説明

プッシュラッチ装置

【課題】リリース時のストロークを短くすることができ、かつマグネットによる吸着力を調整できるプッシュラッチ装置を提供する。
【解決手段】プッシュラッチ装置100は、ケース本体10と、固定部材20と、スライド部材30と、第1の付勢手段としてのバネ40と、ガイドピン50と、第2の付勢手段としてのバネ54とを備える。バネ54は、ガイドピン50の係止部51をガイド溝31の往路31aの終端位置から復路31bの始端側へ付勢するためのコイル状バネであり、ケース本体10の封止端に設けられた固定部材20に軸53に対し垂直方向に装着されている。バネ54は、軸53を支点としてガイドピン50の係止部51をガイド溝31の往路31aの終端位置から復路31bの始端側へ付勢するようになされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状のケース本体と内部に移動可能に装着され、ケース本体から突出可能な突出部本体を有するスライド部材を有し、ケース本体に対して、スライド部材の突出部本体を相対的に押し込むことにより、スライド部材がケース本体に対する突出位置と格納位置とに交互に配置されて保持され、開閉扉等を外側から軽く押すだけで開閉させることが可能なプッシュラッチ装置、特にマグネットプッシュラッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プッシュラッチ装置は、ビデオデッキなどを収納する部分や下駄箱など家具の開き扉や自動車内の灰皿や小物入れの蓋等に幅広く採用されている。しかし、キッチンの棚、引き出し等にはあまり使われていないのが現状である。その原因として、キッチン棚等は扉と棚の間に隙間があると害虫侵入があるため、従来のプッシュラッチ装置(特にマグネットプッシュラッチ装置)は扉を再び開くために長い押し代が必要でこれにより棚と扉の間に隙間ができてしまい、キッチンでの採用が困難である。
【0003】
図12は、従来のプッシュラッチ装置の構成を示す断面図である。図12に示すように、プッシュラッチ装置1は、筒状のケース本体2と、固定部材3と、ガイドピン5と、スライド部材6と、スライド部材をケース本体の開口端へ付勢する付勢手段としてのバネ4とから構成されている。
【0004】
ガイドピン5は、一端が軸5aを介してケース本体1の封止端に揺動可能に支持され、他端が係止部5bを有する。また、スライド部材6は、ケース本体2から突出可能な突出端を有し、ガイドピン5の係止部5bの走行を案内するガイド溝6a,6bが形成され、ケース本体2の内に軸線方向に移動可能に装着される。ガイド溝6a,6bは、中央部に形成されたハート形のガイド突部7により、スライド部材6の突出端がケース本体2の内へ押し込む過程に対応する往路6aとスライド部材6の突出端がケース本体2から突出する過程に対応する復路6bに分割されている。
【0005】
往路6aと復路6bの端部の間にガイド面を有する凸部6cを有する。また、ハート形のガイド突部7において、凸部6cに対向する面にV字形の凹部7aを有する。スライド部材6の突出端をケース本体2の内へ押し込むと、ガイドピン5の係止部5bが往路6aを走行した後、凸部6cの往路6a側のガイド面によりV字形の凹部7aに案内され、凹部7aで係止することで、スライド部材6の突出端がケース本体2に対して格納位置に保持される。再度スライド部材6の突出端を押すと、ガイドピン5の係止部5bが凸部6cの復路路6a側のガイド面により復路の始端位置に案内され、押す力を外すと、バネ4の付勢によりスライド部材6の突出端がケース本体2から突出した突出位置に保持される。
【0006】
また、ケース本体内に前後方向に移動自在に装着され上端面にハート形のガイド突部の外縁に沿った形状のガイド溝が形成されたスライド部材を有するマグネットキャッチャ(例えば、特許文献1参照)、およびプッシュラッチ装置が周知されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
特許文献1に開示のマグネットキャッチャ、および特許文献2に開示のプッシュラッチ装置においても、上述した従来のプッシュラッチ装置1のように、ガイド溝の往路と復路の端部の間にガイド面を有する凸部を有する。ハート形のガイド突部において、前記凸部に対向する面にV字形の凹部を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭63−91675号公報
【特許文献2】特開平7−34746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した従来のプッシュラッチ装置において、ガイドピン5の係止部5bをV字形の凹部7aに、さらに復路6bの始端位置にスムーズに案内するために、凸部6cを高くして、凸部6cの往路6a側のガイド面と復路6a側のガイド面との間の角を小さくすると共に、V字形の凹部7aを深くすることが必要となる。そのため、リリース時のストローク(押し代)Dが長く、扉とケース本体2の端面、即ち、扉と被取付物との間の間隔が大きくなり、近接した状態にすることができないという問題点があった。
【0010】
また、上述した特許文献1に開示のマグネットキャッチャ、および特許文献2に開示のプッシュラッチ装置においても、上記の問題点がある。
【0011】
そのため、リリース時のストロークが短く、扉と被取付物との間の間隔ができるだけ小さく、近接することができるプッシュラッチ装置が望まれている。
【0012】
また、先端に取り付けたマグネットと扉間の距離を調整することができ、即ちマグネットによる吸着力を調整することができるプッシュラッチ装置が望まれている。
【0013】
そこで、本発明は、ガイドピンの係止部をガイド溝の往路の終端位置から復路の始端側へ付勢する第2の付勢手段を設け、往路の終端と復路の始端との間の凸部の高さを小さくすることで、リリース時のストロークを短くすることができ、かつマグネットによる吸着力を調整できるプッシュラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明に係るプッシュラッチ装置は、開口端と封止端とを有する筒状のケース本体と、一端が軸を介して前記ケース本体の封止端に揺動可能に支持され、他端が係止部を有するガイドピンと、前記ケース本体から突出可能な突出部本体と、該突出部本体が前記ケース本体内へ押し込む過程に対応する往路と該突出部本体が前記ケース本体から突出する過程に対応する復路を備え前記ガイドピンの係止部の走行を案内するガイド溝とを有し、前記ケース本体の内に軸線方向に移動可能に装着されたスライド部材と、前記スライド部材を前記ケース本体の開口端へ付勢する第1の付勢手段と、前記ガイドピンの係止部を前記ガイド溝の往路の終端位置から復路の始端側へ付勢する第2の付勢手段とを備えることを特徴とするものである。
【0015】
例えば、前記第2の付勢手段は、前記軸に対し垂直方向に配置されたコイル状バネであり、前記軸を支点として前記ガイドピンの係止部を前記ガイド溝の往路の終端位置から復路の始端側へ付勢する。
【0016】
また例えば、前記復路の出口に前記ガイドピンの係止部の進入を阻止する段差を有する。
【0017】
また例えば、前記第2の付勢手段は、前記ガイド溝の復路の始端側に配置された磁性体であり、前記ガイドピンは、少なくとも係止部が前記磁性体により吸引可能な金属材料から形成され、前記係止部が前記ガイド溝の往路の終端位置から復路の始端位置までの間にあるとき、前記第2の付勢手段は、前記係止部を前記ガイド溝の往路の終端位置から復路の始端側へ付勢する。
【0018】
また例えば、前記突出部本体の先端にマグネット装着部を有し、前記マグネット装着部の外周面にネジが刻設され、前記外周面のネジに螺合する外層管材が設けられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、プッシュラッチ装置は、一端が軸を介してケース本体の封止端に揺動可能に支持され、他端が係止部を有するガイドピンに対して、ガイドピンの係止部をガイド溝の往路の終端位置から復路の始端側へ付勢する第2の付勢手段を設けることで、リリース時のストロークを短くすることができる。そのため、扉と被取付物との間の間隔ができるだけ小さく、近接することができ、キッチン棚などのような場所でも利用できる。また、開扉時の一次押し込み作業量が少なくなるので、クイックリリースが実現できる。
【0020】
また、第2の付勢手段は、軸に対し垂直方向に配置されたコイル状バネであり、軸を支点としてガイドピンの係止部を前記ガイド溝の往路の終端位置から復路の始端側へ付勢することが容易に実現できる。
【0021】
また、復路の出口にガイドピンの係止部の進入を阻止する段差を設けることで、ガイドピンの逆走を確実に防止することができる。
【0022】
また、第2の付勢手段は、ガイド溝の復路の始端側に配置された磁性体にすると共に、少なくともガイドピンの係止部を磁性体により吸引可能な金属材料から形成することで、係止部がガイド溝の往路の終端位置から復路の始端位置までの間にあるとき、第2の付勢手段は、係止部をガイド溝の往路の終端位置から復路の始端側へ付勢することができ、復路の出口にガイドピンの係止部の進入を阻止する段差を設ける必要がなくなる。
【0023】
さらに、突出部本体の先端にマグネット装着部を有し、マグネット装着部の外周面にネジを刻設し、そして該外周面のネジに螺合する外層管材を設けることで、先端に取り付けたマグネットと扉間の距離を調整することができ、即ちマグネットによる吸着力を簡単に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施の形態のプッシュラッチ装置100の構成を示す分解図である。
【図2】プッシュラッチ装置100の構成を示すX−X、Y−Y断面図である。
【図3】プッシュラッチ装置100の構成を示すZ−Z断面図である。
【図4】プッシュラッチ装置100の動作を示す図(その1)である。
【図5】プッシュラッチ装置100の動作を示す図(その2)である。
【図6】プッシュラッチ装置100の動作を示す図(その3)である。
【図7】第2の実施の形態のプッシュラッチ装置200の構成を示す断面図である。
【図8】第3の実施の形態のプッシュラッチ装置300の構成を示す断面図である。
【図9】第4の実施の形態のプッシュラッチ装置400の構成を示す断面図である。
【図10】プッシュラッチ装置500の構成を示す断面図である。
【図11】プッシュラッチ装置100のマグネットと扉間の距離を調整した状態を示す図である。
【図12】従来のプッシュラッチ装置1の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るプッシュラッチ装置を実施するための形態を、図を参照して説明する。
【0026】
図1は、本発明の第1の実施の形態のプッシュラッチ装置100の構成を示す分解図である。図2は、プッシュラッチ装置100の構成を示すX−X、Y−Y断面図である。図2において、(a)はガイドピンの揺動平面と平行するX−X断面図を示し、(b)はX−X断面図と垂直するY−Y断面図を示している。図3は、プッシュラッチ装置100の構成を示すZ−Z断面図である。
【0027】
図1〜図3に示すように、プッシュラッチ装置100は、ケース本体10と、固定部材20と、スライド部材30と、第1の付勢手段としてのバネ40と、ガイドピン50と、第2の付勢手段としてのバネ54と、突出部本体60とを備える。
【0028】
ケース本体10は、開口端と封止端とを有する円筒状に形成され、封止端は固定部材20により封止されている。ケース本体10の開口端に、開口がケース本体10の内径より小さいフランジ11を有し、このフランジ11の内面に凹凸状に形成された係止面11aを有する。
【0029】
固定部材20は、ケース本体10端部を封止する端部21と、スライド部材30を保持する保持部22,23とを有する。端部21には、軸53を挿入するための軸穴が設けられ、また、軸穴に対し垂直方向にバネ54を装着するための穴が設けられている。固定部材20にガイドピン50が軸53により揺動可能に支持されている。また、ガイドピン50に対して付勢できるようにバネ54が装着されている。
【0030】
スライド部材30は、スライド部本体31と、弾性変形可能な連結部材である負荷吸収バネ80を介してスライド部本体31の先端に連結される円筒状の突出部本体60と、該突出部本体60の外周面に形成されたネジ61に螺合して回転可能に設けられたストッパー部材65と、突出部本体60の内周面に形成された雌ネジに螺合して回転可能に設けられているスプリングホルダ70とを有する。
【0031】
また、スライド部材30は、ケース本体10の内に軸線方向に移動可能に装着され、第1の付勢手段としてのバネ40によりケース本体10の開口端へ付勢される。また、突出部本体60の先端がケース本体10の開口端よりわずかに露出している。この露出長さdはリリース時のストロークとなる。
【0032】
また、スライド部材30には、ガイドピン50の係止部51が走行するためのガイド溝(31a,31b)が形成されている。ガイド溝(31a,31b)は、ガイド突部32によりスライド部材30の突出部本体60がケース本体10の内へ押し込む過程に対応する往路31aとスライド部材30の突出部本体60がケース本体10から突出する過程に対応する復路31bに分割されている。復路31bの出口にガイドピン50の係止部51の進入を阻止する段差部材33が設けられる。段差部材33は短辺33aが復路31bの底面と同じ低い位置にされ、長辺33bが短辺33aより高い位置、即ち、往路31aの底面より高い位置にされている(図3参照)。これにより、復路31bの出口において、ガイドピン50の係止部51の進入を阻止する段差が形成される。また、往路31aと復路31bの端部の間に凸部31cが設けられている。この凸部31cは、ガイドピン50の係止部51が直接通過するのを阻止できる高さを有すればよい。また、ガイド突部32において、凸部31cに対向する面に引掛部32a,32bおよび平面32cが形成されている。引掛部32a,32bの高さはガイドピン50の係止部51が平面32cで係止できるように係止部51を受け止め可能な最小の高さとされる。
【0033】
また、スライド部材30の突出部本体60と接続側に端部フランジ34を有し、端部フランジ34の端面に凹凸状の嵌合部35が形成されている。この凹凸状の嵌合部35は、突出部本体60に設けられたスプリングホルダ70の後端面に形成された対応の凹凸端面72と嵌合することで、スプリングホルダ70を回転不能にすることができる。
【0034】
バネ40は、第1の付勢手段としてスライド部材30をケース本体10の開口端へ付勢するためのコイル状バネであり、ケース本体10とスライド部材30の間に配置されている。バネ40の一端が、固定部材20の端部21に当接し、他端がスライド部本体31の端部フランジ34により規制されている。
【0035】
ガイドピン50は、一端が軸穴52を有し軸53を介してケース本体10の封止端に揺動可能に支持され、他端がガイド溝(31a,31b)に走行する係止部51を有する。係止部51は短円柱状に形成されている。
【0036】
バネ54は、第2の付勢手段としてガイドピン50の係止部51をガイド溝(31a,31b)の往路31aの終端位置から復路31bの始端側へ付勢するためのコイル状バネであり、ケース本体10の封止端に設けられた固定部材20に軸53に対し垂直方向に装着されている。バネ54は、軸53を支点としてガイドピン50の係止部51をガイド溝(31a,31b)の往路31aの終端位置から復路31bの始端側へ付勢するようになされる。
【0037】
突出部本体60は、中空円筒状で、内部に装着された負荷吸収バネ80を介してスライド部材30の一端に装着されている。負荷吸収バネ80の外側にスプリングホルダ70が設けられている。また、突出部本体60の外周面には、ストッパー部材65と螺合するためのねじ部61と、外層管材としてのスリーブ63と螺合するためのねじ部62と形成されている。
【0038】
また、突出部本体60の先端にマグネット装着部を有し、このマグネット装着部円柱状のマグネット64が取り付けられている。このマグネット64は、扉等のパネルPに設けられた金属片Sを吸着することで、扉等を閉じた状態に保持する。また、スリーブ63を回すことで、先端に取り付けたマグネットと扉間の距離を調整することが可能となる。
【0039】
ストッパー部材65は、内面にねじ部61と螺合するための雌ねじが形成されたリング状のものである。ストッパー部材65のケース本体10の開口端に位置する端面が凹凸を有する凹凸端面65aである。この凹凸端面65aは、ケース本体10の開口端にあるフランジ11の内面に形成された係止面11aの対応の凹凸と嵌合することで、ストッパー部材65を回転不能にすることができる。
【0040】
スプリングホルダ70は、突出部本体60の中にねじ込んで装着されている。スプリングホルダ70の後端面が凹凸を有する凹凸端面72である。この凹凸端面72がスライド部本体31の端部フランジ34の端面の凹凸状の嵌合部35と嵌合するためのものである。
【0041】
次に、プッシュラッチ装置100の動作について、図4〜図6を参照しながら説明する。
【0042】
図4(a)は、プッシュラッチ装置100のスライド部材30がケース本体10に対する格納位置に保持される状態を示す断面図である。図4(a)に示すように、スライド部材30がケース本体10に対する格納位置に保持される状態において、ガイドピン50の係止部51がガイド突部32の平面32cの往路31a側に位置し、バネ40の付勢により平面32cに係止されている。この状態は、扉等が閉められている状態に相当する。
【0043】
図4(b)は、プッシュラッチ装置100の突出部本体60の端部を押し込み始めての状態を示す断面図である。図4(b)に示すように、開扉のため扉、(即ち、突出部本体60の端部)を少し押し込むと、ガイドピン50の係止部51と平面32c間の拘束が解除され瞬時に、バネ54の付勢によりガイドピン50の係止部51がガイド突部32の引掛部32b側に移動する。
【0044】
図4(c)は、プッシュラッチ装置100の突出部本体60の端部をさらに押し込んだ状態を示す断面図である。図4(c)に示すように、開扉のため扉、(即ち、突出部本体60の端部)をさらに押し込むと、ガイドピン50の係止部51が平面32cから離れて凸部31cの復路31b側へ移動され、引掛部32bの高さを越えられる位置になると、バネ54の付勢によりガイドピン50の係止部51が復路31bの始端位置へ移動する。
【0045】
図4(d)は、プッシュラッチ装置100の突出部本体60の端部を押し込んだ状態を示す断面図である。図4(d)に示すように、開扉のため扉、(即ち、突出部本体60の端部)を押し込んだ位置になると、ガイドピン50の係止部51がバネ54の付勢により復路31bの始端位置になる。この状態はガイドピン50の係止部51の係止が解除された状態である。
【0046】
図5(a)は、プッシュラッチ装置100のスライド部材30の突出部本体60がケース本体10から突出し始めた状態を示す断面図である。図5(a)において、図4(d)に示す状態から突出部本体60の端部への押し込む力を外し、バネ40によりスライド部材30の突出部本体60がケース本体10から突出し始めた状態である。図5(a)に示すように、ガイドピン50の係止部51が復路31bの始端位置から復路31bに沿って段差部材33を越えた位置になっている。この状態は、扉等が突出部本体60により押さえられて開き始め状態に相当する。
【0047】
図5(b)は、プッシュラッチ装置100のスライド部材30の突出部本体60がケース本体10から完全に突出した状態を示す断面図である。図5(b)に示すように、この状態では、ストッパー部材65がケース本体10の開口端にあるフランジ11の内側に引っ掛かることでスライド部材30の移動がストップされ、また、ガイドピン50の係止部51がガイド溝(31a,31b)の最後端に位置する。即ち、ここで、開扉状態になる。
【0048】
図5(c)は、プッシュラッチ装置100の突出部本体60の端部を押し込み始めての状態を示す断面図である。図5(c)に示すように、扉を閉めるために扉(即ち、突出部本体60の端部)を押し込むと、スライド部材30がケース本体10の封止端へ移動する。これに対して、ガイドピン50の係止部51がガイド溝(31a,31b)に沿って反対側へ移動する。
【0049】
図5(d)は、プッシュラッチ装置100の突出部本体60の端部を押し込み途中の状態を示す断面図である。図5(d)に示すように、扉を閉めるために扉(即ち、突出部本体60の端部)を押し込み続けると、スライド部材30がさらにケース本体10の封止端へ移動し、同時にガイドピン50の係止部51がガイド溝(31a,31b)に沿って復路31bの出口の位置に到達し、この際に、ガイドピン50の係止部51がバネ54の付勢により復路31bの出口に戻ろうとするが、段差部材33により阻止されることになる。
【0050】
図6(a)は、プッシュラッチ装置100の突出部本体60の端部をさらに押し込む状態を示す断面図である。図6(a)に示すように、突出部本体60の端部を押し込み続けると、スライド部材30がさらにケース本体10の封止端へ移動し、同時にガイドピン50の係止部51が復路31bの出口にある段差部材33の長辺33bに規制されて往路31aへ移動する。
【0051】
図6(b)は、プッシュラッチ装置100の突出部本体60の端部をさらに押し込む状態を示す断面図である。図6(b)に示すように、突出部本体60の端部を押し込み続けると、スライド部材30がさらにケース本体10の封止端へ移動し、同時にガイドピン50の係止部51が往路31aに沿って移動する。
【0052】
図6(c)は、プッシュラッチ装置100の突出部本体60の端部を押し込んだ状態を示す断面図である。図6(c)に示すように、突出部本体60の端部を押し込み続けると、スライド部材30がさらにケース本体10の封止端まで到達し、同時にガイドピン50の係止部51が往路31aの終端位置に到達する。
【0053】
図6(d)は、プッシュラッチ装置100の突出部本体60の端部を押し込んだ状態を示す断面図である。図6(d)に示すように、ガイドピン50の係止部51が往路31aの終端位置に到達すると、バネ54の付勢により復路31bへ移動しようとするが、凸部31cに当たることで阻止される。この際に、突出部本体60の端部への押し込む力を外すと、ガイドピン50の係止部51がバネ40の付勢により平面32cに係止されている。上述した図4(a)に示す状態に戻り、扉等が閉められている状態に相当する。
【0054】
このように本実施の形態において、プッシュラッチ装置100は、ケース本体10と、固定部材20と、スライド部材30と、第1の付勢手段としてのバネ40と、ガイドピン50と、第2の付勢手段としてのバネ54と、突出部本体60とを備える。バネ54は、ガイドピン50の係止部51をガイド溝(31a,31b)の往路31aの終端位置から復路31bの始端側へ付勢するためのコイル状バネであり、ケース本体10の封止端に設けられた固定部材20に軸53に対し垂直方向に装着されている。バネ54は、軸53を支点としてガイドピン50の係止部51をガイド溝(31a,31b)の往路31aの終端位置から復路31bの始端側へ付勢するようになされる。
【0055】
これにより、従来のように、ガイドピンをスムーズにV字形の凹部に案内するために凸部を高く、かつV字形の凹部を深くする必要がなくなり、リリース時のストロークを短くすることができる。そのため、扉と被取付物との間の間隔ができるだけ小さく、近接することができる。
【0056】
また、軸53を支点としてガイドピン50の係止部51をガイド溝(31a,31b)の往路31aの終端位置から復路31bの始端側へ付勢することが容易に実現できる。
【0057】
また、復路31bの出口にガイドピン50の係止部51の進入を阻止する段差を設けることで、ガイドピン50の逆走を確実に防止することができる。
【0058】
図7は、本発明の第2の実施の形態のプッシュラッチ装置200の構成を示す断面図である。図7(a)はガイドピンの揺動平面と平行する断面を示し、図7(b)はガイドピンの揺動平面と垂直する断面を示している。
【0059】
プッシュラッチ装置200は、復路31bの出口にガイドピン50の係止部51の進入を阻止する段差部材33の代わりにガイド溝(31a,31b)の底面に段差33Aを形成すること、およびガイドピン50の端部をガイド溝(31a,31b)の底面へ付勢するバネ24を設けること以外に、上述した第1の実施の形態のプッシュラッチ装置100と同様の構成を有する。
【0060】
図7に示すように、ガイド溝(31a,31b)の底面において、a点の位置が低く、往路31a、復路31bに沿って徐々に上がっていく。即ちb点の位置がa点より高く、c点の位置がb点より高くなっている。これにより段差33Aが形成される。
【0061】
また、復路31bの出口において、ガイドピン50の係止部51の進入を確実に阻止するために、ガイドピン50の端部をガイド溝(31a,31b)の底面へ付勢するバネ24が設けられている。バネ24を設けるために、固定部材20の保持部22にバネ24を装着する穴22aが形成されている。
【0062】
プッシュラッチ装置200の動作は、上述した第1の実施の形態のプッシュラッチ装置100と同様である。詳細な説明を省略する。
【0063】
このように本実施の形態において、プッシュラッチ装置200は、ケース本体10と、固定部材20と、スライド部材30と、第1の付勢手段としてのバネ40と、ガイドピン50と、第2の付勢手段としてのバネ54と、突出部本体60とを備える。バネ54は、ガイドピン50の係止部51をガイド溝(31a,31b)の往路31aの終端位置から復路31bの始端側へ付勢するためのコイル状バネであり、ケース本体10の封止端に設けられた固定部材20に軸53に対し垂直方向に装着されている。バネ54は、軸53を支点としてガイドピン50の係止部51をガイド溝(31a,31b)の往路31aの終端位置から復路31bの始端側へ付勢するようになされる。
【0064】
これにより、プッシュラッチ装置200は、上述した第1の実施の形態と同様の効果が得られると共に、ガイドピン50の係止部51の逆走を確実に防止することができる。
【0065】
図8は、本発明の第3の実施の形態のプッシュラッチ装置300の構成を示す断面図である。
【0066】
プッシュラッチ装置300は、バネ54の代わりに、第2の付勢手段としての磁性体90をガイド溝(31a,31b)の復路31bの始端側に配置したこと、および復路31bの出口にガイドピン50の係止部51の進入を阻止する段差部材33を有しない以外に、上述した第1の実施の形態のプッシュラッチ装置100と同様の構成を有する。
【0067】
図8に示すように、プッシュラッチ装置300は、第2の付勢手段として磁性体90をガイド溝(31a,31b)の復路31bの始端側に設けている。この場合、少なくともガイドピン50の係止部51が磁性体により吸引可能な金属材料から形成されることが条件となる。第2の付勢手段として磁性体90を用いるため、係止部51がガイド溝(31a,31b)の往路31aの終端位置から復路の始端位置までの間にあるときのみ、磁性体90により吸引される。そのため、ガイドピン50の係止部51が復路31bの出口にするとき逆走方向への付勢がなく、復路31bの出口に進入することがなくなるので、復路31bの出口にガイドピン50の係止部51の進入を阻止する段差を設けずに、即ちガイド溝31の底面がフラット状であっても、逆走の可能性はない。
【0068】
このように本実施の形態において、プッシュラッチ装置300は、ケース本体10と、固定部材20と、スライド部材30と、第1の付勢手段としてのバネ40と、ガイドピン50と、突出部本体60と、第2の付勢手段としての磁性体90とを備える。磁性体90はガイド溝(31a,31b)の復路31bの始端側に配置される。
【0069】
これにより、プッシュラッチ装置300は、上述した第1の実施の形態と同様の効果が得られると共に、係止部51がガイド溝(31a,31b)の往路31aの終端位置から復路31bの始端位置までの間にあるとき、第2の付勢手段により係止部51をガイド溝(31a,31b)の往路31aの終端位置から復路31bの始端側へ付勢することができ、復路31bの出口にガイドピン50の係止部51の進入を阻止する段差を設ける必要がなくなる。
【0070】
図9は、本発明の第4の実施の形態のプッシュラッチ装置400の構成を示す断面図である。
【0071】
プッシュラッチ装置400は、バネ54の代わりに、第2の付勢手段としての磁性体90Aをガイド溝(31a,31b)の復路31bの始端側に配置したこと、段差部材33を有しないこと、およびマグネット64をスライド部材30の端部に設けること以外に、上述した第1の実施の形態のシリンダ錠100と同様の構成を有する。
【0072】
図9に示すように、プッシュラッチ装置400は、第2の付勢手段として磁性体90Aをガイド溝(31a,31b)の復路31bの始端側に設けている。磁性体90Aは、突出部本体60の先端に取り付けられているマグネット64に連結され、マグネット64の磁気力を利用するものである。この場合も、少なくともガイドピン50の係止部51が磁性体により吸引可能な金属材料から形成されることが条件となる。第2の付勢手段として磁性体90Aを用いるため、係止部51がガイド溝(31a,31b)の往路31aの終端位置から復路の始端位置までの間にあるときのみ、磁性体90Aにより吸引される。そのため、ガイドピン50の係止部51が復路31bの出口にするとき逆走方向への付勢がなく、復路31bの出口に進入することがなくなるので、復路31bの出口にガイドピン50の係止部51の進入を阻止する段差を設けずに、即ちガイド溝(31a,31b)の底面がフラット状である。
【0073】
また、この例において、スライド部材30の端部がケース本体10から突出可能とされ、マグネット64がスライド部材30の端部に設けられている。このマグネット64は、扉等のパネルPに設けられた金属片Sを吸着することで、扉等を閉じた状態に保持する。
【0074】
このように本実施の形態において、プッシュラッチ装置400は、第2の付勢手段として磁性体90Aをガイド溝(31a,31b)の復路31bの始端側に設けている。磁性体90Aは、突出部本体60の先端に取り付けられているマグネット64に連結され、マグネット64の磁気力を利用するものである。
【0075】
これにより、プッシュラッチ装置400は、上述したプッシュラッチ装置300と同様の効果が得られる。
【0076】
次に、図10は、プッシュラッチ装置500の構成を示す断面図である。図10に示すように、プッシュラッチ装置500は、バネ54、および磁性体90,90Aの代わりに、第2の付勢手段としてガイドピン50の重力を利用するものである。また、プッシュラッチ装置500の基本構成は上述したプッシュラッチ装置100と同様である。
【0077】
プッシュラッチ装置500において、ガイドピン50の係止部51が走行するためのガイド溝(31a,31b)の往路31aはガイド突部32により上に、復路31bは下に分割されている。また、復路31bの出口にガイドピン50の係止部51の進入を阻止する段差部材33が設けられる。段差部材33は短辺33aが復路31bの底面と同じ低い位置にされ、長辺33bが短辺33aより高い位置、即ち、往路31aの底面より高い位置にされている。これにより、復路31bの出口において、ガイドピン50の係止部51の進入を阻止する段差が形成される。
【0078】
この場合、ガイドピン50の係止部51がガイド溝(31a,31b)の往路31aの終端位置に到達すると、ガイドピン50の重力により、ガイド溝(31a,31b)の往路31aの終端位置から復路31bの始端側へ付勢され、下方へ移動する。途中で係止部51が平面32cに係止し、そして、係止が解除されると、復路31bの始端に移動する。
【0079】
このような構成によって、プッシュラッチ装置500を設置する際に、ガイド溝(31a,31b)の往路31aが上に、復路31bが下になるように設置することが必要である。
【0080】
図11は、プッシュラッチ装置100のマグネットと扉間の距離を調整した状態を示す図である。プッシュラッチ装置200,300,500の場合も同様である。
【0081】
上述した図5(b)に示すように、開扉状態では、ストッパー部材65がケース本体10の開口端にあるフランジ11の内側に引っ掛かることでスライド部材30の移動がストップされる。このとき、突出部本体60の慣性力により扉とマグネット64を離し、扉をさらに開きたいこともある一方、危険防止のために扉をその状態で保持させたい場合もある。これに対応するために、マグネット64と扉の距離の調整機能が必要となる。
【0082】
図11に示すように、突出部本体60がケース本体10に対して突出した位置にある際に、突出部本体60を持ちながらスリーブ63を回すと、スリーブ63がマグネット64の先端面より突出するようになる。これにより、マグネット64と扉等のパネルP間の距離を調整することができ、即ち、マグネットによる吸着力を簡単に調整することができる。
【0083】
このように、マグネット64と扉との接触距離を調整可能にすることで、様々の取り付け対象に利用できる。例えば、開き戸の先端と引き出しに使用する場合は、マグネットと扉の離れていく条件が違うため、突出部本体60の突出時に自動的に離れる吸着力が変化する。この場合、マグネット64と扉等の距離を調整し、マグネットによる吸着力を調整することで対応できる。また、建具の条件などにもうまく適合させることができる。
【0084】
なお、上述したプッシュラッチ装置100,200,300,500において、突出部本体60は、中空円筒状で、内部に装着された負荷吸収バネ80を介してスライド部材30の一端に装着され、負荷吸収バネ80の外側にスプリングホルダ70が設けられているものについて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、プッシュラッチ装置400のように、突出部本体60の代わりにマグネット64がスライド部材30の端部に設ける構成にしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
この発明は、中空状の固定部材に可動部材を相対的に押し込むことにより、可動部材が固定部材に対する突出位置と格納位置とに交互に配置されて保持されるプッシュラッチ装置において、扉と被取付物との間の間隔ができるだけ小さく、近接するために、リリース時のストロークを短くする目的に利用できる。
【符号の説明】
【0086】
1 従来のプッシュラッチ装置
2 ケース本体
3 固定部材
4 バネ
5 ガイドピン
5a 軸
5b 係止部
6 スライド部材
6a 往路(ガイド溝)
6b 復路(ガイド溝)
6c 凸部
7 ガイド突部
7a 凹部
8 マグネット
10 ケース本体
11 フランジ
11a 係止面
20 固定部材
21 端部
22,23 保持部
30 スライド部材
31 スライド部本体
31a 往路(ガイド溝)
31b 復路(ガイド溝)
31c 凸部
32 ガイド突部
32a,32b 引掛部
32c 平面
33 段差部材
33a 短辺
33b 長辺
34 端部フランジ
35 嵌合部
40 バネ(第1の付勢手段)
50 ガイドピン
51 係止部
52 軸穴
53 軸
54 バネ(第2の付勢手段)
60 突出部本体
61,62 ねじ部
63 スリーブ
64 マグネット
65 ストッパー部材
65a 凹凸端面
70 スプリングホルダ
72 凹凸端面
80 負荷吸収バネ
90,90A 磁性体
100,200,300,400,500 プッシュラッチ装置
S 金属片
P パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口端と封止端とを有する筒状のケース本体と、
一端が軸を介して前記ケース本体の封止端に揺動可能に支持され、他端が係止部を有するガイドピンと、
前記ケース本体から突出可能な突出部本体と、該突出部本体が前記ケース本体内へ押し込む過程に対応する往路と該突出部本体が前記ケース本体から突出する過程に対応する復路を備え前記ガイドピンの係止部の走行を案内するガイド溝とを有し、前記ケース本体の内に軸線方向に移動可能に装着されたスライド部材と、
前記スライド部材を前記ケース本体の開口端へ付勢する第1の付勢手段と、
前記ガイドピンの係止部を前記ガイド溝の往路の終端位置から復路の始端側へ付勢する第2の付勢手段とを備えることを特徴とするプッシュラッチ装置。
【請求項2】
前記第2の付勢手段は、前記軸に対し垂直方向に配置されたコイル状バネであり、前記軸を支点として前記ガイドピンの係止部を前記ガイド溝の往路の終端位置から復路の始端側へ付勢することを特徴とする請求項1に記載のプッシュラッチ装置。
【請求項3】
前記復路の出口に前記ガイドピンの係止部の進入を阻止する段差を有することを特徴とする請求項1または2に記載のプッシュラッチ装置。
【請求項4】
前記第2の付勢手段は、前記ガイド溝の復路の始端側に配置された磁性体であり、
前記ガイドピンは、少なくとも係止部が前記磁性体により吸引可能な金属材料から形成され、
前記係止部が前記ガイド溝の往路の終端位置から復路の始端位置までの間にあるとき、前記第2の付勢手段は、前記係止部を前記ガイド溝の往路の終端位置から復路の始端側へ付勢することを特徴とする請求項1に記載のプッシュラッチ装置。
【請求項5】
前記突出部本体の先端にマグネット装着部を有し、前記マグネット装着部の外周面にネジが刻設され、前記外周面のネジに螺合する外層管材が設けられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のプッシュラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−242413(P2010−242413A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93460(P2009−93460)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000119449)磯川産業株式会社 (41)
【出願人】(000169329)アトムリビンテック株式会社 (81)
【Fターム(参考)】