説明

プラズマ強化プロセスを実行するための装置

プラズマ強化プロセス、特にプラズマ強化化学気相成長プロセスを実行するための装置は、真空チャンバ内に、極性が反対の周辺磁極および中央磁極を有する平坦なマグネトロン面(20)を有して交流電圧の電源(34)に接続されているアンバランス型マグネトロンを構成する、少なくとも1つのマグネトロン電極(32)を含む。この装置はさらに、処理される表面がマグネトロン面(20)に面するように基板(25)を位置付けるための手段と、プロセスガスまたはプロセスガス混合物を、マグネトロン面(20)と処理される表面との間の空間に供給するためのガス供給手段とを含む。最適な堆積速度を達成するために、マグネトロン面(20)と処理される表面との間の距離は、マグネトロン面(20)の周辺磁極と中央磁極との間に延びる磁力線によって形成されるより暗いトンネルと処理される表面との間に走る可視プラズマ帯があるように、マグネトロン電極(32)によって作り出される磁界に適合され、プラズマ帯は最小限の幅を有するものの、コーティングされる表面に向かって均質な明るさを有している。処理される表面とマグネトロン面との間の距離は、好ましくは、トンネルの高さよりも2〜20%長い。この装置は、たとえば、ポリマーフィルム材料でできたウェブを酸化シリコンでコーティングしてそのバリア特性を向上させるために適用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、第1の独立請求項の包括的な部分に従った装置に関する。この装置は、プラズマ強化プロセス、特にプラズマ強化化学気相成長法を実行するために役立つ。この装置は、たとえば、フィルムまたはシート材料のウェブの片面をコーティングし、特に、ポリマーフィルムのウェブを酸化シリコンでコーティングしてそのバリア特性を向上させるのに役立つ。
【背景技術】
【0002】
基板上に酸化シリコンの薄膜をプラズマ強化化学気相成長プロセスで堆積させることは、たとえば公報EP−299754(BOC)から公知である。この公報によれば、真空チャンバが設けられ、そこに、電気的に絶縁された基板が、交流電圧で電力を供給されるマグネトロンに面するよう位置付けられている。有機シリコン化合物、酸素および不活性ガス(たとえばアルゴンまたはヘリウム)からなるプロセスガス混合物の流れが、マグネトロンの面と基板との間の空間に流れ込み、プロセスガス混合物から得られるプラズマがたとえば6Paの圧力に保たれる。
【0003】
公報EP−0299754に記載されたマグネトロンは、バランス型またはアンバランス型の平坦なマグネトロンである。平坦なマグネトロンのアンバランスの度合は、マグネトロン面のまわりを走るトラックのいずれかの側に位置付けられた磁極の強度比率、つまり、トラックを横切ってN極からS極に延びる磁力線の数とそうなっていない磁力線の数との比率に依存する。アンバランス型のマグネトロンは、堆積品質を向上させるといわれる基板の電子およびイオン衝撃が限られた量あるよう、プラズマの電子およびイオンを十分には閉じ込めない、ということは公知である。EP−0299754に従ったアンバランス型のマグネトロンのマグネトロン面は、周辺のN極と中央の軟鉄でできたコアとを含み、磁力線のほんの一部がN極からコアに延びることをもたらす(非常にアンバランスなマグネトロン)。
【0004】
公報EP−0605534(BOC)は同様のプラズマ強化化学気相成長プロセスを記載しており、ここでは基板はウェブである。このウェブは、動力を備えた電極を構成する、負にバイアスがかけられた回転ドラムによって搬送される。ドラムによって搬送されるウェブに面して、電気的に接地されおそらくは冷却されたシールドがあり、その背面には、少なくとも1対の反対の磁極、好ましくは一連の交互の磁極が面している。プラズマは、磁界に助けられて、ドラムとシールドとの間に閉じ込められる。この構成の利点は、電界と磁界との分離に見られ、それは(ドラムとシールドとの間の)プラズマ量全体にわたるプラズマの拡張に繋がるといわれている。ドラムとシールドとの間の距離は、1〜30cmの範囲内にある必要があると記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の目的は、プラズマ強化プロセス、特にプラズマ強化化学気相成長法用に、また、たとえば表面の湿潤性または粘着特性を変えてマグネトロンに基づくタイプに属するためのプラズマエッチングまたはプラズマプロセス用に適用可能な上述の装置を向上させることである。この向上は、特にプロセス効率を顧慮することである。堆積プロセスについては、堆積速度および堆積品質を向上すべきである。
【0006】
この目的は、請求項によって定義されるような装置を用いて達成される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に従った装置は、真空チャンバと、そのチャンバの中に少なくとも1つのマグネトロン電極とを含み、少なくとも1つのマグネトロン電極は、アンバランス型の磁極構成と、処理される表面がマグネトロン電極に面するように基板を位置付け、対電極として役立つための手段とを含む。いずれの電極も交流電圧で電力を供給される。有利には、マグネトロン電極は電力を供給され、基板、または基板を搬送する位置付け手段は、電気的に接地されているか、電気的に浮いているか、または負にバイアスがかけられている。マグネトロン面と処理される基板の表面との間の距離は、マグネトロン面の永久磁石の極によって作られる磁界の、主として極の磁気強度と、極構成のアンバランスの度合と、磁極間のトラックの幅とによって規定される特性に適合される。
【0008】
その他の点では変わらないシステム(同じ磁界および同じ電界)でのプラズマ強化化学気相成長プロセスでの実験は、マグネトロン面上でトラックを横切って延びる磁力線によって形成されるトンネルのちょうど外側に、コーティングされる表面が位置付けられる場合、つまり、マグネトロン面とコーティングされる表面との間の距離がマグネトロン面からのトンネルの拡大(高さ)よりも若干長い場合に、堆積速度および堆積品質に関して最適条件が見つかるよう、堆積速度がマグネトロン面と基板との間の距離に依存していることを示している。好ましくは、コーティングされる表面とマグネトロン面との間の距離は、トンネル高さよりも2〜20%長い。この範囲内で、コーティングされる表面は、電子密度がトンネル内よりも高いものの、磁力線のかなりの部分が依然としてトンネルによって整形されている、つまりマグネトロン面に平行な構成要素を有する区域に位置付けられる。
【0009】
平坦な矩形の面を有するアンバランス型のマグネトロンと、マグネトロン面に実質的に平行に配置される、処理されるべき表面との間に保たれるプラズマの目視観測(マグネトロン面の長い方の辺に平行な観測)は、上述のトンネルを、トンネルの外側でより明るく見えるプラズマ内でかなりはっきりと見分けがつく、より暗い区域として示す。上述のようにマグネトロン面と基板との間の距離を磁界の特性に依存するように設定することは、そのような観察に容易に基づくことができる。コーティングされる表面は、トンネルと処理される表面との間に明るいプラズマ帯が延びるように、トンネルの及ばないところに位置付けられ、この帯は、最小限の幅を有するものの、コーティングされる表面に向かって均質な明るさ、つまり、トンネル間の間隙上部の位置での明るさと同じ明るさをトンネル上部の位置でも有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明に従った装置の原理、およびその好ましい実施例を、以下の図面とともにより詳細に説明する。
【0011】
図1は、平坦なアンバランス型マグネトロンの磁界を、マグネトロン面に対して垂直な断面において示している。3つの永久磁石1が交互に配置されており、それらの片面の極は、たとえば軟鉄といった磁化可能な材料でできた部品2によって接続されている。接続部品2の反対の極は平坦なマグネトロン面(平面A)を形成し、それはたとえば中央のN極と周辺のS極とを含み、N極はたとえばS極の各々と同じ強度を有する。磁力線がマグネトロン面に対して実質的に垂直に延びている交番磁界を確立するための手段(図示せず)、たとえば、マグネトロン面の上部に延びて、交流電圧により電力を供給される電極部品(図3参照)がさらに設けられている。
【0012】
アンバランス型マグネトロンの面の極構成は、どの電子およびイオンを閉じ込めるかに基づいてトンネル11を形成するようN極からS極のいずれか1つに延びる磁力線の第1の部分10と、他の場所から生じてS極に終わる磁力線の別の部分10′とを作り出す。
マグネトロン面の上部のトンネル11の延長(平面B)は、極の磁気強度と、極間距離(トラックの幅)と、中央および周辺の極の強度の比率(マグネトロンのアンバランスの度合)とに依存する。
【0013】
この発明によれば、処理される基板表面(平面C)は、それが明らかにトンネル11の外側にあるもののマグネトロン面Aにできるだけ近く位置付けられる。平面Aと平面Cとの間の距離は、好ましくは、平面Aおよび平面Bとの間の距離よりも少なくとも2%長く、さらにより好ましくは、平面Aと平面Bとの間の距離よりも2〜20%長い。
【0014】
図2および図3は、この発明の装置に適用可能なマグネトロン電極の例示的な一実施例を示している。このマグネトロン電極は平坦な矩形の面を有し、ここでもアンバランス型である。図2はマグネトロンの面を示し、図3は、マグネトロン面に対して垂直な断面(図2の切断線III−III)と、たとえばコーティングされるためにマグネトロン電極に面して位置付けられた基板とを示している。
【0015】
マグネトロン電極は、交互に配置された永久磁石1を含む。N極の周辺配置およびS極の中心線(または、反対の極が反対の長手方向の側にある、5本の棒状の永久磁石)がマグネトロン面20を構成しており、それは、たとえばアルミニウム、ステンレススチールまたは銅といった磁化できない材料で作られて高周波数の交流電圧の電源22に接続されている、電力が供給された電極部品21によって覆われている。同じ材料が、好ましくは、永久磁石1間の間隙23を充填するために使用される。マグネトロン面から外側を向いた磁極は、たとえば軟鉄といった磁化可能な材料でできた接続部品2によって接続される。永久磁石を包囲する周辺の壁24も、好ましくは磁化可能な材料で作られる。
【0016】
処理される基板は、たとえば、接地された支持体によって支持されるウェブ25であり、それに沿ってウェブは連続して動かされる(矢印28)。支持体26も、電気的に浮いているか、または負にバイアスがかけられていてもよい。プラズマはマグネトロン面と基板との間に閉じ込められ、上述の条件を満たす距離A−Cで最適な堆積が達成される。プロセスガス混合物が、たとえば矢印27によって示されるように、プラズマ空間を通って流される。
【0017】
図4は、この発明の装置の例示的な一実施例を示しており、この実施例は、可撓性のある基板材料でできたウェブをコーティングするため、またはその他の方法で処理するために役立つ。基板25は、基板25用の支持体26を構成する回転ドラム30によって運ばれる。ウェブは、第1の供給ロール31から巻き出され、第2の供給ロール31に巻き取られる。ドラム30の周囲の一部のまわりに、かつそれから上述の距離離れて、図2および図3に示されたような複数のマグネトロン電極32が配置される。マグネトロン面はドラム30に向かって面し、それらの長さはドラムの軸に平行に配置される。プロセスガス混合物を供給するためのガス供給ライン33(たとえば、ガス供給開口部のラインを含む管)が、マグネトロン電極32間に、ドラムの軸と平行に延びて配置される。ドラム30、供給ロール31、マグネトロン電極32およびガス供給ライン33の構成は、図示しない真空チャンバ内に配置され、それは、チャンバからガスを除去してチャンバの内部を一定の減圧に保つための手段を備えている。各マグネトロン電極32は有利には、それ自体の電源34によって電気的に電力を供給される。プロセスガスは主に供給ライン33からドラムの面へ向かって流れ、そこからそれは排気される。
【0018】
個々に電力を供給される複数のマグネトロン電極32を備える構成を用いることは、動作をより信頼性のあるものにするだけではなく(不良マグネトロン電極が1つある場合の動作は、対応して低減したウェブ速度で継続可能である)、効率も向上させることを、実験は示している。図4に示すような構成が、コーティングされるウェブ表面に沿った、目
に見えて均質なプラズマと、高い動作安定性とを作り出す一方、公報EP−0605534に示されるような、ドラム周囲の同様の部分にかかる、単独で動力を供給されるマグネトロンのような構成を備える同様の構成は、ドラムとシールドとの間の空間に沿ってプラズマ強度の勾配を示し、ウェブ入口からウェブ出口へと強度が高まって、ウェブ出口の区域で非常に高いプラズマ強度となり、不安定性の原因を作り出す。
【実施例1】
【0019】
各マグネトロン面が長さ600mm、幅150mmで、約100ガウス(10-2テスラ)の磁気誘導の中央の永久磁石と、中央の磁石のまわりに約50mmの極間距離で配置された約200ガウスの周辺の永久磁石とを含んでいる、図2および図3に従った4つのマグネトロン電極を備える、図4に従った装置が、有機シリコン化合物および酸素を含むプロセスガス混合物から得られるプラズマを用いてポリマーフィルムを酸化シリコンでコーティングするために使用される。マグネトロン面は、(トンネル位置に依存しない一定の強度を基板に向かって示す、基板に沿ってトンネルの及ばないところに走るプラズマの狭く明るい帯が目に見えてあるように)ドラム周辺表面から約60mm離れて位置付けられる。マグネトロンは、40kHzの周波数で、マグネトロン面1m2当り計14kWで電力を供給される。そのように達成された堆積速度は約3nm/秒で、高いバリア品質と高い信頼性とを有する。マグネトロン面とドラム周辺表面との間の距離をいずれかの方向に変更することは、堆積速度の関連する低減をもたらす。
【0020】
4倍大きな磁気誘導を有する永久磁石を除き、同様の設定および同様の動作パラメータを使用することは、マグネトロン面とドラム周辺表面との間の距離が60mmよりも大きい場合、好ましくは80〜100mmの場合に最大となる堆積速度をもたらし、上述のようなより弱い磁石で達成される堆積速度を明らかに上回る堆積速度をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明に従った装置の原理を示す図である。
【図2】この発明に従った装置において適用可能な例示的なマグネトロン電極の上面図である。
【図3】この発明に従った装置において適用可能な例示的なマグネトロン電極の、図2の切断線III−IIIに沿った、マグネトロン面に対して垂直な断面図である。
【図4】可撓性のある材料でできたウェブをコーティングし、たとえばポリマーフィルム材料を酸化シリコンでコーティングしてそのバリア特性を向上させるのに役立つ、この発明に従った装置の好ましい一実施例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ強化プロセス、特にプラズマ強化化学気相成長プロセスを実行するための装置であって、真空チャンバ内に、マグネトロン電極(32)と、位置付け手段と、ガス供給手段とを含み、マグネトロン電極は、極性が反対の周辺磁極および中央磁極を有する平坦なマグネトロン面(20)を含み、高周波数の交番磁界を生成するための手段をさらに含み、位置付け手段は、処理される表面がマグネトロン面(20)に面するように基板(25)を位置付けるために設けられており、ガス供給手段は、プロセスガスまたはプロセスガス混合物を、マグネトロン面(20)と処理される表面との間の空間に供給するために設けられており、
マグネトロン電極(32)はアンバランス型であること、および、マグネトロン面(20)と位置付け手段との間の距離は、マグネトロン面(20)の周辺磁極と中央磁極との間に延びる磁力線(10)によって形成されるより暗いトンネル(11)と処理される表面との間に走る可視プラズマ帯があるように、マグネトロン電極(32)によって作り出される磁界に適合され、プラズマ帯は最小限の幅を有するものの、処理される表面に向かって均質な明るさを有することを特徴とする、装置。
【請求項2】
処理される表面とマグネトロン面(20)との間の距離(A−C)は、トンネル(11)の可視高さ(A−B)よりも少なくとも2%長いことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
処理される表面とマグネトロン面(20)との間の距離(A−C)は、トンネル(11)の可視高さ(A−B)よりも最大20%長いことを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
マグネトロン面(20)の中央磁極の磁気強度は、周辺極の磁気強度の約半分であることを特徴とする、請求項1〜3のうちの1つに記載の装置。
【請求項5】
マグネトロン電極(32)は、交流電圧(34)の電源に接続されている電極要素(21)を含むことを特徴とする、請求項1〜4のうちの1つに記載の装置。
【請求項6】
位置付け手段および/または基板(25)は、電気的に接地されるよう、電気的に浮くよう、または負にバイアスがかけられるよう構成されていることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
位置付け手段は回転ドラム(30)であること、および、長さがドラム(30)の回転軸と平行になるよう配置されている矩形の面を有する複数のマグネトロン電極(32)がドラム(30)の周辺の一部のまわりに配置されていることを特徴とする、請求項1〜6のうちの1つに記載の装置。
【請求項8】
ガス供給手段は、マグネトロン面(20)間でドラム軸に平行に延びるガス供給ライン(33)を含むことを特徴とする、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
複数のマグネトロン(32)のうち、各マグネトロン(32)は別個の電源に接続されていることを特徴とする、請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
プラズマ強化化学気相成長プロセスを実行するための請求項1〜9のうちの1つに従った装置の使用。
【請求項11】
有機シリコン化合物および酸素を含むプロセスガスを用いて酸化シリコンを堆積させる
ための請求項1〜9のうちの1つに従った装置の使用。
【請求項12】
基板は、そのバリア特性を向上させるためにコーティングされたポリマーフィルム材料でできたウェブであることを特徴とする、請求項11に記載の使用。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−501367(P2006−501367A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540444(P2004−540444)
【出願日】平成15年9月9日(2003.9.9)
【国際出願番号】PCT/CH2003/000610
【国際公開番号】WO2004/031441
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(505118763)テトゥラ・ラバル・ホールディングス・アンド・ファイナンス・ソシエテ・アノニム (5)
【氏名又は名称原語表記】TETRA LAVAL HOLDINGS & FINANCE S.A.
【Fターム(参考)】