説明

プラスチックの分解法及びそれを利用した有用物質の製造方法

本発明は、バイオサーファクタントの存在下でプラスチックを分解する方法、プラスチックに微生物を接触させプラスチックを分解する方法、プラスチックに微生物を接触させ微生物の作用によりプラスチックを分解し、更に分解されたプラスチックの成分を微生物により転換することからなるプラスチックから有用物質を製造する方法、バイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素の共存下でプラスチックに微生物を接触させ、微生物の作用によりプラスチックを分解する方法、並びに、界面活性物質をコードする遺伝子を含むDNA、プラスチック分解酵素をコードする遺伝子を含むDNA、有用物質をコードする遺伝子を含むDNAから選択される少なくとも一つ以上のDNAによって組み換えられた形質転換菌、それらの新規遺伝子及びそれにコードされる蛋白質に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、プラスチック結合性タンパク質の存在下でプラスチックを分解する方法、特に、アスペルギルス・オリゼ又はアスペルギルス・ソーヤの作用によりプラスチックを分解する方法、更に、生分解性プラスチックに微生物を接触させ、プラスチックを分解する過程で、プラスチック中の炭素を微生物により新たな有用物質に転換する生産技術、並びに、以上の方法に使用される各種のタンパク質及びそれをコードする遺伝子等に関するものである。
【背景技術】
日本のプラスチックの需要量は、1997年の統計によれば1400〜1500万トンに達し、そのうち900万トン以上が廃棄プラスチックとして排出されており、環境問題及び化石燃料の消費抑制の観点から対応が必要とされている(社団法人プラスチック処理協会発行「プラスチックリサイクルの基礎知識」)。その対策として、石油化学系プラスチックの焼却による炭酸ガスおよびダイオキシン類の発生と、非分解性プラスチックの環境への廃棄の抑制を目的に、生分解性プラスチックが開発されてきた。生分解性プラスチックは、2010年には全プラスチックの約3−7%、すなわち50−100万トン/年の流通量が予測されているが(「生分解性ポリマーの市場拡大シナリオ」株式会社富士キメラ総研版,23頁)、現状の技術である生分解性プラスチックの自然土壌中における分解処理許容量の限界と生分解性プラスチック自身のコスト高が問題として指摘されている。
ところで、糸状菌の中でも、特にアスペルギウス・オリゼ(キコウジ菌)等を含む麹菌は、清酒、みそ、醤油、及び、みりん等を製造する、わが国における醸造産業において古くから利用され、直接に食されてきた菌類であり、米国のFDA(食品医薬局)によりGRAS(Generally Recognized as Safe)にリストアップされている安全な遺伝子源である。
更に、麹菌は、蛋白質などを菌体外に分泌する能力に優れており、その為に、様々な有用物質の生産に利用されている。
特許文献1には、微生物として放線菌の一種であるアミコラトプシス・メディテラーネイHT−6を用いてポリブチレンサクシネート系樹脂を分解する方法が記載されている。
特許文献2には、リパーゼ及びクチナーゼ等の酵素を用いる生分解性ポリマーの酵素分解方法が記載されている。
これらの方法ではバイオサーファクタントを反応系に共存されることについては何等開示されていない。又、プラスチック分解成分以外の有用物質を製造することについても何等教示されていない。
特許文献1: 特開平9−25271号公報
特許文献2: 特表2001−512504号公報
現状の生分解性プラスチック分解技術は土壌中での微生物によるプラスチックの水と二酸化炭素への単純な分解を前提としており、有用付加価値物質への転換を前提にはしていない。この状況は国内外を問わず同じである。現在の生分解性プラスチックは従来の石油化学系プラスチックに比較してコスト高(3〜5倍)であり(「’01生分解性ポリマーの現状と新展開」株式会社ダイヤリサーチマーテック,株式会社中央リサーチセンター版513−521頁)、コストダウンあるいは何らかのコスト回収技術が求められている。
更に、生分解性プラスチックの土壌埋め立てによる分解は、もっぱら地表近く(深さ30〜50cm程度)のみで行なわれているが、元来土壌中の菌密度は少なく、深い部分に至ってはさらに菌密度が低下することから、自然界における土壌中での分解速度は遅い。したがって、生分解性プラスチックの需要が予測通りに拡大した場合、大量に廃棄されるプラスチック負荷を土壌中での分解で賄いきるのは不可能である。さらに、国土の狭い日本においては広大な埋め立て分解地の確保が困難であり、廃棄量の多い都市近郊では特に問題となる。現在は包装材・農業資材・コンポスト対応包材が先行しているが、今後、自動車内装部品、コンピュータ・家電包材など大量消費財への生分解性プラスチックの利用が進展した場合、生分解性プラスチックの高密度処理施設が必要となる。生分解性ポリマー使用に関する問題点としても各種アンケート結果によれば、コスト高と同時に大量処理施設のインフラ整備が指摘されている(「’01生分解性ポリマーの現状と新展開」株式会社ダイヤリサーチマーテック,株式会社中央リサーチセンター版513−521頁)。
これらの課題に対して、本発明者らは鋭意研究した結果、全く新しいコンセプトとして、バイオサーファクタントのような界面活性物質とプラスチック分解酵素を生産する微生物あるいは界面活性物質及び/又はプラスチック分解酵素そのものを活用することで、高密度のプラスチックの大規模分解を効率的に進行させることに加えて、酵素タンパク質や抗生物質などの有用物質生産性の高い微生物(糸状菌や放線菌)を用いることによって、有用物質の生産も同時に行うことができる新規な方法を発明するにいたった。
【発明の開示】
本発明は、プラスチック結合性タンパク質等のバイオサーファクタントがプラスチックの疎水表面に吸着し、それによって、プラスチック分解酵素と共同してプラスチックの分解を有効に促進することできる、という新たな知見に基づくものである。
即ち、本発明は第一の態様として、プラスチック結合性タンパク質等のバイオサーファクタントの存在下でプラスチックを分解する方法、特に、プラスチック分解酵素を用いてプラスチックを分解する方法に係る。
本発明は、第二の態様として、プラスチックに微生物を接触させ、微生物の作用によりプラスチックを分解し、更に、分解されたプラスチックの成分を微生物により有用物質に転換することから成る、プラスチックから有用物質を製造する方法に係る。
この方法は、プラスチック廃材を微生物の発酵基質として分解しつつ、付加価値の高い有用物質(酵素・医薬品・化成品など)の生産に転換する新たな分解・物質生産が可能な循環再生システムとして有用である。
ここで、有用物質の種類に特に制限はなく、当業者に公知の任意の物質を包含するが、例えば、有用物質の生合成系に関与する酵素等のタンパク質、一次代謝産物(有機酸等)、二次代謝産物(抗生物質及び化成品前駆体等)、及びバイオサーファクタント等を挙げることが出来る。特に、有用物質が菌体外に分泌される物質である場合には、製造した後の精製等の操作が容易となり、効率及び経済性の点で有利である。又、プラスチックが分解されたときに得られるモノマー及びオリゴマーもプラスチック再生のための原料として有用であるので、有用物質に含めることが出来る。
プラスチックを分解する微生物と、分解されたプラスチックの成分を有用物質に転換する微生物とは、同一であってもよいし、夫々別の種類の微生物でも良い。
分解されたプラスチックの成分を有用物質に転換する為に使用する微生物としては、例えば、紫外線照射、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)等の薬剤による突然変異処理で得ることが出来、有用物質を高発現する変異株を挙げることが出来る。更に、以下に記載するような、有用物質の生合成系に関与する酵素等の各種の有用物質をコードする遺伝子によって組換えられ、該酵素を高発現する形質転換菌を使用することが好ましい。
更に本発明は、第三の態様として、バイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素の共存下で、プラスチックに微生物を接触させ、微生物の作用によりプラスチックを分解することから成る、プラスチックを分解する方法に係る。
以上の本発明の各態様で使用する微生物は、プラスチックを分解する能力、又は、分解されたプラスチックを転換して有用物質を産生する能力を有するものである限り、特に制限はないが、微生物の代表例として、糸状性細菌及び真核糸状真菌を挙げることが出来る。
糸状性細菌の例としてはストレプトマイセス属等の放線菌がある。更に、ストレプトマイセス属のストレプトマイセス・グリゼウスまたはストレプトマイセス・セリカラーを挙げることが出来る。
一方、真核糸状真菌としては、アスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、リゾプス(Rhizopus)属、ムコール(Mucor)属、フミコーラ(Humicola)属、マグナポルサ(Magnaporthe)属、メタリチウム(Metarhizium)属、ノイロスポラ(Neurospora)属、モナスカス(Monascus)属、アクレモニウム(Acremonium)属及びフザリウム(Fusarium)属を挙げることが出来る。アスペルギルス(Aspergillus)属には、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、及びアスペルギルス・ニドランス(Aspergillus nidulans)等が包含される。
この中で、アスペルギルス・オリゼRIB40株(FERM P−18273)は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1)に平成13年3月28日付けで寄託されている。
更に、Aspergilus oryzae pN−cha株(クチナーゼ、ハイドロホービン、アミラーゼ三重高発現株)は、特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づき、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1)に2003年(平成15年)9月11日付けで国際寄託され、受託番号:FERM BP−08486を付されている。
更に、上記の糸状性細菌及び真核糸状真菌等から当業者に公知の遺伝子工学的手法によって得られる各種形質転換菌も本発明で有利に使用することが出来る。
即ち、本発明のハイドロホービン等のプラスチック結合性タンパク質若しくはバイオサーファクタントをコードする遺伝子を含むDNA、クチナーゼ等のプラスチック分解酵素をコードする遺伝子を含むDNA、及び、有用物質(例えば、有用物質の生合成や、高分子物質の低分子化、各種転位反応により有用物質を生成するような酵素である水酸化酵素や酸化酵素、ポリケタイド合成酵素、チトクロームオキシダーゼ、エステラーゼ,フェノールオキシダーゼ,α−アミラーゼ,セルラーゼ,リパーゼ,及びプロテアーゼ)をコードする遺伝子を含むDNAから選択される少なくとも一つ以上のDNAによって組換えられた形質転換菌を挙げることが出来る。これらの形質転換菌は、該界面活性物質を高発現し、プラスチック分解酵素を高発現し、又は有用物質の生合成に関与する酵素を高発現することが可能である。
従って、本発明は、第四の態様としてこのような各種形質転換菌にも係るものである。
このような形質転換菌を作成する元となる微生物の例として、上記の微生物以外に、アスペルギルス属であるアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・パラシティクス(Aspergillus parasiticus)、アスペルギルス・ノミウス(Aspergillus nomius)、アスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamari)及びアスペルギルス・レペンス(Aspergillus repens)等を挙げることが出来る。
更に、第五の態様として、本発明は、上記の方法等に使用することが出来る、新規なプラスチック結合性タンパク質及びプラスチック分解酵素、並びに、これらをコードする遺伝子に係る。それらは、特に、アスペルギルス・オリゼ由来のものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、A.oryzae等のアスペルギルス属糸状菌がPBS転換能力を持つことを確認した写真である。
図2は、A.oryzaeがPLA転換能力を持つことを確認した写真である。
図3は、DNAマイクロアレイ解析用の培地の組み合わせを示す。
図4は、PBS存在時に特異的に発現する遺伝子群を模式的に示す。
図5は、Su3PP5、Su3PE5、Su3Bu5のDNAマイクロアレイの結果を視覚的に解析した結果であり、各数字は、遺伝子発現を(Cy5/Cy3)の比で表わしている。
図6は、ハイドロホービンの完全長を含むJZ3981の塩基配列を示す。
図7は、麹菌用ハイドロホービン高発現プラスミドの構築を示す模式図である。
図8は、ハイドロホービン高発現麹菌が高度にハイドロホービンを培養上清に分泌していることを示すゲル電気泳動(SDS−PAGE)の写真である。
図9は、PBS分解酵素であるクチナーゼ遺伝子が染色体DNA中に挿入されたアスペルギルス・オリゼ形質転換株の培養上清中にのみPBS分解酵素精製標品と同じ位置にタンパク質が発現していることを示すゲル電気泳動(SDS−PAGE)の写真(左)、及び該形質転換株によるPBSの分解を示す写真(右)である。
図10は、glaA 142 promoterを目的遺伝子の上流に融合したpPTR−gla−hypの作製を示す。
図11は、クチナーゼ−ハイドロホービン共高発現株が取得されたことを示す、SDS−PAGEの写真である。
図12は、ハイドロホービン高発現用プラスミドpPTR−eno−hypの作製を示す。
図13は、麹菌αアミラーゼ高発現用プラスミドpNG−amyの作製を示す。
図14は、クチナーゼ−ハイドロホービン−αアミラーゼ三重共高発現株がハイドロホービンを高発現することを示す、SDS−PAGEの写真である。
図15は、glaA 142 promoterをhyp B遺伝子の上流に融合させたpNG−gla−hyp Bの作製を示す。
図16は、glaA 142 promoterをhydrophobin−315遺伝子の上流に融合させたpNG−gla−hydrophobin−315の作製を示す。
図17は、糸状菌由来ハイドロホービン及びその類似体の系統樹を示す。
図18は、各種生分解性プラスチックへのハイドロホービンの吸着の様子を示す。
図19は、糸状菌由来タンパク質分解酵素及びその類似体の系統樹を示す。
図20は、PBS分解培養上清中のオクチルセルロファインカラムの溶出画分中のタンパク質濃度を示すグラフ、及び各画分中に含まれるタンパク質の存在を示すSDS−PAGEの写真である。
図21は、PBS結合タンパク質高発現系の構築を示す。
図22は、アスペルギルス・オリゼ形質転換株の培養上清中にのみ目的タンパク質の位置(約14kDa)にバンドが観察されたことを示すSDS−PAGEの写真である。
図23は、疎水表面上での約14kDaタンパク質及びハイドロホービン高発現株の生育が野性株のものを上回ることを示す写真である。
図24は、インビトロでのPbpAのPBSへの吸着を示すSDS−PAGEの写真である。
図25は、PbpA及びPbpB相同配列の系統樹を示す。
図26は、白金線PBS被覆物のクチナーゼによる分解を示す写真である。
図27は、RolAによるPBSフィルムのクチナーゼ分解の促進を示す写真である。
図28は、in vitroでのRolAのクチナーゼによるPBS乳化液分解促進効果を示す。
図29は、PbpAをPBSに吸着させた際の分解促進の様子を示す。
図30は、PBSフィルムのクチナーゼ分解に対するハイドロホービン及び人工界面活性剤との比較を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の第一の態様において使用するバイオサーファクタントは、一般的に、生物が生産する界面活性剤であり、特に、微生物が菌体外に生産する界面活性剤であり、菌体プラスチック吸着因子の一種である。
バイオサーファクタントとしては、プラスチック結合性タンパク質以外に、当業者に公知の任意の物質、例えば、リン脂質や親水性の糖と疎水性の脂肪酸が結合しているグリコリピド等がある。例えば、マンノシルエリスリトールリピッド及びラムノリピッド等の糖脂質エステル、環状リポペプチド、環状ポリペプチド、並びに、サーファクチン等の両親媒性タンパク質等を挙げることが出来る。
プラスチック結合性タンパク質は、以下の実施例で具体的に示されるようなハイドロホービン及びそのホモログ類、並びにその他のプラスチック結合性タンパク質を挙げることが出来る。その取得源に特に制約はないが、上記の各種の糸状性細菌及び真核糸状真菌由来のもの、特に、以下の実施例に具体的に記載したような、アスペルギルス・オリゼ等のアスペルギルス属カビに代表される糸状性細菌などの各種微生物由来のものを使用することが出来る。
一方、本発明方法で使用するプラスチック分解酵素も当業者に公知の任意のものを使用することが出来る。例えば、エステラーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、リパーゼ、クチナーゼ、及びセリンハイドロラーゼ等から選択される少なくとも一種を使用することが出来る。プラスチック分解酵素も、上記の各種の糸状性細菌及び真核糸状真菌由来のもの、特に、以下の実施例に具体的に記載したような、例えば、アスペルギルス・オリゼ等のアスペルギルス属カビに代表される糸状性細菌などの各種微生物由来のものを使用することが出来る。
従って、例えば、プラスチック結合性タンパク質としてアスペルギルス・オリゼ由来のハイドロホービン、プラスチック分解酵素としてアスペルギルス・オリゼ由来のクチナーゼを使用することが出来る。
本発明方法で分解の対象となるプラスチックに、特に制限はない。その代表例として、「生分解性プラスチック」として知られているものを挙げることが出来る。
生分解性プラスチックとは、「使用状態ではその使用目的において必要とされる充分な機能を保ち、廃棄されたときには土中又は水中の微生物の働きによって、より単純な分子レベルにまで分解されるプラスチック」ともいうべき物質である。分解の程度に基づいて、「完全分解型生分解性プラスチック」と「部分分解(崩壊)型生分解性プラスチック」とに分けられ、更に、材料及び製造方法からは、「微生物生産系」、「天然高分子系」及び「化学合成系」に大きく分けることが出来る。本発明方法では、これらのいずれの種類の生分解性プラスチックも使用することが出来る。
従って、本発明方法において用いられるプラスチックの具体例は、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニール、ナイロン、ポリスチレン、デンプン、及びそれらの混合物から成る群から選択される。更に、ポリエステルとしては、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブブチルサクシネート・アジペート(PBSA)、ポリ乳酸(PLA)、脂肪族ポリエステル、ポリカプロラクトンそれらの混合物から成る群から選択される。
更に、本発明の全ての方法において、分解の対象となるプラスチックは、所謂「複合材料」の一構成要素として含まれているものでもよい。ここで、「複合材料」とは一般的に2種類以上の異なる物質から構成されている材料であり、例えば、プラスチックと各種金属及びその他の無機物質から構成されているものがある。このような複合材料は各種産業素材として多方面で各種の目的に利用されている。
従って、本発明により、プラスチックを含む複合材料から、プラスチック部分を選択的に分解して、プラスチックをモノマー又はオリゴマーとして回収し、一方で、プラスチックを実質的に含まない金属等のその他の部分を回収することが出来る。
本発明方法において、プラスチックの分解反応は、目的・規模などに応じて、当業者に公知の任意の反応系(例えば、水溶系及び固相系)及び反応条件を適宜選択して実施することが出来る。例えば、プラスチック乳化液を含む液体培養系及びプラスチック固型ペレット又はプラスチック粉体等を使用する固体培養系等の当業者に公知の任意の培養系において行うことが出来る。
従って、分解の対象となるプラスチックは、乳化液状及び固型ペレット等の、夫々の培養系に応じた任意の形態をとることが出来る。
本発明の第一の態様において、バイオサーファクタントの存在下でプラスチックを分解させるためには、バイオサーファクタントを反応系に添加する必要があるが、その添加量、時期、手段及び方法等は当業者が適宜選択することが出来る。
本発明の効果を得るには、まず、バイオサーファクタントがプラスチックに効果的に吸着するように両者間の疎水的相互作用が強まるような条件下で処理することが好ましい。
その為に、本発明方法の好適例としては、低水分活性状態でバイオサーファクタントをプラスチックと混合するステップ、高水分活性状態でプラスチック分解酵素によりプラスチックを分解するステップからなる。
ここで、「水分活性」は当業者に公知の因子であり、「溶質の溶けた水溶液と純粋の蒸気圧との比を水分活性」と定義するものである(John A.Troller & J.H.B.Christian著,”Water Activity and Food”Academic Press,Inc.)。本発明において、「低水分活性状態」とは、バイオサーファクタントがプラスチックの疎水表面に有効に吸着できるような条件を意味し、具体的には、例えば、水分活性が0.97以下、好ましくは0.95以下、さらに好ましくは、0.9以下であるような状態をいう。又、「高水分活性状態」とは、このような低水分活性状態ではない状態を意味する。この時の溶質としては、例えば、塩類、糖類、アルコール類などが挙げられる。
従って、一具体例として、低水分活性状態でフィルム状又はペレット状のプラスチックとバイオサーファクタントを混合して、該プラスチックに有効量のバイオサーファクタント吸着させ、その後、水分活性を高めてプラスチック分解酵素により該フィルムの分解を促進させることが可能である。
或いは、バイオサーファクタントがプラスチックの間の疎水的相互作用が強まるような別の好適例としては、高塩濃度状態でバイオサーファクタントをプラスチックと混合するステップ、低塩濃度状態でプラスチック分解酵素によりプラスチックを分解するステップからなる。ここで、「高塩濃度状態」とはバイオサーファクタントがプラスチックの疎水表面に有効に吸着できるような条件を意味し、具体的には、例えば、塩としてNaClを用いた場合、濃度が4%以上、好ましくは8%以上、さらに好ましくは14%以上であるような状態をいう。又、「低塩濃度状態」とは、このような高塩濃度状態ではない状態を意味する。しかしながら必ずしも低溶質濃度状態でプラスチック分解酵素を作用させる必要はなく、高溶質濃度状態で、サーファクタントを結合させ、その状態でプラスチック分解酵素を作用させることもできる。
又、本発明方法の反応温度としては、例えば、0〜100℃、好ましくは、0〜80℃、より好ましくは、15〜80℃である。
更に、プラスチックの分解により発生するモノマー及びオリゴマーなどの酸性物質の影響で反応溶液が酸性化し、その結果、反応系のpH値がプラスチック分解酵素の至適pH範囲から外れることがあるので、それを防ぐために、分解反応を高緩衝能を有する緩衝液中で実施したり、又は、分解反応中に、外部から塩基性物質を加えるなどして適宜反応系を中和し、適当な中性状態、例えば、pH4〜11、好ましくはpH6〜10、より好ましくはpH7〜9に維持することが好ましい。
更に、バイオサーファクタント及びプラスチック分解酵素は、夫々、タンパク質製剤として使用することも出来るし、このようなタンパク質製剤を用いずに、プラスチックにアスペルギルス・オリゼ又はアスペルギルス・ソーヤを接触させ、アスペルギルス・オリゼ又はアスペルギルス・ソーヤがその場で産生するバイオサーファクタント及びプラスチック分解酵素の作用によりプラスチックを分解することも可能である。
本発明の第二〜第四の各態様において、バイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素を培養系に共存させることにより、プラスチックの分解を促進することが出来る。これらの物質は微生物自体により産生されたものでも良いし、それらに加えて、更に培養系の外部より添加することが可能である。添加の量及び割合・添加の時期等の諸条件は当業者が適宜選択することが出来る。これらの物質は必ずしも同時に添加する必要はなく、方法の各段階で逐次的に添加することも可能である。
界面活性物質若しくはバイオサーファクタントを反応系叉は培養系に共存させることにより、微生物のプラスチックへの接触を増強することが出来、プラスチックの分解効率を促進させることが出来る。
培養系に共存させることができるバイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素は、既に本発明の第一の態様において記載したものである。
既に記載したように、本発明方法においては、バイオサーファクタント、プラスチック分解酵素、及び/又は有用物質を高発現する形質転換菌を使用することによって、プラスチックを分解し、分解されたプラスチックを有用物質に転換することをより促進することが可能となる。
本発明方法においては、上記各物質をコードする遺伝子を夫々別の微生物に導入して、こうして得られた複数種類の形質転換菌を用いて反応させることができる。即ち、バイオサーファクタントをコードする遺伝子によって組換えられた形質転換菌、プラスチック分解酵素をコードする遺伝子によって組換えられ形質転換菌、及び、有用物質遺伝子によって組換えられ形質転換菌のうちの任意の組み合わせからなる複数の形質転換菌を使用することによって本発明の各方法を実施することができる。
尚、本発明の形質転換菌において導入される、バイオサーファクタント、プラスチック分解酵素、又は有用物質をコードする遺伝子は一種類とは限らず、夫々、複数種類のバイオサーファクタントの遺伝子、複数種類のプラスチック分解酵素の遺伝子、又は複数種類の有用物質の遺伝子で組換えることも可能である。
或いは、実施例に記載されているように、同一の微生物をバイオサーファクタント、プラスチック分解酵素をコードする双方の遺伝子によって組換えられた、この両物質が同時に高発現される共高発現菌である形質転換菌を使用することが出来る。その結果、プラスチック分解酵素を生産する微生物菌体がプラスチック表面により強く吸着して、プラスチック分解酵素を生産することからプラスチック分解が促進される。
こうして得られたプラスチックを分解する能力のある形質転換菌と有用物質生産用の微生物の2種類の微生物を共存させて培養することによって有用物質の製造を行なうことも可能である。
更に、実施例に記載されているように、同一の微生物をバイオサーファクタント、プラスチック分解酵素、及び有用物質の夫々をコードする遺伝子によって組換えられた、これらの物質が同時に高発現される三重共高発現菌である形質転換菌を使用することが出来る。
例えば、上記の共高発現菌を元の菌株として使用して、既に記載したように、有用物質を高発現する変異株、又は、有用物質をコードする遺伝子によって組換えられこれらの物質を高発現する形質転換菌を作成することによって、プラスチック分解能を高めた微生物に有用酵素の遺伝子を導入して高発現させることが可能となり、こうして得られる一種類の三重共高発現菌である形質転換菌を使用することによって、プラスチックを分解すると同時に有用物質の生産を効率よく行なわせることができる。
本発明において、複数種類の微生物を使用する場合には、これら複数種類の微生物を同時に培養する共培養系で実施したり、又は、本発明方法が夫々分解反応及び転換反応を担う複数の連続的な培養段階から構成されており、その各段階において、夫々前の段階で得られた培養液に更に異なる微生物を逐次的に作用させて処理することも可能である。
又、以上のような各種形質転換菌を使用した場合でも、更に、界面活性物質若しくはバイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素を、例えば外部より添加することによって反応系に共存させ、プラスチックの分解及び転換を更に効率化することも可能である。
界面活性物質としては、当業者に公知の任意の物質を使用することが出来る。しかしながら、生物、特に、微生物が細胞表面又は菌体外に生産する生物系界面活性物質であるバイオサーファクタントが環境面等の点で好ましい。
本発明の微生物を利用してプラスチックを分解する方法、及び、プラスチックから有用物質を製造する方法において、分解反応及び転換反応は、プラスチック乳化液を含む液体培養系及びプラスチック固型ペレット又はプラスチック粉体等を使用する固体培養系等の当業者に公知の任意の培養系において行うことが出来る。
従って、分解の対象となるプラスチックは、固型ペレット状及び乳化液等の、夫々の培養系に応じた任意の形態をとることが出来る。培養液及び培地等の組成、並びに、温度、pH等の各種培養温度条件は、プラスチック及び使用する微生物の種類等に応じて当業者が適宜選択することが出来る。
ただし、既に記載したように、バイオサーファクタントとプラスチック分解酵素とが共同して有効に作用してプラスチックを分解させるためには、まず、バイオサーファクタントがプラスチックに効果的に吸着するように両者間の疎水的相互作用が強まるような条件下で処理することが好ましい。
従って、例えば、プラスチックに緩衝液等を添加して適当な低水分活性状態とした後、本発明の形質転換菌のような微生物の菌体(細胞、胞子、菌糸など)を接種して恒温恒湿器内で培養して麹を作成し、それによって、微生物が産生するバイオサーファクタントがプラスチックに作用した後、適当な緩衝液を加えて高水分活性状態にし、プラスチック分解酵素によりプラスチックを分解する方法が考えられる。この際に、外部からの界面活性剤又はバイオサーファクタントの添加は低水分活性状態で行ない、一方、プラスチック分解酵素の添加は高水分活性状態で行なうことが好ましい。
尚、既に記載したように、分解する際には、プラスチックの分解により発生するモノマー及びオリゴマーなどの酸性物質の影響を防ぐために、高緩衝能を有する緩衝液を使用したり、又は、分解反応中に、外部から塩基性物質を加えるなどして適宜反応系を中和し、中性状態に維持することが好ましい。
本発明で使用するアスペルギルス・オリゼ由来のハイドロホービン及びハイドロホービンホモログ遺伝子の具体例として、以下の(a)又は(b)ポリペプチドをコードする塩基配列を含むDNA:
(a)配列番号:1、2又は3で示されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一であるアミノ酸配列からなるポリペプチド、(b)(a)で示されるアミノ酸配列において、一部のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなりハイドロホービンと実質的に同等の機能を有するポリペプチド、を挙げることが出来る。
別の具体例として、以下の(a)又は(b)のDNA:
(a)配列番号:1、2又は3でで示される塩基配列又はその部分配列を含むDNA、(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、(a)のDNAと実質的に同等の機能を有するDNA、を挙げることが出来る。
本発明で使用するアスペルギルス・オリゼ由来のプラスチック分解酵素遺伝子の具体例として、以下の(a)又は(b)ポリペプチドをコードする塩基配列を含むDNA:
(a)配列番号:4又は5で示されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一であるアミノ酸配列からなるポリペプチド、(b)(a)で示されるアミノ酸配列において、一部のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなりプラスチック分解酵素と実質的に同等の機能を有するポリペプチド、を挙げることが出来る。
別の具体例として、以下の(a)又は(b)のDNA:
(a)配列番号:4又は5で示される塩基配列又はその部分配列を含むDNA、(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、(a)のDNAと実質的に同等の機能を有するDNA、を挙げることが出来る。
本発明で使用するアスペルギルス・オリゼ由来のプラスチック結合性タンパク質遺伝子の具体例として、以下の(a)又は(b)ポリペプチドをコードする塩基配列を含むDNA:
(a)配列番号:6又は7で示されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一であるアミノ酸配列からなるポリペプチド、(b)(a)で示されるアミノ酸配列において、一部のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなりプラスチック結合性タンパク質と実質的に同等の機能を有するポリペプチド、を挙げることが出来る。
別の具体例として、以下の(a)又は(b)のDNA:
(a)配列番号:6又は7で示される塩基配列又はその部分配列を含むDNA、(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、(a)のDNAと実質的に同等の機能を有するDNA、を挙げることが出来る。
ここで、ポリペプチドの「機能」とは、それが細胞(菌体)の内部及び/又は外部において示す生物学的機能又は活性を意味する。更に、「実質的に同等」とは、それらの示す機能(活性)が程度の差はあるものの細胞(菌体)の内部及び/又は外部における機能として同等であると見做し得るものであることを示す。
本発明DNAは当業者に公知の方法で調製することが出来る。例えば、寄託されている菌株から実施例で記載した方法によって容易にクローニングすることが出来る。或は、本明細書に記載された本発明DNAの塩基配列又はアミノ酸産配列の情報に基づき、当業者に周知の化学合成、又は、本発明のプライマーを使用したPCRにより増幅して調製することも出来る。
本明細書において、「ストリンジェントな条件下」とは、各塩基配列間の相同性の程度が、例えば、全体の平均で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上であるような、高い相同性を有する塩基配列間のみで、特異的にハイブリッドが形成されるような条件を意味する。具体的には、例えば、温度60℃〜68℃において、ナトリウム濃度150〜900mM、好ましくは600〜900mM、pH6〜8であるような条件を挙げることが出来る。
ハイブリダイゼーションは、例えば、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M.Ausubel et al.,1987))に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
本発明における特定のアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、該アミノ酸配列と全アミノ酸配列に亘ってアラインメントして比較した場合に、全体の平均で80%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは99%以上のアミノ酸が同一であるようなアミノ酸配列を意味する。従って、或るアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列から成るポリペプチドは、該アミノ酸配列から成るポリペプチドと実質的に同等の機能を有するものと考えられる。
又、本発明ポリペプチドにおける特定のアミノ酸配列において一部のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列とは、該アミノ酸配列から成るポリペプチドと実質的に同等の機能を有する限りにおいて、好ましくは、1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加したアミノ酸配列、或いはそれらを組み合わせたアミノ酸配列から成るものと意味する。又、ポリペプチドの「機能」とは、それが細胞(菌体)の内部及び/又は外部において示す生物学的機能又は活性を意味する。
上記の特定のアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列から成るポリペプチド、又はその一部のアミノ酸が欠失、置換又は付加したアミノ酸配列から成るポリペプチドは、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法、及びPCR法等の当業者に周知の方法を適宜組み合わせて、容易に作成することが可能である。
尚、その際に、実質的に同等の機能を有するためには、当該ポリペプチドを構成するアミノ酸のうち、同族アミノ酸(極性・非極性アミノ酸、疎水性・親水性アミノ酸、陽性・陰性荷電アミノ酸、芳香族アミノ酸など)同士の置換が可能性として考えられる。又、実質的に同等の機能の維持のためには、本発明の各ポリペプチドに含まれる機能ドメイン内のアミノ酸は保持されることが望ましい。
本発明の各方法で有利に使用することができる微生物の好適例として既に記載した各種形質転換菌は、当該技術分野における周知の様々な技術及び手段を用いて、夫々のDNA又は遺伝子を含む組換えベクターを作成し、該組換えベクターで上記の糸状性細菌、真核糸状真菌、及びそれらの変異株等の宿主を、例えば、プロトプラストーPEG法、エレクトロポレーション法、Ti−プラスミド法、及びパーティクルガン等のような当業者に公知の組換え法によって得ることが出来る。
既に記載したように、これら形質転換菌においては各物質の生産誘導の抑制が解除されていることが望ましい。その為には、例えば、これらの物質をコードする遺伝子を構成的発現プロモーター又は各種の誘導型発現プローター等の制御下で発現させることができる。その結果、これら物質を高発現され、細胞表面又は菌体外に多量に生産されプラスチック分解が促進され、更に、有用物質の生産が促進される。
これらの各種プロモーターは当業者に公知である。例えば、アスペルギルス・オリゼ用の構成的発現プロモーターとしては、enoAプロモーター、pgkAプロモーター、及びtef1プロモーター等を挙げることが出来る。又、アスペルギルス・オリゼ用の誘導型発現プロモーターとしては、マルトースを誘導基質とするグルコアミラーゼプロモーター又はα−アミラーゼプロモーター、及びキシロースを誘導基質とするキシラナーゼプロモーター等を挙げることが出来る。
【実施例】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。なお、実施例における各種遺伝子操作は、上記のCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M.Ausubel et al.,1987)に記載されている方法に従った。
【実施例1】
(1)菌体プラスチック吸着因子−ハイドロホービン遺伝子の取得
(1−1)A.oryzaeによる生分解性プラスチック転換確認
[材料]
▲1▼試薬
特にことわりの無い限り、ナカライテスク(株)の特級試薬を用いた。生分解性プラスチックとしてポリブチレンサクシネート(PBS)を選択し、PBSエマルジョンは昭和高分子(株)製のビオノーレエマルジョンOLX−07527を用いた。試薬の調製はミリQ水を用いた。
▲2▼菌体
麹菌Aspergillus oryzae RIB40を用いた。
▲3▼培地
以下の表1に示した。

[方法]
炭素源をPBSに限定した最少寒天培地(PBS emulsion minimal medium)に各種のアスペルギルス属糸状菌(A.oryzae,A.sojae,A.kawachii,A.awamori,A.niger,A.nidulans)の胞子懸濁液をスポットし37℃で7日間培養した。同様にPBSを唯一の炭素源とした最少液体培地5mlにA.oryzae胞子懸濁液を終濃度0.5×10個/mlとなるよう植菌し、30℃で5日間振盪培養した。なお、液体培養は試験管で行なった。
[結果]
固体培養ではA.oryzae,及びA.sojaeの場合に、夫々、約1.9cm及び約1.5cm幅のhaloが観察された(図1(A))。又、A.nidulansでもhaloが観察された。又、A.oryzaeの液体培養でもPBSの濁度の顕著な低下が観察された(図1(B))。これらのことから、A.oryzae等のアスペルギルス属糸状菌がPBS転換能力を持つことを確認された。
更に、生分解性プラスチックとしてPBSの代わりにポリ乳酸(PLA)を使用した各培養系において、A.oryzaeによるプラスチックの分解を確認した。その結果を図2に示す。
(1−2)DNAマイクロアレイを用いた発現遺伝子解析
(1−2−1)麹菌Total RNAの調製
[材料]
菌体からのTotal RNAの調製には、Sepasol−RNAISupeベナカライテスク(株))を用いた。
▲2▼培地
培地の組成、DNAマイクロアレイ解析を行なう上での培養条件とその組み合わせを表2及び図3に示した。

[方法]
500ml容羽根付き三角フラスコ内のCzapek−Dox培地150mlに終濃度が0.5×10個/mlになるよう胞子懸濁液を植菌し、30℃で12時間培養した。菌体をミラクロス(CALBIOCHEM)で集菌し、滅菌水で洗浄後余分な水分を取り除いた。この回収した菌を、PBS固型ペレット,PBSエマルジョン,コハク酸,1、4−ブタンジオールを各々唯一の炭素源とした最少培地へと移し、30℃で振盪培養を行なった。培養時間はPBSpelletsは120時間、PBSエマルジョンは70時間、コハク酸は12時間、1、4−ブタンジオールは24時間とした。培養終了後、PBSエマルジョン,コハク酸,1、4−ブタンジオール培地は、ミラクロスを用いて菌体を回収し、滅菌水で洗浄後余分な水分を取り除いた。PBS固型ペレットは、茶漉しを用いて菌体とPBS固型ペレットを分離した。得られた湿菌体の湿重量を計測した後、乳鉢中で液体窒素を注ぎながらパウダー状になるまで破砕した。湿重量の4倍量のSepasol−RNAISuperを入れた50ml容チューブにパウダー状の菌体を移し、激しく撹拌後室温で5分間放置した。Sepasol−RNAISuperの1/5量のクロロホルムを加え、よく撹拌した後、室温で3分放置した。10,000×g、4℃で15分遠心した後、水層を15ml容チューブに移し同量の水飽和酸性フェノール・クロロホルム(フェノール/クロロホルム=1/1)を加え混合後、12,000×g、4℃で10分遠心し水層を別の15ml容チューブに移した。等量のイソプロパノールを加え室温で放置10分間放置後12,000×g、4℃で10分遠心し、上清を捨て、10mlの70%エタノールでリンスした。風乾後、適量のDEPC(diethylpirocarbonate)処理水に溶解させた。
(1−2−2)mRNAの精製
[材料]
mRNAの精製には、Message Maker(Gibco BRL)を用いた。
[方法]
精製操作はMessage Maker添付マニュアルに従った。以下、Total RNA量1mgを用いた時の手順を示した。
1mgのtotal RNAを15ml容チューブに1.8mlにDEPC処理水を用いてフィルアップ(終濃度0.55mg/ml)し、65℃で5分間インキュベート後、氷上にて急冷した。5M NaClを200μl加え、よく撹拌後oligo(dT)Cellulose Suspensionを1ml添加し、よく混合した後、37℃で10分間インキュベートした。サンプルをシリンジに入れプランジャーで押し切った後、ディスポのカップに入れた3mlのWash buffer1をシリンジで吸った。シリンジ中の液をよく懸濁し、液をプランジャーで押し切った。同様の操作を3mlのWash buffer2で行なった。次に65℃に保温しておいたDEPC処理水1mlをシリンジで吸い上げ、よく懸濁後、15mlチューブに押し出した。再度、DEPC処理水1mlで溶出した後、溶出液を合わせ、12,000×g、4℃で3分間遠心し、oligo(dT)Cellulose Suspensionを取り除いた。この上清約2mlに対し、5mg/mlのグリコーゲン溶液を20μl、7.5M酢酸アンモニウム(pH5.2)を200μl加えて混合し、エッペンドルチューブ5本に分注し、2倍量の氷冷エタノールを加え、−20℃にて一晩エタノール沈殿を行なった。12,000×g、4℃で30分間遠心した後、上清を捨て75%エタノールでリンスした、風乾後、適量のDEPC処理水に溶解させた。
(1−2−3)mRNAのラベリング
[材料]
精製したmRNAの蛍光色素によるラベリングはCy3−dUTP、Cy5−dUTP(Amersham Biosciences)を用いた。
[方法]
エッペンドルフチューブに、mRNA0.51.0μg、ランダムプライマー(9mer)(2μg/μl)1μl、oligo(dT)primer(12−18mer)(0.5μg/μl)1μl、DEPC処理水を加え10μlとした。70℃で10分インキュベートした後、室温に10分放置し、その後氷上で5分間以上放置し、mRNAにプライマーをアニーリングさせた。次に、この反応液に5×First Strand Bufffer(250mM Tris−HCl,pH8.3、375mM KCl、15mM MgCl)4μl、0.1M DTT2μl、50×dNTPs(25mM dATP,GTP,CTP、10mM TTP)0.4μl、Cy−dye(3or5)2μl、Super Script II RT(200U/μl)1.5μlを加えピペッティングによる撹拌後42℃で1時間インキュベートし逆転写反応させた。なお、この操作以降直接光が当たらないように注意して行なった。その後再びSuper Script II RT(200U/μl)1.5μlを加え撹拌し、42℃,1時間、70℃,10分、37℃,5分インキュベートした後、RNase H(10U/μl)0.3μl加え、37℃,15分、70℃,10分インキュベートし未反応mRNAを分解させた。専用のチューブに装着したMicrocon−30のカップに各々の組み合わせ(図3)でCy3、Cy5でラベルした溶液を混合し、300μlのTEを加え、10,000g室温で20分間遠心濃縮した。再度400μlのTEを加え10,000×g室温で20分間遠心濃縮した。次にHuman Cot1−DNA(1mg/ml)60μlとTE300μl加え、10,000×g室温で30分間遠心濃縮した。Microcon−30のカップを取り出し、新しいチューブに逆さに挿入し、3,000×g室温で3分間遠心してカップ中の溶液を回収した。これをTEで28μlにフィルアップした後、yeast tRNA(10mg/ml)4μl、poly dA(1mg/ml)16μl、20×SSC 10.2μl、10% SDS 1.8μlを加えた。この混合液60μlを1分間煮沸し、室温に戻したものを用いてハイブリダイゼーションを行なった。
(1−2−4)ハイブリダイゼーション、洗浄、検出
[材料]
A.oryzaeの2146個のESTクローンを搭載したcDNAマイクロアレイ(旭テクノグラス(株)製)を用いた。ギャップカバーグラス(25×50mm)はMATSUNAMI(株)製を用いた。ハイブリダイゼーションカセットはArray ITを用いた。また、スキャナー解析はAxon社製Gene Pix 4000B microarray scannerにて、画像解析はAxon社製Gene Pix Pro 3.0 software packageおよび Mesia Cybernetics社製Array Pro programを用いた。
[方法]
スライドグラスの上に遺伝子がスポットされた領域を囲むように、ギャップカバーグラスをのせ、端から上記で調製したラベル化溶液30μlを毛細現象により流し込んだ。スライドグラスをハイブリダイゼーションカセットにセットし乾燥を防ぐためにカセット内の窪みに30μlの精製水とガラス上のカバーグラスと離れた2点に5μlの3×SSCを滴下した。ハイブリダイゼーションは55℃8時間ゆるやかに振盪させながら行なった。ハイブリダイゼーション終了後、以下の操作でスライドグラスの洗浄を行なった。ハイブリダイゼーションカセットを外し、スライドグラスを2×SSC/0.1%SDSに浸して液中ですばやく滑り落とした。別に準備した2×SSC/0.1%SDS中で5分間室温にて振盪した。続いて、40℃に保温してある0.2×SSC/0.1%SDS中で5分間振盪した後、0.2×SSC中に3分間放置した。300×gで1分間遠心し、スライドグラスの水分を除いた後、検出を行なった。コントロール(コハク酸)の発現量がサンプル(PBS固型ペレット,PBSエマルジョン,1、4−ブタンジオール)のそれよりも多い場合、DNAチップのスポットは緑色に発色する。発現量が同程度の場合は黄色に発色し、サンプルの発現量がコントロールより上回る場合は、赤色に発色する。よって、PBS存在時に特異的に発現している遺伝子はSu3PP5とSu3PE5で赤色に発色し、Su3Bu5では発色がないものである(図4)。よって、Su3PP5とSu3PE5で赤色に発色している遺伝子群から、Su3Bu5で赤色に発色している遺伝子群を差し引き、PBS存在時に特異的に発現している遺伝子を検索した。なお、Su3PP5、Su3PE5、Su3Bu5全てに共通して発現するヒストンをコードする遺伝子を黄色、つまり、シグナル強度(Cy5/Cy3)約1に設定した。
[結果]
Su3PP5、Su3PE5、Su3Bu5のDNAマイクロアレイの結果を視覚的に解析すると、JZ3981が、Su3PP5とSu3PE5でのみ赤色に発色していた(図5)。尚、スポットの下に示された各数字は、遺伝子発現を(Cy5/Cy3)の比で表わしている。ヒストンはコントロールである。このことから、JZ3981がPBS分解に関わる遺伝子であることが示された。次にこのクローンについて、Aspergillus oryzae ESTデータベース(www.aist.go.jp/ffdb/index.html)に対するBLASTネットワークサービスを用いて、相同性の高いクローン情報を得た。
(1−2−5)ESTデータベースを用いたJZ3981の探索
[結果]
A.oryzae ESTデータベースに対してBLASTネットワークサービスを用いて、相同性の高いクローン情報を検索した。JZ3981はEmericella nidulansのRODLET PROTEIN PRECURSORに4e−57、Aspergillus fumigatusのHYDROPHOBIN PRECURSORに9e−57の相同性を示した。さらに、hydrophobin(ハイドロホービン)に保存されている8つのシステイン残基を含んでおり、このクローンはA.oryzaeのhydrophobin(ハイドロホービン)遺伝子(hyp)であることが明らかとなった。
(1−3)麹菌A.oryzaeハイドロホービン遺伝子(hyp)の単離
(1−3−1)JZ3981の塩基配列の解析
ESTクローンJZ3981のEST情報は部分配列のみであったので、JZ3981の全塩基配列を決定した。
[方法]
ABI PRISM 310 Genetic Analyzerを用いてシークエンシングを行なった。

上記のような反応系を作製し、TaKaRa PCR Thermal Cycler PERSONAL(宝酒造(株))にてPCR反応を行なった。PCR反応条件は96℃3分、96℃10分、50℃5分、60℃4分を30cycleとした。PCR反応後、エタノール沈殿を行なった後、loading dye 15μlに溶解し3分間煮沸したのち、ABI PRISM 310 Genetic Analyzerに供し、ABI PRISM Seaquencing Analysis version 3.0で解析した。
[結果]JZ3981がハイドロホービンの完全長を含むことを確認した(図6)。
【実施例2】
(2)ハイドロホービン高発現麹菌の育種
(2−1)麹菌用ハイドロホービン高発現プラスミドの構築
ハイドロホービン高発現麹菌を育種するために、麹菌用ハイドロホービン高発現プラスミドを構築した。麹菌発現用ベクターであるpNGA142系ベクターを用いた(「キノコとカビの基礎科学とバイオ技術」宍戸和夫・編著(アイピーシー)p.534)。また、ハイドロホービンの高発現には構成的プロモーターの存在が不可欠であるため、目的遺伝子の上流に目的遺伝子(hyp)の上流にenoA promoterを融合させたpNG−enoP−hypを作製した(図7)。
[材料]
▲1▼試薬
各種制限酵素、修飾酵素類は宝酒造(株)、Boehringer Mannheim山之内(株)、New England Biolabsのものを適宜用いた。試薬を調製する際はミリQ水を用い、特に断りのない限り121℃、20分間オートクレーブ滅菌した。
▲2▼菌株
大腸菌(Escherichia coli)はXL1−Blue(Stratagene社製)を用いた。麹菌はAoryzae RIB40を用いた。
▲3▼培地
用いた大腸菌用培地は、Stratagene社のXL1−Blue添付のマニュアルに従った。
1−4−1)pNG−enoP−hypの構築
「材料」
▲4▼ベクター
ベクターとしては、enoA promoterを含むpNGEG−d1(Toda T.et al.,Curr.Genet.40:260−267,[2001])を使用した。インサートを含むJZ3981(pSPORT1−hyp)は醸造研究所(現在の独立行政法人酒類総合研究所:広島県広島市鏡山3−7−1)から分譲を受けた。
「方法」
▲1▼制限酵素によるDNAの切断
pNGEG−d1、pSPORT 1−hyp各々をXbaIとSaAにより切断した。
▲2▼ベクターDNA、インサートDNAの調製
ベクターDNA、インサートDNAともに、制限酵素で完全に切断した後、アガロースゲル電気泳動に供し、長波長(366nm)UV下でDNAフラグメントを切り出した。その後、prep A gene(Bio−Rad−Laboratories)にてDNAを回収し、ベクターDNA、インサートDNAとした。
▲3▼ライゲーション
ライゲーション反応は調整したベクターDNAとインサートDNA、さらにT4 DNA ligase(GIBCO BRL Lifetechnology)、5×ligation buffer(250mM Tris−HCl;pH7.6、50mM MgCl、5mM ATP、5mM DTT、25%PEG−8000)、滅菌水で20μlにし16℃で16時間反応させた。
▲4▼大腸菌の形質転換
ライゲーション液10μlに10μlの10×KCM(1M KCl、0.3M CaCl、0.5M MgCl)、7μlの30%ポリエチレングリコール(#6000)、73μlの滅菌水を加え、よく撹拌した。これを氷中でよく冷却した後、氷上解凍したコンピテントセルを100μl加え穏やかに撹拌し、氷中で20分間、続いて室温で10分間放置した。これに、200μlのLB液体培地を加え、終濃度100μg/mlになるようにアンピシリンを添加したLB平板培地にまき、37℃で一晩培養した。
▲5▼プラスミドDNAの調製
目的のプラスミドDNAを用いて形質転換した大腸菌の単一のコロニーを、終濃度100μg/mlになるようにアンピシリンを添加した3mlLB液体培地に植菌し、37℃で一晩振盪培養した。1.5mlの培養液を2mlのエッペンドルフチューブに移して15,000×gで1分間遠心分離し、沈殿を100μlの氷冷したTEG(25mM Tris−HCl、10mM EDTA、50mM Glucose、pH8.0)で懸濁し、これに200μlの0.2N NaOH−1%SDSを加えて穏やかに撹拌した後、150μlの3M NaOAc pH5.2を加えて混合した。これを15,000×gで4℃で5分間遠心分離し上清を回収し450μlのフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール(25:24:1)を加えて激しく撹拌した後、15,000×g、室温で5分間遠心分離し上層を回収した。この溶液に−20℃で氷冷した900μlのエタノールを加えて−20℃で10分間放置後、15,000×gで4℃で5分間遠心分離した。沈殿を500μlの70%エタノールでリンスしたのち、乾燥させ、最後にRNaseH(100μg/ml)を含むTE(10mM Tris−HCl、1mM EDTA、pH8.0)50μlに溶解した。得られたプラスミドをXbaIとSaAで切断後、アガロース電気泳動により挿入断片の存在を認め、pNG−enoP−hypの完成を確認した。
(2−2)ハイドロホービン高発現麹菌の形質転換・育種
アスペルギルス・オリゼの形質転換はプロトプラスト−PEG法を改良した方法を用い、形質転換するプラスミドDNAは上記で作製したpNG−enoP−hyp,pNG−enoP(pNG−enoP−hypのハイドロホービン遺伝子インサート無し−ベクターのみ)を用いた。これらのプラスミドDNA10μgをMunIで完全消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈澱処理を行った後10μlのTEに溶解し形質転換用DNA溶液とした。
アスペルギルス・オリゼniaD300株(RIB40株由来の硝酸還元酵素遺伝子(niaD)欠損変異株:醸造研究所より分与)の胞子懸濁液をYPD液体培地に添加し、30℃、12時間振盪培養した。培養液よりガラスフィルターを用いで集菌した。菌体を50ml容の遠心チューブに移し、10mlのプロトプラスト化溶液(0.6M KCl,0.2M NaHPO,pH5.5,5mg/ml Lysing enzyme(Sigma Chemical Co.),10mg/ml Cellulase Onozuka R−10(Yakult Phrmaceutical Ind.Co.,Ltd.),10mg/ml Yatalase(TaKaRa))を加え懸濁し、30℃90rpm,3時間振盪しプロトプラスト化反応を行った。滅菌したMIRACLOTH(CALBIOCHEM)にて濾過し、濾液中のプロトプラストを3000×g,4℃,5分間遠心分離することで沈澱として得た。SolI(1.2Mソルビトール,50mM CaCl,Tris−HCl buffer,pH7.5)にて3回プロトプラストを洗浄し、3000×g,4℃,5分間遠心分離することで沈澱として得た。このプロトプラストを1×10個プロトプラスト/mlになるようにSolIに懸濁した。プロトプラスト懸濁液100μlに前述の形質転換用プラスミドDNA溶液各10μlと12.5μlのSolI(50(w/v%)PEG#4000,50mM CaCl,10mM Tris−HCl buffer,pH7.5を加えよく混合し、氷中で30分間放置した。次にこの混合液を50ml容の遠心チューブに移し、1mlのSolIを加え混合した後、2mlの1.2Mソルビトール,50mM CaCl,Ttis−HCl buffer,pH7.5を加えよく混合した。55℃に温めておいたCzapek−Dox軟寒天培地にプロトプラスト懸濁液を加え混合し、Czapek−Dox寒天培地に重層した。その後、30℃で胞子を形成するまで培養した。
胞子形成後、白金針にて分生子柄をかきとり、0.01%(v/v%)Tween80に懸濁し、この懸濁液を希釈し、Czapek−Dox寒天培地に広げ30℃で培養することを繰り返し単胞子分離をおこなった。単胞子分離の確認はHondel法(胞子PCR法)を改変しておこなった。白金針にて200μlのYPD培地が入った1.5ml容マイクロチューブに分生子を添加し、30℃で40時間培養した。培養菌体を新しい1.5ml容マイクロチューブに移し、50μlのプロトプラスト化溶液0.8M KCl,10mMクエン酸,pH6.5,2.5mg/ml Lysing enzyme(Signa Chemical Co.),2.5mg/ml Yatalase(TaKaRa))を加えて懸濁し、37℃で一時間放置した後、95℃で3分間加温し、次いで5分間以上氷上に放置し菌体を沈澱させた。この上清5μlを鋳型としてPCRの反応系に用いた。
pNG−enoP−hypの胞子PCR用のプライマーとして5’−ATTCGCGAAAATGGTAGCTCGAGGA−3’と5’−GTAGAATCACGAATGAGACCTTTGACGACC−3’の2種のオリゴヌクレオチドを合成し、pNG−enoPのプライマーとして5’−GTAGAATCACGAATGAGACCTTTGACGACC−3’と5’−GTTAGTCGACTGACCAATTCCGCAG−3’の2種のオリゴヌクレオチドを合成した。PCR用装置はPCR Thermal Cycler PERSONAL(宝酒造)を用いた。ポジティブコントロールとして形質転換に使用にしたプラスミドDNAを鋳型とした。pNG−enoP−hypの増幅反応は95℃,3分間鋳型DNAを変性し、94℃,1分間,55.5℃,1分間,72℃,90秒間保持するサイクルを30サイクルおこなった後、72℃,95秒間で完全伸長させ4℃で保持した。pNG−enoPの増幅反応は95℃,3分間鋳型DNAを変性し、94℃,1分間,57℃,1分間,72℃,90秒間保持するサイクルを30サイクルおこなった後、72℃,95秒間で完全伸長させ4℃で保持した。得られたPCR増幅断片をアガロース電気泳動に供したところ、ポジティブコントロールと同じ位置にPCR断片の増幅が確認され、その結果より、麹菌の染色体DNA上にエノラーゼプロモーター配列下流にハイドロホービン遺伝子の挿入された配列の存在が確認され、pNG−enoPもまた形質転換されたことが確認された。
形質転換されたハイドロホービン高発現麹菌とハイドロホービン遺伝子を挿入していない麹菌(pNG−enoP)を200mlのYPD培地(1(w/v%)酵母エキス,2(w/v%)ペプトン,2(w/v%)グルコース)に2500胞子/ml濃度で植菌し、30℃,24時間振盪培養しガラスフィルターで菌体を濾過し、培養上清を得た。培養上清1mlに対して500μlの100(w/v%)冷トリクロロ酢酸を加え、よく混合した後、氷中に12−16時間放置した。サンプルを15000×g,4℃,20分間遠心分離し上清を完全に除いた後、沈澱を15μlのSDS化溶液(0.063M Tris−HCl buffer,pH6.8,2(w/v%)SDS,1(v/v%)2−メルカプトエタノール,10(w/v%)グリセロール,0.05(w/v%)ブロモフェノールブルー)に溶解させたあと、沸騰湯浴中に5分間放置しSDS化をおこない、これをサンプルとした。以後のSDS−PAGEとPVDF膜へのブロッティングの方法はSchaggerら(Schagger,H.,et al.(1987)Anal.Biochem.,166,368−379)の方法にしたがった。泳動板は、160mm×160mm,1mm厚のものを使用し、電流10mA一定で泳動を開始しサンプルのグリセロール前線が泳動板の先端まで泳動したところで電気泳動を止めた。その後、電気泳動したゲルをPVDF膜に転写し、PVDF膜上より14.3kDaの断片を切り抜き、そのままアミノ末端アミノ酸配列の解析をおこなった。解析の結果アミノ末端からLPPASであり、麹菌ハイドロホービンESTクローンの塩基配列をアミノ酸置換したものと相同検索をしたところ一致したため培養上清にハイドロホービンがあることが確認された。またPVDF膜に転写すると同時にCBB染色をしたところハイドロホービン遺伝子を挿入していない麹菌の培養上清からは、分子量14.3kDaにバンドが確認されなかったことから。ハイドロホービン高発現麹菌はその細胞表層のみならず高度にハイドロホービンを培養上清に分泌していることが確認された(図8)。
尚、プラスミドDNA(pNG−enoP−hyp)で形質転換されたハイドロホービン高発現麹菌は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1)に平成14年10月4日付けで寄託され、受託番号:FERM P−19055を付与されている。
【実施例3】
(3)生分解性プラスチック分解酵素クチナーゼ遺伝子の取得とその高発現麹菌の育種
生分解性プラスチック分解因子として分解酵素があげられる。そこで、生分解性プラスチック分解酵素遺伝子を取得するとともに、その高発現麹菌株の育種を行った。生分解性プラスチックとしてはPBSを用いた。
(3−1)アスペルギルス・オリゼ由来PBS(ポリブチレンサクシネート)分解酵素の精製
0.5×10個胞子/mlとなるようにアスペルギルス・オリゼRIB40胞子懸濁液を500ml容三角フラスコ内の100mlの1(v/v%)PBS乳化液(昭和高分子)を含み、唯一の炭素源としたCzapek Dox培地(34μg/mlクロラムフェニコール)(Nakajima,K.,et al.(2000)Curr.Genet.,37,322−327)に添加した。添加後30℃,125rpm,5日間培養した。培養液をMIRACLOTH(CALBIOCHEM(登録商標))にて濾過し、その濾液を8000g,4℃,20分間遠心分離し得られた上清を粗酵素液とした。粗酵素液に20%飽和となるように硫酸アンモニウムを加えた後、8000g,4℃,20分間遠心分離し得られた上清画分を得た。上清画分を10mMトリス−塩酸緩衝液,pH8.0,20%飽和硫酸アンモニウムにて平衡化したOctyl−Cellulofine(生化学工業)に供し、吸着画分を20−0%飽和硫酸アンモニウムの直線濃度勾配による溶出させた。分画した溶液に対して0.1(v/v%)となるようにPBS乳化液を添加し、37℃にて保温し、その濁度の低下(PBSの分解)によって活性画分を追跡した。得られた活性画分を10mMトリス−塩酸緩衝液,pH8.0に対して透析し、同緩衝液にて平衡化したDEAE−TOYOPEARL650Sカラム(東ソー)に供し、吸着画分を0−0.3M NaClの直線濃度勾配により溶出させた。得られた活性画分を10mM MES緩衝液,pH5.5に対して透析し、同緩衝液にて平衡化したHiTrap SPカラム(アマシャムファルマシア バイオテク)に供し、吸着画分を0−0.3M NaClの直線濃度勾配により溶出させた。得られた活性画分をSDS−PAGE(Laemmli,U.K.(1970)Nature,227,680−685)に供し電気泳動的に均一であることが確認されたため、ここで得られた活性画分をPBS分解酵素精製標品とした。
(3−2)PBS分解酵素の内部アミノ酸配列の決定
上記で得られた精製酵素溶液(0.4mg/ml)250μlに対して200μlの100(w/v%)冷トリクロロ酢酸を加え、よく混合した後、氷中に12−16時間放置した。サンプルを15000g,4℃,20分間遠心分離し、上清を完全に除いた後、沈殿を50μlのSDS化溶液{0.063Mトリス−塩酸緩衝液,pH6.8,2(w/v%)SDS,1(v/v%)2−メルカプトエタノール,10(w/v%)グリセロール}に溶解させた後、沸騰湯浴中に5分間放置しSDS化をおこない、これをサンプル溶液とした。別にV8プロテアーゼ溶液{6.3μgのV8プロテアーゼを25μlの0.05(w/v%)ブロモフェノールブルー,0.019Mトリス−塩酸緩衝液,pH6.8,0.6(w/v%)SDS,0.3(v/v%)2−メルカプトエタノール,3(w/v%)グリセロールに溶解させたもの}を調製した。以後のSDS−PAGEとPVDF膜へのブロッティングの方法はSchaggerらの方法(Schagger,H.,et al.(1987)Anal.Biochem.,166,368−379)に従った。160mm×160mm,1mm厚の泳動板を使用した。50μlのサンプル溶液をウェルにアプライし、さらに25μlのV8プロテアーゼ溶液を重層した。電流15mA一定で泳動を開始し、色素(ブロモフェノールブルー)が濃縮ゲルのほぼ中間まで泳動された時点で泳動を停止し、そのまま室温にて1時間放置し、ゲル内でのV8プロテアーゼによる限定分解をおこなった。その後電気泳動を再開し、泳動後ゲル内のタンパク質をPVDF膜に転写した。PVDF膜上より7.9kDa、10.3kDa、11.9kDaの断片を切り抜き、そのままアミノ末端アミノ酸配列の解析をおこなった(Matsudaira,P.(1987)J.Biol.Chem.,262,10035−10038)。10.3kDa、11.9kDaのアミノ末端アミノ酸配列を解析した結果、両者共にアミノ末端側より、AQGLFEQAVS、であった。得られたアミノ酸配列に対してNational Center for Biotechnology Information(NCBI;http://www.ncbi.nim.nih.gov/)のBLAST検索(Zhang,J.,et al.(1997)Genome Res.,7,649−656)を利用して相同検索をおこなったところ、アスペルギルス・オリゼの産生するクチナーゼの内部アミノ酸配列と一致した(Ohnishi,K.,et al.(1995)FEMS Microbiol.Lett.,126(2),145−150)。
(3−3)PBS分解酵素遺伝子を含む染色体DNAのクローニング
PBS分解酵素遺伝子を含む染色体DNAを取得するために、アスペルギルス・オリゼの菌糸より染色体DNAを調製した。0.5×10個胞子/mlとなるようにアスペルギルス・オリゼRIB40胞子懸濁液を500ml容三角フラスコ内の100mlのYPD液体培地{1(w/v%)酵母エキス,2(w/v%)ペプトン,2(w/v%)グルコース}に添加した。添加後30℃,125rpm,16時間培養した。培養液をガラスフィルターで濾過し菌糸を集め、蒸留水で洗浄した。菌糸を脱水した後、予め−20℃に冷やしておいた乳鉢に菌体を入れ、液体窒素を注いで凍結させ、直ちに冷やした乳棒で細かく粉砕した。粉砕した菌糸をスパーテルで1.5ml容マイクロチューブにとり、0.4mlのTE(10mMトリス−塩酸緩衝液,pH8.0,1mM EDTA)に懸濁した後、溶菌溶液{2(w/v%)SDS,0.1M NaCl,10mM EDTA,50mMトリス−塩酸緩衝液,pH7.0}を0.4ml加えてゆっくり撹拌し、室温に15分間放置した。15,000×g,10分間遠心分離して上清を新しい1.5ml容マイクロチューブに回収した。フェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール(25:24:1)を等量加え、ゆっくりチューブを上下に撹拌した後、15000g,5分間遠心分離して上清を新しい1.5ml容マイクロチューブに回収した。−20℃に冷やしたエタノールを2.5倍量加えて、−20℃に10分間放置した後、15,000×g,4℃,15分間遠心分離し上清を完全に除き沈殿を得た。沈殿を0.5mlのTEに溶解させ、5μlのRNase A(10mg/ml)溶液を加え、37℃に30分間放置しRNAを分解した。0.5mlのフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコール(25:24:1)を加え、ゆっくりチューブを上下に撹拌した後、15,000×g,5分間遠心分離して上清を新しい1.5ml容マイクロチューブに回収した。この操作をもう1回繰り返した。0.5mlのクロロホルム・イソアミルアルコール(24:1)を加え、ゆっくりチューブを上下に撹拌した後、15,000×g,5分間遠心分離して上清を新しい1.5ml容マイクロチューブに回収した。50μlの5M NaClと1mlの冷エタノールを加え、−20℃に10分間放置した後、15,000×g,4℃,15分間遠心分離し上清を完全に除き沈殿を得た。70(v/v%)エタノールでDNAを洗浄して15,000×g,4℃,10分間遠心分離し上清を完全に除き沈殿を得た。沈殿を0.1mlのTEで溶解し、これを染色体DNA溶液とした。
次に、前述の内部アミノ酸配列をもとに、30塩基からなるオリゴヌクレオチド(5’−GCACAAGGACTGTTTGAACAAGCTGTTTCC−3’)と、既知のクチナーゼ遺伝子塩基配列を基に、30塩基からなるオリゴヌクレオチド(5’−CCAGGCAGACAAGATCTCCCACGGCGCAAT−3’)を合成した。この1組のプライマーセットを用い、染色体DNAを鋳型としてPCRをおこないサザンハイブリダイゼーションのプローブを増幅した。PCR用装置はPCR Thermal Cycler PERSONAし(宝酒造)を用いた。染色体DNAは100ng用い、ポリメラーゼはEx taq polymerase(宝酒造)を用いた。増幅反応は、95℃,3分間鋳型DNAを変性し、95℃,1分間、60℃,1分間、72℃,30秒間保持するサイクルを30サイクルおこなった後、72℃,1分間で完全伸長させ、4℃で保持した。得られたPCR増幅断片をアガロースゲル電気泳動に供したところ、300塩基対からなる断片の増幅が確認された。
次に、NEN RandomPrimer Fluorescein Labeling Kit with Antifluorescein−AP(Eizo Diagnostics,Inc.)を用いてサザンハイブリダイゼーションとコロニーハイブリダイゼーションをおこなった。また今後使用したSSC液は20倍濃度(20xSSC)(175.4g NaClと88.2g Sodium Citrate Dihydrateを水に溶解し、1lに合わせた後、オートクレーブ滅菌したもの)を適宜滅菌水で希釈し調製したものを用いた。染色体DNA10μgを50ユニットのEcoR V(宝酒造)で完全消化しアガロースゲル電気泳動に供した。トレイにアルカリトランスファー緩衝液(0.4N NaOH)を入れ、ガラス板をのせ、緩衝液に届くまでの長さに予め切った濾紙(ADVANTEC TOYO)をのせて緩衝液で湿らせた。この上に泳動後のゲルをのせ、同じ大きさに切ったナイロンメンブラン(Hybond−N+;アマシャムファルマシア バイオテク)をゲル上に置き、さらにその上に滅菌水で湿らせた濾紙を3枚のせた。ペーパータオルを5cmの高さに積み重ね、重りをのせた。12時間ブロッティングしたあと、メンブランを4xSSCで洗浄し、ハイブリダイゼーションをおこなった。
次に、前述のPCR反応液に対して1/10量の5M NaClを加えさらに2.5倍量の冷エタノールを加え、−20℃に10分間放置した後、15,000×g,4℃,15分間遠心分離し上清を完全に除き沈殿を得た。70(v/v%)エタノールでDNAを洗浄して15,000×g,4℃,10分間遠心分離し上清を完全に除き沈殿を得た。沈殿を1μg/μlとなるようにTEに溶解した。このDNA溶液20μlとNEN Random Primer Fluorescein Labeling Kit with Antifluorescein−APのRandom Primers and Reaction Buffer Mix 5μl、Fluorescein Nucleotide Mix 5μl、Klenow Fragment 1μlを加え、ピペッティングにより混合し、37℃で1時間反応させた。反応後、0.1M EDTA,pH8.0を5μl加え、20ng/mlとなるようにhybridization buffer{2×SSC,0.1(w/v%)SDS,5(w/v%)Dextran Sulphate,0.5(v/v%)Blocking Reagent}と混合したものをプローブ溶液とした。
次にブロッティング後のメンブランを2×SSCでリンスし、ハイブリダイゼーションバッグに移し、0.1ml/cmとなるようにhybridization bufferと終濃度50μg/mlとなるようにCarrier DNAを加え、60℃で1時間保温した。続いて200μlのhybridization bufferとプローブ溶液20μl、Carrier DNA(10mg/ml)35μlをマイクロチューブ中で混合し、100℃で5分間煮沸した。氷中で急冷しそのまま5分間放置した。これを予め60℃に温めておき、ハイブリダイゼーションバッグ中の溶液と交換し、60℃で16時間保温した。メンブランをハイブリダイゼーションバッグより取り出し、1cmのメンブランあたり1ml以上の2×SSC,1(w/v%)SDSで60℃,15分間激しく振盪することによって洗浄し、次に0.2×SSC,0.1(w/v%)SDSで60℃,15分間同様に洗浄した。以後の操作は室温でおこなった。1cmのメンブランあたり1ml以上の0.1Mトリス−塩酸緩衝液,pH7.5,0.15M NaCl中で激しく5分間振盪することで洗浄した。次にプラスチックバッグ内の1cmのメンブランあたり0.1ml以上の0.1Mトリス−塩酸緩衝液,pH7.5,0.15M NaCl,0.5(v/v%)Blocking Reagent中で1時間振盪した。次にプラスチックバッグ内の1cmのメンブランあたり0.1ml以上の0.1Mトリス−塩酸緩衝液,pH7.5,0.15M NaCl,0.5(v/v%)Blocking Reagent,1/1000(v/v)Antifluorescein−AP Conjugateとの混合液中で1時間振盪した。その後メンブランを取り出し0.1Mトリス−塩酸緩衝液,pH7.5,0.15M NaCl中で5分間ずつ4回激しく振盪することで洗浄した。0.1Mトリス−塩酸緩衝液,pH9.5,0.1M NaCl中で5分間ずつ2回激しく振盪することで洗浄した。メンブランをプラスチックバッグに移し、これにECF substrate Auto Phos(Eizo Diagnostics,Inc.)を1ml加え、遮光下で30分間反応させた。メンブランをプラスチックバッグから取り出しさらに4時間遮光下で放置した後、蛍光分析機(FLA−2000;FUJIFILM)にて解析した。その結果約1300塩基対からなる強くハイブリダイズするバンドが検出された。
次に、染色体DNA10μgを50ユニットのEcoR Vで完全消化しアガロースゲル電気泳動に供しエチジウムブロマイドで染色後、1300塩基対付近のゲルをUV照射下で切り出した。ゲル中よりprep A gene(BioRad)を用いてDNAを抽出し、これを挿入DNA断片とした。
次にプラスミドpBluescript II KS+DNA(Stratagene)2.5μgをEcoR V(宝酒造)にて消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後、アルカリフォスファターゼ(宝酒造)により5’末端のリン酸を除去した。この反応液を定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後TEに溶解したものをベクターDNA溶液とした。
次に、ベクターDNA1μgと挿入DNA断片1.5μgをT4 DNA ligase(宝酒造)により連結させ、連結DNA溶液を得た。この連結DNA溶液10μlと10μlの10xKCM(1M KCl,0.3M CaCl,0.5M MgCl)、7μlの30(w/v%)PEG#6000、73μlの滅菌水を混合し、100μlの形質転換可能な大腸菌DH5α(宝酒造)を加え、氷中に20分間、室温に10分間放置し形質転換大腸菌懸濁液を得た。ナイロンメンブラン(Hybond−N+;アマシャムファルマシア バイオテク)を50μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地上に置き、その上に形質転換大腸菌懸濁液をまき、37℃で16時間培養した。メンブランを培地上より剥がし取りメンブランを10(w/v%)SDSに3分間、0.5N NaOH,1.5M NaClに10分間浸し、溶液を除いた後、1Mトリス−塩酸緩衝液,pH8.0,1.5M NaClに浸し、溶液を除いた後、2xSSCで洗浄した。メンブランを0.4N NaOHに1時間浸し2xSSCで洗浄した。このメンブランを前述のサザンハイブリダイゼーションの時と同様の操作をおこない、プローブをハイブリダイズした。その結果ポジティブシグナルを得た。
次に、元の寒天培地上からポジティブシグナルとなるプラスミドDNAを有する大腸菌を白金針にて拾い、LB液体培地(50μg/mlアンピシリン)に移植し37℃にて16時間振盪培養した。培養液1.5mlを1.5ml容マイクロチューブに移し、15,000×g,1分間遠心分離し培地を除いた。菌体を100μlのTEG(25mMトリス−塩酸緩衝液,pH8.0,10mM EDTA,50mMグルコース)で懸濁し、これに200μlの1(w/v%)SDS,0.2N NaOHを加え穏やかに混合し氷中に5分間放置した。さらに150μlの3M酢酸ナトリウム,pH5.2を加え穏やかに混合し氷中に5分間放置した。これに10M酢酸アンモニウムを150μl加え穏やかに混合し、15,000×g,4℃,10分間遠心分離し上清を新しい1.5ml容マイクロチューブに移した。これに600μlの2−プロパノールを加え、よく混合した後15,000×g,4℃,10分間遠心分離し上清を除いた。70(v/v%)エタノールでDNAを洗浄して15,000×g,4℃,10分間遠心分離し上清を完全に除き沈殿を得た。沈殿を0.1mlのTEで溶解し、これをプラスミドDNA溶液とした。このプラスミドDNA中の挿入DNA断片の塩基配列をABI PRISMTM 377 DNA sequencer Long Read(PE Biosystem)のプロトコールに従い、ABI PRISMTM 377 DNA sequencing system(PE Biosystem)にて解析した。その結果、プラスミドDNAに挿入された1334塩基対からなる染色体DNAのEcoRV消化断片には、プローブの塩基配列を含むオープンリーディングフレームが見出された。このオープンリーディングフレームは3箇所のイントロン塩基配列を含み、さらに開始メチオニンをコードする塩基配列ATGとストップコドンを含み、すなわちPBS分解酵素遺伝子の全長を有していた(Ohnish K.et al.(1995)FEMS Microbiol Lett.,126(2),145−150)。
(3−4)PBS分解酵素高発現系の構築
前述のPBS分解酵素遺伝子全長を有するプラスミドDNA5μgをEcoRV(宝酒造)にて消化し、アガロースゲル電気泳動に供し、エチジウムブロマイドで染色後UV照射下で1334塩基対からなる断片を切り出した。ゲル中よりprep A gene(BioRad)を用いてDNAを抽出し、これを挿入DNA断片とした。次に塩基配列中にグルコアミラーゼのプロモーター配列(PglaA142)を有するプラスミドpNGA142 DNA 5μgをプロモーター配列の直後にある制限酵素PmaCI認識配列の位置でPmaCI(宝酒造)で消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後、アルカリフォスファターゼ(宝酒造)により5’末端のリン酸を除去した。この反応液を定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後TEに溶解したものをベクターDNA溶液とした。次に、ベクターDNA 1μgと挿入DNA断片1.5μgをT4 DNA ligase(宝酒造)により連結させ、連結DNA溶液を得た。この連結DNA溶液10μlと10μlの10×KCM(1M KCl,0.3M CaCl,0.5M MgCl)、7μlの30(w/v%)PEG#6000、73μlの滅菌水を混合し、100μlの形質転換可能な大腸菌DH5α(宝酒造)を加え、氷中に20分間、室温に10分間放置し形質転換大腸菌懸濁液を得た。次に50μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地上にに形質転換大腸菌懸濁液をまき、37℃で16時間培養した。培地上のコロニーを白金針にて拾い、LB液体培地(50μg/mlアンピシリン)に移植し37℃にて16時間振盪培養した。培養菌体中より前述と同様にプラスミドDNAを抽出し、この麹菌形質転換用プラスミドDNA(pNG−cut)を得た。このプラスミドDNA10μgをMunIで消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後 10μlのTEに溶解し形質転換用DNA溶液とした。アスペルギルス・オリゼの形質転換はVollmerらのプロトプラスト−PEG法(Vollmer,S.J.,et al.(1986)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83,4869−4873)を改良して行った。詳細は実施例2(2−2)に従った。
形質転換再生培地で胞子形成後、白金針にて分生子柄をかきとり、0.01(v/v%)Tween80に懸濁し、この懸濁液を適宜希釈し、Czapek−Dox寒天培地に広げ30℃で培養することを繰り返すことで単胞子分離をおこなった。単胞子分離の確認はHondel法(胞子PCR法)(van,Zeiji,C.M.,et al.(1997)J.Biotechnol.,Jan 3;59(3),221−224)を改変しておこなった。単胞子分離の詳細は実施例2(2−2)記載の方法に従った。胞子PCR用プライマーとして、2種のオリゴヌクレオチド(5’−TGCAGTGGCGGATCCGGTGGAC−3’,5’−GTAGAATCACGAATGGAGCCTTTGACGACC−3’)を合成した。PCR用装置はPCR Thermal Cycler PERSONAL(宝酒造)を用いた。ポジティブコントロールとして麹菌形質転換用プラスミドDNAを鋳型とした。ポリメラーゼはEx Taq polymerase(宝酒造)を用いた。増幅反応は、94℃,3分間鋳型DNAを変性し、94℃,1分間、55.5℃,1分間、72℃,90秒間保持するサイクルを30サイクルおこなった後、72℃,95秒間で完全伸長させ、4℃で保持した。得られたPCR増幅断片をアガロースゲル電気泳動に供したところ、ポジティブコントロールと同じ位置にPCR断片の増幅が確認され、その結果より染色体DNA上にグルコアミラーゼ・プロモーター配列の下流にPBS分解酵素遺伝子が連結した塩基配列が挿入されたことと、それを有するアスペルギルス・オリゼ形質転換株が得られたことが確認された。このPBS分解酵素遺伝子が染色体DNA中に挿入されたアスペルギルス・オリゼ形質転換株と、挿入されていない(pNGA142にて形質転換した)アスペルギルス・オリゼ形質転換株の胞子懸濁液を0.5×10個胞子/mlとなるようにグルコアミラーゼ・プロモーターの誘導物質であるマルトースを含む100mlのYPM液体培地{1(w/v%)酵母エキス,2(w/v%)ペプトン,2(w/v%)マルトース}にそれぞれ添加した。添加後30℃,125rpm,16時間培養し、培養上清をMIRACLOTH(CALBIOCHEM(登録商標))にて濾過することで得た。得られた培養上清に対して0.1(v/v%)となるようにPBS乳化液を添加し、37℃にて保温し、その濁度の低下(PBSの分解)によってPBS分解酵素の発現を確認したところ、PBS分解酵素遺伝子が染色体DNA中に挿入されたアスペルギルス・オリゼ形質転換株の培養上清中にのみその活性の存在が認められた。次に培養上清100μlに50μlの冷トリクロロ酢酸を加えよく混合した後、氷中で20分間放置し、15,000×g,4℃,15分間遠心分離し上清を完全に除き、沈殿画分を得た。これに15μlのSDS化溶液{0.063Mトリス−塩酸緩衝液,pH6.8,2(w/v%)SDS,1(v/v%)2−メルカプトエタノール,10(w/v%)グリセロール,0.05(w/v%)ブロモフェノールブルー}を加え溶解させた後、沸騰湯浴中にて5分間放置しSDS化をおこなった。これを前述のPBS分解酵素精製標品と共にSDS−PAGEに供したところ、PBS分解酵素遺伝子が染色体DNA中に挿入されたアスペルギルス・オリゼ形質転換株の培養上清中にのみPBS分解酵素精製標品と同じ位置にタンパク質の発現が確認された(図9)。
尚、プラスミドDNA(pNG−cut)で形質転換された生分解性プラスチック分解酵素クチナーゼ遺伝子の高発現麹菌は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1)に平成14年10月4日付けで寄託され、受託番号:FERM P−19054を付与されている。
【実施例4】
(4)麹菌アスペルギルス・オリゼ ハイドロホービン高発現菌、クチナーゼ高発現菌の単独培養、及び、これらの共培養によるプラスチック分解試験(液体培養系)
ハイドロホービン高発現麹菌(pNG−enoP−hyp)単独、クチナーゼ高発現麹菌(pNG−cut)単独、コントロールとして宿主であるRIB40株にベクターのみを導入した株(pNGA142)を実施例1記載のCzapek−Dox最少培地にPBS乳化液0.2%,誘導基質としてマルトース0.5%を加えた培地に胞子を1×10/mlで添加し30℃で2日間振盪培養した。さらにハイドロホービン高発現株とクチナーゼ高発現麹菌の共培養した試験区(pNG−cut+pNGenoP−hyp)も設けた。培養2日目の培養液をMIRACLOTHでろ過して菌体を除き、培養ろ液の濁度(630nmで測定)の低下を表3に示した。尚、初発の濁度(OD630)は8.73であった。その結果、共培養株>クチナーゼ発現株>ハイドロホービン発現株>コントロールの順序で濁度低下が大きかった。

【実施例5】
(5)麹菌アスペルギルス・オリゼハイドロホービン高発現菌、クチナーゼ高発現菌の単独培養、及び、これらの共培養によるプラスチック分解試験(固体培養系)
実施例4で用いたそれぞれの菌株を1×10胞子個/mlに調整し、0.5%(w/v)のPBS粉末を懸濁した最小培地(0.5%マルトース)に接種して、30℃で8日間培養した。培養後、菌体が取り込んでいるPBS微細粉末を洗浄(菌体を50mlファルコンチューブに取り25ml程度の滅菌水を加えボルテックスミキサーで撹拌)し、菌体とPBS微細粉末を完全に分離した。洗浄液をミラクロスろ紙で濾過し、濾液を遠心(10,000rpm15min)後、上清を除き初期培養条件の液量になるように最小培地で調整し懸濁させた。その懸濁液を300倍希釈し630nmで吸光度を測定した。得られた結果を表4に示す。
これらの結果から、ハイドロホービン高発現株、クチナーゼ高発現株共に、宿主のRIB40株に比較して、粉体の固形PBSにおける生育も著しく増加し、PBSの転換能が向上していることが確認された。

【実施例6】
(6)麹菌アスペルギルス・オリゼハイドロホービン高発現菌、クチナーゼ高発現菌、及び、有用物質の生合成系に関与する酵素(有用物質)を高発現菌の共培養による有用物質の製造
次いで生分解性プラスチックPBSの分解に共役した、有用物質生産の例として工業用酵素α−アミラーゼの生産を行った。実施例4と同様の培地を用いて、クチナーゼ高発現株(pNG−cut組み換え体)とハイドロホービン高発現株(pNG−enoP−hyp)の共培養、クチナーゼ高発現株(pNG−cut組み換え体)とハイドロホービン高発現株(pNG−enoP−hyp)とα−アミラーゼ高発現株(pNG−amy)の共培養を行った。コントロールとしてpNGA142のインサートを持たないベクターのみを有するRIB40株を用いた。pNG−amyを保持するRIB46形質転換体は、麹菌α−アミラーゼ遺伝子(S.Tada et al.:Agric.Biol.Chem.,53,593−599[1989])をクチナーゼ遺伝子同様にpNGA142に挿入して作製し、RIB40株を形質転換して得た。実施例4の実験と同様に、培地に1×10個の胞子を接種し、30℃で2日間培養した。培養液をMIRACLOTHでろ過して菌体を除き、培養ろ液を得、15000×g,4℃,10分間遠心分離し残存するPBSを完全に除き培養上清を得た。
α−アミラーゼ活性の測定は、培養上清を水にて100倍に希釈したものを用いた。各培養上清中のα−アミラーゼ活性発現量はヨウ素呈色法にて測定した。測定用試薬溶液として、A液;50mMトリス緩衝液(pH6.8)中に可溶性澱粉を0.3%となるように溶かしたもの、B液;1N塩酸中にヨウ素を2×10−4%、ヨウ化カリウムを2×10−3%になるように溶かしたものを調製した。A液400μlに50μlの希釈した培養上清を加え37℃で10分間反応させた。そこにB液を50μl加え、よく混合し、直ちに620nmの吸光度を測定し、Blank(未接種)の値に比した吸光度の減少量をα−アミラーゼの相対活性量として表5に示した。PBS減少量は三重共培養株=二重共培養株>コントロールの順序で大きかった。α−アミラーゼ活性誘導は三重共培養株>二重共培養株>コントロールの順序で大きく、PBS分解で供給されるPBSモノマーをエネルギー源として、三重共培養区では工業用α−アミラーゼ生産されることが明らかになった。

【実施例7】
(7)クチナーゼーハイドロホービン共高発現株の育種
実施例3−4で得られたクチナーゼ高発現株を用いてクチナーゼーハイドロホービン共高発現株を取得するために、麹菌用ハイドロホービン高発現プラスミドを構築した。麹菌発現用ベクターであるpPTR1ベクターを用いた。また、ハイドロホービンの高発現にはマルトースで強力に誘導がかかるglaA142 promoterを目的遺伝子の上流に融合したpPTR−gla−hypを作製した。(図10)
(7−1)pPTR−gla−hypの構築
[材料]
pPTR−gla−hypの構築にあたり2種類のベクター(pNGA142,pPTR1)を使用しインサートの調製には実施例2で作成したpNG−enoP−hypを使用した。
[方法]
▲1▼制限酵素によるDNAの切断
pNGA142とpNG−enoP−hyp各々をXbaIとSalIにより切断した。
▲2▼ベクターDNA、インサートDNAの調製
▲3▼ライゲーション
▲4▼大腸菌の形質転換
▲5▼プラスミドDNAの調製
上記方法▲2▼から▲5▼については、実施例2と同様に行った。得られたプラスミドをXbaIとSalIで切断後、アガロース電気泳動により挿入断片の存在を認め、pNG−gla−hypの完成を確認した。
▲6▼制限酵素によるDNAの切断
pPTR1とpNG−gla−hyp各々をPstI,SmaIで切断した
▲7▼ベクターDNA、インサートDNAの調製
▲8▼ライゲーション
▲9▼大腸菌の形質転換
▲10▼プラスミドDNAの調製
上記方法▲7▼から▲10▼については、実施例2と同様に行った。得られたプラスミドをPstIとSmaIで切断後、アガロース電気泳動により挿入断片の存在を認め、pPTR−gla−hypの完成を確認した。
(7−2)クチナーゼ−ハイドロホービン共高発現麹菌の育種
アスペルギルス・オリゼ(実施例3−4で得られたクチナーゼ高発現株)の形質転換はプロトプラスト−PEG法を改良した方法を用い、形質転換するプラスミドDNAは上記で作製したpPTR−gla−hypを用いた。これらのプラスミドDNA10μgをSacIIで完全消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈澱処理を行った後10μlのTEに溶解し形質転換用DNA溶液とした。以降のアスペルギルス・オリゼの形質転換については実施例2(2−2)に記した方法に従った。
但しプロトプラスト再生培地であるCzapec−Dox軟寒天培地には100μg/mlとなるようにピリチアミン(TaKaRa)を添加したものを用いた。さらに培地上で形成した胞子をピリチアミンを含むCzapek−Dox寒天培地に植え継ぐことで単胞子分離を行った。pPTR−gla−hypの胞子PCR用のプライマーとして5’−ATTCGCGAAAATGGTAGCTCGAGGA−3’と5’−CTGTGTCCCGTATGTAACGGTG−3’の2種のオリゴヌクレオチドを合成した。PCR用装置はPCR Thermal Cycler PERSONAL(宝酒造)を用いた。ポジティブコントロールとして形質転換に使用にしたプラスミドDNAを鋳型とした。pPTR−gla−hypの増幅反応は95℃,3分間鋳型DNAを変性し、94℃,1分間,55.5℃,1分間,72℃,90秒間保持するサイクルを30サイクルおこなった後、72℃,95秒間で完全伸長させ4℃で保持した。得られたPCR増幅断片をアガロース電気泳動に供したところ、ポジティブコントロールと同じ位置にPCR断片の増幅が確認され、その結果より、麹菌の染色体DNA上にglaA142 promoter一配列下流にハイドロホービン遺伝子の挿入された配列の存在が確認された。
形質転換されたクチナーゼ−ハイドロホービン共高発現株を200mlのYPM培地{実施例2(2−2)}に1×10胞子/ml濃度で植菌し、30℃,24時間振盪培養しガラスフィルターで菌体を濾過し、培養上清を得た。培養上清200μlに対して100μlの100(w/v%)冷トリクロロ酢酸を加え、よく混合した後、氷中に12−16時間放置した。サンプルを15,000×g,4℃,20分間遠心分離し上清を完全に除いた後、沈澱を15μlのSDS化溶液{実施例2(2−2)}に溶解させたあと、沸騰湯浴中に5分間放置しSDS化をおこない、これをサンプルとした。以後のSDS−PAGEの方法は実施例2(2−2)に記した通りとした。SDS−PAGEに供した後、CBB染色により14kDaにクチナーゼ高発現株には確認されないバンドが確認されたことから、クチナーゼ−ハイドロホービン共高発現株が取得された(図11)。
【実施例8】
(8)麹菌アスペルギルス・オリゼクチナーゼ高発現株、ハイドロホービン高発現株、クチナーゼ・ハイドロホービン共高発現株によるプラスチック分解試験(液体培養)
実施例2で作製したハイドロホービン高発現麹菌、実施例3で作製したクチナーゼ高発現麹菌、実施例7で作製したクチナーゼ・ハイドロホービン共高発現麹菌、及びコントロールとしてpNGA142株の胞子をYPM培地(1(w/v%)酵母エキス,2(w/v%)ペプトン,4(w/v%)マルトース)にPBS乳化液0.1%を加えた培地に1×10個/mlになるように植菌する。30℃,24時間培養し培養液をMILACLOTHにて分離し培養ろ液の濁度を630nmの波長で吸光度を測定しPBS分解率を算出した。
その結果、クチナーゼ・ハイドロホービン共高発現株>クチナーゼ高発現株>ハイドロホービン高発現株>コントロール(pNGA142株)の順序で濁度の低下が大きかった。(表6)

【実施例9】
(9)クチナーゼーハイドロホービン−アミラーゼ三重共高発現株の育種
(9−1)実施例3−4で得られたクチナーゼ高発現株を用いてクチナーゼ−ハイドロホービン−アミラーゼ三重高発現株を取得するために、ハイドロホービン高発現用プラスミドpPTR−eno−hypを作製(図12)した。また、麹菌αアミラーゼ高発現用プラスミドpNG−amy(図13)は東北大学大学院農学研究科応用生命科学生命工学研究室より分譲を受けた。また、ハイドロホービンの高発現には構成的に誘導がかかるeno A promoterを目的遺伝子の上流に融合させたpPTR−eno−hypを作成した。α−アミラーゼの高発現には、マルトースで強力に誘導がかかるgiaA142 promoterを目的遺伝子の上流に融合させたpNG−amyも分譲を受けた。
[材料]
pPTR−enoP−hypの構築にあたりベクターにpPTR1を使用しインサートは実施例2で作成したpNG−enoP−hypを使用した。
[方法]
▲1▼制限酵素によるDNAの切断
pPTR1とpNG−enoP−hyp各々をPstIとSmaIにより切断した。
▲2▼ベクターDNA、インサートDNAの調製
▲3▼ライゲーション
▲4▼大腸菌の形質転換
▲5▼プラスミドDNAの調製
上記方法▲2▼から▲5▼については、実施例2と同様に行った。得られたプラスミドをPstIとSmaIで切断後、アガロース電気泳動により挿入断片の存在を認め、pPTR−enoP−hypの完成を確認した。
(9−2)クチナーゼ−ハイドロホービン−アミラーゼ三重共高発現麹菌の育種
アスペルギルス・オリゼの形質転換はプロトプラストPEG法を改良した方法を用い、形質転換するプラスミドDNAは上記で作製したpPTR−enoP−hypとpNG−amyを用いた。pPTR−enoP−hypプラスミドDNA10μgをSacIIで完全消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈澱処理を行った後10μlのTEに溶解し形質転換用DNA溶液とした。さらにpNG−amyプラスミドDNAについては10μgを制限酵素処理をせずに10μlのTEに溶解し形質転換用DNA溶液とした。以降のアスペルギルス・オリゼの形質転換については実施例7(7−1−2)に記した方法を踏襲した。pPTR−enoP−hypの胞子PCR用のプライマーとして5’−ATTCGCGAAAATGGTAGCTCGAGGA−3’と5’−CTGTGTCCCGTATGTAACGGTG−3’の2種のオリゴヌクレオチドを合成した。pNG−amyの胞子PCR用のプライマーとして5’−GGTTCGCTTCGTAAGTCTTCCCTT−3’と5’−GTAGAATCACGAATGAGACCTTTGACGACC−3’のオリゴヌクレオチドを合成した。PCR用装置はPCR Thermal Cycler PERSONAL(宝酒造)を用いた。ポジティブコントロールとして形質転換に使用にしたプラスミドDNAを鋳型とした。pPTR−gla−hypの増幅反応は95℃,3分間鋳型DNAを変性し、94℃,1分間,55.5℃,1分間,72℃,90秒間保持するサイクルを30サイクルおこなった後、72℃,95秒間で完全伸長させ4℃で保持した。得られたPCR増幅断片をアガロース電気泳動に供したところ、ポジティブコントロールと同じ位置にPCR断片の増幅が確認され、その結果より、麹菌の染色体DNA上にenoA promoter配列下流にハイドロホービン遺伝子の挿入された配列とglaA142 promoter配列下流にαアミラーゼ遺伝子の挿入された配列の存在が確認された。
形質転換されたクチナーゼ−ハイドロホービン共高発現株を200mlのYPM培地{実施例2(2−2)}に1×10胞子/ml濃度で植菌し、30℃,24時間振盪培養しガラスフィルターで菌体を濾過し、培養上清を得た。培養上清200μlに対して100μlの100(w/v%)冷トリクロロ酢酸を加え、よく混合した後、氷中に12−16時間放置した。サンプルを15,000×g,4℃,20分間遠心分離し上清を完全に除いた後、沈澱を15μlのSDS化溶液{実施例2(2−2)}に溶解させたあと、沸騰湯浴中に5分間放置しSDS化をおこない、これをサンプルとした。以後のSDS−PAGEの方法は実施例2(2−2)に記した通りとした。SDS−PAGEに供した後、、CBB染色により14kDaにクチナーゼ高発現株には、確認されないバンドが確認されたことから、クチナーゼ−ハイドロホービン−αアミラーゼ三重共高発現株(A.oryzae pN−cha株)がハイドロホービンを高発現することが確認された。(図14)。
(9−3)αアミラーゼ発現の確認
次いで生分解性プラスチックPBSの分解に共役した、物質生産の例として工業用酵素α−アミラーゼの生産を行った。表5同様の培地を用いて、実施例7で作製したクチナーゼ・ハイドロホービン共高発現株、及び本実施例で作製したクチナーゼ−ハイドロホービン−アミラーゼ三重共高発現株(A.oryzae pN−cha株)の培養を行った。コントロールとしてpNGA142のインサートを持たないベクターのみを有するpNGA142株を用いた。培地に1×10個の胞子を接種し、30℃で24時間培養した。培養液をMIRACLOTHでろ過して菌体を除き、培養ろ液を得、15,000×g,4℃,10分間遠心分離し残存するPBSを完全に除き培養上清を得た。α−アミラーゼ活性の測定は、培養上清を水にて100倍に希釈したものを用い実施例6の方法と同様のヨウ素呈色法にて測定した。
即ち、測定用試薬溶液として、A液;50mMトリス緩衝液(pH6.8)中に可溶性澱粉を0.2%となるように溶かしたもの、B液;1N塩酸中にヨウ素を2×10−4%、ヨウ化カリウムを2×10−3%になるように溶かしたものを調製した。A液400μlに50μlの希釈した培養上清を加え37℃で10分間反応させた。そこにB液を50μl加え、よく混合し、直ちに620nmの吸光度を測定し、Blank(未接種)の値に比した吸光度の減少量をα−アミラーゼの相対活性量として表7に示した。αアミラーゼ活性測定結果からアミラーゼ遺伝子を挿入した三重高発現株がもっとも高いαアミラーゼ活性を示した事から、三重共高発現株の取得を確認した。

【実施例10】
(10)ハイドロホービンホモログ
(10−1)Aspergillus oryzae ESTデータベースを用いたハイドロホービンホモログの探索
現在までに報告されている糸状菌、担糸菌のハイドロホービンの塩基配列、アミノ酸配列からA.oryzae ESTデータベースに対してBLASTネットワークサービスを用い、相同性の高いクローン情報を探索した。
探索結果としてAspergillus oryzaeハイドロホービンhyp B(Aspergillus oryzae ESTデータベースのマッチング結果:塩基配列のe値:0.0、アミノ酸配列のe値:6e−36)(配列表2)、Pholiota namekoハイドロホービンと相同性(Aspergillus oryzae ESTデータベースのマッチング結果:塩基配列のe値:0.029、アミノ酸配列のe値:1e−19)を示すクローンhydrophobin−315(配列表3)の情報が得られ、ハイドロホービンに保持されている8つのシステイン残基を含んでいた。このことより、このクローンはA.oryzaeのハイドロホービンであることが明らかになった。
(10−2)麹菌A.oryzaeハイドロホービン遺伝子ホモログのクローニングと高発現株の育種
(10−2−1)hypBのクローニング
BLASTネットワークサービスの情報からhypBのORF(オープンリーディングフレム)を予想し、PCRにて増幅される断片にORFが含まれるように2種類のオリゴヌクレオチド5’−CAACCCAACCGTCGACATGAAGTTCT−3’と5’−GCCAAATGGCGTCTAGATTACAGACC−3’を合成しクローニング用のprimerとした。鋳型DNAとして実施例3−3で調整したA.oryzae RIB 40染色体DNAを使用した。PCR用装置はPCR Thermal Cycler PERSONAL(宝酒造)を用いた。増幅反応は95℃,3分間鋳型DNAを変性し、95℃,1分間,57.2℃,30秒間,72℃,90秒間保持するサイクルを30サイクル行った後、72℃,90秒間で完全伸長させ4℃で保持した。実際にPCRによってDNA断片が増幅されているかをアガロース電気泳動により確認した。さらにPCRで目的遺伝子に変異が入っているかを確認するため、塩基配列のシークエンスを行った。PCR増幅断片をアガロース電気泳動に供し長波長(363nm)UV下でDNAフラグメントを切り出しprep A gene(BIO−Rad−Laboratories)にてDNAを回収した。PGEM−T Easy Vector Systems(Promega)を使用し回収したPCR断片をPGEM−T Easy Vector Systemsに添付のプロトコルに沿ってTAクローニングを行った。このプラスミドDNA(TA−hypB)中の挿入DNA断片の塩基配列をABI PRISMTM 377 DNA sequencer Long Read(PE Biosystem)のプロトコールに従い、ABI PRISMTM 377 DNA sequencing system(PE Biosystem)にて解析した。解析結果からPCR反応によって得られた増幅断片中の塩基配列の変異は確認されなかった。
(10−2−2)hyp B高発現プラスミドの構築
hypB高発現麹菌を育種するために、麹菌用hypB高発現プラスミドを構築した。麹菌発現用ベクターであるpNGA142系ベクターを用いた。またhypB高発現にはマルトースで強力に誘導がかかるglaA142 promoterを目的遺伝子の上流に融合させたpNG−gla−hypBを作製した。(図15)
[材料]
pNG−gla−hypBの構築にあたりベクターをpNGA142をインサートはTA−hypBを使用した。
[方法]
▲1▼制限酵素によるDNAの切断
pNGA142とTA−hypB各々をXbaIとSa/Iにより切断した。
▲2▼ベクターDNA、インサートDNAの調製
▲3▼ライゲーション
▲4▼大腸菌の形質転換
▲5▼プラスミドDNAの調製
上記方法▲2▼から▲5▼については、実施例2と同様に行った。得られたプラスミドをXbaIとSalIで切断後、アガロース電気泳動により挿入断片の存在を認め、pNG−gla−hypBの完成を確認した。
(10−2−3)hypB高発現株の育種
アスペルギルス・オリゼの形質転換はプロトプラストPEG法を改良した方法を用い、形質転換するプラスミドDNAは上記で作製したpNG−gla−hypBを用いた。これらのプラスミドDNA10μgをMunIで完全消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈澱処理を行った後10μlのTEに溶解し形質転換用DNA溶液とした。以降のアスペルギルス・オリゼの形質転換についてはは実施例2(2−2)に記した方法を踏襲した。集菌した菌体を実施例2と同様にpNG−gla−hypBを用いて形質転換し、PNG−gla−hypBの胞子PCR用のプライマーとして5’−CAACCCAACCGTCGACATGAAGTTCT−3’と5’−GTAGAATCACGAATGAGACCTTTGACGACC−3’の2種のオリゴヌクレオチドを合成した。PCR用装置はPCR Thermal Cycler PERSONAL(宝酒造)を用いた。ポジティブコントロールとして形質転換に使用にしたプラスミドDNAを鋳型とした。pNG−gla−hypBの増幅反応は95℃,3分間鋳型DNAを変性し、94℃,1分間,57.0℃,1分間,72℃,90秒間保持するサイクルを30サイクルおこなった後、72℃,95秒間で完全伸長させ4℃で保持した。得られたPCR増幅断片をアガロース電気泳動に供したところ、ポジティブコントロールと同じ位置にPCR断片の増幅が確認され、その結果より、麹菌の染色体DNA上にglaA142 promoter−配列下流にhypB遺伝子の挿入された配列の存在が確認された。
(10−2−4)hydrophobin−315のクローニング
A.oryzae ESTデータベースの情報からhydrophobin−315のORF(オープンリーディングフレム)を予想し、PCRにて増幅される断片にORFが含まれるように2種類のオリゴヌクレオチド5’−CTGCTTCCTTTGTCGACATGAAGGT−3’と5’−TCAATGGTCTAGAAGCCCTTGGC−3’を合成しクローニング用のprimerとした。鋳型DNAとして実施例3−3で調整したA.oryzae RIB 40染色体DNAを使用した。PCR用装置はPCR Thermal Cycler PERSONAL(宝酒造)を用いた。増幅反応は95℃,3分間鋳型DNAを変性し、95℃,1分間,55.4℃,30秒間,72℃,90秒間保持するサイクルを30サイクル行った後、72℃,90秒間で完全伸長させ4℃で保持した。実際にPCRによってDNA断片が増幅されているかをアガロース電気泳動により確認した。さらにPCRで目的遺伝子に変異が入っているかを確認するため、塩基配列のシークエンスを(8−2−2)の方法と同様に行った。解析結果からPCR反応によって得られた増幅断片中の塩基配列の変異は確認されなかった。
(10−2−5)hydrophobin−315高発現プラスミドの構築
hydrophobin−315高発現麹菌を育種するために、麹菌用hydrophobin−315高発現プラスミドを構築した。麹菌発現用ベクターであるpNGA142系ベクターを用いた。またhydrophobin−315高発現にはマルトースで強力に誘導がかかるglaA142 promoterを目的遺伝子の上流に融合させた
pNG−gla−hydrophobin−315を作製した。(図16)
[材料]
pNG−gla−hydrophobin−315の構築にあたりベクターはpNGA142をインサートはTA−hydrophobin−315を使用した。
[方法]
▲1▼制限酵素によるDNAの切断
pNGA142とTA−hydrophobin−315各々をXbaIとSalIにより切断した。
▲2▼ベクターDNA、インサートDNAの調製
▲3▼ライゲーション
▲4▼大腸菌の形質転換
▲5▼プラスミドDNAの調製
上記方法▲2▼から▲5▼については、実施例2と同様に行った。得られたプラスミドをXbaIとSalIで切断後、アガロース電気泳動により挿入断片の存在を認め、pNG−gla−hydrophobin−315の完成を確認した。
(10−2−6)hydrophobin−315高発現株の育種
アスペルギルス・オリゼの形質転換はプロトプラスト−PEG法を改良した方法を用い、形質転換するプラスミドDNAは上記で作製した
pNG−gla−hydrophobin−315を用いた。これらのプラスミドDNA10μgをMunIで完全消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈澱処理を行った後10μlのTEに溶解し形質転換用DNA溶液とした。以降のアスペルギルス・オリゼの形質転換についてはは実施例2(2−2)に記した方法を踏襲した。
pNG−gla−hydrophobun−315の形質転換は、実施例2の形質転換と同様に行って、形質転換体をpNG−gla−hydrophobin−315の胞子PCR用のプライマーとして5’−CTGCTTCCTTTGTCGACATGAAGGT−3’と5’−GTAGAATCACGAATGAGACCTTTGACGACC−3’の2種のオリゴヌクレオチドを合成した。PCR用装置はPCR Thermal Cycler PERSONAL(宝酒造)を用いた。ポジティブコントロールとして形質転換に使用にしたプラスミドDNAを鋳型とした。pNG−gla−hydrophobin−315の増幅反応は95℃,3分間鋳型DNAを変性し、94℃,1分間,57.0℃,1分間,72℃,90秒間保持するサイクルを30サイクルおこなった後、72℃,95秒間で完全伸長させ4℃で保持した。得られたPCR増幅断片をアガロース電気泳動に供したところ、ポジティブコントロールと同じ位置にPCR断片の増幅が確認され、その結果より、麹菌の染色体DNA上にglaA142 promoter配列下流にhydrophobin−315遺伝子の挿入された配列の存在が確認された。
(10−2−7)カビのハイドロホービン相同遺伝子
以上、プラスチックに吸着性の麹菌のハイドロホービン遺伝子群の単離を述べたが、それらDNA及びアミノ酸配列を既知のDNA及びタンパク質データベースに対して検索を行った。その結果を、遺伝的系統樹として図17に示した。その結果、イモチ菌Magnaporthe grisea、Aspergillus fumigatus、Aspergillus nidulansに相同遺伝子が存在することが明らかとなった。これらはいずれもハイドロホービン特有のシステイン残基を有していたことから、ハイドロホービンであることが確認される。これら遺伝子産物も、プラスチックの疎水表面に吸着し、生分解性プラスチック分解酵素と共同して、プラスチック分解を促進する因子として働くと予想される。
尚、図17に示された各ハイドロホービン遺伝子のアノテーションに関する現時点での情報は以下の通りである。
Magnaporthe grisea MPG1
→植物感染に重要な接着因子。クローニング済
ACCESSION NO.L20685(Nucleotide),AAA20128(Protein)
Aspergillus fumigatus RodA
→アスペルギル症感染に重要な因子。クローニング済
ACCESSION NO.AF057335(Nucleotide),AAB60712(Protein)
Aspergillus fumigatus RodB
→ウイルスの胞子への感染を防ぐ。クローニング済
AEM.Mar.2003.p1581−1588
Aspergillus nidulans RodA
→胞子形成時に発現し菌体表面を疎水性にする。クローニング済
ACCESSION NO.M61113(Nucleotide),AAA33321(Protein)
Aspergillus nidulans DewA
→胞子形成時に発現し菌体表面を疎水性にする。クローニング済
ACCESSION NO.U07935(Nucleotide),S67924(Protein)
Aspergillus oryzae DewA
→A.nidulansのhydrophobin(Aspergillus nidulans DewA)と相同性をもつものとして見出された。
Aspergillus oryzae RolA
LOCUS AB094496 861 bp DNA linear PLN 07−MAR−2003
DEFINITION Aspergillus oryzae rolA gene for hydrophobin putative,complete cds.
ACCESSION AB094496
VERSION AB094496.1 GI:28875528
SOURCE Aspergillus oryzae
ORGANISM Aspergillus oryzae
Eukaryota;Fungi;Ascomycota;Pezizomycotina;Eurotiomycetes;
Eurotiales;Trichocomaceae;mitosporic Trichocomaceae;Aspergillus.
REFERENCE 1
AUTHORS Takahashi,T.,Yoneda,S.,Maeda,H.,Yamagata,Y.,Abe,K.,Machida,M.,Gomi,K.and Nakajima,T.
TITLE Hyper induction of a Hydrophobin−like protein,RolA,of Aspergillus oryzae by polybutylenesuccinate in liquid culture
JOURNAL Unpublished
Aspergillus oryzae nameko(hydrophobin−315)
新規遺伝子(実施例10参照)
Aspergillus oryzae HypB
→本遺伝子及びその発現産物であるタンパク質は既知であり、以下のアクセッション番号にて登録されている。クローニングは既報の情報を基に行い、A.oryzae染色体DNAより単離した(実施例10)。また本遺伝子はPBS存在時に特異的に発現することを確認している。
ACCESSION NO.AB097448(Nucleotide),BAC77248(Protein)
【実施例11】
(11)RolAの生分解性プラスチックへの吸着
ハイドロホービン(RolA)が存在する系での生分解性プラスチックの分解において、RolAは両親媒性という物理学的特性から、生分解性プラスチックの表面に吸着することが考えられた。生分解性プラスチックとしてフィルム状(1mm)のPBS,PBSA,PLAを用いRolAがこれらの生分解性プラスチックに吸着するか否かを確認した。
(11−1)Hydrophobin(RolA)高発現麹菌からのRolAの精製
実施例2で得られたhydrophobin高発現麹菌の胞子を1×10個胞子/mlになるように、1%マルトースを含む1Lの最少培地を入れた3L容坂口フラスコに接種し30℃で48時間培養した。培養液をMIRACLOTH(CALBIOCHEM)にて濾過し、培養上清を得た。培養上清に40%飽和となるように硫酸アンモニウムを加えた後、8,000×g,4℃,20分間遠心分離し得られた上清画分を得た。上清画分を10mMトリス−塩酸緩衝液,pH8.0,40%飽和硫酸アンモニウムにて平衡化したOctyl−Cellulofine(生化学工業)に供し、吸着画分を40−0%飽和硫酸アンモニウムの直線濃度勾配による溶出させた。溶出させた全画分をSDS−pageに供し、予想された大きさのところにバンドが確認された画分を回収した。回収した画分を10mMクエン酸−NaOH緩衝液(pH.4.0)で透析し、同緩衝液で平衡化したS−Sepharose FFに供し吸着画分をNaCl,0−0.5Mの直線勾配で溶出させた。回収した全画分をSDS−PAGEに供しCBB染色により目的の大きさのバンドが均一であることが確認されたため、これを精製RolAとした。
(11−2)RolA抗体の作製
(11−1)で得た、RolA精製タンパク質を用いて、マウス抗RolA抗体を作製した(株式会社ティーケークラフト)。
(11−3)イミュノブロッティングによる生分解性プラスチックへのRolAの吸着の確認
フィルム状のPBS,PBSA(昭和高分子)及びPLA(三井化学)、コントロールとしてスライドガラスに1cmに切り抜いたろ紙(Whatman)に精製RolA溶液(2.5μg protein/ml Tris−HCl buffer,pH8.0)を10μlろ紙にスポットし30℃,13時間,湿度95%でインキュベートした。このフィルムを入れた容器に11−2)で作製した一次抗体の1000倍希釈液(1%BSA,0.05% Tween20,10mMリン酸緩衝液,pH7.2,0.9w/v NaCl)10mlを加え1時間振盪し10mMリン酸緩衝液pH7.2で三回洗浄する。次に5000倍した二次抗マウス杭体(生化学工業社製)希釈液10mlを容器に入れ30分間軽く振盪し10mMリン酸緩衝液pH7.2で三回洗浄する。二次抗体にはアルカリフォスファターゼが固定化してあるため、基質として66μLのNBT(nitro blue tetrazdium 50mg/ml in 70%dimethylformamide)を10mLのアルカリフォスファターゼbuffer(100mM Tris−HCl,PH9.5),100mM NaCl,5mM MgClと混合。その後、この溶液に33μlのBIPC(50mg/mL in 70%dimethylformamide)を混合したものを用いた。
この基質溶液をフィルムの入っている容器に加え、生分解性プラスチックに吸着しているRolAを検出した。その結果、RolAタンパク質は、ガラス表面には吸着せず、PBS,PBSA,PLAの全ての表面に吸着していることが検出された(図18)。
【実施例12】
(12)新規プラスチック分解酵素遺伝子の探索
(12−1)PBS分解酵素類似体遺伝子を含む染色体DNAのクローニング
PBS分解酵素類似体遺伝子を含む染色体DNAのクローニングを行なうにあたり、サザンハイブリダイゼーションに用いるプローブとなるPCR断片を以下のRT−PCR法により得た。
プローブ配列を取得するために、PBS存在下での培養時に発現している遺伝子群のライブラリーを取得した(以下cDNAライブラリーと省略)。0.5×10個胞子/mlとなるようにアスペルギルス・オリゼRIB40胞子懸濁液を500ml容三角フラスコ内の100mlのCzapek−Dox培地に添加した。添加後30℃,24時間培養した。菌糸体をミラクロス(CALBIOCHEM)にて集菌し、滅菌水で洗浄後余分な水分を取り除いた。この回収した菌糸体を、PBSエマルジョンを唯一の炭素源とした最少培地へと移し、30℃,3日間振盪培養を行った。培養終了後ミラクロスを用いて菌糸体を回収した。菌糸体から実施例1に従って、total RNA及びmRNAを取得した。次に、得られたmRNAを鋳型とした逆転写反応を行った。エッペンドルフチューブに、mRNA(92ng/μl)5μl、oligo(dT)primer(0.5μg/μl)1μl、2.5mM dNTP MIX(2.5mM each)4μl、DEPC処理水2μlを加え、70℃で10分間インキュベートした後氷上で1分間以上放置し、mRNAにoligo(dT)primerをアニーリングさせた。次に、この反応液に5×First Strand Bufffer(250mM Tris−HCl,pH8.3、375mM KCl、15mM MgCl)4μl、0.1M DTT 2μlを加え、42℃で5分間インキュベートした後、逆転写酵素Super Script II RT(200U/μl)1μlを加えピペッティングによる撹拌後42℃で50分間インキュベートし、さらにSuper Script II RT(200U/μl)1μlを加えピペッティングによる撹拌後42℃で50分間インキュベートし逆転写反応させた。この溶液を70℃で15分間インキュベートすることで、逆転写酵素を失活させ、さらにRNaseH(10U/μl)1μlを加え、37℃で20分間インキュベートすることで、未反応mRNAを分解した。この逆転写反応で得られた溶液をcDNAライブラリー溶液とした。
次に実施例3にて同定したPBS分解酵素タンパク質(クチナーゼ)と、アスペルギルス・フミガタス由来の既知の類似酵素タンパク質の相同性の比較から、18塩基からなるミックスオリゴヌクレオチド{5’−GT(T/C/A/G)GC(T/C/A/G)TG(T/C)CA(A/G)GG(T/C/A/G)GT(T/C/A/G)−3’}と15塩基からなるミックスオリゴヌクレオチド{5’−(G/A)TA(C/T/G/A)CC(C/T/G/A)CC(C/T/G/A)GC(C/T/G/A)AC(T/G/A)AT−3’}を合成した。この1組のプライマーセットを用い、cDNAライブラリーを鋳型としてPCRを行い、サザンハイブリダイゼーションのプローブを増幅した。PCR用装置はPCR Thermal Cycler PERSONAL(宝酒造)を用いた。cDNAライブラリーは上記のcDNAライブラリー溶液を1μl用い、ポリメラーゼはEx taq polymerase(宝酒造)を用いた。増幅反応は、95℃,3分間鋳型DNAを変性し、95℃,1分間、53℃,1分間、72℃,30秒間保持するサイクルを30サイクルおこなった後、72℃,1分間で完全伸長させ、4℃で保持した。得られたPCR増幅断片をアガロースゲル電気泳動に供したところ、およそ160塩基対からなる断片の増幅が確認された。
次に、NEN Random Primer Fluorescein Labeling Kit with Antifluorescein−AP(Eizo Diagnostics,Inc.)を用いて実施例3(3−3)と同様にサザンハイブリダイゼーションをおこなった。ターゲットとして染色体DNA10μgを50ユニットのHincII(宝酒造)またはSacI(宝酒造)とHindIII(宝酒造)で完全消化したものを用いた。その結果HincIIにて完全消化した場合約2700塩基対からなり、SacIとHindIIIにて完全消化した場合約1800塩基からなる強くハイブリダイズするバンドが検出された。
次に、実施例3(3−3)に従ってコロニーハイブリダイゼーションを行った。染色体DNA10μgを50ユニットのHincII(宝酒造)またはSacI(宝酒造)とHindIII(宝酒造)で完全消化しアガロースゲル電気泳動に供しエチジウムブロマイドで染色後、各々、2700塩基対、1800塩基対付近のゲルをUV照射下で切り出した。ゲル中よりprepA gene(BioRad)を用いてDNAを抽出し、これを挿入DNA断片とした。
次にプラスミドpBluescriptII KS+DNA(Stratagene)2.5μgをHincII宝酒造)またはSacI(宝酒造)とHindIII(宝酒造)にて消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後、アルカリフォスファターゼ(宝酒造)により5‘末端のリン酸を除去した。この反応液を定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後TEに溶解したものをベクターDNA溶液とした。さらに、前述の挿入DNA断片と連結させることで、連結DNA溶液を得た。これら連結DNA溶液を用いて大腸菌DH5α株を形質転換し、コロニーハイブリダイゼーションに供した。その結果ポジティブシグナルを得た。
次に元の寒天培地上からポジティブシグナルとなるプラスミドDNAを有する大腸菌から実施例3(3−3)に記した方法によりプラスミドDNA溶液を得た。このプラスミドDNA中の挿入DNA断片の塩基配列を解析した。その結果、プラスミドDNAに挿入された2713塩基対からなる染色体DNAのHincII消化断片には、プローブの塩基配列を含むオープンリーディングフレームが見出され(配列表4)、また1801塩基対からなる染色体DNAのSacI/HindIII消化断片には、プローブの塩基配列を含むオープンリーディングフレームが見出された(配列表5)。この2種のオープンリーディングフレームは各々2または3箇所のイントロン塩基配列を含み、さらに開始メチオニンをコードする塩基配列ATGとストップコドンを含み、すなわちPBS分解酵素類似体遺伝子の全長を有していた。
(12−2)PBS分解酵素ならびにPBS分解酵素類似体の大腸菌を宿主とした発現系の構築
実施例3に記したPBS分解酵素遺伝子、ならびに前述の2種のPBS分解酵素類似体遺伝子を含むcDNAライブラリーを鋳型としてPCRを行い、大腸菌用発現プラスミド(pET−12b;Novagen)に挿入すべくPCR断片を調製した。前述のPBS存在下での培養時に発現している遺伝子群を含むcDNAライブラリーに対して、PBS分解酵素遺伝子に対しては、5’−TGCAGTGGCGGATCCGGTGGAC−3’と5’−GACCGGATGGATCCCGAAAATTTATCC−3’のオリゴヌクレオチドプライマーセットを、麹菌ゲノム中にて2713塩基対のオープンリーディングフレームからなるPBS分解酵素類似体遺伝子に対しては、5‘−GGCAGCAGGGGATCCCATCGCTG−3’と5‘−CGTAGCCCACACTCGGATCCTAAGCTGAC−3’のオリゴヌクレオチドプライマーセットを、麹菌ゲノム中にて1801塩基対のオープンリーディングフレームからなるPBS分解酵素類似体遺伝子に対しては、5‘−GGCGGCTGCGGATCCAGTAGATATC−3’と5‘−CAGTTCAGGGGGATCCTATAGAGTCC−3’のオリゴヌクレオチドプライマーセットを合成し、PCRに用いた。PCR用装置はPCR Thermal Cycler PERSONAL(宝酒造)を用いた。cDNAライブラリーは上記のcDNAライブラリー溶液を1μl用い、ポリメラーゼはEx taq polymerase(宝酒造)を用いた。増幅反応は、95℃,3分間鋳型DNAを変性し、95℃,1分間、57℃,1分間、72℃,1分間保持するサイクルを30サイクルおこなった後、72℃,1分間で完全伸長させ、4℃で保持した。得られたPCR増幅断片をBamH I(宝酒造)で消化し、アガロースゲル電気泳動に供しエチジウムブロマイドで染色後UV照射下で各々、625塩基対、650塩基対、759塩基対からなる断片を切り出した。ゲル中よりprep A gene(BioRad)を用いてDNAを抽出し、これを挿入DNA断片とした。次に塩基配列中にT7プロモーター配列とシグナル配列(OmpT−leader sequence)を有するプラスミドpET−12b(Novagen)DNA 5μgをシグナル配列の直後にある制限酵素BamH I認識配列の位置でBamH I(宝酒造)で消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後、アルカリフォスファターゼ(宝酒造)により5’末端のリン酸を除去した。この反応液を定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後TEに溶解したものをベクターDNA溶液とした。次に、ベクターDNA 1μgと挿入DNA断片1.5μgをT4 DNA ligase(宝酒造)により連結させ、連結DNA溶液を得た。この連結DNA溶液を用いて大腸菌DH5α(宝酒造)を形質転換し、各々のプラスミドDNAを保持する形質転換大腸菌を得た。形質転換大腸菌の培養菌体中より前述と同様にプラスミドDNAを抽出し、この大腸菌形質転換用プラスミドDNAを得た(pET−cut,pET−cuthom1,pET−cuthom2)。このプラスミドDNA 1μgを用い前述と同様にして、大腸菌BL21−SI(Invitrogen)を形質転換し、NaClを含まない50μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地上にて各々の形質転換株を取得した。
次にPBS分解酵素遺伝子が挿入されたプラスミドDNAを用いて形質転換された大腸菌形質転換株(pET−cut)と、PBS分解酵素類似体遺伝子が挿入されたプラスミドDNAを用いて形質転換された大腸菌形質転換株2種(pET−cuthom1、pET−cuthom2)と、挿入されていない(pET−12bにて形質転換した)大腸菌形質転換株のコロニーを白金針にて拾い、LB液体培地(50μg/mlアンピシリン、NaClを含まない)にそれぞれ植菌した。植菌後37℃,16時間振盪培養することで前培養とした。各々の前培養溶液500μlを500ml容坂口フラスコ内の50mlのLB培地(0.5%NaClを含む)に添加した。添加後30℃にて12時間振盪培養することで、目的の酵素タンパク質を培養上清中に誘導・発現させた。培養液50mlを50ml容マイクロチューブに移し、8000g,10分間遠心分離し培養上清を得た。得られた培養上清に対して0.1(v/v%)となるようにPBS乳化液を添加し、37℃にて保温し、その濁度の低下(PBSの分解)によってPBS分解酵素の発現を確認したところ、PBS分解酵素遺伝子およびPBS分解酵素類似体遺伝子が挿入されたプラスミドDNAにより形質転換された大腸菌形質転換株の培養上清中にのみその活性の存在が認められた(表8)。

次に上記と同様の方法で得られた培養上清に対して0.1(w/v%)となるようにポリ乳酸(PLA)乳化液を添加し、37℃にて保温し、その濁度の低下(PLAの分解)によってPLA分解活性の有無を確認したところ、PBS分解酵素遺伝子およびPBS分解酵素類似体遺伝子が挿入されたプラスミドDNAにより形質転換された大腸菌形質転換株の培養上清中にのみその活性の存在が認められた(表8)。すなわち実施例3で得られたPBS分解酵素および、2種のPBS分解酵素類似体にはポリブチレンサクシネート(PBS)分解活性と併せてポリ乳酸(PLA)分解活性をも有することが分かった。
(12−3)イモチ菌由来の生分解性プラスチック分解酵素遺伝子群
これまでに麹菌アスペルギルス・オリゼ由来のPBS分解酵素遺伝子及びそのタンパク質の存在を確認したが、そこで麹菌のPBS分解酵素相同遺伝子を既知のDNA及びプロティンデータベースに対して検索した後、図19の系統樹を作成した。相同遺伝子の多くが糸状菌(カビ)由来であり、特にMagnaporthe griseaには8種の相同遺伝子の存在が確認された。そこで、Magnaporthe grisea70−15株を以下の条件にてPBS乳化液若しくはPLA乳化液中で培養し、その培養上清中のPLAおよびPBSの分解活性を測定した(表9)。
即ち、Vogel−N培地(2%Sucrose)にて24℃、4日間振盪培養した後、菌糸体を濾過により取得し、C源が各々PBSA又はPLA乳化液(1w/v%)に限定されたVogel−N培地に移し、24℃、2日間振盪培養した。各々の培養上清を濾過及び遠心分離により取得し、各培養上清にPBSA乳化液又はPLA乳化液を0.1(w/v%)となるように加え、37℃にて24時間インキュベートし、O.D.630を測定し、分解率(Degradation rario)を算出した。その結果、Magnaporthe grisea70−15株はPLA及びPBS分解活性を有することが明らかとなった。

尚、図19に示された各生分解性プラスチック分解酵素遺伝子のアノテーションに関する現時点での情報は以下の通りである。
Aspergillus oryzae

Aspergillus fumigatus
・Aspergillus fumigatusゲノムデータベース中において、tblastn検索の結果見出されたhomologueであり、annotated geneではない。よって遺伝子、タンパク質としての登録は行われていない。

Aspergillus nidulans
・Aspergillus nidulansゲノムデータベース中において、tblastn検索の結果見出されたhomologueである。genomic DNAとして各contigue毎に登録されているが、以下の3種についてはannotated gene並びにcutinaseとしての登録もない。

Magnaporthe grisea
・Cut1−8についてはすべてゲノムデータベース中において、annotation済み。
・Cut1のみがタンパク質的にcutinaseとして確認されている。
・Cut2−8についてはいずれもデータベース中において、hypothetical proteinとして扱われている。

以下4種のcutinaseは既知の遺伝子及びタンパク質で、その機能も確認されているものである。

以下の既知の遺伝子及びタンパク質は、その機能は確認されていないものである。

【実施例13】
(13)麹菌アスペルギルス・オリゼからの生分解性プラスチック結合タンパク質と高発現株の育種
(13−1)生分解性プラスチック結合タンパク質(PbpA、PbpB)遺伝子の取得
アスペルギルス・オリゼの染色体DNAより生分解性プラスチック結合タンパク質PbpA、PbpBのクローニングを行った。そしてアスペルギルス・オリゼのPbpA高発現株の育種を行ったのでその過程を以下に示す。
[方法]
3L容の三角フラスコに1(w/v%)となるようにPBS乳化液を含み、唯一の炭素源としたCzapek−Dox培地を750ml調製し、アスペルギルス・オリゼRIB40株の胞子懸濁液を終濃度1.0×10となるように接種して5日間振盪培養した。その培養液をミラクロスで濾過し菌体を除いた。その濾液を20%の硫酸アンモニウムで飽和させ1時間氷冷し、10,000×g、4℃にて30分間遠心分離による沈殿を除去した。その上清を10mM Tris−HCl緩衝液,pH8.0,20%飽和硫酸アンモニウムで飽和させたオクチル−セルロファイン カラム(生化学工業)に供し、硫酸アンモニウム濃度20−0%の直線勾配で吸着タンパク質の溶出を行った。溶出フラクションに対してSDS−PAGEを行い溶出タンパク質の確認を行った。SDS−PAGE後のゲルはシルベストステイン,PAGE蛋白質用(ナカライテクス)を用いて行い、方法は説明書に記載されている方法に基づいて行った。
硫酸アンモニウム0%飽和付近に分子量約14kDaのタンパク質の存在を確認した(図20)。このタンパク質は疎水クロマトグラフィーの硫酸アンモニウム濃度0%飽和付近で溶出したことから、疎水性が高いタンパク質であることが考えられた。このタンパク質のN末端配列の解析を行ったところその配列はDASAVLADFNTLSTであった。
この配列をAspergillus oryzae EST blast search(http://www.nrib.go.jp/ken/EST/db/blast.html)にて相同性検索を行った結果、138残基のアミノ酸配列と相同性を示した。この138アミノ酸残基を日本DNAデータバンク(http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome−j.html)にて相同性検索を行った結果メタリジウム・アニソプリエの産生する4MeSタンパク質と相同性を示した。また、138アミノ酸残基をアスペルギルス・フミガタスのゲノムデータベース(http://www.tigr.org/tdb/e2k1/afu1/)上で相同性を確認したところ、コンティグ4875内に含まれる配列と、コンティグ4820内に含まれる配列と相同性を示すことが明らかとなった。
尚、以上の相同性(パーセント)に関する具体的な値を表10に示した。

そこでこの両者の配列を基に、アスペルギルス・オリゼの染色体DNAからクローニングを試みることとした。
アスペルギルス・フミガタスの相同配列とアスペルギルス・オリゼのコドン頻出頻度(http://www.kazusa.or.jp/codon/)を参考にして二組のオリゴヌクレオチド(5’−ATGCTCGCCAAGCACGTC−3’、5’−GGCCTTCTTGTACTCGGC−3’)、(5’−GACGCAATCTCCACCAC−3’、5’−TCAAACGCATCCGCAATCTG−3’)を設計した。この2組のプライマーセットを用い、染色体DNAを鋳型としてPCRをおこないサザンハイブリダイゼーション用のプローブを増幅した。PCR用装置はPCR Thermal Cycler PERSONAL(宝酒造)を用いた。染色体DNAは100ng用い、ポリメラーゼはEx taq polymerase(宝酒造)を用いた。増幅反応は、95℃,3分間鋳型DNAを変性し、95℃,1分間、50℃,1分間、72℃,30秒間保持するサイクルを30サイクルおこなった後、72℃,1分間で完全伸長させ、4℃で保持した。得られたPCR増幅断片をアガロースゲル電気泳動に供したところ、約570塩基対と約300塩基対からなる断片の増幅が確認された。
次に、NEN RandomPrimer Fluorescein Labeling Kit with Antifiuorescein−AP(Eizo Diagnostics,Inc.)を用いて実施例3(3−3)と同様にサザンハイブリダイゼーションをおこなった。ターゲットとして染色体DNA10μgを50ユニットのEcoRI、BamHI(宝酒造)それぞれで完全消化したものを用いた。サザンハイブリダイゼーションの結果EcoRI消化断片に対して約570塩基対プローブを用いた時に約3000塩基対からなるバンドが検出され、BamHI消化断片に対し300塩基対のプローブを用いた時に2000塩基対からなるバンドが検出された。
次に、染色体DNA10μgを50ユニットのEcoRI、BamHIそれぞれで完全消化しアガロースゲル電気泳動に供しエチジウムブロマイドで染色後3000塩基対および2000付近のゲルをUV照射下で切り出した。ゲル中よりprep A gene(BioRad)を用いてDNAを抽出し、これを挿入DNA断片とした。
次にプラスミドpBluescript II KS+DNA(Stratagene)2.5μgをEcoRI、BamHIそれぞれで(宝酒造)にて消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後、アルカリフォスファターゼ(宝酒造)により5’末端のリン酸を除去した。この反応液を定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後TEに溶解したものをベクターDNA溶液とした。さらに、前述の挿入DNA断片と連結させることで、連結DNA溶液を得た。これら連結DNA溶液を用いて大腸菌DH5α株を形質転換し、コロニーハイブリダイゼーションに供した。その結果ポジティブシグナルを得た。
次に元の寒天培地上からポジティブシグナルとなるプラスミドDNAを有する大腸菌から実施例3(3−3)に記した方法によりプラスミドDNA溶液を得た。このプラスミドDNA中の挿入DNA断片の塩基配列を解析した。その結果、プラスミドDNAに挿入された3008、及び2004塩基対からなる染色体DNAのEcoRI、BamHIそれぞれの消化断片には、約570、300塩基対それぞれのプローブの塩基配列を含むオープンリーディングフレームが見出された。前者のオープンリーディングフレームは584塩基対(PbpA−配列表6)で後者は561塩基対(PbpB−配列表7)であり、変換された推定アミノ酸配列はそれぞれ174残基及び186アミノ酸残基であった。また、前者オープンリーディングフレームは1箇所のイントロン塩基配列を含み、後者はイントロンを含んでいなかった。
両アミノ酸配列と麹菌ESTデータベースより得られた138アミノ酸を比較した結果、前者のものと100%の相同性を示した。したがって前者の配列が目的のタンパク質であることが明らかになった。
(13−2)PBS結合タンパク質高発現麹菌の育種
PBS結合タンパク質高発現系の構築(図21)
クローニングされた目的遺伝子の周辺塩基配列を参考に一組のオリゴヌクレオチドを設計した(5‘−CTTGCATTCAAGTCGACCTGAACAC−3’、5‘−CTATTGAACTATGCTTCTAGAAGGCCTAATC−3’)。アスペルギルス・オリゼRIB40株のゲノムDNAをテンプレートとしてPCR反応を行った。増幅反応は、95℃13分間鋳型DNAを変性し、95℃,1分間、60℃,1分間、72℃,30秒間保持するサイクルを30サイクルおこなった後、72℃,1分間で完全伸長させ、4℃で保持した。そのPCRによる増幅断片をアガロース電気泳動にて確認を行ったところ約730塩基対の増幅が見られた。この増幅断片をSalI(宝酒造)及びXbaI(宝酒造)で消化し、その消化断片をアガロースゲル電気泳動に供したゲル中よりprep A gene(BioRad)を用いてDNAを抽出し、これを挿入DNA断片とした。次に塩基配列中にグルコアミラーゼのプロモーター配列(PgiaA142)を有するプラスミドpNGA142 DNA 5μgをSalI及びXbaIで消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後、アルカリフォスファターゼ(宝酒造)により5’末端のリン酸を除去した。この反応液を定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後TEに溶解したものをベクターDNA溶液とした。次に、ベクターDNA 1μgと挿入DNA断片1.5μgをT4 DNA ligase(宝酒造)により連結させ、連結DNA溶液を得た。この連結DNA溶液を用いて大腸菌DH5α(宝酒造)を形質転換し、各々のプラスミドDNAを保持する形質転換大腸菌を得た。形質転換大腸菌の培養菌体中より前述と同様にプラスミドDNAを抽出し、この麹菌形質転換用プラスミドDNAを得た実施例3(3−3)に記した方法により培養菌体中よりプラスミドDNAを抽出し、麹菌形質転換用プラスミドDNAを得た。このプラスミドDNA10μgをBamHIで消化し、定法によりフェノール抽出、エタノール沈殿処理をおこなった後10μlのTEに溶解し形質転換用DNA溶液とした。以降のアスペルギルス・オリゼの形質転換については実施例7(7−1−2)に記した方法を踏襲して行い、形質転換体を得た。また胞子PCR用プライマーとして、2種のオリゴヌクレオチド(5’−CTTGCATTCAAGTCGACCTGAACAC−3’,5’−GTAGAATCACGAATGGAGCCTTTGACGACC−3’)を合成した。PCR用装置はPCR Thermal Cycler PERSONAL(宝酒造)を用いた。ポジティブコントロールとして麹菌形質転換用プラスミドDNAを鋳型とした。ポリメラーゼはEx Taq polymerase(宝酒造)を用いた。増幅反応は、94℃,3分間鋳型DNAを変性し、94℃,1分間、55.5℃,1分間、72℃,90秒間保持するサイクルを30サイクルおこなった後、72℃,95秒間で完全伸長させ、4℃で保持した。得られたPCR増幅断片をアガロースゲル電気泳動に供したところ、ポジティブコントロールと同じ位置にPCR断片の増幅が確認され、その結果より染色体DNA上にグルコアミラーゼ・プロモーター配列の下流に目的遺伝子が連結した塩基配列が挿入されたことと、それを有するアスペルギルス・オリゼ形質転換株が得られたことが確認された。この目的遺伝子が染色体DNA中に挿入されたアスペルギルス・オリゼ形質転換株と、挿入されていない(pNGA142にて形質転換した)アスペルギルス・オリゼ形質転換株の胞子懸濁液を0.5×10個胞子/mlとなるようにグルコアミラーゼ・プロモーターの誘導物質であるマルトースを含む100mlのYPM液体培地{実施例2(2−2)}にそれぞれ添加した。添加後30℃,125rpm,16時間培養し、培養上清をMIRACLOTH(CALBIOCHEM登録商標)にて濾過することで得た。培養上清100μlに50μlの冷トリクロロ酢酸を加えよく混合した後、氷中で20分間放置し、15000g,4℃,15分間遠心分離し上清を完全に除き、沈殿画分を得た。これに15μlのSDS化溶液{実施例2(2−2)}に溶解させたあと、沸騰湯浴中に5分間放置しSDS化をおこない、これをサンプルとした。以後のSDS−PAGEの方法は実施例2(2−2)に記した通りとした。SDS−PAGE、に供した結果、目的遺伝子が染色体DNA中に挿入されたアスペルギルス・オリゼ形質転換株の培養上清中にのみ目的タンパク質の位置(約14kDa)にバンドが観察された(図22)。その後、電気泳動したゲル中よりタンパク質をPVDF膜に転写し、PVDF膜上より約14kDaのバンドを切り抜き、そのままアミノ末端アミノ酸配列の解析をおこなった。解析の結果アミノ末端からDASAVであったことこから、この約14kDaタンパク質が目的タンパク質であることが確認された。
(13−3)PbpA高発現株の疎水表面上での生育
φ90mmのプラスチックシャーレに20gの粒状PBS(1mm)を入れ、15mlのYPM液体培地を加えて、良くかき混ぜYPM培地を均一にした。その培地上に前述した高発現株、ハイドロホービン高発現株、そして野性株の胞子を10個接種した後、良くかき混ぜ胞子を均一にした。またポリウレタン製の家庭用スポンジを縦、横6cm、高さ1cmに切り取り、十分にYPM液体培地をしみ込ませた。その中心部に約14kDaタンパク質高発現株、ハイドロホービン高発現株、そして野性株の胞子を10個接種した。この両培地を30℃にて7日間培養を行ったところ、疎水表面上での約14kDaタンパク質及びハイドロホービン高発現株の生育は明らかに野性株のものを上回り旺盛な生育を示した(図23)。このことから今回高発現を行ったこのタンパク質は、実施例1にて見出されたハイドロホービンと同様に、カビがPBSのような疎水表面上に展開するための補助因子であり、疎水表面への吸着を促すものと考えられた。そこで、このタンパク質をPBSbinding proteinとし、PbpAとした。そしてPbpAのクローニングの際に得られた相同配列をPbpBとした。
(13−4)in vitroでのPbpAのPBSへの吸着
PbpA高発現株の胞子をを750mlのYPM液体培地に10(/ml)になるように接種して2日間培養を行った。その培養液をミラクロスにて濾過し、その濾液に60%になるように硫酸アンモニウムを加え1時間氷冷した。10,000×g、4℃にてその濾液を遠心分離し沈殿物を除去した。その遠心上清ををオクチル−セルロファインカラム(生化学工業)、デアエ−セルロファインカラム(生化学工業)、S−セファロースカラムFF(ファルマシア)に供しPbpAをSDS−PAGE的に単一バンドになるまで精製を行った。
10mM Tris−HCl(pH8.0)バッファーに濃度が0、10、20、30、40、50、60、70、80、90%になるように硫酸アンモニウムを加えた。それぞれ1mlのバッファーに対して0.2gのPBS粉末(1mm)を加えよく懸濁した。このPBS懸濁液に対してPbpA精製標品(0.1mg/ml)を100μl加えて30℃にて3時間振盪(125rpm)し、吸着処理を行った。この混合液をフィルター(孔径0.2μmミリポア)に通して完全にPBSを除き、その濾過液をSDS−PAGEに供した(図24)。
その結果、硫酸アンモニウム濃度0、10、20%時の濾過液中にはPbpAの存在が確認されたが30%以降は濾過液中にPbpAは見られなかった。この結果よりPbpAは硫酸アンモニウム30%存在下でPBSに吸着していることが示唆される。
(13−5)PbpA相同遺伝子
以上、Aspergillus oryzaeにはPBSなどの生分解性プラスチック表面への吸着因子PbpA及びびPbpBが存在することを示したが、既存のDNAデータベース検索から、カビアスペルギルス・フミガタスとメタリジウム・アニスプリエに相同遺伝子が存在することが見出された(図25)。これら遺伝子産物の機能はこれまで全く推定されていなかったが、PbpAの結果から、同様にプラスチック吸着機能を有するタンパク質と考えられる。
尚、図25に示された各PbpA及びPbpB相同遺伝子のアノテーションに関する現時点での情報は以下の通りである。
Aspergillus oryzae PbpA
Aspergillus oryzae PbpB
本実施例に記載。
Aspergillus fumigatus contig 4875内の配列
PbpAと相同性を示す配列で塩基配列、アミノ酸配列共にA.fumigatusのゲノムデータベースより取得された。発現は確認されておらず、機能未知。
Aspergillus fumigatus contig 4820内の配列
PbpBと相同性を示す配列で塩基配列、アミノ酸配列共にA.fumilgatusのゲノムデータベースより取得された。発現は確認されておらず、機能未知。
Metarhizium anisopliae 4MeS
ACCESSION No.AF012092(Nucleotide),ACCESSION No.AAB69311(Protein)
M.anisopliaeを培養時のcDNAから得られた配列。培養条件は不明。機能も全く分かっていない。
【実施例14】
(14)生分解性プラスチックと他のマテリアルとの複合材料からの生分解性プラスチックの選択的分解
生分解性プラスチック複合材料から生分解性プラスチックを分解酵素により選択的に分解し、生分解性プラスチックはモノマー及びオリゴマーとして可溶性区分に回収し、もう一方の複合材料を回収する。
今回、複合材料の一方は白金線、生分解性プラスチックにはPBSを用いた。分解酵素には実施例3に記載したPBS分解酵素精製標品(クチナーゼ)を用いた。100ml容ビーカー内に20(w/v%)となるように20mlのクロロホルムに4gPBSを溶解した。この溶液にひたしたφ0.5mm白金線を取り出した後、乾燥させ表面をPBSで被膜した金属(白金線)断片を得た。12mm×90mm試験管中にて蒸留水で洗浄した0.5mm×8mmのPBS被膜金属断片に対し、600μlの120μg/mlPBS分解酵素溶液(50mMトリス−塩酸緩衝液,pH9.0)を加え、37℃にて、1N NaOHにてpHを9.0に保持しながら7日間保温した(コントロールとして50mMトリス−塩酸緩衝液,pH9.0を用いた)。その結果、酵素添加区においてPBS被膜が選択的に分解され金属断片は固型物として回収された(図26)。この結果より、生分解性プラスチックと他の材料との複合材料より、生分解性プラスチックともう一方の複合材料を分別して回収可能なことを示している。
【実施例15】
(15−1)クチナーゼによるPBSフィルムの分解に対するRol Aの分解促進効果
76×26mmのスライドガラス(MATSUNAMI)社製に同じ大きさに切り出したPBSフィルムに10mM Tris−HCl buffer pH8.0に溶解したRolA(2.5μg/ml)を10μlしみ込ませたろ紙(1cm)(Whatman)を置き、12時間,30℃で反応させた。コントロールには、RolAが溶解しているbufferを10μlしみ込ませたろ紙(1cm)をPBSフィルム上に置いた。12時間後20μg/ml濃度のcutinase 10μlをろ紙に加え6時間,37℃で分解反応を行った。分解反応後、ろ紙を置いていた所が白く濁っているのが観察された。濁度はRolAを前もって吸着させていたろ紙の方が高く、RolAを吸着させていなかった方の濁度は低かった。予備実験の結果よりcutinaseによるPBSフィルム分解では、PBS分解率が高い程、cutinase接触面が白濁することが、分かっている。これらの結果から、RolAによるcutinaseのPBS分解が促進されることが分かった(図27)。図27では白黒が反転して表示されており、黒い部分が分解を示している。
(15−2)クチナーゼによるPBS乳化液の分解に対するRolAの分解促進効果
96穴マイクロタイタープレートに0.1w/vに調整したPBS乳化液89.5μlを入れ、そこに10mM Tris−HCl buffer pH8.0に溶解したRolA(250ng/ml)を10μl加え12時間,30℃でRolAのPBSへの吸着反応を行った。コントロールとしてRolAの替わりに10mM Tris−HCl buffer pH8.0を10μl PBS乳化液に加えたものを用いた
吸着反応後、10mM Tris−HCl buffer pH8.0に溶解した1mg/ml濃度のcutinaseを0.5μl加え40℃で分解反応を行い、30分毎にPBSの濁度を630nmの波長で吸光度を測定しPBS分解率を算出した(図28)。結果としてPBS分解率に有意な差が確認されたため、PBS乳化液中でのRolAによるPBS分解促進効果が認められた。
(15−3)クチナーゼによるPBSフィルムの分解に対するPbpAの分解促進効果
PbpAは硫酸アンモニウム30%以上の水分活性の低い状態条件でPBSに吸着する。そこでPBSフィルム上でPbpAを乾燥させることで水分活性を下げ、PbpAがPBSに吸着している状態でクチナーゼによるPBS分解を試みた。
PbpAの精製標品を精製水で希釈し、1.0、5.0、10、50、100(μg/ml)の濃度に調整した。それぞれの濃度のPbpA溶液10μlをPBSフィルム上にスポットし37℃にて完全に乾燥させPbpAのPBSに対する吸着を促した。PBSフィルム上に吸着したPbpA状に直径6mmの濾紙を静置し、10μlのクチナーゼ溶液(20μg/ml)をしみ込ませた。この状態のPBSフィルムを37℃で6時間保温しPBSフィルムの分解を観察した。
反応後のPBSフィルムを観察したところ、100、50(μg/ml)のPbpAをスポットした部分では濾紙を静置した部分全体に有為なPBSの分解が観察された(図29)。そして10、5.0(μg/ml)のPbpAをスポットした部分では、10μlのPbpA溶液をスポットした部分にのみ有為な分解が観察された。したがって、PbpAがPBSに吸着した場合においてより有効にクチナーゼの分解が促進されることが明らかになった。
(15−4)クチナーゼによる)PBSフィルムの分解に対するハイドロホービン及びPbpAと人工界面活性剤との分解促進効果の比較
実施例15−1、15−3においてハイドロホービンとPbpAがクチナーゼによるPBSを促進することが確認された。これらのバイオサーファクタントが人工界面活性剤と比較した場合に有意に促進効果を示すかどうかを検討した。本実験では人工界面活性剤としてプライサーフA210G(第一工業製薬)を用いた。
実施例15−1、15−3において促進効果が観察された濃度(ハイドロホービン:2.5μg/ml、PbpA:10μg/ml)のバイオサーファクタントをPBSのフィルム上に実施例15−1、15−3の方法に従って吸着させた。また、同様に2.5μg/ml、10μg/mlのプライサーフA210GをPBSフィルム上に吸着させた。このとき界面活性成分を含まないコントロールとしてハイドロホービンの場合は10mM Tris−HClバッファー(pH8.0)を、そしてPbpAの場合は精製水を用い、同様に吸着処理を行った。吸着しているバイオサーファクタントとプライサーフA210Gを被うように直径6mmの濾紙を静置し、10mM Tris−HClバッファー(pH8.0)に溶解している10μlのクチナーゼ溶液(20μg/ml)をしみ込ませた。このPBSフィルムを実施例15−1、15−3に記載されている条件で反応を行った(ハイドロホービン:30℃にて12時間、PbpA:37℃にて6時間)。反応後のPBSフィルムを精製水で洗浄後、乾燥させた後に観察を行った。
その結果、PBSフィルム状の両バイオサーファクタントを吸着させた部位はコントロールと比較してPBSが有意に分解されていた(図30)。そしてプライサーフA210Gを吸着させた部位においては、コントロールと比較した場合に有意なPBSの分解は観察されなかった(図30)。尚、PBSのフィルムを透過画像として取り込んだので、図30においてPBS分解部分は黒色で表されている。このことからハイドロホービンやPbpAといったバイオサーファクタントはプライサーフA210Gのような人工界面活性剤よりも強力にクチナーゼのPBS分解を促進することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
本発明はプラスチック結合性タンパク質等のバイオサーファクタントがプラスチックの疎水表面に吸着し、それによって、プラスチック分解酵素と共同してプラスチックの分解を有効に促進することできる、という新たな知見に基づくものである。
従って、本発明においては、バイオサーファクタントの存在下でプラスチックをより効果的に分解する方法が提供される。更に、バイオサーファクタントとプラスチック分解酵素を生産する微生物、或いは、あるいはバイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素そのものを活用することで、高密度のプラスチックの大規模分解を効率的に進行させることが可能となり、更に、酵素タンパク質や抗生物質などの有用物質生産性の高い微生物(糸状菌や放線菌)を用いることによって、有用物質の生産も同時に行うことができる新規な方法を提供することが出来る。
【配列表】










【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】

【図26】

【図27】

【図28】

【図29】

【図30】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオサーファクタントの存在下でプラスチックを分解する方法。
【請求項2】
バイオサーファクタントがプラスチック結合性タンパク質である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
プラスチック分解酵素を用いてプラスチックを分解する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
バイオサーファクタントがプラスチックに効果的に吸着するように両者間の疎水的相互作用が強まるような条件下でバイオサーファクタントをプラスチックと混合することを含む、請求項1、2又は3記載の方法。
【請求項5】
低水分活性状態でバイオサーファクタントをプラスチックと混合するステップ、高水分活性状態でプラスチック分解酵素によりプラスチックを分解するステップからなる、請求項4記載のプラスチックの分解法。
【請求項6】
高塩濃度状態でバイオサーファクタントをプラスチックと混合するステップ、低塩濃度状態でプラスチック分解酵素によりプラスチックを分解するステップからなる、請求項5記載のプラスチックの分解法。
【請求項7】
プラスチックにアスペルギルス・オリゼ又はアスペルギルス・ソーヤを接触させ、アスペルギルス・オリゼ又はアスペルギルス・ソーヤがその場で産生するバイオサーファクタント及びプラスチック分解酵素の作用によりプラスチックを分解することから成る、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
プラスチックに微生物を接触させ、微生物の作用によりプラスチックを分解し、更に、分解されたプラスチックの成分を微生物により有用物質に転換することから成る、プラスチックから有用物質を製造する方法。
【請求項9】
有用物質が、タンパク質、一次代謝産物、二次代謝産物、及びバイオサーファクタントから成る群から選択されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
有用物質が菌体外に分泌される物質であることを特徴とする、請求項8ないし9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
有用物質の生合成系に関与する酵素をコードする遺伝子によって組換られ、該酵素を高発現する形質転換菌を使用することを特徴とする、請求項8ないし10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
界面活性物質及び/又はプラスチック分解酵素を共存させることにより、プラスチックの分解を促進することを特徴とする、請求項7ないし11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
界面活性物質及び/又はプラスチック分解酵素を反応系の外部より添加して、プラスチックの分解を促進することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
バイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素をコードする遺伝子によって組換えられ、界面活性物質及び/又はプラスチック分解酵素を高発現する形質転換菌を使用することを特徴とする、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
バイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素をコードする遺伝子が構成的発現プロモーターの制御下にあることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
バイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素をコードする遺伝子が誘導型発現プロモーターの制御下にあることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
界面活性物質としてバイオサーファクタントを用いることを特徴とする、請求項12ないし13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
バイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素の共存下で、プラスチックに微生物を接触させ、微生物の作用によりプラスチックを分解することから成る、プラスチックを分解する方法。
【請求項19】
バイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素を反応系の外部より添加して、プラスチックの分解を促進することを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
バイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素をコードする遺伝子によって組換られ、バイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素を高発現する形質転換菌を使用することを特徴とする、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
バイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素をコードする遺伝子を構成的発現プロモーターの制御下で発現させることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
バイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素をコードする遺伝子を誘導型発現プロモーターの制御下で発現させることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
アスペルギルス属カビ由来のバイオサーファクタント及び/又はプラスチック分解酵素を用いることを特徴とする、請求項18ないし22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
アスペルギルス属カビがアスペルギルス・オリゼであることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
プラスチック分解酵素がエステラーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼ、リパーゼ、クチナーゼ、セリンハイドロラーゼ、及びそれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする、請求項18ないし24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
バイオサーファクタントとしてハイドロホービン、プラスチック分解酵素としてクチナーゼを用いることを特徴とする、請求項18ないし25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
プラスチックが生分解性プラスチックである、請求項7ないし26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
プラスチックがポリエステル、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニール、ナイロン、ポリスチレン、デンプン、及びそれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
ポリエステルがポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリブブチルサクシネート・アジペート、脂肪族ポリエステル、及びポリカプロラクトンから成る群から選択されることを特徴とする、請求項28記載の方法。
【請求項30】
微生物が糸状性細菌であることを特徴とする、請求項7ないし29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
糸状性細菌が放線菌であることを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
放線菌がストレプトマイセス属であることを特徴とする、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
ストレプトマイセス属がストレプトマイセス・グリゼウスまたはストレプトマイセス・セリカラーであることを特徴とする、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
微生物が真核糸状真菌であることを特徴とする、請求項7ないし29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
真核糸状真菌がアスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ属、リゾプス属マグナポルサ属、メタリチウム属、ノイロスポラ属、モナスカス属、アクレモニウム属及びムコール属から成る群から選択されることを特徴とする、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
アスペルギルス属微生物が、アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・ニドゥランス、アスペルギルス・タマリ及びアスペルギルス・レペンスから成る群から選択されることを特徴とする、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
液体培養系において、プラスチックに微生物を接触させることを特徴とする、請求項7ないし36のいずれか一項に記載の分解方法。
【請求項38】
固体培養系において、プラスチックにアスペルギルス・オリゼを接触させることを特徴とする、請求項7ないし36のいずれか一項に記載の分解方法。
【請求項39】
界面活性物質をコードする遺伝子を含むDNA、プラスチック分解酵素をコードする遺伝子を含むDNA、及び有用物質をコードする遺伝子を含むDNAから選択される少なくとも一つ以上のDNAによって組換えられた形質転換菌。
【請求項40】
界面活性物質がアスペルギルス・オリゼ由来のハイドロホービンである、請求項39記載の形質転換菌。
【請求項41】
プラスチック分解酵素がアスペルギルス・オリゼ由来のクチナーゼである、請求項39記載の形質転換菌。
【請求項42】
界面活性物質がアスペルギルス・オリゼ由来のハイドロホービンであり、プラスチック分解酵素がアスペルギルス・オリゼ由来のクチナーゼであり、且つ、有用物質がα−アミラーゼである、請求項39記載の形質転換菌。
【請求項43】
アスペルギルス属微生物である、請求項39ないし42のいずれか一項に記載の形質転換菌。
【請求項44】
アスペルギルス・オリゼ由来であることを特徴とする、請求項43に記載の形質転換菌。
【請求項45】
プラスチックが複合材料の一構成要素として含まれている、請求項1ないし38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
以下の(a)又は(b)ポリペプチドをコードする塩基配列を含むDNA:
(a)配列番号:3で示されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一であるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)(a)で示されるアミノ酸配列において、一部のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなりハイドロホービンと実質的に同等の機能を有するポリペプチド。
【請求項47】
以下の(a)又は(b)のDNA:
(a)配列番号:3でで示される塩基配列又はその部分配列を含むDNA、
(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、(a)のDNAと実質的に同等の機能を有するDNA。
【請求項48】
以下の(a)又は(b)ポリペプチドをコードする塩基配列を含むDNA:
(a)配列番号:4又は5で示されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一であるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)(a)で示されるアミノ酸配列において、一部のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなりプラスチック分解酵素と実質的に同等の機能を有するポリペプチド。
【請求項49】
以下の(a)又は(b)のDNA:
(a)配列番号:4又は5で示される塩基配列又はその部分配列を含むDNA、
(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、(a)のDNAと実質的に同等の機能を有するDNA。
【請求項50】
以下の(a)又は(b)ポリペプチドをコードする塩基配列を含むDNA:
(a)配列番号:6又は7で示されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一であるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)(a)で示されるアミノ酸配列において、一部のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなりプラスチック結合性タンパク質と実質的に同等の機能を有するポリペプチド。
【請求項51】
以下の(a)又は(b)のDNA:
(a)配列番号:6又は7で示される塩基配列又はその部分配列を含むDNA、
(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、(a)のDNAと実質的に同等の機能を有するDNA。
【請求項52】
請求項46ないし51のいずれか一項に記載の遺伝子によりコードされるタンパク質。

【国際公開番号】WO2004/038016
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【発行日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546395(P2004−546395)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011861
【国際出願日】平成15年9月17日(2003.9.17)
【出願人】(899000035)株式会社東北テクノアーチ (68)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】