説明

プリプレグとその製造方法

【課題】複合材料としての耐衝撃性に優れ、かつ後工程(自動積層装置を用いたプリプレグの積層)において、工程通過のために必要な十分な接着性又は積層性を有するプリプレグを提供すること。
【解決手段】強化繊維とこれに含浸せしめられたマトリックス樹脂とからなるプリプレグであって、該マトリックス樹脂が、プリプレグの樹脂層の表層を形成する樹脂組成物Aとプリプレグの樹脂層の内層を形成する樹脂組成物Bとからなり、該樹脂組成物Aは、エポキシ樹脂と少なくとも一部がマイクロカプセル化されたその硬化剤とエポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂とから構成されており、該樹脂組成物Bは、エポキシ樹脂とその硬化剤とエポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂を少なくとも一部含む熱可塑性樹脂とから構成されているプリプレグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層性等の取扱い性と耐衝撃性等のコンポジット性能に優れたプリプレグとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維等を強化繊維として用いた複合材料は、その高い比強度、比剛性を利用して、航空機等の構造材として多く用いられてきている。これらの複合材料は、強化繊維にマトリックス樹脂が含浸された中間製品であるプリプレグから、加熱・加圧といった成形・加工工程を経て成形される場合が多い。
【0003】
プリプレグのマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等が用いられ、また、最近ではポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエ−テルエ−テルケトン等の熱可塑性樹脂も用いられるようになってきている。
【0004】
エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂に用いたプリプレグの場合、耐熱性、機械的特性が良好であるが、反面、マトリックス樹脂の伸度が低く、脆いために複合材料の靭性、耐衝撃性に劣るという問題がある。そこで、複合材料の耐衝撃性を向上させ
るため、プリプレグのマトリクス樹脂中に熱可塑性樹脂を添加する方法が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、十分な耐衝撃性を得るために熱可塑性樹脂の量を増やすとプリプレグの接着性が低下するため、成形工程での取扱性が低下してしまうという問題がある。また、かかるプリプレグでは、経時的にもプリプレグの接着性が低下し、取扱性が低下する。必要な熱可塑樹脂を添加しつつ、プリプレグの接着性・安定性を改善することが課題である。
【特許文献1】特開昭61−250021号公報
【特許文献2】特開昭62−36421号公報
【特許文献3】特開昭62−57417号公報
【0005】
前記のような問題を解決するために、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂と粒子状の熱可塑性樹脂を用いる方法(特許文献4と5)、エポキシ樹脂と熱可塑性樹脂とマイクロカプセル型エポキシ樹脂硬化剤を用いる方法(特許文献6と7)等が提案されている。しかしながら、積層性等の取扱い性と耐衝撃性等のコンポジット性能の改善効果は未だ十分ではない。
【特許文献4】特開平6−240024号公報
【特許文献5】特開2006−169541号公報
【特許文献6】特開平4−249544号公報
【特許文献7】特開平5−9262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、複合材料としての耐衝撃性に優れ、かつ後工程(自動積層装置を用いたプリプレグの積層)において、工程通過のために必要な十分な接着性又は積層性を有するプリプレグとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、エポキシ樹脂とそれに配合する熱可塑性樹脂の量を特定し、特定の吸水率とピール強度等を有するプリプレグを作製することによって、前記課題が達成されることを知見した。そして、また、プリプレグの表層に存在する樹脂の硬化剤の一部をマイクロカプセル化し、樹脂層の内層にエポキシ樹脂に不溶な熱可塑性を添加するという方法を採用することによって、プリプレグの表層に存在する樹脂でプリプレグの接着性・安定性を改善し、内層に存在する樹脂で耐衝撃性を保持することができること、更には、マイクロカプセル化した硬化剤は、耐衝撃性の改善効果も期待できることを知見し本発明に到達したものである。
【0008】
本発明は、強化繊維とこれに含浸せしめられたマトリックス樹脂とからなるプリプレグであって、該マトリックス樹脂が、エポキシ樹脂とその硬化剤とエポキシ樹脂100重量部当たり41〜90重量部の熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物であり、吸水率が20wt%以下、ピール強度が0.05N/mm以上、かつ、ピール強度の保持率が10日後で40%以上であることを特徴とするプリプレグである。
【0009】
そして、好ましい本発明のプリプレグは、強化繊維とこれに含浸せしめられたマトリックス樹脂とからなるプリプレグであって、該マトリックス樹脂が、プリプレグの樹脂層の表層を形成する樹脂組成物Aとプリプレグの樹脂層の内層を形成する樹脂組成物Bとからなり、該樹脂組成物Aは、エポキシ樹脂と少なくとも一部がマイクロカプセル化されたその硬化剤とエポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂とから構成されており、該樹脂組成物Bは、エポキシ樹脂とその硬化剤とエポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂を少なくとも一部含む熱可塑性樹脂とから構成されていることを特徴とするプリプレグである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、コンポジット物性(耐衝撃性、耐熱性等)に優れ、かつ取扱性(接着性又は積層性、安定性等)に優れたプリプレグが得られる。特に、マイクロカプセル化した硬化剤が表層にあることで、プリプレグの接着性又は積層性や安定性が得られ、また、プリプレグの物性の改善効果もある。そして、本発明のプリプレグを用いると、耐衝撃性に優れ、衝撃時のクラック伝播を抑制する能力のある複合材料を製造することができる。また、従来の耐衝撃性プリプレグは、表層に、例えば、熱可塑性樹脂微粉末があったので、タック性が低下して取扱い性が悪かったが、本発明のプリプレグでは、表層に熱硬化性樹脂が主として存在するので、タック性が低下しないという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のプリプレグは、強化繊維とこれに含浸せしめられたマトリックス樹脂とからなるプリプレグであって、該マトリックス樹脂が、エポキシ樹脂とその硬化剤とエポキシ樹脂100重量部当たり41〜90重量部の熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物であり、吸水率が20重量%以下、ピール強度が0.05N/mm以上、かつ、ピール強度の保持率が10日後で40%以上のものである。得られたプリプレグの吸水率は10重量%以下が好ましい。ここで、吸水率とは、プリプレグにおける空隙率に相関するものであり、後述する測定方法により求められる。また、ピール強度とは後述する測定方法によって求められるものであり、0.05〜0.2N/mmのものが好ましい。
【0012】
熱可塑性樹脂は、エポキシ樹脂100重量部当たり51〜90重量部が好ましい。また、エポキシ樹脂は、3官能以上のエポキシ樹脂を50〜100重量部含むものが好ましい。硬化剤は、芳香族ポリアミンを含むものが好ましい。また、硬化剤の一部がマイクロカプセル化されたものが好ましい。熱可塑性樹脂が、エポキシ樹脂に可溶性のものと不溶性のものの混合物であることが好ましい。
【0013】
更に好ましい本発明のプリプレグは、強化繊維基材とこれに含浸せしめられたマトリックス樹脂とからなるプリプレグであって、該マトリックス樹脂が、プリプレグの樹脂層の表層を形成する樹脂組成物Aとプリプレグの樹脂層の内層を形成する樹脂組成物Bとからなり、該樹脂組成物Aは、エポキシ樹脂と少なくとも一部がマイクロカプセル化されたその硬化剤とエポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂とから構成されており、該樹脂組成物Bは、エポキシ樹脂とその硬化剤とエポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂を少なくとも一部含む熱可塑性樹脂とから構成されているであるが、本発明においては、1枚のプリプレグの断面を見たとき、上下各約1/4を表層、内部の約2/4を内層と定義するものとする。
【0014】
前記樹脂組成物Aが、エポキシ樹脂100重量部当たり、マイクロカプセル化されたエポキシ樹脂の硬化剤を0.1〜10重量部含むものであり、前記樹脂組成物Bが、マイクロカプセル化されたエポキシ樹脂の硬化剤は含まないものであるものが好ましい。
【0015】
また、前記樹脂組成物Bが、エポキシ樹脂100重量部当たり、エポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂を20〜90重量部含むものであり、樹脂組成物Aは、エポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂を含まないものであるものが好ましい。なお、エポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂とは、複合材料を成形する温度条件、一般的には、130〜190℃、1〜3時間の範囲において、エポキシ樹脂に少なくとも一部が不溶であるものとして定義される。
【0016】
更に、前記樹脂組成物Aが、エポキシ樹脂100重量部当たり熱可塑性樹脂を20〜60重量部含むものであり、前記樹脂組成物Bは熱可塑性樹脂を50〜100重量部含むものであるものが好ましい。また、前記樹脂組成物Bのエポキシ樹脂に対する熱可塑樹脂の量が、前記樹脂組成物Aのエポキシ樹脂に対する熱可塑樹脂の量より大きいものが好ましい。
【0017】
本発明の好ましいプリプレグの製法は、以下の2つの方法が好ましく用いられる。一つ目は、強化繊維とこれに含浸せしめられたマトリックス樹脂とからなるプリプレグであって、該マトリックス樹脂が、プリプレグの樹脂層の表層を形成する樹脂組成物Aとプリプレグの樹脂層の内層を形成する樹脂組成物Bとからなり、該樹脂組成物Aは、エポキシ樹脂と少なくとも一部がマイクロカプセル化されたその硬化剤とエポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂とから構成されており、該樹脂組成物Bは、エポキシ樹脂とその硬化剤とエポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂を少なくとも一部含む熱可塑性樹脂とから構成されているプリプレグを製造するに際し、先ず、樹脂組成物Aのシート又はフィルム、樹脂組成物Bのシート又はフィルム、強化繊維層、樹脂組成物Bのシート又はフィルム、樹脂組成物Aのシート又はフィルムの順に積層・配置した積層体を作成し、次いで、該積層体をプレ−ト、ロ−ラ−等で加熱・加圧する方法である。
【0018】
そして、2つ目は、前記のプリプレグを製造するに際し、先ず、強化繊維層に樹脂組成物Bを含浸させ一次プリプレグを形成し、次いで、該一次プリプレグの表裏面に樹脂組成物Aのシート又はフィルムを配置した積層体を作成し、その後、該積層体を加熱・加圧する方法である。樹脂組成物A層の厚みは2〜50μmであるのが好ましい。樹脂組成物A層の厚みが2μm未満の場合は、プリプレグのタック性が低下するので好ましくない。樹脂組成物A層の厚みが50μmを超える場合は、プリプレグの取扱性や成形精度が低下するので好ましくない。
【0019】
本発明のプリプレグは、強化繊維とマトリックス樹脂とからなるものであるが、強化繊維は、通常、シート状の強化繊維材料として用いられる。シート状の材料とは、繊維材料を一方向にシート状に引き揃えたもの、これらを、例えば、直交に積層したもの、繊維材料を織編物や不織布等の布帛に成形したもの、ストランド状のもの、多軸織物等を全て含む。繊維の形態としては、特に制限はないが、長繊維状モノフィラメントあるいはこれらを束にしたものが好ましく使用される。
【0020】
強化繊維としては、無機繊維、有機繊維、金属繊維又はそれらの混合からなる繊維材料がある。具体的には、無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維を挙げることが出来る。有機繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維が挙げられる。好ましいのは、炭素繊維とアラミド繊維である。本発明においては、特に、引張強度400kgf/mm2 以上、引張弾性率29×103 kgf/mm2 以上の、いわゆる高強度中弾性炭素繊維を用いることが好ましい。
【0021】
本発明において、プリプレグの樹脂層の表層を形成する樹脂組成物Aは、エポキシ樹脂と少なくとも一部がマイクロカプセル化されたその硬化剤とエポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂とから構成されており、プリプレグの樹脂層の内層を形成する樹脂組成物Bは、エポキシ樹脂とその硬化剤とエポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂を少なくとも一部含む熱可塑性樹脂とから構成されている。
【0022】
本発明のエポキシ樹脂としては、従来公知のエポキシ樹脂を用いることができ、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(例として、ジャパンエポキシレジン社製jER604、住友化学社製スミエポキシELM−434、同ELM−120、旭チバ社製アラルダイトMY9634、同MY−720、東都化成製エポトートYH434)、N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノール(例として、住友化学社製スミエポキシELM−100)等のグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール型エポキシ樹脂、ヒドロフタル酸型エポキシ樹脂、ダイマー酸型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂等の2官能エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂が挙げられる。更に、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂等の各種変性エポキシ樹脂も用いることができる。好ましいものとしては、前記のグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂の他に、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ウレタン変性ビスフェノールAエポキシ樹脂が挙げられる。
【0023】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型樹脂、ビスフェノールF型樹脂、ビスフェノールAD型樹脂、ビスフェノールS型樹脂等が挙げられる。更に具体的には、市販の樹脂として、ジャパンエポキシレジン社製jER815、同jER828、同jER834、同jER1001、同jER807、三井石油化学製エポミックR−710、大日本インキ化学工業製EXA1514等を例示できる。
【0024】
脂環型エポキシ樹脂としては、市販の樹脂として、旭チバ社製アラルダイトCY−179、同CY−178、同CY−182、同CY−183等が例示される。フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン社製jER152、同jER154、ダウケミカル社製DEN431、同DEN485、同DEN438、大日本インキ化学工業製エピクロンN740等が例示される。また、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、旭チバ社製アラルダイトECN1235、同ECN1273、同ECN1280、日本化薬製EOCN102、同EOCN103、同EOCN104等を例示できる。
更に、ウレタン変性ビスフェノールAエポキシ樹脂としては、旭電化製アデカレジンEPU−6、同EPU−4等が例示できる。
【0025】
本発明においては、エポキシ樹脂が、少なくとも3官能以上のエポキシ樹脂を含むものであるのが好ましい。3つの官能基を有するエポキシ樹脂としては、住友化学社製のELM−100、ELM−120、YX−4、ハンツマン社製のMY0510、大日本インキ社製
EXD506等が挙げられる。
【0026】
本発明においては、エポキシ樹脂に対して30重量%以下の範囲で、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂を含んでいてもよい。また、マトリックス樹脂には、通常用いられる硬化促進剤や着色剤や各種添加剤等が含まれていてもよい。プリプレグに占めるマトリックス樹脂(組成物)の含有率は、10〜90重量%、好ましくは20〜60重量%である。
【0027】
本発明において用いられるエポキシ樹脂の硬化剤には、芳香族アミン類として、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等、酸無水物として、無水フタル酸、トリメリット酸無水物、無水ピロメリット酸等、三フッ化ホウ素酸塩類として、BFモノエチルアミン、BFベンジルアミン等、イミダゾール類として、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等がある。尿素化合物(3〔3,4−ジクロロフェニル〕−1,1−ジメチル尿素等)、有機金属塩(Co[III] アセチルアセトネート等)を併用することもできる。芳香族ポリアミンを含む硬化剤が好ましい。
【0028】
マイクロカプセル化された硬化剤とは、硬化剤の粒子の表層をコート剤で被覆(コート)しカプセル化したものである。コート剤としては、90〜200℃の温度や98〜490kPa(1〜5kgf/cm )の圧力を加えることにより、コート剤が破壊し、カプセルとしての機能を失うような熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が好ましい。具体的にはポリアミド、変性尿素樹脂、変性メラミン樹脂、ポリオレフィン、ポリパラフィン(変性品も含む)等が挙げられる。これらのコート剤は、単独使用又は併用してもよい。
【0029】
硬化剤の粒子の表層にコート剤をコートする方法としては、コート剤を溶液中に分散又は溶解後、硬化剤の粒子表面に付着させる溶液法や、高速ミキサーにより硬化剤とコート剤を高速攪拌し、静電気により硬化剤の粒子上にコート剤を付着させ、その後高温中で成膜させる乾式法等がある。各コート剤の特性、粒度により使い分けることができる。良好なコンポジット特性を与えるために、コート剤は硬化剤の粒子上に均一に、薄くコートされていることが望ましい。硬化剤の粒子に対し、コート剤の比率は5〜20質量%が好ましい。
【0030】
マイクロカプセル化された硬化剤を用いると、樹脂組成物及びプリプレグにおいて、室温ではエポキシ樹脂と硬化剤の反応が進行しにくいため、マイクロカプセル化していない硬化剤を用いた樹脂組成物よりも長い貯蔵安定性を有する。これらの樹脂組成物及びプリプレグは所定温度、圧力を加えることにより、コート剤が破壊し、硬化剤とエポキシ樹脂が反応を開始し、硬化物を得ることができる。
【0031】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ナイロン6、ナイロン12、非晶性ナイロン、ポリアラミド等が挙げられる。特に、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンは耐熱性に優れるので本発明に適している。また、それらを適正な割合でブレンド、若しくは共重合体として用いることもできる。
【0032】
エポキシ樹脂との相溶性については、プリプレグの内層を形成する樹脂組成物Bとして、エポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂を少なくとも一部含む樹脂組成物が用いられる。前述したように、エポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂とは、複合材料を成形する温度条件、一般的には、130〜190℃、1〜3時間の範囲において、エポキシ樹脂に少なくとも一部が不溶であるものとして定義される。樹脂組成物Bとして、エポキシ樹脂100重量部当たり、エポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂を10〜45重量部含むものが好ましい。両者の樹脂が完全に相溶しないと相分離が起こり、熱可塑性樹脂の微細粒子がエポキシ樹脂中に分離した構造になり、その結果、耐衝撃性が向上する。
【0033】
本発明で使用する樹脂組成物の調製は、具体的には、例えば以下の方法により行うことができる。即ち、各成分を混練機械に供給し、好ましくは不活性ガス雰囲気下、加熱混練する。この際の加熱温度はエポキシ樹脂の硬化開始温度より低温とする。通常は20〜90℃の温度、好ましくは40〜90℃の温度にて均一に混合させる。この操作により、エポキシ樹脂成分100質量部に対する熱可塑性樹脂成分が90質量部程度まで高配合されたエポキシ樹脂と熱可塑性樹脂との組成物を調製することが可能となる。熱可塑性樹脂成分を90質量部より多く配合させることは、充填効率を高めた場合でも組成物の粘度が過度に高くなり混練が難しくなるため好ましくない。また、41質量部より少ないと樹脂の靱性が低くなり、耐衝撃性の向上が不十分であり、本発明の目的は達成されない。
【0034】
本発明のプリプレグは、通常の成形方法・手段によって成形品に成形することができる。
成形に際しては、プリプレグは、一方向に積層しても良いし、疑似等方性を有するように、例えば、(+45°/0°/−45°/90°)4Sというように積層しても良い。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、操作条件の評価、各物性の測定は次の方法によった。
【0036】
[吸水率]
プリプレグを100×100mmにカットし、質量(W1)を測定した。その後、デシケーター中で、プリプレグを水中に沈め、減圧し、プリプレグ内部の空気と水を置換させた。プリプレグを水中から取り出し、表面の水を拭き取り、プリプレグの質量(W2)を測定した。これらの測定値から下記式
吸水率(%)=[(W2−W1)/W1]×100
W1:プリプレグの質量(g)
W2:吸水後のプリプレグの質量(g)
を用いて吸水率を算出した。
【0037】
[ピール強度]
ピール強度はプリプレグを幅30mm長さ200mmで2枚切り出し、これを積層した後、真空バッグ内で0.6kPa以下、常温で10分間圧着させた。この積層体を引っ張り試験機を用い引き剥がし試験を行いその強度を30mmで除し算出した。保持率は常温で10日間プリプレグを放置し、その引き剥がし強度が放置前の強度比較で算出した。
【0038】
[ガラス転移点]
ガラス転移点(Tg)は0°方向にプリプレグを10枚積層し180°にてオートクレーブ成型したサンプルを、長さ50mm、幅6mmに切り出しDMA測定装置((株)ユービーエム社製Rheogel−E4000)を用いて、3点曲げにて3℃/分の昇温速度、周波数1Hzの歪をかけて樹脂組成物を測定して得られる、E’の低下ポイントの温度とした。
【0039】
[衝撃後圧縮強度(CAI)]
耐衝撃性の指標として、衝撃後圧縮強度(CAI)の評価を、ASTM7136に準拠し測定した。具体的には実施例で説明する。
【0040】
[取扱性]
取扱性(接合部の剥れ難さ)の評価は、プリプレグを幅5mm長さ300mmで2枚切り出し、オーバーラップ部分が30mmとなるようにプリプレグを接合させ、500kPa、60℃、100秒間圧着し、30mmのパイプに沿わせ、手の力で扱いた場合の接合部の剥がれを評価した。評価基準は、○:20回以上扱いても接合部が剥がれない、△:20回扱いた場合、接合部に一部剥がれが確認される、×:20回未満で接合部が完全に剥がれる、で行った。
【0041】
[実施例1〜9及び比較例1〜5]
エポキシ樹脂として、住友化学社製のグリシジルアミン型エポキシ樹脂:ELM−100(3官能基)と、ジャパンエポキシレジン社製のグリシジルアミン型エポキシ樹脂:Ep604(4官能基)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂:Ep828、アデカ製のウレタン変性エポキシ樹脂:EPU−6を用い、熱可塑性樹脂として、住友化学工業社製のポリエーテルスルホン:PES−5003Pと、エムスケミージャパン社製のグリルアミド:TR−55を用いた。硬化剤として、芳香族アミン系硬化剤である和歌山精化社製4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)と、それを変性メラミン樹脂で被覆したマイクロカプセル化4,4’−DDSを用いた。4,4’−DDSに対するコート剤のコート率は10質量%であった。
【0042】
上記樹脂と硬化剤を表1と表2に示した割合で配合し、プリプレグの樹脂層の表層を形成する樹脂組成物Aとプリプレグの樹脂層の内層を形成する樹脂組成物Bを作製した。各成分は、攪拌機において80℃、30分混合を行い均一に混合した。その後、表1と表2に示した樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて離型フィルム上に塗布して、目付け10g/m〜28g/mの離型フィルムつきの樹脂シートを作製した。この樹脂フィルムを用いて、樹脂フィルムの間に、炭素繊維のストランドを一方向に均一に配列させ供給し、ローラーで加熱・加圧し、ロールに巻き取り、炭素繊維に樹脂を含浸させたシート材料を得る。炭素繊維としてはテナックスIM−600[東邦テナックス社製炭素繊維、引張強度5800MPa(590kgf/mm)、弾性率290GPa(30tf/mm2)](目付け145g/m)を用いた。
【0043】
先ず、前記樹脂組成物Bの樹脂フィルム2枚の間に、前記炭素繊維のストランドを一方向に均一に配列させ供給し、ローラーで加熱・加圧し、一次プリプレグを得た。更に、樹脂組成物Aの樹脂フィルム2枚の間に前記の一次プリプレグを供給し、ローラーで加熱・加圧し、ロールに巻き取り、炭素繊維に樹脂を含浸させたシート材料を得た。樹脂のプリプレグ全体に対する重量含有率は34重量%であった。得られたプリプレグの各種性能を表1と表2にまとめて示した。
【0044】
次いで、得られたプリプレグの32枚を積層し、積層構成[+45/0/−45/90]3Sの積層体を得た。オ−トクレ−ブ成形により昇温速度2℃/分、180℃で2時間の硬化条件で硬化した。得られた成形物を幅101.6mm
× 長さ
152.4mmの寸法に切断し、衝撃後圧縮強度(CAI)試験の試験片を得た。この試験片を用いて30.5kJ衝撃後のCAIを測定した。その結果は表1と表2に示したとおりであった。
【0045】


【表1】

【0046】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によると、コンポジット物性(耐衝撃性、耐熱性等)に優れ、かつ取扱性(接着性又は積層性、安定性等)に優れたプリプレグが得られる。そして、かかるプリプレグを用いて成形された成形品は、発生したクラックを伝播させにくい特性を有するため、航空機構造材料、宇宙構造物材料等へ好適に使用される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維とこれに含浸せしめられたマトリックス樹脂とからなるプリプレグであって、該マトリックス樹脂が、エポキシ樹脂とその硬化剤とエポキシ樹脂100重量部当たり41〜90重量部の熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物であり、吸水率が20重量%以下、ピール強度が0.05N/mm以上、かつ、ピール強度の保持率が10日後で40%以上であることを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】
エポキシ樹脂が、3官能以上のエポキシ樹脂を50〜100重量部含むものであることを特徴とする請求項1記載のプリプレグ。
【請求項3】
硬化剤が、芳香族ポリアミンを含むものであることを特徴とする請求項1又は2記載のプリプレグ。
【請求項4】
熱可塑性樹脂が、エポキシ樹脂に可溶性のものと不溶性のものの混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のプリプレグ。
【請求項5】
硬化剤の一部がマイクロカプセル化された硬化剤であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のプリプレグ。
【請求項6】
強化繊維とこれに含浸せしめられたマトリックス樹脂とからなるプリプレグであって、該マトリックス樹脂が、プリプレグの樹脂層の表層を形成する樹脂組成物Aとプリプレグの樹脂層の内層を形成する樹脂組成物Bとからなり、該樹脂組成物Aは、エポキシ樹脂と少なくとも一部がマイクロカプセル化されたその硬化剤とエポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂とから構成されており、該樹脂組成物Bは、エポキシ樹脂とその硬化剤とエポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂を少なくとも一部含む熱可塑性樹脂とから構成されていることを特徴とするプリプレグ。
【請求項7】
樹脂組成物Aが、エポキシ樹脂100重量部当たり、マイクロカプセル化されたエポキシ樹脂の硬化剤を0.1〜10重量部含むものであり、樹脂組成物Bは、マイクロカプセル化されたエポキシ樹脂の硬化剤は含まないものであることを特徴とする請求項6記載のプリプレグ。
【請求項8】
樹脂組成物Bが、エポキシ樹脂100重量部当たり、エポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂を10〜45重量部含むものであり、樹脂組成物Aは、エポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂を含まないものであることを特徴とする請求項6又は7記載のプリプレグ。
【請求項9】
樹脂組成物Aが、エポキシ樹脂100重量部当たり熱可塑性樹脂を20〜60重量部含むものであり、樹脂組成物Bが熱可塑性樹脂を50〜100重量部含むものであり、樹脂組成物Bのエポキシ樹脂に対する熱可塑樹脂の量が、樹脂組成物Aのエポキシ樹脂に対する熱可塑樹脂の量より大きいことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項記載のプリプレグ。
【請求項10】
エポキシ樹脂が、3官能以上のエポキシ樹脂を含むものであることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項記載のプリプレグ。
【請求項11】
硬化剤が、芳香族ポリアミンを含むものであることを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項記載のプリプレグ。
【請求項12】
吸水率が20重量%以下であり、ピール強度が0.05N/mm以上であり、かつ、ピール強度の保持率が10日後で40%以上であることを特徴とする請求項6〜11のいずれか1項記載のプリプレグ。
【請求項13】
強化繊維とこれに含浸せしめられたマトリックス樹脂とからなるプリプレグであって、該マトリックス樹脂が、プリプレグの樹脂層の表層を形成する樹脂組成物Aとプリプレグの樹脂層の内層を形成する樹脂組成物Bとからなり、該樹脂組成物Aは、エポキシ樹脂と少なくとも一部がマイクロカプセル化されたその硬化剤とエポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂とから構成されており、該樹脂組成物Bは、エポキシ樹脂とその硬化剤とエポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂を少なくとも一部含む熱可塑性樹脂とから構成されているプリプレグを製造するに際し、先ず、樹脂組成物Aのシート又はフィルム、樹脂組成物Bのシート又はフィルム、強化繊維層、樹脂組成物Bのシート又はフィルム、樹脂組成物Aのシート又はフィルムの順に積層・配置した積層体を作成し、次いで、該積層体を加熱・加圧することを特徴とするプリプレグの製造方法。
【請求項14】
強化繊維とこれに含浸せしめられたマトリックス樹脂とからなるプリプレグであって、該マトリックス樹脂が、プリプレグの樹脂層の表層を形成する樹脂組成物Aとプリプレグの樹脂層の内層を形成する樹脂組成物Bとからなり、該樹脂組成物Aは、エポキシ樹脂と少なくとも一部がマイクロカプセル化されたその硬化剤とエポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂とから構成されており、該樹脂組成物Bは、エポキシ樹脂とその硬化剤とエポキシ樹脂に不溶性の熱可塑性樹脂を少なくとも一部含む熱可塑性樹脂とから構成されているプリプレグを製造するに際し、先ず、強化繊維層に樹脂組成物Bを含浸させ一次プリプレグを形成し、次いで、該一次プリプレグの表裏面に樹脂組成物Aのシート又はフィルムを配置した積層体を作成し、その後、該積層体を加熱・加圧することを特徴とするプリプレグの製造方法。


【公開番号】特開2010−144118(P2010−144118A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325269(P2008−325269)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】