説明

プリント配線板及びその製造方法

【課題】回路導体の側面に抉れがなく、ソルダーレジストの被覆工程後に回路導体のエッジ部分が剥き出しの状態となる不具合が生じることがない厚い回路導体を備えたプリント配線板とその製造方法の提供。
【解決手段】絶縁層の上下両面に回路導体を備えたプリント配線板であって、当該回路導体の上底の幅が、該回路導体の左右両側面間の最小部幅以下となっているプリント配線板;スプレータイプのエッチング装置を用いて回路形成を行うプリント配線板の製造方法において、少なくとも上面の被回路形成面にエッチング液が溜まらない回路形成工程を有するプリント配線板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプリント配線板、特に厚い回路導体を備えたプリント配線板とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料動力機関を搭載した大型機械等においてもエレクトロニクス化が進み、放熱性が高く大電流に耐え得るプリント配線板が求められているが、自動車等の電気系統に用いられるプリント配線板においては、エンジンルーム等過酷な条件下でも使用が可能となるよう更なる大電流化への対応が望まれ、プリント配線板における回路導体の厚みを厚くすることが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
両面に厚銅回路を備えた基板のエッチング(回路形成)は、通常、スプレータイプのエッチング装置を用いて行うが、その際、上面と下面のエッチング速度が大きく異なる。
【0004】
下面をエッチングする際には、当該下面の銅表面に当てられたエッチング液(エッチャント)は重力により直ぐに落下し、その結果、スプレーノズルから放出される新しいエッチング液が常に当該下面の銅表面に直接当たり、期待通りの回路形成が行える。
【0005】
ところが、上面をエッチングする際には、当該上面の上にエッチング液が溜まり、スプレーノズルから放出される新しいエッチング液が本来エッチングされるべき銅表面に直接当たり難くなるため、期待通りのエッチングが行えない。
【0006】
従って、上面では下方向のエッチング能力が鈍くなり、結果、下面と比較して上面の下方向へのエッチング速度が遅くなる。
【0007】
また、上面では、下方向へのエッチング速度が遅くなる分、横方向へのエッチング速度が相対的に早まり、結果、当該上面のエッチング後の回路は側面が抉れた形状となる。
【0008】
ここで、前述の内容を図4を用いて説明する。
【0009】
図4(a)は、一般的な従来工法を用いて製造された厚い回路導体を、絶縁層の上下両面に備えたプリント配線板の一部を示す概略断面説明図で、絶縁層2と、当該絶縁層2の上面に設けられた厚い回路導体11aと、当該絶縁層2の下面に設けられた厚い回路導体11bを備えているが、当該回路導体11aはその側面が抉れた形状となっている。すなわち、当該回路導体11aは、その上底の幅Aがその左右両側面間の最小部幅Bより大きく、所謂オーバーハングの状態となっている。
【0010】
斯かる図4(a)に示すような回路形状では、後工程であるソルダーレジストの被覆性(カバリングアビリティ)が極めて劣化し、図4(b)の11aに示すように、回路導体の回路導体の上底両端角部(エッジ)14にソルダーレジスト3が掛からずに剥き出しの状態となる場合が多く、ソルダー塗布工程時や部品実装工程時、リフロー工程時等に、半田ブリッジと呼ばれる導体配線間の短絡の不具合が生じてしまうことがあった。
【0011】
ここで、一般的なスプレータイプのエッチング装置で厚銅基板の回路形成を行う際の過程を、図5(a)乃至図6(d)を用いて説明する。
【0012】
先ず、図5(a)に示すように、厚銅の銅箔5a及び5bを備えた絶縁基材2の当該銅箔5a及び5b上にそれぞれエッチングレジスト6a及び6bを貼り、当該エッチングレジスト6a及び6bが貼られた厚銅の銅箔5a及び5bに、エッチング液7a及び7bをスプレーにより噴射することで、エッチングレジスト6a及び6bが貼付されていない部位が噴射された新しいエッチング液7a及び7bによって侵食される。
【0013】
前述の侵食行為が連続して行われることで、図5(b)のように徐々に侵食が進む。
【0014】
ところが、上面の銅箔5aが下方へと侵食が進むにつれて銅箔5a上にエッチング液の溜まり(エッチング液溜り)19が発生し、スプレーから噴射された新しいエッチング液7aが目的とする侵食部底面に到達せず、銅箔5aの下方向への侵食速度が徐々に鈍くなる。
【0015】
また、当該エッチング液溜り19が発生したことで、図6(c)に示すように銅箔5aの侵食はエッチング液溜り19の下方向だけでなく横方向にも作用し、結果、図6(d)のように側面が抉れた形状となってしまう。
【0016】
現在、両面厚銅基板のエッチングは、前記側面が抉れた形状を回避するべく、以下に示す工法(1)乃至(4)の何れか1つ、或いは(1)乃至(3)の複数組合せにより対応している。
(1)上下のエッチングレジストの補正値を各々適宜に調整する。
(2)上下のスプレー圧力を各々適宜に調整する。
(3)エッチング装置への投入の際、上下面の向きを変えて偶数回投入する。
(4)上下いずれか片面ずつエッチングする。
【0017】
しかしながら、前記(1)乃至(4)の何れか1つの工法を用いても、また、前記(1)乃至(3)の複数組合せによる工法を用いても、前記側面が抉れた形状を完全に回避することは難しく、ソルダーレジストの被覆工程後に回路導体のエッジが剥き出しの状態となり、半田ブリッジによる短絡の不具合が発生するという問題があった。
【0018】
また、前記(4)工法を用いた場合、エッチング工程自体に上下面同時エッチングの場合と比較して2倍の時間が掛かるだけでなく、エッチングしない面のエッチングレジストの被覆工程(貼付又は塗布、露光、現像、等)と剥離工程が各片面毎に必要となり、タクト(製造時間効率)とコストを大幅に増大してしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2004−066017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記の問題と実状に鑑みてなされたもので、回路導体の側面に抉れがなく、ソルダーレジストの被覆工程後に回路導体のエッジ部分が剥き出しの状態となる不具合が生じることがない回路導体を備えたプリント配線板とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
即ち、請求項1に係る本発明は、絶縁層の上下両面に回路導体を備えたプリント配線板であって、当該回路導体の上底の幅が該回路導体の左右両側面間の最小部幅以下となっていることを特徴とするプリント配線板により上記課題を解決したものである。
【0021】
また、請求項2に係る本発明は、前記回路導体の厚さが、100μm以上であることを特徴としている。
【0022】
また、請求項3に係る本発明は、前記回路導体の上底両端角部が、ソルダーレジストで被覆されていることを特徴としている。
【0023】
また、請求項4に係る本発明は、スプレータイプのエッチング装置を用いて回路形成を行うプリント配線板の製造方法において、少なくとも上面の被回路形成面にエッチング液が溜まらない回路形成工程を有することを特徴とするプリント配線板の製造方法により上記課題を解決したものである。
【0024】
また、請求項5に係る本発明は、前記回路形成工程が、上面及び下面の被回路形成面にスプレーノズルからエッチング液を同時に噴射しつつ、当該上面の被回路形成面からエッチング液を吸引して行なわれることを特徴としている。
【0025】
また、請求項6に係る本発明は、前記回路形成工程後、更に回路導体にソルダーレジストを被覆する工程を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明のプリント配線板は、回路導体の側面に抉れがなく、また、回路導体の上底両端角部(エッジ)が剥き出しの状態とならずにソルダーレジストにしっかりと覆われている。また、本発明のプリント配線板の製造方法によれば、斯かる抉れのない、またソルダーレジストにしっかりと覆われているプリント配線板を容易かつ確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明のプリント配線板の実施の形態を図1(a)及び(b)を用いて説明する。
【0028】
図1(a)は、本発明のプリント配線板の一部を示す概略断面説明図で、絶縁基材2の上下両面に回路導体1a及び1bが設けられている。
【0029】
尚、図1(a)において、説明の便宜上、前記絶縁基材2は内部に導体層を備えていないコア材を用いて説明しているが、当該絶縁基材を特に限定するものではなく、内部に導体層を備えた多層基板でも良い。
【0030】
本発明のプリント配線板は、図1(a)に示すように、上面の回路導体1a及び下面の回路導体1bの何れの側面にも抉れがなく、所謂「エッジが立つ」状態とはなっていない。すなわち、当該回路導体1a及び1bは、その上底の幅Aがその左右両側面間の最小部幅B以下、換言すれば同じか、それより小さく、所謂オーバーハングの状態となっていない。そのため、後工程であるソルダーレジストの被覆性が良好となる。
【0031】
従って、ソルダーレジスト被覆工程後の本発明プリント配線板の概略断面説明図である図1(b)に示すように、回路導体1a及び1bの上底両端角部(エッジ)4が剥き出しの状態とならずにソルダーレジスト3にしっかりと覆われ、半田ブリッジによる短絡の不具合を回避できる。
【0032】
本発明において、回路導体1a及び1bの厚さは100μm以上、特に105μm乃至500μm程度とするのが、特に良い結果が得られ望ましい。
【0033】
次に、本発明のプリント配線板の製造方法の実施の形態を図2(a)乃至図3(d)を用いて説明する。
【0034】
先ず、図2(a)に示すように、上面に厚銅の銅箔5a、下面に厚銅の銅箔5bを備えた絶縁基材2の当該銅箔上各々にエッチングレジスト6a、6bを貼り、当該エッチングレジスト6a及び6bが貼られた厚銅の銅箔5a及び5bに、上面のスプレーノズル7c及び記載しない下面のスプレーノズルから新しいエッチング液7a及び7bを同時に噴射しつつ、上面の厚銅の銅箔5aにエッチング作用を施した銅箔表面上の作用済エッチング液8をバキュームノズル8cを用いて吸引する。
【0035】
この作用済エッチング液8の吸引手段は、上面の厚銅の銅箔5aにエッチング作用を施した銅箔表面上の作用済エッチング液8を銅箔表面上にエッチング液溜りが発生しないように必要十分に吸引できる手段であれば特に限定されない。
【0036】
因に、斯かる吸引手段の具体例としては、例えば、図2(a)に示すように、複数のバキュームノズル8cを接続した直管8dに対して、一方から印圧手段8eを用いて印圧する方法、または、一方から吸引手段8fを用いて吸引する方法、あるいはまた、一方に印圧手段8eを用いると共に、他方に吸引手段8fを用いる方法等が挙げられる。
【0037】
また当該直管8d内部をエッチング液又は他の液状流動体で満たしておけば、直管8dとバキュームノズル8cとの結合部分8gに負圧による吸引力(ベンチュリ現象)が発生し、内部がエア(空気)の状態よりも更に効率よく、バキュームノズル8cから作用済エッチング液8を吸引できる。
【0038】
尚、ここでは本発明の製造方法を判り易く説明するために、回路導体となる導体層を厚銅の銅箔5a及び5bとしているが、回路導体となる導体層の厚みを特に限定するものではない。
【0039】
しかしながら、本発明において、回路導体の厚さとしては、前述の如く100μm以上、就中105〜500μmが望ましく、特に、140μm以上の場合において、一般的な従来工法を用いるとエッチング後の回路導体側面の抉れが顕著となるところ、本発明の製造方法によれば、図1(b)に示したように、エッチング後の回路導体側面に抉れが発生することなく、回路導体の上底両端角部(エッジ)4をソルダーレジストでしっかりと覆うことができ、その効果が歴然となる。
【0040】
また、同様に、回路導体となる導体層が設けられた支持部を絶縁基材2としているが、当該支持部の材料を特に限定するものではなく、片面、両面、多層等の基板でも良い。
【0041】
前述の侵食行為が連続して行われることで、図2(b)のように徐々に侵食が進む。
【0042】
本発明方法では、上面の銅箔5aが下方へと侵食が進んでも、銅箔にエッチング作用を施した銅箔表面上のエッチング液は図2(a)に示すように吸引されて銅箔表面には残らないので、銅箔上にエッチング液溜りが発生せず、図3(c)に示すように、銅箔5aの侵食は下方向に集中される。
【0043】
従って、図3(d)に示すように、エッチング後の上面の回路導体5aも下面の回路導体5bと同様に側面に抉れがない形状となる。
【0044】
本発明の製造方法によれば、上下両面とも側面に抉れがない形状の回路導体を得ることができるため、その後のソルダーレジスト工程によっても、回路導体の上底両端角部(エッジ)が剥き出しとならずに、ソルダーレジストの被覆性が良好なプリント配線板を得ることができる。
【0045】
また、エッチング工程中にエッチング液溜りの発生がなくなるため、基板面内のエッチング量ばらつきが抑制される。
【0046】
また、上面においても被エッチング面に常に新しいエッチング液が当たるため、エッチング速度が下面と略同等に速くなり、生産性が向上する。
【0047】
本発明を説明するに当たって、上記の実施の形態によって説明したが、本発明の構成はこれらの限りでなく、また、これらの例により何ら制限されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のプリント配線板を示す概略断面説明図。
【図2】本発明のプリント配線板の製造方法を示す概略断面説明図。
【図3】図2に続く概略断面説明図。
【図4】従来のプリント配線板を示す概略断面説明図。
【図5】従来のプリント配線板の製造方法を示す概略断面説明図。
【図6】図5に続く概略断面説明図。
【符号の説明】
【0049】
1a,1b,11b:側面の抉れがない回路導体
2:絶縁基材
3:ソルダーレジスト
4,14:回路導体の上底両端角部(エッジ)
5a,5b:銅箔
6a,6b:エッチングレジスト
7a,7b:新しいエッチング液
7c:スプレーノズル
8:作用済エッチング液
8c:バキュームノズル
8d:直管
8e:印圧手段
8f:吸引手段
8g:結合部分
11a:側面が抉れた回路導体
19:エッチング液溜り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層の上下両面に回路導体を備えたプリント配線板であって、当該回路導体の上底の幅が、該回路導体の左右両側面間の最小部幅以下となっていることを特徴とするプリント配線板。
【請求項2】
前記回路導体の厚さが、100μm以上であることを特徴とする請求項1記載のプリント配線板。
【請求項3】
前記回路導体の上底両端角部が、ソルダーレジストで被覆されていることを特徴とする請求項1又は2記載のプリント配線板。
【請求項4】
スプレータイプのエッチング装置を用いて回路形成を行うプリント配線板の製造方法において、少なくとも上面の被回路形成面にエッチング液が溜まらない回路形成工程を有することを特徴とするプリント配線板の製造方法。
【請求項5】
前記回路形成工程が、上面及び下面の被回路形成面にスプレーノズルからエッチング液を同時に噴射しつつ、当該上面の被回路形成面からエッチング液を吸引して行なわれることを特徴とする請求項4記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項6】
前記回路形成工程後、更に回路導体にソルダーレジストを被覆する工程を有することを特徴とする請求項4又は5記載のプリント配線板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−294251(P2008−294251A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138606(P2007−138606)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000228833)日本シイエムケイ株式会社 (169)
【Fターム(参考)】