説明

プラズマ処理方法

【課題】基板に形成されたトレンチ側面の酸化膜を薄膜化し、且つトレンチ上のパターン上部の角がエッチングされることを抑制する。
【解決手段】熱酸化膜60形成後にトレンチ61が形成されたウェハWをプラズマによって酸化処理するプラズマ処理方法であって、ウェハWはイオン引き込み用の高周波電圧が印加されるサセプタに載置され、プラズマによる酸化処理は、イオン引き込み用の高周波電圧をウェハWに印加しながら行われる。プラズマ酸化処理における処理ガスは、ヘリウムと酸素を含む混合ガスであり、プラズマ処理は、処理容器内において6.7〜133Paの圧力で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理体をプラズマ処理するプラズマ処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化、高集積化に伴い、基板上に形成される素子間の分離には、従来用いられているフィールド酸化膜によるLOCOS(Local Oxidation of Silicon)に代えて、素子間にトレンチを形成し、当該トレンチに酸化膜を形成することにより素子の分離を行う、いわゆるSTI(Shallow Tranch Isolation)が広く用いられている。
【0003】
STI技術に用いられるトレンチに酸化膜を形成する方法としては、シリコン基板を加熱して行う熱酸化処理や、プラズマによりシリコン基板の表面をプラズマ酸化処理する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
プラズマ処理により酸化膜を形成する場合、通常、マイクロ波などを用いてプラズマを発生させるプラズマ処理装置において行われる。プラズマ処理装置では、マイクロ波発振器で発生したマイクロ波を、導波管、アンテナ、誘電体窓を介して処理容器に導入して、処理容器内に供給されたアルゴン(Ar)ガスと酸素ガスのプラズマを生成する。そして、当該酸素ガスのプラズマによって、基板載置台に載置されたシリコン基板の表面をプラズマ酸化処理して、シリコン基板の表面にシリコン酸化膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−349546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のトレンチに酸化膜を形成する場合、トレンチの側面の酸化を抑制し、トレンチ側面に形成される酸化膜の膜厚を薄くする方法が検討されている。酸化膜の膜厚は通常数nm〜十数nmであるが、デバイスの微細化に伴い、シリコン基板の面積に占めるトレンチ(素子形成の際のチャンネル長(巾))及びトレンチに形成される酸化膜の割合(膜厚)が大きく問題となってきたためである。
【0007】
プラズマ処理によりトレンチに酸化膜を形成する場合、トレンチ側面の酸化膜を薄膜化するためには、低圧力条件下でプラズマ処理を行うことが有効である。しかしながら、微細化に伴うマイクロローディング効果により、トレンチ底部で酸化が進行しにくく、そのため、トレンチ底部に所望の膜厚の酸化膜を形成するためには処理に時間を要するという問題がある。その結果、トレンチ側面の酸化膜の膜厚も厚くなってしまう。また、トレンチ側面の酸化膜の膜厚も、高さ方向で異なってしまうという問題もある。
【0008】
この問題を解決するために、通常は基板載置台の下部にイオン引き込み用として、バイアスの高周波電圧を印加する方法が用いられる。このバイアス電圧によりプラズマ中のイオンを基板側に引き込み、それによりトレンチ底部の酸化を進行させ、且つトレンチ側面の酸化膜の薄膜化を図ることができる。
【0009】
ところが、例えば図6(a)に示すような、表面に予め熱酸化膜100を形成した後にトレンチ101を形成したシリコン基板Wに、イオン引き込み用の電圧を印加してアルゴンガスと酸素ガスによるプラズマ処理を行うと、図6(b)のようにトレンチ101上部の熱酸化膜100のパターンの角がスパッタによりエッチングされ、シリコン基板W表面に形成されていた熱酸化膜100が変形してしまうことが確認された。また、スパッタされた熱酸化膜100のフラックス(飛翔物)102がトレンチ101の底部に堆積し、プラズマ処理により形成された酸化膜103のトレンチ101底部における見かけ上の膜厚が、実際に形成された酸化膜103の膜厚よりも厚くなってしまうことも確認された。この場合、フラックス(飛翔物)102によりトレンチ101底部の酸化膜103の膜厚を正確に測定することが困難となるため、プラズマ処理が適正に行われているか否かを評価することができなくなるという問題が生じる。
【0010】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、トレンチを有する基板にプラズマ処理により酸化膜を形成するにあたり、トレンチ側面に形成される酸化膜を薄膜化し、且つトレンチ上に形成されたパターンの角がエッチングされることを抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、被処理体をマイクロ波プラズマにより処理するプラズマ処理装置において、酸化膜形成後にトレンチが形成された基板をプラズマによって酸化処理するプラズマ処理方法であって、前記基板はイオン引き込み用の高周波電圧が印加される載置台に載置され、前記プラズマによる酸化処理は、イオン引き込み用の高周波電圧を基板に印加しながら行い、前記プラズマ酸化処理における処理ガスは、アルゴンより原子量の小さい希ガスと酸素を含む混合ガスであり、前記プラズマ処理は、減圧容器内において6.7〜133Paの圧力で行われることを特徴としている。
【0012】
本発明によれば、イオン引き込み用の高周波電圧を基板に印加しながら当該基板をプラズマ酸化処理するにあたり、処理ガスとしてアルゴンより原子量の小さい希ガスであるヘリウムのガスを用い、減圧容器内において6.7〜133Paの低圧条件下でプラズマ処理が行われるので、トレンチ側面の酸化膜を薄膜化するにあたり、トレンチ上のパターン上部の角がエッチングされることを抑制することができる。
【0013】
前記アルゴンより原子量の小さい希ガスは、ヘリウムガスまたはネオンガスであってもよい。
【0014】
前記アルゴンより原子量の小さい希ガスはヘリウムガスであり、当該ヘリウムガスの流量は100〜500ml/min(sccm)、前記酸素ガスの流量は10〜300ml/min(sccm)であってもよい。
【0015】
前記プラズマ処理時の基板温度は、200〜600℃であってもよい。
【0016】
前記プラズマ酸化処理における処理ガスには水素が含まれており、前記水素ガスの流量は1〜100ml/min(sccm)であってもよい。
【0017】
前記マイクロ波のパワーは1000〜4000Wであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アルゴンより原子量の小さい希ガスと酸素ガスのプラズマで酸化処理することにより、基板に形成されたトレンチ側面の酸化膜を薄膜化し、且つトレンチ上のパターン上部の角がエッチングされることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態にかかるプラズマ処理方法を実施するプラズマ処理装置の構成の一例を示す概略縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかるプラズマ処理方法によりトレンチに酸化膜を形成する工程を説明するための概略縦断面図であり、図2(a)はトレンチが形成されたウェハを、図2(b)は酸素ラジカルによりトレンチを酸化処理する様子を、図2(c)はトレンチに酸化膜が形成された状態をそれぞれ示している。
【図3】処理容器内の圧力と酸化膜の成膜レートとの関係を表したグラフである。
【図4】プラズマ酸化処理後の熱酸化膜近傍の状態を示す縦断面図である。
【図5】プラズマ酸化処理によりトレンチに形成された酸化膜の状態を示す縦断面図である。
【図6】従来のプラズマ処理方法による酸化膜の形成工程を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態の一例について、図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るプラズマ処理装置1の概略構成を示す縦断面図である。プラズマ処理装置1は、いわゆるラジアルラインスロットアンテナ方式であり、マイクロ波を発生させて装置内に電界を生じさせ、装置内に供給された処理ガスをプラズマ化させ、ウェハWに対してエッチング処理等を行うものである。なお、ウェハWとしては、シリコン基板が用いられる。
【0021】
プラズマ処理装置1は、ウェハWを保持する保持台としてのサセプタ11が設けられた処理容器12を有している。サセプタ11は、例えば断熱性のセラミックスにより形成されている。サセプタ11には、ウェハWの表面温度の管理を行うヒータ11aと、プラズマ引き込み用の高周波電圧を印加するためのバイアス用電極11bが内蔵されている。バイアス用電極11bには、サセプタ11のセラミックスと同程度の熱膨張係数の材料が用いられ、例えばタングステン(W)やモリブデン(Mo)などにより構成されている。バイアス用電極11bは、プラズマ引き込み用の高周波電圧発生させる交流電源11cに接続されている。また、ヒータ11aは、ヒータ用電源11dに接続されている。処理容器12の底部には、処理容器12の内部を排気する排気部としての排気室13が設けられている。排気室13には、真空ポンプなどの排気装置14に通じる排気管15が接続されている。
【0022】
処理容器12の上方は、サセプタ11上のウェハWに対応して開口する開口部を有している。この開口部には、当該開口部を塞ぎ、処理容器内にマイクロ波を供給するマイクロ波供給部2を配置している。気密性を確保するためのOリングなどのシール材16を介して、石英やAlからなる誘電体窓17を支持し、処理容器12を開閉する機能を有する蓋部材(Lid)18によって気密に塞がれている。蓋部材18の上面には、断面形状が略L字型をした円環状の固定部材18aが設けられ、蓋部材18と固定部材18aとは、例えばボルトなどの接合部材(図示せず)により固定されている。また、固定部材18aの上面には、断面形状がL字を90度左に回転させた略L字型の円環状の押え部材18bが設けられ、図示しない接合部材により、当該押え部材18b、固定部材18a及びカバープレート22が固定されている。
【0023】
誘電体窓17の上(外側)には、アンテナ20が配置されている。このアンテナ20は、導電性を有する材質、たとえば銅、アルミニウム、ニッケル等の金属製の薄い円板からなり、表面に複数のスロット20aが同心円状に形成されている、いわゆるラジアルラインスロットアンテナである。各スロット20aは略方形の貫通した溝であり、隣接するスロット同士は互いに直交して略アルファベットの「T」の文字を形成するように配設されている。スロット20aの長さや配列間隔は、供給されるマイクロ波の波長に応じて決定されている。
【0024】
アンテナ20の上面には、石英、アルミナ、窒化アルミニウム等からなる誘電体板21が配置されている。この誘電体板21は、遅波板として機能する。誘電体板21の上方には、アルミニウム等の導電性のカバープレート22が誘電体板21を覆うように配置されている。また、アンテナ20は、その外周部をカバープレート22に系止されて設置されている。カバープレート22の内部には、冷媒が流れる冷媒路22aが設けられており、アンテナ20、誘電体板21、誘電体窓17を冷却するようになっている。また、カバープレート22の中央には、同軸導波管23が接続されている。同軸導波管23の上端部には、矩形導波管24及びモード変換器25を介して、マイクロ波発生装置26が接続されている。
【0025】
マイクロ波発生装置26は、処理容器12の外部に設置されており、例えば2.45GHzのマイクロ波を発生させることができる。また、マイクロ波発生装置23には、モード変換器25を介してインピーダンス整合器27が設けられており、マイクロ波のインピーダンスのマッチングが行われる。同軸導波管23は、側導体23aと内側導体23bとからなり、内側導体23bはアンテナ20に接続する内導体が配置すされている。かかる構成により、マイクロ波発生装置26から発生したマイクロ波は、インピーダンス整合器27、矩形導波管24、モード変換機25及び同軸導波管24内を伝播し、遅波板としての誘電体板21で圧縮されて短波化された後、アンテナ20から円偏波状のマイクロ波が誘電体窓17を透過して処理容器12内に向けて導入される。
【0026】
処理容器12の上部の内周面には、プラズマ生成用のガスを供給ためのガス供給口30が形成されている。ガス供給口30は、例えば処理容器12の内周面に沿って複数箇所に形成されている。ガス供給口30には、例えば処理容器12の外部に設置されたガス供給部31に連通するガス供給管32が接続されている。本実施の形態におけるガス供給部31は、希ガス供給部33と酸素ガス供給部34を有し、各々バルブ33a、34a、マスフローコントローラ33b、34bを介して,ガス供給口31に接続されている。ガス供給口31から供給されるガスの流量は,マスフローコントローラ33b、34bによって制御される。なお、本実施の形態において、ガス供給部31には、処理ガスとして、アルゴンより原子量が小さい希ガスであるヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガスや、ウェハWのプラズマ酸化処理に用いる酸素ガスが貯留されている。
【0027】
処理容器12内のサセプタ11の周囲には、例えば石英からなるガスバッフル板40が配置されている。石英製のガスバッフル板40の下面は、アルミニウムなどの金属製の支持部材41で支持されている。
【0028】
以上のプラズマ処理装置1には、制御部50が設けられている。制御部50は、例えばコンピュータであり、プログラム格納部(図示せず)を有している。プログラム格納部には、マイクロ波発生装置26やインピーダンス整合器27、マスフローコントローラ33といった機器を制御して、プラズマ処理装置1を動作させるためのプログラムが格納されている。なお、前記プログラムは、例えばコンピュータ読み取り可能なハードディスク(HD)、フレキシブルディスク(FD)、コンパクトディスク(CD)、マグネットオプティカルデスク(MO)、メモリーカードなどのコンピュータに読み取り可能な記憶媒体Hに記録されていたものであって、その記憶媒体Hから制御部50にインストールされたものであってもよい。
【0029】
本実施の形態にかかるプラズマ処理装置1は以上のように構成されており、次に、プラズマ処理装置1で行われるプラズマ処理の方法について説明する。
【0030】
プラズマ処理を行うにあたっては、先ず、図2(a)に示されるような、表面に予め熱酸化膜60を成膜した後にトレンチ61が形成されたウェハWが準備される。次いで、当該ウェハWはサセプタ11上に載置される。プラズマ処理中は、サセプタ11によってウェハWの表面温度が、例えば465℃に加熱されると共に、交流電源11cからウェハWにイオン引き込み用の高周波電圧が600Wの電力で印加される。その後、排気装置14により処理容器12内の排気が行われ、処理容器12の内部が所定の圧力、例えば40Paの圧力に制御される。なお、ウェハWの温度は、常温〜600℃が好ましく、より好ましくは、200℃〜600℃である。
【0031】
次いで、ガス供給口30からヘリウムガスと酸素ガスが処理容器12内に導入される。このとき、ヘリウムガスの流量は、例えば124sccm、酸素ガスの流量は、例えば60.8sccmである。
【0032】
その後、マイクロ波発生装置26から同軸導波管23を通ってマイクロ波が処理容器12内に供給される。マイクロ波は、例えば周波数が2.45GHz、出力が1000〜4000W、本実施の形態においては4000Wのマイクロ波が、誘電体板21、アンテナ20、誘電体窓17を介して処理容器12中に導入される。処理容器12内のヘリウムガス及び酸素ガスは高密度マイクロ波プラズマにより励起され、ヘリウムガスの励起により原子状酸素(O(1D)酸素ラジカル)およびO+が形成される。かかる原子状酸素は、図2(b)に示すように、ウェハWのトレンチ61の表面に達する。これにより、図2(c)に示すように、当該トレンチ61の表面に酸化膜62が形成される。
【0033】
以上説明したプラズマ処理方法においては、イオン引き込み用の高周波電圧をウェハWに印加しながらウェハWをプラズマ酸化処理する際に、処理ガスとして従来用いられるアルゴンよりも原子量の小さい希ガスであるヘリウムガスを用い、処理容器12のような減圧容器内において40Paの低圧力条件下でプラズマ酸化処理が行われる。これにより、酸素イオンをトレンチ61内に引き込みトレンチ61底部の酸化を進行させつつ、トレンチ61側面の酸化を抑制して側面への酸化膜62を薄膜化する。さらに、アルゴンより原子量が小さい希ガスであるヘリウムのイオンは、トレンチ61上部に形成された熱酸化膜60の角をエッチングすることを抑制する。
【0034】
以上の実施の形態では、処理容器12内の圧力を40Paとしてプラズマ処理を行ったが、処理容器12内の圧力は6.7〜133Paの範囲が好ましく、より好ましくは6.7〜93Paが好ましい。よって、その範囲内で任意に設定が可能である。
【0035】
また、以上の実施の形態においては、処理容器12内にヘリウムガスと酸素ガスの混合ガスを供給してプラズマ処理を行ったが、ヘリウムガスと酸素ガスにさらに水素ガスを添加してもよい。かかる場合、添加された水素ガスによりウェハW表面の未結合手を終端させ、ウェハWのトレンチ61表面と当該トレンチ61表面に形成されるシリコン酸化膜62との界面を安定的なものとすることができる。なお、水素ガスの流量としては、1〜100ml/min(sccm)が好ましい。より好ましくは1〜50ml/min(sccm)、さらに好ましくは15.2sccmである。
【実施例】
【0036】
本発明によるプラズマ処理の効果を測定するために、図2(a)に示すような熱酸化膜60及びトレンチ61が形成されたウェハWを、ヘリウムと酸素の混合ガスを用いてプラズマ酸化処理した場合と、アルゴンと酸素の混合ガスを用いてプラズマ酸化処理した場合についての比較試験を行った。ヘリウムと酸素の混合ガスを用いる場合においては、処理容器12内にヘリウムガス、酸素ガス及び水素ガスをそれぞれ124ml/min(sccm)、60.8ml/min(sccm)及び15.2ml/min(sccm)の流量で供給し、処理容器12内の圧力を40Paとして低圧のプラズマ酸化処理を130秒行った場合(実施例1)と、ヘリウムガス、酸素ガス及び水素ガスをそれぞれ150ml/min(sccm)、40ml/min(sccm)及び10ml/min(sccm)の流量で供給し、処理容器12内の圧力を533Paとして高圧のプラズマ酸化処理を270秒行った場合(実施例2)の2通りについて実施した。なお、実施例1及び実施例2においては、トレンチのTop上での酸化膜62の目標膜厚を11nmとした。マイクロ波の供給電力及びバイアス用の高周波電圧の電力については、いずれの場合もそれぞれ4000W及び600Wとし、ウェハWの温度は465℃とした。
【0037】
また、比較例として、アルゴンと酸素の混合ガスを用いる場合においては、処理容器12内にアルゴンガス、酸素ガス及び水素ガスをそれぞれ150ml/min(sccm)、40ml/min(sccm)及び10ml/min(sccm)の流量で供給し、処理容器12内の圧力を40Paとした低圧状態でマイクロ波を1200Wの電力で供給してプラズマ酸化処理を215秒行った場合(比較例1)と、比較例1と同一の条件で各種ガスの供給を行い、処理容器12内の圧力を533Paとした高圧状態でマイクロ波を4000Wの電力で供給してプラズマ酸化処理を360秒行った場合(比較例2)の2通りについて実施した。比較例1及び比較例2においては、トレンチのTop上での酸化膜62の目標膜厚を8nmとした。また、いずれの場合も、バイアス用の高周波電圧の電力については600W、ウェハWの温度は465℃とした。
【0038】
また、トレンチ61が形成されていないウェハWに実施例1及び実施例2、並びに比較例1及び比較例2のそれぞれの条件でプラズマ酸化処理を施した場合の酸化膜の成膜レートを求めた。その結果を図3に示す。図3において縦軸は酸化膜の膜厚[オングストローム(Å)]、横軸は処理時間を示す。図3の結果から、処理容器12内の圧力を低くすることで、成膜レートが向上することが確認された。従って、低圧の条件のプロセスで、アルゴンの原子量より小さい希ガスであるヘリウムガスを用いることで、高酸化レート処理できるのでプロセス時間を短く出来る。
【0039】
上述の実施例1及び実施例2、並びに比較例1及び比較例2においては、図3の成膜レートに基づいて処理時間を決定している。具体的には、目標膜厚が11nmである実施例1及び実施例2の処理時間を、図3からそれぞれ130秒、270秒と求めた。同様に、目標膜厚が8nmである比較例1及び比較例2の処理時間を、図3からそれぞれ215秒、360秒と求めた。
【0040】
確認試験の結果を図4及び図5に示す。図4(a)は実施例1及び実施例2によるプラズマ酸化処理後の、トレンチ61上部の熱酸化膜60近傍の状態を示したものである。図4(b)は比較例1及び比較例2によるプラズマ酸化処理後の、トレンチ61上部の熱酸化膜60の断面形状を示したものである。
【0041】
図4(a)及び図4(b)からわかるように、アルゴンガスを用いた比較例1では熱酸化膜60の角がスパッタによりエッチングされて丸くなり、熱酸化膜60の角が変形している。その一方、実施例1及び実施例2ではアルゴンガスより原子量が小さい希ガスであるヘリウムガスを用いているので、角がスパッタによるエッチングが抑制され熱酸化膜60の角の変形が抑制されている。なお、比較例2でも熱酸化膜60に変形が生じていないが、これは高圧条件によりイオン量が減少し、スパッタ効果が低減したからであると考えられる。
【0042】
図5(a)は、実施例1及び実施例2のプラズマ酸化処理によってトレンチ61に形成された酸化膜62の状態を示したものである。図5(b)は、比較例1及び比較例2のプラズマ酸化処理によってトレンチ61に形成された酸化膜62の形状を示したものである。
【0043】
図5(a)に示されるように、実施例1ではトレンチ61底部における酸化膜62の膜厚は目標値の11nmに対して10.4nmとなっており、概ね図3の結果と同じ成膜レートが達成できていることが確認できた。また、トレンチ61側面の酸化膜62の膜厚は3.3nm〜3.7nmとなっており、トレンチ61側面の酸化膜62が良好に薄膜化されていることが確認された。その一方、実施例2では、膜厚が目標値より低い8.5nmであった。これは、側面側の酸化膜厚が高さで異なることからもわかるように、高圧条件下においてもマイクロローディング効果が発生したからであると考えられる。また実施例2では、トレンチ61側面の酸化膜62の膜厚は7.1nm〜10.5nmとなっていた。これは、実施例2の圧力条件が533Paと比較的高いことにより、イオン量が減少したため、トレンチ61側面の酸化膜62を薄膜化することができなかったためと推察される。
【0044】
次に、比較例1では、図5(b)に示されるようにトレンチ61底部における酸化膜62の膜厚が、目標値の8nmを大幅に超過する15.5nmとなった。これは、既述のようにスパッタによりエッチングされたウェハW上の熱酸化膜60のフラックス(飛翔物)が、トレンチ61の底部に堆積することにより、酸化膜62の見かけ上の膜厚が増加しているためと考えられる。なお、トレンチ61の側面については、実施例1と同様に薄膜化が達成されている。また、比較例2では、トレンチ61底部における酸化膜62の膜厚が、目標値の8nmに対して7.5nmとなり、概ね所望の膜厚が得られている。しかしながら、処理時の圧力が533Paと比較的高いために、トレンチ61側面の膜厚が7.5nm〜7.7nmと大きくなっており、実施例2と同様に、トレンチ61側面の酸化膜62を薄膜化することができていない。
【0045】
これは、アルゴンの原子量39.95に対してヘリウムの原子量は4.0と約1/10であるからである。つまり、プラズマを生成した場合、ヘリウムイオンが軽いので熱酸化膜60の角、即ち側壁へのスパッタリングが弱く、原子状酸素で側壁を酸化するので薄く形成される。底部は、酸素イオンがトレンチの中へ引き込まれるので酸化が促進され、トレンチのTop上と同等の膜厚が形成される。これに対して、アルゴンを用いた場合、アルゴンイオンは重いため、側壁へのスパッタリングが高く、形成された酸化膜がスパッタされ、底部に堆積してトレンチのTop上の膜厚の倍の膜厚が形成される。従って、アルゴンより原子量の小さい希ガスであるヘリウム、ネオンを用いることが好ましい。
【0046】
以上の各結果からもわかるように,本発明に従ってヘリウムと酸素の混合ガスにより低圧力条件下でプラズマ処理を行うことで、ウェハWに形成されたトレンチ61側面の酸化膜62を薄膜化し、且つトレンチ61の上部に形成された熱酸化膜60等のパターンが、スパッタによりエッチングされることを抑制することができる。
【0047】
なお、上記したようにプラズマ処理時の処理容器12内の圧力は6.7〜133Paがよく、6.7〜93Paが好ましく、より好ましくは20〜67Paである。また、ヘリウムガスの流量及び酸素ガスの流量は、それぞれ50〜1000ml/min(sccm)が好ましく、100〜500ml/min(sccm)がより好ましく、100〜190ml/min(sccm)が望ましい。酸素流量は、5〜500ml/min(sccm)が好ましく、10〜300ml/min(sccm)がより好ましく、10〜100ml/min(sccm)が望ましい。これにより、アルゴンを用いた場合よりも高い成膜レートを得ることができるので、スループットの向上も同時に達成することができる。
【0048】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されず、ICPプラズマ、マグネトロンプラズマ、表面波プラズマに適用可能である。また、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0049】
1 プラズマ処理装置
11 サセプタ
11c 交流電源
12 処理容器
13 排気室
16 シール材
17 誘電体窓
20 アンテナ
21 誘電体板
22 カバープレート
23 同軸導波管
26 マイクロ波発生装置
27 インピーダンス整合器
30 ガス供給口
31 ガス供給部
40 ガスバッフル板
41 石英カバー
50 制御部
60 熱酸化膜
61 トレンチ
62 酸化膜
W ウェハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体をマイクロ波プラズマにより処理するプラズマ処理装置において、酸化膜形成後にトレンチが形成された基板をプラズマによって酸化処理するプラズマ処理方法であって、
前記基板はイオン引き込み用の高周波電圧が印加される載置台に載置され、
前記プラズマによる酸化処理は、イオン引き込み用の高周波電圧を基板に印加しながら行い、
前記プラズマ酸化処理における処理ガスは、アルゴンより原子量の小さい希ガスと酸素を含む混合ガスであり、
前記プラズマ処理は、減圧容器内において6.7〜133Paの圧力で行われることを特徴とする、プラズマ処理方法。
【請求項2】
前記アルゴンより原子量の小さい希ガスは、ヘリウムガスまたはネオンガスであることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理方法。
【請求項3】
前記アルゴンより原子量の小さい希ガスはヘリウムガスであり、当該ヘリウムガスの流量は100〜500ml/min(sccm)、前記酸素ガスの流量は10〜300ml/min(sccm)であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理方法。
【請求項4】
前記プラズマ処理時の基板温度は、200〜600℃であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項5】
前記プラズマ酸化処理における処理ガスには水素が含まれており、
前記水素ガスの流量は1〜100ml/min(sccm)であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項6】
前記マイクロ波のパワーは1000〜4000Wであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−216667(P2012−216667A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80620(P2011−80620)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】