説明

プラスチック樹脂リサイクル材の製造方法

【課題】低温にてプラスチック樹脂表面に満遍なく添加剤を付着させることができるプラスチック樹脂リサイクル材の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1回の熱履歴を経たプラスチック樹脂を粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程で得られるプラスチック樹脂粉砕材および前記添加剤を、混練機を用いて混練する混練工程とを含み、前記添加剤として、室温から加熱して測定した微分熱重量分析(DTG)において最も低温側のピークの立ち上がり開始温度で定義される結晶分散開始温度が融点より低い添加剤を選択し、前記混練工程において、混練条件を、混練温度が前記結晶分散開始温度より高く且つ前記添加剤の融点より低い所定の混練到達温度に達するように設定して、該混練到達温度に達したときに混練を終了することを特徴とする、プラスチック樹脂リサイクル材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック製品の成形工程等で発生する、スプールランナーや成形不良品などの廃プラスチックを再利用して、プラスチック樹脂リサイクル材を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製品を金型成形した後には、通常、製品の他にスプールランナーや成形不良品などの廃プラスチックが発生する。これらの廃プラスチックを廃棄することなく、リサイクルして再び製品に利用する取り組みがなされている。例えば、廃プラスチックを粉砕して得られるプラスチック樹脂材料に添加剤を加えてリサイクル材を製造する方法が知られている。この添加剤としては、ヒンダードフェノール化合物、有機ホスファイト化合物などに代表される有機系熱安定剤(酸化防止剤)や、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸エステルなどの滑剤などが知られている。
【0003】
リサイクル材の製造方法としては、例えば、上述の添加剤を、粉砕した廃プラスチックと一緒に高温で溶融させて、リサイクル材を製造する方法が知られている。
また、タンブラーなどを用いて、米粒状の樹脂とミネラルオイルと添加剤などを混合し、米粒状の樹脂の表面に添加剤を付着させる方法(ブレンド法)がある。
また、添加剤の一部あるいは全部を溶融させて米粒状の樹脂表面に付着させた後、冷却することによって添加剤を固化し、米粒状の樹脂表面に均一なフィルム状に添加剤を付着させる方法がある。
また、流動床を通る制御された流れで高分子材料の顆粒を搬送し、その間に流動床中の顆粒に添加剤を噴霧することにより、高分子材料を添加剤で被覆および/または添加剤と混合する方法が開示されている(特許文献1)。
また、円錐型ケーシングの内側壁面に沿って自転及び公転するスクリューを備えた攪拌機に添加剤を噴霧する設備を具備した装置を用いて、添加剤を加熱溶融噴霧させて、米粒状の樹脂表面に粉体添加することで、添加剤固体粉末が浮き出ることなく、加熱溶融噴霧した添加剤を均一なフィルム状にコーティングさせる方法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−239482号公報
【特許文献2】特開2004−168056号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術は以下に示すような問題点を有する。
例えば、粉砕したスプールランナーを添加剤と一緒に高温溶融する方法では、熱によるプラスチック樹脂の酸化を防止するために添加剤が消費されてしまうので、所望の特性を有するリサイクル材を得るために大量の添加剤を投入することが必要となってしまう。
ブレンド法では、添加剤を樹脂表面に均一に付着させることが難しく、また、添加剤が脱落し易いという欠点がある。
また、特許文献1および2に開示されている方法では、添加剤を高温で溶融させる工程において添加剤の一部が消費されてしまう。
【0006】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決するものであり、添加剤が消費されない低温において、プラスチック樹脂表面に満遍なく添加剤を付着(溶着)させることができる、プラスチック樹脂リサイクル材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、
少なくとも1回の熱履歴を経たプラスチック樹脂と、添加剤とを用いてプラスチック樹脂リサイクル材を製造する方法であって、
前記プラスチック樹脂を粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程で得られるプラスチック樹脂粉砕材および前記添加剤を、混練機を用いて混練する混練工程とを含み、
前記添加剤として、室温から加熱して測定した微分熱重量分析(DTG)において最も低温側のピークの立ち上がり開始温度で定義される結晶分散開始温度が融点より低い添加剤を選択し、
前記混練工程において、混練条件を、混練温度が前記結晶分散開始温度より高く且つ前記添加剤の融点より低い所定の混練到達温度に達するように設定して、該混練到達温度に達したときに混練を終了すること
を特徴とする、プラスチック樹脂リサイクル材の製造方法に関する。
【0008】
この構成により、添加剤が消費されない低温において、プラスチック樹脂表面に満遍なく添加剤を付着させることができる。
【0009】
更に、本発明は、前記混練到達温度が、前記粉砕材と前記添加剤との溶着が可能である前記プラスチック樹脂の熱変形温度付近の温度であることを特徴とする、上述のプラスチック樹脂リサイクル材製造方法に関する。
【0010】
このように混練到達温度を設定することより、粉砕材と添加剤との付着(溶着)がより強固なものとなり、粉砕材表面からの添加剤の脱落を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法を用いると、加熱による添加剤の消費を抑制することができるので、添加剤の使用量を削減することができる。更に、混練到達温度をプラスチック樹脂の熱変形温度付近の温度に設定することにより、樹脂成形機への空気搬送において添加剤の脱落などが少ないという優れた特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施例において使用する混練機の概略断面図である。
【図2(a)】図2(a)は、添加剤Aの熱重量分析(TG)および微分熱重量分析(DTG)結果を示すグラフである。
【図2(b)】図2(b)は、添加剤Bの熱重量分析(TG)および微分熱重量分析(DTG)結果を示すグラフである。
【図2(c)】図2(c)は、添加剤Cの熱重量分析(TG)および微分熱重量分析(DTG)結果を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の実施例において測定したプラスチック樹脂リサイクル材表面のSEM写真(1000倍)である。
【図4】図4は、本発明の実施例において測定したプラスチック樹脂リサイクル材表面のSEM写真(15000倍)である。
【図5】図5は、本発明の実施例において測定したプラスチック樹脂リサイクル材表面のSEM写真(15000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のプラスチック樹脂リサイクル材の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
本発明の方法において好ましく用いられるプラスチック樹脂は、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂や、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネード樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、メタクリル樹脂などのエンプラ樹脂や、ABS樹脂などのスチレン樹脂、アクリル樹脂、ゴムのいずれかから選択される少なくとも1種の樹脂である。
【0015】
本発明の方法において、「少なくとも1回の熱履歴を経たプラスチック樹脂」は、上で列挙したようなプラスチック樹脂に少なくとも1回の熱履歴をかけたものを意味する。「少なくとも1回の熱履歴を経たプラスチック樹脂」の例としては、上で列挙したプラスチック樹脂を成型する工程において生じる、スプールランナーや成型不良品等の廃プラスチックが挙げられる。
【0016】
プラスチック樹脂製品の成形は高温で行われる。プラスチック樹脂は、高温にさらされると、分子結合の切断や酸化反応等により劣化が進行する。従って、少なくとも1回の熱履歴を経た廃プラスチックを再利用して得られるプラスチック樹脂製品は、新品の(即ち熱履歴を受けていない)プラスチック樹脂から得られる製品と比較して、品質の劣ったものとなってしまう。
【0017】
本発明者らは、高温にさらされることによる樹脂の劣化を防止するために、低温でプラスチック樹脂表面に満遍なく添加剤を付着させる方法について鋭意研究を重ねた結果、以下に示す添加剤の性質を見出した。
【0018】
図2(a)に、本発明の方法に使用可能な添加剤の熱重量測定(Thermo Gravimetry、以下、TGと略すこともある)および微分熱重量測定(Derivative Thermo Gravimetry、以下、DTGと略すこともある)結果の一例を示す。図2(a)において、測定開始温度は室温(25℃)であり、昇温速度は5℃/分である。
【0019】
TGは、試料の温度を一定のプログラムによって変化または保持させながら、試料の重量を温度または時間の関数として測定する方法である。TGにおける試料の重量変化は試料毎に特有の現象であり、従って、TGにより脱水、分解、酸化および還元等の化学変化や、昇華、蒸発および吸脱着などの物理変化といった質量変化を伴う熱的変化が起こる温度を測定することができる。DTGはTGを時間で微分したものである。図2(a)において、縦軸は、TGに関しては試料の重量変化(%)、DTGに関しては重量変化の時間微分(μg/分)を示しており、横軸は時間(分)を示している。
【0020】
図2(a)より、35.2℃においてDTGピークが立ち上がっていることが見てとれる。このDTGピークは、試料の重量減少開始を意味している。このDTGピークは試料の融点(75〜79℃)より低温側に存在しており、35.2℃付近において、試料結晶中の分子間の結合が緩くなっていることを示していると考えられる。このDTGピークの立ち上がりが始まる温度を、添加剤の結晶分散開始温度と定義する。具体的には、室温(25℃)から添加剤試料を加熱してDTGプロットが初めて大きく変化するピークの立ち上がりが始まる温度(立ち上がり開始温度)を、その添加剤の結晶分散開始温度とする。
【0021】
本発明者らは、上述のような添加剤の結晶分散開始温度に着目し、融点よりも低い結晶分散開始温度を有する添加剤を選択し、当該添加剤の結晶分散開始温度よりも高く、かつ融点よりも低い温度でプラスチック樹脂と添加剤とを混練することにより、本発明の課題を解決し得ることを見出した。
本発明の方法に係る添加剤は、融点よりも低い結晶分散開始温度を有する。このような添加剤は、結晶分散開始温度よりも高い温度において、添加剤結晶中の分子間結合が緩くなる。従って、結晶分散開始温度よりも高く且つ融点よりも低い温度でプラスチック樹脂と添加剤とを混練すると、添加剤粒子の粉砕が促進されることにより、添加剤を樹脂表面に満遍なく付着させることが可能となる。
【0022】
本発明の方法で使用する添加剤は、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、有機ホスファイト化合物、チオール系化合物、チオエーテル系化合物から選択される少なくとも1種以上の添加剤であることが好ましい。
【0023】
本発明の方法で使用する添加剤の具体例として、例えば、ヒンダードフェノール化合物であるトリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]およびオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが挙げられる。
【0024】
また、添加剤については、微量でかつ、微粉である。添加剤の平均粒径(メジアン径)は約100μmである。
【0025】
上述の添加剤に加えて、滑剤等の添加剤を更に使用してもよい。
【0026】
次に、本発明の方法の各工程について説明する。
【0027】
[粉砕工程]
少なくとも1回の熱履歴を経たプラスチック樹脂を米粒状に粉砕する。
プラスチック樹脂を米粒状に粉砕するためには、粉砕機、破砕機または粒断機等を用いることが好ましい。得られるプラスチック樹脂粉砕材(以下、単に粉砕材とも呼ぶ)の寸法は、新品のプラスチック樹脂ペレットの粒径サイズに近いことが好ましく、通常は約2〜5mmの平均粒径である。本発明の方法に使用可能な粉砕機として、例えば、多数の穴径5mmφのスクリーンを備えたスプールランナー用粉砕機が挙げられる。上記以外にも、微粉の発生が少なく、粉砕材の粒径を揃えられるものであれば使用可能であり、例えば、回転歯の噛み合わせによりスプールランナーを切断するタイプの粉砕機を使用することができる。
【0028】
また、必要であれば、粉砕材を後述の混練工程の直前まで70℃〜90℃で2時間程度乾燥させておいてもよい。粉砕材の乾燥に使用する装置は、例えば、恒温乾燥器またはホッパードライヤーであってよい。
【0029】
なお、粉砕工程で発生した微粉を除去する工程を行ってもよい。この工程では、ミクロンオーダーの微粒子を取り除くことができ、それにより、本発明の方法で得られるリサイクル材を成形機で高温加熱する際に、微粉が焦げて黒く炭化してしまい、外観不良になるのを防止することができる。
【0030】
粉砕材の微粉除去装置としては、振動ふるいを用いて分離を行う装置や、遠心分離を用いて微粉を除去するサイクロン装置や、目の細かい集塵フィルターで分離除去する装置や、比重を利用して微粉を吸引する装置などがある。除去したい粒径と微粉処理量に応じて装置の選択を行うことができる。
【0031】
また、粉砕材から異物を除去する工程を行ってもよい。本発明の方法においては、粉砕工程で使用され得る鉄製のカッター歯の摩耗や欠け等により、粉砕材中に金属破片が混入することがある。金属破片が混入した粉砕材から製造したリサイクル材は、成形機に導入する際に成形機のスクリューに損傷を与えてしまうことがある。粉砕材から異物を除去する工程により、粉砕材中に金属破片が混入することを防止することができる。鉄系の異物を除去する装置としては、1万ガウス程度の強力な磁力分別装置で鉄粉を引きつけることにより次の工程に鉄粉が混入するのを防止することができるマグネットフィルター等が挙げられる。また、他の非鉄金属製の異物(ステンレス、アルミニウム、銅等)を分離除去する装置として、粉砕材に磁力やX線を当てることによりプラスチック樹脂と異物とを分離する装置が挙げられる。
【0032】
[混練工程]
前記粉砕工程で得られた粉砕材と、添加剤とを所定の割合で混練する。
【0033】
以下に、本発明の混練工程に使用する混練機について説明する。
図1に、本発明の混練工程に使用する混練機の一例を示す。なお、本発明の方法に使用可能な混練機は、図1に示す混練機に限定されるものではなく、例えば、混練容器内に設けられた回転部(自転および公転するスクリュー、ミキシングアーム、チョッパー等)によって内容物を混練する混練機や、混練容器自体の回転、振動、揺動等によって内容物を混練する混練機を、本発明の方法に用いることができる。
【0034】
図1に示す装置は、高速回転可能なスーパーミキサーである。2は上羽根、3は下羽根、4はタンク、5は温度センサー、6は温調ジャケット、7は排出口、8はモーター、9は制御盤である。
タンク4に粉砕材および添加剤を投入する。
添加剤量の投入については、デジタル電子天秤装置(図1に記載せず)を使って必要な量を計量してタンク4内に投入することができる。また、微量定量供給装置(図1に記載せず)を用いて投入することもできる。
モーター8によって、上羽根2および下羽根3を回転させる。下羽根3は、回転することにより粉砕材や添加剤を混練し、かつ粉砕材および添加剤を上方向に巻き上げる。上羽根2は、巻き上げられた粉砕材および添加剤に対して更に混練等の処理を行う。温度センサー5は、タンク4内で、混練されている材料にその先端が接触するように設置されており、材料の混練時の温度をリアルタイムでモニタリングすることができる。温調ジャケット6は、タンク4の外周部を囲むように袋構造となっており、中に入っている水や油等の液温を調整することにより、タンク4の内壁温度を調節することができる。制御盤9は、主に、表示画面、回転数設定つまみ、運転開始ボタンおよび運転停止ボタンを備えており、設定した回転数、混練終了温度および混練終了時間を表示画面で確認することができる。
【0035】
次に、混練機1の動作について説明する。タンク4に、粉砕材および添加剤等を投入した後、タンク4の蓋を閉じる。次に、制御盤9の回転数設定つまみにより回転数を設定する。次に運転開始ボタンを押すと、タンク4内の上羽根2と下羽根3とがモーター8の回転に連動して回転する。タンク4内の上羽根2と下羽根3は、制御盤9で設定された到達温度および/または運転時間で自動的に停止する。混練された材料は排出口7から取り出すことができる。
【0036】
本発明のプラスチック樹脂リサイクル材を製造するのに使用する添加剤の量は、従来の方法と比較して少量(約0.01〜0.3重量%)にすることができる。添加剤使用量がこのような少量であっても、得られるリサイクル材を用いて製造したプラスチック樹脂製品は、新品の樹脂ペレットを用いて製造した製品と同等の品質(物性)を有し得る。
【0037】
まず、粉砕材を混練機1のタンク4に投入し、次いで添加剤を投入する。その後、混練を開始する。タンク4下部に取り付けられている上羽根2と下羽根3とを回転させることにより、タンク4内の粉砕材と添加剤とを混合・撹拌する。
【0038】
混練工程において、混練条件は、混練時の温度が前記結晶分散開始温度より高く前記添加剤の融点より低い所定の温度に達するように設定される。この温度を、以下、混練到達温度または単に到達温度と呼ぶ。図1に示すような回転部(回転羽根)を有する混練機を用いる場合、混練条件には回転羽根の周速が含まれる。回転羽根の周速を上述のように設定することにより、比較的遅い周速において添加剤粒子の粉砕(分散)を促進することが可能となり、回転羽根の周速を、粉砕材の粉砕が抑制されるように設定することが容易となる。
回転羽根の周速が遅すぎると、添加剤が樹脂表面に偏在してしまう。回転羽根の周速が速すぎると、樹脂が粉砕されて粉々になってしまう。粉砕により樹脂の微粉が増えると、得られるリサイクル材の成形時に熱劣化して分解や炭化が起こりやすくなり、また、成形条件がばらつきやすくなる。回転羽根の周速は、混練機の種類や投入する粉砕材および添加剤の量にもよるが、30〜45m/sに設定することが好ましい。混練工程において、回転羽根の周速は一定であってよく、あるいは混練している間に周速を変化させてもよい。
なお、回転羽根等の回転部を有しない混練機を使用する場合であっても、混練条件を適切に調節することにより、同様の効果を得ることができる。
【0039】
攪拌によって発生する摩擦熱により粉砕材と添加剤とが加熱されて軟化し、添加剤が粉砕材の表面に付着(溶着)する。樹脂温度が所定の混練到達温度に到達すると混練を終了する。
【0040】
混練到達温度は、使用する添加剤の結晶分散開始温度より高く、かつ添加剤の融点より低い温度に設定する。混練到達温度が添加剤の結晶分散開始温度より低いと、混練工程において添加剤が十分に分散せず、プラスチック樹脂表面に添加剤が偏在してしまう。混練到達温度が添加剤の融点より高いと、混練工程の間に添加剤が溶融してしまい、プラスチック樹脂表面に添加剤が偏在してしまう。添加剤が偏在すると、得られるリサイクル材を高温で成形する際に、酸化による劣化が起こりやすくなる。
【0041】
混練到達温度は、プラスチック樹脂の熱変形温度付近の温度であることが好ましい。熱変形温度とは、荷重たわみ温度とも呼ばれ、樹脂の耐熱性を評価する指標の1つである。試験法規格に決められた荷重を与えた状態で試料温度を上げていき、たわみの大きさが一定の値になる温度を熱変形温度(荷重たわみ温度)という。熱変形温度(荷重たわみ温度)試験法は、ASTM D648、JIS7191などで定められている。
【0042】
混練到達温度を、プラスチック樹脂の熱変形温度付近の温度に設定すると、プラスチック樹脂粉砕材が軟化することにより、粉砕材と添加剤とが溶着される。これにより、粉砕材と添加剤との付着がより強固なものとなり、得られるリサイクル材を樹脂成形機へ空気搬送する際の添加剤の脱落が防止される。混練到達温度がプラスチック樹脂の熱変形温度よりも低すぎると、添加剤の付着(溶着)が一部不完全となる。これにより、添加剤が樹脂表面から脱落してしまい、プラスチック樹脂を成形する際に酸化防止剤として作用する添加剤の量が少なくなるので、酸化による劣化が起こりやすくなる。混練到達温度がプラスチック樹脂の熱変形温度よりも高すぎると、プラスチック樹脂が溶融軟化して混練機内部に付着してしまう。これにより、材料品種を切り替える際に時間をロスし、また、掃除に時間を要するといった問題が生じる。混練到達温度は、より好ましくは40℃〜70℃である。本発明の一の実施形態において、混練到達温度は、添加剤の結晶分散開始温度より高く、かつプラスチック樹脂の熱変形温度プラス20℃より低い温度に設定することができる。
【0043】
なお、タンク4の周りの温調ジャケット6を用いて、混練時の温度を少なくとも部分的に制御してもよい。
【0044】
例えば、温調ジャケット6に、温水もしくはオイル等を予め満たしておくことにより、または温水もしくはオイル等を循環させることにより、混練開始温度を一定温度にすることができ、季節等による周囲温度の変化に伴って混練開始温度が変化するのを防止することができる。このように混練開始温度を一定にすると、所定の到達温度に達するのに要する時間(混練に要する時間)を一定にすることができ、また、得られるリサイクル材の品質を一定に保つことができる。
【0045】
また、混練している間に温調ジャケット6の温度を上昇させることにより、タンク4内の樹脂温度を少なくとも部分的に制御することが可能である。温調ジャケット6の温度を適切に制御することにより、混練に要する時間や得られるリサイクル材の品質等を制御することができる。
【0046】
混練終了後、混練機1の排出口7からプラスチック樹脂リサイクル材を取り出す。
【0047】
なお、混練工程終了後、温調ジャケット6の温度を所定の混練温度開始温度に設定することにより、次回の混練開始までの待ち時間を短縮することができる。
【0048】
本発明の方法を用いることにより、低温にて添加剤をプラスチック樹脂粉砕材表面に満遍なく付着(溶着)させることができる。得られるリサイクル材表面における添加剤の付着の様子をSEMで観察すると、添加剤は単に樹脂表面に付着しているのではなく、添加剤粒子と樹脂とが接している位置において溶着していることが分かる。このように添加剤粒子が樹脂表面に溶着していることにより、リサイクル材を樹脂成形機へ空気搬送する際の添加剤の脱落が防止される。
【実施例】
【0049】
[添加剤の結晶分散開始温度測定]
ヒンダードフェノール化合物である表1の添加剤A〜Cについて、TGおよびDTGにより結晶分散開始温度を求めた。
【0050】
【表1】

【0051】
TGおよびDTGの結果を図2(a)〜(c)に示す。室温(25℃)から昇温速度5℃/分で加熱し、最初に表れたDTGピークを結晶分散開始温度の決定に使用した。なお、5μg/分以上をピーク判定とし、ピークが連続している場合には一番大きなピークを選定した。その結果、各添加剤の結晶分散開始温度は、添加剤Aについては35.2℃、添加剤Bについては36.9℃、添加剤Cについては55.1℃であることがわかった。
以下、添加剤A〜Cを使用したときの低温混練可能性について試験を行った。
【0052】
[ポリプロピレン樹脂と添加剤Bとの混練]
ポリプロピレン樹脂(株式会社プライムポリマー製、品番:J−6083HP)を、添加剤Bと混練し、樹脂表面における添加剤の付着状態について評価を行った。本実施例において使用するポリプロピレン樹脂は米粒状であり、その融点は170℃であり、熱変形温度は約60℃(規格:ASTM D648、荷重:1.82MPa)である。添加剤B(融点110〜125℃)の添加量は、ポリプロピレン樹脂重量3kgに対して0.05重量%(1.5g)とした。
【0053】
混練機の回転羽根2および3の周速を24m/s(1500rpm)、33m/s(2000rpm)、41m/s(2500rpm)および50m/s(3000rpm)に設定し、各周速毎に混練到達温度を30℃、40℃、50℃、60℃、70℃および80℃にそれぞれ設定して混練工程を実施した。混練開始温度は室温(約25℃)であった。混練工程に要した時間は約5〜10分であった。なお、周速は一般に、回転している物体の最大半径位置における速度を意味するが、本実施例において使用する混練機は回転羽根を2枚有するので、上羽根2および下羽根3の平均半径位置における速度を本実施例における周速とした。上羽根2と下羽根3の半径の平均値は16cmであった。
【0054】
混練後のプラスチック樹脂を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を図3および4に示す。図3は樹脂表面を1000倍で観察したものであり、図4はリサイクル材の表面を15000倍で観察したものである。
【0055】
周速が24m/sの場合、40℃、50℃、60℃および70℃の各到達温度において、樹脂表面における添加剤粒子の付着は偏在しており、添加剤粒子の大きさも不均一であった。また、到達温度30℃においては、添加剤が偏在することに加えて、添加剤の付着(溶着)が一部不完全であることにより、混練工程の後に添加剤が分離しているものもあった。更に、到達温度80℃においては、到達温度がポリプロピレン樹脂の熱変形温度に近付くので、ポリプロピレン樹脂および添加剤の一部が溶融軟化してタンク4、上羽根2および下羽根3にへばりついてしまった。
【0056】
周速が33m/sおよび41m/sの場合、40℃、50℃、60℃および70℃の各到達温度において、添加剤粒子は樹脂表面に極めて良好に満遍なく付着(溶着)していた。図3および4より、これらの条件の下では、添加剤は単に樹脂表面に付着しているのではなく、添加剤粒子とポリプロピレン樹脂とが互いに溶着していることが分かる。一方、到達温度30℃においては、添加剤は樹脂表面に偏在して付着していた。また、添加剤の付着(溶着)が一部不完全であることにより、混練工程の後に添加剤が分離しているものもあった。更に、到達温度80℃においては、到達温度がポリプロピレン樹脂の熱変形温度に近付くので、ポリプロピレン樹脂の一部が溶融軟化してタンク4、上羽根2および下羽根3にへばりついてしまった。
【0057】
周速が50m/sの場合、30℃、40℃、50℃、60℃および70℃の到達温度において、プラスチック樹脂同士、もしくはプラスチック樹脂と上羽根2および/または下羽根3との衝突により、樹脂が粉砕されて粉々になってしまった。更に、到達温度80℃においては、樹脂の粉砕に加えて、ポリプロピレン樹脂の一部が溶融軟化してタンク4、上羽根2および下羽根3にへばりついてしまった。
【0058】
以上の結果より、結晶分散開始温度が35.2℃である添加剤Bを使用した場合、適切な混練条件は、33m/s以上41m/s以下の周速および40℃以上70℃以下の混練到達温度であることがわかった。
【0059】
[ポリプロピレン樹脂と、添加剤AおよびCとの混練]
次に、混練機の周速を33m/sに固定し、添加剤AおよびCを用いて、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃および80℃の混練到達温度で混練工程を実施し、混練後のプラスチック樹脂の表面をSEMで観察した。SEM測定結果を図5に示す。倍率は15000倍である。
【0060】
融点が75〜79℃であり結晶分散開始温度が35.2℃である添加剤Aは、40℃〜70℃の到達温度において、プラスチック樹脂との良好な付着状態を示した。
【0061】
一方、添加剤Cは、結晶分散開始温度が55.1℃であり、融点が約50〜54℃であり、従って結晶分散開始温度と融点とが重なり合っている。この添加剤Cを用いた場合、結晶分散開始温度および融点より低い到達温度30℃、40℃および50℃においては添加剤が偏在し、分散開始温度および融点より高い到達温度60℃、70℃および80℃においては添加剤が溶融した。
【0062】
以上より、結晶分散開始温度が35〜37℃であり且つ融点が混練到達温度より高温である添加剤を使用し、40℃〜70℃の混練到達温度で混練を行った場合、周速33m/s〜50m/sで混練工程を実施することにより、添加剤をプラスチック樹脂表面に満遍なく溶着させることができることがわかった。
【0063】
上述の実施例においてはポリプロピレン樹脂を用いたが、他のプラスチック樹脂を使用することもできる。例えば、ABS樹脂(熱変形温度は約89℃)と添加剤Bとを周速33m/sで到達温度60℃にて混練したところ、添加剤Bを樹脂表面に良好に付着(溶着)させることができた。
【0064】
[本発明のリサイクル材から得られるプラスチック樹脂成型品の物性試験]
多数の穴径5mmφのスクリーンを備えたスプールランナー用粉砕機を用いて、熱履歴を1回経たポリプロピレン樹脂を粉砕し、粉砕材を得た。この粉砕材に0.01重量%の添加剤Bと、別の添加剤(有機ホスファイト化合物)0.01重量%とを加えて、回転羽根周速33m/s、混練到達温度50℃の条件で混練し、プラスチック樹脂リサイクル材(以下、熱履歴1回リサイクル材と呼ぶ)を製造した。このプラスチック樹脂リサイクル材を成型装置で成型した(熱履歴2回目)。この成形により得られるプラスチック樹脂成型品を、熱履歴2回成型品と呼ぶ。
この成型時に生じた、熱履歴を2回経たプラスチック樹脂を粉砕し、得られる粉砕材に上述の添加剤2種を加えて混練し、プラスチック樹脂リサイクル材(以下、熱履歴2回リサイクル材と呼ぶ)を製造した。このプラスチックリサイクル材を成形装置で成形した(熱履歴3回目)。この成型により得られるプラスチック樹脂成型品を、熱履歴3回成型品と呼ぶ。
同様の手順を繰り返して、熱履歴2回〜10回成型品を得た。得られる各成型品の物性試験(引張試験、曲げ試験、曲げ弾性率、アイゾット試験、荷重たわみ試験、メルトフロー試験)を行った。その結果、各物性試験において、熱履歴2回以上の各成型品の測定値は、新品の樹脂ペレットを成型して得られる成型品の測定値の5%以内に入っており、良好な結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、プラスチック樹脂を再利用(リサイクル)する際に、また、樹脂の物性を回復させる際に利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1 混練機
2 上羽根
3 下羽根
4 タンク
5 温度センサー
6 温調ジャケット
7 排出口
8 モーター
9 制御盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1回の熱履歴を経たプラスチック樹脂と、添加剤とを用いてプラスチック樹脂リサイクル材を製造する方法であって、
前記プラスチック樹脂を粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程で得られるプラスチック樹脂粉砕材および前記添加剤を、混練機を用いて混練する混練工程とを含み、
前記添加剤として、室温から加熱して測定した微分熱重量分析(DTG)において最も低温側のピークの立ち上がり開始温度で定義される結晶分散開始温度が融点より低い添加剤を選択し、
前記混練工程において、混練条件を、混練温度が前記結晶分散開始温度より高く且つ前記添加剤の融点より低い所定の混練到達温度に達するように設定して、該混練到達温度に達したときに混練を終了することを特徴とする、プラスチック樹脂リサイクル材の製造方法。
【請求項2】
前記混練到達温度は、前記粉砕材と前記添加剤との溶着が可能である、前記プラスチック樹脂の熱変形温度付近の温度であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プラスチック樹脂が、ポリオレフィン樹脂、エンプラ樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ゴムのいずれかから選択される少なくとも1種類の樹脂であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記混練到達温度が40℃〜70℃であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記添加剤が、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、有機ホスファイト化合物、チオール系化合物、チオエーテル系化合物から選択される少なくとも1種類の化合物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記結晶分散開始温度が35〜37℃であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記混練条件として前記混練機の回転羽根の周速を含み、該回転羽根の周速が33〜41m/sであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図2(c)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−240355(P2012−240355A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114516(P2011−114516)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】