説明

プリント配線回路及びその製造方法

【課題】低コストで電気信号の損失を低減させる。
【解決手段】プリント配線回路100は、両面配線基板10及びカバー材20を備える。両面配線基板10は、絶縁層1と、絶縁層1の両面に形成された接着剤層2,3を介して貼り付けられた導体回路層としての信号線4及び接地電極5とを備える。カバー材20は、両面配線基板10の信号線4側の面に配置され、カバーレイ7と接着剤層6とを備える。信号線4は、カバー材20の熱圧着により、接着剤層2側にめり込んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高速伝送用に適したプリント配線回路及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりプリント配線回路として、品質、特性が安定しており、且つ安価であるという理由から、3層CCL(銅張積層板)が多く使用されている。3層CCLでは、ポリイミド等の絶縁層と導体回路層とを接着剤層を介して接着する。この接着剤層は、接着強度を確保するためにある程度の厚さを必要とする。
【0003】
一方、近年、通信速度の高速化に伴い、この種のプリント配線回路にも高い周波数特性が要求されるようになってきた。特にマイクロストリップ線路とアース線の間に存在する絶縁体には、誘電損の少ない材料が必要とされる。この点、上述した3層CCLでは、ある程度の厚みを必要とする接着剤層の誘電正接が、ポリイミドのそれよりも遙かに大きいため、高速信号伝送用の用途に適さないという問題がある。
【0004】
これらの理由から、従来よりこの誘電正接が比較的低い材料の開発などが行われており、一般的には液晶ポリマー(LCP)などの材料による基板が開発されている。例えば、ポリイミド樹脂を絶縁層とした下記特許文献1に開示されている多層回路基板では、絶縁層上の信号線の上を空気層とするようにして、誘電正接を低くして電気信号の伝播速度をより高速化する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−168279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年のプリント配線回路の高機能化の進展や要求特性が多岐にわたること、或いは製造コストの低減への要求が大きいことなどを考慮すると、電気的特性のためだけに材料をLCPに変更したり、上記特許文献1のように空気層を設けるなどの構造的変更を行うことは現実的には難しいという問題がある。
【0007】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消し、低コストで電気信号の損失を低減することができるプリント配線回路及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るプリント配線回路は、絶縁層と、前記絶縁層の両側に形成された導体回路層と、少なくとも一方の前記導体回路層と前記絶縁層との間に配置され前記導体回路層と前記絶縁層とを接着する接着剤層とを有したプリント配線回路において、前記導体回路層と前記接着剤層との界面が、前記導体回路層がない部分の前記接着剤層の前記絶縁層とは反対側に位置する面よりも、前記絶縁層に近くなっていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るプリント配線回路によれば、導体回路層と接着剤層との界面が、導体回路層がない部分の接着剤層の、絶縁層とは反対側に位置する面よりも、絶縁層に近くなっている。すなわち、導体回路層と絶縁層の間の接着剤層の厚みが他の部分の厚みよりも薄くなっている。このため、電界が最も集中する導体回路層の下面から絶縁層に至る部分の接着剤層による誘電損を低減させることができる。また、導体回路層は、接着剤層にめり込む形となっており、且つ導体回路層が形成されていない部分の接着剤層の厚みは十分に確保されているので、導体回路層と絶縁層との間の接着強度が低下することも防止することができる。
【0010】
なお、本発明の一つの実施形態においては、前記絶縁層の誘電正接が、前記接着剤層の誘電正接よりも低い。
【0011】
また、本発明の他の実施形態においては、前記導体回路層と前記接着剤層との界面と、前記導体回路層がない部分の前記接着剤層の面との厚さ方向の距離が、5μm以下である。
【0012】
また、本発明の更に他の実施形態においては、前記少なくとも一方の導体回路層が、高速伝送用の信号線である。
【0013】
本発明に係るプリント配線回路の製造方法は、絶縁層の両側に導体回路層が形成され、少なくとも一方の前記導体回路層と前記絶縁層との間に前記導体回路層と前記接着剤層とを接着する第1の接着剤層を有する配線基板の前記少なくとも一方の導体回路層を所定のパターンに加工し、前記配線基板の前記所定のパターンに加工された導体回路層が形成された面上に第2の接着剤層を介してカバーレイを配置し、前記カバーレイを前記配線基板に熱圧着すると共に前記所定のパターンに加工された導体回路層を前記熱圧着により前記第1の接着剤層側にめり込ませることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るプリント配線回路の製造方法によれば、カバーレイを配線基板に熱圧着により積層する際に、第1の接着剤層が熱により軟化して導体回路層が第1の接着剤層側にめり込むことになる。このため、上述のように、接着強度を低下させずに、既存の設備や構造を利用して安価に導体回路層の直下の接着剤層の厚さを薄くして電気信号の損失を低減させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低コストで電気信号の損失を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るプリント配線回路の構造を示す断面図である。
【図2】同プリント配線回路の製造工程を示すフローチャートである。
【図3】同プリント配線回路を製造工程順に示す断面図である。
【図4】比較例のプリント配線回路の構造を示す断面図である。
【図5】本発明の実施例におけるプリント配線回路の特性インピーダンスと信号線幅との関係を示す図である。
【図6】比較例のプリント配線回路の特性インピーダンスと信号線幅との関係を示す図である。
【図7】同実施例におけるプリント配線回路と比較例のプリント配線回路のSパラメータと周波数の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照して、この発明の実施の形態に係るプリント配線回路及びその製造方法を詳細に説明する。
【0018】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るプリント配線回路の構造を示す断面図である。本実施形態に係るプリント配線回路100は、各種信号伝送用の回路に用いられ、例えば高速信号伝送用のマイクロストリップライン構造を備えている。
【0019】
プリント配線回路100は、図1に示すように、3層CCL(銅張積層板)を基本として形成された両面配線基板10と、この両面配線基板10の上面を覆うカバー材20とを備えて形成されている。
【0020】
両面配線基板10は、例えば厚さ50μmのポリイミド樹脂(PI)からなる絶縁層1と、この絶縁層1の両面に形成された例えば厚さ10μmのエポキシ系接着剤からなる接着剤層2,3と、これら接着剤層2,3を介して貼り付けられた、例えば厚さ20μmの銅箔からなる導体回路層としての信号線4及び接地電極5とを備えて構成されている。信号線4は、例えば幅150μm程度のマイクロストリップ線である。また、接地電極5は、絶縁層1の下面全面に形成されている。
【0021】
一方、カバー材20は、両面配線基板10の信号線4側の面に配置され、ポリイミド樹脂などの絶縁材からなる例えば厚さ25μmのカバーレイ7と、その下面に配置された例えば厚さ30μmのエポキシ系接着剤からなる接着剤層6とを備えて構成されている。
【0022】
信号線4は、カバー材20の熱圧着により、接着剤層2側にめり込んだ構造となっている。すなわち、本例では厚さ10μmの接着剤層2の信号線4がない部分の絶縁層1とは反対側に位置する面2aよりも、信号線4と接着剤層2との界面2bの方が絶縁層1に近くなるようにめり込んでいる。この信号線4のめり込み量は、界面2bを基準にすると、面2aに対して最大で厚さ方向に5μm程度に設定することが望ましい。その理由は次の通りである。すなわち、通常、接着剤層2,3は、8〜10μmの厚みで形成され、接着強度を大幅に低下させないためには、最低でも接着剤層2,3の厚みを5μm以上確保することが望ましいからである。このため、めり込み量は、3〜5μmとなるように調整されていれば、十分な接着強度を確保することができる。また、信号線4は、接着剤層2にめり込んでいるので、両者は確実に接着され、めり込んでいない場合と比べて両者の接着強度は高くなる。
【0023】
ここで、絶縁層1を構成するポリイミドと、接着剤層2の接着剤は、一般的に下記表1に示すような物性値を有する。
【0024】
【表1】

【0025】
表1によれば、ポリイミドは、接着剤と比べると誘電率及び誘電正接(tanδ)がそれぞれ低いので、伝送損失を抑えることができ高周波特性に優れていることが分かる。なお、ガラス転移温度(Tg)はポリイミドの方が高くなっている。具体的には、物性値に関して、接着剤の誘電率が3.9であるのに対し、ポリイミドの誘電率は3.3であるので、高周波特性に優れている。また、接着剤の誘電正接が0.02であるのに対し、ポリイミドの誘電正接は0.004であるので、誘電損失が小さい。
【0026】
このように構成されたプリント配線回路100において、信号線4中を電気信号が通る場合、信号線4と接地電極5との間の電気力線9は、図1のようになる。図1から明らかなように、信号線4の下面から接地電極5に向かう部分に電気力線が集中する。このように、マイクロストリップライン構造における電気信号の伝送特性においては、電気力線9が集中している部分(すなわち、信号線4の下側の部分)の材料物性の影響が大きくなる。
【0027】
このため、本実施形態では、優先的にこの部分の特性を改善することにより、伝送特性の改善を図るようにしている。プリント配線回路100は、信号線4と接地電極5の間の総厚さに対する接着剤層2の厚さが、割合的に小さくなるように構成されている。上記表1からも明らかなように、高速信号伝送における誘電損に大きな影響がある誘電正接は、ポリイミドに比べて接着剤の方が大きいので、上記総厚さに対する接着剤層2の厚さの割合を小さくすることで、誘電正接が等価的に小さくなり、結果的に電気信号の損失(誘電損)を小さくすることが可能となる。
【0028】
次に、本実施形態に係るプリント配線回路の製造方法について説明する。
図2はプリント配線回路の製造工程を示すフローチャートである。図3はプリント配線回路を製造工程順に示す断面図である。
まず、図3(a)に示すように、絶縁層1の両面に接着剤層2,3を介して導体回路層4A及び導体回路層である接地電極5を貼り付けた銅張積層板(CCL)からなる両面配線基板10を用意し、同図(b)に示すように、一方の面側の導体回路層4Aをエッチングなどにより所定のパターンに加工して信号線4を形成する(ステップS100)。
【0029】
次に、図3(c)に示すように、信号線4を回路形成した両面配線基板10の上にカバー材20を、接着剤層6を下面にして配置し(ステップS101)、図中矢印で示すようにカバーレイ6を両面配線基板10の信号線4側に熱圧着する(ステップS102)。この熱圧着のときの加熱温度は、接着剤層2のガラス転移温度(40〜60℃)よりも高い160℃程度に設定する。これにより、同図(d)に示すように、信号線4が接着剤層2にめり込んだ構造のプリント配線回路100が製造される。なお、熱圧着時の加圧力は、例えば基板の面積に対して30〜60kgf/cmである。このように、プリント配線回路100は、既存の設備を用いて既存の製造工程により製造することができるので、安価に製造することができる。なお、信号線4は、所定の幅(例えば、150μm程度)にパターン形成されているため、熱圧着により接着剤層2にめり込むが、接地電極5は、面積が広いため、このようなめり込みは殆どない。このため、接地電極5側の接着強度は変化しない。この点も、電界の集中する部分のみの接着剤層2を低減することに寄与している。
【実施例】
【0030】
次に、本実施形態に係るプリント配線回路100の具体的な電気的特性について比較例を参照しながら説明する。
図4は、比較例のプリント配線回路の構造を示す断面図である。図4に示すように、比較例のプリント配線回路100Aは、信号線4が、接着剤層2側にめり込んでいない点を除き、本実施形態のプリント配線回路100と同様の構造を有している。
【0031】
これら実施例及び比較例のプリント配線回路100,100Aにおいて、特性インピーダンスを一般的な50Ωにするために、信号線4の幅を150μmとした。この場合における実施例のプリント配線回路100の特性インピーダンスと信号線幅との関係を図5に、比較例のプリント配線回路100Aの特性インピーダンスと信号線幅との関係を図6に、それぞれ示す。また、実施例におけるプリント配線回路100と比較例のプリント配線回路100Aの入出力特性(Sパラメータ)と周波数の関係を図7に示す。
【0032】
図5及び図6に示すように、実施例のプリント配線回路100(図5)は、比較例のプリント配線回路100A(図6)と比べて、信号線4が接地電極5に近付くため、150μmの幅でみると特性インピーダンスが比較例と比べて多少低下していることが分かる。しかし、この低下は信号線4の幅の設計で対応することができるので問題とはならない。すなわち、図5に示すように、特性インピーダンスを50Ωにするため、信号線4の幅を140μm程度に設定すればよい。
【0033】
図7に示すように、実施例及び比較例共に、信号線4に流れる電気信号が高周波になればなるほど損失が大きくなるので、高速信号伝送時に損失の影響を大きく受けることとなるが、実施例の方が比較例に比べて高周波帯域において損失が小さいことが判明した。従って、信号線4が接着剤層2にめり込み、界面2bが面2aに比べて絶縁層1に近付いている構造の本実施形態のプリント配線回路100によれば、低コストで接着強化と電気信号の損失低減を両立させることが可能である。
【0034】
なお、上記実施形態においては、プリント配線回路100を高速信号伝送用のマイクロストリップライン構造のものとして説明したが、プリント配線回路100はこれに限定されるものではなく、種々の電気信号伝送用回路等に適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 絶縁層
2,3 接着剤層
2a 面
2b 界面
3 導体
4 信号線
5 接地電極
6 接着剤層
7 カバーレイ
9 電気力線
100 プリント配線回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と、
前記絶縁層の両側に形成された導体回路層と、
少なくとも一方の前記導体回路層と前記絶縁層との間に配置され前記導体回路層と前記絶縁層とを接着する接着剤層とを有したプリント配線回路において、
前記導体回路層と前記接着剤層との界面が、前記導体回路層がない部分の前記接着剤層の前記絶縁層とは反対側に位置する面よりも、前記絶縁層に近くなっている
ことを特徴とするプリント配線回路。
【請求項2】
前記絶縁層の誘電正接は、前記接着剤層の誘電正接よりも低い
ことを特徴とする請求項1記載のプリント配線回路。
【請求項3】
前記導体回路層と前記接着剤層との界面と、前記導体回路層がない部分の前記接着剤層の面との厚さ方向の距離は、5μm以下である
ことを特徴とする請求項1又は2記載のプリント配線回路。
【請求項4】
前記少なくとも一方の導体回路層は、高速伝送用の信号線である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のプリント配線回路。
【請求項5】
絶縁層の両側に導体回路層が形成され、少なくとも一方の前記導体回路層と前記絶縁層との間に前記導体回路層と前記接着剤層とを接着する第1の接着剤層を有する配線基板の前記少なくとも一方の導体回路層を所定のパターンに加工し、
前記配線基板の前記所定のパターンに加工された導体回路層が形成された面上に第2の接着剤層を介してカバーレイを配置し、
前記カバーレイを前記配線基板に熱圧着すると共に前記所定のパターンに加工された導体回路層を前記熱圧着により前記第1の接着剤層側にめり込ませる
ことを特徴とするプリント配線回路の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−41868(P2013−41868A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175964(P2011−175964)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】