説明

プラズマCVD成膜装置、成膜方法

【課題】薄膜層を基材の両面に成膜することで効率良く良好な成膜を実現するプラズマCVD成膜装置を提供する。
【解決手段】真空チャンバー90内において長尺の基材100を連続的に搬送しながら、当該基材100上に連続的に薄膜層を形成するプラズマCVD成膜装置1であって、第1成膜ロール31が基材100の一方の面100bで当該基材100を巻き掛けることにより、基材100の他方の面100aに第1薄膜層が成膜され、第2成膜ロール32が基材100の他方の面100aで当該基材100を巻き掛けることにより、基材100の一方の面100bに第2薄膜層が成膜されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD成膜装置、成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィルム状の基材に機能性を付与するために、基材の表面に薄膜層を積層した積層フィルムが知られている。例えば、薄膜層を積層することにより基材にガスバリア性を付与したガスバリア性積層フィルムは、飲食品、化粧品、洗剤といった物品の充填包装に適する包装用容器として好適に用いることができる。近年、プラスチックフィルム等の基材フィルムの表面に、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化アルミニウムといった無機酸化物の薄膜層を成膜してなるガスバリア性積層フィルムが提案されている。
【0003】
このように無機酸化物の薄膜層をプラスチック基材の表面上に成膜する方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD)、減圧化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法等の化学気相成長法(CVD)が知られている。また、このような成膜方法を実現する成膜装置として、例えば、長尺の基材を搬送しながら基材表面に連続的にCVD法による成膜を行う成膜装置が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1では、図15に示すような成膜装置が示されている。すなわち、図15に示す成膜装置9は、送り出しロール911と、搬送ロール921,922,923,924と、第1成膜ロール931、第2成膜ロール932と、ガス供給管941と、プラズマ発生用電源951と、第1成膜ロール931及び第2成膜ロール932の内部に設置された磁場形成装置961,962と、巻き取りロール971と、を備えており、これらが真空チャンバー981の内部に配置されている。また、真空チャンバー981は真空ポンプ991に接続されており、かかる真空ポンプ991により真空チャンバー981内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
【0005】
成膜装置9において、送り出しロール911から送り出された長尺の基材100は、搬送ロール921を介して第1成膜ロール931に達する。第1成膜ロール931と第2成膜ロール932との間では、ガス供給管941から供給される成膜ガスの放電プラズマを生じさせ、基材100が第1成膜ロール931上を通過する際に、基材100の一面(成膜面100a)に成膜ガスを形成材料として薄膜層が形成される。
【0006】
ここで基材100は、第1成膜ロール931に沿って搬送されるため、第1成膜ロール931から離れるときには搬送方向が変更されている。そのため、下流側に配置された搬送ロール922,923では、成膜面100a側から基材100を折り返して搬送し、基材100の搬送方向を第2成膜ロール932の方に変更する。
【0007】
第2成膜ロール932においては、第1成膜ロール931と同様に、第1成膜ロール931と第2成膜ロール932との間に生じさせる放電プラズマにより成膜面100aに薄膜層が形成される。成膜された基材100は、搬送ロール924を介して巻き取りロール971に送られ、巻き取りロール971では、成膜が行われた後の基材100を牽引しながら巻き取り、ロール状に収容する。成膜装置9では、このようにして長尺の基材100に連続してCVD成膜を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4268195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のような成膜装置を用いて形成したガスバリア性積層フィルムにおいては、巻き出しロールから巻き取りロールまでの1回通過の成膜で、薄膜層を複数層作製することにより、ガスバリア性の向上が期待できる。しかしながら、薄膜層の積層回数を増やすことで基材の一方の面での薄膜層の厚みが増すと、薄膜層の残留応力の影響でガスバリア性積層フィルムの反りが大きくなる。ガスバリア性積層フィルムの反りが大きくなると、非常に扱いにくくなる。基材と薄膜層との界面での応力差が非常に大きくなり、界面での剥離が生じる可能性が高くなる。
【0010】
このような反りや界面での剥離を低減する方法としては、薄膜層を基材の両面に成膜する方法が考えられる。しかしながら、上述のような成膜装置を用いて薄膜層を基材の両面に成膜するためには、真空チャンバーを開けて巻き取りロールの向きを反転させ、基材に対する成膜面を変更しなければならず、その度に真空チャンバーの大気開放と真空引きを繰り返すこととなり、生産性が低下してしまう。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、薄膜層を基材の両面に成膜することで効率良く良好な成膜を実現するプラズマCVD成膜装置および成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明のプラズマCVD成膜装置は、真空チャンバー内において長尺の基材を連続的に搬送しながら、当該基材上に連続的に薄膜層を形成するプラズマCVD成膜装置であって、前記基材を巻き掛けて搬送する第1成膜ロールと、前記第1成膜ロールに対向して設けられる第1対向電極と、前記第1成膜ロールの内部に設けられ、前記第1成膜ロールと前記第1対向電極とが対向する空間に無終端のトンネル状の磁場を形成する第1磁場形成手段と、前記第1成膜ロールおよび前記第1対向電極に接続され、印加電圧の極性が交互に反転することで前記第1成膜ロールと前記第1対向電極とが対向する空間に交流電界を形成する第1プラズマ発生用電源と、前記1成膜ロールに対して前記基材の搬送経路の下流において、前記基材を巻き掛けて搬送する第2成膜ロールと、前記第2成膜ロールに対向して設けられる第2対向電極と、前記第2成膜ロールの内部に設けられ、前記第2成膜ロールと前記第2対向電極とが対向する空間に無終端のトンネル状の磁場を形成する第2磁場形成手段と、前記第2成膜ロールおよび前記第2対向電極に接続され、印加電圧の極性が交互に反転することで前記第2成膜ロールと前記第2対向電極とが対向する空間に交流電界を形成する第2プラズマ発生用電源と、を含み、前記第1成膜ロールが前記基材の一方の面で当該基材を巻き掛けることにより、前記基材の他方の面に第1薄膜層が成膜され、前記第2成膜ロールが前記基材の他方の面で当該基材を巻き掛けることにより、前記基材の一方の面に第2薄膜層が成膜されることを特徴とする。
【0013】
本発明においては、前記第1成膜ロールと対向して設けられ、前記基材を巻き掛けて搬送する第3成膜ロールと、前記第3成膜ロールの内部に設けられ、前記第1成膜ロールと前記第3成膜ロールとが対向する空間に無終端のトンネル状の磁場を形成する第3磁場形成手段と、を含み、前記第1プラズマ発生用電源が、前記第1成膜ロールおよび前記第3成膜ロールに接続され、前記第3成膜ロールが前記第1対向電極として機能するとともに、前記第1成膜ロールが前記第3成膜ロールの対向電極として機能し、前記第3成膜ロールが前記基材の一方の面で当該基材を巻き掛けることにより、前記基材の他方の面に第3薄膜層が成膜されることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、前記第2成膜ロールと対向して設けられ、前記基材を巻き掛けて搬送する第4成膜ロールと、前記第4成膜ロールの内部に設けられ、前記第2成膜ロールと前記第4成膜ロールとが対向する空間に無終端のトンネル状の磁場を形成する第4磁場形成手段と、を含み、前記第2プラズマ発生用電源が、前記第2成膜ロールおよび前記第4成膜ロールに接続され、前記第4成膜ロールが前記第2対向電極として機能するとともに、前記第2成膜ロールが前記第4成膜ロールの対向電極として機能し、前記第4成膜ロールが前記基材の他方の面で当該基材を巻き掛けることにより、前記基材の一方の面に第4薄膜層が成膜されることを特徴とする。
【0015】
本発明においては、前記第3成膜ロールは、前記第2成膜ロールに対し前記基材の搬送経路の下流側に設けられ、前記第4成膜ロールは、前記第3成膜ロールに対し前記基材の搬送経路の下流側に設けられることを特徴とする。
【0016】
本発明においては、前記第3成膜ロールは、前記第1成膜ロールと前記第2成膜ロールとの間の前記基材の搬送経路に設けられ、前記第4成膜ロールは、前記第2成膜ロールに対し前記基材の搬送経路の下流側に設けられることを特徴とする。
【0017】
本発明においては、前記第1成膜ロールおよび前記第2成膜ロールはそれぞれの回転軸が鉛直方向と略平行になるように配置されていることを特徴とする。
【0018】
本発明においては、前記第1成膜ロールと前記第1対向電極とが対向する空間と、前記第2成膜ロールと前記第2対向電極とが対向する空間との少なくとも一方の空間には、前記薄膜層の形成材料である成膜ガスを供給するガス供給部が設けられ、前記ガス供給部は、前記成膜ガスを鉛直方向下向きに供給することを特徴とする。
【0019】
本発明においては、複数の前記成膜ロールの直径が前記基材の搬送経路の下流側に向かうに従って大きくなっていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の成膜方法は、長尺の基材を連続的に搬送しながら、プラズマ反応を用いて当該基材上に連続的に薄膜層を形成する成膜方法であって、前記基材の搬送経路の上流側には第1の成膜空間が存在し、前記基材の搬送経路の下流側には第2の成膜空間が存在しており、前記第1の成膜空間および前記第2の成膜空間のそれぞれにおいて、前記基材の搬送経路に沿って、有機ケイ素化合物と酸素とを含む成膜ガスの放電プラズマを、主として前記有機ケイ素化合物の完全酸化反応を生じるプラズマ強度である第1の空間と、主として前記有機ケイ素化合物の不完全酸化反応を生じるプラズマ強度である第2の空間と、が交互に連続するように生じさせ、前記第1の成膜空間における前記第1の空間および前記第2の空間と重なるように前記基材を搬送し、前記基材の一方の面に第1薄膜層を成膜し、前記第2の成膜空間における前記第1の空間および前記第2の空間と重なるように前記基材を搬送し、前記基材の他方の面に第2薄膜層を成膜することを特徴とする。
【0021】
本発明においては、前記基材の一方の面への前記第1薄膜層の成膜と、前記基材の他方の面への前記第2薄膜層の成膜とを交互に繰り返し行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、薄膜層を基材の両面に成膜することで効率良く良好な成膜を実現するプラズマCVD成膜装置および成膜方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態のプラズマCVD成膜装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】同、プラズマCVD成膜装置の一実施形態を示す正断面図である。
【図3】同、プラズマCVD成膜装置で製造される積層フィルムを示す模式図である。
【図4】同、プラズマCVD成膜装置で製造される積層フィルムの工程図である。
【図5】同、プラズマCVD成膜装置の第1変形例を示す正断面図である。
【図6】第2実施形態のプラズマCVD成膜装置の一実施形態を示す正断面図である。
【図7】同、プラズマCVD成膜装置で製造される積層フィルムの工程図である。
【図8】同、プラズマCVD成膜装置の第1変形例を示す正断面図である。
【図9】第3実施形態のプラズマCVD成膜装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図10】同、プラズマCVD成膜装置の一実施形態を示す平断面図である。
【図11】同、プラズマCVD成膜装置の第1変形例を示す斜視図である。
【図12】第4実施形態のプラズマCVD成膜装置の一実施形態を示す正断面図である。
【図13】第5実施形態のプラズマCVD成膜装置の一実施形態を示す正断面図である。
【図14】第6実施形態のプラズマCVD成膜装置の一実施形態を示す正断面図である。
【図15】従来のプラズマCVD成膜装置の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施形態]
以下、図1〜図4を参照しながら、本発明の第1実施形態に係るプラズマCVD成膜装置1およびプラズマCVD成膜装置1を用いた成膜方法について詳細に説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。また、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0025】
図1は、本実施形態のプラズマCVD成膜装置1の一例を示す斜視図である。図2は、本実施形態のプラズマCVD成膜装置1の一例を示す正断面図である。なお、図1においては、便宜上、第1プラズマ発生用電源51、第2プラズマ発生用電源52、第1ガス供給管81、第2ガス供給管82、真空チャンバー90、及び真空ポンプ91の図示を省略している。
【0026】
図1及び図2に示すように、プラズマCVD成膜装置1は、送り出しロール11と、搬送ロール21,22,23,24と、第1成膜ロール31、第2成膜ロール32、第3成膜ロール33、第4成膜ロール34と、第1ガス供給管81、第2ガス供給管82と、第1プラズマ発生用電源51、第2プラズマ発生用電源52と、第1成膜ロール31の内部に設置された磁場形成装置(第1磁場形成手段)61と、第2成膜ロール32の内部に設置された磁場形成装置(第2磁場形成手段)62と、第3成膜ロール33の内部に設置された磁場形成装置(第3磁場形成手段)63と、第4成膜ロール34の内部に設置された磁場形成装置(第4磁場形成手段)64と、巻き取りロール12と、を備えており、これらが真空チャンバー90の内部に配置されている。また、真空チャンバー90には真空ポンプ91が接続されており、かかる真空ポンプ91により真空チャンバー90内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
【0027】
プラズマCVD成膜装置1においては、第2成膜ロール32は第1成膜ロール31に対し基材100の搬送経路の下流側に設けられ、第3成膜ロール33は第2成膜ロール32に対して基材100の搬送経路の下流側に設けられ、第4成膜ロール34は第3成膜ロール33に対して基材100の搬送経路の下流側に設けられている。つまり、複数の成膜ロールは、基材100の上流側から下流側にかけて、第1成膜ロール31、第2成膜ロール32、第3成膜ロール33、第4成膜ロール34の順に配置されている。
【0028】
このプラズマCVD成膜装置1を用いると、プラズマ発生用電源51を制御することにより、第1成膜ロール31と第3成膜ロール33との間の空間に、第1ガス供給管81から供給される成膜ガスの放電プラズマを発生させることができ、発生する放電プラズマを用いてプラズマCVD成膜を行うことができる。また、プラズマ発生用電源52を制御することにより、第2成膜ロール32と第4成膜ロール34との間の空間に、第2ガス供給管82から供給される成膜ガスの放電プラズマを発生させることができ、発生する放電プラズマを用いてプラズマCVD成膜を行うことができる。
【0029】
なお、本実施形態において、「搬送ロール」とは、基材の搬送経路内において最も上流側に配置されている送り出しロールと、成膜が終わった基材を巻き取る巻き取りロールとの間に配置されている基材を搬送するために用いるロール状の部材を指す。図1においては、送り出しロール11と巻き取りロール12との間の搬送経路内に配置されている搬送ロール21,22,23,24のことである。
【0030】
以下、本実施形態のプラズマCVD成膜装置1を用いて基材100上にガスバリア膜を形成し、ガスバリア性積層フィルムを製造することとして、順に説明する。
【0031】
送り出しロール11には、成膜前の基材100が巻き取られた状態で設置され、基材100を長尺方向に巻き出しながら送り出しする。また、基材100の端部側には巻き取りロール12が設けられ、成膜が行われた後の基材100を牽引しながら巻き取り、ロール状に収容する。
【0032】
基材100としては、樹脂または樹脂を含む複合材料からなるフィルム又はシートが好適に用いられる。このような樹脂フィルムまたはシートは、透光性を有していても良く、また、不透明であっても良い。
【0033】
基材100を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物;ポリアクリロニトリル樹脂;アセタール樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルサルファイド(PES)が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を組み合わせて用いることもできる。透明性、耐熱性、線膨張性等の必要な特性に合わせて、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂から選ばれることが好ましく、PET、PEN、環状ポリオレフィンがより好ましい。また、樹脂を含む複合材料としては、ポリジメチルシロキサン、ポリシルセスキオキサンなどのシリコーン樹脂、ガラスコンポジット基板、ガラスエポキシ基板などが挙げられる。これらの樹脂の中でも、耐熱性及び線膨張率が高いという観点から、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ガラスコンポジット基板、ガラスエポキシ基板が好ましい。また、これらの樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
基材100の厚みは、基材100を製造する際の安定性等を考慮して適宜設定されるが、真空中においても基材100の搬送が容易であることから、5μm〜500μmであることが好ましい。さらに、本実施形態で採用するガスバリア膜の形成では、後述するように基材100を通して放電を行うことから、基材100の厚みは50μm〜200μmであることがより好ましく、50μm〜100μmであることが特に好ましい。
【0035】
なお、基材100は、形成するガスバリア膜との密着性の観点から、その表面を清浄するための表面活性処理を施してもよい。このような表面活性処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理が挙げられる。
【0036】
第1成膜ロール31と第3成膜ロール33とは、平行に延在して対向配置されている。一方、第2成膜ロール32と第4成膜ロール34とについても、平行に延在して対向配置されている。各ロールは導電性材料で形成され、それぞれ回転しながら基材100を搬送する。
【0037】
第1成膜ロール31と第3成膜ロール33とは、相互に絶縁されていると共に、共通するプラズマ発生用電源51に接続されている。プラズマ発生用電源51から印加すると、第1成膜ロール31と第3成膜ロール33との間の空間S1に電場が形成される。
【0038】
第1成膜ロール31と第3成膜ロール33とは、内部に磁場形成装置61,63が格納されている。磁場形成装置61,63は、空間S1に磁場を形成する部材であり、第1成膜ロール31および第3成膜ロール33と共には回転しないようにして格納されている。
【0039】
磁場形成装置61,63は、それぞれ第1成膜ロール31、第3成膜ロール33の延在方向と同方向に延在する中心磁石61A,63Aと、中心磁石61A,63Aの周囲を囲みながら第1成膜ロール31、第3成膜ロール33の延在方向と同方向に延在して配置される円環状の外部磁石61B,63Bと、を有している。磁場形成装置61では、中心磁石61Aと外部磁石61Bとを結ぶ磁力線(磁界)が、無終端のトンネルを形成している。磁場形成装置62においても同様に、中心磁石63Aと外部磁石63Bとを結ぶ磁力線が、無終端のトンネルを形成している。
【0040】
この磁力線と、第1成膜ロール31と第3成膜ロール33との間に形成される電界と、が交叉するマグネトロン放電によって、成膜ガスの放電プラズマが生成される。すなわち、詳しくは後述するように、空間S1は、プラズマCVD成膜を行う成膜空間(第1の成膜空間)として用いられ、基材100において第1成膜ロール31および第3成膜ロール33に接しない面(成膜面100a)には、成膜ガスを形成材料とするガスバリア膜が形成される。
【0041】
空間S1の近傍には、空間S1にプラズマCVDの原料ガスなどの成膜ガスを供給する第1ガス供給管81が設けられている。第1ガス供給管81は、第1成膜ロール31及び第3成膜ロール33の延在方向と同一方向に延在する管状の形状を有しており、複数箇所に設けられた開口部から空間S1に成膜ガスを供給する。図2では、第1ガス供給管81から空間S1に向けて成膜ガスを供給する様子を矢印で示している。
【0042】
一方、第2成膜ロール32と第4成膜ロール34とは、相互に絶縁されていると共に、共通するプラズマ発生用電源52に接続されている。プラズマ発生用電源52から印加すると、第2成膜ロール32と第4成膜ロール34との間の空間S2に電場が形成される。
【0043】
第2成膜ロール32と第4成膜ロール34とは、内部に磁場形成装置62,64が格納されている。磁場形成装置62,64は、空間S2に磁場を形成する部材であり、第2成膜ロール32および第4成膜ロール34と共には回転しないようにして格納されている。
【0044】
磁場形成装置62,64は、それぞれ第2成膜ロール32、第4成膜ロール34の延在方向と同方向に延在する中心磁石62A,64Aと、中心磁石62A,64Aの周囲を囲みながら第2成膜ロール32、第4成膜ロール34の延在方向と同方向に延在して配置される円環状の外部磁石62B,64Bと、を有している。磁場形成装置62では、中心磁石62Aと外部磁石62Bとを結ぶ磁力線(磁界)が、無終端のトンネルを形成している。磁場形成装置64においても同様に、中心磁石64Aと外部磁石64Bとを結ぶ磁力線が、無終端のトンネルを形成している。
【0045】
この磁力線と、第2成膜ロール32と第3成膜ロール34との間に形成される電界と、が交叉するマグネトロン放電によって、成膜ガスの放電プラズマが生成される。すなわち、詳しくは後述するように、空間S2は、プラズマCVD成膜を行う成膜空間(第2の成膜空間)として用いられ、基材100において第2成膜ロール32および第4成膜ロール34に接しない面(成膜面100b)には、成膜ガスを形成材料とするガスバリア膜が形成される。
【0046】
空間S2の近傍には、空間S2にプラズマCVDの原料ガスなどの成膜ガスを供給する第2ガス供給管82が設けられている。第2ガス供給管82は、第2成膜ロール32及び第4成膜ロール34の延在方向と同一方向に延在する管状の形状を有しており、複数箇所に設けられた開口部から空間S2に成膜ガスを供給する。図2では、第2ガス供給管82から空間S2に向けて成膜ガスを供給する様子を矢印で示している。
【0047】
原料ガスは、形成するガスバリア膜の材質に応じて適宜選択して使用することができる。原料ガスとしては、例えばケイ素を含有する有機ケイ素化合物を用いることができる。このような有機ケイ素化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ジメチルジシラザン、トリメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。これらの有機ケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱い性や得られるガスバリア膜のガスバリア性等の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが好ましい。また、これらの有機ケイ素化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。さらに、原料ガスとして、上述の有機ケイ素化合物の他にモノシランを含有させ、形成するガスバリア膜のケイ素源として使用することとしてもよい。
【0048】
成膜ガスとしては、原料ガスの他に反応ガスを用いてもよい。このような反応ガスとしては、原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物となるガスを適宜選択して使用することができる。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。また、窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができ、例えば酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組み合わせて使用することができる。
【0049】
成膜ガスとしては、原料ガスを真空チャンバー内に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを用いてもよい。さらに、成膜ガスとしては、放電プラズマを発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いてもよい。このようなキャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス;水素を用いることができる。
【0050】
真空チャンバー内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができるが、空間S1,S2の圧力が0.1Pa〜50Paであることが好ましい。気相反応を抑制する目的により、プラズマCVDを低圧プラズマCVD法とする場合、通常0.1Pa〜10Paである。また、プラズマ発生装置の電極ドラムの電力は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.1kW〜10kWであることが好ましい。
【0051】
基材100の搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.1m/min〜100m/minであることが好ましく、0.5m/min〜20m/minであることがより好ましい。ライン速度が下限未満では、基材100に熱に起因する皺の発生しやすくなる傾向にあり、他方、ライン速度が上限を超えると、形成されるガスバリア膜の厚みが薄くなる傾向にある。
【0052】
送り出しロール11から送り出された基材100は、円筒形の搬送ロール21に巻き掛けられて第1成膜ロール31に搬送される。搬送ロール21は、基材100の成膜面100aの裏面100b(一方の面)に接するように配置されている。第1成膜ロール31上で基材100の成膜面100aに第1薄膜層が成膜された基材100は、円筒形の搬送ロール22に巻き掛けられて第2成膜ロール32に搬送される。搬送ロール22は基材100の成膜面100bの裏面100a(他方の面)に接するように配置されている。第2成膜ロール32上で基材100の成膜面100bに第2薄膜層が成膜された基材100は、当該第2成膜ロール32に巻き掛けられて第3成膜ロール33に搬送される。第3成膜ロール33上で基材100の成膜面100aに第3薄膜層が成膜された基材100は、円筒形の搬送ロール23に巻き掛けられて第4成膜ロール34に搬送される。第4成膜ロール34上で基材100の成膜面100bに第4薄膜層が成膜された基材100は、円筒形の搬送ロール24に巻き掛けられて巻き取りロール12に搬送される。
【0053】
以上のようなプラズマCVD成膜装置1においては、以下のようにして基材100に対し成膜が行われる。
【0054】
まず、真空チャンバー90内を減圧環境とし、第1成膜ロール31、第3成膜ロール33に印加して空間S1に電界を生じさせるとともに、第2成膜ロール32、第4成膜ロール34に印加して空間S2に電界を生じさせる。これにより、第1成膜ロール31、第3成膜ロール33から、および第2成膜ロール32、第4成膜ロール34からは真空チャンバー90内に電子が放出される。
【0055】
この際、磁場形成装置61,63および磁場形成装置62,63では上述した無終端のトンネル状の磁場を形成しているため、成膜ガスを導入することにより、該磁場と空間S1,S2に放出される電子とによって、該トンネルに沿ったドーナツ状の成膜ガスの放電プラズマが形成される。この放電プラズマは、数Pa近傍の低圧力で発生可能であるため、真空チャンバー90内の温度を室温近傍とすることが可能になる。
【0056】
一方、磁場形成装置61,63および磁場形成装置62,64のそれぞれが形成する磁場に高密度で捉えられている電子の温度は高いので、当該電子と成膜ガスとの衝突により生じる放電プラズマが生じる。すなわち、空間S1,S2のそれぞれに形成される磁場と電場により電子が空間S1,S2のそれぞれに閉じ込められることにより、空間S1,S2のそれぞれに高密度の放電プラズマが形成される。より詳しくは、無終端のトンネル状の磁場と重なる空間においては、高密度の(高強度の)放電プラズマが形成され、無終端のトンネル状の磁場とは重ならない空間においては低密度の(低強度の)放電プラズマが形成される。これら放電プラズマの強度は、連続的に変化するものである。
【0057】
放電プラズマが生じると、ラジカルやイオンを多く生成してプラズマ反応が進行し、成膜ガスに含まれる原料ガスと反応ガスとの反応が生じる。例えば、原料ガスである有機ケイ素化合物と、反応ガスである酸素とが反応し、有機ケイ素化合物の酸化反応が生じる。ここで、高強度の放電プラズマが形成されている空間では、酸化反応に与えられるエネルギーが多いため反応が進行しやすく、主として有機ケイ素化合物の完全酸化反応を生じさせることができる。一方、低強度の放電プラズマが形成されている空間では、酸化反応に与えられるエネルギーが少ないため反応が進行しにくく、主として有機ケイ素化合物の不完全酸化反応を生じさせることができる。
【0058】
なお、本明細書において「有機ケイ素化合物の完全酸化反応」とは、有機ケイ素化合物と酸素との反応が進行し、有機ケイ素化合物が二酸化ケイ素(SiO)と水と二酸化炭素にまで酸化分解されることを指す。「有機ケイ素化合物の不完全酸化反応」とは、有機ケイ素化合物が完全酸化反応をせず、SiOではなく構造中に炭素を含むSiO(0<x<2,0<y<2)が生じる反応となることを指す。
【0059】
上述のように放電プラズマは、第1成膜ロール31、第3成膜ロール33および第2成膜ロール32、第4成膜ロール34のそれぞれの表面にドーナツ状に形成されるため、第1成膜ロール31、第3成膜ロール33および第2成膜ロール32、第4成膜ロール34のそれぞれの表面を搬送される基材100は、高強度の放電プラズマが形成されている空間と、低強度の放電プラズマが形成されている空間と、を交互に通過することとなる。そのため、第1成膜ロール31、第3成膜ロール33の表面を通過する基材100の成膜面100aには、完全酸化反応によって生じるSiOと不完全酸化反応によって生じるSiOとが、交互に形成される。一方、第2成膜ロール32、第4成膜ロール34の表面を通過する基材100の成膜面100bについても、完全酸化反応によって生じるSiOと不完全酸化反応によって生じるSiOとが、交互に形成される。
【0060】
これらに加えて、高温の2次電子が磁場の作用で基材100に流れ込むことが防止される。よって、基材100の温度を低く抑えたままで高い電力の投入が可能となり、高速成膜が達成される。
【0061】
図3は、第1成膜ロール31にてガスバリア膜が形成された後の基材100を示す模式図である。図3では、完全酸化反応によって形成されるSiOを多く含む第1層Ha、不完全酸化反応によって生じるSiOを多く含む第2層Hb、で示し、薄膜層Hを第1層Haと第2層Hbとが交互に積層された3層構造であることとして示している。
【0062】
ただし、図3は膜組成に分布があることを模式的に示したものであり、実際には第1層Haと第2層Hbとの間は明確に界面が生じているものではなく、組成が連続的に変化している。
【0063】
すなわち、本実施形態で形成される薄膜層Hは、珪素、酸素及び炭素を含有する薄膜層Hが、該層の膜厚方向における該層の表面からの距離と、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の量の比率(珪素の原子比)、酸素原子の量の比率(酸素の原子比)及び炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係をそれぞれ示す珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、下記条件(i)〜(iii)の全てを満たしている。
【0064】
(i)まず、薄膜層Hが、珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上(より好ましくは95%以上、特に好ましくは100%)の領域において下記式(1):
(酸素の原子比)>(珪素の原子比)>(炭素の原子比)・・・(1)
で表される条件を満たすこと、或いは、珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上(より好ましくは95%以上、特に好ましくは100%)の領域において下記式(2):
(炭素の原子比)>(珪素の原子比)>(酸素の原子比)・・・(2)
で表される条件を満たしている。
【0065】
薄膜層Hにおける珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、(i)の条件を満たす場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が十分なものとなる。
【0066】
(ii)次に、このような薄膜層Hは、炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有するものである。
【0067】
このような薄膜層Hにおいては、炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。炭素分布曲線が極値を有さない場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。また、このように少なくとも3つの極値を有する場合においては、炭素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0068】
なお、本実施形態において極値とは、薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離に対する元素の原子比の極大値又は極小値のことをいう。また、本明細書において極大値とは、薄膜層Hの表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比の値が増加から減少に変わる点であって且つその点の元素の原子比の値よりも、該点から薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上減少する点のことをいう。さらに、本実施形態において極小値とは、薄膜層Hの表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比の値が減少から増加に変わる点であり、且つその点の元素の原子比の値よりも、該点から薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上増加する点のことをいう。
【0069】
(iii)更に、このような薄膜層Hは、炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上である。
【0070】
このような薄膜層Hにおいては、炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。絶対値が5at%未満では、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。
【0071】
本実施形態においては、薄膜層Hの酸素分布曲線が少なくとも1つの極値を有することが好ましく、少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。酸素分布曲線が極値を有さない場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が低下する傾向にある。また、このように少なくとも3つの極値を有する場合においては、酸素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0072】
また、本実施形態においては、薄膜層Hの酸素分布曲線における酸素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であることが好ましく、6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。絶対値が下限未満では、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が低下する傾向にある。
【0073】
本実施形態においては、薄膜層Hの珪素分布曲線における珪素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。絶対値が上限を超えると、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
【0074】
また、本実施形態においては、薄膜層Hの膜厚方向における該層の表面からの距離と珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子及び炭素原子の合計量の比率(酸素及び炭素の原子比)との関係を示す酸素炭素分布曲線において、酸素炭素分布曲線における酸素及び炭素の原子比の合計の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。絶対値が上限を超えると、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
【0075】
ここで、珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により作成することができる。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の原子比(単位:at%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線においては、エッチング時間は膜厚方向における薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離に概ね相関することから、「薄膜層Hの膜厚方向における薄膜層Hの表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出される薄膜層Hの表面からの距離を採用することができる。また、このようなXPSデプスプロファイル測定に際して採用するスパッタ法としては、エッチングイオン種としてアルゴン(Ar)を用いた希ガスイオンスパッタ法を採用し、そのエッチング速度(エッチングレート)を0.05nm/sec(SiO熱酸化膜換算値)とすることが好ましい。
【0076】
また、本実施形態においては、膜面全体において均一で且つ優れたガスバリア性を有する薄膜層Hを形成するという観点から、薄膜層Hが膜面方向(薄膜層Hの表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。本明細書において、薄膜層Hが膜面方向において実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定により薄膜層Hの膜面の任意の2箇所の測定箇所について酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる炭素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは5at%以内の差であることをいう。
【0077】
さらに、本実施形態においては、炭素分布曲線は実質的に連続であることが好ましい。
本明細書において、炭素分布曲線が実質的に連続とは、炭素分布曲線における炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、エッチング速度とエッチング時間とから算出される薄膜層Hの膜厚方向における該層の表面からの距離(x、単位:nm)と、炭素の原子比(C、単位:at%)との関係において、下記数式(F1):
|dC/dx|≦ 1 ・・・(F1)
で表される条件を満たすことをいう。
【0078】
本実施形態の方法により製造されるガスバリア性積層フィルムは、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層Hを少なくとも1層備えるが、そのような条件を満たす層を2層以上を備えていてもよい。さらに、このような薄膜層Hを2層以上備える場合には、複数の薄膜層Hの材質は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、このような薄膜層Hを2層以上備える場合には、このような薄膜層Hは基材の一方の表面上に形成されていてもよく、基材の両方の表面上に形成されていてもよい。また、このような複数の薄膜層Hとしては、ガスバリア性を必ずしも有しない薄膜層Hを含んでいてもよい。
【0079】
また、珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上の領域において式(1)で表される条件を満たす場合には、薄膜層H中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の含有量の原子比率は、25at%〜45at%であることが好ましく、30at%〜40at%であることがより好ましい。また、薄膜層H中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、33at%〜67at%であることが好ましく、45at%〜67at%であることがより好ましい。さらに、薄膜層H中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、3at%〜33at%であることが好ましく、3at%〜25at%であることがより好ましい。
【0080】
さらに、珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上の領域において式(2)で表される条件を満たす場合には、薄膜層H中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の含有量の原子比率は、25at%〜45at%であることが好ましく、30at%〜40at%であることがより好ましい。また、薄膜層H中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、1at%〜33at%であることが好ましく、10at%〜27at%であることがより好ましい。さらに、薄膜層H中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、33at%〜66at%であることが好ましく、40at%〜57at%であることがより好ましい。
【0081】
また、薄膜層Hの厚みは、5nm〜3000nmの範囲であることが好ましく、10nm〜2000nmの範囲であることより好ましく、100nm〜1000nmの範囲であることが特に好ましい。薄膜層Hの厚みが下限未満では、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が劣る傾向にあり、他方、上限を超えると、屈曲によりガスバリア性が低下しやすくなる傾向にある。
【0082】
また、本実施形態のガスバリア性積層フィルムが複数の薄膜層Hを備える場合には、それらの薄膜層Hの厚みの合計値は、通常10nm〜10000nmの範囲であり、10nm〜5000nmの範囲であることが好ましく、100nm〜3000nmの範囲であることより好ましく、200nm〜2000nmの範囲であることが特に好ましい。薄膜層Hの厚みの合計値が下限未満では、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が劣る傾向にあり、他方、上限を超えると、屈曲によりガスバリア性が低下しやすくなる傾向にある。
【0083】
このような薄膜層Hを形成するには、成膜ガスに含まれる原料ガスと反応ガスの比率としては、原料ガスと反応ガスとを完全に反応させるために理論上必要となる反応ガスの量の比率よりも、反応ガスの比率を過剰にし過ぎないことが好ましい。反応ガスの比率を過剰にし過ぎてしまうと、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層Hが得られなくなってしまう。
【0084】
以下、成膜ガスとして、原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO:(CHSiO:)と反応ガスとしての酸素(O)を含有するものを用い、ケイ素−酸素系の薄膜層を製造する場合を例に挙げて、成膜ガス中の原料ガスと反応ガスの好適な比率等についてより詳細に説明する。
【0085】
原料ガスとしてのHMDSOと、反応ガスとしての酸素とを含有する成膜ガスをプラズマCVDにより反応させてケイ素−酸素系の薄膜層を作製する場合、その成膜ガスにより下記反応式(1)に記載のような反応が起こり、二酸化ケイ素が製造される。
[化1]
(CHSiO+12O→6CO+9HO+2SiO …(1)
【0086】
このような反応においては、HMDSO1モルを完全酸化するのに必要な酸素量は12モルである。そのため、成膜ガス中に、HMDSO1モルに対して酸素を12モル以上含有させて完全に反応させた場合には、均一な二酸化ケイ素膜が形成されてしまうため、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層Hを形成することができなくなってしまう。そのため、本実施形態の薄膜層Hを形成する際には、上記(1)式の反応が完全に進行してしまわないように、HMDSO1モルに対して酸素量を化学量論比の12モルより少なくする必要がある。
【0087】
なお、プラズマCVD成膜装置1の真空チャンバー90内の反応では、原料のHMDSOと反応ガスの酸素は、ガス供給部から成膜領域へ供給されて成膜されるので、反応ガスの酸素のモル量(流量)が原料のHMDSOのモル量(流量)の12倍のモル量(流量)であったとしても、現実には完全に反応を進行させることはできず、酸素の含有量を化学量論比に比して大過剰に供給して初めて反応が完結すると考えられる(例えば、CVDにより完全酸化させて酸化ケイ素を得るために、酸素のモル量(流量)を原料のHMDSOのモル量(流量)の20倍以上程度とする場合もある)。そのため、原料のHMDSOのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)は、化学量論比である12倍量以下(より好ましくは、10倍以下)の量であることが好ましい。
【0088】
このような比でHMDSO及び酸素を含有させることにより、完全に酸化されなかったHMDSO中の炭素原子や水素原子が薄膜層H中に取り込まれ、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層Hを形成することが可能となって、得られるガスバリア性積層フィルムに優れたバリア性及び耐屈曲性を発揮させることが可能となる。
【0089】
なお、成膜ガス中のHMDSOのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)が少なすぎると、酸化されなかった炭素原子や水素原子が薄膜層H中に過剰に取り込まれるため、この場合はガスバリア膜の透明性が低下する。このようなガスバリア性積層フィルムは有機ELデバイスや有機薄膜太陽電池などのような透明性を必要とするデバイス用のフレキシブル基板には利用できなくなってしまう。このような観点から、成膜ガス中のHMDSOのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)の下限は、HMDSOのモル量(流量)の0.1倍より多い量とすることが好ましく、0.5倍より多い量とすることがより好ましい。
【0090】
このように、有機ケイ素化合物が完全酸化するか否かは、成膜ガス中の原料ガスと反応ガスとの混合比の他に、第1成膜ロール31、第3成膜ロール33に印加する印加電圧によっても制御することができる。
【0091】
このような放電プラズマを用いたプラズマCVD法により、第1成膜ロール31、第3成膜ロール33に巻き掛けた基材100の表面に対してガスバリア膜の形成を行うことができる。また、搬送ロール21,22,23,24や巻き取りロール12により基材100を連続的に搬送しながらガスバリア膜の形成を行うことで、ガスバリア膜の連続的な成膜プロセスを実現することが可能となる。
【0092】
図4は、プラズマCVD成膜装置1で製造される積層フィルムの工程図である。図4では、基材100の第1成膜ロール31に接しない面(成膜面100a)に成膜されるガスバリア膜を第1薄膜層H1、基材100の第2成膜ロール32に接しない面(成膜面100b)に成膜されるガスバリア膜を第2薄膜層H2、基材100の第3成膜ロール33に接しない面(成膜面100a)に成膜されるガスバリア膜を第3薄膜層H3、基材100の第4成膜ロール34に接しない面(成膜面100b)に成膜されるガスバリア膜を第4薄膜層H4、で示している。なお、各薄膜層H1〜H4は、第1層Haと第2層Hbとが交互に積層された3層構造であるが、図4においては、便宜上、単層構造で図示している。
【0093】
図4(a)に示すように、基材100は両面に成膜面100a、成膜面100bを有している。基材100は、送り出しロール11から送り出された後、搬送ロール21を経由して第1成膜ロール31に搬送される(図2参照)。
【0094】
第1成膜ロール31に搬送された基材100は、第1成膜ロール31により基材100の成膜面100aの裏面100bで巻き掛けられる。すると、第1の成膜空間S1において、図4(b)に示すように、基材100の第1成膜ロール31に接しない面(成膜面100a)に第1薄膜層H1が成膜される。
【0095】
成膜面100aに第1薄膜層H1が成膜された基材100は、第1成膜ロール31から送り出された後、搬送ロール22を経由して第2成膜ロール32に搬送される(図2参照)。
【0096】
第2成膜ロール32に搬送された基材100は、第2成膜ロール32により基材100の成膜面100bの裏面100aで巻き掛けられる。すると、第2の成膜空間S2において、図4(c)に示すように、基材100の第2成膜ロール32に接しない面(成膜面100b)に第2薄膜層H2が成膜される。
【0097】
成膜面100bに第2薄膜層H2が成膜された基材100は、第2成膜ロール32から送り出された後、第3成膜ロール33に搬送される(図2参照)。
【0098】
第3成膜ロール33に搬送された基材100は、第3成膜ロール33により基材100の成膜面100aの裏面100b(第2薄膜層H2が形成された面)で巻き掛けられる。すると、第1の成膜空間S1において、図4(d)に示すように、基材100の第3成膜ロール33に接しない面(成膜面100a)に第3薄膜層H3が成膜される。
【0099】
成膜面100a(第1薄膜層H1が形成された面)に第3薄膜層H3が成膜された基材100は、第3成膜ロール33から送り出された後、搬送ロール23を経由して第4成膜ロール34に搬送される(図2参照)。
【0100】
第4成膜ロール34に搬送された基材100は、第4成膜ロール34により基材100の成膜面100bの裏面100a(第3薄膜層H3が形成された面)で巻き掛けられる。すると、第2の成膜空間S2において、図4(e)に示すように、基材100の第4成膜ロール34に接しない面(成膜面100b)に第4薄膜層H4が成膜される。
【0101】
成膜面100b(第2薄膜層H2が形成された面)に第4薄膜層H4が成膜された基材100は、第4成膜ロール34から送り出された後、搬送ロール24を経由して巻き取りロール12に搬送される(図2参照)。
【0102】
以上の工程により、巻き出しロール11から巻き取りロール12までの1回通過の成膜で、基材100の両面に薄膜層が成膜されたガスバリア性積層フィルムが製造される。
【0103】
本実施形態のプラズマCVD成膜装置1では、第1成膜ロール31で基材100の一方の成膜面100aに第1薄膜層を成膜後、下流側に配置されている第2成膜ロール32で基材100の他方の成膜面100bに第2薄膜層が成膜される。さらに、第3成膜ロール33で基材100の一方の成膜面100aに第3薄膜層を成膜後、下流側に配置されている第4成膜ロール34で基材100の他方の成膜面100bに第4薄膜層が成膜される。そのため、巻き出しロール11から巻き取りロール12までの1回通過の成膜で、薄膜層を基材100の両面に成膜することができる。よって、プラズマCVD成膜装置1で製造されるガスバリア性積層フィルムにおいて反りが生じることを抑制することができる。したがって、薄膜層を基材100の両面に成膜することで効率良く良好なガスバリア膜の成膜を実現することが可能となる。
【0104】
また、以上のような成膜方法によれば、基材100の一方の成膜面100aへの第1薄膜層の成膜と、基材100の他方の成膜面100bへの第2薄膜層の成膜とが交互に繰り返し行われる。そのため、搬送中の基材100に薄膜層が成膜されていく過程であっても製造中のガスバリア性積層フィルムにおいて反りが生じることを抑制することができる。よって、基材100上への薄膜層の積層回数を増やしてガスバリア性の向上を図ることが容易となる。
【0105】
なお、本実施形態では、薄膜層として基材にガスバリア性を付与するガスバリア膜を形成することとしたが、これに限らない。薄膜層の形成材料を選択することにより、種々の機能を有する薄膜層を安定して形成することが可能である。
【0106】
[第1実施形態の第1変形例]
図5は、図2に対応した、第1実施形態のプラズマCVD成膜装置の第1変形例を示す正断面図である。本変形例のプラズマCVD成膜装置1Aは、第1実施形態のプラズマCVD成膜装置1と一部共通しているため、本変形例において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0107】
図5に示すように、プラズマCVD成膜装置1Aは、複数の成膜ロール(第1成膜ロール31、第2成膜ロール32A、第3成膜ロール33、第4成膜ロール34A)の直径が基材100の搬送方向の下流側に向かうに従って大きくなっている。図5では、第1成膜ロール31の直径をD1、第2成膜ロール32Aの直径をD2、第3成膜ロール33の直径をD3、第4成膜ロール34Aの直径をD4で示している。
【0108】
本変形例のプラズマCVD成膜装置1Aにおいては、第1成膜ロール31の直径D1よりも第2成膜ロール32Aの直径D2の方が大きく(D1<D2)、第3成膜ロール33の直径D3よりも第4成膜ロール34Aの直径D4の方が大きくなっている(D3<D4)。なお、第1成膜ロール31の直径D1と第3成膜ロール33の直径D3とは概ね等しく(D1≒D3)、第2成膜ロール32Aの直径D2と第4成膜ロール34Aの直径D4とは概ね等しくなっている(D2≒D4)。ここで、「概ね等しい」とは各成膜ロールを作製する際の製造誤差を含む概念であり、例えば、第1成膜ロール31の直径D1と第3成膜ロール33の直径D3との比が0.99/1以上1.01/1以下の範囲であることが好ましい。
【0109】
このように基材100の搬送経路の上流側に位置する成膜ロールの直径よりも基材100の搬送経路の下流側に位置する成膜ロールの直径を大きくすることにより、基材100の搬送経路の下流側においては基材100の搬送経路の上流側に比べて成膜ロールと基材100との接触面積が大きくなる。このため、基材100の上に薄膜層を連続的に形成する過程で基材100に生じる熱を放散し、基材100を搬送させつつ冷却することができる。これにより、基材100の搬送険路の上流側と下流側とで基材100に温度差が生じることを抑制することができる。よって、基材100の搬送過程において薄膜層の成膜条件(温度条件)を維持することができ、良好な成膜を実現することができる。
【0110】
[第2実施形態]
図6は、図2に対応した、第2実施形態のプラズマCVD成膜装置2を示す正断面図である。本実施形態のプラズマCVD成膜装置2は、第1実施形態のプラズマCVD成膜装置1と一部共通しているため、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0111】
図6に示すように、プラズマCVD成膜装置2は、送り出しロール11と、搬送ロール21,22,23,24,25,26,27,28と、第1成膜ロール31、第2成膜ロール32、第3成膜ロール33、第4成膜ロール34と、第1ガス供給管81、第2ガス供給管82と、第1プラズマ発生用電源51、第2プラズマ発生用電源52と、第1成膜ロール31の内部に設置された磁場形成装置(第1磁場形成手段)61と、第2成膜ロール32の内部に設置された磁場形成装置(第2磁場形成手段)62と、第3成膜ロール33の内部に設置された磁場形成装置(第3磁場形成手段)63と、第4成膜ロール34の内部に設置された磁場形成装置(第4磁場形成手段)64と、巻き取りロール12と、を備えており、これらが真空チャンバー90の内部に配置されている。また、真空チャンバー90には真空ポンプ91が接続されており、かかる真空ポンプ91により真空チャンバー90内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
【0112】
本実施形態のプラズマCVD成膜装置2においては、第3成膜ロール33は第1成膜ロール31と第2成膜ロール32との間の基材100の搬送経路に設けられ、第4成膜ロール34は第2成膜ロール32に対して基材100の搬送経路の下流側に設けられ。つまり、複数の成膜ロールは、基材100の上流側から下流側にかけて、第1成膜ロール31、第3成膜ロール33、第2成膜ロール32、第4成膜ロール34の順に配置されている。
【0113】
図7は、プラズマCVD成膜装置2で製造される積層フィルムの工程図である。図7では、基材100の第1成膜ロール31に接しない面(成膜面100a)に成膜されるガスバリア膜を第1薄膜層H1、基材100の第3成膜ロール33に接しない面(成膜面100a)に成膜されるガスバリア膜を第3薄膜層H3、基材100の第2成膜ロール32に接しない面(成膜面100b)に成膜されるガスバリア膜を第2薄膜層H2、基材100の第4成膜ロール34に接しない面(成膜面100b)に成膜されるガスバリア膜を第4薄膜層H4、で示している。なお、各薄膜層H1〜H4は、第1層Haと第2層Hbとが交互に積層された3層構造であるが、図7においては、便宜上、単層構造で図示している。
【0114】
図7(a)に示すように、基材100は両面に成膜面100a、成膜面100bを有している。基材100は、送り出しロール11から送り出された後、搬送ロール21を経由して第1成膜ロール31に搬送される(図6参照)。
【0115】
第1成膜ロール31に搬送された基材100は、第1成膜ロール31により基材100の成膜面100aの裏面100bで巻き掛けられる。すると、第1の成膜空間S1において、図7(b)に示すように、基材100の第1成膜ロール31に接しない面(成膜面100a)に第1薄膜層H1が成膜される。
【0116】
成膜面100aに第1薄膜層H1が成膜された基材100は、第1成膜ロール31から送り出された後、搬送ロール22、搬送ロール25を経由して第3成膜ロール33に搬送される(図6参照)。
【0117】
第3成膜ロール33に搬送された基材100は、第3成膜ロール33により基材100の成膜面100aの裏面100bで巻き掛けられる。すると、第1の成膜空間S1において、図7(c)に示すように、基材100の第3成膜ロール33に接しない面(成膜面100a)に第3薄膜層H3が成膜される。
【0118】
成膜面100a(第1薄膜層H1が形成された面)に第3薄膜層H3が成膜された基材100は、第3成膜ロール33から送り出された後、搬送ロール26、搬送ロール27を経由して第2成膜ロール32に搬送される(図6参照)。
【0119】
第2成膜ロール32に搬送された基材100は、第2成膜ロール32により基材100の成膜面100bの裏面100aで巻き掛けられる。すると、第2の成膜空間S2において、図7(d)に示すように、基材100の第2成膜ロール32に接しない面(成膜面100b)に第2薄膜層H2が成膜される。
【0120】
成膜面100bに第2薄膜層H2が成膜された基材100は、第2成膜ロール32から送り出された後、搬送ロール28、搬送ロール23を経由して第4成膜ロール34に搬送される(図6参照)。
【0121】
第4成膜ロール34に搬送された基材100は、第4成膜ロール34により基材100の成膜面100bの裏面100a(第1薄膜層H1および3薄膜層H3が形成された面)で巻き掛けられる。すると、第2の成膜空間S2において、図7(e)に示すように、基材100の第4成膜ロール34に接しない面(成膜面100b)に第4薄膜層H4が成膜される。
【0122】
成膜面100b(第2薄膜層H2が形成された面)に第4薄膜層H4が成膜された基材100は、第4成膜ロール34から送り出された後、搬送ロール24を経由して巻き取りロール12に搬送される(図6参照)。
【0123】
以上の工程により、巻き出しロール11から巻き取りロール12までの1回通過の成膜で、基材100の両面に薄膜層が成膜されたガスバリア性積層フィルムが製造される。
【0124】
本実施形態のプラズマCVD成膜装置2においても、巻き出しロール11から巻き取りロール12までの1回通過の成膜で、薄膜層を基材100の両面に成膜することができる。よって、プラズマCVD成膜装置2で製造されるガスバリア性積層フィルムにおいて反りが生じることを抑制することができる。したがって、効率良く良好なガスバリア膜の成膜を実現することが可能となる。
【0125】
[第2実施形態の第1変形例]
図8は、図6に対応した、第2実施形態のプラズマCVD成膜装置の第1変形例を示す正断面図である。本変形例のプラズマCVD成膜装置2Aは、第2実施形態のプラズマCVD成膜装置2と一部共通しているため、本変形例において第2実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0126】
図8に示すように、本変形例のプラズマCVD成膜装置2Aにおいては、複数の成膜ロール(第1成膜ロール31、第3成膜ロール33、第2成膜ロール32A、第4成膜ロール34A)の直径が基材100の搬送方向の下流側に向かうに従って大きくなっている。図8では、第1成膜ロール31の直径をD1、第3成膜ロール33の直径をD3、第2成膜ロール32Aの直径をD2、第4成膜ロール34Aの直径をD4で示している。
【0127】
本変形例のプラズマCVD成膜装置2Aにおいては、第1成膜ロール31の直径D1と第3成膜ロール33の直径D3とは概ね等しくなっており(D1≒D3)、第3成膜ロール33の直径D3よりも第2成膜ロール32Aの直径D2の方が大きくなっている(D3<D2)。なお、第2成膜ロール32Aの直径D2と第4成膜ロール34Aの直径D4とは概ね等しくなっている(D2≒D4)。ここで、「概ね等しい」とは各成膜ロールを作製する際の製造誤差を含む概念であり、例えば、第1成膜ロール31の直径D1と第3成膜ロール33の直径D3との比が0.99/1以上1.01/1以下の範囲であることが好ましい。
【0128】
このように基材100の搬送経路の上流側に位置する成膜ロールの直径よりも基材100の搬送経路の下流側に位置する成膜ロールの直径を大きくすることにより、基材100の搬送経路の下流側においては基材100の搬送経路の上流側に比べて成膜ロールと基材100との接触面積が大きくなる。このため、基材100の上に薄膜層を連続的に形成する過程で基材100に生じる熱を放散し、基材100を搬送させつつ冷却することができる。これにより、基材100の搬送険路の上流側と下流側とで基材100に温度差が生じることを抑制することができる。よって、基材100の搬送過程において薄膜層の成膜条件(温度条件)を維持することができ、良好な成膜を実現することができる。
【0129】
[第3実施形態]
図9は、本実施形態のプラズマCVD成膜装置3の一例を示す斜視図である。図10は、本実施形態のプラズマCVD成膜装置3の一例を示す平断面図である。なお、図9においては、便宜上、第1プラズマ発生用電源151、第2プラズマ発生用電源152、第1ガス供給管181,182、第2ガス供給管183,184、真空チャンバー190、及び真空ポンプ191の図示を省略している。
本実施形態のプラズマCVD成膜装置3は、第1実施形態のプラズマCVD成膜装置1と一部共通しているため、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0130】
図9及び図10に示すように、プラズマCVD成膜装置3は、送り出しロール111と、搬送ロール121,122,123,124と、第1成膜ロール131、第2成膜ロール132、第3成膜ロール133、第4成膜ロール134と、第1ガス供給管181,182、第2ガス供給管183,184と、第1プラズマ発生用電源151、第2プラズマ発生用電源152と、第1成膜ロール131の内部に設置された磁場形成装置(第1磁場形成手段)161と、第2成膜ロール132の内部に設置された磁場形成装置(第2磁場形成手段)162と、第3成膜ロール133の内部に設置された磁場形成装置(第3磁場形成手段)163と、第4成膜ロール134の内部に設置された磁場形成装置(第4磁場形成手段)164と、巻き取りロール112と、を備えており、これらが真空チャンバー190の内部に配置されている。また、真空チャンバー190には真空ポンプ191,192が接続されており、かかる真空ポンプ191,192により真空チャンバー190内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
【0131】
本実施形態のプラズマCVD成膜装置3においては、第1成膜ロール131、第2成膜ロール132、第3成膜ロール133、及び第4成膜ロール134はそれぞれの回転軸が鉛直方向(Z軸方向)と略平行になるように配置されている。また、送り出しロール111、搬送ロール121,122,123,124、及び巻き取りロール112についてもそれぞれの回転軸が鉛直方向(Z軸方向)と略平行になるように配置されている。
【0132】
ここで、「略平行」とは各搬送ロールを配置する際の誤差を含む概念であり、例えば、各搬送ロールの回転軸と鉛直方向となるZ軸とのなす角度が±5度以下の範囲の角度(各搬送ロールの回転軸とXY平面とのなす角度が85度以上95度以下の範囲の角度)であることが好ましい。
【0133】
図10に示すように、第1ガス供給管181,182は、第1成膜ロール131と第3成膜ロール133との間の空間S1を挟んで、対向配置されている。第1ガス供給管181,182は、第1成膜ロール131及び第3成膜ロール133の延在方向と同一方向に延在する管状の形状を有しており、複数箇所に設けられた開口部から空間S1に成膜ガスを供給する。図10では、第1ガス供給管181,182から空間S1に向けて成膜ガスを供給する様子を矢印で示している。
【0134】
一方、第2ガス供給管183,184は、第2成膜ロール132と第4成膜ロール134との間の空間S2を挟んで、対向配置されている。第2ガス供給管183,184は、第2成膜ロール132及び第4成膜ロール134の延在方向と同一方向に延在する管状の形状を有しており、複数箇所に設けられた開口部から空間S2に成膜ガスを供給する。図10では、第2ガス供給管183,184から空間S2に向けて成膜ガスを供給する様子を矢印で示している。
【0135】
このプラズマCVD成膜装置3を用いると、プラズマ発生用電源151を制御することにより、第1成膜ロール131と第3成膜ロール133との間の空間に、第1ガス供給管181,182から供給される成膜ガスの放電プラズマを発生させることができ、発生する放電プラズマを用いてプラズマCVD成膜を行うことができる。また、プラズマ発生用電源152を制御することにより、第2成膜ロール132と第4成膜ロール134との間の空間に、第2ガス供給管183,184から供給される成膜ガスの放電プラズマを発生させることができ、発生する放電プラズマを用いてプラズマCVD成膜を行うことができる。
【0136】
本実施形態のプラズマCVD成膜装置3によれば、各成膜ロールの回転軸が鉛直方向(Z軸方向)と略平行になるように配置されているので、各成膜空間S1、S2で生じたパーティクル(ガスバリア膜の形成材料により生成された粒子)が飛散して意図しない成膜面に付着することを抑制することができる。よって、パーティクルの付着に起因してガスバリア性積層フィルムに欠陥が生じることを抑制することができる。これに対して、各成膜ロールの回転軸が鉛直方向(Z軸方向)と略垂直になるように配置されていると、例えば搬送経路の上方の成膜空間で生じたパーティクルが、重力の影響などにより、搬送経路の下方を通る基材100に付着してしまうことがある。
【0137】
[第3実施形態の第1変形例]
図11は、図9に対応した、第3実施形態のプラズマCVD成膜装置の第1変形例を示す斜視図である。本変形例のプラズマCVD成膜装置3Aは、第3実施形態のプラズマCVD成膜装置3と一部共通しているため、本変形例において第3実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0138】
図11に示すように、本変形例のプラズマCVD成膜装置3Aにおいては、第1ガス供給管281が、第1成膜ロール131と第3成膜ロール133との間の空間S1の上方に配置されている。第1ガス供給管281は、複数箇所に設けられた開口部から空間S1に成膜ガスを鉛直方向下向き(−Z軸方向)に供給する。図11では、第1ガス供給管281から空間S1に向けて成膜ガスを供給する様子を矢印で示している。
【0139】
一方、第2ガス供給管282が、第2成膜ロール132と第4成膜ロール134との間の空間S2の上方に配置されている。第2ガス供給管282は、複数箇所に設けられた開口部から空間S2に成膜ガスを鉛直方向下向き(−Z軸方向)に供給する。図11では、第2ガス供給管282から空間S2に向けて成膜ガスを供給する様子を矢印で示している。
【0140】
このプラズマCVD成膜装置3Aを用いると、プラズマ発生用電源151を制御することにより、第1成膜ロール131と第3成膜ロール133との間の空間に、第1ガス供給管281から供給される成膜ガスの放電プラズマを発生させることができ、発生する放電プラズマを用いてプラズマCVD成膜を行うことができる。また、プラズマ発生用電源152を制御することにより、第2成膜ロール132と第4成膜ロール134との間の空間に、第2ガス供給管282から供給される成膜ガスの放電プラズマを発生させることができ、発生する放電プラズマを用いてプラズマCVD成膜を行うことができる。
【0141】
本変形例のプラズマCVD成膜装置3Aによれば、各ガス供給管が成膜ガスを供給する向きが鉛直方向下向き(−Z軸方向)であるので、重力方向と一致する。そのため、各成膜空間S1、S2で生じたパーティクル(ガスバリア膜の形成材料により生成された粒子)が飛散して意図しない成膜面に付着することを抑制することができる。よって、パーティクルの付着に起因してガスバリア性積層フィルムに欠陥が生じることを抑制することができる。これに対して、各ガス供給管が成膜ガスを供給する向きが重力方向と異なる向きであると、パーティクル(例えば基材100の所定の成膜面上に成膜されるべきガスバリア膜の形成材料により生成された粒子)が、重力の影響などにより、基材100の意図しない成膜面に付着してしまうことがある。
【0142】
[第3実施形態]
図12は、図2に対応した、第3実施形態のプラズマCVD成膜装置4の一例を示す正断面図である。
本実施形態のプラズマCVD成膜装置4は、第1実施形態のプラズマCVD成膜装置1と一部共通しているため、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0143】
図12に示すように、プラズマCVD成膜装置4は、送り出しロール11と、搬送ロール21,22,23,24と、第1成膜ロール31、第2成膜ロール32、第3成膜ロール33、第4成膜ロール34、第5成膜ロール35、第6成膜ロール36と、第1ガス供給管81、第2ガス供給管82、第3ガス供給管と、第1プラズマ発生用電源51、第2プラズマ発生用電源52、第3プラズマ発生用電源53と、第1成膜ロール31の内部に設置された磁場形成装置(第1磁場形成手段)61と、第2成膜ロール32の内部に設置された磁場形成装置(第2磁場形成手段)62と、第3成膜ロール33の内部に設置された磁場形成装置(第3磁場形成手段)63と、第4成膜ロール34の内部に設置された磁場形成装置(第4磁場形成手段)64と、第5成膜ロール35の内部に設置された磁場形成装置(第5磁場形成手段)65と、第6成膜ロール36の内部に設置された磁場形成装置(第6磁場形成手段)66と、巻き取りロール12と、を備えており、これらが真空チャンバー90の内部に配置されている。また、真空チャンバー90には真空ポンプ91が接続されており、かかる真空ポンプ91により真空チャンバー90内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
【0144】
プラズマCVD成膜装置4においては、第2成膜ロール32は第1成膜ロール31に対し基材100の搬送経路の下流側に設けられ、第3成膜ロール33は第2成膜ロール32に対して基材100の搬送経路の下流側に設けられ、第5成膜ロール35は第3成膜ロール33に対して基材100の搬送経路の下流側に設けられ、第4成膜ロール34は第5成膜ロール35に対して基材100の搬送経路の下流側に設けられ。第6成膜ロール36は第4成膜ロール34に対して基材100の搬送経路の下流側に設けられている。つまり、複数の成膜ロールは、基材100の上流側から下流側にかけて、第1成膜ロール31、第2成膜ロール32、第3成膜ロール33、第5成膜ロール35、第4成膜ロール34、第6成膜ロール36の順に配置されている。
【0145】
第5成膜ロール35と第6成膜ロール36とは、平行に延在して対向配置されている。各ロールは導電性材料で形成され、それぞれ回転しながら基材100を搬送する。
【0146】
第5成膜ロール35と第6成膜ロール36とは、相互に絶縁されていると共に、共通するプラズマ発生用電源53に接続されている。プラズマ発生用電源53から印加すると、第5成膜ロール35と第6成膜ロール36との間の空間S3に電場が形成される。
【0147】
第5成膜ロール35と第6成膜ロール36とは、内部に磁場形成装置65,66が格納されている。磁場形成装置65,66は、空間S3に磁場を形成する部材であり、第5成膜ロール35および第6成膜ロール36と共には回転しないようにして格納されている。
【0148】
磁場形成装置65,66は、それぞれ第5成膜ロール35、第6成膜ロール36の延在方向と同方向に延在する中心磁石65A,66Aと、中心磁石65A,66Aの周囲を囲みながら第5成膜ロール35、第6成膜ロール36の延在方向と同方向に延在して配置される円環状の外部磁石65B,65Bと、を有している。磁場形成装置65では、中心磁石65Aと外部磁石65Bとを結ぶ磁力線(磁界)が、無終端のトンネルを形成している。磁場形成装置66においても同様に、中心磁石66Aと外部磁石66Bとを結ぶ磁力線が、無終端のトンネルを形成している。
【0149】
この磁力線と、第5成膜ロール35と第6成膜ロール36との間に形成される電界と、が交叉するマグネトロン放電によって、成膜ガスの放電プラズマが生成される。すなわち、詳しくは後述するように、空間S3は、プラズマCVD成膜を行う成膜空間(第3の成膜空間)として用いられ、基材100において第5成膜ロール35および第6成膜ロール36に接しない面(成膜面100a)には、成膜ガスを形成材料とするガスバリア膜が形成される。
【0150】
空間S3の近傍には、空間S3にプラズマCVDの原料ガスなどの成膜ガスを供給する第3ガス供給管83が設けられている。第3ガス供給管83は、第5成膜ロール35及び第6成膜ロール36の延在方向と同一方向に延在する管状の形状を有しており、複数箇所に設けられた開口部から空間S3に成膜ガスを供給する。図12では、第3ガス供給管83から空間S3に向けて成膜ガスを供給する様子を矢印で示している。
【0151】
このプラズマCVD成膜装置4を用いると、プラズマ発生用電源51を制御することにより、第1成膜ロール31と第3成膜ロール33との間の空間S1に、第1ガス供給管81から供給される成膜ガスの放電プラズマを発生させることができ、発生する放電プラズマを用いてプラズマCVD成膜を行うことができる。また、プラズマ発生用電源52を制御することにより、第2成膜ロール32と第4成膜ロール34との間の空間S2に、第2ガス供給管82から供給される成膜ガスの放電プラズマを発生させることができ、発生する放電プラズマを用いてプラズマCVD成膜を行うことができる。さらに、プラズマ発生用電源53を制御することにより、第5成膜ロール35と第6成膜ロール36との間の空間S3に、第3ガス供給管83から供給される成膜ガスの放電プラズマを発生させることができ、発生する放電プラズマを用いてプラズマCVD成膜を行うことができる。
【0152】
本実施形態のプラズマCVD成膜装置4によれば、巻き出しロール11から巻き取りロール12までの1回通過の成膜で、薄膜層を基材100の両面にそれぞれ3層(片面3層)成膜することができる。したがって、効率良く良好なガスバリア膜の成膜を実現することが可能となる。
【0153】
なお、本実施形態では、薄膜層を基材100の両面にそれぞれ3層ずつ成膜する片面3層成膜のプラズマCVD成膜装置4を挙げて説明したが、これに限らない。本発明の構成を、例えば、図13に示すように、薄膜層を基材100の両面にそれぞれ4層ずつ成膜する片面4層成膜のプラズマCVD成膜装置5に適用することもできるし、図14に示すように、薄膜層を基材100の両面にそれぞれ6層ずつ成膜する片面6層成膜のプラズマCVD成膜装置6に適用することもできる。さらに、図示はしないが、薄膜層を基材100の両面にそれぞれ5層ずつ成膜する片面5層成膜のプラズマCVD成膜装置に適用することもできるし、薄膜層を基材100の両面にそれぞれ7層以上成膜するプラズマCVD成膜装置に適用することもできる。
【0154】
他にも、成膜ロール同士を対向させて配置し、一方の成膜ロールに対向する他方の成膜ロールを対向電極として用いることとするならば、種々の構成を有するプラズマCVD成膜装置とすることが可能である。また、成膜ロール同士を対向させて対向電極として用いる構成の他に、対向電極を別途用意して成膜ロールに対向配置し、プラズマ電極として用いることとしても構わない。
【0155】
このように形成される積層フィルムは、樹脂フィルムを基材100として用い、フレキシブルな製品の部材として使用可能であり、また、ガスバリア膜及び透明導電膜を有するため、有機EL素子、有機薄膜層太陽電池、液晶ディスプレイをはじめとするフレキシブルでガスバリア性及び導電性が必要とされる各種製品の部材として好適に用いることができる。
【0156】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0157】
1,1A,2,2A,3,3A,4,5,6…プラズマCVD成膜装置、31,131…第1成膜ロール、32,32A,132…第2成膜ロール、33,133…第3成膜ロール、34,34A,134…第4成膜ロール、51,151…第1プラズマ発生用電源、52,152…第2プラズマ発生用電源、61…第1磁場形成手段、62…第2磁場形成手段、63…第3磁場形成手段、64…第4磁場形成手段、81,82,181,182,183,184,281,282…ガス供給管(ガス供給部)、90,190…真空チャンバー、100…基材、100a…成膜面(基材の他方の面)、100b…成膜面(基材の一方の面)、S1,S2…空間、D1…第1成膜ロールの直径、D2…第2成膜ロールの直径、D3…第3成膜ロールの直径、D4…第4成膜ロールの直径、H…薄膜層、H1…第1薄膜層、H2…第2薄膜層、H3…第3薄膜層、H4…第4薄膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバー内において長尺の基材を連続的に搬送しながら、当該基材上に連続的に薄膜層を形成するプラズマCVD成膜装置であって、
前記基材を巻き掛けて搬送する第1成膜ロールと、
前記第1成膜ロールに対向して設けられる第1対向電極と、
前記第1成膜ロールの内部に設けられ、前記第1成膜ロールと前記第1対向電極とが対向する空間に無終端のトンネル状の磁場を形成する第1磁場形成手段と、
前記第1成膜ロールおよび前記第1対向電極に接続され、印加電圧の極性が交互に反転することで前記第1成膜ロールと前記第1対向電極とが対向する空間に交流電界を形成する第1プラズマ発生用電源と、
前記1成膜ロールに対して前記基材の搬送経路の下流において、前記基材を巻き掛けて搬送する第2成膜ロールと、
前記第2成膜ロールに対向して設けられる第2対向電極と、
前記第2成膜ロールの内部に設けられ、前記第2成膜ロールと前記第2対向電極とが対向する空間に無終端のトンネル状の磁場を形成する第2磁場形成手段と、
前記第2成膜ロールおよび前記第2対向電極に接続され、印加電圧の極性が交互に反転することで前記第2成膜ロールと前記第2対向電極とが対向する空間に交流電界を形成する第2プラズマ発生用電源と、を含み、
前記第1成膜ロールが前記基材の一方の面で当該基材を巻き掛けることにより、前記基材の他方の面に第1薄膜層が成膜され、
前記第2成膜ロールが前記基材の他方の面で当該基材を巻き掛けることにより、前記基材の一方の面に第2薄膜層が成膜されることを特徴とするプラズマCVD成膜装置。
【請求項2】
前記第1成膜ロールと対向して設けられ、前記基材を巻き掛けて搬送する第3成膜ロールと、
前記第3成膜ロールの内部に設けられ、前記第1成膜ロールと前記第3成膜ロールとが対向する空間に無終端のトンネル状の磁場を形成する第3磁場形成手段と、を含み、
前記第1プラズマ発生用電源が、前記第1成膜ロールおよび前記第3成膜ロールに接続され、前記第3成膜ロールが前記第1対向電極として機能するとともに、前記第1成膜ロールが前記第3成膜ロールの対向電極として機能し、
前記第3成膜ロールが前記基材の一方の面で当該基材を巻き掛けることにより、前記基材の他方の面に第3薄膜層が成膜されることを特徴とする請求項1に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項3】
前記第2成膜ロールと対向して設けられ、前記基材を巻き掛けて搬送する第4成膜ロールと、
前記第4成膜ロールの内部に設けられ、前記第2成膜ロールと前記第4成膜ロールとが対向する空間に無終端のトンネル状の磁場を形成する第4磁場形成手段と、を含み、
前記第2プラズマ発生用電源が、前記第2成膜ロールおよび前記第4成膜ロールに接続され、前記第4成膜ロールが前記第2対向電極として機能するとともに、前記第2成膜ロールが前記第4成膜ロールの対向電極として機能し、
前記第4成膜ロールが前記基材の他方の面で当該基材を巻き掛けることにより、前記基材の一方の面に第4薄膜層が成膜されることを特徴とする請求項2に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項4】
前記第3成膜ロールは、前記第2成膜ロールに対し前記基材の搬送経路の下流側に設けられ、
前記第4成膜ロールは、前記第3成膜ロールに対し前記基材の搬送経路の下流側に設けられることを特徴とする請求項3に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項5】
前記第3成膜ロールは、前記第1成膜ロールと前記第2成膜ロールとの間の前記基材の搬送経路に設けられ、
前記第4成膜ロールは、前記第2成膜ロールに対し前記基材の搬送経路の下流側に設けられることを特徴とする請求項3に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項6】
前記第1成膜ロールおよび前記第2成膜ロールはそれぞれの回転軸が鉛直方向と略平行になるように配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項7】
前記第1成膜ロールと前記第1対向電極とが対向する空間と、前記第2成膜ロールと前記第2対向電極とが対向する空間との少なくとも一方の空間には、前記薄膜層の形成材料である成膜ガスを供給するガス供給部が設けられ、
前記ガス供給部は、前記成膜ガスを鉛直方向下向きに供給することを特徴とする請求項6に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項8】
複数の前記成膜ロールの直径が前記基材の搬送経路の下流側に向かうに従って大きくなっていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項9】
長尺の基材を連続的に搬送しながら、プラズマ反応を用いて当該基材上に連続的に薄膜層を形成する成膜方法であって、
前記基材の搬送経路の上流側には第1の成膜空間が存在し、
前記基材の搬送経路の下流側には第2の成膜空間が存在しており、
前記第1の成膜空間および前記第2の成膜空間のそれぞれにおいて、前記基材の搬送経路に沿って、有機ケイ素化合物と酸素とを含む成膜ガスの放電プラズマを、主として前記有機ケイ素化合物の完全酸化反応を生じるプラズマ強度である第1の空間と、主として前記有機ケイ素化合物の不完全酸化反応を生じるプラズマ強度である第2の空間と、が交互に連続するように生じさせ、
前記第1の成膜空間における前記第1の空間および前記第2の空間と重なるように前記基材を搬送し、前記基材の一方の面に第1薄膜層を成膜し、
前記第2の成膜空間における前記第1の空間および前記第2の空間と重なるように前記基材を搬送し、前記基材の他方の面に第2薄膜層を成膜することを特徴とする成膜方法。
【請求項10】
前記基材の一方の面への前記第1薄膜層の成膜と、前記基材の他方の面への前記第2薄膜層の成膜とを交互に繰り返し行うことを特徴とする請求項9に記載の成膜方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−40378(P2013−40378A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178197(P2011−178197)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】