説明

ブレーキ装置

【課題】本発明は、被規制部の動作の規制を解除する入力値が変化することを抑制できるブレーキ装置を提供する。
【解決手段】ブレーキ装置30では、ドア11の開動作に合わせて繰り出されるワイヤ34に伴って回転するプーリ35の回転がスプリングクラッチ装置37に伝達される。プーリ35の回転が伝達されると、クラッチスプリング48が締め付けられることによって、固定部46と回転子47とがともに回転する。クラッチスプリング48の一端には、解除レバー62が設けられている。回転子47と固定部46とが所定角度回転すると、解除レバー62は、ブレーキ解除用アーム39に当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用ドアの開動作規制装置に用いられるブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車ドアは、ヒンジによって車体に取り付けられる。ドアの開閉動作は、ヒンジを中心とした旋回によって行われる。それゆえ、ドアの開動作時にはその開度に応じてドアは、車体の外側に突出することになる。このため、このドアの開動作時のドア突出領域に隣接する車両などの障害物があると、ドアがこの障害物に当たってしまうことが考えられる。
【0003】
そこで、従来、自動車ドアには、ドアチェッカが装備されている。ドアチェッカは、ドアを、最大に開いた全開状態(全開位置)と途中まで開いた半開状態(中間保持位置)とに停止させる機能を有している。
【0004】
ドアチェッカは、アームと、摺動部材とを備えている。アームの基端は、車体側のドアヒンジ部分の近傍に揺動自在に取り付けられている。アームの先端には、ストッパが設けられている。摺動部材は、ドア側に設けられており、アームに対して相対的に摺動するスライドを有する。アームの中間部の周面には、縮径部分が設けられている。ドアは、スライダが縮径部分において大きな摺動抵抗を受けるので、中間保持位置に保持されるようになる。
【0005】
この中間保持位置について説明する。ドアの全閉位置と全開位置との間には、中間保持位置が設定されている。スライダのアームに対する摺動抵抗が中間保持位置の前後で増大するため、間保持位置近傍でのドアの開閉操作に必要な操作トルクは、大きくなる。
【0006】
このような中間保持位置を設けることにより、中間保持位置まで開いた状態ではドアを手で保持しなくてもドア操作者の意図に反してドアが開いてしまうことを防止することができるので、ドアの半開状態を維持することができるようになる。
【0007】
中間保持位置の個数や位置(ドア開度)あるいは中間保持位置からドアを開閉させるための操作トルクなどの設定は、ドアチェッカのアームの形状やスライダのアームに対する押圧力により決定されている。
【0008】
ところが、中間保持位置は、ドアチェッカの構造上の条件(例えばアーム長を大きくすることができず、中間保持位置のための屈曲部を多く形成できないなどの理由)によって、1,2箇所程度しか設けることができない。それゆえ、例えば狭い駐車場など、自車両と隣接する他車両などの障害物との距離が小さい場合には、ドアを中間保持位置まで開動作させる前にドアと障害物とが接触してしまうことが考えられる。
【0009】
このように障害物までの距離が近い場合には、ドアをドア中間保持位置まで開動作させることができないため、ドアの障害物への接触を避けるためには、ドア操作者などが手などでドアを保持し続ける必要がある。ドア操作者がドアを手などで保持し続けることは、大きな負担になる。
【0010】
しかしながら、当該操作トルクを小さくすると、つまり中間保持位置での保持力を小さくすると、風による風圧や路面の傾斜などによりドアの自重がドアに加わることで、中間保持位置における保持力を上回る力がドアに作用して、ドアが中間保持位置から開動作してしまうことが考えられる。それゆえ、中間保持位置近傍での保持力を小さくすることは、好ましくない。
【0011】
これにたいし、中間保持位置近傍でのドアの操作トルクを大きく設定すると、ドアを中間保持位置からさらに大きく開く場合や中間保持位置から閉める場合に、操作者に大きな負担となる。それゆえ、中間保持位置近傍でのドアの操作トルクを大きくすることは、好ましくない。
【0012】
一方、センサを用いてドアの開動作をロックするブレーキ装置が提案されている。この主のブレーキ装置では、ドアの開動作に支障が生じるような障害物がセンサにより検出される。また、ドアのヒンジ部分にモータやストッパ杆を備える機構を設ける。
【0013】
障害物が検出された場合には、モータを駆動してストッパ杆を当接させることにより、ドアの開動作がロックされる。このような機構によって、障害物を検知した場合にドアの開動作を任意のタイミング(つまり、無段階)で規制することができる。(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平8−128261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術では、ドアを開らく際の操作トルクが大きい場合では、ドアの開動作が規制された際の衝撃によって、当該ドアの開動作を規制する構造(特許文献1の構造では、モータとストッパ杆)に負担がかかる。さらに、これら開動作を規制する構造が組みつけられるドアのパネル(インナパネルやアウタパネル)は薄いので、上記衝撃によって、ドアが変形してしまうことが考えられる。
【0015】
これに対し、ドアの開動作を規制する際に、ドアの操作トルク(入力値)が所定値よりも大きい場合は、ドアの開動作を完全に止めないようにすることが考えられる。しかしながら、この場合、ドアの開動作を完全に止めないようにする機構内に生じる例えば各部品間の摩擦などによって、各部品間に磨耗が生じ、それゆえ、上記所定値が変化することが考えられる。
【0016】
このように、ドアなどの被規制部の動きを規制するブレーキ装置において、当該被規制部の動作の規制を解除するための入力値が変化することは、好ましくない。
【0017】
したがって、本発明の目的は、被規制部の動作の規制を解除する入力値が変化することを抑制できるブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のブレーキ装置は、設置部に固定されるとともに、当該設置部に対して相対的に変位する被規制部の動作を規制する。前記ブレーキ装置は、ワイヤと、プーリと、スプリングクラッチ装置と、伝達機構と、解除レバーと、ブレーキ解除用アームとを備える。前記ワイヤは、前記被規制部側に一端部が固定される。前記プーリは、前記ワイヤの他端部が固定されるとともに前記ワイヤが巻き付けられ、前記被規制部の変位に連動して前記ワイヤを繰り出す。前記スプリングクラッチ装置は、回転軸と、前記回転軸周りに回動自由であるとともに弾性部材を介して前記回転軸に対する姿勢が保持される固定部と、前記固定部と隣り合うとともに前記回転軸周りに回動自由に設置されて前記プーリの回転が伝達される回転子と、前記固定部の周面と前記回転子との周面とにまたがって巻き付けられて、前記ワイヤが前記プーリから繰り出される方向に前記回転子が回転すると前記回転子との間の摩擦によって締め付けられるクラッチスプリングとを備える。前記伝達機構は、前記プーリの回転を前記スプリングクラッチ装置に伝達する。前記解除レバーは、前記クラッチスプリングの一端に設けられる。前記ブレーキ解除用アームは、前記ワイヤが繰り出される方向に前記固定部と前記回転子とが所定角度回転した状態において前記解除レバーと当接する。
【0019】
この構造によれば、被規制部が変位すると、当該被規制部に固定されたワイヤが繰り出されることにともなうプーリの回転が、スプリングクラッチ装置に伝達される。スプリングクラッチ装置では、回転子が回転しようとするので、クラッチスプリングが締め付けられる。この結果、固定部が回転子とともに回転する。固定部が回転することによって、弾性部材が変形する。
【0020】
固定部と回転子とが回転し続けると、解除レバーがブレーキ解除用アームに当接する。解除レバーがブレーキ解除用アームに当接することによって、クラッチスプリングが緩む。クラッチスプリングが緩むと、当該クラッチスプリングによる締め付けがなくなるので、回転子は固定部に対して回転し始める。この結果、プーリが回転するとともにワイヤが繰り出されるので、被規制部の規制が解除されるようになる。
【0021】
上記のように、被規制部の規制が解除された後、回転子を回転するために必要なリミッタトルクTについて説明する。
【0022】
固定部に対して回転子が回転している状態での、弾性部材によるトルクをMbとする。トルクMbは、第1の回転軸周りのトルクである。ブレーキ解除用アームから受けるトルクをトルクLとする。トルクLは、第1の回転軸周りのトルクである。
【0023】
リミッタトルクTがトルクMbとトルクLとの合計値になったときに、回転子が固定部に対して回転し始める。それゆえ、T=Mb+Lとなる。
【0024】
ここで、クラッチスプリングの初期巻き付きトルクMwについて説明する。なお、初期巻き付きトルクMwとは、クラッチスプリングの解除レバーがブレーキ解除用アームに当接していない状態で回転子を回転しようとした際における、クラッチスプリングと回転子との間の摩擦に起因して生じるトルクである。
【0025】
回転子がクラッチスプリングに対して回転するために必要なトルクをMfとすると、Mf=Mw×eμθとなる。それゆえ、Mw=Mf×e−μθとなる。このとき、トルクMfは、リミッタトルクTと釣り合う。
【0026】
なお、解除レバーがブレーキ解除用アームに当接している場合は、クラッチスプリングの初期巻き付きトルクMwは、トルクL分だけ小さくなるので、Mw−L=T×e−μθとなる。
【0027】
上記の式、T=Mb+L、Mw−L=T×e−μθより、L=(Mw−Mb×e−μθ)/(1+e−μθ)となり、それゆえ、T=(Mw+Mb)/(1+e−μθ)となる。ここで、Mwは、Mbよりもだいぶ小さいく、かつ、e−μθ≒0となるので、T≒Mbとなる。
【0028】
上記のことより、回転子にリミッタトルクTとしてMbが作用すると、回転子は、クラッチスプリングに対して滑るようになる。Mbは、各部位の摩擦などの影響を受けない値である。
【0029】
本発明の好ましい形態では、前記ブレーキ解除用アームは、前記固定部と前記回転子とが前記所定角度回転した状態で前記解除レバーと当接するブレーキ位置と、前記固定部と前記回転子とが回転していない状態で前記解除レバーに当接するブレーキ解除位置との間で移動可能である。
【0030】
この構造によれば、ブレーキ解除用アームをブレーキ位置とブレーキ解除位置との間で移動することによって、被規制部を規制する状態と、当該規制を解除する状態とに分けることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、被規制部の動作の規制を解除するための入力値が変化することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の一実施形態に係るブレーキ装置を、図1〜13を用いて説明する。本実施形態では、ブレーキ装置30は、自動車のドアの開動作を規制するドア開動作規制装置20に組み込まれている。
【0033】
図1は、ドア開動作規制装置20が組み込まれた自動車10を示す側面図である。図1に示すように、本実施形態では、ドア開動作規制装置20は、自動車10の助手席の近傍に設けられるドア11の開動作を規制する。なお、これに限定されない。例えば、ドア開動作規制装置20は、車体の後部座席に設けられるドア12の開動作や、運転席の近傍に設けられるドア(図示せず)の開動作を規制してもよい。
【0034】
ドア開動作規制装置20は、ドア11と、ドアチェッカ16と、ブレーキ装置30と、ECU22とを備えている。なお、ブレーキ装置30は、ドア11の内部に収容されており、それゆえ、図中点線で示されている。ドア11は、自動車10の車体13に形成された昇降用開口14に開閉可能に設けられている。具体的には、ドアは、図中点線で示すヒンジ装置15によって車体外側に回動しながら開く。
【0035】
図2は、ドア11が分解された状態を一部切り欠いて示す斜視図である。図2は、ドア11において、ドアチェッカ16とブレーキ装置30との近傍を断面して示している。ドア11は、インナパネル11aとアウタパネル11bとを備えており、インナパネル11aとアウタパネル11bとが互いに車幅方向に重なることによって、構成されている。
【0036】
図2に示すように、ドアチェッカ16は、インナパネル11aとアウタパネル11bとの間に設置されている。なお、インナパネル11aの先端11cは、車幅方向外側に向かって延びており、略かぎ状になっている。
【0037】
ドアチェッカ16は、インナパネル11aに固定される本体部17と、本体部17に摺動可能に保持されるアーム部材18と、図示しないヒンジ部とを備えている。
【0038】
本体部17は、インナパネル11aの先端11c(車幅方向に延びる部位)に設置されている。本体部17内には、後述されるアーム部材18を、当該アーム部材18が摺動可能であるように挟み込む摺動部材が設けられている。
【0039】
アーム部材18は、本体部17内を前後方向(ドア11が全閉している状態での車体前後方向)に貫通するとともに、上記された摺動部材に挟持されている。アーム部材18は、摺動部材に対して摺動可能である。ドア11の開動作に追随して、アーム部材18は、本体部17に対して相対的に変位する。言い換えると、アーム部材18は、ドア11の開動作に追随して、インナパネル11aに対して相対的に変位する。
【0040】
図示しないヒンジ部は、車体13に形成される昇降用開口14の縁に設置されている。ヒンジ部には、アーム部材18の一端が回動可能に固定されている。このため、アーム部材18は、ドア11が開いた状態であっても、一端部がヒンジ部で回動することによって、ドア11の姿勢の変位に追随することができる。
【0041】
アーム部材18の他端部には、ストッパ部19が設けられている。ストッパ部19は、本体部17に形成される開口17a(アーム部材18が通る開口)よりも大きい。ストッパ部19が本体部17の開口17aの縁に当接することによって、それ以上、ドア11が開かなくなる。つまり、ストッパ部19が開口17aの縁に当接した状態がドア11の全開の位置となる。
【0042】
また、アーム部材18には、凹部18aが形成されている。凹部18aは、アーム部材18の表面が凹むことによって形成されている。アーム部材18が、ドア11の開閉にともなって摺動部材に対して摺動すると、当該摺動部材が凹部18a内に嵌る。それゆえ、凹部18aが摺動部材を通過する際の摺動抵抗は、大きくなる。この結果、凹部18a内に摺動部材が嵌っている状態では、ドア11を当該位置に保持しようとする保持力が発生する。このようにドア11が開いた状態で保持される位置を中間保持位置とする。
【0043】
ブレーキ装置30は、例えばインナパネル11aにおいてアウタパネル11bに対向する面に固定されている。具体的には、ドアチェッカ16の本体部17よりも車体後方に配置されている。インナパネル11aは、本発明で言う設置部の一例である。ブレーキ装置30は、第1のカバー部材31と、第2のカバー部材32と、これら第1,2のカバー部材31,32間に収容される収容部33とを備えている。
【0044】
図2に示すように、第1のカバー部材31は、ブレーキ装置30においてアウタパネル11b側に向いている。第2のカバー部材32は、ブレーキ装置30においてインナパネル11a側に向いている。
【0045】
図3は、ブレーキ装置30を、第2のカバー部材32が取り外された状態においてインナパネル11a側から見た状態を示している。なお、図3中からは、後述される第3のギヤ45は省略されている。図4は、図3に示されたブレーキ装置30から第1,2のカバー部材31,32が取り外された状態を、インナパネル11a側から見た状態を示している。なお、図中後述される第3のギヤ45は、省略されている。図5は、図2中に示すF5−F5線に沿って示すブレーキ装置30の断面図である。
【0046】
図3〜5に示すように、ブレーキ装置30は、第1,2のカバー部材31,32間に収容される収容部33として、フレーム41と、ワイヤ34と、プーリ35と、第1の回転軸36と、スプリングクラッチ装置37と、伝達機構38と、ブレーキ解除用アーム39と、アクチュエータ40とを備えている。フレーム41は、第1,2のカバー部材31,32間において、上記されたプーリ35、スプリングクラッチ装置37、伝達機構38、アクチュエータ40を保持している。
【0047】
図2に示すように、ワイヤ34の一端部34aは、ドアチェッカ16のストッパ部19に固定されている。ワイヤ34は、ドア11の開閉に伴うストッパ部19の変位に合わせて、引き出される。ワイヤ34の他端部は、プーリ35に固定されている。ストッパ部19は、本発明で言う被規制部の一例である。ブレーキ装置30がストッパ部19の動きを規制することによって、車体13に対するドア11の開動作が規制されるようなる。
【0048】
図5に示すように、第1の回転軸36は、第1,2のカバー部材31,32間に渡って延びており、その両端が第1,2のカバー部材31,32に固定されている。プーリ35は、第1の回転軸36に回動自由に支持されている。ワイヤ34は、他端がプーリ35に固定されるとともにプーリ35に巻き付けられている。ドア11の開閉に伴ってワイヤ34が引き出される方向に付勢されると、プーリ35が回転することによって、ワイヤ34が繰り出される。
【0049】
スプリングクラッチ装置37は、第1の回転軸36においてプーリ35と反対側に設けられている。なお、スプリングクラッチ装置37の具体的な構造は、後で詳細に説明される。第1の回転軸36は、本発明で言う回転軸である。
【0050】
図5中に矢印Aで示すように、伝達機構38は、プーリ35の回転をスプリングクラッチ装置37に伝達する。伝達機構38は、第1のギヤ42と、第2の回転軸43と、第2のギヤ44と、第3のギヤ45とを備えている。
【0051】
第1のギヤ42は、第1の回転軸36と同軸上に回転自由に支持されている。具体的には、後で詳細に説明されるスプリングクラッチ装置37に回転自由に支持される。第1のギヤ42は、第1の回転軸36上においてプーリ35よりも内側に配置されている。プーリ35の回転は、第1のギヤ42に伝達される
プーリ35から第1のギヤ42への回転の伝達について具体的に説明する。図14は、プーリ35と第1のギヤ42とを、第1のギヤ42側から見た斜視図である。図15は、プーリ35と第1のギヤ42とを、プーリ35側からみた斜視図である。なお、図14,15は、ともに、プーリ35と第1のギヤ42とが第1の回転軸36上に組み付けられた状態を示している。
【0052】
図14,15に示すように、プーリ35は、プーリ本体200と、回転伝達部201とを有している。プーリ本体200は、略円板状であって、周面にワイヤ34を収容する溝が形成されている。回転伝達部201は、プーリ本体200の第1のギヤ42と対向する側面(第1の回転軸36に沿って第1のギヤ42側の面)に形成されている。回転伝達部201は、プーリ本体200の側面の一部に形成されており、第1のギヤ42側に向かって突出している。なお、回転伝達部201の形状については、後で詳細に説明する。
【0053】
第1のギヤ42は、回転伝達部201の内側に配置される内側部分202と、回転伝達部201と当接可能な当接部203とを有している。内側部分202は、第1の回転軸36上において回転伝達部201の内側に位置している。このため、内側部分202は、側面形状が円状であり、回転伝達部201は、内側に内側部分202を回動自由に収容可能な円状の凹部204が形成されている。このため、プーリ35が回転する際に、内側部分202と回転伝達部201とが互いに干渉することはない。
【0054】
当接部203は、内側部分202において、回転伝達部201と重ならない部位より周方向外側に突出するように形成されている。当接部203は、扇状である。図14,15中には、当接部203と回転伝達部201との間には、第1の回転軸36の周方向にそって、隙間206が形成されている。この隙間206は、常に形成されているものではない。プーリ35の回転にともなって回転伝達部201が移動することによって、隙間206はなくなる。
【0055】
なお、第1のギヤ42のギヤ部(後述される第2のギヤ44とかみ合う部分)は、当接部203の周面に形成されている。図中、ギヤ部はその一部が示されており、他の部分は、2点鎖線で示されている。
【0056】
上記の構造によって、図14に示すようにワイヤ34が引っ張られると、プーリ35が矢印の方向に回転する。プーリ35が回転すると、回転伝達部201が隙間206内を当接部203に向かって移動する。そして、さらにプーリ35が回転されると、回転伝達部201が当接部203に当接する。回転伝達部201が当接部203に当接することによって、プーリ35の回転が第1のギヤ42に伝達されるようになる。
【0057】
第2の回転軸43は、第1の回転軸36の近傍に配置されている。第2の回転軸43は、第1,2のカバー部材31,32間に渡って延びており、つまり第1の回転軸36と平行に延びている。第2の回転軸43の両端は、第1,2のカバー部材31,32に回動自由に支持されている。
【0058】
第2のギヤ44は、第2の回転軸43に固定されている。第2のギヤ44は、第1のギヤ42と噛み合っており、それゆえ、第1のギヤ42の回転が第2のギヤ44に伝達される。第2のギヤ44は、第2の回転軸43に固定されているので、第1のギヤ42の回転が第2の回転軸43に伝達される。
【0059】
第3のギヤ45は、第2の回転軸43に固定されている。第3のギヤ45は、第2の回転軸43において第2のギヤ44と反対側に配置されており、スプリングクラッチ装置37に噛み合っている。それゆえ、第2の回転軸43の回転に伴って第3のギヤ45が回転し、当該第3のギヤ45の回転がスプリングクラッチ装置37に伝達されるようになる。
【0060】
図6は、スプリングクラッチ装置37を示す斜視図である。図5,6に示すように、スプリングクラッチ装置37は、第1の回転軸36周りに支持されている。なお、図6に示すように、第1の回転軸36においてスプリングクラッチ装置37から出ている部分には、軸保護部材70が取り付けられている。上記された、プーリ35は、軸保護部材70に対して回転可能に支持されている。それゆえ、プーリ35は、第1の回転軸36回りに配置されることになる。
【0061】
図7は、スプリングクラッチ装置37が分解された状態を示す斜視図である。図7に示すように、スプリングクラッチ装置37は、固定部46と、回転子47と、クラッチスプリング48とを備えている。
【0062】
図8は、固定部46が分解された状態を示す斜視図である。図8に示すように、固定部46は、固定部ハウジング49と、固定部ハウジング49内に収容される解除スプリング50と、解除スプリング50の一端を第1の回転軸36に固定する固定部ブラケット52とを備えている。
【0063】
固定部ハウジング49は、一端が閉塞しかつ他端が開口する円筒状である。解除スプリング50は、渦巻きばねである。図7に示すように、解除スプリング50は、固定部ハウジング49内に収容されている。図8に示すように、固定部ハウジング49の内面には、第1の固定用突起53が形成されている。第1の固定用突起53は、内側に向かって突出している。解除スプリング50において外側に位置する一端部54には、固定部ハウジング49内に収容された際に第1の固定用突起53が嵌る嵌合切欠55が形成されている。
【0064】
固定部ブラケット52は、筒状の部材であって、内側に第1の回転軸36が嵌合することによって、第1の回転軸36に固定されている。図7に示すように、固定部ブラケット52は、固定部ハウジング49内に収容された際には、解除スプリング50の内側に規定される空間S1(図8に示す)内に挿入される。
【0065】
固定部ブラケット52の外側端の縁には、周方向の外側に延びるフランジ部52aが形成されている。フランジ部52aは、解除スプリング50に当接することによって、解除スプリング50が固定部ハウジング49外に出ないようにするストッパの機能を有している。
【0066】
図8に示すように、固定部ブラケット52には、周方向外側に突出する第2の固定用突起56が形成されている。解除スプリング50において内側に位置する他端部57には、第2の固定用突起56が嵌る第2の嵌合切欠58が形成されている。固定部ブラケット52が固定部ハウジング49内(解除スプリング50内)に収容された際には、第2の固定用突起56が第2の嵌合切欠58に嵌合する。
【0067】
このことによって、解除スプリング50の一端部54は、第1の回転軸36に回動自由な固定部46に固定され、他端部57が第1の回転軸36に固定されるようになる。この結果、固定部46の姿勢は、解除スプリング50の弾性力によって第1の回転軸36に保持される。解除スプリング50は、本発明で言う弾性部材の一例である。弾性部材は、解除スプリング50に限定されるものではない。
【0068】
図7に示すように、回転子47は、第1の回転軸36に回動自由に支持されている。回転子47は、例えば一端が閉塞するとともに他端が開口する円筒状である。回転子47は、開口端59が固定部46に対向するように配置されてり、図6に示すように、固定部46に隣接して配置されている。固定部46の外形状と回転子47の外形状とは略同じであって、それゆえ、固定部46の外面46aと回転子47の外面47aとは、面一である。
【0069】
回転子47が固定部46と隣り合った状態では、解除スプリング50の一部や固定部ブラケット52の一部が回転子47の内側に収容される。このことによって、回転子47の開口端59は、固定部46の開口縁46bに当接することができる。なお、解除スプリング50と固定部ブラケット52とが回転子47側に突出しない場合は、回転子47は、筒状である必要はない。
【0070】
図5に示すように、回転子47の他端部60には、第4のギヤ61が形成されている。第4のギヤ61は、第1の回転軸36と同軸上に配置されている。第4のギヤ61は、伝達機構38の第3のギヤ45と噛み合っている。それゆえ、プーリ35の回転が、伝達機構38を介して第4のギヤ61、つまりスプリングクラッチ装置37に伝達されるようになる。
【0071】
図6,7に示すように、クラッチスプリング48は、コイルばね状である。クラッチスプリング48は、固定部46の外面46aと回転子47の外面47aとにまたがって、巻きつけられている。固定部46に対して回転子47が相対的に第1の回転軸36周りに回転すると、クラッチスプリング48と回転子47との間の摩擦によって、クラッチスプリング48が締め付けられる、または、緩む方向に付勢される。
【0072】
図4,5に示すように、伝達機構38を介して伝達されるプーリ35の回転によって、回転子47は、矢印の方向に回転するように付勢される。クラッチスプリング48は、プーリ35がワイヤ34を繰り出す際の回転にともなって回転子47が回転しようとすると、固定部46と回転子47とを締め付けるような巻き方になっている。
【0073】
また、クラッチスプリング48の一端部は、周方向外側に向かって延びており、解除レバー62を形成している。図9は、解除レバー62の動作を示す側面図である。図9は、図4を矢印Bの方向から見た状態を示す側面図である。
【0074】
図4,5,9に示すように、ブレーキ解除用アーム39は、第2の回転軸43に回動自由に支持されている。ブレーキ解除用アーム39は、クラッチスプリング48の解除レバー62の側方に配置されている。ブレーキ解除用アーム39は、略円盤上である。ブレーキ解除用アーム39は、ギヤ部63と、切欠部64とを有している。
【0075】
切欠部64は、解除レバー62を内側に収容できるように切り欠かれることによって形成されている。図9に2点鎖線で示すように、ブレーキ解除用アーム39が第2の回転軸43周りに回転することによって、切欠部64の内縁65が解除レバー62に当接するとともに、クラッチスプリング48を緩む方向に付勢する。
【0076】
このような状態になると、回転子47とクラッチスプリング48との間の摩擦が減少するので、回転子47が回転できるようになる。ギヤ部63は、図中一部示すように、ブレーキ解除用アーム39の周縁に形成されている。なお、図中、ギヤ部63は、その一部が示されており、他の部位は省略されている(2点鎖線で示されている)。
【0077】
ブレーキ解除用アーム39が解除レバー62に当接していない状態(クラッチスプリング48が緩んでいない状態)でスプリングクラッチ装置37にプーリ35の回転が伝達されると(回転子47に形成される第4のギヤ61に回転が伝達されると)、クラッチスプリング48が回転子47と固定部46とを締め付ける。それゆえ、回転が固定部46にも伝達される。
【0078】
固定部46が回転すると、固定部46の回転に連動して解除スプリング50が締め付けられる。固定部46が回転することによって、解除スプリング50は、締め付けられて弾性エネルギを蓄える。
【0079】
図5に示すように、アクチュエータ40は、フレーム41に固定されている。アクチュエータ40は、例えば電動モータである。アクチュエータ40の回転軸66には、第5のギヤ67が設けられている。第5のギヤ67は、アクチュエータ40によって駆動される。
【0080】
図9に示すように、第5のギヤ67は、ブレーキ解除用アーム39のギヤ部63に噛み合っている。アクチュエータ40が第5のギヤ67を駆動することによって、ブレーキ解除用アーム39が駆動される。アクチュエータ40は、ブレーキ解除用アーム39を、1点鎖線で示すブレーキ位置P1と、2点鎖線で示すブレーキ解除位置P2とに位置決めする。ブレーキ位置P1は、ブレーキ解除用アーム39が解除レバー62に当接しない位置である。ブレーキ解除位置P2は、ブレーキ解除用アーム39が解除レバー62に当接する位置である。
【0081】
上記したように、ブレーキ解除用アーム39が解除レバー62に当接していない状態では、固定部46は、回転子47とともに回転する。図10は、固定部46が回転子47とともに回転した状態における、解除スプリング50の状態を示す正面図である。図10に2点鎖線で示すように、固定部46が回転することによって、解除スプリング50が締め付けられて弾性エネルギを蓄える。なお、図中、締め付けられた状態にある解除スプリング50の一端部54を2点鎖線で示す。また、固定部46が回転することによって、ブレーキ解除用アーム39と解除レバー62との相対距離が縮まる。
【0082】
図11は、ブレーキ解除用アーム39がブレーキ位置P1にある状態で回転子47と固定部46とが回転している状態を示している。図中、クラッチスプリング48は、2点鎖線で示されている。図12は、解除レバー62がブレーキ位置P1にある状態において解除レバー62がブレーキ解除用アーム39に当接した状態を示している。図12に示すように、解除レバー62がブレーキ解除用アーム39に当接するまで固定部46が回転すると、クラッチスプリング48の締め付け力が弱まるので、図13に示すように、回転子47がクラッチスプリング48に対して滑り始める。つまり、固定部46の回転が止まり、かつ固定部46に対して回転子47が相対的に回転し始める。図中、クラッチスプリング48は、2点鎖線で示されている。
【0083】
このように、ブレーキ解除用アーム39がブレーキ位置P1にある状態において、固定部46に対して回転子47を回転する(クラッチスプリング48に対して滑らせる)ために必要な操作力であるリミッタトルクTについて説明する。なお、リミッタトルクTは、第1の回転軸36周りのトルクである。
【0084】
固定部46に対して回転子47が回転している状態での、解除スプリング50の弾性力による解除スプリング反トルクをMbとする。解除スプリング反トルクMbは、第1の回転軸36周りのトルクである。ブレーキ解除用アーム39から受けるトルクをブレーキ解除反トルクLとする。ブレーキ解除反トルクLは、第1の回転軸36周りのトルクである。
【0085】
リミッタトルクTが解除スプリング反トルクMbとブレーキ解除反トルクLとの合計値になったときに、回転子47が固定部46に対して回転し始める。それゆえ、T=Mb+Lとなる。
【0086】
ここで、クラッチスプリング48の初期巻き付きトルクMwについて説明する。なお、初期巻き付きトルクMwとは、クラッチスプリング48の解除レバー62がブレーキ解除用アーム39に当接していない状態で回転子47を回転しようとした際における、クラッチスプリング48と回転子47との間の摩擦に起因して生じるトルクである。
【0087】
回転子47がクラッチスプリング48に対して回転するために必要なブレーキトルクをMfとすると、Mf=Mw×eμθとなる。それゆえ、Mw=Mf×e−μθとなる。このとき、ブレーキトルクMfは、リミッタトルクTと釣り合う。
【0088】
なお、解除レバー62がブレーキ解除用アーム39に当接している場合は、クラッチスプリング48の初期巻き付きトルクMwは、ブレーキ解除反トルクL分だけ小さくなるので、Mw−L=T×e−μθとなる。
【0089】
上記の式、T=Mb+L、Mw−L=T×e−μθより、L=(Mw−Mb×e−μθ)/(1+e−μθ)となり、それゆえ、T=(Mw+Mb)/(1+e−μθ)となる。ここで、Mwは、Mbよりもだいぶ小さいく、かつ、e−μθ≒0となるので、T≒Mbとなる。
【0090】
上記のことより、回転子47にリミッタトルクTとしてMbが作用すると、回転子47は、クラッチスプリング48に対して滑るようになる。
【0091】
解除スプリング反トルクMbは、解除レバー62がブレーキ解除用アーム39の内縁65に当接するまで固定部46が回転した状態での解除スプリング50の弾性力と、第1の回転軸36から第1の固定用突起53までの距離との積となる。それゆえ、ブレーキ解除位置P2は、リミッタトルクTの値が求められる値になるように、設定されている。言い換えると、本願で言う所定角度とは、求めらるMbによって決定される。
【0092】
ECU22は、アクチュエータ40の動作を制御する。ここでドア11の説明に戻る。図1に示すように、ドア11は、車室側操作部23と、車外側操作部24とを備えている。車外側操作部24は、アウタパネル11b上に設けられるとともに、車外から操作できるように、車外に出ている。車外側操作部24は、図中2点鎖線で示される範囲に拡大して示されている。車外側操作部24は、車外側操作レバー25と、車外側切り替えスイッチ26とを備えている。車外側操作レバー25が操作されると、ドア11が全閉位置にあるときに、ドア11と車体13との間に設けられる図示しないラッチ機構の係合状態が解除される。車外側切り替えスイッチ26は、アクチュエータ40の駆動のオンオフを切り替える。
【0093】
車室側操作部23は、インナパネル11a上に設置されている。車室側操作部23は、図中2点鎖線で示される範囲に拡大して示されている。車室側操作部23は、ドア11のインナパネル11aに設け荒れており、車室側から操作できるよう車室内に出ている。車室側操作部23は、車室側操作レバー27と、車室側切り替えスイッチ28とを備えている。車室側操作レバー27が操作されると、上記ラッチ機構の係合状態が解除される。
【0094】
ECU22の説明に戻る。ECU22は、アクチュエータ40と、車外側切り替えスイッチ26と、車室側切り替えスイッチ28とに電気的に接続される。ECU22によるアクチュエータ40の制御について具体的に説明する。
【0095】
ECU22は、ドア11が所定位置まで開くと、ドア11がそれ以上開きにくくなるようにするブレーキ制御と、ドア11が所定位置まで開いてもドア11の開動作を妨げない非ブレーキ制御とのうちいずれかの制御を行う。なお、所定位置は、任意に設定される。
【0096】
ブレーキ制御では、ブレーキ解除用アーム39は、ブレーキ解除位置P2にある。そして、ドア11が所定位置まで開くと、アクチュエータ40は、ブレーキ位置P1までブレーキ解除用アーム39を移動する。このようにすることによって、スプリングクラッチ装置37がブレーキ状態(クラッチスプリング48が締め付けられる方向に付勢されるので、回転子47の回転が抑制される状態)となる。
【0097】
ドアが所定位置まで開いたことを検出する機構の一例を説明する。当該機構の一例としては、ロータリーエンコーダなどのプーリ35の回転を検出するセンサが用いられている。このセンサによって、プーリ35の回転角度が検出される。プーリ35の回転角度が検出されることによって、ワイヤ34の繰り出し量が求められ、それゆえ、ドア11の開度が求められる。なお、上記構造は、一例である。要は、ドア11が所定位置まで開いたことを検出できればよい。
【0098】
非ブレーキ制御では、ブレーキ解除用アーム39は、ブレーキ解除位置P2から移動しない。このことによって、ドア11が所定位置まで開いても、ドア11の開動作はブレーキ装置30によっては阻止されない。
【0099】
ECU22は、ブレーキ制御と非ブレーキ制御とを、車外側切り替えスイッチ26と車室側切り替えスイッチ28との操作によって切り替える。例えば、車外側切り替えスイッチ26または車室側切り替えスイッチ28が所定時間内に1回操作されると、アクチュエータ40は、ブレーキ制御状態となる。車外側切り替えスイッチ26または車室側切り替えスイッチ28が所定時間内に2回操作されると、アクチュエータ40は、非ブレーキ制御状態となる。
【0100】
なお、アクチュエータ40のブレーキ制御状態と非ブレーキ制御状態との切り替えるための車室側切り替えスイッチ28または車外側切り替えスイッチ26との操作は、上記のものに限定されるものではない。例えば、車室側切り替えスイッチ28と車外側切り替えスイッチ26とが操作されるごとに、ブレーキ制御と非ブレーキ制御とが切り替わるようにしてもよい。
【0101】
なお、ECU22は、図中、自動車10の外側に配置されているが、実際は、自動車10の内に配置されている。
【0102】
つぎに、ドア開動作規制装置20の動作を説明する。まず、ブレーキ装置30がブレーキ制御状態である場合の、ドア開動作規制装置20の動作を説明する。
【0103】
まず、助手席に着座しいている乗員が車室側切り替えスイッチ28を操作するなどして、ブレーキ装置30をブレーキ制御状態にする。
【0104】
ついで、乗員が車室側操作レバー27を操作して、ドア11を開く。ドア11が所定位置まで開かれるまでは、ブレーキ解除用アーム39は、ブレーキ解除位置P2にある。それゆえ、ドア11は、所定位置までスムーズに開く。
【0105】
ドア11が所定位置まで開くと、ECU22の制御によって、アクチュエータ40が駆動する。アクチュエータ40は、ブレーキ解除用アーム39をブレーキ位置P1まで移動させる。このことによって、クラッチスプリング48の解除レバー62がブレーキ解除用アーム39から離れる。この結果、ブレーキ装置30によって、プーリ35の回転にブレーキがかかる。プーリ35の回転が規制されることに起因してワイヤ34が引き出されにくくなる。この結果、ドア11の開動作が規制される。
【0106】
このとき、乗員がドアを開ける力が、回転子47にリミッタトルクTが作用する力であると、ドア11はさらに開く。このように、ドア11の開動作が規制されても、リミッタトルクTで開くことによって、規制の際に生じる衝撃がドア各部に作用することなく逃げるようになる。
【0107】
回転子47にリミッタトルクT以上のトルクが作用すると、クラッチスプリング48の解除レバー62がブレーキ解除用アーム39により一層強く当接するようになり、それゆえ、クラッチスプリング48が一層緩む。
【0108】
この結果、クラッチスプリング48と固定部46との間の摩擦が小さくなり、それゆえ、解除スプリング50の弾性力により、固定部46が元の位置に戻るとする。このように固定部46が元の位置に向かって変位すると、再びクラッチスプリング48が締め付けられるので、クラッチスプリング48と固定部46との間の摩擦力が再び大きくなる。
【0109】
このように、回転子47に作用するトルクがリミッタトルクTよりも大きい場合であっても、上記のような作用が生じるので、解除スプリング50による付勢力と、クラッチスプリング48による摩擦力とが釣り合うようになる。それゆえ、回転子47は、一定のリミッタトルクTで回転するようになる。
【0110】
ブレーキ装置30によるドアの開動作の規制を解除する場合には、乗員は、車室側切り替えスイッチ28を操作するなどして、ブレーキ装置30をブレーキ解除制御状態にする。なお、ドア11の開動作が規制される所定位置とは、任意に設定できる。
【0111】
ついで、非ブレーキ制御状態を説明する。非ブレーキ制御状態では、ブレーキ解除用アーム39は、ブレーキ解除位置P2から移動しない。このことによって、乗員による開動作によってドア11が所定位置まで開かれても、ドア11の開動作はブレーキ装置30によっては阻止されない。
【0112】
このように構成されるブレーキ装置30では、ドア11の開動作が規制されても、一定値であるリミッタトルクTで固定部46に対して回転子47が回転するようになるので、規制の際に生じる衝撃によってドア11が変形するなどの不具合が発生することが抑制される。
【0113】
また、トルクTは、ブレーキ解除位置P2によって決定される解除スプリング50の弾性力によって決定される値である。つまり、トルクTは、クラッチスプリング48と回転子47との間に生じる摩擦力などのブレーキ装置30内の摩擦力の影響を受けない。
【0114】
摩擦の影響を受けないことによって、当該摩擦に起因する各所の磨耗の影響も受けることがない。それゆえ、トルクTの値は、各所の磨耗に起因して変化することが抑制される。以上のことより、ブレーキ装置30では、ドア11の動作の規制を解除するためのトルクTが変化することを抑制できる。
【0115】
また、ブレーキ解除用アーム39がブレーキ位置P1とブレーキ解除位置P2との間で移動可能であることによって、ブレーキ制御状態と非ブレーキ制御状態とを使い分けることができるので、ドア11の使い勝手が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の一実施形態に係るドア開動作規制装置が組み込まれた自動車を示す側面図。
【図2】図1に示されたドアが分解された状態を一部切り欠いて示す斜視図。
【図3】図2に示されたブレーキ装置を、第2のカバー部材が取り外された状態においてインナパネル側から見た状態を示す斜視図。
【図4】第1,2のカバー部材が取り外された図2に示されたブレーキ装置を、インナパネル側から見た状態を示す斜視図。
【図5】図2中に示されるブレーキ装置を、F5−F5線に沿って示断面図。
【図6】図5に示されたスプリングクラッチ装置を示す斜視図。
【図7】図6に示されたスプリングクラッチ装置が分解された状態を示す斜視図。
【図8】図7に示された固定部が分解された状態を示す斜視図。
【図9】図4に示されるブレーキ装置を、矢印の方向から見た状態を示す側面図。
【図10】図8に示される固定部が回転子とともに回転した状態における、解除スプリングの状態を示す正面図。
【図11】図5に示されるブレーキ解除用アームがブレーキ位置にある状態で回転子と固定部とが回転している状態を示す平面図。
【図12】図9に示された解除レバーがブレーキ解除用アームに当接した状態を示す正面図。
【図13】図11に示された回転子がクラッチスプリングに対して滑り始めた状態を示す平面図。
【図14】図5に示されたプーリと第1のギヤとを第1のギヤ側から見た状態を示す斜視図。
【図15】図14に示されたプーリと第1のギヤとをプーリ側から見た状態を示す斜視図。
【符号の説明】
【0117】
11a…インナパネル(設置部)、19…ストッパ部(被規制部)、30…ブレーキ装置、34…ワイヤ、35…プーリ、36…第1の回転軸(回転軸)、38…伝達機構、39…ブレーキ解除用アーム、46…固定部、47…回転子、48…クラッチスプリング、50…解除スプリング(弾性部材)、62…解除レバー、P1…ブレーキ位置、P2…ブレーキ解除位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置部に固定されるとともに、当該設置部に対して相対的に変位する被規制部の動作を規制するブレーキ装置であって、
前記被規制部側に一端部が固定されるワイヤと、
前記ワイヤの他端部が固定されるとともに前記ワイヤが巻き付けられ、前記被規制部の変位に連動して前記ワイヤを繰り出すプーリと、
回転軸と、前記回転軸周りに回動自由であるとともに弾性部材を介して前記回転軸に対する姿勢が保持される固定部と、前記固定部と隣り合うとともに前記回転軸周りに回動自由に設置されて前記プーリの回転が伝達される回転子と、前記固定部の周面と前記回転子との周面とにまたがって巻き付けられて、前記ワイヤが前記プーリから繰り出される方向に前記回転子が回転すると前記回転子との間の摩擦によって締め付けられるクラッチスプリングとを具備するスプリングクラッチ装置と、
前記プーリの回転を前記スプリングクラッチ装置に伝達する伝達機構と、
前記クラッチスプリングの一端に設けられる解除レバーと、
前記ワイヤが繰り出される方向に前記固定部と前記回転子とが所定角度回転した状態において前記解除レバーと当接するブレーキ解除用アームと、
を具備することを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
前記ブレーキ解除用アームは、前記固定部と前記回転子とが前記所定角度回転した状態で前記解除レバーと当接するブレーキ位置と、前記固定部と前記回転子とが回転していない状態で前記解除レバーに当接するブレーキ解除位置との間で移動可能であることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2009−108882(P2009−108882A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279189(P2007−279189)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】