当接部32bに形成した2個のスリット32c,32cに係合する。
【0026】
フロントフード15を閉じた状態で、その下面に設けたストライカ16がロック装置18のフック30に係合することで、フロントフード15が閉位置にロックされる。ロック装置18をロック解除すべく、車室内に設けた不図示のロック解除レバーとフック30とがケーブル37等の連結手段で連結される。
【0027】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0028】
車両が歩行者等の障害物に前面衝突してフロントフード15の前端に大腿部や腰部から後向きの衝突荷重が入力すると、図6に示すように、フロントフード15の前部が前後方向に座屈して衝突エネルギーが吸収される。このとき、フロントフード15の前部下面に設けたストライカ16が後方に移動し、その動きがロック装置18のフック30を介してベース部28に伝達される。
【0029】
ベース部28を支持するブラケット25は曲がり易い金属板よりなるアウター部材31,31およびインナー部材32で構成されており、特に一対のアウター部材31,31は後方にU字状に突出する一対の変形部31b,31bを備えるので、衝突荷重でベース部28が後方に押されると、図6および図7に示すように、変形部31b,31bが後方に延びるように変してベース部28が後方に移動し、ベース部28にフック30を介して係合するストライカ16が後方へ大きなストロークで移動することが可能となり、前方からの衝突に対する衝撃吸収性能が高められる。
【0030】
またフロントフード15を強く閉じたときに ストライカ16からフック30を介してベース部28に下向きの荷重が入力されるが、金属板よりなるブラケット25は水平方向に屈曲しているため、上下方向の荷重に対しては比較的に高い剛性を示し、フロントフード15を閉じる衝撃を確実に受け止めることができる。しかもベース部28が固定されるアウター部材31,31の第2固定部31c,31cおよびインナー部材32の固定部32a,32aは、鉛直線Vに対して上部が前側に倒れるように傾斜しており、当接部32bはフロントフード15を閉じる下向きの荷重でバルクヘッド17の第2部材24の後壁24aに押し付けられるため、その衝撃を更に確実に受け止めることができる。
【0031】
更に、ブラケット25の当接部32bに形成したスリット32c,32cが、バルクヘッド17の第2部材24の後壁24aに形成した係止爪24c,24cに係合しているため、フロントフード15を閉じる下向きの荷重をバルクヘッド17で一層確実に受け止め、ベース部28の位置が下方にずれるのを防止してフロントフード15を閉位置に確実に保持することができる。尚、ベース部28に後向きの衝突荷重が入力したとき、前記係止爪24c,24cは容易に曲がってブラケット25の当接部32bのスリット32c,32cから抜けるため、変形部31b,31bの後方への変形およびベース部28の後方への移動が阻害されることはない。
【0032】
以上のように、本実施の形態によれば、前方からの衝突荷重の入力に対してブラケット25の変形部31b,31bが変形する荷重の大きさが、ボルトの締付トルクの影響を受けずに一定であり、かつブラケット25の板厚や形状によって任意に設定可能であるため、常に最適の荷重でフロントフード15の前部を後方にストロークさせて衝突エネルギーの吸収効果を高めることができる。
【0033】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0034】
例えば、本発明の骨格部材は実施の形態のバルクヘッド17に限定されるものではない。
【0035】
また実施の形態では、ブラケット25が一対のアウター部材31,31およびインナー部材32の三つの部材で構成されているが、それら三つの部材を1枚の金属板で構成しても良く、これにより部品点数を削減することができる。
【符号の説明】
【0036】
14 エンジンルーム
15 フロントフード
16 ストライカ
17 バルクヘッド(骨格部材)
18 ロック装置
24c 係止爪
25 ブラケット
28 ベース部
30 フック
31a 第1固定部
31b 変形部
31c 第2固定部
32a 固定部(第2固定部) 32b 当接部
32c スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルーム(14)を開閉自在に覆うフロントフード(15)の前部に下向きに突設したストライカ(16)を、車体の骨格部材(17)に設けたロック装置(18)で係止するフードロック装置において、
前記ロック装置(18)は、前記骨格部材(17)の後面に固定されるブラケット(25)と、前記ブラケット(25)に固定されるベース部(28)と、前記ベース部(28)に移動可能に支持されて前記ストライカ(16)に係脱するフック(30)とを備え、 前記ブラケット(25)は、左右方向両側に設けられて前記骨格部材(17)に固定される一対の第1固定部(31a)と、左右方向中央に設けられて前記ベース部(28)が固定される第2固定部(31c,32a)と、U字状に屈曲して両端が前記一対の第1固定部(31a)および前記第2固定部(31c,32a)に接続される金属板よりなる一対の変形部(31b)とを備えることを特徴とするフードロック装置。
【請求項2】
前記ブラケット(25)は、左右一対の前記第2固定部(31c,32a)の間に、前記骨格部材(17)の後面に当接する当接部(32b)を有することを特徴とする、請求項1に記載のフードロック装置。
【請求項3】
前記第2固定部(31c,32a)は前上方から後下方に傾斜することを特徴とする、請求項2に記載のフードロック装置。
【請求項4】
前記骨格部材(17)の後面を切り起こして形成した係止爪(24c)が、前記当接部(32b)に形成したスリット(32c)に係合することを特徴とする、請求項2または請求項3に記載のフードロック装置。
【請求項5】
前記一対の第1固定部(31a)、前記一対の変形部(31b)および前記第2固定部(31c,32a)は一枚の金属板を屈曲して一体に形成されることを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のフードロック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−153297(P2012−153297A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15333(P2011−15333)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】