説明

ブラダー用ゴム組成物及びブラダー

【課題】ブラダーの長寿命化を充分に達成できるブラダー用ゴム組成物、及びそれを用いて作製したブラダーを提供する。
【解決手段】ゴム成分、並びに、酸化亜鉛とエチレンプロピレンジエン共重合体及び/又はブチル系ゴム(A)とを混合して得られるマスターバッチを含むブラダー用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラダー用ゴム組成物、及び、それを用いたブラダーに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの製造工程では、各部材を成型して作製したグリーンタイヤに加硫工程を施すことでゴム弾性を持つ加硫ゴム構造体が製造されている。加硫工程においては、一般に、モールドをジャケットタイプの熱盤に取り付けてタイヤの外面から加熱するとともに、袋状の形状をしたブラダーをタイヤの内部に挿入し、水蒸気などを圧入して内面から加熱される。
【0003】
タイヤの内面からの加熱において、ブラダーは、水蒸気中の酸素や、タイヤ加硫時に発生する硫化水素や硝酸などの有害酸性物質により、酸化劣化やポリマー分解が進行する。また、タイヤから離れるたびにブラダーは高温状態のまま空気に晒されるため、これによってもブラダー外部は酸化劣化が進行する。
【0004】
一方ブラダーには、このような有害酸性物質の吸着剤として機能し、ブラダーの寿命を向上させる役割を担う酸化亜鉛が通常配合されている。寿命を向上させるには、酸化亜鉛の分散性を向上させることが重要であるが、バンバリーなどを用いる通常の混練方法などでは、充分な分散性が得られず、吸着剤としての機能が充分に発揮されているとはいえなかった。また、凝集した酸化亜鉛が破壊核となり、クラックの原因ともなっていた。
【0005】
特許文献1には、多量の硫黄を配合することにより、酸化亜鉛の凝集を防止し、ブラダーの寿命を延ばすブラダー用ゴム組成物について開示されている。しかし、ブラダーの長寿命化については、未だ改善の余地を残すものである。特許文献2には、微粒子酸化亜鉛を配合したトレッドゴム組成物について開示されているが、微粒子酸化亜鉛の分散が充分でなく、やはりブラダーの長寿命化については、未だ改善の余地を残すものである。また、ブラダー用ゴム組成物への適用についても、検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−75891号公報
【特許文献2】特開2008−101127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、ブラダーの長寿命化を充分に達成できるブラダー用ゴム組成物、及びそれを用いて作製したブラダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ブラダーの長寿命化を目的として様々な試みを行った結果、酸化亜鉛とエチレンプロピレンジエン共重合体及び/又はブチル系ゴム(A)とを混合して得られるマスターバッチを使用することにより、酸化亜鉛の凝集力を低下して酸化亜鉛の分散性を向上でき、ブラダーの長寿命化を充分に達成できることを見出した。
すなわち、本発明は、ゴム成分、並びに、酸化亜鉛とエチレンプロピレンジエン共重合体及び/又はブチル系ゴム(A)とを混合して得られるマスターバッチを含むブラダー用ゴム組成物に関する。
【0009】
上記マスターバッチは、上記酸化亜鉛100質量部に対して、上記エチレンプロピレンジエン共重合体及び上記ブチル系ゴム(A)の合計含有量が10〜180質量部であることが好ましい。
【0010】
上記マスターバッチは、更にエチレン酢酸ビニル共重合体を混合して得られることが好ましい。
【0011】
上記ゴム成分100質量部に対して、上記マスターバッチ由来の酸化亜鉛の含有量が0.5〜10質量部であることが好ましい。
【0012】
上記ゴム成分100質量%中、ブチル系ゴム(B)の含有量が90〜100質量%、クロロプレンゴムの含有量が0〜10質量%であることが好ましい。
【0013】
上記マスターバッチは、更に架橋樹脂を混合して得られることが好ましい。
【0014】
本発明はまた、上記のゴム組成物を用いて作製したブラダーに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特定のマスターバッチを含むブラダー用ゴム組成物であるので、ブラダーの長寿命化を充分に達成できる。その結果、タイヤ製造時におけるブラダーの交換回数を減らすことが可能となり、タイヤ製造の生産性を高めることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のブラダー用ゴム組成物は、ゴム成分、並びに、酸化亜鉛とエチレンプロピレンジエン共重合体及び/又はブチル系ゴム(A)とを混合して得られるマスターバッチ(MB)を含む。
【0017】
〔マスターバッチ〕
先ず、マスターバッチについて以下説明する。
上記マスターバッチは、酸化亜鉛とエチレンプロピレンジエン共重合体及び/又はブチル系ゴム(A)とを混合して得られるものである。
【0018】
酸化亜鉛としては、ゴム工業で従来から使用される酸化亜鉛(三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛など)や、平均一次粒子径が200nm以下の微粒子酸化亜鉛(ハクスイテック(株)製のジンコックスーパーF−1など)などがあげられる。なかでも、ブラダーの寿命を充分に改善できるという理由から、微粒子酸化亜鉛が好ましい。
【0019】
微粒子酸化亜鉛の平均一次粒子径は、好ましくは200nm以下、より好ましくは130nm以下である。酸化亜鉛の平均一次粒子径は、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上である。上記範囲内であると、ブラダーの寿命を充分に改善できる。
なお、本発明において、平均一次粒子径は、窒素吸着によるBET法により測定した比表面積から換算された平均粒子径(平均一次粒子径)を表す。
【0020】
エチレンプロピレンジエン共重合体(EPDM)とは、エチレンとプロピレンとの共重合体であるエチレン−プロピレンゴムに比較的少量の第3成分を導入し、ポリマー分子中に二重結合をもたせたものである。なお、EPDMは、ガス透過性、スチームに対する耐劣化性の観点からはブチル系ゴムに劣る一方で、ブチル系ゴムと同様に2重結合が極めて少なく、老化、オゾン、薬品耐久性に優れる。
【0021】
第3成分の例としては、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエンなどが挙げられる。
【0022】
EPDMの市販品として、例えば住友化学(株)製エスプレンEPDMシリーズ、JSR(株)製EP96などを好適に使用できる。
【0023】
ブチル系ゴム(A)としては、たとえば、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)などのハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、ブチルゴム(IIR)(以下、ハロゲン化ブチルゴムと区別して、非ハロゲン化ブチルゴムともいう)などがあげられる。これらのブチル系ゴム(A)は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、高い耐熱性を有する点から、非ハロゲン化ブチルゴムが好ましい。
【0024】
非ハロゲン化ブチルゴム中のイソプレンの含有量は、3モル%以下が好ましく、2モル%以下がより好ましい。3モル%を超えると、ブラダーの耐熱性が低下し、ブラダーライフ向上の効果が得られ難いおそれがある。非ハロゲン化ブチルゴム中のイソプレンの含有量は、0.5モル%以上が好ましく、0.7モル%以上がより好ましく、1モル%以上が更に好ましい。0.5モル%未満であると、架橋によるゴム強度の向上が不足して、ブラダーライフを低下させるおそれがある。
【0025】
なお、ブチル系ゴム(A)には、通常2重結合部位が0.5%以下しかなく、架橋を行っても、架橋数は極めて少なくなる。ブチル系ゴム(A)は、通常、イソブチレンとイソプレンモノマーを混合し、反応させることにより製造できる。
【0026】
上記マスターバッチは、更にエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を混合して得られるものが好ましい。上記EVAを使用することにより、酸化亜鉛の分散性を改善でき、充分なブラダーの寿命が得られる。また、マスターバッチのグラニュール化(固形化)や、自動計量を可能にし、充分なハンドリング性も得られる。マスターバッチにおいてEVAをEPDMと併用することで特に優れた寿命の改善効果が得られる。
【0027】
上記マスターバッチは、更に架橋樹脂を混合して得られるものが好ましい。これにより、酸化亜鉛の分散性を向上でき、また上記マスターバッチ中の酸化亜鉛により適度な練りトルクが発生し、架橋樹脂自体の分散性も向上できる。このため、充分なブラダーの寿命が得られる。
【0028】
架橋樹脂としては、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂などがあげられる。アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂の種類については特に制限はないが、耐熱性に優れるという点から、ハロゲン化されていない非ハロゲン化のものが好ましい。アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂中のメチロール基の含有量は、通常、7〜10質量%である。
【0029】
上記マスターバッチの作製方法としては、前記成分を混合(混練)可能な方法であれば特に限定されず、たとえば、EPDM及びブチル系ゴム(A)、必要に応じてEVAを素練りする工程と、得られた混練物及び酸化亜鉛、必要に応じて架橋樹脂を混練する工程とを行い、マスターバッチを調製する方法が挙げられる。
【0030】
上記素練り方法、混練り方法は、従来公知の方法を特に限定されることなく使用でき、例えば、バンバリーミキサーなどの密閉式混練機、ニーダー、オープンロールなどを好適に用いることができる。
【0031】
マスターバッチの作製において、上記素練り条件は通常80〜200℃、3〜10分である。また、上記混練り条件は通常120〜200℃、3〜10分である。これにより、本発明の効果が良好に得られる。
【0032】
(マスターバッチの組成)
EPDM及びブチル系ゴム(A)の合計含有量は、マスターバッチ中の酸化亜鉛100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。該含有量が10質量部未満では、練りトルクが発生し難く、酸化亜鉛の分散が悪く、また、所定のマスターバッチに用いるバインダー(EPDM及びブチル系ゴム(A))量が少な過ぎ、ブラダーライフ低下の原因となるおそれがある。また、該含有量は、好ましくは180質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。180質量部を超えると、酸化亜鉛の分散が不十分となり、ブラダーライフを低下させるおそれがある。
【0033】
なお、EPDM及びEVAを併用する場合、これらの合計含有量は、マスターバッチ中の酸化亜鉛100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。該含有量は、好ましくは180質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。該合計含有量が上記範囲内であると、酸化亜鉛の分散性を充分に向上でき、かつ、バインダーの量を適量化でき、本発明の効果が良好に得られる。
なお、マスターバッチ中に多量のバインダーが配合されると、ブチルゴムより性能が劣り、かつ、仕上げ練りにおいて、ゴム組成物に通常配合されるカーボンブラックがバインダーに充分に入らないため、補強面で問題となるおそれがある。
【0034】
上記併用する場合、EVA含有量は、分散性などを考慮して適宜設定すればよいが、EPDM及びEVAの合計量100質量%中、好ましくは3質量%以上である。また、EVA含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。該含有量が、上記範囲外であると、EVAによる酸化亜鉛の分散性向上効果が充分に得られないおそれがある。
【0035】
なお、本明細書において、本発明のマスターバッチ中のポリマー成分(EPDM、ブチル系ゴム(A)、EVA、架橋樹脂など)は、ゴム成分(ブチル系ゴム(B)、クロロプレンゴムなど)と区別される概念である。
【0036】
本発明のゴム組成物に含まれる酸化亜鉛100質量%中、マスターバッチ中に使用する割合は、酸化亜鉛の分散性向上の観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
【0037】
また、本発明のゴム組成物中の酸化亜鉛の含有量は、後述するゴム成分(マスターバッチとは別に配合されるゴム成分)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。該含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。該含有量が上記範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる。
【0038】
上記マスターバッチとは別に配合するゴム成分としては、ブチル系ゴムなどの非ジエン系ゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合ゴム(SIBR)などのジエン系ゴムなどを配合できる。なかでも、ブラダーゴムの耐劣化(酸化分解)性、耐亀裂性、耐薬品性や加硫速度を総合的に確保する点からブチル系ゴム(B)とCRの併用が好ましい。
【0039】
上記ブチル系ゴム(B)(上記マスターバッチとは別に配合されるブチル系ゴム)としては特に限定されず、上記ブチル系ゴム(A)と同様のものを好適に使用できる。
【0040】
ゴム成分100質量%中のブチル系ゴム(B)の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは92質量%以上である。90質量%未満では、ゴム組成物の耐熱性、耐劣化性、耐亀裂性、耐薬品性が低下し、ブラダーの寿命を向上できないおそれがある。また、ブチル系ゴムの含有量は、100質量%であってもよいが、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。97質量%をこえると、ブラダーとして必要な硬さ、引張り強さを保つことが困難となるおそれがある。
【0041】
CRを配合する場合、ゴム成分100質量%中のCRの含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上である。1質量%未満では、ブラダーに必要な剛性を保つことが困難となるおそれがある。また、該含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下である。10質量%をこえると、ブチル系ゴムの含有量が低下し、充分な耐熱性が得られないおそれがある。
なお、該含有量が3質量%以下の場合、架橋樹脂による架橋が緩くなるため、ブチル系ゴム(A)と架橋樹脂とを含むマスターバッチを使用することが好ましい。
【0042】
本発明のゴム組成物は、通常、上記マスターバッチとは別に、更に架橋樹脂を含む。これにより本発明の効果が良好に得られる。該架橋樹脂としては特に限定されず、上記マスターバッチにおける架橋樹脂と同様のものを好適に使用できる。
【0043】
上記マスターバッチに含まれる架橋樹脂及び他の架橋樹脂の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。該含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。該含有量が上記範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる。
【0044】
なお、上記マスターバッチに含まれる架橋樹脂及び他の架橋樹脂の合計100質量%中のマスターバッチに含まれる架橋樹脂の含有量は、好ましくは10〜100質量%である。該含有量が上記範囲内であると、本発明の効果が良好に得られる。
【0045】
本発明のゴム組成物は、通常、カーボンブラックを含む。使用できるカーボンブラックとしては、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられるが、特に限定されない。カーボンブラックを配合することにより、補強性を高めることができる。
【0046】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは40m/g以上、より好ましくは60m/g以上である。40m/g未満では、補強力が不充分であり、ブラダーライフが低下しやすくなるおそれがある。また、該カーボンブラックのNSAは、好ましくは120m/g以下、より好ましくは100m/g以下である。120m/gを超えると、フィラーを分散させ難く、耐亀裂性(耐久性)が低下することや局部的に硬くなることがあり、ブラダーライフが低下するおそれがある。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0047】
カーボンブラックを配合する場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。40質量部未満では、充分な補強性が得られ難いおそれがある。また、カーボンブラックの含有量は、好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。80質量部を超えると、フィラーを分散させ難く、耐亀裂性(耐久性)が低下することや局部的に硬くなることがあり、ブラダーライフが低下するおそれがある。
【0048】
本発明のブラダー用ゴム組成物は、前記成分のほかに、オイル、老化防止剤、離型剤、ステアリン酸、無機充填剤(ホワイトカーボン、シリカ、活性化炭酸カルシウム、タルク、アルミナなど)、有機補強剤(ハイインパクトスチレン樹脂、クマロンインデン樹脂、フェノール樹脂、リグニン、変性メラミン樹脂、石油樹脂など)、耐熱性向上剤、難燃剤、熱伝導付与剤などを添加することができる。
【0049】
本発明のゴム組成物には、オイルを配合することが好ましい。オイルを配合することにより、加工性を改善するとともに、ゴムの強度を高めることができる。オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物を用いることができる。なかでも、揮発し難く、ブラダー表面にブリードし、タイヤカバーとの密着を防止する点から、植物油脂、ひまし油が好適に用いられる。
【0050】
本発明のゴム組成物がオイルを含有する場合、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。0.5質量部未満では、加硫後にブラダーとタイヤカバーとの密着が発生しやすくなるおそれがある。また、オイルの含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下である。10質量部を超えると、ブチルゴムの比率が低下し、ブラダーライフが低下する傾向となる。
【0051】
老化防止剤として、例えば、耐熱性を高めるフェノール系老化防止剤(モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤)等が好適に用いられる。
【0052】
本発明のゴム組成物には、離型剤を配合することが好ましい。これにより、架橋樹脂を使用した場合に、バンバリー内への架橋樹脂が付着することを抑制できる。離型剤としては、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物などを好適に使用できる。ここで、離型剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0053】
本発明のブラダー用ゴム組成物は、上記ゴム成分、マスターバッチ、他の成分(カーボンブラックなど)を混合することにより調製でき、例えば、以下の方法で製造できる。
【0054】
まず、混練り工程について説明する。本実施形態の混練り工程は、ベース練り工程、仕上げ練り工程により構成される。混練り工程では、例えば、混練機を用いて、前記成分が混練りされる。混練機としては従来公知のものを使用でき、例えば、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどが挙げられる。
【0055】
<ベース練り工程>
ベース練り工程は、例えば、混練機を用いて、前記成分のうち、マスターバッチ、架橋樹脂及び離型剤以外の成分(ブチル系ゴム、カーボンブラック、オイル、クロロプレンゴム、老化防止剤等)が混練りされる。
ベース練り工程は、使用するカーボンブラックの分散性確保とブチル系ゴムよりも耐熱性に劣る他のゴム(例えば、クロロプレンゴム)の熱分解を抑制するという理由から、以下の2工程(第1ベース練り工程、第2ベース練り工程)に分けて行うことが好ましい。
【0056】
<第1ベース練り工程>
第1ベース練り工程は、例えば、混練機を用いて、ブチル系ゴム、カーボンブラック、オイル等の成分が混練りされる。
第1ベース練り工程では、混練り開始時の温度が10〜40℃の配合ゴムを150〜180℃になるまで混練りすることが好ましい。150℃未満であると、カーボンブラックの分散性の確保が困難になるおそれがある。一方、180℃を超えると、カーボンブラックによるゲル化現象が発生して、練りゴムシートのまとまりが低下するおそれがある。
【0057】
<第2ベース練り工程>
第2ベース練り工程では、例えば、混練機を用いて、第1ベース練り工程で混練りして得られた配合ゴムに、クロロプレンゴム、老化防止剤等の成分を更に添加して混練りされる。第2ベース練り工程では、混練り開始時の温度が10〜40℃の配合ゴムを120〜140℃になるまで混練りすることが好ましい。120℃未満であると、クロロプレンゴムの分散性の確保が困難になり、また、ブラダーゴムの均質性が低下してブラダーライフが低下するおそれがある。一方、140℃を超えると、クロロプレンゴムの熱分解が進行し、ブラダーライフが低下する傾向にある。
【0058】
<仕上げ練り工程>
仕上げ練り工程では、例えば、混練機を用いて、第2ベース練り工程で混練りして得られた配合ゴムに、上記マスターバッチ、必要に応じて架橋樹脂、離型剤などの成分を更に添加して混練りされる。なお、本発明では、上記マスターバッチを使用するため、微分散が困難な微粒子酸化亜鉛を用いる場合でも、上記仕上げ練り工程を複数回行わずに、該微粒子酸化亜鉛を充分に分散できる。このため、効率的な超寿命ブラダー用ゴム組成物の生産が可能である。
【0059】
上記仕上げ練り工程では、混練り開始時の温度が常温の配合ゴムを90〜105℃になるまで混練りすることが好ましい。90℃未満であると、酸化亜鉛の均一拡散性が不充分となるおそれがあり、一方、105℃を超えると、架橋反応が開始してしまうおそれがある。
また、上記仕上げ練り工程では、酸化亜鉛の分散性と架橋反応の防止の点から、混練機の回転数を20〜45rpmとすることが好ましい。
【0060】
<架橋反応工程>
以上の混練り工程を行った後、架橋反応工程を行うことにより本発明のブラダー用ゴム組成物が得られる。上記架橋反応工程は、例えば、上記仕上げ練り工程により得られたゴム組成物(未架橋ゴム組成物)を170〜210℃で30〜240分間架橋反応を行うことにより実施できる。
【0061】
本発明のゴム組成物は、タイヤ製造のためのブラダーとして好適に使用できる。
上記ブラダーは、上記未架橋ゴム組成物を用いて押出し機により押出し成形し、ブラダーの形状に成形した後、架橋反応を行うことで製造できる。
【実施例】
【0062】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0063】
以下で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
ブチルゴム268:エクソンモービル化学社製のBUTYL268(イソプレンの含有量1.7モル%)(非ハロゲン化ブチルゴム)
ブチルゴム065:エクソンモービル化学社製のBUTYL065(イソプレンの含有量1.05モル%)(非ハロゲン化ブチルゴム)
クロロプレンゴム:昭和電工(株)製のネオプレンW
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN330(NSA:75m/g)
ひまし油:豊国製油(株)製の工業用1号ヒマシ油
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラックNS−5(2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール))
離型剤:ストラクトール(株)製のWB16(脂肪酸金属塩(脂肪酸カルシウム)と脂肪酸アミドとの混合物)
架橋樹脂:田岡化学工業(株)製のタッキロール201(アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂)
酸化亜鉛(1):三井金属鉱業(株)製の亜鉛華2種(平均一次粒子径:270nm)
酸化亜鉛(2):ハクスイテック(株)製の超微粒子酸化亜鉛F−1(平均一次粒子径:100nm)
EPDM:住友化学(株)製のエスプレンEPDM301A
EVA:住友化学(株)製のエバテートEVA
なお、MB1〜2におけるEPDM/EVA(配合比)は、1/1(質量比)であった。
【0064】
(製造例)
(MBの調製)
表2に示す配合処方にしたがい、バンバリーミキサーを用いて、EPDM、EVA、IIRの各材料を投入して素練りし、約100℃付近に加温した後、酸化亜鉛、必要に応じて架橋樹脂を小分けにして投入し、排出温度約130℃になるよう混練し、マスターバッチを得た。
【0065】
(比較例)
表1に示す配合内容にしたがって、240Lのバンバリーミキサーを用いて、充填率70%にて、まず非ハロゲン化ブチルゴム(ブチルゴム065及びブチルゴム268)、カーボンブラック、ひまし油を160℃になるまで(混練り開始時の温度30℃)混練りした。冷却後クロロプレンゴム、老化防止剤を加え、30℃から130℃になるまで混練りした。さらに冷却後、酸化亜鉛、架橋樹脂を加えて、30℃から100℃になるまで混練りした(第1仕上げ練り工程)。次いで、混練物を一旦30℃まで冷却後(冷却工程)、再度バンバリーミキサーに投入し、100℃になるまで練り上げ(第2仕上げ練り工程(リミル))、未架橋ゴム組成物を得た。
【0066】
(実施例)
表2に示す配合内容にしたがって、第1仕上げ練り工程において酸化亜鉛を加える代わりに、上記製造例で得られたマスターバッチ、離型剤、架橋樹脂を加え、冷却工程及び第2仕上げ練り工程(リミル)を行わなかった点以外は、比較例と同様の条件で、未架橋ゴム組成物を得た。
【0067】
得られた未架橋ゴム組成物をブラダーの形状に成形し、200℃、30分間架橋反応を行うことにより、ブラダー(タイヤサイズ:195/65R15、ブラダーストレッチ(ペリフェリ:1.08、サーカム:1.25)、ブラダーゲージ:5mm)を作製した。
【0068】
得られたブラダーを、タイヤ成形(180℃、12分のタイヤ加硫条件)に使用し、使用回数が600〜1000回まで50回使用毎にブラダーゴム内部の熱劣化による層状剥離(ラミネーション)現象の発生の有無を観察し、観察した結果、ブラダーゴム内部の状態がラミネーションが成長し、長さが5mm以上となっている場合に、当該使用回数をブラダー寿命回数とした。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
上記マスターバッチを使用した実施例は、比較例に比べ、ブラダー寿命回数を向上させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分、並びに、酸化亜鉛とエチレンプロピレンジエン共重合体及び/又はブチル系ゴム(A)とを混合して得られるマスターバッチを含むブラダー用ゴム組成物。
【請求項2】
前記マスターバッチは、前記酸化亜鉛100質量部に対して、前記エチレンプロピレンジエン共重合体及び前記ブチル系ゴム(A)の合計含有量が10〜180質量部である請求項1記載のブラダー用ゴム組成物。
【請求項3】
前記マスターバッチは、更にエチレン酢酸ビニル共重合体を混合して得られる請求項1又は2記載のブラダー用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ゴム成分100質量部に対して、前記マスターバッチ由来の酸化亜鉛の含有量が0.5〜10質量部である請求項1〜3のいずれか記載のブラダー用ゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム成分100質量%中、ブチル系ゴム(B)の含有量が90〜100質量%、クロロプレンゴムの含有量が0〜10質量%である請求項1〜4のいずれか記載のブラダー用ゴム組成物。
【請求項6】
前記マスターバッチは、更に架橋樹脂を混合して得られる請求項1〜5のいずれか記載のブラダー用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載のゴム組成物を用いて作製したブラダー。

【公開番号】特開2012−92243(P2012−92243A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241398(P2010−241398)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】