説明

プリプレグおよびプリプレグの製造方法

【課題】基材織物に樹脂を含浸させて製造するプリプレグについて、含浸時に生じる幅方向に対する繊維の目曲がりを防止することにより、元の基材織物の繊維方向が保持されるプリプレグおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】基材織物たる多軸織物11を有し、該多軸織物11に樹脂フィルム23・24を形成する樹脂が含浸されるプリプレグ21であって、多軸織物11の幅方向両端部に離型紙12が縫合され、かつ、該離型紙12は、樹脂(樹脂フィルム23・24)が多軸織物11に含浸される前に、多軸織物11に縫合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグおよびプリプレグの製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス繊維や炭素繊維等の基材織物に熱硬化性や熱可塑性の樹脂を含浸させた繊維材料であるプリプレグが知られており、製品を成形するための材料として、様々な産業分野において活用されている。そして、係るプリプレグの製造方法としては、以下に示す特許文献1にその技術が開示され公知となっている。
【0003】
係る特許文献1に開示されている従来技術では、多軸基材織物と熱可塑性(あるいは熱硬化性)の樹脂フィルムを複数枚積層してステッチ糸で縫い合わせておき、これを加熱および加圧(圧延)して、多軸基材織物に樹脂を含浸することによって、プリプレグを得る製造方法が示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に示された従来技術では、樹脂を含浸する際に、加熱され軟化した樹脂の流れに沿って、多軸基材織物の繊維が流動して、繊維の方向がずれてしまう(目曲がりが生じる)場合があった。そして、繊維の方向がずれると、プリプレグの構造が設計した構造と相違したものとなるため、プリプレグを用いて成形した最終製品において、設計上の強度が確保できなくなるという問題があった。
【0005】
また、基材の目曲がりを防止したプリプレグとしては、例えば、以下に示す特許文献2にその技術が開示され公知となっている。
係る特許文献2に示された従来技術では、プリント配線板の用途に用いられるプリプレグについて、樹脂ワニスを含浸させた後に、当該プリプレグを吊るした状態で乾燥機を用いて乾燥させる際に、基材の端部に千切れが発生したり、プリプレグに目曲がりが発生することを防止するために、基材の端部の引張り強度を他の部分に比べて高くしておくようにしている。
【0006】
ここで、基材の端部の引張り強度を高くする方法としては、予め基材の端部に熱硬化性ポリエステル樹脂を塗布した後に、基材全体にビスフェノール型熱硬化性樹脂を含浸させることにより、熱硬化性ポリエステル樹脂のほうがビスフェノール型熱硬化性樹脂に比して早く硬化する性質を利用して、基材の端部の引張り強度を高めたり、あるいは、予め基材の端部に補強糸を縫い込んだりして基材の端部の剛性を高めている。
【0007】
しかしながら、基材の端部の剛性を高めることでは、含浸時の加熱および圧延によって生じる繊維の目曲がりを防止することはできなかった。このため、含浸時の加熱および圧延によって生じる繊維の目曲がりを確実に防止することができる技術の開発が望まれている状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−291369号公報
【特許文献2】特開平7−173306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、係る現状を鑑みてなされたものであり、基材織物に樹脂を含浸させて製造するプリプレグについて、含浸時に生じる幅方向に対する繊維の目曲がりを防止することにより、元の基材織物の繊維方向が保持されるプリプレグおよびその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、基材織物を有し、該基材織物に樹脂が含浸されるプリプレグであって、前記基材織物の幅方向両端部にシート部材が縫合され、かつ、該シート部材は、前記樹脂が前記基材織物に含浸される前に、前記基材織物に縫合されるものである。
【0012】
請求項2においては、前記シート部材には、離型紙が用いられるものである。
【0013】
請求項3においては、基材織物を有し、該基材織物に樹脂が含浸されるプリプレグの製造方法であって、前記基材織物に前記樹脂を含浸する樹脂含浸工程と、前記基材織物の幅方向両端部にシート部材を縫合するシート部材縫合工程とを有し、かつ、前記シート部材縫合工程は、前記樹脂含浸工程より前に行われるものである。
【0014】
請求項4においては、前記シート部材には、離型紙が用いられるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、プリプレグの幅方向に繊維の目曲がりが発生せず、元の基材織物の繊維方向が保持されているプリプレグとすることができ、当該プリプレグを元に製造される最終製品について設計上の強度を確保することができる。
【0017】
請求項2においては、従来からプリプレグに使用されている離型紙を用いることによって、従来通りの使用方法でプリプレグを取り扱うことができる。
【0018】
請求項3においては、含浸時にプリプレグの幅方向に対する繊維のズレを規制することにより目曲がりが発生せず、元の基材織物の繊維方向が保持されるプリプレグを製造することができる。これにより、当該プリプレグを元に製造される最終製品について設計上の強度を確保することができる。
【0019】
請求項4においては、従来からプリプレグに使用されている離型紙を用いることによって、従来通りの使用方法でプリプレグを取り扱うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例に係るプリプレグの製造方法に適用される基材織物の構成を示す模式図。
【図2】繊維の目曲がりの状況を示す模式図、(a)含浸前の多軸織物を示す模式図、(b)含浸後の従来のプリプレグを示す模式図、(c)含浸後の本発明の一実施例に係るプリプレグを示す模式図。
【図3】本発明の一実施例に係るプリプレグの製造工程を示す模式図、(a)第一製造装置による基材織物製造工程〜シート部材縫合工程を示す側面模式図、(b)第二製造装置による樹脂含浸工程〜包装工程を示す側面模式図。
【図4】本発明の一実施例に係るプリプレグの製造工程(第一製造装置による基材織物製造工程〜シート部材縫合工程)を示す斜視図。
【図5】本発明の一実施例に係るプリプレグの製造工程を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明の一実施例に係るプリプレグの製造方法に適用される基材織物たる多軸織物について、図1を用いて説明をする。図1は本発明の一実施例に係るプリプレグの製造方法に適用される基材織物の構成を示す模式図である。
【0022】
図1に示す如く、本発明の一実施例に係るプリプレグの製造方法に適用される基材織物の一例である多軸織物11は、繊維方向(角度)が異なる複数の基材9・10を積層して形成される織物である。係る多軸織物11では、各基材9・10同士は、図示しないステッチ糸で縫い合わされて一体的に形成されるが、ステッチ糸の拘束力は弱く、また平織の織物等とは異なり互いの繊維が編み合わされていないため、各基材9・10を構成している繊維は容易に目曲がりする。
【0023】
図1に示すように座標系を規定すると、X軸方向は、樹脂が含浸される各基材9・10の長さ方向を示し、Y軸方向はそれに直交する方向であって各基材9・10(および後述するドライ基材13およびプリプレグ21等)の幅方向を示している。そして、Z軸方向は、X軸およびY軸に直交する方向である。また、本実施例では、X軸方向に平行な繊維方向(角度)を0°とし、Y軸に平行な繊維方向(角度)を90°と規定している。尚、本実施例で規定する座標系は、説明の便宜上定めたものであり、本発明の一実施例に係るプリプレグの製造方法における各基材等の搬送方向等をこれに限定するものではない。
【0024】
そして、図1に示すように、この繊維方向が0°である基材9と、繊維方向が90°である基材10からなる多軸織物11を0°・90°の多軸織物11と呼ぶものとする。尚、本実施例では、含浸が施される基材織物として、多軸織物11を例示しているが、本発明の一実施例に係るプリプレグの製造方法が適用される基材織物を、多軸織物に限定するものではなく、多軸織物のみならず、繊維を一方向に引き揃えた基材織物(例えば、基材9のみ(以下、UDと記載する))を使用する場合にも適用することが可能である。また、本実施例では、含浸が施される基材織物として、0°・90°の多軸織物11を例示しているが、本発明の一実施例に係るプリプレグの製造方法が適用される多軸織物11の繊維方向を、0°・90°に限定するものではない。
【0025】
次に、含浸時に生じる繊維の目曲がりについて、図2を用いて説明をする。図2は繊維の目曲がりの状況を示す模式図、(a)含浸前の多軸織物を示す模式図、(b)含浸後の従来のプリプレグを示す模式図、(c)含浸後の本発明の一実施例に係るプリプレグを示す模式図である。
【0026】
図2(a)に示す如く、0°・90°の多軸織物11に対して樹脂を含浸する場合を例示すると、多軸織物11を構成する各基材9・10の繊維は、含浸前においてそれぞれ一方向(0°と90°)に引き揃えられた状態となっているが、この繊維方向(角度)は、含浸後においても保持されるものとして設計時には想定されている。
【0027】
しかし、係る多軸織物11に樹脂フィルム(図示せず)を重ね合わせて含浸する(加熱および圧延を施す)と、粘度が低下した樹脂は中央から外側に向けて流動しながら繊維に入り込んでいくため、このとき、繊維は樹脂の流れによって押圧される。このため、図2(b)に示すように、従来のプリプレグ51では、繊維の目曲がりが生じてしまう。
【0028】
現実的には、X軸(長さ)方向には繊維(基材織物)が延々と連続しているため、X軸方向の目曲がりが問題となることは少ないが、繊維が端部で途切れているために規制されていないY軸(幅)方向に対する繊維の目曲がりが特に問題となってくる。
本実施例は、このようにして生じる基材織物の幅方向(Y軸方向)に対する繊維の目曲がりを防止して、元の基材織物の繊維方向を保持することができるプリプレグの製造方法およびその製造方法により製造されるプリプレグを示すものである。
【0029】
次に、本発明の一実施例に係るプリプレグの製造に用いる製造装置について、図3および図4を用いて説明をする。図3は本発明の一実施例に係るプリプレグの製造工程を示す模式図、(a)第一製造装置による基材織物製造工程〜シート部材縫合工程を示す側面模式図、(b)第二製造装置による樹脂含浸工程〜包装工程を示す側面模式図、図4は本発明の一実施例に係るプリプレグの製造工程(第一製造装置による基材織物製造工程〜シート部材縫合工程)を示す斜視図である。
【0030】
図3(a)・(b)に示す如く、本発明の一実施例に係るプリプレグの製造方法において用いられるプリプレグの製造装置は、第一製造装置1および第二製造装置2によって構成されている。
【0031】
図3(a)に示す如く、第一製造装置1は、第一基材生成部3、第二基材生成部4、基材縫合用ミシン5・5・5、シート部材用マンドレル6、シート部材縫合用ミシン7・7、ドライ基材巻取マンドレル8、および回転ローラ14・14・・・等によって構成されており、係る第一製造装置1によって、後述する本発明の一実施例に係るプリプレグの製造方法における基材織物製造工程およびシート部材縫合工程が行われるものである。
【0032】
第一製造装置1についてさらに詳述すると、図4に示す如く、第一基材生成部3は、縦糸用ボビン3a・3a・・・、整列部3b等によって構成されている。そして第一基材生成部3では、縦糸用ボビン3a・3a・・・から、概ね図4中に示すZ軸方向(あるいはX軸方向とすることもできる)に沿って縦糸3c・3c・・・を整列部3bに供給する。そして、整列部3bによって、縦糸3c・3c・・・を0°方向に引き揃えて整列させて基材9を生成している。尚、図3(a)においては、発明の理解を容易にするため、第一基材生成部3を簡素化して記載している。
【0033】
また、第二基材生成部4は、横糸用ボビン4a・4a・・・、整列部4b等によって構成されている。そして、第二基材生成部4では、横糸用ボビン4a・4a・・・から、概ね図4中に示すY軸方向に沿って横糸4c・4c・・・を整列部4bに供給する。そして、整列部4bによって、横糸4c・4c・・・を90°方向に引き揃えて整列させて基材10を生成している。尚、図3(a)においては、発明の理解を容易にするため、第二基材生成部4を簡素化して記載しており、横糸4c・4c・・・や基材10の供給方向等を変更して記載している。
【0034】
基材縫合用ミシン5・5・5は、図3(a)および図4に示すようなステッチ糸5a・5a・5aによって、各基材生成部3・4から供給される各基材9・10を縫合するための装置である。そして、基材縫合用ミシン5・5・5によって、各基材9・10をステッチ糸5a・5a・5aで縫合して一体化することにより多軸織物11を生成する。
【0035】
シート部材用マンドレル6は、ロール状に準備されたシート部材が装着される軸芯部であり、各基材9・10およびシート部材の搬送方向(X軸およびZ軸方向)に対して、垂直に配設される。そして、本実施例では、シート部材として、従来からプリプレグの製造に用いられている離型紙12を採用している。尚、シート部材は、離型紙12に限らず、樹脂含浸工程の際に加熱・圧延等されても、伸縮したり破れが生じたりすることがない程度の剛性があるシート部材であれば、適宜選択して使用することが可能である。
【0036】
シート部材縫合用ミシン7・7は、図3(a)および図4に示すようにステッチ糸7a・7aによって、多軸織物11に対して、シート部材たる離型紙12を縫合するための装置であり、シート部材縫合用ミシン7・7によって、多軸織物11に離型紙12を縫合することによって、後工程の樹脂含浸工程に供給可能な基材(以下、ドライ基材13と記載する)を生成する。
【0037】
ドライ基材巻取マンドレル8は、図示しないモータ等によって回転駆動される軸芯部であり、各基材9・10および離型紙12の搬送方向(X軸およびZ軸方向)に対して、垂直に配設されるとともに、各基材9・10および離型紙12を搬送駆動する役割を果たす部位である。そして、該ドライ基材巻取マンドレル8には、生成されたドライ基材13が巻き取られる。
【0038】
そして、第一製造装置1には、各所に回転ローラ14・14・・・が配設されており、該回転ローラ14・14・・・によって補助されながら、各基材9・10、多軸織物11、離型紙12、ドライ基材13等が搬送される構成としている。
【0039】
第二製造装置2は、ドライ基材用マンドレル15、樹脂フィルム用マンドレル16・17、含浸装置18、包装フィルム用マンドレル19、プリプレグ巻取マンドレル20、包装装置26等から構成されており、係る第二製造装置2によって、後述する本発明の一実施例に係るプリプレグの製造方法における樹脂含浸工程および包装工程が行われるものである。
【0040】
ドライ基材用マンドレル15は、ロール状に準備されたドライ基材13が装着される軸芯部であり、ドライ基材13の搬送方向(X軸方向)に対して、垂直に配設される。尚、本実施例では、プリプレグの製造装置を第一製造装置1および第二製造装置2に分割する場合を例示しているが、各装置1・2を連続する一つの装置として構成することも可能である。この場合、生成したドライ基材13を巻き取らずにシート部材縫合工程からそのまま樹脂含浸工程に移行することが可能であるため、前述したドライ基材巻取マンドレル8およびドライ基材用マンドレル15は省略することが可能である。
【0041】
樹脂フィルム用マンドレル16・17は、ロール状に準備された熱硬化性や熱可塑性の性質を有する樹脂フィルム23・24が装着される軸芯部であり、樹脂フィルム23・24の搬送方向(X軸およびZ軸方向)に対して、垂直な方向に配設される。係る樹脂フィルム23・24を形成している各樹脂が、ドライ基材13に含浸される樹脂となるものである。
【0042】
含浸装置18は、樹脂フィルム23・24を重ね合わせた状態で該含浸装置18に供給されるドライ基材13に対して樹脂の含浸を施すための装置であり、加熱装置18a・18aおよび圧延ローラ18b・18bを備えている。
【0043】
そして、加熱装置18a・18aによって樹脂フィルム23・24を所定の温度に加熱して、該樹脂フィルム23・24を軟化させた後に、圧延ローラ18b・18bによって圧延することによって、軟化した樹脂をドライ基材13の繊維の奥にまで押し込んで、これによりドライ基材13に対する樹脂の含浸を行う。
【0044】
そして、含浸装置18によって、ドライ基材13に対して樹脂フィルム23・24が含浸されることによって、プリプレグ21を生成する。
【0045】
包装フィルム用マンドレル19は、ロール状に準備された包装フィルム25が装着される軸芯部であり、プリプレグ21の搬送方向(X軸方向)に対して、垂直に配設される。そして、包装フィルム用マンドレル19から巻き出される包装フィルム25によって、生成したプリプレグ21を包装することにより、プリプレグ21の変質を防止する態様とした包装済プリプレグ22を生成する。
【0046】
プリプレグ巻取マンドレル20は、生成された包装済プリプレグ22が巻き取られる軸芯部であり、プリプレグ21の搬送方向(X軸方向)に対して、垂直に配設される。また、プリプレグ巻取マンドレル20は、図示しないモータによって回転駆動され、ドライ基材13、樹脂フィルム23・24、包装フィルム25および包装済プリプレグ22等を搬送駆動する役割を果たす部位である。
【0047】
包装装置26は、プリプレグ21に付与されている離型紙12と包装フィルム用マンドレル19から供給される包装フィルム25によって袋状のパッケージを形成する装置であり、包装装置26によって、プリプレグ21を包装して、包装済プリプレグ22を生成する。
【0048】
次に、本発明の一実施例に係るプリプレグの製造方法について、図3〜図5を用いて説明をする。図5は本発明の一実施例に係るプリプレグの製造工程を示すフロー図である。尚、ここでは、0°・90°の多軸織物を用いてプリプレグを製造する場合を例示しているが、本発明の一実施例に係るプリプレグの製造方法に適用することができる基材織物はこれに限定するものではなく、その他の角度の組合せで構成される多軸織物や繊維が一方向に引き揃えられた基材(UD)を基材織物とすることも可能である。
【0049】
(基材織物製造工程)
図3(a)および図5に示す如く、本発明の一実施例に係るプリプレグの製造方法では、まず始めに、基材織物製造工程が実施される(STEP−1)。
各基材生成部3・4によって生成された各基材9・10は、回転ローラ14・14によって補助されながら搬送方向を変更しつつ、基材縫合用ミシン5・5・5に供給される。
【0050】
基材縫合用ミシン5・5・5のテーブル5b・5b・5bまで搬送された各基材9・10はステッチ糸5a・5a・5aによって縫合され、一体的な多軸織物11が生成される。尚、プリプレグの基材としてUDを使用する場合には、当該基材織物製造工程は省略することができ、巻き出した基材(UD)を後述するシート部材縫合工程に直接供給することが可能である。
【0051】
(シート部材縫合工程)
次に、基材織物製造工程で生成された多軸織物11は、シート部材縫合工程に供給される(STEP−2)。
従来、離型紙12は、プリプレグ21の最終的な包装工程において、プリプレグ21の粘着性を利用して付与されるものである。本発明の一実施例に係るプリプレグの製造方法では、樹脂含浸工程を実施する前の段階で、基材織物(本実施例では多軸織物11)の幅方向(Y軸方向)の両端部に離型紙12を縫合して付与する構成としており、この点が従来の製造方法と相違している。
【0052】
シート部材縫合工程では、多軸織物11が、シート部材縫合用ミシン7・7に供給される。また、シート部材用マンドレル6に装着された離型紙12が、回転ローラ14・14によって補助されながら搬送方向を変更しつつ巻き出されて、多軸織物11と併せてシート部材縫合用ミシン7・7に供給される。
【0053】
そして、シート部材縫合用ミシン7・7のテーブル7b・7bまで搬送された多軸織物11および離型紙12は、その幅方向(Y軸方向)の両端部が、ステッチ糸7a・7aによって縫合される。このようにして、多軸織物11と離型紙12が一体化され、ドライ基材13が生成される。そして生成されたドライ基材13は、ドライ基材巻取マンドレル8に巻き取られる。
【0054】
(樹脂含浸工程)
次に、図3(b)および図5に示す如く、シート部材縫合工程で生成されたドライ基材13は、樹脂含浸工程に供給される(STEP−3)。
樹脂含浸工程において、巻き取られてロール状に準備されたドライ基材13が、ドライ基材用マンドレル15に装着され、そして、これが巻き出されて含浸装置18に供給される。また、含浸装置18には、樹脂フィルム用マンドレル16・17から巻き出された樹脂フィルム23・24がドライ基材13に併せて供給される。
【0055】
そして、含浸装置18に供給されたドライ基材13と樹脂フィルム23・24は、加熱装置18a・18aによって所定の温度に加熱され、これにより、樹脂フィルム23・24が軟化する。この状態でさらに、ドライ基材13と樹脂フィルム23・24は、圧延ローラ18b・18bによって圧延され、軟化した樹脂フィルム23・24がドライ基材13の繊維の奥まで押し込まれることにより、樹脂フィルム23・24を構成する樹脂がドライ基材13に対して含浸されて、プリプレグ21が生成される。
【0056】
このとき、軟化した樹脂フィルム23・24が繊維の内部を流動するが、ドライ基材13の両端部がステッチ糸7a・7aによって離型紙12と縫合されているため、Y軸方向への繊維の流動が規制され、元の各基材9・10の繊維方向(0°・90°の繊維方向)が保持される。また、係る効果は、基材織物の仕様に関わらず、繊維方向が0°・90°以外の多軸織物や、UDを基材織物として用いた場合においても同様に得ることができる。
【0057】
(包装工程)
次に、樹脂含浸工程で生成されたプリプレグ21は、包装工程に供給される(STEP−4)。
包装工程では、プリプレグ21が、包装装置26に供給される。また、包装フィルム用マンドレル19に装着された包装フィルム25が、回転ローラ14・14によって補助されながら搬送方向を変更しつつ巻き出されて、プリプレグ21と併せて包装装置26に供給される。
【0058】
そして、包装装置26に供給されたプリプレグ21が、上面側の包装フィルム25と下面側の離型紙12によって密封された状態に包装されて、包装済プリプレグ22が生成される。そして、生成された包装済プリプレグ22は、プリプレグ巻取マンドレル20によって、ロール状に巻き取られる。
【0059】
尚、本実施例では、シート部材として、従来からプリプレグに付与して用いられている離型紙12を採用する構成としているため、係る包装工程において、プリプレグ21に対して離型紙12を貼り付ける工程およびそのための装置は省略することが可能である。
【0060】
次に、本発明の一実施例に係るプリプレグについて、図2を用いて説明をする。
前述した本発明の一実施例に係るプリプレグの製造方法によって製造されたプリプレグ21は、図2(c)に示すような態様となる。係るプリプレグ21では、幅方向(Y軸方向)の両端部がステッチ糸7a・7aによって離型紙12(図示せず)と縫合されているため、幅方向(Y軸方向)に対する繊維の目曲がりを規制することが可能となっている。
【0061】
これにより、本発明の一実施例に係るプリプレグ21は、樹脂含浸工程において幅方向(Y軸方向)に対する繊維の目曲がりが防止され、元の各基材9・10の繊維方向(0°・90°の繊維方向)が保持されたプリプレグ21となっている。
このため、係るプリプレグ21を用いれば、設計上の強度が確保できるとともに、繊維の模様が整列した美感のよい最終製品を製造することが可能となる。また、係る効果は、使用する基材織物の仕様に関わらず、繊維方向が0°・90°以外の多軸織物や、UDを基材織物として用いた場合においても同様に得ることができる。
【0062】
尚、本実施例では、シート部材として、従来からプリプレグに付与して用いられている離型紙12を採用する構成としているため、プリプレグ21の使用方法は従来と変わるところがない。また、離型紙12が縫合される部位は、プリプレグ21の両端部の余肉部(最終製品とはならない部位)に設定しているため、基材織物たる多軸織物11に離型紙12を縫合する構成としても、プリプレグ21によって製造される最終製品の品質に悪影響を与えることはない。
【0063】
即ち、本発明の一実施例に係るプリプレグ21の製造方法は、多軸織物11を有し、該多軸織物11に樹脂(樹脂フィルム23・24)が含浸されるプリプレグ21の製造方法であって、多軸織物11に樹脂フィルム23・24からなる樹脂を含浸する樹脂含浸工程と、多軸織物11の幅方向両端部にシート部材たる離型紙12を縫合するシート部材縫合工程とを有し、かつ、シート部材縫合工程は、樹脂含浸工程より前に行われる構成としている。
このような構成により、樹脂含浸工程時に繊維のズレを規制することができ、幅方向(Y軸方向)に対して目曲がりが発生せず、元の各基材9・10の繊維方向が保持されるプリプレグ21を製造することができる。これにより、プリプレグ21を元に製造される最終製品の強度を確保することができる。
【0064】
また、本発明の一実施例に係るプリプレグ21は、基材織物たる多軸織物11を有し、該多軸織物11に樹脂フィルム23・24を形成する樹脂が含浸されるプリプレグ21であって、多軸織物11の幅方向(Y軸方向)両端部に離型紙12が縫合され、かつ、該離型紙12は、樹脂(樹脂フィルム23・24)が多軸織物11に含浸される前に、多軸織物11に縫合されるものである。
このような構成により、幅方向(Y軸方向)に目曲がりが発生せず、元の各基材9・10の繊維方向が保持されたプリプレグ21とすることができ、当該プリプレグ21を元に製造される最終製品の強度を確保することができる。
【0065】
さらに、本発明の第一実施例に係るプリプレグ21およびその製造方法では、シート部材には、離型紙12が用いられている。
このように、従来からプリプレグ21の製造に使用されている離型紙12を繊維の目曲がりを防止するために用いるシート部材として用いることによって、従来通りの使用方法でプリプレグ21を取り扱うことができる。
【符号の説明】
【0066】
9 基材
10 基材
11 多軸織物
12 離型紙(シート部材)
13 ドライ基材
21 プリプレグ
23 樹脂フィルム
24 樹脂フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材織物を有し、
該基材織物に樹脂が含浸されるプリプレグであって、
前記基材織物の幅方向両端部にシート部材が縫合され、かつ、
該シート部材は、
前記樹脂が前記基材織物に含浸される前に、
前記基材織物に縫合される、
ことを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】
前記シート部材には、
離型紙が用いられる、
ことを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
基材織物を有し、
該基材織物に樹脂が含浸されるプリプレグの製造方法であって、
前記基材織物に前記樹脂を含浸する樹脂含浸工程と、
前記基材織物の幅方向両端部にシート部材を縫合するシート部材縫合工程とを有し、かつ、
前記シート部材縫合工程は、
前記樹脂含浸工程より前に行われる、
ことを特徴とするプリプレグの製造方法。
【請求項4】
前記シート部材には、
離型紙が用いられる、
ことを特徴とする請求項3に記載のプリプレグの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−248391(P2010−248391A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100221(P2009−100221)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】